人工呼吸管理のキホン

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Health & Medicine

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梶原 浩太郎

人工呼吸管理のキホン 2017.1

呼吸不全

呼吸困難

「呼吸時の不快な感覚」という主観的な症状

the American Thoracic Society 1999

呼吸不全

「room airでPaO2 60Torr以下」という客観的な病態

Ⅰ型呼吸不全:PaCO2<45Torr

Ⅱ型呼吸不全:PaCO2≧45Torr

CO2が上がりやすい

COPD・肺結核後遺症・肺胞低換気

肺炎・肺水腫

間質性肺炎・肺塞栓

CO2が上がりにくい

酸素化 O2 と

換気 CO2 を

分けて考える

人工呼吸管理の最大のポイント

低酸素血症

なぜ低酸素血症は起きるのか?

換気血流不均等

(無気肺・肺梗塞)

シャント (ARDS・肺動静脈瘻)

間質性肺疾患

窒息,吸入気酸素分圧低下,肺胞低換気は特殊 (シンプルレスピレータより引用)

低酸素血症

なぜ低酸素血症は問題となるのか?

PaO2<60 mmHg(SpO2<90%)では脳や心臓に不可逆な障害を起こしうる

改善するには?

吸入気酸素濃度(FiO2)を上げる

原疾患の治療

人工呼吸管理(PEEPをかける) (過呼吸はお勧めできない)

低酸素は命に関わるが,できることは限られている

吸入気酸素濃度 FiO2

nasal(鼻カニューレ) 0.25~6L ・付けたまま食事ができる ・口呼吸には向かない ・FiO2が低く,鼻粘膜が乾燥する mask(単純型マスク) 5~8L ・高流量のO2を流せるが,5L以下ではCO2も溜まりやすい. reservoir mask(貯気バッグつきマスク) 6~10L ・高流量のO2を流せるが,6L以下ではCO2も溜まりやすい.

O2 1 2 3 4 5 6

FiO2 0.24 0.28 0.32 0.36 0.40 0.44

O2 5~6 6~7 7~8

FiO2 0.40 0.50 0.60

O2 6 7 8 9~10

FiO2 0.60 0.70 0.80 0.90

(酸素療法ガイドラインより引用)

• リザーバーつきカニューレ(oximizer pendantⓇ)

少ない酸素流量で通常よりも高いFiO2を得ることができる

• high flow nasal cannula oxygen(nasal high flow

Ⓡ)

通常の鼻カニューレと異なりFiO2が設定(0.21~1.0)でき,

加温・加湿により高流量(35~60 L/min)の酸素を流すこ

とができる.約1~4 cmH20のCPAP効果がある.

※ 2016年2月現在ほとんど算定量が取れない

食事しやすい

圧迫感が少ない

(企業ホームページより改変) (企業ホームページより引用)

高二酸化炭素(CO2)血症

なぜ高CO2血症は問題となるのか?

• 呼吸性アシドーシスによる意識障害,ショック.

• CO2ナルコーシス,呼吸停止.

高CO2血症を改善するには?

人工呼吸管理(肺胞換気量を増やす)

原疾患の治療 (呼吸刺激は新生児無呼吸など)

(シンプルレスピレータより引用)

酸素ほどではないが命にかかわる できることは限られている

CO2ナルコーシス

高CO2血症を伴う慢性呼吸不全患者では,CO2による呼吸刺激が鈍くなっており,高濃度O2投与で呼吸が減弱する恐れがある. ( PaCO2 > 約 80 mmHg 以上で意識障害をきたす)

(病気がみえるvol4より引用)

COPD急性増悪でO2 4LでSpO2 85%も保てず

意識がやや混濁。これ以上の酸素投与はCO2

ナルコーシスを悪化させるかもしれない。

低酸素血症とCO2ナルコーシスのどちらを優

先したら良いのか?

CO2 ナルコーシス

低酸素血症

低酸素血症を優先し酸素投与し,

意識障害があるなら人工呼吸管理

「低酸素血症優先」の誤解

COPDの既往がある肺炎患者のCTをストレッチャーで撮りに

行った。SpO2 98%となるように、reservoir mask 6Lを付けて

運んだ。CT待ちの間にSpO2が下がってきたので、O2 を上げた

が呼びかけても応答がなくなった・・・。

1) COPD・陳旧性肺結核の既往は高CO2血症を疑ってナルコーシスの危険性を考えておく.

