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糖鎖は、いわゆるタンパク質の翻訳後修飾として、リン酸化に劣らない重要な反応である。事実、からだの中にこれまで同定されている、凡そ10万のタンパク質の50%以上には糖鎖が付加されている。糖鎖の付加は、糖転移酵素によりおこなわれ、それらをコードする糖転移酵素遺伝子(糖鎖遺伝子)は、ヒトの全遺伝子のほぼ1%にあたる。これまで、およそ250程度の糖鎖遺伝子の構造があきらかになっている。糖鎖は、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカン、GPIアンカーなどに広く存在し、それらの生命機能を解明する研究領域が糖鎖生物学である。本領域は我が国が国際的にもリードする研究を行っていることは、衆目の一致するところである。実に、糖鎖遺伝子の60%以上が、我が国の研究者により世界に先駆けて分離同定されている。これは、我が国の先達が地道に積み上げてきた糖質化学の実績に基づいて、生化学的に糖転移酵素を単離精製したうえで遺伝子のクローニングをしたことや、バイオインフォーマティクスを駆使してゲノムに埋もれた糖鎖遺伝子を網羅的にクローニングしたことにより得られた成果である。また、最近の質量分析、NMR、高速液体クロマトグラフィーなどの著しい進歩により、従来は複雑で難解と遠ざけられてきた糖鎖の構造解析が、微量サンプルで比較的容易に分析可能になってきたことも、研究の進展に拍車をかけている。糖鎖は、細胞と細胞の間のコミュニケーショ

ンをとる場で重要な役割を果たしている。この証拠に、発生、分化、再生、受精、免疫、増殖といった基本的な生命現象におけるシグナル伝達やタンパク質の品質管理などに糖鎖が深く関わっていることが、最近の研究で次々と明らかになっている糖鎖の機能解明のみならず、ヒトの疾患にお

ける糖鎖の役割を解明することは、まさに核酸、蛋白質分子を先頭に新たな展開を開始したポストゲノム研究の重要な課題である。感染症におけるウイルスや細菌やそれらが産生する毒素と宿主の相互作用、糖尿病や肺気腫など生活習慣病の発症機構、わが国で発見された福山型筋ジ

ストロフィーなどの先天性糖鎖不全症、腎臓病、自己免疫疾患、がん転移等の多種多様な病態における糖鎖の重要性が明らかになっている。一方で、基礎研究としては、糖鎖遺伝子発現

調節機構の解明や、KOマウスなどによる糖鎖遺伝子が標的とするタンパク質の同定が引き続きおこなわれている。また、応用面では、肝がんのAFPなどに代表される、蛋白情報に糖鎖情報の付加価値を加えたがんの診断マーカーの実用化や、糖鎖を改変することにより力値を著しく高めたがんの抗体医薬の実用化などの成果がある。これまでの研究は、どちらかというと糖鎖の

役割を個別に把握してきたいわば“スナップショット”の研究が多かったが、今後は、糖鎖の役割を動的に眺め、システムとして理解する、いわばムービーを撮影するシステム糖鎖生物学的なアプローチが重要となっている。そのためには、ケミカルバイオロジーを始めとする他分野との融合的な研究を盛んにする必要がある。本カンファレンスでは、これらの点も重視し、

また若い次世代を担う人材の方々にもなるべく講演の機会を増やす努力をした。国際的に第一級の専門家が一堂に会する機会を持つことは、糖鎖研究のみならず、ポストゲノム研究にとってその波及効果並びに意義は極めて大きいものがある。

2010年7月

組織委員谷口直之 大阪大学産業科学研究科寄附研究部門 教授

理化学研究所基幹研究所グループディレクター(組織委員長)

鈴木明身 東海大学 糖鎖科学研究所 所長成松 久 産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター長遠藤玉夫 東京都健康長寿医療センター研究所 研究部長本家孝一 高知大学医学部生化学講座 教授

顧  問永井克孝 東京大学 名誉教授(財団理事)岩永貞昭 九州大学 名誉教授(財団評議員)

内藤コンファレンス・研究テーマ趣意書

糖鎖の発現と制御[Ⅰ]Glycan Expression and Regulation[Ⅰ]:Functions and disease mechanisms

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セッションA(8:45~11:45)

1 “Medical application of lectin microarray: a powerful technology for differential glycanprofiling” 産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター 平林  淳

2 “Functions of glycoconjugates in the membrane microdomains in development”高知大学 医学部 本家 孝一

3 “Sulfated glycan function in development: from Drosophila to ES cells”創価大学 工学部 西原 祥子

4 “Role of HNK-1 glyco-epitope in spine morphogenesis”京都大学大学院 医学研究科 岡  昌吾

5 “Kidney failure and early postnatal death in CMP-sialic acid synthetase mutant mice”Hannover Medical School, Germany Rita Gerardy-Schahn

Development and Regeneration 座長:本家 孝一, Rita Gerardy-Schahn

第1日 2010年7月 27日(火)

第2日 2010年7月 28日(水)

セッションB(14:00~17:00)

Immunoglycobiology and Membrane Receptors 座長:鈴木 明身, James Paulson

1 “Sulfated carbohydrate ligands for selectins and siglecs”愛知県がんセンター研究所 分子病態学部 神奈木玲児

2 “Importance of chondroitin sulfate chains during development”神戸薬科大学 生化学研究室 北川 裕之

3 “Hydroxylation of glycosphingolipids and membrane functions”東海大学 糖鎖科学研究所 鈴木 明身

4 “Control of infectious diseases by functional modulation of B lymphocyte lectins”東京医科歯科大学大学院 疾患生命科学研究部 鍔田 武志

5 “Potential for targeting siglecs for treatment of leukemia and autoimmune diseases”The Scripps Research Institute, USA James Paulson〈ショートトーク・セッション[B]〉17:00~17:30〈ポスター・セッション[Ⅰ]〉 19:00~21:00

〈ショートトーク・セッション[A]〉11:45~12:15

開会挨拶 大阪大学 産業科学研究所 谷口 直之

開 会 講 演(17:00~17:30)

“Proteoglycans mediate transport of high molecular weight cargo at the cell surface”University of California, San Diego, USA Jeffrey Esko

開 会 講 演(17:30~18:00)

“Extensive crosstalk between GlcN acylation and phosphorylation:Nutrient/stress regulation oftranscription and signaling” Johns Hopkins University School of Medicine, USA Gerald Hart

神奈木玲児 James Paulson北川 裕之 鈴木 明身 鍔田 武志

Jeffrey Esko Gerald Hart 平林  淳 本家 孝一 西原 祥子 岡  昌吾 Rita Gerardy-Schahn

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2“Importance of N-glycans for integrin function”

東北薬科大学 分子生体膜研究所 顧  建国

1“Applying glycoproteomics to cancer research: development of potential cancer diagnostics and therapeutics” University of Georgia, USA Michael Pierce

3“Fucosylation and human diseases”

大阪大学大学院 医学系研究科 三善 英知

4“Glycohepato Test: translation to the clinical laboratory setting”

VIB, Belgium Nico Callewaert

5“Development of glyco-biomarkers for liver fibrosis, and liver cancers and others using newly developedtechnologies for glycomics” 産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター 成松  久

1“An Emerging congenital disorder of glycosylation target: Dolichol”

Sanford-Burnham Medical Research Institute, USA Hudson Freeze

2“Co-evolution of NXS/T sites, N-glycan branching and regulation of metabolism”

University of Toronto, Canada James Dennis

3“Roles of N-glycan branchings in disease”

大阪大学 産業科学研究所 谷口 直之

4“Galactose/Calcium-type lectins in inflammation and immunity”

東京大学大学院 薬学系研究科 入村 達郎

5“Role of sulfatide in influenza A virus infection”

静岡県立大学 薬学部 鈴木  隆

セッションC(8:45~11:45)

第3日 2010年7月29日(木)

Biomarker Discovery 座長:成松 久, Michael Pierce

セッションD(14:00~17:00)

〈ショートトーク・セッション[D]〉17:00~17:30

〈ポスター・セッション[Ⅱ]〉 19:00~21:00

Glycans in Diseases[Ⅰ]座長:谷口 直之, James Dennis

〈ショートトーク・セッション[C]〉11:45~12:15

Michael Pierce 成松  久顧  建国 三善 英知 Nico Callewaert

Hudson Freeze 鈴木  隆James Dennis 谷口 直之 入村 達郎

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セッションE(8:30~11:30)

第4日 2010年7月30日(金)

Glycans in Diseases[Ⅱ] 座長:遠藤 玉夫, Robert Haltiwanger

1“Axonal regeneration and proteoglycans”

名古屋大学大学院 医学系研究科 門松 健治

2“Protein O-mannosylation and its pathological role”

東京都健康長寿医療センター研究所 遠藤 玉夫

3“Investigating the role of LARGE in dystroglycan glycosylation”

University of Nottingham, UK Jane Hewitt

4“Biosynthesis and deficiencies of GPI-anchored proteins”

大阪大学 微生物病研究所 木下タロウ

5“Role of O-Fucose in signaling and development”

Stony Brook University, USA Robert Haltiwanger

〈ショートトーク・セッション[E]〉11:30~12:00

閉会挨拶 東海大学 糖鎖科学研究所 鈴木 明身

門松 健治 Robert Haltiwanger遠藤 玉夫 Jane Hewitt 木下タロウ

第28回 内藤コンファレンス参加者(2010年7月、湘南国際村センター)

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と

制御[I]-機能から病態まで-」は、平成

22年7月27日から30日まで湘南国際村セン

ターで組織委員、谷口直之、鈴木明身、成松

久、遠藤玉夫、本家孝一により開催された。本

コンファレンスでは、糖鎖の発現と制御機構か

ら見た糖鎖の機能の解明、さらには病気との関

わりを明らかにするため、国内外の国際的にこ

の領域をリードする研究者を招いた。折りしも

本会議の前後に第25回国際糖質シンポジウム

が幕張メッセで、また第7回国際糖転移酵素学

会(GlycoT)が両国のホテルで開催され、内

容こそ異なったが、本会議も含めて多くの優れ

た研究者がわが国に集結したのは幸いであり、

まさに糖鎖研究旬間の感があった。

さて、糖鎖は第3の生命鎖として、DNA/

RNA、タンパク質の研究だけでは理解のでき

ない多くの生命現象にかかわっている。細胞間

の情報伝達、細胞と細胞外タンパク質との情報

交換、細胞外からの受容体を介した情報伝達、

糖鎖を介した遺伝子制御など、生命活動にとっ

て大きな役割を担っている。さらに、ウイルス

や細菌および細菌毒素などが糖鎖認識すること

により成立する感染症での役割、癌の転移にか

かわる糖鎖の役割、糖鎖遺伝子の異常により発

症する30種以上に及ぶ先天性糖鎖不全症や筋

ジストロフィー、アルツハイマー病や統合失調

症、2型糖尿病、慢性閉塞性肺疾患などにおけ

る糖鎖異常など、多くの病気とも関わっている。

実用面では、糖鎖の変化を利用した癌のバイオ

マーカーが知られている。また癌や炎症性疾患、

貧血などに用いられているいわゆるタンパク製

剤のほとんどは糖タンパク質であり、糖鎖を改

変することにより、薬剤の血中半減期や病巣へ

の到達度を高める技術がすでに実用化されてい

る。また抗体治療では、IgG1のFc部分に結合

した糖鎖を改変することにより、癌細胞を傷害

する活性が100倍も上昇する。また、最も糖鎖

のかかわる薬剤はインフルエンザの治療薬で、

周知のリレンザやタミフルはNeuraminidaseの

阻害剤であることは周知の事実である。さらに

糖鎖ワクチンなどの開発も進められている。

これらの多くの研究の成果がある一方で、い

まだに、なぜ糖鎖が臓器や、細胞特異的に発現

するのかという機構は不明であり、まだまだ未

知の機能が隠されている。またこのような多面

的な機能を明らかにしていくためには、システ

ム糖鎖生物学としての発展が期待されている。

それは、これまで多くの研究者が見てきた現象

がともすると、Snapshotを見ていた可能性があ

り、よりDynamicな把握が必要となっているか

らである。その意味でも、本コンファレンスの

テーマは古くてまた新しいものでもあった。

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「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

