ファッション産業の 現状と今後の展望 - jftc2011年2月号 no.689...

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10 日本貿易会 月報

特 集

昨2010年、日本のファッション産業界で注目された事象といえば、①グローバル市場(特に中国市場)への進出の必要性、②ネットビジネスの成長、③ファストファッションの台頭であった。

そして、これら事象の背景には、日本社会全体の1)経済の低迷、2)消費者の変化、3)ITの進展、4)グローバル化、がある。1)「失われた20年」といわれる経済の長期低迷と、それに追い打ちをかけたリーマン・ショック後の不況、2)「消費人口の減少」と「自主選択する消費者の増大」という消費者の変化、3)ITの進展がもたらす生活環境の変化、企業環境の変化、4)企業と生活者のグローバル化、これらがファッション産業界にも多大な影響を与えている。

1)−4)の日本社会全体の構造変化は、ファッション産業界に対し、①グローバル市場への進出の必要性、②ネットビジネスの成長、③ファストファッションの台頭に加え、これら事象と相互に関連し合っている④ファッションビジネスのボーダーレス化と、各業界における⑤新業態を含むビジネスモデルの変化、という事象にも表れる。

以下、社会の構造的変化がもたらしたファッション産業界の近年の潮流について、前述の①から⑤について述べる。

①�グローバル市場(特に中国市場)への進出の必要性グローバル市場、特に中国市場への進出が

論議されるのは、すでに日本アパレル市場が飽和状態になっていることに起因する。日本のアパレル市場は、少子化の影響による若年層人口の減少、消費の成熟化に伴う家計消費における衣料品の比率の減少等により、総じて縮小している。そういった状況下にもかかわらず、グローバル化に伴って、世界のファッション企業が日本市場へ進出し、競争が激化している。

もっとも世界の先進国ファッション企業で、これほどまでに内需に依存している例はない。世界市場での展開を基本戦略としている米国のファッション企業はもちろんであるが、欧州各国のファッション企業も、自国の市場が小さいこともあって、世界の市場に進出している。日本のファッション企業も、生き残りの方策として、世界のファッション企業と同様、世界市場への進出が必要とされるわけである。

世界市場のうち、日本のファッション企業にとって、中国を中心とするアジア市場への進出が重要となっている。世界第2の経済大国となり、現在も経済成長を続けている中国、しかも

文化ファッション大学院大学 教授

山やま

村むら

 貴たか

敬ひろ

ファッション産業の現状と今後の展望

1)経済の低迷

2)消費者の変化

3)ITの進展

4)グローバル化

①グローバル市場への進出の必要性

②ネットビジネスの成長

③ファストファッションの台頭

④ ファッションビジネスのボーダーレス化

⑤ 新業態を含むビジネスモデルの変化

2011年2月号 No.689 11

ファッション産業の現状と今後の展望

ファッション分野では、日本の女性ファッション雑誌が人気を博するなど、ヤング層の日本ファッションに対する関心が高い。

また中国市場は、欧米市場と比較して、より日本市場に類似しているという利点もある。例えば、秋冬に重きを置く欧州と比較して、アジアのファッション市場は、春夏の販売期間が秋冬よりも長く、その春夏もモンスーン気候もあって湿度が高い。さらに、体型や肌の色など、欧米と比較すれば、日本市場に類似している点なども挙げられる。

今、日本ファッション企業の中国市場進出は、欧米企業や韓国企業に先んじられているが、生活者の日本ファッションに対する関心度が高いことを考慮すれば、企業自らのビジネスモデルを改革することを通じて、今後の発展に導くことが期待されている。

②ネットビジネスの成長ネットビジネス成長の背景には、ITの進展が

もたらす生活環境の変化がある。生活シーンにおける、パソコン、インターネット、携帯電話の普及は、生活環境を一変させ、生活者がいつでもどこでも多くの人や企業とコミュニケーションできることを可能にした。このことはファッション分野でも顕著で、これまで主に業界人が入手していたグローバルファッション情報をダウンロードしたり、SNS等を通してファッション情報のコミュニケーションをしたりするほか、ネットを通しての商品購入も増加している。そしてファッション企業も、ファッションビジネスの特性である、クリエイティビティ・ファッション 変化・コーディネート性などを踏まえたウェブサイトの充実が望まれている。

ネットビジネスという点では、ファッション通販サイトが急速に成長しており、中国通販サイ

トと提携する企業がある一方で、自ら中国に進出する企業もある。ネットビジネスは、コミュニケーション面でも商流面でも、リアルとバーチャルのクロスメディア(雑誌とウェブ、実店舗とバーチャル店舗など)を生かしたCRM(Customer Relationship Management)、PR・アドバタイジングなどができる、コミュニケーション機能を備えたネットビジネスが注目される。ここでも、後述するボーダーレス現象が起きている。

③ファストファッションの台頭ここ2、3年、海外ファストファッションが日

本市場に進出し、好調な業績を上げている。ファストファッション企業とは、リアルタイムのトレンド商品を低価格、大量販売する企業である。マスマーケットを対象に、リアルタイムのトレンド商品を短サイクルに大量生産し、しかも追加生産を行わない売り切り型で、コストダウンを図って低価格を実現する。

