土壌の炭素貯留で地球温暖化の緩和 - maff.go.jp...4560億トン(lal, 2004)...
Post on 09-Jul-2020
0 Views
Preview:
TRANSCRIPT
土壌の炭素貯留で地球温暖化の緩和
(独)農業環境技術研究所
農業環境インベントリーセンター
白戸康人
2014.3.4 北陸地域環境保全型農業推進シンポジウム
地球半径:6400km
大気
土壌平均厚さ:0~1m大気よりずっと薄い!
対流圏の厚さ:10km
こんなに薄い土壌が、何十億の人間の食料を支えている!
地球、大気、土壌
土壌有機物の役割
1.物理性の向上:団粒形成の促進‐保水性、透水性、通気性の向上。根の成長に良い環境を形成。
本日のお話:土壌炭素と温暖化の緩和
土壌有機物の役割:地力の維持・増進
2.化学性の向上:養分の供給。ゆっくり、バランスよく供給。
3.生物性の向上:微生物の栄養源として貢献。これら微生物は、植物養分の供給や、拮抗作用により病害の抑制。
古くから、日本の農家は有機物の投入により生産性の維持・増進に努めてきた。
温暖化との関連は、最近の話。
IPCC第4次評価報告書(2007年)
・気候システムに温暖化が起こっていることには疑いの余地が無い
・人為起源の温室効果ガスの増加がその原因であるとほぼ断定
地球温暖化について
地球温暖化:Global warming気候変動:Climate Change
IPCC第5次評価報告書(2013年)・95%以上の確率で人為起源
IPCC AR4 (2007)
3つの温室効果ガスの濃度上昇
産業革命以降、急上昇
世界と日本の過去から現在までの気温上昇
世界平均気温:100年で0.74℃上昇
日本平均気温:100年で1.07℃上昇
棒グラフ:各年の平均気温の平年値との差(平年値は1971~2000年の30年平均値)
青線:平年差の5年移動平均、
赤線:長期的な変化傾向
実際、暑くなってきている。
将来の気温上昇の予測
IPCC: AR5(2013)
シナリオによって温度上昇の予測結果が大きく違う
グローバル化
地域主義化
環境と経済の調和
経済発展重視
A1高成長型社会(A1F、A1T、A1B)
B2地域共存型社会
B1持続的発展型社会
A2多元化社会
温室効果ガス排出シナリオの概念図
人類がどんな社会を築くか。
IPCC:AR4 (2007)
気温上昇の程度と様々な分野への影響規模
0 2 3 41
水
生態系
食糧
沿岸域
健康
5℃
0 2 3 4 5℃1
数億人が水不足の深刻化に直面する
小規模農家、自給的農業者・漁業者への複合的で局所的なマイナス影響低緯度地域における穀物生産性の低下中高緯度地域におけるいくつかの穀物生産性の向上
世界の沿岸湿地の約30%の消失※
毎年の洪水被害人口が追加的に数百万人増加
※罹(り)病率:病気の発生率のこと
湿潤熱帯地域と高緯度地域での水利用可能性の増加
最大30%の種で絶滅リスクの増加
地 球 規 模 で の重大な※絶滅
サンゴの白化の増加 ほとんどのサンゴが白化 広範囲に及ぶサンゴの死滅
種の分布範囲の変化と森林火災リスクの増加
陸域生物圏の正味炭素放出源化が進行~15%
~40%の生態系が影響を受けることで、
洪水と暴風雨による損害の増加
栄養失調、下痢、呼吸器疾患、感染症による社会的負荷の増加
熱波、洪水、干ばつによる罹(り)病率※と死亡率の増加
いくつかの感染症媒介生物の分布変化医療サービスへの重大な負荷
海洋の深層循環が弱まることによる生態系の変化
中緯度地域と半乾燥低緯度地域での水利用可能性の減少及び干ばつの増加
低緯度地域における全ての穀物生産性の低下いくつかの地域で穀物生産性の低下
※重大な:ここでは40%以上
※2000~2080年の平均海面上昇率4.2mm/年に基づく
1980-1999年に対する世界年平均気温の変化(℃)
少なくとも、2℃以内の上昇に抑えることが必要!
IPCC AR4 (2007)
温暖化の緩和策が重要
しかし、ある程度の温暖化は避けられないので、適応策も必要。
• 気候システムに温暖化が起こっていることには疑いの余地が無い
• 95%以上の確率で人為起源• 人類の行動次第で、今後の温暖化の進行程度は変わる。
Mitigation
Adaptation
小まとめ
温暖化の緩和と土壌炭素?