大阪大学産業科学研究所寄附研究部門 教授

理化学研究所基幹研究所システム糖鎖生物学研究 グループディレクター

組織委員長 谷口 直之

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

シンポジウムの要約ここでは口頭発表を中心に要約を述べる。ポ

スター発表にも多くの注目すべき発表があった

が、紙面の都合でここでは省略させていただく。

なお、以下敬称は略させていただく。

Opening LectureJeffery Esko(University of California, San

Diego)は、プロテオグリカンの受容体としての

役割について、これまでの長年の研究成果を報

告した。ヘパラン硫酸プロテオグリカンは細胞

表面に存在し、プロテオグリカンのコアタンパ

クに結合したリガンドやヘパラン硫酸鎖に結合

したリガンドの受容体として機能し、受容体も

リガンドも細胞に取り込まれ、リソソームで両

者とも分解される。彼らは以前に、肝臓のヘパ

ラン硫酸の集合体に変化がおこると、食事性や

肝臓由来のlipoproteinに由来するいわゆるレム

ナントlipoproteinのクリアランスが低下するた

め、血漿のtriglycerideが蓄積する遺伝的な証

拠を見出している。最近、肝細胞の基底膜にあ

るプロテオグリカンのひとつであるsyndecan-1

がLDL受容体ファミリーと並行あるいは独立し

て、triglyceride rich lipoproteinなどのレムナ

ントlipoproteinのクリアランスに寄与している

ことを明らかにした。さらに、lipoproteinとの

結合は、グルコサミンの6位の硫酸化とは無関

係で、グルコサミンのN-硫酸化とウロン酸の2

位の硫酸化による。つまりN-deacetylase/N-

sulfotransferase-1やheparan sulfate-2 O-sulfo-

transferaseにより、syndecan-1のヘパラン硫酸

鎖が硫酸化されることが、triglyceride rich

lipoproteinなどの結合やエンドサイトーシスに

重要である。その後細胞内に取り込まれたヘパ

ラン硫酸プロテオグリカンはリソソームで分解

されるが、ヘパラン硫酸は非還元末端から順次

にexoglycosidaseで分解される。これらの酵素

の欠損でMucopolysaccharidosisがおこり、リ

ソソームにヘパラン硫酸の断片が蓄積する。一

方、リガンドと結合したプロテオグリカンの取

り込み機構をうまく利用することにより、細胞

内への生体高分子化合物の取り込みが可能にな

る。欠損している酵素を細胞内に取り込ませる

ことにより治療に応用する酵素補充療法などが

可能になる。その例として陽性荷電をもったポ

リグアニジル化した抗生物質ネオマイシンを分

子輸送体として作成し、陰性荷電をもつヘパラ

ン硫酸に選択的に結合させることにより、

fibroblastへの欠損酵素導入が可能であること

を明らかにした。

Gerald Hart(Johns Hopkins University

School of Medicine)は、今最も糖鎖生物学で

ホットな話題であるO-GlcNAcの発見者である。

O-GlcNAcは、細胞内や核に局在するタンパク質

のSer/Thrに結合し、非常に多くのタンパク

質がこの糖修飾を受けており、これに関する論

文数は膨大となっている。このGlcNAcylation

は細胞のシグナル伝達、転写制御、そして細胞

の代謝過程など生命現象のあらゆるプロセスに

係わっている。そしてリン酸化はこれと同一の

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

部位を競合したり、別個に存在したりする。こ

のGlcNAcylationの部位を特定するためにリン

酸化の部位の同定に匹敵する感度の高い測定法

を開発した。すなわち、抗体でエンリッチして

Electron transfer dissociation (ETD)質量分

析法で同定する手法の開発に成功し、O-GlcN

Acylationとリン酸化が多くの部位で関連し、

グルコースセンサーやストレスセンサーのシグ

ナルとして機能していることを報告した。また、

ヒストンやリボゾームもO-GlcNAcylationで

epigneticな制御を受けていることを示した。

Session ADevelopment and Regeneration平林 淳(産業技術総合研究所)は、彼が開

発したレクチンマイクロアレイは細胞や糖タン

パク質から糖鎖を切り離すことなく、迅速簡便

に糖鎖構造情報を取得(プロファイリング)す

る技術であるが、特に、エバネッセント波励起

蛍光検出原理に基づくレクチンアレイシステム

を開発している。本会議では本技術の医療分野

への応用、特に細胞グライコームが種類(種、

組織)、状態(分化段階、悪性度)によって劇

的に変化するという糖鎖特有の現象を、再生医

療分野で用いられる各種幹細胞への適用につい

て紹介した。先ずモデル細胞系であるCHO、

及びそのLEC変異株を用いて解析系プロト

コールを確立し、次に各種組織から得たiPS細

胞のプロファイルがどのように変化するかを解

析した。得られた結果は本手法が糖鎖変化を系

統的に、かつ迅速、簡便、高感度に解析する上

で大変有効な方法であることを示した。

本家孝一(高知大学)は、硫酸化糖脂質の

セミノリピドの報告をした。この分子は、哺乳

動物の精子形成細胞に特異的に発現している。

セミノリピドの硫酸化セレブロシド硫酸転移酵

素(CST)によって触媒される。CSTノック

アウトマウスは、精巣におけるセミノリピドが

全く消失し、男性不妊になり、精子形成は第一

減数分裂中期までで停止していた。イムノグロ

ブリンスーパーファミリータンパク質のベイシ

ジンのノックアウトマウスも精子形成が第一減

数分裂中期までで停止していた。セミノリピド

とベイシジンの機能関連性を調べるために、セ

ミノリピドとベイシジンの相互作用について、

免疫組織化学と免疫沈降実験で解析し、両者が

精母細胞表面の膜マイクロドメインで協働して

いることを明らかにした。

西原祥子(創価大学)は、PAPS 輸送体

(PAPST)について報告をした。この輸送体は、

活性化された硫酸(PAPS)を硫酸化の場であ

るゴルジ体内腔へ運び込む輸送体であり、この

発現の制御により、硫酸化修飾を制御すること

ができる。彼女らはPAPST1とPAPST2を単

離・同定し、ショウジョウバエでRNAiにより

ノックダウンを行なった。両輸送体は、ヘパラ

ン硫酸の硫酸化を介してWnt、Hedgehogシグ

ナルに関与していた。さらに、マウスES細胞

でRNAiによるノックダウンを行なったとこ

ろ、ヘパラン硫酸の硫酸化が減少し、未分性の

低下と未分化性維持に関わるBMP、Wntシグ

ナルが低下した。胚様体分化では外胚葉分化、

さらには、ニューロンへの分化が促進された。こ

れらの結果は、硫酸化修飾がES細胞の維持と分

化に重要な役割を果たし、硫酸化の制御により

ES細胞の分化を制御できる可能性を示した。

岡 昌吾(京都大学)は、HNK-1糖鎖の報

告をした。この分子は神経系に特徴的に発現し、

神経可塑性の調節に重要な役割を担うことが知

られている。そこで、HNK-1糖鎖がどのよう

な分子機構で神経可塑性に関わっているのかを

明らかにする目的で研究を行った。その結果、

本糖鎖が樹状突起上の未熟なスパインから成熟

型スパインへの移行に重要であること。また、

スパイン形成を促すタンパク質が豊富に存在す

るPSD画分ではAMPA型グルタミン酸受容体

のサブユニットGluR2が主要なHNK-1糖鎖の

キャリアータンパク質であることを明らかにし

た。以上のことから、HNK-1糖鎖がグルタミ

ン酸受容体を介して神経可塑性に関わっている

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

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のではないかと結論づけた。

Rita Gerardy Schahn(Hannover Medical

School)は、UDP-GlcNAcからManNAc6Pへ

2段階の変換を触媒し、シアル酸合成の鍵酵素

でかつ二つの酵素活性を持つ GlcNAc 2

epimerase/ManNAc 6-kinase(GNE)の改変

マウスについて報告した。このGNEの点変異

は先天性封入体ミオパチー(HIBM)の発症に

関わることを示した。マウスモデルにより、

D176VとM712Tの変異体は特に重症な表現系

を示した。GNEのnull backgroundにひとつの

alleleのみD176Vを持つマウスはヒトの病態に

類似しており、M712Tのホモ欠損マウスは、

腎障害で新生時期に死亡する。また、両方の

マウスともに細胞内のシアル酸は低下しており、

シアル酸あるいは、その前駆体のManNAcを補

充することにより、回復可能である。また、

CMP-Sia合成酵素は核で重要な役割を果たして

いるが、この酵素の核移行シグナル(NLS)の

KRPRPをARPARとして欠損させたCss-nls マ

ウスは生後数日で、腎障害で死亡する。しかし

なお核への移行はみられ、臓器レベルでの全体

的なシアル酸化は正常マウスと差異はなかった

が、分子レベルでは、podocalyxinやnephrin

のシアル酸化が低下しており、この場合には

ManNAcの補充では回復できなかった。この

ように、CMP-Siaの細胞内レベルが腎臓の糸球

体のろ過に重要な役割を果たしており、先天性

の疾患であるHIBMの病態の説明や、急性腎炎

などの病態解明に重要であることを報告した。

岡島徹也(名古屋大学)は、上皮増殖因子

(EGF)ドメインは特殊なO-結合型糖鎖修飾を

受けることを報告した。EGFドメイン上のO-

型糖鎖として知られるO-フコースやO-グル

コースは、多くの血漿タンパク質や情報伝達分

子に見出され、特にNotch受容体における生物

学的機能が明らかにされている。彼らは最近、

EGFドメイン特異的な新規糖修飾としてO-

GlcNAcを見出した。この修飾は、EGFドメイ

ンの5番目と6番目のシステイン残基間の保存

されたSer/Thr残基に起こる。この細胞外の

O-GlcNAc修飾に関わる責任遺伝子の機能を探

ることで、細胞外タンパク質における O-

GlcNAc修飾の新機能が解明されることが期待

される。

Hiroshi Nakato(University of Minnesota)

は、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPGs)

