第2章 企業の水平境界 ~規模の経済と範囲の経済~...3 1.問題意識...

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日本の総合建設業'ゼネコン(の海外事業における戦略の考察

丹沢研究室

プロジェクト研究Ⅰ

2010.9.12 坊田 淳

~製品アーキテクチャ論を軸に考える~

2

目次

1. 問題意識'1(建設業界を取り巻く環境'外部環境(

'2(建設業界の現況'内部環境(

'3(テーマ

2. 先行研究「統合型ものづくり戦略論」

3. 建設業のビジネスモデル

4. 海外事業における戦略'仮説(

5. 事例分析

6. 結論と今後の課題

7. 参考文献

本レポート上の定義

【建設業】日本の総合建設業'ゼネコン(を指す

清水建設・鹿島・大成建設・大林組・竹中工務店

などの大手ゼネコンを主な対象とする

【海外事業】

日本の総合建設業が展開している,主に,東南

アジア・中東などの新興国市場での建設事業

'中国は制度上の特異性があり対象としていない(

3

1.問題意識'1(建設業界を取り巻く環境'外部環境(

日本経済の成熟,尐子高齢化

製造業の生産設備の海外移転の加速

⇒国内建設投資の縮小

供給過剰,発注者との交渉力の低下

⇒価格競争の激化 0% 20% 40% 60% 80% 100%

主要な生産・開発拠点

国内と海外の売上高比率

国内と海外の製造比率

23.2

5.1

12.3

65.2

26.8

40.6

8.0

62.3

42.8

3.6

5.8

4.3

①国内に比重を置く ②現状維持 ③海外に比重を置く 不明

日本生産性本部 「生産革新・改善活動に関するトップアンケート調査」'H21年12月(

③海外に比重を置く

4

1.問題意識'1(建設業界を取り巻く環境'外部環境(

新興国市場の成長

⇒グローバル建設投資の拡大

グローバル企業の成長

⇒日本ゼネコンの相対的地位の低下

0

10

20

30

40

50

60

70

2000 2005 2008 2010 2014'IMF予測、みずほ総合研究所(

先進国

'米国、日本、EU(

新興国

'中国、インド、ロシアブラジル(

'%(

単位:100万ドル 単位:100万ドル

No. 企業名 総売上高 No. 企業名 総売上高

1 Vinci(仏) 24,268 1 Vinci(仏) 41,715

2 Bouygues(仏) 20,148 2 Bouygues(仏) 32,062

3 Hochtief(独) 14,975 3 China Railway Group(中) 27,018

4 Grupo(西) 14,929 4 China Railway Const.(中) 24,298

5 Bechtel(米) 14,424 5 Hochtief(独) 23,861

6 Skanska(スウェーデン) 14,138 6 Grupo(西) 23,130

7 大成建設(日) 13,757 13 鹿島建設(日) 16,413

8 鹿島建設(日) 13,213 14 大林組(日) 15,877

9 清水建設(日) 12,596 16 大成建設(日) 15,149

10 大林組(日) 12,565 20 清水建設(日) 12,603

13 竹中工務店(日) 10,799 24 竹中工務店(日) 10,721

2004年ランキング 2007年ランキング

ENR資料

世界の建設投資

5

1.問題意識'1(建設業界を取り巻く環境'外部環境(

地球環境問題の顕在化

水・エネルギーの争奪戦

⇒国家間競争の激化,ナショナルチーム体制

6

1.問題意識'2(建設業界を取り巻く環境'内部環境(

国内建設事業への過度の依存

次世代コア技術,差別化技術の不足

海外事業の脆弱さ

※海外事業の脆弱さ

・海外進出のきっかけは,日本の顧客'製造業など(の海外建設投資のお手伝い。

・日本で,企画・設計・契約を行い,生産'施工(のみ現地で行う。

・現地施工は,日本と同様の施工管理。場合によっては日本から下請け業者を連れて行くなどして対応。コスト高になるが,品質・工期の面で,発注者の理解あり。

・こうした事業をステップとして,現地法人から受注した場合,現地施工の不確実性に加え,現地下請業者の生産性の低さ,契約の不備による想定外のリスクにより,損失工事が多々発生した。

