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救急ランチョンセミナー(2014 8/25)

中毒

高松赤十字病院 研修医 石川雄樹

中毒とは…

主として体内に入った化学物質などによって、生体系が何らかの障害を受けた状態

病態からみた分類

・急性中毒:原因物質に短時間内に曝露した結果、症状が現れる

・慢性中毒:反復する曝露により毒物が蓄積

原因物質:『毒物』

工業的に産生・使用される化学物質

ex)医薬品、農薬、有毒ガス、有機溶剤、金属

自然界に存在、あるいは非意図的に産生される環境汚染物質

ex)一酸化炭素、ダイオキシン

動植物、細菌、真菌などによりつくられる物質

ex)細菌毒素、カビ毒、植物アルカロイド、キノコ毒、フグ毒

中毒による死亡者数

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

80001995年

1996年

1997年

1998年

1999年

2000年

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

薬品による中毒 薬用を主としない物質による中毒 合計

人口動態統計より

中毒による死亡者数

中毒による死亡のうち、一酸化炭素によるものが最多、60%以上を占める

ここ数年は上位から

一酸化炭素、一酸化炭素以外の気体、農薬、抗精神病薬、鎮静・催眠・抗てんかん薬…

といった原因となっている

流行があるものも…

ex) 2005年の練炭による一酸化炭素中毒

2008年の入浴剤と洗剤の混合による硫化水素

香川県の中毒による死亡者数

香川県の15歳以上の中毒による死亡者数

1995年 4人

2000年 6人

2005年 7人

2010年 5人

これ以上のデータは見つけられなかったが、おおむね10人未満であると思われる。

診察(身体所見・検査)

薬物中毒で病歴を聴取できず原因がはっきりしない場合、身体所見・検査所見もある程度は原因薬物を同定するのに役立つ。

瞳孔径

散瞳 抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬

交感神経賦活薬

縮瞳 有機リン、麻薬、フェノチアジン、鎮静薬

痙攣 いろいろ(抗コリン薬、三環系抗うつ薬、有機リン

麻薬、テオフィリン、インスリン、一酸化炭素 など)

特徴的臭い

アーモンド臭(シアン)、にんにく臭(有機リン、ヒ素)

フルーツ臭(DKA、イソプロパノール)

腐卵臭(硫化水素、二酸化硫黄)

診察(身体所見・検査)

Toxidrome:中毒による特徴的な症候

抗コリン作用 (散瞳、皮膚乾燥、皮膚紅潮、高体温)

抗コリン薬

抗ヒスタミン薬

三環系抗うつ薬

コリン作用 (縮瞳、徐脈、多汗、流涙、嘔吐、

排尿、排便、筋攣縮)

有機リン

サリン

交感神経賦活作用 (散瞳、頻脈、多汗、高血圧、高体温、痙攣)

覚せい剤

コカイン

麻薬 (縮瞳、徐脈、低血圧、低換気、昏睡)

モルヒネ

ヘロイン

大麻

離脱症候群:慢性的な交感神経 ↓ 状態から離脱

交感神経症状が前面にでてくる

アルコール

麻薬

ベンゾジアゼピン

診察(身体所見・検査)

(12誘導)心電図:HR、QT延長、QRS幅などチェック

動脈血ガス:アシドーシスの有無チェック

AG開大の代謝性アシドーシスを呈する薬物(疾患)

アルコール、メタノール、コカイン、アセトアミノフェン

サリチル酸、イソニアジド、尿毒症、DKA

QT延長、QRS間隔延長 コリン作動薬、三環系抗うつ薬、コカイン

ジギタリス、β-blocker、カルシウム拮抗薬

頻脈 アトロピン、アンフェタミン、アドレナリン

エフェドリン、カフェイン

徐脈 ジギタリス、キニジン、フィゾスチグミン

診察(身体所見・検査)

胸部X線

誤嚥性肺炎のチェック:中毒では誤嚥の合併が多い

血液検査

薬物スクリーニング検査

トライエージDOA8®

トライエージ 8種類の薬物がわかる

偽陽性などあり、過信しない!

• フェンサイクリジン(PCP)

• ベンゾジアゼピン類(BZO)

• コカイン類(COC)

• アンフェタミン類(AMP)

• 大麻類(THC)

• オピオイド(OPI)

• バルビツール酸類(BAR)

• 三環系抗うつ薬類(TCA)

Case (第108回 医師国家試験 E-55 改)

患者)20歳 男性

主訴)意識障害

現病歴)

約1時間前に自殺目的で有機リン系殺虫剤を約500ml飲んだことが判明している。

救急車内のvital , 身体所見)

意識レベル:JCS III-300

体温:36.0°C

脈拍:80/分、整 血圧:110/72mmHg

SpO2:100%(リザーバーマスク 10L) 呼吸数:10/分

瞳孔径:2mm/2mm

Case (第108回 医師国家試験 E-55 改)

来院直後の経過)

救急外来への搬入時に嘔吐し、尿失禁と便失禁とがあり、有機溶媒臭が漂っている。

Q.まず行うべき対応はどれか。

a 除染

b 血圧測定

c 拮抗薬投与

d 制吐薬投与

e 緊急血液透析

Case (第108回 医師国家試験 E-55 改)

来院直後の経過)

救急外来への搬入時に嘔吐し、尿失禁と便失禁とがあり、有機溶媒臭が漂っている。

Q.まず行うべき対応はどれか。

a 除染 ←正解!

b 血圧測定

c 拮抗薬投与

d 制吐薬投与

e 緊急血液透析

中毒患者の初期対応

医療従事者の二次汚染を防止!

