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呉高専への講師派遣報告

平成25年11月6日

物構研ミュオン 牧村俊助  

平成25年 技術セミナー  KEKつくばキャンパス

今日の内容

p 呉高専講義とは  p 講義内容の検討  p 2012年の講義、感想&反省  p 2013年の講義  p まとめ&提案&雑感  

呉高専講義 p KEKの大学等連携支援事業にて実施される。  

(大学等連携支援事業)  大学等が実施する加速器科学に係る教育研究等について連携支援を行うことを目的とする。  

 

p 呉高専内の講義「先端工学」で履修科目として実施する。  全15回のうち8回分を、KEK講師による出前授業。2時間/回。  先端の工学技術の教授を通した高度技術教育  多角的考察のできる、視野の広い優秀な技術者の育成  

 

p 講義対象  高専専攻科1年生(大学3年生に相当)  学部卒と同等の専門知識は修得済み。  機械電子工学専攻 建設工学専攻。12人~20人。  

2012年5月23日、2013年5月15日に講義を行った。

講義内容の検討

技術者として必要な事を自身の経験を元に講義する。

実験テーマの決定 実験方法の検討

実験装置の設計・製作

独創性、革新性を持つ必要がある。最も資質が問われる。

試験を経て、問題を見つけ改良

何を評価すれば良いか、何が問題か見つけて、評価を実施。

実験を開始 結果の考察

実験を行い、結果を考察し、実験の意義、妥当性を評価する。

学校の授業では、ココしか教えない。

教科書や参考書では教えない部分を実感させる。

2012年の講義 「世界最高強度のパルス状ミュオン生成標的の開発」  自分の業務である標的開発に関して講義を行った。    

講義内容の背景として、「J-­‐PARC」、「ミュオン」、「ミュオン標的」に関して説明を行った。(1時間)    

残りの1時間で課題として、標的内の温度分布の計算を生徒自身に解かせる。伝熱工学の関連する基礎概念に関して説明して、課題を計算させる。最後の結果は、後日、提出させる。

24mm  (2σ)

70mm  

20mm Q=4000Wが直径24mm、厚み20mmに一様発熱と仮定する。  35℃の冷却水で除熱する。    

Point  ü  冷却水流速や熱伝達係数を評価。  ü  熱伝導の評価。    

難易度が高いので、解説しながら進めた。複合的な要素を評価しないと装置設計は出来ない。  

講義中での計算

熱伝導率;k=50W/m/K(放射線影響)  厚み t=0.02(m)  

r

dr

Q=4000Wが直径24mmに一様発熱と仮定する。  温度分布を計算させる。  

R

ビームスポットでの温度勾配の検討  r  (m)位置での温度をT(K)とする。  微少幅drでの温度勾配をdTとする。  

drdTrtk

RrQ ⋅⋅=⋅ π

ππ 22

2

R=0.012(m)位置での温度をT1(K)とする。  

を解いて中心部の温度を求めよ。  

r

dr

R2

ビームスポット以外での温度勾配の検討  r  (m)位置での温度をT(K)とする。  微少幅drでの温度勾配をdTとする。  

drdTrtkQ ⋅⋅−= π2

R1=0.012(m)位置での温度をT1(K)  とする。  

を解いてR2=0.035(m)位置での温度T2(K)を求めよ。  

R1

配管内の流速を1m/s以下で評価。  配管表面で沸騰しないように配管内面を100℃以下とする。  配管径は内径10mm、配管の巻きつけ直径は120mmと仮定。  与えた公式より、配管内面温度を決定できる。

