5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 -...

19
5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 1)趣旨 次期枠組交渉に当たっては、各国の森林吸収源の位置付けを把握し、各国の交渉スタンス を考察しておく必要がある。そこで、現在の枠組における各国の森林吸収量に対する考え 方及び基本的スタンスの考察を行うため、気候変動枠組み条約並びに京都議定書に基づく 各種資料等から、第1約束期間における各国の算定・報告手法について最新の情報を収集・ 分析・整理を行うとともに、各国における森林の吸収量、炭素ストック変化量の算定方法、 議定書 3 4 項活動の選択状況等について情報の収集・整理を行う。 2)結果・考察 森林吸収源に関する情報については、各種情報が各国から気候変動枠組条約事務局に送付 され、公表されている。各国の割当量報告書、温室効果ガスインベントリ報告書、共通報 告様式(CRF)、インベントリ審査報告書及び国別報告書(ナショナルコミュニケーション ズ)に記載されている情報から、各国の森林吸収源の取り扱い、森林吸収量の算定・報告 手法を、イギリス、イタリア、オーストリア、スイス、スウェーデン、スペイン、ドイツ、 ノルウェー、フィンランド、フランス、ロシア、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニ ュージーランドの 15 ヶ国について整理・要約した。また、これらの 15 ヶ国以外のアイスラ ンド等 21 ヶ国については、京都議定書補足情報のうち、 3 4 項の活動の選択状況と排出・ 吸収量、土地転用マトリックス等を整理・要約した。 その結果は、次ページ以下の、表-1,表-2,及びⅠ~ⅩⅤ並びにⅰ~ⅹⅹⅰのとおりであ る。 分析を行った各国においては、森林は全て吸収源として報告されていた。また、京都議定 書3条4項森林経営の活用に関しては、第1約束期間についての議論において導入に否定 的であった欧州で多く選択されている状況にある。このことから、欧州でも森林吸収源に 一定の位置付けを与えざるを得ない状況にあることが推察される。また、各国の報告書は 基本的には、共通の目次構成となっていることから、我が国の報告書構成にならって要約 を試みたが、そもそも目次構成が異なったり、目次構成が同様でも細目では欠落や追加項 目があるなど、統一的な比較考量は困難な状況にある。各国が共通の土俵に立って平等で 建設的・効率的な交渉するためにも、報告内容のより一層の統一化が望まれる。 ― 42 ―

Upload: others

Post on 08-Mar-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析

1)趣旨

次期枠組交渉に当たっては、各国の森林吸収源の位置付けを把握し、各国の交渉スタンス

を考察しておく必要がある。そこで、現在の枠組における各国の森林吸収量に対する考え

方及び基本的スタンスの考察を行うため、気候変動枠組み条約並びに京都議定書に基づく

各種資料等から、第1約束期間における各国の算定・報告手法について 新の情報を収集・

分析・整理を行うとともに、各国における森林の吸収量、炭素ストック変化量の算定方法、

議定書 3 条 4 項活動の選択状況等について情報の収集・整理を行う。

2)結果・考察

森林吸収源に関する情報については、各種情報が各国から気候変動枠組条約事務局に送付

され、公表されている。各国の割当量報告書、温室効果ガスインベントリ報告書、共通報

告様式(CRF)、インベントリ審査報告書及び国別報告書(ナショナルコミュニケーション

ズ)に記載されている情報から、各国の森林吸収源の取り扱い、森林吸収量の算定・報告

手法を、イギリス、イタリア、オーストリア、スイス、スウェーデン、スペイン、ドイツ、

ノルウェー、フィンランド、フランス、ロシア、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニ

ュージーランドの 15 ヶ国について整理・要約した。また、これらの 15 ヶ国以外のアイスラ

ンド等 21 ヶ国については、京都議定書補足情報のうち、3 条 4 項の活動の選択状況と排出・

吸収量、土地転用マトリックス等を整理・要約した。

その結果は、次ページ以下の、表-1,表-2,及びⅠ~ⅩⅤ並びにⅰ~ⅹⅹⅰのとおりであ

る。

分析を行った各国においては、森林は全て吸収源として報告されていた。また、京都議定

書3条4項森林経営の活用に関しては、第1約束期間についての議論において導入に否定

的であった欧州で多く選択されている状況にある。このことから、欧州でも森林吸収源に

一定の位置付けを与えざるを得ない状況にあることが推察される。また、各国の報告書は

基本的には、共通の目次構成となっていることから、我が国の報告書構成にならって要約

を試みたが、そもそも目次構成が異なったり、目次構成が同様でも細目では欠落や追加項

目があるなど、統一的な比較考量は困難な状況にある。各国が共通の土俵に立って平等で

建設的・効率的な交渉するためにも、報告内容のより一層の統一化が望まれる。

― 42 ―

Page 2: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

表1① 各国の3プール(土壌、枯死木、リター)の吸収・排出量算定方法 イギリス イタリア オーストリア スイス スウェーデン スペイン ドイツ 算定方法 Tier3 C-Flow モデル Tier1 Tier3 に準ずる Tier2(地域、標高、樹種毎

に階層化し、それに対応し

た係数を適用)

