河岸形状、ワンドおよび水制が砂州地形に及ぼす影響 ·...

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河岸形状、ワンドおよび水制が砂州地形に及ぼす影響

矢野 雅昭* 渡邊 康玄** 渡邉 和好*** 平井 康幸****

1.はじめに

 自然河川で見られるような、河岸部の入り組みは、魚類の生息環境に寄与することが知られている1)。また、河床に形成される淵も魚類の生息環境に寄与することが知られ、例えば、これらの場所は冷水性魚類のサクラマスの越夏場として利用されている2,3)。サクラマス幼魚の越冬環境は、流速が遅く、水深が深いことが知られており4)、淵を越冬場として利用していると考えられる。 このように魚類の生息環境に重要な、河岸の入り組みや淵であるが、河川改修により河道が単調となった区間では、瀬淵地形を持つ自然河川よりもサクラマス幼魚の個体数が少ないことが指摘されている5)。しかし、護岸工に伴う魚類生息環境への悪影響があっても、現状で河岸浸食防止に寄与している護岸を全て取り去ることは現実的ではない。部分的な改修により、流況に変化を持たせることができれば、より容易に河川環境の改善を図ることができると考えられる。部分的な改修による対策工として、ワンドや水制の設置が考えられる。なお、ワンドとは高水敷に見られる自然および人口的な本川と連続した湾入部である6)。ワンドは入り組みを創出し、水制はその先端に深掘れを形成して淵環境を創出する可能性がある。 ワンドに関する既往の研究は、水理構造7)、土砂堆積8)に関するものがある。また、水制では非越流型水制周辺の局所洗掘および粗粒化に関するもの9)など、数多くの研究が行われている。しかし、ワンドや水制の設置が砂州地形に及ぼす影響については十分解明されていない。 本研究は、ワンドと水制の設置が砂州地形へ及ぼす影響を移動床水理模型実験により明らかにするものである。なお、水制には高さが低い越流型と高い非越流型があり、水制高が高いと実質的な川幅の縮小に繋がる10)。河道幅が十分な箇所以外での非越流型水制の設置は、近年の川幅を拡幅する方向性の河道改修と異なるため1)、本研究では越流型水制を対象とする。

2.方法

2.1 実験水路

 実験に用いた水路は、移動床部の延長が43.25m、河床勾配1/200で、図-1a ~ dに示すとおり、幅0.9mの水路断面の中に、河床面から高さ5cm、法面勾配が1:2の河岸を両岸に設けた形状とし、河床には厚さ10cm で粒径0.77mmの硅砂を敷き均した。河岸断面形状は図-1に示す2パターンとし、断面Aは河岸法面の固定床部が法尻を境に鉛直下方に連続する形状で、砂州が十分発達する条件とした。断面Bはより実河川に近い条件と考えられる河岸法面の固定床部が河床内部まで連続した条件とした。 河岸の粗度は、桟粗度により付加することとした。粗度の調整は、式(1)に示す足立の式11)により、相当粗度を算出し、高さ2mmの桟粗度の設置間隔を変更することで設定した。なお、相当粗度は、抵抗則に式(2)12)を用いて、(3)12)によりマニング粗度に変換した。

(1)

ここに、hgは桟の高さ、mは0.79(h/hg)-0.26、θは0.02×(h/hg)0.8、hは桟間隔、Rは径深、kは相当粗度である。

(2)

(3)

ここに、Rは径深、φは流速係数、gは重力加速度、nはマニング粗度である。 ケース2,3,5のワンド形状は、図-1a,b,d

に示すとおり、法肩の位置を変えずに、地上部の法勾配を標準断面の1:2から1:0.5と急勾配にすることにより、初期河床面で0.075m 川幅が広くなるようにした。また、ワンドの縦断方向の長さは拡幅された川幅の10倍である0.75m とした。ワンドの上下流は、図

-1dに示すとおり、断面の急激な変化を避け、45度で上下流に擦り付けた。水制は、図-1c,dに示す

技術資料

10 寒地土木研究所月報 №734 2014年7月

t=0.1m

t=0.10m

t=0.05m

0.7mt=0.0m

1:2h=0.15m w=0.3m

W=0.3m

t=0.01m

W=0.7mc

t=0.1m

t=0.1m

1:2h=0.05m w=0.1m

W=0.9mW=0.7m

1:2h=0.15m w=0.3m

W=0.3m

W=0.7m

a

b

t=0.1m

:

