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Bed Side Learning のためのテキスト 大阪市立大学大学院医学研究科 脳神経外科 監修 大畑建治

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Bed Side Learning のためのテキスト

大阪市立大学大学院医学研究科

脳神経外科

監修 大畑建治

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Neurological Surgery Textbook, Osaka City University Graduate School of Medicine

1

はじめに

2週間は“慣れたころには終わる”、脳神経外科の奥義を知るには余りにも短い期間です。このテキストは、

脳神経外科病棟での bed side learning が効果的に行えるように作成したものです。学生諸君は積極的に

医療に参加し、実習に重点をおいた2週間を過ごしてください。私共教員は全力で諸君の手助けをします。

カンファレンスでの質問、手術での直接介助等、いろいろな希望を歓迎します。

合い言葉:分かって納得 見て合点 これが外科の神髄だ! 大畑建治

***** 脳神経外科教室案内 *****

スタッフ:

教授 大畑建治 [email protected]

准教授 西尾明正 [email protected]

森野道晴 [email protected]

講師 露口尚弘 [email protected]

高見俊宏 [email protected]

三橋 豊 [email protected]

後藤剛夫 [email protected]

石橋謙一 [email protected]

病院講師 一ノ瀬 努 [email protected]

研究医 長久 功

平 真人

永田 崇

森迫 拓貴

大学院生 寺川雄三

川上太一郎

宇田 武弘

病棟:12 階東病棟

医局:学舎8階

メールアドレス: [email protected]

ホームページ: http://www.med.osaka-cu.ac.jp/Neurosurg/

平成20年度前半の参加学会及び教室予定:

4月 5日 日本脳神経外科学会近畿支部学術集会

4月 5日 近畿脳腫瘍研究会

4月11日-12日 脳神経外科手術と機器学会

5月 9日-11日 日本脳神経外科コングレス

6月12日-13日 日本脊髄外科学会

7月 7日- 8日 日本頭蓋底外科学会

9月 5日- 6日 近畿脳神経血管内治療学会

9月29日 近畿脊髄外科研究会

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2

1 9:30 オリエンテーション BSL(病棟実習)の心構え

2週間の予定(集合時間など)

学生の待機場所(病棟、カンファレンスルームの使用についての注意)

担当医師の割り当て

担当患者の割り当てと紹介について

手術室、血管撮影室の所在と入り方 30分

病棟の説明(病室の構成など)

カルテ、フィルム、診察道具の場所

カルテの記載方法(日付、サインなど)

カルテの書き方(SOAPなど)

フィルムの出し入れでの注意点

2 10:00 プレゼンテーションの方法 プレゼンテーション 構成の仕方

3 病歴の取り方 テキスト参照 30分

4 10:30 神経学的所見のとり方 テキスト参照 1時間

5 13:00 眼底の見方 実習

6 ステレオ写真の見方 実習 30分

7 14:00 基本単純レントゲン写真の見方 頭蓋、頚椎

8 基本CTの見方 頭部単純CT、bone density CT 2時間

9 基本MRIの見方 正常頭部および頚髄について(T1、T2、FLAIR、Gd)

10 基本MRAの見方 正常脳血管について

BSL 初日予定表

BSL 最終日、成果報告 (大畑教授)

2 週間で学んだこと、普段から考えていることについて自由に発表してください。

発表課題が見つからないときは下記から選択してください。

1)担当患者さんの疾患について

2)経験した手術について

3)手術体位について

4)病棟管理について

5)医療におけるコミュニケーションについて

6)モーニングカンファレンス、プレゼンテーションについて

7)夢

など、内容は自由です。各自 5 分の発表をもって脳神経外科学 BSL の総括とします。

使用可能器具:白板,PC、オーバーヘッドプロジェクター

すべての医学生にとって充実した BSL になるよう祈っています。

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週間予定表 平成18年9月4日より

月曜 午前 7 時 30 分 モーニングカンファレンス

午前 9 時 手術 (op 室 No12)

血管内治療( or 血管撮影)

火曜 午前 8 時 モーニングカンファレンス

午前 9 時 手術 (op 室 No12)

水曜 午前 7 時 30 分 モーニングカンファレンス(抄読会)

午前 9 時 手術 (op 室 No12) 不定期もしくは、準緊急症例

午後 12 時 神経画像合同カンファレンス (2 週に 1 回) 学舎 18 階

木曜 午前 7 時 30 分 モーニングカンファレンス

午前 9 時 手術 (op 室 No12)

金曜 午前 8 時 モーニングカンファレンス

午前 9 時 手術 (op 室 No12)

血管内治療( or 血管撮影)

第 1 週 水曜 AM:森野 てんかんの外科治療について

第 2 週 月曜 PM:永井(あびこ永井クリニック) 脳 MRI 読影の基本

第 2 週 金曜 PM:大畑 成果報告 前頁参照のこと

曜日別担当教員

第1週 第2週

月曜 オリエンテーション(交代) 永井(午後)

火曜 後藤 三橋

水曜 森野 露口

木曜 西尾 高見

金曜 石橋 大畑(午後)まとめ

脳神経外科 外来予定表

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4

BSLの目標 脳神経外科の bed side learning コースでは、以下の3つの大項目を学ぶことが目標です。

脳神経外科知識の整理

1. 神経機能と解剖

2. 治療対象疾患

3. 治療法一般

病棟実習

1. 患者とのコミュニケーション

2. 病歴聴取

3. 一般的理学所見

4. 神経学的所見

5. カルテの記載方法

6. 基本的画像診断

7. 症例プレゼンテーション

手術実習

1. 入室準備

2. 清潔手洗い

3. 術中所見の解剖学的把握

特に重点的に行うのはモーニングカンファレンスでのケースプレゼンテーションです。

疾患についての理解、患者の現在までの経過、現在の神経学的所見、英語によるサマリー、

鑑別疾患に関する考察をまとめた impression を全て暗記してモーニングカンファレンスで発表して頂きます。

相当な労力が要求されると思われますが、各自努力して下さい。

補足:最近の医師国家試験問題をふまえたトピックス

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脳神経外科知識の整理 1.神経機能と解剖 脳および脊髄を構成する細胞

神経細胞・・・・神経細胞の形態・機能について理解できているか?

グリア細胞・・・グリア細胞の形態・機能について理解できているか?

その他に、どのような組織から構成されるか。

脳血液循環

前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、椎骨脳底動脈の支配領域について。

脳の重さは?全体重の何%か?

