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不明水対策の手引き 平成20年3月 (社)全国上下水道コンサルタント協会 技術委員会業務拡大部会

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Page 1: 不明水対策の手引き...不明水対策の手引き 平成20年3月 (社)全国上下水道コンサルタント協会 技術委員会業務拡大部会序 不明水問題は、下水道事業にとって古くて新しい問題であります。日本の下水道は、

不 明 水 対 策 の 手 引 き

平成20年3月

(社)全国上下水道コンサルタント協会

技術委員会業務拡大部会

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不明水問題は、下水道事業にとって古くて新しい問題であります。日本の下水道は、

合流式の採用が多かったため、この問題は顕在化しませんでしたが、各所で分流式が

採用され供用開始され、各都市共通の大きな問題となってきました。建設省は、1978年度に、いくつかの都市と「浸入水防止対策懇談会」を設置しておりますので、30年以上前からの問題でありますが、現在においてもまだ抜本的な解決に至っていない

状況にあります。 本文にもありますとおり、不明水の原因には、大別して雨水と地下水とがあり、こ

のほか無届での事業場排水、井戸水、湧水などがあります。不明水削減には、原因を

特定し、対策の立案、実行が必要となるわけですが、それらには多くの労力と時間を

要します。しかし、それらの投資に対する効果を明確化しにくいケースもあり、なか

なか対策が進まない現状にあります。 これらの現状を踏まえ、本手引きでは、原因を特定するための概略調査、原因別の

対策フローや緊急・短期と中・長期に分けた改善対策を明らかにするとともに、対策

の費用効果の分析方法や事後評価のフローについても述べられています。 不明水は、管きょや処理施設に悪影響を及ぼすだけではなく、維持管理費の増加を

招き、下水道経営にとって大きな問題となります。確かな目標を持っての対策の立案

と実行が求められます。 本手引きが、浸入水対策を立案、実施する技術者に有効に役立てられ、会員各社の

業務拡大の一助となりますとともに、各都市などの下水道経営の改善に資することと

なれば幸いです。

(社)全国上下水道コンサルタント協会 会長 清水 慧

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発刊までの経緯

業務拡大部会は、水コン協 20 周年を記念して発表された「21 世紀における上下水

道コンサルタントの使命と役割」の技術力及びマネジメント力の向上を図るための活

動の一環として位置づけられており、協会としての技術開発の推進を通した協会会員

の事業領域の拡大を目的としています。平成 18 年度には、テーマの特定に関する審

議、平成 19 年度の部会には、10 社、16 名が参加、8 回にわたる業務拡大部会の審議

を経て、平成 20 年 3 月の手引き発刊に至っています。 本手引きのテーマである「不明水対策」は、古くは、(社)日本下水道協会、 近は、

(財)下水道新技術推進機構などで発刊されている指針や手引きがありますが、 新

の流出解析技術の活用、不明水を総合的な観点で捉え整理した点は従来の指針や手引

きと違い大いに評価が出来るものになっています。 手引きは、1 章から 8 章で構成されており、1章は総論、2 章は調査に関して、3

章は雨天時浸入水対策、4 章は地下水浸入水対策、5 章はその他不明水について、6章には費用効果分析、7 章で事後評価、8 章で留意事項となっています。 本手引きの注目点は、流出解析技術を活用し、従来の定性的な不明水の原因究明を

定量的手法で行っていること、 新の雨天時処理技術の活用により、雨天時リスクに

対する効率的な対策手法を提案していることなどが挙げられます。また、水コン協メ

ンバーが日頃からこの問題を取り扱っている事例の紹介や評価分析などが分かり易く

盛込まれており、水コン協会員が利用し易い内容になっています。 本手引きを会員各社の技術者が広く活用され、その結果としてなされる各種提案が、

発注者はもとより、下水道システムが抱える課題の効率的な解決に繋がり、ひいては

コンサルタントの業務拡大と社会的地位の向上に結びつくことを確信致すものであり

ます。 平成 20 年 3 月 (社)全国上下水道コンサルタント協会 技術委員長 石川 高輝

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技術委員会 (社名は五十音順,敬称略)

委員長 石川 高輝 日本水工設計(株) 委員 北海道支部 秋山 暢彦 日本上下水道設計(株) 東北支部 千葉 恭人 (株)東京設計事務所 関東支部 池田 信己 オリジナル設計(株)

山﨑 義広 (株)三水コンサルタント 狩谷 薫 (株)東京設計事務所 浅田 一洋 (株)日水コン 市川 浩 日本上下水道設計(株)

中部支部 小林 勳 (株)小林設計事務所 遠藤 義憲 (株)日水コン

関西支部 小高 康生 中央復建コンサルタンツ(株) 戎井 章浩 (株)ニュージェック

中国・四国支部 鳥越 敏文 (株)日水コン 九州支部 津田 伸夫 (株)東京設計事務所 旧委員 松本 丈朗 日本理水設計(株)

技術委員会業務拡大部会 (社名は五十音順,敬称略)

部会長 山﨑 義広 (株)三水コンサルタント 副部会長 金 成秀 (株)日水コン

梶川 努 オリジナル設計(株) 浅井 岳春 オリジナル設計(株) 鈴木 敦 (株)三水コンサルタント 亀谷 佳宏 (株)東京設計事務所

内田 賢治 (株)日水コン 会田 英晴 (株)日水コン 深山 譲二 (株)ニュージェック 山下 徹 新日本設計(株) 鈴木 清久 日本技術開発(株) 中山 義一 日本上下水道設計(株)

鈴木 英徳 日本上下水道設計(株) 山田 義行 日本上下水道設計(株) 牛原 正詞 日本水工設計(株) 苧木新一郎 日本理水設計(株)

事務局 加藤 雅夫 (社)全国上下水道コンサルタント協会

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目 次

1.総論 --------------------------------------------- 1

1.1 背景 --------------------------------------------- 1

1.2 目的 --------------------------------------------- 6

1.3 適用範囲 --------------------------------------------- 7

1.4 不明水の定義 --------------------------------------------- 8

1.5 用語の定義 --------------------------------------------- 10

2.不明水調査 --------------------------------------------- 11

2.1 不明水調査の手順 ------------------------------ 11

2.2 基礎調査 --------------------------------------------- 12

2.3 不明水の概略実態把握 ------------------------------ 16

2.3.1 不明水量の概略実態把握 ------------------------------ 16

2.3.2 ブロック別(系統別)概略実態把握 --------------- 21

2.4 詳細調査 --------------------------------------------- 25

2.5 不明水調査結果の評価 ------------------------------ 33

3.雨天時浸入水対策 --------------------------------------------- 37

3.1 雨天時浸入水対策の基本方針 ------------------------------ 37

3.2 雨天時浸入水の対策方針 ------------------------------ 39

3.2.1 対策方針 --------------------------------------------- 39

3.2.2 対策フロー --------------------------------------------- 41

3.3 雨天時浸入水対策の計画目標 ------------------------------ 42

3.3.1 計画目標の設定 ------------------------------ 42

3.3.2 対象降雨の設定 ------------------------------ 43

3.4 雨天時浸入水改善計画 ------------------------------ 44

3.4.1 計画策定フロー ------------------------------ 44

3.4.2 雨天時浸入水対策案の策定 ------------------------------ 45

3.4.3 主な対策メニュー ------------------------------ 45

3.4.4 雨天時浸入水対策の評価・選定 --------------- 48

3.4.5 流出解析モデル ------------------------------ 50

3.4.6 改善計画の策定 ------------------------------ 53

3.5 雨天時浸入水対策事例 ------------------------------ 55

4.地下水浸入水対策 --------------------------------------------- 68

4.1 地下水浸入水対策の基本方針 ------------------------------ 68

4.2 地下水浸入水の対策方針 ------------------------------ 69

4.2.1 対策方針 --------------------------------------------- 69

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4.2.2 対策フロー --------------------------------------------- 71

4.3 地下水浸入水削減計画 ------------------------------ 72

4.3.1 地下水浸入水削減計画の策定概要 --------------- 72

4.3.2 優先順位の設定 ------------------------------ 75

4.4 改築と修繕 --------------------------------------------- 81

4.4.1 改築・修繕実施計画の策定 ------------------------------ 81

4.4.2 設計 --------------------------------------------- 89

4.4.3 改築・修繕工法の概要 ------------------------------ 91

4.5 地下水浸入水対策事例 ------------------------------ 96

5.その他不明水 --------------------------------------------- 110

6.不明水対策の費用効果分析 ------------------------------ 112

6.1 概要 --------------------------------------------- 112

6.2 費用効果分析 --------------------------------------------- 113

6.2.1 改築・修繕計画 ------------------------------ 113

6.2.2 費用効果分析の適用 ------------------------------ 118

6.2.3 中・長期(削減)対策の便益 --------------- 119

7.不明水対策の事後評価 ------------------------------ 128

7.1 基本方針 --------------------------------------------- 128

7.2 評価フロー --------------------------------------------- 130

7.3 再調査 --------------------------------------------- 131

7.4 投資効果の評価 --------------------------------------------- 132

7.5 計画の見直し --------------------------------------------- 134

7.6 検討事例 --------------------------------------------- 135

8.不明水対策における留意点 ------------------------------ 145

8.1 改築時の不明水対策の推進 ------------------------------ 145

8.2 維持管理における留意事項 ------------------------------ 145

8.3 運転管理における留意事項 ------------------------------ 146

8.4 不明水対策実施における留意事項 --------------- 146

8.5 他計画との連携・調整 ------------------------------ 147

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1.総論

1.1 背景

不明水の増加は,維持管理費の増大等様々な問題を引き起こす。これらを放置して

おくと汚水の溢水,道路陥没等の社会的な大きい問題に発展する可能性がある。一方,

不明水対策は,原因および発生源の特定が容易でないこと,対策・投資に対して効果

が現れにくいことから,多くの自治体では抜本的な解決には至っていない状況にある。

このため,不明水については,中・長期的な視点に立った計画的かつ総合的な対策を

立案することが必要であるとともに,雨天時の危機管理等の観点から緊急に対応が望

まれる状況にあっては,緊急・短期対策を立案し確実に実行することが求められる。

【解説】

不明水は,下水管路への浸入経路,発生原因の違いから雨天時浸入水,地下水浸入水,

その他不明水の3つに分類することができる。このうち,雨天時浸入水は,分流式下水道

において汚水管きょへの雨水管きょの誤接合や雨水排水設備の誤接合等が原因で,雨天時

に浸入する不明水や降雨が地下に浸透した後に短時間で汚水管きょに浸入する不明水であ

り,一般に降雨の状況により経時的に流入下水量が変化する特徴を有している。雨天時浸

入水の実態は,図 1-1 に示すとおり,処理場における雨水混入比(雨天日年 大汚水量/

日平均汚水量)によると,大部分の処理場において雨天時浸入水の影響が確認されており,

雨水混入比が2倍を超える処理場も半数以上に達している。

図 1-1 晴天時日平均汚水量に対する雨天日年 大汚水量の比較(土木研究所調査)

(出典:下水道施設計画・設計指針と解説 2001 年度版 (社)日本下水道協会)

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一方,地下水浸入水は,主に地下水位以下に埋設された汚水管きょに恒常的あるいは,

比較的長期にわたって浸入する不明水である。地下水浸入水の実態については,図 1-2 に

示す処理場における不明水率((総汚水処理水量-総有収水量)÷総汚水処理水量×100)

に基づき把握する。不明水率には,雨水時浸入水量も含まれるが,年間総汚水処理量ベー

スでは地下水浸入水のウエイトが高いため,地下水浸入水の傾向が把握できるものと考え

られる。一般に,下水道施設の計画・設計では地下水量(率)として,生活汚水量と営業

汚水量の和に対する日 大汚水量の 10~20%(日平均汚水量比:13~28%)を見込むとされ

ているが,20%を超える処理場も約 4 割に達している。

図 1-2 不明水率の比較

(出典:下水道統計 平成 16 年度版 (社)日本下水道協会)

その他不明水は,無届で下水道に接続している工場排水や事業所排水等の有収外汚水や

上水系からの漏水の浸入水等が対象となる。これらの実態について公表されているデータ

はないが,処理コストへの影響等無視できない問題である。

このように,計画上想定された以上の不明水の浸入が多くの自治体において確認されて

いるが,これらが下水道事業にもたらす問題点については,雨天時浸入水,地下水浸入水,

その他不明水の分類ごとに顕在化する現象は異なるものの,図 1-3 に示すとおり下水道経

営の悪化,衛生上のリスク増大,公共用水域の水質保全,交通障害の 4 つに集約される。

不明水の分類により顕在化する主な現象を整理すると,雨天時浸入水では,降雨強度に

よって一時的に多量の雨水が汚水管きょに流入し,汚水管きょの流下能力を超える場合に

は,マンホール蓋の浮上・飛散やマンホール・排水設備から溢水が発生する恐れがある。

ポンプ場,処理場においては,施設の冠水,水処理への影響を引き起こす場合があり,こ

れに伴い放流先水域における衛生上のリスク増大や公共用水域の水質保全への影響(水質

汚濁防止法違反)の恐れがある。

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

0~10 10~20 20~30 30~40 40~50 50~

不明水率(%)

処理

場数

(所

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

累積

(%

処理場数(所)

累積

-2-

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①雨天時浸入水

②地下水浸入水

③その他不明水

マンホール・排水設備から汚水の溢水

マンホール蓋の浮上・飛散

ポンプ場・下水処理場における施設の冠水

水処理への影響

流入下水量の増加・流入水質の低下

土砂流入に伴う管きょ通水能力の低下

土砂引き込みによる管基礎の脆弱化と道路陥没

海水流入によるコンクリートの劣化

有収率の低下

下水道経営の悪化(維持管理費の増大)

公共用水域の水質保全

(水質汚濁防止法違反)

衛生上のリスク増大

交通障害(二次災害)

不明水の分類 顕在化する現象 もたらす問題点

図 1-3 不明水がもたらす問題点

現実に雨天時浸入水によるトラブルとして多いのは,図 1-4 に示す国土技術政策総合研

究所(以下,国総研という)のアンケート調査結果によると,「水処理への影響」であり,

続いて「処理場からの簡易放流」,「人孔からの溢水」によるものとなっている。「水処理へ

影響」に関する主な内容には,放流水質の悪化,終沈からの汚泥流出,MLSS の低下があげ

られている。

地下水浸入水については,汚水管きょに恒常的あるいは比較的長期にわたって浸入する

ため,土砂の引き込みによる道路陥没や管基礎の脆弱化,流入下水量の増加に伴う維持管

理費の増大をもたらす原因となる。

また,その他不明水は,無届の工場排水や事業所排水,地下水の利用等に伴う有収外汚

水が大部分を占めていると考えられ,有収率の低下をもたらす原因となる。

しかしながら,その対策については,図 1-5 に示す国総研によるアンケート調査結果か

らもわかるように,原因および発生源の特定が容易でないこと,対策投資に対して効果が

現れにくいこと,また,昨今の厳しい財政状況下にあって対策に要する費用の確保が困難

であることから進捗しておらず,多くの自治体では抜本的な解決には至っていない状況に

ある。今後は,下水道整備に伴う汚水管きょ延長の増大,汚水管きょの老朽化に伴い,問

題がますます顕在化してくるものと考えられる。これらの問題を放置し先送りすることは,

短期的には衛生上のリスクを増大させるともに,中・長期的には下水道事業の経営そのも

のを圧迫する恐れがある。

-3-

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図 1-4 アンケート結果

(出典:汚水管きょへの雨天時浸入水に関する調査報告書 2002 年 1 月 国土技術政策総合研究所資料 No.26)

このため,不明水対策においては,不明水の実態を効率的に把握し,これに基づき中・

長期的な視点に立った計画的かつ総合的な対策計画を立案するとともに,中・長期的には

下水道施設の改築・修繕計画の一環として位置づけ,費用便益比の高い効率的な事業の推

進を図る必要がある。

また,雨天時浸入水によるマンホール・排水設備からの溢水や処理場からの未処理放流

等の衛生上のリスクが発生している場合には,雨天時の危機管理等の観点から緊急に対応

が必要であり,短期的に実施する対策を定めた緊急・短期対策を作成し,対策を早急かつ

着実に実行することが求められる。

さらに,これらの計画に基づき実施した事業については,事業の再評価を計画的なスケ

ジュールに基づき行うとともに,必要に応じて事業内容を適宜見直す必要がある。

Q:雨水浸入によるトラブル事例(複数回答有り)

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図 1-5 アンケート結果

(出典:汚水管きょへの雨天時浸入水に関する調査報告書 2002 年 1 月 国土技術政策総合研究所資料 No.26)

Q:雨水浸入水対策を行う上で難しい点(複数回答有り)

-5-

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1.2 目的

本手引きの目的は,不明水に起因して発生する様々な問題に対し,抜本的な解決を

図るために,計画的かつ総合的な不明水対策に必要な手順を定めたものである。

【解説】

不明水対策では,不明水の浸入経路を簡易に特定することが難しいため,基礎調査,不

明水の概略実態把握,テレビカメラ調査等の詳細調査を経て対策を実施している。このた

め,不明水対策には,多大な時間,労力,費用を要しており,早急に不明水を削減するこ

とは困難な状況にある。また,不明水対策を実施しても期待したほど不明水量が減少しな

いなど,投資効果が現れにくいケースも報告されている。このように,多くの自治体では

不明水の抜本的な解決に至っていない状況にある。

一方,これまでに発刊された不明水対策を取り扱った主な指針・手引きとその適用範囲

を本手引きと比較し表 1-1 に示す。「下水管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57

年 10 月 (社)日本下水道協会」のように汚水管きょに関する雨天時浸入水対策や地下水

浸入水対策を対象とした指針や「分流式下水道における雨天時増水対策の手引き(案)

2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構」のように雨天時浸入水対策のみを対象とした

手引きはあるものの,不明水対策を包括的に取り扱った指針・手引きは見当たらない。

このため,本手引きでは,不明水に起因して発生する様々な問題に対して,抜本的な解

決を図るために,下水道施設全般を対象とした効率的な調査手法や改築・修繕計画を考慮

した中・長期的な対策計画の立案手順や手法について解説するとともに,雨天時の危機管

理等の観点から既存施設等を有効に活用した対策立案手法なども解説する。また,不明水

対策の費用効果分析手法や事後評価についても解説する。

表 1-1 不明水対策を取り扱った指針・手引きと適用範囲

①:本手引き

②:下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会

③:下水道施設計画・設計指針と解説 2001 年度版 (社)日本下水道協会

④:下水道維持管理指針 2003 年度版 (社)日本下水道協会

⑤:分流式下水道における雨天時増水対策の手引き(案) 2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

調査 対策計画 調査 対策計画 調査 対策計画

汚水管 ● ● ● ● ▲ ▲ ● ●

ポンプ場・処理場 ● ● ● ● ▲ ▲ ● ●

汚水管 ● ● ● ● ●

ポンプ場・処理場

汚水管 ▲ ▲ ▲ ▲

ポンプ場・処理場 ▲ ▲ ▲ ▲

汚水管 ● ▲ ● ▲

ポンプ場・処理場 ▲ ▲

汚水管 ● ●

ポンプ場・処理場 ● ●⑤

●:具体的に記述されている。 ▲:基本的な方針のみが記述されている。

費用効果分析

雨天時浸入水対策 地下水浸入水対策 その他不明水対策事後評価

-6-

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1.3 適用範囲

本手引きは,不明水に関する調査,解析,対策,事後評価を実施する場合に適用す

る。

【解説】

本手引きは,不明水対策における調査,解析,対策,事後評価に関して包括的にとりま

とめたものであり,不明水対策全般またはその一部として雨天時浸入水対策,地下水浸入

水対策,その他不明水対策を実施する場合に適用する。

図 1-6 不明水対策フローと適用範囲

目標設定

対策評価・選定

目標設定

対策評価・選定

スタート

2.不明水調査

4.地下水浸入水対策 5.その他不明水3.雨天時浸入水対策

中・長期対策策定

(緊急・短期対策)

