【7】 散剤の調製に関するヒヤリ・ハット...合 計 57(100.0%) 5,399(100.0%)...
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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【7】 散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
はじめに
散剤は、経口投与する粉末状の製剤である。
散剤の利点として、投与量を個々の患者に合わせて細かく設定できる、錠剤やカプセル剤が内服で
きない乳幼児や嚥下が困難な高齢者が内服可能である、などがある。
その一方で、散剤の調剤にあたっては、錠剤やカプセル剤とは異なり、処方せんから製剤量表示ま
たは有効成分量記載の判断・確認、散剤を混合する際には散剤同士の配合変化の有無、自動分包機へ
の入力などの操作、分包した医薬品への異物等の混入の確認など、確認や実施すべき事項が多い。
本事業においても、製剤量表示または有効成分量記載の判断間違いの事例や、自動分包機の操作間
違いにより生じた分包間違いの事例等、散剤特有のヒヤリ・ハット事例が報告されている。
そこで総合評価部会において、散剤の処方では秤量時のヒヤリ・ハット事例や分包時のヒヤリ・
ハット事例など、様々な種類のヒヤリ・ハット事例が報告されていることから、本年報において分析
テーマとして取り上げることが承認された。本年報では、散剤の調製に関するヒヤリ・ハット事例に
ついて、報告された医薬品名や薬効と報告件数などの分析を行った。
1)報告件数
報告された事例の中から散剤の調製に関する事例を抽出するため、2014年1月1日~12
月31日に報告されたヒヤリ・ハット事例の事例収集項目のうち「事例の内容」で「秤量間違い」
「分包間違い」「分包紙の情報間違い」が選択され、さらに「処方された医薬品」「間違えた医薬品」「関
連医薬品」に入力された医薬品名に、「散」「顆粒」「細粒」「ドライシロップ又は DS」「原末」が選
択されていた事例、または、事例収集項目の「事例の内容」「背景・要因」「改善策」で散剤が関連す
ると読み取ることができる事例を検索したところ、57件であった。これを散剤の調製に関する事例
とした。
図表7-1 報告件数
報告件数
ヒヤリ・ハット事例 5,399(100.0%)
散剤の調製に関する事例 57 (1.1%)
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2)患者の年齢
冒頭に記述したように、散剤は、錠剤やカプセル剤が内服できない乳幼児や、嚥下が困難な高齢者
などが内服することが多い。そこで、散剤の調製に関する事例を「患者の年齢」別に集計した。
図表7-2 患者の年齢
患者の年齢 件数 (参考)ヒヤリ・ハット事例
0~ 10歳 22 (38.6%) 419 (7.8%)
11~ 20歳 1 (1.8%) 174 (3.2%)
21~ 30歳 2 (3.5%) 168 (3.1%)
31~ 40歳 2 (3.5%) 273 (5.1%)
41~ 50歳 4 (7.0%) 388 (7.2%)
51~ 60歳 4 (7.0%) 542 (10.0%)
61~ 70歳 6 (10.5%) 1,048 (19.4%)
71~ 80歳 7 (12.3%) 1,337 (24.8%)
81~ 90歳 5 (8.8%) 865 (16.0%)
91~100歳 4 (7.0%) 145 (2.7%)
101歳以上 0 (0.0%) 3 (0.1%)
複数人注 0 (0.0%) 37 (0.7%)
合 計 57(100.0%) 5,399(100.0%)
※ 割合については、小数点第2位を四捨五入したものであり、合計が100.0にならないことがある。注 「複数人」とは、患者Aと患者Bの薬を間違えて交付した事例など、1事例の中で2人以上の異なる患者に関係したヒヤリ・ハット事例で選択された事例である。
患者の年齢は、57件中「0~10歳」の患者であった事例が22件(38.6%)と最も多く、
次いで「71~80歳」が7件(12.3%)、「61~70歳」が6件(10.5%)、「81~90歳」
が5件(8.8%)などであった。このように、散剤の調製に関する事例の患者は、小児と高齢の患
者が多かった。
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3)散剤の調製に関する事例の内容
(1)事例の内容
散剤の調製に関する事例57件について、「事例の内容」別に集計した。
図表7-3 散剤の調製に関する事例の報告内訳
事例の内容 件数
秤量間違い 24 (42.1%)
分包間違い 25 (43.9%)
分包紙の情報間違い 8 (14.0%)
合 計 57(100.0%)
「事例の内容」別に分類すると、「分包間違い」が25件と最も多く、次いで「秤量間違い」が24件、
「分包紙の情報間違い」が8件であった。
(2)散剤の調製に関する事例の実施の有無、治療の程度
散剤の調製に関する事例の「事例の内容」別の内訳を「実施の有無」とともに示す。
図表7-4 実施の有無、治療の程度
(単位:件)
事例の内容散剤の調製に関する事例
(参考)調剤に関するヒヤリ・ハット事例
実施あり 実施なし 合計 実施あり 実施なし 合計
秤量間違い 11 13 24 11 15 26
分包間違い 17 8 25 78 42 120
分包紙の情報間違い 5 3 8 23 10 33
合 計 33 24 57 112 67 179
医薬品の交付の有無を示す実施の有無で分類すると、「実施あり」が選択されていた事例は33件
/57件(57.9%)、「実施なし」が選択されていた事例は24件/57件(42.1%)であった。
散剤の調製に関する事例のうち「実施あり」が選択されていた事例の割合は、調剤に関するヒヤリ・
ハット事例全体のうち、「実施あり」とされた事例の112件/179件(62.6%)と比較して
やや少なかった。
また、特に「分包紙の情報間違い」についてみると、「実施あり」が選択されていた事例は5件
/8件(62.5%)であり、調剤に関するヒヤリ・ハット事例全体の「分包紙の情報間違い」のうち、
「実施あり」とされた事例の23件/33件(69.7%)と比較してやや少なかった。
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(3)散剤の調製に関する事例の発生要因
散剤の調製に関する事例について、発生要因を集計した。
図表7-5 発生要因及び選択件数
(単位:件)
発生要因事例の内容
合計秤量間違い 分包間違い
分包紙の情報間違い
確認を怠った 22 23 8 53
報告が遅れた(怠った) 0 0 0 0
記録などに不備があった 0 0 0 0
連携ができていなかった 0 1 1 2
患者への説明が不十分であった(怠った) 0 0 0 0
判断を誤った 4 2 0 6
知識が不足していた 3 4 0 7
技術・手技が未熟だった 4 2 2 8
勤務状況が繁忙だった 6 6 2 14
通常とは異なる身体的条件下にあった 0 1 0 1
通常とは異なる心理的条件下にあった 3 1 1 5
その他(ヒューマンファクター) 3 2 1 6
コンピュータシステム 1 1 1 3
医薬品 2 2 0 4
施設・設備 2 3 1 6
諸物品 1 0 0 1
患者側 0 0 1 1
その他(環境・設備機器) 1 0 0 1
教育・訓練 1 1 1 3
仕組み 0 0 0 0
ルールの不備 3 3 1 7
その他 0 0 0 0
合 計 56 52 20 128
※ 「発生要因」は複数回答が可能であるため、選択件数は事例数(57件)と一致しない。
発生件数としては、「確認を怠った」が53件と最も多く、散剤の調製に関する事例57件のう
ち93.0%と大半の事例で発生要因として選択されていた。次いで「勤務状況が繁忙だった」が
14件/57件(24.6%)と多かった。
また、事例の内容をみると、「秤量間違い」「分包間違い」のそれぞれに関する発生要因は、散剤