がDrosophila の卵巣で胚性幹細胞のnicheの制

御因子として重要であることを報告してきた

が、Drosophila S2 培養細胞を用いてユニーク

なHSPGsのSingle-cell BMP-HSPG trans sig-

naling assay と呼ぶin vitro assay systemを開

発した。即ちシグナルを送る細胞(Drosophila

のHSPGsであるDallyを発現している)とシグ

ナルを受ける細胞(DrosophilaのBMP受容体

を発現している)を共培養し、これらの細胞の

接触を可視化し、またシグナルの活性化を

Madタンパクのリン酸化でみた。このように、

細胞の接触に依存してHSPGsがトランスに細

胞の接触により、BMPシグナルを活性化する

ことを証明した。

Session BImmunoglycobiology and MembraneReceptors

神奈木玲児(愛知県がんセンター)は、レク

チンおよびシグレックの特異的リガンドとし

て、硫酸基とシアル酸残基をともに含有する糖

鎖の機能を報告した。これらの分子は、ヒトリ

ンパ球に次々と見いだされている。セレクチン

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

のリガンドであるα2,3シアリル6-スルホルイ

スxやα2,6シアリル6-スルホラクトサミンな

どがその例である。α2,3シアリル6-スルホル

イスxはセントラルヘルパーメモリーT細胞に

特異的に発現してこの細胞集団の皮膚や肺への

ホーミングを媒介し、気管支喘息やアトピー性

皮膚炎の難治性・再発に関与する。α2,6シア

リル6-スルホラクトサミンはB細胞に発現し

てシグレック2の高親和性リガンドとして働

き、各種のヒトB細胞性疾患におけるB細胞の

血管外脱出を調節することを明らかにした。

北川裕之(神戸薬科大学)は、コンドロイチン

硫酸鎖の生合成に必須であるグルクロン酸転移

酵素の遺伝ノックアウトマウスを作製し解析し

たところ、多くの初期胚において細胞質分裂に

異常が観察され、8細胞期以前に致死となった。

コンドロイチン硫酸鎖が哺乳類における初期胚

の細胞質分裂に重要な機能を担うことが明らか

となった。また、コンドロイチン硫酸鎖の機能

は硫酸化構造によっても制御されることが示さ

れているが、彼は、コンドロイチン硫酸鎖の硫

酸化修飾構造を改変させたマウスを作製したと

ころ、成獣でも視覚野の眼優位性可塑性が保た

れていた。従って、これまで脳においてコンド

ロイチン硫酸鎖は単なる物理的障害として機能

し可塑性を抑制していると考えられてきたが、

特異的な硫酸化修飾構造が神経可塑性を制御す

ることが明らかとなった。

鈴木明身(東海大学)は、スフィンゴ糖脂質

の脂質部分セラミドはスフィンゴシンと脂肪酸

で構成されるが、スフィンゴシン炭素4位の水

酸化に働くDes2遺伝子産物のC4水酸化酵素で

水酸化されるが、Des2遺伝子破壊マウスを作

製して、消化管特に小腸の糖脂質に注目して解

析した。その結果、Des2は組織特異的発現制

御を受け、消化管、腎臓に発現しており、それ

ぞれの上皮細胞微絨毛膜に局在する糖脂質に水

酸基を導入していること、小腸の糖脂質は生後

2週目を境に著しい組成変化をおこし、GlcCer

とasialoGM1が主要糖脂質となること、これら

糖脂質は野生型でC4位が水酸化されているが、

破壊マウスでは水酸化されていないことを確認

した。Des2は上記水酸化を行っている唯一の

酵素であること、スフィンガニンは水酸化され

ずに残り、上皮細胞には二重結合を導入する酵

素(Des1)が作用していないことを明らかに

した。

鍔田武志(東京医科歯科大学)は、CD22の

機能について報告した。この分子はシグレック

2とも呼ばれ、Bリンパ球に発現する膜タンパ

クで、Bリンパ球の活性化を負に制御する。ま

た、細胞外領域にレクチンドメインがあり、α

2,6シアル酸を特異的に認識する。彼らはCD22

欠損ナイーブBリンパ球が、記憶Bリンパ球と

同様に抗原刺激の際に速やかに活性化し、迅速

で大量の抗体を産生することを明らかにした。

この結果は、CD22の阻害により免疫応答を早

期化し、ワクチンと同様に感染防御が可能であ

ることを示唆する。さらに、CD22に高親和性

に結合する新規シアル酸誘導体を合成し、Bリ

ンパ球の活性化増強活性があることを明らかに

した。現在、このような化合物がCD22阻害に

より免疫応答を増強し、感染防御に有用である

かについて解析を進めている。

James C. Paulson(The Scripps Research

Institute)は、シグレックファミリーである

CD22の白血病や自己免疫疾患への治療法の開

発について報告した。現在CD22はその抗体が

B cell leukemiaの治療に用いられており、シグ

レックとしては骨髄性白血病に用いられている

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95

第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

CD33の抗体とともに抗体医薬の有望な分子で

ある。彼らは、CD22のリガンドにナノ粒子を

結合させた分子は選択的にCD22に結合して、

直ちに細胞に取り込まれ、その粒子内に結合し

たりあるいはトラップされるあらゆる分子を運

ぶことができることを提唱した。Anti-CD22抗

体とCD22は1:1で結合し、internalizeされて

最終的には細胞内で分解される。それに反して

CD22リガンドを結合させたナノ粒子はエンド

サイトーシスされて酸性のエンドソームなどで

遊離する。一方CD22は細胞表面にリサイクル

されて、引き続きリガンドを運ぶ。こうしてナ

ノ粒子とそれを運ぶcargoは細胞内に蓄積して

いく。この原理を利用して、化学療法剤である

DoxorubicinとCD22リガンドを結合させたリ

ポソーム性のナノ粒子はヒトB細胞性リンパ腫

に対してin vitroおよびin vivoで著しい延命効

果を示したことからシグレック-リガンド結合

ナノ粒子はシグレックを有している免疫細胞に

対する薬剤の運び屋として有益であることを示

した。

安形高志(大阪大学)は、シグレックについ

て報告した。哺乳動物の免疫系レクチンの一部

は微生物の糖鎖を認識して免疫系を活性化し、

また一部は内在性の糖鎖を認識して免疫系を抑

制する。シアル酸を持つ微生物は稀であり、哺

乳動物にとって「自己」の分子標識となりうる。

ウイルス感染細胞と単球系細胞株をモデルに用

い、免疫系レクチンであるシグレックがシアル

酸を介して自己の細胞の「健康状態」をモニ

ターしている可能性を検討し、この仮説を支持

する結果を明らかにした。

栂谷内 晶(産業技術総合研究所)は、ポリ

ラクトサミン(PLN)糖鎖の合成に関わる遺伝

子のノックアウトマウスの表現型について報告

した。PLNは、糖鎖の基幹構造を形成する重

要な構造であるが、2系統のPLN合成酵素

(B3gnt2およびB3gnt5)遺伝子のノックアウ

ト(KO)マウスの作製・解析を行った。これ

らのKOマウスでは、糖タンパク質N-glycan上

あるいは糖脂質上のPLNを欠損していた。両

KOマウスでは、ともに免疫細胞において、外

部刺激に対する免疫応答性に違いが生じてお

り、PLNが重要な生物機能を担っていること

が明らかとなった。

Session CBiomarker DiscoveryMichael Pierce(University of Georgia)は、

糖鎖を利用した癌の診断、治療などのためのバ

イオマーカーの開発を行っている。これまで、

GnT-Vの産物であるβ1,6分岐鎖を認識するL-

PHAとGnT-Ⅲの産物であるbisecting GlcNAc

を認識するE-PHAなどとの反応性を用いて検

討をしてきた。L-PHAを固相加したparamag-

netic beadsを用いてGnT-V産物糖鎖をもつ糖

タンパク質をエンリッチさせ、それを質量分析で同

定し、Ductual breast cancer, Endometriod

ovarian cancer, Pancreatic cancerなどのバイ

オマーカーを見出している。これらの糖タンパ

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

ク質はPeriostin、Mimecanなどであり、乳癌

細胞のEMT(endothelial-mesenchymal transi-

tion)の一部として発現し、分泌されると考え

ている。また彼らのグループにより行われて

いる、糖鎖関連遺伝子 700 以上の網羅的な

Glycotranscriptome解析からES細胞などの

マーカーの探索やバイオマーカーの探索を行っ

ている。その中からovarian cancerではGnT-

Ⅲの発現が著しく高まることも見出し、E-

PHAに結合する糖タンパク質が同定されてい

る。また最近糖鎖を認識するモノクローン抗体

の作製を行い、バイオマーカーとして使用する

試みも紹介した。

顧 建国(東北薬科大学)は、インテグリン

に機能について報告した、この分子は、α鎖と

β鎖からなるヘテロダイマーで、細胞内におい

て細胞骨格と連結し、接着構造を安定化させ細

胞の形態および組織構造の維持を担う。一方、

増殖因子受容体と協同して細胞内にシグナルを

伝え細胞分化、増殖といった細胞形質の制御を

行う。また、細胞表面においては、インテグリ

ンはN-結合型糖鎖の主なキャリアータンパク

質として知られている。例えば、上皮細胞に高

く発現するインテグリンα3β1または 間質系

細胞によく発現するα5β1のα鎖とβ鎖には、

それぞれ14カ所と12カ所の推定されるN-結合

型糖鎖付加部位を持っている。これらの糖鎖付

加はインテグリンのα鎖とβ鎖の二量体の形成

に不可欠である。彼らは、複合型糖鎖の生合成

糖転移酵素の働きに注目し、それらの糖転移酵

素によって改変されたN-結合型糖鎖が正また

は負に細胞接着を調節し、がん細胞の浸潤・転

移を制御することを見出した。また、糖鎖付加

はα5β1の膜ミクロドメインへの局在や他の

受容体との相互作用に寄与する可能性がある。

そのような研究を通じてタンパク質上のN-結

合型糖鎖付加の意義に対する認識が深まること

を提唱した。

三善英知(大阪大学)は、糖タンパク質のフ

コシル化の分子機構に関する研究を続けてきた

が、フコシル化を標的にした新しい診断法、治

療法の開発を目指している。フコシル化とは、

フコースによる糖鎖修飾のことで、がんや炎症

と最も関係が深い糖鎖の1つである。本コン

ファレンスでは、膵がんの新しい腫瘍マーカー

であるフコシル化ハプトグロビンの発見とその

臨床診断法の開発について、また、フコシル化

AFPなどのフコシル化タンパクが肝癌で増加

するメカニズムとして胆汁への分泌機構の解

明、さらに、ドナー基質GDP-フコースを合成

する酵素GMDSの遺伝子変異の発見とその生

物学的意義に関して紹介した。実際のヒトの組

織で、予想以上にフコシル化の異常は多く発見

され、新しい治療の標的になることを示唆した。

今後のvalidation studyと実用化が期待される。

Nico Callewaert(Ghent University)は、こ

れまで肝臓のfibrosis、肝硬変及び肝臓癌の鑑

別診断を、N-結合型糖鎖の解析により鑑別で

きるユニークなキットの開発を行ってきた。最

近それを、Glyco Fibro Test, Glyco Cirrho

Test, Glyco Hepato Testなどと命名している。

本法は糖鎖の知識がなくとも数時間で判定でき

る。機器としてはDNAやRNAの解析装置を

利用している。Glycocirrho Testでは、galacto-

sylated, bisected core fucosylated glycansを分

子に、分母にGnT-Ⅳのproductをとり計算をす

る。またGlycofibro Testでは、分子にalgalac-

to bisected、core fuccosylated glycan、分母に

GnTⅣのproductをおいて計算をするものであ

り、validation studyも行われており実用化が

近い。

成松 久(産業技術総合研究所)は、これま

で2期にわたってNEDOプロジェクトにより、

Glycomicsの技術開発を精力的に行ってきた。

特にHuman glyco-gene libraryを構築し、それ

を用いて、糖鎖の構造解析のための標準物質の

作成を行い、質量分析やレクチンマイクロアレ

イなどに利用してきた。今回は、それを用いて

血清の病気に特異的なバイオマーカーの開発の

ための戦略を紹介した。主に三つあり、一つは、

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

糖鎖遺伝子の定量的RT-PCR、二つ目はlectin

micro array法、そしてisotope-coded glysocy-

lation-site specific tagging(IGOT) high-

throughput methodである。これらの方法によ

り、細胞が悪性化したときにどのように特異的

な糖鎖プロファイルが得られるかを検索し、い

くつかのバイオマーカーを見出した。中でも

Cholangiocarcinomaや、liver fibrosisの候補分

子が見つかっており、今後validation studyに

よる実用化が期待されている。

橋本康弘(福島県立医大)は、認知症の診断

マーカーとして、髄液中の糖タンパク質の解析

を系統的に報告した。この研究過程で、特徴的

な糖鎖を持つ“髄液型”トランスフェリンが存

在することを見出した。さらに、髄液型トラン

スフェリンは認知症を示す髄液代謝異常症であ

る特発性正常圧水頭症で変化を示し、本疾患の

マーカーになることを見出した。さらに、中枢

神経系マーカーとしての糖鎖バイオマーカーの

探索を行う予定についても言及した。

Session DGlycans in Disease〔Ⅰ〕Hudson Freeze(Sanford Burnham Medical

Research Institute)は、長年にわたってCDG

(Congenital disorders of glycosylation) の研

究を続けてきたが、今回は新たに見出した

steroid 5α-reductase type 3(SRD5A3)遺伝

子の変異によるCDGを報告した。この酵素は

N-結合型糖鎖の前駆体の合成に必要なドリ

コールを合成する経路において、ポリプレノー

ルのα-イソプレンを還元する。患者は精神遅滞、

筋緊張の低下、目の異常、大脳の欠損のほか、

肝臓の酵素異常や、血液凝固系の異常を伴う。

血清トランスフェリンのN-型糖鎖は完全に欠

損していた。本酵素のKOマウスは胎性致死と

なる。このようなN-結合型糖鎖の生合成初期

過程での異常が見出されたことから、今後さら

にこのようなCDGが見出される可能性がある。

講演の最後に来年彼が主催するGordon会議の

案内と、最近映画化された“小さな命が呼ぶと

き”を紹介した。この小説はα-Glucosidaseの

欠損により起こるPompe病の二人の子供を持

つ父親が治療法の開発のために、糖鎖生物学の

研究者とともに会社を立ち上げて戦う実話物語

である。

James W. Dennis(Samuel Lunenfeld Research

Institute)は、これまでN-結合型糖鎖の分岐に

関わるGnT-V(遺伝子はMgat5)などが作る

糖鎖が、ガレクチンファミリーとlatticeをつく

ることにより、糖タンパク質のcoated pitsや

ラフトへのトラフィッキングを低下させ、結果

としてfocal adhesionを促進させること、また

受容体やトランスポーターの機能にこれらが関

わることを報告してきた。本講演では、以下の

ような興味深い話題を提供した。N型糖鎖の数

と分岐度はガレクチンとの親和性、ひいては輸

送体や受容体の機能を制御することから、N型

糖鎖付加部位(NXS/T)は進化の過程で激

しい選択圧に曝されている。糖鎖付加やリン酸

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

化などの翻訳後修飾は多価で協調的にタンパク

質間相互作用を制御するため、個々の修飾位置

に対する選択圧は下がり、evolvabilityのメカ

ニズムとして「一定の制約下でモチーフの位置

を探る」という進化が許容される。彼らは

NXS/Tについてこの法則を検証し、真核生

物の進化を通じてNXS/Tの頻度がほぼ一定

であること、また哺乳動物でNXS/Tの位置

変動が活発になり、NXS/Tが正の選択を受け

ていることを見出した。NXS/Tのような位置

変動しやすい配列モチーフは自然選択の対象と

なる多様化を促進する。単細胞生物から高等動

物への進化過程でのG/C塩基対の増加は、こ

のような配列モチーフを使うタンパク質間相互

作用の進化の名残かもしれないという仮説を提

唱した。

谷口直之(大阪大学・理化学研究所)は、こ

れまでN結合型糖鎖の分岐に関わるGnT-Ⅲ、

GnT-Ⅳ、GnT-Ⅴ、GnT-Ⅵ、GnT-Ⅸ、Fut8な

ど多くの糖転移酵素の生化学的解析や、

Functional Glycomicsの研究からこれらの標的

タンパク質の同定や疾患の発症、診断、治療な

どの関わりについて報告した。特にFu8のKO

マウスは7割が生後死亡するが、生存例に肺気

腫変化が見られたことから、この機構にTGF

β受容体の糖鎖が関わることを解明した。また

患者でもFut8とCOPD(肺気腫および慢性気

管支炎の総称)の関わりが明らかになった。一

方で、糖は細胞外から細胞内に輸送体を介して

入り、糖ヌクレオチドに変換され、主としてゴ

ルジ体にある糖ヌクレオチド輸送体でゴルジ体

の中に入り、糖転移酵素のドナーとして、糖タ

ンパク質のいわば前駆体であるアクセプターに

単糖をひとつずつ受け渡すことにより糖鎖が合

成され、糖タンパク質として細胞膜の受容体に

運ばれることから、糖鎖サイクルという概念を

提唱し、糖鎖の機能を明らかにするためにシス

テム糖鎖生物学としてのアプローチの重要性を

説いた。その手始めとして、糖ヌクレオチドの

一斉定量法の開発を紹介した。

入村達郎(東京大学)は、樹状細胞、マクロ

ファージ、NK細胞の表面には多様なC型レク

チンが発現し、外来抗原や異変を起こした自己

由来の分子を認識して生体防御の前線を形作っ

ていることを、これまで明らかにしてきた。こ

れらの細胞に発現するC型レクチンの内で、単

糖としてGal/GalNAcを認識する唯一のもの

がMGLである。彼らは、ヒトMGL/CD301、

マウスMGL1及びMGL2に対するモノクローナ

ル抗体を作製し、またMgl1及びMgl2遺伝子欠

損マウスを作出し、これらの分子の免疫と炎症

応答における重要性を確立した。主にマウス病

態モデルを用いたin vivoの解析によって、皮

膚の接触過敏症、皮下組織における慢性炎症、

炎症性腸疾患、糖鎖を持つ抗原に対する免疫応

答などが、MGL1またはMGL2の強い影響下に

あることを明らかにした。

鈴木 隆(静岡県立大学)は、遺伝子操作に

よりスルファチド(sulfatide)の発現を制御し

た細胞と抗スルファチド抗体を用いたウイルス

感染実験から、硫酸化糖脂質の一種で、脂質ラ

フトに存在することが知られているスルファチ

ドが、インフルエンザA型ウイルス感染後に新

たに合成されたヘマグルチニン(hemagglu-

tinin: HA)と細胞膜上で結合することで、ウ

イルス核酸タンパク質複合体の核外輸送を誘導

し、新生ウイルスの粒子形成を促進しているこ

とを見出した。またスルファチドとHA間の結

合を阻害する抗スルファチド単クローナル抗体

は、in vivoにおいても強力なウイルス増殖抑制

効果を示した。HAとスルファチドの結合を制御

する分子機構を解明することで、新しい機構に

基づいた治療薬開発基盤の確立が期待される。

萬谷 博(東京都健康長寿医療センター研究

所)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)

