2.直流および交流プラズマ...られている(paschen則)[14].そのため,大気圧~scf...

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2.1 はじめに超臨界流体(Supercritical Fluid: SCF)は物質固有の臨界

点より高温・高圧の状態であり,高密度,高拡散係数,低

粘度,表面張力0といった液体と気体の中間的な性質を有

し[1‐3],臨界点近傍においては,熱伝導率[4‐6]や比熱

[7]といった物性値が極大値を示す.さらに,時間的・空間

的密度揺らぎを有し,高溶解性・高密度といった性質を示

すことから,優れた各種のプロセス溶媒として知られてい

る[1,3].このSCF雰囲気において発生されるSCFプラズ

マは,上記 SCFの特性に加え,プラズマの持つ高反応性を

有し,従来のガスプラズマ反応場と比較して超高効率かつ

超非平衡なプロセス反応場の提供が期待される.SCF中の

放電に関する研究は,古くは20世紀初頭の高圧放電ランプ

や,1950年の SC CO2(臨界点:7.38 MPa,304.2 K)中にお

ける絶縁破壊特性[8],1960年代の伝送ケーブルの絶縁体

としての絶縁特性[9],1970年代の超電導ケーブルの開発

における冷媒,かつ,絶縁体としての SC He(臨界点:

0.23 MPa,5.2 K)の絶縁特性[10,11]に関する研究などに

さかのぼることができる.我々の研究グループでは,プラ

ズマのもつ高励起種反応性と,“クラスタリング”や臨界

点近傍の“密度揺らぎ”といった SCFの持つ特長をあわせ

持った新規プラズマ反応場(“SCFプラズマ”)の創製をめ

ざし,研究を進めている.近年他のグループなどでも SCF

中の直流放電に関する研究は精力的に進められているが

[12,13],本章では,これまでの我々の研究を中心に,SCF

中における�直流プラズマ,および,�交流プラズマの一例としての“誘電体バリア放電”の発生,診断,および,材

料プロセスへの応用に関して紹介する.

2.2 直流プラズマ2.2.1 直流プラズマにおける放電開始メカニズム

一般に,放電プラズマの放電開始電圧は,雰囲気圧力

�と電極間距離�の関数として表され,たとえば平行平板

電極における直流放電の放電開始電圧は��に比例し,�,

�のグラフにおいては,下に凸の曲線で表されることが知

られている(Paschen 則)[14].そのため,大気圧~SCF

を含む高圧雰囲気下でのプラズマ発生には微細化したプラ

ズマ,すなわち�が小さな“マイクロプラズマ”が特にそ

の発生において有効な手法となる[15‐18].

我々のグループでは電極間距離 1-10 μmの極微小ギャップ電極を用い,大気圧~SCFにおいて直流プラズマの発生

(Xe(臨界点:5.84 MPa,289.7 K)[19],CO2[20,21],お

よびH2O(臨界点:22.12 MPa,647.3 K)[19])に成功し

た.図1に一例として,SC CO2中で行った放電開始電圧の

電極間距離依存性を示す[20,22].電極間距離が 1~3 μmの電極を用いた場合,臨界点付近で顕著となる密度揺らぎ

��の増加にともない,放電開始電圧は急激に低下した.こ

こで��は微小体積における粒子数�,平均の粒子数�

を用いて,以下の式(1)で表される関数である[23].

��������

��

�(1)

一方,電極間距離が5 μm以上になると,放電開始電圧の低下はみられなかった.ここでは放電開始電圧の低下が最も

顕著であった,電極間距離が 1 μmの極微小ギャップ電極を用いた場合の放電開始メカニズムに関する考察を以下に

進める.電極間距離が 1 μmの極微小ギャップ電極を用いた場合,単原子分子であるXe,無極性分子ガスである

CO2,極性かつ水素結合をもつH2Oを用いた場合いずれに

小特集 超臨界流体中プラズマの基礎と応用

2.直流および交流プラズマ

宮副裕之,シュタウススヴェン,寺嶋和夫東京大学大学院新領域創成科学研究科

(原稿受付:2010年4月20日)

“超臨界流体プラズマ”は,超臨界流体特有の分子クラスタリングや臨界点近傍での密度揺らぎを伴った新規プラズマ反応場を提供するものとして期待されており,近年新領域のプラズマ物理・化学現象を開拓しつつある.本章では我々の研究成果を中心に,�直流プラズマの放電開始特性,および,�交流プラズマの発生,診断,および,材料プロセスへの応用について紹介する.

