朝日新聞×河合塾 共同調査 「ひらく 日本の大学」...

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「ひらく 日本の大学」 第4回 学修成果の把握

 概説 学修成果の把握に関する大学の現状                     p26

 学修成果の把握に関する大学の取り組み

学修成果の把握 学校法人河合塾教育研究開発本部と朝日新聞社は、2011年から共同調査「ひらく 日本の大学」を実施しており、本誌では調査の概要や結果の統計情報などを報告してきた。 今回は 「学修成果の把握」 をテーマに、大学の現状をまとめるとともに、先進的な取り組みをしている学習院大学、東北大学、宇都宮大学の事例を紹介する。

朝日新聞×河合塾 共同調査「ひらく 日本の大学」第4回

卒業論文  学習院大学文学部                                p30

複数の教員が査読する卒業論文のほか、日本語日本文学科では卒業試験も課す           

ポートフォリオ  東北大学工学部                              p32

「ポートフォリオ」(学習等達成度記録簿)を用いて、個々の学生の能力や個性に応じた指導を実施

カリキュラムを体系化し、学生の学修成果を把握  宇都宮大学             p34

教育体系の見える化を図り、確認マトリックスやレーダーチャートを用いて、学修成果を把握

文部科学省調査や「ひらく 日本の大学」調査によると、学修成果を把握している大学は6割程度と、他の教育改革に比べて取り組みが遅れている。

全学的に行われている学修成果の把握の具体的な方法は、「学生による授業評価・意見」「卒業率」「学生の学修状態調査などのアンケート」「学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)」の順に実施率が高い。

学部での学修成果の把握の具体的な方法は、「卒業論文や卒業研究の内容・水準」「国家試験の合格者数(率)・資格取得者数(率)」「TOEFL・TOEIC・英検等英語に関する検定」「学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)」「民間資格・検定の合格者数(率)・資格取得者数(率)」の順に実施率が高い。

最近は、学修成果の評価基準の作成法である「ルーブリック」や、IRという、大学にある情報を収集・蓄積し、特に教育機能について調査・分析し、大学経営の基礎となる情報を集め、分析する取り組みも始まっている。

Kawaijuku Guideline 2012.11 25

 2008 年 12 月に中央教育審議会の答申 「学士課程教育の構築に向けて」 が公表され、日本の大学は教育の質を保証する方向へと大きく舵を切った。質を保証するためには、学生が卒業までにどのような能力を身につけたのか、学修成果をきちんと把握することが重要になる。しかし、その取り組みを進めている大学はまだ多くないのが現状である。いくつかの調査から現状を見てみよう。 文部科学省が今年5~6月に実施した学長、学部長に対する「学士課程教育の現状と課題に関するアンケート

調査」によると、「学生の学修時間や学修行動を把握」 している大学は 60.1%、「課程を通じた学修成果を把握」 している大学も 55.6%にとどまっている。しかも、「把握していない」 と回答した大学のうち、「検討予定はない」 とする大学が、「学生の学修時間や学修行動」は 17.9%、「課程を通じた学修成果の把握」は 11.5%にのぼる<図表1>。 朝日新聞社と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」

(2012 年度)でも、さまざまな教育の取り組みの中で、「学修成果の把握」 を実施しているのは、全学では 55%と、「全学的な教育ガバナンス強化」 に次いで低い。学部でも 61%で、「入学前の教育」「成績評価の厳格化」

に次いで、下から3番目だ<

図表2>。 また、「教育に関する取り組みのうち、最も力を入れている取り組み、あるいは特色ある取り組み」 の質問(2つまで回答)の中で、「学修成果の把握」 を挙げた大学は、全学で4%、学部で6%にすぎない<図表3>。

学修成果の把握を実施する大学は約 6 割と最も立ち遅れている取り組みの1つ

<図表2>教育に関する取り組み

0% 20% 40% 60% 80% 100%

入学前の教育

初年次教育

カリキュラムの体系化

教育方法の改善

成績評価の厳格化

学修成果の把握

教員の教育力向上

学生支援

キャリアガイダンス

全学的な教育ガバナンス強化

入学前の教育

初年次教育

カリキュラムの体系化

教育方法の改善

成績評価の厳格化

学修成果の把握

教員の教育力向上

学生支援

キャリアガイダンス

1% 24% 18%57%

2%2% 18%78%

2% 7% 18%72%

8% 4% 18%70%

8% 2% 18%72%

7% 2% 18%74%

15% 8% 18%58%

1%5% 18%75%

3% 25% 13%59%

25% 17% 14%43%

4%6% 12%78%

2%3%13%82%

14% 4% 13%70%

2%1%13%83%

8%2%13%77%

22% 7% 13%58%

23% 9% 13%55%

7%3% 13%77%

■実施している ■実施の方向で検討中 ■実施していない ■無回答

0% 20% 40% 60% 80% 100%

14% 7% 18%61%

■実施している ■実施の方向で検討中 ■実施していない ■無回答

学修時間(授業前後の主体的な学びを含む)や課程を通じた学修成果を全学で把握されていますか。「はい」から「検討中」の中から1つ選択の上、「はい」または「いいえ」の場合は今後の方向性についてもお答えください。

