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有機化学Ⅰ 講義資料 第 14回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」
– 1 – 名城大学理工学部応用化学科
第 14回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」
ここまで、sp3炭素に結合したハロゲン化物イオンが脱離基として働く反応について学んだ。今回は、周期表で一つ隣にある酸素官能基を sp3炭素上に持つ化合物の反応に
ついて学ぶ。具体的には、酸素にアルキル基が1つと水素原子が1つ結合したアルコール、および酸素にアルキル基が2つ結合したエーテルである。
アルコール・エーテルの化学を学ぶ前に、命名法について述べておく。アルコールの
命名法では、接尾語「オール ol」をつけて水酸基の位置を表すことはすでに学んだ。これは、置換命名法による命名である。これに加えて、「アルキル基の名称と『アルコール』alcohol を並べる」という別の命名法がある。後者の命名法は、官能種類命名法で
ある。
注1:「イソプロパノール」「t-ブタノール」という名称を使ってはならない。一見、置換命名法に従っているように見えるが、「イソプロパン」「t-ブタン」という炭化水素が存在しないため、誤りである。
エーテルは、酸素の両側にある2つの置換基を並べて、最後に「エーテル」とつけて
命名する。これは官能種類命名法である。また、RO– 基を「アルキルオキシ基(またはアルコキシ基)」と名付けて、置換命名法を使うこともある。
C OH C O C
����� ����
CH3CH2OH
-
ethanol
- - -
ethyl alcohol
CH3CHCH3OH
2- -
2-propanol
- - -
isopropyl alcohol
C OHCH3
CH3CH3
2- --2- -
2-methyl-2-propanol- - -
t-butyl alcohol
CH3CH2OCH2CH3 CH3C
H3CH3C
O CH3
t
OCH3
t-butyl methyl etherdiethyl ether methyl phenyl ether-
methoxybenzene2- -2-2-methoxy-2-methylpropane
有機化学Ⅰ 講義資料 第 14回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」
– 2 – 名城大学理工学部応用化学科
最初にアルコールの求核置換反応・脱離反応について、学ぶことにしよう。
1. アルコールの OH基を良い脱離基に変える
アルコールの OH 基は、電気的陰性な基であるから、原理的には脱離基として働くことができるはずである。しかし、–OH は強い塩基であるため、脱離能は弱い。このため、通常の SN1/SN2や E1/E2の条件では、–OHが脱離基として働くことはない。
アルコールの OH 基を求核置換反応や脱離反応で脱離基として利用するためには、OH基を「脱離能の高い別の脱離基」に変換する必要がある。よく使われる方法がいくつかある。
(1) 酸で OH をプロトン化して、「H2O」に変える。 (2) スルホン酸エステルに変える。 (3) PBr3 または SOCl2 を使って、ハロゲンに変える。
これらの方法について順に見ていこう。
2. 酸で OH基をプロトン化する
–OHは強い塩基である(共役酸の pKa = 15.7)。一方、H2Oは弱い塩基である(共役酸の pKa = –1.7)。このことから、アルコールの OH基は悪い脱離基だが、これをプロトン化して H2Oの形にすれば、脱離能が高くなる。
アルコールをプロトン化するためには、強い酸が必要である。このため、プロトン化
したアルコールに対して求核置換反応を行う場合は、強い求核剤を使うことができない。強い求核剤は、アルコールよりも優先的にプロトン化を受けてしまい、求核性を失って
CH3CH2OHCl–
DMSO
C OHCH3
CH3CH3
CH3COHO
����� (SN2)
����� (SN1)
CH3CH2 OHH+
CH3CH2 OHH
–OH�������
H2O�������
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– 3 – 名城大学理工学部応用化学科
しまうためである。たとえば、プロトン化されたアルコールと –CN を反応させてニトリルを合成しようとしても、うまくいかない。
–CN はアルコールよりも強い塩基であるため、「アルコールをプロトン化できるほど強い酸」が存在する条件では、–CN が優先的にプロトン化されて HCN となり、求核性を失ってしまうからである。
従って、この方法で求核置換反応を起こすためには、求核剤も弱塩基性でなくてはな
らない。最もよく使われるのは、ハロゲン化物イオン(Cl–, Br–, I–)である。アルコール自身が求核剤になることも可能で、その場合はエーテルが生成する。 一級・二級・三級アルコールは、すべてハロゲン化水素と求核置換反応を起こし、ハ
ロゲン化アルキルを生成する。
三級アルコールの反応は、室温で進行する。一方、一級・二級アルコールの反応は、加熱を要する。三級アルコールは、中間体カルボカチオンを容易に生成するため、SN1
反応が速やかに進行する。二級アルコールは、中間体の二級カルボカチオンが生成しづらいため、室温では反応が遅い。一級アルコールの場合は、一級カルボカチオンはさらに生成しづらいため、カルボカチオンを経由しない SN2 で進行する。ハロゲン化物イ
オン(特に Cl–)は求核性が低いため、反応は二級アルコールよりもさらに遅い。
注1:二級アルコールが SN1 で反応するという主張は、反応速度が一級アルコールよりも速いことに基づく。もし SN2 で反応するのであれば、立体障害があるため二級アルコールの方が遅
CH2 OHCH3H+
CH2 OH2CH3–CN
�����
–CNH+
HCN ��������
C OHH
CH3
HC OH
CH3H
H
H
H–Cl Cl–C ClH
CH3H– H2O
��
(SN2) – Cl–
C OHH
CH3
CH3
C OH
CH3CH3
H
HCH
CH3CH3
– H2OH–Cl Cl–C ClH
CH3CH3
��
(SN1) – Cl–
C OHCH3
CH3CH3
C OCH3
CH3CH3
H
HCCH3
CH3CH3
– H2OH–Cl Cl–C ClCH3
CH3CH3
��
(SN1) – Cl–
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くなるはずである。
注2:二級ハロゲン化アルキルは SN2 で反応するのに、二級アルコールは SN1 なのはなぜか、という疑問が生じる。この反応の場合は、脱離基(H2O)の脱離能が高く、求核剤の反応性が低いため、SN2反応が遅いからと推測される。
プロトン化されたアルコールのもう一つの代表的な反応は、アルコールと触媒量の硫
酸を用いる反応である。「触媒量」とは、アルコールと比べて物質量が少ないことを示す。この場合、共役塩基の硫酸水素イオン –OSO3H は少量しか生成せず、大部分のアルコールがプロトン化されないまま残っている。そのアルコールが求核剤として働いて、
エーテルが生成する。
SN2を学んだ時に、「アルコールは弱い求核剤なのでハロゲン化アルキルとは SN2 を起こさない」と述べた。この場合は、脱離基である H2O の脱離能が高いため、アルコールでも SN2 反応を起こすことができる。
この反応は SN2だが、E2反応も同時に起きる。
注3:高校の化学で、「エタノールは濃硫酸で脱水されて、130~140℃でジエチルエーテル、160~170℃でエチレンが生成する」と暗記した人もいるだろう。上に示したのは、その反応機構である。前回に学んだ通り、温度が高い場合に脱離反応が優先する。
プロトン化で OH を活性化する方法は、反応としては簡便に見える。しかし、先に述べた通り、弱い求核剤しか使えないので、使える場面が限定される。また、求核剤の
反応性が低いことから、加熱が必要な場合が多い。加熱すると、望ましくない反応が競争することがしばしばある。このため、他の活性化方法が開発されてきた。
CH3CH2 OHH–OSO3H
CH3CH2 OH
H
CH3CH2 OH
CH3CH2 O CH2CH3+ H2O
HCH3CH2 O CH2CH3��������
+ –OSO3H
CH3CH2 OHCH3CH2 O
H
H+
CH3CH2 OHH–OSO3H
CH2 OH
HCH2