Tier3(ストックチェンジ) Tier1(ストックチェンジ) Tier1

算定に使用する

データの基とな

った調査等

過去の年間新植面積、幹材

積の成長率と伐採傾向 国家森林調査(1Km格子

標準値調査) 国家森林調査から固有の

パラメーターを得る 連邦森林調査、連邦土地利

用統計 枯死木と土壌はそれぞれ

別の調査で把握 国家森林調査等 森林調査(4Km格子点)

算定または推計

方法等 C-Flow モデルによる 枯死木はモデル及び過去

の変換係数を適用。リター

は線形回帰式による。土壌

は直線の関係式による。

リターを含む土壌はモデ

ル及び土壌調査の結果を

踏まえ、土壌は吸収源と結

論づけ、Tier1 の手法によ

り炭素蓄積は変化しない

ものと報告。枯死木は

Tier3(国家森林調査から

固有のパラメーターを得

る)

枯死木は森林調査等から

統計に基づく回帰を求め

る。土壌炭素は排出源では

ないと説明。

枯死木は、変換係数を用い

て推計。 土壌標本による反復調査

による。

枯死有機物、土壌につい

て、Tier1 の条件で重大な

変化がないので推計は必

要ないものとする。

枯死木は森林調査のデー

タ。土壌のうち鉱物質土壌

は、過去の森林土壌調査を

用いて推計した結果を踏

まえ、Tier1 の手法により

炭素蓄積は変化しないと

している。

表1② 各国の3プール(土壌、枯死木、リター)の吸収・排出量算定方法 ノルウェー フィンランド フランス ロシア カナダ オーストラリア ニュージーランド 算定方法 Tier3 Tier3 Tier2 Tier2 Tier3 に準ずる 天然林(Tier2)人工林

(Tier3) 天然林(Tier1)人工林

(Tier2) 算定に使用する

データの基とな

った調査等

枯死有機物は国家森林調

査及び統計。土壌は調査数

値が無く、ある仮定により

初期値を算定

国家森林インベントリ 国家森林インベントリ、農

業省統計調査部の12K

mメッシュ、航空写真、地

上標本調査

国家森林調査、森林フォン

ドの登録データ等 吸排出の算定体制の中で実

施 国家炭素計上システム、国

家森林インベントリ、リモ

センデータ

森林成長を毎年調査する

NEFD調査

算定または推計

方法等 変動はYASSOモデルを使

用 変動はYASSOモデルを使

用 枯死木:地上伐採部分の

10%がその場に廃棄とし、

炭素の総量を伐採又は枯

死した年度に排出したも

のとする。 リター:土地利用が変化し

た場合にのみ評価 土壌:土地利用が変化した

場合に のみ評価

枯死木は蓄積変化法を用

いる。 リター及び土壌は、蓄積が

安定している状態から、変

化する状態に移行してい

る段階の森林において評

価を実施。

Carbon Budget Model(CBM-CF3)を利用。

人工林では、枯死木・リタ

ーは NCASFull CAM モデルを使用し、土壌は平衡

状態であることを想定。 天然林では、

土壌は土壌炭素モデルを

使用。 枯死木は回帰式やモデル

により推定。 リターは土壌調査、森林炭

素推計モデルにより推計。

― 43 ―

Page 3: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

表2① 3 条 4 項活動の選択

アイスラ

ンド

アイルラ

ンド

ウクライ

エストニ

オランダ ギリシャ クロアチ

森林経営 x x ○ x x ○ ○

農地管理 x x x x x x x

放牧地管

x x x x x x x

植生回復 ○ x x x x x x

表2② 3 条 4 項活動の選択

スロバキ

スロベニ

チェコ デンマー

ハンガリ

ブルガリ

ベルギー

森林経営 x ○ ○ ○ ○ x x

農地管理 x x x ○ x x x

放牧地管

x x x ○ x x x

植生回復 x x x x x x x

表2③ 3 条 4 項活動の選択

ポーラン

ポルトガ

ラトビア リトアニ

リヒテン

シュタイ

ルーマニ

ルクセン

ブルグ

森林経営 ○ ○ ○ ○ x ○ x

農地管理 x x x x x x x

放牧地管

x x x x x x x

植生回復 x x x x x x x

― 44 ―

Page 4: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

(1)15 ヶ国(条約報告及び議定書報告書の情報)

Ⅰ.イギリスの森林吸収量の算定・報告の情報について

I.条約の下での森林吸収量の算定・報告の情報

1 基本事項

6 区分土地利用マトリックス

表 UK. 1 1990-1991 年の土地利用の変化マトリクス (ha)

表 UK.2 2007-2008 年の土地利用の変化マトリクス (ha)

