マウス記憶障害モデルに対する日本産 トウゲシバ …...赤;...

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マウス記憶障害モデルに対する日本産トウゲシバ (ヒューペルジア) の作用

認知症の早期発見、予防・治療研究会

岐阜薬科大学生体機能解析学大講座薬効解析学研究室

2015年3月29日

原英彰、大庭卓也

・トウゲシバとは?

・トウゲシバの利用

・トウゲシバの成分

・実験結果

・まとめ

内容

・トウゲシバとは?

・トウゲシバの利用

・トウゲシバの成分

・実験結果

・まとめ

内容

トウゲシバ

・ヒカゲノカズラ科に属するシダ植物

-代表的なシダ植物には、食用にするワラビ、

ゼンマイがある。

・学名 : Huperzia serrata

-和名 (峠柴) は峠付近に生える草という

意味で名がつけられたと言われている

トウゲシバワラビhttp://plants.minibird.jp/kansai/kansai50/kansai_ta/con_to/tougesiba/tougesiba.html

http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/pteridophyta/de

nnstaedtiaceae/warabi/warabi.htm

トウゲシバの特徴①

・冬でも枯れない常緑の多年草であり、1年中見つけることも可能

・茎は根元から枝分かれして斜めに立ち上がるように成長する

・成長すると10~20 cm の高さになる

・低地~山地のやや湿った森林の

地表面に生育する

トウゲシバの特徴②

・トウゲシバの葉は変異が大きく、

幅は1~5mm

・先は鋭く、縁は不整な鋸歯のような

形をしている

・胞子嚢 (腎臓のような形) を持

ち、

胞子で繁殖する

トウゲシバの特徴③

・栄養繁殖も行い、茎の上部に生じる

無性芽が外れて地面に落ちると、

新しい植物になる

無性芽

・葉の広さにより3種に分類される

トウゲシバの分類

ホソバトウゲシバ

(2mm以下)

ヒロハノトウゲシバ

(2-3mm)

オニトウゲシバ

(3-5mm)

区別が難しく、3種をまとめてトウゲシバとすることが多い

http://mikawanoyasou.org/sida/hirohanotougesiba.htm http://koma33.web.fc2.com/onitougesiba.htmlhttp://mikawanoyasou.org/sida/hosobatougesiba.htm

トウゲシバの分布

・日本では、ほぼ全土に分布している

・朝鮮、中国、東アジア、東南アジア

にも分布していると考えられている

・海抜300~2700mに分布している

・トウゲシバとは?

・トウゲシバの利用

・トウゲシバの成分

・実験結果

・まとめ

内容

生薬としての利用

・中国では蛇足石松、千層塔と呼ばれ伝統的に利用

・リウマチ、風の治療、筋肉や腱の弛緩、血液循環の

改善に有効

・打撲、筋挫傷、腫れの治療にも有効

・近年では、有機リン酸中毒、重症筋無力症、統合失調症にも

用いられている。

だそくせきしょう せんそうとう

サプリメントとしての利用

・1980年代後半にトウゲシバ中の成分が、

記憶や学習に良いことが発見された。

・アメリカでは、記憶を良くするサプリメ

ントとして、トウゲシバが使用されている。

・日本国内においてもトウゲシバのエキスが

配合されたサプリメントが販売されている。

(レキオファーマ(株)、(株)皇漢薬品研究所 など)

・トウゲシバとは?

・トウゲシバの利用

・トウゲシバの成分

・実験結果

・まとめ

内容

トウゲシバ

アルカロイド トリテルペン

フラボン フェノール酸

主な成分

トウゲシバ

アルカロイド

主な成分

単離

Huperzine A

HN O

Me

Me

H2N

Huperzine A の作用

分子量:242.32

半減期:約5時間

・1986年に、初めて単離された物質

・アセチルコリン分解酵素

(Acetylcholinesterase; AChE) 阻害作用

・NMDA型グルタミン酸受容体阻害作用

が主に知られている。

http://www.falcon18.com/health-blog/Best-Ingredient-And-Herbs/To-Know-

About-Huperzine-A/Benefits-and-Advantages-of-Huperzine-A.html

Rui Wang et al. 2006 Progress in studies of huperzine A, a natural cholinesterase inhibitor

from Chinese herbal medicine. Acta Pharmacologica Sinica. 27 1-26

D. L. Bai et al. 2000 Huperzine A, A Potential Therapeutic Agent for Treatment of Alzheimer’s Disease. CurrentMedicinal Chemistry. 7 355-374

