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Agilent 6430 による生体試料中 11 種アコニチン系アルカロイドの一斉分析 <要旨>LC/MS-MS 法を用いて生体中アコニチン系アルカロイド 11 種類の高感度一斉分析法を検討しました。その結果、各 アルカロイドの検出限界は 0.1ng/mL 以下でした。また、こ の高感度一斉分析法をアコニチン系アルカロイド中毒患者 の生体試料に適応することで今回確立した方法がアコニチ ン系アルカロイド中毒患者の診断に有効であることを実証 しました。 Key Words: アコニチン、トリカブト、LC/MS-MS、自然毒 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 1. はじめに トリカブトはキンポウゲ科に属するトリカブト属の総 称であり、約 30 種が自生しています。わが国ではドク セリ、ドクウツギと並んで日本三大有毒植物の一つとさ れています。また、トリカブトは附子、烏頭など生薬と しても使用されていますが、そのまま使用することはな く修治と呼ばれる解毒処理を行ったものが使用されて います。トリカブトの毒性成分はジテルペンアルカロイ ドであり、アコニチン、メサコニチン、ヒパコニチンな どです。修治附子など弱毒化した加工附子はアコニチン などのアルカロイドの C-8 位のアセチル基が加水分解 されたベンゾイルアコニチン、ベンゾイルメサコニン、 ベンゾイルヒパコニンなどに変化することで毒性が低 下します。しかし、未処理の附子を含む漢方薬も多く使 用され、煎じるなどの解毒処理が不十分なことによる中 毒事故が発生しています。またトリカブトはシドケと呼 ばれる山菜と似ており誤食による食中毒も春から初夏 にかけて発生しています。そこで今回、トリカブトに存 在する 11 種類のジテルペンアルカロイドの高感度分析 法として LC/MS-MS を用いた分析法を紹介いたします。 2. 装置及び測定条件 分析条件は表.1,2 に示した通りです。LC 条件はカラ ムに 1.8μm の微小粒子径の逆相系カラムを使用し、 0.1%ギ酸+ギ酸アンモニウム緩衝液とアセトニトリル のグラジエントモードで測定しました。イオン化法に ESI を使用し、正イオンモードで測定しました。各 アルカロイドの SRM 条件は表.2 に示した通りですがプ リカーサーイオンには全てプロトン化分子を選択しま した。 試料前処理は試料(0.5mL)をエタノール(10mL)1 時間 振とう抽出、遠心後上清を窒素パージで蒸発乾固後 0.4mL 10%エタノール水溶液で再溶解しました。こ の抽出液は予めメタノール(1mL)と純水(1mL)でコンデ ィショニングしたミニカラム(Focus) に負荷し、純水 (1mL)で洗浄後、0.1%TFA/アセノニトリル(0.75mL)0.2%アンモニア/アセトニトリル(0.75mL)で溶出し、 溶出液は窒素パージで蒸発乾固後、初期移動相(0.5mL) で再溶解し、測定試料としました。 .1 LC/MS-MS 条件 LC : 1200LC Column : ZORBAX Extend C18 RRHT(100mm,2.1mm,1.8μm) Mobile phase : A:0.1%HCOOH 4 +10mMHCOONH, B:ACN 10%A/90%B---(50min)---100%A Column temp : 40Sample volume : 2uL Flow rate : 0.2mL/min MS : Agilent 6430 LC-MS Ionization : ESI(positive) Drying gas : 10L/min at 350C Nebulizer gas : 345kPa Fragmentor : 100V .2 各アルカロイドの SRM 条件 No 化合物 プリカーサー プロダクト CE 1 Mesaconine 486 436 35 2 Aconine 500 450 40 3 Hypaconine 470 438 35 4 Benzoylmesaconine 590 105 55 5 Benzoylaconine 604 105 55 6 14-Anisoylaconine 634 135 50 7 Benzoylhypaconine 574 542 35 8 Mesaconitine 632 572 35 9 Hypaconitine 616 556 40 10 Aconitine 646 586 35 11 Jesaconitine 676 616 40 CE:コリジョンエネルギー(v) 3.結果 .1 に各アルカロイドの 0.1ng/mL 相当の SRM クロ マトグラムを示しました。11 種全てのアルカロイドで S/N 比は 22~96 で、検出限界は 0.01~0.003ng/mL した。

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Page 1: Agilent 6430による生体試料中 11種アコニチン系ア …Agilent 6430による生体試料中 11種アコニチン系アルカロイドの一斉分析 <要旨>LC/MS-MS

