Ⅱ 外国為替市場と為替レート - kyoto u2.5 90( / ) 225 =1 225 225 × = =...
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Ⅱ 外国為替市場と為替レート 1.外国為替市場の構造 2.為替レートのフロー・アプローチ 3.変動相場制と固定相場制 4.名目為替レートと実質為替レート 5.二国間為替レートと多国間為替レート (実効為替レート) 6.直物為替レートと先物為替レート Ⅱ-4の補論:裁定取引・一物一価・ユーロ危機
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1.外国為替市場の構造
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1.外国為替市場の構造(cont.) (1)外国為替市場の構成者 ①顧客(輸出入業者など) ②銀行(ディーラー=トレーダー) ③為替ブローカー ④中央銀行 (2)外国為替市場の分類
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2.外国為替市場の需給均衡 (為替レートの変化とドル需要・供給の変化)
•リンゴの需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がり リンゴの価格が下がれば、リンゴの需要は増え(安いときに買い)、価格が上がれば供給は増える(高いときに売る) 。
•ドルの需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がり ドルの価値が下がれば、ドル需要は増え(安いときに買い)、価値が上がれば供給が増える(高いときに売る) 。
ドル安・円高 (ドル高・円安)
輸出の減少 (輸出の増加)
輸入の増加 (輸入の減少)
ドル供給の減少 (ドル供給の増加)
ドル需要の増加 (ドル需要の減少)
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2.外国為替市場の需給均衡(cont.) (為替レートの増価と減価)
•為替レート(自国通貨[邦貨]建て) →外国通貨1単位(1ドル)の価値を、自国通貨(円)で表示した値。 →1ドル=100円 (リンゴ1個=100円) →S=100 (p=100) •自国通貨の増価(appreciation) →自国通貨(円)の価値が上昇すること(=円高) →1ドル=90円 (リンゴ1個=90円) → S=90 (=ドル安)→ S↓ •自国通貨の減価(depreciation) →自国通貨(円)の価値が下落すること(=円安) →1ドル=110円 (リンゴ1個=110円) → S=110 (=ドル高)→S↑ (注)固定相場制の場合 切り上げ(revaluation) or 切り下げ(devaluation)
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2.外国為替市場における需給均衡(cont.) [フロー(国際収支)アプローチによる円高・円安要因]
円高要因=国際収支表の貸方(受取項目+) 円安要因=国際収支表の借方(支払項目ー)
貸方 (受取項目+) 借方 (支払項目-) 資産の減少・負債の増加 資産の増加・負債の減少 商品輸出による受取 商品輸入による支払 自国への投資=資本流入 外国への投資=資本流出
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世界の外国為替市場の規模
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3.固定相場制と変動相場制 固定相場制(数量調整) 外国為替市場における外貨(ドル)の超過供給・超過需要を、通貨当局が公定価格($1=¥360)で無制限に売買すること(為替平衡操作=為替介入)によって、需給調整を行う制度。
⇒外貨準備の大きさは、受動的に決まる。 変動相場制度(価格調整) 外国為替市場における外貨(ドル)の超過供給・超過需要を、為替レートの変化($1↗↘¥360)によって、需給調整を行う制度。
⇒外貨準備は、原則として、必要としない。
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4.名目為替レートと実質為替レート •名目為替レート(nominal exchange rate) :$1=¥100 日本で100円を支払えば1ドルに両替して、アメリカ旅行をすることはできる。
•実質為替レート(real exchange rate):外国財1個=国内財1.5個 ・日本で100円を支払えば購入できる財が、アメリカでも1ドルを支払って購入できるとは限らない。
・例えば、日本では200円で購入できるハンバーガーが、アメリカでは3ドルで販売されているとしよう。この場合、日本において200円で購入できるハンバーガーは、アメリカでは300円(100円×3ドル)も支払わなければならない。
・アメリカのハンバーガー1個は、日本では1.5個に相当する。 •円高になれば、外国旅行をするには名目的には(両替だけを考えると)ありがたいが、日本よりも外国の物価水準の方が高ければ、外国旅行をしても実質的な(両替したドルで実際にどれだけの買い物ができるかを考えると)ありがたみは少ない。