ファストファッション企業には、SPA(Spacialty Store, Retailer of Private Label Apparel)型と仕入れ型の2タイプがある。日本の渋谷109系企業も、海外のファストファッション企業ほどマスマーケットを対象に大量生産していないが、基本的には同じビジネスモデルである。生産・市場化の両面でのグローバル化と、短サイクル生産を可能にしたITの進展が、このビジネスモデルの成立に大きく寄与している。

現在、日本に限らず世界のファッション市場では、経済の低迷が後押しする形で、従来のマスマーケットを対象にしたメーカー商品や大型店の低価格PB商品を展開するビジネスを代替えする形で成長を遂げている。

④ファッションビジネスのボーダーレス化ファッションビジネスのボーダーレス化、中で

12 日本貿易会 月報

特 集

も1980年代より引き続く「業種のボーダーレス化」、さらに1990年代−2000年代に顕著になった「業態のボーダーレス化」は、一層の進展を見せている。「業種のボーダーレス化」について、消費者

の立場に立てば、服飾表現は、アパレル商品のほか靴・バッグ・帽子などの服飾雑貨までも含めて初めて完結する。そのため消費者にライフスタイルを提案する企業には、業種を横断して商品をミックスする動きが起こってくる。1980年代より、アパレル企業やアパレル専門店が、服飾雑貨、さらには生活雑貨やカフェまでも複合して提案するビジネスが成長し、今日のライフスタイルビジネスの基礎を形作ったのである。「業態のボーダーレス化」は、ファッション企

業ではアパレルメーカーと専門店の間で、大型店では百貨店とSCの間で顕著である。

前者のアパレルメーカーと専門店のボーダーレス化は、SPAの例を挙げるまでもなく、もはや消費者の側からは両者の違いはほとんど見分けられなくなっている。加えて、アパレルメーカーは、生産面では商社からのOEM製品調達、さらにはODMが進行するにつけ、デザイナーブランド企業など一部のアパレル企業を除いては、メーカーというよりは問屋、小売業と称した方がよいほどまでに変貌している。

百貨店とSCも、消費者の側からはほとんど見分けられなくなっている。今日では、ファッション系ブランドショップはもちろん、専門店であるSPAやセレクトショップから、食品スーパーに至るまで、SCと百貨店の両方で展開しており、消費者から見れば、両者とも同じ大型小売店である。またSCに出店する企業、百貨店でインショップ展開する企業も、自社のコンセプトに基づいた立地戦略に基づいて、路面、SC、百貨店を使い分けて出店している。

⑤新業態を含むビジネスモデルの変化ファストファッション企業について前述した

が、これに対して、ユニクロ、無印良品などコモディティ・ファッションを大量生産・低価格で提供するSPA企業にも着目しなければならない。ユニクロ、無印良品などをファストファッション企業と捉える考え方もあるが、これら企業のビジネスモデルは明らかにファストファッション企業とは異なる。

これら企業が扱うコモディティ商品は、消費者がファッション・コーディネートする上での部品となる商品であり、消費者が他のブランド商品と自由に組み合わせてファッション表現する。そのため、一般のファッションブランド商品とは異なり、消費者の多様性に影響を受けないため、マーケット規模が大きくなり、ファストファッションよりは高品質でありながらも、大量生産で低価格を可能とするビジネスモデルである。

ファストファッション企業や、コモディティ商品を扱うSPAは、それぞれマスマーケットを対象とする、近年の代表的ビジネスモデルである。しかしファッションビジネスが今後も、すべてこのような低・中価格市場を対象としたビジネスを中心に推移していくかといえば、必ずしもそうとはいえない。脱ファストファッション(=脱低価格、脱短サイクル)ともいえる、高付加価値ファッションビジネスにも注目が集まる時が再び来るはずである。

例えば中国市場では、SPAビジネスが成長する一方で、ブランド品などの高付加価値商品のマーケットも伸びている。高付加価値商品を消費する中国の消費者には、2つのタイプがあるが、1番目はブランドのステータスで購入する消費者、2番目は近年の8

バーリンホウ

0后世代などに見られる傾向でブランドに関係なく商品の感性・デザイン性などで購入する消費者である。そして2番

2011年2月号 No.689 13

JFTC

ファッション産業の現状と今後の展望

目のタイプの消費者には、今後はデザイナーブランド商品を着装したり、セレクトショップで購入したりと、新たな消費行動が生まれるものと予測されている。

今後、期待されるクリエーションアウトの業態もとよりデザイナーブランドは、新時代のデ

ザインを創造する要素が強く、ビジネス戦略上は、店頭情報に基づいた商品企画よりも、デザイナーのクリエーションを市場にアウトプットすることの方を重視している。SPA型ブランドが

「マーケットイン」発想だとすれば、デザイナーブランドは「クリエーションアウト」発想のマーチャンダイジングを行っている。「マーケットイン」という用語はもともと、「プ

