ジャズ文化の担い手

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ジャズ評論家&プロデューサー 岩浪洋三 さん (78歳) ジャズ文化の担い手を育てる 最前線の評論家 a technical expert vol.217

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Jazz Culture

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Page 1: ジャズ文化の担い手

を支えるジャズ評論家&プロデューサー

岩浪洋三さん(78歳)

ジャズ文化の担い手を育てる最前線の評論家

atechnicalexpert

vol.217

Page 2: ジャズ文化の担い手

2012.6 2

現役最前線の評論家&

プロデューサー

 

東日本大震災復興のために、現

在でも各地で支援イベントが繰り

広げられている。今年1月に東京

都練馬区の練馬文化センター小ホ

ールで開かれた『北村英治カルテ

ット 

震災チャリティー・コンサ

ート』もそのひとつ。企画したの

は、ジャズクラリネット奏者の北

村英治さんと親しい練馬区大泉学

園在住のジャズ評論家・岩浪洋三

(いわなみ・ようぞう)さん。

 「中高年を中心に1000人近

い人で超満員。市民コンサートで

すが、ライブハウスのような熱気、

手拍子などで盛り上がりました。

お蔭さまで100万円の義ぎ

援えん

金きん

送ることができて、企画した私も

満足し、楽しむことができました」

 

そう語る岩浪さんは、喜寿を過

ぎても口こうせき跡明めいりょう瞭、現役最前線のジ

ャズ評論家としての活動のほか、

コンサートやライブハウスでプロ

デューサーとして活躍している。

 

CDの生産が13年連続で縮小す

るなど、音楽産業の変容が話題と

なる昨今だが、ジャズの人気は根

強い。右ページの写真にある東京

「ジャズの演奏や歌を生業にする人の収入はピンからキリまで… でも、自由に職業を選べる時代、

若い人には好きなジャズを楽しむことのできる人生を送ってほしいですね」

世界最大級のジャズ専門店『diskunion JazzTOKYO』(東京都千代田区・詳細は同店HP参照)で今春開催された岩浪さんの蔵書イベント

を支える

Page 3: ジャズ文化の担い手

エルダー3

都千代田区に2010(平成22)

年に拡大オープンした「diskunion

JazzTOKYO

」は世界最大級のジ

ャズの専門店で、100坪の店舗

にはCDやレコード、関連書籍を

求めて愛好家の来店が絶えること

なく、通販や中古買い取り事業も

好調であるという。

 「〝岩浪洋三の書斎〞と題したこ

の店のイベントに、私も蔵書を提

供しましたが、今年の春で2回目

です。ジャズには演奏を聴く楽し

みだけでなく、その文化や精神を

知る喜びもある。その人なりの楽

しみと喜び、根強い人気はうなず

けますね」

ジャズ文化を育て、

定着させた功績

 

ジャズに造詣の深い方にとって

は周知のことかもしれないが、こ

こで岩浪さんの簡単な来歴を紹介

しよう。1933(昭和8)年、

愛媛県松山市生まれ。松山東高校、

松山商科大学を卒業。伝説のジャ

ズ専門誌『スイングジャーナル』

(2010年休刊)の初代編集長

を務めた後、1965年からフリ

ーになり、ジャズなどのポピュラ

ー音楽の評論家に。執筆活動だけ

でなくテレビ、ラジオ番組に多数

出演してジャズ文化の育成、定着

に貢献。東京藝術大学、桐朋学園

大学講師を経て、現在は尚美学

園大学・大学院の芸術情報学部

客員教授、武蔵野外語専門学校

理事・講師として教壇に立って

いる。

 「高校・大学を通じて音楽は聞

いていましたが、クラブは映画

研究会に属していました。母親

は造り酒屋の娘で開明的というの

でしょうか、私も子どもの頃から、

よく映画館に連れていかれまし

た。黒澤明監督の『姿三四郎』(1

943年)などは、リアルタイム

で松山市の映画館で観ていますか

らね。あれは10歳をちょっと過ぎ

た頃だったかな」

 