対策の実施

7.事後評価

6.費用効果分析

エンド

評価

B/C<1

B/C≧1

目標達成

目標未達成

-7-

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1.4 不明水の定義

不明水とは,流入下水量のうち,下水道管理者が下水道料金等で把握することが可

能な水量以外の下水量をいう。

【解説】

不明水とは,図 1-7 に示すとおり,流入下水量のうち,下水道管理者が下水道料金等で

把握することが可能な水量以外(有収水量:汚水管きょからの漏水,製品転化水量は除く)

の下水量をいう。

不明水の分類流入下水の分類

不明水量

下水道料金等で把握可能な水量

(漏水・製品転化水量)

その他不明水

地下水浸入水

雨天時浸入水

流入下水量

図 1-7 不明水の定義と分類

不明水は,雨天時浸入水,地下水浸入水,その他不明水に分類されるが,図 1-8 および

図 1-9 に示すとおり,それぞれ発生源,浸入経路が異なっている。 このうち,雨天時浸入水については,汚水管きょへの雨水管きょの誤接合や雨水排水設

備の誤接合が原因で雨天時に直接汚水管きょに浸入する経路や,排水設備,マンホールの

蓋穴等の地上に開放された部分から浸入する経路がある。また,降雨が地下に浸透した後

に短時間で汚水管きょの破損箇所等から浸入する経路がある。

地下水浸入水については,主に地下水位以下に埋設された汚水管きょの破損箇所,継手

の目開き部分等から恒常的あるいは,比較的長期にわたり浸入する。

その他不明水については,無届で下水道に接続している工場排水や事業所排水等の有収

外汚水として直接汚水管きょに浸入する場合や,上水系からの漏水等が汚水管きょの破損

箇所等から浸入する場合がある。

-8-

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晴天時

凡例

その他不明水地下水浸入水

地下水位

その他不明水(無許可接続)

公設汚水ます

私設汚水ます

マンホール

図 1-8 不明水の浸入経路(晴天時)

雨天時

地下水浸入水その他不明水

凡例雨天時浸入水

地下水位

その他不明水(無許可接続)

公設汚水ます

私設汚水ます

雨樋誤接

蓋の開放

排水設備不良

ますの不良

蓋穴・蓋周辺

マンホール

図 1-9 不明水の浸入経路(雨天時)

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1.5 用語の定義

本手引きで用いる用語の定義は,以下のとおりである。

(1)流入下水量

流入下水量とは,汚水管きょに流入する水量の総和をいう。

(2)晴天時下水量

晴天時下水量とは,生活汚水量,営業汚水量,工場排水量に地下水等を加えた晴

天時の下水量をいう。

(3)雨天時下水量

雨天時下水量とは,晴天時下水量に雨天時浸入水量が加わった下水量をいう。

(4)雨天時浸入水量

雨天時浸入水量とは,雨水に起因する浸入水量をいい,雨天時下水量から晴天時

下水量を引いて算出される水量をいう。

(5)地下水浸入水量

地下水浸入水量とは,汚水管きょの継手やマンホール・汚水ますの破損部等から,

管きょ内に常時浸入してくる地下水等の総量をいう。

-10-

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実態把握

できたか

2.3 不明水の 概略実態把握

2.2 基礎調査

NO

2.4 詳細調査

YES

把握は

十分か

YES

2.5 不明水調査 結果の評価

NO

2.不明水調査

2.1 不明水調査の手順

不明水調査では,適切な不明水対策を講じるため,必要な調査を次の各項に示すと

おり段階的に実施する。

(1)基礎調査

(2)不明水の概略実態把握

(3)詳細調査

(4)不明水調査結果の評価

【解説】

不明水の発生原因は多種多様であり,また浸入箇所は広

範囲に及ぶことが多いため,不明水の実態を全体的かつ正

確に把握することは容易でない。よって,不明水調査の実

施にあたっては,図 2-1 に示すフローのとおり調査段階ご

とに調査結果を精査しつつ,基礎調査から詳細調査までの

作業を段階的・効率的に進めることが大切である。

(1)について

基礎調査では,処理区全体の不明水に関する現状課題を

定量的,定性的に把握するため,自然条件,関連計画,既

存施設および浸水状況について調査を行う。

(2)について

不明水の概略実態把握では,基礎調査で得られた情報か

ら雨天時と晴天時における流量パターンの比較,地下水位

や潮位の変動と流量パターンの比較等の分析を行い,処理

区全体およびブロック別(系統別)に不明水の状況をまと

め,優先度の高い改善対象区域を選定する。

(3)について

詳細調査では,不明水の概略実態把握により選定された対策優先度の高いブロックにつ

いて,視覚調査,定性調査および定量調査を行い,問題箇所の正確な位置および不明水の

状況を把握する。

(4)について

不明水調査結果の評価では,詳細調査結果より把握された問題箇所について,不明水の

原因別,箇所別対策手法の選定,対策目標の設定および段階的な実施対策をまとめる。

図 2-1 不明水調査フロー

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2.2 基礎調査

基礎調査では,処理区全体の不明水に関する現状の課題を定量的,定性的に把握す

るため,次の各項目について調査を行う。

(1)自然条件

(2)関連計画

(3)既存施設

(4)浸水状況

【解説】

(1)について

自然条件については,対象地域の地形,地質,地下水,処理区周辺水域の状況,気象デ

ータ,土地利用状況等について調査する。以下に,自然条件に関する調査項目および各調

査内容を示す。

1)地形

地形調査では,地形図等の図面データ,地盤高データ等を収集・整理し,調査対象地

域の地形情報をまとめておく。この地形情報により,降雨の流出経路および地下水の流

向を把握でき,さらに下水管路の埋設位置との関係を把握することによって,不明水量

に対する降雨や地下水の影響を検討することが可能となる。また,地形情報をデジタル

データ化しておくことで,流出解析モデルを用いた不明水の解析および対策検討時にお

いて有効に活用することができる。

2)地質

地質調査では,対象地域の地質データ,下水管路建設時の埋戻し土等について資料を

収集・整理し,地質の分布状況を検討ブロック(集水系統等)ごとにまとめておく。地

質については,砂や砂礫が主体の地質の場合は透水性が高く,また,埋戻し土に砂や砕

石が用いられている場合には,下水管路が水みちになりやすいなど,下水管への浸入水

量に影響を及ぼすため,調査では地質データおよび分布状況を把握することが重要であ

る。

3)地下水

地下水の調査では,既存地質調査資料等から地下水位データを収集・整理し,必要に

応じて地下水温についてもまとめておく。地下水位については,管底からの水頭差が約

0.6m以上高くなると,浸入水量が急激に増加する傾向が見られる(6.2.1 図 6-4 参照)

など,下水管路との位置関係に注意が必要であるため,調査では特に埋設深の深い路線

については注意する。

また地下水温の調査結果により,不明水の実態調査において,地下水温の変化が少な

い特性を活用し,地下水による影響をある程度定性的に把握することも可能である。

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4)処理区周辺水域の状況

処理区周辺水域の調査では,終末処理場や中継ポンプ場の位置が河川や海域に隣接し

ている場合や管路施設が河川や海域に近接している場合に,河川水位や潮位によって不

明水量が増減することがあるため,近傍に河川水位観測所や潮位観測所がある場合には,

河川水位や潮位等の観測資料を収集・整理しておく。

5)気象データ

気象データの調査では,気象条件と不明水量との相関性を把握するため,年間降雨量,

月別降雨量,降雨強度,降雨継続時間,降雪量,積雪量および気温等のデータを調査し,

まとめておく。(2.3.1 の(2)を参照)

6)土地利用状況

土地利用状況の調査では,土地利用図や用途地域図等を収集・整理し,土地利用状況・

計画についてまとめておく。土地利用状況により,雨水の流出係数,不明水量およびそ

の浸入形態に影響を与えることが考えられるため,土地利用状況の調査結果を活用し,

流出解析モデル等を用いた不明水と降雨の相関に関する検討に活用することができる。

(2)について

関連計画の調査では,不明水対策計画の策定にあたり,現状の下水道施設計画や下水道

の整備方針,また改築や修繕計画等について把握する必要があるため,次に示す下水道関

連計画を収集・整理する。

1)流域別下水道整備総合計画

2)下水道全体計画

3)下水道事業計画

4)下水道施設改築更新計画

5)事業再評価

(3)について

既存施設に関する調査では,下水道施設の施設情報,維持管理情報,および財政関係に

ついて資料を収集・整理する。また,下水道施設の他,道路や地下埋設物等の状況につい

ても合わせて調査する。これらの調査結果を総合的に活用することで,不明水量とその浸

入原因の把握,対策および対策効果,施工方法の検討に用いることができる。以下に,既

存施設に関する調査項目および各調査内容を示す。

1)施設情報

施設情報調査では,管路情報として下水道台帳(管種,管径,管底高,施工年度等),

処理場およびポンプ施設情報として施設台帳または竣工図書(ポンプ能力,ポンプ台数,

起動・停止水位,処理施設能力等)を収集・整理する。施設情報により,老朽度などを

把握することができ,不明水の浸入原因検討および対策案の検討等に用いることが可能

となる。

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2)維持管理情報

維持管理情報の調査では,管路情報として日常点検記録,清掃情報,道路陥没事故情

報や過去に実施した不明水調査(TV カメラ調査,誤接調査等)結果,処理場およびポン

プ施設情報として運転日報・月報(流入水量,処理水量,流入水質,放流水質)等,そ

の他,特定施設届出(排水量,排水水質)情報等を収集・整理する。維持管理情報の調

査結果については,不明水量の把握,浸入原因の検討に用いることができる。

3)財政関係

財政関係の調査では,有収水量,下水道使用料収入額,維持管理費等の資料を収集・

整理し,不明水量の把握,不明水対策における費用効果分析に用いることができる。

4)その他の施設

下水道施設以外の施設について,検討地域が積雪寒冷地の場合には,消雪パイプの使用

期間,使用時間,地下水汲み上げ量についても調査する。この調査データより,消雪水

の不明水量への影響を検討することが可能となる。

また,農用地が処理区域または周辺にある場合には,農業用排水路について調査する。

この調査では,農業用排水系統図と用排水量に関する資料を収集・整理し,下水管路網

に合わせまとめておく。農業用排水路の調査情報により,農業用排水路の管路網と流量

調査結果を比較することでき,下水管路網との位置関係を整理することによって,不明

水に対する農業用排水の影響を検討することが可能となる。

(4)について

浸水状況に関する調査では,対象地域が浸水した場合の状況や対策の効果などを把握す

るため,浸水実績および浸水対策実績・計画等に関する資料を収集・整理する。

1)浸水実績

浸水実績の調査では,浸水記録として,雨天時浸入水等によりマンホールから溢水し

て浸水被害が発生した場合や,急激な増水によってポンプ施設や処理場のポンプ設備が

冠水した場合等の浸水状況,また,浸水による被害状況等(家屋,事業場,ポンプ施設,

処理場)について関係資料の収集・整理を行う。

2)浸水対策実績および計画

浸水対策が実施されている場合や計画が策定されている場合には,その内容について

調査を行う。これらの調査により,不明水対策計画を策定する際のキャリブレーション

の実施や対策効果の検討が可能になる。

基礎調査における収集資料および使用目的を,表 2-1 に示す。

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表 2-1 基礎調査における収集資料一覧表

使用目的※

調査

区分 調査項目 収集資料 不明水量

把握

不明水

原因

把握

不明水

場所

把握

不明水

対策

検討

対策

効果

検証

1)地形 ・地形図

・地盤高データ △ △ △ ○ ○

2)地質 ・地質図

・土質柱状図

・透水試験値

△ △

3)地下水 ・地下水位高線図

・地下水温 △ ○ △ △

4)処理区周辺

水域の状況

・河川水位

・潮位潮汐表

・塩素イオン濃度

・電気伝導度

△ ○ △

5)気象データ ・降雨量

・降雨強度

・降雨継続時間

・積雪量

・気温

○ ○ ○ ○

(1)自然

条件に関

する調査

6)土地利用状況 ・土地利用図 △ △ △ ○ ○

(2)関連

計画に関

する調査

1)流域別下水道

整備総合計画

2)下水道

全体計画

3)下水道

事業計画

4)下水道施設

改築更新計画

5)事業再評価

・計画人口

・汚水量原単位

・計画汚水量(家庭,観

光,工場,その他)

・計画放流水質

・区画割施設平面図

・流量計算表

・開発計画

・整備状況

・事業費

△ △ ○ ○

1)施設情報 ・下水道台帳

・竣功図

・設備台帳

・資産台帳

△ △ ○ ○

2)維持管理情報 ・日常点検記録,清掃

情報,道路陥没情報

・運転日報・月報

・特定施設届出情報

○ ○ △ ○ ○

3)財政関係

・有収水量

・下水道使用料収入額

・維持管理費

○ ○

(3)既存

施設に関

する調査

4)その他の施設 ・消雪パイプ

・農業用排水路 ○ ○ △ ○ ○

(4)浸水

状況に関

する調査

1)浸水実績

2)浸水対策実績

および計画

・浸水記録,浸水

による被害状況

・浸水対策の実施状況

・浸水対策計画 ○ ○ △ ○ ○

※使用目的:○=主要目的として使用,△=補助目的として使用

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2.3 不明水の概略実態把握

2.3.1 不明水量の概略実態把握

不明水量の概略実態把握では,第一に処理区全体における不明水量の実態把握のた

め,基礎調査情報に基づき次の各項目について検討する。

(1)雨天時浸入水量

(2)降雨量と雨天時浸入水量の相関

(3)地下水浸入水量

(4)その他の不明水量

【解説】

(1)について

雨天時浸入水量の把握については,検討対象地点に も近い流量観測場所(中継ポンプ

場,処理場,関連公共下水道の接続点等)の流量データより,雨天時下水量と晴天時平均

下水量の差分として算定する。なお,雨天時浸入水量の算定方法については,次に示す「雨

天時浸入水量の考え方」に基づくことを前提とする。

雨天時浸入水量の考え方(図 2-2 参照)

① 雨天時浸入水の継続時間の始点は,一般的に,降雨開始時刻とほぼ一致することが

多い。

② 雨天時浸入水の継続時間の終点は,雨天時浸入水量が 0 になったときとする。

③ 雨天時浸入水量=Σ〔雨天時下水量-晴天時平均下水量〕

図 2-2 雨天時浸入水量の考え方

(出典:下水道管きょ改築・修繕にかかる調査・診断・設計実務必携 平成 17 年 11 月 (財)経済調査会)

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(2)について

降雨量と雨天時浸入水量の相関については,双方の総量, 大値,平均値,継続時間に

は特性があることから,この特性間の相関関係を分析し,降雨量と雨天時浸入水量との関

係を把握する。

参考 1―降雨と雨天時浸入水量との相関関係の参考事例

A 流域下水道における各特性間の相関を,表 3.1 に示す。

総降雨量と雨天時浸入水の総量の相関が, も高く,寄与率は 0.921 となった。よっ

て,A 流域下水道では,総降雨量と雨天時浸入水の総量の相関を用いて,目標降雨規模

に対する雨天時浸入水量を推定することになる。

一方,時間 大降雨量と雨天時浸入水の総量の寄与率は 0.373 であった。これは,処

理場の流入地点で検討したものであり,下水の流下に伴って浸入水量のピークが均され

たためであると考えられる。処理区内整備面積の小さな枝線管路で調査すれば,時間

大降雨量と雨天時浸入水の総量や,時間 大降雨量と雨天時浸入水のピーク量の相関が

高くなる傾向がある。

地域によって相関が異なることから,その地域における雨天時浸入水量と も相関が

高い特性を把握する必要がある。

表 3.1 降雨と雨天時浸入水との各特性の相関例(データ数 30 件)

雨天時浸入水

総量 ピーク量 平均量 継続時間

総降雨量 0.921 0.618 0.428 0.871

時間 大降雨量 0.373 0.608 0.276 0.320

平均量 0.637 0.383 0.257 0.647 降雨

継続時間 0.407 0.379 0.267 0.362

注:表中の数値は,降雨の各特性と雨天時浸入水の各特性との相関を寄与率として示

したものである。寄与率は,回帰分析による 2 つの変数の相関を表す数値である。

(出典:分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003 年 3月 (財)下水道新技術推進機構)

参考 1 では,総降雨量と雨天時浸入水の総量に関する相関性が高いといえる。

参考 2 では,時間降雨量と時間雨天時浸入水量の相関性が高くなっている。

参考 2―時間降雨量と時間雨天時浸入水量との相関関係の参考事例

(出典:下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会)

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(3)について

地下水浸入水量(常時浸入水量)の概略実態把握については,晴天時における有収水量

および処理場流入水量から把握する。地下水浸入水量の算定式を次に示す。

地下水浸入水量=Σ〔下水量-雨天時浸入水量-有収水量〕

なお,概略実態把握において有収水量を得られない場合には,晴天日の時間 低下水量

を地下水浸入水量とみなすこととする。

ここで,流入下水量の時間変動パターンの把握については,曜日の違い,雨天日と晴天

日の違い,生活様式や営業活動形態の違い,流達時間のずれ等による影響を考慮する必要

がある。そのため時間流入下水量の算定では,調査区域の大半が一般家庭で構成され,か

つ調査区域の面積が小さい場合を前提とし,図 2-3 に示すように前日までの適当な 1 週間

を選び晴天日 7 日間連続の水量を求め,各日の時間 低下水量の平均値を地下水浸入水量

とする。

図 2-3 流入下水量時間変動図

(出典:下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会)

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したがって,調査区域の条件が前記にあてはまらない場合には,事業場排水の実態把握

や,調査区域を細分化するなどの対策が必要となる。

また,調査区域が海域に隣接している場合や河川の感潮区間に接している場合には,潮

位の変化によって浸入水量が増減することがある。この浸入水は通常,潮位と同調する形

で浸入するが,浸入水は海水とは限らず,河川の感潮区間から浸入する場合には,比重の

違いから海水と河川水(淡水)とが混合しないことが多いため,河川水位と管路施設の高

さ関係によって海水または河川水(淡水)のどちらかが浸入することが多い。

ここで,河川水(淡水)を含む海水等の浸入水については,塩素イオン濃度の測定によ

って求まる下水中の海水濃度をもとに定量する方法がある。この方法を利用した海水等の

浸入水定量手順を次に示す。

① 汚水および海水試料の塩素イオン濃度および電気伝導度から,電気伝導度―海水濃

度の関係式を策定する。(図 2-5 参照)

② 大潮時を含む 24 時間の流量調査と電気伝導度測定および地下水位測定を行い,大潮

時(24 時間)に対応する海水負荷量と潮位の地下水位に対する影響を調べる。

③ 同時に,大潮時の瞬時流量と電気伝導度および地下水位を測定し,海水浸入強度と

潮位の影響範囲を調べる。

④ ②の海水負荷量を③の海水浸入強度で按分し,海水浸入水量の分布を算定する。

(図 2-4 参照)