H CH3CH2 OHCH2 CH2
CH3CH2 OH
H+����
+ H2O
+ –OSO3H
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3. OH基をスルホン酸エステルに変える
アルコールの OH を良い脱離基に変える二つ目の方法は、スルホン酸エステルに変換することである。まず、反応式を見てみよう。
塩化 p-トルエンスルホニル(「p-」は「パラ」と読む)の S原子が特別な役割を果たす。普通の S 原子はローンペアがあるため求核性を持つのだが、この化合物の S 原子は、電気陰性度の高い原子(O と Cl)が3つも結合しているため、強く正に分極して
おり、従って求電子性を持っている。そこで、アルコールが求核剤として S原子を攻撃し、S–O結合が新しくできる。
注4:点線で囲んだ反応式は、参考のために示したもので、記憶する必要はない。
ピリジンは弱塩基として働き、正の形式電荷を持つ酸素から H+を引き抜く。
最後に Cl–が脱離して、スルホン酸エステルが生成する。
スルホン酸エステルは、スルホン酸の共役塩基部分が良い脱離基として働く。第 11
CH3CH2 OH + SClO
OCH3 +
N
CH3CH2 O SO
OCH3 +
NCl– +
H
� p-������p-toluenesulfonyl chloride
���
pyridine
p-���������ethyl p-toluenesulfonate
SClO
OCH3CH3CH2 OH +
CH3CH2 O SO
OCH3Cl
H
CH3CH2 O SO
OCH3Cl
H
+N
CH3CH2 O SO
OCH3Cl N
+
H
CH3CH2 O SO
OCH3Cl
CH3CH2 O SO
OCH3 + Cl–
p-��������������������
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回に学んだ通り、塩基性が低い脱離基は脱離能が高い。スルホン酸は強酸であるため、共役塩基は塩基性が低く、従って良い脱離基となる。
アルコールの OH 基が不斉炭素に結合している場合、求核置換反応の立体化学が問題になることがある。スルホン酸エステルを経由する SN2 反応の場合、スルホン酸エ
ステルが形成される段階では立体配置が反転しないことに注意しよう。これは、C–O結合が切断されないためである。一方、スルホン酸エステルが求核剤によって置換される段階では、通常の SN2 と同様に立体配置が反転する。C–O 結合が切断されて、新た
に Cと求核剤の結合が形成されるためである。
p-トルエンスルホニル基(上の式の青い部分)は、よく使われるため “Ts” と省略す
ることが多い。この記号を使うと、上式は下のように書くことができる。
4. PBr3, SOCl2と反応させて OH基をハロゲンに変える
アルコールの OH 基を良い脱離基に変える第三の方法は、リンやイオウのハロゲン化物と反応させることである。よく使われるのは、PBr3(三臭化リン)と SOCl2(塩
CH3CH2 O SO
OCH3
����������
+ –OCH3 CH3CH2 OCH3 O SO
OCH3+
(S)(S)
OH(S)(S)
OSO
OCH3
–OCH3
SClO
OCH3
(R)(R)
OCH3- -
(S)(S)
OH(S)(S)
OTs
–OCH3(R)(R)
OCH3���
TsCl
��
Ts = SO
OCH3
����
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化チオニル)である。
これらの反応は、前項の塩化 p-トルエンスルホニルの反応とよく似ている。PBr3の
場合、まず正に分極した Pに対して、アルコールが求核剤として反応する。このとき、Br–がいったん PBr3から脱離する。
次に、「OPBr2」という部分が「よい脱離基」として働き、先ほど脱離した Br–が求
核剤として働いて、SN2反応が起きる。生成するのは、臭化アルキルである。
塩化チオニルとの反応も、同様の機構で進行する。
PBr3, SOCl2を用いてアルコールからハロゲン化アルキルを合成する場合、生成したハロゲン化アルキルはアルコールに対して立体配置が反転することに注意しよう。これは、ハロゲン化物イオンが求核剤として背面攻撃しているためである。従って、次に別