3) reservoir mask はCO2がたまりやすく,6Lまでならnasalで良い.

SpO2 88~90%を保つために高容量の酸素が必要な時は呼吸停止の可能性を考えアンビューも用意する.

2) SpO2 88~90%を維持する程度で良い.健常者のSpO2を目標とした高濃度の酸素投与は,ナルコーシスの危険性を上げるだけ.

人工呼吸器による肺障害

高濃度酸素や機械的外力などにより肺胞上皮細胞が障害される

肺胞から血中へ菌が移行しやすくなる

線維化が進む

気腫性変化,気胸,皮下気腫,無気肺など

人工呼吸器の必要性

低酸素血症の改善

換気障害・高二酸化炭素血症・呼吸性アシドーシスの改善

呼吸仕事量の軽減

• 人工呼吸器を使わない低酸素血症・高CO2血症の治療には限界がある

• 人工呼吸器による肺障害があるため,できるだけ使わずに済ませたい

• 人工呼吸器自体で病気が治るのではなく,時間稼ぎをする

酸素投与で限界

CO2が下がらない

原疾患の治療が間に合わない

やむなく人工呼吸器を!

人工呼吸器の必要性 挿管は、NPPVが使えない時・使っても呼吸状態が改善しない時

NPPVの適応

1. 高度の呼吸困難

2. 薬物療法(酸素療法含む)に反応不良

3. 吸気補助筋の著しい活動性,奇異性呼吸

4. 呼吸性アシドーシスまたは高二酸化炭素血症

(pH<7.35 または PaCO2>45)

NPPVの除外基準

呼吸停止,心停止・ショックなど.意識障害や患者の協力が得られない.上気道閉塞など何らかの気道確保が必要な場合. 頭部・顔面に外傷または火傷がある.気道分泌が多く排出困難.

NPPVを許容できない場合

NPPV導入後30分で血ガスを測定し、pH, PaCO2, 呼吸数が改善しない

気管切開の状態で

自宅退院や転院があることは

知られていないことがある

しっかり病状説明を

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

nasal

mask

reservoir

NPPV(ResMedなど)

人工呼吸器で低酸素血症を改善させる

FiO2を上げる

PEEPをかける. (過換気はあまり意味がない)

(O2流量:ℓ)

NPPV(Philipsなど)

人工呼吸器(侵襲的)

PEEP (positive end-expiratory pressure)

呼気終末陽圧

呼気終末に陽圧をかけることで肺胞の虚脱を防げ,

・酸素化が改善する(換気血流不均衡の改善)

・肺保護に役立つ

・無気肺の予防

ただし,

・血圧は低下(胸腔内圧が上がり心臓への静脈還流量が低下し心拍出量が低下)

・肺が過膨脹すると圧損傷を起こしうる

健常者の肺 人工呼吸管理の肺はPEEPをかけないと虚脱する

(シンプルレスピレータより引用)

人工呼吸器で高CO2血症を改善させる

吸いはじめ 吸い終わり 吸う量や圧

強制換気 自発呼吸

または時間

機械で設定 設定された量,

または設定された圧×時間

自発呼吸の補助 自発呼吸 自分で 設定された圧

分時換気量(1回換気量✖呼吸数)を増やす

1回換気量を増やす

強制換気を増やす

人工呼吸器による肺障害

酸素毒性

長時間の高濃度の酸素(およそFiO2 0.5~0.6以上,24~

48時間以上)により酸素フリーラジカルがつくられる

と,肺胞上皮を傷害し,ARDSや肺線維化を起こす.

純酸素は無気肺を起こしやすい.

虚脱性肺損傷

肺胞の拡張と虚脱を繰り返すことによる肺障害を減ら

すため,PEEPをかける.

人工呼吸器による肺障害 圧外傷

陽圧換気で肺が圧外傷を受ける.

過膨脹を減らすため1回換気量を制限しプラトー圧を30~35 mmHg以下に.

(坂中 清彦. 換気モードとグラフィックモニタの見方・読み方トレーニング―人工呼吸器がなくても学べ

る. メディカ出版 より引用)

低酸素血症を改善したい.