7

1.問題意識'2(建設業界を取り巻く環境'内部環境(

パイの縮小による売上高の低迷

競争の激化による利益率の低下

海外事業による損失の発生

1.問題意識'3(テーマ

8

国内建設市場の縮小・競争激化

海外'新興国市場(に活路を見出す

国内と同じ事業モデルでは収益確保困難

海外事業における戦略を考察する

現状の延長線上では,次世代に向けた成長・業績向上は見込めない'または限定的(。

海外事業の展開が重要だという認識はあるが,現状,収益性は不安定。

日本ゼネコンの強みを生かした,海外事業戦略を考察する。

2.先行研究「統合型ものづくり戦略論」

統合型ものづくり戦略論'藤本隆宏'2007(『ものづくり経営学』光文社新書(

⇒ ものづくり現場の実力'競争力の源泉(は,

製品・工程の設計思想'アーキテクチャ(とものづくりの組織能力の「相性'fit(」に左右される。

9藤本隆宏 他'2007(『ものづくり経営学』'光文社新書(

2.先行研究「統合型ものづくり戦略論」

製品アーキテクチャ論

製品アーキテクチャとは,製品設計の基本思想

インテグラル型とモジュラー型の2種類あるオープンアーキテクチャは,モジュラー型の一種で,インターフェースが業界全体で標準化しているタイプを指す

10藤本隆宏 他'2007(『ものづくり経営学』'光文社新書(P24

2.先行研究「統合型ものづくり戦略論」

アーキテクチャの位置取り戦略'藤本隆宏'2003(『能力構築競争』'中公新書((

自社の組織能力と市場環境の構造を前提として,最適のアーキテクチャ的位置取り'ポジショニング(を工夫する戦略。

日本企業は,インテグラル型製品において強みを発揮。'組織能力と製品アーキテクチャの特性が適合(

11

統合型ものづくり戦略論の展開

⇒製造業における海外現地生産への応用 藤本隆宏'2007(『ものづくり経営学』'光文社新書(

新宅純二郎・天野倫文'2009(『ものづくりの国際経営戦略』'有斐閣(

新宅純二郎・天野倫文'2009.10(「新興国市場戦略論―市場・資源戦略の転換」'経済学論集75-3(

海外で現地生産を行う製造業にも応用が可能

自社の組織能力と相性の良いアーキテクチャ分野を伸ばし,相性の悪いアーキテクチャ分野については,相性の良い外国企業の組織能力をうまく活用すべき。

2.先行研究「統合型ものづくり戦略論」

統合型ものづくり戦略論の展開

⇒建設業への応用

藤本隆宏'2007.Feb.(「ものづくりとしての建築」'日本建築学会総合論文誌No.5 14-17(

ものづくり戦略論は何も製造業だけではなく,サービス業にも応用できる。サービスの設計思想'アーキテクチャ(と組織能力との相性による。

建設業も製造業に近接しており,応用が可能。

吉田敏・野城智也'2005.Sep.(「アーキテクチャの概念による建築生産における構成要素のモジュラー化に関する考察」'日本建築学会計画系論文集595号173-180(

吉田敏・野城智也'2007.Feb.(「建築ものづくりにおける「設計情報」に関する一考察」'日本建築学会総合論文誌No.5 84-89(

国内建築生産物は,インテグラル性を帯びた「アーキテクチャ」

日本の建築生産物は,英国と比べてインテグラル寄り。

複雑化,多要素化が進む可能性を持つ建築の生産性を考えた場合,構成要素のモジュラー化は複雑性を抑制する可能性について重大な影響を及ぼす

12

13

3.建設業のビジネスモデル

事業企画

調査・設計

建設

施設管理

運営

プロジェクトの流れ

発注者

設計事務所・ゼネコン'設計・監理(

コンサル'企画・調査(

ゼネコン'施工管理(

材料・資材 鉄筋工・大工 電気・設備 重機・クレーン仮設工事 内装・外構 一次下請け

二次下請け

三次下請け

元請

調整が重要

14

3.建設業のビジネスモデル

≪建設事業の特性≫

調整が特に重要'部品や作業の小さな誤りが大きなコストにつながる(⇒デザイン特性を持つプロセス'ポール・ミルグロム&ジョン・ロバーツ'1997((

この場合,アームズ・レングス取引'市場での購買(よりも,自製が優位契約の不完備性

機会主義的行動

情報の非対称性 などにより取引費用が大

⇒自製'垂直統合(の方が好ましくなる

日本のゼネコンは,自製の代替手段として,継続的取引を前提とした強固な下請ネットワーク'系列(を形成した⇒調整問題の多くを解決する'デイビッド・ベサンコ他'2002((