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名目為替レートと実質為替レート ・名目為替レート(nominal exchange rate):S 「1単位の外国通貨(1ドル)が、何単位の自国通貨(100円)と交換されるか」
を意味する比率(2国間の通貨の相対価格) =名目(貨幣)タームで定義された為替レート ・実質為替レート(real exchange rate):Q 「1単位の外国財(ハンバーガー1個)が、何単位の自国財(ハンバーガー1.5
個)と交換できるか」を意味する比率(2国間の財の相対価格) =実質(実物)タームで定義された為替レート Sの値が小さく(大きく)なること=自国通貨の名目増価(名目減価) 1単位の外国通貨を得るために、より少ない自国通貨を交換すればよくなる
(より多くの自国通貨を交換しなければなくなる)こと Qの値が小さく (大きく)こと=自国通貨の実質増価 (実質減価) 1単位の外国財を得るために、より少ない自国財を交換すればよくなる(より
多くの自国財を交換しなければなくなる)こと
* *P S PQ SP P
×= × = =
自国通貨で測った外国の物価水準
自国通貨で測った自国の物価水準
100[ /$] 3[$] 1.5200[ ]
×= = =自国通貨で測った外国財の価格 ¥
実質為替レート自国通貨で測った自国財の価格 ¥
裁定取引と一物一価
自動車価格 名目為替レート 実質為替レート
日本 200万円(↗225万円) 1ドル=100円
(↘90円) 1.5(↘1)
アメリカ 3万ドル (↘2.5万ドル)
実質為替レート (自国財に対する外国財の相対価格)
3 100( / ) 300=
200 2001.5
×= =
アメリカ製自動車 万㌦ 円 ㌦ 万円
日本製自動車 万円 万円
=自国通貨で測った外国財の価格
自国通貨で測った実質為替レート
自国財の価格
2.5 90( / ) 225= 1
225 225
×= =
アメリカ製自動車 万㌦ 円 ㌦ 万円
日本製自動車 万円 万円
一物一価になったときの名目為替レート=購買力平価(PPP)
PPP=225万円/2.5万㌦=90円/㌦
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実質為替レートの数値例
ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 ケース5
①名目為替レート (S) 100円
90円(名目増価)
100円 100円 90円(名目増価)
②アメリカ製自動車(P*) 2万ドル 2万ドル 2万ドル
3万ドル (外国のインフレ)
3万ドル (外国のインフレ)
③アメリカ製自動車(SP*) 200万円 180万円 200万円 300万円 270万円
④日本製自動車 (P) 200万円 200万円
250万円 (自国のインフレ)
200万円 200万円
⑤実質為替レート(SP*/P) 1 0.9(実質増価) 0.8(実質増価) 1.5(実質減価) 1.35(実質減価)
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実質為替レートと交易条件
• 実質為替レートは、次のように定義される交易条件(terms of trade)の逆数である。
• 自国通貨の実質増価(Qの値が小さくなること) =交易条件の改善(ttの値が大きくなること) • 自国通貨の実質減価(Qの値が大きくなること) =交易条件の悪化(ttの値が小さくなること)
1ttQ
= = =輸出財物価水準
交易条件輸入財物価水準
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5.実効為替レート(Effective Exchange Rate) • 実効為替レートとは、多数の外国通貨に対する自国通貨の価値
を加重平均した指数。自国通貨の外国通貨に対する全般的な変動を表す値。加重平均する時のウェイトは、貿易量や経済関係の密接さなどから求められる。
• 一口に「円高」と言っても、ドルに対してのみ上昇している場合と、他の多くの通貨に対して上昇している「円の独歩高」の場合では、円高の原因が、円にあるのかドルにあるのかが違うし、また円高が日本の対外競争力に及ぼす影響も異なってくる。
• 名目実効為替レート:名目為替レートの変化を加重平均した指数 • 実質実効為替レート:実質為替レートの変化を加重平均した指数。
総合的な通貨価値の判断材料としては後者がより正確。 • 当該国の総貿易量に占めるi国への貿易量の割合(ウェイト)をwi
とし、当該国通貨の第i国通貨に対する為替レートをeiとすると、
幾何加重平均 ・・・実効為替レート
算術加重平均 ・・・実効為替レート
:)1()(
:)1(21
21
2211
∑∑ ∑
=×××=Π=
=+++==
iw
nwww
i
innii
weeee
wewewewewni
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実効為替レート(cont.) • 具体的には、ある通貨と主要な他通貨間の為替レートを、当該相手国・地域間の貿易量などでウェイトづけた加重平均し、基準時を100とした指数として算出。
