advanced osceにおける救命措置 図 acls プロバイ 従事者の場合はcpr...

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1 矢野による卒試解説解答シリーズ 番外編 Advanced OSCE における救命措置 1 ACLS プロバイダーマニュアル 日本語版 AHA ガイドライン 2005 準拠』 掲載の BLS アルゴリズムと ACLSVF VT 及び心静止/PEA)アルゴリズム を合成,かつガイドライン 2010 に沿っ て加工したもの

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矢野による卒試解説解答シリーズ 番外編

Advanced OSCE における救命措置

図 1 『ACLS プロバイダーマニュアル

日本語版 AHA ガイドライン 2005 準拠』

掲載の BLS アルゴリズムと ACLS(VF/VT 及び心静止/PEA)アルゴリズム

を合成,かつガイドライン 2010 に沿っ

て加工したもの

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図 2 『ガイドライン 2010 ハイライト』掲載の BLSアルゴリズムと ACLS(VF/VT 及び心静止/PEA)

アルゴリズムを合成したもの 〔上の BLS アルゴリズムは一般市民用なので,医

療従事者の場合は CPR 開始前に脈拍の確認が入り,

また,胸骨圧迫 30 回に対して 2 回の割合で人工呼

吸も行われる.〕 【内容は図 1 と同様であるが,正規のマニュアルに

採用(予定)の図として一層の平易化が目指されて

いることがよくわかる.】 解説: Advanced OSCE における救命措置では BLS,およびそれに継続する ACLS のうち心停止(心室細動

VF/無脈性心室頻拍 VT,または心静止Asystoleエーシストリー

/無脈性電気活動 PEA)アルゴリズムが問われる. BLS および ACLS のガイドラインが昨年,2005 年版から 2010 年版に改訂されたため,その過渡期で

あることもあって被試験者である私たちの対応を難しくしている. 本 2011 年度の試験ではいずれのガイドラインに従ってもよいとのことであるが,素直に 2010 年版を習

得すればよいだろう.

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ACLS 部分における変更で知っておかなくてはいけないのは,① 挿管が適切になされたかの確認と自

己心拍の再開の確認とをカプノグラフィ(呼気中の二酸化炭素濃度(分圧)のモニタリング)で行うこと

が推奨されるようになったことと,② 心静止/PEA の場合に考慮される薬剤の一つであったアトロピン

が推奨から外れたことである. ①については Advanced OSCE で挿管まで合わせて要求されるとは考えにくく,まずはバッグバルブマ

スク換気がきちんとできるかの方が採点項目となると考えられるので,知識としてのみ知っておけばよい

と思われる. ②についてはアトロピンという名前は要するに忘れてよく,薬剤としてはまずはボスミン®(アドレナ

リン)の一つ覚えでよい1. 4 年次の基本的臨床技能実習・OSCE と 5 年次の救急・ICU ポリクリで 2005 年版に従って訓練を受け

てきた私たち(2011 年度 6 年生)が最も気を付けなくてはならないことは,BLS の最初の手順である. ガイドライン 2005 では,

① 意識がないのを確認 ② 助けを呼ぶ(AED/除細動器,救急カート含め) ③ 気道を確保し,呼吸の確認(「見て,聞いて,感じて」)… Airway ④ 呼吸がなければ 2 回のレスキューブリージング … Breathing ⑤ 脈拍を確認し,なければ胸骨圧迫の開始 … Circulation (以降は 30:2 で胸骨圧迫と人工呼吸の繰り返し) であった(A → B → C). これが,ガイドライン 2010 では, ① 意識がないのを確認する,と同時に呼吸の有無を手短に確認(死戦期呼吸は無いのと同じ) ② 助けを呼ぶ(AED/除細動器,救急カート含め) ③ 脈拍を確認し,なければ胸骨圧迫の開始 … Circulation (大人が倒れて息をしていないとき,そのほとんどの原因は致死的不整脈であるので,一般市民は慣れ

ない脈拍の確認を飛ばしてすぐに胸骨圧迫を開始してよい上,抵抗があるなら人工呼吸すら飛ばしてひ

たすら胸骨圧迫でよくなった.けれども,私たちは医療従事者であるので,手短にではあるが脈拍の確

認を行うし,もちろん人工呼吸・人工換気も行う.) ④ 1 回目の胸骨圧迫 30 回の後に気道を確保して,2 回の人工呼吸 … Airway → Breathing (以降は 30:2 で胸骨圧迫と人工呼吸の繰り返し) と変更になっている(C → A → B). さらに,胸骨圧迫の深さが 5cm以

上・

(これまでは 4~5cm),回数が 100 回/分以・

上・

(これまでは 100回/分)に変更になっているが,まず深さはしっかりやれば自ずとそうなるものであるし,むしろ,圧迫

ごとに胸壁が元の高さにまで戻るのを待つことの方を気にするべきである(このとき,静脈血が胸腔内に

引かれ心臓へと戻ってくるわけで,血流にとっては押すことと同じくらい欠かせないできごと). 胸壁の完全な戻りを確認しながらであれば,100 回/分以上などそうそう押せるものではなく,これま

で通り 100 回/分のペース(アンパンマンのマーチ)で胸骨圧迫を行えばよい.ジャスト 100 回にこだわ

る必要がなく,それより少し多くなるくらいの気持ちでしっかり押せばいいと捉えよう. つまり,30:2 の流れにのってしまえば,この部分ではガイドラインの実際上の変更はないと言える.

1 難治性の VF/VT においてはアミオダロン(アンカロン®)が考慮されるが,本薬剤の静注製剤が日本で認可されたのは

まだ最近(2007 年)の上,冷暗所保管の必要な薬剤であるために緊急時に手元にあるとは限らないという現場の事情もあ

って実際にはそれほど用いられない.

