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NEDO 海外レポート URL:http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/ 《本誌の一層の充実のため、掲載ご希望のテーマ、ご意見、ご要望など下記宛お寄せ下さい。》 NEDO 技術開発機構 研究評価広報部 E-mail [email protected] Tel.044 520 5150 Fax.044 520 5162 NEDO 技術開発機構は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称です。 Copyright by the New Energy and Industrial Technology Development Organization. All rights reserved. ISSN 1348-5350 2008.8.13 BIWEEKLY 1027 212-8554 神奈川県川崎市幸区大宮町1310 ミューザ川崎セントラルタワー http://www.nedo.go.jp Ⅲ.一般記事 1. エネルギー 小規模バイオリファイナリーに DOE が最大 4,000 万ドル助成(米国) 56 病院をエネルギースマートに(米国) 59 2産業技術 カラーの MRI 撮像を可能にする微小磁石の「スマートタグ」(米国) 61 Ⅰ.テーマ特集 - 電子・情報通信技術 - 1. 「まだまだ続く半導体の微細化」-世界のリソグラフィ技術の最新動向- NEDO 電子・情報技術開発部) 1 2. 情報通信技術(ICT)の活用による地球温暖化対策EU5 3. 欧州情報社会の新しい「i2010」行動 20082009 (EU) 8 4. ドイツの有機半導体 R&D プログラム 10 5. 工学・物理・科学研究会議の ICT 分野への研究開発支援(英国) 12 6. スタンフォード大学がナノチューブ回路の大量作成を明らかに(米国) 16 7. 驚くべきグラフェンの電子特性(米国) 19 8. ナノインプリント・リソグラフィーをテスト(米国) 25 9. Google IBM、クラウドコンピューティング分野で協力(米国) 27 10. スウェーデンの ICT 業界の動向 29 11. 有機 LED 照明応用(OLLA)プロジェクトは欧州で最も効率的な OLED 照明素子を実証 32 12. 省エネルギーLED 照明の標準を設定(米国) 35 13. 欧州はレーザーダイオード技術で明るい将来を見込む(EU) 37 Ⅱ.個別特集 1太陽光発電・バロメータ 2008 (EU) -EU の太陽光発電の累積設備容量は 4,689.5 MWp - 39

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NEDO 海外レポート

URL:http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/

《 本 誌 の 一 層 の 充 実 の た め 、 掲 載 ご 希 望 の テ ー マ 、 ご 意 見 、 ご 要 望 な ど 下 記 宛 お 寄 せ 下 さ い 。》

NEDO 技術開発機構 研究評価広報部 E-mail:[email protected] Tel.044-520-5150 Fax.044-520-5162

NEDO 技術開発機構は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称です。

Copyright by the New Energy and Industrial Technology Development Organization. All rights reserved.

ISSN 1348-5350

2008.8.13 BIWEEKLY 1027

〒212-8554 神奈川県川崎市幸区大宮町1310 ミューザ川崎セントラルタワー http://www.nedo.go.jp

Ⅲ.一般記事

1. エネルギー 小規模バイオリファイナリーに DOE が最大 4,000 万ドル助成(米国) 56 病院をエネルギースマートに(米国) 59

2. 産業技術 カラーの MRI 撮像を可能にする微小磁石の「スマートタグ」(米国) 61

Ⅰ.テーマ特集 - 電子・情報通信技術 -

1. 「まだまだ続く半導体の微細化」-世界のリソグラフィ技術の最新動向- (NEDO 電子・情報技術開発部) 1

2. 情報通信技術(ICT)の活用による地球温暖化対策(EU) 5 3. 欧州情報社会の新しい「i2010」行動 2008-2009 (EU) 8 4. ドイツの有機半導体 R&D プログラム 10 5. 工学・物理・科学研究会議の ICT 分野への研究開発支援(英国) 12 6. スタンフォード大学がナノチューブ回路の大量作成を明らかに(米国) 16 7. 驚くべきグラフェンの電子特性(米国) 19

8. ナノインプリント・リソグラフィーをテスト(米国) 259. Google と IBM、クラウドコンピューティング分野で協力(米国) 2710. スウェーデンの ICT 業界の動向 2911. 有機 LED 照明応用(OLLA)プロジェクトは欧州で最も効率的な OLED 照明素子を実証 3212. 省エネルギーLED 照明の標準を設定(米国) 3513. 欧州はレーザーダイオード技術で明るい将来を見込む(EU) 37

Ⅱ.個別特集

1. 太陽光発電・バロメータ 2008 年(EU) -EU の太陽光発電の累積設備容量は 4,689.5 MWp に- 39

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NEDO海外レポート NO.1027, 2008.8.13

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【電子・情報通信技術特集】

「まだまだ続く半導体の微細化」 -世界のリソグラフィ技術の最新動向-

NEDO 技術開発機構 電子・情報技術開発部

プログラムマネージャー 古室 昌徳

半導体 LSI の微細化はそろそろ限界との声も聞こえる昨今ではあるが、インテル、サム

スン、東芝などの主要半導体デバイス業界からは、さらなる「More Moore」に向けての

熱い要望が発信されている。LSI チップ製造では数百もの工程を経るが、微細パターンを

形成するリソグラフィ工程は、先端LSIチップコストの 5割程度を占めるといわれており、

微細化の原動力であるとともに、LSI の多機能化、高性能化、大容量化を支えている。こ

のように、リソグラフィ技術は、微細化を追求する中核プロセス技術として、デバイス、

露光装置、材料ベンダーなど多くの研究者、技術者が関係しており、関連国際会議も数多

い。ここでは、2008 年 2 月末に開催された「SPIE Advanced Lithography Symposium」

と、5 月開催の「SEMATECH Litho Forum」の 2 つの国際会議について、会議の趣旨や

内容を紹介し、リソグラフィ技術の世界の動向について紹介したい。 SPIE は 30 年以上も続くリソグラフィ関連で世界 大の会議であり、参加者数約 5000

名、発表件数 700 件程度の規模であり、 新技術成果の発表と同時に、技術展示や、主催

者による各種のスクール、関連企業による独自のセミナーなど様々なイベントが同時開催

されるビジネスの場でもある。一方、Litho Forum は、2 年に 1 回程度の頻度で開催され

る会議であり、発表者はすべて主催者の SEMATECH が各 NGL(Next Generation Lithography)技術ごとに指名したコーディネータにより選ばれる招待講演者であり、技

術の進捗状況、今後の開発プランなどとともに、その技術に対する発表者の所属する企業

の意思を表明する場でもあり、また SEMATECH 自身の今後の開発計画の参考とするため

の会議でもある。参加者は 250 名程度であり、SPIE より 3 か月後であることから、技術

内容の新規性は乏しいが、2016 年までの NGL 技術に関する参加者によるアンケート集計

結果など、今後の技術動向を見極める上で重要な会議である。

さて、現在、量産で使われている先端リソグラフィ技術は、ArF 液浸露光装置であり、

hp50nm 程度が解像度の限界である。これに対して、さらなる微細化に向けた NGL 技術

の研究開発が精力的に進められている。これらの中には、ArF 液浸露光装置によるダブル

パターニング(DP)、ArF 液浸で用いられるレンズ材料や液体(水)の屈折率をさらに高め

た高屈折率 ArF 液浸(HIL:High Index Lithography)、波長 13.5nm の極端紫外光を用いた

EUVL(Extreme UltraViolet Lithography)、ナノインプリント、多数の電子ビームを用い

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た ML2(MaskLess Lithography)などが候補として検討が進められている。このような技

術の流れを反映して、今回紹介する 2 つの国際会議における参加者の関心は、ArF 液浸が

どこまで延命できるかと、それぞれの NGL 技術の実現可能性や時期についての判断材料

を収集することであるとも言える。 EUVLの開発拠点は、3極に分かれている。欧州はIMECによるクライアント企業にサポ

ートされたプログラムがあり、ASML社のα機が導入されているが、ここ1年程、技術的

な発表が見られず、関係者の話では装置の異常を修復中との情報が漏れてきている。米国

では、ニューヨーク州立大学のオルバニー校のCNSE(College of Nanoscale Science and Engineering)に、SEMATECHのEUVL開発チームがテキサス州オースチンから移動する

とともに、IBMを中心としたINVENT(International Venture for Nanolithography)プロ

グラムのもとでIMECと同じα機がCNSEに導入され、SPIEの会議においては、AMDと

ともに世界で初めてEUVLを使った45nmルールのロジックデバイスの試作に成功してい

る。未だ、メタル配線1層のみへの適用であり(線幅寸法は90nm)、また、トランジスタ

の電気特性のみしか報告されなかったが、EUVL技術の可能性を示す成果として注目され

た。ただし、300mmウエハに5つのチップをEUVLで露光するのに30分かかっており、実

用化においては、光源を含めた露光装置の完成度はまだまだ低い状況である。国内では、

国内半導体企業中心に出資している (株)Seleteが、NEDO委託事業および自主事業とし

てEUVL用マスク基盤技術やリソグラフィのインテグレーションに関して開発を進めてい

る。

露光装置のトップシェアを持つオランダASML社からは、ArF液浸露光と比較して

EUVLはhp32nm、hp22nmでコスト優位であるとし、EUV-α機ADT(Alpha Demo Tool)に搭載しているPhilips製のSn-DPP(放電励起プラズマ)光源は、中間集光点出力が4Wであ

るが、熱の問題で出力を0.3Wに下げて使用していることを明かにした。フルフィールド露

光での35nmのL&S(ライン&スペース)と36nmホールの転写結果では寸法均一性が良好

であることを示し、月に60枚程度のウエハを露光しているとの報告であった。また、EUV-β機は既に5セットを受注済みで2009年末の出荷を計画し、量産機は2010年に

NA(Numerical Aperture)0.25、2011年にNA0.32の装置を出荷予定とのこと。これに対し

て、ニコンからは、ほぼ1年程度遅れでのβ機の出荷計画が報告された。

EUV 光源は、2007年秋の EUVL シンポジウムにおいて、高出力化と高信頼化を含めて、

実用化に向けての 重要課題として関係者に認識されている。LPP(レーザー励起プラズ

マ)の開発を進める米国 Cymer 社は、昨年初頭に ASML 社のβ機の光源に採択され、高

出力化へ向けて着実にデータ公開を行っているが、集光実験が全く行われておらず、また

集光光学系の寿命やデブリ対策に関しての技術情報も未公開のため、実使用への判断が読

みにくい状況である。これに対して、ウシオ電機、Phillips Extreme UV、Xtreme(独) の3 社の DPP 陣営は、巻き返しを図るためウシオを中心とする合弁会社設立に向けて合意し、

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レーザーアシスト DPP 方式における各社が持つ利点を活かした共同開発にすでに着手し

ている。 電子線によるウエハへの直描技術は、マスクを必要としないことから、少量多品種のデ

バイス生産用リソグラフィとして低コスト化につながる技術であるが、パターンの微細化

による描画時間の増加あるいはスループットの低下が、その実用化の障害となっている。

この状況を打破するために、ここ数年の間に、欧州、米国において、スループット 10 ウ

エハ/時以上を目指したマルチ電子ビーム方式の描画技術の研究開発が盛んになってきて

いる。欧州では、EC フレームワークの支援の元に、2010 年のα機実証に向けて 2 つの方

式のマルチ電子ビーム方式の開発を進めており、一部は台湾 TSMC 社も支援をしている。

オーストリアの IMS Fabrication 社では、加速電圧 100kV で、10 万本のビームを縮小投

影して偏向する方式を検討しており、テストベンチでは、2000 本の電子ビームを 1/200に縮小投影し、22nmL&S の描画検証を示している。一方、オランダの MAPPER Lithography 社では、加速電圧 5kV で 1300 本のマルチビーム描画を狙っており、現状で

は、110 本のビームにより 40nm 解像を検証している。両方式ともに、ビームの on/off 信号データ量が膨大になるため複数の光ファイバーデータ転送方式を検討しており、MEMS技術を活用して、10μm 程度の寸法の多数の開孔や偏向電極、および光信号受光部と電気

信号への変換回路を一体化したシステムを開発している。米国 MultiBeam System 社では、

東京エレクトロンと共同で、直径が 30mm 程度のミニ鏡筒を 大 10 x10 本に配置するマ

ルチ鏡筒方式を開発中である。それぞれのビームを独立に調整できることから、欧州の方

式に比べより現実的であると考えられる。現状では、鏡筒独自の性能あるいは複数配置し

たときのつなぎ精度や相互干渉の問題など公表されておらず、その進捗度合いは不明であ

る。

国際半導体ロードマップ(ITRS)2005年版よりNGLとしてナノインプリント技術が記載

されるようになり、この技術の半導体用リソグラフィとしての適応可能性が本格的に注目

されるようになってきた。また、半導体応用と同時に、パターンドメディアによる高密度

HDD の量産装置としても国内外の企業が力を入れている。SPIE および Litho Forum の

両会議においては、東芝および Samsung から hp40~22nm への適用に関する報告があっ

た。東芝では、hp22nm に向けたプロセス開発、及びナノインプリント技術の評価を目的

に装置を導入、評価結果を報告しているが、解像度や均一性、重ね合わせ精度は改善余地

があるが現状では満足、パターン欠陥密度はかなりの改善が必要との評価を出している。

これらの評価に対して、世界で唯一の半導体リソグラフィ用ナノインプリント装置を製造

している米国 MII 社からは、欠陥発生の要因分析結果や精度の改善などに対する技術的対

応とスケジュール等が示されている。これらの問題解決に加えて、スループットの向上を

示すことが、この技術が生産現場で使われるための重要な動機付けとなると考えられる。

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すでに述べたように、Litho Forum では、各 NGL 技術の進捗状況あるいはデバイスメ

ーカーによる技術の評価結果などが報告されると共に、その技術に対してどのような対応

をするかとの公式表明も場合によっては発表される。今回、ニコンからは、高屈折率液浸

技術に対して、一世代にしか対応できない、高屈折率の硝材や液体の開発遅延、液体の安

全性の問題などから、今後積極的な支援は行わないとの声明が発表された。これに対して、

キャノン、ASML は、あと半年程度の進捗を見極めた上で判断をするとの方針であった。 Litho Forum の 終日には、参加者の Web 投票によるアンケートと、エンドユーザー

に対する事前アンケートの集計結果の報告が行われた。アンケートの内容は、2010 年、

2013 年、2016 年におけるゲートまたはメタル層のハーフピッチの期待値、使われるリソ

グラフィ技術、技術課題などに加え、2013 年の hp32nm に対する各 NGL 技術の要素技

術ごとの進捗の期待度など 29 の質問から構成されている。集計結果は、2010 年はロジッ

クで hp45nm、フラッシュメモリが hp32nm、ArF液浸とダブルパターニングが支持され、

2013 年は、各デバイスのハーフピッチが 1 世代進み、ダブルパターニングと EUVL が主

流となり、2016 年にはハーフピッチがさらに進み、EUVL のみが支持されるものであり、

関係者の EUVL に対する強い期待が再認識された。

参考サイト: NEDOプロジェクト:極端紫外線(EUV)露光システムの開発

http://www.nedo.go.jp/activities/portal/gaiyou/p02030/p02030.html NEDOパンフレット:「未来へ広がる産業技術とエネルギー 成果レポート 前線2007」、 -さらに進む半導体の微細化のキーは光の技術- http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphlets/kouhou/mirai2007/1-1.pdf

NEDOプレスリリース:「次世代半導体微細加工技術が実現可能に」

http://www.nedo.go.jp/informations/press/kaiken/190530/riri-su.pdf

産業技術総合研究所 研究用語検索サイト: http://www.aist.go.jp/db_j/list/l_news_index_search.html

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【電子・情報通信技術特集】

情報通信技術(ICT)の活用による地球温暖化対策(EU) 報告書「SMART 2020:情報化時代における低炭素経済の実現」

NEDO 技術開発機構 パリ事務所

「The Climate Group (気候グループ)1」は、「GeSI:the Global e-Sustainability

Initiative (e-持続可能性・国際イニシアチブ) 2」と共同で、情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology) を活用した気候変動への対策に関する報告書「SMART 2020:Enabling the low carbon economy in the information age (情報化時代における低

炭素経済の実現)3」を公表した。本報告書では、市民や企業が経済活動において使う技術

の方法を変えることで、年間当たりの温室効果ガス排出量を 2020 年までに 15%削減する

ことができ、また世界的な規模でエネルギー効率の改善を図ることにより 5,000 億ユーロ

以上に相当する省エネルギー効果をもたらされると述べられている。 この報告書は、ICT が地球温暖化対策における役割の重要性を示す、世界で 初の包括

的な研究報告書である。

ICT の活用による温室効果ガスの排出削減効果に関する展望

この報告書において示されている国際経営コンサルタントのマッキンゼー社による分

析(調査)では、今後の ICT に関する将来予測について以下のとおり報告している。 ・現在の ICT 分野における温室効果ガス排出量は全世界の 2%だが、2020 年までに

約 2 倍になる。世界におけるパーソナルコンピュータ(PC)の所有台数は、2007年から 2020 年の間に 4 倍の 40 億台になり、PC 起源の排出量は倍増し、その間に

ラップトップ・コンピュータがデスクトップ・コンピュータを超えて世界の ICT 分

野の 22%を占める主な排出源となる。携帯電話の所有台数は、2020 年にほぼ 50 億

台と約 2 倍になるが、排出量は 4%の増加にとどまる。ブロードバンドの利用は、

同期間におよそ 9 億件と 3 倍になり、遠距離通信インフラストラクチャー全体の排

出量は 2 倍となる。

1 政界と産業界の両サイドとのつながりから気候変動関連問題の改善を推進する国際的なNPO団体で2004年に設立された。活動拠点は英国、米国、オーストラリア、中国、インド。現在、米Google、米Dell、英British Telecommunications社,米Starbucks Coffee他が参加している。 http://www.theclimategroup.org/index.php/about_us/

2 欧州のIT・テレコム企業が中心となり、ICT分野でのさらなる持続可能な発展のため2001年に結成された国際グループの共同イニシアティブ。http://www.gesi.org/index.php?article_id=5