微分方程式は講義中でも解説したが、解答は後日、提出。  

2012年の講義の感想と反省

p  生徒は容赦なく、興味があるか無いかを示す。  p  分野の異なる生徒を理解させなくてはいけない。  p  生徒全体に興味を持たせるためには、難易度を

下げ、身近なテーマを選ぶ必要がある。  p  一方で、KEKらしいテーマの選定も必要。  p  座学だけでは、自分の考察を結果に対して与える

事を実感する事が難しい。

2013年の講義内容の検討

ü 分野の異なる生徒が興味をもつ内容。KEKらしい内容。  ü 実習を行い、結果に対して考察を与える。  ü 安全で無くてはならない。  ü 二時間で実施可能かつ宅急便で送付可能。  ü 予算も時間も無いので、既存の設備を利用する。  

p ミュオン標的系  材料を加熱および冷却して機器設計の妥当性の検証。  p 物構研系  宇宙線μSR、分光した光でブラッグ反射を観測。  p 加速器系  クルックス管~電子線加速器で電場の効果が観測できる。  ガイスラー管~電子とガス分子の衝突を観測できる。  

ガイスラー管 p 10年ほど前に使用しなくなった真空圧力計測技術。  

(使用可能な装置が、見つかるはず。)  p 加速器において真空は重要な要素。  p 電極間の電圧によって電子は加速される。  p 放電現象が視覚的に確認できる。美しい!!  実は自分も使ったことが無い!!  自分の未知の技術を調査して、装置を立ち上げる必要がある。  

骨董品を発掘し、超音波洗浄機で洗浄。  電源の動作確認。  

交流電源  リーケイジトランス  

放電現象に関する文献の調査

放電現象では電離、平均自由行程、荷電粒子の移動度、拡散、空間電荷の作用が重要である。  

タウンゼント放電(非定常)  

グロー放電(定常)  ストリーマ

リーケイジトランスでは放電するまで自動的に昇圧してしまうため、定量的な観察が困難。  定電圧、定電流、直流電源の採用。  

定常放電開始条件は、残留ガスの種類と圧力に依存する。  グロー放電では電子のガス分子との衝突が暗帯によって直接、観測できる。  

実際の講義

以下のガスに関して、放電開始電圧の圧力依存性を計測する。放電開始後の電圧も計測。また、どのように見た目が変化するかを実験し、考察を与える。  空気、アルゴン、窒素、水素、エタノール(色の観測)  システム構成、手順書、安全の注意事項に関して説明。  4班に分けて、それぞれレポートさせた。  

直流電源  

1泊2日の広島出張で、前日準備二時間、講義後に二時間片付けはあわただしい。  

アルゴンの場合

970  Pa,  0.28kV,  2.7mA   2000  Pa,  0.28kV,  2.7mA  

330  Pa,  0.28kV,  2.7mA  

140  Pa,  0.6kV  7.5mA  

※どの場合も、ほとんど電源の電流制限機能で電流値は決まっている。  

実際に講義に用いた資料  

窒素の場合

360  Pa,  0.67kV,  2.72mA   360  Pa,  1.2kV,  7mA  

720  Pa,  2kV,  **mA   190  Pa,  0.49kV,  2.72mA  

アルゴンと明快に陽光柱の色が異なる。何故か?  

実際に講義に用いた資料  

水素、エタノールの場合

水素 70  Pa,  0.4kV,  2.73mA  

エタノール 610  Pa,  4.61mA,  1.44kV  

何故、水素は、あまり光らないのか?  他のガスと何が異なる?  

エタノールは放電の経路が観測できる。陽光柱が見えるのは、真空圧力が低くなってから。  

実際に講義に用いた資料  

他にも考察①

水素 70  Pa,  0.4kV,  2.73mA  

窒素 360  Pa,  0.67kV,  2.72mA   アルゴン 330  Pa,  0.28kV,  2.7mA  

ほとんどの場合、陰極(GND側)は同じ紫色をしている。何故か?  ガス由来では無いのではないか?  

実際に講義に用いた資料  

他にも考察②

空気 18  Pa,  0.5kV,  2.7mA  

真空容器側のGNDからの放電が支配的になっている。電極の方が近いはずなのに何故??  (どの教科書にも載っていない。自分で考察すべし!!)  タウンゼント放電を経てグロー放電になると、平衡状態に移行する。「電極からの放電が支配的だった平衡状態1」から「容器からの放電が支配的な平衡状態2」に移行している。何故、起きる?  (各圧力の場合の両陰極の電界、放電開始条件を考えよ。)  

