食認知科学入門...zhang et. al. pnas 105, 20930–20934 (2008)...

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国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

食品総合研究所 食品機能研究領域

食認知科学ユニット

日下部 裕子

食認知科学入門ー私たちは「おいしさ」を

どうやって感じているのか?ー

食認知科学とは?

食品側 生体側

食品研究

生産・加工・保存方法

包装・流通方法

栄養

機能性食品

嗜好性

購買行動

成分解析

生産・製造方法

成分機能

食認知・食行動

栄養成分

機能性成分

有害成分

脳・神経系中枢

食認知科学と専門分野の関係

食べ物を見る口に入れる

味わい(食認知)

感覚器

感情

行動おいしさ

分子生物学生化学 生理学

口腔機能科学

脳科学

動物行動学

耳鼻咽喉科学

心理学

行動学

言語学 経済学

食認知科学・食の嗜好性の重要性

口腔

身体

おいしさの回路

動物としての回路

人間ならではの回路

幼少時においしさの回路を作り、上手に維持する

おいしさの回路は高齢期の嚥下・代謝機能に必須

食物

味覚

感覚器

嗅覚 視覚 触覚 聴覚

延髄孤束核運動核味覚反射行動

唾液分泌など

味わい 食認知 大脳皮質(感覚野→前頭連合野)

インターナルクロスモーダル

扁桃体 記憶

快・不快中枢

・恒常性の維持・非恒常的行動(やみつき)

視床下部

食行動

おいしさ

感覚の統合

脳内物質の放出内因的要素:体内生理状態

外因的要素:食環境、情報

フィードバック

内臓

フィードバック

味わいからおいしさへ

味わいの信号の調節

味の信号の入力と統合

味蕾

上皮細胞

甘味、苦味、酸味、塩味、うま味

辛味、渋味、えぐ味、金属味など

基本味

自由神経終末

基本味以外の味

味神経

味を受け取る器官:味蕾

味細胞前駆細胞

味を感じる仕組み:味細胞

味蕾 味細胞

赤:苦味受容細胞緑:甘味受容味細胞

受容する味物質が異なる細胞の集団

(甘味受容細胞、苦味受容細胞、etc.)

味を受け取るタンパク質=味覚受容体

口腔内に入れることにより生じた信号を脳まで伝達する

・一つ一つの信号はバラバラに入力される

・味を受け取るのは、それぞれの味に対応したタンパク質→受容体分子

味の信号の入力

明らかになった基本味の受容体

有郭乳頭

T1r1/T1r3

+?

T1r2/T1r3 T2rs PKD2L1/PKD1L3 ?

甘味 うま味 苦味 酸味 塩味

茸状乳頭

T1r1/T1r3

+?

T1r2/T1r3 T2rs ?

甘味 うま味 苦味 酸味 塩味

ENaC(α2βγ)

受容体 チャネル

hT1r2/hT1r3

甘味受容体

VFTドメイン

システインリッチ領域

膜貫通領域モネリン

ネオテーム

アスパルテーム ブラゼイン

ショ糖

D-トリプトファン

サッカリン

スクラロース

アセサルファムK

シクラメート

ラクチゾール

Gタンパク質共役型受容体

ギムネマ酸

ギムネマ酸とヒト甘味受容体の関係

遺伝と味覚

Bufe B et.al. Curr Biol. 15, 322-327 (2005)

Sandell MA and Breslin PAS, Curr Biol. 16, R792-794 (2005)

味の信号の統合

味覚

嗅覚

視覚

聴覚

触覚

複数の匂いの間で相互作用

インターモーダル(同一感覚内相互作用)

クロスモーダル(他感覚との相互作用)

甘味苦味酸味うま味塩味

温度

食感

・スイカに塩・マリネ・お吸い物

・バニラの香りで甘味を補う・レモンの香りで酸味を補う・醤油の香りが塩味の感受性を上げる

・アイスクリーム・お吸い物の塩加減

・ポテトチップスのクリスピー感

感覚の統合過程で起きる現象

・黄や橙色で酸味や果物の香りが補われる

味の増強作用の種類

1.対比効果---スイカに塩

2.分子間相互作用--アイスクリーム

3.分子内相互作用--昆布と鰹節

対比効果

甘い甘味物質 塩味物質

味細胞

味蕾

しょっぱい

別々の経路で伝えられた複数の味の情報が統合されるときに、相互に影響しあう現象

対比効果の例

・甘味と塩味--スイカに塩、お汁粉に漬け物

・うま味と塩味--お吸い物

増強効果

抑制効果

・酸味と塩味--減塩食

・酸味と塩味--寿司酢、マリネ、キムチ

・苦味と甘味--ビターチョコレート、コーヒーに砂糖

分子間相互作用

・こく---発酵産物

・温度--アイスクリーム・油?