3 (McKinsey Report published by GeSI and The Climate Group) http://www.smart2020.org/

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・同時に、ICT のモニタリング機能やエネルギー効率改善に係る機能は、ICT 関連

分野だけにとどまらず、他分野にわたって応用することができ、その場合の ICT 活

用による CO2 排出量削減効果は 大 5 倍まで達する可能性がある。これは、2020年までに CO2 換算 78 億トンの温室効果ガスの排出削減となり、これは予測される

全世界の総排出量の 15%の削減量に相当する。 同報告書では、ICT を活用したテレワーキング(在宅勤務)、テレビ会議、電子ペーパ

ーおよび電子商取引は普及するが、こうした ICT によって物財による製品・サービスが脱

物質化(dematerialisation)されることによる排出削減効果は 6%程度にとどまると示され

ている。

SMART 構想

世界的な規模でインフラストラクチャーや産業分野に ICT を応用することによって、さ

らに大きな温室効果ガスの排出削減効果が期待できるとし、報告書ではそのような地球温

暖化対策に寄与する 4 つの重要な要素、すなわち“Smart(ICT を活用した能率的な)”

建物の設計および利用、物流、グリッド(送配電網)、(産業用)モーターシステムに関す

る取組みについて検討している。 この報告書では、さらに ICT 分野、行政および産業分野によって必要とされる主要な取

組みについて概説し、SMART 構想の実現について促している。エネルギー消費に関する

標準化(S:standardisation)、監視(M:monitoring)、会計・収支計算(A:accounting)を通じて、我々がエネルギー効率の 適化の方法や低炭素社会における生活様式について再

考・再検討(R:rethink)を行うことで多分野において低炭素社会に向けたビジネスモデル

の開発が進み、低炭素社会への転換・変革(T:transformation)が実現されると報告書は主

張している。 この報告書は、ICT が省エネルギーを達成するために も効果が大きく利用しやすい技

術や取組みとして、以下のものがあると報告している。 ①スマートモーターシステム: 中国における製造業に関する調査では、モーターシステム(コンプレッサー、ポン

プ、コンベヤー、エレベーター等)について 適化が行われない場合、同国の 2020年における総排出量の 10%(全世界の総排出量の 2%に相当)がモーターシステム由

来の排出となるが、モーターシステムの 10%の効率改善によって 大 CO2 換算 2億トンの排出削減が可能であると報告されている。モーターシステムの 適化、産

業分野における自動化を世界的に推進することにより、2020 年で CO2 換算 9 億

7,000 万トンの排出削減、680 億ユーロ(1072 億ドル)のコスト削減につながる可能

性があるとしている。

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②スマート物流: ICT の活用による輸送や倉庫管理における効率化によって、欧州の物流分野におい

てエネルギー(燃料、電力、熱)使用に伴う温室効果ガス排出に関して CO2 換算 2億 2,500 万トンの削減が可能であり、全世界については 2020 年に CO2 換算 15 億

2,000 万トンの排出削減に達し、2,800 億ユーロ(4,417 億ドル)相当の省エネルギー

が可能になるとみられている。 ③スマート建物:

北アメリカにおける建物に関する調査では、ICT 活用による建物の設計・管理・自

動化における改善により、北アメリカの建物からの排出を 15%削減することが示さ

れている。また、世界規模では、スマート建物技術により CO2 換算 16 億 6,000 万

トンの排出削減を可能にし、2,160 億ユーロ(3,408 億ドル)のコスト削減につながる

可能性があるとしている。 ④スマートグリッド(送配電網):

インドにおける電力分野の送配電に伴う損失は、スマートメータの使用、そしてよ

り高度な ICT を「エネルギーインターネット(スマートグリッド)」へ統合するこ

とにより、送配電網の監視と管理を行い 30%削減が可能である。この研究調査の結

果、スマートグリッド技術はもっとも大きな効果があると考えられる技術であり、

世界規模で CO2 換算 20 億 3,000 万トンの排出削減でき、790 億ユーロ(1246 億ド

ル)のコスト削減につながるとみられている。

出典:EuroACE press release - 13 May http://www.euroace.org/news/N080513.htm 参照 ・ EUObserver - 14 May

http://euobserver.com/9/26133/?rk=1 ・ EC’s Information Society Newsroom Update - 13 May http://ec.europa.eu/information_society/newsroom/cf/itemdetail.cfm?item_id=4101 ・ Cordis - 14 may

http://cordis.europa.eu/fetch?CALLER=EN_NEWS&ACTION=D&SESSION=&RCN=29433

・ Euractiv’ - 10 May http://www.euractiv.com/en/infosociety/ict-sector-monitor-co2-emissions/article-171507

・EUROPOLITICS energy N° 734 Thursday - 15 May ・Trading markets news release - 13 May

http://www.tradingmarkets.com/.site/news/Stock%20News/1546717/

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【電子・情報通信技術特集】

欧州情報社会の新しい「i2010」行動 2008-2009 (EU)

「i2010」は、情報社会とメディアのための EU の政策枠組みであり、経済、社会

ならびに個人の生活の質に対して情報通信技術(ICT:Information and Communication Technologies)ができる建設的な貢献を促進する。

「i2010」の全体的な優先事項は次のとおりである:技術革新と研究により多くの投資

をし、欧州単一市場の達成を支援するために ICT を適用し、利用者の高まる懸念に取り組

み、欧州が広域インターネット経済へ向けた競争の 前部に留まることを確保する。 この「i2010」中間レビューは、2008-2009 年の新しい行動セットを識別している。 - 将来のネットワークおよびインターネットの問題

・ブロードバンドの性能指数を開発し、2010 年までに浸透度を EU 人口の 30%に

高めるために、高速インターネット利用の国家目標を設定することを加盟国に勧

める. ・将来のネットワークとインターネットに関するコミュニケを出すことにより、将

来のインターネット経済のための情報社会を準備することを支援する. ・「次世代アクセスに関する勧告」を出すことにより、新しいネットワークへの遷

移を促進する. ・プライバシーとセキュリティ問題に注目して、「RFID に関する勧告」を通してイ

ンターネットを振興する. ・重要なネットワークおよびインターネットのような情報インフラの高度な弾力性

を保証し、かつサービスの連続性を約束するための手段を提案する。 ・IPv6 への移行を促進するために一連の行動を提案する.

- 真の EU 統一市場へ向けて、ICT の貢献 ・e-コミュニケーション規制の総合的政策の採用を支援し、特に、「欧州電子通信市

場機関」(EECMA:European Electronic Communications Market Authority)の創成を支援する.

・全欧州の周波数に関する協調と取引の促進により、周波数スペクトル管理をより

効率的にする。 ・「ICT 政策支援プログラム」の下の大規模パイロットの支援によって、全欧州公

共サービスを展開する。 ・EU の ICT 標準化システムへの改善を提案する. ・さらに、e-署名および e-認証を促進するための行動計画を取り入れる. ・欧州電子インボイス枠組みを実施する.

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- 技術革新と研究を通して競争力の問題に立ち向かう

・初めての真の全欧州官民研究協力としての「共同技術イニシアチブ」を立ち上げ

る. ・特に密接な協力の「欧州技術プラットホーム」を促進する. ・e-健康導入市場イニシアチブ、e-健康導入スコアカード、e-健康相互運用の推奨、

標準化および認証ニーズの取り組み、法的確実性を向上させる手段、などを実施

する. ・技術革新の 初の購買者として公共部門の役割を奨励する. ・ICT とエネルギー効率に関するコミュニケを出す. ・「ICT 研究と技術革新に関するコミュニケ」により、ICT での欧州のリーダーシ

ップを確実にするプロセスを立ち上げる. ・変化する広域研究環境での e-インフラの役割を促進する.

- デジタル環境利用者のための長期的政策課題

・全国均質サービス義務に関する報告する. ・e-一体性イニシアチブ、e-アクセスビリティ立法に関する提案、老齢人口問題に

対応する も重要な「環境支援活動」、デジタル読み書きの能力政策の調査、e-一体性サミットなどを実施する.

・デジタル環境利用者の権利と義務について説明するガイドを出版する. ・消費者捕捉調査の次段階を立ち上げる、「消費者の契約上の権利に関する総括指

令」. ・未成年者保護や違法内容と戦う「より安全なインターネット 2009-2013」を立ち

上げる. ・将来のユビキタス情報社会の新しい集中したサービスから生じるプライバシーと

信頼に対する問題に対応する. ・オンライン・コンテンツ・プラットホームを立ち上げる. ・「オンラインコンテンツに関する勧告」で、消費者のためのデジタル権利管理シ

ステム(DRM:digital rights management systems)の相互運用性および透明性に

関する問題を取り扱う.

(出典:http://ec.europa.eu/information_society/eeurope /i2010/i2010_actions_2008_2009/index_en.htm )

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【電子・情報通信技術特集】

ドイツの有機半導体 R&D プログラム 連邦教育研究省が2007年に発表した情報通信分野のR&D戦略「ICT 2020 Research for

Innovations」(Hightech-Strategie für Deutschland)の中で教育研究省は R&D 促進のた

め 2007 年から 2011 年の期間にプロジェクト助成に 14.8 億ユーロ(約 2,500 億円)、機関

助成には 17.4 億ユーロ(約 2,900 億円)を支出することを決定している。 連邦政府の R&D 促進戦略は半導体分野ではすでにドレスデン地域で欧州 大の半導体

産業コンプレックス(就業者数約 2 万人)として結実しているが、情報通信分野全体でド

イツ固有のグローバル・プレーヤーは少数であることから政府による重点的な R&D 助成

が必要であると認識されている。 ICT 2020 が挙げる研究開発支援の重点分野は①電子デバイス生産機器分野の研究開発

クラスター(Centres of excellence for devices and tools required for electronic production)の拡大、②EDA 技術利用の拡大、③新たな応用分野を開拓するために必要な

新機軸の電子デバイスの開発 、④有機電子デバイス・素材開発 、⑤磁気マイクロシステ

ム、⑥RFID タグ/スマートタグの 6 分野である。 本報告ではこれらの電子技術分野の中

でも、ドイツ産業界が得意とする化学産業との接点に位置する有機半導体分野の研究開発

動向を概観する。 「Joint Innovation Lab」共同研究センター 独 BASF グループの BASF Future Business 社(総合化学メーカーBASF 社の 100%子

会社)はグループの化学事業から派生した新素材の商品化と生産を手がけているが、有機

半導体素材はその重点分野の一つとされている。現在実施されているプロジェクトは①

OLED 素材、②有機素材太陽電池の開発、③プリンテッド・エレクトロニクスである。

OLED 素材・応用技術と有機素材太陽電池の開発のため、BASF Future Business が

2006 年 9 月に他のパートナー企業、大学、研究機関と共同で設立した研究センター、JIL( Joint Innovation Lab ) は 連 邦 教 育 研 究 省 の 「 ド イ ツ ・ ハ イ テ ク 戦 略 」

(Hightech-Strategie für Deutschland)の OLED イニシアチブの中核を構成する。この

研究センターは素材自体の性能向上(高効率化、寿命の増大)や加工技術の開発・低コス

ト化と並んで、すでに実用化されているディスプレイ、室内用照明装置の以外にカード型

ライト、照明・空間演出機能を持つ「壁紙」や照明組込型窓ガラスなどの新商品開発も目

指している。 有機太陽電池用の素材開発には BASF のほか、ボッシュ、メルク、ショットなどの企業

が参加し、 終的には変換効率 10%以上の達成を目標としている。これによって現在のシ

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リコン・ベースの太陽電池に代わる、低コスト、軽量かつ高性能の太陽電池供給が可能に

なり太陽光発電にブレークスルーをもたらすと期待されている。また、エネルギー供給だ

けでなく将来的には携帯電話や他のモバイル機器の電源としての活用も期待されている。

連邦政府はこの太陽電池素材プロジェクトに 6,000 万ユーロ(約 100 億円)、参加企業は

合計で 3 億ユーロ(約 500 億円)を出資する。 「MaDriX」有機 RFID タグ合同プロジェクト

PolyIC、BASF、エボニック・インダストリーズ、エランタス・べック、シーメンスの

5 社は 2008 年 2 月に高性能・有機 RFID タグの開発のための合同プロジェクト「MaDriX」

を開始した。PolyIC 社は事業の統括、仕様決定・プロセス設計および実証試験の実施を担

当し、BASF、エボニック・インダストリーズ、エランタス・べックは半導体、絶縁材料

と有機半導体に影響を与えない接着剤の開発を行う。タグのオンライン品質検査に必要な

技術の開発はシーメンス社が受け持つ。民間企業のほかに国内の大学・研究機関もプロジ

ェクトに参加している。政府側のプロジェクト・マネージメントはドイツ航空宇宙センタ

ーが担当している。 実施期間は 3 年間の予定で投資総額 1,500 万ユーロ(約 25 億円)のうち約 1/3 を連邦

教育研究省が第 5 次研究プログラムの枠内で交付する。 このプロジェクトの目標は、電子タグの利用を日用品・食品などの分野にも拡大するた

めに、現在のシリコン素材 IC タグに代わる低コストの有機タグを開発することである。

プロジェクト主体は今後 10 年間で有機タグを段階的に市場導入し、 終的にはバーコー

ドによる読み取りが全廃されることになるとしている。 出典: 連邦教育研究省、ドイツのハイテク戦略(2006 年) http://www.bmbf.de/pub/bmbf_hts_lang.pdf

連邦教育研究省、ICT 2020 Research for Innovations(2007 年) http://www.bmbf.de/pub/ict_2020.pdf (英語版)

BASF Future Business 社 http://www.basf-futurebusiness.com

JIL 社ホームページ http://www.corporate.basf.com

連邦教育研究省、OLED イニシアチブ http://www.bmbf.de/de/3604.php

連邦教育研究省、有機素材太陽電池プロジェクト http://www.bmbf.de/de/10413.php

PolyIC 社ホームページ http://www.polyic.de

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【電子・情報通信技術特集】

工学・物理・科学研究会議の ICT 分野への研究開発支援(英国) 英国の研究助成機関である工学・物理・科学研究会議(EPSRC)は、現在 ICT 分野の

産学研究共同体に対し、積極的なサポートを行っている。英国にはあらゆる科学分野の研

究を助成する「研究会議(Research Council)」が 7 つあるが、工学・物理・科学研究会

議は、その中で 大規模を誇る英国の工学・物理科学分野における主要な研究助成機関で、

年間の予算は 7.4 億ポンドである。工学・物理・科学研究会議の 2008/2009 年度の ICT 関

連 R&D 補助金額は 7,900 万ポンドで、そのうち ICT 教育訓練関連補助金額は 2,100 万ポ

ンドとなっている。 現在実施中(2008 年 7 月現在)の、分野別の研究開発規模では、ICT ネットワーク/分

散システム関連が 181 件、補助総額 9,800 万ポンドで も多く、情報・知識管理が 175 件、

補助総額 9,300 万ポンド、電子デバイス/サブシステム関連が 129 件、補助総額 8,400 万ポ

ンド、イメージ・ビジョン・ネットワーク関連が 186 件、補助総額 8,000 万ポンド、コン

ピューティングの基礎に関する調査研究が 262 件、補助総額 7,700 万ポンドなどとなって

いる 1。 英国の ICT 研究開発においては産学連携が特に強く、例えばエレクトロニクス分野では、

大学への研究助成金の半数以上に企業が関与しており、その数は 350 社以上にのぼる。 主だった企業として、British Telecommunications、Phoenix Inspection Systems Ltd、

Nexia Solutions、Euro Electronics UK Limited、HW Communcations、Marconi Communications Systems、IBM United Kingdom Limited、Vodafone、Bath and North East Somerset Council、HP Research Laboratories、Node、Nokia が挙げられる。 また産学連携による研究を積極的に行っている大学として、ケンブリッジ、ワーウィッ

ク、オックスフォード、UCL、インペリアルカレッジ、ノッティンガム、シェフィールド、

セントアンドリューズ、サザンプトン、バーミンガム、サリー、ニューキャッスルなどの

大学が挙げられる。 サザンプトン・オプトエレクトロニクス・センター(サザンプトン大学に本拠)は、焦

点を絞った分野に対して、集中的かつ多額の資金提供を受けている。その分野は光学材料

と光ファイバー、導波管、レーザー機器などオプトエレクトロニクス等であり、中でも光

ファイバーと導波管の製造技術に関しては欧州一の研究開発水準を有する。同センターは、

エルビウム添加ファイバー増幅器(EDFA)を発明しており、この技術を活用し、グロー

バルな大容量光ファイバーネットワークの構築を可能にした。 1 これらの値は、複数年の補助金額を集計した値で、2 つ以上の分野にカウントされてい

るプロジェクトもある。

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英国内で工学・物理・科学研究会議の補助金を受けて実施している ICT 関係プロジェク

トは非常に多いが、その内のいくつかを例示的に記載すると以下のようになる。 補助金額

は実施期間中の総額である。

プロジェク

ト名

A Transport Information Monitoring Environment (TIME): Event Architecture and Context Management (TIME-EACM) :道路交通情報のモニタリングシステム

キーワード コミュニケーション、モバイルコンピューティング、ソフトウエア、交

通 主管大学 ケンブリッジ大学 共同研究者 British Telecommunications Plc 実施期間 2005-2010 補助金額 88 万ポンド

概要

道路交通情報のモニター、分配、および処理をするシステムを構築し、

効率的で環境負荷の低い交通システムを構築する。具体的には、センサ

による混雑検出と映像などで、駐車場状態表示、バス到着時間表示、タ

クシーの空車位置、緊急サービスのサポートなどをリアルタイムに行

い、長期的には統計的データ分析によって政策立案(通行料の決定など)

の基礎とする。 プロジェク

ト名 Advanced Multimedia Switch (ADMUS):先進マルチメディアスイッ

チ キーワード ネットワーク、マルチメディア 主管大学 ランカスター大学 共同研究者 HW Communcations, Marconi Communications Systems 実施期間 2005-2008 補助金額 17 万ポンド