の代謝異常によるβアミロイド(Aβ)の過剰

な産生はアルツハイマー病の原因となることが

知られているが、アルツハイマー病の脳で糖転

移酵素GnT-Ⅲの発現が増加することを見出し

た。さらに、GnT-ⅢにAβの産生抑制作用が

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

あることを明らかにした。また、A β 42 が

GnT-Ⅲの発現を増加させたことから、アルツ

ハイマー病脳におけるGnT-Ⅲの増加は、Aβ

産生に対する防御反応であると考えられた。

松田純子(東海大学)は、スフィンゴ脂質活

性化タンパク質(サポシンA, B, C, D)はス

フィンゴ脂質のライソゾームにおける分解にお

いて必須の糖タンパク質であるが、特異的ノッ

クアウトマウスの解析から、サポシンの生理機

能およびスフィンゴ脂質の蓄積と神経病態との

関連が明らかになってきた。本発表では、各サ

ポシンのサポシンCとガラクトシルセラミド-

β-ガラクトシダーゼのダブルノックアウトマ

ウスの神経病態解析を一例に挙げ、スフィンゴ

脂質蓄積症のモデルマウスとしてのサポシン

ノックアウトマウスの有用性を述べた。

Session EGlycans and Disease〔Ⅱ〕門松健治(名古屋大学)は、プロテオグリカ

ンによる軸索再生の阻害機構の解明に迫る報告

を行った。成体の中枢神経の軸索は一度傷害を

受けると再生が難しい。その主因は再生を阻害

する因子が誘導されることにある。近年、その

中でコンドロイチン硫酸プロテオグリカン

(CSPG)が注目されている。すなわち、CSPG

は強い軸索再生阻害活性を発揮し、CS鎖を分

解する酵素によって軸索再生が促されるだけで

なく、神経機能も回復する。最近彼らは、ケラ

タン硫酸プロテオグリカン(KSPG)がCSPG

に匹敵する強い軸索再生阻害効果をin vivoで

発揮することを見出した。このようなアプロー

チは、脊髄損傷から神経変性疾患のような治療

法のない疾病の治療に繋がるばかりでなく、記

憶学習などの高次機能を支える神経可塑性の理

解にも役立つ可能性が出てきた。

遠藤玉夫(東京都健康長寿医療センター研究

所)は、筋ジストロフィーの糖鎖の役割を報告

した。本症は、筋線維の変性・壊死を主病変と

し、進行性の筋力低下をきたす遺伝性疾患の総

称であり、病因の異なる多くの疾患が知られて

いる。これまで筋ジストロフィーの原因は、ジ

ストロフィンなど筋細胞の構造タンパク質の異

常によるものが報告されてきたが、最近タンパ

ク質の翻訳後修飾である糖鎖の異常が原因であ

るという新しい病態メカニズムが明らかになっ

てきた。これらの病型はO-マンノース型糖鎖

の異常に起因し、筋ジストロフィー病変に加え

て、脳奇形、眼症状を伴うことが特徴である。

αジストログリカンの糖鎖が正常に付加されな

いために基底膜ラミニンとの結合が弱まり発症

すると考えられる。糖鎖を標的とする治療法の

開発が期待される。

Jane E. Hewitt(University of Nottingham)

は、糖転移酵素と推定されているが機能の未知

なLARGEにつきα-ジストログリカンの糖鎖修

飾の役割につき overv i ew を行った。現在

α-ジストログリカンの糖鎖修飾に関わる糖鎖遺

伝子、及びその関連遺伝子は6つ知られている。

POMT1, POMT2, POMGnT1, Fukutin, FKRP,

LARGEである。LARGEは高度に保存されてい

て、ほとんどすべての動物のゲノムに相同遺伝

子として見られる。Drosoph i l a にもある。

LARGEはヒトやマウスのデータから、in vivo

におけるα-ジストログリカンのもつO-マン

ノース型糖鎖の合成に重要であると考えられて

いる。この合成にはPOMT1/2が働き、その

後POMGnT1によりGlcNAcが付加される。最

近の研究により、LARGEはα-ジストログリカ

ン上にあるリン酸化されたO-マンノシル化三

糖に作用することが明らかにされている。

木下タロウ(大阪大学)は、GPIの生合成機

構の最新の知見を報告した。哺乳動物では、

150種ほどのタンパク質が、グリコシルホス

ファチジルイノシトール(GPI)による翻訳後

修飾を受けているが、GPIアンカー型タンパク

質は、小胞体で10段階ほどの反応を経て生合

成されたGPIが付加されてでき、さらにゴルジ

体で構造変化を受けて完成する。最近の研究か

ら、GPIアンカーの生合成は、成分が順に結合

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

していく単純な経路ではなく、一部の構造は一

時的に存在し、完成型のGPIには存在しないこ

とや、PI部分は原料である遊離のPIとは全く

異なる構造に変化していることが明らかになっ

てきた。本講演では、GPIの糖鎖部分のリモデ

リング反応とそのタンパク質輸送における意

義、GPIの脂質部分のリモデリングとペルオキ

シソームの関与、さらに、生合成とリモデリン

グの異常の疾患との関連について述べた。

Robert Haltiwanger(Stony Brook University)

は、O-fucoseの情報伝達や発生での役割の

Overviewをした。彼らは哺乳動物のProtein

O-fucosyltransferase 1(Pofut1)(Drosophila

ではO-fut1)はC-末端側にKDEL様のモチーフ

を持ち、小胞体(ER)に留まり、Notch受容

体(Notch)などにあるEGF repeatが適切に

foldingがなされているときだけ、O-fucoseを

転移することを報告した。マウスやDrosophila

でPofut1やO-fut1を欠損させると重篤な表現

型を示す。また、O-fut1は酵素活性とは別の機

能、すなわちシャペロン活性を持ち、Notchの

適切なfoldingやtraffickingに必須である。し

かしマウスのPofut1ついてはこの機能は明らか

でなかった。NotchのEGF repeatのうち第1、

26、27番目は高度に保存されており、これらを

欠損させると酵素活性を失うことから、多数の

部位が重要であることがわかった。これらのO-

fucoseの部位と、その後のfringeにより糖鎖が

延長される部位を決定するための質量分析法を

確立した。また、thrombospondin type 1

repeats(TSRs)にはO-fucoseが付加されるこ

とがされているが、実際ヒトのthrombospondin

1には3箇所Glcβ1,3 Fucが付加されている。

これと同じ構造が、ADAMTSプロテアーゼ

ファミリーにも見出されている。この付加部位

はCxx(S/T)CxxGであり、ヒトやマウス

のデータベースからこの配列をもつ50以上の

蛋白質に存在する。このfucosylationはPofut2

により触媒されることを明らかにした。Pofut1

のように本酵素もやはりERで適切にfoldingさ

れたTSRsにのみ作用することから、O-fucose

はタンパク質の品質管理に重要な役割を果たし

ていることが明らかになった。

大坪和明(大阪大学)は、膵臓β細胞に高発

現する糖転移酵素GnT-Ⅳaがグルコーストラ

ンスポーターを糖鎖修飾することで、グルコー

ス応答性インスリン分泌を可能とすることを解

明するとともに、高脂肪食摂取によるβ細胞で

の酸化ストレスがGnT-Ⅳ aの発現を障害し、

糖尿病を引き起こすことを解明した。さらに、

GnT-Ⅳaをβ細胞で高発現させたマウスでは、

高脂肪食を負荷してもβ細胞機能が正常に保た

れ、糖尿病を回避できることを見出した。

松野健治(東京理科大学)は、Drosophilaの

O-fucoseについて報告した。Notch受容体

(Notch)を介する情報伝達系(Notch情報伝達

系)は、細胞と細胞の直接的な接触を介した細

胞間情報伝達で機能している。Notchとそのリ

ガンドは、ともに、adherens junctionに局在

している。Notch受容体は36のEGF repeatを

持ち、EGF repeatには、O-fut1によって

O-fucoseが付加され、これはさらにFringe

(β1,3GlcNAc転移酵素)により修飾を受ける。

彼はfut1の変異体の研究から、酵素活性とは独

立した二つの機能、すなわちNotchに特異的な

シャペロン機能と、Notchのエンドサイットー

シスを制御する機能を持ち、これがDrosophila

ではNotchのfoldingやtraffickingに重要な役

割を果たしていることを明らかにした。

池原 譲(産業技術総合研究所)は、Sialyl-Tn

抗原(STn)を持つタンパク質として、MUC1

を同定した。本糖鎖を合成するST6GalNAc1

の発現やSTnの発現などを癌細胞株を用いて、

TOF-MSによる質量分析などを駆使してこれ

を同定した。またマウスを用いて、STnに対す

る抗体を腹腔に注射することにより、マウスで

の胃癌の腹腔での浸潤を抑制した。これらのこ

とから、STnMUC1が肺腺癌の診断マーカー

として、また腹腔などに浸潤性の胃癌のバイオ

マーカーとして使用できることを示した。

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第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」を終えて

おわりに以上招待講演による口頭発表と、ポスター演

題から選ばれたshort talkの発表の要約を記載

した。これ以外にも多くのポスター演題に質の

高い演題があったが、紙面の都合で省略させて

いただいた。またこれらのポスター演題の中か

ら20演題を厳密な審査により研究費の援助を

させていただき、助成金を財団から差し上げる

ことになった。これらの20演題は、いずれも独

立した研究者にはご遠慮いただき、若い方々だ

けを選出させていただいたことをお断りする。

糖鎖をテーマにしたコンファレンスを開催す

るのはこれが初めてであり、糖鎖科学を長年研

究してきた先達の方々や、我々にとってばかり

でなく、今後のわが国の糖鎖研究を担うであろ

う若い研究者の諸君にとっても大変記念すべき

会議になったことと思われる。

最近のこの種の会議は、多くの場合すでに公

表された内容について講演をする人が増えてい

る。本来は新しい未発表の内容を話すことに

なっているGordon会議でさえ、その傾向が強

くなっている。しかし、本会議ではかなり新鮮

な内容を話す人も多く参考になる内容の講演が

多かった。

本コンファレンスのテーマに糖鎖生物学を初

めて取り上げることにご尽力いただいた、理事

会の諸先生、特に永井克孝先生、岩永貞昭先生

ならびに、財団法人内藤記念科学振興財団の

方々にこの場をお借りして厚くお礼申し上げる。

本要約は限られた紙面であり、十分講演内容

を網羅することはできなかった。不明な点はな

るべく講演者の皆さんに直接ご意見を伺い、ま

たご援助をいただいた。ここに改めてご協力い

ただいたことに感謝いたしたい。なお、正確を

期したつもりではあるが、不正確な点があった

とすれば、責任はすべて執筆した私にある。お

許しいただきたい。

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内藤コンファレンス参加体験記・・・・・・・・・・・・・・・・・ 金川  基 ・・・103

コンファレンスに参加して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 高  叢笑 ・・・104

葉山でのアツい4日間 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 森脇 健太 ・・・105

第28回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 伊左治知弥 ・・・106

内藤コンファレンスに参加して・・・・・・・・・・・・・・・・・ 石橋 洋平 ・・・107

糖鎖科学の将来を感じたひととき・・・・・・・・・・・・・・・・ 神村 圭亮 ・・・108

いろいろと……・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 郷  慎司 ・・・109

第28回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 佐々木紀彦 ・・・110

刺激的な夏の4日間を過ごして ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 塩  一弘 ・・・111