ロダクトアウト」の対立概念で、市場が求めるものを企画、生産、販売することを指している。とはいえ市場を形成する消費者はいつも現在を見ており、1 ヵ月後、半年後に自分が何を着るかは、普通はあまり考えないため、消費者が今欲する流行の商品を短サイクルで提供するファストファッションが成長した。

また消費者は、店頭やメディアの商品を見て自分の装いをイメージするが、潜在的な欲求、すなわち自分がどのような造形美に感動するか、シルエットやディテールなどをどうすればその造形美が生まれるかについて考えることは少ない。

このような潜在的なウオンツを顕在的なニーズに結び付けることがクリエーションの役割である。言い換えれば、生活者自身には創作できないが、「実はこれが欲しかった」と言わしめるような、発見や感動を創出するのがクリエーションである。そして、プロのデザイナーがクリエーションした産物に自分の感性が触発されて購買活動につながっているのが、デザイナーブ

ランドビジネスである。セレクトショップも、「クリエーションアウト」

の業態である。本来、セレクトショップといわれる高感度ファッションブティックは、デザイナーのクリエーションを、ショップの目を通したコーディネートに基づいて編集する業態である。ショップというメディアを通して、アパレルやアクセサリーなどの商品を素材として活用しながら、生活者に対して服飾スタイリングを提案しているわけである。

そのため、欧米がそうであるように、セレクトショップは大企業が行うビジネスモデルではない。セレクトショップは、企業規模が拡大するにつれ、チェーンオペレーションを進め、そして多店舗で通用する生産ロットのある商品、すなわち比較的ライフサイクルが長く、汎用性のあるベーシックな商品をオリジナル開発する。セレクトショップは、企業規模が拡大するにつれて、SPA併用型セレクトショップというビジネスモデルへと変貌していくわけである。

冒頭で述べた5つの事象は、今後も進展を遂げていくと思われるが、①グローバル市場のうちの東アジア市場については、特に注目しておきたい。東アジア市場とは、現在注目されている中国沿岸部のみならず、中国内陸部、香港、台湾、韓国、さらにはタイやベトナムなども含む地域を指す。東京のファッション企業がソウルや上海や大阪の市場で展開したり、ソウルの企業が北京や東京や札幌の市場で展開したりと、国境を越えた形でのビジネス展開が急速に進むものと思われる。法制度の違いや、気候・体型・ファッション感性などでの違いを認識しつつ、東アジア市場全体を1つの経済圏と捉える中で、ファッションビジネスが進展していくのではないかと推測する。

14 日本貿易会 月報14 日本貿易会 月報

特 集

EUの環境規制による非関税障壁自国の産業を保護するための政策として関

税と非関税障壁がある。世界的な傾向としては自由貿易を推進する立場から、関税の撤廃への動きが加速している。最近話題のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が典型的な事例といえるだろう。自由貿易主義者にとって非関税障壁はあってはならないものだろうが、EUは非関税障壁をうまくコントロールしながら、EU域内の産業保護を行っていることは間違いない。

自由貿易は経済問題だが、環境規制、人権問題等の問題は、地球的な人間の存在に関わる問題であり、異議を唱えることは困難である。また、環境問題や人権問題における法令を順守せずに、企業が摘発されれば、消費者の不買運動が待っている。米国や中国においても、EUの基準に従おうという流れになっているのである。

2009年7月29日発表のユーロバロメーター(EUの世論調査)によると、欧州では5人のうち4人が、買い物をする際に、その品物が環境へ与える影響を考慮に入れているとのこと。最も環境への関心が高いのがギリシャであり、10人のうち9人以上が、環境への影響が商品購入の際に大きな要因になると回答。同調査によると、回答者のおよそ半数が、環境破壊的な製品に対する増税と、環境保全的な製品に対する減税を組み合わせることが、エコ製品の

促進にとって最善の方法であるとしており、また、環境配慮型製品の促進に小売業者が役割を果たすこと、および炭素表示の義務付けに対して、強い支持が表明されたという。

肌に直接触れるアパレル製品に対しても、経皮毒(皮膚を通して毒素を吸収して起きる障害)の観点から、EUでは染料、糊

剤ざい

、添加剤等が厳しく規制されており、各企業はトレーサビリティにも積極的に取り組んでいる。

現在、EUではREACH規制(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals:欧州連合における人の健康や環境の保護のための欧州議会および欧州理事会規則)などが前提となり、輸入に際しての検品が義務付けられている。EUで使用が禁止されている染料等を使用した商品のリコール情報が毎週WEB(「RAPEX」www.rapex)で公開されている。

こうした厳しい基準を義務付けることで、発展途上国からの輸入を抑制し、EU域内の企業を間接的に保護しているともいえる。少なくとも、

「品質が良くて価格が安い」という経済合理性の基準だけでなく、環境、健康、人権等の価値観を与えることで、市場をコントロールし、検査や認証のビジネスにより、EUに利益をもたらしていることは間違いない。