成人の脳血流は全心拍出量の何%か、脳酸素消費量は全体の何%か。

髄液循環

脳室系の解剖学的理解

成人の髄液はどれぐらいか、1 日髄液産生量はどれぐらいか。

大脳表面

前頭葉 機能(特に運動、言語、に関して)、

側頭葉 機能(特に記憶、言語、聴覚、に関して)、海馬の構造

頭頂葉 機能(特に感覚に関して) 中心溝の同定が出来るか。

後頭葉 機能(視覚に関して)

小脳 機能(小脳の障害でどのような症状が出現するか)

脳幹部 各脳神経の出る部位、脳神経核の存在部位

頭蓋底 上眼窩裂、視神経管、破裂孔、正円孔、卵円孔、棘孔、内耳孔、頚静脈孔、

舌下神経管、大後頭孔

脳神経

ⅠからⅩⅡ番の脳神経について、機能、神経核、解剖、神経学的検査法を理解する。

視神経・・・視野検査法、眼底検査法、両耳側半盲、同名半盲、視神経乳頭所見の理解

眼球運動支配神経(Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ)の検査方法、海綿静脈洞内の構造

三叉神経・・・顔面の支配領域、

Ⅶ、Ⅷ脳神経・・・解剖学的理解、聴力検査(感音性難聴と伝音性難聴の違いについて)

下位脳神経・・・口腔および咽頭運動の検査法、構音障害についての理解

脊髄、脊椎

高位診断と横位診断についての理解

脊髄解剖(構造、血流支配)に対応した神経症状・所見が理解できるか?

神経根に対応した神経症状・所見が理解できるか?

その他の重要事項

皮質脊髄路(錐体路)の解剖について

大脳辺縁系の構成について

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6

2.治療対象疾患 良性脳腫瘍

髄膜腫 発生部位、画像診断

神経鞘腫 三叉神経鞘腫、聴神経鞘腫の理解

下垂体腺腫 機能性および非機能性腺腫の区別、典型的症状について理解

頭蓋咽頭腫 好発年齢の特徴、発症形式(下垂体腺腫との違い)

悪性脳腫瘍

神経膠腫 分類、画像診断、治療方法

転移性脳腫瘍 原発疾患の頻度、画像診断、治療方法

その他、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍

脳血管障害

くも膜下出血 発症形式、画像診断、緊急性についての理解

脳内出血 発症形式、画像診断、緊急性についての理解

脳梗塞 発症形式、分類、治療方法

頚動脈狭窄症 発症形式、画像診断、治療方法

脊髄・脊椎疾患

脊椎症、椎間板ヘルニア、脊椎縦靱帯骨化症、脊柱管狭窄症、脊髄損傷

症状経過、神経学的所見、治療方法

機能性疾患

てんかん 側頭葉てんかん、欠伸発作など発作型の理解、治療方法

三叉神経痛 特徴的症状、治療方法

片側顔面痙攣 特徴的症状、治療方法

先天性疾患

キアリ奇形 発症形式、画像診断、分類、治療方法

頭部外傷

頭部外傷の分類と画像診断、緊急性についての理解

感染性疾患

髄膜炎 髄液所見の理解

脳膿瘍 画像診断

その他

脳ヘルニア 脳ヘルニアの種類、瞳孔所見、クッシング現象について

水頭症 分類、画像診断、治療方法

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3.治療法一般 開頭術

前頭開頭

額の上を円弧状に切開して開頭します。

前頭葉、大脳半球間裂、前頭蓋底、トルコ鞍上部などに到達します

前頭側頭開頭

前頭側頭部を中心に開頭を行い、前頭葉と側頭葉の両方を露出します。

標準的な開頭で、ウィリス動脈輪への到達がほぼこの開頭で行えます。

後頭開頭

患者を横向きか仰向けにして、後頭部を開頭します。

後頭葉はもちろんのこと、松果体にも到達できます。

後頭下開頭

天幕下に対する手術で用いる開頭です。聴神経鞘腫の手術で用います。

その他に三叉神経痛、片側顔面痙攣あるいは小脳腫瘍で用います。

下垂体領域に対する経蝶形骨洞到達法

上口唇の裏側か鼻腔内より蝶形骨洞を経て下垂体領域へ到達する方法です。

下垂体腺腫などのトルコ鞍周辺に発生した腫瘍の手術に用います。

脊椎・脊髄に対する手術

頸椎前方到達法

頚部の前方より気管・食道と頸動脈の間から頸椎前面に到達します。

頸椎後方到達法

後頚部より進入し筋層を剥離して頸椎後面に到達します。

水頭症手術

脳室腹腔短絡術(VP シャント)

脳室にシリコンチューブを挿入して、頭→頚部→前胸部→腹部へとチューブを皮下で連結します。

第3脳室開窓術

閉塞性水頭症に対して、第3脳室底を内視鏡的に開放する方法です。

穿頭術

局所麻酔で施行することができます。疾患例:慢性硬膜下血腫洗浄術、生検術など

血管内治療

脳動脈瘤コイル塞栓術

脳動脈瘤に対してマイクロカテーテルを動脈瘤の入り口まで挿入し、プラチナコイルを動脈瘤内で巻いて動脈

瘤内腔を詰めてしまう方法です。

経皮的血管形成術(ステント留置術)