以上の分析方法は,生活汚水と海水の電気伝導度の差に着目した簡易測定法であり,こ

の方法では,海水濃度の根拠として塩素イオン濃度と電気伝導度との相関(図 2-5 参照)

を見ている。このため,工場排水等で海水以外の塩素イオンや他のイオンの存在下では,

測定を妨害して誤差になるため注意する。

図 2-4 潮位と塩素イオン濃度,海水浸入水量の関係

(出典:月刊下水道 Vol.22 No.1) (出典:月刊下水道 Vol.22 No.5)

塩素イオン濃度と 図 2-5 電気伝導度の関係

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(4)について

雨天時浸入水および地下水浸入水以外の不明水としては,無届け排水事業場からの排水,

認定水量を超過した井戸水,農業用排水の浸入等が考えられる。調査区域に次のような事

象がある場合については,これらの不明水による浸入の可能性があるので,流量調査を行

い,その実測値と水道使用量や認定水量等の有収水量との差をその他の不明水量として把

握する。

① 特定エリアから特定時間に大量の流量が観測される。

② 井戸水を使用している家庭,事業場が多い。

③ 灌漑期に非灌漑期よりも不明水量が多い。

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2.3.2 ブロック別(系統別)概略実態把握

ブロック別(系統別)概略実態把握では,効率的な不明水対策のため,次の手法に

より対策優先度の高い改善対象区域を特定する。

(1)ブロック別(系統別)流量調査手法

(2)その他の調査手法

【解説】

調査対象区域内の全管路施設を対象とした詳細調査(テレビカメラ調査や誤接続調査

等)や不明水対策の実施には,多大な費用と時間を要する。よって,効率的に不明水対策

を実施するためには,費用便益比(B/C)の高い区域から対策を実施することが重要であり,

流量調査等の手法を用いて対策優先度の高い改善対象区域を特定する。

(1)について

対策優先度の高い改善対象区域を特定する方法には,ブロック別(系統別)流量調査手

法が有効であり,その概要は次のとおりである。(図 2-6 参照)

① 調査対象区域をブロック(集水系統)に区分し,ブロック別浸入水量調査を行う。

② 基礎調査データおよび①の調査データをもとに,不明水浸入状況の解析を行う。

③ ブロック別に対策優先度の重み付けを行う。

④ 対策優先度の高いブロックを改善対象区域として選定し,さらに区域を細分化して

検討する。

イメージ図 概 要

3

地域特性・整備状況から小ブロック化

浸入水量調査結果から優先順位決定

浸入水量調査結果から優先順位決定

T

6

T

5

③浸入水量調査

管渠系統

72

41

浸入水量調査

管きょ系統による区域分割

●処理区域を管きょ系統により分割

し,ブロック別に浸入水量を調査

する。

●調査結果に基づき,管きょ系統ブ

ロックの浸入水削減対策実施の優

先順位を決める。

●また,優先順位の決定の際は,緊

急性を重視することとする。

●優先順位の高い管きょ系統につい

ては,地形の状況,施工年度等の

地域特性や整備状況を考慮し,ブ

ロックを細分割する。

●さらに細分割された各小ブロック

の浸入水量を調査し,小ブロック

別の優先順位を決定する。

図 2-6 ブロック別浸入水量調査手法

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この手法による調査結果については,次のように流出解析モデルによる対策手法の検討

に用いることができる。

① 調査対象区域の実測調査結果(降雨,流量)をもとに,雨水浸入率(単位面積当た

り雨水浸入水量)を算定し,キャリブレーションの実施により流出解析モデルのパ

ラメーターを決定する。

② 流出解析モデルを用いて,計画降雨時における雨水浸入状況をシミュレーションし,

各種対策を施した場合の効果を比較する。

③ 降雨終了後の晴天時レベルへの回復時間,経済性,施工性,維持管理性,供用開始

からの経過年数,排水面積等を考慮し,対策の優先順位を設定する。

なお,詳細については,「3.雨天時浸入水対策」を参照されたい。

【参考:流量計測方法】

継続的に下水の流量調査を行うことにより,浸入水量の把握および区域の特定等,以後

の削減計画資料にすることができる。流量調査では流量計を用いるのが一般的であるが,

流量計に対して次の基本的な認識を持つことが必要である。

① あらゆる計測目的に対応するオールマイティな流量計はない。

② 微小流量から多大流量までの広い範囲に渡って精度のよい流量計はない。

③ 開水路と管きょの両方を同様に精度よく計測できる流量計はない。

④ 流量計のカタログ精度と現場精度は多くの場合一致しない。

管きょ内の流量調査でよく用いられている流量計測方法として,流速,水位による方法

があり,その概要について表 2-2 に示す。また,流量計測上の注意点を,次に示す。

① 測定箇所は,管路の直線部に設置するとともに,管路上流の曲がり,たるみのほか,

枝管や排水設備からの流入等がない位置とする。

② 下流からのバックウォーターの影響がない箇所を選定する。

③ 流量測定中に管内の下水流下を阻害することがないようにする。特に雨天時の水量

急増には十分配慮する。

④ 測定対象としている流量範囲に応じた測定方式・装置を選択する。一般には,夜間

の 小流量から降雨時の 大流量までを適当な精度,かつ一つの装置で測定しうる

方法はない。低流量時には正確な測定が難しいことが多く,別の直接測定による方

法を検討する。

⑤ センサーの上流側に,設置する管きょの直径の 10 倍程度の直線長が必要である。

⑥ センサーの下流側に,設置する管きょの直径の 5 倍程度の直線長が必要である。

⑦ 上流管と下流管との落差が大きくないこと。

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表 2-2 流量計測方式の比較表

方 式 フリューム式 面速式 水位式(水理公式利用)

構 成 超音波式水位センサーと

フリューム

圧力式水位センサーと

超音波ドップラー式流速

センサー

超音波式水位センサーまたは

圧力式水位センサー

測 定

原 理

・ フリュームは流量計測用の

水路施設で,ベンチュリー

フリュームの一種

・ 水路途中にフリュームを設

置して,通過水位から流量

を計測する方式

・ 検出水位と水路形状から流

積を,面的な流速計測から

平均流速を計測して,流量

に計算する方式

・マニングの平均流速公式を

利用して,計測水位と水路

形状と勾配,粗度係数から

流量を計測する方式

長 所

1)堰と同様に流速を測る必要

がないので,精度が安定し

ている

2)汚水に非接触な超音波セン

サーを利用しているため,

汚損がほとんどない

3)30 年以上の実績があり,特

に小・中口径管の流量を精

度良く計測できることが

知られている

4)堰のように水路を遮らない

ので,堆積がほとんど生じ

ず,汚水に適している

1)規模が大きくなっても設置

手間がほとんど変わらない

2) 規模が大きくなればなるほ

どフリューム式よりイニシ

ャルコストが相対的に低い

3) 変形水路等,様々な形状の

水路や管路に適応

4)射流,滞留,逆流,一時的

な満管流の計測が可能(非

常に浅いものは不可)

5)中・大口径管ではコスト的

にはフリューム式より有利

1)単純に水位を計測するだけ

なので,3 方式の中で も

設置が簡単

2)超音波水位センサーの場合

には,汚水と非接触なので

汚損によるメンテナンスの

必要がない

3)頻度の高い水位で流速分布

を実測して平均流速を計算

し,粗度係数を逆算して適

用すると計測精度が向上す

短 所

1)水路施設を設けるため,規

模が大きくなるにつれて

イニシャルコストが高く

なる

2)大規模なものは設置が困難

で工期を要する

3)射流,滞留,逆流,一時的

な満管流の計測は原理的

にできない

1) 水中型のセンサーなのでフ

リューム式より汚損による

メンテナンス機会が多い

2) 流積に比しセンサー断面が

大きくなる低水位や小口径

管では精度が低下すること

がある

3) 流速分布が乱れる合流点や

段差,曲がり点等では精度

が悪いことがある

1)水理公式により流量計算す

るので精度を担保できない

2)不等流になる場合は原理的

に不適。等流場所(水路形

状,勾配が変化せずなだら

かに流れている場所)をマ

ンホール付近に求めること

が難しく,場所的な制約を

受ける

3)粗度係数に代表値を当てる

と,精度が悪くなることが

ある

参考図

(参考:流量計測方式の比較検討表 ペンタフ㈱)

-23-

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(2)について

その他の調査手法として,事例ベースモデリング手法があげられる。この手法は,調査

対象区域において,特定の領域に降雨があった場合のみ雨天時浸入水量が増加するという

現象に着目し,100 回を超える程度の降雨を用いて降雨と雨天時浸入水の相関性から雨天

時浸入水発生領域を絞り込む解析技術である。

この手法は,分流式下水道の 500ha を越える広域的な雨天時浸入水の発生領域を 25ha

程度に絞り込むことができるが,地下水浸入水の把握は解析対象としていない。よって

「2.3.1 不明水量の概略実態把握」による不明水の主とする原因が雨天時浸入水の場合に

ついては,調査手法として選定することが可能である。なお,雨天時浸入水対策実施後は

流況が変わるため,次の対策の解析を行うためには,対策後の降雨と雨天時浸入水のデー

タが必要となる。

(1)および(2)の各調査手法の対象範囲は,下水道施設と浸入水区分のそれぞれについて,

表 2-3 および表 2-4 に示すとおりである。

表 2-3 調査手法別対象下水道施設

下水道施設の分類 ブロック別流量調査手法 その他の手法

合流式下水道 ○ ×

汚水 ○ ○ 分流式下水道

雨水 × ×

表 2-4 調査手法別対象浸入水

浸入水区分 ブロック別流量調査手法 その他の手法

雨天時浸入水 ○ ○

地下水浸入水 ○ ×

-24-

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2.4 詳細調査

詳細調査では,基礎調査および不明水の概略実態把握に基づき,不明水対策を必要と

する改善対象区域の目的に応じて次の調査を行う。

(1)視覚調査

(2)定性調査

(3)定量調査

【解説】

詳細調査では,浸入水量が多い等,対策優先度の高い地区を対象とした対策箇所,対策

方法および対策効果に関する資料を作成するため,問題箇所の正確な位置,状態,問題箇

所ごとの浸入水量等を把握する。

また,詳細調査では表 2-5 に示すように目的に応じた適切な調査項目を選定する。

表 2-5 調査項目ごとの目的

調査分類 調査方法 目 的

視覚調査※ 目視調査

テレビカメラ調査

管きょの継手,クラック,不同沈下等の状態,マ

ンホールの側壁の目地・クラック等の状態,地下

水等の浸入状態等を確認する。

定性調査 誤接続調査 雨水排除施設の汚水管路への誤接続の状況を把

握する。

定量調査 流量調査

水密性調査 浸入水量の把握,浸入箇所の特定。

※視覚調査においては,浸入水対策と合わせて,改善計画(長寿命化計画)を策定するために必要な劣化

(破損・腐食)調査,または流下機能(たるみ・蛇行)調査等の施設の健全度に関する調査を実施する

ことも考えられる。

(1)について

視覚調査には,マンホール目視調査と管内調査がある。

マンホール目視調査では,蓋およびその周辺状況,マンホール内部および管口を目視に

より調査する。また,マンホール内部および管口については,調査員がマンホールに入り,

テストハンマー,スケール等を用い調査する。

管内調査には,目視調査とテレビカメラ調査があり,適用範囲は表 2-6 に示すとおりで

ある。

ただし,視覚調査では,管きょの継手,クラック,不同沈下等の状態,マンホールの側

壁の目地・クラック等の状態および地下水等の浸入状態を確認することができるが,現況

を観察することが目的であり,浸入水等を定量的に把握することはできない。

-25-

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表 2-6 管内調査の適用範囲

種 別 適 用 範 囲

目 視 調 査 本管内径 800 ㎜以上の管きょ内調査

管口テレビカメラ

小中口径管テレビカメラ(800 ㎜未満) 本 管

大口径管テレビカメラ(800~2000 ㎜)

ただし,水位 50 ㎝以下で流速等を考慮する。

テレビカメラ調査

取付管 取付管テレビカメラ

1)目視調査

目視調査については,本管内径 800 ㎜以上の管路に適用し,管きょの継手,クラック,

不同沈下等の状態,地下水の浸入状態等について可視範囲内を目視により調査する。

2)テレビカメラ調査

① 管口テレビカメラ調査

マンホールから管径 800 ㎜未満の管内を調査する場合には,安全面や動画記録の観点

から管口テレビカメラを使用する。この調査方法では,地上からマンホール内にロッド

付きテレビカメラを挿入し,十分な照明のもとに管きょの布設状況,流水状況,堆積土

砂状況,浸入水および木根浸入状況等の管路内不良箇所を調査するとともにビデオ撮影

を行う。(図 2-7 参照)

調査助手調査技師調査作業員

運転手

管口テレビカメラ

(一般)

図 2-7 管口テレビカメラ調査作業模式図

② 小中口径管テレビカメラ調査(管径 200 ㎜~800 ㎜未満)

管径 800 ㎜未満の管内調査については,一般にテレビカメラを使用して調査を行う。

この方法では,既設管内にテレビカメラを挿入後,モニター画面に管内の異常箇所の

状態を写しながら管内の状況を把握する。同時に,撮影内容をテレビカメラにより記録

媒体へ連続的に収録する。(図 2-8 参照)

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小中口径管テレビカメラ搭載車

調査作業員

調査技師

調査助手

運転手(一般)調査作業員

止水プラグ 小中口径管テレビカメラ

図 2-8 小中口径管テレビカメラ調査作業模式図

③ 大口径管テレビカメラ調査(管径 800 ㎜~2000 ㎜未満)

管径 800 ㎜以上の管路調査であっても,スパン延長が長い場合や酸欠,有毒ガス発生

の危険性がある場合には,大口径用のテレビカメラを使用し調査を行う。ただし,調査

時の留意点として,流下下水の水位は 50cm 以下の場合とし,さらに流速に対する注意

があげられる。(図 2-9 参照)

大口径管テレビカメラ搭載車

調査技師

調査助手

大口径管テレビカメラ

クレーン付トラック

調査作業員調査作業員調査作業員

運転手(一般)

運転手(一般)

図 2-9 大口径管テレビカメラ調査作業模式図

④ 取付管テレビカメラ調査

取付管テレビカメラ調査では,事前に取付管内の高圧洗浄を行い,引き続き取付管用

テレビカメラを汚水ますより挿入し,管内を調査し,その状況をビデオ撮影するもので

ある。(図 2-10 参照)

-27-

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調査助手

調査技師

取付管テレビカメラ搭載車

清掃作業員

高圧洗浄車

清掃技師

運転手(一般)

調査作業員

取付管テレビカメラ

図 2-10 取付管テレビカメラ調査作業模式図

(2)について

誤接続調査では,分流式下水道における宅内排水設備の雨水,汚水系統が正しく分離さ

れているかどうか,本管から宅内排水系統までの調査を行うものである。誤接続には,民

地内にある雨水ますから,公共汚水ますおよび汚水管に接続されている例が比較的多い。

また,屋根部分の工種別基礎流出係数は 85~95%と 100%に近く,さらに流入時間は短いの

で,汚水管に流入する雨水浸入水量は短時間に大きな値を示すことが多い。

誤接続調査方法は,次のとおりである。

① 送煙試験

送煙試験は,分流式下水道における本管から宅内排水系統の誤接続調査方法(雨水が

汚水管へ,汚水が雨水管へ)の一つであり,誤接続があれば側溝や雨水ますから昇煙し,

また,管きょの継手不良や破損があれば道路面のクラックや路肩から昇煙し,地上でそ

の位置を確認することができる。(図 2-11 参照)

なお,昇煙箇所については,音響試験または染料試験によって排水経路の接続状況に

ついて再確認を行う。

-28-

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ルーフドレン雨水排水

取付管破損

送煙用送風機

マンホール

止水プラグ 下水管

破損

地下排水

ペント

取付管

止水プラグ

図 2-11 送煙試験模式図

② 音響試験

音響試験は,下水道本管からその取付管経路および宅内排水管経路を調査する方法で

ある。試験方法には,ハンマー等による打撃音の確認および音波による確認方法がある。

(図 2-12 参照)

発信器受信器

図 2-12 音響試験模式図

③ 染料試験

染料試験は,下水道本管,取付管,宅内排水管に処理場等の処理工程に無害な蛍光染

料稀釈水を上流より流し,流下経路,漏出経路,流達時間を調査する方法である。本試

験については,送煙試験,音響試験の補助調査として併用する。

-29-

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(3)について

定量調査には,流量調査および水密性調査がある。流量調査については,調査範囲の規

模や調査内容に応じて調査項目を選定する。また,水密性調査については,管きょの継手

等の水密性を定量的に把握するために行うものであり,注水試験や圧気試験により調査す

る。

1)流量調査

詳細調査における流量調査には,流量計測,揚水試験,水道使用量調査および降雨観

測等があり,各調査方法における適用範囲および試験方法等については,次に示すとお

りである。

① 流量計測

下水の流量を継続的に調査することにより,浸入水量の把握および区域の特定等,以

後の不明水削減計画資料にすることができる。(流量計測については 2.3.2 参照)

② 揚水試験

揚水調査は,1区間または1系統ごとの浸入水量を短時間で把握できる試験方法であ

る。この試験方法では,浸入水量を採水または揚水し水量を測定することから,生活排

水の少ない深夜に実施することが多い。(図 2-13 参照)

図 2-13 水中ポンプによる揚水試験

(出典:下水道管路施設維持管理積算資料 2006 (社)日本下水道管路管理業協会)

③ 水道使用量調査

水道使用量の調査では,流量測定区域内における水道利用者を対象に,水道の量水器

の検針記録を集計する。

④ 降雨観測

降雨観測では,流量測定と同時に転倒ます型雨量計を設置して測定する。測定結果に

ついては,雨水浸入量との相関関係を整理しておく。(2.3.1 参照)

-30-

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2)水密性調査

① 注水試験

注水試験は,地下水位が管底より低いか,あまり高くない場合に有効であり,水を注

入して水密性を調べる方法である。調査方法については,下図のようにマンホール間を

1 区間ごとに止水し,上流側のマンホールから管内に水を注水し,マンホール内の水位

変動を測定する。この試験結果より,施設の水密性が正確に把握でき,また,水で満た

した管路からその漏水量を測定するため,漏水量から浸入水量を推定することができる。

(図 2-14 参照)

標尺

調査作業員給水車調査技師調査助手

止水プラグ

止水プラグ

止水プラグ

調査作業員 調査作業員

運転手(一般)

図 2-14 注水試験作業模式図

② 圧気試験

圧気試験は,注水に代えて低圧空気で管路内を加圧し,圧力を保持しながら漏気量を

測定し,管路の気密性を調べる方法である。圧気試験では,気密性の結果と注水試験に

よる水密性結果を対比させることが必要となるが,水と空気の分子量が異なるため,漏

水量と漏気量は必ずしも比例関係にない場合があるので注意を要する。(図 2-15 参照)

運転手(一般)調査作業員

パッカー車

止水プラグ パッカー テレビカメラ

運転手(一般)

テレビカメラ搭載車

調査作業員

調査技師

調査助手

図 2-15 圧気試験作業模式図

-31-

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詳細調査の方法と調査項目についての概要を表 2-7 に示す。