でも,高濃度の酸素は酸素毒性が高い.

どちらを優先したら良いのか?

過剰な酸素投与( PaO2 100 mmHg 以上)は意味がない.

しかし、適切なPEEPを併用しても,PaO2 60 mmHgを維持できない場合,FiO2は0.6以上に上げざるを得ない.

酸素 毒性

低酸素血症

高二酸化炭素血症を改善したい.

でも,一回換気量を増やすと気道内圧が上がる.

どちらを優先したら良いのか?

最大気道内圧は30 cmH2Oより下げることが好ましく,重篤なアシ

ドーシス( pH<7.2, PaCO2>80 mmHg )や脳圧亢進がなければ,

肺保護のために1回換気量を制限し,高CO2血症を容認する.

(permissive hypercapnea)

高CO2

血症

気道 内圧 上昇

優先度 • 低酸素 > CO2ナルコーシス

• 低酸素 > 高濃度酸素による肺障害

ARDSは2次性も多い.バランスをみて

• 圧外傷 vs CO2蓄積(permissive hypercapnea )

• PEEPによる肺保護 vs 血圧

• PEEPによる圧外傷 vs 低酸素

肺でのバランス

肺以外の臓器とのバランス

当院の侵襲的人工呼吸器 ベネット840 強制換気の入り方(強制換気にするか,自発呼吸をサポートするかの割合)

A/C 、SIMV ( ⇒ SIMV+PS)、SPONT(spontaneous ⇒ CPAP+PS)

強制換気の圧のかけ方

VC、PC、VC+ ( ⇒ PRVC)

自発呼吸の圧のかけ方

PS、VS、TC、NONE

LTV ⇒ HAMILTON-C1 強制換気の入り方

A/C 、SIMV(CPAP+PSにするには,SIMVで設定回数を0にする)

強制換気の圧のかけ方

VC、PC

自発呼吸の圧のかけ方

PS

(企業ホームページより引用)

強制換気

調節呼吸 補助呼吸

時間になっても 呼吸努力がないとき

呼吸努力があったとき

強制

補助

強制換気の呼吸数を設定する際に,設定呼吸数,バックアップ換気数ということもある

ベネット840の圧曲線

設定数以上の

自発

設定数の自発 自発が設定数に

足りないとき

A/C CMV

SIMV

CPAP +PS

設定数はない

無呼吸時は強制換気

Weaningは上から下へ 状態に合わせて,SIMVをスキップしたり,CPAPから始めたり

強制換気の入り方

A/C (assist control)

補助/調節換気

× 自発呼吸が増えると換気量が増えすぎる.ファイティングしやすい

○ 自発呼吸が弱い・ないときに換気を保ちやすい

自発には補助呼吸

自発がないときは

調節呼吸

SIMV + PS (synchronized intermittent mandatory ventilation)

同期式間欠的強制換気 自発にはPS

設定数だけ自発に合わせて補助呼吸

CPAP(continuous positive airway pressure ) + PS

○ 強制換気がなくファイティングしにくい

× 自発が減った時に換気が維持できない

持続気道陽圧

全ての自発にPSをかける

強制換気の圧のかけ方

VC (volume controll)

一定の流量で決められた換気量まで換気する.

○ 換気量を確保できる

× 気道内圧が上がりやすい。同調性が悪い

PC (pressure controll)

一定の圧で,一定の時間まで換気する.

○ 同調性が良い。気道内圧が上がりにくい

× 換気量が不安定になりやすい

どちらが必ず良いというものではない

特殊なモードは、慣れてから覚えよう (シンプルレスピレータより引用)

自発呼吸の圧のかけ方

PS(pressure support):自発呼吸に合わせて設定圧だけ加圧補助を行う

吸気の終了を自分で決められ,ファイティングしにくい

VS(volume support):自発呼吸に合わせて目標換気量を保てるように加圧補助を行う.

TC(tube compensation):挿管チューブによる気道抵抗の増加分をサポートする.人工呼吸器につないでいながら抜管と同じ呼吸となる.

○ Tピースにつないだ状態に近い.抜管の目安に使える.

NONE:サポートなし.