転用のない土地と転用された土地の把握方法

英国の森林の約 67%は、過去数十年にわたって林地でなかった土地に、1921 年以降に植林

された森林であり、これを「転用された森林」、これ以外の 1920 年以前からの森林を「転

用のない森林」としている。

炭素量の変化に関する報告の対象は 1921 年以降に植林された「転用された森林」に限定し

ている。これは、1920 年以前からの森林すなわち「転用のない森林」については炭素収支

が均衡していると見なしているためである。その根拠については「2.1 転用のない森林」の

項を参照。

― 45 ―

Page 5: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

森林に下位区分があればその定義

2003 年時点における対象森林の規模

英国国内の森林面積は 2,665,125ha であり、全国土の 11.6%を占める。

ここで計上されている森林の種類は以下の通り。

針葉樹林:(定義-針葉樹種が森林の 80%以上を占める)全森林の 49%

広葉樹林:(定義-広葉樹種が森林の 80%以上を占める)全森林の 32.1%

混交林:(定義-針葉樹種、広葉樹種がそれぞれ 20%以上を占める)全森林の 7.9%

薪炭林(Coppice):(定義-萌芽で少なくとも 2 本の幹が成長する市場価値のある広

葉樹であり、伐期により施業が成立)全森林の 0.5%

標準薪炭林(Coppice with Standards):(定義-二段林になっており、上層木は少

なくとも 25 本/ha あり、かつ少なくとも 1 伐期以上林齢が高い)全森林の 0.4%

風衝林(Windblow):(定義-風害林地)全森林の 0.2%

伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が 20%以上減少し、再植林が予定されている)全

森林の 1.8%

間隙地(Open Space):(定義-木は無いが、森林に含まれている。例えば、ギャッ

プ、沢地、鹿の食跡地、作業道など)全森林の 8.1%.

このうち、森林経営の対象森林は 1921-1990 年に新規植林された林地(139.4 万 ha)で

ある。1920 年以前の植林地は大部分が広葉樹でありモデル係数の推定が困難であるため、

CRF には森林として計上しているが炭素収支はゼロとみなしている。第1約束期間では英

国に与えられたキャップがあるため、この部分を算入しなくても吸収量の確保には影響が

ない。

森林面積の内挿、外挿、案分等による推計

土地利用面積はアプローチ2(IPCC2006)の手法で調査しており、複数の異なるデータを位

置情報のない土地利用変化マトリックスにまとめている。データはイングランド、ウェー

ルズ、スコットランド、北アイルランドに区分して得られる。

森林調査は英国においては断続的で、また、永久のサンプル・プロットのネットワークは

現在まで存在しなかった。1920 年以降の植林地のバイオマスと土壌の炭素蓄積の変化は林

業委員会や北アイルランド森林局の年間植林面積データと立地級によりモデル化して推定

している。

現在、新たな「林地及び立木の国家調査(National Inventory of Woodland and Trees)」

を開始しており、2009 から 2014 年の間に、イングランド、ウェールズ、スコットランド

に合計 15,000 箇所の 1 ヘクタールのプロットを設定し、5 年ごとに継続的な現地調査を行

っていく計画である。

― 46 ―

Page 6: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

2 吸収量

英国の森林吸収量の経年変化

CO2 equivalent (Gg )

CO2 GHG 合計

1990 -12,155.07 -12,143.92

1995 -13,727.88 -13,701.83

2000 -13,755.67 -13,748.24

2005 -15,721.42 -15,718.54

2006 -15,090.61 -15,074.53

2007 -14,173.62 -14,155.56

2008 -13,626.85 -13,609.91

2.1 転用のない森林

国の森林の約 67%は、過去数十年にわたって林地でなかった土地に、1921 年以降に植林さ

れた森林である。炭素量の変化についての報告対象はこの「転用された森林」のみである。

これ以外の 1920 年以前の植栽か、あるいは経済性の低い森林が約 828,000 ha ある。これ

らの森林は Category 5.A.1「転用のない森林」と分類した。時系列で森林調査データを比

較した結果、これらの一部には現在でも活発な施業が行われているものもあるが、全体と

してはこの区分の森林は炭素収支上、排出・吸収が相殺され、炭素収支が均衡していると

見なし、この「転用のない森林」にかかる炭素量の変化についての報告は行っていない。

この区分の森林が、炭素の排出・吸収に寄与する可能性について検証するため、C-flow 及

び Forest Research CARBINE 炭素算定モデルを用いて英国の森林条件下でのシミュレ

ーションを行った。その結果、長期的には炭素蓄積は増減せず長期的な平均値の周辺を上

下することが示された(Dewar, 1990, 1991; Dewar and Cannell, 1992; Thompson and

Matthews, 1989) 。生産林として管理されても、老齢林まで放置された場合でも、英国内

でこの長期的平均値に典型的には植林後 100 年以下で到達する。しかし近年の皆伐から複

層林施業への移行などのような森林施業に長期的な変化が有る場合には有効とは言えない。

2.2 他の土地利用から転用された森林

2.2.1 方法論

2.2.1.1 他の土地利用から転用された森林における生体バイオマスの炭素ストック変化量

1920 年以降の造林地による炭素吸収量は、針・広葉樹林の立木、リター、土壌、及び伐採

木材製品内の炭素プールの純変化量として、炭素量計算モデル(Dewar and Cannell 1992;

Cannell and Dewar 1995; Milne et al. 1998)を用いて算定した。モデルでは全対象森林で

再造林が想定されている。この算定法は GPG-LULUCF(IPCC2003)で定義する Tier3

の方法である。モデル計算には2種のデータ:(a) 過去の年間新植面積、(b) 幹材積の成長

― 47 ―

Page 7: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

率と伐採傾向、と、2組のパラメータ:①幹材積から幹、葉、枝、根の重量を推定する係

数、②リター、土壌炭素、木製品の腐朽率が必要である。(注:イギリス林業委員会HPの

UK forest carbon inventory の項によれば、「モニタリングシステムは、4 種のモジュール

から構成」、「モジュール A が森林バイオマス・リター・土壌の全国・地域レベルでの炭素蓄積

調査手法」、「モジュール B~D は A の結果の検証ツール」、「モジュール A のスペシフィケ

ーションは CARBINE、CFLOW、ROTHC の3モデルのコンビネーションから成る」、「ス

ペシフィケーションは炭素計測手法についての国際的合意により強く影響を受けることと

なる」との記述がある)