何事にも臆せず挑戦することの大切さ・・・・・・・・・・・・・・ 下山 敦史 ・・・112

内藤コンファレンスに参加して・・・・・・・・・・・・・・・・・ 栂谷内 晶 ・・・113

井の中の若蛙、大会で多くを知る・・・・・・・・・・・・・・・・ 中 三弥子 ・・・114

第28回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 名取 貴光 ・・・115

第28回内藤コンファレンス印象記 ・・・・・・・・・・・・・・・ 林  良樹 ・・・116

第28回内藤コンファレンス印象記 ・・・・・・・・・・・・・・・ 松本顕治郎 ・・・117

熱い夏のはじまり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 萬谷  博 ・・・118

第28回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 南   彰 ・・・119

内藤コンファレンスに参加して・・・・・・・・・・・・・・・・・ 矢木 宏和 ・・・120

貴重な交流の場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山地 俊之 ・・・121

第28回内藤コンファレンス参加印象記 目次

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第28回内藤コンファレンス印象記

夏本番を迎えた7月、眼下に相模湾が広がり、

猛暑を忘れるような爽やかな景観を望む葉山、

湘南国際村センターにて開催された第28回内

藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-

機能から病態まで-」に参加させていただきま

した。内藤コンファレンスの参加申し込みにあ

たり、プログラム構成、国内外の著名な先生に

よる講演、合宿形式と、まさにゴードン・カン

ファレンスを彷彿させるような内容と知り、何

としてでも参加させていただきたいと強く思う

ものがありました。幸いにも演題が採択された

時の喜びは未だに記憶に新しいところです。

コンファレンスに参加して最も強く印象に

残ったことは、その質の高い内容です。特にポ

スターセッションは討論の時間が十分設けられ

ており、多く研究者とディスカッションができ

ました。また、糖鎖生物学を世界的にリードす

る先生方による講演はどれも大変興味深く、最

先端の研究内容や今後の方向性を感じることが

できました。個人的には、私が研究対象として

いる自然発症筋ジスmydマウスの疾患原因遺

伝子がLARGEであることを突き止めたJane

E. Hewitt先生とディスカッションできたこと

が印象に残っています。mydマウスでは筋病

態に加え眼症状も呈しますが、私は今回、眼症

状の病因のひとつがジストログリカンの糖鎖不

全に起因するピカチュリン局在異常であること

をポスター発表しました。Hewitt先生からは、

私の研究内容に関してのみならず、関連分野の

動向や今後の方向性についてもコメントをいた

だき、大変貴重な経験をさせていただきました。

そして、もう一つ重要なことは、参加者との交

流です。ポスターセッション後の親睦会は有意

義な時間でした。この機会がブレインストーミ

ングとなり新たなアイディアが浮かび、また同

席した先生から研究上で貴重なコメントをいた

だくこともできました。同世代の研究者と知り

合い、研究内容のみならず、お互いの研究環境

などを話す機会は、こういった合宿形式ならで

はのことですし、それが刺激になってお互いを

高めていくことにもつながると思います。更に、

大変ありがたいことに、分野をリードする先生

方から研究の進め方に対するご意見や研究哲学

に関するお話をいただいたことは、この機会を

なくしては得られない大変貴重な体験だったと

思います。

まさに、ゴードン・カンファレンスに劣らな

い内藤コンファレンスを十二分に堪能すること

ができました。このような貴重な体験ができた

のも、オーガナイザーの先生方、日頃からご指

導くださっている教室内外の諸先生と共同研究

者の皆様のお陰と改めて感謝し、また、この貴

重な体験を活かすためにも、今後益々の努力が

必要と改めて強く思いました。最後に、内藤コ

ンファレンスの益々の発展をお祈りして、私の

参加体験記とさせていただきたく思います。

内藤コンファレンス参加体験記

神戸大学大学院医学研究科

助教 金川  基

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第28回内藤コンファレンス印象記

三十年に一度の酷暑のなか、第28回内藤コ

ンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能

から病態まで-」が湘南国際村センターで開催

されました。内藤コンファレンスの質の高さを

よく耳にしますし、かつ本テーマのコンファレ

ンスが初めてとのことで、参加することを当初

からとても楽しみにしていました。

コンファレンスの初日から、講演は盛りだく

さんでした。初日のopening lectureでは、ま

ずJeffrey D. Esko先生の情熱あふれた発表に

一気にサイエンスの世界へ連れ込まれ、その後

Gerald Hart先生の落ち着いた発表にはゆっく

りとサイエンスのおもしろさを見せられまし

た。今回のコンファレンスは五つのセッション

に分かれ、三日間を通して講演が行われていま

した。国内外の先生たちは糖鎖研究を基盤とし、

疾患の発症、進行、治療などとの関連について

多様な研究結果を発表されました。2010年の

夏に日本でも公開されたII型糖原病の治療法の

開発実話を内容とする映画のポスターが演題発

表に用いられ、糖鎖研究者役のハリソン・

フォードの強い目力が会場を沸かせた一コマも

ありました。その半面、ヒトに役立つ研究をし

たいとの気持ちも高揚させられました。このよ

うなエキサイティングの会場で、私の理解が追

いつかないところがまだたくさんありました

が、糖鎖研究での流れやtopicsがおぼろげなが

らも感じ取っております。

招待講演同様にポスター発表のレベルの高さ

にも驚きました。多方面にわたって、糖鎖と疾

患病態の研究が行われていることが肌で感じる

ことができました。しかし、勉強不足と英語能

力の未熟さのために、異なる分野の研究を理解

できないことが多く、大変歯がゆい思いをして

いました。今回、内藤記念特定研究助成金に採

択して頂いた私の研究テーマは、N型糖鎖の欠

損と慢性閉塞性肺疾患の発症に関するものです。

やや特化した研究内容でもあるため、参加者の

皆さんに興味を持って頂けるかを心配しており

ましたが、たくさんの先生たちにポスターを見に

来て頂き、意見やアドバイスを頂きました。今

後の研究方針に対してよい刺激となりました。

普段論文でしかお目にかかることのできない世

界のトップランナーの先生たちと直接お話しす

るのがとても緊張しておりましたが、刺激のあ

るひとときでした。さらに、同年代の研究者た

ちと向かい合って食事を囲む、研究のこぼれ話

やキャリアアップなどについて、とても話が弾

み、楽しい時間を過ごさせて頂きました。

余談ですが、コンファレンス二日目の夜に

ちょうど葉山の花火大会がありました。夜空に

咲かせたまぶしい、きれいな大輪の花はまさし

く今の日本の糖鎖研究のように思いました。

最後になりましたが、このような貴重な機会

を与えて下さった組織委員会の先生方々、なら

びに内藤記念科学振興財団の皆様に深く感謝

し、お礼を申し上げます。

コンファレンスに参加して

大阪大学産業科学研究所

助教 高  叢笑

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第28回内藤コンファレンス印象記

真夏の日差しが照りつける中、大阪から一路

湘南へ。新横浜から鎌倉を超え、逗子駅に降り

立った後、海を目当てにやってきたのであろう

観光客を横目に見ながら、バスに揺られること

30分。今回の第28回内藤コンファレンス「糖鎖

の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」の

会場となる湘南国際村センターへ到着しました。

相模湾越しに富士山を臨むことができるという

素晴らしい景観を従えたこの会場で、どのよう

な最先端の発表並びに活発な議論が行われるの

だろうかとワクワクした気持ちで発表会場に足

を踏み入れました。

招待講演者として国内・国外から多くの先生

方が、それぞれの専門分野の過去から現在進行

形までの研究内容を発表され、学位を取り立て

でまだ研究者としては雛のような私にとって、

全てが刺激的で、勉強になりました。今回のコ

ンファレンスでは、発生、再生、免疫系におけ

る糖鎖の役割、そして特に種々の疾患における

糖鎖の機能についてのセッションが開かれ、糖

鎖の持つ生物学的機能の重要性・多様性を改め

て認識させてもらうことができました。また、

ポスターセッションも非常に活発で、聞いてみ

たい、質問したいポスターがあっても前の人の

活発なディスカッションが終わるのを待たなけ

ればいけない状況でした。

さて、私の研究テーマはフコシル化の制御機

構とその癌における生物学的意義についてであ

り、その一部をポスターとして発表させていた

だきました。多くの先生方にポスターを見てい

ただき、質問やコメントをいただくことができ、

更に、同じくフコースの研究を行っている

Robert Haltiwanger先生とディスカッション

できたことは、このコンファレンスの大きな収

穫の一つでありました。

以上のように、発表演題の質の高さに驚き、新

しい報告を聞く度にワクワクしながらメモを取

るという4日間でしたが、このコンファレンス

での収穫はそれだけではなかったような気がし

ます。部屋の中、食事の際、ホスピタリティー

ルームでの集まり(飲み会?)で、他大学や他

施設の研究者の方と密なコミュニケーションが

とれたことは、私にとって非常に大きな収穫と

なりました。研究内容についてだけではなく、

研究に対する考え方や、研究者としての姿勢、

今後の糖鎖研究についてなど(少々の雑談を含

む……)、普段の大きな学会では話すことがで

きないような深い話をすることができ、非常に

熱く有意義な時間を過ごすことができました。

こういった密な関係から新たな研究が生まれて

くることがあると思いますし、そういった意味

で本コンファレンスは、私にとってエキサイ

ティングなものであっただけでなく、今後の糖

鎖研究を推進していく一つの原動力になったの

ではないかと感じます。

最後になりましたが、このような貴重な機会

を与えてくださった組織委員の先生方、並びに

内藤記念科学振興財団の皆様に深く感謝し、お

礼を申し上げるとともに、内藤記念特定研究助

成金を受領できたということを更なる励みとし

て今後更に研究に邁進していきたいと思ってお

ります。

葉山でのアツい4日間

大阪大学大学院医学系研究科

研究員 森脇 健太

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第28回内藤コンファレンス印象記

平成22年7月27日から30日までの4日間に

わたり、湘南国際村にて、第28回内藤コン

ファレンスが開催されました。参加前は、交通

の便が悪かったことや宿が相部屋だったこと

が、少々不安にさせました。しかし、これらは

むしろ主催者側の配慮から来るもので、全くの

杞憂であったことが分かりました。富士山と湘

南海岸の美しい景観を眺めることができる、静

かな環境で、しっかりと学会に集中することが

できました。また、普段の学会ですとどうして

も顔なじみの研究者とばかり話してしまいます

が、内藤コンファレンスでは、普段それほど会

話をする機会がない研究者と研究や自分たちの

置かれた状況について話すことができました。

朝から夕方まで講演発表があり、皆で夕食を

取った後にはポスター発表がされました。食事

も地の魚などが取り入れられており、大変おい

しかったです。ポスター発表の後ホスピタリ

ティールームにての研究者を取り巻く昨今の状

況などについて熱い議論??が繰

り広げられました。

講演について、特に我々の興味

の対象である糖鎖のバイオロジー

に関して幅広く研究が取り上げら

れており、最先端で活躍されてい

る国内外の著名な先生の講演を拝

聴する機会に恵まれました。ディ

スカッションも大変白熱しており、

また出てくる意見も建設的なもの

が多かったように感じました。

中 で も 印 象 深 か っ た 発 表 は 、

Callewaert先生の糖鎖による繊維

化マーカーの同定法の発表でし

た。大変エレガントな方法で研究

をされており、感銘を受けました。

ポスター発表についても、普段参加する学会と

比べても大変レベルが高く、また、充実した

ディスカッションを行うことができました。ポス

ター発表の中で、生理的な意味でのデーターの

解釈など様々なご意見を伺うことができました。

ノックインの系は高く評価されていると思いま

した。我々は以前より接着分子インテグリンの

糖鎖機能を解析しています。インテグリンの糖

鎖はタンパク質の発現や品質に重要なだけでな

く、その接着活性すらも制御していることを

我々は見いだしています。またこの分子は生体

内の環境を読み取り、細胞表面の多様なレセプ

ターのシグナルを複合体の形成により相乗効果

的に高めている可能性が考えられます。今後、

糖鎖がどのように関わっているか明らかにして

いこうと考えています。

最後になりましたが、コンファレンスをオー

ガナイズして頂きました諸先生方、そして、こ

のような魅力的な大会に参加する機会を与えて

くださった内藤記念科学振興財団に感謝申し上

げます。

第28回内藤コンファレンスに参加して

東北薬科大学分子生体膜研究所

助教 伊左治知弥

右側が筆者

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第28回内藤コンファレンス印象記

気持ちの良い夏空が広がる7月の最終週、湘

南で開催された第28回内藤コンファレンス

「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態ま

で-」に参加させて頂き、病原性真菌より発見

した糖脂質分解酵素の機能に関する研究を発表

致しました。私の研究内容は、本コンファレン

スにおいては非常にマイナーな部類に入ります

ので、少し説明させて頂きます。

セラミドと呼ばれる脂質にグルコースが1分