日本国内の染色工場等では、EUが禁止している染料等は使用されていないが、中国の現地調達素材の製品については、十分な検査が

株式会社東レ経営研究所 客員研究員

坂さか

口ぐち

 昌まさ

章あき

他国に見るファッション産業の戦略

2011年2月号 No.689 152011年2月号 No.689 15

他国に見るファッション産業の戦略

実施されているとはいえない。その中国でも、中国企業がEUに輸出する

際には、有害物質などのGB規格(中国工業規格)に基づいた品質管理が行われている。また、中国国内で販売される輸入品に対しても税関検査などで染料等に対しては厳しい検査を行っている。

今後、日本企業が中国市場で製品を販売する際には、中国企業以上に厳しく検査が行われることを覚悟しなくてはならないだろう。

イタリア・ビエラの「産地ブランド」「健康テキスタイル協会」

イタリアの高級ウール織物産地であるビエラ市では、「Biella The Art of Excellence」を立ち上げ、ビエラ地区の産業を守ろうという動きがある。この財団は、日本でも2009年11月にフォーラムを開催している。これまでイタリアでは「Made in Italy=高級品」というイメージを訴求してきたのだが、最近ではこの神話が崩れつつある。紡毛中心の産地であるプラートでは、中国人がイタリアの工場を買収し、技術も製品も未熟な「Made in Italy」を輸出するようになっている。世界最高峰の毛織物を生産してきたという自負のあるビエラとしては、「Made in Biella」をブランド化することで、他の地域と差別化し、優位性を持とうと考えているのである。ここでの基準は、①ビエラで紡績した糸を使用していること、②ビエラで機織したもの、③ビエラで染色整理加工をしたもののうち、2つの条件を満たしていなければならない。ブランド管理は、ビエラ・アート・オブ・エクセレンス財団が行っている。

財団設立の契機となったのは、百貨店のPBブランドに「Made in Biella」を付けるキャンペーンである。既に、高級ブランドとして定着しているゼニア社、ロロピアーナ社もビエラ地

域の会社だが、ビエラという名前は一般には知られていなかったといえる。

日本でも、産地ブランドが開発されているが、明確な基準を作り、ブランド管理をするという意味で学ぶ部分も大きいだろう。

もう1つ、ビエラ地区で注目したいのは、「Associazione Tessile e Salute(健康テキスタイル協会)」である。この団体は、皮膚科の医療機関とテキスタイル業界が共同で取り組むもので、さまざまな研究を行い安全な染料等を認定している。

イタリアでも近年はファストファッションの流れが加速している。ミラノの中心部でも、H&MやZARAが店舗を拡大し、老舗のラグジュアリーブランドは隅に追いやられている感が強い。

イタリアがオーガニック、健康、植物染色等に投資しているのは、欧米や日本などの先進国の富裕層がブランド消費から離れ、オーガニック等への関心が高まっていることを受けたものである。安いだけの商品との差別化戦略として

「オーガニック」を捉えているのであり、やがて大きな消費トレンドとなるだろう。

残念ながら、日本では「安くて品質の良い商品」だけに集中し、アパレル製品のコモディティ化が進んでいる。イタリアは、世界の富裕層に高級品を供給するという使命感を持っている。ファッションとは、「いかに安く作るか」ではなく、「いかに高く売るか」が問われる分野である。日本国内市場も本当にコモディティ商品だけでよいのだろうか。また、中国市場が日本に求めているのは、中国製品と差別化可能な高級品である。ブランド訴求ではなく、オーガニック訴求の高級品というジャンルも検討の必要があるだろう。

韓国の文化輸出戦略中国市場においては、日本企業より韓国企業

16 日本貿易会 月報

特 集

の方に勢いがある。上海や北京の空港を見ても、韓国企業の広告で埋め尽くされている。「日本企業はもっと韓国企業を学んだ方がよい」とアドバイスしてくれる中国人も少なくない。

一般消費者が持つ韓国ブランド、韓国製品のイメージも高い。その理由の1つが、「韓流」である。

日本の「韓流」は、「冬のソナタ」に代表されるように、中高年女性層に先に火が付いた。2001年以降は減少傾向が続き、2003年のSARS騒動で激減した観光客数が、韓流が注目された2004年には韓国への邦人観光客が前年比35.5%増の244万3,070人と一気に回復したほどである。「韓流」は単にエンターテインメントのトレンドではなく、大きな経済効果を上げているのである。

中国やアジア諸国では、韓国の若いアイドルグループを対象とした若年層の人気が高い。その若者たちが、韓国人タレントに憧れるように、韓国製品にも良い印象を持っている。

韓国の文化輸出が急増した理由は、2つある。第1は、韓国の積極的な文化輸出政策であ

る。1990年(平成2年)に体育関係を含め文化・芸術政策を担当する「文化体育部」と「観光政策」を担当する交通部が統合され、「文化観光部」が設立された。この文化観光部は、日本の省に相当する位置付けであり、文化政策と観光政策が一体となっている点に特徴がある。また、1994年に文化産業局が新設され、文化産業政策をも包含した政策運営が可能になっている。

