環境経済学入門 第5章環境質の経済学...2.環境汚染規制の一般的モデル...
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1.本章の目的
前章まで・・・市場と環境汚染の関わりをもつ⇒通常、市場は社会的に効率的な結果をもたらさない
政策的問題 現状が望ましくない場合、状況変革の段階が必要
実現に向けて努力すべき、最適な環境質の水準を見定める
・目標達成の役割分担・全体の削減目標について、それぞれの汚染物質の分担割合・環境政策の便益や費用の便益や費用の適切な分配、分担
これら諸問題の基礎的な概念
2
2.環境汚染規制の一般的モデル
環境政策分析を進めていくためのモデルの本質
トレード・オフ(trade-off)
環境汚染に苦しむ人々の被害を軽減
排出量削減のため、別の用途で使用できたかもしれない資源を消費
汚染物質の排出量削減
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2.環境汚染規制の一般的モデル
トレード・オフ(trade-off)の状況例描写
製紙工場市の上水道
リクリエーション
下流の住民への被害
製紙工場(汚染物質の排出源)
・廃棄物を排出までに処理・排水管から流れる物質をリサイクル
河川への流量減は可能
排出物削減活動には相応の資源が必要⇒産出物(紙)の値段に跳ね返る
人々が被る被害 削減費用← トレード・オフ →4
3.汚染被害
被害(damages) 環境が劣化する結果として環境の利用者が受ける悪影響全て
〇河川汚染
・川で遊べない・河川からの病気感染の危険性・河川水の水質処理の費用負担
〇大気汚染
・肺がん等の病気による過剰死・野外彫刻被害に伴う景観損失
被害関数(damage functions) 物質の量と被害の関係を示す
・排出被害関数単一あるいは複数の排出源からの汚染物質の排出量と、それに起因する被害との関係を示す
・周辺環境被害関数
特定の汚染物質の周辺環境における濃度と、それに起因する被害との関係を示す
・限界被害関数排出量や汚染濃度が限界的に増大したことに起因する被害の1単位あたりの変化量 5
3.汚染被害
限界被害関数の形状
排出量(年間トン数)
限界被害(ドル)
環境汚染濃度(ppm)
限界被害(ドル)
環境汚染濃度(ppm)
限界被害(ドル)
排出量(年間ポンド数)
限界被害(ドル)
限界排出被害関数
限界周辺環境被害関数
横軸:一定期間中の汚染物質排出量縦軸:環境被害(汚染海岸マイル数、
肺疾患患者数、絶滅危惧種数、汚染水量等)
多様な影響を包括的に考慮するための単一尺度が必要⇒被害を貨幣的尺度で表現
横軸:環境中の汚染物質濃度縦軸:貨幣単位で測った限界被害
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3.汚染被害
限界被害関数の形状
排出量(年間トン数)
限界被害(ドル)
環境汚染濃度(ppm)
限界被害(ドル)
環境汚染濃度(ppm)
限界被害(ドル)
排出量(年間ポンド数)
限界被害(ドル)
(物議が醸されている)共通点
排出量あるいは濃度がある閾値を超えるまでは限界被害はゼロ⇓汚染物質が増えても閾値以下であれば、被害は増大しない⇓閾値が存在するか否かは、環境管理政策を大きく左右する
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限界被害関数の詳細
MD1
MD2
a
b
排出量(年間トン数)
ドル
e1e2
28
12
排出量:水準e1
→限界被害12ドル
排出量が少しだけ増加(減少)した時、排出物にさらされる人々の受ける被害が排出量増加(削減)分1単位当たり12ドルだけ増える(減る)。
高さ→排出量が少しだけ変化した場合の1単位当たりの総被害変化
横軸とMD1曲線とe1水準線で囲まれた三角形の面積(b)
水準e1に伴う総被害額
3.汚染被害
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限界被害関数の詳細
MD1
MD2
a
b
排出量(年間トン数)
ドル
e1e2
28
12
3.汚染被害
被害関数の上方シフトの要因1→問題汚染物質に曝される人口増加
被害関数の上方シフトの要因2→自然環境の作用(大気状態、風向)
MD1曲線とMD2曲線の違いの要因
MD1曲線とMD2曲線総被害の違い
排出水準e1において、・MD1曲線による被害→面積b・MD2曲線による被害→面積(a+b)
トレード・オフ関係のもう一方「削減費用」についての検討の必要9
4.削減費用
削減費用(abatement costs)環境中に排出される汚染物質の量を削減、また環境中の汚染物質濃度を引き下げるためにかかる費用
製紙工場
【例】川へポンプを使ってそのまま排出→最も費用の掛からない方法
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4.削減費用
削減費用(abatement costs)環境中に排出される汚染物質の量を削減、また環境中の汚染物質濃度を引き下げるためにかかる費用
製紙工場
【例】
製紙工場
排出量を抑える技術的、管理上手法→「削減費用」の発生
削減活動に資源を投じ、排出を抑えることができる
削減量が多いほど、削減費用も多くなる
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4.削減費用
限界削減費用関数 横軸:汚染物質量 縦軸:被害貨幣額
【代表的な限界削減費用曲線】排出削減を達成するための最小費用を考えている
排出量
ドル
(a)
排出量
ドル
(c)
排出量
ドル
(b)
(a)排出量削減当初→緩慢に上昇排出量減少が継続→急速に上昇