△ Tピースにつないだ状態に近い.挿管チューブによる気道抵抗のため、呼吸仕事量が増えて患者の負担になる

トリガー(自発呼吸の検出)の設定

フロートリガー(V-TRIG)

息を吸いはじめるガスの流れを感知する.

Vsensで調節する.標準は0.6~2.0 L/min.

圧トリガー(P-TRIG)

息を吸いはじめる気道内圧の低下を感知する.

Psensで調節する.標準は― 0.5 ~ ― 1.5 cmH20

トリガー感度が低い(鈍い)

吸気仕事量が増える

自発をトリガーしない(ミストリガー)

トリガー感度が高い(鋭い)

吸気仕事量が減る

吸気でないのにトリガーする(オートトリガー)

⇒ ファイティングの原因となる

人工呼吸器の初期設定

A/C ,FiO2 1.0,PC,PEEP 4 cmH2O程度で始めると無難.

正常肺(気道確保・神経筋疾患・薬物中毒)

1回換気量 10~12 ml/kg, 呼吸数 8~12回/min

閉塞性肺疾患(喘息・COPD急性増悪)

1回換気量 6~10 ml/kg, 呼吸数 8~12回/min

呼気時間が必要なため呼吸数は少なめに

ARDS

1回換気量 10 ml/kg以下.呼吸数 10~30回/min.

肺炎・肺水腫・拘束性障害(間質性肺炎)

1回換気量 4~8 ml/kg. 呼吸数 15~25回/min.

肺コンプライアンスが低下し気道内圧が上がりやすいので,

1回換気量を少なくして呼吸数を多めに

人工呼吸器の設定調節

PaO2低下時( PaO2 60 mmHg 以下)

酸素化を改善するには, FiO2を上げるかPEEPをかける.

(過換気はあまり意味がない)

① FiO2 を0.05~0.2ずつ上げる(緊急時はすぐ1.0に).最大1.0.

② PEEPを2~3 cmH2Oずつ上げる.最大20 cmH2O.

人工呼吸器の設定調節

PaCO2上昇時( PaCO2 60~80 mmHg以上 )

PaCO2を下げるには,分時換気量(1回換気量×呼吸数)を増やす.

① 呼吸数を増やす(SIMVの換気回数を2~3回/分ずつ上げていく)

COPDや気管支喘息では呼気時間が延長するため,吐ききらないうちに次の換気が始まってしまうと気道内圧が高くなる.

② 1回換気量を増やす( PC or PSを2~3 cmH2Oずつ上げる)

permissive hypercapnea

慢性呼吸不全の場合,CO2を急激に正常化させると,アルカローシスとなる.数日かけて調節すればOK.

基線に戻っていない = 呼気が終わっていない

呼気延長時は吸気時間を短くするか,呼吸回数を減らす I:Eは通常1:2以上,閉塞性疾患では1:2~3程度

I(吸気) E(呼気)

I(吸気) E(呼気)

増悪時の設定調節を

逆にすればWeaning

Weaningはいつから?

挿管による合併症を減らすには

挿管後すぐからWeaning

PaO2 80~100 mmHg以上なら

① FiO2を0.05~0.2ずつ下げていく.最低0.3~0.4.

② FiO2 0.6まで下がっているなら,PEEPも 2~3 cmH2Oずつ下げていく.最低 2~5 cmH2O .

ウィーニング

挿管による合併症を避けるために,できるだけ早く抜管したいので,積極的なウィーニングをすすめていく.

酸素による肺障害を避けるために,まずFiO2 を下げていく.

ファイティングを減らすために換気補助を軽減していく

PaCO2が目標値( 40~50 mmHg )以下ならば

① 換気回数を2~3回/分ずつ下げていく. 最低4~6回

② 吸気圧は,2~3 cmH2Oずつ下げていく. 最低4~5 cmH2O

ウィーニングの中止徴候

努力呼吸,呼吸数40回以上,PaO2 50 mmHg以下,PaCO2上昇,血圧上昇,頻脈,不整脈多発,不穏,発汗多量.

抜管の大まかな目安は

PS 4 PEEP 4 SIMV 4以下

人工呼吸器の離脱 PaO2 >70 mmHg, PaCO2 35~45 mmHg, 呼吸数30回以下, 分時換気量<10L/分 を目安に離脱を試みる.

