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Post on 12-Jun-2020
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ニジェール支所便り
2017 年 9 月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員
Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073 2985 E-mail: ni_oso_rep@jica.go.jp
今月のトピック
支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~
8月の支所の活動報告 ~超久々企画・第 5 弾 セイドゥさん、ナマジェさんが見たジャポン!~
~ABE イニシアチブ第 4 バッチ合格者壮行会~
プロジェクト・専門家等の活動進捗状況紹介
~みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクトフェーズ 2~
~平成 24 年度 ニジェール共和国・中学校教室建設計画~
ニジェールにおける活動紹介
~ニジェールでゴミを集める日本人-ニジェールで「晴耕雨読」を考える。~
ニジェール支所からのお知らせ
~待望のニジェール支所公式 FACEBOOK ページ開設!~
支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~
今年のタバスキ(犠牲祭)は、9 月 2 日になります。毎日
の祈りを欠かさないニジェール人にとり、神の存在は、日常
的にも大きなものです。
ここでは、食事の店は多く道端にあり、食物は台の上に
並んで、客は傍らの長椅子に座って食べます。壁も屋根も
ありません。同僚とよく行くお店には、商品のビニール袋入り
飲水が台の下に大量に置いてあり、夜はそのまま置いて帰
るのだそうです。盗まれないのかと聞いたら、「神様が見てい
るから」とママが答えました。正直でいれば、神様が守ってく
れるという信仰が、生活を支えているのでしょう。
異教徒の私ですが、サヘルの平和を、神が支えてくれる
ことを祈ります。
山形所長
道端の店の守りを神の目に
ゆだね家路を母娘
お
や
こ
が辿る
2
8月の支所の活動紹介
【超久々企画・第 5 弾 セイドゥさん、ナマジェさんが見たジャポン!】
先月号に引き続き、今月号も帰国研修員の方々への突撃インタビューを
ご紹介します。
7 月末に意気揚々と事務所を訪れてくれたのは右写真の 2 名、セイドゥ・
マガギ・アブドゥライさんとナマジェ・ヤクバさんです。彼らが参加した研修コース
名は「Improving Teaching Methods for Science and Mathematics in
Primary Education(初等教育理数科教授法)」で、研修期間は 5 月 25
日~7 月 22 日の約 2 か月間。研修場所は北海道国際センター(札幌)お
よび地元の小学校でした。以下、インタビュー内容の概要です!
-研修を振り返っての感想
断食月が丸々日本だったので、そのときは大変でした。特にこの時期、北海道は日が長く、日の出から日の入りまでの17 時間の
断食は容易ではありませんでした。朝、というより深夜 2 時に食事を済ませ、お祈りをすると、4 時にはもう日が昇ってきます。しかも
日没は 19 時過ぎなのでこの間の睡眠時間は本当に短かったです。ただ、私たちがいたときは他の研修に参加しているニジェール人
研修員が 4 名おり、モロッコやセネガルなど他国の研修員もイスラム教徒だったので、彼らと一緒にお祈りをすることができました。セ
ンターには祈祷室もあったので助かりました。日本での食事については、全く問題なく、豚肉以外は何でも美味しく頂けましたよ。
-日本(人)の印象は?
日本について、最も感銘を受けたのは、日本人の社交性です。皆とても親切で、道を尋ねたりすると、わざわざそこまで連れて行
ってくれたりもしました。そして、とても働き者で、礼儀正しいですね。
-現地の小学校視察について
現地での学校視察は 2 校で、2 週間でした。最初の 1 週間は断食月だったので無理でしたが、後半 1 週間は給食も一緒に食
べました。そこでは日本の高齢化も目の当たりにしました。というのも、小学校で出会った教員は皆 60~70 代でした。それでも皆と
ても若くみえました。
-ニジェールとの比較
北海道の景色は大変美しく、トウモロコシやジャガイモ、稲作などの畑を目にすることができました。道という道は舗装道路で、ニ
ジェールのような未舗装の道はどこにもありませんでした。日本で目にしなかったものといえば、ハエや蚊もいませんでしたね(笑)。そ
れに停電も一度もありませんでした!
-最後に一言
今後はそれぞれの職場(ニアメ、マラデイ)で、日本で学んだことを伝えていきたいです。
セイドゥさん(左)とナマジェさん(右)
に挟まれ笑顔のハマさん
私が今回の研修で印象に残った
シーンを写真にしました。こち
らは北海道の美しく雄大な自然
を撮った一枚です!
