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January 12, 2018
・ 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。
本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の
実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは
ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、
その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実
際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。
・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ銀行に帰属します。本資料の本文の一部または
全部について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。
・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。
BTMU Global Business Insight
Asia & Oceania
Ⅰ.労働組合が求める会社業績開示について
Forum AMYN President Director 高岡 結貴
Ⅱ.インドの企業コンプライアンス-故意の懈怠者(Willful Defaulters)
などを企業倒産処理手続きから排除する政令
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
外国法事務弁護士 アシッシ・ジェジュルカール 弁護士 丹生谷 美穂
Ⅲ.「ウェイ」「バリュー」をグローバルに浸透させる上でのポイント
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 シニアマネージャー 金井 恭太郎
Ⅳ.海外勤務者にかかる税金と保険
(4)海外勤務者の住宅借入金等特別控除
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵
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… 4
… 6
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Ⅰ.労働組合が求める会社業績開示について
概要
何らかの形で会社業績データを労働組合に開示している会社は少なくない。ただし財務諸表をそのまま
開示するのではなく、幾つかの項目の予算や目標達成率や前年度実績比などを開示し、必要な補助情報を
添えて説明するのが一般的である。正しい会計知識、経営知識を持っている労働組合は少ないため、情報
理解のための教育も並行して行う必要がある。
<質問>
労働組合と年次昇給や賞与の協議をするたびに、会社業績データの開示を求められます。一度開示して
しまうと中止することができないでしょうから、業績が良くても悪くても開示しなければならなくなり、
大変不安です。他社はどのように対応しているのでしょうか。
年次昇給や賞与も会社の業績に連動するのが一般的ですので、会社の状況が実はどうなのかを労働組合
が知りたがるというのはある意味当然かと思われます。日本の労働組合のように会社の発展がなければ社
員の福利厚生向上もあり得ないことをきちんと理解していれば、あるがままの状況を開示しても問題ない
と思います。しかし、残念ながらインドネシアの労働組合では上部団体も含め、そこまで理解されていま
せん。開示の仕方も労働組合の成熟度によって異なってくると思います。
何らかの形で会社業績を開示している会社は少なからずあると思いますが、財務諸表をそのまま開示す
る会社はほとんどないのではないでしょうか。といいますのも、財務諸表の見方をきちんと理解していな
いと誤った判断をしてしまうからです。損益計算書やバランスシートの見方、計上の仕方などはきちんと
した会計知識が必要です。キャッシュフローの大切さなどを労働組合が正しく理解しているケースは決し
て多いとはいえません。結局、「利益」という言葉だけを探し出し、その数値のみが一人歩きしてしまう
可能性があるのです。会社の状況が悪化していて利益がマイナスになっている場合は労働組合も理解でき
るかもしれませんが、利益が出ている場合はそれを全て社員に還元していいものだと思ってしまうかもし
れません。
一方で生産台数や販売単価、原材料費などは組合員が本気になって情報を集めれば、実は分かることな
のかもしれません。とはいえ、これで全ての収入と支出を計算できるわけではなく、自分たちの計算から
割り出した数値と財務諸表の数値が異なると「会社は正直に開示していない」「社員をだまそうとしてい
