模擬授業(高校生向け)
Post on 16-Jul-2015
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高校では習わない「量子力学」
中央大学理工学部物理学科田口善弘
お断り
今日の話には6年の物理で習う「波動」の話がいっぱい出てきます。みなさんはまだ習ってないわけですから理解するのはきっと大変だと思います。なるべく丁寧に説明しますので頑張って聞いて下さい。そして6年になって「物理」で「波動」を習った時、「ああ、こういうことだったのか」と分かってくれたら嬉しいです。大体、そうでなくても量子力学は難しいです。大学でも3年生にならないとやりません。なので100%わからなくてもがっかりしないで下さい(勿論、僕は100%分かってもらえるように頑張りますけど)。
光も「連続的に」曲がれることがわかった。じゃあ、どう考えたら斜方投射と光の屈折が同じになりうるか?
斜方投射
遅い
速い
光の屈折
長波長
短波長
同じ
同じ
同じ
同じ
エネルギー
エネルギー
=周波数
=周波数
質点はエネルギーで決まる周波数を持った波だと思えばいい
周波数
周波数
波長
波長
長い
短い
斜方投射は「質点が波だ」と思えば「屈折として理解可能」、と解ったしかし、「可能」というだけでは、「正しい」と断言するには根拠が薄弱。実際に「波だ」という証拠はないだろうか?
波じゃないと観察されない現象は何がある? 波の干渉⇒ビデオ
電子線の干渉
・左から電子一個を照射
・電子は二重スリットを抜けてからスクリーンへ(スリットが干渉実験の波源に相当)
・個々の電子は「点」しか描かないが、何回も実験を繰り返すと「縞」が見えてくる。
・電子は波動だった!
今は時間がないのでこれ以上、例を上げられないので、なかなか納得できないと思うが、「質点の斜方投射は『重力が働いて曲がった』」という考えは間違いで「光の屈折と同じだ」と考える方が「正しい」と解っている。
光が屈折するのは力が働いたからではなく波長が変化したからなのと同じように、斜方投射された質点が曲がるのは波長が変化するからだと解釈するのが正しい。
つまり、「力があって加速度が生じて質点が動く」という考え方は「人間の錯覚」であって「間違い」であり「力」は実在しない。
ところがこの「錯覚」はとてもよく出来ていてほとんどの場合、「正しい」結果を与えてしまうことが解っている。一方で、正しい考え方(斜方投射は屈折だ、と考えるやり方)は難しすぎてほとんどの場合、計算さえできないことが解っている。
だから、この「間違った考え方」は今でも、使われているし、高校の物理でも「正しいけど計算ができない(つまり実用性がない)」考えより「間違っているけどほとんどの場合正しい」ことが分かっている方を教えることになっている。
質点が「波」と言われてもそうは見えない.....
理由:波長がとても短いパチンコ球(5g)が1m/秒(歩行速度)で飛んでいる時の波長
λ=hmv
=6×10−34
[Js ]
5×10−3[kg]×1[m / s]
=1×10−31[m ]
1[J ]=1[m2⋅kg/ s2
]
1[A ]=1×10−10[m ]原子の大きさ:
100V程度の電圧で加速した時の電子の波長は、約約1Å1Å
λ=定数
V
波には見えないのに「波長の差で曲がる」なんておかしい。
水面で 曲がるθ
1
θ2
sinθ1
sinθ2
=λ1
λ2
λ1:長波長
λ2:短波長
つまり.....
6年の物理で習います!
曲がり角(θ1,θ
2)は「波長の大きさ」には関係なく「波長の比」だけ
できまる。目に見えないほど波長が短くても「比」は定義できる(「1:10」と「10万分の1:1万分の1」は『比』は同じ)。なので「波だということは見えないのに波長の差のせいで曲がる」という一見、無理なことが実現する。
波って広がっているものじゃないか。質点が波って言われても納得できない
「波」と言っても質点の場合「波束」と言って「一箇所に固まった波」みたいな状態になっている。
こんな「波」はどうやったら作れるの?⇒デモンストレーションへ
ちょっと待って。波長って速度に反比例していたのでは?「いろんな波長が混じっている」ってことは「いろんな速度が混じっている」ことにならないか?