概要 リアルタイムのマルチメディアコンテンツの配送のため、信頼性の高い

ソリューションを提供する。

プロジェク

ト名

Actuated Acoustic Sensor Networks for Industrial Processes (AASN4IP) :産業プロセス用アコースティックセンサネットワーク

キーワード ネットワーク、モバイルコンピューティング、コミュニケーション 主管大学 オックスフォード大学、マンチェスター大学 共同研究者 Phoenix Inspection Systems Ltd, Nexia Solutions 実施期間 2008-2012

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補助金額 120 万ポンド

概要 液体(例えば、水)を扱う工業プロセスの内部のモニターをサポートする

ための無線技術を開発する。核廃棄物格納池の状態を測定するケースに

も応用可能である。

プロジェク

ト名

BiosensorNet: Autonomic Biosensor Networks for Pervasive Healthcare :ヘルスケアのためのバイオセンサネットワーク

キーワード コミュニケーション、ソフトウエア、ヘルスケア 主管大学 インペリアルカレッジ・オブ・ロンドン 共同研究者 なし 実施期間 2005-2009 補助金額 140 万ポンド

概要 無線通信ができる知的な小型バイオセンサによって、慢性病患者と外科

手術後患者をモニターして、治療するシステムの開発。

プロジェク

ト名

Advanced Linear Microwave Transmitter Architectures Using Computational Intelligence Techniques :コンピュータのインテリジェンス技術を使用する高度リニアマイクロ

波送信機アーキテクチャ キーワード コミュニケーション、エレクトロニクス、ソフトウエア 主管大学 バーミンガム大学 共同研究者 Semelab Plc, Xilinx Ltd, Eudyna Devices Europe Ltd 実施期間 2005-2009 補助金額 28 万ポンド

概要 高い直線形と高性能を達成できるようにアンプ応答をリニア化するこ

とで、より広いバンドワイヤレス・アクセスを達成する。 プロジェク

ト名 Decentralised Data and Information Systems :分散型データ・情報システム

キーワード 人工知能、情報・知識管理、ソフトウエア 主管大学 サザンプトン大学 共同研究者 B A E Systems, AMS Ltd 実施期間 2005-2010 補助金額 547 万ポンド

概要 ゲーム理論、メカニズム・デザイン、数学モデルなどの研究分野を融合

し、さまざまな異種のソースからの情報を集めることができる分散型デ

ータ・情報システムを設計。

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大学と民間企業の共同研究が多くなっている。 出典: 工学・物理・科学研究会議(EPSRC)ウエブサイト http://www.epsrc.ac.uk/default.htm http://www.epsrc.ac.uk/ResearchFunding/Programmes/ICT/Intro.htm http://www.epsrc.ac.uk/ResearchHighlights/default.htm http://gow.epsrc.ac.uk/ChooseTTS.aspx?Mode=Topic

英国大使館ウエブサイト http://www.uknow.or.jp/be/science/science/ICT.pdf

サザンプトン・オプトエレクトロニクス・センターウエブサイト www.orc.soton.ac.uk

Research Councils UK ウエブサイト http://www.rcuk.ac.uk/default.htm

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【電子・情報通信技術特集】

スタンフォード大学がナノチューブ回路の大量作成を明らかに(米国) 製品を大量な規模で製造可能にする方法がなければ、ほとんどの技術革新は役立たない。

このことが、スタンフォード大学の電気技術者グループが発表したカーボンナノチューブ

に関する新しい研究に産業界の興味を引きつけた理由である。 スタンフォード大学の技術者グループは、大量の複雑なナノチューブ部品と、経済的な

チップを作るために半導体産業が用いなければならない並列処理により、集積回路チップ

を作る方法を明らかにした。 「我々は、ここに拡張可能なプロセスを示した。それはウェーハ規模で製造する従来の

半導体と類似なプロセスである」と電気工学の H.S.フィリップ・ウォン教授は語った。ウ

ォン教授はホノルルでの VLSI 技術・回路シンポジウムで発表した論文の著者の 1 人であ

る。 ウェーハはシリコンの大きなディスクで、その上に半導体メーカーが数 100 個のコンピ

ュータ・チップを作り、その後、切断し、製品としてパッケージ化される。「リソグラフィ

ーはウェーハ規模である。ナノチューブの成長もウェーハ規模である。また、我々がここ

で使用するプロセスは、すべて従来の半導体製作に非常に類似している」とウォンは説明

した。 従来のシリコン技術よりも高速度で低電力な高性能トランジスターの役割をするとい

う可能性のために、ナノチューブは世界的が集中している研究の対象である。しかしなが

ら、これまでのところでは、超大規模集積回路(VLSI)として知られている規模ではなく、

研究者が 1 回に 1 個のナノチューブ回路を作ることだけしか可能ではなかった。 さらに、論理ゲートとして知られている回路の情報処理要素は、有用な論理回路に必要

な、より複雑な全ての種類のゲートではなく、典型的には単純なインバーターだけしか作

られていなかった。したがって、必要とされる種類の論理ゲートの大規模なチップを作る

この新しい能力は、商業ベースにのるナノチューブ集積回路を作ることに向けた重要な進

歩を示している、とスタンフォード大学電気工学・コンピューター科学科のサブハッシ・

ミトラ準教授は述べた。 論文は、さらに、ナノチューブにやっかいなキンクや曲り(真っ直ぐに横たわっていない)

があったり、あるいは適切でない場所にあることが判明した場合でさえ、複雑な論理を機

能させる設計技術に関しての初めての本当の実証を示している。ウォンとミトラは、昨年

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この技術をシミュレーションで明らかにしたが、今や、それが実際の製作プロセスで動作

することを示した。 スタンフォード大学が考案したプロセスは、4 インチ直径の皿の石英ウェーハ上にナノ

チューブを成長させ、次に、金属電極をパターン加工したシリコンウェーハ上に、子供の

いたずらの入れ墨のようにナノチューブを転送することを含んでいる。その後、ナノチュ

ーブに、トランジスターや論理ゲートを作るために電極を接続する。 石英からシリコンへの転送技術は、小片の基板では既に確立されていた。しかし、しば

しば研究者を妨害したのは、このような大きな石英の平板上にナノチューブを成長させる

方法を見つけることであった。石英は、ナノチューブの成長促進を支援するが、プロセス

で必要とされる熱に対して傷つきやすい。 スタンフォード大学の技術者は、もし温度がある臨界点(およそ摂氏 593 度)に近づく時

にあまりにも速く加熱すると、石英ウェーハはガラスのように粉々になるということを認

識することにより、その問題を克服した。加熱プロセスを減速することによって、研究者

はウェーハを損なわれないように保持した。 その後、ナノチューブは電極が被せられたシリコンウェーハに転送された。その電極は、

個々のナノチューブが正しく配置されることを確実にし、作成された論理ゲートがいまだ

正しく動作することを確実にするように設計した、特別のアルゴリズムによってパターン

化された。 グループは、4 インチ直径ウェーハ上に、全部で、197 個のダイヤチップを作成した。

各々のチップは約1,000個のトランジスターを持っているので、ウェーハはおよそ100,000個を越えるトランジスターを持っていることを意味している。

1 つのチップ当たり 18 個のトランジスターの無作為検査は、トランジスターの 99 パー

セントが機能していることを明らかにした。実物大の商用チップは、もちろん、チップあ

たり数 100 万個ものトランジスターとそれらの精巧な相互接続を必要とする。 完全な商用ナノチューブチップを設計できる前でさえ、より多くの研究がいくつかの根

本問題を解決するために必要である。その中には、ウェーハ上のナノチューブの密度を増

加させる必要性、種々の石英ウェーハから同じシリコンウェーハまで繰返し転送を遂行す

ることができる目標、そして、さらにナノチューブ成長条件の 適化がある。 加うるに、研究者達は、論理ゲートからトランジスターを短絡させる厄介な「金属」ナ

ノチューブを徹底的に取り除く方法を見つけなければならない。それでも、研究者達は、

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この進展に関してここまでのところ楽観的である。 「我々が克服できたこの領域の根本問題というのは、昔は研究者が基板上にナノチュー

ブを見つけだし、次に、それがあるところなら、どこにあってもその場所に素子や回路を

作らなければならなかったという問題である。しかしながら、ナノチューブの正確な配置

および配向についての心配をすることなしに、VLSI 規模で、同時に物事を進めることが

可能なことを期待できるようになった。今や、我々は、それが可能であることを示すこと

ができる」とミトラは述べた。 ( 出典:http://news-service.stanford.edu/pr/2008/pr-nanowafe-070908.html )

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【電子・情報通信技術特集】

驚くべきグラフェンの電子特性(米国) 赤外線シンクロトロン放射光によるグラフェン・エレクトロニクス研究

グラフェンは炭素の 2 次元結晶形態で 6 角形に配置された単層の炭素原子であり、各連

鎖に炭素原子を持つ 1 枚の金網のようである。自立物体としての、このような 2 次元結晶

は、2004 年に英国マンチェスター大学の物理学者が実際にグラフェンを作るまで、作成す

ることはおろか存在することさえ不可能と考えられていた。

図 1.グラフェンは 6 角形に配置された単層の

炭素原子から構成された 2 次元結晶である. (Credit: LBNL)

現在、米国エネルギー省(DOE)の先進光源施設(ALS:Advanced Light Source)、DOE

ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)およびカリフォルニア大学サンディエゴ校

(UCSD)からの研究者が、これまでは決して出来なかった精度でグラフェンの特別な電子

特性を計測した。その結果は、このまれな材料の も奇妙な特性の多くを確認しただけで

なく、理論的な予測からの著しい逸脱も明らかにしている。そして、研究者たちは通信や

他のナノスケールエレクトロニクス用の同調可能光変調素子のような斬新な実用化への道

を指摘している。研究者は、この発見をネイチャー物理学誌の 2008 年 6 月号に報告して

いる。 グラフェンの前途有望な電子特性

よく知られている鉛筆の芯の形状の炭素(グラファイト)は、平面状にしっかりと結合し

た炭素原子の層から構成されている、しかしながら、平面間は緩やかな結合状態であり、

それらの層はお互いの上を容易に移動するので、グラファイトは非常によい潤滑剤である。

実際には、このグラファイト層がグラフェンであるが、2004 年以前には分離して観察され

ていなかった。一度明らかになると、材料の予期しない電子特性に刺激されて、研究が直

ちに開始され、実験が引続き進められている。 「グラフェンの特別な電子特性は、炭素原子は 4 個の電子を持っており、そのうちの 3

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個はその隣接の原子との結合に縛り付けられている、という事実から生ずる。しかし、未

結合の 4 番目の電子は、平面の上下に垂直に伸びた軌道にいる、そして、この混成軌道は

グラフェンシート全体にわたって広がっている」と研究を行った UCSD からの ALS ドク

ターフェローであるジーチャン・リーが語る。 結晶としての 2 次元グラフェンは、シリコンのような 3 次元材料とは全く類似していな

い。半導体や他の材料では、電荷キャリア(電子および反対に荷電した「ホール」)は、準

粒子(実際の粒子のように作用する励起)を形成するために原子格子の周期的な場と相互作

用をする。しかし、グラフェン中の準粒子は、通常の半導体の準粒子とは似ていない。 固体中の準粒子のエネルギーは、エネルギーバンドによって記述される関係であるその

運動量に依存する。典型的な 3 次元半導体では、図 2 下部のグラフのようにエネルギーバ

ンドは「放物型」である。満たされた価電子帯は石筍に似ており上部はおおよそ平坦であ

る。一方、上部の空の伝導帯はその逆で、鍾乳石のようで底部がおおよそ平坦である。そ

れらの間には、オープンバンドギャップがあり、価電子帯から伝導帯まで電子を押上げる

のに必要なエネルギー量を表す。

図 2.代表的な 3 次元固体のバ

ンド構造(左)は、低いエネルギ

ー価電子帯と高いエネルギー

伝導帯の間のバンドギャップ

を持った放物型である.2 次元

グラフェンのエネルギーバン

ド構造(右)は、なめらかな側面

の円錐で、それらはディラック

ポイントで接する. (Credit: LBNL)

しかしながら、グラフェン中の価電子帯と伝導帯のグラフは、通常の半導体とは異なり、

ディラックポイントと呼ばれる点で合致する滑らかな側面の円錐である。これらは、質量

のない電子(いわゆるディラックフェルミオン)のように振る舞う準粒子のエネルギーと運

動量の関係を描いている。この準粒子は、一定速度で小さいが注目に値する光速割合で移

動する。 このユニークなバンド構造の興味ある 1 つの結果は、グラフェン中の電子は、一種の自

由状態であるということである、とリーは述べる。他の材料中の電子と異なり、グラフェ

ン中の電子は、室温でさえ、遠距離にわたって衝突せずに弾道のように移動する。その結

果、電流を導くグラフェン電子の能力は、室温のシリコンのような通常の半導体の 10 倍

~100 倍以上となる。このことがグラフェンを将来のエレクトロニクス応用に対する非常

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に有望な候補としている。 「ゲート制御素子に組み込まれたグラフェンにゲート電圧を加え、その電圧を変化させ

ることにより連続的にキャリア密度を制御することができ、したがって伝導度を制御する

ことができる」とリーは述べた。グラフェンに実際的な期待をもたらすのは、この現象で

ある。 独特の実験

グラフェンを作るのは手が込んでおり、取り扱いはさらにやりにくいので、ほとんどの

実験は、自立している単分子層上ではなく、シリコン酸化物/シリコン基板上に置かれた剥

離グラフェンと、炭化ケイ素の基板に化学的に蒸着された(化学接合)単層炭素原子のエピ

タキシアルグラフェンの、2 つのタイプのグラフェン試料上で行われた。 「エピタキシアルグラフェンと剥離グラフェンは非常に異なっている」とリーは述べる。

エピタキシアルグラフェンに関するシンクロトロン実験研究の多くは角度分解型光電子放

出分光法 ARPES(angle-resolved photoemission spectroscopy)を使用している。「我々の

研究では、赤外線顕微鏡の使用により剥離グラフェンを研究した」 赤外線計測は、広いエネルギー範囲にわたる準粒子の動的性質を調べることができ、し

たがって、「電子の寿命および電子同士の相互作用のような」材料の電子特性に関する も

興味ある情報のうちのいくつかを提供することができる、とリーは説明する。「グラフェン

単一分子層の光吸収を測定するのは非常に難しいことで、このような測定は剥離グラフェ

ン上ではこれまで行われていなかった」

図 3.50 マイクロメーター平方の剥離グ

ラフェン薄片が、二酸化ケイ素絶縁膜と

シリコンゲート層の上に置かれている。

左の略図は、ゲート電圧を加えるために

グラフェンに金の接点をどのように付

けたかを示す.透過光や反射光スペクト

ルを測定するために、赤外線シンクロト

ロン放射光の 10 マイクロメーター径の

ビーム(赤色の点)をグラフェン上に集束

させる. (Credit: LBNL)

グラフェンの赤外線吸収が、ゲート電圧の変化にどのように応答するかを正確に測定す

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るために、研究者はまず電極を付けた剥離グラフェン試料を必要とした。彼らは、50 マイ

クロメーター平方の単一原子層グラフェン薄片を使用した。試料は、シリコン酸化膜絶縁

層および純粋シリコン下位層の上に置かれた(化学接合ではない)。この透明基材はゲート

電極としての役割もしている。全体のシステムは、45 度ケルビン(-192℃)にまで冷却さ

れる。 「中性グラフェンによる赤外線吸収の測定、ならびに化学的ドープではなくむしろゲー

ト電圧によるドープである静電ドープ・グラフェンによる赤外線吸収を測定するために、

我々は、赤外周波数で動作するシンクロトロン放射光の高強度ビームと強い集束力を必要

とした。直径 10 マイクロメーター以下の径の ALS 赤外線ビームが、試料全体の様々な点

に位置合わせされ、それにより、直接透過と反射を測定し、試料の光学伝導度を測ること

を可能にした」、とバークレイ研究所のマイケル・マーティンは述べる。 光学伝導度の「光学」の言葉は、光の高い周波数に関連しており、家庭内の交流(AC)の

超低周波の逆である。研究者は、赤外線ビームでグラフェン試料中に光振動数の交流を誘

導し、電極によって電圧を操作した。電圧の変化は、試料中の伝導度とキャリア密度を変

化させ、光の伝搬や反射の能力に直接影響を与えた。研究者は、加えたゲート電圧によっ

てグラフェンの反射や伝搬を劇的に調整することができることを確実に発見した。 「半導体のような通常の電子システムにおいて、温度が絶対零度である時のキャリアの

も高い占有量子状態のエネルギーであるフェルミエネルギーは、キャリアの密度に比例

する。しかし、2 次元ディラックフェルミオン・システムでは、フェルミエネルギーは、

キャリア密度の平方根に比例する」とリーは語る。 研究者は、フェルミエネルギーのこのユニークな平方根のキャリア密度依存性を観測し

た。このことは、グラフェン中の電子は確かにディラックフェルミオンのように振る舞う

ことを証明している。それ故に、理論によってグラフェンに対して予測された効果の多く

が、かつては決して得られなかった精度で測定され、これらの実験で確認された。 グラフェンの驚異 しかしながら、別の結果として「多体相互作用」は、キャリアを独立した粒子集団とし

て扱うグラフェンの「単一粒子」像によって示唆されたものよりも、かなり複雑であるこ

とが明らかにされた。 理論は、もしグラフェン中の電子が、お互いにあるいは炭素原子と相互作用を経験しな

ければ、フェルミエネルギーの 2 倍以下のエネルギーの低エネルギー(あるいは低周波数)では、どんな光もほとんど吸収しないと予測している。

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代りに、この低エネルギー領域での赤外線の大きな吸収を研究者は観測した。「この予