る」などとみられる可能性すらあります。では、どのような開示の仕方が比較的リスクが少ないのでしょ
うか。
最も一般的なのは予算達成率ではないかと思います。各社でさまざまな予算上の数値、もしくは年度目
標が設定されています。受注、売り上げ、生産台数、経常利益/営業利益/純利益、利益率などの予算や
目標を毎年定めますので、会社はその達成率を常にデータとして持っています。予算や目標を達成すれば、
会社として満足できるということになりますので、それを基に交渉することは可能でしょう。予算や目標
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の数値は前年度中に翌年度の市場状況などを鑑みた上で設定された数値ですので、現実的ではないかと思
います。
しかし、市場もしくは会社状況が芳しくないときに定めた予算や目標を 100%達成しても、会社の経営
状況は決していいわけではありません。そのようなときには、どうしても累計利益などを使って説明しな
ければなりません。この開示が可能かどうかは難しいところです。
また一方で、前年度実績比の業績を開示する場合もあるようです。前年よりもどれくらい増えている、
減っているということは比較的分かりやすいからです。ただ社員数の前年比と関連させて説明しなければ
「前年度に比べて生産台数が倍になっているから、賞与を倍にしてほしい」などと単純に考えられてしま
う可能性があります。社員数が実は 1.5倍になっているかもしれませんし、生産量が増えていても原材料
価格の高騰で利益は減っているのかもしれません。このような補助データの開示をどれくらいできるかと
いうことも重ねて検討が必要です。
その他、受注や売り上げの数値を開示する会社もあるようです。ただ前年度実績比の業績と同様、必ず
しも利益の変動と受注や売り上げの数値の変動は一致しません。数値を開示すると、それだけのキャッシ
ュがあるような錯覚を起こしてしまいがちです。たとえキャッシュがあったとしても長期的な投資を鑑み
ながら、また株主への配当も考慮しながら利益配分は定められます。つまり、業績数値だけでは年次昇給
や賞与を決定できないということです。このような仕組みを理解できているインドネシアの労働組合は残
念ながらまれだと思われます。従って、情報開示と共に、労働組合の教育を並行して行うことが大変大切
になります。
記事提供:Forum AMYN
President Director 高岡 結貴
(2017年 12月 4日作成)
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Ⅱ.インドの企業コンプライアンス-故意の懈怠者(Willful Defaulters)
などを企業倒産処理手続きから排除する政令
概要
以前は、倒産破産法上、故意の懈怠者(Willful Defaulters)などであっても再生計画を提出し、再生手
続きに参加、不良資産(NPA)を取得することが認められていましたが、その資格を規定し提出者の詳
細明記を義務付ける追加の政令が提出される予定です。
2016 年倒産破産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)に基づくスキーム:
インドにおいて、会社が債権者に対して負う未払い債務が 10 万インドルピー以上となった場合、債権
者は、倒産破産法に基づく手続きを開始することができます。倒産破産法上、270 日以内に会社およびそ
の事業に関する再生計画(債権者が容認する再生計画を言う)を作成しなければ、当該会社は倒産破産法
に基づき清算されます。
倒産破産法は、2016 年 1 月より段階的に施行されていますが、ある事案において、プロモーター(支
配株主)などが再建計画を提出し、これが承認されたことで、債権者らは 94%の債務削減をのまなけれ
ばならなくなり、貸付金額の 6%しか回収することができないという事態が発生しました。その結果、こ
の会社のプロモーターは、会社を投げ売り価格で取り戻すことが可能となりました。
この事案を機に、銀行その他の債権者は、その後の破産事案を倒産破産法による処理に委ねることに前
向きでなくなり、銀行や債権者は大きな問題を抱えることになりました。インド政府は、再発防止のため、
2017 年 11 月 22 日に政令(以下、本政令)を発しました。インドでは、全ての政令は、国会によって 6
カ月以内に承認されなければならず、承認されない場合、当該政令は失効します。本政令は、承認のため
に、この冬季のインド国会(2017年 12月 15日から 2018 年 1月 5日)に提出される予定です。
本政令の内容および目的:
本政令以前は、倒産破産法上、故意の懈怠者(Willful Defaulters)などであっても再生計画を提出し、
再生手続きに参加、債務企業の資産を取得することが認められていましたが、前述のような事態の再発を
防止するため、本政令により、以下に該当する者は債務企業の債権者委員会(Committee of Creditors of