• 例えば、日本がアメリカ・ヨーロッパ・中国の3カ国・地域とだけ経済関係を持ち、各国の占めるウェイトを50・30・20%、円が基準時(100)からドル・ユーロ・元に対して30・20・10%増加したとすると、現時点での円のEERは、
(130)0.5(120)0.3(110)0.2=123 • 円の実効為替レートは、下記の日銀のHPを参照。 http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/exrate.htm
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実質実効為替レートの数値例(算術加重平均) ①日本製自動車(¥)
¥250万
②対ドル名目為替レート(¥/$) 120
③米製自動車($) $2.5万
④米製自動車(②×③=¥) ¥300万
⑤対ドル購買力平価(①/③=¥/$) 100
⑥対ドル実質為替レート(④/①=②/⑤) 1.2
⑦対米輸入額/日本の総輸入額(ウェイト) 70%(0.7)
⑧対ユーロ名目為替レート(¥/€) 80
⑨ドイツ製自動車(€) €3.4万
⑩ドイツ製自動車(③×⑧=¥) ¥272万
⑪対ユーロ購買力平価(①/⑨=¥/€) 73.5
⑫対ユーロ実質為替レート(⑩/①=⑧/⑪) 1.088
⑬対独輸入額/日本の総輸入額(ウェイト) 30%(0.3)
⑭外国車の平均価格(④×⑦+⑩×⑬=¥) ¥300万×0.7+¥272万×0.3=¥291.6万
⑮実質実効為替レート(⑭/①=⑥×⑦+⑫×⑬) 291.6/250=1.2×0.7+1.088×0.3=1.1664
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実効為替レートの推移(1973年3月=100とした指数)
0
50
100
150
200
250
300
350
400
1970
1971
1973
1975
1977
1978
1980
1982
1984
1985
1987
1989
1991
1992
1994
1996
1998
1999
2001
2003
2005
2006
年
名目実効為替レート(NEER)
0
2550
75
100
125150
175
200
225250
275
300
325350
375
400
実質実効為替レート(REER)
名目実効為替レート(NEER) 実質実効為替レート(REER)
資料 日本銀行(http://www.boj.or.jp/type/stat/dlong/fin_stat/rate/eer.csv)
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5.直物為替レートと先物為替レート 為替ポジションと為替リスク
• 外国為替市場の参加者は、外国通貨建ての債権や債務を保有。この外貨建て債権と債務の残高(差額)を為替ポジション(為替持高)と言い、この部分は為替リスクにさらされている。
①輸出企業が被る為替リスク 1万ドルの商品の輸出 現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万 3カ月後の為替レート:$1=¥ 90・・・¥ 90万 • ドル建て債権を持っている(ロング)と、為替レートが下落(円高)すると為替
差損を被る。→この場合、先物売りをしておけば良い。 ②輸入企業が被る為替リスク $1万ドルの商品の輸入 現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万 3カ月後の為替レート:$1=¥110・・・¥110万 • ドル建て債務を持っている(ショート)と、為替レートが上昇(円安)すると為替
差損を被る。→この場合、先物買いをしておけば良い。
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為替ポジションと為替リスク(cont.) 為替リスク回避の基本
③為替リスクを回避するためには、「外貨建て債権」と「外貨建て債務」を同額にしておけばよい。
$1万ドルの商品の輸出 現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万 3カ月後の為替レート:$1=¥ 90・・・¥ 90万 (10万円の為替差損) $1万ドルの商品の輸入 現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万 3カ月後の為替レート:$1=¥ 90・・・¥ 90万 (10万円の為替差益)
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為替ポジション(為替持高) (1)オープン・ポジション(open position) →「債権≠債務」のポジション ①買持ち(ロング・ポジション、long position) →「債権>債務」のポジション →先物売り(ドル建て債務を負う=先渡しでカバー)をしておけば良い。
②売持ち(ショート・ポジション、short position) →「債権<債務」のポジション →先物買い(ドル建て債権を持つ=先渡しでカバー)をしておけば良い。