項目 はい いいえ 検討中「はい」の場合の方向性 「いいえ」の場合の方向性充実

させたい現状を維持

したい縮小

させたい導入を

検討したい検討予定は

ない学生の学修時間や学修行動の把握 60.1% 21.2% 18.4% 75.7% 22.6% 0.2% 81.4% 17.9%

課程を通じた学修成果の把握 55.6% 19.0% 25.3% 76.1% 22.4% 0.3% 85.4% 11.5%

<図表1>学修成果を全学で把握しているか

*文部科学省「学士課程教育の現状と課題に関するアンケート調査」の概要より

学修成果の把握に関する大学の現状概 説

0% 20% 40% 60% 80% 100%

入学前の教育

初年次教育

カリキュラムの体系化

教育方法の改善

成績評価の厳格化

学修成果の把握

教員の教育力向上

学生支援

キャリアガイダンス

全学的な教育ガバナンス強化

入学前の教育

初年次教育

カリキュラムの体系化

教育方法の改善

成績評価の厳格化

学修成果の把握

教員の教育力向上

学生支援

キャリアガイダンス

1% 24% 18%57%

2%2% 18%78%

2% 7% 18%72%

8% 4% 18%70%

8% 2% 18%72%

7% 2% 18%74%

15% 8% 18%58%

1%5% 18%75%

3% 25% 13%59%

25% 17% 14%43%

4%6% 12%78%

2%3%13%82%

14% 4% 13%70%

2%1%13%83%

8%2%13%77%

22% 7% 13%58%

23% 9% 13%55%

7%3% 13%77%

■実施している ■実施の方向で検討中 ■実施していない ■無回答

0% 20% 40% 60% 80% 100%

14% 7% 18%61%

■実施している ■実施の方向で検討中 ■実施していない ■無回答

〔全学〕 〔学部〕

n = 684

n = 607 n = 1,846

*朝日新聞×河合塾「ひらく 日本の大学」2012 年度調査より

26 Kawaijuku Guideline 2012.11

「ひらく 日本の大学」 第4回 学修成果の把握

 このように、「学修成果の把握」 が最も立ち遅れている取り組みの1つであることは確かで、大学にとって、今後の大きな課題といえる。

 「ひらく 日本の大学」(2011 年度第 2 次調査)では、学修成果の把握の具体的な方法について調査した。 それによると、全学で実施している割合が高い項目は、「学生による授業評価・意見」「卒業率」「学生の学修状態調査などのアンケート」「学生の活動記録・成績記録

(ポートフォリオ)」の順となっている<図表4>。 「卒業率」 と 「学生による授業評価・意見」 については、設置者による差は見られないが、それ以外の項目では設置者によって取り組みに差が生じている点も注目される。特に、アンケートによる学修成果の把握については、「学生の学修状態調査などのアンケート」(国立大 80%、公立大 58%、私立大 52%)、「卒業生アンケート」(国立大86%、公立大 41%、私立大 38%)、「企業アンケート」(国立大 59%、公立大 29%、私立大 17%)と、国立大で積極的な姿勢が見られる。 また、学部での学修成果の把握では、 「卒業論文や卒業研究の内容・水準」「国家試験の合格者数(率)・資格取得者数(率)」「TOEFL・TOEIC・英検等英語に関する検定」の順に実施割合が高い<図表5>。 注目されるのは 「国家資格」(国立大 38%、公立大45%、私立大 50%)、「民間資格」(国立大 5%、公立大10%、私立大 35%)で、私立大の実施率が高くなっていることだ。ホームページや大学案内などで、わかりやすい指標として明示している私立大も多い。

 では、各大学でどのような取り組みが進行しているのか、具体的に見てみることにしよう。 おそらく学修成果の把握として、まず念頭にあがるのが、卒業論文や卒業研究であろう。「ひらく 日本の大学」

(2011 年度第2次調査)では、学部での学修成果の把握として、卒業論文・卒業研究の内容と水準がその筆頭に挙がっている。実際、同調査で卒業論文・卒業研究の実

卒業論文や卒業研究に加えてポートフォリオ、ルーブリック、IRなど新しい取り組みも活発化

0 10 20 30

入学前の教育

初年次教育カリキュラムの

体系化教育方法の改善

成績評価の厳格化

学修成果の把握

教員の教育力向上

学生支援

キャリアガイダンス全学的な教育ガバナンス強化

4%5%

23%25%

11%17%

13%13%

4%3%4%6%

9%8%

14%12%

16%12%

2%

63%

30%

94%

48%

34%

18%

3%

19%

1%

9%

10%

6%

47% 12% 4%

27% 12% 5%

39% 9% 7%

31% 7% 8%

7% 4%

14% 5%1%

55% 7% 5%

0 20 40 60 80 100

卒業率

学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)

学生による授業評価・意見

学生の学修状態調査などのアンケート

卒業生アンケート

企業アンケート■全学で実施■一部の学部で実施

■全学■学部

0 10 20 30 40 50 60 70

国家試験の合格者数(率)・資格取得者数(率)

民間資格・検定の合格者数(率)・資格取得者数(率)

TOEFL・TOEIC・英検等英語に関する検定

(医・歯・薬学系などにおける)共用試験

卒業論文や卒業研究の内容・水準

学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)

卒業試験

■学部全体で実施 ■一部の学科で実施 ■一部の教員で実施

(%)

(%)

(%)

<図表3>教育に関する取り組みのうち最も力を入れている、あるいは特色ある取り組み(2つまで)

0 10 20 30

入学前の教育

初年次教育カリキュラムの

体系化教育方法の改善

成績評価の厳格化

学修成果の把握

教員の教育力向上

学生支援

キャリアガイダンス全学的な教育ガバナンス強化

4%5%

23%25%

11%17%

13%13%

4%3%4%6%

9%8%

14%12%

16%12%

2%

63%

30%

94%

48%

34%

18%

3%

19%

1%

9%

10%

6%

47% 12% 4%

27% 12% 5%

39% 9% 7%

31% 7% 8%

7% 4%

14% 5%1%

55% 7% 5%

0 20 40 60 80 100

卒業率

学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)

学生による授業評価・意見

学生の学修状態調査などのアンケート

卒業生アンケート

企業アンケート■全学で実施■一部の学部で実施

■全学■学部

0 10 20 30 40 50 60 70

国家試験の合格者数(率)・資格取得者数(率)

民間資格・検定の合格者数(率)・資格取得者数(率)

TOEFL・TOEIC・英検等英語に関する検定

(医・歯・薬学系などにおける)共用試験

卒業論文や卒業研究の内容・水準

学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)