温室効果ガスの排出削減
(化石エネルギー消費の削減など)
Q1: 吸収源に関係あるのは、森林だけでは?
??農地土壌炭素との関係??
CO2の吸収を増やす。「吸収源」のひとつ。
Q2: 土壌のCO2吸収量なんて、小さいのでは?
Q3: 人間の力で吸収を増やせるの?
Q1: 吸収源に関係あるのは、森林だけでは?
・農地の場合、森林と違い、木の幹にCがたまっていくことはないので、作物体が吸収源になることはない。
イラスト:農水省HPから
・ただし、土壌にCがたまっていくことがある。
C CC C CC C C C
土壌に炭素がたまる?どこに?
表層の黒い所に炭素が集積している「土壌有機物」「腐植」
黒ボク土の土壌断面
一般的には、黒っぽい方が土壌中に有機物が多い。
<
土壌
陸上植生
大気
堆肥などの有機物資材
土壌有機炭素(SOC) 枯死根
呼吸 光合成
分解
二酸化炭素(CO2)
土壌の炭素循環
収穫物持ち出し
植物地上部残渣
と のバランスで増えたり減ったりする
土壌への炭素の供給量が分解量を上回れば、土壌炭素が増える。
植生部分(作物体)の炭素量は変わらないと考えるので、土壌炭素が増えた分は、大気中のCO2が吸収されたと考える。
土壌
陸上植生
大気
土壌有機炭素:1兆5000億トン
Q2: 土壌のCO2吸収量なんて、小さいのでは?
7500億トン
5000億トン
巨大な土壌炭素プール(貯蔵庫):大気の2倍、植生の3倍少しの変動でも大きな影響を与える可能性
有史以来の土壌炭素の変化:~土地利用変化によって既に人類が失った炭素の量~
5000億トン(袴田ら2000)先史時代:2兆トン→
現代:1兆5000億トン 4560億トン(Lal, 2004)
化石燃料の燃焼(1850年以降)・2700億トン(Lal, 2004)・2300億トン(Duxbury, 1994)
先史時代から現在まで土地利用変化により失われた土壌炭素は、過去の化石燃料の燃焼総量よりも大きい
先史時代からずっと減ってきた(土地利用変化、農耕など)。→適切な管理をすれば、元に戻せる可能性がある。
昔 将来?今
このまま減り続ける?
適切な管理で回復?土壌炭素 可能性
Q3: 人間の力で吸収を増やせるの?
小まとめ
水田や畑では、土壌炭素が増加すれば、その分、大気中のCO2を吸収したと考えることができる。
土壌中の炭素の量は、かなり大きい(植生の3倍、大気の2倍)ので、わずかの変化でも大きな影響を及ぼす可能性がある。
過去に、土地利用変化などで失われた炭素は、化石燃料の燃焼由来の総量よりも大きい。過去のレベルまで戻せるポテンシャルは、それだけ大きい。
人為的な要因で変化する:土地利用、管理(農法)によって増減する
→では、土壌炭素が増減する要因は?