の調製に関する事例全体と同様の傾向であった。「分包紙の情報間違い」の発生要因は、「確認を怠っ
た」が最も多く、その他の発生要因はそれぞれ1~2件であった。
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4)散剤の秤量間違いに関する事例の分析
(1)散剤の秤量間違いに関する事例の医薬品名と報告回数
散剤の秤量間違いに関する事例について、「処方された医薬品」の医薬品名、主な薬効、報告回
数を整理して図表7- 6に示す。
図表7-6 散剤の秤量間違いに関する事例で報告された医薬品名、主な薬効、報告回数※
医薬品名 主な薬効 報告回数
ムコダインDS50% 去たん剤 4
ビオチン散0.2%「フソー」 その他のビタミン剤 2
ミヤBM細粒 止しゃ剤,整腸剤 2
アスパラカリウム散50% 無機質製剤 1
アスベリン散10% 鎮咳去たん剤 1
エビリファイ散1%(ハイリスク薬)
精神神経用剤 1
エリスロシンW顆粒20%主としてグラム陽性菌,マイコプラズマに作用するもの
1
クラビット細粒10% 合成抗菌剤 1
グラマリール細粒10% その他の中枢神経系用薬 1
酸化マグネシウム原末「マルイシ」 制酸剤 1
ジゴシン散0.1%(ハイリスク薬)
強心剤 1
セルベックス細粒10% 消化性潰瘍用剤 1
セレニカR顆粒40% (ハイリスク薬)
抗てんかん剤 1
セレネース細粒1%(ハイリスク薬)
精神神経用剤 1
タミフルドライシロップ3% 抗ウイルス剤 1
テルギンGドライシロップ0.1% 抗ヒスタミン剤 1
ノックビン原末 習慣性中毒用剤 1
パンテチン散20%「テバ」 ビタミンB剤(ビタミンB1剤を除く。) 1
パントシン散20% ビタミンB剤(ビタミンB1剤を除く。) 1
ヒルナミン細粒10%(ハイリスク薬)
精神神経用剤 1
ムコダイン細粒50% 去たん剤 1
メイアクトMS小児用細粒10% 主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの 1
ワイドシリン細粒200 主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの 1※ 「処方された医薬品」に入力された医薬品名は複数入力することが可能であるため、報告回数の合計(28回)は事例の件数(24件)と異なる。
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散剤の秤量間違いに関する事例において、報告された「処方された医薬品」の医薬品名をみる
と、ムコダインDS50%の報告回数が4回と最も多く、次いでビオチン散0.2%「フソー」、
ミヤBM細粒がそれぞれ2回報告されており、その他の医薬品は1回ずつ報告されていた。
また、ハイリスク薬を主な薬効別に示すと、「精神神経用剤」が3回、「強心剤」「抗てんかん剤」
がそれぞれ1回ずつ報告されていた。
(2)散剤の秤量間違いに関する事例の紹介
散剤の秤量間違いに関する事例24件について、報告された事例に記述されている内容を分析し
たところ、計量器が関連した事例が2件、計量器が関連していない事例が22件であった。散剤の
秤量間違いに関する事例のうち、主な事例を背景、要因を含めて次に紹介する。
医薬品名 実施の有無 事例の内容等
○計量器が関連した事例
【事例1】
○処方された医薬品メイアクトMS小児用細粒10%アスベリン散10%テルギンGドライシロップ0.1%
実施なし (事例の内容)調剤を行う時に、5日分であるべきところ、4日分で量った。鑑査の段階で包数と全量が合っていない事によりわかった。(背景・要因)計量器が前回調剤分の内容を記憶するタイプのため、4日分で表示された量で量り、内容のみ確認しながら調剤を進め、日数の確認をしなかった。(改善策)計量器の表示をうのみにせず、再度全て入力を行い、入力内容を確認をしてから調剤を行う。
【事例2】
○処方された医薬品ノックビン原末
実施なし (事例の内容)散剤を量り取る時点で、秤の単位が間違っており、処方量よりも多く量り取った。(背景・要因)未記載(改善策)秤の単位を確認する。調剤後の重量を確認する。
○計量器が関連していない事例
【事例3】
○処方された医薬品パンテチン散20%「テバ」 酸 化マグネシウム原末「マルイシ」
実施あり (事例の内容)普段28日処方が多かったため、14日分のところを28日分で計量した。(背景・要因)未記載(改善策)未記載
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医薬品名 実施の有無 事例の内容等
【事例4】
○処方された医薬品エビリファイ散1%
実施あり (事例の内容)エビリファイ散を計量するときに総量1.05gとなるところを見間違えて10.5g計量し分包を行った。(背景・要因)電卓を用いて総量を計算したが、混雑していたため間違った。(改善策)計算を行うときに1日量×日数、日数×1日量と行い、g数に間違いがないか確認する。
【事例5】
○処方された医薬品クラビット細粒10%
実施なし (事例の内容)処方せんには「クラビット細粒10% 250mg/(2.5g)包 1.5包 朝食後 17日分」と記載されていたが、調剤時に1.5包を1.5gと勘違いして秤量した。鑑査時に63.75g秤量しなければならないところ、25.5gで秤量・分包していることに気付いた。(背景・要因)経験上、抗生剤の細粒は用量をg(グラム)表記されているものと思い込んでいた。また少し混み合っていたため、きちんと処方せんを見ていなかった。(改善策)未記載
【事例6】
○処方された医薬品ムコダイン細粒50%注1
実施なし (事例の内容)「ムコダイン細粒50% 1500mg 分3 毎食後 14日分」が処方された。1500mgを力価ではなく、製剤量と考え、1.5g 分3で分包した。鑑査時に間違いに気付き、正しい量で渡した。(背景・要因)あまり来ない医療機関からの処方せんで、処方せんに明記されている量が力価なのか製剤量なのか不明確だった。用量から力価とわかるが、調剤者の思いこみで製剤量と勘違いした。(改善策)力価と製剤量のどちらで処方されているか必ず確認する。
注1 本分析執筆時点で販売終了となっている。(2015年3月31日にて経過措置期間満了)
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(3)実施せずに済んだ理由
ヒヤリ・ハット事例では、件数は少ないが、何らかの仕組みや個人の知識、注意が機能して、誤っ
た医薬品を交付せずに済んだ理由が記載されている事例がある。図表7- 4(298頁)で示した
ように、散剤の秤量間違いのうち、「実施なし」の事例は13件であった。そのうち、実施せずに
済んだ理由が記載されていた事例は6件であった。その理由を整理し、図表7- 7に示す。
図表7-7 実施せずに済んだ理由
実施せずに済んだ理由 件数
鑑査で発見した 5 (83.3%)
調剤者が調剤途中に間違いに気付いた 1 (16.7%)
合 計 6(100.0%)
実施せずに済んだ理由が記載されていた事例6件中、鑑査で発見した事例が5件(83.3%)、
調剤者が調剤途中に間違いに気付いた事例が1件(16.7%)であった。
(4)「共有すべき事例」で取り上げた散剤の秤量間違いに関する事例
本事業で提供している「共有すべき事例」1)に散剤の秤量間違いに関する事例が公表されている
ので、改めて紹介する。
共有すべき事例(事例番号 :000000022462)2012年1月
事例の概要等
(事例の内容)「フェノバール散10%1g、90日分」で秤量すべきところ、「0 .5g、90日分」で秤量した。(背景・要因)処方せんを発行した病院が当日より処方せんの書き方を変更した。1回分と1日分は括弧書きで両方の併用表記になった。これまでは1日分表記だったので、1回分を1日分と勘違いした。(薬局が考えた改善策)未記載
事例のポイント
