脳梗塞に対するミクログリア細胞療法の開発
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早期治療と安全性の向上を
目指した慢性期脳梗塞に対する
新規細胞療法の開発
新潟大学脳研究所神経内科
脳循環代謝チーム
Scientific Reports 誌
脳梗塞はきわめて大事な疾患
• 脳卒中は寝たきりの原因の第1位,医療費の使用の1割を占める.
• 2人に1人が脳卒中を起こす時代に突入した.
• 脳梗塞に対し,急性期治療と慢性期治療が行われ,私たちは急性期治療研究(発症 8時間以内の治療を目指す)に取り組んできた.
しかし急性期治療には限界がある
• 急性期治療は発症から8時間がタイムリミットであり,治療の恩恵を受ける患者数には限界がある.
• 一方,慢性期回復治療はリハビリテーションのみで,十分な効果を得られず,後遺症を残すことが多い.
• しかし,近年,幹細胞を用いた再生療法が注目され,臨床試験が行われている.
理想的な回復期細胞治療
• 発症早期からの治療ができる.
• iPS細胞のようながん化のリスクがない.
• 身体への負担が少ない.
• 培養不要で,専門施設がいらず,普及できる.
➔ これらを実現する新しい治療を目指す
新しい細胞,ミクログリアに着目
利点
1. もともと脳内にあり,
遺伝子操作も不要であ
るため,がん化しない.
2. 脳梗塞に自ら集まる
ため,使用する細胞数
は少なくてすむ
(培養不要).
しかし善玉と悪玉がある
• 脳の炎症を引き起こす悪玉(M1)
• 血管や神経の再生をもたらす善玉(M2)
M0
悪玉
善玉
脳梗塞ではM1(悪玉)が主体
炎症
もしM2(善玉)化するスイッチがあれば
抗炎症血管新生神経再生➔ 脳の修復
適度の虚血刺激でM2化することを発見!
M2スイッチ
適度の虚血刺激=軽い脳梗塞の状況
虚血 = 酸素↓ 糖分↓
ミクログリアを分離
N2+CO2
軽度の虚血刺激酸素↓,培養液の糖分↓
ミクログリアにM2化に成功
研究の方法
低酸素+培養液内糖低下
低酸素・低糖(OGD)刺激
分泌物質により,M2化を確認
M2/M1比 = TGFβ/TGFα
通常の条件 低酸素・低糖
血管新生と神経の再生を促進する因子↑
血管内皮増殖因子↑ 血管新生促進サイトカイン
通常 低酸素・低糖通常 低酸素・低糖
動物モデルを用いた治療効果の判定
手術
M2化ミクログリアは脳梗塞後7日目に投与!
今までは数時間以内に治療薬を投与していたが,今回は何と7日後(!)という症状固定期に治療する
運動・感覚の障害を反映するコーナー試験
20回この位置に置いて,左右どちらに回って,角を出てくるか?
麻痺と感覚の障害を反映し,手術後はほとんど左回り
M2化ミクログリアのよる驚異的な回復
20% ➔ 90%まで回復
ミクログリア
アストロサイト
治療なし
虚血 細胞移植
前回よりNを増やした
刺激の有無による効果の確認
低酸素・低糖
通常
刺激したミクログリアは脳内に入る
低酸素・低糖ミクログリア 刺激なしミクログリア
M2化ミクログリアは脳内で血管新生因子放出
対 照 刺激アストロサイト 刺激ミクログリア
もうひとつの血管新生因子も放出する
対 照 刺激アストロサイト 刺激ミクログリア
M2化ミクログリアは血管新生を促進する!
M2化ミクログリアは神経再生も促進する!
M2化ミクログリアの作用メカニズム
治療なし M2化ミクログリア
1. 脳梗塞の中に新しい血管を作る2. その周辺の死にかけた部位で神経再生が起きる
1. ミクログリアのM2(善玉)化スイッチを発見した.
2. M2化ミクログリアが,急性期治療のタイミングを
逃した慢性期脳梗塞の回復を促進した.
3. まったく新しい細胞療法に成功し,改善のメカニ
ズム(血管新生+神経再生)まで突き止めた.
本研究成果のポイント
本治療の利点
• 長期の培養が不要であり,発症早期からの治療が
可能である
• 自身の細胞で,遺伝子操作も不要のため,iPS細胞
等で心配されるがん化のリスクがない.
• 脳から直接ミクログリアを採取する方法が,すでに
開発されている.
今後の展開
1. 脳梗塞以外のさまざまな神経疾患に応用可能で
あるため,検討を開始した.
2. 末梢血中にはミクログリアと似た細胞があり,
治療に応用できる可能性を検討している.
➔ 臨床研究情報センター(神戸)と臨床試験を
目指している.