the defaulting company)に対して再生計画を提出することができないこととなります(すなわち、これ
らの者は無資格者となり、その結果、再生計画の提出を禁止されます)。
(i)銀行口座が過去 1 年間に不良資産(NPA)として分類され、支払期限の到来した金銭(利息を含
む)を支払うことができない者
(ii)故意の懈怠者(不良資産に関連のある者または常習的に法令順守を怠っており会社の再建におい
てリスクとなる者)
(iii)2年以上の禁錮の対象となる犯罪について有罪判決を受けた者または 2013年会社法に基づき取締
役に就任する資格のない者
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(iv)債務不履行をした会社の保証人
(v)その他の欠格事由に該当する者
また、上記と関連のある者または共同して行為をする者も、無資格者とされます。
本政令の根拠:
本政令は、過ちを犯したプロモーターが会社の再生計画を提出し、会社を支配すると同時に債権者に債
務削減を要請することを認めれば、モラルハザードを発生させるとの見解に基づくものです。また、係る
過ちを犯したプロモーターは、自らの過ちから利益を受けるべきではないといえます。
本政令は、倒産破産法に基づいて制定された規則についての 2017年 11月 7日の改正に追加されるもの
です。この 11 月 7 日の改正により、債権者委員会に提出される(債務企業に関する)再生計画には、再
生申立人および関係者の詳細を明記することが義務付けられましたが、これには他の法律または有罪判決
に基づく欠格事由、当該申立人による故意の懈怠その他の詳細も含まれます。上記の通り、本政令により、
故意の懈怠者およびその関係者は債務企業の再生申し立てを行う資格を失うことになるため、債権者委員
会や債権者委員会を援助する倒産専門家にとっては、故意の懈怠者に関して行う煩雑なデューデリジェン
スの負担が軽減されることになります。なお、その他の再生申立人については、債権者委員会は、2017
年 11 月 7 日改正規則に照らして係る再生申立人の履歴を検証し、再生計画を受理するか否かについて合
理的な判断を下さなければなりません。
コメント:
・最新の報告によれば、インドにおける不良資産は、約 2,070 億米ドルに上ります。過ちを犯した故意
の懈怠者を無資格とすることで、競業他社や新規参入者(国内および国外を含む)でも、このような
資産(その一部は主要産業や戦略的産業における資産である)を取得できる可能性が生じるといえま
す。
・また、不良資産管理会社や企業買収などを行うファンドは、係るインド資産の購入を積極的に検討し
ています。このようなファンド(および債務企業の競業他社)にとっては、魅力的な価格で重要な資
産の入札に参加することが容易となる可能性が高くなります。
・倒産破産法は、英国の法律をモデルとしていますが、英国および米国においては、プロモーターが再
生手続きに参加する資格を失うということはありません。
・本政令により、倒産処理手続きが実務上どのように機能し、債権者の利益に資するか、注視していく
必要があるでしょう。
記事提供:渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
外国法事務弁護士 アシッシ・ジェジュルカール
弁護士 丹生谷 美穂
(2017年 12月 13日作成)
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Ⅲ.「ウェイ」「バリュー」をグローバルに浸透させる上でのポイント
はじめに
「ウェイ」「バリュー」(本稿では、企業理念、共通価値、行動規範などを総称して「ウェイ」「バリュ
ー」と呼ぶ)の浸透は、多くの企業が重要視し、さまざまな取り組みを推進しているテーマである。例え
ば、ゼネラル・エレクトリック(GE)の GE Beliefs(旧名称:Values)やトヨタ自動車のトヨタウェイ
の浸透に向けた取り組みについて、一度は見聞きした記憶があるのではないだろうか。
近年のビジネスのグローバル化の潮流に伴い、海外拠点における「ウェイ」「バリュー」の浸透が重要
視されてきている。当然のことながら、商習慣・文化的な背景などが異なる海外の人材の「ウェイ」「バ
リュー」への理解を深めることは、日本国内と比較して格段に難易度が高い。
本稿では、グローバルでの「ウェイ」「バリュー」の浸透のポイントについて、日本の大手製造業 A社
の事例を交えながら考察していきたい。
コミュニケーションプロセス設計・展開の三つのポイント
「ウェイ」「バリュー」の浸透においては、魅力的なパンフレットやメッセージの作成に注力しがちだ
が、作成物を各海外拠点に配布するだけでは浸透は進まない。重要なのは、グローバル本社と海外拠点が
一丸となって設計・展開するコミュニケーションプロセスだ。コミュニケーションプロセス設計・展開に
は大きく下記の三つのポイントがある。
・グローバル本社と海外拠点の間でのゴールイメージの共有
・ローカル人材へのメリットの実感の醸成