また、このモデルでは、針・広別、地方別(イングランド、スコットランド、ウェールズ、

北アイルランド)に国・民有林の 1921-2008 年の新規植林面積を用いて計算した。すべて

の植林地が収穫量 大伐期(Maximum Area Increment ; 針葉樹 57 又は 59 年、広葉樹 92

年)で皆伐され、2回目以降も再造林されるものとした。このため再造林面積を別途考慮

する必要はない。森林は標準経営案に従って収穫されるという基本的な想定をしている。

しかし、長期間の森林調査を比較すると 20 世紀に行われた伐採・再造林の時期は多様であ

り標準から外れた経営も見られた。これらの経営の多様性は森林モデルに取り入れつつあ

り、現行の方法論については今後の報告においても見直しを継続する。

このモデルでは間伐開始後の森林成長を林業委員会収穫表(Edwards and Christie 1981)

を用いて推定する。初回間伐以前の成長推定は指数・線形曲線を用いる。全ての針葉樹植

林地の成長は、中程度の間伐を行うシトカトウヒ;Sitka spruce (Picea sitchensis (Bong.)

Carr.)林分と同等と想定する。シトカトウヒは英国で も広く見られる樹種で針葉樹林面積

の 50%を占める。Milne(1998)らによれば、中程度の地位でのシトカトウヒの成長量は、英

国内で 10-16 m3/ha と幅があるが、地理的な違いは無く、国全体の炭素吸収推定量に与え

る影響は 10%以下である。従ってインベントリでは国内の全ての針葉樹植林地の成長が収

穫地位級 12 m3/ha/年(北アイルランドは 14 m3/ha/年)のシトカトウヒと同じ成長をする

ことを前提に算定している。

Milne ら(1998)はまた、広葉樹については、樹種別に異なる想定をしても炭素吸収量にほと

んど影響がないことを示した。広葉樹植林地については、収穫地位級 6 m3/ha/年のヨーロ

ッパブナ(Fagus sylvatica L.)の特性をもつと想定する。 新の国内森林調査(林業委員会

2002 年)によるとブナは広葉樹林の 8%を占める一方、単一樹種で 25%を超えるものはな

い。ブナを全広葉樹の代表としたが、これはカバなどの早成樹種とカシのような非常に成

長が遅い樹種との中間の特性を持つからである。しかし、ブナの代わりにカシやカバの収

穫量を使った場合でも国内森林の炭素吸収量全体に与える影響は 10%以下である(Milne

など, 1998)。ブナを代表樹種とすることについては今後とも検討を続けることになろう。

樹種毎の想定値にかかわらず、1990 年から現在までの吸収量の変動は過去数十年間の植林

の進度、その結果としての現在の林齢構成、そして平均成長率で決まってくる。現在森林

面積の拡大率は低下しており、炭素吸収量は 2004 年まで増加したが減少に転じつつある。

― 48 ―

Page 8: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

これは 1970 年代以降の植林面積の減少を反映している。この植林は全て何十年も森林でな

かった土地で行われたものである。表 UK.3 は 1921 年以降の植林面積とその植林地の現在

の推定林齢構成である。

森林調査データと年次別植林面積を時系列で比較した。比較に用いた森林調査データは

1924, 1947, 1965, 1980 年、そして 1990 年代後半に実施されたものである。データを比較

した結果、年次別植林面積と推定植林時期(森林調査の林齢による)の差異は 1920 年以前

の古い植林地で再造林が行われたことや主伐林齢のバラツキに起因していることが判明し

た。また、ある時期に針葉樹の伐期齢が短縮されたり、林地が広葉樹施業区分内で移動(低

林・高林間など)したことも明らかになった。この結果、イングランドとウェールズ地方

の針葉樹植林は、標準の 59 年伐期 (1921-2004 年)、 49 年伐期(1921-1950 年) 、39 年伐

期 (1931-1940 年, イングランドのみ)の3区分に分けられた。1920 年以前の古い植林地で

の標準的でない施業法を今回のインベントリに取り込むことは困難である。それは、これ

ら植林地が初回植林地か2回目以降の植林か不明であり、特に土壌内の炭素蓄積変化への

影響が分からないためである。この分野ではさらに研究が計画されている。

表 UK.3 1921 年以降の植林面積とその植林地の現在の推定林齢構成

― 49 ―

Page 9: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

2.2.2 不確実性と時系列の一貫性

添付文書(Annex)7に述べるアプローチ1(誤差伝播)の不確実性分析により、GPG 基