いずれかの方法で30分~2時間程度観察する.

PS 4, PEEP 4 ,SIMV 4回まで下げるかCPAPとする

Tピースに切り替える or TCモード(自発呼吸トライアル

spontaneous breathing trial: SBT)

SBT成功指標は,呼吸数35回以下,

SpO2 90%以上,心拍数120以下,収

縮期血圧90 mmHg以上, 胸痛・心電図

変化なし,呼吸困難・不隠・異常発

汗なし.

意識レベルclearで咳嗽反射あり

(シンプルレスピレータより引用)

抜管 1. 吸引抜管

純酸素を投与する.口腔内,咽頭内,気管内を吸引する.気管チューブの固定を外す.吸引カテーテルを気管チューブ先端から数 cm出る程度に入れる.カフ抜き,吸引しながら抜管する.

2. 加圧抜管

純酸素を投与する.口腔内,咽頭内,気管内を吸引する.気管チューブの固定を外す.人工呼吸器を外し,ジャクソンリースまたはアンビューバックをつける.患者が深呼吸できることを確認し,カフの空気を抜き,患者の吸気終了に合わせてバッグを加圧しながら抜管する.

吸引抜管は,カフ上部の分泌物を誤嚥しないよう吸引できる.

加圧抜管は,声門開大時に抜管でき,気道の機械的刺激が減る.

やっと抜管、でも・・・

呼吸数35回以上,SpO2 90%以下,心拍数120以上,収縮期血圧90 mmHg以下,

胸痛・心電図変化,呼吸困難・不隠・異常発汗

再挿管の可能性を考えて

2時間後まで要注意

挿管中の合併症 • 気道・回路の問題(リーク,閉塞,カフ破れ,気道損傷,事故抜管,

片肺挿管など)

適切な加湿・加温,適切な人工呼吸器アラームへの対応,適切なカフ圧,適切な鎮静など

• 循環障害

胸腔内圧が陽圧になると静脈還流量が減少し心拍出量が下がり血圧が低下

• 圧外傷(気胸、皮下気腫、縦隔気腫)

聴診と触診で早期発見,適切な人工呼吸器アラームへの対応

• 酸素中毒

高濃度酸素による肺障害

• 上部消化管出血

胃潰瘍のハイリスク(胃潰瘍既往やステロイド投与)にはH2ブロッカーやPPIの投与.

• 人工呼吸器関連肺炎

人工呼吸器関連肺炎 (Ventilatoe associated pneumonia: VAP)

人工呼吸管理から48時間以降に発生した肺炎.口腔・咽頭から気管チューブ外側を伝わって下気道に流れ込みVAPを起こす.

VAPは入院期間が延び,死亡率が上がる.

多剤耐性菌感染が多いため予防が重要.

(院内肺炎ガイドラインより引用)

人工呼吸器関連肺炎の予防

1. 回路を清潔に

・標準感染予防策(手洗い、手袋、清潔操作)

・経鼻挿管よりも経口挿管の方がリスクが少ない(かも)

・回路は1週間に1度以上交換しても意味はない

・気管挿管よりもNPPVの方がリスクが少ない

・挿管期間が短いほどリスクが少ない

・閉鎖式吸引カテーテルの方がリスクが少ない(かも)

・加湿・加温はリスクを下げ,加湿加温器より人工鼻の方がリスクが

減る(かも)

生理的な呼吸の場合,空気は上気道を通過する際に自然に加温加

湿される.気管挿管では加温・加湿を行わないと,気道粘膜が障

害され肺炎や,分泌物の固形化から気道閉塞を起こしうる.

人工鼻は,VAP予防に良いとされているが,

24~96時間での交換が勧められており,以下の場合は使用禁忌となっている

・気道分泌物多量

・気管支瘻

・カフリーク

・高分時換気量

・低体温

・ネブライザ使用中

加温加湿器では,32~34℃以上,湿度100%を目標.

