密度汎関数法, density fuctional theory (dft)の基礎第5回

Post on 28-May-2015

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density functional theory, DFT, MO, abi initio, Quantum, Chemistry, Physics, Computational, HPC, SuperComputing

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密度汎関数法(DFT)の基礎 その5

HPCシステムズ株式会社 佐藤大介

da-sato@hpc.co.jp

TextBook

密度汎関数法の基礎 (KS物理専門書) 常田 貴夫 (著) 出版社: 講談社 (2012/4/11)

前回までのあらすじ

http://www.hpc.co.jp/gaussian_nyumon.html

はじめに

今回から、PDF形式での

配信を行うことになりました。

はじめに

今回は量子論の核である 「ハートリー・フォック法」の 物理学的基礎と数式を 時間軸に沿って学びます。

はじめに

たくさんカタカナが出てきますが これらはほとんどが人物の名前を 冠していますので、人物名には 「さん」という呼称を付けて 分かりやすく記述します。

Inspired by anan

多体問題 解析的に解けない問題をどう克服するか

前回までのように

水素原子以外の原子についても

同じようにハミルトニアン演算子を設定し シュレディンガー方程式を解けば 量子化された電子運動の状態を 求めることができます。

多体問題

しかし、実際にシュレディンガー方程式を 解こうとすると、解析的には厳密に解けません。

多体問題

この問題を多体問題と呼びます。

英語では、「n-body problem」と表記します。

多体問題

ポワンカレ(Henri Poincaré)さん

最小(正確には停留)作用の原理を使って 周期解のみ求めるアイデアで 古典力学における3体問題を解きました。

ハートリー(Douglas Hartree)さん

複数電子をもつ原子について 多体問題を解くアイデアを提案しました。

ハートリー法 複数電子をもつ系の電子状態の計算方法

ハートリー法

シュレディンガー方程式が発表された翌々年1928年 ハートリーさんは基本的な物理原理のみを使って 複数の電子を含む系のシュレディンガー方程式を解く 方法であるハートリー法を提案しました。

ヘリウム原子のハミルトニアン

ハミルトニアンの分解

ハートリーさんは各電子はまわりの電子の静電ポテンシャルの平均の中を運動すると仮定して、その平均を有効ポテンシャルVeffで近似する独立電子近似を提案しました。この近似により、ハミルトニアン演算子は、以下のように、それぞれの電子に分解することができます。

波動関数

シュレディンガー方程式

軌道の組{φi}に関する変分原理により この期待値を停留にする1電子波動関数の組{φi} を求めるシュレディンガー方程式は 下記のように求められます。

全固有エネルギー

この解により与えられるεiは i番目の電子の固有エネルギーと解釈できるので 各電子について固有方程式を解けばよいことになります。 のちに、この1電子波動関数φiは軌道(orbital)、 対応するεiは軌道エネルギーと呼ばれるようになりました。 ここで、全固有エネルギーは 各種電子運動に対応する軌道エネルギーの和となります。

有効ポテンシャル

ここで有効ポテンシャルVeffは 以下のように導くことが出来ます。

ちなみに

この方程式は演算子が解に依存する非線形方程式であり 見た目より解くことが難しいものです。

のちに

ハートリー法によるエネルギーの値は 化学反応や化学物性の解析に使えるレベルではないことが分かりました。のちに、その原因が電子の交換を 考慮していないことにあることが示されました。

ab initio 法

半経験的パラメータを含まない直接的な導出法を ab initio 法(ラテン語で、「はじめから」の意味) と呼びます。

分子軌道法 分子の電子状態の計算方法

分子の電子状態

複数の原子から構成される「分子」のなかでは 電子はどのような運動状態をもつでしょうか?

ハートリー法によると、最も単純な水素分子の ハミルトニアンは以下のように書けます。

ボルン・オッペンハイマー近似

電子運動を考える際に原子核の運動を無視する近似

Max Born J. Robert Oppenheimer

断熱近似にもとづく ハミルトニアン

断熱近似にもとづくと ハミルトニアンは以下のように書き直せます。

分子軌道の概念と普及 molecular orbital

フント(Friedrich Hund) さん マリケン(Robert S. Mulliken) さん

考えた人 広めた人

分子軌道法の誕生

クールソン (Charles A. Coulson)さん

LCAO-MO近似 Linear combination of atomic orbitals - molecular orbital approximation

水素分子の分子軌道

この分子軌道を代入すると、

ここで、

「分子の固有関数は原子の固有関数の線形結合で書き表せる」

このεは分子軌道の軌道エネルギーです。 このεを極小にする係数について、以下のように表せます。

したがって、水素分子の分子軌道エネルギーは以下のように与えられます。

ここで行列式

ここから、以下の式が導き出せます。

水素分子の分子軌道

このときの水素分子の全エネルギーは以下のようになります。

電子の分子軌道への占有はパウリの排他原理に従います。 水素分子の波動関数は以下のように表されます。

これに対応する規格化された分子軌道は以下の通りになります。

水素分子の分子軌道

水素分子の結合エネルギーは軌道エネルギーとして求められます。

つまりは

このように軌道エネルギーで分子の結合エネルギーを 議論できるのは、水素分子のように結合に 「2つの軌道しか関与しないごく限られた場合だけ」です。

しかしながら

それ以外の場合の結合エネルギーを議論するには、 他の軌道からのエネルギー寄与を考慮しなくてはいけません。

さらに

反応前後の分子の軌道エネルギーを比較し、 そのエネルギー的安定性で分子の結合を議論することは 一般的にできません。

さらに

これは分子軌道図を用いた概念的な反応の議論を 否定することではありません。

しかしながら

「分子軌道は計算理論への依存性が比較的低いため ある程度分子が大きくなければおおむね正しい。」 と考えることができます。

さらに

分子軌道で与えられる電子分布により 分子のなかの反応性の高い部分や反応の形態に 関する情報を得ることもある程度可能です。

さらに

軌道エネルギー自体は計算理論に大きく依存するため 特に仮想軌道の軌道エネルギー準位は 容易に入れ替わることに 注意が必要です。

しかしながら

ハートリー法を学びました。

今回は

ハートリー・フォック法

次回は

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