子結合したグルコシルセラミドは、多くの生物

より見出される糖脂質で、真菌においては、増

殖性、環境適応性、そして哺乳類に対する病原

性に関与することが知られています。私の発見

した酵素は、グルコシルセラミドに特異的に作

用し、グルコースとセラミドへと分解する活性

を示します。この酵素遺伝子欠損株ではグルコ

シルセラミドの質的・量的変動が観察されたこ

とから、真菌特異的なグルコシルセラミド代謝

経路の存在を明らかにしました。面白い研究成

果を出せたという自負が少なからずあったので

すが、そのマイナーさ故か、これまで学会で研究

成果を発表してもあまりレスポンスが無く、次

第に自分の研究の存在意義を疑うようになって

いました。加えて近年の博士号取得者を取り巻

く環境は非常に厳しい状況にある為、私は研究

者として生きていく自信を失いかけていました。

そんな状況の中、本コンファレンスにて幸運

にも特定研究助成金を受領することが出来て、

私の自信はV字回復、気持ちも新たに研究者人

生を歩んで行こうという気持ちになりました。

いつか人生を振り返った時に、大きな転機で

あったと顧みるに違いありません。転機と言え

ば、同じような野望と不安を抱えた同世代の研

究者の方々と、普通の学会ではあり得ない濃密

な時間を過ごせたことは大きな刺激となりまし

たし、何より人脈が広がったことがこれからの

研究者人生の財産となります。特に同室になっ

た方とは、まるで旧知の仲のように親しくなれ

ましたので、この方との再会は今後の学会参加

の楽しみの1つです。ただ、千載一遇の機会と

頭では理解しながらも、英語力の低さから尻込

みしてしまい、海外から招待された著名な先生

方とコミュニケーションが取れなかったのが心

残りです。レベルの高い論文に名を連ねる、憧

れの先生方が目前に居るにもかかわらず、恥を

恐れて声をかけられない。英語力の向上は、可

及的速やかに解決すべき私の課題であると、心

に刻み込みました。

最後になりましたが、このような貴重な機会

を与えて頂き、また私の課題を特定研究助成金

に採択して下さいました組織委員会の先生方、

ならびに内藤記念科学振興財団の皆様に深く感

謝致します。

内藤コンファレンスに参加して

理化学研究所神経膜機能研究チーム

基礎科学特別研究員 石橋 洋平

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第28回内藤コンファレンス印象記

この度は第28回内藤コンファレンスに参加す

る機会を与えて頂き、誠に有り難うございます。

少人数の参加者で催されたこの学会は大きな学

会とは異なり、糖鎖分野で活躍されている多く

の先生方とお話できる絶好の機会であり、大変

貴重な時間を過ごすことができました。

本学会ではこの学会のタイトルである「糖鎖

の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」の

名前の通り、発生・再生から様々な疾患におけ

る糖鎖の機能に関して、招待講演者による口頭

発表と若手研究者によるポスター発表が行われ

ました。最初に、糖鎖分野で世界をリードされ

ているGerald Hart先生とJeffrey D. Esko先生

による基調講演から始まりましたが、お二人の

発表はデータの質・量ともに極めて高く、圧倒

されてしまいました。特にヘパラン硫酸の研究

を行っている私にとってEsko先生の研究内容

は、生体内におけるヘパラン硫酸の新たな生理

機能と作用機構を見事に示されているだけでな

く、疾患治癒に向けた手法開発まで進めておら

れ、今後のこの分野の方向性を強く感じること

が出来ました。また、翌日から2つのセッショ

ンで行われた講演はどれも充実した内容で、糖

鎖分野の将来の発展が期待できるものばかりで

した。ポスター発表でも各所で熱い議論がなさ

れ、会場は異様とも言えるぐらいに盛り上がっ

ていました。私自身も、発表前はあまり人が見

に来てくれないのではないかと心配しておりま

したが、基調講演者をはじめ多くの先生方から

質問や助言を頂き、今後の研究を進めていく上

で大変有意義な時間を過ごすことが出来ました。

また他の研究者の発表も興味深いものが多く、

中には私自身の今後の研究に参考になるものも

あり、非常にエキサイティングなひとときを過

ごすことが出来ました。

さてこの度、内藤記念特定研究助成金に採択

して頂いたテーマはショウジョウバエのシナプ

ス形成におけるパールカンの機能解析です。シ

ナプスが形成・機能する上で、様々な分子が関

与しますが、多様な糖鎖分子がどのような役割

を有するのか未だ多くのことが分かっておりま

せん。本研究によりシナプスにおける糖鎖の機

能解析を進めることで、今後は糖鎖が学習・記

憶などの高次脳機能にどのように関わるのか解

析していきたいと思っております。

最後になりましたが、このような貴重な機会

を与えて下さった組織委員の皆様、並びに研究

費を助成して下さった内藤記念科学振興財団の

皆様に深く感謝致します。この機会を生かし糖

鎖科学の発展と疾患解明に貢献できるよう尽力

していく所存です。

糖鎖科学の将来を感じたひととき

東京都医学研究機構東京都神経科学総合研究所

研究員 神村 圭亮

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第28回内藤コンファレンス印象記

まずはじめに、第28回内藤コンファレンス

「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態ま

で-」に参加させていただけたこと深く感謝い

たします。非常に有意義で刺激的な4日間を過

ごさせていただきました。

数年前、大学院博士課程を修了し、縁あって

現在の研究室で研究をさせていただけることと

なりました。そこでいただいた新たな研究テー

マ「聴覚における糖鎖の機能解明」。聴覚器官

に関して全く知識も技術もなく、また、内耳の

構造の複雑さ・小ささ等からそれらを目的の実

験に用いるためにはいくつかの障害が立ちはだ

かり、悪戦苦闘の日々が続きました。現在もま

だまだ暗中模索の状態といえますが、研究室の

方々、共同研究の先生方の力をお借りして、よ

うやく最低限の聴覚研究ができるようになり

(耳科領域の研究をされておられる先生方に見

せたら怒られるレベルかもしれませんが……)、

いくつかの面白そうなデータが出てくるところ

まできました。糖鎖研究の最新の状況を見聞き

して、今後自分の研究がどういった展開ができ

るかなどなど、一旦冷静に考え、頭の中を整理

してみようと思い、本会に参加希望しました。

これまでも関連の内容をいくつかの学会にて

発表をして、いろいろな先生方からご意見をい

ただきましたが、今回のコンファレンスではよ

り濃密なディスカッションができました。国内

外の著名な先生方にいただいたご意見ももちろ

ん非常に勉強になりましたが、今回は特に同世

代の研究者の皆さんとのディスカッションが大

きな刺激となりました。自分とは異なる分野の

研究をされている方、類似の研究をされている

方、色々な視点から色々な意見をもらえ、より

視野が広がった気がします。また、同世代の方

の発表を聞き議論したことで様々な刺激を受け

ました。

また、毎夜開かれたホスピタリティルームで

の交流で、諸先生方の貴重な体験談や、同年代

の方たちの研究以外のいろいろな考えや同年代

ならではの悩み、等々がいろいろ聞けたことは

今後の研究人生を進むうえで貴重なものになっ

たと思います。

今回のコンファレンスにて国内外での最新の

糖鎖研究の現状を聞いて、糖鎖の機能の多様性、

重要性とともに、その研究の難しさと面白さを

再認識できたように思います。参加前は、しば

らく実験(ほか諸々)が上手くいっておらず、

正直なところ若干へこみ気味だったのですが、

実験から離れていつもと違う環境で心身共にリ

フレッシュしつつ学術的プラスαの刺激をも

らったことで、新たな気分で実験を再開できる

かと思います。

聴覚における糖鎖の機能解明はまだまだほど

遠いですが、今回の体験を生かして、一歩一歩

(あまりゆっくりはしていられないですが……)

進んで、糖鎖研究および聴覚研究の発展に少し

でも貢献できる研究を展開していきたいと思い

ます。

最後に、本会を主催された内藤記念科学振興

財団の皆様、組織委員の先生方、参加された皆

様に深謝するとともに、益々のご発展をお祈り

申し上げます。

いろいろと……

東北薬科大学分子生体膜研究所 

博士研究員 郷  慎司

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第28回内藤コンファレンス印象記

このたびは第28回内藤コンファレンスに参加

及び発表の機会を与えていただき心から感謝致

します。今回の内藤コンファレンスへの参加は

以前に第23回内藤コンファレンス「幹細胞の維

持と分化の分子基盤[Ⅲ]」で参加させていただ

いたのに続いて2回目ですが、最初に参加した

際に面食らったのは見知らぬ先生と相部屋で過

ごすという形式でした。その際にはこういった形

式の学会の良さがわからずじまいでした。今回

も同じく見知らぬ先生との相部屋ということで

参加前までは正直言いまして嫌な心持ちでいま

した。しかし、数日間見知らぬ先生と相部屋で

過ごすことでこのような形式の学会の良さがわ

かりました。糖鎖業界には学生時代も含めて

10年くらい関わっており、多くの先生の名前

と顔が一致するくらいは知っているつもりです

が、ポスドクの私にはなかなか勇気を持って先

生がたに話しかけることができず、どうしても

人との繋がりを築くのが苦手でしたが、今回の

ように寝食を共にする場を提供していただけた

おかげで、相部屋の先生とは研究の話を中心に

いろんな話題について毎晩のように夜遅くまで

語り、少なくとも相部屋の先生とは貴重な繋が

りを築くことができたことは大変有り難く思っ

ています。同じ建物の中で数日間寝食を共にす

ることは、普段なかなか接することができない

ような先生がたと接する良い機会であり、これ

を与えてくれるのが内藤コンファレンスの魅力

だと今回わかりましたが、相部屋の先生以外の

かたとはそれほど交流できなかったことは、人

との交流を苦手とする私の課題であり、今後ま

たこのような機会に恵まれましたならば、もっ

とたくさんの先生がたに勇気を持って積極的に

話かけて人脈を築いていきたいと思いました。

今回のテーマは「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-

機能から病態まで-」であり、日本国内の糖鎖

業界で著名な先生がただけでなく、普段なかな

か聞くことのできない海外の著名な先生がたの

発表を聞くことができて大変有り難く、とても

勉強になりました。私のテーマはES細胞にお

ける主にヘパラン硫酸及びその硫酸化の機能解

析であり、今回特に印象深かったのは、やはり

同じへパラン硫酸ということで、ヘパラン硫酸

の研究で著名なJeffrey D. Esko先生のリポプ

ロテインのヘパラン硫酸を介した代謝のお話を

聞けたことでした。他にも多数の面白いお話を

聞くことができ、今後の自分の研究に役立つと

思っています。また、私のポスター発表では多

くの先生がたに聞いていただき、多少なりとも

自分の研究の面白さを伝えることができたこと

に満足しています。これも、このような発表の

機会を与えていただいたおかげだと思います。

最後になりますが、このような貴重な機会を与

えてくださったこと、そして私の研究内容を評

価していただき本助成金の受領者に選出してい

ただいた谷口先生をはじめ組織委員会の方々に

深く感謝すると共に、今後も活発に内藤コン

ファレンスが若手研究者の貴重な場として開催

されることを期待致します。

第28回内藤コンファレンスに参加して

創価大学工学部生命情報工学科

ポスドク 佐々木紀彦

後列右が筆者

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第28回内藤コンファレンス印象記

第 2 8 回内藤コンファレンス「G l y c a n

Expression and Regulation[Ⅰ]」に参加する

機会を与えてくださり、心から感謝いたします。

コンファレンス要旨集の発表タイトルと演者を

見ただけでも、今回のレベルの高さはすぐにわ

かりましたが、実際にコンファレンスに参加し

てみると、予想以上のとても刺激的で興奮しど

うしの4日間でした。国内外の糖鎖の一流研究

者の発表を、30分毎に4日間も次々に聞くこ

とができるとは、なんと贅沢な夢のような時間

でありました。また、ポスター発表では、大学

院生から教授の先生方まで様々な方が発表され

ている一方で、厳選された発表内容だけあって

すべての発表が素晴らしく、ここでもレベルの

高さを感じました。また、普段はなかなか話す

機会のない海外の先生方と、ドリンク片手に熱

くディスカッションできるチャンスを貰ったの

は、とても貴重な経験になりました。私は、

Ghent universityのNico Callewaert先生とお

話しする機会があったのですが、自分の研究

テーマが他の研究者からどのように見られてい

るか、またどんな結果や技術を求められている

かがわかり、今後の研究の視野が一段と広がっ

た気がします。国内外の一流の研究者から大学

院生までみんなが一つの部屋に集まりディス

カッションする空間に加われたのは、内藤コン

ファレンスの一番の魅力だと思っています。

私が今回発表の機会を与えられたテーマは、

「糖鎖分解酵素シアリダーゼの活性化機構」で

した。シアリダーゼを専門的に解析しているグ

ループは国内では多くないのですが、やはりシ

アル酸は糖鎖の性質を大きく作用する分子だけ

あって、多くの方からシアリダーゼに関する質

問を受けました。また、シアリダーゼもまだま

だ不明な点が多く、他の研究者がシアル酸に関

する興味深い研究を発表されていると、「シア

リダーゼが関係していないか?」と、ついいろ

いろと聞いてしまいました。

また、4日間のコンファレンスでは、2人一

部屋で宿泊しました。初対面の方と一緒に宿泊

するのは初めてだったのですが、同室の先生

(創価大・佐々木紀彦先生)が非常に良い方で、

一日目の夜から糖鎖研究や今後の研究生活につ

いて熱く語ることが出来ました。コンファレン

ス終了後も、メールを交換し、新しい研究ネッ

トワークを作っていく機会を得る事が出来て、

これも内藤コンファレンスならではと感じまし

た。(ただ、先生には私のイビキがうるさくて

迷惑をかけてしまいましたが……。)