岩浪さんの評論活動は、ジャズ

などのポピュラー音楽分野だけで

なく、映画や文学、世界の民族史

など幅広い分野に及ぶ。たとえば

オーディオブックの著作リストに

は、次のようなタイトルが並ぶ。

『ジャズ映画の歴史』、『ユダヤ人

の好きな楽器はこれだ!』、『池波

正太郎とジャズの世界』…いずれ

もミュージック・ペンクラブ・ジ

ャパンから発信。

 「時代小説の池波さんはジャズ

の愛好家でしてね、私もレコード

を何枚も贈呈しました。池波正太

郎記念文庫(台東区)には、〝岩

浪氏から寄贈されたジャズレコー

ド〞として保存されています」

 

それを物語る池波氏の著作に

は、「時代小説を書いているから

邦楽のテープを聴くというわけで

はありません。『鬼平』を書きな

がら、たとえばベニー・グッドマ

ンを聴いてたりするんです。なに

かリズム感のようなものを体に感

じて、調子が乗る…」(『池波正太

郎の春夏秋冬』文春文庫)とある。

 

幅広い著名人との交友は、時代

を象徴するナマの証言として岩浪

さんの多くの著作に記述されてい

るが、特にジャズの分野における

有名演奏家や歌手の肉声は愛好家

にとって垂涎の対象であるだろ

ジャズプレイヤーたちとともに(岩浪洋三氏提供)

第21回ミュージック・ペンクラブ賞受賞の著書『これがジャズ史だ』

尚美学園大学の教え子たちが出演するライブハウス『停車場』にて(冒頭頁も)

Page 4: ジャズ文化の担い手

2012.6 4

う。

 「ジャズの世界で仕事をするき

っかけは、大学の1年だった19

52年ごろ、秋吉敏子(ピアニス

ト)や評論家の久保田二郎と文通

し、年に一、二度上京して、ジャ

ズの現場に案内してもらうように

なったから。フリーになって、1

972年に初めて渡米してから何

回も米国に出かけ、現地で演奏を

聴いたり演奏家の話を聴いたり。

例えばソニー・ロリンズ(サック

ス奏者)はジャズと黒人、人種に

ついて話してくれましたね」

 

以上のような一連の話には、有

名な演奏家や歌手の名前がふんだ

んに登場するのだが、詳しくは岩

浪さんの著書『これがジャズ史だ

―その嘘と真実―』(朔北社)に

譲る。なお、いささか刺激的なタ

イトルの本書は2009年、ミュ

ージック・ペンクラブ賞を受賞し

ている。

ジャズの流れだけでなく

文化を教える

 

前述の『これがジャズ史だ』は、

充実した巻末索引つき446ペー

ジの大著で、学生たちに向けた講

義の教科書ともなっている。

 「ジャズは19世紀末にアメリカ

のニューオ

ーリンズで

誕生し、黒

人のフィー

リングが深

くかかわっ

ていること

は確かです

が、ヨーロ

ッパ各地か

ら移住して

きた多彩な

民族の音楽が融合しています。複

雑な人種問題は書かれることが少

ないのですが、この本では、特に

ユダヤ人がジャズで果たした役割

に触れているのが特徴でしょう。

学生には音楽の流れだけでなく背

景となる文化を講義しています。

 

演奏や歌を生業とする人の収入

は、1ステージで100万円を超

える人から、ライブハウスに出て

も駐車場の料金を払うと赤字にな

る人まで、ピンからキリまであり

ます。ライブハウスやジャズ喫茶

の経営も大変です。でも、自由に

職業が選べる時代です、若い人に

は好きなジャズを楽しむ生活、人

生を送ってほしいですね」

 

学生たちに囲まれた謝恩会の様

子は写真にある通りだが、執筆活

動にも意欲的で、『ビリー・ホリ

デイの聴き方(仮)』、『ジャズ・

スラング辞典』を準備中。「英語

のバッド(Bad

)とグッド(Good

は、黒人では意味が逆転するんで

すよ。マイケル・ジャクソン作詞

の『BAD』はいい意味で使われ

ている」。意表を突く話題が柔和

な笑顔とともに次々と提供され

る。該博な知識と汲めども尽きな

い記憶の泉、その存在感が圧倒的

だ。

(撮影・福田栄夫 

取材・吉田孝一)

(取材協力・『停車場』)

「ジャズと沖縄サウンズとの融合を構想中です」

「私たち、岩浪先生の講義はこれから受講するんです」…今春の謝恩会で学生たちと歓談(ライブハウス『停車場』にて)

根強いジャズ人気。このライブハウス『停車場』は1976 年から 36年の歴史をもつ(埼玉県朝霞市)

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