15

3.建設業のビジネスモデル

特徴 メリット デメリット

請負形態'オリジナル生産(

・先行投資 尐・在庫なし

・大量一括購買 難・顧客の需要により繁忙度に波

現地生産'屋外(・生産設備 不要・固定資産 尐

・不確定要素'コスト変動(多・システムの自動化 難

重層下請構造'長期継続取引(

・生産量調整 易・労務問題 尐

・ノウハウの蓄積 尐・下請の繁忙度によるコスト変動

≪これまでの強み'国内建築生産(≫

1.施工管理力'コーディネート('QCDSE('すり合わせ技術(

2.現場間ネットワーク,下請ネットワーク'系列(

3.一定の知名度,信頼,リピーター

4.製造業の設備投資,不動産開発投資,公共事業などの下支え

⇒建設事業をインテグラル型に設計し,自社の組織能力と適合させてきた

16

3.建設業のビジネスモデル

≪海外展開における日本ゼネコンの弱み≫

1.品質・コスト・工期の差別化'インテグラルの強み(を発揮できない

2.差別化技術を保有していない'自社での生産能力なし,系列が機能しない(

3.危機管理・リーガルリスク対応能力が脆弱

4.発注者との交渉力がない'上流段階で事業スキームが組まれるケースの増加(

5.知名度・ネームバリューがない

6.M&A・アライアンスのノウハウがない

海外事業においては,日本ゼネコンが自製の代替手段としてきた「下請ネットワーク'系列(」

が期待できないため,改めて「アーキテクチャの位置取り戦略」を構築する必要あり

つまり,アーキテクチャ'インテグラルorモジュラー(の優位性と,自社の組織能力の相性を

勘案して,企業間関係'垂直統合or水平分業or中間形態(を戦略的に構築する必要あり

4.海外事業における戦略'仮説(

市場の成熟度によるアーキテクチャの優位性

① 建設事業は,市場の成熟とともに,インテグラル型優位からモジュラー型優位へ移行する。

② 従って,新興国市場では垂直統合が優位となり,成熟市場では水平分業が優位となる。

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新興国市場成熟市場

'国内建設市場(

モジュール'水平分業が優位(

インテグラル'垂直統合が優位(

・インテグラルに強みを発揮する垂直統合モデルが優位・特殊技術を持つ専門企業は一定の優位性を保持

・モジュールによる競争力がインテグラルの強みを上回る・水平分業による専門企業が優位

建設事業

建設事業

市場の成熟

18

4.海外事業における戦略'仮説(

≪取引費用と市場の成熟度の関係≫

市場が未成熟な新興国市場では,取引費用が大

政治情勢リスク'テロ・クーデター(

法令・制度リスク'法令改変,契約,不動産(

発注者信用リスク

下請業者倒産リスク

資材調達・運搬リスク

市場が成熟してくるにつれ,取引費用が減尐

スキーム・ファイナンスの安定性

契約履行の確実性

取引企業の信用力・安定性

継続取引による信頼性

⇒新興国市場では自製'垂直統合(に一定の優位性あり

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5.事例分析

2009.11.25 日経新聞 経済産業省 資料

水ビジネスにおける垂直統合企画・設計から施設建設,さらには施設運営・管理まで,一貫して事業遂行が可能なフランスの水メジャー「ヴェオリア」「スエズ」が圧倒的シェアを獲得

高度な部品技術を持つ日本企業は,一部で競争力を持つものの,水メジャーの下請としての位置付け

20

5.事例分析

風力発電事業における垂直統合風力発電事業者は,風車製造メーカー,送電システム会社,建設会社に対し,商社を代表とするJVを組成させるなどし,フルターンキーで発注した。'不確実性の高い事業として,レンダーの要請があった(

昨今,実績が積み上がり,フルターンキーよりも,個別契約で十分なリスク管理ができると判断され,コスト的には分割発注'水平分業(が優位。

風力発電事業者

企業連合'JV(

送電システム 建設会社

レンダー

風車メーカー

太陽光発電事業における垂直統合戦略シャープや東芝が推進する太陽光発電事業は,不確実性が高い段階では,欧州の太陽光発電事業者のエネル社などとアライアンスを組む。

商社

21

5.事例分析

PFI事業,PPP'コンセッション(,インフラ運営権の民間売却への応用市場が未成熟な段階では不確実性が高いため,事業企画の段階で受託企業がJVを組成し,契約不履行に備える。

