btobコミュニケーションは クロス・プロモーションの時代へ€¦ ·...

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14 BtoBコミュニケーション 2018年9月号 先述の通り、これら① ②のテーマは、特に クロスメディアについて、様々な概念や方法論 が語られているのだが、BtoB 領域における、 この 2 つのテーマをつなぐ現実的な考え方はあ まり目にしないと感じる。そこで、 BtoB コミュ ニケーション(マーケティング)におけるクロ スメディアの現実的な方法論」を考えるのが今 回のテーマとも言える。 1 BtoB領域におけるクロスメディアとは A:クロスメディアとは何なのか? 常に言葉(用語)が先行するのがマーケテイ ングやコミュニケーションの世界なわけだが、 クロスメディアとは何かを正確に語れる人は、 どのくらいいるのだろうか? ちなみに、クロスメディアと語られている多 くは、メディアミックスやプロモーションミッ クスの延長上の話であるのが現実だ。 “正確に”とは、一般概念ではなく“自社に とっての…”として、である。 後で詳しく述べるが、BtoB 領域のクロスメ ディア、クロスプロモーションは“自社”が置 かれる市場環境により考え方が変わってくる。 さて、クロスメディアだが、どの企業におい ても共通して違うと考えなくてはいけないの が、ひと昔前の考え方として言われる「メディ アミックス」との相違である。 ちなみに有名な用語辞典でこの 2 つの言葉を 拾ってみると メディアミックス 複数のマス・メディアを組み合わせて展開す る広告戦略。性質の異なるメディアを組み合わ せることで,互いに補完したり,相乗効果をも たらすことが期待できる。 ちなみにプロモーションミックスは、メディ ア以外も含めた同様の考え方 クロスメディア 一つの情報を、複数の異なる種類の媒体を横 断的に利用して伝達すること。場所や状況に応 じて、最適な媒体を選んで情報にアクセスする ことができるなどの利点がある。 〈寄稿〉 BtoB コミュニケーションは クロス・プロモーションの時代へ 「BtoB マーケティング、コミュニケーションとは一体何か、どうあるべきか?」 「クロスメディアとは一体何か、どうあるべきか?」 この 2 つのテーマは、ここ数年目にする機会も多く、いろいろな形で語られてる。 結論から言えば両方とも正解があるテーマでは無く、そもそもコミュニケーションやマーケティングの正 解は、基本的な理論体系はあるものの結果論でしか語れない。 今回のテーマは、上記の 2 つのテーマに関する BtoB 領域にフォーカスしたひとつの考え方である。 溝口裕康 株式会社中外 専務執行役員

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Page 1: BtoBコミュニケーションは クロス・プロモーションの時代へ€¦ · かれる市場環境により考え方が変わってくる。 さて、クロスメディアだが、どの企業におい

14 BtoBコミュニケーション 2018年9月号

先述の通り、これら① ②のテーマは、特にクロスメディアについて、様々な概念や方法論

が語られているのだが、BtoB領域における、この 2つのテーマをつなぐ現実的な考え方はあまり目にしないと感じる。そこで、「BtoBコミュニケーション(マーケティング)におけるクロ

スメディアの現実的な方法論」を考えるのが今

回のテーマとも言える。

1:BtoB領域におけるクロスメディアとは

A:クロスメディアとは何なのか?

常に言葉(用語)が先行するのがマーケテイ

ングやコミュニケーションの世界なわけだが、

クロスメディアとは何かを正確に語れる人は、

どのくらいいるのだろうか?