0.075m

0.075m

d

W=0.9m

W=0.7m

L=8.05m

0.075m0.750m

L=0.1m

図-1 水路平面・断面 概略図

    ※ a,bの点線部はワンド工断面

表-1 実験ケース

れらの平均値を用いた。なお、水深が浅く、電磁流速計のセンサーの一部が水上に出てしまう箇所では計測を行っていない。

とおり、長さ0.1m、河床面からの高さが1cmである。これは越流型水制となるように、等流水深の1/2の高さとしている。また、水制は河床材料の中まで連続した固定構造物とした。ワンドおよび水制の設置位置は、砂州が十分発達する水路下流部とし、中心が水路下流端から8.05m上流の位置となるように配置した。

2.2 実験条件

 実験流量は、中規模河床形態の発生区分が交互砂州となる条件とした12)。各実験ケースの条件を表-1に示すが、対策工の有無による比較を行うため、断面Aでは対策工がないケース1と、対策工として図-

1aのようなワンドを設置し砂州前縁線がワンド側に向いた状態で通水を終えたケース2、同様にワンドを設置し頂部がワンド側に向いた状態で通水を終えたケース3を行った。断面Bでは、対策工がないケース4、対策工としてワンドを設置し砂州前縁線がワンド側に向いた状態で通水を終えたケース5、対策工として水制を設置し砂州前縁線が水制側に向いた状態で通水を終えたケース6を行った。通水時間は10時間を目安に、水路下流部に砂州が十分発達するまでの時間とし、砂州が計測に適した位置となったときに通水を終了し、最終的に表-1に示す時間となった。

2.3 計測

 対策工による流況や河床形状への影響を把握するため、レーザー砂面計による河床高の計測、2次元電磁流速計による平面流速分布の計測を行った。なお、レーザー砂面計と2次元電磁流速計による計測区間は、水路下流端から砂州半波長5個分の範囲とした。 レーザー砂面計による計測は、通水終了後に砂州形状が極力維持されるよう排水した河床にて、縦断間隔15cmで設定した横断測線上を、レーザー砂面計により横断間隔5mmで計測した。 2次元電磁流速計による計測は、通水終了後に河床をセメント固化し、表-1に示す流量を通水した状態で行った。対策工のないケースでは、縦断間隔30cmで図-1a~ cに示す河岸法尻から0,5,15,35cmの横断地点(ワンドがある場合は、ワンド内1点)の計測を行った。対策工のあるケースでも対策工がないケースと同様の縦断間隔で計測を行い、さらに対策工周辺の流況を詳細に把握するため、対策工の上・下流のワンド擦り付け端部から2.1m 上流もしくは下流の範囲、水制工の上下流2.25m の範囲を縦断間隔15cm で計測した。流速計測は10秒間の計測を3回実施し、そ

寒地土木研究所月報 №734 2014年7月�� 11

図-2 通水後河床と砂州地形内の横断位置

F1,2:砂州前縁線側の河岸法尻から、それぞれ0,5

cm 離れた地点。C1,2:砂州頂部側の河岸法尻から、

それぞれ0,5cm 離れた地点。W:ワンド内

 これらの結果から算出した河床変動量と、中層の平面流速分布は、QGIS13)を用いて可視化した。 時系列的な砂州の半波長、移動速度の変化を把握するため、30分間隔で水路下流端から砂州の先端位置までの距離を計測した。そして、縦断的に隣り合う砂州の先端位置の差から各砂州の半波長を算出した。砂州の移動速度は、各砂州の計測時間毎の先端位置の移動距離より算出した。波高については、本来、最深部と最頂部の高さの差を測定すべきであるが、簡易的に先端位置から5cm下流の深掘れ部と5cm上流の頂部の標高差から算出した。なお、これらの計測は下流端から17.1m 上流までの範囲で行った。また、これらの計測では、ケース2,3に一部欠測が生じた。 対策工による流速低減効果を検討するため、図-2

に示すとおり、砂州の前縁線を基準に横断位置を設定し、流速の比較を行うこととした。具体的には、前縁線側および頂部側の河岸法尻から0,5cmの地点を、それぞれ F1 ~ 2、C1 ~ 2とした。各ケース内での全体平均値、対策工設置位置の砂州内での平均値、その上・下流の砂州内での平均値をそれぞれ比較した。