動脈の狭窄部にバルーンカテーテルを挿入して内腔から拡張させる方法です。

最近ではさらにステントを併用する方法が増加しています。

血管内塞栓術

脳動静脈奇形や血流豊富な脳腫瘍に対して、マイクロカテーテルによって塞栓物質(粒子状や液状のもの)を

詰める方法です。

定位的放射線治療

エックスナイフあるいはガンマナイフなど

脳腫瘍などの病変の形を MRI などによって解析し、そのデータを元にして放射線を多方向から少量ずつ照射さ

せます。頭部に専用のリングを装着して、治療上必要な照射量を病変部だけに集中させることが可能となりま

す。通常の放射線治療と異なり1回の治療で済みます。

腫瘍性病変に対する化学療法

悪性神経膠腫、頭蓋内胚細胞腫瘍、頭蓋内悪性リンパ腫などに対して集学的治療の一つとして行います。

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病棟実習

1.患者とのコミュニケーション 挨拶・・・必ずきちんと挨拶をする。

「おはようございます。」

「こんにちは。」

「失礼いたします。」

自己紹介

「大阪市立大学医学部5回生の ○○△△ です。

お体の具合がよいときに、問診や診察をさせていただきたいのですが、よろしくお願いいたします。」

診察に先立ち、患者の同意を得る

「失礼します。少し診察をさせていただきたいんですけれども、今お時間よろしいでしょうか?」

協力してくれた患者に対して誠実にお礼を言う。

「診察させて頂いてどうもありがとうございました。明日もよろしくお願いいたします。」

基本的には、患者の訴えに耳を傾けてきちんと「聴く」という姿勢が重要です。

病状に関する患者からの質問には

「申し訳ありませんが、自分は医学生ですので病状の説明に関することは禁じられています。担当医にご質問の内

容をお伝えするようにいたします。」などと説明すること。

日常的な会話などを行って患者の気分を和ませることは非常に重要であり、医師の務めです。

会話の後で、「先生、どうもありがとう」と言ってもらえるのが理想。

2.病歴聴取 疾患による症状経過の違いについて理解すること

脳腫瘍

緩徐な発症で進行性

進行が早ければ悪性

進行が遅ければ良性

脳血管障害

突然急激な発症

外傷(頭部、脊髄)

急激な発症

外傷機転を理解すること

感染症

比較的緩徐な発症、発熱等の炎症所見の存在、先行感染の存在

てんかん

間欠的再発的発症

前頭葉てんかんの特徴

側頭葉てんかんの特徴

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典型的な病歴例

次の病歴からどこまで分かるでしょうか?

1. 突然右片麻痺が生じた

2. 徐々に右片麻痺が生じた、進行している

3. 突然今までに経験したことのない激しい頭痛が生じた

4. 30 分間右片麻痺が生じた

5. 両耳側半盲が徐々に進行した。

6. 視野障害と尿崩症が出現し、上方注視麻痺を認める。

7. 突然激しい頭痛があり、右眼腔下垂が生じた。

8. 久しぶりの同窓会で顔貌の変化を指摘された。

9. 24歳の女性、乳汁分泌と月経不順。

10. 高血圧と中心性肥満が出現した。

11. 徐々に物忘れが強くなり臭いがわからなくなった

12. めまいが生じ徐々に聴力が低下している、最近では顔がしびれる

13. 小学生に入ってからよくふらつくようになった、朝嘔吐する

14. 突然左上下肢の麻痺が生じ1ヶ月で回復した、このようなエピソードがこれまで3回ある

15. ピル服用中の女性が昨日より頭痛を訴え夜から意識混迷である

16. 60 歳の男性、よく酒を飲む、徐々に右上下肢の麻痺が出現した、頭部外傷の有無は不明

17. 40 歳の男性、たばこを持つ手によく火傷をする

18. 40 歳の女性、兄が脳腫瘍といわれている、最近ふらつきがある

19. 50 歳の男性、両側の難聴がある

20. 60 歳の女性、心拍に一致する耳鳴りがする、最近眼が赤い

21. 突然右眼が真っ黒になる、このような発作が1年前からある

22. 突然の顔面麻痺に気づき、2~3日間で増悪した

23. 最近になって視力、視野の障害がある、職場でとんちんかんなことがよくある

24. 両下肢の脱力が徐々に出現している

25. 右同名側半盲がある

26. 右下肢からはじまる痙攣があり全身に広がる

27. 3ヶ月前より左視野半分が見づらくなり徐々に進行、最近は左上下肢の脱力もある

28. 突然の vertigo があり右半身のしびれがある

29. 前屈すると四肢がしびれる

30. 60 歳男性、ボタンがつけにくく階段も降りにくい

31. 100m歩くと腓腹筋が痛む、休むと改善

32. 頚部を後屈すると四肢に脱力が生じる

33. 8 歳の男児、ハーモニカをふくと左片麻痺が生じる

34. 65 歳の男性、1年前から尿失禁、歩行障害、痴呆がある

35. 16歳女性、幼少時に熱性痙攣の既往あり、13歳頃より虚空を凝視し、口をもぐもぐさせる意識障害が出現するようになった

36. 14歳男性、最近、夜中に突然大きな声を出し、左へ頭頚部と体幹を回旋させる発作が出現するようになった

37. 20歳男性、眼前に閃光が認められ、その後、眼球が右側へ偏位して頭部を右側へ回旋させて全身強直性のけいれんが出現する

38. 34歳女性、25歳時より意識喪失を認めず、突然、右上下肢に痙攣をきたすようになった

39. 4ヶ月男児、生後4ヶ月から突然、頚部を前屈させて両上肢を伸展させ、両下肢を屈曲させる5秒程度の発作を認めるようになり、1日に群

発するようになった

脳神経外科領域に限らず、病歴の聴取は診断学の第一歩です。

画像診断がいくら発達しても、詳細な病歴聴取によって素早く病状を知ることができます。

問診によって患者とのつながりを強くすること。

必要な情報を得ることだけでなく、目の前の患者にとって何が一番困っているのか?を感じ取る事も重要です。患者

の言葉を医学的に客観解釈することが求められます。

病歴聴取は医師にしかできません。患者の言葉に耳を傾け、言葉の間に隠された真実を見出すという訓練をしてく

ださい。

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3.一般的理学所見

基本的バイタルサインのチェック

血圧測定(左右差の有無)

脈拍

身長、体重

全身状態

異常な肥満、るいそうがないかどうか。全身倦怠感を自覚していないかどうか(内分泌症状の有無)。

バイタルサインなどは、神経症状とは直接の関係がない場合がほとんどであるが、

最低限上記の内容は把握するようにしてください。

4.神経学的所見 意識状態の評価

意識障害・・・意識状態の評価(JCS, GCS)、意識障害の特殊型(失外套状態、閉じこめ症候群)

脳死・・・脳死の定義、判定基準について

失語症・・・失語症の種類、責任病巣

認知機能障害・・・認知症の評価(長谷川式簡易痴呆スケール)