●処方せんの記載方法が変更された時は、より一層の注意が必要である。● 2011年9月に日本薬剤師会、及び日本病院薬剤師会が取りまとめた「標準用法用語集(第一版)」が公開され、1回量による処方を前提とした標準用法マスタが発表された。
● 今後、そのマスタを利用することにより、1回量処方の処方せんが登場し始めるため、初めて対応する時など慎重に処方せんを読まなければ、ヒヤリ・ハットが増加する可能性がある。
(参考:日本薬剤師会、日本病院薬剤師会「標準用法用語集(第一版)」 http://www.nichiyaku.or.jp/press/wp-content/uploads/2011/09/pr_110929.pdf)
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共有すべき事例(事例番号 :000000021233)2011年11月
事例の概要等
(事例の内容)秤量計に秤量紙を乗せ、ゼロ点補正を行った後、フェノバール散10%を72g、アンナカ「ヨシダ」を9g量るべきところを、ゼロ点補正を行わなかったため、秤量値に秤量紙2g×2回(合計4g)分の誤差が生じた。そのため、フェノバール散10%を70g、アンナカ「ヨシダ」を7gしか量らなかったことになった。(背景・要因)夕方近くに処方が来て、散剤の調剤を行わなければいけないということもあり、患者を待たせないように急いで薬剤を秤量しようとして、ゼロ点補正の確認を怠ったことが原因であると考えられる。(薬局が考えた改善策)散剤の秤量を行う時は、必ずゼロ点補正を行う。
事例のポイント
●天秤の水平調整、ゼロ点調整は、始業時と秤量時に行うべきである。● また、秤量時のゼロ点調整は秤量前と秤量後に行い、ゼロ点を確認してから薬を秤量し、秤取した薬を乳鉢等に移し、秤量紙を天秤に戻した際にも、ゼロ点を確認することが必要である。
● 多くの薬局では、薬包紙や秤量皿を使用しており、秤量する薬品の量によって異なるため、秤量毎のゼロ点調整は必須であり、業務手順書にも明記すべき事項である。
● 秤量の誤りについては鑑査時に発見することも可能であるが、1日量ごとの重量鑑査では薬品量が少量の場合は誤差の範囲に入ることも考えられる。そのような場合、全量鑑査を行うことで秤量の誤りを発見することができる。
●重量鑑査等の鑑査の手順についても業務手順書に明記し、遵守する必要がある。
(5)薬局から報告された主な改善策
薬局から報告された改善策のうち、主なものを整理して次に示す。
(ⅰ)業務手順
○調剤と鑑査はシフトに関係なく別の薬剤師が行う。
○ 計量調剤においては、実習生、薬剤師にかかわらず、秤量前に秤取量の計算結果を、鑑査
者以外の第三者に確認してもらうこととした。
○散剤の重量チェックを必ず行う。
○力価と製剤量のどちらで処方されているか必ず確認する。
(ⅱ)調剤時の確認事項
○ 計算を行うときに1日量×日数、日数×1日量と行い、g(グラム)数に間違いがない
か確認する。
○秤量するg(グラム)数を記載し、間違えないように秤量する。
○調剤後に重量を確認する。
(ⅲ)鑑査時の確認事項
○調剤時のメモを鑑査者が確認する。
○鑑査者自らが計算し調剤者の計算結果が正しいか確認する。
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5)散剤の分包間違いに関する事例の分析
(1)散剤の分包間違いに関する事例の医薬品名と報告回数
散剤の分包間違いに関する事例で報告された医薬品名、主な薬効、報告回数を整理して図表
7- 8に示す。
図表7-8 散剤の分包間違いに関する事例で報告された医薬品名、主な薬効、報告回数※
医薬品名 主な薬効 報告回数
クラリスドライシロップ10%小児用主としてグラム陽性菌,マイコプラズマに作用するもの
2
クラリスロマイシンDS小児用10%「タカタ」
主としてグラム陽性菌,マイコプラズマに作用するもの 2
メプチンドライシロップ0.005% 気管支拡張剤 2
アズクレニンS配合顆粒 消化性潰瘍用剤 1
アスパラカリウム散50% 無機質製剤 1
アレジオンドライシロップ1% その他のアレルギー用薬 1
アローゼン顆粒 下剤,浣腸剤 1
エクセグラン散20%(ハイリスク薬) 精神神経用剤 1
グリマック配合顆粒 消化性潰瘍用剤 1
酸化マグネシウム「NP」原末 制酸剤 1
重質酸化マグネシウム「ケンエー」 制酸剤 1
セレニカR顆粒40%(ハイリスク薬) 抗てんかん剤 1
ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) 漢方製剤 1
ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用) 漢方製剤 1
テグレトール細粒50%(ハイリスク薬) 抗てんかん剤 1
テルギンGドライシロップ0.1% 抗ヒスタミン剤 1
ドグマチール細粒10% 消化性潰瘍用剤 1
乳糖水和物「ケンエー」 賦形剤 1
バルプラム徐放顆粒40%(ハイリスク薬) 抗てんかん剤 1
パントシン散20% ビタミンB剤(ビタミンB1剤を除く。) 1
フェノバール散10% 催眠鎮静剤,抗不安剤 1
プルスマリンAドライシロップ小児用1.5% 去たん剤 1
ミヤBM細粒 止しゃ剤,整腸剤 1
ムコサールドライシロップ1.5% 去たん剤 1
ラックビーR散 止しゃ剤,整腸剤 1
レキシン50%細粒(ハイリスク薬) 抗てんかん剤 1
ワイドシリン細粒200 主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの 1
※「関連医薬品」に入力された医薬品名は複数入力することが可能であるため、報告回数の合計(30回)は事例の件数(25件)と異なる。
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散剤の分包間違いに関する事例において、報告された「関連医薬品」の医薬品名をみると、
クラリスドライシロップ10%小児用、クラリスロマイシンDS小児用10%「タカタ」、
メプチンドライシロップ0.005%がそれぞれ2回報告されており、その他の医薬品は1回ずつ
報告されていた。
また、ハイリスク薬を主な薬効別に示すと、「抗てんかん剤」が4回、「精神神経用剤」が
1回報告されていた。
(2)散剤の分包間違いに関する事例の内容
散剤の分包間違いに関する事例25件について、報告された事例に記述されている内容を分析し
た結果を図表7- 9に示す。
図表7-9 散剤の分包間違いに関する事例の内容
散剤の分包間違いに関する事例の内容 件数
包数の設定を間違えて分包した事例 18 (72.0%)
分包忘れの事例 2 (8.0%)
機械の誤作動により分包未実施となった事例 1 (4.0%)
空包が発生した事例 1 (4.0%)
錠剤と散剤をまとめて一包化するところ別々に分包した事例 1 (4.0%)
重量鑑査を怠ったため重量の誤差が発生したことに気付かず交付した事例 1 (4.0%)
異なるRpをまとめて分包するところRpごとに分包した事例 1 (4.0%)
合 計 25(100.0%)
包数の設定を間違えて分包した事例が18件/25件(72.0%)であり、大半を占めた。また、
包数の設定を間違えて分包した事例の大半が、用法を誤って認識したために包数の設定を間違えて
分包した事例であった。
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(3)散剤の分包間違いに関する事例の紹介
散剤の分包間違いに関する事例のうち、主な事例を背景、要因を含めて次に紹介する。
医薬品名 実施の有無 事例の内容等
○包数の設定を間違えて分包した事例
【事例1】
○関連医薬品ワイドシリン細粒200ラックビーR散
実施あり (事例の内容)ワイドシリン細粒200とラックビーR散の混合処方であり、1日3回のところを1日2回で分包した。鑑査、交付時も用法の違いに気付かなかった。交付後すぐに間違いに気付き、処方医へ連絡したところ、1日2回でも問題ないとのことで、そのまま2回で服用してもらうことになり、患者に連絡した。その日はお昼に服用したとの事だったので、夜の分は寝る前に服用し、次の日から朝、夕で1日2回服用するように説明した。(背景・要因)普段は1日2回で処方される病院だったが、代診の医師だったため用法が違っていた。(改善策)処方せん監査を徹底し、特に代診時などは注意するよう声がけを行う。