(北海道の雄大さを写真で表現
するのは難しいですね・・・)
セイドゥさんが選んだこの一枚!
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1 アフリカ若者のための産業人材育成イニシアチブ「修士課程およびインターンシップ」プログラム。詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.jica.go.jp/regions/africa/business/ku57pq00001jwm0b-att/abc_pamphlet.pdf
【ABE イニシアチブ1第 4 バッチ合格者壮行会】
ABE イニシアチブ第 4 バッチ(以下 ABE イニ)で見事合格を勝ち取った 2 名のブリーフィン
グおよび壮行会が、8 月 18 日に行われました。ABE イニ担当のハマさんの懇切丁寧なブリー
フィングを受けた後、在東京ニジェール名誉領事館・河野名誉領事からのお祝いメッセージ
が読み上げられ、恒例のニジェール-日本友好バッジが山形所長と中川企画調査員からそ
れぞれの合格者の胸に送られました。さらに昨年から日本で学業に励んでいる 2 名の ABE
イニ生からの激励のビデオメッセージも届き、アットホームな雰囲気の壮行会が終始和やかに
行われました。
それに引き続き、ささやかな食事会も開催され、ニジェール名物の串焼きやモーリンガーの
サラダなど、ニジェールならではの料理を ABE イニ合格者と支所スタッフ全員で楽しみ、最後に
ABE イニ生の喜びの一言、そして山形所長からのお祝いの言葉が述べられました(この模様
は、JICA ニジェール公式 Facebook ページ:
https://www.facebook.com/JICANIGERNIAMEY
/ からもご覧いただけます!)
今回日本行の切符を手にしたのは、Ousseini
Ibrahim Ousseini さん
(神戸情報大学院大
学)、Assao Neino
Alu さん(琉球大
学)、Nouhou Makeri Daweye Moutari さん(日本国際
大学)の 3 名。残念ながら 3 人目の Nouhou Moutari さ
んは、不慮の事故のため出発が遅れる見込みですが、体
調を万全にして来日を果たして欲しいと思います。
若き ABE イニ生が今後日本とニジェールの懸け橋とな
り、祖国ニジェールで日本での経験を十二分に発揮することをニジェール支所員一同願っています。昨年来日を果たした 2 名に続
き、新たな 3 名の今後の活躍が本当に楽しみです。
(企画調査員 佐々木夕子)
こちらの写真は訪問先の小学校 4 年生のクラス
で算数の授業をしているときの写真です。45 分
の授業の間、生徒さんたちは皆とてもアクティ
ブでとても理解が早かったです。
お~!これはいい写真ですねぇ !! お2人が仰るように今回日本で学んできたことを是非ともニジェールの現場で活かしていってください!
山形所長に有効バッジを送られ嬉し
そうなアサオ・ネイノ・アルさん
中川企画調査員から河野名誉領
事の祝賀レターを受け取るウセイ
ニ・イブラヒムさん
ニジェール支所一同からのささやかな宴 終始笑顔の新 ABE イニ生
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プロジェクト・専門家等の活動の進捗状況紹介
■■ みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクト・フェーズ 2 ■■■
『みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクトフェーズ 2』では、住民支援の校外学習に効果的なツールを導入すること
で児童の“読み書き”と“計算”の基礎学力改善を目指す『質のミニマムパッケージ』の開発と普及に取り組んでいます。
その布石となる前フェーズでは、算数ドリルを活用する「質のミニマムパッケージ・算数」の開発・実証に取り組みましたが、教育
省ならびに世界銀行によりその成果が高く評価され、世銀が管理する「教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)」による資
金支援の教育省実施「質の教育支援プロジェクト(PAEQ)」にて、約 3500 校へ導入されることとなり、現在その準備活動が進めら
れています。
そのような中、「質の教育支援プロジェクト(PAEQ)」の支援ドナー