測しない吸収は、電子と炭素原子の格子振動モードとの間の相互作用、あるいは電子同士

の相互作用から生じているかもしれない」とリーは述べる。

図 4.異なった色のカーブによって図

示された、種々のゲート電圧に対するグ

ラフェン伝導度は、周波数とともに変化

することが観測される。右の高エネルギ

ー(高周波)では、伝導度すなわち吸収は、

すべての電圧に対して同じであった。し

かし、フェルミエネルギーの 2 倍の閾値

より下のエネルギーでは、赤外線の吸収は減少した。挿入図は、グラフェンバンド構造ダ

イアグラム上に、フェルミエネルギー(水平線)とフェルミエネルギー(縦矢印)の 2 倍の吸

収閾値を示す。(Credit: LBNL) もう一つの驚きは電子の速度である。独立した粒子としては、グラフェン中の電子はそ

のエネルギーにかかわらず一定速度で移動するべきである。高エネルギーでは、グラフェ

ン中の電子は確かに一定速度で移動することを研究者は発見した、しかし、エネルギーが

低下するとともに、その速度は系統的に増加する。この不可解な振る舞いは、1994 年に理

論予測された電子-電子相互作用によるのかもしれない。 「多体相互作用は、電子間のクーロン相互作用と同じくらい単純かもしれないし、ある

いは、より複雑かもしれない。データは明瞭な痕跡を提供している。しかし、我々は完全

にはそれらを理解していない」とマーティンが述べる。 「これらの効果のうちのいくつかは、我々が調べた試料の限界に関連しているかもしれ

ない。我々は、基板によって引起されるどのような擾乱も除去するようにして、空間上に

吊された試料上で測定を実施したいと考えている。 さらに、改良を考慮にいれることにより、我々の測定はこの興味をそそる材料について

の現在の理解の問題を示すことになるであろう」とリーは述べた。

「ジーチャン Q. リー他:赤外分光法によるグラフェン中のディラック電荷のダイナミクス」

は、ネイチャー物理学誌 2008 年 6 月号に発表、また購読者は以下からオンライン利用可能で

ある、Dirac charge dynamics in graphene by infrared spectroscopy," by Z. Q. Li, et.al, http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/index.html

付加情報:

グラフェンの特性や沿革に関する詳細ついては、「グラフェンの出現:The Rise of Graphene」

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を参照、The Rise of Graphene by A. K. Geim and K. S. Novoselov, which appeared in the March, 2007 issue of Nature Materials. http://arxiv.org/ftp/cond-mat/papers/0702/0702595.pdf

先進光源シンクロトロン施設でのエピタキシアルグラフェン研究に関する詳細については、

「ギャップに陥る:バークレー研究所の研究者がグラフェントランジスターに向けた重要

な第一歩を築く」を参照、Falling into the gap: Berkeley Lab researchers take a critical first step toward graphene transistors. http://www.lbl.gov/Science-Articles/Archive/sabl/2007/Nov/assets/doc/Printables-Graphene-Gap.pdf

エピタキシアルグラフェンについてのさらなる ALS 研究は「グラフェンの電子構造をコ

ントロールする」に記述されている。Controlling graphene's electronic structure, http://alsintra.lbl.gov/viewgraphs/140Rotenberg.pdf

(出典:http://www.lbl.gov/Science- Articles/Archive/ALS-graphene.html )

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【電子・情報通信技術特集】

ナノインプリント・リソグラフィーをテスト(米国) 米国立標準技術研究所(NIST)による 近の研究が、集積回路メーカーのための良いニュ

ースとして、「ナノインプリント・リソグラフィー」と呼ばれる出現中のマイクロ回路製造

技術に関する 2 つの重要な問題の解決を支援した。 「ナノインプリント・リソグラフィー」は、高度なマイクロチップ上に微細な絶縁構造

をスタンプで正確に押し付け加工することができる。新興生産技術であるこの「ナノイン

プリント・リソグラフィー(NIL)」は基本的にエンボス加工である。表面にナノスケール

パターンを持ったスタンプが、半導体ウェーハ表面上の軟質薄膜へ押しつけられる。薄膜

は、通常、加熱または紫外線照射により硬化する。そしてその薄膜はスタンプで押しつけ

られたパターンを保存する。このプロセスは驚くほど高精度である。

典型的なスピンオンガラス(SOG)マイクロ回路特徴の断面

を示す電子顕微鏡写真.内部のナノ細孔領域はより明るい.

プロセスは外部に厚さ約 2 ナノメートルの緻密で丈夫な外

皮を形成する.(明確化のために着色) Credit:NIST

「ナノインプリント・リソグラフィー」は、比較的複雑な形状を持った 10 ナノメート

ル以下の幅の小さな特徴を作成するために使用されている。「ナノインプリント・リソグラ

フィー」は、次世代集積回路の論理素子の層間にはさまれる複雑なパターンの絶縁層の構

築に関して特に注目されている。 先端技術の半導体は、10 億個以上のトランジスターを

数平方センチメートルよりも大きくないシリコンの面積に一緒に詰めている。 数マイルのナノスケール銅配線が素子を接続するために必要とされ、これらのワイヤー

は非常に効率的な絶縁体によって分離されなければならない。1 つの候補は、薄い流体膜

として適用することができる SOG*と呼ばれる多孔性のガラス質材料である。加熱された

時、SOG は、絶縁を向上させるナノメートル細孔が通った薄いガラス薄膜へと変化する。 しかし、SOG は、比較的繊細なので、ワイヤリングのために溝を加工するのに使われる

従来のフォトレジストエッチング加工では、SOG を傷つけることになる。一方「ナノイン

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プリント・リソグラフィー」は、SOG 層にワイヤリング溝をパターン加工することができ、

いくつかの時間を消費する高価なフォトリソグラフィー加工を除去することができる。 「ナノインプリント・リソグラフィー」は薄膜を正確にパターン加工することができ、微

細なナノ細孔の溝加工を破壊することなく行うことができる。 昨秋公表された論文**で、 NIST の材料科学者はこの 初の問題に取り組んだ。高感度

X線測定を使用して、この加工法による 小の歪みで 100 ナノメートル以下の微細な細部

を持ったパターンを転写するために、機能 SOG 材料に「ナノインプリント・リソグラフ

ィー」を使用することができることを、彼らは実証した。 今春の新しい論文***の中で、ガラス中のナノ細孔構造に対するエンボス加工の影響を

調べるために、彼らはこの研究を拡張した。絶縁体材料中のナノ細孔分布を測定する技術

の組合せを使用して、「ナノインプリント・リソグラフィー」エンボス加工は実際に有益な

効果があり、性能を向上させる微小細孔の数を増加させ、問題を引起す大きな細孔の数を

減少させ、材料の表面全体に薄く緻密な保護膜を作成することを、彼らは発見した。これ

らの効果はすべて、半導体素子中の回路短絡の 小化にとり非常に魅力的である。 総合して、この 2 つの論文は、「ナノインプリント・リソグラフィー」が従来のリソグ

ラフィーより著しく少ない簡単な加工ステップで高度な半導体素子中に高品質なナノ細孔

絶縁体層を作り出すことができること、を示唆している。

* "Spin-on organosilicate glass" スピンオン有機ケイ酸塩ガラス スピンオンガラス(SOG:spin-on glass)

** H.W. Ro, R.L. Jones, H. Peng, D.R. Hines, H-J. Lee, E.K. Lin, A. Karim, D.Y. Yoon, D.W. Gidley and C.L. Soles. The direct patterning of nanoporous interlayer dielectric insulator films by nanoimprint lithography. Advanced Materials. 2007, 19, 2919-2924. 「ナノインプリント・リソグラフィーによるナノ多孔性層間誘電体絶縁膜の直接パターニング」 *** H.W. Ro, H. Peng, K.-i. Niihara, H.-J. Lee, E.K. Lin, A. Karim, D.W. Gidley, H. Jinnai, D.Y. Yoon and C.L. Soles. Self-sealing of nanoporous low dielectric constant patterns fabricated by nanoimprint lithography. Advanced Materials 2008, Early View: April 15, 2008. 「ナノインプリント・リソグラフィーによるナノ多孔性低誘電率パターンのセルフシール」

(出典:http://www.nist.gov/public_affairs/techbeat/tb2008_0429.htm#nil )

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【電子・情報通信技術特集】

Google と IBM、クラウドコンピューティング分野で協力(米国)

Google と IBM は、クラウドコンピューティング(Cloud Computing)分野での協力を

進めていることを 2008 年 5 月 1 日に共同で発表した。クラウドコンピューティングは、

コンピュータ処理の一形態で、第三者が所有・管理するコンピュータリソースを通じて、

アプリケーションやサービスを利用することを指している。両社からは明確な将来目標に

関する発言はなかったものの、協力事業を通じて、消費者と企業の双方を対象としたサー

バ網を世界的に構築し、ソフトウェアやサービスを幅広く提供することを目指すと見られ

る。 この協力は数年前に IBM の CEO である Sam Palmisano が Google ではどのように分

散処理に対応していくのかの感触を探るため、Google の CEO の Eric Schmidt に電話を

かけたことに端を発する。この後、2 社間での協力関係が整えられ、 初のプロトタイプ

を 2007 年 10 月に、MIT、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学、ワシントン大学、

メリーランド大学などの一流工科大学に対して提供しており、現在、これら大学において

さらなる研究・実証が進められている。 IBM・Google が開発したこのプロトタイプシステムは、IBM が Windows の代替オペレ

ーションシステムとして長らく利用してきた Linux をベースとしており、その他、Xen System の仮想化技術、及び、Google ファイルシステムに基づくオープンソースの Apache Hadoop も含むものとなっている。

Google はこれまでにメールサービス(Gmail)やカレンダー(Google Calendar)、ワー

プロ(Google Docs)といったクラウドコンピューティング技術を既に消費者向けに展開

しているが、企業向けとしての普及は遅れているのが現状となっている。しかし、消費者

向けと企業向けのクラウドでは、企業向けではセキュリティーを強化する必要があるもの

の、基本的な技術や要件は同じであるため、利益が見込める企業用クラウド分野に参入す

るきっかけを、IBMが持つインフラとサービスを利用することで得ようというのがGoogle側の狙いである。また、IBM も、ワープロやパワーポイント作成機能を持つオープンソー

スツールの IBM Symphony を 近公開したばかりであり、ソーシャルネットワーキング

ツールなどとあわせて、サービス提供を拡大することを狙っている。 大企業で伝統のある IBM と、創設からまだ 10 年目で元気のある Google といった、全

く正反対の特徴を持つ 2 社であるが、イノベーション心に溢れた DNA を持つという共通

点があると両社 CEO は指摘している。

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この 2 社間の協力と競合すると見られるのが、Microsoft である。同社はクラウド分野

では遅れを取っており、ソフトウェア販売や、Windows アプリケーションの PC プリイン

ストールを事業の主軸とする戦略は当分変わらないと見られるものの、Live Mesh と呼ば

れるウェブ上での PC・装置・データ管理サービスを 近発表したり、Office アプリケー

ションとオンラインサービスの統合に向けた開発を進めるなど、巻き返しを図ろうとして

いる。また、Amazon.comでもクラウドコンピューティング技術の開発が進められている。 さらに 6 月には、IBM がクラウドコンピューティングサービスを企業向けに提供するデ

ータセンターを、中国・北京と南アフリカ・ヨハネスブルグの 2 ヵ国に設置することが発

表されている。ヨハネスブルグのセンターは、クラウドコンピューティングセンターとし

てはアフリカ大陸初めてのものとなる。同様の IBM センターは、アイルランド、ベトナ

ム等にも既に開設されているが、IBM では発展途上国企業によるクラウドコンピューティ

ングサービスの利用が今後爆発的に伸びるであろうという予測の下、発展途上国を中心に

センター設置を進めている。 出典)

1. Paul McDougall, “Google, IBM Join Forces to Dominate ‘Cloud Computing’”. InformationWeek. May 1, 2008. http://www.informationweek.com/news/services/data/showArticle.jhtml;jsessionid=FWRFZMVI3MG3WQSNDLPCKHSCJUNN2JVN?articleID=207404265&subSection=News

2. Marianne Kolbasuk McGee, “IBM Opens Cloud Computing Centers in China, South Agrica”. InformationWeek. June 25, 2008. http://www.informationweek.com/news/hardware/utility_ondemand/showArticle.jhtml;jsessionid=FWRFZMVI3MG3WQSNDLPCKHSCJUNN2JVN?articleID=208800826&subSection=News

3. Google. “ Google and IBM Announce University Initiative to Address Internet-Scale Computing Challenges”. Press Release. October 8, 2007. http://www.google.com/intl/en/press/pressrel/20071008_ibm_univ.html

4. “IBM, Google Stirring up a Cloud Environment”, Computer World. May 2, 2008. http://www.computerworld.com.au/index.php/id;1674144822

5. Dan Farber, “The IBM-Google Connection”. CNET News.com. May 1, 2008. http://news.cnet.com/8301-13953_3-9933714-80.html

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【電子・情報通信技術特集】

スウェーデンの ICT 業界の動向 スウェーデンは、通信技術および通信サービスの分野でイニシアティブを発揮しており、

スウェーデンの電気通信事業者とシステム開発業者は、大半の国際標準に少なからぬ貢献

をしてきている。こうした伝統を受け、スウェーデンは現在、通信技術の再編・統合とい

う流れを先導している。 各国の ICT 企業が、スウェーデンで事業を設立・展開する主な理由としては以下がある。 ・世界有数の ICT 国家として、世界に先駆けた本格的なモバイル社会の到来を目標

としている ・幅広い分野において 先端の技術水準と、高いレベルの価格競争力を維持してい

る ・新たな製品とサービスの開発・試験・販売を行うのに理想的な試験市場である ・モバイル技術とインターネット技術の融合や3G サービスの導入をリードしてい

る ・技術的要求水準の高い産業界・公共部門が応用 ICT の開発を牽引してきたため、

ビジネスユーザーも新しいシステムの早期導入に意欲的である ・スウェーデンは先進的な知識集約型経済であるため、エンジニアや熟練した人材

に富み、賃金水準も適正(国際的な価格競争力を有する)である ・EU のイノベーションをリードし、多数のハイテク IT およびワイヤレスベンチャ

ーを有する ・ダイナミックな ICT クラスターの形成を通じて産学連携が進んでいる ・欧州北部の中枢として、地政学的にも重要な位置にある ・ビジネス環境、生活環境も良好かつ高水準で、経済も安定しており、ビジネス・

生活に関する不安定要因が少ない こうした ICT 先進国であるスウェーデンの ICT 業界の状況を、スウェーデン投資庁な

どの資料をもとにレポートする。 ①ワイヤレス・ネットワークとブロードバンド・ネットワーク分野 スウェーデン企業はワイヤレス関係の特許を幅広く取得している。 現在、WCDMA1 という第三世代携帯電話の通信方式が採用されているが、これもかつ

てのワイヤレス通信技術の NMT、GSM、GPRS、EDGE と同じく、スウェーデン企業の

Ericsson と TeliaSonera が主に開発したものである。 また、Bluetooth 標準 2もスウェーデンから生まれたものである。Ericsson は現在、ワ

1 Wideband Code Division Multiple Access:第三世代携帯電話無線アクセス方式の一つ 2 Bluetooth(ブルートゥース):東芝、エリクソン、インテル、IBM、ノキアが中心になって

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イヤレス・ブロードバンド・アクセスを実現するために、ソフトウェアを WCDMA から

HSDPA3にアップグレードしている。 固定ブロードバンド分野では、フォトニクスやネットワーキング技術を専門とする産業

集積があり、特に、光学機器部門において強みを発揮している。中でもワイヤレス・ブロ

ードバンド企業として i3micro、Swe-dish、Net Insight、Possio、Repeatit、Packetfront、Transmode、Wavium、Xelerated などが挙げられ、非常に興味深い。 スウェーデン企業は、仲介、課金、集金、ゲートウェイ、VAS(付加価値サービス)分

野の業者を対象とした独自のソリューションも開発している。Drutt、Appear Network、Operax、Mobilaris、Hotsip、Oracle、IpUnplugged なの企業がこうした事業を行ってい

る。 ②携帯端末設計分野 スウェーデン企業は、モバイル・プラットフォームの設計、テレマティクス4・プラット

フォームの設計、端末の工業デザイン、統合アプリケーションの開発には強く、データ通

信に関して、標準規格の異なっている携帯電話通信分野とワイヤレス技術分野の規格の統

合に努めている。容量が増えると、ソフトウェアによる再構成が可能なプラットフォーム

を物理的に統合することが求められる。アドホック・ネットワーキング5とマルチホッピン

グ技術6にも、新たな進展が期待されている。こうした携帯端末間に関する技術開発が活発

な企業には、SonyEricsson、Obigo/Teleca、Enea、Sectra、Neonode、OceanObservations、Pilotfish などが挙げられる。 ③優れたインフラを備えた迅速な市場 新技術の市場浸透が世界でも極めて速いスウェーデンは、グローバルな情報通信技術製

品やサービスを有する企業にとって、魅力的なテスト市場になっている。ブロードバンド

ワイヤレス・インフラが整っており、100 以上の町に約 200 のネットワークを備えた光フ

ァイバーのインフラがある。また、ストックホルムでは、住民 1 人あたり 1 キロメートル

以上の光ファイバー・ケーブルが地下に敷設されている。第三世代(3G)携帯電話の普及

率は人口の 90 パーセントとヨーロッパ一高い水準に達しており、2008 年現在では、スウ

ェーデンにおける 3G の契約者は 50 万人にのぼる。契約先は TeliaSonera、Telenor、そ

提唱している、近接したデバイス(機器)とデバイスの間を 2.4GHz の周波数帯を用いて電

波での情報のやりとりを行う、無線通信規格 3 High Speed Downlink Packet Access:W-CDMA を拡張した高速パケット通信規格。第三世

代携帯電話(3G)に対して、第三・五世代携帯電話(3.5G)と位置づけられている。 4 テレコミュニケーション(Telecommunication=通信)とインフォマティクス(Informatics=情報工学)から作られた造語で、自動車などの移動体に携帯電話などの移動体通信システム

を利用してリアルタイムにサービスを提供することの総称。 5 無線LANのようなアクセスポイントを必要としない、無線で接続できる端末(パソコン、PDA、

携帯電話など)のみで構成されたネットワーク 6 通信がいくつかの端末を経由する技術

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して中国の Hutchison Whampoa とスウェーデンの投資家との合弁企業である「3」であ