表 2-7 詳細調査の概要一覧表

調査分類 調査方法 調査項目 適用範囲とその内容

マンホール

目視調査

マンホール及び管内の

調査

マンホール内に調査員が入坑

し目視によりマンホール内部

及び管内を調査する。

目視調査 管径 800 ㎜以上 潜行可能な管内を調査員が直

接目視により調査する。

【本管】管口テレビカ

メラ

地上部より管内を管口テレビ

カメラにより調査する。

【本管】小中口径テレ

ビカメラ

管径 800 ㎜未満

管内をテレビカメラにより調

査する。

【本管】大口径テレビ

カメラ

管径 800 ㎜~2000 ㎜

管内をテレビカメラにより調

査する。水深 50cm 以下で流速

を考慮する。

視覚調査

管内調査

テレビカメラ調査

取付管テレビカメラ

管径 150 ㎜~200 ㎜

管内をテレビカメラにより調

査する。

送煙試験 1 区間単位

管径 200 ㎜~600 ㎜

分流式下水道の汚水・雨水系

統が正しく分離されているか

本管から宅内排水系統までを

調査する。

音響試験 送煙試験と併用することによ

り,調査精度が向上する。

定性調査 誤接合調査

染料試験 1 系統単位 流下経路,漏出経路,流達時

間を調査する。

流量計測 区域及び 1 系統単位

下水の流量を継続調査するこ

とにより,浸入水量の把握及

び区域の特定等,以後の削減

計画資料にできる。

揚水試験 地下水位が高い場合

1 区間単位

1 区間,又は 1 系統毎の浸入

水量を短時間で把握できる。

生活排水のないと思われる時

間帯に行う。

水道使用量調査 流量計測区域内 水道使用量を集計する。

流量調査

降雨観測 流量計測区域内 雨水浸入量との相関関係を調

査する。

注水試験

地下水位が低い場合

本管径 200 ㎜~700 ㎜

1 区間単位

マンホール部及び 1 区間の水

密性を短時間に測定できる。

定量調査

水密性調査

水圧・圧気試験

地下水位が低い場合

本管径 200 ㎜~700 ㎜

1 区間単位

本管の目地,クラック等,1

箇所毎の水密性を調査する。

(出典:下水道管路施設維持管理積算資料 2006 (社)日本下水道管路管理業協会)

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2.5 不明水調査結果の評価

不明水調査結果の評価では,概略実態把握および詳細調査の結果に基づき,不明水の

原因別,箇所別の対策手法を検討する。また,対策の実施にあたっては,対策目標を

設定し,段階的に事業を進める。

(1)不明水の原因別,箇所別対策手法

(2)不明水対策目標の設定

(3)不明水対策の段階的実施

【解説】

不明水調査結果の評価では,「2.3 不明水の概略実態把握」および「2.4 詳細調査」によ

る,不明水の原因および不明水浸入箇所の判定結果に基づく対策手法を選定する。対策の

実施にあたっては,原因別,箇所別の対策目標を設定し,各種対策手法の比較検討を行い,

優先順位を定めて段階的に事業を実施する。

また,不明水対策検討の際には,ライフサイクルコスト(LCC) 小化のための対策内

容や対策時期を含む改築計画(長寿命化計画)を策定するのがよい。

なお,原因別の具体的対策手法や目標設定,対策評価・選定,段階的整備計画の詳細に

ついては,「3.雨天時浸入水対策」,「4.地下水浸入水対策」,「5.その他不明水」を参

照されたい。また,優先順位検討等の評価基準の一つである費用効果分析の考え方につい

ては,「6.不明水対策の費用効果分析」を参照されたい。

(1)について

不明水の原因別,箇所別対策手法の検討では,不明水の概略実態把握で明らかにされた

事象に加え,詳細調査によって把握された不明水の原因および発生箇所に対し,その対策

手法について検討する。不明水の原因別・箇所別対策手法の例を表 2-8 に示す。

-33-

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表 2-8 不明水の原因別・箇所別対策手法(例)

顕在化する事象 不明水の原因 不明水発生箇所 不明水対策手法

a.降雨量と流入水量の時間的な相関性が高い。

雨天時浸入水 ・マンホール蓋 ・誤接続ます

・マンホール蓋穴の閉塞・ます接続替え ・ゲート操作による管内貯留

・貯留施設の設置 ・施設のネットワーク化・ポンプ能力の増強 ・反応タンクステップ流入

・高速ろ過等処理施設設置

b.降雨終了後においても不明水量の増加傾向が見られる。

雨天時浸入水 ・マンホールブロック継ぎ目

・マンホールと本管 継ぎ手

・本管と取付管継ぎ手

・管きょ等の改築・修繕・ゲート操作による管内 貯留

・貯留施設の設置 ・施設のネットワーク化・ポンプ能力の増強 ・反応タンクステップ流入

・高速ろ過等処理施設設

置 c.深夜の給水量が も

少ない時間帯にそれ以上の流入水量がある。

地下水浸入水 ・地下水位以下のマンホールブロック継目

・マンホールと本管 継ぎ手

・本管と取付管継ぎ手

・管きょ等の改築・修繕

d.河川水位,潮位の変化に連動して不明水量が増加する。

地下水浸入水 ・河川水位,潮位以下のマンホールブロック 継ぎ目

・マンホールと本管 継ぎ手

・本管と取付管継ぎ手

・管きょ等の改築・修繕

e.特定エリアから特定時間に多量の流入が観測される。

その他不明水 ・無届け排水事業所 ・ゲート操作による管内貯留

・事業所に対する接続 指導

f.井戸水を使用している家庭,事業所が多い。

その他不明水 ・認定水量超過井戸水 使用家庭,事業所

・ゲート操作による管内 貯留

・貯留施設の設置 ・施設のネットワーク化・流量計の設置

g.水道の給水有効率が他都市よりも低い。

その他不明水 ・水道管下のマンホー ルブロック継ぎ目

・マンホールと本管 継ぎ手

・本管と取付管継ぎ手

・管きょ等の改築・修繕・ゲート操作による管内 貯留

h. 灌漑期に非灌漑期よりも不明水量が多い。

地下水浸入水その他不明水

・マンホールブロック 継ぎ目

・マンホールと本管 継ぎ手

・本管と取付管継ぎ手 ・農業用排水接続管

・管きょ等の改築・修繕・ゲート操作による管内貯留

・農業用排水接続廃止

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(2)について

不明水対策の実施にあたっては,地域特性や不明水による影響箇所に応じて対策目標を

設定する。なお,事業期間が長期に亘るものについては,段階的な目標にする必要がある。

対策目標の設定例を表 2-9 に示す。

表 2-9 不明水対策目標(例)

不明水対策 対 策 目 標

雨天時浸入水対策

①マンホール,汚水ますからの溢水防止

②未処理放流水の廃止

③処理場,ポンプ施設の浸水被害防止

④処理場流入水全量の高級処理実施

⑤浸入水量を日 大汚水量の 20%以下に抑制

⑥ランニングコストの低減

地下水浸入水対策 ①費用便益比(B/C)の も高い止水率の達成

②事業計画上の地下水量まで削減

その他不明水対策

①無届け排水の適正接続処置

②井戸水利用世帯へのメータ設置等による認定量の見直し

③漏水防止による給水有効率の向上

④農業用排水路の接続廃止

(3)について

不明水対策については,緊急かつ短期に実施する当面の対策と中・長期的に対処する抜

本的対策に分類される。各対策については,地域により下水道整備状況および雨水排除施

設の整備状況等が異なることから,緊急度・対象地域の実情等に応じて決定する。(表 2-10

参照)

表 2-10 不明水対策の段階的実施

対策実施時期 事業期間 対 策 内 容

緊急・短期 1~5 年

①運転管理対策

既存施設機能の 大限活用

②施設の機能向上対策

処理・通水能力の増強

中・長期 10~20 年 ①改築更新事業

②新規施設建設

不明水対策の実施時期の設定では,対策対象不明水あるいは対策箇所について,次に示

す比較項目ごとの重要度分け(ランク付け)を行った上,総合評価の高い対策から優先順

位を定めて実施することが望ましい。(表 2-11,表 2-12 参照)

-35-

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表 2-11 不明水対策の優先度比較項目(例)

①不明水浸入率(管路延長当たり,面積当たり,降雨量当た

り,計画汚水量比,有収水量比等)

②地下水位以下管路延長

③緊急度

④影響度

⑤費用便益比(B/C)

⑥施工性

⑦確実性

⑧効果発現速度

優先度比較項目

⑨関連事業との整合性

表 2-12 不明水対策の重要度評価基準(例)

重 要 度 対策対象

不明水 評価項目

Aランク Bランク Cランク

雨天時時間 大流量

/計画時間 大汚水量

2.0 以上 1.5 以上

2.0 未満

1.5 未満

雨天時

浸入水 雨天時時間 大流量

/晴天時日 大汚水量

3.0 以上 2.0 以上

3.0 未満

2.0 未満

地下水

浸入水

日平均晴天時流量

/日平均有収水量

30%以上 20%以上

30%未満

20%未満

なお,不明水対策を改築・更新事業に合わせて実施する場合には,日常において適正な

施工監理および維持管理が行われ,不明水対策の実施効果について合理的な説明ができる

ように管理資料を整理しておく必要がある。

【参考文献】

1)下水道管きょ改築・修繕にかかる調査・診断・設計実務必携 (財)経済調査会

2)分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

3)流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

4)事例ベースモデリング技術を用いた雨天時浸入水発生領域の絞り込みに関する技術マニュアル

2007 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

5)下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会

6)下水道管路施設維持管理積算資料 2006 (社)日本下水道管路管理業協会

7)だれでもわかる不明水対策講座 後藤清 1999 年 1 月号,4 月号 月刊下水道 環境新聞社

8)流量計測方式の比較検討表 ペンタフ㈱

-36-

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3.雨天時浸入水対策

3.1 雨天時浸入水対策の基本方針

雨天時浸入水は,雨天時に分流汚水管きょに雨水が浸入し,晴天時に比べて著し

く流入下水量が増大することにより現有施設能力の余裕を超える要因となってい

る。この浸入水量が多い場合には,汚水管きょからの溢水や処理施設の機能低下ま

たは停止等の問題を引き起こしている。

このため,雨天時浸入水対策は,処理機能停止や未処理放流水等を防止する緊

急・短期対策(リスク対策)と浸入水を低減させる中・長期対策の 2 つの観点から

既存下水道施設に対する対策を実施する必要がある。

【解説】

雨天時浸入水は,汚水管への雨水管の誤接合,マンホール・汚水ますのふた穴,管

の破損箇所,継手の目開き部分等から浸入し,雨天時に一時的に流入水量が増大する。

この雨天時浸入水量が著しい場合には,管路施設からの溢水や,揚水・下水処理能力

を上回りポンプ場・処理場の機能に重大な影響を及ぼす原因となる。また,雨天時浸

入水は,降雨終了後 2~3 日程度処理場等への流入水量を増大させることも多く,運転

管理費を増大させる要因にもなっている。(図 3-1 参照)

管路施設の計画・設計・建設段階から,管の水密性向上や排水設備の点検,適切な

施工の指導等の対策を実施することで,雨天時浸入水量の削減が期待できる。しかし,

いったん整備された下水管路施設では,排水設備や管きょ,ポンプ場,処理場での対

策には多大な時間,労力,費用を必要とし,早急に浸入水量を削減することは困難で

ある。さらに,平成 18 年度末における日本全国の下水道処理人口普及率が 70%を超え

ていることなどからも,既存下水道施設における対策の重要性が高まっている。

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23

時刻

流量

(m3/hr)

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

降雨

量(m

m/hr)

雨天時下水量

晴天時下水量

降雨量

降雨に連動して急激

に水量が増大する。施

設能力を超える場合

には緊急対策等が必

要となる

降雨終了後も 2~3 日程度流

入水量が増加し,年間の浸入

水量が多い場合には,浸入水

量を低減させる中・長期対策

が必要となる

図 3-1 雨天時浸入水の状況と対策の考え

-37-

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このため,雨天時浸入水対策は,降雨に連動して急激に増大する浸入水に対して,

①処理機能停止や未処理放流水等を防止する緊急・短期対策(リスク対策)と②降雨

が終了した後も長期にわたり流入水量を増大させ,運転管理費を圧迫している浸入水

を低減させる中・長期対策の 2 つの観点から既存下水道施設に対する対策を実施する

必要がある。(表 3-1 参照)

一般的に雨天時浸入水問題を抱えている処理場において,施設能力を上回る流入下

水量を発生させる降雨の頻度は年間数回であるが,水質汚濁防止法遵守や下水道施設

の機能保全の観点から,未処理放流水の発生や施設の機能停止等が懸念される場合に

は,ピーク水量を適切に処理するため,調整池の設置や処理能力の増加等の緊急・短

期対策をすみやかに実施する必要がある。

一方,降雨終了後に晴天時水量よりも多くの流入水量が数日間処理場等へ流入して

くる雨天時浸入水については,降雨の影響により地下水位が上昇し,管きょやますの

劣化・老朽化した箇所等から浸入水が増大するものと考えられる。

そのため,雨天時浸入水を削減して降雨後に続く浸入水量を低減していくためには,

雨天時浸入水対策で述べているピークに対応する緊急・短期対策ではなく,地下水浸

入水対策で行っている改築・修繕による抜本的な下水道施設の改修(中・長期対策)が

必要である。そこで,降雨後に続く雨天時浸入水を低減させる対策検討については,

「4.地下水浸入水対策」を参照することとし,対策方法については「4.4 改築と修繕」

による方法を基本とする。

表 3-1 雨天時に発生する浸入水に対する対策方針

問題となる現象 対策方針 対策方法 降雨に連動して浸入水が急激に

増大し,施設能力を超えた流入下

水量が発生することにより,溢水

や未処理放流・簡易処理放流等が

発生する

ピーク水量を短期的に低減さ

せることは困難であるため,ピ

ーク水量を受入れて貯留や処理

を行う【緊急・短期対策】の実

3 章の雨天時浸入水

対策を参照

降雨終了後も 2~3 日程度浸入

水が多く流入し,年間の不明水率

が 20%を超えている

浸入水量を低減させるため,抜

本的な対策が必要となることか

ら,管きょ施設やます・取付管

等の“改築・修繕”を実施して

いく【中・長期対策】の実施

4 章の地下水浸入水

対策を参照

-38-

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3.2 雨天時浸入水の対策方針

3.2.1 対策方針

雨天時浸入水対策の策定では,「汚水溢水の防止」,「施設冠水等の防止」,「処理

機能障害の防止」の観点から短期的な目標を設定し,目標達成のため,下水道シス

テム全体における対策により,都市の実情に応じた効率的な計画の立案を目指す。

なお,施設対策立案の際には,下記の点を考慮し,効率的な対策を立案する。

(1)下水道システム全体での対策

(2)運転管理対策と施設の機能向上対策

(3)その他

【解説】

雨天時浸入水対策の策定にあたっては,長期的には雨天時の影響を極力小さくして

全量を高級処理できる状態にする必要があるが,既存システムの処理機能を損なうこ

となく,改築・更新事業との調整を図りながら進める必要があることから,多大な時

間と費用が必要になることが多い。このため,対策の立案に当たっては,長期的な目

標と短期的な目標に分けて考えていくことが必要である。長期的な目標に対する対策

立案については,施設の改築修繕計画との整合を図りながら進めていく必要があるた

め,「4.地下水浸入水対策」を参照して進める必要がある。そこで,ここではリスク

管理の観点から,短期的な目標に対する対策(緊急対策)立案に絞って説明を行う。

緊急・短期的な施設対策は,管路の流下能力や貯留能力,ポンプ場の揚水能力,処

理場の処理能力等を 大限に発揮させる運転管理対策と施設の能力を向上させる機能

向上対策の組み合わせで,少ないコストで短期間にリスクの低減を図ることを目的と

する。

(1)について

施設対策では,汚水溢水の防止,施設冠水等の防止,処理機能障害の防止を達成す

るため,雨天時浸入水の影響により発生している被害や懸案事項を把握した上で,そ

れらを解消できる対策を実施する。

対策の立案にあたっては,個々の問題に対し,原因や要因を把握した上で問題を解

消できる安価で短期間に実施可能な対策を選定することが望ましい。しかしながら,

それらの対策を実施することにより,懸案地点の問題が他の地域に飛び火することも

ある。例えば,溢水が頻発する地点において,管きょの流下能力を増強して溢水を解

消した場合には,それより下流にあるポンプ場で能力不足となって施設が冠水したり,

能力が不足する管きょで溢水することも考えられる。また,処理場においては,処理

能力を大きく超える流入水量が発生すると,揚水できない場合や簡易処理放流等を行

うことも予想される。

したがって,対策の立案にあたっては,管路・ポンプ場・処理場を下水道システム

として捉え,複数の対策による効果と対策による相互間の影響等を総合的に考慮する

ことが重要である。また,対策は問題が発生している検討地点での地域の特性や問題

-39-

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の大きさを把握し,緊急度や優先度を考慮して立案することが望ましい。なお,最終

的な計画だけでなく,段階的な対策立案にあたっても同様であり,緊急度や優先度を

考慮すると共に,システム全体での影響や効果を把握しながら対策を立案することが

必要である。

(2)について

施設対策には,ゲート操作や予備機の活用など,運転操作方法の変更等により既存

施設の能力を活用する運転管理対策と,新たな施設を追加することにより施設の能力

や機能を向上させる機能向上対策があり,これらの対策を勘案し最適な施設対策を構

築することが望ましい。特に機能向上対策は,施設を新たに建設する対策であり,事

業費や整備期間を要することから,すぐに実施可能で既存施設を有効活用する運転管

理対策を優先させることが効果的である。なお,機能向上対策の計画にあたっても,

事業費削減の観点から,既存施設を極力活用する配慮が必要である。

(3)について

雨天時浸入水対策は,雨天時浸入水により下水量が施設能力以上となって発生して

いる諸問題を解消するための対策が求められている。このため,本来ならば下水管へ

入った下水を処理場で高級処理する必要があるが,ピーク水量が多く,対応が困難な

場合もある。そこで,リスク管理の観点から,対策の立案を図る必要がある。

-40-

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3.2.2 対策フロー

雨天時浸入水に対する対策では,危機管理対策(緊急もしくは短期対策)と抜本

的な対策(中・長期対策)の視点を持って対策を検討する。

【解説】

雨天時浸入水に対する対策は,過去の浸入水による事故事例等の調査,既存施設諸

元の調査,およびモニタリング調査等を十分に実施し,雨天時浸入水の実態を的確に

把握した上で立案することが重要である。

対策計画の立案に当たっては,当面の緊急対策(短期対策)と抜本的な対策(中・長期

対策)に区分した段階的な対策の構築が必要であること,対策案による改善効果を流出

解析モデル等で定量評価し改善策の有効性を判断していくこと,さらには,対策実施

後に事後評価を行い,計画目標の達成を確認し必要に応じて計画を見直すことなどが

肝要である。(図 3-2 参照)

図 3-2 雨天時浸入水対策の検討フロー

END

2章 雨天時浸入水の状況把握

3.3.1 計画目標の設定

目標未達成

目標達成

START

モニタリング調査

事後評価

3.3.2 対象降雨の設定

3.4.2 対策案の作成

3.4.4 対策案の評価・選定(定量評価)