3.結果

3.1 河床変動量と流速ベクトル分布

 通水終了後の初期河床からの河床変動量と、中層の流速ベクトルの平面分布について、図-3a ~ fに示す。これより、砂州の形成により土砂堆積している頂部と、前縁線から河岸にかけての深掘れが確認できる。通水時においては、砂州は発達しながら流下し、対策工位置においても同様に流下していった。流下した砂州の前縁線が対策工側を向いているときは、図-3b,

e,fのケース2,5,6の対策工周辺のような河床形状となり、頂部がワンド側を向いているときは、図

-3cのケース3のような河床形状となっている。 対策工周辺の初期河床からの河床変動量と、中層の

流速ベクトルの平面分布を拡大したものを図-4a ~

dに示す。図-4a,cに示すとおり,ケース2,5の砂州前縁線の深掘れがワンド側に向いた結果では、砂州による深掘れ以外にも、ワンド下流端が大きく深掘れしている。また、ケース5では、ワンドの下流端で

a. A

b. A

c. A

d. B

e. B

f. B

図-3 河床変動量と流向流速の平面分布

※図上部の数字は水路下流端からの距離(m)

12� 寒地土木研究所月報 №734 2014年7月

-100

-80

-60

-40

-20

0

20

01,00

02,00

03,00

04,00

05,00

06,00

07,00

08,00

09,00

010

,000

11,000

12,000

13,000

14,000

15,000

16,000

17,000

18,000

19,000

20,000

(mm)

(mm)

case1_ case1_case2_ case2_case3_ case3_

-100

-80

-60

-40

-20

0

20

01,00

02,00

03,00

04,00

05,00

06,00

07,00

08,00

09,00

010

,000

11,000

12,000

13,000

14,000

15,000

16,000

17,000

18,000

19,000

20,000

(mm)

(mm)

case4_ case4_case5_ case5_case6_ case6_

図-4 河床変動量と流向流速の平面分布

    (ケース2,3,5,6 対策工周辺拡大)

図-6 平均河床高と最深河床高の縦断分布

    (ケース4~6)

図-5 平均河床高と最深河床高の縦断分布

    (ケース1~3)

流向が対岸に向かって大きく変化し、水はねしていることが確認できる。水制を設置したケース6については、水制の先端に深掘れが確認できる。図-4bに示すとおり,ケース3の頂部がワンド側に向いた結果では、土砂堆積がワンド内にも及び、頂部と同等の河床高となっている。 図-5,6に断面A,Bの各ケースの平均河床高と最深河床高の縦断分布を示すが、対策工のないケース1,4に比べ、対策工を設置したケース2,5,6は,対策工の上流側で深掘れが減少していることが確認できる。ただしケース3についてはこの傾向は確認されていない。

3.2 河岸部の流速分布の違い

 図-2に示す砂州の向きによる横断位置での河岸部の流速について、各ケースで全体の平均値を比較した。また、対策工設置位置と、その上・下流の各砂州内の平均値についても比較した。その結果を図-7~ 10

に示すが、対策工設置の有無、対策工を設置したケース内での各砂州内(対策工位置、対策工上・下流)に関わらず、河岸部(F1,2,C1,2)の流速分布に大きな差はみられなかった。一方、ワンド内(W)の流速は、全てのケースで河岸部(F1,2、C1,2)よりも小さかった。また、断面形状が異なるケース1~3とケース4~6では最外岸部(F1,C1)の流速の平均値が大きく異なり、断面Aのケース1~3では、0.05 ~ 0.19m/sであるのに対して、断面 Bのケース4~6では0.34~ 0.41m/s と速かった。

3.3 砂州の半波長、波高、移動速度の違い

 各ケースの砂州半波長の平均値の時間変化を、図-

11aに示す。各ケースとも時間の経過と伴に半波長が伸び、ケース2,4~6では実験後半に低下がみられる。しかし、河岸形状やワンドの有無による大きな傾向の違いはみられず、実験終了時の各ケースの半波長の平均値は2.4 ~ 3.2m であった。 波高の時間変化を図-11bに示す。各ケースとも時間の経過と伴に波高が発達し、ワンドの有無による傾向の違いはみられない。しかし、河岸形状により傾向が異なり、実験終了時の断面Aのケース1~3では3.1 ~ 4.4cm であるに対し、断面 Bのケース4,5では2.2 ~ 2.9cmと小さかった。 砂州の移動速度の時間変化を図-11cに示す。ケース1,2,4~6では、時間の経過と伴に移動速度が低下して、ほぼ一定値に収束している。ケース3は、