正常:意識清明

異常:覚醒レベルの異常と意識内容の異常が存在する。

脳神経系

I. 嗅神経

II. 視神経 視力、視野検査、眼底検査

III. 動眼神経 瞳孔の大きさ・左右差、対光反射、眼球運動

IV. 滑車神経

V. 三叉神経 顔面知覚、咬筋

VI. 外転神経

VII. 顔面神経 顔面神経麻痺、味覚

VIII. 聴神経 聴覚、リンネ試験とウェーバー試験

IX. 舌咽神経

X. 迷走神経 催吐反射、カーテン徴候、呂律障害

XI. 副神経 胸鎖乳突筋、僧帽筋

XII. 舌下神経 舌運動・萎縮

5.カルテの記載法 最初に問題点を整理して、各問題点についての治療計画を記載します。

日々の経過についてはSOAP方式で記載してください。

S:主観的所見

O:客観的所見

A:考察

P:予定計画

実習開始と終わりには必ずまとめを記載してください。

On Service Note

Off Service Note

最後にはっきりした文字で署名を書く。

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補足1

長谷川式痴呆スケール

改訂長谷川式簡易痴呆スケール(HDS-R)

氏名 生年月日 年 月 日

年齢 男・女 検査者 点数

No 質問内容 配点

1 お歳はいくつですか?(2 年までの誤差は正解) 0 1

2 今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか? 年 0 1

(年、月、日、曜日が正解でそれぞれ 1 点) 月 0 1

日 0 1

曜日 0 1

3 私たちが今いるところはどこですか? 0 1 2

(自発的にでれば 2 点、5 秒おいて家ですか?病院ですか?

施設ですか?の中から正しい選択をすれば 1 点)

4 これから言う 3 つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞

きますのでよく覚えておいてください。

0 1

(以下の系列のいずれか 1 つで、採用した系列に○印をつけ

ておく)

0 1

1:a) 桜 b) 猫 c) 電車 0 1

2:a) 梅 b) 犬 c) 自動車

5 100から7を順番に引いていってください。(100-7は?、それ

からまた 7 を引くと?と質問する。最初の答えが不正解の場

合打ち切る)

(93) 0 1

(86) 0 1

6 私がこれから言う数字を逆から言ってください。 2-8-6 0 1

(6-8-2、3-5-2-9を逆に言ってもらう、3桁逆唱に失敗し

たら、打ち切る)

9-2-5-3 0 1

7 先ほど言ってもらった言葉をもう一度言ってみてください。 a: 0 1 2

(自発的に回答があれば各 2 点、もし回答がない場合以下のヒントを与えて

正解であれば 1 点)

b: 0 1 2

a: 植物 b: 動物 c: 乗り物 c: 0 1 2

8 これから 5 つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言って

みてください

(時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの)

0 1 2

3 4 5

9

知っている野菜の名前をできるだけ多く言

ってください。(答えた野菜の名前を右欄に

記入する。途中で詰まり、約 10 秒間待って

も答えない場合にはそこで打ち切る)

0~5=0 点、 6=1 点、 7=2 点、 8=3

点、 9=4 点、 10=5 点

0 1 2

3 4 5

補足2

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12

神経学的所見記入チャート

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補足3

日本脊髄外科学会 脊髄・脊椎疾患の神経鞘場判定基準

術前・術後の機能判定に使います。・・ADL は?と聞かれたら、この点数を応えます。

年齢 男 女 病院名

手術法 手術レベル

1.神経症状 年  月 年  月 年  月

A)下肢機能 C)知覚障害および痛み

(1)機能の全廃(車椅子、または寝たきりの状態。) (1)高度障害(痛みまたは知覚障害が強く日常に著しい障害あり。)

(2)高度障害(階段の昇降できず。平地の歩行にも支持必要。) (2)中等度障害(痛みおよび知覚障害のため日常生活に支障あり。)

(3)中等度障害(階段の歩行に支持必要。平地の歩行に軽度障害。) (3)軽度障害(四肢、髄幹の知覚障害および痛みあり。日常生活に支障なし。)

(4)軽度障害(階段の昇降軽度障害。平地を歩くことはできる。) (4)正常(痛みおよび知覚障害なし。)

(5)正常(神経学的に腱反射亢進、痛的反射はあってもよい。)

B)上肢機能 2. Performance status (5段階)

(1)機能の全廃(車椅子、または寝たきりの状態。)  Grade 0 :発病前の状態と変わらず社会復帰している。

(2)高度障害(巧緻運動はできない。日常生活不能。)  Grade Ⅰ :職種を変えれば復職可能。

(3)中等度障害(日常生活に支障あり。中程度の巧緻運動障害。)  Grade Ⅱ :おおむね日常生活可能。職種を変えれば部分的に復職可。

(4)軽度障害(軽度の巧緻運動障害。日常生活可能。)  Grade Ⅲ :日常生活にかなりの制限あり。(復職不可)

(5)正常(神経学的に腱反射の亢進、痛的反射はあってもよい。)  Grade Ⅳ :日常生活は介助なしには不可。

日本脊髄外科研究会 脊髄、脊髄疾患の神経症状判定基準

2.Performance status (5段階)

高度障害 1

中等度障害 2

軽度障害 3

正 常 4

高度障害 2

中等度障害 3

軽度障害 4

正 常 5

中等度障害 3

軽度障害 4

正 常 5

手術日

本籍地

機能の全廃 1 下肢機能

氏名

術前:  年  月

高度障害 2

 上肢機能

年  月

機能の全廃 1

 知覚障害

合 計 点

改 善 率(%)

年  月

Grade 0

Grade Ⅰ

Grade Ⅱ

Grade Ⅲ

Grade Ⅳ

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6.基本的画像診断

神経疾患の画像診断は MRI が主流となっていますが、救急領域においてはまだ CT が主流です。

ここでは救急疾患に関する頭部 CT と、代表的脳神経外科疾患の頭部 MRI を掲載します。

頭部 CT

正常像

くも膜下出血

高血圧性脳内出血

被殼出血

視床出血

橋出血

小脳出血

脳梗塞

アテローム型脳血栓症

ラクナ型梗塞

心原性脳塞栓症

頭部 MRI

正常像

髄膜腫

聴神経鞘腫

下垂体腺腫

頭蓋咽頭腫

神経膠腫

胚細胞腫瘍

悪性リンパ腫

転移性脳腫瘍

頚椎椎間板ヘルニア

後縦靭帯骨化症

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7.症例プレゼンテーション

基本的概念

フリースタイル競技ではなく、規程種目です。

決まった“型”が存在しますので、これを身につけてください。

科を問わず、この“型”は病棟内の症例提示で用いられ、また学会発表でも用いられます。

プレゼンテーションは、患者の情報を他の医師やコメディカルスタッフと共有するための有用なツールと理解し

てください。

プレゼンテーションの基本

病歴

1. 患者に対する敬語を使わない。(“〜を自覚されました”ではなく、“〜を自覚しました”)。

2. 診断に必要ないことは言わない。<検査目的で入院しました>など。

3. 病歴中にレントゲンフィルム所見は言わない。

4. 他院での診断結果、<・・医院で・・と診断され紹介されました>は、原則として言わない。

5. 診断するにあたって必要な、<経過中、頭痛、嘔吐はありません>などの陰性所見も述べること。

6. 医学用語を使用する(後頭部の痛み、ではなくて、非拍動性頭痛 など)