(企業ホームページより引用)

2. 口腔内除菌

・ 口腔ケア

3. カフ上からの流れ込みを減らす

・声門下吸引

・適切なカフ圧維持

4. 胃・食道からの逆流を減らす

・ 半座位(30~45°)

・経腸栄養は免疫が賦活化しリスクが下がる

・ストレス性潰瘍予防のH2ブロッカーはリスクを上げる(かも)

人工呼吸器関連肺炎の予防

(企業ホームページより引用)

(人工呼吸器とケアQ&Aより引用)

気管切開 気道損傷(潰瘍・肉芽腫・声帯不全麻痺・喉頭浮腫),事故抜管などのリスクが高くなるため,2週間以上にわたって人工呼吸器離脱が困難と考えられる場合は気管切開を行う.

人工呼吸器 発声 カフ 備考

トラキオソフト ◎ × ○

人工呼吸器と確実な接続ができる

コーケン

ネオブレス

要注意

○ ○

内筒を入れ替え

スピーチ

カニューレ

× ○ ×

レティナ

× ○ × 切開口の維持

よく外れる

(企業ホームページより引用)

呼吸回路の狭窄・閉塞 呼吸回路の確認.

特にチューブの折れ

挿管チューブの閉塞

片側挿管

ファイティング

聴診でゴロ音.分泌物の吸引

口角のチューブの位置確認

胸写で挿管チューブの位置確認

徐々に内圧が上昇する.

胸写で無気肺・気胸のチェック 肺コンプライアンスの低下

↑ Ppeak 気道内圧上限アラーム

人工呼吸器の設定ミス

人工呼吸器の不具合

一回換気量は多すぎないか

アラーム設定は正しいか

(40 mmHg)

後ほど

呼吸回路の異常

(リーク,外れ,破損)

呼吸回路の確認(特に接続部)

吸引中はリークとなるので鳴る

挿管チューブのカフ圧不足

自発呼吸の減弱

カフ圧計で確認.(20 mmHg~30 mmHg)

リーク音は聞こえないか

↓VTE TOT 分時換気量低下アラーム

↓VTE SPONT 自発換気量低下アラーム

人工呼吸器の設定ミス

人工呼吸器の不具合 自発が減っているのに強制換気が足りていない.

(換気モード,PS,トリガー,換気回数など)

アラーム設定は正しいか(2L/分)

ミストリガーを確認(患者の胸郭の上昇と呼吸器は同調しているか).

頻呼吸 発熱,低酸素,中枢性疾患,鎮静不十分はないか

↑VTE TOT 分時換気量上昇アラーム

↑ f TOT 呼吸回数上昇アラーム

人工呼吸器の設定ミス

人工呼吸器の不具合 自発が出ているのに強制換気が多すぎないか. オートトリガーしていないか,二段呼吸になっていないか.(換気モード,PS,トリガー,換気回数,吸気時間など調節) 換気量アラームの設定が低すぎないか(20L/分) ファイティング・バッキングないか

アラームのポイント

↑ Ppeak どこかが狭い?

↓VTE TOT,↓VTE SPONT どこか漏れてる?

↑VTE TOT ↑ f TOT しんどい?

アラーム対応の最後の手段

原因不明のアラーム・異常で,バイタル悪化を伴う緊急時

人を集めて用手換気

気管チューブの自己抜去・事故抜去

まず人手を集めて,救急カートを用意してバイタルの確認

(意識レベル,自発呼吸の有無,呼吸数,脈,SpO2,血圧)

意識あり

and 自発あり

酸素投与

深呼吸を促す

意識なし

or 自発なし

バッグマスク換気

再挿管の準備

再挿管

自発が弱い

or 酸素化が悪い

喉頭浮腫,気道・声帯損傷に注意(嗄声,血痰,痛み)

気切チューブの自己抜去・事故抜去

まず人手を集めて,救急カートを用意してバイタルの確認

(意識レベル,自発呼吸の有無,呼吸数,脈,SpO2,血圧)

意識あり

and 自発あり

気切孔から酸素投与

深呼吸を促す

意識なし

or 自発なし

気切孔をガーゼでふさいでバッグマスク換気

再挿入・再挿管の準備

再挿入 or 挿管

自発が弱い

or 酸素化が悪い

気道損傷に注意

ファイティング・バッキング

ファイティング:患者の自発呼吸と人工呼吸器が合わずに咳込む

バッキング:気道分泌物により人工呼吸器管理下の患者が咳込む

⇒ どちらも患者の苦痛と血圧上昇・頻脈・換気不良・気道内圧上昇を起こすため早急な解決が必要.