である GPE、世銀、フランス開発庁などが、活動の進捗確認および
今後の展望を検討するための中間評価ミッションを 7~8 月にかけて
実施しました。質のミニマムパッケージ関連では、算数ドリルの調達手
続きの問題により、残念ながら、その普及に大幅な遅延が生じていま
すが、調査団からは「質のミニマムパッケージ・算数」普及効果への大
きな期待に基づき、調達プロセスの改善が教育省およびニジェール国
側に強く求められました。その一方、プロジェクトが現在取り組んでいる
「質のミニマムパッケージ・読み書き」の成果が、PAEQ 活動関連事項
として世銀等の調査団メンバーに共有され、非常に高い評価を得ま
した。調査団は今回の調査結果として、「質の教育支援プロジェクト
(PAEQ)」の 9 カ月延長を提案していますが、その理由の一つとして
「質のミニマムパッケージ」の期待し得る効果に言及しつつ、その成果を確実化し、より広い範囲に裨益させることを挙げています。
世銀をはじめとするミッション団の公式な調査報告において、質のミニマムパッケージ読み書きの成果が共有され、かつ「質の教育支
援プロジェクト(PAEQ)」での展開への期待と今後の拡大に言及されたことは、今後、質のミニマムパッケージ活動を拡大展開して
いく上で、非常に重要です。
その他、前フェーズのみんなの学校にて開発した「学校補助金有効活用モデル」も、この世銀・GPE が支援する「質の教育支援
プロジェクト(PAEQ)」にて、3000 校への導入が進められています(現在約 2000 校への
導入済み)。今回の世銀・GPE 等による中間評価ミッションに先立ち実施された外部
機関による会計監査では、「全般的に非常によく管理されており、大きな問題は見当た
らない」との報告が上がり、世銀をはじめとするミッション団へと共有されました。特に、問
題として指摘されたのは、補助金の中央から学校への資金フローにかかる問題であり、
学校レベルでの管理では、学校運営委員会を中心とした管理の適切さが評価されまし
た。今まで試験的にニジェールの学校に導入されてきた数々の「学校補助金」が、不正
や管理の独占・管理の不透明さ、証憑書類・管理文書の欠如、使用用途の不明確
さ、実質的効果のなさ等々、挙げればきりがないほどに問題が指摘されてきたことに鑑
みると、この評価は画期的であり、透明性の高い補助金管理と有効な活用を目指した
プロジェクト開発の「学校補助金有効活用モデル」の有効性を示したものと言えます。
このように、みんなの学校は、常に、他ドナー、特に世銀との有効な連携により、モデ
ルの拡大・普及を図り、ニジェールの教育開発へのインパクトを最大化し、その発展に大
きく貢献してきました。2004 年開始の初期みんなの学校が開発した「機能する学校運
営委員会モデル」が世銀の資金によりニジェール全国約 1 万校に普及されたことは、そ
写真上:前フェーズパイロット活動での算数ドリル活
用「質のミニマムパッケージ・算数」の様子
写真上:「質のミニマムパッケージ・
読み書き」活動の様子
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の最たるものです。質のミニマムパッケージ(読み書き・算数)は今後もそのニーズが高く、教育省のみならず、世銀等からもその拡
大・展開による効果が期待されています。今後も、ニジェールの教育開発と成果の最大化のために、モデルの精度を高めるととも
に、その成果を発信し、他ドナーとの有効な連携を進めていくよう努めていきます。
(みんなの学校プロジェクト専門家 影山晃子)
■■ 平成 24 年度 ニジェール共和国・中学校教室建設計画 ■■■
私は建設コンサルタントとして中学校教室建設計画に携わっており、プロジェクトの方は、2017 年 10 月末の完工に向けて、鋭意
邁進中です。
現在ニジェールに滞在して約 11 ヶ月になりますが、私にとってはじめてのアフリカであるニジェールでの生活は文化的、宗教的慣習
や仕事面でいえば、建設技術、知識レベルなど、良い面、悪い面を含め、本当にたくさんの驚きと発見に満ちています。
この場を借りて、いくつかトピックスとして紹介できればと思います。
Stade Général-Seyni-Kountché (セイニ・クンチェ スタジアム)
ニアメ市にある 35,000 人収容の陸上トラック付スタジアムです。
サッカーの代表戦なども行う立派な天然芝のスタジアムですが、なん
と、朝・夕と一般に開放されているんです!
