卒論ウォッチ:ゲーミフィケーションによる研究活動の可視化・活性化

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ゲーミフィケーションを利用した 研究活動の可視化と活性化 鳴海拓志,谷川智洋,廣瀬通孝 東京大学大学院 情報理工学系研究科

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ゲーミフィケーションを利用した研究活動の可視化と活性化

鳴海拓志,谷川智洋,廣瀬通孝

東京大学大学院情報理工学系研究科

卒論ウォッチ:研究のゲーミフィケーション

卒業論文執筆に関連するイベントをゲーム化,進捗に合わせてバッジが付与される

ゲームにすることで進んで進捗状況を報告・可視化するため,楽しく研究できるだけでなく周囲が状況を理解しやすくなる

ビッグデータと人

“データが主役ではないことをわかっていなかった。主役は解釈なのだ。地球上の出来事をほんの少しでも把握可能にするような解釈。なのに,肝心な点がいつのまにか見失われてしまった。《もしかするとわれわれは、大量の数字に麻痺してしまい、そこから得られるかすかな真実を吸収できなくなっているのかもしれない》”

--マイケル・ルイス『マネーボール』

サイバネティックシミュレーション

人の意志決定・行動変容を支援する Human-in-the-loop 型の情報流・情報システムを設計する

大規模なデータの解析だけでなく,リアルタイム性・変化への対応・全体の制御を重視

リアルタイムフィードバックによる行動誘発

高速道路での運転行動誘発[諏訪14]

スマートフォン上に未来の運転行動を提示することでサービスエリアの滞在時間を変化させ,渋滞解消を狙う

食生活改善SNS“Yumlog”[Takeuchi 13]

食事のヘルシーさに関する他者評価をおいしさに関する他者評価とすり替えて提示するとヘルシーな食事の満足度が向上し食習慣が変化

人に関わるデータの収集方法

重要なデータは人が生んでいる,それをどう収集するか?

センサデータからの自動推定

○ 大規模なデータ収集が容易

△ 推定精度の問題

× 分類精度の問題

× 主観やコンテキスト,意味論の排除

手動による入力

× 手間,データの抜け

○ 主観やコンテキスト,意味論を含むデータ収集が可能

スマートフォンを用いた生活行動認識[大内2013]

ゲーミフィケーションの利用

ゲーミフィケーション:

ゲームの持つメカニズムを

利用してモチベーションを

発揮させ,課題の解決や

特定の行動を促す

ゲーミフィケーションによる大量データ収集

Google Image Labeler

画像の内容を判別しタグ付け

Ingress

実世界の粒度の細かいランドマーク情報を大量に収集

手動ライフロギング+ゲーミフィケーションによる知的活動の可視化・活性化

ゲーミフィケーションを利用することで,細かい行動分類やコンテキスト,意味論が重要な分野のライフログを手動で取得するモチベーションを高める

収集したデータを基に活動を可視化・活性化する

知的活動の例として研究活動を例に実践

「卒論ウォッチ」質の高い論文の完成を目標として,研究進捗状況を

収集して可視化し,適切な行動修正を促すことで,

質の高い論文を書くモチベーションを高める

卒論ウォッチ:入力情報

ページ数:その日までに執筆したページ数を入力

バッジ:研究活動にまつわる特定の行動を達成したときに付与ユーザが新規バッジを作成することもできる

(ex. 論文が30ページに到達した,インフルエンザにかかった)

卒論ウォッチにおけるゲーミフィケーション

狙い

(A)執筆者に研究状況・執筆状況・生活状況を登録させ,現状を可視化して執筆者およびメンターに把握可能にする

(B)執筆者間の研究状況・執筆状況・生活状況を比較させ,集団の中での個人の状況を把握可能にさせること

(C)執筆者に質の高い論文を仕上げるように促すこと

(D)メンタリングを効率化し,メンターの手間を減らすこと

(E)メンタリングに対するメンターのモチベーションを高めること

対応策

バッジ : (A), (C), (D), (E)ランキング : (A), (B)

卒論ウォッチにおけるバッジ

研究状況を多義的な指標に基づいて可視化・計測し,現状に関してフィードバックを与える要素

バッジの分類

研究状況の指標: 論文執筆に至る研究過程に関わる指標ex. 「被験者X人以上の実験をおこなった」

「XX日連続で研究室に来た」「指導教員と食事した」

執筆状況の指標: 執筆そのものの状況に関わる指標ex. 「メンターにXX回チェックしてもらった」

「論文がXXページに達した」「論文提出用のバインダを入手した」

研究状況の能動的可視化 ((A)研究状況の可視化)