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以降の流れは問題例に従って考えよう.図 1 に問題例の流れを描き込んだのが下図である. 人が倒れ呼吸をしていないというのは試験の事前設定である.頸動脈の脈拍を触知できる人形により, 脈拍の有無はその場で出題される.BLS 部分において当然脈拍は無い(試験にならないから2). CPR サイクル(胸骨圧迫 30 回,人工呼吸 2 回)が開始され,これを繰り返していればそのうち,最初

に呼んだ助けが除細動器・モニター・救急カートを持ってきてくれる.ここからが ACLS である. このタイミングで,可能ならばモニター開始,酸素投

与,ルート確保を自分でやる,または指示したい.人数

が十分ならリーダーは何もせず状況把握と指示に集中

するべきだが,人数が限られているときはとにかく胸骨

圧迫の中断が最小になることを前提に,後はリーダー自

身がどの処置を兼務するかを決めるのは実際の現場で

は“空気”である. モニターが付いていないとショック適応かどうかは

判断できないので,いかに簡易なものであっても心電図

波形は与えられる.問題例ではこれが sinus(一見普通

の心電図)であった.けれども脈はやはりなかった.こ

こがポイントで,頸動脈の脈拍が触れなかったら大事な

脳への血流が途絶えているわけで,心電図波形が sinus であろうがそれは PEA(無脈性電気活

動)で,心静止と同じである. ただし,心臓が誤った秩序で震えてい

るのでリセットしてやるとよい VF(心

室細動),あるいは脈なし VT(心室頻

拍)と違って,心静止/PEA は除細動

の適応にはならない.ひたすら CPR と,

薬剤として考慮するべきはボスミン®一筒(商品が 0.1%液 1mL なので注射 1本でちゃんと 1mg iv になる)である. 薬剤を打つ(または打つ指示をする)

タイミングであるが,ボスミン®は 3~5 分ごとに反復投与となっているけれ

ども(2005 でも 2010 でも同じ),4 分

と設定するとちょうど心リズムチェッ

ク隔回に相当するのでそうしているプ

ロバイダーは多い. 2 実際の ACLS には,心停止アルゴリズムの他にも頻脈アルゴリズム,除脈アルゴリズムがあって,それぞれ同期下カルジ

オバージョン(拍動に一致した除細動をかける),経皮ペーシング(ひとまず胸壁の上からペースメーカーを付ける)とい

う除細動器に付いている機能で対応することになる.なので,脈があったら ACLS 試験にならないことはないが,Advanced OSCE では唯一習っている心停止アルゴリズムが出題される.

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PEA/心静止の場合は今や考慮する薬剤はボスミン®だけ(2010 ではアトロピンはもう使わない)なの

でひたすら「CPR&ボスミン®(以降 CPR 5 サイクル×2 済むごとにボスミン®)」で簡単だが,VF/脈

なし VT の場合はアミオダロンも考慮するため,VF/VT の判定がなされ,以降回復しない場合の流れを, 判定&ショック ―(CPR 5 サイクル=2 分)→ チェック&ショック&ボスミン®

―(CPR 5 サイクル=2 分)→ チェック&ショック&アミオダロン 300mg ―(CPR 5 サイクル=2 分)→ チェック&ショック&ボスミン®

―(CPR 5 サイクル=2 分)→ チェック&ショック&アミオダロン 150mg ―… と決めておくと(とりわけ試験的には)打ち忘れがなく楽なのである. 話を戻して,問題例では最初の心リズムチェックで PEA の判断のもと(BLS として既に開始されてい

る)CPR を再開,及びボスミン®投与を行うと,2 分後の心リズムチェックでは VF が顕在化していた.

こうなると,除細動の適応である.ショック施行かつ即座に CPR 再開でさらに 2 分後の心リズムチェッ

クでは心拍が再開しており(これを自己心拍再開 ROSC, return of spontaneous circulation という),こ

こで助けの求めに応じてやってきた上級医に経過を報告する設定で試験終了となった. 問題例のシナリオでは,VF の前に(ボスミン®で VF が顕在化するような)PEA を挟むことで,除細

動の適応となる VF/VT と適応とならない心静止/PEA への対応を両方評価できるようになっている. シナリオとしては,いずれにしても引継ぎにもっていく設定を置く上でも最終的に助かる(状態が改善

する)パターンにすると思われるので,そうなると他に考えられるのは VF/VT が複数回ショックを行っ

てもなかなか解除できないケースくらいである. その場合は上に書いたようにアミオダロンの適応となる.ガイドライン上推奨されているのだから堂々

と従ったらよいが,脚注 1 にも書いたとおり,アミオダロンの,しかも 300mg という高用量での使用は

日本では必ずしも普及しておらず3,現実的にはやや違和感を覚えるシナリオとなる. ともあれ,どんなシナリオ・状況設定であっても冒頭図 1・2 に示されたアルゴリズムにのせることが,

求められる対応の全て―試験的にはなおさら―である. 参考文献 American Heart Association (2008).ACLS プロバイダーマニュアル(日本語版)AHA ガイドライン 2005準拠,シナジー. American Heart Association (2010).『アメリカ心臓協会心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライ

ン 2010』のハイライト,[online] <URL:ttp://eccjapan.heart.org/pdf/ECC_Guidelines_Highlights _2010JP.pdf>.

3 使い慣れていてすぐに準備できることもあって,抗不整脈薬としてのリドカイン(キシロカイン®)が使われることが多

い.初回 1~1.5mg/kg,2 回目以降 0.5~0.75mg/kg を静注(iv)する(最大 3 回または 3mg/kg まで).ちなみに,用法・

用量が違うだけで成分は局所麻酔薬のキシロカイン®と同じである.