Keywords:plasma, microplasma, supercritical fluid, supercritical fluid plasma, molecular clustering, density fluctuation,

carbon nanomaterials

2. Direct Current and Alternate Current Plasmas

MIYAZOE Hiroyuki, STAUSS Sven and TERASHIMA Kazuo corresponding author’s e-mail: miyazoe@terra.mm.t.u-tokyo.co.jp

J. Plasma Fusion Res. Vol.86, No.6 (2010)305‐311

�2010 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research

305

1000

0 2 4 6 8 10

Brea

kdow

n Vo

ltage

(V)

Pressure (MPa)

200

500

2000 10 μm

5 μm

3 μm

1 μm

0.6Vp

0.2

0.4

0 2 4 6 8

Vb

Bre

akdo

wn

Vol

tage

[kV

]

Pressure [MPa]

0

40

80

120

160

6 7 8 9Pressure [MPa]

Den

sity

Flu

ctua

tion

(b) CO2

0

0.4

0.8

1.2

0 2 4 6 8

VpVb

Bre

akdo

wn

Vol

tage

[kV

]

Pressure [MPa]

0

20

40

60

80

5 6 7Pressure [MPa]

Den

sity

Flu

ctua

tion

(a) Xe

0

1.0

2.0

3.0

4.0

0 10 20 30

Vp

Vb

Bre

akdo

wn

Vol

tage

[kV

]

Pressure [MPa]

0

50

100

150

200

20 22 24Pressure [MPa]

Den

sity

Flu

ctua

tion

(c) H2O

おいても,放電開始電圧が,(A)3MPa 近傍で低電圧側に

シフトし,(B)臨界点付近では数分の一程度までに急激に

低下するという二つの特異現象がみられ(図2),SCF直

流プラズマ一般に発現するものと考えられる.

従来のTownsendのガス放電理論と同様に放電開始電圧

��は以下の(2)式で表されるとする.

����������

����������������������� � (2)

ここで�は電極間距離(ギャップ長),�は粒子数密度,�

は電子―粒子の衝突断面積,��はイオン化ポテンシャル,��

は二次電子放出係数,�は電極形状による係数,�は誘電

率に関する係数である.また,臨界点近傍での放電開始電

圧の特異性と,クラスタリングの指標の一つである��(式

(1)[23])に強い相関がみられることからこの��に��の項を加味した(3)式を用いて測定結果のフィッティング

を試みた.

�������� (3)

�,�はフィッティングパラメータである.この結果,図2

(a)‐(c)に示すように,�は実験結果と非常に良い一致を

示し,3MPa以上での衝突断面積,イオン化ポテンシャル,

二次電子放出係数の低下が示唆された.

ある粒子密度以上になると分子やクラスターに対する電

子の付着により負電荷粒子の移動度が急激に低下する

[24‐26].そのため,電子を付着して負電荷をもつクラス

ターに対しては電子の衝突が困難になることから,衝突断

面積の低下が予想される.負電荷粒子の移動度の急激な低

下は我々の行った温度条件に換算すると,放電開始電圧が

シフトし始める圧力(3MPa 近傍)と一致する.本研究で

対象とするマイクロプラズマの場合,電極の微細化に伴

い,電極表面やエッジからの電界放出による電子の相対的

な割合が増加するため,以上のような衝突断面積の低下が

顕著になると考えられる.

一方,イオン化ポテンシャルはクラスターサイズの増大

に伴って減少することが知られている[25,27,28].たとえ

ば,Xeモノマーのイオン化ポテンシャルは 12.1 eV である

のに対して,ダイマーのイオン化ポテンシャルは約 11 eV,

Xe 原子125個からなるクラスターでは約 10 eV程度となる

[25].Xeの場合,���11.58 eV とすることでよいフィッ

ティング結果が得られたが,これはXe原子1.5個程度に対

応することが確認された.

