6.クーロン力 coulomb forceida/education/computerscience/0206.pdf6.クーロン力 coulomb...
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計算科学基礎 2013 年 5 月 17 日作成
名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター 井田 隆 2018 年 1 月 22 日更新
6.クーロン力 Coulomb force 前の章で「ファンデルワールス・ポテンシャルが距離の ‒6 乗に比例する(=ファンデルワールス力の強さが距離の ‒7 乗に比例する)」仮定が使われました。もう少し厳密な言い方をすると「分子間力と呼ばれるもののうち,双極子-双極子分散相互作用による引力は距離の ‒7 乗に比例する」とされます。このことは,基本的には電荷どうしの間に働くクーロン力により説明できます。また,原子同士が近づきすぎると反発力が働き,「それは交換反発力による」と説明されることが多いようです。実際には,そのうちのかなりの部分は単純にクーロン相互作用で説明できます(単純なクーロン相互作用で説明できない部分は「交換相互作用による」ことになりますが,それが大部分と言うわけではありません)。
ここではクーロン力について見直すことにします。
6-1 点電荷によるポテンシャル Potential generated by a point charge
原点に点電荷 q を置いたとき,位置 � にある「単位電荷」の受けるポテンシャル
は,
� (6.1.1)
と表されます。ここで � としています。記号 � は「真空の誘電率
permittivity of vacuum」(� ) を表します。この書き方をす
るときに,� はエネルギーでなく「電圧」あるいは「電位」の意味になりますが,こ
こではこれも場合によって「ポテンシャル」と呼ぶことにします。任意の電荷 � の受けるポテンシャルはエネルギーとして表され,
� (6.1.2)
となります。式 (6.1.1) を詳しく書けば,
� (6.1.3)
と表されます。
r =xyz
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
Vq r( ) = q4πε0r
r = r = x2 + y2 + z2 ε0
8.85418782 ×10−12 m–3 kg−1 s4 A2
Vq r( )′q
φ ′q q r( ) = ′q Vq r( ) = q ′q4πε0r
Vq x, y, z( ) = q
4πε0 x2 + y2 + z2
位置 r に置かれた点電荷 q の作る電場 � は,「電位 � の勾配 gradient に負
符号をつけたベクトル」であり,
� (6.1.4)
と表されます。電場 E の向きは,式 (6.1.1) (あるいは式 (6.1.3) )で表される電位 �
の下がる方向を向き,電場の強さ � は,「距離の –2 乗に比例する」ことに注意して
ください。
式 (6.1.3) を座標 x, y, z で偏微分すれば,電場の各成分が
� (6.1.5)
� (6.1.6)
� (6.1.7)
と表されることがわかります。式 (6.1.4) は,式 (6.1.5) – (6.1.7) をまとめて表現するものであり,全く同じ意味であると言うことを確認してください。
点電荷 q を原点に置いたとき,位置 r におかれた点電荷 � の受ける力 f は,
� � (6.1.8)
と表されます。
6-2 双極子によるポテンシャル Potential generated by a dipole
双極子 dipole という概念は,何か理解しにくく,受け入れにくいものであることは当然でしょう。
E =
ExEyEz
⎛
⎝
⎜⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟⎟
Vq r( )
E = −∇Vq r( ) = qr4πε0r
3
Vq r( )E = E
Ex = −∂V x, y, z( )
∂x= qx
4πε0 x2 + y2 + z2( )3/2
Ey = −∂V x, y, z( )
∂y= qy
4πε0 x2 + y2 + z2( )3/2
Ez = −∂V x, y, z( )
∂z= qz
4πε0 x2 + y2 + z2( )3/2
′q
f = ′q E = q ′q r4πε0r
3
Fig. 6.2.1 正負の電荷を距離 R で配置する場合
双極子とは,Fig. 6.2.1 に示すように「同じ絶対値を持つ正負の電荷が近くにあるもの」を意味します。では,その「近く」とは「どれくらい近く」なのでしょうか?