7. 間接話法は使わない。<患者は・・を感じた、とのことです>ではなく、<・・を感じています>。

8. 病院名は言わない<他院に1年間通院し、・・・の処方を受けていましたが>などと表現すること。

既往歴

1. 疾患に関連性の深いものを中心に述べる。

2. 関連する既往歴は、陰性であっても言及すること。

(例:脳血管障害では糖尿病や高血圧の有無。てんかんでは外傷歴や熱性痙攣の有無)

理学所見

1. 血圧、脈拍および全身所見(例:肥満、るいそう、皮膚の状態など)

神経学的所見

1. 必要な部分は詳しく、不必要な部分は省略。

2. 陽性所見は強調して述べ、聞き手が印象を持ちやすくする。

3. 陰性所見であっても、重要と思われる項目は省略しない。

4. 自覚所見(・・・がしびれると言ってます、等)は述べない。

Summary

1. 典型的なパターンを憶える。

2. 簡潔にまとめる。

Impression

1. 考察手順を順番に説明すること

“どこに”、“どのような”疾患があるのか?・・・と考えてゆく。

2. 年齢、性別などを加味して診断名を挙げ、鑑別診断を加える。

3. 今後の検査予定を述べる。

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プレゼンテーションの具体例1 (脳腫瘍)

症例は59歳の右利き女性で、主訴は聴力障害です。

現病歴ですが、

約10年前頃から左上眼瞼の痙攣を時おり自覚するようになりました。2年前からは顔面左側全体の違和感が明瞭

となり、飲水時に左の口角から水分が溢れるようになりました。この頃から左耳での聞き取りが徐々に困難となり、

最近では左耳で電話を聞くことが出来なくなりました。さらに、めまい感も自覚するようになり、歩行に支障を来すこと

が多くなってきています。

経過を通じて、頭痛、嘔気等の症状は認めておりません。

既往歴に特記すべきものはありません。

入院時現症ですが、

理学所見として、身長 154cm、体重 50kg 血圧は 134/68 mmHg、脈拍は毎分 64 回で regular rhythm です。

神経学的所見ですけれども、

意識は清明。

瞳孔は両側 2 ㎜で左右差なく、対光反射は直接間接ともに迅速です。

視力・視野に異常を認めませんでした。

眼球運動に制限を認めませんでしたが、左方視にて振幅大、頻度小の水平性眼振を認めました。

眼底は静脈拍動を認め、乳頭の辺縁は鮮明です。

顔面知覚ですが、顔面左側の V1 から V3 領域に約60%程度の痛覚鈍麻を認めました。

顔面神経機能ですが、顔面左側において末梢性の顔面神経麻痺を認め、House & Blackman grade4でした。

聴力ですが、finger rubbing にて左側の聴力低下を認めました。

Weber test は右へ偏位していました。Rinne test は右で陽性、左で陰性でした。

呂律障害は認めず、軟口蓋の挙上、催吐反射に左右差を認めませんでした。

舌の突出は正中位で、以下の下位脳神経系に異常を認めませんでした。

運動系ですけれども、徒手筋力テストにて四肢筋力とも左右差なく5/5でした。

深部腱反射ですが、四肢ともに左右差なくいずれも2/2でした。

感覚系ですが、四肢・体幹に痛覚、位置覚、振動覚の低下を認めませんでした。

小脳症状ですが、指鼻試験で右は正常、左は拙劣でした。

歩行は wide-based gait で、軽度の体幹失調を認めました。

Romberg 兆候は陰性でした。

以上の Summary ですけれども、

This 59-year-old Right-handed female was admitted with a chief complaint hearing disturbance.

During the last 10 years, left facial dythesthesia has appeared gradually, and left hearing disturbance has developed.

Neurological examination on admission showed Bruns’nystagmus, decreased facial sensation and peripheral type of

facial palsy on the left side, perceptive deafness on the left side and left cerebeller ataxia.

Impression

症状が緩徐な経過をとることから、良性の腫瘍性病変を考えます。

病変の主座としては、第 7 脳神経症状より始まって、第 8 脳神経の障害を来していることより左の小脳橋角部に存在

しているものと考えます。

病変の広がりとしては、顔面の痛覚鈍麻と失調症状を来していることより第 5 脳神経や小脳に及んでいるものと思わ

れます。

具体的な疾患として、聴神経腫瘍を第 1 に考えますが、鑑別診断として髄膜腫あるいは類上皮腫などを考えます。

後頭蓋窩の腫瘍性病変に対する診断を確定するための検査として、脳 MRI が適切であると考えます。

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プレゼンテーションの具体例2 (脳血管障害)

症例は65歳の右利き女性で、主訴は一過性の左半身脱力発作です。

現病歴ですが、

1 ヶ月前、入浴後に突然左の手足がしびれ、重だるいような状態となりました。立っていられなくなって家人を呼んだ

ところ、話し方がおかしくなっていると指摘されております。

約 1 時間ほどで症状が軽快しましたが、現在も左の指先にわずかなしびれ感が残存しております。

経過を通じて頭痛やめまいは自覚しておりません。

既往歴ですが、高血圧と糖尿病の既往があり、近医で内服加療を受けております。

嗜好歴として、タバコが1日30本程度、飲酒は1日にビールを300ml を、各々40年間であります。

入院時現症ですが、

理学所見として、身長 154cm、体重 65kg と、obesity を認めます。

血圧は右上肢が 104/58 mmHg、左上肢が 142/70mmHg と、左右差を認めました。

脈拍は毎分 64 回で regular rhythm です。

右側で頚部血管雑音を聴取します。

神経学的所見ですが、

意識は清明。

瞳孔は両側 2 ㎜で左右差なく、対光反射は直接間接ともに迅速です。

視力・視野に異常を認めませんでした。 眼球運動にも制限を認めませんでした。

眼底は静脈拍動を認め、乳頭の辺縁は鮮明でした。

顔面知覚は正常で角膜反射は左右とも迅速でした。

明らかな顔面神経麻痺は認めませんでした。

聴力ですが、finger rubbing にて聴力低下を認めませんでした。

Weber test は正中位で、Rinne test は両側で陽性でした。

呂律障害は認めず、軟口蓋の挙上、催吐反射に左右差を認めませんでした。

舌の突出は正中位で、以下の下位脳神経系に異常を認めませんでした。

運動系ですけれども、徒手筋力テストにて四肢筋力とも左右差なく5/5でした。

深部腱反射ですが、四肢ともに左右差なくいずれも2/2でした。

感覚系ですが、四肢・体幹に痛覚鈍麻を認めませんが、両下肢において位置覚、振動覚の低下を認めました。

左上肢の指先に軽度のしびれ感を認めております。

小脳症状ですが、指鼻試験で両上肢とも正常でした。

Romberg 兆候は陰性でした。

以上の Summary ですけれども、

This 65-years-old right-handed female was admitted with the chief complaint of transient left hemiparesis.

