c-1.「お父さん集合」-紙弾飛ばしから割り箸鉄砲へ- · 10月...

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32 C-1.「お父さん集合」-紙弾飛ばしから割り箸鉄砲へ- 柳町幼稚園 (東京都文京区)〈2年保育年長5歳児〉 幼児が遊びの中で出会う様々な物事や自然事象に対して、興味・関心、好奇心、探究心を持ち、先行経験から推 測したり、思考錯誤したりすることで新たな発見や納得を得て、さらなる疑問や驚きをもって次々と挑戦しようと する。このように、視点の広がりや思考の広がりを「科学する心」ととらえた。それは、その場限りではない、生き 生きとした「分かる楽しさ、変化を発見する楽しさ」でもある。 本園では、6年前から「お父さん集合」という父親の参観・参加、参画活動を進めている。幼稚園主催として教育 課程に位置付けている保育参観・参加の中に、「お父さん」中心の機会を設けている。その他に父親の自主運営も盛 んである。子どもたちがいろいろな大人にかかわる楽しさ、父親ならではの遊び方を感じ、自分たちの遊びに生か して欲しいと始めたことである。 視点の広がりと試行錯誤 4月 ロール紙で作ったゴム鉄砲 ロール芯に切り込みを入れ、ゴムを引っ掛け紙弾を飛ばし、的当ての忍者ごっこをする。敵陣に攻撃するために以前作っ たゴム鉄砲を思い出し、作り始める。狙った所にうまく飛ばず、後ろに飛んでしまう時もある。そこで修行と称して、ぶら 下げたフープや風船を目掛けて飛ばすことを繰り返す。繰り返すうちに、ゴムを引く角度で丁度いい加減をつかんだり、弾 の大きさや紙質を考えたりする幼児が出てくる。 敵陣を狙うが、距離が届かない。教師は「ゴムの力を強くしてみよう」と提案する。輪ゴムを何本か束ね、長くつなげてい く。発射台には三角積み木の斜面を利用する。弾は大きく、軽いもの(新聞紙)を軽く握ったものを使う。始めは弾が軽いた め、勢いがつかない。少し固く握ってみると、よく飛び、「飛んだ、飛んだ」と喜ぶ。 d お父さん集合 お父さんは、得意分野があるんだ 「お父さんも虫に詳しいかもしれない」 進級最初の年長児の遠足は、近くの小石川植物園へ出掛けている。 お父さん方に声をかけ、交通安全を兼ねた参観として付き添いを募 集すると、3人のお父さんの参加となる。 園内で伐採した木を輪切りにして乾かしているらしい。興味をも って切り株に近付くと、アリがいる。それをきっかけに切り株をよ く見ると、見たことのない虫がいる。子どもたちはなかなか手が出 ない。すると一人のお父さんが手のひらにのせ、子どもたちに見せ てくれる。「何?これ」「何だろう」 お父さんが手にしたことで安心 した子どもたちが「見せて」「僕にも」と手を出すようになる。「クワ ガタ?」「カミキリ虫だよ」と自分が知っている虫の名前を言い合う。 持ってきたミニ図鑑を見ながら調べる。お父さんたちは他児も見る ことができるように順番にしたり、他の虫を探したりしている。 このことを通して私達は、お父さんたちが子どもをとても愛してくれていることを感じ、また、お父さんのもつ 力、得意分野を感じた。そして、子どもたちへのゲストティーチャ-として力を発揮してくれるかもしれない、と考 えた。そこで、今年の「お父さん集合」を、今までの保育参観・参加からステップアップし、お父さんの力、科学す るお父さんの見せ所として生かすことにした。 エピソード:

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C-1.「お父さん集合」-紙弾飛ばしから割り箸鉄砲へ-柳町幼稚園(東京都文京区)〈2年保育年長5歳児〉

幼児が遊びの中で出会う様々な物事や自然事象に対して、興味・関心、好奇心、探究心を持ち、先行経験から推

測したり、思考錯誤したりすることで新たな発見や納得を得て、さらなる疑問や驚きをもって次々と挑戦しようと

する。このように、視点の広がりや思考の広がりを「科学する心」ととらえた。それは、その場限りではない、生き

生きとした「分かる楽しさ、変化を発見する楽しさ」でもある。

本園では、6年前から「お父さん集合」という父親の参観・参加、参画活動を進めている。幼稚園主催として教育

課程に位置付けている保育参観・参加の中に、「お父さん」中心の機会を設けている。その他に父親の自主運営も盛

んである。子どもたちがいろいろな大人にかかわる楽しさ、父親ならではの遊び方を感じ、自分たちの遊びに生か

して欲しいと始めたことである。

視点の広がりと試行錯誤4月 ロール紙で作ったゴム鉄砲

ロール芯に切り込みを入れ、ゴムを引っ掛け紙弾を飛ばし、的当ての忍者ごっこをする。敵陣に攻撃するために以前作ったゴム鉄砲を思い出し、作り始める。狙った所にうまく飛ばず、後ろに飛んでしまう時もある。そこで修行と称して、ぶら下げたフープや風船を目掛けて飛ばすことを繰り返す。繰り返すうちに、ゴムを引く角度で丁度いい加減をつかんだり、弾の大きさや紙質を考えたりする幼児が出てくる。敵陣を狙うが、距離が届かない。教師は「ゴムの力を強くしてみよう」と提案する。輪ゴムを何本か束ね、長くつなげてい