(2)スクェア・ポジション(square position) →「債権=債務」のポジション →為替リスクなし
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直物為替レートと先物為替レート
•直物為替(spot exchange) 契約も取引も現在行なう外国為替取引 •先物(先渡)為替(forward exchange) 契約は現在行なって、受渡は将来行なう外国為替取引
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直先スプレッド(先物プレミアム・先物ディスカウント)
• S:直物レート、F:先物レート、 • i:自国利子率、i*:外国利子率とすると、
• 直物レート対する先物レートは、2通貨の金利差により決定 金利の安い通貨の為替レートは、先物高(先物プレミアム) 金利の高い通貨の為替レートは、先物安(先物ディスカウント)
*iiS
SF−=
−=直先スプレッド
先物ディスカウント < <
先物プレミアム > >
;;
*
*
iiSFiiSF
⇔
⇔
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Ⅱ-4の補論 裁定取引・一物一価・ユーロ危機
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市場メカニズム • 裁定取引によって実際に一物一価が成立するためには、次
のような市場メカニズム(①②)が働かなければならない。
① まず、日米の自動車市場(財市場)において価格が伸縮的でなければならない。すなわち、需要が増加すれば価格が上昇し、供給が増加すると価格が下落するといった市場メカニズム(価格メカニズム)が有効に作用しなければならない。
② また、外国為替市場においても為替レートが伸縮的でなければならない。すなわち、ドル買いが増えればドル高になり、ドル売りが増えればドル安になるといった変動相場制が有効に作用しなければならない。
①のメカニズムを働かせるためには? 価格を下げるためには、
(a)労働生産性(y=Y/L)を上げるか (b)コストとりわけ人件費(W=wL)を下げるか
しかない (Yは生産高、Lは雇用者数、wは一人あたり賃金率)。 自動車の生産Yが全て労働という生産要素Lだけで行われているならば、 • 労働生産性(y)の上昇は技術進歩を伴わなければならないの
で、短期的には期待できない。 • したがってコストのうち多くを占める人件費(W)の削減しかない
が、それには、賃金(w)のカットか、雇用(L)の削減かしかない。どちらにしても、アメリカ経済の実体経済への痛みを伴う。
1/
PY wL P w wL wY Y L y
= ∴ = × × ==
②のメカニズムを働かせるためには? • こうした痛みをともなう①の調整メカニズムを拒否すれば、②の調整メカニズムを利用するしかない。
• 日米間の自動車価格が全く変化しないくらい価格が硬直的ならば、
名目為替レートが1㌦=67円(200万円/3万㌦) へと、大きく円高に動けばよい。 • ただし、1㌦=100円から67円へといった大幅な円高には、為替リスクが伴う。つまり同じ3万㌦の自動車を販売しても、円建ての受取額が300万円から200万円へと大きく減少してしまう。
• 同じ財を輸出して、受取額が変動するというのも、日本経済の実体経済への痛みである。
欧州債務危機 • 2009年のギリシャの財政赤字をきっかけに広がっ
た欧州債務危機は、この①②のメカニズムが全く働かなかった典型的な事例。
• ユーロという共通通貨を採用しているユーロ圏諸国では、②のメカニズムは全く作用しない。
• そこでユーロ導入後、①のメカニズムを作用させるべく、生産性の上昇や労働市場改革を柱とした中期計画(リスボン戦略)にユーロ圏諸国は合意。
• そうしなければ、ユーロ圏内で一物一価は成立せず、大きな価格差が残存したまま共通通貨を使用することには、困難が伴うからである。
ドイツ vs. GIIPS • しかし、①のメカニズムを有効に働かせるための構造改革に成功したのは、ドイツなどユーロ圏の一部の国。
• ギリシャをはじめとするいわゆるPIIGS(またはGIIPS)諸国(ポルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペイン)では、この改革がほとんど進まなかった。
• 特に労働人口の3分の1が公務員で、年金も平均で61歳から、前倒しで55歳から受給できるギリシャでは、大きな財政赤字へとつながった。
• 財政の破綻が明らかなのに、強い通貨であるユーロ建ての国債を発行でき続けたという矛盾(ユーロ建てギリシャ国債の過大評価)によって、ギリシャ国債は売り捌かれ、国債の価格が急落(利回りは急騰)したのである。
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GIIPS諸国とドイツの10年物国債利回りの推移 (対GDP比、%)
資料:Eurostat
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GIIPS諸国とドイツの単位当たり労働コスト*の推移
*単位当たり労働コスト:賃金を生産性で割って算出した指標