複数の分子が存在して始めて作用が認められる場合

作用機序の予想図:おそらく、2つの受容体を介する系が相互作用すると考えられる

作用

コク味物質 味物質

温度と味

温度感受性チャネルが味の受容に関与

・甘味と温度--情報伝達の下流にあるTRPM5チャネルが関与。温度が高いと活性化し、低いと不活性化する。→暖かいとより甘く、冷たいと甘くなくなる(アイスクリーム)

・塩味と温度--塩味受容チャネルENaCは温度が低いと活性化し、高いと不活性化する。→暖かいと塩味を感じにくく、冷めると濃く感じる(お吸い物)

・辛味と温度--唐辛子の辛味成分カプサイシンを受容するTRPV1は熱刺激も受容する

--辛子やわさびの辛味を受容するTRPA1は冷刺激を受容する

参考メントールの受容体TRPM8も冷刺激を受容する

分子間相互作用

分子単独の作用(相互作用はない)

3.分子内相互作用

・甘味料のブレンドによる甘味の増強効果

・グルタミン酸とイノシン酸によるうま味の増強効果

・酸味による苦味の抑制効果

一つの受容体分子の中に物質が結合できる場所が複数あり、同時に複数の物質が別々の場所に結合した結果、増幅や抑制が起こること

グルタミン酸とイノシン酸によるうま味の相乗効果

hT1r1/hT1r3

Umami: グルタミン酸が呈する味でイノシン酸、グアニル酸で増強される味のこと

学術的定義 うま味≠旨い味

うま味受容体二枚貝のような構造

蝶番部位グルタミン酸

イノシン酸

Zhang et. al. PNAS 105, 20930–20934 (2008)

酸味による苦味の抑制効果

Sal: サリシン(苦味物質)

苦味受容体を導入した培養細胞で確認

Sakurai et. al. J. Agric. Food Chem.

57, 2508-2514 (2009)

味の増強作用のまとめ

・味の増強作用には、分子レベルから脳神経レベルに至るまで、

様々な種類がある。

・味覚受容体や情報伝達に関わる分子が明らかにされ、分子間や

分子内でも増強作用があることが解明されつつある。

食物

味覚

感覚器

嗅覚 視覚 触覚 聴覚

延髄孤束核運動核味覚反射行動

唾液分泌など

味わい 食認知 大脳皮質(感覚野→前頭連合野)

インターナルクロスモーダル

扁桃体 記憶

快・不快中枢

・恒常性の維持・非恒常的行動(やみつき)

視床下部

食行動

おいしさ

感覚の統合

脳内物質の放出内因的要素:体内生理状態

外因的要素:食環境、情報

フィードバック

内臓

フィードバック

味わいからおいしさへ

味わいの信号の調節

内因的要素

食欲と甘味の関係

疲労と甘味・酸味の関係

口腔内環境の変化による味覚の変化(ドライマウス)

味わいからおいしさへ―影響する要素ー

1.恒常性の維持:体調による変化

2.加齢・疾病・投薬などによる変化

投薬による味覚障害

レプチン 満腹時↑

甘味感受性↓

食欲と甘味感受性の関係

食欲調節因子

カンナビノイド 空腹時↑

甘味感受性↑

Yoshida R et.al. PNAS 107, 935-939 (2010)

Yoshida R et.al. PNAS 97, 11044-11049 (2000)

疲労と味覚の関係

精神的疲労

肉体的疲労

Nakagawa M et.al.

Chem. Senses,

内臓での味覚受容

食物の摂取と代謝に関係する様々な臓器に味覚受容体が存在している

味覚情報

生理情報

Nature 486, S7-S9 (2012)

味わいからおいしさへ―影響する要素ー

外因的要素

情報

環境

経験 なじみのあるもの、安全そうなものを選択

新規性恐怖(本能)

場面、食事相手、空間 (音、照明)、食器

おいしさを連想させる言葉、画像ブランドイメージ

好奇心、飽き

包装

食物

味覚

感覚器

嗅覚 視覚 触覚 聴覚

延髄孤束核運動核味覚反射行動

唾液分泌など

味わい 食認知 大脳皮質(感覚野→前頭連合野)

インターナルクロスモーダル

扁桃体 記憶

快・不快中枢

・恒常性の維持・非恒常的行動(やみつき)

視床下部

食行動

おいしさ

感覚の統合

脳内物質の放出内因的要素:体内生理状態

外因的要素:食環境、情報

フィードバック

内臓

フィードバック

味わいからおいしさへ

味わいの信号の調節

油、甘味、カフェインなど

やみつき--脳内報酬系への作用

味わいからおいしさへ―影響する要素ー

内因的要素

3.非恒常性要素

生理状態と食い違う食行動

外発的摂食-食品について見たり聞いたりすると食べたくなってしまう現象

抑制的摂食-過剰なダイエット情動的摂食-やけぐい

まとめ

・私たちが食品を目にしてからおいしさを感じるまでの間には様々

な段階があり、食の質に関する情報は各過程で統合・調節される

・おいしさは記憶や経験と深く関係する

・おいしさの感じ方は体の状態によっても環境によっても変化する

・私たちの食行動には、栄養状態を反映する理にかなった行動だ

けでなく、「やみつき」や「やけぐい」のような脳の状態による非合

理的な行動がある

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