AAggiilleenntt 66443300 にによよるる生生体体試試料料中中

1111 種種アアココニニチチンン系系アアルルカカロロイイドドのの一一斉斉分分析析

<要旨>LC/MS-MS 法を用いて生体中アコニチン系アルカロイド

11 種類の高感度一斉分析法を検討しました。その結果、各

アルカロイドの検出限界は 0.1ng/mL 以下でした。また、こ

の高感度一斉分析法をアコニチン系アルカロイド中毒患者

の生体試料に適応することで今回確立した方法がアコニチ

ン系アルカロイド中毒患者の診断に有効であることを実証

しました。 Key Words: アコニチン、トリカブト、LC/MS-MS、自然毒

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 1. はじめに トリカブトはキンポウゲ科に属するトリカブト属の総

称であり、約 30 種が自生しています。わが国ではドク

セリ、ドクウツギと並んで日本三大有毒植物の一つとさ

れています。また、トリカブトは附子、烏頭など生薬と

しても使用されていますが、そのまま使用することはな

く修治と呼ばれる解毒処理を行ったものが使用されて

います。トリカブトの毒性成分はジテルペンアルカロイ

ドであり、アコニチン、メサコニチン、ヒパコニチンな

どです。修治附子など弱毒化した加工附子はアコニチン

などのアルカロイドの C-8 位のアセチル基が加水分解

されたベンゾイルアコニチン、ベンゾイルメサコニン、

ベンゾイルヒパコニンなどに変化することで毒性が低

下します。しかし、未処理の附子を含む漢方薬も多く使

用され、煎じるなどの解毒処理が不十分なことによる中

毒事故が発生しています。またトリカブトはシドケと呼

ばれる山菜と似ており誤食による食中毒も春から初夏

にかけて発生しています。そこで今回、トリカブトに存

在する 11 種類のジテルペンアルカロイドの高感度分析

法としてLC/MS-MSを用いた分析法を紹介いたします。 2. 装置及び測定条件 分析条件は表.1,2 に示した通りです。LC 条件はカラ

ムに 1.8μm の微小粒子径の逆相系カラムを使用し、

0.1%ギ酸+ギ酸アンモニウム緩衝液とアセトニトリル

のグラジエントモードで測定しました。イオン化法に

は ESI を使用し、正イオンモードで測定しました。各

アルカロイドのSRM条件は表.2に示した通りですがプ

リカーサーイオンには全てプロトン化分子を選択しま

した。 試料前処理は試料(0.5mL)をエタノール(10mL)で 1時間

振とう抽出、遠心後上清を窒素パージで蒸発乾固後

0.4mL の 10%エタノール水溶液で再溶解しました。こ

の抽出液は予めメタノール(1mL)と純水(1mL)でコンデ

ィショニングしたミニカラム(Focus)に負荷し、純水

(1mL)で洗浄後、0.1%TFA/アセノニトリル(0.75mL)及び 0.2%アンモニア/アセトニトリル(0.75mL)で溶出し、

溶出液は窒素パージで蒸発乾固後、初期移動相(0.5mL)で再溶解し、測定試料としました。 表.1 LC/MS-MS 条件

LC : 1200LCColumn : ZORBAX Extend C18 RRHT(100mm,2.1mm,1.8μm) Mobile phase : A:0.1%HCOOH4+10mMHCOONH, B:ACN

10%A/90%B---(50min)---100%AColumn temp : 40℃Sample volume : 2uLFlow rate : 0.2mL/minMS : Agilent 6430 LC-MSIonization : ESI(positive)Drying gas : 10L/min at 350CNebulizer gas : 345kPaFragmentor : 100V 表.2 各アルカロイドの SRM 条件

No 化合物 プリカーサー プロダクト CE1 Mesaconine 486 436 352 Aconine 500 450 403 Hypaconine 470 438 354 Benzoylmesaconine 590 105 555 Benzoylaconine 604 105 556 14-Anisoylaconine 634 135 507 Benzoylhypaconine 574 542 358 Mesaconitine 632 572 359 Hypaconitine 616 556 4010 Aconitine 646 586 3511 Jesaconitine 676 616 40

CE:コリジョンエネルギー(v) 3.結果 図.1 に各アルカロイドの 0.1ng/mL 相当の SRM クロ

マトグラムを示しました。11 種全てのアルカロイドで

S/N 比は 22~96 で、検出限界は 0.01~0.003ng/mL で

した。

Page 2: Agilent 6430による生体試料中 11種アコニチン系ア …Agilent 6430による生体試料中 11種アコニチン系アルカロイドの一斉分析 <要旨>LC/MS-MS

x102

0.5

1.0

1.5

2.0

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

0.2

0.6

1.0

2

4

6

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1

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6

x102

x102

x102

x102

x102

Mesaconine(S/N=42)