手袋・マスクの装着、汚染物の除去、換気

患者の皮膚が汚染されていれば、除染室または戸外で洗浄

まずはバイタルサインのチェック『ABCD』と適切な蘇生処置

・Airway

・Breathing

・Circulation

・Dysfunction of Central Nervous System

診察(問診)

※ 薬物中毒患者は正確な病歴を言わないことがある!

特に自殺企図、精神疾患、麻薬使用

意識障害で本人から聴取できないことも多い

可能であれば、必ず周囲の人物からも聴取

① 薬物の種類、量、摂取時刻

治療の方針に大きく関わる!

拮抗薬、重症度の予想、吸着剤や胃洗浄の適応など

診察(問診)

② 発見時の状況

事故?自殺企図? 転倒などによる外傷の合併など

③ 薬物中毒・依存の既往、常用薬

慢性中毒との鑑別:薬物によっては急な拮抗で離脱症候群

薬物相互作用など

④ 既往歴(特に精神疾患を含めて)

ex) 精神疾患あり → 精神科的フォローが必要

胃切除後 → 胃洗浄の効果乏しい、吸収早い

肝・腎疾患 → 代謝、排泄の遷延

治療方針

急性中毒の治療は以下の4つが中心

① 全身管理

気管挿管、循環管理、体温調節

② 吸収の阻害

活性炭、胃洗浄、全腸洗浄

③ 排泄の促進

透析、血液吸着

④ 解毒薬・拮抗薬

救急処置(気管挿管)

Airway , Breathingに異常があれば積極的に行う

刺激性ガスなどにより、喉頭浮腫や上気道閉塞の徴候を認めた場合も積極的に気管挿管(または気管切開)

胃洗浄を施行する患者の誤嚥防止

救急処置(活性炭)

消化管内で薬物を吸着し、吸収を阻害

できるだけ早く(できれば摂取後1時間以内)投与するほうが効果大

禁忌はない。必要に応じて気管挿管などの誤嚥の予防を行う

無効) アルコール類 → 輸液

酸、アルカリ → 牛乳や水で希釈

灯油、ガソリン → 対症療法 牛乳は禁忌!

重金属 → キレート剤

救急処置(活性炭)

50~100g(1g/kg または 薬剤の10倍量)を微温湯に溶き投与

活性炭の単独投与では腸閉塞をきたす恐れがあるので緩下薬(マグネシウム製剤、ソルビトール)も同時に投与

複数回投与の適応薬物

テオフィリン、カルバマゼピン、フェノバルビタール

キニン、アスピリン

救急処置(胃洗浄)

毒物の摂取量が致死的な場合

原因物質の摂取からできるだけ早く(できれば1時間以内)

禁忌) アルカリ、酸、灯油、ガソリン による中毒

意識障害で誤嚥の恐れのある患者

36~40Fの経口胃管を用いる。1回あたり500ml程度の洗浄液を注入、排液。排液がきれいになるまで繰り返す。

救急処置(拮抗薬)

薬物 拮抗薬

アセトアミノフェン N-アセチルシステイン

ベンゾジアゼピン フルマゼニル

オピオイド ナロキソン

一酸化炭素 高濃度酸素

有機リン アトロピン、PAM

アトロピン フィゾスチグミン

シアン ヒドロキソコバラミン(シアノキット®)

メトヘモグロビン メチレンブルー

メタノール エタノール

各論

① アセトアミノフェン

② ベンゾジアゼピン

③ 三環系抗うつ薬

④ 一酸化炭素

⑤ 硫化水素

⑥ 有機リン

⑦ パラコート

アセトアミノフェン

市販の感冒薬にも含まれており、中毒のなかでも高頻度

肝障害が有名

・単回内服では 100 mg/kg 以上で生じる可能性あり

(OTC薬では1錠あたり150mg前後のアセトアミノフェン)

・24時間以後に発生してくる

・Rumack-Matthew nomogram で肝障害の発生を予測

服薬後4~24時間で血中濃度から判定

拮抗薬:N-アセチルシステイン

服薬後24時間以内(できれば8時間以内)に投与開始

ベンゾジアゼピン

不安や不眠に対し処方され処方量も多いため、大量服用の頻度は高い

致死量は例えばデパス®錠1mgだと約20万錠

呼吸抑制があれば迷わず気管挿管、呼吸管理

高齢者やアルコールなどとの複合では症状強いことも

拮抗薬:フルマゼニル

ベンゾジアゼピン単剤の中毒で、慢性の中毒でなく、呼吸抑制などの致死的な症状のあるときのみ考慮

三環系抗うつ薬

SSRIなどの登場により現在では処方されることは減少

意識障害、抗コリン作用、QRS幅の延長を伴う不整脈(キニジン様作用)が主な症状 致死量は10~20㎎/㎏(10㎎,25㎎/1T の製品が多い)