寒地土木研究所月報 №734 2014年7月�� 13

0.000.050.100.150.200.250.300.350.400.45

W F1 F2 C2 C1

(m/s) 2

0.000.050.100.150.200.250.300.350.400.45

F1 F2 C2 C1 W

(m/s)

0.000.050.100.150.200.250.300.350.400.45

W F1 F2 C2 C1

(m/s)

0.000.050.100.150.200.250.300.350.400.45

F1 F2 C2 C1

(m/s)

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

(m)

(h)

0.51.01.52.02.53.03.54.04.55.0

(cm)

0.00.51.01.52.02.53.03.54.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

9.0

10.0

11.0

12.0

(m/h)

(h)

a

b

c

3.6

2.5

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

(m)

(h)

0.51.01.52.02.53.03.54.04.55.0

(cm)

0.00.51.01.52.02.53.03.54.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

9.0

10.0

11.0

12.0

(m/h)

(h)

a

b

c

3.6

図-8 砂州地形内横断位置による2次元電磁流速計

    中層流速分布(ケース1,3)

図-7 砂州地形内横断位置による2次元電磁流速計

    中層流速分布(ケース1,2)

図-9 砂州地形内横断位置による2次元電磁流速計

    中層流速分布(ケース4,5)

図-10 砂州地形内横断位置による2次元電磁流速計

    中層流速分布(ケース4,6)

図-12 ワンド設置位置の上・下流側の違いによる

    砂州半波長、波高、移動速度の時間変化

    (ケース1~3)

図-11 砂州半波長、波高、移動速度の時間変化

    (全体平均値)

14� 寒地土木研究所月報 №734 2014年7月

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

(m)

0.00.51.01.52.02.53.03.54.04.55.0

(cm)

0.00.51.01.52.02.53.03.54.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

9.0

10.0

11.0

12.0

(m/h)

(h)

a

b

c

3.6

2.5

4.考察

4.1 対策工周辺の河床変動

 図-4に示すとおり、ケース2,5,6の砂州前縁線が対策工側に向いた状態では、ワンド下流端と水制工の先端に大きな深掘れが確認された。また、ケース5では図-4a,cに示すとおり、ワンドの下流端に水はねが確認された。既往研究においてもワンドの下流端においては、水はねが生じることが知られている7)。本実験において確認されたワンド下流端の深掘れは、砂州前縁線からワンドに向かう流れがワンド下流端に集中し、水はねしている流況が影響したことが考えられる。この深掘れはケース2では最大8cmであり、例えば本実験が1/00スケールものとすると、実スケールでは最大8mの深掘れとなる。このように、ワンド下流端で深掘れが発生することは、現地に施工を検討する際には考慮する必要がある。

4.2 河岸形状と対策工設置による流況

 図-7~ 10に示すとおり、対策工設置の有無や、対策工の設置位置の砂州内とその上下流の砂州内では、河岸部の流速に大きな差がなかった。これは、流速分布が対策工よりも砂州地形の影響を強く受けたためと考えられる。また、ワンド内の流速はその他の個所よりも流速が遅かった。河岸部の入り組み内は主流路よりも流速が遅いことが知られており1)、砂州が形成される本実験においても同様の状況が確認された。 河岸形状の違いによっても、流速分布が異なり、河岸法面が河床内に連続した断面Bは、断面Aよりも河岸近傍の流速が速かった。後述するが、断面 Bでは波高の発達が抑制されており、河床の鉛直方向の変化が断面Aに比べ少ない。これが流れの抵抗に影響し、河岸部の流速に違いとなった可能性があるが、詳細な機構については今後の検討課題としたい。

4.3 河岸形状や対策工が砂州形状、移動へ及ぼす

    影響

 図-11bに示すとおり、断面Bのケース4~6と断面Aのケース1~3で半波長は大きく変わらないが、波高は断面Bの方が小さかった。 砂州の波長、波高は池田14)によれば、式(4)~(6)のように表される。

・・・ (4)