有機物投入(植物残渣・堆肥)量・多いほどSOC増加質(分解のし易さ)・C/N比が高いほど増加・リグニン等難分解性含量が高いほど増加
温度・低いほど分解遅いSOC増加土壌水分・過湿でも過乾でも増加土壌理化学性 ・粘質ほど増加、・極端に酸性でもアルカリ性でも増加管理法 ・不耕起で増加
土壌炭素が増減するメカニズム
・土壌炭素を増やすには、土壌への投入を増やすか、土壌からの損失(分解)を減らす(遅くする)か、どちらか、あるいは両方。
どのような条件で土壌炭素が増加しやすいか
・人為的に変えられるものと変えられないものがある。
有機物の投入:量だけでなく、質も。
~有機物の種類と分解速度~
(速見,1985)
種類により分解率が異なる。リグニン含量やC/N比等が影響易分解
難分解
二毛作畑地における地表面温度と土壌呼吸速度の関係(小泉,2000を改変),●:夏期,○:冬期,R-B:陸稲-オオムギ,C-I:トウモロコシ-イタリアンライグラス
温度
温度が高いほど分解が早い
出力:分解
水分
•ちょうど良い水分の時、分解が早い。•乾きすぎ、湿り過ぎはどちらも遅い。
西尾道徳著(1989)土壌微生物の基礎知識
出力:分解
温度・水分と、有機物の蓄積・分解
出力:分解
図近接する水田と畑の土壌炭素含量の比較(Mitsuchi, 1974を改変)
水分:水田と畑出力:分解
0
1
2
3
4
5
6
粗粒 細粒 粗粒 細粒
砂質 ローム質 シルト質 粘土質
土壌有機炭素(%)
畑
草地
土壌の粒径組成および土地利用の違いが土壌有機炭素含量に及ぼす影響(Loveland and Webb, 2003より作成)
土性(粒径組成)出力:分解
小まとめ
土壌炭素の増減は、入力(土壌へのすき込み)と出力(分解)のバランスで決まる。
分解に影響する要因
温度、水分(環境条件)
粒径組成(土壌のもともとの性質)
土壌炭素を増やすには、入力を増やすか、出力(分解)を遅らせるか。ただし、人為的にコントロールできることと出来ないことがある。
土壌炭素を増やす土壌管理の例
年
0
20
40
60
80
100
1840 1880 1920 1960 2000
堆肥連用
堆肥施用途中で中止
化学肥料のみ
土壌炭素量(
t/ha)
英国:ローザムステッド試験場:150年以上の連用試験
例えば、投入を増やす~たい肥の施用
堆肥は大変。緑肥のほうが楽
Lal (2004)
ムクナ(緑肥、マメ科)
炭:長期間安定
籾殻炭化物の積算二酸化炭素発生量(柳田ら,1997)
牛ふん炭化物(800゚C,千葉農試)籾殻炭化物
二酸化炭素発生量は1/8
Biochar
例えば、分解を遅くする~不耕起、省耕起栽培
(金沢、1995)
•耕すことによって、有機物の分解が促進される。•不耕起では、土壌炭素が多い。
不耕起と作物残渣マルチ
Lal (2004)
投入を増やし、分解も減らす
投入を増やす:たい肥や緑肥の施用
分解を遅らせる:不耕起、省耕起
どんな技術をどの程度の規模で実施すると、どの程度の効果が得られるか?
定量的に知りたい。将来予測がしたい。
→メカニズム理解とモデル化
将来予測がしたい
• 例えば、ある地点で圃場試験• 堆肥の投入量と土壌炭素の増加量の関係回帰式を作成
場所ごとに回帰式が必要。
土壌炭素の増加量
同じ場所で、堆肥2トン投入の場合が予測できる
堆肥1トン投入、3トン投入の試験区があれば・・・
違う場所では?
温度、降水量、土壌タイプ、土地利用、農法、・・・・・・が違ったら?
全てで圃場試験は不可能。
土壌炭素循環モデル
0
1
2
3
4
5
-10 -5 0 5 10 15 20 25 30
TemperatureoC
温度:温度が高いほど有機物分解早い
温 度
分解の速さ
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
0 10 20 30 40 50Topsoil moisture deficit (mm)
水分:乾きすぎると分解遅い
湿 乾土壌の水分状態
分解の速さ
0
1
2
3
4
5
6
0 10 20 30 40 50 60 70Clay content of the soil
土性(粒径組成):
粘質なほど分解遅い
粘土含量
分解の速さ
土壌を中心とした炭素循環のモデル化(数式化)コンピュータ上でのシミュレーションモデル
実測値の積み重ねから・・・
土壌炭素の分解・蓄積と、主要な因子の関係を一般化
気象:気温、降水量、水面蒸発量(月別値)土壌:粘土含量、作土深、初期の炭素含有率・仮比重管理:植物遺体・堆肥からの炭素投入量、植被の有無
入力データ
毎月の土壌炭素量
RPM
IOM
DPM
BIO HUM
作物残渣
堆肥
CO2
DPM:易分解性有機物 RPM:難分解性有機物BIO:微生物バイオマス HUM:腐植 IOM:不活性有機物
出力データ
Rothamsted Carbon (RothC)モデル
ローザムステッド・カーボン・モデルRothamsted Carbon Model (RothC)
年
0
20
40
60
80
100
1840 1880 1920 1960 2000
堆肥連用
堆肥施用途中で中止
化学肥料のみ
土壌炭素量(t/h
a)
モデル:欧米を中心に開発その後、他の地域でも検証・改良
英国で開発
日本でも使えるのか?気候、土壌タイプなどが違うが。。。
水田:5か所
非黒ボク土畑:6か所
圃場スケール:モデルの検証~改良
•各試験地には、複数の処理区(化学肥料、ワラ、堆肥など)
•長期連用試験地のデータを収集•モデル計算結果と実測値を比較•必要があれば改良
黒ボク土畑:4か所
長期連用試験データは重要!