Huperzine A の作用 (構造の類似性)

メマンチン

ドネペジル

ガランタミン

Huperzine A

芳香環がAChEの活性部位で相互作用し、立体構造を変化させる。

メマンチンの2つのメチル基がNMDA受容体阻害に重要である。

Huperzine A の作用 (構造の類似性)

Walrati et al. 2013. Key Binding Interactions for Memantine

in the NMDA Receptor. ACS Chem Neurosci. 4. 255-260

http://bidd.nus.edu.sg/group/images/full_

acetylcholinesterase.gif

http://www.rcsb.org/pdb/explore.do?structureId=1VOT

Huperzine Aの作用

前炎症性サイトカインであるTNFα、IL-1β、IL-6の発現を低下

させ、抗炎症性サイトカインであるIL-10の発現を上昇させ

た。Ruan et al. 2013. The anti-inflamm-aging and hepatoprotective effects of huperzine A in D-galactose-treated

rats. Mech Ageing Dev. 134, 89-97

てんかん、てんかん重積に対して保護作用を示した。Coleman et al. 2013. [+]-Huperzine A treatment protects against N-methyl-D-aspartate-induced

seizure/status epilepticus in rats. Chem Biol Interact. 25, 387-95

抗炎症、抗けいれん作用の報告もある。

ヒト軽度のアルツハイマー病において、認知機能のスコア

を改善した。

Huperzine Aの作用

M.S. Rafii et al. 2011. A phase II trial of huperzine A in mild to moderate Alzheimer disease. Neorology. 19, 1389-1394

老齢のサルにおいて、記憶改善作用を示した。Jia Wei Ye et al. 1999. Improving Effects of Huperzine A on Spatial Working Memory in Aged

Monkeys and Young Adult Monkeys with Experimental Cognitive Impairment. JPET. 288, 814-819

アミロイドβ誘発の酸化的障害に対して、保護的に

働く。Xiao Qiu Xiao et al. 2000. Protective effects of huperzine A on β-amyloid25–35 induced oxidative

injury in rat pheochromocytoma cells. Neuroscience Letters. 286, 155-158

新たなアルツハイマー病の治療薬候補として、アメリカ、

中国を中心に研究が行われている。

アルツハイマー病

http://dementia.seesaa.net/article/9904753.html

・認知症の最も一般的な原因の一つ

で、

認知症の原因の約70%を占める。

・神経細胞の脱落によって脳の委縮が起こる。

神経伝達の低下、痴呆を生じる。

・アミロイド斑形成と神経原線維変化が

主な特徴である。

脳での情報伝達

シナプス前膜

神経伝達物質

シナプス後膜

神経情報の伝達http://www.jst.go.jp/pr/info/info517/zu1.html

アセチルコリンと脳機能

脳内の神経伝達物質の1つで、行動、学習、記憶に関係するとされている。

アセチルコリン

加齢アルツハイマー病

など

アセチルコリン量の低下

脳機能が低下する原因

AChE

コリン

酢酸

Huperzine A

アセチルコリン

分解

アセチルコリンと脳機能

Rui Wang et al. 2006 Progress in studies of huperzine A, a natural cholinesterase inhibitor

from Chinese herbal medicine. Acta Pharmacologica Sinica. 27 1-26

AChEの働きが阻害されることで、アセチルコ

リンの分解、アセチルコリン量の低下を防ぐ

脳機能の低下を抑える

アセチルコリンと脳機能

現在日本で市販されているアルツハイマー病治療薬

形状 商品名 一般名 適用1日薬価

(2013年 8月時点)

飲み薬(錠剤)

アリセプト ドネペジル塩酸塩 軽度~重度 238.5 ~ 636.0 円

レミニールガランタミン臭化水素酸塩

中等度~重度 209.4 ~ 474.2 円

メマリー メマンチン塩酸塩 軽度~中等度 133.9 ~ 427.5 円

貼り薬イクセロンパッチリバスタッチパッチ

リバスチグミン 軽度~中等度 337.2 ~ 427.5 円

赤; AChE阻害作用を持つ薬 青; NMDA受容体阻害作用を持つ薬

・トウゲシバとは?