る。さらに、多数のホットスポットが国内全域に設置されており、北部の町シェレフテオ

では、ヨーロッパで初めて WiMAX7が家庭および企業に導入された。 ④ビジネス向けアプリケーションとサービス

スウェーデンの産業界は、他国に先駆けて情報通信技術やデジタル技術を採り入れ、林

業および木材加工、ライフサイエンス、物流、防衛、セキュリティ、自動車等様々な業界

で高い競争力を得ている。 例えば、木材の計測・切断・保管管理を高速処理する木材加工機械技術や、高度な証拠

保全のためのバーチャル検視の技術などがある。 生産・製造業界で広く利用されている情報通信技術は、スウェーデン企業がワイヤレス

技術で国際的優位にあることと相まって、多くのモバイル・アプリケーション企業の発展

を促している。テレマティクスは現在成長中の分野で、高度なワイヤレス・アプリケーシ

ョンが交通システムや輸送システムに組み込まれ、物流や交通の安全を支えている。 ⑤意欲的な企業を育む場所 インテルがカリフォルニア以外の場所に初めてワイヤレス・センターを設置したのは、

ストックホルムのシスタ・ワイヤレス・バレーであった。急成長中の中国企業で通信機器

メーカーの ZTE と Huawei Technologies も、進出先にスウェーデンを選び、中でも も

ワイヤレス技術に関して高い研究開発力を持ち、技術開発のノウハウが蓄積されているス

トックホルム周辺を選択した。スウェーデン全体で、400 を超えるワイヤレス企業があり、

ワイヤレス分野の 先端の研究開発が行われている。このため、多くの国際的な企業がワ

イヤレス開発センターをスウェーデンに設立している。 (出典) スウェーデン投資庁ウエブサイト

http://www.isa.se/templates/Normal____58961.aspx http://www.isa.se/templates/Startpage____3385.aspx http://www.isa.se/templates/Normal____62573.aspx

スウェーデン大使館ウエブサイト http://www.swedenabroad.com/Page____9484.aspx

7 Worldwide Interoperability for Microwave Access :2003 年 1 月に IEEE(米国電気電子学

会)で承認された、固定無線通信の標準規格。高速通信(光・メタル)回線の敷設や DSL 等の

利用が困難な地域で、いわゆるラストワンマイルの接続手段として期待されている。

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【電子・情報通信技術特集】

有機 LED 照明応用(OLLA)プロジェクトは 欧州で最も効率的な OLED 照明素子を実証

2000 万ユーロの欧州の有機 LED 照明応用プロジェクトが最終マイルストーンを達成 有機 LED 照明応用(OLLA:Organic LEDs for Lighting Applications)プロジェクト・

コンソーシアムは、プロジェクト期間の終わりに、その 終マイルストーンを達成した。 そのマイルストーンは、ノバ LED 社の PIN OLED 技術に基いた、1,000cd/m2の初期

輝度で 50.7 ルーメン/W のエネルギー効率の白色 OLED(有機発光ダイオード)光源の基礎

技術である。 OLLA プロジェクトは、フィリップスライティング社により率いられた共同基礎研究コ

ンソーシアムである。この OLED 技術は、平坦で、薄く、非常に軽量な固体素子光源の新

しい非常に魅力的なクラスを生み出している。OLED 照明技術は、設計の自由により、実

質的な省エネルギーを達成し、新しい照明応用に多くの可能性を提示する。 OLLA の欧州 8 ヵ国からの 24 パートナーは、1,000cd/m2の初期輝度で 1 万時間以上の

寿命を持った 50 ルーメン/W の効率を達成する目標を持って、照明目的のための OLED技術の開発を共同で研究している。

パートナーと共に、フィリップスリサーチ社およびノバ LED 社は、効率、演色および

輝度に関するプロジェクト目標を達成した。ノバ LED 社の素子寿命は、約束した値をさ

らに 1 桁以上も超過している。 「外挿された寿命の値と結びついたこの高い効率は、OLED が照明応用の重要な技術で

あり、将来の照明製品の革新的な設計機能と省エネルギーを可能にすることを実証してい

る。このことは、いまや照明市場への OLED 技術導入に向けた非常に重要な段階にある」

とピーター・ビィッサー、フィリップスライティング社 OLLA プロジェクトのプロジェク

トマネージャーが語った。 「ノバ LED 社の PIN 技術は、さらに出力効率を向上させる可能性を持っている。近い

将来には、およそ 100 ルーメン/W の OLED が達成可能になることは、技術ロードマップ

と一致している」とノバ LED 社からのマーチンベーゼは付け加えた。 「実験室設定での素子からの光をすべて集めることにより、我々は 80 ルーメン/W 以上

の値を測定している。これは、この高い効率の鍵の 1 つが、よりよい光外部結合技術にあ

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ることを示している」とフィリップスリサーチ社のエリスバーゲン博士は説明した。 上に示された記録値に加えて、この OLLA プロジェクトは、初めての大面積インジウム

スズ酸化物フリーOLED、初めての大面積印刷 OLED ならびにいくつかの情報通信技術の

実証を行っている。 フィリップス社、オズラムオプト半導体、シーメンス社、ノバ LED 社およびフラウン

ホーファーIPMS 社は、追加プロジェクトでこの OLED 照明技術の開発を継続する。この

新しい「OLED100.eu」プロジェクトで、OLED の効率、寿命および寸法がさらに向上す

るであろう。

OLED は革新的で効率的な照明技術

である。ここに示された OLED 照明

装置は厚さ 2mm 以下である。金属の

格子線は、プレート全面で光を均一に

出力させるために使用されている。

(Picture source: the OLLA project / M.Klop)

関連リンク: OLLA プロジェクト関連ウェブサイト:http://www.olla-project.org FP-IST プログラム:http://cordis.europa.eu/ist/

OLLA プロジェクトに関して: OLLA(Organic LEDs for Lighting Applications:有機 LED 照明応用)は、一般照明応用の白

色 OLED の開発に専心的な共同研究プロジェクトである。コンソーシアムは、8 ヵ国のヨーロ

ッパ諸国からの 24 の事業体から成る。OLLA は、欧州連合の第 6 期フレーム・ワークプログ

ラム(FP6)の IST プライオリティ(Information Society Technologies:情報社会テクノロジー

ズ)の下で、一部資金提供されている。 OLLA プロジェクトの目標は: 以下の仕様を持った長寿命で非常に効率的な白色 OLED 光を実証することである:素子寸法

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15x15 cm2で、効率 50lm/W、初期輝度 1,000cd/m2からの寿命 10,000 時間。 OLED に関して: OLED は、固体素子光源の新しい非常に魅力的なクラスであり、平坦で、薄く、非常に軽量で

ある。OLED は、高い演色を持った拡散したギラギラ輝かない照明を生成する。設計の自由度

により、OLED 照明技術は、新しい照明応用のために多くの可能性を提示する。OLED は、制

御可能な色の照明システムに使用することができ、ユーザーの好む光の雰囲気をカスタマイズ

することを可能にする。更に、非常に効率的な光源として、この技術は、演色またはスイッチ

ング速度を危険にさらさずに、本質的なエネルギーと CO2の削減を達成する可能性を持ってい

る。 このプレスリリース中の照明測定に関して: 言及された OLED は、基板表面上に特別な外部結合した強化フォイルで測定された。側面の

輻射は省略されている。寿命予測は、より高い輝度レベルでの加速寿命テストによって為され

ている。

OLLA プロジェクトの主要データ: ・プロジェクト目標:照明応用のための OLED 技術の実証 ・プロジェクトウェブサイト:www.olla-project.org ・期間:45 ヵ月間、2004 年 10 月 1 日開始 ・プロジェクト予算:2,000 万ユーロ ・EU の拠出金:1,200 万ユーロを資金提供

このプロジェクトには、EU の 8 ヵ国からの産業界と大学からの 24 コ

ンソーシアムパートナーが参加している。

(出典: http://www.hitech-projects.com/euprojects/olla/news/press_release_june_2008/OLLA_pressrelease6_v4.pdf )

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【電子・情報通信技術特集】

省エネルギーLED 照明の標準を設定(米国) 米国立標準技術研究所(NIST)の研究者は、全米標準機構と協力して、米国の固体素子照

明に関する初めての 2 件の標準開発で先導的な役割を担った。エネルギー消費量を著しく

削減した照明を作るために、この新しい世代の照明技術は、白熱灯フィラメントや蛍光灯

の代りに発光ダイオード(LED)を使用する。 通商と貿易のためには、製品は高品質で、その性能が一様であることが特定されている

ことを保証するのに標準は非常に重要である。 新の先月に公表された、これらの標準は、

LED ランプや LED ライト取付具の色表示、ならびに、全光出力、エネルギー消費量およ

び色度あるいはカラー品質に関して、固体素子照明製品をテストする時にメーカーが使用

するべきテスト方法を詳述している。 固体素子照明は、住居、商用また道路照明を含んだ一般照明に必要とされるエネルギー

消費量を著しく削減すると期待されている。「照明は電力の 22 パーセントを、そして米国

で消費される全エネルギーの 8 パーセントを使用している、したがって、照明の省エネル

ギーは非常に大きな効果を持つ」と NIST の研究者のヨシ大野は説明する 現在の製品はまだ初期の段階にあるが、固体素子照明は、蛍光灯より 2 倍もエネルギー

効率が高く、白熱灯よりも 10 倍以上効率的であると予測されている。ヨシ大野は、これ

らの新しい標準を開発した作業グループを統括した。 省エネルギーに加えて、この新しい照明は、適切に設計された場合、照明の下で物体の

色がどのように見えるかを示す演色が、蛍光灯どころか白熱灯よりもよい値を作り出すこ

とができる、とヨシ大野は語る。 NIST は、2025 年までに照明のエネルギー消費量を 50 パーセント削減させるために、

固体素子照明を開発し導入する目標を支援する米国エネルギー省(DOE)と共にこの問題に

取り組んでいる。エネルギー省は、次の 20 年にわたり固体素子照明を段階的に導入する

ことで 2007 年のドル価値で 2800 億ドル以上を節約できると予測している。 北米照明学会(IESNA:Illuminating Engineering Society of North America)は、標準

文書 LM-79 を公表している。それは、光出力(ルーメン)、エネルギー効率(ルーメン/ワッ

ト)および色度に関して、固体素子照明製品をテストする方法について記述している。詳細

には、テストのための環境条件、ならびに、テストで LED 光源を操作し安定させる方法

および使用すべき測定方法と機器のタイプが含まれている。

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「より多くの標準が必要である。そして、これはすべての固体素子照明標準の基盤にな

る」とヨシ大野は述べた。この標準は IESNA から利用可能である。 研究されている固体素子照明は、一般照明用を意図している。しかし、今日使用されて

いる白色光は、色度あるいは特異な白色シェードにおいて非常に異なる。米国規格協会

(ANSI:American National Standards Institute)は、標準 C78.377-2008 を公表している。

この標準は、様々な相関色温度を持った暖色から寒色の白色 LED を使用して、固体素子

照明製品の推奨されるカラー範囲を指定している。この標準は ANSI ウェブサイトからダ

ウンロード可能である。www.nema.org/stds/ANSI-ANSLG-C78- 377.cfm 米国エネルギー省(DOE)は、この秋に固体素子照明製品のための「エネルギースター」

プログラムを立ち上げる予定である。NIST の研究者は、「エネルギースター」規格のため

の研究や技術の詳細およびコメントを提供することにより、DOE を支援している。「エネ

ルギースター」認可は、製品がエネルギーを節約し高品質であることを消費者に保証し、

メーカーが消費者に省エネ製品を提供するべき誘因として、さらに役立っている。 固体素子照明社会は、LED ランプ寿命を評価するための、また個々の高出力 LED チッ

プやアレイの性能を測定するための LED 照明の標準開発を継続しており、NIST の研究者

は持続的な努力で積極的役割をしている。 (出典:http://www.nist.gov/public_affairs/techbeat/tb2008_0624.htm#led )

これらの固体素子照明器具は、エネルギー効率

の良い発光ダイオードによって動作し、2027年までに照明に必要なエネルギーを 50 パーセ

ント削減すると予測される新しい世代の 初

のものである。

Credit: NIST

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【電子・情報通信技術特集】

欧州はレーザーダイオード技術で明るい将来を見込む(EU) レーザーダイオードは、レーザープリンター、バーコードリーダおよびスキャナーのよ

うな工業応用の中で広く使用されている電気的に励起される半導体レーザである。 近、

この技術の大量生産能力の向上支援が行われ、これらのレーザのパワー性能、小型化なら

びに頑健性に大きな改善がなされた。しかしながら、医療、通信および娯楽のような多く

の分野におけるこれらのレーザの使用は、しばしば、出力とビーム品質を同時に満足する

性能達成の困難さによって制限されている。 EU の資金提供プロジェクトである"WWW.BRIGHTER.EU"(World Wide Welfare:

High-Brightness Semiconductor Lasers for Generic Use、世界規模の繁栄:一般的な使

用目的の高輝度半導体レーザ)により、次世代レーザーダイオード技術を開発するために、

欧州の科学者やエンジニアのグループの協力を求めている。このプロジェクトは、EU か

ら 970 万ユーロが資金提供されている。 2006 年に終了した"WWW.BRIGHT.EU"プロジェクトの成功裡の結果に基礎を置いて、

プロジェクト提携者は、高輝度特性のレーザーダイオード技術を開発する予定である。高

輝度とは、高出力レーザーダイオードの高ビーム品質を供給する能力を指す。特に、この

プロジェクトでは、小さな直径の光ファイバーへ、より多くの光出力を結びつけると同様

に、拡大した色(つまり波長)領域の廉価な高輝度光源を開発しようと取り組んでいる。コ

ンソーシアムによれば、これらの開発は、高価で取り扱いが難しいレーザ光源の置換を可

能にし、さらに、新しい応用の成長を刺激する。 プロジェクトは、その後、応用技術を実証する。それらは、癌診断や高度治療のための

医療画像用レーザ光源、電気通信ネットワーク用の光増幅器ならびに投写型ディスプレイ

のためのコンパクト光源のような、今まで市場では利用不可能だった応用技術である。 レーザ技術は大規模ビジネスである。「フォトニクス 21 欧州技術プラットホーム

(Photonics21 European Technology Platform)」によれば、2005 年のフォトニクス世界市

場は総額 2250 億ユーロ以上で、フォトニクス世界市場の合計は、次の 10 年以内に 3 倍に

なると予測されている。 独創的な光技術とレーザーダイオード技術における彼らの専門技術を組合せることに

よって、BRIGHTER のプロジェクトパートナーは、レーザをより小さくより明るくより

効率的でより安くすることにより、この数 10 億ユーロの市場を開拓できることを期待し

ている。

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「そこにはレーザーダイオード技術の巨大市場がある」とアルカテル=タレース III-V 研

究所のプロジェクト・コーディネーターのミカエル・クラコフスキー博士は述べ、「高性能

レーザーダイオードなしで、光応用技術のコスト、色あるいは可搬性に取り組むには、現

在は不可能な多くの応用が存在する。このプロジェクトの目標は、向上した出力や輝度の

新しいレーザを開発することである。それは、我々がどれくらい細くビームを集中させる

ことができるかに関係している」と彼は付け加えた。 「プロジェクト内では、モデル化するグループと、将来の応用に必要とされる多種多様

の高輝度レーザーダイオードを作製するパートナーの間に、非常に緊密な協力がある。こ

の協力は、予測されたレーザーダイオードのモデル化および設計ソフトウェアが、現在の

レーザーダイオード技術の限界の理解に関し、また超高輝度を持った新しい構造の開発に

関して重要であるという、ゆるぎない確信によって推進されている」と"WWW. BRIGHTER.EU"でレーザの設計とシミュレーション活動に責任を負うノッティンガム

大学のスラオミール・スジェッキー博士は語った。 このプロジェクトは新しい技術を開発するだけでなく、ヨーロッパ研究領域(ERA:

European Research Area)の不可欠な部分を形成している。コンソーシアム参加者のノッ

ティンガム大学エリック・ラーキンス教授によれば、このプロジェクトは産業界と学術界

の間の協力を強化することにより科学者を支援している。 後の結果は、キャリア開発の

ための多くの機会である、と彼は述べた。「さらに、我々は、先端技術の教育や訓練のため

の新しい教本を開発している。また、それらは、プロジェクトのウェブサイトを通して、

コンソーシアム外の学生や研究者へ利用可能である」とラーキンス教授は説明する。 "WWW.BRIGHTER.EU"コンソーシアムは、11 のヨーロッパ諸国からの 23 の研究チーム

で構成されている。主な関係者は、産業界、学術界および研究所から集まっている。 ・WWW.BRIGHTER.EU:http://www.ist-brighter.eu/ ・Alcatel-Thales III-V Lab:http://www.3-5lab.fr/ ・University of Nottingham:http://www.nottingham.ac.uk/

( 出 典 : http://ec.europa.eu/research/infocentre/article_en.cfm?id=/research/headlines /news/article_08_05_14_en.html&item= Infocentre&artid=7234 )

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【個別特集】太陽光発電

太陽光発電・バロメータ 2008 年(EU) EU の太陽光発電の累積設備容量は 4,689.5 MWp1に

オブザーバー社は毎年、欧州の再生可能エネルギーに関する報告を「ユーロ・バロメー

タ」として発表している。NEDO 海外レポートではこれまでにも、「太陽光発電エネルギ

ー・バロメータ」を紹介してきた。本号では、個別特集として 4 月に発表された「太陽光

発電エネルギー・バロメータ 2008 年」を紹介し、その全訳を掲載する。 ***

ドイツ市場が活況を呈し、スペイン市場およびイタリア市場が拡大したことにより、

EU(欧州連合)は太陽光発電設置の新記録を達成した。 初の推定値によれば、2007 年の

新規設置は 1,541.2 MWp(2006 年から 57%増)となり、EU における総設備容量は 4,689.5 MWp に達した。 ヨーロッパの太陽光発電部門は、その開発能力に疑問を持ち続ける人々に強いシグナル