その通りです。波束の速度は決まっていなくて「誤差」があります。
(場所が完全に決まっている)質点質点:すべての波長が混じっているので速度の誤差が無限大で、まったく決まらない
波束波束:波長が数種類なので速度は決まっていない。でも空間全体に広がってないので大体どこにいるか決まっている。
普通の波普通の波:波長が一種類なので速度は決まっている。でも空間全体に広がっていてどこにいるか全くわからない。
結局.....
「速度」と「位置」を同時に精度良く決めることは出来ない。位置の誤差が0なら速度の誤差は無限大。速度の誤差がゼロなら位置の誤差は無限大。
この「速度と位置を同時に決定できない」というルールを量子力学では「不確定性原理不確定性原理」と呼んでいる。これはよく考えるととんでもないことである。例えば、量子力学の世界には「静止」が存在しない。なぜなら「静止」とは「ある場所(=位置の誤差ゼロ)に止まっている(=速度がゼロ=速度の誤差ゼロ)」のことだからである。なんと、量子力学の世界では「静止することが」禁じられているのである。量子力学の世界では「慣性の法則(『力が働かない質点は静止しているか等速で動いているかである』)」さえ成り立たないのである。
いや、でも、「パチコン玉」って「止まって」いるし。どうしてくれる?
速度と位置の精度を同時にゼロに出来ないことを
(位置の誤差)×(速度の誤差)>(ある正定数)
と書くことにしよう。するとこの「ある定数」はとんでもなく小さい値(実は前に出てきたh=6×10-34 [Js])なのである。だからある程度の大きさのあるもの(例:パチンコ球)だと「位置の誤差」も「速度の誤差」も十分に小さくでき、「止まっていないようには見えない」のである。この場合も大きさが電子くらいにならないと位置の誤差や速度の誤差が問題になるほど相対的には大きくはならない。
じゃあ、今習っている物理って間違いなんだよね?なんでそんなこと教えるの?最初っから量子力学、教えてよ!
残念ながら量子力学の計算はとても難しく、ほとんどの場合、答えが計算できない。例えば、「重力」と「量子力学」は(現状の学問レベルでは)矛盾なく共存させることが出来ない。なので、量子力学では「太陽の周囲を回る地球の周期は何秒?」みたいな簡単な問題にさえ答えられない。それじゃあ、困る。ところが高校でならう「物理」はとんでもなく精度がいい「近似」になっていて普通の状況では量子力学とのずれが全くわからないくらいである。なのに地球の軌道とかは計算できるのだから、どっちを教えるかとなったら高校の物理の内容だよねってなっている。量子力学を学ぶのは高校の物理をきちっと分かってからで全然遅くないので、大学で量子力学をちゃんと理解するためにも今、高校の物理を真面目にやっておいてください!
まとめ
・僕らが質点だと思っているのものは実は波だった。
・力が加わって曲がっているわけじゃなく、光と同じように屈折しているだけだった。
・でも、速度から波長を求める式や速度と位置の誤差の下限を決める式に出てくる定数(h=6×10-34 [Js])がとんでもなく小さいので、普段は「波だ」ということにも気づけないし、「静止してない」ってこともわからない。
・質点はいろんな波が合成されてできた波束なので「速度」と「位置」を同時に決められず静止することさえできないのだった。
・高校でやる物理は厳密には「間違い」なんだけど、これはとんでもなく精度がいい「間違い」なので普通は間違っていることに気づくことさえできない。なので、今は高校の物理を真面目に勉強しよう。量子力学は高校生が学ぶには難しすぎるから。
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