市場が成熟すると,より利益率を向上させるために,市場取引が優位。

東邦銀行HPより

5.事例分析'まとめ(

スマイルカーブモデルの建設事業への適用とその変化

22

事業プロセス

付加価値

川下川上

インテグラル型優位

調査・設計

建設

施設管理

【過去】

5.事例分析'まとめ(

スマイルカーブモデルの建設事業への適用とその変化

23

事業プロセス

付加価値

川下川上

モジュール型優位へ

調査・設計

建設

施設管理

【現状】

5.事例分析'まとめ(

スマイルカーブモデルの建設事業への適用とその変化

24

事業プロセス

【多角化型垂直統合】

付加価値

川下川上

事業プロセスの拡張

事業企画

調査・設計

建設

施設管理

運営

【今後】

6.結論と今後の課題

市場の成熟度によるアーキテクチャの優位性

① 建設事業は,市場の成熟とともに,インテグラル型優位からモジュラー型優位へ移行する。

② 従って,新興国市場では垂直統合が優位となり,成熟市場では水平分業が優位となる。

③ 建設事業における「事業プロセス」は範囲が拡大してきており,「多角化型垂直統合」が優位となる。

25

建設事業

建設事業

市場の成熟

新興国市場成熟市場

'国内建設市場(

モジュール'水平分業が優位(

インテグラル'垂直統合が優位(

・インテグラルに強みを発揮する垂直統合モデルが優位・特殊技術を持つ専門企業は一定の優位性を保持

・モジュールによる競争力がインテグラルの強みを上回る・水平分業による専門企業が優位

6.結論と今後の課題

市場が未成熟の新興国で建設事業を行う場合,アーキテクチャとしてはインテグラル型に一定の優位性がある

ただし,日本のゼネコンが得意としてきた,旧来の建設事業モデルでは,垂直統合のメリットによる競争力は限定的

事業企画の段階から参画し,また,施設管理・運営までリスクを取る,多角化型垂直統合モデルが有効

26

しかし、組織能力が不足

事業企画のノウハウが必要

建築・土木人材は一定のマネジメント力はあるが、他ビジネスの経験なし

M&Aの経験なし

6.結論と今後の課題

27

新興国市場における多角化型垂直統合モデルの可能性

内部成長M&A多角化

プロジェクトアライアンス

上流統合モデル

× △ ○

全プロセス統合モデル

× △ ○

下流統合モデル

△ ○ ○

時間がかかり,成果を出すには困難下流は可能性あり

上流との統合は主導権を取るのが困難

可能性はあるが競争が厳しい

事業プロセス

【多角化型垂直統合】

付加価値

川下川上

事業企画

調査・設計

建設

施設管理

運営

6.結論と今後の課題

◆「モノ」を所有するよりも,「コト」を実現すること'利用(に価値がある時代

⇒建設事業プロセスそのものが変化,価値創出の場は,より上流と下流に移転する

⇒日本のゼネコンは,新たな建設事業プロセスを通じてどこで付加価値を提供するのか?市場の成熟度と自社の組織能力を勘案して,動態的に戦略構築することが必要。

28

「建物」ではなく「執務スペース」 「上水道施設」ではなく「安定した水」

7.参考文献

藤本隆宏'2003(『能力構築競争』中公新書

藤本隆宏'2007(『ものづくり経営学』光文社新書

新宅純二郎・天野倫文'2009(『ものづくりの国際経営戦略』'有斐閣(

スィッツェ・ダウマ、ヘイン・スクルーダー'2007(『組織の経済学入門』 文眞堂

アーノルド・ピコ―,ヘルムート・ディートル,エゴン・フランク'2007(『新制度派経済学による組織入門』白桃書房

ロナルド・H・コース'1992(『企業・市場・法』東洋経済新報社

クレイトン・クリステンセン'2001(『イノベーションのジレンマ』翔泳社

デイビッド・ベサンコ,デイビッド・ドラノブ,マーク・シャンリー'2002(『戦略の経済学』ダイヤモンド社

ポール・ミルグロム,ジョン・ロバーツ'1997(『組織の経済学』NTT出版

大林組SFCプロジェクトチーム'2008(『ビルを建てる!』日経BP社

日本建設業団体連合会'2010(『建設業ハンドブック2010』

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7.参考文献

藤本隆宏'2007.Feb.(「ものづくりとしての建築」'日本建築学会総合論文誌No.5 14-17(

吉田敏・野城智也'2007.Feb.(「建築ものづくりにおける「設計情報」に関する一考察」'日本建築学会総合論文誌No.5 84-89(

吉田敏・野城智也'2005.Sep.(「アーキテクチャの概念による建築生産における構成要素のモジュラー化に関する考察」'日本建築学会計画系論文集595号173-180(

吉田敏・野城智也'2005.Mar.(「アーキテクチャ概念による建築の設計・生産システムの記述に関する考察」'日本建築学会計画系論文集589号169-176(

安藤正雄・長谷川優貴'2005(「日本建設産業における企業間取引の考察―長期的継続関係と関係レントについて―」'日本建築学会建築経済委員会第21回建築生産シンポジウム2005(

新宅純二郎・天野倫文'2009.10(「新興国市場戦略論―市場・資源戦略の転換」'経済学論集75-3(

古阪秀三'2007(「多様化する建築プロジェクトの実施方式と今後の展開」'日本建築学会総合論文誌No.5 34-36(

佐伯靖雄'2008(「イノベーション研究における製品アーキテクチャ論の系譜と課題」'立命館経営学第47巻第1号 133-162(

(財)建設経済研究所'2009(『建設経済レポート』第5章海外の建設業「中東地域市場の現状と本邦企業の進出」

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