双極子は3次元のベクトル � で表され,双極子の強さは「双極子モーメント」
で特徴づけられます。正負の電荷 +q, –q が距離 R 離れた位置にあるとき,双極子モーメン
トは負の電荷から正の電荷に向かう方向に平行なベクトル � で,長さが qR で表されます
( � )。
ところが,「抽象的な概念」としての双極子は,「R → 0 の極限」を意味します。例え
ば,� と書かれます。Fig. 6.2.1 のような絵を思い浮かべたとして,正負の電荷が
「どれくらい近く」にある場合かと言えば,「無限にゼロに近い近さ」にある場合ということになります。双極子の大きさは「電荷の大きさ」と「電荷の間の距離」とをかけたものなので,「距離がゼロ」で「双極子モーメント」が有限の値だとすれば,「電荷は無限大」でなければいけません。そのようなことは現実にはあり得ません。
その「ありえなさ」は「質点=有限の質量を持つが大きさがゼロのもの」や「点電荷=有限の電荷を持つが大きさがゼロのもの」の「ありえなさ」と少し似ている面もあるのですが,例えば「電子」という実在の粒子について「多くの場合に点電荷かつ質点とみなして
+q−q
R / 2−R / 2 x
y
0
p =
pxpypz
⎛
⎝
⎜⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟⎟
p
p = p = qR
p = limR→0
pRR
も良いだろう」と思えるのと比較して,「電気双極子」はそれと比べて「ありえなさ」の度合いが高くなっていることに注意してください。
どうして現実には存在しそうにない「双極子」という概念が使われるのでしょうか?「誘電分極など双極子として扱っても実際上差し支えない場合が多いこと」「双極子と扱えれば,いろいろな計算が楽になること」などが理由でしょう。
原点に双極子 � を置いたとき,仮想的に原点位置に –p/R の電荷,位置 R に +p/R の電荷があるとすることもできます。このとき,位置 r で単位電荷が受けるポテンシャルは,
� (6.2.1)
と表されます。この式を解けば,
� � �
� �
� � �
� (6.2.2)
となります。双極子から電荷が受けるポテンシャルは,距離の –2 乗に比例することに注意してください。
双極子 p がつくる電場は
� (6.2.3)
と表されます。したがって,電場の x 成分は
�
�
� (6.2.4)
同じように電場の y, z 成分は
p
Vp r( ) = limR→0
V+ p/R r −R( )+V− p/R r( )⎡⎣ ⎤⎦
Vp r( ) = p4πε0
limR→0
1R
1r −R
− 1r
⎛
⎝⎜
⎞
⎠⎟ = p
4πε0limR→0
r − r −RRr r −R
= p4πε0r
2 limR→0r − r −R
R
= p4πε0r
2 limR→0r − r 2 − 2r ⋅R + R2
R= p4πε0r
limR→0
1R1− 1− 2r ⋅R
r 2+ R
2
r 2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
1/2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
= p4πε0r
limR→0
1R1− 1− 2r ⋅R
r 2+ R
2
r 2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
1/2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= p4πε0r
limR→0
1R1− 1− r ⋅R
r 2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
⎡
⎣⎢
⎤
⎦⎥ =
p4πε0r
3 limR→0r ⋅RR
= p ⋅r4πε0r
3
E = −∇Vp r( )
Ex = − ∂∂x
p ⋅r4πε0r
3
⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟= − 14πε0
∂∂x
pxx + py y + pzz
x2 + y2 + z2( )3/2⎡
⎣
⎢⎢⎢
⎤
⎦
⎥⎥⎥
= − 14πε0
px x2 + y2 + z2( )−3/2 − 3 p ⋅r( )x x2 + y2 + z2( )−5/2⎡
⎣⎢⎤⎦⎥
= − 14πε0r
3 px −3 p ⋅r( )xr 2
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
� (6.2.5)
� (6.2.6)
となります。式 (6.2.4), (6.2.5), (6.2.6) をまとめれば,
� (6.2.7)
と書く事ができます。このことは,「双極子のつくる電場の強さ」が距離の –3 乗に比例することを意味します。
Fig. 6.2.1 に示した「正負の電荷の組み合わせ」は,電荷間の距離 R が有限である限り「『双極子』とは違うもの」なのですが,電荷間距離 R に比べて「かなり離れた位置」で感じる「静電的なポテンシャル」あるいは「電場」は,「原点に相当する『双極子』があるとした場合」と区別がつかなくなります。
6-3 四極子によるポテンシャル Potential generated by a quadrupole
四極子あるいは四重極 quadrupole は,Fig. 6.3.1 のように「絶対値が等しく異符号の電荷を小さい正方形の頂点に交互にならべたもの」あるいは「逆向きの双極子を近くにおいたもの」と考えることができます。
�
Fig. 6.3.1 正負の電荷の正方形型の配置
Ey = − 14πε0r
3 py −3 p ⋅r( ) yr 2
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
Ez = − 14πε0r
3 pz −3 p ⋅r( ) zr 2
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
E = − 14πε0r
3 p−3 p ⋅r( )rr 2
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
+q
+q −q
−q
R / 2
R / 2
−R / 2
−R / 2
四極子モーメントは3×3の行列(二階テンソル) � で表されます。
電荷 qi (i = 1, ... , M) が の位置にあるとき,四極子モーメントの各要素は
� (6.3.1)
で表されます。� と � は,x, y, z のいずれかを表すとします。また,� としま
す。
� (6.3.2)
はクロネッカーのデルタ記号と呼ばれます。式 (6.3.1) のように定義された四極子モーメント行列の「対角項の和 trace」は
� (6.3.3)
のように,必ずゼロになります。この性質はトレースレス traceless と呼ばれます。