One month ago, left hemiparesis and dysarthria occurred suddenly, and improved in one hour.

Neurological examination on admission showed neck bruit on right side.

Impression ですが、

症状が突然発症であることから血管障害によるものを考えます。

高血圧、糖尿病、肥満、タバコとアルコールの嗜好、など多数のリスクファクターを有しており動脈硬化性の脳血栓

症が考えられます。

左側の片麻痺と構音障害を認めていること、右側で頚部血管雑音を聴取することより、責任病変としては右側の内

頚動脈が狭窄を来しているのではないかと思われます。

1時間後に症状の軽快を認めていることより、一過性脳虚血発作の形態をとっていると考えられます。

鑑別疾患として、突然発症であることよりてんかんなどが挙げられると考えました。

診断を確定するための検査として、脳の MRI、頭部と頚部の MRA、脳血管撮影などが必要と考えます。

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プレゼンテーションの具体例3 (てんかん)

症例は37歳の右利きの女性で、主訴は複雑部分発作です。

現病歴ですが、

20 歳時より特に誘因なく全身強直間代性けいれんを認めるようになりました。この後より、抗てんかん薬の投与をう

けるようになっております。その後は 34 歳時に 1 度、全身強直間代性けいれんを認めただけでありましたが、突然、

意識減損が生じて、口部をモグモグさせたり歩き出したりする発作は月に 2-3 回の頻度で認めています。これらの

発作は睡眠不足やストレスが認められた時に多く出現します。発作の前に、上部消化管の不快感が前兆として認め

られます。発作の間の記憶は全くなく、発作後はしばらくぼんやりしています。今回の入院前に徒歩では戻ってこれ

ない距離の場所から切符を購入せずに電車に乗り、帰宅したことがあり、この間の記憶も全くありません。買い物を

したときに一件目の店でお金を払い、お釣りをもらったことまでは覚えていますが 2 件、3件の店での記憶は全くなく、

失禁したところで気がついたというエピソードがあります。20 歳頃より物の名称や人の名前が記憶しにくくなってい

る。

最終学歴は大学卒で、薬剤師の資格を有しております。

現在まで、頭痛や嘔気の症状は認めておりません。

既往歴ですが、出生時に分娩時外傷や新生児仮死などは認めませんでした。

生後 5 ヶ月時に腸炎と診断され、このとき高熱を認め、約 10 時間のけいれん重積を認めております。

入院時現症ですが、

理学所見として、身長 160cm、体重 50kg 血圧は 120/70 mmHg、脈拍は毎分 70 回で regular rhythm です。

神経学的所見ですけれども、

意識は清明。

瞳孔は左右同大、対光反射は直接、間接とも迅速です。

眼球運動障害は認めず、眼底は静脈拍動を認め、乳頭の辺縁は鮮明です。

顔面知覚に異常なく、角膜反射は両側とも迅速でした。

顔面運動は対称であり、聴力にも異常を認めません。以下の下位脳神経系にも異常所見を認めませんでした。

運動系ですけれども、徒手筋力テストにて四肢筋力とも左右差なく異常を認めませんでした。

深部腱反射、および感覚系にも異常を認めませんでした。

明らかな lobe sign を認めず、失調症状も認めませんでした。

以上の Summary ですけれども

This 37- year- old right handed female admitted with a chief complaint of complex partial seizure. She has first

reported to have a generalized tonic clonic seizure at the age of 20. A complex partial seizure with oroalimentary and

ambulatory automatisms developed at age 34 years. The frequency of seizure is two or three times a month, and the

seizures were not controllable with antiepileptic drugs.

Impression ですけれども

患者は生後5ヶ月時に熱性けいれん重積発作を認め、その後20歳頃より全身強直間代性けいれん、34歳時より、

抗てんかん薬に抵抗性の複雑部分発作を認めています。

発作が上腹部消化管の不快感を前兆とし、口部自動症、歩行自動症などを伴うこと、発作中の記憶がなく、発作後

混迷を認めることなどから側頭葉起始の複雑部分発作と考えられます。

側頭葉てんかんをきたす基礎疾患としては生後5ヶ月時に熱性けいれん重積発作を認めていることから海馬硬化症

が第1に考えられます。鑑別すべき疾患として側頭葉に発生した海綿状血管腫、神経節細胞腫、DNT

(Dysembryoplastic neuroepithelial tumor)神経膠腫、AVM(Arteriovenous malformation)などが挙げられます。

診断を進めるための検査として、脳 MRI や脳波等の検査が必要と考えます。

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プレゼンテーションの具体例4 (変形性頚椎症)

症例は59歳の右利き男性で、主訴は四肢のしびれと脱力です。

現病歴ですが、

約2年前より両上肢の指先にびりびりとしたしびれを自覚するようになり、次第に増悪しております。

1年前より両手の細かい動きがしにくくなり、ボタンのつけ外しなどが困難になりました。

また、半年前より、両下肢にもほぼ同様のしびれが出現し、同様に増悪しております、

1ヶ月前より階段の昇降が困難になり特に降りるのができない状態です。

経過を通じて外傷や頚部痛、膀胱直腸障害は認めません。

既往歴に特記すべきものはありません。

入院時現症ですが、

理学所見として、身長 164cm、体重 55kg 血圧は 134/68 mmHg、脈拍は毎分 64 回で regular rhythm です。

神経学的所見ですけれども、

意識は清明。

瞳孔は左右同大、対光反射は直接、間接とも迅速です。

眼球運動障害は認めず、眼底は静脈拍動を認め、乳頭の辺縁は鮮明です。

顔面知覚に異常なく、角膜反射は両側とも迅速でした。

顔面運動は対称であり、聴力にも異常を認めません。以下の下位脳神経系にも異常所見を認めませんでした。

運動系ですけれども、

徒手筋力テストにて両肩関節の挙上と肘関節の屈曲が 5 / 5、 肘関節の伸展と手関節の屈曲伸展が 5− / 5

握力は右が 10kg 左が 15kg でした。

下肢は股関節、膝関節、足関節ともに右が5− / 5 左が5/5で、上下肢とも右がやや弱い印象です。

深部腱反射ですが、上腕2頭筋反射は左右とも正常、

上腕3頭筋反射と、腕橈骨筋反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射がいずれも 3 / 2 の亢進を認めました。