痰の貯留 聴診でゴロ音あれば吸引

気管チューブの位置異常 口角のチューブの深さの確認

回路内の水貯留の流れ込み 水貯留を除く

人工呼吸器の設定ミス 1回換気量は増えすぎていないか

強制換気は多すぎないか

オートトリガーしていないか

不隠・せん妄 低酸素血症はないか

痛み・不眠などが原因なら

鎮痛・鎮静を行う

挿管中の鎮静・鎮痛

人工呼吸器を装着している患者では,疼痛・強い精神的

ストレスや不安のため,鎮痛と鎮静が必要.

鎮痛・鎮静不足

鎮痛・鎮静過剰

患者に強いストレス せん妄,気管チューブ・ライン類の不慮の抜去

廃用萎縮,褥創,深部静脈血栓症・肺梗塞,人工呼吸器関連肺炎,呼吸筋の萎縮や筋力低下

Richmond Agitation-Sedation Scale (RASS)

鎮静の目安

+4 好戦的 明らかに好戦的,暴力的,スタッフに危険

+3 高度な不穏 チューブやカテーテルの自己抜去,攻撃的

+2 不穏 頻繁な非意図的な動き,人工呼吸器とのファイティング

+1 落ち着きがない 不安だが攻撃的ではない

0 覚醒し落ち着いている

-1 傾眠 完全には覚醒していないが声かけで10秒以上視線を合わせる

-2 軽度鎮静 声かけで10秒未満視線を合わせる

-3 中等度鎮静 声かけで体動があるが視線が合わない

-4 深い鎮静 声かけに反応ないが身体刺激で体動あり

-5 昏睡 声かけや身体刺激に反応なし

(Sessler CN, Gosnell MS, Grap MJ, et al: The Richmond Agitation-Sedation Scale: validity and reliability in adult

intensive care unit patients. Am J Respir Crit Care Med 166: 1338-1344, 2002より引用)

頻用される鎮静・鎮痛薬

• フェンタネスト:鎮痛

徐脈・呼吸抑制や嘔気に注意.

• ミダゾラム:鎮静

半減期は2時間とやや長く,3日以上使用すると遷延しやすい.呼吸抑

制に注意.抜管前には半減期の短いディプリパンに切り替えた方が良

い.

• プロポフォール:鎮静

血圧低下,徐脈,細菌汚染に注意.薬価が高い.

• デクスメドトミジン:鎮静・鎮痛

呼吸抑制が少ない.徐脈に注意.早期抜管例に.

痛みがあれば,まず鎮痛.なければ鎮静.

循環・呼吸抑制に注意

挿管か,NPPVか

NPPV 挿管 / 気切 high flow nasal

cannula oxygen

酸素化

FiO2 △~◎ ◎ ◎

PEEP/CPAP 〇 ◎ △(1~3cmH2O)

換気 〇 ◎ ×(雀の涙程度)

社会的状況 御本人の希望,在庫,扱える医師,認容性,医療場所の状況など

FiO2・PEEP/CPAP・換気のどれが必要なのか?

会話でき意思疎通できる.食事ができる.

挿管 NPPV

気道・声帯損傷

人工呼吸器関連肺炎

鎮静が必要

中止・再開が容易

NO CPRでも使える

本人の協力が必要

エアリーク

モニタ不正確

食事・会話できない

強い精神的ストレス

挿管とNPPV

マスクによる顔面潰瘍

誤嚥

喀痰吸引困難

厳密な人工呼吸管理

FiO2や換気量が設定できる

不適切な抜管はできない

NO CPRでは使えない

(使わない)

NPPVの基本 吸気時にIPAP (inspiratory positive airway presure)をかけ,

呼気時にEPAP(expiratory positive airway presure)をかける.

IPAPをかけると,1回換気量が増えPaCO2が低下する.

EPAPをかけると,酸素化が改善しPaO2が上昇する.

侵襲的人工呼吸器でいえば,

IPAP-EPAP は Pressure Supportに相当し,EPAPはPEEPに相当する

NPPV換気モード ~IPAPとEPAPのかけ方の違い~

自発に合わせず時間で

切り替える

CPAPモード CPAP

一定のCPAP圧をかけ続ける

spontaneous

timed

自発に合わせて切り替える.