また,Auger 中和理論によると,電場により加速された

イオン,あるいはクラスターイオンが電極表面に近づくと

図1 放電開始電圧のギャップ間距離依存性[20,22].

図2 ギャップ 1 μmの電極を用いた時の放電開始電圧の圧力依存性(a)Xe,(b)CO2,(c)H2O[19‐21].

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.86, No.6 June 2010

306

電極金属内の伝導帯中の二次電子がイオンのイオン化ポテ

ンシャルに相当するエネルギーを受け,励起され,金属表

面から放出される.したがって,二次電子放出係数は,入

射イオンのイオン化ポテンシャルの低下に伴い減少する.

つまり,イオン化ポテンシャルの低いクラスターが多く存

在するような高密度(高圧力)雰囲気においては二次電子

放出係数が低下する.たとえば,希ガスの二次電子放出係

数は,クラスタリングに伴うイオン化ポテンシャルの低下

に伴い,ほぼ線形に減少する[29].本研究におけるXeの

フィッティングにおいては 2.5 MPa 以下での���1.8×

10-2,および,���12.1 eV に対して,2.5 MPa 以上で

���1.0×10-7,および,���11.58 eV とすることで,測定

結果とのよい一致を与える.これはHagstrumらの説明に

よる��と��の定量的な変化(��

�1.0×10-7,および,

���11.6 eV)[29]とよい一致を示し,ここまでの考察の妥

当性を強く支持している.

さて,高密度雰囲気では一般的に電子が粒子,もしくは

クラスターを電離するだけのエネルギーを電場から得るた

めの十分なスペースが存在しないため放電開始電圧が上昇

する.この時SCFのクラスターは数ピコ秒オーダで動いて

いるため,フェムト秒オーダで衝突を繰り返す加速電子に

対しては停止していると仮定できる[30].しかしながら,

臨界点近傍では活発なクラスタリングにより空間的な粗密

が激しくなり(大きな密度揺らぎ),放電空間の一部は密

度が低く,擬似的に雰囲気の平均圧力よりも低圧になって

いることが考えられる.この部分的に低圧になった空間で

電子が十分加速されることにより電離が進みやすくなり,

放電開始電圧�が急激に低下すると考えられ,これは

Hamaguchi らによる計算機シミュレーション結果によっ

ても支持された[31,32].

さらにまた,Xe,CO2,および,H2Oの3種の雰囲気で

の��を比較すると,(3)式の�に表1のような相違点が現

れた.密度揺らぎ��が単位体積あたりの粒子数(3次元)

のばらつきを定量的に表現しているのに対して,その放電

への影響は電界方向(1次元)にのみ効いてくると考えら

れ,�の値は-1/3 になると推測される.実際,単原子分子

であるXeにおいては,表1に表すように�の値が-0.35

となり,この説明を支持する結果となっている.それに対

して特にH2Oの場合,�は-0.15 となり,密度揺らぎの放

電への影響が小さい.これはH2O分子がXeと異なり,立

体構造や水素結合をもつことにより,ここまでに述べてき

たメカニズムだけでは放電開始電圧を記述できないことを

示している.

上述のようにこの臨界点近傍での放電開始電圧の特異現

象に関してはCO2において電極間距離が数 μm以上では発現しないことが確認されている(図1)[20‐22].ギャップ

数 μm以上の電極を用いた場合,たとえ放電前の雰囲気が臨界点近傍であっても放電時には局所的な温度の上昇に伴

い,活発なクラスタリングによる密度揺らぎが減少してし

まうためと考えられる.一方,ギャップ1 μmの電極を用いた場合,その放電空間の比表面積が大きいため熱が効果的

に逃げやすく,クラスタリング構造が維持されるため,従

来のマイクロメートル以下の領域(ナノ空間)における放

電の新規特性が発現した好例だといえる.

以上詳述してきたように,電極間間隔を微細化すること

により,密度揺らぎやクラスタリングといったSCFの特長

を持ち合わせた放電開始の特異現象を見出し,プラズマの

容易な発生を実現してきた.一方,連続的な直流電圧を印

加した場合,電極がダメージを受けてしまい,特に SC H2O 中では数秒程度で放電が停止しまった.密度揺らぎやク

ラスタリングといった SCFの特長を生かした新規プラズ

マ反応場を用いる材料プロセスを創製するには,プラズマ

のガス温度の上昇を抑え,長時間の安定な放電が必要とな

る.そこで,パルス幅数百 μs(400 μs),数十 ns(50ns)オーダの直流パルス電圧を印加することにより,放電

時間を時間的に抑制し,数十分~1時間程度の長時間での

放電実験にも成功している[22].