日本で言えば国立競技場(いろいろ揉めましたが。。)が一般に
開放されているようなもの。こういうところはニジェールは太っ腹なんで
すね。日本なんて近くの小学校でボール蹴ってても最近は通報され
ますから、本当に素晴らしいことだと思います。
隣には天然芝のサブグラウンドもあり、こちらも開放されているよう
です。しかし、この気候で天然芝を管理するのは、かなり苦労がある
と思います。 天然芝のグラウンド
スタジアム外観 天然芝のサブグラウンド
ビーフジャーキーならぬキリシ(kilichi)と呼ばれるひつじジャーキー。
いろいろ聞き込みをしたところ、ニジェールにしかない?食べ物だそうです。確かにマリで働く弊社のスタッフがニジェールにヘルプで
来た時にマリの人からお土産で買ってきてくれと言われ、大量に買って帰りました。ビールのお供には最高ですね。市内の 1 か所
にお店が立ち並ぶエリアがあり、そこで購入できます。味はノーマルバージョン(塩のみ)と唐辛子バージョンがあるようです。
ニジェールにお越しのさいは是非!
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キリシのお店 左は唐辛子、右はノーマル
何やらかわいらしい名前チロリアン(Tyrolien)。
ニジェールでよく用いられる外壁などの外部塗装の名称で
す。水とセメントと砂を混ぜて、専用の手動マシーンを使用
し、塗装を行います。
色の濃淡は砂の色で決定します。薄い色味にしたければ
淡い色の砂を選び、濃いイメージにしたければ濃い色目の
砂を選択します。地元の砂を使用しますから、その土地に馴
染んだ表情になりますし、周囲に溶け込む景観となります。
建設中の中学校にも、このチロリアン吹付け塗装を採用
しています。
チロリアンを吹付けた後の完成した外壁(本プロジェクト)
専用の手動マシーン 吹付け作業中
ニジェールで働きはじめ、街の表情を感じる中で気づいたのは、現地の建物には縦格子(スリット)のデザインを用いた建築物が
多いなということでした。特に政府系の建物に多くみられるように思います。
我々コンサルタントは様々なアフリカの国で建築設計、建設監理の仕事に携わっていますが、少し意匠デザインが統一され過
ぎているのではという思いもあります。もちろんいろいろな問題があるのは承知ですが、それぞれの国が持つ固有のデザイン要素をも
っと設計に取り込んでも良いのかなと思います。少し要素を取り込んでも、建設費のアップにはつながらないと思います。我々の仕
事は、できる限り、瑕疵を少なく、長年使用してもらえる建物をつくることですが、経験を重ねる中で、技術的にも意匠デザインの
面でもさらなるブラッシュアップを続けていくことが必要であると思われます。
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ニジェールにおける活動紹介 ~ニジェールでゴミを集める日本人―ニジェールで「晴耕雨読」を考える。~
支所便り 7 月号(2016)から不定期でお届けしている、京都大学アフリカ地域研究資料センター・大山修一准教授の~ニジェ
ールでゴミを集める日本人~シリーズ第 8 話。今回は、雨季の雨の特徴や伝統的な家屋について執筆頂きました。
2017 年 8 月 20 日――ふたたびニアメにやってきました。今回の目的は、雨季をめがけて、ゴミを投入したサ
イトの緑化効果を観察することである。雨季になると、ゴミから植物が発芽し、旺盛に繁茂する。その植物の生
育を見て、植物の重量を計測するのである。
前日、19 時 30 分大阪・伊丹発、20 時 40 分到着予定の東京・羽田行きの飛行機に乗り、22 時 30 分羽田発パ
リ行きのエールフランスに乗り継ぐ旅程であった。羽田空港の混雑と集中豪雨により、伊丹の離陸は 1 時間遅れ、
羽田には 50 分遅れで着陸した。わたしが国際線ターミナル到着したとき、もうすぐチェックイン・カウンター
は閉じられるというアナウンスが耳に入った。わたしの乗った日本航空はエールフランスのコードシェア便であ
ったが、エールフランスは国内線の遅れを気にすることはなく、出発予定時刻が 15 分早まっていた。羽田を深
夜に飛び立つエールフランス 293 便も、7 月 28 日にニアミスした北朝鮮のミサイル問題で、航路の変更を余儀
なくされていた。どこもかしこも対応に追われているが、なんとかエールフランスに飛び乗ることができた。
今年も世界各地で異常気象が続いている。東京では 8 月に入って、毎日、降雨が観測されている。これは 40