卒業試験

■学部全体で実施 ■一部の学科で実施 ■一部の教員で実施

(%)

(%)

(%)

<図表4>全学での学修成果の把握

n = 5760 10 20 30

入学前の教育

初年次教育カリキュラムの

体系化教育方法の改善

成績評価の厳格化

学修成果の把握

教員の教育力向上

学生支援

キャリアガイダンス全学的な教育ガバナンス強化

4%5%

23%25%

11%17%

13%13%

4%3%4%6%

9%8%

14%12%

16%12%

2%

63%

30%

94%

48%

34%

18%

3%

19%

1%

9%

10%

6%

47% 12% 4%

27% 12% 5%

39% 9% 7%

31% 7% 8%

7% 4%

14% 5%1%

55% 7% 5%

0 20 40 60 80 100

卒業率

学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)

学生による授業評価・意見

学生の学修状態調査などのアンケート

卒業生アンケート

企業アンケート■全学で実施■一部の学部で実施

■全学■学部

0 10 20 30 40 50 60 70

国家試験の合格者数(率)・資格取得者数(率)

民間資格・検定の合格者数(率)・資格取得者数(率)

TOEFL・TOEIC・英検等英語に関する検定

(医・歯・薬学系などにおける)共用試験

卒業論文や卒業研究の内容・水準

学生の活動記録・成績記録(ポートフォリオ)

卒業試験

■学部全体で実施 ■一部の学科で実施 ■一部の教員で実施

(%)

(%)

(%)

<図表5>学部での学修成果の把握

n = 1,683

国立大は各種アンケート私立大は資格取得に積極的

*朝日新聞×河合塾「ひらく 日本の大学」2012 年度調査より

*朝日新聞×河合塾「ひらく 日本の大学」2011 年度第 2 次調査より

*朝日新聞×河合塾「ひらく 日本の大学」2011 年度第 2 次調査より

学修成果の把握に関する大学の現状

Kawaijuku Guideline 2012.11 27

施率を聞いたところ、「全学科で必修」が 60%、「一部の学科で必修」9%、「全学科で選択科目」13% と高い実施率になっている。 今回、紹介する学習院大学文学部のほか、例えば、「学生全員に卒業論文(卒業研究・卒業制作)を課し、卒論発表や口述試験等を複数の教員で査定することにより、学修成果を把握するようにしている」(日本女子大学)、

「卒業の要件として大学生活で学んだ集大成である卒業論文の提出と口述試問を全学科で課している。口述試問では、指導教員が主査、専門分野の教員が副査となり、卒業論文の内容を掘り下げていくことで、4 年間の学修成果を把握する一助としている」(大谷大学)などの取り組みが見られる。 「カリキュラムの体系化」「学生に対する学修目標の明

示」を行い、学生の学修の到達度、達成度を測る取り組みも始まっている。今回、紹介する宇都宮大学のほか、例えば、新潟大学では、学士力アセスメントシステム

(NBAS:Niigata University Bachelor Assessment System)を整備し、大学の理念である「自立と創生」に立脚し、可視化された学習成果に基づいて学習者自身が到達度を把握し、学習過程の記録を活用した省察により自らの学修に意味を見い出し、次の学習をデザインできる仕組みを構築している。 近年、急速に導入されつつあるのが 「ポートフォリオ」

である。「カリキュラムフロー群ごとの要素別GPAを用いた学習ポートフォリオを構築」(名古屋工業大学)、「2003

年度から『学習成果自己評価シート』を用いた学修自己管理能力育成と、学修意識改革を開始。その後、学修ポートフォリオシステムへと発展させ、現在は学修自己評価システムの全学展開に向けて取り組みを始めている。このシステムには、入学から卒業までの学習・教育目標の到達度や成績などの学修到達度を示すデータが蓄積されている」(九州工業大学)、「学生が各履修科目の学習目標、成果、課題などを記入する『プログレス・ファイル』

(自己成長記録)を導入」(福岡女子大学)といった取り組みが見られる。 「アンケート」の実施としては、東洋大学では、入学時、卒業時に全学で統一したアンケートを実施。入学時に、大学生活の中での目標、学びたいこと、身につけたい能力などを把握した上で、卒業時に、それらがどれだけ達成できたか、どんな能力を身につけることができたか、またはできなかったかを確認している。 さらに、よりきめ細かく学生の意見をくみ上げる取り組みもある。例えば、群馬医療福祉大学では、毎回の授業終了後に学生に「コメントカード」を配布。その都度、授業について不明な点、質問などを確認させている。教員は、その次の授業で学生からのコメントに回答するほか、月ごとに質問をまとめてカリキュラム検討委員会に提出し、授業改善を図っている。 また、近年は、「ひらく 日本の大学」調査で例示した選択肢以外の新しい試みの導入も進行している。 その1つが「ルーブリック」である。目標に準拠した評価のための基準の作成方法であり、学修の評価基準と学生が学修到達しているレベルを示している評価基準をマトリックス形式で示した評価だ。記述することにより達成水準が明確化できるといったメリットがある。例えば、関西国際大学では、学生が成長を実感(可視化)できる取り組みとして、シラバスの充実、各科目の評価基準の明確化、ポートフォリオの作成のほか、ルーブリックの作成・活用を進めている。 IR(Institutional Research =機関調査)の事例も見られる。IRとは、多様な教育情報を数値化、標準化して、その分析結果を改革に役立てる取り組みである。例えば、北海道大学、大阪府立大学、同志社大学、甲南大学では、2009 年度の文部科学省 「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」 の採択を受けて、「相互評価に基づく学士課程教育質保証システムの創出―国公私立