・トウゲシバの利用

・トウゲシバの成分

・実験結果

・まとめ

内容

研究の目的

・岐阜県山県市産のトウゲシバにはどの程度Huperzine Aが含まれているのか?

・岐阜県山県市産トウゲシバの抽出物に記憶改善作用がみられるか?

トウゲシバ成分の抽出

・左図のようにトウゲシバを

分画した。

・Alkaloidal enrich fractionを

トウゲシバエキスとして使用

した。

トウゲシバ中のHuperzine A含有率

・岐阜県山県市産のトウゲシバを

使用

岐阜県山県市産のトウゲシバの

Huperzine A 含有率は0.5%であった。

・山県市産のトウゲシバ 1 kg あたり、

Huperzine A が約 50 ㎎含まれて

いた。

トウゲシバ中のHuperzine A含有率

愛知県犬山市産のトウゲシバでも同様にアルカロイドの

抽出を行ったところ、10分の1程度の収率であった。

産地や気候条件によっては含有成分に違いが見られる

可能性が高い。

トウゲシバエキスのAChE活性に対する作用

・実験プロトコール

30 min 20 min

Samples

Test drugs

Acetylcholine

reaction mixture

Measuring

absorbance

・Control群の活性割合を100%とし、被験薬添加による

活性割合の変化を指標とした。

・マウス脳ホモジネートを AChE酵素試料として使用した。

トウゲシバエキスのAChE活性に対する作用

・トウゲシバエキスは

AChEの活性を

濃度依存的に阻害し

た。

##; p < 0.01 vs. control (Student’s t-test).

**; p < 0.01, *; p < 0.05 vs. control

(Dunnett’s test).

トウゲシバエキスの BuChE活性に対する作用

・実験プロトコール

30 min 1 min 1 min5 min

Samples

Test drugs

Substrate

solutionColor

reagent

Measuring

absorbance

・Control群の BuChE活性割合を100%とし、被験薬添加による

活性割合の変化を指標とした。

・トウゲシバエキスの濃度は、AChE活性測定と同様の濃度を

用いて検討を行った。

ブチリルコリンエステラーゼ

(Butyrylcholinesterase; BuChE)

・マウス血清を BuChE酵素試料として使用した。

トウゲシバエキスの BuChE活性に対する作用

・トウゲシバエキスは BuChE

の活性を阻害しなかった。

・トウゲシバエキスはAChEに

高い選択性を示したと考えら

れる。

記憶障害モデルマウスの作成

ムスカリン性の抗コリン薬として知られ

ている。

スコポラミン

マウスに投与することで中枢神経系を

抑制し、記憶障害を誘発する。

簡便な方法として、認知症モデル

作成に広く用いられている。

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/higher_det_11.html

Y字型迷路試験・マウスを3本のアームからなる装置内

を探索させ、自発的交代行動を短期記

憶として評価する方法

・測定時間内に各アームに侵入した回数

及び連続して異なる3本のアームに侵

入した組み合わせの数を調べる

・交代行動率を算出し、短期記憶の指標

とする

交代行動率 (%) = 交代行動数 ÷ (総アーム侵入数 – 2) × 100

記憶障害モデルマウスに対するトウゲシバエキスの効果①

5 days 1 day

Y maze test

: scopolamine

(3 mg/kg) i.p.

: トウゲシバ (30 mg/kg)

or 0.5% CMC p.o.

・実験プロトコール

1日1回トウゲシバエキスをマウスに経口投与

6日目にY字型迷路試験 (Y maze test) を行った。

記憶障害モデルマウスに対するトウゲシバエキスの効果①

・トウゲシバエキスは正しい

アーム交代行動を増加させ

た。

・マウスの記憶が改善された。

##; p < 0.01 vs. control (Student’s t-test).