安城: NPK+家畜フン堆肥
0
10
20
30
40
50
60
1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981
SOC (t ha-1)
熊谷: -N
0
10
20
30
1975 1977 1979 1981 1983
SOC (t ha-1)
日本におけるRothCの検証例
SOC増加
SOC減少
褐色低地土
黄色土
長沼: NPK+堆肥
0
10
20
30
40
50
1976 1978 1980 1982
SOC (t ha-1)
SOC変化なし
灰色低地土
宇佐: NPK+ムギワラ
0
10
20
30
1976 1978 1980 1982
SOC変化なし褐色森林土
管理条件
土壌条件(粘土含量11.8~27.7%)、さまざまな気象条件(気温7.0~15.5℃、降水1215‐1873mm)、モデル(線)と実測(点)が精度良く一致
藤坂:NPK区
0
20
40
60
80
1935 1955 1975 1995 2015 2035
SOC (t ha-1)
モデルの活用:将来予測の例
現行RothC 現在の管理
SOC維持堆肥で1.9tC/ha/年
堆肥3.8tC/ha/年SOC増加
現在(2000年)
検証
検証・改良されたモデル→将来予測の信頼性が高い点から面的な予測に広げるは、データの整備が必要
予測
投入C:残渣で0.11t/ha/年
改良RothC
過去 将来
温暖化など気象条件が変化した場合の予測も可能
Web上で土壌炭素を計算するサイトを開発・公表
http://soilco2.dc.affrc.go.jp/
まず、場所を選択。自動的に、気象と土壌の情報を取得
次に、作物と、作物残渣の管理を選択。
次に、堆肥の施用量を設定。
確認画面。自分の数字を使いたい場合は直接入力OK
結果の表示。簡単操作で、有機物管理の効果を試算できます。
米国の意思決定支援ツールCOMET‐VR:Centuryモデル(コロラド州立大)
Web上で住所、土壌タイプ、地形、土地の履歴、作物、耕起法などを入力
COMET‐VR•1年あたりのC蓄積量を算出•不確実性評価あり•当初は土壌炭素のみ•今はN2Oも、化石燃料消費も含め、バージョンアップ。
各種補助金の効果を評価するために活用されている
• CRP (Conservation Reserve Program)• EQIP (Environmental Quality Incentives Program)
農水省による環境直接支払いメニュー
税金による直接支払い以外にも、方法はある。
J‐クレジット
企業イメージアップ
地域二酸化炭素削減推進委員会(都道府県レベル)
農作物の地域環境保全ブランド化
シール・看板等CSR協賛
カーボンクレジット販売
Carbon Minus Project
企業
企業・消費者・農業者による国民的環境保全活動
○○企業も協賛している環境に良い野菜!そのうえ安いしね。いいわ!!
環境にやさしい野菜クルベジの販売
そやね・・・
LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点
「全体としてどうなのか?」
堆肥の施用土壌の炭素が増加
堆肥の製造・運搬・散布にはエネルギーが必要
プラスの効果 マイナスの効果
物質やエネルギーの流れの全体を把握して、環境負荷や環境影響を総合的に評価
例えば、「堆肥の施用」を評価
おわりに~かけがえのない土壌資源
有機物の農地への施用:注意しなければならない点・未熟な有機物の大量施用作物の窒素飢餓。土壌の還元化、病害の発生。・硝酸性窒素による地下水汚染・閉鎖性水域の富栄養化。・都市ゴミコンポストなどでは、重金属など有害物質の付加。
土壌は、ゴミ捨て場ではない。
・多量に投入すると問題を引き起こす場合があることも理解し、土壌を単に有機物蓄積の場と考えるのではなく、持続的に農業生産を行うための適切な有機物施用を行うことが必要。
・土壌への有機物投入は、基本的には、地力維持のためになる。
・炭素蓄積が、温暖化防止の観点で注目されるのは、良いこと。ただし、生産と両立してこそ意味がある。
土壌が出来るには長い年月がかかるが、それを失うのは一瞬。
土壌を大事にし、農業生産と温暖化の緩和を両立を!
ご清聴ありがとうございました。
top related