を与えた。EU 諸国は 2007 年に 1,541.2 MWp の容量を設置し(表 1)、これにより総設備

容量が 大 4,689.5 MWp に達した(表 2)。たとえこの容量の大半がドイツ市場のダイナ

ミズムのおかげであるとしても、待望の新市場がかつてないほどに拡大したのである。こ

うした新市場は、構造の整備に時間がかかったものの、欧州の成長に新しい基盤を与えう

ると考えられる。欧州の住人一人あたりの太陽光発電容量は、8.5 Wp である(表 3)。以

前にも増して、欧州市場は系統連系型発電に焦点を当てており、新規設置容量の 99.5%を

占めている(図 1-2)。独立型(隔離された場所での電化、公共照明など)電力の直接消費

は、2007 年には 8.4 MWp にすぎなかった。 1.EU で 4,689.5 MWp を達成 ドイツ市場の回復 2006 年にドイツで設置された太陽光発電容量に関する推定値は過大なものであったと

認めなければならない。AGEE Stat(ドイツ連邦環境省(BMU)の再生可能エネルギー統計

作業部会)は、昨年 5 月に発表した 2006 年に設置された容量に関する統計(950 MWp)を830 MWp に下方修正した。これにより、2007 年 12 月に発行された Photon International

1 Watt Peak:ワット・ピーク。太陽電池モジュール(パネル)の 大出力の単位で基準状態に換

算したもの。基準状態は、①日射強度 1,000W/m2、②太陽電池モジュール温度 25℃(温度が上がると発電電圧が低下)③AM1.5 と規定される。AM(Air Mass:エアマス)とは太陽光の大気通過量(太陽光は大気圏を通過することにより大気中のオゾンや水蒸気などにより、光の一部が吸収される)のことで、AM1.0 とは光の入射角が 90 度(真上)から入射した光を意味し、AM1.5はその通過量が 1.5 倍(入射角 41.8 度)での到達光を表している。

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2誌の数値が 終的に裏付けられることになった。この 終値は、Photon 誌がドイツの電

力会社の経営陣と共同で実施する年次追跡調査に基づくもので、同誌がドイツで販売され

たインバータ 3の数から導きだした 初の推定値(1,150 MWp、2007 年 3 月発表)とは

かけ離れたものであった。 従って、2005 年に 866 MWp 設置されたことを考慮すると、2006 年のドイツ市場は停

滞していたと評価されるであろう。この停滞は、需要の減退というよりは設備の不足とい

う理由によって説明することができる。この状況の証拠として、BSW(ドイツソーラー産

業連盟)は 2007 年の 初の見通しを 1,100 MWp とし、市場の回復を宣言したが、AGEE Stat の Christel Linkhor 氏によって信憑性があると判断されたことがあげられる。この数

値は、ドイツの総設備容量が 3,846 MWp、すなわち EU における総設備容量の約 82%に

達したことを示している。 ドイツ市場は以前にも増して、世界の太陽光発電の成長の原動力となっている。ドイツ

市場は、2007 年も安定しているだろうと欧州太陽光発電産業協会(European Photovoltaic Industry Association : EPIA )に評価された日本市場(2006 年に 286.6 MWp 設置)や、

Photon International 誌の取材源(州横断再生可能エネルギー理事会役員のメンバーであ

る Sherwood Associates)の評価では 2007 年に 205 MWp に達するとみられるアメリカ市

場(2006 年に 143 MWp 設置)を凌駕し続けている。 ドイツ市場の実績は、投資家にさらなる透明性を提供し、市場整備を促すインセンティ

ブ制度が安定していることによって説明できる。再生可能エネルギー法(EEG)は電力販売

業者に対して、2004 年 8 月以降、太陽光発電による電力を買い取るよう義務づけており、

その適用期間は 20 年である。建物に付随したシステムの買取価格は毎年 5%ずつ減額され、

建物とは別の地上設置型システムによるものの減額は毎年 6.5%となる。価格は設置される

容量に応じて異なる。建築物に付随したシステムに関する 2008 年の買取価格は、30kW以下の小規模発電施設の 0.4675€ /kWh から、100kW 以上の発電施設の 0.4399€ /kWhまでの間で設定される。特に建築物一体型太陽光発電システム 4には 5€ c(セントユーロ

5)/kWh のボーナスが追加される。地上設置型太陽光発電システムは 0.3549€ /kWh の恩

恵を受ける。EEG 法は今後数ヵ月以内に修正されることになっている。特に、毎年の価格

減額率の上昇が交渉の焦点になると考えられる。

2 Photon International は、ドイツの太陽光発電部門専門雑誌(出典:「太陽光発電・バロメータ

2007 年(EU)」NEDO 海外レポート 1011 号、2007 年 11 月 14 日、p.5(http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1011/1011-01.pdf))

3 太陽光で発電された直流(DC)の電気を、系統につなげるため交流(AC)に変換する装置。パワーコンディショナーともいう。

4 屋根が全体として太陽電池パネルで構成されているなど建物自体の設計に太陽光発電システムが組み込まれているタイプ。

5 100€ c=1€

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表 1 EU で 2006 年、2007*年に導入された太陽光発電の設備容量 (MWp) 2006 年 2007 年*

国名 系統連

独立型 総容量 系統連系 独立型 総容量

ドイツ 830.000 3.000 833.000 1,100.000 3.000 1,103.000

スペイン 104.905 10.232 115.137 339.820 1.000 340.820

イタリア 11.900 0.600 12.500 49.800 0.400 50.200

ポルトガル 0.227 0.200 0.427 14.254 0.200 14.454

フランス 6.114 1.478 7.592 12.170 0.624 12.794

イギリス 3.007 0.376 3.383 3.000 0.400 3.400

チェコ共和国 0.267 0.046 0.313 3.107 0.011 3.118

オーストリア 1.290 0.274 1.564 2.884 0.131 3.015

ギリシャ 0.201 1.049 1.250 1.689 0.786 2.475

オランダ 1.243 0.278 1.521 2.000 0.300 2.300

ベルギー** 2.103 0.000 2.103 2.000 0.000 2.000

スウェーデン 0.301 0.312 0.613 1.000 0.300 1.300

キプロス 0.440 0.080 0.520 0.310 0.414 0.724

フィンランド 0.044 0.429 0.473 0.035 0.444 0.479

スロベニア 0.183 0.000 0.183 0.272 0.000 0.272

デンマーク 0.210 0.040 0.250 0.175 0.045 0.220

ポーランド 0.030 0.117 0.147 0.054 0.146 0.200

ルーマニア 0.040 0.049 0.089 0.030 0.080 0.110

ルクセンブルク 0.113 0.000 0.113 0.097 0.000 0.097

ブルガリア 0.020 0.003 0.023 0.055 0.020 0.075

ハンガリー 0.085 0.010 0.095 0.000 0.050 0.050

マルタ 0.043 0.000 0.043 0.042 0.000 0.042

スロバキア 0.000 0.000 0.000 0.000 0.040 0.040

リトアニア 0.000 0.006 0.006 0.000 0.015 0.015

エストニア** 0.000 0.005 0.005 0.000 0.005 0.005

ラトビア 0.000 0.001 0.001 0.000 0.000 0.000

アイルランド 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000

EU 全体 962.766 18.585 981.351 1,532.794 8.411 1,541.205出典:EurObserv’ER 2008 * 2007 年に関しては予測値 ** ベルギーとエストニアの 2007 年の設置容量は、2006 年のデータを元に Observ’ER が推定。

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表 2 2006 年末、2007 年末*時点での EU の太陽光発電の総設備容量 (MWp) 2006 年 2007 年*

国名 系統連系 独立型 総容量 系統連系 独立型 総容量

ドイツ 2,711.000 32.000 2,743.000 3,811.000 35.000 3,846.000

スペイン 149.629 25.366 174.995 489.449 26.366 515.815

イタリア 37.100 12.900 50.000 86.900 13.300 100.200

オランダ 46.992 5.713 52.705 48.992 6.103 55.005

フランス 12.311 21.554 33.865 24.481 22.178 46.659

オーストリア 22.416 3.169 25.585 25.300 3.300 28.600

ルクセンブルク 23.696 0.000 23.696 23.793 0.000 23.793

ポルトガル 0.775 2.641 3.416 15.009 2.841 17.870

イギリス 12.960 1.300 14.260 15.960 1.700 17.660

ギリシャ 1.621 5.074 6.695 3.310 5.860 9.170

ベルギー 4.108 0.053 4.161 6.108 0.053 6.161

スウェーデン 0.555 4.295 4.850 1.555 4.595 6.150

フィンランド 0.165 4.356 4.521 0.200 4.800 5.000

チェコ共和国 0.647 0.196 0.843 3.754 0.207 3.961

デンマーク 2.565 0.335 2.900 2.740 0.380 3.120

キプロス 0.526 0.450 0.976 0.836 0.864 1.700

ポーランド 0.101 0.337 0.438 0.155 0.483 0.638

スロベニア 0.265 0.098 0.363 0.537 0.098 0.635

アイルランド 0.100 0.300 0.400 0.100 0.300 0.400

ハンガリー 0.150 0.100 0.250 0.150 0.150 0.300

ルーマニア 0.095 0.095 0.190 0.125 0.175 0.300

ブルガリア 0.053 0.013 0.066 0.108 0.033 0.141

マルタ 0.058 0.000 0.058 0.100 0.000 0.100

スロバキア 0.000 0.020 0.020 0.000 0.060 0.060

リトアニア 0.000 0.025 0.025 0.000 0.040 0.040

エストニア 0.000 0.008 0.008 0.000 0.013 0.013

ラトビア 0.000 0.006 0.006 0.000 0.006 0.006

EU 全体 3,027.888 120.404 3,148.292 4,560.682 128.815 4,689.496出典:EurObserv’ER 2008 * 2007 年に関しては予測値

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表 3 EU 各国の 2007 年太陽光発電設備容量 (Wp/住民一人あたり)

出典:EurObserv’ER 2008

図 1-1 図 1-2 2007 年末時点での EU の系統連系と 2007 年単年で EU に導入された 独立型の容量の比率 系統連系と独立型の市場占有率

出典:EurObserv’ER 2008

国名 Wp/人 国名 Wp/人 ルクセンブルク 51.20 チェコ共和国 0.39 ドイツ 46.50 スロベニア 0.32 スペイン 11.74 イギリス 0.29 オーストリア 3.49 マルタ 0.24 オランダ 3.34 アイルランド 0.10 キプロス 2.25 ハンガリー 0.03 イタリア 1.71 ブルガリア 0.02 ポルトガル 1.68 ポーランド 0.02 フィンランド 0.95 ルーマニア 0.01 ギリシャ 0.82 スロバキア 0.01 フランス 0.77 リトアニア 0.01 スウェーデン 0.68 ラトビア 0 ベルギー 0.59 エストニア 0 デンマーク 0.57 EU 合計 8.49

独立型 独立型

系統連系 系統連系

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スペインが世界第 2 位の市場に成長 IDAE(スペイン代替エネルギー・省エネルギー研究所)の 初の試算により、スペイ

ンで太陽光発電部門が急拡大していることが確認された。すなわち、340.8 MWp の容量

が追加され(系統連系型発電は 339.8 MWp で、独立型は 1 MWp)、2006 年に比べ約 200%の伸びとなったのである。スペインの総設備容量は現在では 515.8 MWp となり、EU に

おける総設備容量の 11%を占めている。2005 年-2010 年の再生可能エネルギー計画の目

標(2010 年末時点で 400 MWp)は、3 年前倒しで達成された。スペインで 2008 年 9 月

28 日まで適用される固定買取価格(feed-in-tariff)は、2007 年 5 月 26 日の勅令 661/2007で決定されている。これは、特に大規模発電施設の設置に有利である。設置後の 初の 25年有効な価格は、規模によって異なる。100 kWp 以下の設置は 0.4404€ /kWh(25 年目以

降は 0.3523€ /kWh)、100 kWp~10 MWp 以下の設置は 0.4175€ /kWh(25 年目以降は

0.3340€ /kWh)、50 MWp までの設置は 0.2294€ /kWh(25 年目以降は 0.1838€ /kWh)となる。 2008 年 9 月 29 日に発効する新しい固定価格買取制度については検討中である。産業省

からの提案は、建築物一体型の発電施設(20 kWp 以下の発電施設:0.44€ /kWh から 200 kWp 以上:0.33€ /kWh まで)と地上設置型太陽光発電システム(0.33€ /kWh)を区別す

るものとなるだろう。この新しい固定価格買取は、2009 年 12 月 31 日まで、あるいは政

府の 2010 年に向けての新目標である 1,200 MWp に達するまで有効である。価格の逓減

を含む固定価格買取制度が設定されることになっている。 イタリアは 100 MWp の目標を達成 国立新技術・エネルギー・環境機構(ENEA)およびイタリア電気技術試験センター(CESI)

から助成を受けている CESI RICERSA によれば、イタリアは 2007 年に 50.2 MWp を追

加し(系統連系型発電は 49.8 MWp で、独立型は 0.4 MWp)イタリア市場が次第に拡大

しているのが確認された。この数値は 2006 年に設置された容量 12.5 MWp の 4 倍以上の

ものである。イタリアは 100 MWp を達成した EU で 3 番目の国になった。 2007 年 2 月 19 日付の太陽光に関する省令に基づく、新しい太陽光発電の固定価格買取

制度は投資家により歓迎された。価格は設置容量(1~3kWp、3~20 kWp、および 20 kWp以上)や太陽光発電設置の形態(建築物一体型かどうか、および地上設置型太陽光発電シ

ステムか)によって異なる。 固定買取価格は 20 年間有効で、0.49€ /kWh(建築物一体型で容量 3kWp 未満)から

0.36€ /kWh(独立型および地上設置型太陽光発電システムで 20 kWp 以上)まで様々であ

るが、2007 年および 2008 年に設置されたものが対象になる。年度毎の価格減額率 2%は、

2009 年初頭から適用になる。このインセンティブ制度は、設置される太陽光発電容量を

2016 年の時点で 大 3,000 MWp にするという条件の下、 初の 1,200 MWp まで有効で

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ある。 フランスは実習期間 ERDF(旧フランス電力公社(EDF)の送電部門)によれば、フランスでは 2007 年に 12.2 MWp が系統に新規に連系された。これは、2006 年の 2 倍に相当する。系統への総連系容

量は 24.5 MWp となった。そのうちコルシカ島および海外県の分は 13 MWp である。し

かし、この数値はフランス市場の現実を反映していない。というのも、かなりの容量が未

だに系統への連系待ちの状態にあるからである。2007 年 12 月 31 日現在、ERDF はおお

よそ 65 MWp 分の公共送電網への連系申請を受け(コルシカ島および海外県の 37.9 MWpを含む)、こうした申請件数は直近の四半期に加速度的に増加した(27 MWp)。 ERDF は、この申請容量と実際に連系された容量との大きな差は連系の申請を処理する

のに時間が必要なこと、また申請件数の増加により待ち時間が長くなる傾向にあるためと

説明している。もう一つの目立った原因は、かなりの数の個人が屋根に装置を設置した後

になってからしか連系を申請しないことで、これが待ち時間を長期化させているというこ

とである。もし、専門家(設置業者あるいは産業投資家)が必要な行政上のステップを踏

めば連系の申請件数を予想できるため、設置から連系への移行はもっと短縮される。需要

の殺到に応えるため、ERDF は需要の大きな地域では地元で処理できる仕組みを立ち上げ

た。ERDF はさらに技術者の訓練を急いでいる。 導入されるべき手段と財源は投資家の需要に見合うものでなければならない。この需要

は特に、魅力的な固定価格買取制度(個人は、設置費用とそれに付帯する 5.5%の付加価

値税額に対する 50%の所得税控除を受けた上で、それに重ねて電力販売収入を得られる)

によって支えられており、毎年減額されることがない。また、この制度は、全ての所有者

(個人および事業者)に対する基礎固定買取価格 0.30€ /kWh(コルシカ島および海外県

は 0.40€ /kWh)+建築物一体型の設置に対する 0.25€ /kWh(コルシカ島および海外県は

0.15€ /kWh)の補完的なボーナスという構造になっている。こうした条件の下では、2005-2015 年の投資計画法によって決定された目標は、急速に時代遅れのものとなるとみられ

る。その目標とは、2010 年に 120 MWp(島嶼設置分 85 MWp と大陸部 35 MWp)およ

び 2015 年に 490 MWp(島嶼設置分 390 MWp と大陸部 100 MWp)というものである。 ポルトガルは 200 MWp の設置を確保 ポルトガル南部の容量 11 MWp の Serpa 発電施設が系統に連系されたことは、この国

における設置容量の成長が力強いことを示している。EDP(ポルトガル電力)エネルギー

グループによれば、ポルトガルは 2007 年に全部で 14.5 MWp を設置し、そのうち 14.3 MWp が系統に連系された。同国は、2007 年 6 月に導入した新しいインセンティブ制度に

より将来における市場の成長を確保した。この制度は、地上設置型太陽光発電システムと

建物内に設置された発電設備とを区別するもので、累積で 200 MWp の容量をもつ発電設

備を目標にしている。建築物一体型の発電設備に対しては、固定買取価格は 5 kWp 以下な

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ら約 0.55€ /kWh、それ以上の設備なら 0.40€ /kWh で、固定価格買取制度適用の上限は

50 MWp に制限されている。地上設置型太陽光発電システムの場合、固定買取価格は 5 kWp 以下なら約 0.52€ /kWh、それ以上の設備なら 0.35€ /kWh で、制度適用の上限はこ

の場合 150 MWp に設定されている。こうした固定買取価格は、15 年あるいは 1 MWp に

つき 大 21 GWh 発電されるまで保証されている。その後は、市場価格が支払われる。 2. 2007 年の世界での太陽電池生産は 3,733.0 MWp に 世界規模の産業 PV News 誌の暫定値によれば、太陽光発電用の太陽電池の生産は、全世界で 2006 年の