ちなみに、クロスメディアと語られている多

くは、メディアミックスやプロモーションミッ

クスの延長上の話であるのが現実だ。

“正確に”とは、一般概念ではなく“自社に

とっての…”として、である。

後で詳しく述べるが、BtoB領域のクロスメ

ディア、クロスプロモーションは“自社”が置

かれる市場環境により考え方が変わってくる。

さて、クロスメディアだが、どの企業におい

ても共通して違うと考えなくてはいけないの

が、ひと昔前の考え方として言われる「メディ

アミックス」との相違である。

ちなみに有名な用語辞典でこの 2つの言葉を拾ってみると●メディアミックス

複数のマス・メディアを組み合わせて展開す

る広告戦略。性質の異なるメディアを組み合わ

せることで,互いに補完したり,相乗効果をも

たらすことが期待できる。

※ ちなみにプロモーションミックスは、メディア以外も含めた同様の考え方

●クロスメディア

一つの情報を、複数の異なる種類の媒体を横

断的に利用して伝達すること。場所や状況に応

じて、最適な媒体を選んで情報にアクセスする

ことができるなどの利点がある。

〈寄稿〉

BtoBコミュニケーションはクロス・プロモーションの時代へ

① 「BtoB マーケティング、コミュニケーションとは一体何か、どうあるべきか?」② 「クロスメディアとは一体何か、どうあるべきか?」

この 2 つのテーマは、ここ数年目にする機会も多く、いろいろな形で語られてる。結論から言えば両方とも正解があるテーマでは無く、そもそもコミュニケーションやマーケティングの正

解は、基本的な理論体系はあるものの結果論でしか語れない。今回のテーマは、上記の 2 つのテーマに関する BtoB 領域にフォーカスしたひとつの考え方である。

溝口裕康 株式会社中外 専務執行役員

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15BtoBコミュニケーション 2018年9月号

とある。

この 2つの言葉を見比べて、違いが明確に感じられるだろうか?さらに最も重要な事は、今

の自社の活動に当てはめる明確なイメージが持

てるだろうか?(個人的には今一つピンとこな

いと感じているのだが…)