【事例2】
○関連医薬品フェノバール散10%
実施あり (事例の内容)フェノバール散10% 0.4g 分2 90日分の処方のうち、80日分は正しく調剤されたが、10日分を間違えて0.2g分2 20日分で調剤した。(背景・要因)90日分を20日分ずつ4回に分け分包した。残り10日分を20包で分包するところ、20日分(40包)で分包した。鑑査者も気付かず薬袋の中に入れた。患者が薬を受け取りに来た時、交付者も薬袋の日数を確認せず、患者に渡した。(改善策)散剤鑑査システムを使用していたが、記録用紙は残してなかった。今後は必ず、記録用紙は処方せんに貼り付ける。後で薬を取りに来る患者の薬は、調剤者、鑑査者、最後に薬袋に入れて確認する者の3名の印を押した後でなければ交付できないようにする。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
Ⅲ
【6】
【7】
【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【2】
【3】
【4】
【5】
【1】
医薬品名 実施の有無 事例の内容等
○分包忘れの事例
【事例3】
○関連医薬品アズクレニンS配合顆粒
実施なし (事例の内容)アズクレニンS配合顆粒、ピーマーゲン配合散、アムロジピン、アトルバスタチンが処方された。錠剤と散剤を全て一緒に一包化するところ、アズクレニンS配合顆粒のみ分包し忘れた。(背景・要因)新人薬剤師が当該患者の一包化を初めて行った。薬歴の頭書きに錠剤と散剤を全て一包化する旨は記述してあったが、確認不足により起こった間違いである。(改善策)一包化する際は必ず薬歴等の内容について確認を行う。
○重量鑑査を怠ったため重量の誤差が発生したことに気付かず交付した事例
【事例4】
○関連医薬品テグレトール細粒50%
実施あり (事例の内容)テグレトール細粒50% 90日分の処方を45日分ずつ分包した。最初の45日分は、1日分ずつの重量鑑査を行った。後の45日分は重量鑑査を怠って交付した。交付後に重量に誤差があることがわかった。(背景・要因)未記載(改善策)未記載
(4)実施せずに済んだ理由
ヒヤリ・ハット事例では、件数は少ないが、何らかの仕組みや個人の知識、注意が機能して、誤っ
た医薬品を交付せずに済んだ理由が記載されている事例がある。図表7- 4(298頁)で示した
ように、散剤の分包間違いの事例のうち、「実施なし」の事例は8件であった。そのうち、実施せ
ずに済んだ理由が記載されていた事例は5件であった。5件全例が鑑査で発見した事例であった。
(5)「共有すべき事例」で取り上げた散剤の分包間違いに関する事例
本事業で提供している「共有すべき事例」に、散剤の分包間違いに関する事例が取り上げられて
いるので紹介する。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
Ⅲ
【6】
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【1】
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【4】
【5】
共有すべき事例(事例番号 :000000015369)2011年2月
事例の概要等
(事例の内容)「メイアクトMS小児用細粒10%、3g、毎食後」で調剤するところを朝夕食後で分包、交付した。患者から連絡があり、間違いに気付いた。薬を正しく調剤し直し、間違えた薬と交換した。(背景・要因)当該医療機関ではメイアクトMS小児用細粒10%がほとんどの場合、朝夕食後で処方されおり、毎食後で処方されることがあまりなかった。当該医療機関に確認したところ、メイアクトMS小児用細粒10%の1日量が3gの時は、毎食後で処方するとのことであった。(薬局が考えた改善策)気をつけて調剤する。
事例のポイント
● 日頃応需している処方内容を確認することなく、そのまま調剤した事例である。処方せんを確実に確認することが重要である。
● また、このようなヒヤリ・ハットの内容は自分だけの情報としてとどめることなく、薬局内で共有し、「このような処方がありえる」と、お互いの知識向上につなぐことで、別のスタッフの事故防止にもつながる。
(6)薬局から報告された主な改善策
薬局から報告された改善策のうち、主なものを整理して次に示す。
(ⅰ)業務手順
○散剤鑑査システムに分包する包数を入力し、入力されている包数を含めて鑑査を行う。
○ 散剤鑑査システムを使用していたが記録用紙を残してなかったので、必ず記録用紙を処方
せんに貼り付ける。
○分包した医薬品が不均等になっていないか確認を徹底する。
(ⅱ)鑑査時の確認方法
○鑑査時に包数及び重量の確認を複数のスタッフで徹底して行う。
(ⅲ)分包紙の印字事項の追加
○ 分2の処方だが分1と勘違いしたため、今後は分包紙に用法も印字して確認項目を増やし、
間違いに気付く機会を増やす。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
Ⅲ
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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【1】
6)散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の分析
(1)散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の医薬品名と報告回数
散剤の分包紙の情報間違いに関する事例で報告された医薬品名、主な薬効、報告回数を整理して
図表7- 10に示す。
図表7-10 散剤の分包紙の情報間違いに関する事例で報告された医薬品名、主な薬効、報告回数
医薬品名 主な薬効 報告回数
ムコダインDS50% 去たん剤 2
ケトチフェンDS小児用0.1%「サワイ」 その他のアレルギー用薬 1
ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) 漢方製剤 1
ツムラ大柴胡湯エキス顆粒(医療用) 漢方製剤 1
メイラックス細粒1% 催眠鎮静剤,抗不安剤 1
ワイドシリン細粒200 主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの 1
散剤の分包紙の情報間違いに関する事例において、報告された「関連医薬品」の医薬品名をみる
と、ムコダインDS50%の報告回数が2回、その他の医薬品は1回ずつ報告されていた。ハイリ
スク薬の報告はなかった。
(2)散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の内容
散剤の分包紙の情報間違いに関する事例8件について、報告された事例に記述されている内容を
分析したところ、「患者の氏名の印字を間違えた事例」、「患者氏名を印字しない患者の分包紙に印
字した事例」、「医薬品名の印字を間違えた事例」、「用法の印字を間違えた事例」があった。それぞ
れの件数を図表7- 11に示す。
図表7-11 散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の内容
散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の内容 件数
患者の氏名の印字を間違えた事例 5 (62.5%)
患者氏名を印字しない患者の分包紙に印字した事例 1 (12.5%)
医薬品名の印字を間違えた事例 1 (12.5%)
用法の印字を間違えた事例 1 (12.5%)
合 計 8(100.0%)
患者の氏名の印字を間違えた事例が5件/8件(62.5%)と最も多かった。また、患者の氏名