2,473.7 MWp から 2007 年の 3,733.0 MWp へと 51%近く増加した(図 2)。太陽光発電

業界の多極化は 2007 年に更に進んだ(図 3)。すなわち、太陽電池生産は欧州で 28.5%、

日本で 24.6%、中国で 22%、台湾で 9.9%、米国で 7.1%であった。成長力という点では、

中国(350.5 MWp から 821 MWp)および台湾(169.5 MWp から 368 MWp)企業の伸び

が も目を引くものであった。欧州(680.3 MWp から 1062.8 MWp)および米国(179.6 MWp から 266.1 MWp)での生産も、力強く成長を続けている。その一方で日本は初めて

生産が停滞した(926.9 MWp から 920 MWp)。しかし、これらの数値には留保が必要で

ある。というのも、まだ暫定値の段階であり確認が難しいこと、また国際的な主要市場に

おける設置容量の推定値との整合性を取ることが困難だからである。 2006 年に関しては、もし世界の 3 主要市場(欧日米)の推定値を加えれば、発注され

た累積容量は 1,450 MWp に上るが、これは公表された生産値より 1,000 MWp 以上低い

ものである。 初の予測によれば、2007 年に関しては、上記 3 主要市場は 2,050 MWp に

なるとみられるが、公表された生産値より 1,700 MWp 近く低いものである。もちろん、

生産された量のうち相当量は当該年中に販売、設置、連系されるわけではないし、同様に、

統計から漏れるものもある。また、時に太陽電池とモジュールのダブルカウントという問

題の可能性もある。更に、一部の関係者が市場でのシェアを大きく見せるために、数字を

水増ししようとしているという事実を無視することはできない。しかし、生産のデータと

連系のデータとの間に 1 年の時差があることを考慮すれば、2008 年は素晴らしい年にな

るだろう。 EU では 7 万人、ドイツでは 4 万人を雇用

2007 年、欧州の太陽光発電業界は欧州市場の需要によって牽引され、持続可能なペース

で引き続き拡大した。専門家から提供された欧州主要国のデータによれば、欧州での生産

高は 2006 年の 57 億ユーロから 2007 年の 92 億ユーロにほぼ倍増し、被雇用者数も 4 万

人から 7 万人に 75%増加した。ドイツは欧州の中でも群を抜いて太陽光発電産業に関わっ

ている。同国では、1 万社以上が太陽光発電に関連があり、太陽光発電に必要な各種部品

を製造する企業が 80 社以上ある。BSW(ドイツソーラー産業連盟)によれば、同産業の

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売上額は 2006 年の 44 億 5,100 万ユーロから 2007 年の 54 億 6,000 万ユーロへ増加し、

被雇用者数も 3 万人から 4 万人へ拡大した(内訳は、設置が 50%、生産および供給が 43%、

販売が 7%)。同じ情報源によれば、太陽電池生産能力に対する総投資額は、設備の拡大と

近代化の両方で 16 億ユーロに達した(1 億 6000 万ユーロ以上の研究開発費を含む)。15の施設が現在建設中で、1 万人の雇用創出が見込まれる。

図 2 世界の太陽電池生産量の推移(MWp) 出典:EurObserv’ER 2008、PV News 2008 年 3 月

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図 3 2007 年の地域別太陽電池生産の比率(推定値) 出典: PV News 2008 年 3 月

進む太陽光発電業界の統合 一般的に欧州の企業は、太陽光発電の国際的な市場の進化や、自身の生産能力の大幅な

拡大を、自信を持って宣伝している。 こうした生産能力の拡大は、欧州や域外から新しい投資家が数多く参入しているため、

既存の企業によってのみ達成されるわけではない。既存の企業が需要を満たすことができ

なかったため、新規参入者に対して特に薄膜製造分野での投資機会を与えることになった。

このような技術的な賭が成功するか否か、またすでに数百 MWp の容量を持つ既存企業に

対抗して新規参入企業が市場で生き残れるか否は時間が証明してくれるだろう。 欧州の企業は、高成長の潜在的可能性を持つこの市場への投資を続けている。たとえば

Schott Solar 社や Solarworld グループの場合は、アメリカでの生産能力拡大を計画して

いる。供給面に目を向けると、欧州の産業界は世界市場におけるシリコンの供給不足に悩

まされている。この供給不足は今なお、発電施設の設置に悪影響を与えており、モジュー

ル価格もまた高止まりしている。市場関係者は、新規のシリコン生産設備の試運転が始ま

ることにより、2009 年初頭には状況が改善されるとみている。EPIA(欧州太陽光発電産

業協会)は、シリコンの生産が 2010 年には 8,000~10,000MWp になると推定している。 太陽光発電業界では垂直統合というもう一つの傾向がみられ、2007 年にはさらに加速さ

れた。これは、シリコンやウェハー (シリコンディスク)といった原材料の確保のみならず、

事業の各段階での利幅確保という企業の要望によって説明できる。一方ではかつて

Solarworld 社がそうであったように、Isofotón 社といったセル製造会社が専門企業(シリ

コンの生産に特化した企業)とのジョイントベンチャーの設立を通じてシリコン生産での

インド その他

欧州

米国

台湾

中国 日本

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地位を確立する意向を示している。もう一方では Q-Cells のように、シリコン製造企業と

長期的な戦略的同盟を結ぶ、あるいはシリコンやウェハー製造企業の株式を買収して経営

参加する結論を選択した企業もある。 技術革新-これが競争力の鍵 ひとたび供給が十分になれば、ますます買い手市場になることを認識しているため、欧

州の太陽電池製造業界は熱心に技術革新を続けている。ただし、現段階では需要が供給不

足によって制約を受けているので、そうした買い手市場にはなっていない。従って、製造

会社はより発電量の大きい、薄くて大型の太陽電池を作ることによって差別化を図らなけ

ればならない。技術革新はまた、生産過程やインバーターなど太陽光発電システムの他の

部品にも関わっている。 技術的な側面では、アメリカの First Solar 社(カドミウムテルライド電池) や Uni-solar社(アモルファス(非晶質)シリコン)、日本のホンダ(銅-インジウム-ガリウム-セレ

ン薄膜:CIGS 薄膜)やシャープ(アモルファスシリコン)などの成功に刺激され、薄膜

が欧州および世界市場の両方で再び注目を集めている。シャープは、2010 年までに 1,000 MWp のアモルファスシリコン電池工場を建設すると発表した。薄膜技術はまだ市場を席

巻するには至っていないものの、生産コスト削減の点からも、建物への統合(一体化)と

いう面でも非常に有望である。多くの薄膜モジュールは柔軟で適応力に優れており、また

色や不透過度を変えて生産することができる。すでに 20 社(たとえば Isofotón や Emcore)で開発されているこの技術は、生産コスト削減が大いに見込まれる。太陽光発電技術の核

心は、2 層あるいは 3 層の異なる半導体、たとえばガリウム-インジウム-リン化合物

(GaInP)、ガリウムヒ素(GaAs)およびゲルマニウム(Ge)から成る太陽電池へいかに太陽放

射を集めるかにある( 大 1,000 倍)。それぞれの半導体は異なる光スペクトル(波長帯)

を電気に変換することができるため、変換効率が高いのである( 大 40%)。この未来技術

は、地上設置型の、モジュールが常に集光できるよう太陽の動きに合わせて可動式になっ

ている大容量の太陽光発電システムに、特によく適応する。

欧州の企業は健闘 中国企業の台頭や日米企業の高い競争力により、太陽電池生産企業のトップ 10-15 社

に欧州企業が躍り出るには限界がある(表 4)。しかし欧州の産業界も成長著しい市場(欧米)で、世界的な太陽電池製造企業や数多くの中規模企業が健闘している。 1) Q-Cells 社は世界一 2007 年、ドイツの Q-Cells 社は日本のシャープを抜いて世界一の太陽電池製造企業とな

った。シャープはほんの 2 年前には他社にとってはとても手が届かない存在と思われてい

た。中国の Suntech Power 社のみが、Q-Cells 以上の伸びを示して注目を集めた。2007年、Q-Cells 社は 389.2 MWp(そのうち多結晶太陽電池が 92%、単結晶太陽電池が 8%)

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表 4:世界の太陽電池製造企業(上位 15 社) (2007 年生産実績順 MWp)

生産量 生産能力 企業 国名

2006 2007* 2007 2008*

Q-Cells ドイツ 253 389 516 925シャープ 日本 434 363 710 710Suntech Power 中国 158 327 540 1,000京セラ 日本 180 207 240 300First Solar 米国 60 207 308 323Motech 台湾 102 196 240 400サンヨー 日本 155 165 265 350SunPower 米国・フィリピン 63 150 214 414Baoding Yingli 中国 35 143 200 400Solarworld/ Deutsche Solar ドイツ 86 130 205 260

三菱 日本 111 121 150 150BP Solar 米国・英国 86 102 130 130JA Solar 中国 25 113 175 425Solarfun 中国 25 88 240 360Isofotón スペイン 61 85 135 180その他 640 948 1908 3,922EU 全体 2,474 3,733 6,176 10,249出典: PV News, 2008 年 3 月

* 推定値

を製造したと発表した。これは、2006 年対比で 53.8%の増加である。同時に、生産高は 5億 3,950 万ユーロから 8 億 5,890 万ユーロになり、従業員も 964 名から 1,707 名に増加し

た。将来の成長を確保するために、Q-Cells 社はノルウェーのシリコン製造企業 REC 社お

よび Elkem 社と提携し調達面を強化した。すなわち、REC 社の資本の 17.9%を買収し、

Elkem 社からは 2008 年から 2018 年まで高純度のシリコン 10GWp の供給を受けること

で合意したのである。Q-Cells 社は更に、必要なウェハーの一部を自社製造する計画で、

2009 年には 240 MWp の生産能力に達するとみられる。 Q-Cells 社はまた、薄膜技術でも有力企業である。同社は Brillants 234 社(微結晶モジ

ュール)および Calyxo 社(カドミウムテルライド・モジュール)を 100%保有している。

さらに、スイスの VHF Technologies 社(フレキシブル薄膜)の資本 51%、および Solibro社(CIGS 薄膜)の資本の 2/3 を保有し両社を支配している。また、CGS Solar 社(ガラ

ス上への結晶シリコン)の資本 22%と、Ever-Q 社(シリコン・ストリングリボン・モジュ

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ール)の資本の 1/3 を押さえている 6。Q-Cells 社は子会社の生産分も含めて、2010 年には

結晶性太陽電池の年間生産量を 1 GWp、薄膜太陽電池の年間生産量を 400~600 MWp に

する計画である。 太陽電池生産では世界ランキング下位に位置するものの、他の欧州企業もダイナミック

に活動している。 2) Solarworld 社は統合の先駆者 Solarworld 社はこの 12 年の間に、ウェハー、太陽電池およびモジュールの生産を統合

することにより、卸売業者から太陽電池企業に転換した。2007 年末現在の同社のドイツ、

スウェーデンおよびアメリカ工場における生産能力は、ウェハー 385 MWp、セル 205 MWp、モジュール 185 MWp である。同年のセルの生産は、約 130 MWp となり、世界

10 位につけた(PV News の分類による)。 同社は Degussa 社および Scheuten Solar 社との合弁によりシリコンの製造会社ともな

れば、統合が完成する。2006 年に Shell Solar 社の結晶性シリコン製造部門を買収したこ

とにより、Solarworld 社は北米市場で特に良い位置につけている。同社の北米での成長は、

オレゴン州にある半導体生産部門の買収により増幅するとみられる。同社はこれを、2009年にモジュールとセルの生産で 500 MWp の能力を持つアメリカで 大の太陽電池工場に

転換させようと計画している。2007 年の同社の生産高は 6 億 8,960 万ユーロ(2006 年は 5億 910 万ユーロ)で、この半分はドイツ国内で生産され、1,486 名を雇用していた(2006 年

は 1,348 名)。 3) Isofotón 社はスペインでのリーダーとして健在

Isofotón 社は、2007 年に約 85 MWp のセルを生産し(2006 年は 61 MWp)、スペイン

大のセルおよびモジュールの生産企業としての地位を守った。モジュールの生産能力を

2007 年に 130 MWp から 300 MWp に拡大させ、同社は明らかに成長戦略を歩んでいる。

同社は Endesa 社との合弁企業を立ち上げ、シリコンを自社生産することを計画している。

Silicio Energia 社と命名される予定のこの合弁会社は、2009 年には 2,500 トン、2010 年

には 5,000 トンのシリコンを生産する予定である。Isofotón 社は、2011 年初頭には 400 MWp のセルを生産する計画である。

4) Schott Solar 社は Wacker Chemie AG 社との連携を強化 Schott Solar 社とドイツのシリコン製造企業 Wacker Chemie AG 社は、ドイツのイェー

ナに 100 MWp の薄膜生産部門を新設して(7,300 万ドルを共同出資)、両社の合弁会社

Wacker Schott Solar 社の事業を強化した。両社はすでに、3 億 7,000 万ユーロを投資して

6 Ever-Q 社については、Q-Cells 社、ノルウェーREC 社および米 Evergreen 社が対等に 1/3 ずつ

共同保有している。

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シリコンウェハーの生産および販売用の合弁会社 2 社の設立を発表した。2012 年にはウ

ェハーの生産能力 1 GWp を目指している。2007 年 11 月、Schott AG 社は 33 MWp の薄

膜ウェハー生産部門を立ち上げ、2010 年までに 100 MWp 拡大することが見込まれている。

PV News によれば、Schott Solar 社のドイツ国内およびアメリカの工場での生産は約 80 MWp に達した。 5) Ersol 社は 2008 年に 160 MWp を計画 かなり早い段階から Ersol 社は、一連の事業を完全にカバーすることにより、すなわち

リサイクルされたシリコンの生産、販売およびシステム統合により、垂直統合の完成を指

向していた。同社は、結晶性シリコン太陽電池については 180 MWp、アモルファス薄膜

シリコンについては 40 MWpの生産能力をもっている。Ersol社は 2007年の生産 55 MWpを 2008 年には 160 MWp に拡大する計画である(140 MWp は結晶性太陽電池、20 MWpはアモルファスシリコン)。同社の生産高はすでに、2007 年に 1 億 6,020 万ユーロに達し

た(2006 年は 1 億 2,880 万ユーロ)。 その他の欧州企業も、ドイツのEver-Q社、ノルウェーのScancell社、オランダのSolland

社にみられるように 近台頭してきている。これら企業は生産能力を今年にはそれぞれ

150 MWp、200 MWp、170 MWp にする計画である。 3. 2010 年までに 10,000 MWp 達成か? 欧州における太陽光発電部門のダイナミズムは継続すると考えられる。EU 内の大国の

ほとんどは、同部門の発展を促すために十分なインセンティブ制度を設け、その結果はス

ペイン、イタリア、ポルトガル、そして系統に連系されるのを待っている設備を考慮すれ

ばフランスでさえ見られる。同時に、ドイツ市場もかつて無いレベルに到達したが、未だ

飽和状態に達するにはほど遠いように見える。2008 年 2 月に発行された「2012 年までの

太陽光発電の世界市場見通し」で、EPIA は世界市場および主要国市場に関する 2 つのシ

ナリオ(「悲観的シナリオ」と「政策推進シナリオ」)を描いた。 悲観的シナリオによれば、EU 市場の大半を占める欧州の 6 つの主要市場(ドイツ、ス

ペイン、イタリア、ギリシャ、フランスおよびポルトガル)について、新規設置容量は 2008年に 1,965 MWp 、2009 年に 2,120MWp、2010 年に 2,430MWp と予測している。EU に

おける 2007 年の総設置容量に関する我々の予測値を加えれば、この数字は欧州の総設備

容量を 11,200 MWp 以上に押し上げることになる。 政策推進シナリオの場合は、上記 6 主要市場での追加的設置容量は 2008 年に 2,340

MWp、2009 年に 2,940 MWp、2010 年に 3,550MWp となり、2010 年時点での EU にお

ける総設備容量は 13,500 MWp に達する。我々の予測は、ドイツ市場が今後 3 年間、毎年

1,100 MWp を維持すること (すなわち、総設備容量は 7,150MWp)、また、予測可能な範

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囲で EU 内の他の 5 大市場が成長すること(すなわち、2010 年末時点での総設備容量は

10,300MWp)を前提としている(図 4)。2006 年にすでに達成されている白書の目標は 3倍以上にすべきで、欧州部門における成功を記すものとなっている。

これらの予測は、現在起こっている産業界のダイナミズムと一致しており、太陽光発電

技術が個人や大規模発電設備への投資家にとってますます魅力的になっている同じ時期に

行われている。ただし、2010 年時点でも EU の太陽光発電容量の 2/3 以上を占めているで

あろうドイツ市場が、今後どの程度設置容量を拡大できるかが大きな問題として残るであ

ろう。

図 4 現在の傾向と白書の目標の比較(MWp) 出典:EurObserv’ER 2008

白書の目標

現在の傾向

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出典:AGEE STAT, BSW, Photon International (Germany), IDAE (Spain), CESI Ricersa (Italy), ERDF, ADEME (France), IT Power (United Kingdom), Arsenal Research (Austria), Senter Novem, Holland Solar (the Netherlands), Helapco (Greece), ACS/FTE (Sweden), Motiva (Finland), EDP (Portugal), PA Energy (Denmark), Center for Photovoltaics, Warsaw University of Technology (Poland and Some Eastern Countries), APE (Slovenia), Institute of Physical Energetics (Latvia Academy of Science), ILR, CEGEDEL (Luxembourg), MRA (Malta), Cyprus Energy Institute (Cyprus), Eirgrid (Ireland), Ministry of Industry and Trade (Czech Republic)

翻訳:吉野 晴美 出 典 : PHOTOVOLTAIC ENERGY BAROMETER: TOTAL EU INSTALLED CAPACITY IN 2007 4689.5 MWP (http://www.energies-renouvelables.org/observ-er/stat_baro/observ/baro184.pdf) フランスの Observ'ER(Observatoire des énergies renouvelables:再生可能エネルギー観測所)が作

成した刊行物を許可の下に翻訳・掲載した。この刊行物は「EurObserv’ER プロジェクト」の成果

であり、その詳細は下記のとおりである。 This barometer was prepared by Observ’ER in the scope of the “EurObserv’ER” Project which groups together Observ’ER, Eurec Agency, Erec, Jozef Stefan Institute, Eufores, with the financial support of the Ademe and DG Tren (“Intelligent Energy-Europe” programme). The sole responsibility for the content of this publication lies with the authors. It does not represent the opinion of the European Communities. The European Commission is not responsible for any use that may be made of the information contained therein.