空気 100  Pa,  0.59kV,  7.52mA  

実際に講義に用いた資料  

課題

答えの無いものを自分で作り出す。  以下に関してA4、二枚以内で記述する。    1.  真空に関わる身近な技術を述べよ。身近で無くても

面白ければ良い。  2.  ガスまたは物質の励起に関わる身近な技術を述べ

よ。身近でなくても面白ければ良い。  3.  実習におけるガスの内、二種類を選び、実験で気

付いたことに基づき比較、議論せよ。    配点は講師の独断に基づく。個人差あり。面白ければ、これ以外の考察でも良い。  

実際に講義に用いた資料  

課題の解答例

生徒自身の考察が得られた。  良好な反応が得られた。  

呉高専講義のまとめ&今後の提案&雑感

2012年;自分の業務に関して座学で講義を行った。  2013年;講義用のテーマを検討して実習を中心に講義を行った。  実習を中心とした講義の方が、反応が良好だった。  実際には自分の業務に関して実習を行える方が望ましい。  問題点  

n  講義をする事が決定してから講義までの時間が短い。  n  二時間1コマでは、充実した講義は難しい。  n  予算が無いので、実習が限定される。  

解決案提案  n  技術職員で高専、大学での講義を担当する部会を持つ。  n  各講師が相補的に講義プラグラムを組む。  n  予算を付ける。  

講義を行うことは、学生の理系離れに対して一定の効果がある。KEKの技術職員志望者を増やすためにも重要。  出張インターンシップ制度を目指すのが良いと思う。  

講義のための調査(放電概略)

放電現象では  ①電離~原子内電子が光子や電子の衝突などで自由電子に     変わる。電離しないで励起する場合もある。  ②平均自由行程   

粒子が他の粒子に衝突するまでの距離の統計的平均。  ③荷電粒子の移動度~電界による荷電粒子の移動し易さ。  ④拡散~気体粒子の密度が場所ごとに一定になろうとする効果。  ⑤空間電荷の作用~空間に分布している電荷(空間電荷)が    全体の電界分布に与える作用。  が重要である。  

Ø  放電に関して参考にした書籍  電子工学要論(国民科学社)  p39-­‐64  

Ø  エレクトロニックスの基礎  霜田光一 裳華房 p6-­‐48    

放電概略 ガス中に二枚の平行板電極を置いて直流電圧を加える。  非持続放電(タウンゼント放電)を経て持続放電状態に移行する。「放電開始電圧」と「どの放電状態になるか」は電極間距離、印加電圧、ガス種、圧力などに依存する。  

電流値が上昇しても電圧の上昇しない正規グロー放電を経て、電流密度が大きくなりすぎた時の異常グロー放電、アーク放電へ移行する。  今回の実習では、タウンゼント放電から持続放電状態の一つである正規グロー放電を観測する。タウンゼント放電と正規グロー放電の中間であるストリーマも観測できる(かも知れない)。

電子工学要論(国民科学社)  p39-­‐64  

エレクトロニックスの基礎 霜田光一 裳華房 p6-­‐48    

空気の放電開始電圧。Pdの関数になる。(パッシェンの法則)  今回は電極間距離d=7cm。  P>100Paだと圧力が低い方が放電を開始しやすい。  P<100Paだと圧力が高い方が放電を開始しやすい。  

グロー放電概略

電子工学要論(国民科学社)  p39-­‐64  

p  電子は陰極から出て、陽極まで電界によって陽極まで加速される。グロー放電では定常的に安定に放電が継続される。  

p  陰極降下部  陰極前面では陽イオンによる空間電荷効果で強い電界を作る(電子は移動も大きく拡散も早いので影響は小さい)。  

p  空間電荷効果および分子との衝突で電子は加速、減速を繰り返す。  

p  小さい速度では電離、励起を起こさないので暗部が出来る。(アストン暗部、クルックス暗部、ファラデー暗部)  

p  陽イオンは電極に衝突し、電子を弾き出す。放電のしやすさに影響を与える。  

p  正負の空間電荷が相殺している箇所では陽光柱(プラズマ状態)となる。  

検討を続けると、交流よりも直流の方が実験として興味深い。  定電圧、定電流、直流電源を採用。  

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