に関する事例として、患者氏名を印字しない患者の分包紙に印字した事例も1件報告があった。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【6】
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【1】
【2】
【3】
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(3)患者の氏名の印字を間違えた事例における間違いの内容
散剤の分包紙の情報間違いに関する事例のうち、患者の氏名の印字を間違えた事例は5件であった。
それらの事例で印字を間違えた患者の情報が記載されていない事例もあったが、記載されていたも
のについて図表7- 12に示す。
図表7-12 患者の氏名の印字を間違えた事例における間違いの内容
間違えて印字した内容 件数
当該患者の兄弟の氏名 2 (66.7%)
当該患者の次に調剤する患者の氏名 1 (33.3%)
合 計 3(100.0%)
患者の氏名の印字を間違えた事例で、印字を間違えた患者の情報が記載されていたもののうち、
間違えて印字した氏名が当該患者の兄弟の氏名であった事例が2件/3件(66.7%)、当該患者
の次に調剤する患者の氏名であった事例が1件/3件(33.3%)であった。
(4)散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の紹介
散剤の分包紙の情報間違いに関する事例のうち、主な事例を背景、要因を含めて次に紹介する。
医薬品名 実施の有無 事例の内容等
○患者の氏名の印字を間違えた事例
【事例1】
○関連医薬品未記載
実施あり (事例の内容)粉薬の分包紙の氏名が間違っていたのを気が付かず、交付した。翌朝、患者の家族から医院に連絡があり、正しい氏名を印字し調剤し直して患者に届けた。(背景・要因)粉薬が続いていて、患者のIDが違っているのでそれを受付で確認している間に、次の人の名前を入力した。(改善策)必ずパソコン画面の氏名を確認してから調剤する。鑑査、交付時にも氏名を必ず確認する。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
Ⅲ
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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医薬品名 実施の有無 事例の内容等
【事例2】
○関連医薬品ムコダインDS50%
実施あり (事例の内容)兄弟二人分の処方が出た。どちらもムコダインDS50%が処方されていた。家族の希望で分包紙に名前を印字した。その後、家族より「弟の薬袋に兄の名前が印字されたムコダインDS50%が入っていた。しかし、入っている量が少ないので弟の分かもしれない。」と連絡があった。調剤した医薬品を患者家族が持ってきてくれたので、薬局で重量を確認した。用量は弟の量だと確認でき、薬袋、薬の種類、用量は間違っておらず、印字だけ間違えたと判断した。印字を間違えたムコダインDS50%を回収して、分包し直した。(背景・要因)兄弟で名前が似ていた。分包機に印字の入力をする時、兄弟の名前がリストで隣り合っていた。(改善策)「名前に注意!」と注意喚起の文を目につく場所に記載する。
○患者氏名を印字しない患者の分包紙に印字した事例
【事例3】
○関連医薬品メイラックス細粒1%
実施なし (事例の内容)分包紙に氏名を印字しない患者の散剤調剤において、氏名を印字して分包した。(背景・要因)レセプトコンピュータのシステムの全面的な入れ替え後の初日であり、いろいろ戸惑うことがあり、焦っていた。そのため、メモを見落とした。(改善策)落ちついて作業を行う。
○医薬品名の印字を間違えた事例
【事例4】
○関連医薬品ワイドシリン細粒200ケトチフェンDS小児用0.1%「サワイ」ムコダインDS50%
実施なし (事例の内容)ワイドシリン細粒200と印字しなければいけなかったところを、ケトチフェンDS小児用0.1%「サワイ」・ムコダインDS50%と印字した。鑑査で気付かなかったが、交付時に気付き、修正して渡した。(背景・要因)繁忙時で散薬の患者が多く、確認しなかった。(改善策)散薬が多い時は取違える可能性もあるため、印字確認を徹底する。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【1】
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【4】
【5】
医薬品名 実施の有無 事例の内容等
○用法の印字を間違えた事例
【事例5】
○関連医薬品ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) ツムラ大柴胡湯エキス顆粒(医療用)
実施なし (事例の内容)朝夕食前のところ昼夕食前で印字し、鑑査で間違いに気付いた。漢方の分包では昼夕食前で印字することがほとんどのため思い込みで印字した。(背景・要因)未記載(改善策)未記載
(5)実施せずに済んだ理由
ヒヤリ・ハット事例では、件数は少ないが、何らかの仕組みや個人の知識、注意が機能して、
誤った医薬品を交付せずに済んだ理由が記載されている事例がある。図表7- 4(298頁)で示
したように、散剤の分包紙の情報間違いに関する事例のうち、「実施なし」の事例は3件であった。
そのうち、実施せずに済んだ理由が記載されていた事例は2件であった。その理由を整理し、
図表7- 13に示す。
図表7-13 実施せずに済んだ理由
実施せずに済んだ理由 件数
鑑査で発見した 1 (50.0%)
交付時に、交付者本人が発見した 1 (50.0%)
合 計 2(100.0%)
実施せずに済んだ理由が記載されていた事例2件中、鑑査で発見した事例と、交付時に交付者
本人が発見した事例がそれぞれ1件ずつ報告されていた。
(6)薬局から報告された主な改善策
薬局から報告された改善策のうち、主なものを整理して次に示す。
(ⅰ)確認方法
○ 必ずパソコン画面で患者氏名を確認してから調剤する。鑑査、交付時にも氏名を必ず確認
する。
(ⅱ)調剤室内の表示について
○「患者の名前に注意!」と注意喚起の文を目につく場所に記載する。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
Ⅲ
【6】
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【2】
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【4】
【5】
【1】
【参考】他剤の混入や異物の混入に関する事例
本分析では、薬剤師が行う調剤の手技に着目して分析することとし、報告されたヒヤリ・ハッ
ト事例の事例収集項目のうち「事例の内容」で「秤量間違い」「分包間違い」「分包紙の情報間違い」
が選択されており、さらに「処方された医薬品」「間違えた医薬品」「関連医薬品」に入力された
医薬品名から、「散」「顆粒」「細粒」「ドライシロップ又はDS」「原末」が選択されていた事例、
または、事例収集項目の「事例の内容」「背景・要因」「改善策」で散剤が関連すると読み取るこ
とができる事例を対象としている。
一方で、事例収集項目のうち「事例の内容」で「その他」が選択された事例の中に、散剤の
調剤の過程で他剤が混入したり、異物が混入したりした事例が報告されているので、参考までに
それらの事例の中から主なものを背景、要因を含めて次に紹介する。
医薬品名 実施の有無 事例の内容等
○他剤混入
【事例1】
○関連医薬品ムコダインDS50%
実施なし (事例の内容)小児の散剤調剤をした薬剤師が、不自然な分包の誤差に気付いた。他の薬剤師に尋ねたところ、前の散剤調剤後、重曹で分包機を清掃したことがわかった。瓶の中の重曹に一部固まってしまったものがあり、分包機を清掃した際に分包機内に留まった重曹が今回の調剤薬とともに分包されたことがわかった。(背景・要因)固まったものは使用しないか、秤量時にスパーテルの背で粉々にしてから分包を行うことを基本としている。基本を省略した結果と考えられる。(改善策)調剤手技の基本は省略しない。秤量時に医薬品の状態をよく確認する。