心電図モニターは必須、波形変化を認めたら要注意

治療:炭酸水素ナトリウム(メイロン®)

まず1~2mEq/kg 静注、その後適宜投与し、

QRS幅を正常に(<0.10s)、血液のpHを7.50~7.55に保つ

脂肪に溶けやすくタンパクと結合しやすいため血液浄化法は無効

一酸化炭素

中毒による死因の一位。火災などの事故、給湯設備の不具合、練炭や排気ガスによる自殺など

病態は低酸素血症。軽度では頭痛、めまい、悪心などの症状がみられる。遅発性脳症が生じることも

検査はABGでCO-Hb濃度を測定。正常値2%未満

パルスオキシメーターではO2-HbとCO-Hbを区別できないため、過大評価される。SpO2の値を信用しない!

治療:高濃度酸素投与

HbからのCOの解離を促進

硫化水素

自然界(火山や硫黄泉など)、産業の副産物、下水処理場、入浴剤と洗剤の混合などで発生

毒性は非常に強い。 低濃度では粘膜刺激症状、高濃度では好気性代謝の阻害(チトクロームオキシダーゼの失活のため)による脳障害、心臓毒性など 予後はさまざま、長時間曝露や高濃度では悪い できるだけ早く曝露現場から移動(二次被害に注意)

治療:高濃度酸素

有機リン

農薬(殺虫剤)として市販されている 過去にはテロに用いられたこともある

非可逆的にChEを阻害、コリン作用が強く現れる

曝露後24~96時間で突然の呼吸不全が生じることがある(中間症候群)。人工呼吸管理で予後は良好

拮抗薬:アトロピン、PAM

※カーバメート系農薬もChE阻害で同様の症状を呈する

治療はアトロピンで、PAMは無効

パラコート

農薬(除草剤)として市販されている。事故防止のために青色の着色、強い臭い、催吐剤などの処置がされている

毒性強く、致死率は高い。致死量は2~4g

皮膚や粘膜からの吸収もあり

経口摂取後4時間以内に血中濃度はピークに達する。

多臓器に影響あるが、特に肺障害が重要。

パラコート

気管挿管を行い、誤嚥からの直接の肺への曝露を避ける

治療は活性炭、服用後短時間であれば胃洗浄

禁忌:酸素投与

口腔内が青色であれば酸素投与は慎重に行う

スーパーオキシドラジカルが増加、肺障害が悪化

低酸素血症が生じたらSpO2 88%を目安に最低限の酸素投与にとどめる

死亡例でも最期まで意識清明なことも多く、場合によっては緩和ケアも考慮

その他

自殺企図による中毒の場合

身体治療と並行して、合併している精神障害を評価 必要に応じて精神科医へのコンサルトや専門施設への転院を検討する

重症度との相関

アルコール依存症、統合失調症、重症うつ病では死へのエネルギーが比較的高い。 神経症性障害、境界型パーソナリティー障害では死へのエネルギーは比較的低い。

その他

麻薬による中毒患者とわかったら…

届け出の義務あり!

麻薬及び向精神薬取締法 第五十八条の二

すみやかに、その者の氏名、住所、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項をその者の 居住地(居住地がないか、又は居住地が明らかでない者については、現在地)の都道府県知事に届け出なければならない。

具体的には

モルヒネ、ヘロイン、コカイン、ジヒドロコデイン、大麻

ベンゾジアゼピン、バルビツール酸、メチルフェニデート

など

その他

覚せい剤中毒の場合は?

覚せい剤取締法には届け出の義務の規定なし。

しかし、診療上必要な医療行為を行う上で覚せい剤の使用が判明した場合、届け出をしても守秘義務の違反にはあたらないと思われる。捜査令状があれば証拠提出も問題ない。

判例

件名 覚せい剤取締法違反被告事件

(最高裁判所 平成17年(あ)第202号 平成17年07月19日 第一小法廷決定 棄却)

『医師が,必要な治療又は検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物の成分を検出した場合に,これを捜査機関に通報することは,正当行為として許容されるものであって,医師の守秘義務に違反しないというべきである。』

まとめ 中毒患者をみたら、疑ったら…

まずは二次汚染の防止、バイタルチェックと初期蘇生

診察できる環境が整ったら(整えつつ)、情報収集。特に問診、所見などから薬物の種類、量、摂取時刻を確認

適応があれば活性炭投与、胃洗浄などの救急処置

原因薬物がはっきりしているなら拮抗薬(あれば)

全身管理を行いつつ、文献などで薬物の情報検索

参考文献

内科学書 改訂第8版 中山書店

臨床中毒学 医学書院

医薬品急性中毒ガイド ヴァンメディカル

救急レジデントマニュアル 第5版 医学書院

Step Beyond Resident 2 羊土社

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