3.4.5 解析モデルによるシミュレーション

3.4.6 改善計画の策定

対策の実施

3.4 改善計画の策定

-41-

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3.3 雨天時浸入水対策の計画目標

3.3.1 計画目標の設定

雨天時浸入水の計画立案に際しては,緊急もしくは短期間にすべての問題解決を

達成することは困難であるため,段階的な目標を設定する。

【解説】

緊急の改善目標の達成に向けては,中・長期的な目標も踏えつつ,費用効果の観点から効

率性の高い対策を優先的に実施することが重要である。このため,当面の改善目標を達成す

るための対策期間の設定では,各都市における下水道整備の残事業および雨天時浸入水対策

費用を考慮しつつ,事業着手からおおむね 10 年以内を基本とする。なお,対策期間の設定に

当たっては,改善対策の実施状況を十分検討のうえ,可能な限り年次の短縮を目指すことが

望ましい。

しかし,都市によっては,課題の多様性,問題対応の緊急性,処理場の整備状況,計画対

象区域の広がりなどにより,計画対象の全区域において緊急の改善目標を達成することが困

難な場合がある。このような場合は,下水道計画の目標年次までに実施すべき雨水排除機能

の向上,施設の改築・更新等の残事業を勘案し,雨天時浸入水対策を総合的に実施すること

も検討しなければならない。図 3-3 に,雨天時浸入水の段階的対策目標の概念図を示す。

図 3-3 雨天時浸入水段階的対策目標

大 

 

環境に対するリスクの大きさ 

 

大 

 

 

 

雨天時浸入水量の大きさ 

 

 

 

現況 雨天時浸入水問題の頻発

マンホール,汚水ますからの溢水防止未処理放流の回避処理場,ポンプ場の浸水被害防止

バイパス管・ネットワーク管の設置雨天時浸入水の処理能力増強貯留施設の設置

処理場流入水全量の高級処理実施浸入水量を日最大量の20%以下に抑制ランニングコストの低減

排水設備,管路施設の改築・修繕雨水管きょ施設の整備雨天時処理レベルの向上(全量処理)各戸貯留等のソフト対策

-42-

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3.3.2 対象降雨の設定

雨天時浸入水対策では,雨天時浸入水による被害状況ならびに計画目標等から,

検討対象地域の実状に応じて対策目標降雨規模を設定する。

【解説】

雨天時浸入水対策では,現状において生じている雨天時浸入水による問題の発生状

況やその程度から,計画目標を設定するが,計画目標を達成するために必要な施設の

規模等の検討には,対象となる降雨規模の設定が必要となる。

そこで,対象降雨の設定では,雨天時浸入水による被害の発生頻度,被害の規模,

影響度等を勘案し,対象地域別に決定するものとする。

対象降雨の設定方法には,表 3-2 に示すように,過去に雨天時浸入水による被害が

発生した実績降雨を対象降雨とする方法と確率降雨年を設定して作成した計画降雨を

対象降雨とする方法がある。過去に生じた被害の再発防止を目標として,計画を立案

する場合には実績降雨を用い,特に著名な降雨が想定できない場合には,確率降雨年

を設定して作成した計画降雨を用いる。

なお,対象降雨の設定に当たっては,降雨規模を大きく設定し過ぎると対策施設が

過大となり,事業費が増大するだけでなく,利用頻度の減少等により投資効果が低下

する可能性があるので,適正な規模設定となるよう注意する必要がある。

表3-2 対象降雨の考え方

対象降雨 設 定 方 法

実績降雨 実際に雨天時浸入水による「マンホール・汚水ますからの溢水」「マンホ

ール蓋の開放・飛散」「下水道施設の冠水」等の被害や問題が発生した降

雨の中から,検討対象地域の実状に応じて目標降雨規模を設定する。雨天

時浸入水対策の検討では被害発生時の降雨データを用いる。

計画降雨 目標とする確率降雨年を設定し,確率降雨年に応じた降雨強度式を用いて

作成した計画降雨を目標降雨規模とする。確率降雨年は過去の被害状況等

検討対象地域の実状に応じて設定する。雨天時浸入水対策の検討では降雨

強度式から作成したハイエトグラフを用いる。軽微な影響の場合には,確

率年を1年とするなど,過大な対策とならないように留意する。

(参考:分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構)

-43-

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3.4 雨天時浸入水改善計画

3.4.1 計画策定フロー

雨天時浸入水改善計画の策定では,合理的かつ最適な施設計画とするため,あら

かじめ現況施設の能力評価を行い,発生する問題に適用可能な対策手法の抽出を行

う。なお,現況施設の能力評価や改善効果の把握には,原則として流出解析モデル

を用いたシミュレーションにより行う。

【解説】

雨天時浸入水対策の検討にあたっては,対象となる地域の実情に合わせ目標とする

降雨規模を設定し,それから推定される雨天時の下水量に対して適切な対策を検討す

る。

浸入水対策に関する検討は,図 3-4 に示すように以下の手順により進められる。

図 3-4 雨天時浸入水改善計画策定フロー

3.4.4 対策案の評価・選定

3.4.2 対策案の策定

対策優先度の検討

改善効果の把握

経済性の検討

3.4.6 改善計画の策定

下水道施設の能力評価

対策手法の検討

最適対策案の検討

対策課題の検討

3.4.5 流出解析モデルを用いた シミュレーションによる評価

-44-

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3.4.2 雨天時浸入水対策案の策定

雨天時浸入水対策案の策定では,以下の各項を考慮して計画する。

(1)下水道施設の能力評価

(2)対策手法の検討

【解説】 (1)について

現状の下水道施設の能力評価を行い,雨天時浸入水による被害や発生要因と下水道

施設の問題点を整理する。 下水道施設の能力評価にあたっては,流出解析モデルを用いて現況施設のシミュレ

ーションを実施する。シミュレーションは対象降雨だけでなく,各種降雨強度(10,

20・・・mm/h)の降雨についても実施し,現況施設の対応降雨強度(排水能力)やネ

ックポイント,発生要因等の把握を行う。

(2)について

雨天時浸入水の発生要因や下水道施設の問題点,施設能力評価結果,検討対象等を

明確にし,対象地域での実現性と合理性を勘案して適用可能な対策手法を検討する。 対策手法の検討にあたっては,「3.2.1 対策方針」において述べたように,個々の問

題に対し対策を構築するのではなく,流出解析モデルを活用して,下水道システム全

体として対策の構築・評価を行っていく必要がある。

3.4.3 主な対策メニュー

雨天時浸入水対策は,その機能や内容により「施設の運転管理対策」,「施設の機

能向上対策」の 2 つに分類される。

【解説】

雨天時浸入水対策メニューは,その機能や内容により表 3-3 のように整理される。

その他,処理場施設が建設途中の場合には,「増設計画を前倒し」することにより,一

時的に雨天時浸入水処理能力を増強することも可能となる。

対策メニューの選定にあたっては,新たな施設を追加することによる施設能力や機

能を向上させる機能向上対策では事業費や整備期間を要することから,すぐに実施可

能であり,既存施設を有効活用する運転管理対策を優先させることが望ましい。

なお,「下水道施設計画・設計指針と解説 2001 年 日本下水道協会」では,雨天時

浸入水対策の事例として示されているが,「3.1 雨天時浸入水対策の基本方針」で述べ

たように,抜本的な対策である改築・修繕に関しては,「4.地下水浸入水対策」で整

理を行っているため,排水設備や取付管の補修等のオンサイト対策については,本手

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引きとはメニューが異なっている点に留意する必要がある。

また,「合流式下水道改善対策指針と解説 2002 年 日本下水道協会」において,分

流汚水の雨天時浸入水問題についての紹介や雨天時の処理に関する対策,管路施設に

関する対策等,雨天時問題に関する対策が多く紹介されており,雨天時浸入水対策に

活用できるものと考えられる。図 3-5 に紹介されている対策メニューを示す。

表 3-3 対策例の概要と効果

(参考:分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構)

○ - ○ △ゲート操作・オリフィス等に

よる流出抑制注1)

幹線接続点におけるゲートの開度調整やオリフィスの設置による支線から幹線への流出量の抑制

○ ○ - ○ △ ゲート操作による管内貯留注1)

ポンプ場や処理場流入部のゲート操作等により施設に流入する下水量を抑制すると同時に,余剰下水量を上流部の既設管路内で一時貯留する。

○ ○ ○ ○注3 - ポンプ予備機の活用

ポンプの予備機を稼働することにより揚水能力を増強する。

○ - - ○ 反応タンクステップ流入反応タンクをステップ運転することにより処理水量を増強する。

○ ○ - -管路の流下能力の増強(管路の二条化,布設替え)

増補管を布設することにより二条化することや,増径した管に布設替えすることにより流下能力を増強する。

○ ○ ○ ○ 管路のネットワーク化雨天時下水量に対して流下能力が不足している管路と余裕がある管路をネットワーク化し,管路網としての能力増強を図る。

○ ○ - -浮上防止型マンホール蓋への改良

浮上防止型マンホール蓋に改良し,マンホール蓋の飛散による人身事故を防止する。

○ ○ ○ ○ ○ ○ 貯留施設の設置貯留施設を設置し,下水道施設への流入を抑制する。

○ ○ ○ ○ ○ ○緊急時(処理場間)ネットワーク管の有効利用

緊急対策用に設置した処理場間ネットワーク管を貯留施設として有効利用を図る。

○ ○ ○注3 -

ポンプ能力の増強(設備の有効利用)

(ポンプ場注2

の新設)

整備途中のポンプ場・ポンプ施設において雨天時浸入水用としてポンプ設備を増設し,揚水能力の増強を図る。

○ - ○ -ポンプ能力の増強(設備の有効利用)

(ポンプ施設注2

の新設)

整備途中のポンプ施設において雨天時浸入水用としてポンプ設備を増設し,揚水能力の増強を図る。また,処理場にて雨天時浸入水用として下水道全体計画以上のポンプ施設を建設し,揚水能力の増強を図る。

○ - ○ △ 処理場内流下ルートの確保処理場内の導水渠・水路等の流下能力が雨天時浸入水により不足する場合に他の流下ルートを確保する。

○ - - ○ 施設・設備の有効利用

施設計画の見直し等により余裕が生じた施設を貯留施設として活用することや稼動していない施設を活用する等,既存施設の有効利用を図る。

○ - - ○反応タンク・ 終沈殿池のバイパス水路の設置

反応タンク・ 終沈殿池をバイパスすることにより,処理水量を増強する。

○ - - ○

雨天時浸入水用処理施設・凝集剤添加など沈殿能力の増強・高速ろ過設備・消毒設備等

高速ろ過・凝集沈殿施設等雨天時浸入水用処理施設を設置し処理水量を増強する。

注1)ゲート操作やオリフィス等による対策を実施する場合は,降雨強度の変動による溢水の危険性を考慮する必要がある。注2)ポンプについては,処理場内の揚水施設を「ポンプ施設」,管路途中における圧送・揚水施設を「ポンプ場」と区分する注3)下流管路に影響※ 増強される能力: 流下=流下能力・揚水能力/処理=処理能力(処理可能量)/貯留=貯留によるピーク流量の低減※ 対策の効果:○=効果あり/△=副次的に効果あり/-=効果なし

施設の運転管理対策

施設の機能向上対策

概  要管路

ポンプ場

処理場

汚水溢水

増強される能力

流下

種類

対象施設 目的別効果

対策例

施設冠水等

処理機能

障害防止

処理

貯留

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図 3-5 合流改善指針で紹介されている技術メニュー

管路施設に関する対策 維持管理

管路の補修

浸入水対策

オリフィス

(ヴォルテックスバルブ)

ゲート

膨張式ダム

背水ゲート

雨水吐き統廃合

遮合流の適正化

流量制御

分合流の解消

遮集量の増大

バイパス管

(リアルタイムコントロール)

オンサイト型貯留

遮集システムの適正化

既存管路の有効利用

分流化

ろ過スクリーン

雨天時越流水スクリーン

トラベリングスクリーン

(回転ドラムスクリーン)

(その他簡易なスクリーン)

雨水沈殿池

渦流式固形物分離装置

傾斜板沈殿池

貯留・浸透に関する対策 浸透 浸透ます,浸透トレンチ

透水性舗装

浸透井

貯留

処理に関する対策 きょう(夾)雑物対策

固液分離

加圧浮上法

高速凝集沈殿法

高速ろ過法

雨天時下水活性汚泥処理法

(好気性ろ床法)

塩素消毒等

簡易処理の高度化

雨天時下水の二次処理

消毒

沈砂池・ポンプますのドライ化

スクリーンの目幅縮小

オイルフェンスの設置

路面清掃

屋根排水の分離

雨水ます清掃

施設機能改善

ごみ捨ての管理

油脂類の流出管理

発生源に関する対策

融雪時の対策 簡易処理の高度化

雨天時下水の二次処理

ポンプ施設に関する対策

(多軸多重回転円板型スクリーン)

(自動洗浄型パネル式スクリーン)

雨水滞水池

流下型貯留施設

管路清掃

フラッシング

(クリーニングボール)

遮集量の適正化

改善対策

広報・広聴活動

発生源対策

(回転ディスク式フィルタ)

※( )は、参考として記載した対策を示す

完全分流化

部分分流化

(出典:合流式下水道改善対策指針と解説 2002 年 (社)日本下水道協会)

-47-

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3.4.4 雨天時浸入水対策の評価・選定

抽出された雨天時浸入水対策について,次の項目に関する評価を行い,最適案を

選定することを基本とする。なお,改善効果については,原則として流出解析モデ

ルを用いたシミュレーションにより評価し,最適対策案を選定する。 (1)改善効果

(2)経済性

(3)対策課題

(4)対策の優先度

【解説】

(1)について

対策案の改善効果については,当面の改善目標に応じた下記に示す項目について,

施設の現況と比較して評価する。

1)汚水溢水の防止

マンホールにおける水位が,地表面に溢れることや地表面に近い所まで上がって

いないかなど,対象降雨を用いて評価を行う。

2)施設冠水等の防止

ポンプ場や処理場など主要な施設において,冠水が発生しないかなど,対象降雨

を用いて評価を行う。なお,施設の冠水により機能停止する等影響が大きい施設に

ついては,超過降雨等によるチェックを行うことが望ましい。

3)処理機能障害の防止

処理場施設のチェックを行い, 大処理能力を把握すると共に,流出解析モデル

を用いて算定された流入水量で機能障害が発生しないかのチェックを行う。なお,

チェックにあたっては,時間的なピーク量を基に評価を行う。

(2)について

経済性の評価にあたっては,各対策案の用地費を含む建設費を算定し,必要に応じ

て維持管理費を加えて事業費の算定を行う。 (3)について

各対策案について,下記に示す技術的課題等の整理を行い,選定技術の実現性等に

ついて検討を行う。

1)用地の確保等建設の実現性

調整池等が必要となる場合には,必要敷地面積の確保と施工スペース等の確保が

可能か検討を行う。

-48-

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2)維持管理性

雨天時浸入水対策施設については,年間の稼働率は低いものの,事前に予測でき

ないこともあることから,自動運転など急な対応が可能で維持管理性の良い施設を

検討する

3)対策期間内での実現性

短期目標を達成するための対策期間内で,対策案による整備が完了できるかを検

討する。

4)多目的利用の可能性

浸水対策,雨水の有効利用等多目的利用について検討する。

5)市民・関連部局との連携

雨天時に対応する施設であるため,維持管理が難しく,かつ事業費が高くなる傾

向にあることから,各戸貯留や公園貯留等,市民や関連部局との連携を図り,効率

的で安価な施設にできるか検討を行う。 (4)について

雨天時浸入水対策技術には,十分に知見を得られていない技術もある。

よって,対策案の選定においては,段階的な改善目標を考慮した柔軟な 適案とす

るために,以下に示す事項を参考に,対策の優先度を検討する必要がある。

1)既存施設を有効活用する施策の検討および考察

新規に施設を作るには,時間と費用を多く必要とすることから,リアルタイムコ

ントロール(RTC)等の新しい技術を導入することにより,既存施設の流下能力・貯留

能力の効率性を高めるなど,既存施設の改善を優先させるような対策案についても

積極的に検討を行うことが重要である。また,抜本的な対策を行うまでに時間を要

する場合にも,暫定的な対応として既存施設を改善し,部分的な対応が図れるよう

な対策案について検討していくことも有効である。

2)新技術の導入による施策の検討および考察

雨天時浸入水対策として,合流改善対策のSPRIT21で開発された雨天時処理技術等

の新技術の採用も積極的に検討していくことが必要と考えられる。また,現時点で

は,確立されていない技術であっても,地域の水利用や雨天時浸入水対策に求めら

れる整備水準の変化等,適宜,計画を見直すことにより雨天時浸入水対策を着実に

進めていくことも重要である。

-49-

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3.4.5 流出解析モデル

雨天時浸入水の特性の把握,既存下水道システムの実態・課題の把握,効率的な

改善計画の策定および改善目標の達成度の確認・検証のためには,流出解析モデル

によるシミュレーションを行うことが有効である。

流出解析モデルの運用に当たっては,次の各項に留意する。

(1)キャリブレーション

(2)流出解析モデルの機能・選択

【解説】

雨天時浸入水が引き起こす問題を把握し,効率的な改善計画を策定するためには,

雨天時浸入水の特性をモニタリングにより十分に把握し,現象を定量評価できるよう

にしておく必要がある。

したがって,現況の雨天時浸入水の特性や改善計画の策定を行うためには,モニタ

リング結果を基に,流出解析モデルによるシミュレーションで溢水状況,未処理放流

水の発生状況,主要下水道施設への流入状況等を推定することが有効である。また,

改善対策実施後の改善効果の評価・確認についても流出解析モデルによるシミュレー

ションで改善効果を適宜推定することが望ましい。(図 3-6 参照)

(1)について

流出解析モデルによるシミュレーションでは,キャリブレーション(解析モデルの推

定結果と実測結果との比較によるモデルの適正化)を行うことにより,降雨や地域特性

をよく反映させた解析を行うことが可能となる。そのため,流出解析モデルの使用に

図 3-6 流出解析モデル運用のフロー

改善対策の効果把握

対策の実行

キャリブレーション(実測値との整合)

現況施設の評価

No

Yes

START

モニタリング

改善対策案の立案

改善目標のクリア

-50-

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あたっては,原則として検討対象地域における晴天時や雨天時の水量データや降雨デ

ータを収集するとともに,より実態を反映したデータを用いてキャリブレーションを

実施し,これにより決定したパラメータを使用する。これらの実態値について,都市

の条件により大きく変わるため,モニタリングにより,十分な実態把握を行うことが

重要である。

(2)について

利用する流出解析モデルとしては,各種モデルの特徴と計画対象区域の規模,特性

などを照らし合わせたうえで,運用するのに も適切と判断したモデルとする。

近年では,欧米を中心に種々の新しい流出解析モデルが開発され実用化されている。

これら流出解析モデルは,浸水問題と未処理放流水等による公共用水域の水質汚濁問

題を解決するために開発されたもので,任意地点における地表面流出や複雑な管きょ

の流れなどを時系列的に取扱い,雨水流出モデルと汚濁負荷量モデルを組合せた分布

型流出解析手法が採用されている。よって,この手法は,下水道システムにおいて,

複数の対策を組合せて検討するような場合に適している。また,任意地点におけるハ

イドログラフの作成や浸水状況を示す平面図・管きょ内水位縦断図の作成,アニメー

ション表示等の出力結果によるプレゼンテーション方法も豊富である。以下に参考と

して,これらのモデルの例を紹介する。また,表 3-4 には,分布型流出解析モデルで

検討可能な項目と具体例を示す。なお,分布型流出解析モデルの運用などについては,

「流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構」を参

照のこと。

1)インフォワークス・シーエス(InfoWorksCS)