準による不確実性の推定が行われている。森林由来の純排出量については 25%の不確実性

があると推定される(NIR 11.3.1.5)。植林統計については、主に林業委員会直営の植林およ

び補助植林事業に対する補助金支払い実績に基づくものであり、不確実性はない。2010 年

内には新たな国家森林調査地図が作成され、植林統計の信頼性がさらに向上するであろう。

森林火災のデータは 1990-2004 年については林業委員会または北アイルランド森林局のデ

ータに基づくものであり、時系列的な一貫性がある。1990-2004 年間のデータの不確実性

は 50%と推定されているが、2005~2008 年については、前年値を外挿したものであるた

め、100%と推定される。排出係数は IPCC のデフォルト値 70%を用いた。

植林や窒素施肥に関するデータは一貫して国(林業委員会及び北アイルランド森林局)の同

じ森林統計値から得ており、吸収量算定の時系列的な一貫性を確保している。

2.2.3 QA/QC

森林分野については NIRp198 の 7.9 に述べる一般的な QA/QC が実施された。植林面積及

び森林火災被害面積はFAOへの報告と一致している。

現在、実施中の第一回「国家森林調査」の 初の成果品として新しい地図が 2010 年 6 月に

完成の予定で、これにより全森林面積が算定される予定である。林地の現地調査により、

樹種構成、林分構造、林齢分布別生産力指数(tree age (distribution) productivity indices)、

立木本数、そして直径・樹高分布など、森林蓄積の直接的な測定ができる。この測定値か

ら英国独自の変換係数やアロメトリー式を用いて立木バイオマス(炭素)も算定できる。5

年周期の現地調査が完了する 2014 年には、森林内炭素蓄積の直接的な評価が可能になる。

現地調査には枯死木バイオマスの量の測定も含まれているため報告値の検証が可能となる。

さらに何らかの土壌の測定も検討されている。この「国家森林調査」の結果は 2015 年に出

版される予定である。

土壌内炭素蓄積への植林の影響に関する研究の結果は、植林による土壌内炭素量の増減に

ついてまだ結論を出していない。

2.2.4 再計算

転用のない森林の面積は消失森林による減少を加味して調整される。消失森林の面積推定

値や調整方法の改訂により 2000-2007 年の森林面積は変更されたが、この区分の森林は炭

素均衡とされており排出・吸収量に影響はなかった。

植林地(5A2)由来の排出・吸収量の推定値は、林業統計の 2008 年の植林統計により更新し

た。2007 年の北アイルランドの植林面積が 65ha 過大であったため、この訂正に伴って炭

素排出が 0.0685GgC 増加した。

― 50 ―

Page 10: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

3 排出カテゴリーの情報

3.1 施肥に伴うN2O排出(5Ⅰ)

英国では林地の窒素施肥は痩せ地(鉱滓堆積地、貧栄養の褐色耕土、高地有機土)での新

規植林など、特に必要な場合にのみ行うことが推奨されており、インベントリで窒素施肥

を想定しているのは、居住地および有機土壌の草地から転用された森林についてのみで、

これに由来する N2O の排出量は Table 5 の 5.A.2 に報告されている。

(以下 NIR2009) 施肥量については、林業委員会の施肥指針(Taylor 1991)に基づき、ha あ

たり 150 kg N という値を想定した。この指針では林冠閉鎖(約 10 年後)まで3年毎の施

肥を推奨しているが、これはやや多いと考えられ(Skiba 2007)、実態にあわないため、施肥

2回という妥協案をとる。施肥は植栽年と4年後に行われる。従って 1990 年以降の窒素施

肥に由来する排出量には 1990 年以前に植栽され 1990 年以後に第2回の施肥を行った森林

からの排出が含まれる。施肥された窒素肥料の N2O 排出係数はデフォルト値の 1.25%とし

た。森林への窒素施肥に由来する N2O 排出は、新規植林面積の減少により、1990 年以降低

下している。

3.2 土壌排水に伴うN2O排出(5Ⅱ)

排水された有機土壌からの N2O の排出量は相当程度と見込まれるが、この排出源について

は、未だ信頼できる推定法がないため、5II だけが未報告(NE)である。

3.3 農地の転用に伴うN2O排出(5Ⅲ)

農地の転用に伴うN2O排出(5Ⅲ)は算定されていない。英国は GPG の推奨する算定法

は適切でないため、他の方法が見つかるまで報告に含めないほうがよいと考えるからであ

る。

3.4 バイオマスの燃焼(5Ⅴ)