第2は、経済的要因である。1997年のアジア通貨危機によって、韓国ウォン安となり、輸出しやすい経済環境となった。前述した国策もあり、2000年前後から韓国ドラマは日本、東アジア、中国等に積極的に輸出された。

中国の都市部では、韓流ブーム以前から、

購入単価の安さなどから韓国テレビドラマは放映されていた。中国にとって韓国は先進国であり、韓国の対中国投資も日本と拮

きっ

抗こう

する規模にまで急成長していた。また、中国北東部への集中投資によって韓国人との接触の機会も増え、韓国の存在感が増していたのである。まさに、経済投資と文化輸出が効果的に連携することになったのである。

中国における「韓流」の典型的な事例の1つが、テレビドラマ「宮廷女官チャングムの誓い

(原題『大長今』)」である。2004年に台湾で、2005年に香港で放送され、広東省でも大人気となった。その後、中国全土で放映が始まり、各地の視聴率の記録を塗り替えるほどの大人気となった。

日本も「クールジャパン」が世界各地で注目されているが、それらのイベントに日本の企業が積極的に参加してはいない。むしろ、韓国の出版社が日本のマンガイベントにブースを出展し、人気を集めているという話も聞いている。

アニメ、マンガ、ゲーム等の日本のポップカルチャーの人気に連動する形で、さまざまな企業が商品開発を行い、イベントに参加することで、海外市場の門戸も開かれるのではないだろうか。日本の良いイメージが定着することは、あらゆる日本の産業に貢献することにつながるのである。

中国のオリジナルブランド育成中国は、世界のOEM生産工場から、オリジ

ナルのブランド育成を志向している。中国の美術大学にはファッションデザイナー養成のコースも数多いが、現段階では世界的デザイナーは育ってはいない。

パリオートクチュール協会のディディエ・グランバック会長は中国のマスコミからのインタ

2011年2月号 No.689 17

他国に見るファッション産業の戦略

ビューで「中国企業が国際的ブランドを持つには数百年もの時間が必要だ」と答えたという。日本人デザイナーがパリで活躍しているのも、歴史的な蓄積がある。明治以降、大量の日本人画家がパリに留学したからこそ、藤田嗣治のような画家も出てきた。デザイナーも同様であり、多くの日本人デザイナーが留学し、また、多くの日本人がパリのメゾンで働いてきた歴史の中から、日本人デザイナーがパリで認められるようになったのである。

中国オリジナルブランドの育成、世界的なデザイナー育成という課題を解決するために、中国は柔軟に動いている。上海の東華大学は日本の文化服装学院と提携しているが、これは文化服装学院が世界的なデザイナーを輩出している実績に基づくものだ。東華大学は国立大学であり入試の競争率も高い。それが、日本の専門学校と提携し、その授業を単位として認可しているのである。

東華大学内には「東華大学日本文化服装学院」という学部が設置され、通常の大学の授業に加えて、1年間の日本語教育と洋裁の基礎教育を受ける。その後、2年半、日本の文化服装学院に留学し、最後の半年は東華大学に戻って卒業するというカリキュラムである。学生の多くは、日本企業での就職を希望しており、日本企業からの求人も殺到している。

世界の工場と呼ばれるほど質量共に生産力が向上した中国だが、優秀なOEM生産工場が、自社ブランド展開に成功するとは限らない。多くの中国の輸出企業は、豊かな中国国内市場進出を目指しているが、商品企画や店舗運営等のノウハウが全くない。そこで、日本の経験者の採用、日本企業との提携や買収なども積極的に行っている。

山東如意科技集団が日本のレナウンを実質的に買収したのも、レナウンが所有するブラン

ドとノウハウを中国内販につなげたいという狙いだろう。

日本企業が国際化を目指すなら他国の戦略を学ぼう

イタリアのファッション業界は、ポスト・ラグジュアリーの戦略としてオーガニック製品を強化している。このトレンドは、当然日本の消費者にも共通している。日本でもラグジュアリーブランドの売り上げは下落傾向にあり、日本市場から撤退するブランドも出てきている。ラグジュアリーブランドの人気が落ちたからといって、低価格戦略だけを偏重するのは市場収縮とデフレスパイラルを招く。むしろ、欧州ブランドが占めていた市場に隙間ができる好機と捉える発想が必要だろう。

韓国の文化輸出の事例は、エンターテインメント、ポップカルチャーと連携した「日本のイメージ戦略」が重要であることを教えている。現在のクールジャパンブームは、まさに千載一遇のチャンスである。過去に、これほど世界の人々が日本に興味を持ち、好印象を持っている時代はあっただろうか。韓国が展開したトータルな市場戦略には学ぶところが大きい。

中国が目指しているオリジナルブランド開発には、日本企業の経験やノウハウが貢献できるだろう。中国企業から、日本企業との連携を期待する声も多い。しかし、日本企業側は自前主義の考え方が強く、現地法人においても日本人がトップに座るケースが多い。欧州ブランドが日本市場に参入する際、ほとんどが日本企業との合弁で販売会社を設立し、日本人社長を据えている。その理由を自分のこととして考えるべきではないだろうか。