Fig. 6.3.1 のように,+q, –q, +q, –q の電荷を � ,� ,
� ,� に配置する場合について考えます。
四極子モーメントの各成分は
� �
� � ,
Q =
Qxx Qxy QxzQyx Qyy QyzQzx Qzy Qzz
⎛
⎝
⎜⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟⎟
ri =xiyizi
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
Qαβ =i=1
M
∑qi 3α iβi − ri
2δαβ( )2
α β ri2 = xi
2 + yi2 + zi
2
δαβ =1 α = β⎡⎣ ⎤⎦0 α ≠ β⎡⎣ ⎤⎦
⎧⎨⎪
⎩⎪
Qxx +Qyy +Qzz =i=1
M
∑qi 3xi
2 − ri2( )
2+qi 3yi
2 − ri2( )
2+qi 3zi
2 − ri2( )
2
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= 0
r1 =R / 2R / 20
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
r2 =−R / 2R / 20
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
r3 =−R / 2−R / 20
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
r4 =R / 2−R / 20
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
Qxx =i=1
M
∑qi 3xi
2 − ri2( )
2=
i=1
M
∑qi 2xi
2 − yi2 − zi
2( )2
= q22 R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− 2 − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ 2 − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− 2 R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= 0
� �
� � ,
� �
� � ,
� � �
� �
� �
から,
� �
と表されます。位置 r で単位電荷が受けるポテンシャルは,
� �
� � �
�
� � �
�
� ,
Qyy =i=1
M
∑qi 3yi
2 − ri2( )
2=
i=1
M
∑qi −xi
2 + 2yi2 − zi
2( )2
= q2
− R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ 2 R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− 2 R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ 2 − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− 2 − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= 0
Qzz =i=1
M
∑qi 3zi
2 − ri2( )
2=
i=1
M
∑qi −xi
2 − yi2 + 2zi
2( )2
= q2
− R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= 0
Qxy =Qyx =i=1
M
∑ 3qixiyi2
= 3q2
R2⋅ R2− − R
2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟R2+ − R
2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟ − R
2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟ −
R2
− R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
⎡⎣⎢
⎤⎦⎥= 3qR
2
2
Qyz =Qzy =i=1
M
∑ 3qiyizi2
= 0
Qzx =Qzx =i=1
M
∑ 3qixizi2
= 0
Q =
Qxx Qxy Qxz
Qyx Qyy Qyz
Qzx Qzy Qzz
⎛
⎝
⎜⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟⎟
=0 3qR2 / 2 0
3qR2 / 2 0 00 0 0
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
VQ r( ) = q4πε0
1r − r1
− 1r − r2
+ 1r − r3
− 1r − r4
⎛
⎝⎜
⎞
⎠⎟
= q4πε0
r 2 − 2r ⋅r1 + r12( )−1/2⎡
⎣⎢− r2 − 2r ⋅r2 + r2
2( )−1/2 + r2 − 2r ⋅r3 + r32( )−1/2
− r 2 − 2r ⋅r4 + r42( )−1/2 ⎤⎦⎥
= q4πε0r
1−2r ⋅r1r 2
+r12
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
−1/2⎡
⎣⎢⎢
− 1− 2r ⋅r2r2
+ r22
r2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
−1/2
+ 1− 2r ⋅r3r2
+ r32
r2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
−1/2
− 1− 2r ⋅r4r2
+ r42
r2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
−1/2 ⎤
⎦⎥⎥
dd x
1− x( )−12
⎡
⎣⎢
⎤
⎦⎥ =121− x( )−
32
�
�
から,
�
�
だから,
� � �
�
�
�
� � �
� �
� �
�
�
d2
d x21− x( )−
12
⎡
⎣⎢
⎤
⎦⎥ =
dd x
121− x( )−
32
⎡
⎣⎢
⎤
⎦⎥ =341− x( )−
52
d3
d x31− x( )−
12
⎡
⎣⎢
⎤
⎦⎥ =
dd x
341− x( )−
52
⎡
⎣⎢
⎤
⎦⎥ =1581− x( )−
72
1− x( )−1/2 = 1+ 12 x +34x2
2+ 158x3
6+!