【事例2】
○関連医薬品ザイザル錠5mg
実施あり (事例の内容)交付した白い散剤の中に、その直前に予製を作成していた白い錠剤0.5錠が混入していた。予製を確認したところ、薬が足りないことに気付き確認したところ、混入がわかった。患者は薬を飲んでおらず、交換した。(背景・要因)白い散剤、白い錠剤であり、鑑査時に見つけられなかった。(改善策)予製を作成する時に、錠数を確認しているため、不足であることを速やかに確認できた。今後も予製を作成する時に錠数を確認する。錠剤の予製を作成する時は、他剤と混入しないように、開局時間を避けて行う。他剤混入に注意して鑑査する。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【6】
【7】
【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【1】
【2】
【3】
【4】
【5】
医薬品名 実施の有無 事例の内容等
○異物混入
【事例3】
○関連医薬品フロモックス小児用細粒100mg
実施あり (事例の内容)小児科処方によるフロモックス小児用細粒100mgを調剤した。数日後に患者の家族から「一包だけ、何か白いものが混入している。」と電話があった。患者宅を訪問し、該当の物を調べたところ、秤量トレイのプラスチック片が混入したことがわかった。(背景・要因)プラスチック製の秤量トレイにヒビが入っていたが、軽微なものと考えて使い続けたため、分包時に破片が散剤と混じって落下した。秤量鑑査は重量鑑査と目視で異物の確認をしていたが、重量は許容範囲内であり、目視での確認で見落としがあった。(改善策)重量鑑査で微増が認められる際は、忙しくても普段以上に時間をかけて鑑査する。
7)医療事故情報収集等事業において報告された散剤の調製に関する事例や分析結果
本分析に関連した分析として、医療事故情報収集等事業 第24回報告書2)で「散剤の薬剤量間違
い」、第36回報告書3)で「薬剤の自動分包機に関連した医療事故」を分析テーマとして取り上げる
とともに、医療安全情報No. 9「製剤の総量と有効成分の量の間違い」4)を作成し、その内容を情報
提供している。そこで、(1)第36回報告書「薬剤の自動分包機に関連した医療事故」の分析の中
から散剤分包機に関連した事例と、(2)医療安全情報No. 9「製剤の総量と有効成分の量の間違い」
を紹介する。
(1)薬剤の自動分包機に関連した医療事故(第36回報告書分析テーマ)
(ⅰ)発生状況
自動分包機に関連した事例は、医療事故情報収集等事業を開始した2004年10月から
第36回報告書分析対象期間(2013年10月1日~12月31日)において6件の報告があった。
(ⅱ)事例概要
自動分包機に関連した事例6件のうち、散剤に関連する事例2件の概要を示す。
事例1【内容】アレビアチン散10% 1日250mg分3 朝・夕食後・眠前と、他に3種類の錠剤が14日
分処方された。薬剤師は全自動散剤分割分包機にてアレビアチン散10%を分包した。42包を
2包ずつのつづら折れとし、薬袋の中に入れて鑑査台に置いた。別の薬剤師が処方せんをもとに、
各薬袋の記載事項を鑑査しながら錠剤の個数や商品名をチェックした。散剤については分包数の
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【6】
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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【1】
確認、計量して全重量を確認後、患者へ処方薬を交付した。6日後、患者は朝の薬剤服用後から
呂律が回らなくなり歩行困難となったため本院救急外来へ救急搬送される。患者家族から1包当
たりの量が多いのではとの指摘があり、確認したところ残薬のうち1包の重量が予定重量(1包1.
38g)より軽く、残りの1包は2.00gと重かった。
【背景・要因】・耐用年数の過ぎた全自動散剤分割分包機の誤作動を起こした。
・鑑査時に全量鑑査を行ったが、1包ずつ目視する際に分割不均等を見逃した。
・患者は前夜かなり深酒しており、それがアレビアチンの中毒症状を増強した可能性がある。
事例2【内容】酸化マグネシウム、ラックビー微粒を調剤し、分包した。3日後、患者の親から「薬が苦く、
子供が飲まない」と電話連絡があった。患者から回収した散剤に苦味があることを薬剤師が確認
した。当該患者は当院を受診したが、特に異常は認められなかった。その後、患者に処方された
散剤を調剤した直前に、苦味のあるハイペン錠(粉砕)とアモバン錠(粉砕)が調剤されている
ことが分かった。製薬会社に患者に交付した散剤の確認を依頼したところ、ハイペン錠とアモバ
ン錠の成分が微量確認されたと報告があった。
【背景・要因】・ 機械設定時の注意事項として、取り扱い説明書に温度・湿度条件が記載されており、使用時に
おいて、静電気等により薬剤が付着し易い事の注意喚起がなされている。しかし、分包機の上下
ホッパー※部位は、本機械を含め他社の機械においても引き出さないと見えないため、外から
の目視では確認できない構造になっている。
・調剤後、分包機は吸引機による除去と、重曹を流し込むことによる除去で清掃を行っている。
・ 散剤分包機の製造販売業者から、「散薬分包機の使用環境の湿度が低いこと、それに伴う帯電
によるホッパー内での散剤の付着が考えられる」と回答があった。
※ ホッパー:自動分包機内に設置されている1回量の薬剤を分包紙に落としこむための漏斗状の器具。
(ⅲ)散剤分包機の事例の分析①事例の分類自動分包機に関連した事例6件を分類したところ、錠剤分包機の事例が4件、散剤分包機
の事例が2件であった。さらに散剤分包機の事例の内容を見ると、機械の誤作動による大きな
分包誤差」や、「静電気による付着に起因する過去に分包した薬剤の混入」など、機械に起因
する事例が報告されていた(図表7- 14)。自動分包機に関連した事例は、他に「自動分包
機への数量や薬剤名の入力間違い」、「異物(髪の毛、PTPシートのアルミ部分など)の混入」
なども考えられるが、医療事故情報収集等事業の報告事例にはなかった。
報告された事例はすべて、本来投与すべきではない薬剤や、医師が処方した用量と異なる
量の薬剤が患者に交付され、服用されている。このため自動分包機を用いて一包化された薬
剤についても、その過程の正確性や安全性を過信することなく、適切に鑑査する必要がある。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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図表7-14 事例の分類
分包機の種類 事例の分類 件数
散剤分包機機械の誤作動による大きな分包誤差 1
静電気による付着に起因する過去に分包した薬剤の混入 1
②誤って調剤した薬剤
散剤分包機に関連した事例について、医師が処方した薬剤と誤って調剤した薬剤を図表
7- 15に示す。医師が処方した薬剤と調剤した薬剤が同じ事例が1件、医師が処方した薬剤
に別の薬剤が混入した事例が1件であった。
また、太字で表記した「抗てんかん剤」はハイリスク薬であった。
図表7-15 医師が意図した薬剤と誤って調剤した薬剤
医師が処方した医薬品(主な薬効) 誤って調剤した医薬品(主な薬効)
アレビアチン散10%(抗てんかん剤)
アレビアチン散10%の分包誤差(抗てんかん剤)
酸化マグネシウム(制酸・緩下剤)、ラックビー微粒N(整腸剤)
過去に分包したハイペン錠(粉砕)(非ステロイド性鎮痛・抗炎症剤)、アモバン錠(粉砕)(催眠鎮静剤)が混入
③調剤の誤りに気付いた経緯
報告された事例の調剤の誤りに気付いた経緯を図表7- 16に示す。事例1、2は、