既に、日本国内市場はグローバル化している。他国の戦略を参考に、グローバル時代の戦略構築を期待したいと思う。 JF

TC

18 日本貿易会 月報18 日本貿易会 月報

特 集

OEM事業中心であった商社のファッションビジネス1985年のプラザ合意以降円高が進み、中国

やタイからの安価な繊維製品の輸入急増に伴って、日本の縫製業は壊滅的なダメージを受けた。その結果、今では、日本の衣料品の輸入比率は約95%で、「Made in Japan」の衣料品はたった5%程度しかない。商社各社は、当時から継続的にアパレルのOEM事業に取り組んできたが、少子高齢化による国内マーケットの縮小、デフレによる低価格志向の高まりやファストファッションの登場などでとても厳しい環境に立たされており、OEM事業を専門子会社に移管するなどローコストオペレーションの方向にシフトしてきている。当社もOEM事業を「豊通ファッションエクスプレス」に移管しているが、ファッション事業の収益の大半をOEM事業が占めているのが現状である。この厳しい状況を受けて、従来のビジネスモデルに代わる新しい

ビジネスモデルの確立が必要と考える。

豊田通商の考える新しいビジネスモデル当社では、ブランド衣料の開発や業界トップ

クラスの商品力を持つ企業との協業を進めるとともに、海外でリテール事業を展開することによる日本独自のアパレルブランドの供給を目指し、より付加価値の高いビジネスモデルへの転換を図っている。日本の文化への関心が高く、消費拡大が期待されるアジアを統一マーケットとして捉え、その中でもファッション誌などで日本のファッションの影響を強く受けている中国での事業展開を軸に、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアなどを注視している。

具体的な展開手法として、まずはセレクトショップを展開する。このショップでは、日本文化にとても敏感なヤングレディースを主なターゲット層として、東京の有名なトレンディスポット

豊田通商株式会社 執行役員生活産業・資材本部 本部長補佐 大阪支店長

島しま

田だ

 正まさ

徳のり

豊田通商の海外ファッションリテールビジネス

上海・新天地にある DELYLE ブランドの店舗と店内

インタビュー

2011年2月号 No.689 192011年2月号 No.689 19

豊田通商の海外ファッションリテールビジネス

「渋谷109」に代表される、比較的カジュアルで欧米ブランドよりも安価な日本のアパレルブランド製品を中心に据えている。そして、その中で売り上げの中核になりそうなブランドを、キーブランドとして単独店舗展開を図っていくというものである。

中国でのファッションリテールビジネス当社と香港の上場会社Symphony Holdings

社が合弁で設立したJFT Holdings社は、2009年8月、香港随一の人気ショッピング街であ る銅

コーズウェイベイ

羅湾に旗艦店をオープンした。これは、日本の最新ファッションとライフスタイル・トレンドを香港の消費者に紹介することを目的にしたもので、売り場面積24,000平方フィート(約2,200m2)、3階建のショッピングセンターには、のべ100以上のブランドを取り揃えている。その後、尖

チムサーチョイ

沙咀に香港2号店、2010年には上海にもオープンさせた。既に、「DELYLE」や

「Lagunamoon」といったブランド、海外でのブランドイメージが確立されている「EDWIN」などはキーブランドとして単独店舗での展開を図っている。2015年には、中国20億元、香港10億元の売り上げを、そしてフランチャイズ店などを合わせ300店舗の開設を目標にして いる。

主要都市への旗艦店出店で知名度アップ現地で日本のファッションを浸透させるため

のブランディング戦略の根底にあるのは、やはり、上海、北京などの情報発信力の高い主要都市に旗艦店を出店し、知名度を上げることである。高コストで、商業施設が集中する激戦区の香港に旗艦店をオープンした狙いもその点にあり、結果的にショップブランドとしてのプレゼンスが高まった。その次のステップとして、市場規模が1,000万人ともいわれる成都、重慶等の周辺の中核都市に直営店をオープンし、フランチャイズ店を増やしていきたい。

果たす役割は「Gateway」!!日本のアパレルメーカーが単独で中国で事

業を展開しようとした場合、現地のデベロッパーとの交渉をはじめ、規制、物流などの多くの課題に直面し、足踏みをしている日本のアパレルメーカーは数多く存在する。そのため、JFTが水先案内人として、海外展開のノウハウを活かしてリスクを請け負い、そのようなアパレルメーカーが中国に進出するための足がかりに、つまり「Gateway」の役割を担っている。また同時に、マーケットに出回っているコピー品を排除したりすることも当社の大きな役割の1つである。

