a 0.6 0.8 v 異形鉄筋のダウエル作用におけるせん断力-ずれ変位 …

3
異形鉄筋のダウエル作用におけるせん断力-ずれ変位曲線形状に関する研究 1190140 平岡拓真 指導教員 島 1.はじめに RC 部材のひび割れ面には,せん断力に対して鉄筋自 身の曲げで抵抗するダウエル作用が存在し,ずれ変位 を抑制してくれる。そのため,ダウエル作用は RC 部材 のせん断設計を考える上で重要になってくる。しかし, ダウエル作用における「せん断力-ずれ変位関係」は fib 1) に提示されている曲線式のみで,その曲線式も影響 因子が少なく,未確定係数もある。そこで,本研究では, 過去の論文 2,3の実験結果を収集し,そのデータからよ り精度の高い曲線式を提案する。 2.研究の現状と問題点 類似のものとして,頭付きスタッドに関しては,島・ 渡部 4) により曲線式が定義されているダウエル作用に 関して,唯一 fib 1) で提示されている曲線式には影響因子 が少なく,影響を与えると思われる引張力も考慮され ていないのが現状であり,実設計では使えないのが問 題である。 3.研究方法 過去の論文 2,3から,引張力の影響を考慮したダウエ ル作用における「せん断力-ずれ変位関係」の図を収集 した。ダウエル作用に関しても,頭付きスタッドに似た 曲線式になるのではないかと考え,(1)の島らの曲線 4) をもとに 17 種類すべてのグラフの近似曲線をフィ ッティングし,それぞれの係数 αβ の値を記録した。 =1− −( ) (1) ここで,V:せん断力,δ:ずれ変位,:鉄筋直径であ り,Vu には最大ダウエル力の実験値を用いた。 4.結果と考察 実験結果に対する αβ を特定するためのフィッティ ングの例を図1に示す。この時, α=32β=1 である。ダ ウエル作用のせん断力-ずれ変位曲線は,頭付きスタ ッドと同様の曲線式で表すことができることが分かる。 せん断力-ずれ変位関係の曲線形状に影響を及ぼす 要因のひとつが軸方向鉄筋の引張力 T と思われる。そ こで,鉄筋径の降伏強度 fy に対する軸方向引張応力 T/As の比である引張応力比(T/Asfy)と α の関係を図2に示 す。引張応力比が大きくなると α が小さく(曲線の曲率 が小さく)なることがわかる。直線は,引張応力比の違 いに対する近似直線を示している。この図から α は引 張応力比だけでなく,他の要因も影響していることが 分かる。β に関しても同様である。 曲線形状に影響する他の要因としては,コンクリー ト強度とかぶり厚さが考えられる。そこで,それらの影 響をずれ変位に対する影響と考えて処理することとし, ずれ変位は鉄筋径に比例するという式(1)に対して,コ ンクリート強度とかぶりは最大ダウエル力には影響す キーワード ダウエル作用,引張力,せん断力-ずれ変位関係 連絡先 〒782-8502 高知県香美市土佐山田町宮ノ口 185 高知工科大学システム工学群建築・都市デザイン専攻 図1 せん断力-ずれ変位関係のフィッティング例 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 0.03 0.06 0.09 0.12 0.15 0.18 V/A δ/ 近似曲線 D19(Cs50)-0.8 図2 α-T/Asfy 関係 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 α T/Asfy 近似直線 D25(Cs50) 近似直線 D19(Cs50) 近似直線 D16(Cs80) 近似直線 D16(Cs64) 近似直線 D16(Cs48) 近似直線 D16(Cs32)

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Page 1: A 0.6 0.8 V 異形鉄筋のダウエル作用におけるせん断力-ずれ変位 …

異形鉄筋のダウエル作用におけるせん断力-ずれ変位曲線形状に関する研究

1190140 平岡拓真

指導教員 島 弘

1.はじめに

RC 部材のひび割れ面には,せん断力に対して鉄筋自

身の曲げで抵抗するダウエル作用が存在し,ずれ変位

を抑制してくれる。そのため,ダウエル作用は RC部材

のせん断設計を考える上で重要になってくる。しかし,

ダウエル作用における「せん断力-ずれ変位関係」は

fib1)に提示されている曲線式のみで,その曲線式も影響

因子が少なく,未確定係数もある。そこで,本研究では,

過去の論文 2,3)の実験結果を収集し,そのデータからよ

り精度の高い曲線式を提案する。

2.研究の現状と問題点

類似のものとして,頭付きスタッドに関しては,島・

渡部4)により曲線式が定義されている。ダウエル作用に

関して,唯一 fib1)で提示されている曲線式には影響因子

が少なく,影響を与えると思われる引張力も考慮され

ていないのが現状であり,実設計では使えないのが問

題である。

3.研究方法

過去の論文 2,3)から,引張力の影響を考慮したダウエ

ル作用における「せん断力-ずれ変位関係」の図を収集

した。ダウエル作用に関しても,頭付きスタッドに似た

曲線式になるのではないかと考え,式(1)の島らの曲線

式4)をもとに 17 種類すべてのグラフの近似曲線をフィ

ッティングし,それぞれの係数 α,β の値を記録した。

𝑉

𝑉𝑢= 1 − 𝑒

−𝛼(𝛿

𝜙)𝛽

(1)