「1回分の量が多い」「薬が苦い」という患者の家族からの指摘で、誤った調剤に気付いている。
報告された事例はどちらも調剤鑑査時には誤った薬剤の混入に気付かれないまま患者に交付
されている。このことから調剤鑑査時、散剤は薬剤の不均等がないか、全ての包装について確
認が必要であることが示唆された。しかし事例2のように過去に分包した薬剤の混入は、明
らかに色の違う薬剤が混入した場合は気付くことができるかもしれないが、同色であれば調
剤鑑査で気付くのは難しい。
図表7-16 誤りに気付いた経緯
誤りに気付いた経緯
事例1薬剤服用後から呂律が回らなくなり歩行困難となったため救急搬送され、患者家族から「1包当たりの量が多いのでは」と指摘があった
事例2 患者の親から「患者が、薬が苦いと言っている」と連絡があった
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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【1】
④患者への影響
報告された事例の患者への影響を図表7- 17に示す。「事故の程度」は報告項目で選択さ
れていたものを記載し、「患者への影響」は、事例内のテキスト部分に記載されていた内容を
抽出して作成した。報告された2件の事例は、本来投与すべき薬剤とは違う薬剤や、違う用
量の薬剤が患者に渡り、患者が内服するに至っているが、「事故の程度」においては患者への
影響は小さい。「患者への影響」では、影響が明確であったものは、事例1の「呂律が回らな
くなり歩行困難となった」であった。
図表7-17 患者への影響
事故の程度(選択項目) 患者への影響(事例内記載内容)
事例1 障害残存の可能性なし 呂律が回らなくなり歩行困難となった
事例2 障害残存の可能性がある(低い) 患者に影響はないと判断
(ⅳ)事例が発生した医療機関の改善策について
事例が発生した医療機関の改善策を整理し、次に示す。
①機械の誤作動による大きな分包誤差の事例の改善策
○ 機械の正確な動作を確認するため、散剤分包機の点検マニュアルを作成し、毎日及び毎月
の点検項目や分包の精度管理を充実させる。
○ 散剤の分包数が多いときは半分に切り分け、両者に重量差が無いことを確認し、分割が
偏っていないことをチェックする。
○散剤の分包を1包ずつ目視鑑査する際には十分に注意深く行う。
○誤作動を起こした分包機を廃棄し、新しい機械を導入した。
②静電気による前薬の混入の事例の改善策
○再発防止策として、ホッパー部位の材質を金属性に変えた。
○ 臨床の現場では、微量の薬剤の混入であっても薬物アレルギーがある患者に投薬されれ
ば重篤な有害事象を生じるため、使用環境および清掃などの使用上の注意喚起が必要で
ある。
(ⅴ)専門分析班及び総合評価部会における議論
医療機関からの報告事例に記載されていた改善策以外に、専門分析班や総合評価部会におい
て、特に議論された内容を次に示す。
○散剤の鑑査時は、必要に応じて1日分、1回分の重量鑑査を行ってはいかがか。
○ 医療機関内で使用している散剤の自動分包機の特性、設置してある環境を考慮したうえで
使用することが望ましい。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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【5】
(2)医療安全情報No. 9について
医療安全情報No. 9「製剤の総量と有効成分の量の間違い」を図表7- 18に紹介する。
図表7-18 医療安全情報No. 9「製剤の総量と有効成分の量の間違い」
8)考察
(1)散剤の調製に関する事例の件数
○ 2014年に報告された散剤の調製に関する事例件数は57件であった。2014年に報告さ
れたヒヤリ・ハット事例全体の報告件数は5,399件に占める割合は1.1%と少なかった。
(2)散剤の調製に関する事例の患者の年齢
○ 散剤の調製に関する事例について患者の年齢をみると、57件中「0~10歳」の患者であっ
た事例が22件(38.6%)と最も多く、次いで「71~80歳」が7件(12.3%)、「61
~70歳」が6件(10.5%)、「81~90歳」が5件(8.8%)などであった。散剤は、
錠剤やカプセル剤が内服できない乳幼児や、嚥下が困難な高齢者などが内服することが多いた
め、ヒヤリ・ハット事例も多く報告されたと考えられる。
(3)散剤の調製に関する事例の内容
(ⅰ)事例の内容
○ 散剤の調製に関する事例について「事例の内容」をみると、「分包間違い」が25件と最も
多く、次いで「秤量間違い」が24件、「分包紙の情報間違い」が8件であった。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【7】
【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【2】
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【5】
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(ⅱ)散剤の調製に関する事例の内容と実施の有無
○ 実施の有無をみると、患者に医薬品を交付したことを示す「実施あり」が33件/57件
(57.9%)、「実施なし」が24件/57件(42.1%)であり、「実施あり」の割合が
多かった。調剤に関するヒヤリ・ハット事例全体では、「実施あり」が112件/179件
(62.6%)であり、比較すると散剤の調製に関する事例では 「実施あり 」の割合がやや
少なかった。
○ 特に「分包紙の情報間違い」について実施の有無をみると、「実施あり」が選択されていた
事例は5件/8件(62.5%)、「実施なし」が選択されていた事例は3件/8件(37.5%)
であった。調剤に関するヒヤリ・ハット事例全体の「分包紙の情報間違い」では、「実施あり」
が23件/33件(69.7%)であり、比較すると散剤の調製に関する事例では 「実施あ
り 」の割合がやや少なかった。
(ⅲ)発生要因
○ 散剤の調製に関する事例でヒヤリ・ハットが生じた発生要因は、「確認を怠った」が大半の
事例で選択されており、次いで「勤務状況が繁忙だった」が多かった。
○ 散剤の調剤は錠剤やカプセル剤などの計数調剤と比較して、一般に長い調剤時間を要し業
務も複雑となっている。そのため、一般的な繁忙さに加え、更に繁忙となる性質を有する
ことから、「勤務状況が繁忙だった」という発生要因が挙げられている可能性がある。
(4)散剤の秤量間違いに関する事例
(ⅰ)散剤の秤量間違いに関する事例の医薬品名と報告回数
○ 散剤の秤量間違いに関する事例の中で報告された「処方された医薬品」の医薬品名をみ
ると、ムコダインDS50%の報告回数が4回と最も多く、次いでビオチン散0.2%
フソー、ミヤBM細粒がそれぞれ2回報告されており、その他の多くの医薬品は1回ずつ
報告されていた。
○ 報告された医薬品のうち、ハイリスク薬の主な薬効は、「精神神経用剤」が3回、「抗てん
かん剤」「強心剤」がそれぞれ1回であった。
(ⅱ)散剤の秤量間違いに関する事例の内容
○ 散剤の秤量間違いに関する事例について分析したところ、計量器に関連した事例が2件、
計量器が関連していない事例が22件であった。計量器が関連していない事例には、「包」
と「g(グラム)」を勘違いしたために秤量間違いが発生した事例や、製剤量表示と有効成
分(力価)表示を勘違いしたために秤量間違いが発生した事例の報告などがあった。処方
内容から量り取る量を確認することや、特に単位や表示を確認することの重要性が示唆さ
れた。
(ⅲ)実施せずに済んだ理由
○ 散剤の秤量間違いに関する事例のうち、「実施なし」の事例は13件であった。そのうち実施
せずに済んだ理由が記載されていた事例は6件であった。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
Ⅲ
【6】
【7】