28 Kawaijuku Guideline 2012.11

「ひらく 日本の大学」 第4回 学修成果の把握

4 大学 IR ネットワーク」 に取り組んでいる。現在はそれを基盤とした 「大学IRコンソーシアム」 が設立されており、国公私立の枠を越えて、他大学にも積極的な参加を呼びかけている。 さらに、アメリカでは、ペーパーテストにより学生の知識、能力等を測定する「標準テスト」がある。例えば、CLA(The Collegiate Learning Assessment)などがあるが、現在のところ、日本ではそれに相当するものは見られない。しかし、大学独自の標準テストを実施する大学もある。「遺伝子、環境科学、ものづくり、造形感覚、知的財産の5つのリテラシーと、基礎科目としての英語、数学を理工系学生の備えるべきリテラシーとして抽出し、独自の検定試験『KITスタンダード検定』を実施。理工系学生として備えるべきリテラシーを確実に養成する体制を整備」(京都工芸繊維大学)、「専門科目ごとの『学修到達度自己判断テスト』を実施」(新見公立大学)などの例が見られる。

 このように、学修成果の把握に関して、さまざまな方法が導入されているが、その効果についてはどのように

実感されているのだろうか。 「ひらく 日本の大学」(2011 年度第2次調査)によると、すべての選択肢で、実施率よりも効果を感じている割合が高くなっている。とりわけ医・歯・薬学系で実施されている共用試験や卒業試験には、効果を感じている大学が多い<図表6>。 その一方で、大学によって温度差が感じられるデータもある。文部科学省の 「学士課程教育の現状と課題に関するアンケート調査」 では、「アセスメントテスト」「学修行動調査」「ルーブリック」「学修ポートフォリオ」の4 項目について、導入の可否を質問している。その回答を見ると、すべての項目において、「どちらかというと導入する必要はない」「導入する必要はない」とする大学が相当数にのぼっているのだ<図表7>。 もちろん、大学によって最適な学修成果の把握の方法は異なるため、文部科学省が例示した項目に限定して、導入する必要はないと回答した面もあるだろう。だが、今後、大学は何らかの方法できちんと学修成果を把握し、質の保証につなげていく努力が求められることは間違いない。

*本記事の各大学の事例は「ひらく 日本の大学」2012 年調査の回答(8月 10 日現在)に基づいています。

(学部数)

1,000

800

600

400

200

0 0%

80%

60%

40%

20%

(効果を感じる割合)

793

447664

111

921

522

229

57%

45%

44%

68%61%

37%

52%

卒業試験

ポートフォリオ

卒業論文や卒業研究

共用試験

TOEFL・TOEIC等

英語に関する検定

民間資格・検定

国家試験・資格

0 20 40 60 80 100

外部の標準化されたテスト等による学修成果の調査・測定

(アセスメントテスト等)

学生の学修経験などを問うアンケート調査(学修行動調査等)

学修評価の観点・基準を定めたルーブリック※1の活用

学修ポートフォリオ※2の活用

■導入すべき ■どちらかといえば導入すべき ■どちらかといえば導入する必要はない ■導入する必要はない ■わからない ■無回答

(47%)

(27%)(39%)

(7%)

(55%)

(31%)

(14%)

17% 29% 33% 15%5%1%

22% 41% 17% 6%14%

49% 36% 7%3%5%

1%

1%

37% 45% 10%4%

3%1%

(%)

<図表6>選択肢ごとの実施学部数と     そのうち「効果を感じる」学部の割合(学部数)

1,000

800

600

400

200

0 0%

80%

60%

40%

20%

(効果を感じる割合)

793

447664

111

921

522

229

57%

45%

44%

68%61%

37%

52%

卒業試験

ポートフォリオ

卒業論文や卒業研究

共用試験

TOEFL・TOEIC等

英語に関する検定

民間資格・検定

国家試験・資格

0 20 40 60 80 100

外部の標準化されたテスト等による学修成果の調査・測定

(アセスメントテスト等)

学生の学修経験などを問うアンケート調査(学修行動調査等)

学修評価の観点・基準を定めたルーブリック※1の活用

学修ポートフォリオ※2の活用

■導入すべき ■どちらかといえば導入すべき ■どちらかといえば導入する必要はない ■導入する必要はない ■わからない ■無回答

(47%)

(27%)(39%)

(7%)

(55%)

(31%)

(14%)

17% 29% 33% 15%5%1%

22% 41% 17% 6%14%

49% 36% 7%3%5%

1%

1%

37% 45% 10%4%

3%1%

(%)

<図表7>課程を通じた学修成果の把握

「効果を感じる」 大学が多いが大学によって温度差も

*朝日新聞×河合塾「ひらく 日本の大学」2011 年度第 2 次調査より *文部科学省「学士課程教育の現状と課題に関するアンケート調査」の概要より

n = 684

※1 学修成果の評価基準の作成法。一般的には、評価規準と到達レベルの「尺度」で構成されるマトリクスに、それぞれの尺度に見られる学習者のパフォーマンスの「特徴を説明する記述語」(評価の観点に相当)を記載したもの。テスト等では難しいパフォーマンス等の定性的な評価や評価者・被評価者の認識の共有に適するといわれる

※2 学生が各種の学修状況や成果を記録・蓄積し、達成度の評価や体系的な履修を促す仕組み

Kawaijuku Guideline 2012.11 29

 学習院大学文学部日本語日本文学科では、古くから卒業試験が行われている。 「いつから行われているかは正確にはわかりません。それほど以前から実施されており、一説によると故・大野晋名誉教授(注)の発案で導入されたと言われ、この学科の伝統になっています」(神田龍身・文学部長) 実施されるのは1月中旬~下旬のうち1日で、日本語日本文学系の学生は6科目、日本語教育系の学生には5科目が課される<図表1>。試験時間は 90 分で、その時間内で全科目の問題を解く。問題作成や採点は同学科の教員が担当している。 出題内容は、例えば「日本語学」では「比較言語学と対照言語学の違いについて簡単に説明しなさい」といった問題が5題出される。「変体仮名」ならば、江戸時代

