建築家の思考プロセスとcad - 芝浦工業大学 · 建築家の思考プロセスとcad...
Post on 22-May-2020
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建築家の思考プロセスとCAD
その4 ミ-ス・フアン・デル・ローエ
■ は じ め に
現代社会にコンピュータが導入されたことは、産
業革命がもたらした工業社会が人間の生酒を変えたよ
うに、情報化社会を加速させ、人間の生活価値観を大
きく変化させることとなった。この影響はもちろん建
築界にも及んでいる。その利用法としては、デザイン
作業の合理化、短縮化、プレゼンテーションなど様々
であるが、それだけにとどまらず、デザインの思考そ
のものを支援していくのではないかと考えられる。
過去の芸術表現においてパースぺクテイヴが優先
されていた時代、技術者用の技法とされていたアクソ
ノメトリックの芸術表現への有効性が発見されたこと
は、建築家たちに受け入れられるとともに、思考過程
の変化を促した。このように、有効性が発見される以
前に、これを可能にするような思考が発明され認識さ
れている。そこで我々は建築家の作品を分析すること
で、デザインの思考過程を支援するものとしてどのよ
うにCAD ・ CGを使っていくのか問い、 CAD(Com
puter Aided Design)が持ちうる本来の位置を確立し、
建築家の思考過程への影響を考察する。
◆
建築の設計は創造的な過程であり、その過程を分
析すると、ふたつの行為によって形成されているのが
わかる。ひとつは純粋な創造的行為、すなわち我々が
途中の問題を乗りこえてデザインを進めていく時に、
説明できるような理論(概念)と方法による思考.行
為である。ふたつめは機械的行為、すなわちCAD的
行為である。例えば下記のような操作をする行為であ
る。
・幾何学的行為(操作)
消去、移動、反転、回転など画面にある図形を純
粋に"図形"として扱う操作。
1991年度 tI本建築学会
側束支部研究報告集
正会員 衣袋 洋一* 正会員○鈴木 啓仁**
正会員 中村 光利**
・代数的行為(操作)
パラメトリック変換、移動など図形を数値的に扱
う操作。
・操作の分類
それぞれの操作はさらに次のような分類ができる。
a)複写、移動など、自由な図形操作
b)ミラ-、回転など、規則的な図形操作
建築家の機械的行為は、点、線、面という図面上
の建築設計の途中段階に現われる中間形態または最終
形態に要素ないしは全体という構図の中にあらわれる。
すなわち、建築は、要素が数学的規則によって集まっ
た集合体であるという側面を持つ。
また機械的行為の特徴として、最終形態に至るま
でに移動、回転、ミラーなどを使い、各要素の操作を
介してあるひとつの要素の集合体から次の要素の集合
体へと変換が連続的に繰り返される。
これらの特性は、ある秩序を持った要素と要素と
の総体をつくりだすことを目的とし、ものとしての建
築に対して極めて抽象的なデザインという観念を提供
する。
古代から近代に至る建築作品において建築生成プ
ロセスは明確な数学的処理、幾何学的要素の使用といっ
た、極めて機械的な手法がみられる。 CADシステム
使用によって促される建築デザイン手法は、過去にお
ける建築家たちの手法の一部分を示してもいる。
我々は今日まで、プロポ-ション、プリミティブ
を重要視し、実際の作品へ様々な試みを見せてきた建
築家ル・コルビュジェに着眼し、彼の思考プロセスと
それから学ぶCADによる設計手法について分析、検
討してきた。こうした経過において確立された、ル・
コルビュジェの作品をテクストとして行ってきた分析
方法を、今回、デ・ステイルに影響され、ル・コルビュ
ジェと同時代の建築家ミ-ス・フアン・デル・ローエ
の分析にあてはめて考えていく。
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ル・コルビュジェにはキュピズムなどの絵声的側
面があることから、我々の分析は彼の思考を2次元と
3次元とに設定し、 2次元から3次元への移行過程を
分析してきた。そこで、画面分割、色彩決定に厳密さ
をもつデ・ステイルに影響されたミ-ス・フアン・デ
ル・ロー工についての分析を、コルビュジェ的なとこ
ろから始めていく。
EIミース・フアン・デル・ロー工の2次元的思考
<煉瓦造田園住宅>
・ 2次元的な数学的規則 グリツト
この教学的規則は意図的にずらされ、互いに
重なりあう。平面図において各エレメントを統御
している。
・幾何学的対称性 風車型
「回転」を対称変換する構成(90度回転、対
象線、回転中心点) 。(*1)
煉瓦造田園住宅では設定された二枚のグリ、ソ
トの上に風車型がおかれていく。風車型の幾何学
的対称性はずらされたグリットに崩されるが、そ
れは新しくグリツトのシステムにのる。
<バルセロナ・パビリオン>
・ 2次元的な数字的規則
a)黄金比
b)モンドリアン・グリット
この規則は平面図において点、綿、面で表現
される、柱、壁、床などの建築エレメントを統御
している。
こういった規則に従うことを除けば、エレメ
ントの配置、大きさは自由である(点、線、面は
自由に設定できる) 0
・オーバーレイ
それぞれの設定された面はオーバーレイされ
ている。面によってつくられた領域の重ね合わせ
部分の優位性はここにはない。
・部分と全体
ル・コルビュジェはドミノ理論を、 「建築の
機能をもったそれぞれの部分をはめ込んでいく枠
組のようなもの」と位置づけているのにたいし、
ここには「枠組がある」という全体を決めてしま
う概念はなく、エレメントの集積で全体がつくら
れている。
rミ-ス・フアン・デル・ロ-エの3次元的思考