年ぶりで、日照不足により野菜の高騰が危惧されている。8 月にお盆休みで旅行した東京は、最高気温が 24℃ほ
どで、涼しかった。旅行中、汗かきのわたしがタオルなしで過ごすことができた。一方、わたしが住む関西では
猛暑が続き、出発日の午前中に農作業に励んだが、34℃の炎天下の草刈りは体にこたえた。タオルの汗をしぼり
ながら、3 本のタオルを回しながら使った。週末に続けた農作業もあって、ニアメに到着後、いつもはへたばる
暑さもさほど気にはならなかった。JICA の佐々木さんから、「京都よりもニアメの方が涼しいですよ」とメール
をもらったが、そのメッセージは本当だった。いつも日本とニジェールの寒暖差に悩んできたが、8 月にはその
差が小さくなり、ときに逆転することを実感した。
翌日の朝 11 時すぎにパリを飛び立ったエールフランス 306 便は、わたしにとって、はじめてのルートを飛ん
だ。いつもはパリからニアメへ一直線に南下し、ニアメのディオリ・アマニ空港の北側からそのまま滑走路へ着
陸することもあれば、ニジェール川を横切って西へ旋回し、南側から滑走路に降りることもある。とにかく飛行
機は最短コースを飛ぼうとするのだが、今回は、ニアメの東 150km の距離にあるドッソ州の州都ドッソを目標
に南下したのち、そこからニアメへむけて西に旋回し、そして最後は北側からディオリ・アマニ空港の滑走路に
すべりこんだ。ドッソへ南下する機体の窓から外をみると、空は厚い雲に覆われており、地面がほとんど見えな
スリット建築例① スリット建築例②
(毛利建築設計事務所 湯浅智生)
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ニジェール支所からのお知らせ
かった。あちらこちらに、発達する巨大な積乱雲が見えた。パイロットは、雲の薄いところを探し、どの雲に突
入するのか降下場所を探しているような感じだった。この雲の発達から判断して、ギニア湾からサヘルに北上す
る ITCZ(Intertropical Convergence Zone 熱帯内収束帯)による雲であった。
腕のよいパイロットのおかげで、飛行機はさほど揺れずに、着陸した。ニアメは雲に覆われながらも、強い太
陽の光が照っていた。気温 34℃――わたしが農作業をしていた気温と一緒だった。ニアメ市内の滞在先に到着し、
主人のベベとその妻ビバタといつものように近況を話していたら、外が暗くなり、雨が降り始めた。その後、夜
8 時から 10 時まで雨はやんだが、時折、強く降ることもある。明け方の 4 時になっても、しとしとと雨が降り
続いている。
ニジェールの雨の降り方には、大きく 2 種類がある。ひとつめは、ITCZ の北上がもたらす降雨である。赤道
付近のギニア湾に当たる日射の熱量が大きいため、海水面の温度が上昇し、雨雲が発生する。その雨雲の発達に
よってギニア湾岸には大量の雨がもたらされる。現在、シエラレオネのフリータウンで豪雨と洪水による大規模
な被害が出ているのは、そのためである。そのギニア湾で発達した雨雲が北上し、サヘルに雨がもたらされる。
この雨は、ニアメでは、しとしとと長時間にわたって降り続くことが多い。
もうひとつは、ニジェール東部で発生する気団が西へ向かい、最大瞬間風速 15m以上の猛烈な風をともないな
機内からみる発達する積乱雲(左写真の航路ナビゲー
タが示す地点で撮影)
ドッソ州の首都ドッソに向かって南下するエールフラ
ンス 306便
「ハダリ」 気団が砂嵐となってやって来て、集中豪雨をもたらす。砂嵐だけで、
雨が降らないときもある。
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そのレンガを積み上げたうえに粘土を塗っている。この堆積岩は、わたしの今の仕事でいうと砂漠化が進んだ荒
廃地にひろく存在する。堅くて、水を通さず、植物が根を通すこともできない。すこし掘れば、どこでも存在す
る素材だ。
屋根には木の幹や細い枝を梁としてわたし、そのうえに粘土を塗っている。こうした家は、農村だけでなく、
ニアメ市内にもたくさんある。雨はしばしば、夜間に降るのだが、雨が降るたびに、雨漏りがし、雨がやむと屋
根を修繕しないといけない。雨漏りのことをハウサ語でヨヨ(yoyo)というが、これはいまも続く、住人たちの
雨季の習慣となっている。わたしは毎年、雨季に滞在することができないこともあって、修繕の不要なトタン屋
根に変え、壁にはセメントを塗った。これには資金が必要である。