感覚系ですが、右上肢 C7/8 が 80%の痛覚鈍麻、左上肢の C7/8 は 50%の痛覚鈍麻を認めました。

下肢においても足関節以下で、右が 80% 左が 60%の痛覚鈍麻を認めました。

両側の腸骨以下で位置覚、深部覚の減弱を認めました。

歩行は痙性歩行で、Romberg 徴候は陽性でした。

以上の Summary ですけれども、

This 59-years-old right handed female was admitted with a chief complaint of numbness on all extremities.

2 years ago, numbness and motor weakness have gradually developed and fine movement of her finger has also

gradually getting worse.

Neurological examination on admission showed motor weakness on all extremities and sensory disturbance of grove

and stocking type, presented Brown-Sequard’s syndrome.

Impression

四肢の症状が 2 年前より非常に緩徐な経過をたどっていることより、頸椎レベルの良性の腫瘍性病変もしくは変性

疾患を考えます。

高位診断としては C5 レベルで筋力も腱反射も正常で、C6 以下での筋力低下、腱反射亢進があることより C6 レベル

での障害が考えられます。

横位診断としては筋力障害が右側で強く、感覚障害が左側で強いブラウン・セカールタイプの脊髄障害で、後索障

害も認めます。

原因疾患としては外傷などがなく、非常に緩徐な経過であるので頚部脊椎症をまず第一に考えます。

鑑別疾患としては頸椎レベルの良性脊髄腫瘍などを考えます。

診断を進めるための検査として、頸椎 MRI や、単純レントゲンなど検査が必要と考えます。

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手術実習 見学者ではなく実習生であると自覚すること。

進行中の作業を素早く理解して、その作業にできるだけ参加するよう心がけてください。つまり、手術チームの一員

であると思ってください。何か自分ができることはないか?手伝いできることはないか?

実習のための準備

入室準備手術に際して爪は短く切っておく、前腕から手にかけて創傷のある場合は申し出ること。

早朝からの実習ですので、朝食は必ず摂っておくこと。体調の悪い場合は申し出てください。

清潔手洗いを熟知すること。

疑問点を放置しないこと。

疑問に思った点は、手術後などに担当医あるいは指導医に積極的に尋ねてください。

画像診断と実際の術野を対応させること。

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補足 1)脳神経外科病棟モーニングカンファレンスで使用されることが多い用語・略語に関する説明

MRI 画像

axial image ・・・・・・水平断

sagittal image ・・・・矢状断

coronal image ・・・・水平断

lateral ventricle ・・側脳室

intrasella ・・・・・・・・トルコ鞍内部

suprasella ・・・・・・・トルコ鞍上部

mass lesion ・・・・・腫瘤性病変

手術

TUD: trans-unco-distal approach・・・・当教室で開発された頸椎前方固定術

laminectomy 椎弓切除

血管撮影

CAG ・・・・・・・・・・・carotid angiography(頚動脈撮影)

VAG ・・・・・・・・・・・vertebral angiography(椎骨動脈撮影)

IC ・・・・・・・・・・・・内頚動脈

MCA ・・・・・・・・・・中大脳動脈

ACA ・・・・・・・・・・前大脳動脈

PCA ・・・・・・・・・・後大脳動脈

SCA ・・・・・・・・・・上小脳動脈

AICA ・・・・・・・・・前下小脳動脈

PICA ・・・・・・・・・後大脳動脈

C1〜C4 ・・・・・・・内頚動脈のセグメント

M1〜M4 ・・・・・・・中大脳動脈のセグメント

A1〜A4 ・・・・・・・前大脳動脈のセグメント

画像検査

MEG ・・・・・・・・・・MagnetoEncephaloGraphy (脳磁図)

“dipole の集積を認める” ・脳の電気活動が認められる、

つまりてんかんの焦点となっている可能性があるということ。

PET ・・・・・・・・・・Positoron Emission Tomography (陽電子放出型断層撮影)

脳や腫瘍の各領域の代謝を可視化する検査方法、

メチオニン PET ・・アミノ酸の取り込みを測定する、

つまり細胞増殖能をみることで腫瘍の性質や広がりを評価できる。

FDG PET ・・・・・糖代謝を測定する、

腫瘍細胞の活動性を評価したり、てんかん焦点としての可能性を考察する。

SPECT ・・・・・・・single photon emission computed tomography(単光子放出コンピュータ断層撮影)

放射線を放出する元素を投与し、脳血流などを測定する検査。

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補足2)・・・・医師国家試験問題における、脳神経外科領域での出題傾向

(第 90 回〜98 回の医師国家試験の出題項目、神経内科領域は除く)

正常構造、解剖生理

大脳辺縁系

頚静脈孔

錐体路

髄液循環(3)

構成細胞

記憶学習関連部位(2)

脳神経

嗅覚障害

動眼神経(4) 眼瞼下垂鑑別

カーテン徴候

舌下神経(2)

顔面神経 顔面神経麻痺(2)

神経診断学

Horner 症候群(3)

対麻痺

末梢神経障害で見られるもの

不随意運動(2)

腓骨神経麻痺

橈骨神経麻痺

脊髄障害症状

Wallenberg 症候群(2)

膝蓋腱反射

locked-in syndrome(2)

主要症候と病態生理

失語症

lobe sign 前頭葉症状(2)

頭蓋内圧亢進

瞳孔異常(5) Weber 症候群

頭痛の鑑別

てんかんの原因疾患

検査

頭痛患者 突然の頭痛で行う検査

頭蓋内圧亢進患者

腰椎穿刺(6)

脳波(3)

視野障害(3) ( 1 )

MRI(2)

CT(2)