通水初期に変動がみられ、その後、ほぼ一定値に収束している。断面形状により移動速度に違いが確認され、断面Aのケース1~3では、実験終了時の移動速度が1.0 ~ 1.5m/h であるのに対し、断面 Bのケース4,5では2.3m/h と、断面Aよりも1m/h 程度速かった。

3.3 対策工の上下流による砂州の半波長、波高、

    移動速度の違い

 対策工設置位置の上・下流側で、砂州の半波長、波高、移動速度の違いを把握するため、水路下流端から8m上流の位置で、これらの結果を上・下流側で分割して平均値を比較した。断面A、Bのケースによる半波長、波高、移動速度の時間変化を、それぞれ図-

12a ~ cと図-13a ~ cに示す。この図より、断面A,Bの対策工のないケース1,4では、通水に伴い対策工位置の上・下流側の半波長、波高、移動速度の差が小さくなり、通水終了時には大きな差はない。しかし、対策工のあるケース2,5,6の通水終了時では、対策工上流側の方が下流側よりも半波長と波高が小さく、移動速度は速かった。ただし、同じ対策工のあるケース3では対策工設置位置の上・下流で明確な違いは確認されなかった。

図-13 ワンド設置位置の上・下流側の違いによる

    砂州半波長、波高、移動速度の時間変化

    (ケース4~6)

寒地土木研究所月報 №734 2014年7月�� 15

どで算出されるが、ここでは、本実験条件からこの式により算出される流砂量の、6.4割程度の量となる本実験で概ね平衡流砂量となった0.004リットル /s を用いた。また、波高は前縁線の上流側で最大となり、頂部の下流側で小さくなるため、ここでは簡易的に式(5)による算出値の1/2を用い、ケース4~6の波高発達が抑制された状態として、図-11bから概ね読み取れる2.5cm の1/2を用いた。前縁線の長さは、流下方向の砂州の移動速度を算出するためには、移動方向に直行する長さで除す必要があるため、川幅の0.7mを用いた。その結果、波高として算出値の3.6cm を用いた場合の砂州の移動速度は1.33m/h となり、ケース1~3の値と概ね一致した。また、抑制された波高として2.5cmを用いた場合は1.92m/hとなり、ケース4~6の値と概ね一致した。そのため、断面Aのケース1~3と断面Bのケース4~6の砂州の移動速度の違いは、主に波高の違いに起因するものと考えられる。

5.おわりに

 本研究は、河岸形状、ワンド工および水制工が砂州地形に及ぼす影響を明らかにするため、移動床水理模型実験を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。① 砂州前縁線が対策工側に向いた状態では、ワンドの下流端もしくは水制工の先端で水はねと、大きな深掘れが確認された。② 対策工設置の有無、対策工設置ケース内の縦断位置での河岸部の流速に顕著な違いは確認されなかった。ワンド内においては、主流路内よりも流速が遅いことが確認された。  河岸形状により河岸部の流速が異なり、河床内まで連続する固定床法面により砂州の波高発達が抑制される断面では、そうでない断面よりも河岸部の流速が速かった。③ 河床内部にまで固定床法面が連続する断面形状では、波高発達が抑制され、十分に波高発達できる断面形状よりも砂州の移動速度が速くなった。④ 対策工を設置したケースでは、その上流側で、下流側よりも、半波長が短く、波高が小さく、移動速度が速かった。⑤ 「③」、「④」で確認された砂州の移動速度の違いは、既往の推定式による検討から、波高が変化したことによると考えられた。 本研究の移動床水理模型実験により確認された、河

・・・ (5)