日本語日本文学科では卒業試験を実施合格しないと再試験や課題を課す

学習院大学文学部事例1

複数の教員が査読する卒業論文のほか日本語日本文学科では卒業試験も課す

の版本を見て、その一部を読みくだす。また、漢字の書き取りも課される。同学科では、学生全員に『新選総合漢字問題集』(川鍋義一・小秋元段編、おうふう)を配布しており、1~2年次に年2回、必修科目の 「基礎演習」 の授業の中で、出題範囲を設定して試験を実施している。卒業試験はその総復習の場になっている。 いずれの科目も、大学で学ぶ日本語・日本文学の基本的な知識が中心だが、科目ごとに基準点が設けられており、それに合格しなければ再試験を受けることが義務づけられている。 「数年前までは、全員が全科目を合格するまで、何回も試験を実施していました。しかし残念ながら、何回も不合格を繰り返す学生もいたことから、現在は再試験までです。再試験に不合格になった場合は、課題を与えて、レポートを提出させています。甘くなったように感じられるかもしれませんが、その課題は卒業論文を仕上げるのと同じくらいハードな内容で、しっかり取り組まなければ卒業を認めない仕組みになっています」(神田学部長) そのため、同学科の学生たちの間では、12 月 20 日に卒業論文を提出した後も、卒業試験に向けた準備に入るのが当然といった雰囲気が醸成されているそうだ。 この卒業試験を課す狙いは何か。神田学部長は次のように語る。 「日本語日本文学科の授業は、単純に知識を伝授する場ではありません。日本の多様な文化現象を取り上げ、その構造やシステムなどについて、自分なりの考察を加える場です。そうした自分独自の理論、見解の集大成が卒業論文であり、4年間の学修成果を問う最大の評価軸になっています。けれども、その一方で、日本語日本文学科の卒業生なら、当然身につけておくべき知識も存在します。それがしっかり修得できているかを確認するた

(注)大野晋学習院大学名誉教授は 1919 年生まれ、2008 年没。国語学者。1990(平成2)年に学習院大学を定年で退職するまで、長く学習院大学で教鞭を執る。1999 年に出版した『日本語練習帳』(岩波新書)は 190 万部を超えるベストセラーとなった。

神田龍身 文学部長

 学習院大学文学部では、全学科で卒業論文に相当するものを必修とし、査読や口頭試問も2~3名で実施するなど、充実した指導を実施している。また、日本語日本文学科では、他の文学部ではあまり見られない卒業試験も課している。その狙いと意義を文学部長の神田龍身教授に聞いた。

<図表1>日本語日本文学科卒業試験の内容

 日本語日本文学系   日本語教育系

漢字書き取り 漢字書き取り古文解釈          日本語学変体仮名       言語学日本語学          日本語教育学文学史(古典)        文学史文学史(近代)

<文学史の区分>

古典=上代~近世

近代=近代~

 (古典か近代の一方を選択)

30 Kawaijuku Guideline 2012.11

「ひらく 日本の大学」 第4回 学修成果の把握

学習院大学文学部 めに、卒業試験を取り入れているわけです。卒業試験対策の学修をすることで、本学科の学生は、本学や他大学の大学院入試でも強みを発揮しています」

 学習院大学文学部では卒業論文も重視し、充実した指導体制がとられている<図表2>。指導教員1人に加えて、2~3名(学科によって人数は異なる)の教員が査読し、口頭試問を実施する。史学科のように、学科の教員全員で口頭試問を行う学科もある。ずらりと並んだ教員の前で、さまざまな角度からの質問に対応しなければならないため、学生には相当な重圧がかかる。それを跳ね返せるだけの深い考察が要求されているわけだ。 なお、卒業論文の指導教員は原則として学生が選ぶことができるが、査読する教員は、テーマを見てそれに適した教員を大学で決める。指導教員は 1 年間、オフィスアワーのように相談時間を設定し、その時間は研究室にいることが義務づけられている。卒業論文では、学生が袋小路に迷い込んで、次の方向性が見出せなくなることもあり、適宜相談に応じて適切なアドバイスを送ることによって、それを防いでいる。 また、卒業論文の評価は 100 点満点で点数化され、50点以上が合格となる。 「相当厳格な評価が行われており、日本語日本文学科を例にとると、『優』の成績の学生は 3 割程度です。学科で共通の評価基準は特に定めず、査読する教員の裁量に任せています。独創性を重視する教員もいれば、関連する研究書を読み込んで、じっくり実証するスタイルの論文を高く評価する教員もいます。それでも、優れた論文は、どの教員が読んでも高く評価されるもので、最終的な点数が大幅に違うということはほとんどありません」(神田学部長)

 神田学部長は、文学部においては、他学部以上に卒業論文が重要になると語る。 「文学部で学ぶ学問は、他学部のように体系的に積み上げていくのが困難です。教員個人の個性が色濃く、教員の数だけ方法論と学問体系があるといっても過言ではありません。そうした学問の特性の中で、学生は 4 年間の学びで何を身につけるべきなのか。私は、世の中の動きに付和雷同することなく、一歩立ち止まって自分なりの理論、見解を打ち立て、それをもとに周囲の人々と議論できる力を養うことが最終目標になると考えています。卒業論文はその力を高める場でもあるのです」 このように、充実した卒業論文の指導体制になっているが、神田学部長は、最近の学生の様子や卒業論文のレベルに物足りなさも感じている。 「私は、演習形式の授業が自分なりの理論や見解を打ち立てるのに有効だと考えています。本学部は演習形式の授業が豊富なのですが、にもかかわらず、学生が積極的に議論に参画しようとする意欲や自己主張が薄れている印象があります。教員の持論に噛みつくような迫力ある学生も減っています。そのおとなしさが、卒業論文のレベルにも影響しています。特に文学研究ではセンスが重要で、その意味では教員も学生も関係ありません。多少強引でも、独創性あふれる発想で、ユニークな学説を展開する卒業論文が少なくなっているのです。この点は大きな問題であり、学生にもっと積極的に発言する姿勢を身につけてもらうために、授業方法の改善も必要になると考えています」