= 1+ x2+ 3x
2
8+ 5x
3
16+!
VQ r( )→ q4πε0r
1+ 122r ⋅r1r 2
−r12
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟+ 38
⎡
⎣⎢⎢
2r ⋅r1r 2
−r12
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
2
−1− 122r ⋅r2r 2
−r22
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟− 382r ⋅r2r 2
−r22
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
2
+1+ 122r ⋅r3r 2
−r32
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟+ 382r ⋅r3r 2
−r32
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
2
−1− 122r ⋅r3r 2
−r32
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟− 382r ⋅r3r 2
−r32
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
2 ⎤
⎦⎥⎥
→ q4πε0r
1+r ⋅r1r 2
−r12
2r 2+3 r ⋅r1( )22r 4
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
⎧⎨⎪
⎩⎪− 1+ r ⋅r2
r2− r2
2
2r2+3 r ⋅r2( )22r4
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
+ 1+ r ⋅r3r2
− r32
2r2+3 r ⋅r3( )22r4
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥− 1+ r ⋅ r3
r2− r3
2
2r2+3 r ⋅ r3( )22r4
⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
⎫⎬⎪
⎭⎪
= q4πε0r
r ⋅ r1 − r2 + r3 − r4( )r 2
−r12 − r2
2 + r32 − r4
2
2r 2+3 r ⋅r1( )2 − r ⋅r2( )2 + r ⋅r3( )2 − r ⋅r4( )2⎡⎣⎢
⎤⎦⎥
2r 4
⎧
⎨⎪
⎩⎪
⎫
⎬⎪
⎭⎪
=↑
r1+r3=r2+r4=0
r12=r2
2=r32=r4
2
q4πε0r
⋅3 r ⋅r1( )2 − r ⋅r2( )2 + r ⋅r3( )2 − r ⋅r4( )2⎡⎣⎢
⎤⎦⎥
2r 4
= 3q8πε0r
5
xR2
+ yR2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− − xR2
+ yR2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ − xR2
− yR2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− xR2
− yR2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥
� �
� �
と予想されます。
一方で,原点に四極子 � を置いたとき,位置 r で単位電荷の受けるポテンシャルは,
� � � (6.3.4)
と書くことができます。Fig. 6.3.1 の配置の例では
� � � � � � �
� � � �
� � � � � �
となって,配置された点電荷のクーロンポテンシャルから計算された値
� �
と一致することが確認できます。
�
= 3q8πε0r
5 ⋅R2 2 x + y( )2 − 2 −x + y( )2⎡
⎣⎢⎤⎦⎥
4= qR2
4πε0r5 ⋅3xy
VQ r( ) = qR2
4πε0r5 ⋅3xy
Q
VQ r( ) = 14πε0
⋅ 1r5 β=x ,y ,z
∑α=x ,y ,z∑ Qαβαβ
VQ r( ) = 14πε0
⋅rtQrr5
= 14πε0r
5 x y z( )Qxx Qxy Qxz
Qyx Qyy Qyz
Qzx Qzy Qzz
⎛
⎝
⎜⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟⎟
xyz
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
= 14πε0r
5 x y z( )0 3qR2 / 2 0
3qR2 / 2 0 00 0 0
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
xyz
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
= 14πε0r
5 x y z( )3qR2y / 23qR2x / 2
0
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟= 14πε0r
5 ⋅3qR2xy = qR2
4πε0r5 ⋅3xy
VQ r( ) = qR2
4πε0r5 ⋅3xy
+q+q
−q
−q
R / 2
−R / 2
R / 2
−R / 2
Fig. 6.3.2 正負の電荷の正方形型の配置(その2)
Fig. 6.3.2 のように正電荷 +q を � , � におき,負電荷 –q を
� , � におく場合,
� �
�
�
�
�
だから,
� �
�
�
�
一方で,
r1 =R / 200
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟r3 =
−R / 200
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
r2 =0
R / 20
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟r4 =
0−R / 20
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
VQ r( ) = q4πε0
1r − r1
− 1r − r2
+ 1r − r3
− 1r − r4
⎛
⎝⎜
⎞
⎠⎟
= q4πε0
r 2 − 2r ⋅r1 + r12( )−1/2 − r 2 − 2r ⋅r2 + r22( )−1/2 + r 2 − 2r ⋅r3 + r32( )−1/2 − r 2 − 2r ⋅r4 + r42( )−1/2⎡
⎣⎢⎤⎦⎥
= q4πε0r
1−2r ⋅r1r 2
+r12
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
−1/2
− 1−2r ⋅r2r 2
+r22
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
−1/2
+ 1−2r ⋅r3r 2
+r32
r 2⎛
⎝⎜⎞
⎠⎟
−1/2⎡
⎣⎢⎢
− 1− 2r ⋅r4r2
+ r42
r2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
−1/2 ⎤
⎦⎥⎥
1− x( )−1/2 = 1+ 12 x +38x2 +!