ここで,V:せん断力,δ:ずれ変位,:鉄筋直径であ

り,Vu には最大ダウエル力の実験値を用いた。

4.結果と考察

実験結果に対する α,β を特定するためのフィッティ

ングの例を図1に示す。この時,α=32,β=1 である。ダ

ウエル作用のせん断力-ずれ変位曲線は,頭付きスタ

ッドと同様の曲線式で表すことができることが分かる。

せん断力-ずれ変位関係の曲線形状に影響を及ぼす

要因のひとつが軸方向鉄筋の引張力 T と思われる。そ

こで,鉄筋径の降伏強度 fyに対する軸方向引張応力 T/As

の比である引張応力比(T/As・fy)と α の関係を図2に示

す。引張応力比が大きくなると α が小さく(曲線の曲率

が小さく)なることがわかる。直線は,引張応力比の違

いに対する近似直線を示している。この図から α は引

張応力比だけでなく,他の要因も影響していることが

分かる。β に関しても同様である。

曲線形状に影響する他の要因としては,コンクリー

ト強度とかぶり厚さが考えられる。そこで,それらの影

響をずれ変位に対する影響と考えて処理することとし,

ずれ変位は鉄筋径に比例するという式(1)に対して,コ

ンクリート強度とかぶりは最大ダウエル力には影響す

キーワード ダウエル作用,引張力,せん断力-ずれ変位関係

連絡先 〒782-8502 高知県香美市土佐山田町宮ノ口 185 高知工科大学システム工学群建築・都市デザイン専攻

図1 せん断力-ずれ変位関係のフィッティング例

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0 0.03 0.06 0.09 0.12 0.15 0.18

V/A

δ/

近似曲線

D19(Cs50)-0.8

図2 α-T/As・fy関係

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

α

T/As・fy

近似直線 D25(Cs50)近似直線 D19(Cs50)近似直線 D16(Cs80)近似直線 D16(Cs64)近似直線 D16(Cs48)近似直線 D16(Cs32)

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るが,初期剛性にはあまり影響しないことから,さらに

ずれ変位を式(2)で正規化した。

𝛾 = (𝛿

)/(

𝑓’𝑐

𝑓’0)/(

𝐶𝑠

) (2)

ここで,fc’:コンクリート強度 (N/mm2),f0

’=30N/mm2

cs:かぶり (mm),:鉄筋直径 (mm),

これを横軸とした式(3)を用いて,図3に示すように改

めてフィッティングを行った

𝑉

𝑉𝑢= 1 − 𝑒−𝛼𝛾

𝛽 (3)

改めて求めた α,β の結果を図4および図5に示す。ず

れ変位にコンクリート強度とかぶりの影響を考慮した

ことで,α,β は引張応力比に対してひとつの直線式で

表すことができることが分かる。ここで、β に関しては

図5より、横一直線で表せるため 0.71の一定値とし、α

に関しては直線式として,図3に示す式(4)を構築した。

𝛼 = −10(𝑇

𝐴𝑆・𝑓𝑦) + 31 (4)

ここで,T:鉄筋引張力 (N), fy:降伏強度 (N/mm2)

As:鉄筋断面積 (mm2)

式(2)から式(4)を用いたモデルによる曲線と実験結果

とを比較した例を図6に示す。多少の誤差は生じたが

近い曲線となっている。

5.まとめ

(1) ダウエル作用のせん断力-ずれ変位曲線は,頭付

きスタッドと同様の曲線式で表すことができる。

(2) ずれ変位に鉄筋径,コンクリート強度およびかぶ

りを考慮することで,曲線形状を表す係数 α は鉄筋引

張応力比に対して一つの式、βは一定値で表せる。

(3) 曲線形状係数 α および β と鉄筋引張応力比との関

係を直線式および一定値で表した曲線式を構築し,精

度を検証した。

参考文献

1) fib CEB・FIP Model code 2010 Final draft Volume 1

2) 鈴木基行,中村泰介,堀内 信,尾坂芳夫:軸方向鉄筋の

ダウエル作用に及ぼす引張力の影響に関する実験的研究,

土木学会論文集,No426/V-14,pp.159-166,1991

3) 品川幸次郎,日比野憲太,高木宣章,小島孝之:RC 部材の

ダウエル作用に及ぼす軸方向鉄筋の引張力の引張力の影響,

コンクリート工学年次論文集,Vol.27, No2,2005

4) 島 弘,渡部誠二:頭付きスタッドのせん断力-ずれ関係

の定式化,土木学会論文集 A,Vol64,No4,pp.935-947,2008

図4 α‐T/As・fy関係

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

α

T/As・fy

定式線 D25(Cs50)D19(Cs50) D16(Cs80)D16(Cs64) D16(Cs48)D16(Cs32)

図5 β‐T/As・fy関係

0.6

0.62

0.64

0.66

0.68

0.7

0.72

0.74

0.76

0.78

0.8

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

β

T/As・fy

定式線 D25(Cs50)D19(Cs50) D16(Cs80)D16(Cs64) D16(Cs48)D16(Cs32)

図3 せん断力-ずれ変位関係の再フィッティング例

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

V/A

((δ/)/(f’c/f’0))/(Cs/)

近似曲線

D19(Cs50)-0.8

図 6 せん断力-ずれ変位関係式の検証

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

V/A

((δ/)/(f’c/f’0))/(Cs/)

定式曲線

D19(Cs50)-0.8

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