教員全員で口頭試問を行う学科もあり重圧を跳ね返せるだけの深い考察が求められる卒業論文

積極的に議論に参画するパワーが薄れており今後は授業方法の工夫も必要に

* 2012 年度 大学履修要覧より

<図表2>学習院大学文学部「卒業論文規定」

(1)学生は最終年次において卒業論文(フランス語圏文化学科にあっては卒業翻訳を含む)(12 単位)を提出しなければならない。

(2)各学科とも、卒業論文(フランス語圏文化学科にあっては卒業翻訳を含む)の題名届は、指導教授を定め研究室を通して6月 30 日(日曜日の場合には7月1日、土曜日の場合は7月2日)までに学生センター教務課に届け出なければならない。

(3)卒業論文(フランス語圏文化学科にあっては卒業翻訳を含む)は 12 月 20 日(日曜日の場合には 12 月21 日、土曜日の場合は 12 月 22 日)午後4時までに学生センター教務課に提出しなければならない。期限に遅れた場合はいかなる理由があっても受理されない。

(4)ドイツ語圏文化学科にあっては卒業研究(4単位)と卒業研究指導演習(8単位)をもって、フランス語圏文化学科にあっては卒業演習(12 単位)をもって卒業論文にかえることができる。

(5)英語英米文化学科にあっては卒業研究(4単位)と卒業研究演習(8単位)をもって卒業論文にかえることができる。

Kawaijuku Guideline 2012.11 31

 東北大学工学部では、「ポートフォリオ」(学習等達成度記録簿)を学生の面談等に活用している。ポートフォリオ導入の経緯を田中仁副研究科長は次のように語る。 「大学における教育面の評価は、教育の達成度(アウトカムズ)を評価軸にするのが世界的な潮流になっています。とはいえ、教育の達成度を定量的に評価するのは簡単なことではありません。確かに、国家資格・資格試験の合格者数や、TOEIC などのスコアは1つの指標になります。また、卒業生に『大学教育が現在の仕事にどのように役立っているのか』をアンケート調査する方法もあるでしょう。しかし、これらはいずれも学習目標が達成された『結果』です。それ以上に重要なのは、個々の学生が目標達成に向けて日頃から何を頑張っていたのかという『プロセス』を評価することです。TOEIC や資格試験の結果は、統計上の平均点や合格者数の推移といった数値から効果は見えても、多様な個性を持つ個々の学生の学習履歴に応じた学習効果を見ることはできません。そうした課題を解決するために、2003 年度から導入したのが『ポートフォリオ』です」 導入当初、使用されていたのは紙面ポートフォリオ(A4用紙 2 枚表裏 4 ページ)である。4 年間およびセメスターごとの学習目標、その達成状況の自己評価、取得資格などが記載できる。「本学ではポートフォリオを『学習等達成度記録簿』と呼んでいます。『学習等』としたのは、大学での経験は、学習だけでなくサークルやアルバイトなどさまざまな活動があるからです。ですから、

設定した目標を達成した 「結果」 だけでなくそれに至る 「プロセス」 も重視

東北大学工学部事例2

「ポートフォリオ」(学習等達成度記録簿)を用いて個々の学生の能力や個性に応じた指導を実施

この用紙には、目標達成に役立った学習以外の活動を書き込む項目も設けました」(田中副研究科長) 学生は各セメスター終了時に、この紙面ポートフォリオをもとにアドバイザー教員の面談を受ける。アドバイザー教員を務めるのは教授全員で、教員1人当たり約 20 名の学生を担当する。この面談で教員からアドバイスされたことも紙面ポートフォリオに記入する。「ポートフォリオの導入によって、学生は達成目標を自覚して自己鍛練を積むようになりましたし、教員も個々の学生の課題を迅速に把握できるようになり、大きな意義があったと考えています」(田中副研究科長)

 だが、その一方で、2006 年度末にこのシステムについて学生・教員にアンケート調査を実施したところ、いくつかの問題点も明らかになった。 例えば、紙面では記入スペースが限定されており、面談で啓発されたことを十分に書くことができないという声が聞かれた。また、紙面ポートフォリオには高度な個人情報が含まれているため、大学の事務局で保管し、年2 回の面談の時だけ担当教員に渡し、面談が終わるとすぐに事務局に返却していた。そのため、学生や教員が常時見直すことは困難だった。 「さらに、教員から学生の履修や成績と連動していないことが問題だという指摘がありました。単位の取得状況や成績を見ながら助言したいという強い要望があったのです。そこでこれらの問題点を解消するために、2008年度からUSBメモリーを使ったエクセル形式の電子ポートフォリオに移行し、さらに、文部科学省『質の高い大学教育推進プログラム(教育 GP)』に採択されたことを契機に、2010 年度からはウェブ形式のポートフォ

田中仁 大学院工学研究科副研究科長

 東北大学工学部では、2003 年度から、「ポートフォリオ」(学習等達成度記録簿)を用いて、セメスターごとに面談を実施し、学習成果の把握に役立てている。この取り組みとその特色について、東北大学大学院工学研究科副研究科長の田中仁教授に聞いた。

単位取得や成績と連動させた指導を行うために「ウェブポートフォリオ」に移行

32 Kawaijuku Guideline 2012.11

「ひらく 日本の大学」 第4回 学修成果の把握

東北大学工学部

リオを導入しました。電子化したことで内容や記入スペースを拡充できたとともに、履修や成績に関する情報も含めることができ、学生と教員が随時ポートフォリオを見ることができるようになりました」(田中副研究科長)