今回のコンファレンスは、本当に刺激が一杯

でした。この経験を元に、今後も糖鎖研究に精

一杯力を注いでいきたいと思います。そしてい

つか、内藤コンファレンスでレクチャーをする

ことを目指したいと思います。最後になりまし

たが、内藤記念特定研究助成金に採択していた

だいたことに感謝するとともに、貴財団のさら

なる発展をお祈り申し上げます。

刺激的な夏の4日間を過ごして

鹿児島大学水産学部

助教  塩  一弘

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第28回内藤コンファレンス印象記

梅雨も明けた7月の終わり、澄み渡る青空の

下、神奈川県は三浦半島のほぼ中央部に位置し、

伊豆大島から富士山までを見晴らすことができ

る風光明媚な湘南国際村センターにて第28回

内藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御

[Ⅰ]-機能から病態まで-」が開催されました。

国内外の著名な先生方による最先端の研究成果

に関する御講演に加え、若手研究者による白熱

したポスター発表が行われ、多くの興味深い発

表内容に直に触れることができ、大変有意義で

刺激的な時間を過ごすことができました。また、

本会のような合宿形式だからこそ可能となる時

間をかけた密接な交流を通して、多くの先生方

と有益で深い議論をさせていただけたのみなら

ず、同世代の若手研究者の方と寝食を共にし、

お互いの仕事について熱い意見を交わせたこと

で、研究を進めていく上での喜びや苦悩を共有

し合える友人をえられた事は私にとって大切な

出会いであったと感じております。このような魅

力的な会議への参加機会を与えていただけたこ

とを組織委員の先生方、内藤記念科学振興財団

の皆様方に深く感謝し、厚く御礼申し上げます。

私はこれまで、巨視的な生命現象である免疫

システムを微視的な分子レベルの化学反応とし

て捉え直し、化学的手法を駆使することで、免

疫システムの解明と制御に挑んできましたが、

「糖鎖の発現と制御」を主テーマとした今回の

会議においては生物学を背景とされる方が大半

であり、化学を背景とする私の研究に興味を

持っていただけるか若干の不安を抱いておりま

した。しかしながら、そんな不安はPaulson先

生の講演を拝聴することで消え失せました。先

生の化学と生物学を巧みに調和させたアプロー

チに私は感銘を受け、改めて化学的手法の重要

性と威力を再認識し、臆することなく自身のポ

スター発表に臨むことができました。実際、生

物学を背景とする多くの方が私のポスターに興

味を持って下さり、有機合成化学を背景とした

アプローチが糖鎖機能解明にどのような貢献が

可能なのかをご提示できたのではないかと思い

ます。中でも「Oh! Chemist !?」と驚かれなが

らも真剣に聞いてくださったCallewaert先生

はとても印象に残っております。また、化学者

である私が勉強不足になりがちな生物学、免疫

学を中心とする内容については貴重なご意見を

たくさん頂くことができ、大変実りのあるポス

ター発表になりました。

今回の学会参加を通して私は、生物学者と化

学者が如何にお互いの長所をうまく調和させて

いくかがこの分野の発展に大変重要であると肌

で感じ、そのためには当初感じていたような化

学と生物学との学際領域に存在する見えない壁

に臆することなく挑戦していくことが必要であ

ると考えます。今後は、今回の内藤コンファレ

ンスへの参加を通じて再認識した「何事にも臆

せず挑戦することの大切さ」を念頭に置き、

様々な領域にチャレンジしていきたいと考えて

おります。

また、最後になりましたが、寄生性細菌由来

リポ多糖部分構造の化学合成およびその免疫調

節機能について報告させていただいた私の研究

が、内藤記念特定研究助成金に採択されました

ことは光栄の至りに存じ、本助成金を受領でき

ましたことに感謝いたしますとともに、貴財団

のさらなるご発展をお祈り申し上げます。

何事にも臆せず挑戦することの大切さ

大阪大学大学院理学研究科

博士研究員 下山 敦史

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第28回内藤コンファレンス印象記

この度、第28回内藤コンファレンス「糖鎖

の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」と

して湘南国際村センターで開催されました。幸

運にも栄えある本会議に参加し、これまで進め

てきた研究を発表する機会を得ることが出来ま

した。初日こそ天候に恵まれ晴天でありました

が、丘の上からのせっかくの絶景に関わらず、

その後は不運にもあまり天候に恵まれませんで

した。しかしながら、コンファレンス会場内は

逆に、初日から最終日まで、悪天候を吹き飛ば

すかのような熱気にあふれていたと思います。

糖鎖研究のそれぞれの分野では世界のトップ

レベルの研究者の先生方が一堂に会して行われ

ていることもあり、口頭での発表会場を始め、

ポスター発表の会場にあっても白熱したディス

カッションが行われていたと思います。一方で

自分の発表はどうかと見返してみると、まだま

だ自分の未熟さ、力の至らなさを痛感するとこ

ろです。しかしながら、非常に貴重な体験が出

来たと感じています。それとともに、これを糧

にして、研究者としてより成長したい、と考え

るようになりました。

私は今までに、幾つかの糖転移酵素遺伝子の

クローニングを行った後、それらが合成する糖鎖

の生物学的機能に興味を持つようになりました。

そこで、遺伝子ノックアウトマウスの作製・解析

を通じて、特に興味のあった、ポリラクトサミン

糖鎖の生物学的機能の研究を続けてきました。

今回、幸いにも、これまで行ってきた研究のま

とめとしてポスター発表に応募したものが採択

され、本コンファレンスにて発表(ポスターと

ショートトーク)させて頂きました。会期中は、

諸先生方の質疑応答を通じて、鋭い指摘や非常

に有用なアドバイスなどを多く頂くことが出来

ました。非常に多くの人が集まる一般的な国際

学会とは異なり、世界の糖鎖研究の先端を走ら

れる先生方が次から次へとポスターを訪れ、議

論を交わすことが出来るのは、合宿的な感じで

行われた内藤コンファレンスならではだと思い

ます。会議が行われている時間以外でも、食事

の時間など多くの先生方と机を囲み、研究の科

学的な話だけでなく、四方山話も語られ、有意

義な時間を共有することが出来ました。

来年度も第31回「糖鎖の発現と制御[Ⅱ]」

として開催される予定とのことで、また是非に

参加したいと思うとともに、その為にも、それ

までに自分の研究を更に進めていかなければ、

と決意を新たにするところです。

最後に、このような貴重な機会を与えて頂き

ました組織委員の諸先生方および内藤記念科学

振興財団の皆様に心より御礼を申し上げるとと

もに、本コンファレンスを機に、日本の糖鎖研

究が更なる発展を遂げていくことを祈っており

ます。そして、私自身も、少しでも貢献してい

くことが出来るように、日頃の研究をはじめ、

頑張っていきたいと思いますので、諸先生方に

は今後とも変わらずの御指導・御鞭撻を頂けれ

ば幸いです。

内藤コンファレンスに参加して

産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センター

研究員 栂谷内 晶

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第28回内藤コンファレンス印象記

第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発現と

制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」に参加する

機会を与えて頂き、有意義な時間を過ごすこと

ができました。本コンファレンスは日本版ゴー

ドンコンファレンスと言われるがごとく合宿形

式で行われたため、著名な先生方と若手研究者

達が密接に交流することができ、多くのことを

知り大変勉強になりました。内藤記念科学振興

財団の皆様および本コンファレンス組織委員の

先生方に心より感謝いたします。

私の研究分野は、病態で発現または変化する

糖タンパク質糖鎖の構造分析法の開発です。本

コンファレンスでは、糖鎖に関連した発生分化

と再生、免疫、バイオマーカー、疾患という

セッションで講演が行われました。どれも最新

の内容で大変興味深いものばかりでした。私は

そのような素晴らしい講演を聞いていると、自

分の行っている研究分野だけを掘り下げて勉強

していくこと、つまり井の中の蛙では駄目だと

気づきました。他分野の研究の先生方のお力を

お借りし、共同研究などをしてこそ、社会に還

元できる(実際に使える)成果が得られること

を知りました。私は現在、免疫と糖鎖にも興味

を持っているので、早速コーヒーブレークの時

に、その分野の権威でおられる愛知県がんセン

ターの神奈木先生に、基礎から多くの事をお聞

きしました。とてもご親切に分かりやすく教え

ていただいたので、さらなるやる気が湧いてき

ました。

本コンファレンスは合宿形式でしたが、食事

は「合宿」と言う言葉からは決して想像がつか

ない美味しいものでした。美味しい夕食を参加

者全員で頂いた後、ポスターセッションが始ま

りました。ポスター発表者が60名と少ない為、

多くの先生方に自分の研究内容を見ていただ

き、コメントを頂くことが出来ました。その中

で、論文や学会の講演壇上でしかお目にかかっ

たことのないHudson Freeze先生にも見てい

ただき、自分の研究内容でさらに行った方が良

い実験などについても教えていただきました。

ポスターセッションの後、ホスピタリティー

ルームで多くの若手研究者達がお酒を飲みなが

ら、自分達の行っている研究について話し合っ

たり、著名な先生方の研究人生における面白エ

ピソードを聞いたりして楽しみました。国内外

の著名な先生方と同じ時間を共用でき親近感が

わきました。内気な性格の私は普段、英語を話

すことが恥ずかしいのですが、その時はお酒の

力を借りた事もあり、その恥ずかしさが少し消

え、積極的に国外の先生方ともお話することが

でき有意義な一時を過せました。私にとってこ

のコンファレンスが教えてくれたことは、言う

なれば、「井の中の若蛙、素晴らしい大海を知

れ」ということだったと思います。

最後になりましたが、第39回内藤記念特定

研究助成金を受領できましたことを深謝すると

ともに、貴財団のさらなるご発展を心よりお祈

り申し上げます。

井の中の若蛙、大会で多くを知る

広島大学大学院先端物質科学研究科

助教 中 三弥子

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第28回内藤コンファレンス印象記

今回、第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発

現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」に参加

させていただいたことに深く感謝いたします。

国内外の著名な研究者の発表を聞く機会に恵ま

れ、大変有意義な時間を過ごさせていただきま

した。

内藤コンファレンスに参加したきっかけは前

所属の先生からの勧めでした。進めていた研究

の成果が少しずつ形になりはじめていたので糖

鎖の専門家の集まる今回の会議では良いディス

カッションができるのではと思い、参加を決意

しました。実際に参加してみますと、期間中は

講演時以外にもあちこちで糖鎖研究に関する熱

い討論が繰り広げられていました。一般的な学

会へはこれまでに何度も参加したことがありま

したが、このような合宿形式の会議への参加は

初めてでした。朝昼晩と食事を一緒にとり、適

度な大きさの会議場で最新の研究発表を朝から

夕方まで聞く、夜はポスター発表でじっくり討

論を繰り広げる、そんな4日間でした。

さて、4月から現所属に異動し、新しい環境

の中で四苦八苦する毎日の中、気がつくと内藤

コンファレンスの開催が眼前に迫っていました。

授業やら試験の準備、研究、その他デスクワー

クなどの時間の合間をぬって、慌ててポスター

の準備を進めているといろいろと気がつくこと

がありました。個体数を追加する必要がある、

あの写真がいる、データの解析方法を変えよう

など、発表の準備は頭の中を整理する良い機会

となりました。専門の研究者が多く集まる会議

ですから、鋭い指摘も来るだろう、十分な準備

をしなければならない。そんな思いもあり、ポ

スターの準備をしたことを記憶しています。

実際のコンファレンスの雰囲気についてです

が、会場は想像していたよりもアットホームで、

非常に和やかな雰囲気でした。ポスター自体は

会期中の3日間ほど貼りだしておき、講演の合

間の休憩時間や食事休憩中などにも閲覧が可能

な状態になっていました。また、会場には飲み

物やクッキーなども用意されていて、それらを

口にしながらディスカッションが行われている

というものでした。決められたポスターセッ

ション時間は夕食後になっていて、中には顔を

赤くした先生もいらっしゃいました。しかし、

ディスカッションする内容は鋭く、適切で非常

にアクティブな時間でした。著名な先生がポス

ターを見に来てくださると少し緊張もするかも

しれませんが、とても参考になるアドバイスが

頂けたことを記憶しております。

最後になりましたが、このような貴重な体験

をさせていただいた組織委員の先生方並びに内

藤記念科学振興財団の皆様、また参加を勧めて

くださりました前所属門松健治先生に深く御礼

申し上げます。本当にどうもありがとうござい

ました。

第28回内藤コンファレンスに参加して

山梨学院大学健康栄養学部

講師 名取 貴光

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第28回内藤コンファレンス印象記

第28回内藤コンファレンスに参加する機会

を与えていただき、心より感謝いたします。私

は今回、初めて内藤コンファレンスに参加させ

ていただいたのですが、参加されている諸先生

方、研究者の方々の行われている研究のレベル

の高さ、寝食を共にして行われるミーティング

の密度、行き届いたホスピタリティにいたるま

で、その素晴らしさに感動しました。

私の参加させていただいた第28回内藤コン

ファレンスは「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能

から病態まで-」をテーマとしたものでした。

私はショウジョウバエを用いた発生遺伝学的手

法によって糖タンパク質の一種であるヘパラン

硫酸プロテオグリカンの生体内における機能を

研究しています。本コンファレンスのテーマで

ある糖鎖研究の分野は、私の持つイメージでは

生化学的手法を用いた研究が主流であり、私の

ようなショウジョウバエを用いた遺伝学的研究

がどのくらい受け入れていいただけるのか不安

でしたが、多くの研究者の方々に興味を持って

頂くことができ非常に嬉しく思いました。特に

カリフォルニア大学のJeffrey D. Esko先生や

創価大学の西原祥子先生には研究の展開につい

て、とても建設的なコメントをいただけて嬉し

く思いました。また一方で、ふだんあまりディ

スカッションする機会を持つことが出来ない糖

鎖構造を専門にしていらっしゃる諸先生方から

は厳しくも的確なご意見をいただくことがで

き、自身の研究について視野を拡げて頂けたよ

うに思います。このように異なった分野の研究

者の方々と濃密なコミュニケーションをとるこ

とが出来る機会というのは非常に稀で、通常の

学会活動では得ることが出来ない貴重な時間を

すごさせて頂きました。自身の研究の展望、あ

るいは克服しなくてはならない点について、自

分では実感をもって感じられなかったものが、

諸先生方とのディスカッションのなかではっき

りしたように思います。

異分野の交流という意味で私にとってとても

新鮮だったのは、この糖鎖研究の医学分野への

貢献についてです。ショウジョウバエの発生遺

伝学をバックグラウンドにもつ私は、ふだん基

礎的な生物学分野の研究者とは交流があり、ま

たそのような分野の学会に参加する一方で、臨

床医学まで含めた医学分野における糖鎖科学の

意義について実感する機会はあまり得られてき

ませんでした。本コンファレンスにおいては、

糖鎖構造と癌を初めとする様々な病態の関係を

示す様々な発表がありました。またその具体的

な医療応用についての技術等の素晴らしい知見