上海・新天地にある EDWIN ブランドの店舗と店内

20 日本貿易会 月報

特 集

販売方法は日本流中国と日本では当然文化が異なるので、接客・

販売面で日本と異なる点は多い。例えば、中国には、日本のように商品でカテゴライズした平場が無いため、トータルでコーディネートできるショップインショップをつくらないと、高級なものではないという見方をされてしまう。そんな文化の違いはあるが、現地では積極的に日本流の販売手法を取り入れている。ショップ販売員の着用するファッションに憧れて購買意欲が湧く消費者も多いので、販売員には最新のファッションで流行のコーディネートを着用させている。上下セットで購入していくお客さまは多く、着 と々成果が表れてきていると感じている。また、販売員には、季節、時間帯や客層に合わせた店内演出、商品陳列を施すように教育している。日本流の販売手法は、他の店舗が実施していないこともあり新鮮に映っている。

今後のビジネスチャンスは郊外へ現在は沿岸部の大都市に消費行動が集中して

いるが、近い将来、中国の方々のライフスタイルが変化し、人間の行動も郊外に広がっていくとみている。当社としては、常に消費動向を見極めながら、郊外型商業施設の開発なども手掛けていきたい。また、日本のエッセンスを盛り込んだ中国独自のブランドも立ち上げたいと考えている。

制度面の改善が急務日本のアパレル業界全体の声として、すぐに

でも日本政府に取り組んでいただきたいのは制度面の改善である。渋谷109での取り扱い製品の内、特に多いのが「Made in China」の製品である。つまり、日本に一度輸入された製品を当社は中国へ再輸出していることになる。そのため、「Made in China」ということが証明

できれば、再輸出する際に関税が還付されるような制度の導入をご検討いただきたい。また、細かいことになるが、現在、日本と中国の2 ヵ国では洗濯表示の規格が異なるため、販売する国により洗濯表示の付け替え作業が発生し、効率はかなり悪い。今後、アジアを単一市場と捉え、スムーズに販売できるようにするために、各国と協議し、規格を統一していただきたい。

なお、日本のファッション業界を振興する目的で経済産業省などがさまざまな取り組みを実施されているが、今後は、民間が手掛ける消費者参加型のイベントなどにも協賛していただければ有難いと感じている。

中国市場開拓は業界全体で!日本国内のファッション市場は既に飽和状態

であるので、日本の限られたマーケットの中だけで競争していてはいけない。業界全体でマーケットを広く捉えていく必要がある。そして、日本よりはるかに大きい中国のマーケットをとても1社では開拓できるとは思えないので、協力できる部分は協力して、業界全体で開拓していきましょうと言いたい。当社としても、日本のファッションという知的財産の価値向上の面でお手伝いできればと考えている。

(2011年1月20日 豊田通商 名古屋本社にて 聞き手:広報グループ 鈴木靖之)  JFTC

2011年2月号 No.689 21

伊藤忠商事の繊維カンパニーの戦略中国が最重要拠点

少子高齢化の進展に伴い国内市場が成熟していく中で、日本企業にとって、海外で収益を得ていくことはとても重要である。その中でも、やはり生産地から消費地へ急速な変貌を遂げてきている中国を含めたアジアに目を向ける必要がある。当社も中国を重要拠点の1つとして位置付けている。事業の裾野が広い現地企業をプラットホームとして、当社が販売拡大のための商品やブランド、販売方法などのノウハウを提供し、一体となって中国市場を開拓する提携戦略を進めている。

当社が強みを有する「生活消費関連」分野の1つである繊維カンパニーでは、現地を熟知しているアパレルを中核とした複合企業「杉杉

集団有限公司」を有力なパートナーとして、日本発の高感度子供服セレクトショップ「ストン プ・スタンプ」の中国における店舗展開やフランスアパレルブランド「ELLE」の店舗展開などさまざまな取り組みを行っている。さらに、杉杉集団とはアパレル分野だけではなく、不動産開発事業、リチウムイオン電池の部材関連などの他分野での協業も進めている。また、これからの10年がその先にある30年を決めるとの考えの下、実店舗展開以外にも、EC、テレビショッピングなどあらゆるチャネルを強化している。

テレビ通販事業そのチャネルの1つとして注力しているのがテ

レビ通販事業である。その背景には、市場が未開拓であることが挙げられる。中国のテレビ

伊藤忠商事の中国でのテレビ通販とEC事業

特 集

伊藤忠商事株式会社 繊維カンパニーブランドマーケティング第一部門長 諸もろ

藤ふじ

 雅まさ

浩ひろ

繊維カンパニーブランドマーケティング第一部門 部門中国市場・戦略主管 米よね

虫むし

 克かつ

彦ひこ

伊藤忠商事では、中国を最重要拠点と位置付け、早くから中国展開を行っている。これまでは生産地としての位置付けが大きかったが、今後は、伸びゆく個人消費を背景に、生産地だけではなく、一大消費地としての成長性に注目し、特に中国現地でのブランド展開を指揮、実行しているお2人にお話を伺った。

インタビュー

上海の Parkson 百貨店内「ELLE」店舗

2010 年 12 月に上海新天地にオープンした ストンプ・スタンプの店舗

22 日本貿易会 月報

通販市場は、2009年度で約3,000億円の売り上げがあり、現在でも年率30%ずつ成長しているが、全小売市場のわずか0.5%未満のシェアしか占めておらず、今後さらなる大きな成長が見込ま