 では、現在のウェブポートフォリオがどのように用いられているのかを紹介しよう。 まず、学生は1年次の必修科目「情報基礎B」の中で、活用法を学ぶ。ポートフォリオ等の記入の方法のほか、個人認証など情報セキュリティーに関しては、とりわけ綿密に指導される。次いで、履修登録が完了した時点で、ウェブポートフォリオに必要事項を記入して第 1 回目の面談に臨む。その後各セメスターに 1 回、面談が実施される。記入する項目は、4 年間およびセメスターごとの「勉学目標」 と 「勉学以外の分野での目標」、および大学側があらかじめ設定した 16 項目の目標(課題を発見できる能力、人前での発表能力、英語・その他の外国語による表現力など)で構成されている<図表1>。前者は記述式、後者は 100 点満点で自己採点を行う。 「USB メモリーからウェブに移行した際に、16 項目の目標を見直しました。学生から、抽象的な表現で自己採点しにくいという声が聞かれたからです。そこで、各能力項目を授業科目と関連づけることにしました。それが、<図表 2 >の『マトリックス』で、どの科目でどのような能力が涵養されるのか、明確にわかるようになっています」(田中副研究科長) こうして自己採点されたウェブポートフォリオをもと

に行われる個人面談では、達成度や習熟度を確認しあうとともに、学生が現在直面している課題などについて適切なアドバイスが受けられる。 「学生の自己採点では、客観的な評価にならないという意見もあるかもしれません。確かに、慎重な性格の学生は低めの点数をつける傾向が見られます。そこで、周囲の学生を見てその平均点を 60 点と考えて、それを目安に自己採点するように指導しています。もっとも、自己採点の点数が高いか低いかで、学生同士を比較してもあまり意味がありません。1人ひとりの学生に着目すると、点数が大幅に上がるときがあります。面談でその理由を聞くと、『英語の勉強を頑張って TOEIC のスコアが伸びた』『PBL 形式の授業で問題解決能力が身についた』といった声が返ってきます。他者との比較ではなく、学生個々の目標達成度が時系列で見てとれるところに、ウェブポートフォリオの大きな意義があるのです」(田中副研究科長) また、ウェブ形式になったことにより、学生はいつでも自分のポートフォリオを見ることができ、常に目標を確認しながら学習を進められるようになった。できるだけ頻繁にポートフォリオをチェックするように、同じポータルサイトに、 休講情報など、学生が必ずアクセスする情報も載せるなど、大学も工夫をしている。「将来的には、学生の自己採点と大学入試の得点や卒業時の成績との相関関係も調査し、入試改革、カリキュラム改善に役立てたいと考えています」(田中副研究科長) このように、さまざまな成果があがっていることから、このシステムを全学部で活用できるようにするために、来年 10 月、大学全体の 「教務情報システム」 の中に、ポートフォリオのポータルサイトが搭載される予定である。それによって、今後、他学部での活用も期待されている。

<図表2>東北大学工学部電気系のマトリックス

目標とする能力項目と履修科目を関連づける 「マトリックス」 を作成

<図表1>東北大学工学部のウェブポートフォリオ項目 電気系

課題を発見できる能力 基礎ゼミ、創造工学研修、プログラミング演習、実験系の科目、卒業研修など

実験計画などを設定できる能力 情報処理演習、創造工学研修、プログラミング演習、実験系の科目、卒業研修など

人前での発表能力 基礎ゼミ、情報処理演習、創造工学研修、プログラミング演習、実験系の科目、卒業研修など

人と話し合ったり、議論する能力 基礎ゼミ、創造工学研修、実験系の科目、卒業研修など

チームの一員として取り組める(チームワーク)能力 創造工学研修、実験系の科目、卒業研修など

読書、講演会への参加、英会話や情報処理学習など大学以外での学習による自己啓発・生涯学習能力

学外見学、インターンシップなど

自ら着想する能力・創造する能力 創造工学研修、卒業研修など

(項目の一部を抜粋して掲載)

Kawaijuku Guideline 2012.11 33

 宇都宮大学では、学修成果の把握に向けた多彩な取り組みを進めているが、当時、教育・学生担当の副学長であった石田朋靖副学長は、JABEE(注1)の審査がそのきっかけとなったと語る。 「2000 年代初頭にJABEEを導入する際、最も早く着手した 1 校が本学の農学部です。JABEEの審査では、育成する人材像を明確にして、その目標に即したプログラムを編成することが求められます。しかも、単なる『自己主張』ではなく、きちんとした根拠や証拠を示さなければなりません。この審査を通して教員の意識は大きく変わりました。それまで大学教員は自分の担当科目が中心で、他の教員の授業内容はほとんど把握しておらず、科目間の関係性を考えることも多くありませんでした。それが、自分の担当科目は『個人の持ち物』ではなく、教育プログラム全体の目標を達成するために存在するものという考え方に変わっていったのです。その後、JABEEは工学部でも導入されました。 そして、2008 年 12 月に中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて』の答申が出た際、私たちはこの答申が提言している教育の質保証は、JABEEの審査で要求されていることとほとんど同じではないかと感じました。そこで、これまでJABEEで培ってきたことを起点に、全学の教育改革を進めることにしたのです」

JABEE 受審をきっかけに全学的な教育改革に着手

宇都宮大学事例3

教育体系の見える化を図り確認マトリクスやレーダーチャートを用いて、学修成果を把握

 こうして 2009 年度からスタートした教育改革では、育成する人材像や、そこに至る教育の過程を具体的に示し、達成度も測る仕組みを全学的に導入した。つまり学士課程教育体系の 「見える化」 と 「質保証」 をめざしている。そのために 2010 年度に作成されたのが 「教育プログラム・シラバス」 である。教育プログラムごとの概要、達成目標、カリキュラムの方針やカリキュラムツリーが記載されている。また、それとは別に授業科目の学習内容や到達目標、成績基準などが明示された 「教科シラバス」 もあり、どちらも毎年、見直しを続けている。 「『教育プログラム・シラバス』は教育プログラム全体を貫く契約書という位置付けです。それに対して、『教科シラバス』は各授業科目に関する契約書です。しかし2つのシラバスを作成しただけでは、双方の関係がわかりにくい面があります。そこで、教育プログラム全体の達成目標が、どの科目を履修することによって、どのように達成されるのかを明示した『確認マトリックス』<