本モデルは,1975 年にイギリスの水理研究局とウォーリングフォード水理研究所

で開発されたシミュレーションモデルを改良したシミュレーションシステムである。

2)マウス(MOUSE)

本モデルは,1980 年にデンマーク大学環境工学研究所が水文学的分野を,一方,

デンマーク水理研究所(DHI)が水理学的分野を担当して開発されたもので,目的に応

じて各モジュールを選択するシミュレーションシステムである。

3)エクスピースイム(XP-SWMM)

本モデルは,1969 年頃にアメリカの EPA,フロリダ大学等を中心に開発された雨

水管理モデルであり,これを XP ソフトウェア社が改良したシミュレーションシステ

ムである。

-51-

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表 3-4 分布型流出解析モデルで可能な検討・評価項目(参考)

項 目 内 容 具 体 例

1.溢水状況等の解析・

評価

任意地点での水位や流量を時

系列に把握することができる

ため,流域全体の状況を評価す

ることができる

マンホールから溢水する場

所や溢水量の推定

降雨時のノンポイント汚濁

負荷の下水道管きょへの流

入量の算定

2.対策施設等の提案お

よび効果の確認

モデルでは,ポンプ場,分水堰,

貯留施設等の水理構造物を組

み込むことができるので,対策

施設等の提案および効果等を

定量的に確認することができ

対策施設の提案

対策施設を設置することに

よる対策効果の推定

3.効率的な運用計画

レーダ雨量計や地表雨量計か

らのメッシュ単位の雨量デー

タが入力可能であり,複数のポ

ンプ場やゲート施設等の操作

条件を設定することによって,

効率的な下水道システムのシ

ミュレーションが可能である

リアルタイムコントロール

(RTC)機能を用いたポンプ

場などの 適運転ルールの

提案

雨天時処理場流入水量の推

定と処理施設の制御に対す

る支援

-52-

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3.4.6 改善計画の策定

改善計画の策定に当たっては,採用した計画の内容とその決定根拠を明確にし,

計画の内容等を具体的に示した計画図書としてまとめる。

【解説】

改善計画のとりまとめにおいては,雨天時浸入水対策について下水道部局とその他

の関連部局における行政間での意志決定および事業着手を速やかに実施できるよう,

採用した施設計画の内容とその決定根拠を明確にし,下水道計画として雨天時浸入水

対策を位置付ける。また,住民等の関係者への十分な理解,協力を得られるよう,計

画の内容を分かり易く示すことが肝要である。

改善計画における施設設計では,各都市の状況により異なるが,各都市の雨天時浸

入水改善計画として,次の事項について計画説明書および概要書を作成することを基

本とする。また,参考として,計画図書の仕様例を表 3-5 に示す。

1)地域の概要

地形状況,水利用状況,降雨特性等を示す。

2)雨天時浸入水等の状況

モニタリングおよび評価結果を示す。

3)計画諸元,既存施設等

下水道計画で定める計画諸元,既存施設の状況,下水道システムの問題点等につ

いて,調査した結果を示す。

4)流出解析モデル

使用した流出解析モデル,降雨・水質・流下能力等の基礎データ,キャリブレー

ションおよびシミュレーションの結果を示す。

5)目標設定

設定した改善目標を,具体的に示す。

6)対策期間

短期計画の対策期間はおおむね 5 年以内を基本とし,可能な限り達成期間の短縮

を目指す。

7)施設計画

対策案の比較検討内容, 適案とした根幹施設の検討内容,改善効果,概算費用

等を示す。

8)事業計画書

年度別整備計画,概算費用等を示す。

-53-

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9)事業評価方法

対策後の事業評価を行う上での検証方法を示す。

10)図面等

A0~A1 程度の計画一般図,施設平面図,施設縦断図等を作成するとともに,A3~

A4 程度で計画の概要がわかる図面を作成する。また,住民説明等に使用できるよう

な対策のイメ-ジ図を作成することが望ましい。

表 3-5 改善計画図書の仕様例(参考)

項 目 記載内容例 備 考

地域の概要 地形,水利用状況,降雨特性等

雨天時浸入水等の状況

モニタリングおよび評価結果等

計画諸元,既存施設等

下水道計画で定める計画諸元,既存施設の状況,下水道システムの問題点等

流出解析モデル

使用した流出解析モデル,降雨・水質・流下 能 力 等 の 基 礎 デ ータ,キャリブレーションおよびシミュレーションの結果等

目標設定 設定した改善目標を,

具体的に示す

対策期間 原則として 10 年間

施設計画

対策案の比較検討内容,改善効果,根幹施設の検討内容,概算費用等

事業計画書 概算費用,年度別整備計画等

計画説明書

事業評価方法 施設機能チェックのための管理指標等

報告書

概要書 計画の概要を示す

対策のイメージ図を作成すると分かり易い

一般図 根幹施設の配置を示す A0~A1 程度の図面

対策施設の位置を示す 1/2,500 程度 平面図

雨水貯留管等の一般平面図 1/500 程度

根幹施設の 縦断図

縦 1/100 横 1/2,500 程度

図面等

根幹施設の 流量計算書

雨水貯留管,バイパス幹線等について,必要に応じて作成する

-54-

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3.5 雨天時浸入水対策事例

ここでは,雨天時浸入水による溢水箇所の解消や広大な区域を対象とした優先順位

の設定等,雨天時浸入水対策事例を 3 例紹介する。なお,いずれの事例も流出解析モ

デルを用いた定量評価を行い, 適な対策の策定と効果の検証を行っている。 雨天時浸入水対策で実施した 3 つの事例のタイトルと概要を以下に示す。

事例 1:溢水箇所解消に対する対策を行った事例(バイパス管設置等)

急傾斜地から平坦地への地盤変化点において,30mm/hr 程度の降雨があると,マン

ホールから溢水が発生する状況となっており,早期に溢水の解消を求められている。

下流の管きょには流下能力に余裕があることから,短期対策としてポンプ場までバ

イパス管を設置し,溢水が発生しないような対策立案を行うため,流出解析モデル

を用いて,溢水の原因把握と対策立案および改善効果の把握を行った。

事例 2:処理場・ポンプ場施設での対策を行った事例(調整池対策等)

流域内の低地部において,年に数回程度溢水が発生している。この流域には中継

ポンプ場があり,晴天時の流入量に対し,雨天時には 大で 6 倍程度の流入量が入

ってきており,ポンプ場が冠水の危機にある。そこで,短期対策として低地部の溢

水解消とポンプ場の冠水防止を目指し,流出解析モデルを用いた対策立案と効果の

把握を行った。

事例 3:流出解析モデルを用いた雨天時浸入水対策と効果検証事例

雨天時浸入水対策を実施しているものの,区域が 1200ha と広大であり,顕著な効

果を得ることができていない状態であった。したがって,定量的な評価による効率

的・効果的な対策を実行するため,対象区域を 20 分割し,それぞれのブロックで実

測調査を行い,この結果に基づいて流出解析モデルを用いた優先順位の決定を行っ

た。

また,改築・修繕計画においては,この基本計画による優先地区をさらに細分化

して実測調査を行い,TV カメラ調査地区を選定し,この調査結果に基づいて改築・

修繕箇所を決定した。さらに,改築・修繕計画の結果に基づいて補修を行った後,

事後調査を行い,対策前後の改善効果について検証を行った。

-55-

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(1)施設対策事例 1:溢水箇所解消に対する対策を行った事例(バイパス管設置等)

急傾斜地から平坦地への地盤変化点において頻発する溢水の原因把握と溢水解消を

目的に流出解析モデルを用いて対策立案と効果把握を行った。 図 3-7 に検討フローを示す。

流量計設置箇所位置図

浸入水量の状況を把握するため,

10ha に 1 箇所程度の割合で流量計を

設置し,モニタリング調査を実施し

た。

流量計設置箇所 20 箇所

雨量計設置箇所 1 箇所

調査期間 2 週間

図 3-8 に調査区域と流量計設置ブ

ロックを示す。 雨天時浸入水量の把握

晴天時および雨天時のモニタリ

ング結果から,雨天時浸入水量を

算定した。第 12 ブロックでは,晴

天時の日平均流量に対し,約 4 倍

の浸入水量が確認された。

図 3-9 に雨天時浸入水量の算定

結果を示す。

ポンプ場

調査区域   約190ha排除方式   分流式整備率(汚水) 約100%地表勾配   約 5%処理場へ

調査区域概要図

溢水

箇所

ポンプ場

調査区域   約190ha排除方式   分流式整備率(汚水) 約100%地表勾配   約 5%処理場へ

調査区域概要図

溢水

箇所溢水

箇所

概要と計画諸元 調査区域 185ha

流量計設置箇所 20 箇所

モデル化:主要な管きょ+主要枝

線 現状の課題:急傾斜地から平坦地

の地盤変化点付近のマンホールか

ら 30mm/hr 程度の雨で溢水

目的:原因の特定と緊急的に溢水

を解消する対策案の策定 評価手法:流出解析モデル(XP-

SWMM)を用いて,既設管網を活用

したバイパス管計画を立案

モニタリング(流量調査)

浸入水の特性把握

流域のモデル構築

キャリブレーション

対策検討

改善効果把握(シミュレーション)

対策の比較・決定

図 3-7 検討フロー

図 3-8 調査区域と流量計設置ブロック

図 3-9 雨天時浸入水量の算定結果

雨天時浸入水

-56-

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浸入水量と降雨の関係 雨天時浸入水量と降雨の関係を

重ねると,図 3-10 に示すように降

雨の波形と雨天時浸入水の波形が

ほぼ一致しており,非常に早い時間

で雨水浸入が生じていることが確

認できた。

管きょモデル化状況図

急傾斜地から平坦地への変化点に

おいて,30mm/hr を超える降雨時に溢

水が発生していることから,流出解析

モデルを用いて定量評価を実施して

いる。

上流部については主要な管きょ+

主要枝線をモデル化し,下流部は,影

響を受けるメイン系統のみをモデル

化している。図 3-11 に管きょモデル

化状況図を示す。

キャリブレーション モニタリングで得られた 3 降雨

の実測値を用いて,キャリブレー

ションを実施し,解析で用いるパ

ラメータを決定している。

図 3-12 にキャリブレーション

結果を示す。

ポンプ場

調査区域   約190ha排除方式   分流式整備率(汚水) 約100%地表勾配   約 5%処理場へ

溢水箇所

調査区域概要図

既設管渠網のモデル化既設管渠網のモデル化

ポンプ場

調査区域   約190ha排除方式   分流式整備率(汚水) 約100%地表勾配   約 5%処理場へ

溢水箇所

調査区域概要図

既設管渠網のモデル化既設管渠網のモデル化

9/25

0.000

0.002

0.004

0.006

0.008

0.010

0.012

0.014

0.016

0.018

0.020

12:00 16:00 20:00 0:00 4:00

時  刻

流入

量(

m3/秒

0

5

10

15

20

25

30

降雨

強度

(mm/hr)

降雨量

実測値

swmm解析値

図 3-11 管きょモデル化状況図

図 3-12 キャリブレーション結果

図 3-10 浸入水量と降雨の関係

降  雨 降雨終了降  雨 降雨終了

-57-

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シミュレーション結果:対策前 現況施設をモデル化し,過年度に溢水被害が発生した降雨を用いて,シミュレー

ションを行っている。その結果,実際と同じように地形の変化点において溢水が発

生している。 図 3-13 に対策前平面図,図 3-14 に対策前縦断図を示す。

図 3-13 対策前平面図

図 3-14 対策前縦断図

C幹線

D幹線上流部

D幹線下流部

溢水箇所

C幹線

D幹線上流部

D幹線下流部

溢水箇所

D幹線上流部

D幹線下流部

C幹線

C幹線流入部

D幹線上流部

D幹線下流部

C幹線

C幹線流入部

-58-

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シミュレーション結果:対策後 溢水原因は,急傾斜地の雨が短時間で集まり,下流の管きょ能力が不足している

ことから,溢水箇所の水を影響が出ない下流部までバイパスするため 800mm のバイ

パス管を設置する案を策定し,流出解析モデルで評価を行い,溢水を解消できるこ

とを確認している。

図 3-15 に対策後平面図,図 3-16 に対策後の縦断図を示す。

図 3-15 対策後平面図

図 3-16 対策後縦断図

バイパス管

C幹線

D幹線上流部

D幹線下流部

バイパス管

C幹線

D幹線上流部

D幹線下流部

バイパス管へ

D幹線上流部

D幹線下流部

C幹線

バイパス管 φ800

バイパス管へ

D幹線上流部

D幹線下流部

C幹線

バイパス管 φ800

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(2)施設対策事例 2:処理場・ポンプ場施設での対策を行った事例(調整池対策等)

低地区で発生する溢水とポンプ場の冠水の危険が問題となっていることから,原因

の把握と溢水解消を目的に,流出解析モデルを用いて対策立案と効果把握を行った。

図 3-15 に検討フローを示す。

流域の概要

中継ポンプ場流域 750ha に集

水された汚水は,ポンプにて河川

を横断後に処理場へ流入するが,

降雨時には,雨天時浸入水量が大

きく,低地区で溢水が発生する他,

ポンプ場が冠水する恐れがある。

そこで,ポンプ場へ流入してくる

幹線系統 3 箇所と低地区に流量

計を設置し,雨天時浸入水量の実

態把握を行っている。

中継ポンプ場では,雨天時に 大

で晴天時の 6 倍の水量が流入してい

る状況が確認されている。

図 3-17 に流域概要図,写真 3-1 に溢

水の状況を示す。

概要と計画諸元 調査区域 中継ポンプ場流域 750ha

溢水常襲区域 23ha

流量計設置箇所 4 箇所

モデル化:主要な管きょ+溢水区域の枝

線 現状の課題:低地区付近のマンホールか

ら年数回の頻度で溢水が発生する。また,

ポンプ場が冠水する危険にさらされてい

る 目的:原因の特定と緊急的に溢水を解消

する対策案の策定 評価手法:流出解析モデル(XP-SWMM)を

モニタリング(流量調査)

浸入水の特性把握

流域のモデル構築

キャリブレーション

対策検討

改善効果把握(シミュレーション)

対策の比較・決定

図 3-15 検討フロー

図 3-17 流域概要図

終末処理場

中継ポンプ場

浸水多発地区浸水多発地区 2323haha幹線管きょ幹線管きょ

写真 3-1 溢水の状況

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管きょモデル化状況図

管きょのモデル化については,

上流側は主要な管きょと溢水常

襲区域の枝線まで,下流側は処理

場までの幹線とその幹線に接続

する幹線をモデル化している。 また,ポンプ場についても,一

体的なモデル化を図り,実際の運

転水位データを入力している。 図 3-18 にモデル化の状況図を

示す。

シミュレーション結果:対策前 現況施設に対して計画降雨強

度である 50mm/hr の雨を用いて,

施設能力のチェックを行う。

その結果,ポンプ場に流入する

幹線と低地区において浸水が発

生する状況を確認されている。

図 3-19 に対策前平面図を示す。

シミュレーション結果:対策前の管網でポンプ場を自然吐き口として解析

現況施設のうち,ポンプ場を自然

吐き口に変更して解析を行っている。

この解析では,ポンプ場能力不足に

よる背水影響を受けないため,管き

ょ能力の評価が可能となっている。

計画降雨強度である 50mm/hr の雨を

用いて,施設能力のチェックを行っ

た結果,能力的には問題ないことを

確認している。これは,主要幹線は

シールド工法で施工されているため,余裕のある断面になっていることが要因と考

えられる。

図 3-20 にポンプ場を自然吐き口として解析した対策前平面図を示す。

•地表面

•管きょ

•ポンプ場・処理場施設

•地表面

•管きょ

•ポンプ場・処理場施設

枝線までモデル化枝線までモデル化

その他の施設

・マンホールポンプ

・伏せ越し管

・分水人孔

・オリフィス

・増補管等

降雨強度50mm/hr降雨継続時間2.0hr降雨強度50mm/hr降雨継続時間2.0hr

PP中継ポンプ場

溢水

安全

G.L.-30cm

  現  況  

図 3-18 モデル化状況図

図 3-19 対策前平面図

図 3-20 対策前平面図 (ポンプ場を自然吐き口に変更)

-61-

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シミュレーション結果:対策案1(ポンプ増強案) ポンプ場が能力不足であるた

め,ポンプ場の能力増強を考え

た。その結果,ポンプ場上流部

の溢水は解消される結果となっ

たが,下流の管きょ能力以上の

水量を送水したため,低地部で

溢水する状況となっている。 図 3-21にポンプ場増強による

対策案の改善効果を示す。

シミュレーション結果:対策案2(貯留槽設置案)

ポンプ場増強では対応できない

ため,ピーク流量の平準化を図る

目的で貯留槽の設置を行い,流出

解析モデルで評価を行っている。

その結果,地表面から 30 ㎝程度の

所まで水位が上がるものの,地表

面への溢水は解消される結果が得

られている。

図 3-22 に貯留槽設置による対策

案の改善効果を示す。

降雨強度 50mm/hr降雨継続時間 2.0hr降雨強度 50mm/hr降雨継続時間 2.0hr

PPポンプ2台増設

1.0m3/分→2.5m3/分

別系統で浸水

PP貯留槽(1,000m3)

図 3-21 対策案 1(ポンプ増強案)

図 3-22 対策案 2(貯留槽設置案)

-62-

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(3)施設対策事例 3:流出解析モデルを用いた雨天時浸入水対策と効果検証

検討方針 基本計画では,対象区域約

1,200ha を 20 分割し,それぞれ

のブロックで実測調査を行い,

この結果に基づいて流出解析モ

デルによるシミュレーションを

実施し,優先順位を決定してい

る。

改築・修繕計画では,基本計

画において選定された 優先地

区をさらに細分化し,それぞれ

のブロックにおいて実測調査を

行い,その結果に基づき TV カメ

ラ調査地区を選定・調査し,改築・修繕箇所を決定されている。

その後,改築・修繕計画の結果に基づいて補修を行った後,事後調査を行い,対策

前後の改善効果について検証を行っている。図 3-23 に対策検討フローを示す。

実測調査内容とブロック概略図

基本計画における実測調査は,以下

の内容を実施している。

調査区域約 1,200ha を 20 分割

降雨量と管内流量を 3 ヶ月間調

検討に当たってブロック分けは,処

理場に向かって西と南に伸びる幹線

に対して右図のように設定している。 図3-24に検討ブロック概略図を示す。

流域のモデル化

流出解析モデル(MOUSE)を用いて,各幹線

系統,地表面,処理場のポンプ室までをモ

デル化している。

図 3-25 にモデル化の状況を示す。

・対象面積:約1,200ha・処理区を20分割(50~60ha程度/1ブロック)・実測調査結果からシミュレーションを実施し、優先順位を設定

基本計画の策定

・最優先ブロックをさらに細分化(数ha程度/1地区)・実測調査結果による詳細調査(TVカメラ調査)地区の選定及び実施・改築・修繕箇所の決定

改築・修繕計画の策定

・改築・修繕実施地区における実測調査・対策前後の改善効果の検証

事後調査の実施

改築・修繕の実施

ブロック概略位置

18 17

処理場

12

1415

2019

16

109

1 3 7 11 13

4 5

6 72

図 3-23 検討フロー

図 3-24 ブロック概略図

図 3-25 モデル化状況図

処理場

実際の使用モデル(平面図)