自発がないと換気できない.

自発に合わせて切り替える 自発がない時はバックアップ換気を行う

(企業説明書より引用)

NPPVの新しい換気モード ASV (Adaptive servo-ventilation)

NIPネーザルよりも緩やかに圧を調節するので同調性が良く心不全に向く.

自動でIPAP圧を調節する.

ただし換気量はSTモードに劣る.

ASV autoはEEPも自動調節する

autoCPAP

気道が開通するためのCPAP圧を自動で調節する.

(企業ホームページより引用)

(企業ホームページより引用)

NPPVの新しい換気モード iVAPS 目標肺胞換気量を目安に,PSを設定範囲内で調節する

AVAPS 目標1回換気量を目安に,1呼吸ごとにPSを設定範囲内で調節する

(企業ホームページより引用)

(企業ホームページより引用)

換気

モード

酸素化

換気補助

認容性 頻用される疾患

NIP V S/T,CPAP, iVAPSなど

○ △ 急性呼吸不全

(特に高CO2血症)

心不全

オートセットCS ASV, CPAP,

ASV auto

△ ○ 心不全

心原性肺水腫

Trilogy 100 S/T,AVAS, CPAPなど

FiO2設定可能

○ 急性呼吸不全

(特に低酸素血症)

S9オートセット CPAP,

autoCPAPなど

×

○ 睡眠時無呼吸症候群

V60 S/T,AVAS, CPAPなど

FiO2設定可能

○ 急性呼吸不全

(特に低酸素血症)

(企業ホームページより引用)

NPPVの初期設定

COPD急性増悪 S/Tモード,IPAP 8~10 cmH2O, EPAP 4 cmH2O, RRは患者の呼吸数の80~90%に, IE比1:2~1:3となるように.SpO2>90%を維持するように酸素吸入.ライズタイムは0.05~0.1秒.

呼気時間を長めに

肺結核後遺症の急性増悪 S/Tモード,IPAP 10~20 cmH2O, EPAP 4 cmH2O, RR 20/min, SpO2>90%を維持するように酸素吸入.ライズタイムは0.1~0.2秒.

ゆっくり吸気圧をかける

心原性肺水腫 CPAPあるいはASVを使う.

PEEPをかけることで,酸素化が改善,循環補助効果が得られる

NPPVの設定調節

PaO2低下時はFiO2を上げるかEPAPを上げる

PaCO2上昇時はIPAPを上げるか換気回数を増やす,

同調性は,Tモード,トリガー感度・ライズタイム・EPAP調節など.

ウィーニングはon-off法.

3時間外す → 6時間外す → ・・・

ライズタイム

ピローマスク

トータルフルフェイス

RTX

NPPVマスク 鼻マスク ウルトラミラージュ コンフォートジェルブルー 口を閉じる必要あり 慢性期に.

フルフェイスマスク ミラージュフルフェイス

コンフォートジェルブルー

閉塞感が強い.

口呼吸の多い急性期に.

マスクが大きいほど急性期向き

(企業ホームページより引用)

NPPV合併症・アラーム

顔面不快感 ヒモの調節,別のマスクに交換

顔面皮膚の紅斑

エアリーク

気胸

保護剤の貼付

ヒモの調節

ガーゼ,チンストラップ

痰が吸引しきれない患者への装着を避ける

誤嚥性肺炎

耳管から中耳へのガス流入による中耳炎

減圧

呑気による嘔吐 減圧

早期発見し中止

細かいところは,ポケットマニュアルや成書を読ん

でみましょう

初心者に 当院のポケットマニュアル

滝澤 始. シンプルレスピレータ.文光堂

丸山 一男. 人工呼吸の考え方, 南江堂.

後期レジデントに 讃井 將満, 大庭 祐二. 人工呼吸器に強くなる. 羊土社

慣れて覚えたい人に 坂中 清彦. 換気モードとグラフィックモニタの見

方・読み方トレーニング―人工呼吸器がなくても学

べる. メディカ出版

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take home message

酸素化 O2 と換気 CO2 を分けて考える

人工呼吸器はできるだけつけたくない

バランス感覚を身につける

成書で勉強しよう

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