2.2.2 直流プラズマの材料プロセスへの応用

SCF は,食品・繊維分野における抽出・乾燥・染色

[33,34]に始まり,半導体分野における薄膜堆積[35,36],

および,微細パターンの乾燥[37]や機能性超微粒子の合成

[38‐42]といったナノテクノロジー分野に至るまで多岐に

わたる応用,実用化が進められている.さらに,いくつか

の反応プロセスにおいては,臨界点近傍の超臨界状態の利

用による反応速度・反応選択率の向上といった反応の特異

性が報告されており,臨界点付近の活発な分子クラスタリ

ングの寄与が示唆されている[43‐45].これまでに直流放

電,および,直流パルス放電(パルス幅:数百 μs 程度[46],および,50 ns 程度[22])を用いたプロセスにおい

て,雰囲気 SC CO2 を原料としたカーボンナノ物質の合成

[22,46],雰囲気中に溶解させた有機金属(ビスジイソブチ

リルメタナト銅:Cu(C7H15O2)2,以下 Cu(dibm)2)からの

Cuナノ微粒子の合成に成功している[46].

カーボンナノ物質の合成においては直流放電では陽極に

グラファイト,陰極にニッケルを使用した電極間隔約 100

μmの対向型電極を用いて約1秒間の放電を,パルス幅sub-ms の直流パルス放電ではニッケルを両極に用いた電極を

用いて30秒間の放電を,さらに,パルス幅50 nsにおいては

タングステンを両極に用いて放電実験を行い,いずれの場

合にもカーボンナノチューブ(図3(a))やカーボンポリへ

ドロン等のナノ構造物質が得られている[22,46].

一方,銅微粒子の合成においては,原料として用いたCu

(dibm)2 を飽和量溶解し,還元剤として水素を 0.1 MPa 添

加した CO2雰囲気中で,両極ともにタングステンを用いた

電極に10分間程度の直流パルス放電(パルス幅 sub-ms)を

おこない,粒径2~10 nm程度の銅のナノ微粒子の合成が

確認されている.このとき,1MPa 程度の高圧気体中での

放電による合成実験,また,SC CO2(温度 70℃,圧力

10 MPa)中での Cu(dibm)2 の熱処理実験(放電無)も比較

のために行われたが,ともに,有機銅の分解および,

Xe CO2 H2O

� -0.35 -0.25 -0.15

表1 フィッティングパラメータ�[19,20,22].

Special Topic Article 2. Direct Current and Alternate Current Plasmas H. Miyazoe et al.

307

(a) (b)

10 nm10 nm

Discharge Tip electrode

Ground electrodeBarrier

Power supply100 μm

(a) (b)

Mesh electrode

Ground electrodeBarrier

(c)

Power supply

Gap

6 mm

(d)

図3(b)にみられたようなナノ微粒子は確認されず[46],

SCFの持つ高溶解度特性とプラズマの持つ高反応性をあわ

せもった SCFプラズマの優位性が実現された.

2.3 交流プラズマ2.3.1 誘電体バリア放電の発生とその診断

プラズマの従来持つ高反応特性と SCF特有の分子クラ

スタリング,さらには臨界点付近の密度揺らぎを兼ね備え

た,“新規プラズマ反応場(SCFプラズマ)の創製”をめざ

す本研究においては,プラズマの発生によるガス温度上昇

の抑制が重要となる.少なくとも一方を誘電体バリアで

覆った電極を使用する誘電体バリア放電においては,ナノ

秒オーダーのストリーマを繰り返し発生させることで,高

圧力雰囲気においても温度上昇の抑制された非平衡低温プ

ラズマの発生を可能とする[47‐49].本項では,SCF中の交

流プラズマの一例として,高圧力においても低温プラズマ

の発生を容易とする“誘電体バリア放電”に関する研究成

果を紹介する.