英国では(生息地管理のような)管理火入れは行われない。森林火災は発生するがそのデ

ータは 5A1 と 5A2 に区分するには十分でないため、森林火災に由来する排出はすべて 5V

表の 5A2 に報告している。管理森林内の森林火災から生じる CO2 及び非 CO2 ガス排出量

の算定方法は GPG LULUCF (Section 3.2.1.4)による。1990-2004 年の森林火災推定面積に

ついては各種出版物があるが、全て林業委員会または北アイルランド森林局が発表したも

のである。2004 年以降の発表はないため、2005- 2008 年については Burg 回帰式を用い、

1990-2004 年データの傾向・変動に基づく外挿値を求めた。火災面積データは国有林のみ

であり、民有林については国有林と同じ面積比で火災が発生したと想定した。1990-2008

年平均で、国・民有林で毎年 921 ha が焼失したと算定される。焼失した森林の林齢、針広

葉樹別に関する情報はないため、焼失バイオマス量は、C-Flow モデルで算定した国内各地

方別の平均森林バイオマス密度(表 UK.5) から算定した。この密度は各地方の植林の歴史

― 51 ―

Page 11: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

が異なるため時間的に変化する。 乾燥重に対する炭素比率を 0.5、燃焼率 0.5 として、炭

素排出量および CO2、非 CO2 ガス排出量を算定した(IPCC の排出係数を使用)。

― 52 ―

Page 12: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

Ⅱ.京都議定書第 3 条 3 項及び第 3 条 4 項に関する情報

1 京都議定書 3 条 3 及び 4 の下での排出・吸収の推計の概要

3 条 3 項および 4 項の活動の報告情報

吸収源活動

カーボンプール GHG発生源

地上

バイ

オマ

地下

バイ

オマ

バイオマス燃焼

N2

N2

N2

CO

CO

CH

N2O

3

3

新規植林・再

植林 R IE R IE R R NO IE IE IE

森林減

少 R IE IE IE R NO NO R R R

3

4

森林経

営 R IE R IE R NO NE NO R R R

農地管

理 NA NA NA NA NA NA NA NA NA NA

放牧地

管理 NA NA NA NA NA NA NA NA NA

植生回

復 NA NA NA NA NA NA NA NA NA

引用:KP-LULUCF Table NR1

― 53 ―

Page 13: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

3 条 3 項および 4 項の活動による排出・吸収量(2008 年)

GREENHOUSE GAS

SOURCE AND SINK

ACTIVITIES

BY(5

)

Net

emissions/removals(1) Accounting

Parameters

Accounting

Quantity 2008 Total

(Gg CO2 equivalent)

A. Article 3.3 activities

A.1. Afforestation and

Reforestation -2,695.03

A.1.1. Units of land

not harvested since the

beginning of the

commitment period -2,695.03 -2,695.03 -2,695.03

A.1.2. Units of land

harvested since the

beginning of the

commitment period NO

Wales NO NO NO

Scotland NO NO NO

Northern Ireland NO NO NO

England NO NO NO

A.2. Deforestation 614.86 614.86 614.86

B. Article 3.4 activities

B.1. Forest

Management (if

elected) -10,698.39 -10,698.39 -6,783.33

3.3 offset 0.00 0.00

FM cap 6,783.33 -6,783.33

B.2. Cropland

Management (if

elected) 0.00 NA NA 0.00 0.00

B.3. Grazing Land

Management (if

elected) 0.00 NA NA 0.00 0.00

B.4. Revegetation (if

elected) 0.00 NA NA 0.00 0.00

引用:KP-LULUCF Table Accounting

― 54 ―

Page 14: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

2 一般的情報

2.1 森林の定義

面積≧0.1ha

幅≧20m

樹冠被覆率≧20% (またはその程度の被覆率が期待できる)

樹高≧2m (またはその程度の樹高が期待できる)

この定義には更新前の皆伐跡地及び森林に介在する 1ha 未満の無立木地を含む。

2.2 選択した 3 条 4 の活動

第 1 約束期間における 3 条 4 項の LULUCF 活動の算定については森林経営を選択。

2.3 3 条 3 活動、3 条 4 活動に関する定義の一貫性

京都議定書の AR および FM 活動森林は条約の GHG インベントリ報告の 5A2(転用され

た森林)にほぼ一致する。ARおよびFMの定義は条約の GHGインベントリと同じである。

なお、林業委員会の統計数字は「前年 4 月 1 日~当年 3 月 31 日」を植栽年度としている。

従って例えば暦年 1990 年の新規植林・再植林は 90 年度植栽面積の 25%と 91 年度植栽面積

の 75%の和が報告されている。

2.4 選択した 3 条 4 の活動間の階層構造及び土地区分の一貫した適用

3 条 4 項下では FM だけが選択されており、該当しない。

3 土地に関する情報

3.1 土地転用マトリックス

3.1.1 京都議定書対象活動に着目した土地転用マトリクス

京都議定書の AR および FM 活動森林は UNFCCC の GHG インベントリ報告の 5A2(転用

された森林)にほぼ一致するので、対象活動土地利用マトリックスも同様である。

― 55 ―

Page 15: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

京都議定書対象活動に着目した土地転

用マトリクス

3条

3項の活動

3条

4項の活動

その他

今年度の

始まりに

おける面

積合計

新規植林お

よび再植林

森林減少

森林経営

(選択して

いる場合)

農地管理

(選択して

いる場合)

放牧地管理

(選択して

いる場合)

植生回復

(選択して

いる場合)

(kh

a)

3条

3項

の活動

新規植林および再植林

27

7.13

0.

00

277.

13

森林減少

18

.83

18.8

3

3条

4項

の活動

森林経営

(選択している場合)

0.

93

1,37

5.66

1,

376.

59

農地管理

(選択している場合)

0.

00

0.00

N

A

NA

N

A

0.00

放牧地管理

(選択している場合)

0.

00

0.00

N

A

NA

N

A

0.00

植生回復

(選択している場合)

0.

00

NA

N

A

NA

0.

00

その他

5.

98

0.00

0.

00

0.00

0.

00

0.00

24,0

80.4

5

24,0

86.4

3

今年度の

終わりにおける面積合計

28

3.12

19

.76

1,37

5.66

0.

00

0.00

0.