→ q4πε0r
r ⋅ r1 − r2 + r3 − r4( )r 2
−r12 − r2
2 + r32 − r4
2
2r 2+3 r ⋅r1( )2 − r ⋅r2( )2 + r ⋅r3( )2 − r ⋅r4( )2⎡⎣⎢
⎤⎦⎥
2r 4
⎧
⎨⎪
⎩⎪
⎫
⎬⎪
⎭⎪
=↑
r1+r3=r2+r4=0
r12=r2
2=r32=r4
2
q4πε0r
⋅3 r ⋅r1( )2 − r ⋅r2( )2 + r ⋅r3( )2 − r ⋅r4( )2⎡⎣⎢
⎤⎦⎥
2r 4
=↑
r1=R/ 2
00
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟, r2=
0R/ 2
0
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟, r3=
−R/ 200
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟, r4=
0−R/ 20
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
q4πε0r
⋅3 2 xR / 2( )2 − 2 yR / 2( )2⎡⎣⎢
⎤⎦⎥
2r 4
= qR2
4πε0r5 ⋅3 x2 − y2( )
2
� とすれば,
� �
� � ,
� �
� � ,
� �
� � ,
� � �
� �
� �
つまり,
� �
となります。一方で,原点に四極子 Q を置いたとき,位置 r で単位電荷が受けるポテンシャルが,
� � �
と書けるとすると,
Qαβ =i=1
M
∑qi 3α iβi − ri
2δαβ( )2
Qxx =i=1
4
∑qi 3xi
2 − ri2( )
2=
i=1
4
∑qi 2xi
2 − yi2 − zi
2( )2
= q22 R
2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ 2 − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= 3qR
2
2
Qyy =i=1
4
∑qi 3yi
2 − ri2( )
2=
i=1
4
∑qi −xi
2 + 2yi2 − zi
2( )2
= q2
− R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− 2 R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− 2 − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= − 3qR
2
2
Qzz =i=1
4
∑qi 3zi
2 − ri2( )
2=
i=1
4
∑qi −xi
2 − yi2 + 2zi
2( )2
= q2
− R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
− − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2
+ − R2
⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
2⎡
⎣⎢⎢
⎤
⎦⎥⎥= 0
Qxy = Qyx =i=1
M
∑ 3qixi yi2
= 3q2
R2⋅0− 0 ⋅ R
2+ − R
2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟⋅0− 0 ⋅ − R
2⎛⎝⎜
⎞⎠⎟
⎡
⎣⎢
⎤
⎦⎥ = 0
Qyz = Qzy =i=1
M
∑ 3qi yizi2
= 0
Qzx = Qxz =i=1
M
∑ 3qizixi2
= 0
Q =
Qxx Qxy QxzQyx Qyy QyzQzx Qzy Qzz
⎛
⎝
⎜⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟⎟
=3qR2 / 2 0 00 −3qR2 / 2 00 0 0
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
VQ r( ) = 14πε0
⋅rtQrr5
� � � � � � �
� � � �
� � � � � �
となって,やはり配置された点電荷のクーロンポテンシャルから計算された値
� �
と一致することが確認できます。
6-4 八極子,十六極子,…によるポテンシャル Potential generated by octupole, hexadecapole, etc
八極子あるいは八重極 octupole は,「絶対値が等しく異符号の電荷を小さい立方体の頂点に交互にならべたもの」と考えることができます。八極モーメントは3階のテンソル(� )で表されます。十六極子 hexadecapole のモーメントは4階のテンソル(� )で表されます。さらに三十二極子,六十四極子,…と極の数を増やすこともできます。