Aconine(S/N=22)

Hypaconine(S/N=96)

Benzoylmesaconine(S/N=30)

Benzoylaconine(S/N=52)

14-anisoylaconine(S/N=73)

m/z=486>436

m/z=500>450

m/z=470>438

m/z=590>105

m/z=604>105

m/z=634>135

図 .1 各アルカロイドの SRM クロマトグラム

(0.1ng/mL) 各アルカロイドの検量線は図 .2 に示しましたが、

0.1~50ng/mL の範囲で全てのアルイアロイドで決定係

数は 0.999 以上と直線性は良好でした。

図.2 各アルカロイドの検量線 実試料に関しては附子を含む漢方薬及びその他薬物

を服用し中毒を生じた患者の尿抽出液を分析しまし

た。結果は図.3 に 11 種アルカロイドの SRM クロマ

トグラムを示しましたが、毒性の強いアコニチンや

メサコニチンなどは検出されず C-8 位のアセチル基

とベンゾイル基が加水分解された弱毒性のアコニン、

メサコニン、ヒパコニンが検出されました。この結

果は中毒原因が漢方薬中附子の不十分な処理による

ものでないことが証明されました。

x104

1

2

3

1 2 3 4 5 6 7 9 10 11

0.2

0.6

1.0

1.4

1

3

5

40

80

120

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

100

200

300

10

20

30

40

x104

x104

Mesaconine(13.23ppb)

Aconine(9.22ppb)

Hypaconine(7.08ppb)

Benzoylmesaconine(trace)

Benzoylaconine(ND)

14-Anisoylaconine(ND)

20

60

100

140

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

100

300

500

20

60

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10

20

30

40

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

2

8

10

14

18

Retention time (min)

Benzoylhypaconine(0.13ppb)

Mesaconitine(0.04ppb)

Hypaconitine(ND)

Aconitine(ND)

Jesaconitine(ND)

図.3 尿中各アルカロイドの SRM クロマトグラム 4.まとめ 今回、11 種アコニチン系アルカロイドの一斉分析法

を開発し、生体試料中微量分析に適応しました。その

結果生体中 11 種カコニチン系アルカロイド類を高感度 迅速に測定することが可能となり、今回開発した固相

ミニカルによる精製及び LC/MS-MS を用いた方法が

アコニチン系アルカロイド類の中毒患者の診断に有効

であることが実証されました。

Mesaconine

Concentration (ng/ml)

6x10

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99939404

.Aconine

Concentration (ng/ml)

5x10

0

1

2

3

4

5

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99909624

Hypaconine

Concentration (ng/ml)

6x10

-0.25

0

0.25

0.5

0.75

1

1.25

1.5

1.75

2

2.25

2.5

2.75

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99904541

Benzoylmesaconine

Concentration (ng/ml)

5x10

0

1

2

3

4

5

6

7

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.9992274

Benzoylaconine

Concentration (ng/ml)

6x10

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99930361

14- Anisoylaconine

Concentration (ng/ml)

6x10

0

0.25

0.5

0.75

1

1.25

1.5

1.75

2

2.25

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99937580

Benzoylhypaconine

Concentration (ng/ml)

5x10

0

1

2

3

4

5

6

7

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99935072

Mesacitine

Concentration (ng/ml)

6 x10

0 0.25

0.5

0.75

1 1.25

1.5

1.75

2 2.25

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99945532

x10

.Hypaconine

Concentration (ng/ml)

6

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99932064

Jeasconine

Concentration (ng/ml)

6x10

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99921447

Aconitine

Concentration (ng/ml)

6 x10

0 0.2

0.4

0.6

0.8

1 1.2

1.4

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

R^2 = 0.99940551

1

2

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1

3

5

7

2

4

x102

x10 2

x10 2

Benzoylhypaconine (S/N=33)

MesaconitineS/N=23)

Hypaconitine (S/N=52)

m/z=574>542

m/z=632>572

m/z=616>556

1

2 3 4

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1

2 3

x102

x102

Aconitine (S/N=26)

Jesaconitine(S/N=46)

m/z=646>586

m/z=676>616

Retention Time (min)

【LCMS-201107TK-002】

本資料に記載の情報、説明、製品仕様等は予告なしに

変更することがあります。

アジレント・テクノロジー株式会社 〒192-8510 東京都八王子市高倉町 9-1

www.agilent.com/chem/jp