・使用モデル:MOUSE・モデル化:各幹線系統、地表面、処理場流入部(ポンプ室)

モデル化

-63-

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優先順位の設定 優先順位は,雨水浸入率,降雨終了後の晴天時レベ

ルへの回復時間,排水面積,当該ブロックの供用開始

後の経過年数を勘案して,対策レベルとして 5 段階に

設定している。

図 3-26 に対策優先順位の設定項目を示す。

対策効果の検証

優先順位に基づいて対策を順次講じた場合,どの程度の効果が認められるかにつ

いて流出解析モデルで検証している。対策目標レベルは,下水道計画で許容される

汚水量(通常の汚水量に地下水量を加えた値である)35,000m3/日としている。表 3-6

に対策効果の検証結果を示す。

この対策レベルでは,20 ブロックのうち優先順位の高い 8 ブロック(表中,太枠

で表示)で対策を行うことにより達成できることが検証されている。

改築・修繕計画の作業フロー

基本計画において緊急度が高いと

判定された No18 ブロックを 18箇所に

細分化して管内流量を実測すること

で,雨天時浸入水量の多い地区を抽出

し,詳細調査(TV カメラ調査)を行っ

ている。また,この調査結果から,改

築・修繕箇所を選定している。

なお,実測調査については,18 地点

で 1 ヶ月間実施している。

図 3-27 に改築・修繕結果の作業フ

ローを示す。

・No.18ブロックを18地区に細分化(数ha程度/1地区)・晴天時、雨天時の管内流量を実測

実測調査(降雨、流量)

・実測調査結果から雨水混入比を算定・雨水混入比、供用開始経過年数等から詳細調査地区を抽出

詳細調査地区の抽出

・詳細調査(TVカメラ調査)結果から改築・修繕箇所を選定

改築・修繕箇所の選定

TVカメラ調査の実施

○ 設定項目① 排水面積② 計画降雨時の雨水浸入率③ 降雨終了後の晴天時レベル

      への回復時間④ 経過年数

○ 対策レベルA:緊急的な対策B:短期的な対策C:中期的な対策D:長期的な対策E:対策不要

対策優先順位の設定

図 3-26 対策優先順位の設定項目

図 3-27 改築・修繕結果の作業フロー

表 3-6 対策効果の検証結果

--1、3、4、5、6、7、9、12、13対策なし(Eランク)

32,000m3/日雨水浸入率:0.060以下2、14、15長期(Dランク)

35,000m3/日雨水浸入率の低減8、11中期(Cランク)

38,000m3/日雨水浸入率の低減16、17、19、20短期(Bランク)

45,000m3/日処理区内の溢水解消10、18緊急(Aランク)

49,000m3/日--現況

対策効果(処理場流入水量)

対策レベル該当ブロック優先順位

--1、3、4、5、6、7、9、12、13対策なし(Eランク)

32,000m3/日雨水浸入率:0.060以下2、14、15長期(Dランク)

35,000m3/日雨水浸入率の低減8、11中期(Cランク)

38,000m3/日雨水浸入率の低減16、17、19、20短期(Bランク)

45,000m3/日処理区内の溢水解消10、18緊急(Aランク)

49,000m3/日--現況

対策効果(処理場流入水量)

対策レベル該当ブロック優先順位

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雨水混入比の算定 実測調査結果から雨水混入比

を算出し,TV カメラ調査箇所を

選定している。

雨水混入比は降雨期間中の時

間 大流量と当該時間帯の晴天

時汚水量との割合であり,TV カ

メラ調査地区はこの雨水混入比が 3.00 以上の地区を抽出している。

表 3-7 に雨水混入比算定結果を示す。

改築・修繕箇所の選定

抽出した地区について,本管と取付管について TV

カメラ調査を行い,雨天時浸入水対策効果が高いと考

えられる異常箇所(破損,クラック,浸入水等)を改

築・修繕箇所として選定している。

その結果,本管 68 箇所,取付管 43 箇所,合計 111

箇所を選定している。

表 3-8 に改築・修繕箇所の選定結果を示す。

雨天時浸入水対策の実施

111 箇所の改築・修繕箇所のうち,

本管部分 68 箇所について管更生を実

施したのち,対策効果の検証のため,

事後調査を実施している。

事後調査は,改築・修繕地区のうち,

18-4,18-6,18-11 の 3 地区において

降雨量と管内流量を調査している。

図 3-28 に事後調査の方針を示す。

降雨量管内流量(晴天時、雨天時)

調査項目

1ヶ月間調査期間

18-4、18-6、18-11実測調査地区

事後調査諸元項目

降雨量管内流量(晴天時、雨天時)

調査項目

1ヶ月間調査期間

18-4、18-6、18-11実測調査地区

事後調査諸元項目

事後調査

改築・修繕計画において選定した改築・修繕箇所(111箇所)↓

本管部68箇所について雨天時浸入水対策(管更生)を実施

雨天時浸入水対策の実施

表 3-8 改築・修繕箇所の選

図 3-28 事後調査の方針

表 3-7 雨水混入比算定結果

0.751.742.311.681.352.312.211.52最小

6.577.28121.325.246.327.485.2921.54最大

1.723.7127.903.033.244.413.557.61平均

雨水混入比

18-1718-1118-1018-918-618-418-3

未調査箇所平均

調査箇所

項目

0.751.742.311.681.352.312.211.52最小

6.577.28121.325.246.327.485.2921.54最大

1.723.7127.903.033.244.413.557.61平均

雨水混入比

18-1718-1118-1018-918-618-418-3

未調査箇所平均

調査箇所

項目

 1114368計

 1211118-17

 2381518-11

 1321118-10

 22101218-9

 2416818-6

 74318-4

 102818-3

計取付管本管備考

改築・修繕箇所地区No.

 1114368計

 1211118-17

 2381518-11

 1321118-10

 22101218-9

 2416818-6

 74318-4

 102818-3

計取付管本管備考

改築・修繕箇所地区No.

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改善効果の算定方法 改築・修繕前後の実測調査結果から雨天

時浸入水量を算定し,これと総降雨量に関

する相関図を作成することにより,計画降

雨,総降雨量約 92mm での改善効果を検証

している。

改善効果の算定結果を見ると,対策前後

の雨天時浸入水量の削減率としては,平均

で約 68%程度となり,大幅な改善効果があ

ることがわかる。

図 3-29 に改善効果の算定方法,表 3-9

に改善効果の算定結果を示す。

No18 ブロックにおける改善効果

No18 ブロックにおける改善効果として

は,以下の結果が得られている。

A ランク対策では,計画降雨時の処理

場流入量に対して 4,000m3/日を削減目

標としており,これを面積按分すると,

No18 での対策目標量は 2,797m3 となる。

一方,対策前後の雨天時浸入水対策効

果の検証結果から,対策箇所 1 箇所当た

りの対策効果は平均で 21.7m3 となる。

これに No18 ブロックの改築・修繕箇所

である 111 箇所を乗じると,2,408.7m3

となり,これを対策目標と比較すると

No18 ブロックの約 4 割程度の地区におけ

る対策で 86%程度削減したことになり,

本手法は非常に効率的・効果的な手法で

あると考えられる。

図 3-30 に No18 ブロックにおける改善

効果を示す。

18-6

y = 2.5422x + 17.343

R2 = 0.9043

y = 0.5926x - 0.1569

R2 = 0.8596

0

100

200

300

400

500

600

0 50 100 150 200

総降雨量(mm)

雨水

浸入

水量

(m3)

改善前

改善後

改善効果

改善効果の算定方法

対策前後の総降雨量と雨水浸入量の相関図作成

計画降雨時(91.54mm/日)の改善効果を検証

Aランク対策目標処理場流入量:49,000m3/日→45,000m3/日

(4,000m3/日削減)

No.18ブロックにおける改善効果の検証

No.18対策目標量

2,797m3(面積按分)

Aランク対策ブロック:No.10(37ha)、18(86ha)

No.18ブロック対策効果21.7m3/箇所×111箇所(改築・修繕箇所)

2,408.7m3

本管1箇所当たり対策効果:21.721.7mm33//箇所箇所

全体の4割程度の地区の対策での削減効果:86% 

表 3-9 改善効果の算定結果

図 3-29 改善効果の算定方法

図 3-30 №18 ブロックにおける改善効果

67.8%179.685.4264.9平均

71.3%276.5111.4387.918-11

78.4%196.054.1250.118-6

42.2%66.290.6156.818-4

削減率対策前-対策後対策後対策前

改善効果計画降雨時の雨水浸入水量(m3)項目

67.8%179.685.4264.9平均

71.3%276.5111.4387.918-11

78.4%196.054.1250.118-6

42.2%66.290.6156.818-4

削減率対策前-対策後対策後対策前

改善効果計画降雨時の雨水浸入水量(m3)項目

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【参考文献】 1)下水道施設計画・設計指針と解説 2001 年版 (社)日本下水道協会

2)合流式下水道改善対策指針と解説 2002 年版 (社)日本下水道協会

3)分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

4)流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

5)流出解析モデルを適用した不明水対策について 平成 13 年 3 月 平成 12 年度技術報告集(第 15

号)(社)全国上下水道コンサルタント協会

6)流出解析モデルを用いた雨天時浸入水対策 2005 年 7 月 第 42 回下水道研究発表会

7)流出解析モデルを用いた雨天時浸入水対策とその効果検証 平成 19 年 3 月 平成 18 年度技術報

告集(第 21 号)(社)全国上下水道コンサルタント協会

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4.地下水浸入水対策

4.1 地下水浸入水対策の基本方針

地下水浸入水対策では,健全な下水道経営,あるいは適正な施設能力の確保や道路

陥没等の事故を未然に防止する観点から,管路施設の水密性を復元する,抜本的な対

策を実施することを基本方針とする。

【解説】

地下水浸入水は,地下水位以下に埋設された下水道施設に地下水が恒常的に浸入してく

る現象の他,平均潮位または朔望平均満潮面以下に埋設された下水道施設に海水が恒常的

に浸入する現象,あるいは河川水位以下または河川増水や用水路,田面への引水に起因す

る地下水位上昇に伴う地下水浸入など,恒常的あるいは比較的長期にわたり下水道に浸入

する自然水の総体である。

地下水浸入水が著しく増大した場合,下水処理能力や通水能力を低下させるほか,以下

のような問題を引き起こすこととなり,処理・通水能力を単に増強する対症療法的な対策

では,これらの問題の解決は図れない。したがって,管路施設の水密性を復元する抜本的

な対策を基本とする。

① 地下水浸入に伴う土砂引き込みを原因とする道路陥没や管基礎の脆弱化

② 管きょ内堆積土砂量の増大に伴う管きょ閉塞による流下機能の阻害

③ 閉塞した管路の清掃等に掛かる維持管理費の増大

④ 海水浸入によるコンクリート腐食の進行,施設寿命の短縮

しかし,管路施設は広範囲にあり,その全てに対し水密性を復元するための対策を講じ

るには,非常に多くの時間と費用を必要とすることから,地下水浸入水対策では,対象と

する管路施設を絞り込むことや対策実施時期を明確にすることが重要となる。 したがって,地下水浸入水対策は,改築・修繕実施計画の一環として事業を効率的に進

めていくことを基本とする。 なお,地下水浸入水対策を実施するにあたっては,あらかじめ許容できる地下水浸入水

量を定め,これを超える浸入水があった場合には対策を実施するなど,対策の要否,時期

等を明確にする指標を定め,中・長期的な視点に立脚した対策を立案する必要がある。 たとえば,「下水道施設計画・設計指針と解説 2001 年版 (社)日本下水道協会」(以下,

設計指針という)では,計画汚水量のうち地下水量として,生活汚水量と営業汚水量の和

に対する日 大汚水量の 10~20%を見込むものとしていることから,地下水浸入水が計画

日 大汚水量の 20%を超える場合には,これを抑制する対策案を作成するなど,事業計画

における地下水量を対策指標とするなどの方法がある。

-68-

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4.2 地下水浸入水の対策方針

4.2.1 対策方針

地下水浸入水対策では,基礎調査とその解析結果や,詳細調査結果をもとに,下水

道本管およびその周辺の水密性改善を基本として,費用効果の観点から妥当性のある

目標を設定し,地下水の下水道管内への浸入を防止する対策を立案する。

【解説】

地下水浸入水は,地表面以下に存在する水が下水道へ恒常的あるいは長期的に浸入する

ものである。ゆえに,一般的な浸入経路としては,マンホールの地下部分や管路等の地下

水位より低い位置にある構造物から浸入するものであり,地表面構造物(マンホール上部,

公共ます,宅内排水設備等)に起因するものではない。(図 4-1 参照)

写真 1 写真 2

(管口およびマンホール壁クラックより浸入水が (インバートに発生したクラックより浸入水

吹き出している様子) が発生している様子)

写真 3 写真 4

(本管継ぎ手部より浸入水が吹き出している様子) (取付管接合部より浸入水が吹き出している様子)

図 4-1 地下水浸入水発生状況

-69-

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したがって,地下水浸入水対策の対象施設は,下水道施設のうち地下施設の大部分を占

める下水本管およびその周辺施設となる。なお,下水本管の周辺施設とは,マンホール下

部および本管-取付管接合部周辺をいう。

地下水浸入は,広範囲に敷設された下水道管接合部の水密性不良に起因するところが大

きく,その対策対象範囲は小規模な団地,造成地を対象とする場合を除き,広範囲となる

ことが多い。

そのため,調査の段階から地下水位,潮位,河川水位,用水路水位等の調査と,対象範

囲内の流量分布調査結果から浸入水対策範囲の絞り込みを行う必要がある。

また,経験的に相当大規模な地下水浸入水対策を実施しても,地下水浸入水を完全に止

水することは不可能であることから,地下水浸入水対策では,費用効果と下水道全体の状

況から判断した,現実的かつ妥当な計画目標および長期構想の目標を設定する必要がある。

計画目標等の設定では,一般に地下水浸入水削減率(止水率)または削減後の許容地下

水浸入水量,あるいは管きょ補修率を指標とすることが多く,費用効果および事業計画に

おける地下水量等を勘案し目標値等を決定する。

たとえば,図 6-14,図 6-15 のように,抽出した路線で実施した揚水試験(直接流量調査)

の結果から,事業計画に位置付けられた地下水量まで削減した場合の止水率より,費用効

果分析により 大効果となる場合の止水率が大きい場合,事業効果が 大となる止水率を

計画目標に設定することが適当となる。

また,図 4-2 のように,事業計画に位置付けられた地下水量まで削減した場合の止水率

より,費用効果分析により 大効果となる場合の止水率が小さい場合,費用効果や削減の

実現性等を勘案し,計画目標とする止水率を設定する必要がある。

なお,図 4-2 に示した例では,両止水率の差が小さいことから,事業計画に位置付けら

れた地下水量を目標としている。

決定根拠 止水率 管路補修率 採用

事業計画に整合 85.71 49.3 ○

事業効果 発現 82.00 45.9

図 4-2 費用効果と事業計画の比較による目標の設定例

y = 0.013x2 - 0.4632x + 4.3989

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0

管路延長の累計比率(%)

漏水

量の

累計

比率

(%)

漏水量累計比率

多項式 (漏水量累計比率)

50.7

14.29

54.1

18.00 大補修効果線 止水率82.00%

適補

修延

長率

45

.9%

許容漏水率線 止水率85.71%

適止

水延

長率

49

.3%

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

地下水浸入水の止水率(%)

費用

(億円

/年

)

管渠補修費

施設維持管理費の増加分

管理費用の総計

管渠補修費

補修

効果

大発

揮位

85.71

許容

漏水

量位

82.0

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4.2.2 対策フロー

地下水浸入水対策では,はじめに対象区域全体を捉えた地下水浸入水削減計画を立

案し,その後に施設の重要度,費用効果,緊急度等を勘案したブロック別の改築・修

繕実施計画を策定する。

【解説】

地下水浸入水対策では,流量調査,既存施設調査,土質・地下水位調査,周辺環境調査

等を実施し,地下水浸入水の実態を十分に把握したうえで計画を立案することが重要であ

る。

地下水浸入水対策フローを図 4-3 に示す。

図 4-3 地下水浸入水対策フロー

仕様および施工方法の決定

【調査】

流  量  調  査

土質 ・ 地下水位調査

河川流況調査・潮位調査

【地下水浸入水削減計画の立案】

対策エリアの設定・絞り込み

対策目標の設定

対策エリア内のブロック化

地下水浸入水削減計画の策定 【費用対効果分析】

定量調査・視覚調査に基づく費用対効果分析

簡易比較法を準用した費用対効果分析

【ブロック別改築・修繕実施計画の策定】

調査・診断

事業種別の判定

使用及び施工方法の決定

事業量の算定

年度別事業計画の策定

地下水浸入水状況の把握

対 策 の 実 施

評   価

目 標 の 達 成

目標未達成

仕様および施工方法の決定

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4.3 地下水浸入水削減計画

4.3.1 地下水浸入水削減計画の策定概要

地下水浸入水削減計画の策定では,費用効果の観点から対策目標を設定し,対策範

囲が広範囲で対策期間が複数年にわたる場合,単年度に実施可能な対策範囲,あるい

はそれらを連結した範囲で,対策の緊急性等を十分に検討し,対策順位,対策方法を

決定する。

(1)対策目標の設定と対策範囲

(2)緊急性等を勘案した対策範囲内の絞り込み・ブロック化

(3)地下水浸入水削減計画の策定

【解説】

地下水浸入水削減計画は,広い区域が対象となる地下水浸入水対策を,効率的かつ効果

的に実施していくための計画であり,費用効果を十分考慮し,実現可能な計画を立案する

ことが肝要である。

図 4-4 地下水浸入水削減計画フロー

【調査】・流量調査・土質、地下水位調査・既存礎設視覚調査・河川流況、潮位調査等

対策必要区域の抽出

費用対効果分析目標止水率

対策区域の絞り込み

対策区域のブロック化

事業実施期間

概略全体事業費

対策効果の発現性

地下水浸入の容易性

二次災害の誘発性

段階的整備計画(優先順位の設定)

ブロック別概算事業費の算定

改築・修繕実施計画策定へ

地下水浸入水対策以外の改築・修繕実施計画

耐震化計画

関連事業

事業計画の策定

-72-

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(1)について

地下水浸入水は,現実的には大規模な地下水浸入水対策を実施しても完全に止水するこ

とは不可能であり,対策を実施するにあたり,費用効果の観点から妥当な対象範囲の設定

や,止水目標の設定が重要となる。

また,対策の範囲,期間,目標止水率の設定においては,財政状況や,市町村全体の中

長期計画等と整合した,妥当かつ実現可能なものでなければならない。

対策の範囲については,事前に行われる調査結果や解析結果を十分に踏まえ,地下水浸

入水量や,浸入水別地域(高地下水位地域,海浜地域,河川・湖沼近傍地域),あるいは幹

線系統別に分類されたテレビカメラ調査による施設不良率の割合等をもとに,費用効果や

財政状況も勘案して,実現可能な範囲を定める。

対策の期間については,対策期間があまりに長期間となったり,反対に対策期間が短く

単年度当たりの対策規模(事業費)が大きくなりすぎたりしないよう,財政状況を勘案し,

市町村の中長期整備計画等にも整合した期間とすべきである。また,「下水道施設改築・修

繕マニュアル(案) 1998 年版 (社)日本下水道協会」(以下,改築修繕マニュアルとい

う)では,計画策定期間は事業開始より,5 年から 10 年を目途とするとしており,実現可

能な期間としてこれを目安とすべきである。

対策目標の指標を止水率とした場合,費用効果の観点から も対策効果の高い止水率を

目標とする方法と,事業計画における地下水量を削減後の浸入水量とし,止水率を定める

方法等がある。(図 4-2,図 6-14,図 6-15 参照)