れる。日本の市場が約4,000億円の売り上げに対し年率5%しか伸びていないことから考えても、市場規模の違いが鮮明である。

当社は、2010年に、韓国ロッテグループと共同で、中国大手通販会社ラッキーパイ社に出資し、本格的に中国テレビ通販事業に参入した。傘下に韓国テレビ通販大手のロッテホームショッピングを持つロッテグループのノウハウ、信用と、当社の幅広い商品調達力や物流などのネットワークを生かすのが狙いである。当社取り扱いブランドだけではなく、日本のファッションブランドや化粧品、食品などの生活消費財を、ラッキーパイのテレビ通販を通じて中国の多くの方々にお届けしていきたい。ラッキーパイは、中国での全国放送のライセンスを保持している数少ない社の1つで、中国全国のネットワークへの強固な基盤を保有している。さらに、24時間

放送や生放送も手 掛けているので、あらゆる商品を時間をかけて丁寧に紹介して、多くの消費者層に安心して購入してもらうことができるようになると思う。今後は、このメリットを最大限活用して、優れた日本製品を販売する時間帯などをつくり、他国製品にない日本製品の付加価値を強調していきたいと考えている。

ラッキーパイの展開方法もともとラッキーパイの主力商品は家電製品

であったが、今後は、ブランド品やアパレルアイテムなども増やし、前述の、日本の商品を売る時間や韓国の商品を売る時間といった、独特な時間帯をつくり、徐々に新しい商品を投入していく。日本製の商品の中には、化粧品など取り扱いに注意が必要なものはあるが、現地に子会社のある会社やメーカーと組むことで、クレームが来ても迅速に対応できる環境を整えている。また、中国は国土が広く、地域ごとにファッションや流行が異なるため、地域によって取り扱う商品を分ける必要も出てくるだろう。現地の声を吸い上げ、土地柄に適した商品を展開していくが、今後は販売方法の1つとして、中国・台湾で人気のある日本の有名なタレントを販売員として起用する可能性もある。併せて、ラッキーパイでは物流面においても自社のトラックで顧客の家まで届けるロジスティクスがすでに整備されているが、当社も中国におけ

特 集

諸藤 雅浩 氏

ラッキーパイ社スタジオ収録風景

ストンプ・スタンプ六本木ヒルズ旗艦店 店内

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るロジのノウハウを持っているため、今後はロジ面でもさらに提案していくことも考えられる。今後は、中国ブランドとの圧倒的な差がある日本の「サービス」も付加価値とし、値段差なりの価値を認めてもらえるような売り方をしていく必要がある。

日本のファッション産業発展のための商社の役割人材育成

中国で事業を展開する上では、信頼できる中国パートナーを見つけることが成功の鍵である。従いそのパートナーとコミュニケーションを図るための言語の習得や文化の理解は必須となる。日本とは異なり、中国での意思決定の方法は基本的にはトップダウンであるため、日本とはスピード感も含め、全く違う環境である。また、トップ以外の中間管理層は、自分の与えられた仕事の範囲を守ろうとする傾向が強く、役割を越えて機動的に動くことは少ない。中国企業の中には、全員が同じ目標に向かい、助け合って仕事をするという日本流のチームスピリットを学んで組織の競争力を上げようと考えている経営者もいるほどである。これらの背景を踏まえて、当社も新入社員には8年目までに全員が英語と中国を中心とした特殊語学を習得する語学研修に派遣するなど、語学や外国

の文化習慣の習得には力を入れ、今後さらに拡大するであろう、日本企業と中国企業のさまざまな提携を含めた中国ビジネスに必要な人材を積極的に育成していく。

今後の課題中国でのテレビやネット通販は、まだ粗悪品

やニセモノが多いというイメージが強く、実際にもそれらが多く流通している。今後、テレビ通販事業に本格的に参入するにつれて、習慣の違いから、日本では考えられないようなクレームが出てくることなども想定できる。今後、テレビ通販大手であるロッテ、日本の総合商社である伊藤忠商事の参入により、品質の良い本物を販売するチャンネルとして、信用を作り上げていく必要がある。

まだ、当社の中国におけるテレビ通販事業は始まったばかりであるが、「安心、安全」「高品質」「高機能」「優れたサービス」に優位性があり、付加価値のある日本製品を中国の消費者に提供していく優良なテレビ通販チャネルを当社が確保することで、さまざまな分野で日本企業と連携して、今後も拡大が見込める中国市場において、いろいろな形でビジネスチャンスが拡大していくことを期待している。

—今回のインタビューを通じて、消費活動から普段の生活では分からない、中国の生活風景を垣間見ることができた。駐在中の経験として触れていただいた話など新鮮で、これからテレビ通販事業などを通じて、消費財として彼らの生活に浸透していき、少しでも日中相互の交流と理解が深まることを願う。

(2011年1月28日 伊藤忠商事 大阪本社にて 聞き手:日本貿易会 広報グループ 齊藤友貴)  JFTC

伊藤忠商事の中国でのテレビ通販とEC事業

米虫 克彦 氏

広州中華広場「ELLE」店舗

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