塩化水素 HCl,水 H2O,アンモニア NH3 などの分子は,有限の大きさの双極子モーメントを持ち,大学の入学試験で普通「極性分子」と扱われます。二酸化炭素 CO2 の分子は双極子モーメントは持ちませんが,四極子モーメントは持つので,「極性がない」わけではありません。メタン CH4 や四塩化炭素 CCl4 の分子は四極子モーメントもゼロですが,八極子モーメントは有限なのでこれらも「極性がない」わけではありません。
ただし,モーメントが多極になればなるほど,その作るポテンシャルや電場の強さは「距離の増大に伴って急激に減衰する」傾向が強くなります。Table 6.4.1,6.4.2 に多極子の間に働く静電ポテンシャルと静電(クーロン)力が距離の何乗に比例するかを示します。
VQ r( ) = 14πε0
⋅rtQrr5
= 14πε0r
5 x y z( )Qxx Qxy Qxz
Qyx Qyy Qyz
Qzx Qzy Qzz
⎛
⎝
⎜⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟⎟
xyz
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
= 14πε0r
5 x y z( )3qR2 / 2 0 00 −3qR2 / 2 00 0 0
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
xyz
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟
= 14πε0r
5 x y z( )3qR2x / 2−3qR2 y / 2
0
⎛
⎝
⎜⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟⎟= 14πε0r
5 ⋅3qR2 x2 − y2( )
2= qR2
4πε0r5 ⋅3 x2 − y2( )
2
VQ r( ) = q4πε0r
⋅3 x2 − y2( )R2
2r 4
3 × 3 × 33 × 3 × 3 × 3
Table 6.4.1 多極子間の静電ポテンシャルの距離 r 依存性
Table 6.4.2 多極子間に働く静電(クーロン)力の距離 r 依存性
6-5 永久双極子と誘起双極子,分散相互作用 Permanent dipole, induced dipole and dispersion interaction
塩化水素 HCl,水 H2O,アンモニア NH3 などの分子は,電場がゼロの環境でも有限の大きさの双極子モーメントを持ちます。このような分極を自発分極あるいは永久双極子と呼びます。
永久双極子を持たない分子であっても,貴ガス(18 族元素)の一つの原子であったとしても,電場の中に置かれれば誘電分極が起こり,双極子が現れます。これを誘起双極子と呼びます。分極の大きさは電場の強さに比例します。
「永久双極子の作る電場の強さ」は「点電荷が永久双極子から受ける力の強さ」と同じことです。Table 6.4.2 から,これは距離の –3 乗に比例することがわかります。したがって,永久双極子の作る電場による誘起双極子モーメントの強さも距離の –3 乗に比例します。双極子と双極子の間に働く静電ポテンシャルは距離の –3 乗に比例し,静電力は距離の –4
乘に比例します。
結果として,「永久双極子と誘起双極子の間に働く静電ポテンシャルは距離の –6 乗に比例し,静電力は距離の –7 乗に比例する」ことになります。
仮に原子を「原子核の周囲を電子が軌道運動しているもの」とみなしてよければ,「時間平均をとれば分極していない」としても,「瞬間的には常に分極を持つ」ことになります。
点電荷 双極子 四極子 八極子
点電荷 ∝ r–1 ∝ r–2 ∝ r–3 ∝ r–4
双極子 ∝ r–2 ∝ r–3 ∝ r–4 ∝ r–5
四極子 ∝ r–3 ∝ r–4 ∝ r–5 ∝ r–6
八極子 ∝ r–4 ∝ r–5 ∝ r–6 ∝ r–7
点電荷 双極子 四極子 八極子
点電荷 ∝ r–2 ∝ r–3 ∝ r–4 ∝ r–5
双極子 ∝ r–3 ∝ r–4 ∝ r–5 ∝ r–6
四極子 ∝ r–4 ∝ r–5 ∝ r–6 ∝ r–7
八極子 ∝ r–5 ∝ r–6 ∝ r–7 ∝ r–8
中性分子・原子の間にも「『永久双極子と誘起双極子の間に働く静電ポテンシャル・静電力』に相当する力」「距離の –7 乗に比例するファンデルワールス力(分散力)」あるいは「双極子-双極子分散相互作用」が働くはずという考え方は,このことに由来します。
また,「永久四極子と誘起双極子」または「永久双極子と誘起四極子」の組み合わせの場合,「距離の –9 乗に比例する分散力」が導かれます。これを「双極子-四極子(四重極子)分散相互作用」と呼びます。