の求核剤を使って SN2 反応を行った場合、2回立体反転が起きることになる。先に述べたスルホン酸エステル経由の反応と、よく比べてみること。
CH3CH2 OH PBr3+ CH3CH2 Br + HO PBr2
CH3CH2 OH + CH3CH2 Cl +SO
Cl Cl+ S
O
ON+
NH
+ Cl–
CH3CH2 OH + CH3CH2 O PBr
Br
H
PBr
Br BrCH3CH2 O P
Br
BrBr–+
– H+
CH3CH2 O PBr
BrBr–+ CH3CH2 Br + O PBr2
CH3CH2 OH + CH3CH2 O SO–
ClH
SO
Cl Cl
Cl–+
ClCH3CH2 O S
O–
ClCl
CH3CH2 O SO
ClCH3CH2 Cl + O S
O
Cl
N+
NH
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スルホン酸エステルの生成や、PBr3, SOCl2の反応について、詳細な反応機構を記憶
する必要はない(上の説明で、薄い灰色の背景で示した反応式)。しかし、これらを使
ってアルコールを「活性化」させる方法は、記憶しておくべきである。上記の内容をまとめると、以下のようになる。「SN2生成物の立体配置」とは、「活性化させた後に SN2反応をさせた場合の生成物の立体配置」という意味である。
【アルコールの活性化法】
活性化法 反応式 脱離基 SN2生成物の立体配置
プロトン化
H2O -(注)
スルホン酸 エステル
TsO– 反転
PBr3による 臭素化 Br– 保持
SOCl2による 塩素化
Cl– 保持
注5:プロトン化による活性化の場合、プロトン化自体は R の立体配置を変化させないため、それに続く SN2 反応は「立体反転」の生成物を与えるはずである。しかし、この反応条件では、置換生成物がさらに求核剤と反応する(その結果ラセミ化を起こす)場合が多いため、立体反転の生成物が選択的に得られることはほとんどない。
注6:実は SOCl2 の反応は、ピリジンを加えなくとも進行する。しかし、この場合は立体反転ではなく立体保持の生成物が得られる。この反応は SNi (i は internal を表す)と呼ばれる。
5. エーテルの求核置換反応と脱離反応
エーテルも、アルコールと同様に電気陰性の O 原子を持つ。しかし、アルコキシ基 RO– は強塩基であるため、脱離基としては弱く、求核置換反応や脱離反応を起こすことは困難である。
(S)(S)
OH(R)(R)
Br
–OCH3 (S)(S)
OCH3����
PBr3
(S)(S)
OH(R)(R)
Cl
–OCH3 (S)(S)
OCH3����
SOCl2
����
����
����
R–OHH+
R–OH2
R–OHTsCl, ����
R–OTs
R–OHPBr3 R–Br
R–OHSOCl2, R–Cl
����
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従って、エーテルの場合も、求核置換反応・脱離反応を起こさせるためには、RO– を「良い脱離基」に変える必要がある。ただし、エーテルは Oに結合した H原子を持たないため、活性化の方法は限定される。
最もよく用いられるのは、プロトン化による活性化である。Oへのプロトン化によって、脱離基が ROH 、つまりアルコールとなる。これは中性分子であり、弱塩基なので、良い脱離基となる。
この性質を利用したエーテルの有用な反応を二つ紹介しておこう。一つは、ハロゲン
化水素によるエーテルの開裂反応である。プロトン化されたエーテルに対して、ハロゲン化物イオンが求核剤として働き、ハロゲン化アルキルとアルコールが生成する。
もう一つの有用な反応は、三級アルキルエーテルを酸処理することで、アルケンを生
成する反応である。この反応は E1機構で進行する。すなわち、プロトン化されたエーテルからまずアルコールが脱離し、三級カルボカチオンが生成する。そして、このカルボカチオンからβ水素が H+として引き抜かれることにより、アルケンが生成する。
CH3CH2OCH3Cl–
DMSO
C OCH3CH3
CH3CH3
CH3COHO
����� (SN2)
����� (SN1)
CH3CH2OCH2CH3 + H+ OCH2CH3H