B:BtoBのクロスメディアは連携(連動)効果

メディアミックスや統括的なコミュニケー

ション、プロモーション戦略において、相乗効

果を高める事が大切な事は周知のとおりであ

る。2つ、3つのプロモーション活動やメディアを組み合わせる事で、投入したパワーやコス

ト以上の効果を求めるもので、相乗効果は効率

とも相関する。

それに対して、クロスメディアは“連携(連

動)効果”と言えばわかりやすいのではないだ

ろうか。いわゆるリレーのバトンタッチである。

例えばメディアミックスが、ターゲットに効

率良く到達するための相乗効果を高めた広告メ

ディア戦略とするならば、クロスメディアは

ターゲット(ユーザー)の情報への接触、収集

の動きをとらえ、その変化の道筋に合わせて情

報発信や 2Wayのコミュニケーションを繋げてゆくこと、と考えればわかりやすい。

コミュニケーションの目的がコーポレートブ

ランディングか製品やサービスのプロモーショ

ンか、により多少の違いはあるが、BtoB領域の場合、ターゲット(ユーザー)は比較的明確

な行動プロセスを持っている。いわゆる BtoBの教科書にある「BtoBの購買は、衝動買い等では無く理性的なプロセスを経てなされる」と

いうやつだ。

そして、そのプロセス毎に情報収集源や収集

内容が変わってくる。この動きに合わせてゆく

ことが、クロスメディアの BtoBコミュニケーション活動への適応である。

ちなみに、“ミックス”は古い考え方で“クロ

ス”が新しい考え方、というような論調も一部

見られるが、“クロス”戦略は“ミックス”に代

わるものではなく、“ミックス”の上位概念と

しての前提戦略と位置付けるものだと筆者は考

えている。

“クロス”のスキームの基で、効率的な“ミッ

クス”は依然重要な課題である。

C: BtoBのクロスメディアとは、

クロスプロモーション

BtoB領域のマーケテイング・コミュニケーション活動をクロスメディア視点で考えた場

合、もはやメディアの話だけでは完結できない

ことは明確である。

もっともメディア自体の概念や範囲も変わっ

てきており、オウンドメディアも含め、所謂「広

告媒体」だけでなく情報発信機会を全てメディ

アとして捉える時代となっている。

特に BtoB領域のビジネスでターゲットの情報収集・接触行動のプロセスに適応させようと

した場合、広告メディアや販売促進活動、さら

には自社のホームページ等を含めたオンライ

ン、更には営業や流通まで含めた範囲で考えな

ければ現実的ではない。

つまり、BtoB領域のビジネスにおいて、クロスメディアはクロスプロモーションを大前提と

して考えるべきであり、マーケテイング・コミュ

ニケーション活動全体のスキームを変えるべき

時に来ていると言えるのではないだろうか。

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19BtoBコミュニケーション 2018年9月号

製品や業界により大きな違いがあり、クロスプ

ロモーション戦略の立て方が変わってくること

がポイントである。● オンライン上の情報収集源はもはや情報イン

フラとして捉えるべきである

ここでピックアップしているオンライン上の

情報収集源は専門ポータルサイトのみだが、実

際はオンライン上の情報収集源は多岐に渡り、

ポータルサイトの様なメディア以外に、製品の

評価サイトや販売流通サイト、オウンドメディ

アとしてのホームページやマイクロサイト、

SNSと範囲が広い。これら個々のオンライン上のメディアについての活用度の差異も当然あ

るのだが、オンライン上の情報収集源はプロセ

スに関係なく継続的に活用される傾向にある。

そのため、プロモーションと言うより、もは

や情報インフラとしてクロス・プロモ―ション

の基幹として全てに関連させる事が必須となっ

ている。

B: クロスプロモーションとコンテンツ

BtoB領域のクロスプロモ―ションを「ターゲットの購買プロセスや意思決定プロセスに合

わせた情報発信(収集も含む)とアプローチ」

と考えた場合、プロセス毎にメインストリーム

となる活動が異なることは既に述べた通りであ

る。

また、購買プロセスにおけるターゲット

(ユーザー)の情報収集の基本傾向として、プ

ロセスが進行し購買決定に近づくにつれ、必要

とされる情報はより詳細に具現化される。

初期情報収集段階ではニーズが比較的“潜在

的”なのに対し、プロセスが進むにつれ“顕在

化”してくるということである。

クロスプロモーションを考える場合、これら、

ターゲットの動きの変化と各活動(メディアも

含む)の効果特性に合わせたコンテンツの整備

が非常に重要となってくる。

例えば動画コンテンツ。

BtoBにおいても動画コンテンツの重要性が高まっているが、動画はメディア上での広告と

しての発信を除くと、ターゲット(ユーザー)

側から自発的に接触して(観て)もらう必要が

ある。購買プロセスやターゲットの態度変化プ

ロセスの中で、自社の情報に自発的に興味を示

す段階はどこなのか?そのためのコンテンツの

内容はどうあるべきか? の精査が、動画コン

テンツを効果的にするために重要となる。

コンテンツについて言えば、一方でコンテン

ツマーケティングという概念も急速に浸透し始

めてる。今回は詳細までお伝えできるスペース

は無いが、クロスプロモーション展開はコンテ

ンツマーケティングと合わせて構築すべき戦略

であることは言うまでもない。

4:BtoBクロスプロモーションのまとめ

誌面の都合上、そろそろまとめなくてはなら

ないのだが、BtoB領域のクロスメディアを概念的にまとめると、図 5のようになるのでは

ないだろうか。

当たり前ではあるが、ターゲット(ユーザー)

は、実際は一つの情報源ではなく、常に複数の

情報源から情報収集を行っている。プロセス間

を連携するクロスプロモーション戦略は、具体

的な活動へ落し込む時、それぞれのプロセス内

では、メインストリームとなる情報源を軸とし

た、効率的で相乗効果の高いメディアミックス、

プロモーションミックスを計画する事が必要と

なる。

BtoB領域のクロスプロモーションとは、い

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