・「ウェイ」「バリュー」の体現が継続する環境の構築
以下、コミュニケーションプロセス設計・展開の三つのポイントの具体的な内容について紹介したい。
グローバル本社と海外拠点の間でのゴールイメージの共有
他社のウェブサイト記載の「ウェイ」「バリュー」を初めて見た際に「良いことが書かれているが、各
社代わり映えしない」と感じたことはないだろうか。グローバル本社が配布したパンフレットなどを読ん
だ海外拠点のローカル社員も、同じように感じる可能性がある。それでは「ウェイ」「バリュー」はお題
目で終わってしまい、ローカル社員の行動は変わらない。行動を変えるためには、抽象度が高い「ウェイ」
「バリュー」を業務での行動につなげる必要がある。そのためには「ウェイ」「バリュー」を体現してい
る社員が暗黙的に共有している「仕事の進め方」を定義することが有効だ。
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【「ウェイ」「バリュー」の「業務における行動」への落とし込み例】
レイヤー 具体例
「ウェイ」「バリュー」 徹底完遂
「仕事の進め方」 取り組む前に明確な目標と期日・やるべきことを設定、周囲に宣言し、その取り組み結果・進捗(しんちょく)を日々確認する
「業務における行動」 「目標:コスト削減 XX%、期日:本年度末、やるべきこと:XXXXX」をデスクの見える箇所に掲示し、毎朝確認する
A 社においては、まずは日本のグローバル本社主導で「ウェイ」「バリュー」とそれに基づく「仕事の
進め方」を定義した。「ウェイ」「バリュー」の 1 項目に対して、関連する「仕事の進め方」が 4~5 項目
程度示される形である。「仕事の進め方」は、日本のグローバル本社主導で、国内外で活躍している社員
へのインタビューを通じて整理した。その際に大きな論点となったのは「作成したものは日本的であり、
海外拠点に受け入れられないのでは」ということである。A社においては「日本発でグローバルに受け入
れられるものを作る」という思いを常に共有しながら、外国籍人材も含めて多様な人材を巻き込み徹底議
論することで、内容をブラッシュアップしていった。
「業務における行動」への落とし込みは、各海外拠点主導で実施した。各海外拠点が伝道師(「ウェイ」
「バリュー」の浸透を企画・リードする社員)を選定し、それぞれの現場の状況に応じて「ウェイ」「バ
リュー」を体現するとは何かを考えたのである。
示唆的だったのは、最終的な浸透度合いが高い海外拠点と低い海外拠点には、浸透を主導する伝道師の
人選に違いが見られたことだ。浸透度合いが高いのは、現場と人事部門、ローカル人材と日本人駐在員の
両方からバランス良く人選を行った海外拠点であった。業務への理解が深い現場、グローバル本社と連携
が強い人事部門、現地事情への理解が深いローカル人材、「ウェイ」「バリュー」への造詣が深い日本人駐
在員がそれぞれの長所を生かして連携し、具体的なゴールイメージの共有が進んだ結果である。日本人駐
在員のみが伝道師として奮闘した海外拠点は、残念ながらあまり成果が出ない傾向が見られた。
ローカル人材へのメリットの実感の醸成
「ウェイ」「バリュー」の浸透を進める上で「「ウェイ」「バリュー」で飯が食えるのか/もうかるのか」
という反応に直面した経験はないだろうか。そのような反応がある場合は「ウェイ」「バリュー」が「創
業精神を引き継ぐ」ものと限定的に捉えられている可能性がある。「ウェイ」「バリュー」は本来、「仕事
の進め方を通じて他社との差異化を図り、ビジネス上の競争優位を構築する」内容で策定されているはず
である。しかし、社員が見聞きするワーディングやエピソードが古いものであるなどの理由で限定的に捉
えられ、本来の趣旨が伝わっていないことがある。
背景の共有が少ない海外拠点のローカル人材に展開する場合は、その本来の趣旨を強調する仕掛けを作
り、メリットの実感を醸成する必要がある。メリットの実感は、机上で示すだけでは醸成が難しい。その
ため、実際に活躍しているローカル人材が、過去の具体的な体験を「ウェイ」「バリュー」とひも付けて
語ることが有効である。
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A社においては、ローカル人材のマネジャー陣が自身の体験を語る場を設定した。「ウェイ」「バリュー」
を体現する具体的な行動を通じて「どのような付加価値を生み出せたか」「会社全体の収益にどのような
貢献があったのか」「自分自身にどのような成長があったのか」を赤裸々に語ったのである。「ウェイ」「バ
リュー」を体現した結果、成果を出しているマネジャークラスのローカル人材の言葉は、同じローカル人
材の一般社員クラスにとって重みがある。ある程度、一般社員クラスのローカル人材にまでメリットの実
感が醸成されてきたタイミングで、間を空けずに彼/彼女らが主体的に関与する小集団活動、自身の経験
の共有などを展開し、浸透を後押しする流れを作った。
「ウェイ」「バリュー」の体現が継続する環境の構築