【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
【1】
【2】
【3】
【4】
【5】
○ 実施せずに済んだ理由を整理したところ、鑑査で発見した事例が5件であった。複数人が
関与し、確実に鑑査を行ってから医薬品を交付することの重要性が示唆された。
(ⅳ)薬局から報告された主な改善策
○ 報告された改善策には、業務手順の改善や、調剤時や鑑査時の確認方法の改善などがあった。
秤取量の計算を間違えた事例では、秤量前に秤取量の計算結果を鑑査者以外の第三者に確認
してもらう、鑑査者自らが計算し調剤者の計算結果が正しいか確認する、などの報告があっ
た。
(5)散剤の分包間違いに関する事例
(ⅰ)散剤の分包間違いに関する事例の医薬品名と報告回数
○ 散剤の分包間違いに関する事例の中で報告された医薬品名をみると、クラリスドライシロップ
10%小児用、クラリスロマイシンDS小児用10%「タカタ」、メプチンドライシロップ
0.005%がそれぞれ2回ずつ、その他の医薬品は1回ずつ報告されており、特に報告回
数の多い医薬品はなく、様々な医薬品が報告されていた。
○ 報告された医薬品のうち、ハイリスク薬の主な薬効は、「抗てんかん剤」が4回、「精神神
経用剤」が1回であった。
(ⅱ)散剤の分包間違いに関する事例の内容
○ 散剤の分包間違いに関する事例について分析したところ、包数の設定を間違えて分包した
事例が18件/25件(72.0%)であり、大半を占めた。また、包数の設定を間違えて
分包した事例の大半が、用法を誤って認識したために包数の設定を間違えて分包した事例
であった。散剤を分包する際には、分包する包数を確認することの重要性が示唆された。
(ⅲ)実施せずに済んだ理由
○ 散剤の分包間違いに関する事例のうち、「実施なし」の事例は8件であった。そのうち実施
せずに済んだ理由が記載されていた事例は5件であった。
○ 実施せずに済んだ理由を整理したところ、全例が鑑査で発見した事例であった。複数人が
関与し、確実に鑑査を行ってから医薬品を交付することの重要性が示唆された。
(ⅳ)薬局から報告された主な改善策
○ 報告された改善策には、業務手順の改善や鑑査時の確認方法の改善などがあった。また、
「分2の処方だが分1と勘違いしたため、今後は分包紙に用法も印字して確認項目を増やし、
間違いに気付く機会を増やす。」といった、分包紙の印字情報を見直す改善策の報告もあっ
た。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【7】
【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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【3】
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【5】
【1】
(6)散剤の分包紙の情報間違いに関する事例
(ⅰ)散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の医薬品名と報告回数
○ 散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の中で報告された医薬品名をみると、ムコダイン
DS50%の報告回数が2回、その他の医薬品は1回ずつ報告されていた。ハイリスク薬
の報告はなかった。
(ⅱ)散剤の分包紙の情報間違いに関する事例の内容
○ 散剤の分包紙の情報間違いに関する事例について分析したところ、患者の氏名の印字を間
違えた事例が5件/8件(62.5%)と最も多かった。そのうち、間違えた患者の情報が
記載されている事例は3件あり、間違えて印字した氏名が当該患者の兄弟の氏名であった
事例が2件/3件(66.7%)、当該患者の次に調剤する患者の氏名であった事例が1件
/3件(33.3%)であった。
(ⅲ)薬局から報告された主な改善策
○ 報告された改善策には、分包する前に必ずパソコン画面で患者氏名を確認するといった調
剤時の確認方法の改善や、薬局内に患者の氏名に気をつける旨の注意喚起をするといった
表示に関する改善策の報告があった。
(7)医療事故情報収集等事業において報告された散剤の調製に関する事例や分析結果
○ 医療事故情報収集等事業において報告された散剤の調製に関する事例や分析結果として、「薬
剤の自動分包機に関連した医療事故」(第36回報告書分析テーマ)を紹介した。
○ 報告された2事例の内容は、「機械の誤作動による大きな分包誤差」「静電気による付着に起因
する過去に分包した薬剤の混入」であった。
○ また、医療事故情報収集等事業の医療安全情報No.9「製剤の総量と有効成分の量の間違い」
も紹介した。
○ 薬局において発生、発見するエラーを確実に把握し、エラーを解消することにより防止できる
具体的な医療事故のイメージを得るために有用な内容と考えられるため、薬局の研修会や勉強
会などの場で活用をお願いしたい。
9)まとめ
散剤の調製に関するヒヤリ・ハット事例の集計、分析を行った。
その中で、「患者の年齢」「事例の内容」「実施の有無」「発生要因」について集計し、特に「調剤」の
「秤量間違い」「分包間違い」「分包紙の情報間違い」の事例について詳細に分析した。
「発生要因」では、「確認を怠った」が最も多く選択されていた。しかし、「秤量間違い」では計量
器が正しく作動しているかの確認不足、「分包間違い」では包数の設定の認識不足、「分包紙の情報間
違い」では印字する患者の氏名の確認不足など、事例の内容ごとに内容が異なっていた。また、改善
策も事例の内容ごとに異なっていた。本分析において示された結果を、調剤業務上の重要なポイント
として、手順や確認などに活用していただきたい。
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Ⅲ 薬局ヒヤリ・ハット事例の分析薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 平成26年年報
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【8】散剤の調製に関するヒヤリ・ハット
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参考資料
1)公益財団法人日本医療機能評価機構 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業.“共有すべき事例”.
http://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/contents/sharing_case/index. pdf(参照 2015-5-29).
http://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/year_report_2010.pdf(参照 2015-5-29).
2)公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業 . 第24回報告書.2011-3-29.
http://www.med-safe.jp/pdf/report_24.pdf(参照 2015-5-29).
3)公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業 . 第36回報告書.20141-3-26.
http://www.med-safe.jp/pdf/report_36.pdf(参照 2015-5-29).
4)公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業 . 医療安全情報 No.9「製剤
の総量と有効成分の量の間違い」2007-8.
http://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_9.pdf(参照 2015-5-29).