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EU の 2007 年末 1時点での累積太陽光発電設備容量(MWp)

出典:EurObserv’ER 2008

4689.5 1541.2

1:推定値 2:フランス海外県も含む

EU 各国の 2007 年末 1

時点での累積設備容量 (MWp)

EU 各国で 2007 年 1単年

に新規導入された容量

(MWp)

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【エネルギー】バイオ燃料 小規模バイオリファイナリーに DOE が最大 4,000 万ドル助成(米国) 持続可能で競争力のある非食物系の次世代セルロース系バイオ燃料計画に助成を継続

2008 年 7 月、米国エネルギー省(DOE: Department of Energy)は、選定した 2 件の小規

模セルロース系バイオリファイナリー・プロジェクト(於ウィスコンシン州パークフォー

ルズ及びルイジアナ州ジェニング)に、5 年間で 大 4,000 万ドルの助成を行うことを発

表した。これらのプロジェクトは、2012 年までにセルロース系エタノールのコスト競争力

をトウモロコシ系エタノールと同程度までに高めるというブッシュ大統領の目標を推進す

るとともに、代替および再生可能輸送燃料の利用可能性の拡大によって米国のガソリン使

用量を削減する一助となる。 「私達は米国の増加するエネルギー需要を満たすために、エネルギー安全保障の向上と

温室効果ガス排出量の削減を目標として、研究を継続しクリーンエネルギーの解決策を進

めていかなければならない。クリーンで持続可能なセルロース系バイオ燃料は、その一翼

を担っている」と DOE のアンディ・カーズナー次官補は話す。「これらのバイオリファ

イナリーで非食物系資源から燃料を製造し、車両への動力供給や、米国の海外石油への依

存低減を目指す。」 商業規模バイオリファイナリーは非食物系原料を平均で一日約 700 トン以上処理し、バ

イオ燃料の年間生産量は約 1,500~3,000 万ガロンである。今回の小規模プラントでは一

日約 70 トンの原料処理で、年間 150~600 万ガロンの生産量を見込んでいる。今回選定さ

れた小規模プロジェクトでは、木材やエネルギー作物、農業廃棄物からセルロース系エタ

ノールなどの液体輸送燃料を生産する。 これら 2 件のバイオリファイナリー・プロジェクトは、DOE の小規模バイオリファイ

ナリー・プロジェクトの 終公募で選定された。2008 年早期に、DOE は規模と実験領域

がほぼ同等の 7 件のプロジェクトを選定しており、総助成額は 大 2 億ドルにのぼってい

た 1。今回発表された 2 件の新しい追加プロジェクトを合わせると、これら 9 件の小規模

バイオリファイナリー・プロジェクトへの DOE 総助成額は、 大 2 億 4,000 万ドルとな

る 2。(助成額は今後 5 年間に議会から示される予算案 3を前提としている)。連邦政府の

1 小規模バイオリファイナリー・プロジェクト(DOE 第一回公募・4 件)の関連記事: (NEDO 海外レポート 1017 号)http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1017/1017-09.pdf

2 DOE 小規模バイオリファイナリー・プロジェクト一覧表: http://www.energy.gov/media/Small_Scale_Biorefineries_Matrix.pdf

3 米国の予算制度では、政策的な予算は行政府ではなく議会が予算案を作成する。大統領が議会に提出する予算教書は「行政府としての希望」を表明したものである。

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助成額と産業界のコスト負担額を合わせると、これら 9 件のプロジェクトには、今後 4~5年間で 7 億 3,500 万ドル以上が投資される予定である。 2007 年に DOE はバイオ燃料研究開発の複数年プロジェクトに対して 10 億ドル以上の

助成を行うことを発表したが、今回の発表はその一環である。これらの小規模バイオリフ

ァイナリー・プロジェクトは、DOE が助成する商業規模バイオリファイナリー・プロジ

ェクトを補完するものである。商業規模バイオリファイナリーでは短期の商業化プロセス

に重点が置かれているのに対し、小規模プラントでは新規処理技術を用いて様々な原料の

実験を縮小サイズで行い、その統合的運用を評価する予定。 セルロース系エタノールは、様々な種類の植物原料や非食物系原料(農業廃棄物(トウ

モロコシ茎葉等)、森林廃棄物(おが屑、森林間伐材等)、及びエネルギー作物(スイッ

チグラス等))から製造される代替燃料である。DOE アルゴンヌ国立研究所の科学者が

実施した研究では、セルロース系物質から製造したエタノールは、従来のガソリンと比較

した場合、製造に必要な化石エネルギーが 90%ほど少なくてすみ、ライフサイクル 4にお

ける温室効果ガスの排出量を 86%以上削減できる可能性がある。 今回選定された企業と DOE の間で、プロジェクトの 終計画と助成額を決定する交渉

が早急に始められる。 (1) Flambeau River Biofuels (FRB)社(ウィスコンシン州パークフォールズ)5 計画されているバイオリファイナリーは、ウィスコンシン州パークフォールズの既存の

紙パルプ工場に併設される予定であり、再生可能で豊富なセルロース系(木質系)バイオ

マスから液体燃料を生産する。同バイオリファイナリーはいかなる食物系原料も利用せず、

森林資源や農業資源の副産物や残渣を利用する。同プラントの完成後は、ホストプラント

用の再生可能エネルギーを少なくとも 1 兆 Btu6 生産し、輸送用燃料(サルファーフリー

軽油)を年間 600 万ガロン(約 22,700kl)生産する予定。 以下が FRB 社のプロジェクトへの参加事業者および投資元である: ANL Consultants 社、オーバン大学、ブリガム・ヤング大学、Citigroup Global Markets

社、CleanTech Partners 社、Emerging Fuels Technology 社、Flambeau River Papers社、Johnson Timber 社、国立再生可能エネルギー研究所(NREL)、ミシガン工科大学、ノ

ースカロライナ州立大学、オークリッジ国立研究所(ORNL)、ThermoChem Recovery International(TRI)社、ウィスコンシン大学、米国農務省林産研究所。

4 資源の採取、燃料への変換、輸送、消費(燃焼)時までの全プロセスを通した場合の評価。バイ

オ燃料の場合でも、原料収穫のための動力、製造段階での過熱、肥料の製造などのために化石燃料を使用する可能性がある。

5 http://www.energy.gov/media/Flambeau_River_Biofuels.pdf 6 Btu: British Thermal Unit 英国熱量単位。1Btu=1,055J(ジュール)=252cal(カロリー)。

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(2) Verenium Biofuels 社(ルイジアナ州ジェニングズ)7 Verenium 社の実証規模のセルロース系エタノール生産プラント(年間 150 万ガロン生

産)は現在建設中であり、2008 年後半に完成予定である。同プロジェクトは、多様なバイ

オマス原料(サトウキビバガス、農業副産物、廃材、その他の非食物系エネルギー作物等)

からエタノールを製造する同社特許技術の早急な商業化を進める。ルイジアナ州ジェニン

グズの実証プラントは Verenium 社(Celunol 社と Diversa 社の合併を通して 2007 年に

設立)により運営されている。 今回の発表についての詳細は以下も参照されたい。

翻訳:大釜 みどり

出典:http://www.doe.gov/news/6413.htm

7 http://www.energy.gov/media/Verenium_Biofuels.pdf

(出所):DOE 米国のバイオ燃料プロジェクトマップ

http://www.energy.gov/media/Biofuels_Project_Locations.pdf

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【エネルギー】 省エネルギー

病院をエネルギースマートに(米国)

DOE は全米の病院でエネルギーと費用を節約するイニシアティブに着手

米国エネルギー省(DOE)エネルギー担当官の Richard F. Moorer 氏は、「エネルギー

スマートな病院イニシアティブ」に着手すると発表した。これは、全米の病院で、エネル

ギー効率の良い技術の利用を高めるためのものである。国内にある 8,000 の病院は、商業

施設の中で もエネルギー集約度が高く、「エネルギースマートな病院イニシアティブ」は

既存の病院施設については 20%、新築の病院に関しては現行の基準より 30%エネルギー効

率を向上させることを目標にしている。イニシアティブは、病院がエネルギーコストを数

百万ドル節約するだけでなく、二酸化炭素の排出を削減する機会を認識するのに役立つ可

能性がある。 「今日、病院関係者は、自分達がヘルスケア部門の費用増大およびエネルギーコストの

上昇という、我が国で も重要な 2 つの現実の重なる部分に位置していることを認識して

いる。」Moorer 氏はこう述べた。「2014 年までに大型の病院建設が計画されているため、

病院がエネルギー効率を向上させるのを支援する極めてまれな機会が訪れました。これに

より、病院はエネルギーコストを削減し、ヘルスケア予算に対する制約から解放されて患

者の治療に再投資できるようになるのです。」 昨年、病院はエネルギーコストに 50 億ドル以上支出した。商業用オフィスビルと比べ

てエネルギー集約度と単位当たりの二酸化炭素排出量は 2.5 倍であった。他の多くの商業

用ビルと違い、病院は 1 日 24 時間、1 週間に 7 日運営され、電力の供給停止時、自然災

害時、他の施設が閉鎖に追い込まれるような事態が起こった時にもサービスを供給しなけ

ればならない。 米国病院技術協会(American Society for Healthcare Engineering: ASHE)の年次会合

で発表された「エネルギースマートな病院イニシアティブ」は、ツール、資源、ケースス

タディ、設計戦略を提供することになっている。これらは、病院がエネルギー効率向上に

伴う課題に対処する一方で、患者に質の高いケアを提供し、費用効率を高め、健全な治療

と職場環境を維持するのを支援するものである。ツールと資源には、大小の病院に対する先

進的エネルギー設計指針、技術評価、および双方向性のウェブサイトが含まれる。イニシ

アティブはまた、今後まず 5 つの大都市圏にある病院でトレーニングセッションのシリー

ズを設ける予定である。

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エネルギースマートな病院についての詳細は、以下のサイトから入手可能である。 EnergySmart Hospitals http://www1.eere.energy.gov/buildings/energysmarthospitals/

翻訳:吉野 晴美 出典:http://www.energy.gov/print/6428.htm

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【産業技術】ライフサイエンス

カラーの MRI 撮像を可能にする微小磁石の「スマートタグ 1」(米国)

特別に誂えた微小な磁石を体内に注入することにより、核磁気共鳴画像法(magnetic

resonance imaging:MRI)の感度や MRI 画像から得られる情報量が向上し、さらにはカ

ラーの MRI 撮像が可能になる日がくるかもしれないと米国国立標準技術研究所(National Institute of Standard and Technology:NIST)と米国国立衛生研究所(National Institute of Health:NIH)の研究者らが発表した。この新しい微小磁石はまた、医学の研究や診断

において特定の細胞、組織、生理的状態などを識別するための「スマートタグ」としても

利用できるという。

MRI に対する新しいアプローチ方法の原理を検証した NIST と NIH の研究者らによる

論文が 6 月 19 日号の Nature 誌に掲載された 2。この微小磁石はこれまで MRI の造影剤

として利用されてきた化学的な合成物質とは異なり、細かい調整が可能な物理的形状を変

えることによって、画像の作成に必要な無線周波(RF)信号を調節する。これらの RF 信号

は、コンピュータを使ってさまざまな可視色に変換することができる。 異なる色に変換さ

れるように設計された磁石に対して、たとえばガン細胞と正常細胞など別種の細胞に付着

するように被覆を施せば、それぞれの細胞はこのタグの色によって識別できるようになる。 「現行の MRI 技術では白黒の撮像しかできないが、この磁石はちょうどカラータグの

ように利用することができる」と論文の主執筆者である Gary Zabow は言う。Zabow は、

1 スマートタグ:ものに ID を割り当てて外部から簡単に読み書きできるようにする RFID(無線識別)技術

を使った IC タグであり、流通業などで広く普及している。RFID タグ、無線タグなどとも呼ばれる。 2 G. Zabow, S. Dodd, J. Moreland, A. Koretsky. 2008. Micro-engineered local field control for

high-sensitivity multispectral MRI. Nature. June 19.

NIST と NIH の共同プロジェクトによって設計・テストされた微小磁石(左)を体内

に注入することにより、医学の診断や研究における MRI 技術で、カラー撮像が可能に

なるほか、これらの微小磁石をスマートタグとして利用できるようになる日がくるか

もしれない。 右側の写真は、従来の微細加工技術を使って基板上に並べられた磁石か

らの拡散光を示している。Credit: G. Zabow, NIST/NIH

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NIST でこの微小なタグを設計・加工し、NIH の一部である米国国立神経疾患・脳卒中研

究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke:NINDS)の研究者らと共

同で今回の MRI 装置を使ったテストを行った。 この微小磁石はまた、超小型の RFID タグとして、全国の出荷貨物からスーパーマーケ

ットにある食品までさまざまなものの識別や追跡に利用されているスマートタグのように

利用することもできる。この磁石のコンセプトは柔軟性に富んだものであり、たとえばバ

イオテクノロジーで利用される RFID を用いたマイクロ流体デバイス 3や、ハンドヘルド

型の診断ツールキットなど、MRI 以外にもさまざまな用途への応用が期待できる。

MRI 検査の受診者がこの技術を利用できるようになるまでには、臨床的な研究も含めて、

さらに設計やテストを進めていく必要がある。今回の研究ではニッケル製の磁石が使用さ

れた。ニッケルは有毒であるが、 初の試作品で使うには比較的利用しやすい材料であっ

た。しかし Zabow によれば、この磁石は鉄などほかの磁性材料でも作ることができると

いう。鉄は毒性を持たない磁性物質であり、医療現場ですでに薬剤への使用が認められて

いるケースもある。MRI の画質を向上させるために必要とされる体内の磁束密度は、ごく

低いものである。 それぞれの微小磁石は、直径数マイクロメートルの 2 枚の磁気ディスクが小さな空間で

隔てられて垂直方向に重なった形状をしている。磁石の材料を変えたり、ディスク同士を

隔てる空間を大きくする、あるいはディスクの厚みや直径を変えて形を変化させたりする

ことにより、異なる磁場を持つ磁石を作ることができる。ディスクの間を水が流れると、

水素原子内の陽子(プロトン)が回転する棒磁石のように振る舞い、RF 信号を発する。

これらの信号を使って画像が作成されるが、このとき磁場が大きければ大きいほどプロト

ンの回転も早くなる。

これらの磁石が空間を挟んだサンドイッチのような形状をしていることから、ディスク

の間を通って水が移動、あるいは拡散することが可能であり、そのために同量の静止した

水と比べて何千倍も強い信号が発生する。水の拡散によって局所的な MRI 感度を効率よ

く向上させるこの技術は、将来、撮像の高速化や画像情報量の増加、必要な造影剤の量の

低減などといった実用的な利益を医療現場にもたらす可能性がある。今回のテスト結果か

らは、磁石の形状を変えると RF 信号も大きく変化するということがわかった。これらの

磁石はその物理的形状から、従来の注射式の MRI 造影剤よりも簡単に調整できるように

設計することができる。MRI の造影剤は、水中の水素原子核に加えられる磁場を変化させ

ることによって画像をより鮮明なものにする働きをする。これまでの造影剤は化学的に合

成された物質であったが、今回テストされた新しい微小磁石は微細加工によって作られる。

3 マイクロ流体デバイス:半導体微細加工技術を使って微細な流路パターンを作り、そこで化学的、生化学的、

物理化学的反応などを実現させるデバイス。

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そのため、制御がより容易であるほか、磁場の変調幅も広くなり、検出感度が大きく向上

する。 さらにこの技術では、分子の化学的な混成物である多くの造影剤と異なり、微小磁石を

個々に検出して画像化することができる。これらの磁石はまた、たとえばディスク間の空

隙を塞いで水の通過を阻むことによって、オンとオフを切り替えられるように設計するこ

ともできる。そのためには、特定の物質に触れたときや、特定の条件下に置かれたときに

溶解する性質を持つ物質でディスク間の空間を塞げばよいと Zabow は言う。 この微小磁石は従来の微細加工技術を使って作ることが可能であり、また、通常の MRI

装置で利用することができる。論文によれば、高度なコンピュータチップの製造に使われ

る 先端のリソグラフィ技術を用いれば、このタグをさらに小さくしてナノレベルに近づ

けることも可能かもしれないという。 バイオテクノロジーの分野ではすでに、組織サンプルの光学像を撮像する際に蛍光タン

パク質 4や量子ドット 5などさまざまな色の付いたマーカー(目印)が利用されているが、

この磁石を使えば、医療診断の分野でもそれらに匹敵するような情報量の多い画像を得る

ことができるようになる。

NIH は、この微小磁石に対する暫定特許を出願している。

Zabow の研究は、NIH の一部である米国国立生物医学画像・生物工学研究所(National Institute of Biomedical Imaging and Bioengineering:NIBIB)から、NIST/NIH-NIBIB National Research Council Joint Associateship Programを通して資金助成を受けている。

このプログラムは、MRI などの技術を向上させるために、生物医学の研究への物理学者の

参加を促進することを目的とした助成プログラムである。

翻訳:桑原 未知子 出典:NIST/NIH Micromagnets Show Promise as Colorful ‘Smart Tags’ for Magnetic

Resonance Imaging http://www.nist.gov/public_affairs/releases/mri.html

4 蛍光タンパク質:特定の波長の光線をあてるとそれとは異なる特定の波長の光(蛍光)を発するタンパク質。 5 量子ドット:電子を微小な箱に閉じこめた構造を持つ半導体微粒子。