00

24,0

80.4

5

25,7

58.9

8

引用:

KP

-LU

LU

CF

Tab

le N

R2

― 56 ―

Page 16: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

3.1.2 新規植林・再植林、森林減少の面積の把握方法 新規植林・再植林面積は、1990 年以降に森林に転用された面積を林業委員会等の新植面積報

告から得ているが、この報告は 4 月 1 日から翌年 3 月までの「植栽年度」の統計であるた

め、これを期間按分して(前年度の新植面積の 25%+当年度の 75%)面積を求めている。

UNFCCC GHG インベントリ報告ではこの調整をしていない。このため、1990-2008 年の

累計面積でみると、UNFCCC GHG インベントリ報告では 294,710 ha 、3 条 3 項の新規

植林面積は 283,115 ha となっている。 なお、国有林及び補助金対象の民有林以外の(管理状況の不明な)林地での植林は条約の GHG インベントリ報告および 3 条 3 項 AR 報告には含まれていないが、年に 400ha 程度

と推定される。 森林減少面積は、1990 年以降に森林から草地あるいは開発地(土地利用調査によれば、こ

の期間に耕地への転用は無視できると推定される)に永続的に転用された面積としている。

この面積は、更新義務を伴わない無条件伐採免許(unconditional felling license)の発行に

基づき森林委員会及び国土調査局から報告される森林減少活動に関する情報から集計され

る。 条約の GHG インベントリ報告では、年次別の森林減少面積を報告しており、この報告値

の 1990-2008 年の累計が 3 条 3 項の森林減少面積と一致する。 3.1.3 森林経営対象面積の把握方法 森林経営対象面積は、2008 年時点で、1921-1989 年に森林に転用された面積(1,394.49 kha)から、1990-2008 年の森林減少面積(19.76 kha)を減じた 1375.66 kha である。 現下の条約の GHG インベントリ報告では、1920 年以前からある「転用のない森林」の面

積から森林減少面積を減じており(森林減少に由来する土壌及びバイオマス内の炭素蓄積

の変化や排出は報告に含まれているが)、森林減少と新植面積データの報告形態の差異を次

回報告までに解消したい。

3.2 地理的境界を特定するために用いる地図情報及び地理的境界の ID システム 地理的な評価単位は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの連

合王国 4 カ国(GPG LULUCF の Method1報告法)である。3 条 3 項の AR 及び 3 条 4項の FM 森林の炭素蓄積量の変化を 20x20km 単位で報告するためには十分詳細なデータ

が存在する。しかし、その他の排出量あるいは 3 条 3 項の森林減少由来の炭素蓄積の変化

に関する報告には十分なデータがない。(詳細は

http://www.edinburgh.ceh.ac.uk/ukcarbon). 林業委員会および森林局は連合王国内のそれぞれの国内の土地面積を(国有林については

林小班データベース、その他については補助金制度に係るデータで)把握する行政システ

ムを持っている。

― 57 ―

Page 17: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

4 活動別の情報 新規植林・再植林、森林経営、森林減少による吸収・排出量算定結果総括表 2008

Gg-CO2 Gg-C AR -2,696.00 735.28 地上バイオマス -2,555.19 696.87

地下バイオマス IE IE 枯死木 IE IE リター -106.88 29.15 土壌 -33.95 9.26 その他のガス - -

CO2) +:排出、―:吸収 C) +:吸収、―:排出 2008

Gg-CO2 Gg-C D 452.21 -123.33 地上バイオマス 246.22 -67.15

地下バイオマス IE,NO IE,NO 枯死木 IE,NO IE,NO リター IE,NO IE,NO 土壌 205.99 -56.18 その他のガス - -

CO2) +:排出、―:吸収 C) +:吸収、―:排出 2008

Gg-CO2 Gg-C FM -10,872.62 2,965.26 地上バイオマス -6,412.23 1748.79

地下バイオマス IE IE 枯死木 IE IE リター -1,561.34 425.82 土壌 -2,899.05 790.65 その他のガス - -

CO2) +:排出、―:吸収 C) +:吸収、―:排出 4.1 新規植林・再植林 3 条 3 項の AR・D 及び 3 条 4 項の FM 森林の炭素蓄積量の変化については、条約の GHGインベントリと同様の方法で算定している。 4.2 間接及び自然要因の分離(ファクタリングアウト) 英国では、全国的な現地調査でなく CFlow モデルにより、元来一定の気候・経営条件を前

提とする収穫予想表に基づいて森林炭素量の変化を算定している。このため、「ファクタリ

ングアウト」の必要はない。また、英国での気候、CO2、土地利用変化が陸上生態系の炭

素均衡に与える影響に関する研究においても、気候などの変化による影響は少なくむしろ

― 58 ―

Page 18: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

良い方向への効果(ファクタリングイン)があるとされた(Levy and Clark 2009)。 4.3 不確実性評価

モデルへの入力情報については、可能な限り不確実性を減少させるために Bayesian techniques (van Oijen et al. 2005, Patenaude et al, 2008)を用いた。 CFlow モデルは植林

面積、収穫表(平均成長量)から炭素吸収量を算定するが、立地級の異なる森林について

単年度の吸収量を算定する場合には、伐採による排出が大きいため、不確実性が拡大する

可能性がある。 しかし、5A と5G(森林と伐採木材製品)を同時に考えると、伐採活動が2つのプールに

逆の効果があるため不確実性はかなり減少する。また、個々の植林地でなく全国的に合計

して考えれば年度間の不確実性はかなり打ち消される。 植林統計は現地調査でなく行政統計であるため不確実性に関する方策がないが、2010 年半

ばに新たな国家森林調査地図が入手可能となれば植林統計の信頼性に関するより良い情報

が得られるであろう。森林減少面積や国有林外で補助対象でない植林面積などの情報が期

待される。 モデルのパラメータによる不確実性については、Dewar and Cannell (1992) が行った

CFlow のパラメータの感度分析によると、枝や根の木質バイオマス量、リターと土壌の腐

朽率、そして細根の寿命がもっとも不確実性が高いか変動が大きいとされた。このほかの

パラメータは適切な精度があり、(または)炭素蓄積にほとんど影響しない。 さらに van Oijen (2009)の追加的分析によると、(立木、リッターと土壌の間の炭素の分割