脳血管障害

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脳梗塞(6) ( 6 )

脳内出血(3) ( 1 )

リハビリ ( 1 )

くも膜下出血(5) ( 5 )

もやもや病

AVM(2)

CCF

腫瘍

小児に好発する腫瘍

放射線感受性腫瘍(3)

石灰化する腫瘍

転移性脳腫瘍 ( 2 )

脊髄腫瘍

神経・皮膚症候群(3)

髄膜腫

鞍上部腫瘍

頭蓋咽頭腫

von Hippel lindau

頭部外傷

頭蓋底骨折

ASDH

AEDH(4) ( 1 )

lobe sign

緊急手術の適応

交通外傷意識障害の初期検査

外傷性髄液鼻漏

慢性硬膜下血腫(2)

その他

脊髄空洞症(2)

髄膜炎(4)

ヘルペス脳炎(2)

脳膿瘍

てんかんの処置

欠伸発作(脳波)

頭蓋底陥入症とキアリ

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医師国家試験頻出事項

くも膜下出血

一般問題では、診断に関連した出題が多い。

つまり、primary care doctor として、くも膜下出血をきちんと診断出来るようにという意図があると思われる。

くも膜下出血の診断とは、 1:問診・・・・“突然の”、“激しい”頭痛である。

その他、悪心、嘔吐、羞明、突然の眼瞼下垂(内頚動脈—後交通動脈)

片麻痺は時としてみられるが、“くも膜下出血に特徴的”な症状ではない。

2:画像診断・・頭部 CT で診断する。(MRI の FLAIR が、より検出能力に優れる)

その後、3D-CTA あるいは脳血管撮影で動脈瘤などの出血源を同定する。

診断確定後の初期治療

意識障害のある場合には呼吸管理(酸素等、場合によっては気管内挿管)

循環動態の安定化(おおむね血圧の上昇があるので、適切な降圧を行う)

除痛、制吐剤、鎮静など。

くも膜下出血の病態を簡潔にすると、

1,超急性期〜急性期(24 時間以内)

再出血(再破裂)の危険性が最も高い、

このため止血処置(開頭クリッピング、コイル塞栓術)を行う。

また、くも膜下腔に血腫が充満するため急性水頭症を来すこともある。

2,亜急性期(3〜14 日目)

脳血管攣縮(くも膜下腔の血液が脳血管を狭窄させるため脳血流が悪化する)

Ca 拮抗薬等で治療する。

3,亜急性期〜慢性期(7 日目以降)

出血が吸収された後でも髄液の吸収障害が残存し、正常圧水頭症を来す場合がある。

シャント手術で治療する。

くも膜下出血の予後規程因子は、初診時の意識状態が最も大きく影響する。

次に年齢、脳血管攣縮の程度、正常圧水頭症、などの要因が挙げられる。

臨床問題でも、救急搬送された時点での診断に関連した設問が多い。

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代表的なくも膜下出血の画像と、見逃されやすいくも膜下出血の CT を示す。

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脳梗塞

主として、診断に関連した症候学の設問と、発症のリスクファクターを問う問題が多い。

つまり、primary care doctor としての早期診断能力と、適切なリスクファクターコントロールが重要と考える設問者の

意図が汲み取れる。

リスクファクター 脳梗塞の発症に関連した因子は以下の通り。

循環器系疾患

高血圧・・・収縮期血圧 160mmHg 以上は危険、Ca 拮抗薬、ACE 阻害薬、利尿薬が有用というデータがある。

心房細動・・脳梗塞発症リスクを 2〜7 倍に高める。ワーファリンによる脳梗塞予防が推奨されている。

リウマチ性心臓病および人工弁・・ワーファリンによる脳梗塞予防が推奨されている。

糖尿病・・・脳梗塞発症のリスクを 2〜3 倍にする。

高脂血症・・脳梗塞の危険因子である。

喫煙・・・・脳梗塞発症のリスクを 2〜4 倍高くする。禁煙により罹患率と死亡率は低下する。

飲酒・・・・少量では発症リスクは低下するが、過量飲酒で増加する。

初期診断に関して。

症状

右の内頚動脈系の症状・・・左半身の脱力、知覚障害

左の内頚動脈系の症状・・・右半身の脱力、知覚障害、失語

椎骨・脳底動脈系の症状・・めまい、同名半盲、運動失調、四肢の運動障害

意識障害は、“脳幹の障害もしくは広範な大脳半球障害”で生じる。

その他の重要な症状として内頚動脈系の一過性黒内障がある・・・眼動脈が一時的に閉塞する現象。

その他、単項目として頻出しているもの・・・Wallenberg 症候群

延髄外側症候群とも呼ばれる。

典型的には、後下小脳動脈(PICA)の脳梗塞で認められる。

症状が重要・・6 つあり、前の 2 個、後ろの 2 個、下の 2 個、と憶える。

前の 2 個・・・同側顔面の知覚障害(三叉神経核は上下に長く伸びてる)、同側の下位脳神経麻痺(呂律困難)

下の 2 個・・・同側の Horner 症候群、対側の知覚障害

後ろの 2 個・・小脳失調、めまい

原則として麻痺(顔面も手足も)はない。

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画像診断

脳 CT(簡便に行うことが出来るので、初期診断に頻用されるが、MRI にその役割を譲りつつある。)

脳 MRI

CT では検出不可能な微細な病変や超急性期の病変も検出することが出来ます。

一般的に脳 CT では脳梗塞は黒く描出される。本

性例は右片麻痺と失語症を発症してから約 1 日経

過した患者の CT 左中大脳動脈の一部が黒くなっています。

これは一般的に脳梗塞の診断によく用いられる

FLAIR (フレア) と呼ばれる撮影方法、 脳内の異常病変(この場合は小さい脳梗塞、新し

いものと古いものの両方)が白く写し出される。 本症例は歩行時のふらつきを主訴に来院した患者

で、CT では異常なく、FLAIR では多発性の微少

梗塞(新しいものかどうかは不明)を認めます。

左の画像は脳梗塞の急性期診断に用いられる

拡散強調画像 MRI (diffusion - weighted image)

です。急性期梗塞が高信号(白い部分)に写りま

す。 本症例では、右の視床に今回の梗塞部位が存

在しています。

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作製:大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科

第1版:平成 18 年 4 月 1 日

第2版:平成 18 年 9 月 1 日

第3版:平成 18 年 10 月 26 日

許可のない転用を禁ずる