「ウェイ」「バリュー」の浸透に向けた取り組みが、一時的なお祭りとしては成功したが、数年後には
何も残らないというのもよくある話だ。そのような結果に終わった場合は、イベント的な活動で付いた火
をともし続ける努力が足りなかった可能性がある。「ウェイ」「バリュー」の浸透は、一度伝えきったら終
わりではない。効果を継続させるためには、海外拠点の現場において、人材育成などのソフト面と、制度・
仕組みなどのハード面の両輪で支えることが必要になる。
A 社は、経験則的に日本人駐在員が消極的な場合は「ウェイ」「バリュー」の浸透が進まないどころか
後退することを知っていた。そのため、日本からの駐在員が伝道師として機能するべく、駐在員育成に力
を入れた。育成内容として重視したのは「ウェイ」「バリュー」を海外にて体現し、さらにはローカル人
材への浸透を進めるための方法論である。トレーニング内容としては、過去の事例に基づくケースメソッ
ドを題材とした研修、駐在経験者との座談会などを用意した。それらのトレーニングを通じて、駐在員が
海外拠点において「ウェイ」「バリュー」を浸透する上で意識すべき勘所を理解し、早期に伝道師として
の役割を遂行可能としたのである。
また、制度・仕組みとしては、グローバル本社主導で海外拠点のローカル社員を対象とした 360度評価
と従業員サーベイを実施した。360 度評価は「ウェイ」「バリュー」に基づくコンピテンシーを評価する
ものである。定期的に周囲からのフィードバックを受けることで、ローカル社員が「ウェイ」「バリュー」
を意識し続ける状況を構築した。従業員サーベイは「ウェイ」「バリュー」の浸透度合いを階層ごとに評
価する項目を入れ、海外拠点長の重要業績評価指標(Key Performance Indicator:KPI)の一つとした。
海外拠点長が、浸透が進んでいない階層、部署、職種などを把握し、対策を打つことへのインセンティブ
とし、コミットメントを強化したのである。
おわりに
日本の製造業は、トヨタウェイに代表されるように海外製造拠点において自社の製造手法と共に「ウェ
イ」「バリュー」を浸透させることで、製造品質について高い評価を得てきた。ところが、経営やプロジ
ェクトマネジメント領域については、自社の手法を「日本的なものは通用しない」と苦手にしてきた傾向
がある。しかしながら、近年グローバルビジネスの複雑性が高まる中、その重要性を耳にする機会が増え
ている。
例えば、海外において日本企業の駐在員が施設建設などのプロジェクトをマネジメントする際に、強み
である「日本品質」を実現するためには、ローカル人材に対して手順書的なものを徹底するだけではなく、
手順書には記載されない仕事の進め方や、趣旨を踏まえた柔軟な行動などを求める必要がある。そのため
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には、自社の「ウェイ」「バリュー」の浸透が一つの鍵になる。このようなケースは、具体的な商品や製
造ラインがないこと、社内だけでなくアライアンスパートナーなど社外の人材に対しても浸透させる必要
があることから「ウェイ」「バリュー」浸透の難易度は高く、大きなチャレンジとなる。
また、海外拠点におけるローカル人材の経営への登用を進めるためにも「ウェイ」「バリュー」の浸透
は重要である。経営を担うローカル人材に権限委譲し、意思決定を効率的かつスピーディーに行うために
は、KPIや目標管理制度などの仕組みを整えることに加え、本社と現地拠点の経営を担う人材が暗黙的な
価値を共有していることが大切だ。実際に、欧米企業はリーダーの行動特性の浸透、経営層のネットワー
キングなどを通じて暗黙的な価値を共有し、海外拠点におけるローカル人材の経営への登用を大きく進め、
ビジネスにおいて優位な状況をつくっている。
今後、日本企業がグローバルビジネスで勝ち抜く上で、経営・プロジェクトマネジメント領域での「ウ
ェイ」「バリュー」の浸透の重要性は高まることが予想される。グローバル全体での「ウェイ」「バリュー」
の浸透は、人材の意識・行動に働き掛ける取り組みであるため時間がかかる。浸透度合いが不十分な場合
は、早期の着手が望ましいといえる。
記事提供:三菱 UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
シニアマネージャー 金井 恭太郎
(2017年 12月 14日作成)
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Ⅳ.海外勤務者にかかる税金と保険
(4)海外勤務者の住宅借入金等特別控除
(前回のレポートは、以下の URLをクリックして本文をご参照ください。)
http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20171222.pdf
Q . 海外勤務者と住宅借入金等特別控除
このたび海外赴任することになりました。現在、住宅借入金等特別控除の適用を受けていますが、海外勤
務中は住宅借入金等特別控除の適用は受けられないのでしょうか。
A .