を支配する)バイオマス拡大係数と入れ替わり率(寿命)に関するパラメータは、一定分

布下のデフォルトのパラメータについて 30%の不確実性を持つとモデル化された。パラメ

ータが変化しても植林による炭素蓄積の全期間的な型は変らない。京都議定書報告に特に

関係があるのは、任意の年と基準年の 1990 年の間でシンクの強さ(sink strength)がほと

んど変らないことである。 モデルの構造による不確実性についは、van Oijen (2009)が CFlow モデルに、植林時のか

く乱による既存土壌炭素の減少並びに林冠閉鎖前の地上植生による炭素の吸収という 2 つ

の過程を加えて検討した結果、時系列的な炭素蓄積の全般的な型に影響はなかったが、蓄

積変化の大きさは変った。さらに複雑なモデル(BasFor)を用いた検討では国内の場所によ

って環境条件が均一でないため、不確実性に位置的な傾向があることが分かった。このこ

とから、森林関連の不確実性については、それが炭素変化量の一定パーセントであると言

うような単純な分析法は適切でないことが示唆される。 検討作業がなお進行中であり、不確実性については、当面、3 条 3 項の AR 及び 3 条 4 項は

UNFCCC の 5A と同じ 25%を、3 条 3 項の森林減少は専門家の判断により 50%を用いるこ

ととする 4.4 自然攪乱による影響への対処方法 国有林については火災被害データが入手可能であり、私有林の被害面積はこれから拡大推

定している(第I章の 3.4 バイオマスの燃焼 参照)。森林火災による消失については、樹

種や林齢など被害森林のタイプや連合国の各国内における発生箇所の位置に関する情報は

ないが、森林火災が土地利用の永続的な変更を起こすとは想定していない。 風倒木被害は英国内でも発生しているが現在十分なデータがなく条約インベントリでは報

告していない。(1987 年に南イングランドで起きたような)甚大で広域的な森林破壊を伴う

風害が生じた場合にはそのつど対応したい。 年度間の変動については、AR と FM に由来する排出・吸収は CFlow モデルに基づいて算

― 59 ―

Page 19: 5.各国の森林吸収量の算定・報告手法の把握・分析 - …...伐採跡地(Felled):(定義-蓄積が20%以上減少し、再植林が予定されている)全

定されており、このモデルが年度ごとの環境条件の変化に左右されないため、環境条件の

変化が年成長や腐朽率に影響することはない。現在、林業事業体森林の経営条件が、国内

の地域間や時系列的にどのような変動があるかについて研究が進められている。森林火災

の被害面積は毎年変動するがこれは算定法に織り込まれており、年次別データがない場合

は Burg 回帰式で直前 10 年間の傾向から外挿される。 5 京都議定書 3 条 3 の活動 5.1 90 年 1 月 1 日以降の人為的活動の判定 林業委員会と北アイルランド森林局は(従前森林でなかった土地への)新規植林に関する

データを、連合国内の各国別に 1990 年より以前から、年次ごとに収集している。このデー

タは「植栽年度」ごとに収集された後、第Ⅱ章の 2.3 (3 条 3 活動 3 条 4 活動に関する定義

の一貫性) で述べたように、暦年値に換算される。新植法には植栽/播種や天然更新を含

む。国有林のデータは行政組織を通じて、その他の林地については補助金制度により得ら

れる。国有林でなく補助金対象でない管理状況が明確でない林地は条約の GHG インベント

リにも3条3項 AR にも含まれていない。 森林減少の情報は、他の土地利用のための伐採許可や森林の開発地への転用に関する情報

から集計され、直接的な人為と明示される。現在のところ一年のどの時点で森林減少が起

こったかまでの正確な情報はない。 5.2 一時的なストック減少と森林減少を区別する方法 森林減少面積の算定に用いるデータ源の性質から伐採または森林被害と森林減少の混同は

起こらない。すなわち、非都会地での森林減少の算定に用いている無条件伐採許可は、再

植林が実施されない場合に限って与えられ、開発利用地調査は森林の開発地への転用が調

査されており、再植林は排除されている。新たな全国森林調査の結果の一部は約束期間の

末までに得られるので上記のデータ源による森林減少量の検証が可能になろう。 6 京都議定書 3 条4の活動 6.1 90 年 1 月 1 日以降の人為的活動の判定 6.1.1 森林経営活動 すべての管理された(1921-1989 年に植栽された)森林が 3 条 4 項の FM 活動の対象とな

る。CFlow モデルを用いて、この森林の 1990 年以降の間伐、伐採、再植林に由来する排出

量が算定される。FM 対象地の面積は上記 3.1.3 で述べたように森林減少分のマイナス調整

が行われる。 7 その他の情報 7.1 キーカテゴリー 3 条3項の AR(CO2)、3 条3項の D(CO2)、および 3 条4項の FM 活動にかかる CO2 の3

つが KP のキーカテゴリーに該当する。 7.2 6 条にもとづくプロジェクトの実施 英国では該当なし

― 60 ―