(b)限界削減費用の上昇→当初から急速
(c)排出量削減当初→下落傾向削減量減少が継続→上昇傾向
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4.削減費用
限界削減費用関数 横軸:汚染物質量 縦軸:被害貨幣額
【代表的な限界削減費用曲線】排出削減を達成するための最小費用を考えている
排出量
ドル
(a)
排出量
ドル
(c)
排出量
ドル
(b)
(a)排出量削減当初→緩慢に上昇排出量減少が継続→急速に上昇
(b)限界削減費用の上昇→当初から急速
(c)排出量削減当初→下落傾向削減量減少が継続→上昇傾向
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4.削減費用
限界削減費用関数 横軸:汚染物質量 縦軸:被害貨幣額
【代表的な限界削減費用曲線】排出削減を達成するための最小費用を考えている
排出量
ドル
(a)
排出量
ドル
(c)
排出量
ドル
(b)
(a)排出量削減当初→緩慢に上昇排出量減少が継続→急速に上昇
(b)限界削減費用の上昇→当初から急速
(c)排出量削減当初→下落傾向削減量減少が継続→上昇傾向
初期投資
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4.削減費用
削減費用関数の詳細
排出量(年間トン数)
ドル
MAC1
MAC2
C1
C2
ee
a
b
曲線MAC2について
削減前排出水準eから始まり、左向きに上昇→最初の1単位の削減は低コストで達成
↓排出量の追加的削減達成の限界費用増大→排出削減量が多ければ多いほど追加的削減費用に伴う限界費用が増大
汚染源は、必要最小限の費用で排出削減を行うための技術上及び経営上の手段が必要
総費用について
MAC2の場合、当初eから年間eトンの排出量まで削減→総費用は面積(a+b)に等しい
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4.削減費用
集計的限界削減費用 産業や地域別等、一群の企業における限界削減費用
環境政策は単独の汚染源でなく、一群の汚染源からの排出抑制が必要↓
異なる技術を持つ産業の多様な汚染源からの排出を抑制↓
非常に多様な個別限界削減費用関数を考えることが必要集計的削減費用の導入
5 10 16 20
w
5 207 12
w
10 17 28 40
w
ドル
排出源Aからの排出量 排出源Bからの排出量 総排出量
個別的限界費用関数 集計的限界費用関数
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5.効率的な排出水準
効率的な排出水準 「限界被害」と「限界削減費用」とが均等するような水準
高い排出量は環境被害による損失を多く負担させる
低い排出量は排出削減に必要な資源としての費用負担を多くする
トレード・オフ
限界被害曲線MD限界削減費用曲線MAC
ドル
ek e* e’a b
排出量(年間トン数)
w
面積a
面積b
⇒排出量e*時の総被害
⇒排出量e*までの総削減費用
面積(a+b)⇒汚染物質年間トン数排出時の社会的総費用の指標
トレード・オフ関係を概念的に捉えると、面積(a+b)が最小となる排出水準e*が最も効率的な水準であるといえる。
⇒効率的水準は汚染物質や社会情勢等の様々な要因により、その値は大きく異なる
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6.実施費用
汚染物質排出量削減の実現実施に投じられる資源も含めた、排出削減のために施される施策にかかる費用が「実施費用」である。
限界被害曲線MD
限界削減費用曲線MAC
限界削減費用関数+限界実施費用
MAC+E
e2 e1
排出量
ドル
実施費用が加わると、
「効率的な排出水準」は実施費用ゼロの場合よりも右に移動
実施費用がかかるほど、同じ削減量で生じる被害が大きくなる
有効な実施技術を持つことが重要
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7.排出削減と限界費用均等化原理
【例】環境中の特定汚染物質を排出する2企業の限界削減費用について
限界削減費用(週間千ドル)
排出量(週間トン数) 排出源A 排出源B
12
11
10
9
8
7
6
5
4
12
3
4
56
8
10
24
6
10
1420
25
31
全く削減努力をしていない→全排出量:24トン
週間総排出量を12トンに半減
①一律パーセント削減方式→各排出源で各々50%削減⇒週間77,000ドルの総費用
限界削減費用が均等化しない
⇒均等化原理に沿うとき、週間全排出量が12トンを越えず、両者の限界削減費用が等しい
週間排出量が排出源Aから4トン、排出源Bから8トンのとき
週間全排出量合計12トン(≤12トン)、限界削減費用週間10,000ドルで均等化。総費用は週間61,000ドルとなり、一律パーセント削減より16,000ドル低コストで達成。20
8.要約
環境被害と汚染削減費用とのトレード・オフに基づく汚染管理のモデルの検討
排出量
ドル
様々な水準の排出量または排出物濃度とそれらの引き起こす社会的限界被害との関係を示す
限界被害関数
排出量
ドル
単一及び一群の汚染源について
排出量と汚染物質の削減にかかる費用との関係を示す
限界削減費用
排出量
ドル
・全体としての社会的費用(削減総費用+総被害)が最小・水準は背景要因でシフトする
効率的排出水準
複数の汚染源で全排出量削減を最少費用で達成する
各排出源の削減量を限界削減費用が均等化するように分配する
限界費用均等化原理
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