図4(a)に使用した針先バリア放電電極の概略図,(b)

に代表的なプラズマの写真を示す.電解研磨により作製し

た,W針(外径 250 μm)を高圧極として使用し,これをアース極である,背面に導電性ペーストを塗布した厚さ

120‐170 μmの石英ガラスに接するように配置している.プラズマは,W針にAC電圧(周波数 3 kHz,印加電圧

10.5 kVp-p)を印加して発生させ,SC CO2,SC N2,SC Ar,

および,SC Xe 中における1時間以上の安定発生を実現し

た[50,51].さらに最近,プロセスの高速化をめざし,

図4(c)に示すような,Moの TEMグリッドをメッシュ電

極(高圧極)とし,メッシュホルダー,かつ,バリアとし

てマシナブルセラミック(Macor)を採用した電極構造を

提案し,研究を進めている.このメッシュ電極を用いるこ

とにより,従来の針先放電と比較して,放電空間の制御性

が高い電極構造を実現した.また,このメッシュ電極を最

大で17個アレイ化することによって,数時間の2次元的に

拡張した安定放電(約85 mm2)もSCXe中において実現し

ており(図4(d)),将来の大面積プラズマへの展開が期待さ

れる.

図4(a)に示した電極を用いて発生させた針先バリア放

電プラズマの諸特性を表2に示す.電流‐電圧履歴測定よ

り,維持時間約 2 ns 程度のストリーマが,一周期あたり数

回から数十回の頻度で繰り返し発生していることが確認さ

れた.このストリーマ中では,電離度は,8×10-4 程度と,

大気圧バリア放電中のストリーマ(電離度10-4~10-3)に

近い値であるが,放電雰囲気の密度の上昇に起因し,5×

1018 cm-3 以上の高電荷密度プラズマが形成されている.

これは,一般的な低温プラズマと比較して,1000倍以上の

電子密度を有しており,高い反応性が期待される[50,52].

SCF中におけるバリア放電プラズマが,高励起種密度に

加え,SCF特有のミクロな流体構造を兼ね備えた新規プラ

ズマ反応場を形成することを実証するために,ラマン散乱

分光診断を適用した[53].図5に使用したラマン散乱分光

測定装置の概略図を示す.なお,測定の際,励起光,ラマ

ン散乱光強度と比較して,プラズマからの発光の強度は無

視できる.

図6に304.2 Kでの,高圧~SCCO2から取得した(a)ラマ

ンスペクトルと(b)プラズマ反応場から取得したラマンス

ペクトル,それぞれのピーク位置,半値幅(Full width at

Half Maximum: FWHM)の圧力依存性の結果を示す.CO2のラマンスペクトルの振動数�は,クラスタリングの発達

に由来し,密度�の増加に伴う,下(4)式に示されるよう

な低波数側へのシフトが知られている[54].

�(cm-1)=1388.8-2.69�(g/cm3) (4)

この結果,バリア放電プラズマ発生による高波数側へのシ

フトは 0.037 g/cm3 の密度低下に対応する 0.1 cm-1 以下で

あり,純粋なCO2の場合とほぼ同様のラマンピークの挙動

Duration 2 ns

Streamer radius <100 μmRepetition rate Several to several tens/cycle

Peak current 0.1-1 mA

Current density 1.3-13 A/cm2

Charge density >5×1018 /cm3

Ionization degree >8×10-4

図3 直流放電によって得られたナノマテリアル(a)カーボンナノチューブ,(b)Cuナノ微粒子[22,46].

図4 DBD電極概略図と代表的なプラズマの様子.(a),(b)針先放電[50,51],(c),(d)マルチアレイ型メッシュ電極.

表2 SCF中で発生させた針先誘電体バリア放電プラズマの諸特性[50,52].

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.86, No.6 June 2010

308

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6 7 8 9 105

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6 7 8 9 105

1282

1283

1284

1285

0

1

2

3

0

1

2

3

0

1

2

3

0

1

2

3

0

1

2

3

0

1

2

3

Line

wid

th (c

m-1

)

Line

wid

th (c

m-1

)

Wav

enum

ber (

cm-1

)

Wav

enum

ber (

cm-1

)

Pressure (MPa) Pressure (MPa)

(b) With DBD(a) Without DBD

298K

304.2K

308K

298K

304.2K

308K

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

6 7 8 9 10Pressure (MPa)

F D (a

.u.)