CH3CH2
CH3CH2OH����������
CH3CH2OCH2CH3 + H OCH2CH3
HCH3CH2Br + Br–
CH3CH2 Br + HOCH2CH3
���������� ����
���������
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注7:当然、SN1反応も同時に起きる。上の場合だと、エタノールがカルボカチオンと反応して、元と同じアルキルエーテルを生成する。また、E1反応の逆反応(アルケンへの求電子付加)も起きるため、実際には下のような平衡になる。t-ブチルエーテルの場合は、脱離生成物である2-メチルプロペンの沸点が低いため(–7℃)、反応溶液から気体として失われ、脱離反応が進行する方向に平衡が移動する。
6. エポキシドの求核置換反応
エポキシドepoxide は、酸素原子を含む三員環を持つエーテルである。エポキシドは、三員環に起因する大きな角度ひずみを持っている。このため、通常のエーテルに比べてエネルギーが高い。求核置換反応を受けると、開環して三員環構造が解消されるた
め、エネルギーが低くなる。このことから、エポキシドは通常のエーテルよりもはるかに容易に求核置換反応を受ける。エネルギー図で表すと、下のようになる。
プロトン化されたエポキシドは、極めて反応性が高い。ハロゲン化物イオンはもちろん、H2Oやアルコールなどの弱い求核剤でも室温で容易に開環が進行する。
C OCH2CH3
CH3CH3
CH3
H–OSO3HC OCH2CH3
CH3CH3
CH3
HCH3 C
CH3
CH3
+ HOCH2CH3
�����
CH3 CCH2
CH3
HOCH2CH3
H
CH3 CCH2
CH3
+ HOCH2CH3
H
���
������ + –OSO3H
C OCH2CH3
CH3CH3
CH3
+ H+ CH3 CCH3
CH3
+ HOCH2CH3 CH3 CCH2
CH3
+ HOCH2CH3
HE1 E1SN1 �����
反応座標
エネルギー
通常のエーテル
エポキシド活性化エネルギーの違い
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エポキシドは、通常のエーテルと異なり、プロトン化されていなくても求核攻撃を受
けて開環する。この時の脱離基は塩基性の強いアルコキシドアニオンであるが、原料のエポキシドのエネルギーが高いため、悪い脱離基を「無理やり」脱離させることが可能である。
ここで、H+は「後処理」の段階で加える。「後処理」とは、反応が完結した後で生成
物を取り出すための処理である。この場合、反応が完結した時点では、O 上に負の電荷を持った生成物となっている。しかし、生成物を取り出すときは、「電荷のない」状態に変えてから取り出す方が簡単であることが多い。そこで、反応が完結した後に酸を加
えて O– に H+ を結合させ、電荷を持たない中性分子として取り出す。 この反応で、H+ を「最初から」加えてしまうと、H+が CH3O–と反応してメタノー
ルになってしまうため、望んだ通りの反応にならない。このように、有機反応を実際の
合成に活用する場合には、どの物質をどのタイミングで加えるか、よく考えて計画を立てることが必要である。
4. 今回のキーワード
・OH基、脱離能 ・プロトン化によるアルコールの活性化
・スルホン酸エステルによるアルコールの活性化 ・PBr3, SOCl2 によるアルコールのハロゲン化
H2C CH2
O H+
H2C CH2
OH
Br–H2CHO
CH2Br
H2C CH2
O H+
H2C CH2
OH
H2CHO
CH2OH
H2O
H
H2CHO
CH2OH
– H+
H2C CH2O –OCH3 H2C
OCH2OCH3
H+ H2CHO
CH2OCH3
����
������ ��������
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・アルコールの活性化法と立体配置 ・エーテルの活性化 ・エポキシドの求核置換反応
【教科書の問題(第11章)】 4, 9, 21, 49, 60, 70, 75(可能な場合は巻き矢印で反応機構を示すこと)
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