*; p < 0.05 vs. vehicle (Student’s t-test).

受動回避試験・マウスが暗い場所を好むことを

利用した試験

・訓練試行では、明室へ入れたマウスが

暗室内へ移動すると扉を閉め、電気刺

激を与える

・訓練試行の一定時間後、再びマウスを

明室に入れ、暗室への移動時間を

記憶の指標とする

記憶障害モデルマウスに対するトウゲシバエキスの効果②

4 days 1 day

: scopolamine

(3 mg/kg) i.p.

: トウゲシバ (30 mg/kg)

or 0.5% CMC p.o.

・実験プロトコール

1日1回トウゲシバエキスをマウスに経口投与

5~7日目に受動回避試験 (passive avoidance

test) を行った。

1 day 1 day

habituation stimulation test

Passive avoidance test

##; p < 0.01 vs. control (Student’s t-test). **; p < 0.01,

*; p < 0.05 vs. vehicle (Student’s t-test).

・トウゲシバエキスは

マウスの暗室への侵入時間を

上昇させた。

・マウスの記憶が改善された。

記憶障害モデルマウスに対するトウゲシバエキスの効果②

Open Field試験

・新奇環境下での自発的な活動性を測定する

テスト

・マウスにとって新奇で広く明るい環境で

あるオープンフィールドの中にマウスを

入れ、一定時間自由に探索させる

・マウスの移動距離を、自発活動量の指標

とする

記憶障害モデルマウスに対するトウゲシバエキスの効果③

7 days

: scopolamine

(3 mg/kg) i.p.

: トウゲシバ (30 mg/kg)

or 0.5% CMC p.o.

・プロトコール

1日1回トウゲシバエキスをマウスに経口投与

8日目にOpen Field試験を行った。

1 day

・トウゲシバエキスはマウス

の自発活動量を変化

させなかった。

・記憶の改善は、行動変化の

影響によるものでは

なかった。

##; p < 0.01 vs. control (Student’s t-test).

記憶障害モデルマウスに対するトウゲシバエキスの効果③

・トウゲシバとは?

・トウゲシバの利用

・トウゲシバの成分

・実験結果

・まとめ

内容

まとめ 1/4

AChE活性阻害作用を示した。

BuChE活性阻害作用を示さなかった。

山県市産のトウゲシバエキスは、

Huperzine Aを0.5%含有していた。

- 過去の報告における含有率は、約0.02%以下という報告がある。Ana Ferreira et al. 2014. Huperzine A from Huperzia serrata: a review of its sources,

chemistry, pharmacology and toxicology. Phytochem Rev. 13.

受動回避試験において、マウスの記憶を改善した。

まとめ 2/4

マウスの自発活動量を変化させなかった。

Y字型迷路試験において、マウスの記憶を改善した。

山県市産のトウゲシバエキスは、

まとめ 3/4

成分名50% AChE活性阻害濃度

サプリメント又は薬剤に含まれている量

1日摂取量

Huperzine A 約 90 nM 26 µg 約 100 nM/日

ドネペジル 約 50 nM 3 ~ 10 mg 約 10 ~ 30 µM/日

差 (D/HA) 0.56 115 ~ 384 100 ~ 300

まとめ 4/4

Jack CR Jr et al. 2010 Hypothetical model of dynamic biomarkers of the Alzheimer’s pathological cascade. Lancet Neurol 9, 119-28.

サプリメント

アルツハイマー病治療薬

結語

日本国岐阜県産トウゲシバ抽出物は、認知機能障害の

関わる疾患の予防に有用である可能性が示唆された。

謝辞・順天堂大学大学院認知症診断・予防・治療学、河村病院もの忘れ外来

田平 武 様

・岐阜薬科大学 機能分子学大講座 生薬学研究室阿部 尚仁 様、大山 雅義 様

・岐阜薬科大学 生体機能解析学大講座 薬効解析学研究室吉野 雄太 様、石坂 光絵 様、鶴間 一寛 様、嶋澤 雅光 様

・河村病院櫻井 勲 様

・レキオファーマ(株)

横山 宗明 様

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