1.住宅借入金等特別控除適用の要件
(1)適用対象となる住宅ローンとその要件
平成 11(1999)年 1 月 1 日から平成 31(2019)年 6 月 30 日までの間に、10 年以上の償還期間があ
るローンで住宅を取得して、その取得の日から 6 カ月以内に居住の用に供した場合(取得の日から 6 カ
月以内に住んでいること)には、その居住の用に供した年以後一定期間(住宅取得年度により異なる)、
一定要件の下に一定額の「住宅借入金等特別控除」(以下「住宅ローン控除」)を受けることができます。
ただし、いずれの年分においても、その年の 12 月 31 日まで引き続き住居を居住の用に供しているこ
とが適用要件になっています。
(2)「平成 28 年度税制改正」による変更点
「平成 28年度税制改正」により、住宅ローン控除の適用対象者が、従来の「居住者」から「個人」に
変更になりました。これにより「非居住者」である海外勤務者が、平成 28(2016)年 4月 1日以降に購
入した住宅も、住宅ローン控除の適用対象になります。
つまり、税制改正前は、居住者として住宅の取得等をした場合に限り、住宅ローン控除を受けることが
できたのが、改正後は非居住者である海外勤務者が、その非居住者期間中に帰国後の生活のために住宅を
取得した場合でも、住宅ローン控除の適用ができるようになりました。
なお、適用を受ける各年の 12 月 31 日まで引き続き居住していることなどの居住要件や、合計所得金
額が 3,000 万円以下であることなどの所得要件は、改正の前後を通じて同じです。この改正は平成 28
(2016)年 4月 1日以後に取得や増改築をした場合に適用されています。
<注意 1>
海外勤務中に自宅などを賃貸に出し、不動産所得等を得るなどして日本で所得税の支払いが生じる場合、
非居住者期間中は住宅ローン控除の適用を受けることはできませんのでご注意ください(理由:非居住者
には住宅ローン控除をはじめとした税額控除は適用されないため)。
<注意 2>
この改正においては、住宅ローン控除の適用対象者が「居住者」から「個人」に変更になっただけであ
り、その他については一切の変更はありません。
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「購入してから 6カ月以内に居住の用に供した場合」という点も同じです。つまり、非居住者期間中(こ
の場合、海外勤務期間中)に住宅を購入した場合も、購入してから 6カ月以内に、購入した本人が居住を
開始する必要があります。そのため、この改正で恩恵を受けるためには、海外勤務中ではあるものの、購
入時点から 6 カ月以内に帰国して居住の用に供し、適用を受けようとする年の 12 月 31 日まで引き続き
住むことが必要になります。
なお、実際の取り扱いは必ず税務署などでご確認ください。
2. 帰国後に住宅ローン控除の再適用を受けるには ~出国まで税務署に所定の書類を提出~
海外勤務者が帰国して居住者となった後、再度その住宅を居住の用に供した場合(帰国後に控除が適用
されていた家に再度住むこと)は、それ以後の年分(残存控除適用期間内の各年分に限る)については、
住宅ローン控除の再適用が認められます。
このケースの場合も、海外勤務期間中の非居住者である年分については控除は適用されませんが、非居
住者が海外勤務を終え帰国して居住者となった後、住宅ローン控除の適用対象となっていた住居を再び居
住の用に供しているときは【図表 1】の通り、それ以後の残りの控除適用期間内の各年分については、再
度住宅ローン控除の適用が認められます(住宅ローン控除の再適用を受けるためには「その家屋を居住の
用に供しなくなる日(すなわち転勤する日)」までに「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届
出書」を提出する必要があります。詳細は最寄りの税務署(所得税担当)にお問い合わせください)。
【図表 1】海外勤務者と住宅ローン控除
★平成 24(2012)年度に住宅を取得した場合は、平成 33(2021)年度まで住宅ローン控除が適用されます。
海外勤務者と住宅借入金等特別控除のポイント
・帰国後は住宅借入金等特別控除の再適用が可能。ただし海外勤務中、控除が受けられなかった期間
が延長になるわけではない。
記事提供:三菱 UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
チーフコンサルタント 藤井 恵
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~アンケート実施中~
(回答時間:10秒。回答期限:2018年 1月 25日)
https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=M6Aj3s
(ご参考)最近発行した臨時増刊号
「アジアの最低賃金動向(2017年 12月)」2017年 12月 19日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20171219.pdf
「TPP11 大筋合意」2017年 11月 13日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20171113.pdf
(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部
(照会先)松山 昭浩 福住 知子
(e-mail): [email protected]
・ 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。
本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の
実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは
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本レポートのバックナンバーは、以下の URLからご覧いただけます。
http://www.bk.mufg.jp/houjin/kokusai_gaitame/report/index.html