・・・ (6)ここに、Lは波長、Bは川幅、hは水深、Cfは河床の摩擦係数、Zbは波高、dsは粒径、Frはフルード数である。これらの式を用いて、本実験の水理条件として、Fr数を等流水深とマニングの式から算出した流速から算出して0.87、川幅 Bを0.7m、水深 hを等流水深の0.02m、粒径を0.00077m とし、半波長、波高を算出すると、それぞれ3.03m(波長6.05m÷2)、3.6cmとなる。 この結果を図-11a,bに記載しているが、各ケースと比較すると、断面Aのケース1~3では実験値と算出値が概ね一致しているが、断面Bのケース4~6は、実験値の波高が小さかった。この原因として、断面 Bのケースでは、砂州による深掘れが河床内部の固定床法面に達し、波高の発達が抑制されたことが考えられる。 図-12,13a,bに示す対策工の上下流での比較では、対策工上流側の方が、半波長が短く、波高が小さかった。この原因として、図-5,6に示すとおり対策工の上流では最深河床高が上昇しており、この状況が影響したことが考えられるが、詳細な機構については今後の検討課題としたい。 図-11cに示すとおり、波高発達が抑制された断面Bの砂州の移動速度は波高が十分発達できる断面Aよりも速かった。また、図-11,12cに示すとおり、対策工を設置したケース内では、対策工の上流側で砂州の移動速度が速かった。砂州の移動速度と水理量との関係を、簡易に砂州の前縁で粒子がトラップされることにより砂州の移動が生じるとすると、式(7)により表現可能とされ、流砂量に比例し、砂州波高に反比例する15)。

・・・ (7)

ここに、Vbは砂州の移動速度、λは河床材料の空隙率、qbは単位川幅あたりの流砂量、Bは川幅、Zbは波高、lb f は砂州前縁の長さである。本実験で、断面Bのケースや、対策工の上流側で砂州の移動速度が速かった原因として、式(7)の関係から、波高発達の抑制や、対策工の設置によりその上流側の波高が小さくなったことが影響したと考えられる。なお、この式を用いて砂州の移動速度を算出した値を図-11 ~ 13cに記載してある。ただし、流砂量は例えば芦田・道上の式12)な

16� 寒地土木研究所月報 №734 2014年7月

6)�玉井信行:河川計画論;潜在自然概念の展開,p90,財団法人 東京大学出版会,2004,10.

7)�禰津家久ら:わんど形状が河川に及ぼす影響に関する水理学的研究,応用力学論文集,Vol.3,pp813-820,2000.

8)�冨永晃宏・鄭載勲・阪巻実佳:複断面開水路高水敷に設けられた凹部の流れ構造,応用力学論文集,Vol.8,2005,8.

9)�水谷英朗ら:非越流・不透過型水制周辺の局所洗掘および粒度変化に関する研究,水工学論文集,第55巻,pp829-834,2011,2.

10)�山本晃一:構造沖積河川学;その構造特性と動態,山海堂,2004.

11)�水理公式集,社団法人��土木学会,1985.12)�水理公式集,社団法人��土木学会,1999.13)�QGIS,http://www.qgis.org/14)�池田駿介:単列交互砂州の波長と波高,水工学論文集,第27回,1983,2.

15)�渡邉康玄:中規模河床形態の形状特性と河川地形,2008年度(第44回)水工学に関する夏期研修会講義集 Aコース,土木学会 水工学委員会・海岸工学委員会,2008,8.

岸形状による河岸流速の違いや、ワンドや水制の設置による上流側の砂州の変化については、本稿で詳細な機構を明らかにできていない。今後、このことを明らかとし、河道管理に寄与する知見にしていきたい。

参考文献

1)�多自然川づくりポイントブックⅢ.公益社団法人日本河川協会,2013,10.

2)�田子泰彦:神通川と庄川におけるサクラマス親魚の遡上生態,日本水産学会,No.66(1),pp44-49,2000.

3)�Edo�K.�&�Suzuki�K.� :� Preferable� summering�habitat�of� returning�adult�masu�salmon� in� the�natal�stream.�Ecological�Research,�No.18,�pp783-791,�2003.

4)�鈴木研一ら:北海道北部河川におけるサクラマス幼魚の越冬時の微生息場所とその物理環境,北海道立水産孵化場研究報告,第54号,pp.7-14,2000,3.

5)�中野繁,井上幹生:河道の直線化改修がサクラマス幼魚の微生息場所に与える影響,魚と卵�Tech.�Rep.�Hokkaido�Salmon�Hatchery(164):23-32,�1995.

矢野 雅昭*

YANO�Masaaki

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ水環境保全チーム研究員技術士(建設)

渡邊 康玄**

WATANABE�Yasuharu

北見工業大学社会環境工学科教授工学博士

平井 康幸****

HIRAI�Yasuyuki

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ水環境保全チーム上席研究員技術士(建設・総合)APECエンジニア(Civil)

渡邉 和好***

WATANABE�Kazuyoshi

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ水環境保全チーム総括主任研究員技術士(建設)

寒地土木研究所月報 №734 2014年7月�� 17

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