短期間に集中する雨―つまりハダリによる雨に対して粘土の壁はかなり強い。粘土の屋根は一挙に雨水を落と
してくれるのだが、実は、長時間にわたってしとしと降りつづく雨には非常にもろい。雨水はじわじわと屋根の
粘土に浸透し、雨漏りとなるばかりか、ぬれた壁が屋根の重さに耐えきれず、屋根ごと落ちてしまうのである。
住人がなかで寝ていると、死者が出ることもある。2003 年、わたしの家も、雨漏りがひどくなり、寝ることも
できず、座ったままで朝を迎えた。屋根には、ぽっくりと穴が開いていた。その下の家財道具、ノートも文房具、
衣服もすべて泥でめちゃくちゃになった。それ以降、夜間に降り続く雨には恐怖感を抱くようになった。
わたしが今、滞在しているニアメの家屋はトタン屋根の下に、厚い木板の天井があり、まったく雨漏りの心配
はいらない。電気もあって電灯の明かりもある。ただし、今でも、ニジェールでは、こうした雨に強い家屋に住
んでいる人はごくわずかである。雨が降り続く暗闇のなか、雨がいつやむのか不安になっている人びとが多く、
家屋の損壊を受けている人がいることを考えると、いたたまれなくなる。
雨が降り止むのを待つ母と息子。この住居がシギファで、
堆積岩のレンガで作られている。降雨の損壊のたびに堆
積岩の粘土を塗って修繕が繰り返される。
がら、集中豪雨をもたらすものである。乱流によって
大気の状態が不安定となって落雷もあるし、強風は地
面から砂を巻き上げ、猛烈な砂嵐となる。これは、ハ
ウサ語でハダリと呼ばれ、本来、この言葉は「危険」
という意味をもつ。時間降雨 60mm もの雨が降るが、
気団が西方へ通過していくと、短期間で快晴にもどる
というものである。
今朝、時差ぼけもあって、4 時に起き、この原稿と
向き合って、朝 8 時すぎになっても小雨が降り続いて
いる。雨が降ると、ニアメ市内では人やバイク、自動
車の往来がめだって少なくなる。そして、こういう長
時間にわたって降り続く雨は、ニジェールの家屋に甚
大な被害をもたらすことがある。わたしにも、苦い経
験と思い出がある。
わたしは 2000 年からニジェールの農村で研究を続
けてきたが、2003 年には、6 月から 9 月までの雨季に
ニジェールに滞在する機会にめぐまれた。2004 年ま
で、わたしの家は村びとと同じシギファとハウサ語で
呼ばれるものだった。村びとに作ってもらった家は壁
や屋根がすべて粘土でできていた。周囲にある堆積岩
を水でこねて粘土状にし、日干しレンガをつくって、
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屋根が落ちてしまった家。屋根が落ちるまえに、家財道具を出して
おかないと、泥だらけになって、大変だ。写真の手前に発生してい
るガリー浸食も大きな問題だ。
雨が降ると、ウシもヒツジも濡れてしまう。体温が低下し、降雨に
より家畜が死ぬこともある。収穫直前の雨季は、食料が枯渇し
ていることも多く、農村にとっては厳しい時期である。
雨のなか、袋をかぶり、こごえながら歩く少年。
雨のニアメ。雨が降ると、市内でも人の往来が少なくなる。
晴れた日には畑仕事をし、雨のときには読書にいそしむ。そんな「晴耕雨読」というのは、日本では優
雅な文人の暮らしぶりが表現されているが、ニジェールでは劣悪な居住環境と識字率の低さもあって、か
なりのぜいたくだと思わざるを得ないのである。
ニジェールほど「恵みの雨」という言葉が似合う国はないなぁと、14 年前にこの国で初めて雨季を迎えたときに感じましたが、ここ
数年の雨の降り方は、これも気候変動の影響なのか、様子がちょっと変わってきている印象を受けます。私も、大山准教授と同じ
く、村で生活していたころに、天井の一部が雨の重さに耐えかねてごっそり抜け落ちた経験があり、シトシト雨の脅威をその時に思
い知らされました。8 月 21 日には東部のザンデールで 110mm の降雨量を記録し、家屋倒壊、浸水など甚大な被害が報告され
ています。雨季といっても、他地域と比べると雨量の少ないザンデール州や北部のアガデス州でも大量の雨が降るようになり、この
変化のスピードに多くの伝統的なシギファ(ザルマ語ではボトゴ)の家々が対応できずに取り残されているようで、その狭間で生きる
人々のことを思うと心苦しくなります。兎にも角にも、雨季の不安定な天候と水食による悪路に気をつけつつ、大山准教授の現地
調査が充実したものになりますようお祈りしています。
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