XY stage PC

Half mirror

Dichroic mirrorOptical filter

Dou

ble

mon

ochr

omet

er

CCD array

CCD camera

Dischargein SCF

High pressure cell

Quartz window

Objectivelens

Nd-

YA

G c

w la

ser

を確認した.以上より,バリア放電プラズマ発生による温

度上昇が局所的に 0.1 K 以下に抑えられたプラズマ反応場

の形成を可能としたことを示し,“プラズマ反応場中にお

ける分子クラスタリング”の存在を明らかにした.

一方,臨界点近傍の密度揺らぎに関しては,密度揺らぎ

��の増大に伴い,CO2のラマンスペクトルが特異的な広が

りを持つことが知られており[55],この広がりを

Schweizer-Chandler theoretical model(S-Cmodel)[56]を

用いて評価した.バリア放電プラズマ反応場中の密度揺ら

ぎは,純粋なCO2 の場合と比較して,減少しているものの

40%程度維持されていることが確認され(図7),“プラズ

マ反応場中における密度揺らぎ”の存在を実証した.

以上の結果より,これまで我々がめざしてきたSCF特有

の分子クラスタリング,臨界点近傍での密度揺らぎを伴っ

た“SCFプラズマ”状態の実現を確認した.

2.3.2 誘電体バリア放電による材料プロセスへの応用

バリア放電プラズマを用いることで,温度変化に敏感な

臨界点付近の SCFの特異的な流体構造を保持することに

よる,反応の特異性の発現が期待される.SCF中における

誘電体バリア放電による材料プロセスにおいてはこれまで

にCO2,Ar,Xeといった種々の雰囲気中で,有機金属を原

料としたCuの堆積などにも成功しているが[51],ここで

は,雰囲気CO2を原料としたカーボン薄膜の堆積プロセス

を例に,バリア放電により形成されたSCFプラズマ反応場

の材料合成プロセスへの応用例に関して紹介する.

まず,大気圧~SCFの CO2 中で発生した,バリア放電の

発光分光測定による診断を行った.大気圧においては,

CO2 雰囲気におけるバリア放電の発光スペクトルは,

CO,CO+,CO2,CO2+が主体であったが,1-2 MPa 以上

の高圧力領域においてはカーボンダイマーC2や原子状のO

の発光スペクトルの強度が増大し,それらが主となった

(図8)[50].この発光スペクトルの雰囲気圧力による遷移

は,高圧力雰囲気プラズマ中において,CO2 の分解反応が

促進され,カーボン物質の合成原料となる原子状のCが生

成されていることを示唆している.一般的に,CO2 の分解

反応は熱的平衡条件下では数千Kの高温を必要とする

が,高圧力領域におけるプラズマの適用が,今回行ったよ

うな低温反応場においてもCO2の効率的な分解を容易とす

ることから,プロセスへの優位性・有用性がうかがえる.

また,臨界点付近のSCCO2雰囲気においてプラズマ発生

後,堆積基板となるW電極表面,および断面を観察したと

ころ,直流放電を用いた場合に顕著となった電極の損傷を

伴わない,低温プラズマ反応場によるカーボン薄膜の高速

堆積(堆積速度:300 nm/min)が確認されるとともに,堆

積物の膜質,結晶構造は印加電圧周波数により制御が可能

であることが見出された.また,臨界点付近における放電

条件では,堆積物の約20%がカーボンナノチューブをはじ

めとするカーボンナノ構造物質(図9)であったのに対し,

密度揺らぎが 1/10 以下となる臨界点を離れた条件(313-

363 K,8-12 MPa)で発生させたプラズマを用いた場

合,上記のようなカーボンナノ構造物質の堆積は確認され

ず,グラファイト,アモルファス相のカーボンがその大半

を占めた.このことより,臨界点近傍が上記のようなカー

ボンナノ構造物質合成に優位となることが明らかとなり,

臨界点近傍での熱伝導度の極大に起因した急冷効果の増大

図5 ラマン散乱分光測定装置の概略図[53].

図7 SC CO2における密度ゆらぎ FD(●:プラズマなし,○:プラズマあり)[53].