指標化によるミス削減・効率化 ((D)メンタリングの効率化)段階的な目標の提示と成長の可視化 ((C)質の向上促進)

卒論ウォッチにおけるバッジ

バッジの分類

メンタリング状況の指標: メンターとしての行動指標ex.「 XX人分の論文をチェックした」

「被験者をXX回やった」

メンタリング行為の可視化と称賛 ((E)メンター支援)

失敗体験の指標: 過去の失敗体験をベースとした指標ex. 「プリンタを壊した」「タイトルを間違えて提出した」

「インフルエンザにかかった」

特別な体験の共有による自己表現失敗をイベント化することでネガティブな気持ちを低減データ蓄積により失敗体験の有益性が議論可能になる?

卒論ウォッチにおける通知・ランキング

集団の中での立ち位置を把握させることで競争心を喚起し,モチベーションを向上させるためにランキングを利用 ページ数ランキング

バッジ獲得数ランキング

研究状況登録の促進 ((A)研究状況の可視化)

ユーザ間比較による状況把握 ((B)ユーザ間比較)

状況を即時フィードバックするためTwitterを利用ex. 「~~さんが~~バッジを獲得しました」

「X月X日のバッジランキング 1位:~~さん」

卒論ウォッチの運用

2014/12/04~2015/02/02までの61日間運用

利用者:卒業論文執筆者: 6名修士論文執筆者: 6名メンター(学生) :12名

データ集計率の比較

2013年度にページ数のみ記録してもらった際のデータとデータ集計率を比較

15日以上執筆ページ数を記録していたユーザの割合2014年度(ゲーミフィケーションあり): 92.3% (12名/13名)2013年度(ゲーミフィケーションなし): 64.3% ( 9名/14名)

ゲーミフィケーション導入により記録頻度が向上 [ページ数]

[日数]

アンケート結果:利用頻度(執筆者)

半数以上が2,3日に一度以上の頻度で各機能を利用,ほぼすべての執筆者が週に一度以上の頻度で各機能を利用

アンケート結果:システム利用の楽しさ

執筆者・メンターとも卒論ウォッチを楽しんで利用していた

特にバッジ管理機能が楽しさを演出していた

執筆者にはTwitter連携はプレッシャーになっていた

執筆者による楽しさの評価

メンターによる楽しさの評価

アンケート結果:システムの有用性

執筆者よりもメンターが有用性を高く評価

執筆者とメンターの元々のモチベーションの差が評価に影響

ページ数(単一指標)よりバッジ(多元指標)の方が有用である可能性を示唆

執筆者による有用性の評価

メンターによる有用性の評価

アンケート結果:システムの良い点・悪い点

良かった点 回答数

進捗状況が可視化される 10他の人と状況が比べられる 9楽しく参加できる 8目標が明確になる 4成長を確認できる 3個性が反映される 2

悪かった点 回答数

目標が設定しにくい 4頑張った点が評価されない 3進捗状況が可視化される 2他の人と状況が比べられる 1成長を確認できない 0つまらない 0

「進捗状況の可視化」「他者との状況比較」「楽しさ」というシステムが狙いとした展が高く評価された

「目標が設定しにくい」「頑張った点が評価されない」と感じている執筆者もいた

チュートリアル導入やバッジ登録制度の再設計などにより改善できる可能性が高い

展望

ツールキットとして公開,複数の研究室に導入してもらい大量データを収集する

どのような体験が研究活動に良い効果をもたらすかを

検証し,研究活動を定量的に評価可能にする指標・体系を構築する

「インフルエンザにかかった」バッジを取得した執筆者のほうが最終的な仕上がりが高い,など直観的ではない関係性の発見

まとめ:知的活動のゲーミフィケーション

知的活動(研究)にゲーミフィケーションを適用

機械的な取得が難しい主観・コンテキストを含むライフログを十分な頻度で効率よく取得できた

活動状況の可視化・リアルタイムフィードバックを通じて,楽しみながら活動を活性化・効率化可能なことを示唆した

データの蓄積を通じて,人の知性が発揮される状況の理解と積極的醸成を可能にする技術を構築したい

卒論ウォッチシステムの利用や,研究内容に興味をお持ちの方はぜひご連絡ください[email protected]