1921年にドゥ-スプルグやリシツキーとグル
ープrG」をつくり、 1923年に彼等とともに雑誌
「G」を発刊したミ-スは、次第に構成主義やデ・
ステイルの開拓しつつある新しい形態秩序に合流
する傾向を見せ始める。
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デ・ステイルにおける形態表現
3次元を2次元へ還元
・緑 水平-女性、垂直=男性(*3)
・原色-背の後退、黄色の前進、赤の排個
ドゥ-スブルグにおける建築の形態表現
2次元から3次元への展開
・アクソノメトリック
モンドリアンの原理にはなかった斜めの綿
が初めて導入されることで、直線と色彩面によ
る3次元的表現が可能となる。
・点、線、面
3次元の空間の周囲に面による要素が明瞭
に空間を分節しながら浮遊して非対称性の群を
つくる。
全ては面で表現される。
ミ-スにおける建築の形態表現
2次元から3次元への展開
・点、綿、面、量
点が線をつくり、線が面をつくりだすよう
に、面が量をつくりだす。すなわち、 2次元で
表現されたものを3次元にうつしかえるとき、
ミ-スは、 2次元で表現された各面を独立した
形で量へとたちあげた。
<バルセロナ・パビリオン>
・オーバーレイ
3次元にたちあげられた面は量となり、そ
れぞれが2次元と同じように重なりあっている。
・部分
それぞれの量は、床によって表わされたり、
屋根によって、または壁、水によって表わミれ
る。したがって壁、スラブなどはそれぞれ独立
をしていて、優位性もなく、等価におかれてい
る。 3次元において柱の存在は希薄となる。
<フアンズワース>
・部分
量は、それぞれずらされることなく、床、
屋根、などで表現される。一つの量を一つの床、
屋根、壁が表わしていたのに対し、ここでは一
つの量を二つのものが表わしている。
・オーバーレイ
2次元において、床と屋根が全く重ね合わ
されている。
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■ 考 察
以上の分析から、ミ-ス・フアン・デル・ローエ
の思考プロセスにおいて全体を制御する2次元的な数
学規則の存在がわかる。グリツト、黄金比など、 2次
元的な教学的規則は直接、具体的な形態にあらわれず、
抽象的形態にととまり、部分と部分、全体と部分を秩
序づけることに利用されている。さらに言えば、その
規則の内においても多様なシミュレーション(イメー
ジをまとめるための変形や複写、移動など様々な図形
操作)が行われ、形態が決定されることによって、全
体が優位となり部分は全体に従属することとなる.不
安定になりやすい部分を数学的規則によって制御し、
全体を展開している。
2次元における教学的規則に制御された建築形態
の3次元への展開は、ずらされ重ねられた面をそれぞ
れの量としてたちあげることで可能となった。そして
建築要素である床、壁などの形態要素によってそれぞ
れの量を視覚化、構成し、オーバーレイの思考を展開
する。その思考はさらに進められる。ずらすことは放
棄され、一つの矩形を多層に全く重ね合わせている
(オーバーレイ) 。ずらされていた空間すべてを一つ
の空間にまとめ、重ね、密度ある空間をつくりあげる。
「 Less ls More j
r床と屋根、階段がついているだけのフレームは
標準コンポーネントで構成され、その組み合わ
せによって様々な集合住宅の形態が可能となる
のである。」 (*5)
ル・コルビュジェのドミノ理論が「組み合わせ」
という概念を持つのに対し、ここではⅩYZ方向への
連なりは放棄されているo ミ-スのつくりだす空間は、
デカルト空間にj引ナる意味ある部分、密度ある空間を
指定している。
以上、ミ-スの思考過程における行為は、シミュ
レーションと重ね合わせ(オーバーレイ)という部分
が大きく、それらは独特の思考を促がした。
■ お わ り に
ここでの論考は、建築作品における表現としての
機械的行為を明確にするとともに、デザインの思考プ
ロセスとその結果を分析し、今日におけるコンピュー
タの在り方、位置および特徴を碓認することである。
ミース・フアン・デル・ローエの思考過程は、シュ
ミレーション、オーバーレイといった行為によって変
化した。このように建築を設計していく過程において、
コンピュータはそれぞれの独特の思考を促し、我々の
設計プロセスに変化を与えてくれる。
「デザイナーがコンピュータと人間のインター
フェイスたるために・ ・ ・」 (*5)
インダストリアル分野をはじめ、デザインの領域
を見るとコンピュータとデザインは深く関わりはじめ
ている。建築分野においても、デザイン発想そのもの
をコンピュータが支援するのではないかという命題に
期待し、その利用方法の発掘をしている。しかし今日
の使われ方を見ると従来における鉛筆と紙とによる方
法と何ら変わりはなく、コンピュータの特徴をいかし
たものとは言えない。
将来のコンピュータ社会において、我々は建築家
がデザインだけではなくコンピュータやその他のテク
ノロジーに対する認識を持たざるをえない状況がおき
ることを認識しなければならない。つまりコンピュー
タを使う人間側の知性、理論、方法の確立が早急に求
められる。 ■●■文■
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-その1:ル・コルビュジェ 衣那-
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+ ル・コルビュジェの.%号のプロセスとC^D
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