く。発射台には三角積み木の斜面を利用する。弾は大きく、軽いもの(新聞紙)を軽く握ったものを使う。始めは弾が軽いため、勢いがつかない。少し固く握ってみると、よく飛び、「飛んだ、飛んだ」と喜ぶ。

d

お父さん集合

お父さんは、得意分野があるんだ

「お父さんも虫に詳しいかもしれない」

進級最初の年長児の遠足は、近くの小石川植物園へ出掛けている。

お父さん方に声をかけ、交通安全を兼ねた参観として付き添いを募

集すると、3人のお父さんの参加となる。

園内で伐採した木を輪切りにして乾かしているらしい。興味をも

って切り株に近付くと、アリがいる。それをきっかけに切り株をよ

く見ると、見たことのない虫がいる。子どもたちはなかなか手が出

ない。すると一人のお父さんが手のひらにのせ、子どもたちに見せ

てくれる。「何?これ」「何だろう」 お父さんが手にしたことで安心

した子どもたちが「見せて」「僕にも」と手を出すようになる。「クワ

ガタ?」「カミキリ虫だよ」と自分が知っている虫の名前を言い合う。

持ってきたミニ図鑑を見ながら調べる。お父さんたちは他児も見る

ことができるように順番にしたり、他の虫を探したりしている。

このことを通して私達は、お父さんたちが子どもをとても愛してくれていることを感じ、また、お父さんのもつ

力、得意分野を感じた。そして、子どもたちへのゲストティーチャ-として力を発揮してくれるかもしれない、と考

えた。そこで、今年の「お父さん集合」を、今までの保育参観・参加からステップアップし、お父さんの力、科学す

るお父さんの見せ所として生かすことにした。

エピソード:

33

遊びの中で自分たちで洗濯バサミを使ったゴム鉄砲を作り始める。6月のお父さん集合の時の先行経験を生かして、教師を頼らずに自分達で作ることができる。また、6月に経験しなかった子が友達にやり方を聞きながら作って遊ぶ姿が見られた。この際、弾はスチロールポールを切った物を使った。

A 輪ゴムという素材を日常的に遊びに取り入れることで、素材の特性を活かしながら遊びに変化をつけて楽しんでいる。

A 素材と素材の関係により、変化が出ることを幼児なりに感じ、それを試そうとする気持につながっている。先行経験から、うまくいかない時に諦めず、次々と工夫を思い付いている。「これならどうだろう」と繰り返し試す姿は、「お父さん集合」の時のお父さんが諦めずに試した姿の影響もある。

他に何回もの「お父さん集合の活動」を通して、父親たちの夢中になって工夫している姿が、幼児に考えることの楽しさを伝えたり、大人と一緒に活動することが、自

分達でもできるかもしれないという自信、可能性、期待を持つことなどにもつながった。また、父親が試行錯誤したり、知恵を絞って考え、新たな展開になっていく楽しさを共に体験できた。

考 察

エピソードを通して、お父さんの力に着目し、お父さんが自主的に参加できる工夫や、お父さんとの活動を単発のイベン

トに終えるのではなく、日々の保育と連携し、継続するための保育者の工夫が伺えます。お父さんたちとの活動が、子ども

たちの日々の遊びの発展として展開されている様子が分かります。そして、子どもたちは、お父さんとの活動後もそこから

ヒントや影響を受けて、自分たちの遊びとして継続させています。

ポイント

6月の経験を自分たちの遊びに生かすd

9月 自分たちで作ったゴム鉄砲

違う素材での試行錯誤d

10月 木の枝パチンコ作り

園内の森で基地ごっこをしている5、6人。キャンプのイメージが加わり、小枝を拾ってきて適当な大きさに折っては積み重ねている。そのうち、Y字型の枝を見付けた男児が大事そうに手にしている。教師が「いいの、見つけたね。どうするのかな」と聞いても特にイメージはもてていないようだった。そこで「これでも、鉄砲できるかもしれないけど、やってみる?」と投げかけ、パチンコ作りを始める。Y字に分かれた両枝にゴムを引っ掛け、スチロール弾を引っ掛け飛ばしてみる。飛ぶ時もあるが、コンスタントに飛ばな

い。「軽すぎるのかな~」と一人が呟く。「それじゃ、違うのでやってみよう」と森に探しに行く。通りかかった教師に「どんぐりなんか、いいんじゃない?」と声をかけられ、やってみようということになる。どんぐりを引っ掛けてみると、つるつる滑ってゴムの一点に収まらない。そこで、教師がノコギリで傷を付け、そこにゴムを引っ掛けてみる。うまく引っ掛かるが、あまり飛ばない。教師は「だめかな~」と言ってその場を離れた。しばらくして、数人の幼児が「先生、飛んだよ~!」と知らせに来る。「やってみて!ホントだ。どうして?」と教師の方が知りたい気持で一杯になった。

次々に視点が広がり、工夫が繰り返されていく。的までの距離、的の大きさ、高さなどを「こうしようかな」「だめだ」「こうするといいか」と子どもたちも遊びながら作り直していく。お父さんも作りながら工夫したくなったようだ。

A 割り箸を長くつなげて、ゴムを思い切り引っ張ったらどうだろう⇒割り箸部分が長い方がよく飛ぶ。ゴムも長い方がよく飛ぶ。A 弾がたくさん欲しいな。芯を半分に切って増やそう⇒「あれ~あまりとばなくなっちゃった」

次々に工夫を重ねた割り箸鉄砲

割り箸鉄砲のコーナーには、2~3人のお父さんが参加した。割り箸の組み立ては、始めはお父さんが子どもに作ってあげるという形で、割り箸を長くつなげる、ゴムも長くつなげるなどの工夫をしていくと、弾の飛ぶ速さが早くなることに気付く。

6月5日 お父さん集合当日

d

先行経験を生かし、仮説を立てて試行錯誤

<材料>割り箸、洗濯バサミ、輪ゴム、ロール芯

「ゴム、長くした方がいいかな」