図表1>を作成することにしました」(石田副学長) 例えば、国際社会学科の 「確認マトリックス」 では、A から D まで4項目のディプロマポリシー(学位授与方針、つまり達成目標)を掲げており、各授業科目でその4項目の力がどの程度育成されるかを数値で示している。数値にした意義を、茅野甚治郎副学長は次のように語る(注2)。「当初は◎、○、△で示していたのですが、そうなると、すべて◎にする教員も見られました(笑)。

(注1)JABEE…日本技術者教育認定機構による技術者教育プログラムの認定。(注2)誌面のスペースの関係で確認マトリックスの例示はできなかったが、宇都宮大学ホームページに「達成目標確認マトリックス(カリキュラムマップ)

平成 24 年度」が掲載されている。詳細は大学ホームページをご覧ください。

石田 朋靖 副学長 茅野 甚治郎 副学長

教育プログラム全体の目標を達成する科目を明示した 「確認マトリックス」

 宇都宮大学では開講科目の「教科シラバス」に加え、各教育プログラムの内容を明示した「教育プログラム・シラバス」を作成している。さらに、教育プログラムと科目の関連を示した「確認マトリックス」や「レーダーチャート」を用いて、学修成果の把握に取り組んでいる。その多彩な内容について、石田朋靖副学長(企画・広報担当)と茅野甚治郎副学長(教育・学生担当)に聞いた。

34 Kawaijuku Guideline 2012.11

「ひらく 日本の大学」 第4回 学修成果の把握

宇都宮大学

そこで、各項目を 0.0 ~ 1.0 の数値で示し、合計が1になるように改めました。学生にとっては受講科目でどの能力が鍛えられるのか、その比重がわかるとともに、教員にとっては、学科全体でバランスよく能力を鍛えられる科目編成かを確認できるようになりました。例えば、A から D までの各項目の数値を合計した場合、AがBよりも極端に少ないようならば、Aの能力を高める科目を増やしたり、あるいは各授業科目でAの能力向上を意識するように努めたりするなど、カリキュラムの見直し、改善に役立てることが可能になったのです」

 さらに、2011 年度から試行的に導入されたのが 「レーダーチャート」 である。学生ごとに履修した科目の 「達成目標」 の項目の数値を合算することで、どの程度「達成目標」に近づいているのかが、一目で見てとれる。 「現在は試行的に一部での実施ですが、来年度からは全学部に広げる予定です。今年度はこのレーダーチャートを見ながら学年担任の教員が面談を行い、履修指導にも役立てています。その際、現在はコンピュータで計算して結果を学生に配布していますが、学生に手作業で計算させた方が、どの能力が不足しているのか身にしみて感じることができる可能性もあると考えており、方法は検討中です」(茅野副学長) こうした教育体系の見える化は、新しい教育プログラムでも導入されている。それが 2013 年 4 月にスタートするグローバル人材の育成をめざす「UTSUNOMIYAプロジェクト」である。国際学部の学生全員と他学部の希望者を対象として、英語の運用能力、異文化の理解力・活用力などを高める 35 科目が開講される。注目されるのは、このプログラムの修了要件として、取得単位数、

TOEICのスコアのほかに、目標GPT(グレード・ポイント・トータル)の設定が検討されていることだ。 目標GPTについて解説すると、「UTSUNOMIYAプロジェクト」では、修得をめざす具体的な能力が6つ提示されており、各科目でそれぞれの能力がどの程度育成されるのかを示す 「確認マトリックス」 もある。学生は6つの能力について科目ごとのウエート、成績評価(例えば「良」を2と数値化)、単位数をそれぞれ掛け、履修科目について6能力の数値を合算する。それが目標GPTを超えているかを確認する試みだ<図表2>。 今後、この目標GPTをすべての教育プログラムに導入し卒業要件に加えれば、質の保証に大いに役立つとも考えられるが、茅野副学長はそう簡単なことではないと語る。「大学が一方的に目標GPTを設定するのではなく、その数値が学生に納得してもらえるとともに、学生の追跡調査や、就職先からの評価などを加味して、妥当性のあるものにすることが求められます」 そのため、「UTSUNOMIYAプロジェクト」でも、 現段階では目標GPTは示されていない。しかし、質の保証を進める上で意欲的な取り組みであると言えよう。 このように宇都宮大学では、教育改革が進行しているが、その背景として内部相互認証体制の存在も大きい。 「年1回、『全学FDの日』を設け、教育改革の実情を学部の垣根を越えて相互評価しています。評価の最大のポイントは、『いつ、どこで、誰が教育改善の検討を行うのか、組織がしっかり構築されているか』『単なる仕組みづくりにとどまらず、実質を伴っているか』という点です。他学部の教員に公開するとなると、どの教員も相応の矜持を持っていますから、本気で取り組もうという気運が生まれています。極めて有意義な自己点検評価の場になっており、今後も充実させていきたいと考えています」(石田副学長)

<図表2>総合評価の方法と目標GPT

「レーダーチャート」 に基づいて面談を行い履修指導にも活用

<図表1>確認マトリックスとレーダーチャートの関係

総合評価ウエート(Wt.)×成績評価×単位数

ボランティアという生き方=良(2) 2 単位 国際キャリア開発特論 =優(3) 1 単位

学習成果マトリックス

英語の運用力

・・・地域経済活性化を担う力

・・・弱者の視点に

立つ力計

ボランティアという生き方

0.0 1.2 2.8 4.0

国際キャリア開発特論

0.6 1.5 0.9 3.0

・・・・・ ・・ ・・ ・・ ・・

計 PA ・・ PD ・・ PF PT

目標 GPT(仮) 23 28 18 122

Kawaijuku Guideline 2012.11 35

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