図6 1285cm‐1付近における CO2のラマンバンドの波数(■)とピークの半値幅(□).(a)バリア放電なし,(b)バリア放電あり[53].

Special Topic Article 2. Direct Current and Alternate Current Plasmas H. Miyazoe et al.

309

Inte

nsity

(a.u

.)

1

01

02

02

02

00 200 400 600 800

Wavelength (nm)

OC2

CO2 & CO2+

or CO+ or CO306 K0.1 MPa3.2 kVp-p

306 K1.0 MPa9.0 kVp-p

306 K2.0 MPa13 kVp-p

306 K4.0 MPa13 kVp-p

306 K8.0 MPa15 kVp-p

Nanotube Nanohorn

Nanobarrel

40 nm 20 nm

(a) (b)

や励起種のクラスタリング状態の変化といった,密度揺ら

ぎの増大に伴う臨界点近傍のSCFの特性が,カーボンナノ

構造物質合成の促進に寄与したことが示唆され,SCFのミ

クロな流体構造の共存したプラズマ反応場によるプロセス

の特異性が実現された[52].

また,確認されたカーボンナノチューブは全て多層ナノ

チューブあり,その直径は10-20 nm程度である.カーボ

ンナノチューブの端に,金属微粒子は見られず,無触媒成

長であることがわかる.熱平衡反応により SC CO2 から

カーボンナノチューブを合成したプロセスの条件と比較し

た場合(表3),プラズマを用いず,熱平衡反応によって合

成を行うプロセスでは,高温高圧条件で,且つ触媒を必要

とするのに対し(温度,圧力:1000℃,1000 MPa,触媒:

溶融Mg)[57](温度,圧力:650℃,70 MPa,触媒:溶融

Li)[58],プラズマを用いる本プロセスでは,低温,低圧力

雰囲気で,さらには触媒を必要としない,といった SCF

プラズマプロセスの優位性が実現されている.

2.4 まとめプラズマの持つ高反応励起場と SCF特有の分子クラス

タリング,臨界点近傍の密度揺らぎという特長を兼ね備え

た新規プロセス反応場の創製をめざし,これまでSCFプラ

ズマに関する研究を進めてきた.とりわけ,本章では直流,

および,交流電場を印加することによる,SCFプラズマの

発生から,材料プロセスへの応用まで,本研究グループに

おける研究を中心に述べ,様々な魅力を紹介してきた.こ

れまでの研究成果により,従来のプラズマとは異なった,

分子クラスタリング,臨界点近傍での大きな密度揺らぎと

いったSCFの特長を伴ったプラズマの創製を実現し,さら

にそれらを介した新規反応プロセスの創製,および,材料

合成に対する SCFプラズマの有用性を示唆してきた.

SCFプラズマはその新規性・特異性をはじめとした様々

な魅力を内に秘めており,当該分野の今後の飛躍的な展開

が大いに期待される.

謝 辞本研究は,共同研究者である産業技術総合研究所・越崎

グループの清水禎樹博士,佐々木毅博士,越崎直人博士,

東京理科大学の由井宏治准教授をはじめ,大学院生(伊藤

剛仁博士,藤原秀行氏,片平研氏,笘居高明博士,澤田

正美氏,久保裕丈氏,菊池宏和氏,中原章氏,斎藤康也氏,

静野朋季氏)等,多くの方々の協力により進められてきた.

ここにあらためて深く感謝いたします.

参 考 文 献[1]C.A. Eckert, B.L. Knutson and P.G. Debenedetti, Nature

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SCF plasma synthesis SCF synthesis

合成物質 カーボンナノチューブ カーボンナノチューブ

雰囲気温度(K) 304.2 1273[57]

823[58]

雰囲気圧力(MPa) 7.4 1000[57]

70[58]

触媒 なし Mg[57]

Li[58]

表3 SCFプラズマプロセスと従来の SCFプロセスとの比較.

図8 高圧 CO2中における誘電体バリア放電の発光スペクトル[50].

図9 SC CO2中における誘電体バリア放電プロセスによって作製されたカーボンナノマテリアル[52].

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.86, No.6 June 2010

310

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Special Topic Article 2. Direct Current and Alternate Current Plasmas H. Miyazoe et al.

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