が述べられていました。そのような研究は私に

とってとても新鮮で、自身も関わるこの糖鎖科

学という分野の意義について強く再認識させら

れ、また研究への新たなモチベーションを与え

て頂けたと感謝しております。

最後になりましたが、このような貴重な機会

を与えてくださった組織委員の諸先生方、なら

びに内藤記念科学振興財団の皆様に深く感謝す

るとともに、貴財団のさらなるご発展をお祈り

申し上げます。

第28回内藤コンファレンス印象記

基礎生物学研究所岡崎統合バイオサイエンスセンター

助教 林  良樹

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第28回内藤コンファレンス印象記

この度は、平成22年7月27日~30日に湘南

国際村センターにおいて開催された第28回内

藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-

機能から病態まで-」にポスター発表者として

参加させていただきました。4日間、素晴しい

環境で素晴しい方々に囲まれてポスター発表を

させていただきました。参加させていただいた

ことを非常に光栄に思っております。内藤記念

科学振興財団や、コンファレンスのスタッフの

方々には本当に感謝しております。ありがとう

ございました。

今回、インターナショナルなコンファレンス

におきまして初めてポスター発表をさせていた

だきました。この発表で、今の自分に足りない

ものをたくさん見つけることができました。英

語ポスター作製の要領の悪さから始まり、コ

ミュニケーション能力の欠如、様々な実験方法

に対しての知識の不足、説明方法の悪さなど、

このほかにも今の自分に足りないものが多く存

在していることが分かりました。この中で特に

問題であると思ったのは、コミュニケーション

能力の不足でした。なぜ自分の、コミュニケー

ション能力が低いのかといいますとそれは知識

の不足からくるというのは明らかでした。私自

身、Notchの糖鎖修飾に関しての研究を行って

おりますため、その話については良くコミュニ

ケーションをとることができました。しかし、

他の分野ともなりますと、最も基本的な解析方

法や、物質名が分からないということが多々あ

りました。今回のコンファレンスの発表は何が

今自分に不足しており、必要なものは何なのか

ということを分からせていただける機会であっ

たのではないかと思いました。

また、今回のコンファレンスでは、国外の著

名な研究者の方々が出席されておりました。ポ

スター発表セッション時はNotchの分野で研究

されている海外の方もいらっしゃいました。英

語は大丈夫かなどの不安要素は沢山ありました

が、何とか言いたい事は伝わったのではないか

と思います。しかし、グローバル化の時代につ

いていくためにも英語というコミュニケーショ

ンツールはしっかりと身につけなければならな

いものであり、また非常に重要なものであると

いうことを改めて思い知ることになりました。

本コンファレンスはとても密度の濃いものにな

りました。口頭発表やポスター発表の内容はも

ちろん、先輩方の話を聞くことができ、研究者

として何をしていけばよいのであろうかという

ことを考える機会でもありました。このような

素晴しいコンファレンスが今後も続いて開催さ

れることを希望しています。

第28回内藤コンファレンス印象記

東京理科大学基礎工学部

研究員 松本顕治郎

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第28回内藤コンファレンス印象記

今年の夏は日本各地で連日記録的な猛暑とな

りました。ちょうど気温が上がり始めた7月末

から糖質研究の国際イベントが3つ立て続けに

国内(関東)で開催され、まさに日本の糖質研

究にとっても熱い夏となりました。第28回内

藤コンファレンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]」

(7月27~30日)を皮切りに、7th International

Symposium on Glycosyltransferases(GlycoT2010、

7月 31日~8月1日)、25th International

Carbohydrate Symposium(ICS2010、8月2~

6日)と、約2週間も糖質と英語に浸かるとい

う、日本にいてこのような機会を経験すること

は非常に稀なことではないでしょうか。ともあ

れ、仕事モードと勉強(学会)モードの気持ち

の切り替えを考える必要もなく、イベント期間

中は勢いで勉強モードを維持し続けられたこと

で、(また、完全に雑務を忘れ去ったことで、)

非常に集中して講演を聴くことができました。

特に、招待されていた国外の先生方は、論文

や総説は必読とされるくらいの非常に著名な研

究者の方々で、そうした先生方の講演を直接拝

聴できたことはもちろんのこと、自分の発表を

見てもらいコメントを頂けたことは非常によい

勉強になりました。また、こんなことを書くと

「なんと情けないことだ」と怒られてしまいそ

うですが、日本に来て講演される外国人研究者

の方には、日本人の英語力に配慮して話して下

さる方が多く、海外の学会に参加して聞くより

も分かりやすく、英語の聞き取りに不安のある

私にとっては助かりました。しかしながら日本

人の英語力向上はこれからの国際競争において

必須であることも周知のとおりです。自分も含

め、こうした研究会に参加して海外の研究者と

コミュニケーションした際に、上手く説明でき

なかったり、相手のコメントを正しく理解でき

なかったりと、身をもって悔しい思いを数多く

経験することは、自分のレベルを知りステップ

アップして行くために必要なことです。海外で

開催される学会に度々参加することは時間的に

も費用的にも簡単なことではありませんので、

内藤コンファレンスのように英語限定合宿形式

の研究会は大変貴重な経験ができるところだと

思います。コンファレンス及び各シンポジウム

の企画運営には相当な御苦労があったことと思

います。こうして得られました貴重な経験と知

識を生かして、今後の糖鎖研究の発展に微力な

がら貢献できればと思います。

末筆になりましたが、今回の内藤コンファレ

ンスでは口頭発表する機会を与えて頂き、さら

に内藤記念特定研究助成金によるご支援を頂け

ることになりました。組織委員の先生方、なら

びに内藤記念科学振興財団の皆様に深く感謝い

たします。

熱い夏のはじまり

東京都健康長寿医療センター研究所

研究員 萬谷  博

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第28回内藤コンファレンス印象記

私は糖鎖の視点から記憶のメカニズムを明ら

かにすることを目指して、2年前に研究をス

タートしました。ようやく研究が軌道に乗り始

め、研究成果を発表させて頂く機会を探してい

る最中、第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発

現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」の開催

案内を当研究室の鈴木隆教授より頂きました。

国内外の著名な糖鎖研究者が多く参加されるこ

とから、糖鎖研究ではまだ新参者の私にとって

良いディスカッションの場であると感じ、迷わ

ず参加を決意しました。

会議では朝9時前から夕方5時過ぎまで招待

講演が行われ、続いて夕食後にはポスター発表

が夜9時過ぎまで行われるサイエンス漬けの

日々を送りました。発表では、今後の糖鎖研究

が進む方向を予見させる見事な内容が数多く報

告されました。また、論文に掲載されていない

研究成果の発表も多数見受けられました。これ

は、本コンファレンスがクローズドな会議であ

ることに起因していると

考えられ、内藤コンファ

レンスの特徴の一つだと

思います。

本コンファレンスにお

いて私は、「てんかん発

作に伴ったラット海馬に

おける細胞外シアリダー

ゼ活性の上昇」というタ

イトルでポスターを発表

させて頂きました。ここ

では、脳内における糖鎖

修飾関連酵素の活性強度

の分布と、糖鎖構造が神

経の興奮と連動して変化

することを報告させて頂

きました。これは、私が神経生理学の分野で利

用してきた解析手法を、糖鎖生物学の分野に応

用して得られた成果です。多くの先生方と議論

を交わす中で、研究を進める上でのヒントを数

多く頂くと同時に、現在行っている研究に対す

る自信を得ることができました。

これまでに大きな学会にしか参加してこな

かった私は、3泊4日の合宿形式で行われる内

藤コンファレンスにおいて、こんなにも短時間

に研究者同士が密接に交流できるものかと驚き

ました。会議後にホスピタリティールームで毎

晩行われる交流会では、日本の糖鎖研究をリー

ドする先生方とアルコールを片手に夜遅くまで

お話することができ、有意義な時間を過ごすこ

とができました。また、内藤コンファレンスの特

徴のひとつとして、若手の参加者が多く参加し

ていることが挙げられます。同年代の同じ研究

領域の研究者と知り合い、親交を深めることが

できたことは最も大きな成果だと感じています。

最後になりましたが、このような貴重な機会

を与えて下さったオーガナイザーの先生方、な

らびに内藤記念科学振興財団の皆様に心より感

謝いたします。

第28回内藤コンファレンスに参加して

静岡県立大学大学院薬学研究科

助教 南   彰

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左から2人目が筆者

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第28回内藤コンファレンス印象記

2010年7月27日~30日にて湘南国際セン

ターにて行われました、第28回内藤コンファレ

ンス「糖鎖の発現と制御[Ⅰ]-機能から病態

まで-」に参加いたしました。今回が私にとっ

て初めての内藤コンファレンスへの参加でした。

まず会議への参加を決めてからは「ポスター発

表の60名に選ばれるのだろうか」と、参加が認

められてからは、「参加するならば是非助成金を

いただけるよう良いプレゼンがしたい」と、期待

と不安が入り交っていました。学会が終わった

今は、またチャンスがあれば是非この会議に参

加したいと非常に強く感じています。

学会は湘南の人里離れた場所で開催され、

4日間みっちりと研究のことだけに向き合える

環境でした。また研究者同士が、寝食を共にす

ることから、通常の学会と比べ研究者同士の交

流が非常に密におこなえると感じました。また

環境のみならず、10名の海外研究者を含めた

招待講演は、いずれも興味深く、データの量、

質とともに圧倒されるものでした。さらには、そ

の後の食事や懇親会の時間に発表した先生方の

考え方や研究哲学なども聞けたことは、私のよ

うな若手研究者にとっては非常に良い経験でし

た。このような経験は、内藤コンファ

レンスのような会議スタイルだからこ

そできたのだと思います。

私は、神経幹細胞におけるHNK-1

糖鎖の機能について発表させていただ

きました。iPS細胞が樹立されて一段

と注目されている幹細胞の研究ですが、

糖鎖に関する研究はまだまだ少なく、

たとえば既に分化マーカーとして用い

られているSSEA-1糖鎖抗原であって

もまだその機能はほとんどわかってい

ません。一部の先生からは非常の競争

の激しい分野だが、今後この研究領域では絶対

糖鎖を無視することはできなくなるよと言われ、

自分の着眼点は良かったのだと自信が持てまし

た。また学生時代から糖鎖研究には携わってき

ましたが、神経幹細胞の研究は1年前に始めた

ばかりでしたので、糖鎖の分野だけでなく、こ

れからは神経科学の分野にも積極的に打って出

なさいと叱咤激励も頂きました。

ポスター発表はみっちり2時間とっていただ

いていましたが、次から次に多くの先生方と討

論を交わすことができ、あっという間に時間が過

ぎてしまいました。特にDennis博士(Samuel

Lunenfeld Resarch Institute)にディスカショ

ンをしていたき有益なアドバイスをいただいた

ことが印象に残っています。またポスター発表

後にも、ホスピタリティールームを用意していた

だき、ワインを片手に毎晩遅くまで同世代の研

究者や著名な先生方と話す機会を得ることがで

き、非常に良い刺激を受けることができました。

毎日の朝、昼、晩のおいしいお食事と毎晩の懇

親会により、体重が増加したことは言うまでも

ありません。

最後に、このような素晴らしい会議への参加

および発表の場を与えてくださいました、オー

ガナイザーの先生方、内藤記念科学振興財団の

皆様に心より感謝を申し上げます。この会議で

得た経験を糧に、今後の研究を実りあるものに

するよう努めてまいりたいと思います。

内藤コンファレンスに参加して

名古屋市立大学大学院薬学研究科

助教 矢木 宏和

右から2人目が筆者

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Page 37: 87 28 ï Ó 3 Z87 セッションA (8:45~11:45) 1 “Medical application of lectin microarray: a powerful technology for differential glycan profiling” 産業技術総合研究所

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第28回内藤コンファレンス印象記

今回第28回内藤コンファレンス「糖鎖の発

現と制御[Ⅰ]-機能から病態まで-」に参加

させていただきました。近年の糖鎖生物学は、

特に様々な疾患との関与が明らかとなってきて

いることもあり、他分野の研究者から見ても非

常にエキサイティングな分野となってきている

のではないかと思っています。それを裏付ける

ような興味深いトピックスが、国内外の一流研

究者の招待講演はもちろんのこと、ポスター発

表でも数多く見られ、非常に勉強になりました。

糖鎖の生物学的な役割、糖鎖が関与する疾患、

糖鎖を利用したバイオマーカーの探索と新技術

の開発、といった基礎研究から応用研究までバ

ランスよく演題として出されていたことは、こ

の分野における層の厚さを感じましたし、糖鎖

生物学のこれからの方向性が見えたような気が

します(個人的にはもう少し細胞生物学的な分

野に関する講演があったらなおよかったので

は、と思いました)。

私自身“Globotriaosylceramide(Gb3)is

Reduced by the Expression of Hydrophobic

Polypeptides Including TMBIM Family:

Isolation of Shiga Toxin-Resistant Genes”と

いうタイトルでポスター発表させていただきま

したが、2時間の質疑応答があっという間に終

わってしまいました。オーガナイザーの先生方

をはじめ多くの方々に聞いていただき、また貴

重な御指摘をいただけたことで、自分自身の考

えも整理出来ましたし、研究の方向性も見えて

きました。このようなリラックスした中でも厳

しい意見の飛び交う雰囲気は、こぢんまりとし

たこのようなコンファレンスならではだと思い

ます。

そして今回内藤コンファレンスに参加して一

番の収穫は、他の若手研究者も同じかもしれま

せんが、多くの知り合いが出来たことです。糖

鎖生物学の分野は日本のお家芸ともあって糖質

学会をはじめ多くの学会等がありますが、研究

者同士(特に若手)の交流ということに関して

いえば、やはりこのコンファレンスのようなス

タイルが一番だと思います。おかげで夜遅くま

で時間を気にせず、ビールやワインを片手に多

くの方々と話をすることが出来ました。このよ

うなセッティングをしてくださった内藤記念科

学振興財団のスタッフの方々には頭の下がる思

いです。

私のように懐の寒い若手(というには年齢が

いっていますが)研究者にとって、このような

機会は非常に貴重な交流の場です。是非このよ

うなコンファレンスが今後とも継続され、また

増えていくことを期待しております。最後にな

りましたが、このような機会を与えてくださっ

た組織委員の先生方、ならびに貴財団に深く感

謝致します。

貴重な交流の場

国立感染症研究所

主任研究官 山地 俊之

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