いずれの止水率を用いる場合においても,費用効果の観点や事業規模の現実性等を勘案

し,実現性の高い目標を設定することが重要である。

(2)について

地下水浸入水の対策では,一般に広範囲な区域を対象とすることが多く,区域内におけ

る浸入水量や,地域特性・地形状況,あるいは地下水浸入水の浸入形態が多岐にわたるこ

とがある。

一方,施設不良率や,管きょ延長により違いはあるものの,経験的に単年度で実施でき

る事業規模は 2.5ha~5.0ha 程度であり,設定した対策範囲を一様に単年度ブロック化して

いくと,10 年以上の事業期間を必要とする場合も少なくない。また,対策範囲全体を対象

に単年度ごとの対策順位を設定しようとした場合,ブロックが小さいためブロックごとの

特性が把握しにくく,単年度ブロック別の緊急性や対策優先判定が明確にできず,効率的

な対策効果の発現に支障がでることがある。

したがって,対象区域内の浸入水量や地域・地形状況等の特性・特徴が分類できる場合

は,それらを勘案したうえで,下水の集水系統を基準に,単年度に対策実施可能な複数ブ

ロックをひとつの事業実施ブロックとして設定し,ブロック別優先順位を設定すると効率

的である。この手法より,事業実施ブロックを,第一期対策範囲と,第一期対策後の地下

水浸入水量を検証したうえ,次期以降の対策の可否を判断する範囲とに分類するなどで,

適正な事業期間を設定することができる。

また,ブロックの優先度を判定する場合,次の点を総合的に評価する。

-73-

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① ブロック別管路延長当たり不明水量(対策効果の発現性)

② ブロック内の海浜または河川の存在。ブロック別用水路長,あるいはブロック別田

面積。ブロック別地下水位下管路延長(地下水浸入の容易性)

③ 重要幹線道路下や軌道下の埋設,あるいはブロック別の交通量(道路陥没等の二次

災害の誘発性)

(3)について

地下水浸入水削減計画の策定では,施設整備による対策効果および被害軽減額と事業費

から費用分析を行ない,地域の財政事情を考慮し,実現性のある目標をもって地下水浸入

水対策区域全体の計画構想をまとめることが望ましい。

なお,対策範囲内の計画対象面積が大きい場合,前述したように事業実施ブロック別に

対策優先順位を設定し,第一期対策範囲と,第一期対策後の地下水浸入水量を検証したう

え,次期以降の対策の可否を判断する範囲とに分類することがある。この場合においても,

次期以降対策範囲もその範囲内においてブロック別優先順位を設定することが望ましい。

そのため,地下水浸入水削減計画では,対策ブロック別に標本抽出されたテレビカメラ

調査結果や,目視調査等から,ブロック別の異常・劣化特性や部位を特定し,これらの解

消・改善に有効なおよその対策方法を選定するとともに,概算事業費の算出を行う。

-74-

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4.3.2 優先順位の設定

地下水浸入水対策事業実施の優先順位は,次の観点から緊急度を判断し設定する。

(1)流量調査結果からの判定

(2)管路内調査結果からの判定

(3)総合評価

【解説】

(1)について

流量調査結果に基づき,地下水浸入水量対策の緊急度を判断するため,下水道計画にお

ける計画地下水量の割合(日 大汚水量の 10~20%程度)や,計画地下水量を,処理能力

あるいは管きょの流下能力,および地下水浸入水許容量のボーダーラインとして用い評価

基準を定める。

一般に下水道使用料金は,1~2 箇月間隔で検針される水道使用量等に応じて徴収される

ため,下水道の有収水量は日平均汚水量に近い形で算定されることとなる。ここで,設計

指針では,日 大汚水量と日平均汚水量の比を,上水道使用実績より推定できる場合はこ

れを用いることとし,それができない場合は 1:0.7~0.8 を用いるとしている。

したがって,地下水浸入水対策の必要性を地下水浸入水量/有収水量比で判断するなら

ば,図 4-5 に示すように,地下水浸入水量が有収水量の 28%を超えた場合は,日 大汚水

量の 20%以上に相当する計画値以上の地下水浸入水量があることとなり,対策の必要性が

高いと判断できる。

図 4-5 計画汚水量にみる地下水量の割合

(参考:月刊下水道 Vol.22 №2)

時間 大 時間 大

130~180

日 大 日 大

100

日平均 日平均

70~80

(基準汚水量)

+ + + + + +

地下水量

地下水量/基準汚水量

中間値 中間値 中間値20.0 15.0 31.0

地下水浸入水量/有収水量

生活汚水量+営業汚水量

中間値75

中間値155

10~2012.5~28.0

5.6~15.3

100

125~143

中間値133

163~257

中間値206変換

10~20

-75-

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また,施設能力の観点から地下水浸入水対策の必要性を判断する場合,図 4-6 に示すよ

うに,地下水浸入水量を含む下水量が施設規模を決定する計画値を超える水量である場合

には対策が急務と判断できる。

図 4-6 施設能力から見た地下水浸入水のボーダーライン

たとえば,計画 1 日平均汚水量:計画 1 日 大汚水量:計画 1 時間 大汚水量の比が,

図 4-5 右図に示す中間値である場合,地下水浸入水量に対する評価基準は表 4-1 に示すよ

うに設定することができる。

表 4-1 地下水浸入水量に対する評価基準例

(日平均汚水量:日 大汚水量=1:1.3 の場合)

不良ランク

種別 A ランク B ランク C ランク 良 好

地下水浸入水 基準汚水量※の

30%以上

基準汚水量※の

20%を超え30%未満

基準汚水量※の

10%を超え20%未満

基準汚水量※の

10%未満

溢水頻度 大雨時,頻繁に

溢水する

災害レベルの

大雨時に溢水

これまで 1,2 回

溢水を経験 溢水無し

※基準汚水量は,有収水量とほぼ同じと考え,次式によって求めている。

基準汚水量≒有収水量≒調査流量 - 不明水量

表 4-1 では,基準汚水量に対する地下水浸入水量の割合の想定根拠は,次に示すとおり

である。

・基準汚水量の 30%以上(A ランク)

地下水浸入水量を含む晴天時下水量が計画 1 日 大汚水量を超えた場合を想定。

・基準汚水量の 20%~30%(B ランク)

地下水浸入水量が計画 1 日平均汚水量における地下水量を超えた場合を想定。

時 200

日 133

日平

25

管渠能力ボーダーライン

処理能力ボーダーライン

地下水(常時)浸入水ボーダーライン

有収水量(正常値)

100

日 大

日平均

時間 大

-76-

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・基準汚水量の 10%~20%(C ランク)

地下水浸入水量は計画 1 日平均汚水量における地下水量に達していないものの,これ

を超える危険性が増大している状況を想定

・基準汚水量の 10%未満

地下水浸入水量が計画 1 日平均汚水量における地下水量を超えるおそれがないものを

想定。

また,管きょの流下能力に対する評価基準については,地下水浸入を含む晴天時下水量

が計画1日 大汚水量を超える状況は希少であることから,雨天時のマンホールやポンプ

場における溢水頻度も評価基準とした。表 4-1 では,溢水が発生する降雨の状況を「大雨」

「災害レベル」と定性的に示しているが,雨水排除計画における確率年等を基に評価基準

となる確率雨量を設定し,基準水量との比率にかかわらず,この降雨量(大雨)で溢水す

る場合,確率雨量を大きく超える降雨量(災害レベル)で溢水する場合等を評価基準とす

る考え方もある。

ただし,下水道計画における計画汚水量や地下水量は,各自治体によって異なっている

ため,判定基準を設定する際は,それぞれの自治体における計画汚水量等の諸元値や,処

理場等の能力を確認する必要がある。

(2)について

管路内調査結果からの判定では,浸入水によって道路陥没などの二次災害を誘発させる

恐れがある管きょを優先度の高い管きょとして位置付けるほか,改築・修繕実施計画にお

ける事業種別要因である管きょの経過年数も主要な判断項目として設定する。

これらの劣化状況による判定基準は,「4.4.1 改築・修繕実施計画の策定」で詳述するが,

個々のスパンで評価される管きょ内調査結果を区域ごとに判定する手法として,区域をブ

ロック化する方法が有効である。

ブロック化では,評価方法や事業の着手方法等の条件に応じてその手法を選択する。次

に,メッシュ型および流域型による区域のブロック化方法を示す。

1)メッシュ型

メッシュ型は,対象となる区域を 500m 四方などの一定サイズの矩形領域でブロック

化する方法である。

この方法では,経緯度等の数値や管理番号のみで地理的な位置を把握でき,各施設等

の地理情報があれば,即座に当該メッシュを把握できるなど,対象範囲が広い場合や,

大量のデータを処理する場合などに有効である。

ただし,メッシュ型を用いた場合には下水道計画区域や幹線系統とは異なる区分けを

行うため,幹線流域ごとに不明水対策の効果を確認する場合,隣接する幹線流域の効果

が一部含まれることとなり,幹線流域が小さい場合にはその影響が大きくでることが懸

念される。

-77-

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図 4-7 メッシュ型のイメージ

2)流域型

流域型は,幹線系統や主要な管きょの集水区域単位でブロック化する方法である。こ

の方法では,流量計測地点ごとや基準とする排水面積ごとに集水区域を分割するため,

1 ブロックの小規模な区域から複数ブロックの幹線流域等の広範囲の判定にも利用でき

る。また,集水区域ごとの対策範囲を選定できることから,対策効果を確認することが

容易である。(図 4-8 参照)

ただし,1 つのブロックが一定の矩形形状でないため,メッシュ型に比べブロック化

に多くの手間が掛かる場合がある。

図 4-8 流域型のイメージ

A ブロック B ブロック

-78-

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ブロックごとの劣化による対策の優先度(必要性)の検討では,個々の管きょの劣化診

断結果より浸入水に対する評価を用いて各ブロックごとに対策が必要な箇所について

緊急度のレベルごとにスパン数を集計し,ブロック内の総スパン数に対する不良率を算

定する。

表 4-2 に示す判定例では,管きょの緊急度における点数化は,総スパンに対する不良

スパン数の割合を用いて 1%=1 点として設定した。

なお,緊急度の区分については以下のとおりである。

・ 緊急度Ⅰ:速やかに措置が必要な場合。

・ 緊急度Ⅱ:簡易な対応により必要な措置を 5 年未満まで延長できる場合。

・ 緊急度Ⅲ:簡易な対応により必要な措置を 5 年以上に延長できる場合。

表 4-2 管きょの劣化対策緊急度からの判定例

(3)について

ブロック別の優先順位総合評価では,地下水浸入水量を判定基準とすることのほか,ブ

ロック別の道路陥没事故,溢水事故等の履歴,施設の経過年数や劣化状況から見た将来の

道路陥没等のリスク評価を勘案し,判定することが重要である。

ここに示す各ブロックの評価事例では,地下水浸入水を含めた浸入水量に対する評価と,

管きょの不良率からの評価に対して点数化を行うことによって事業の優先順位設定してい

る。

事業優先順位の設定手順を次に示す。

① 流量計測を行った地点ごとに区域内の改築・更新における緊急度を設定したスパン

を緊急度別スパン数を集計する。

② ①の緊急度別スパン数の割合を同区域内の全スパン数を母数として算出し,点数化

を行う。

③ 各流域の浸入水量に対する評価結果を点数化する。

④ ②および③で求めた点数の合計の高い順から浸入水対策の事業実施優先順位を設定

する。

上記の事業優先順位の設定手順により,浸入水対策の導入時期を判定した例を表 4-3 に

示す。

総スパン 216 不良スパン数 (%) 点数Ⅰ 20 9.3% 9Ⅱ 19 8.8% 9Ⅲ 16 7.4% 7

小計 25

Aブロック 緊急度

緊急度判定

-79-

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表 4-3 浸入水対策導入時期判定例

表 4-3 は,図 4-8 の緊急度に浸入水量を併せて評価した例である。ここで,浸入水量に

対する点数化は,表 4-1 の評価基準から A ランクを 10 点,B ランクを 6 点,C ランクを 3

点,良好を 0 点とした。

同表に示したように管きょの老朽度からは A ブロックの優先度が高いと判断されるが,

流量計測結果によって不明水量が多い地域は B ブロックである。このように地下水浸入水

対策の事業実施は総合的な判断を行い,優先順位を設定することが望ましい。

総スパン 216 不良スパン 不良率 点数Ⅰ 20 9.3% 9Ⅱ 19 8.8% 9Ⅲ 16 7.4% 7

小計 25 15点総スパン 186 不良スパン 不良率 点数

Ⅰ 16 8.6% 9Ⅱ 18 9.7% 10Ⅲ 10 5.4% 5

小計 24 26点

優先順位

合計

40 ②

50 ①A 10点 A 10点

雨天時浸入水 溢水頻度浸入水量評価

C 3点 B 6点 B 6点

Bブロック 緊急度

地下水浸入水

地下水浸入水 雨天時浸入水 溢水頻度

B 6点

緊急度

緊急度判定

Aブロック

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4.4 改築と修繕

4.4.1 改築・修繕実施計画の策定

地下水浸入水削減計画により設定された事業実施ブロックごとに,具体の診断を行

い,事業種別を判定することで,年度別事業計画を含めた改築・修繕実施計画を策定

する。

(1)調査・診断

(2)事業種別の判定

(3)改築・修繕実施計画の策定

【解説】

管路施設の改築・修繕実施計画の策定では,地下水浸入水削減計画や管路診断結果を踏

まえて,経済性,財政状況等に配慮しながら効率的に行う必要がある。また,雨天時浸入

水対策の章でも述べているように,雨天時浸入水に対する中・長期対策についても,抜本

的対策として改築・修繕が必要であり,改築・修繕実施計画の策定にあたっては,これに

ついても考慮する必要がある。さらに,道路陥没の未然防止や,これに伴う緊急工事によ

る交通規制等の社会的影響を少なくするため,交通状況や土地利用状況等を十分考慮した

計画とすべきである。さらに,罹災時の被害を拡大させないためにも,地域防災計画に基

づく避難所,防災拠点,緊急輸送路の有無等を勘案することが望ましい。

(1)について

管路施設の調査・診断では,管路施設の状態を的確に把握することを主目的としており,

改築・修繕実施計画を策定するうえで重要な役割を担っている。

管路施設の調査・診断フローは,図 4-9 に示すとおりである。

図 4-9 調査・診断フロー

点検・調査

既存情報の調査

(施設情報、維持管理情報、管路診断情報、その他の情報)

調査・診断対象施設の抽出

現地確認

対象管路スパン毎の診断

事業種別の判定へ

テレビカメラ調査

または目視調査

-81-

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このうち,調査・診断箇所の抽出は,不要な調査を省き経済的かつ効率的な計画立案に

不可欠であり,次の点に着目して行う。

① 管きょの経過年数

② 管種・管材(硬質塩化ビニル材などの水密性が確保しやすい管材か,コンクリート・

陶などの水密性が確保しにくい管材か)

③ 点検,苦情,道路陥没,清掃,修繕等の記録

④ 流量調査結果

⑤ 地下水位,河川,海浜,用水路等の状況

⑥ 道路交通状況の変化,道路形態の変化,埋設状況の変化

また,調査の判定基準および診断の方法はさまざまな文献で紹介されているが,ここで

は改築修繕マニュアルに準拠した手法を提起している「下水道管きょ改築等の工法選定手

引き(案) 平成 14 年 5 月 (社)日本下水道協会」(以下,工法選定手引き(案)とい

う)の診断手法と,これに基づいた具体の調査・診断事例を紹介する。

工法選定手引き(案)における調査判定基準を表 4-4 に示す。工法選定手引き(案)で

は,調査判定基準の対象管きょを鉄筋コンクリート管等(遠心力鉄筋コンクリート管を含

む)や陶管とし,調査項目はスパン全体で評価する項目,管 1 本ごとに評価する項目,お

よび清掃等で除去が可能か考慮する項目に分類している。

表 4-4 調査判定基準(案)

(出典:下水道管きょ改築等の工法選定手引き(案) 平成 14 年 5 月 (社)日本下水道協会)

ランク

項目

1) 鉄筋露出状態 骨材露出状態 表面が荒れた状態

管渠内径

700㎜未満

管渠内径

700㎜以上

1650㎜未満

管渠内径

1650㎜以上

3000㎜未満

ランク

項目

欠落

軸方向クラックで

幅5㎜以上

欠落

軸方向クラックが

管長の1/2以上鉄     筋

コンクリート管等

円周方向クラックで

幅5㎜以上

円周方向クラックで

幅2㎜以上

円周方向クラックで

幅2㎜未満

陶    管円周方向クラックで

その長さが円周の2/3以上円周方向クラックで

その長さが円周の2/3未満-

鉄筋コンクリート管等:70㎜以上 鉄筋コンクリート管等:70㎜未満

陶     管:50㎜以上 陶     管:50㎜未満

6) 噴き出ている 流れている にじんでいる

7) 本管内径の1/2以上 本管内径の1/10以上 本管内径の1/10未満

8) 本管内径の1/2以上閉塞 本管内径の1/2以上未満 -

9) 本管内径の1/2以上閉塞 本管内径の1/2以上未満 -

10) 内径の3割以上 内径の1割以上 内径の1割未満

鉄     筋コンクリート管等

上下方向のたるみ

2)

3) 管の破損

ン全

で評

本ご

に評

管の腐食

内径以上

内径の1/4以上

陶    管

管の継手ズレ5)

4) クラック

浸入水

取付管の突き出し   注3

油脂の付着      注3

a b

軸方向クラックで幅2㎜以上

軸方向クラックで幅2㎜未満

軸方向クラックが

管長の1/2未満-

樹木根浸入      注3

脱却

モルタル付着     注3

段差は、㎜単位で測定する。また、その他の異常(木片、他の埋設物等で上記にないもの)も調査する。

ランクA(a)、ランクB(b)、ランクC(c)における異常の程度(判定の基準)については、「表4-2 評価のランク付けと判

定基準例」および「表4-3 管1本ごとの評価のランク付けと判定基準」を参考にする。

7)取付管の突き出し、8)油脂の付着、9)樹木根浸入、10)モルタル付着については、基本的に清掃等で除去できる項目とし、除去できない場合の調査判定基準とする。

注1

注2

注3

内径の1/8以上

A B C

内径の1/2未満

内径の1/2以上 内径の1/4以上 内径の1/4未満

内径の1/2以上

内径の1/8未満

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異常の程度の診断では,表 4-4 調査判定基準に基づき,診断ポイントを適正に評価し,

スパン全体で 3 段階程度のランク付けを行う。

工法選定手引き(案)では,評価項目により①スパン全体による評価(表 4-5 参照)と,

②管1本ごとの評価(表 4-6 参照)を基にしたスパン全体の評価(表 4-7)を行うものと

している。

表 4-5 評価のランク付けと判定基準例

表 4-6 管1本ごとの評価のランク付けと判定基準例

表 4-7 スパン全体の評価のランク付けと判定基準例

また,工法選定手引き(案)では,スパン全体での評価結果に基づく緊急度の判定を,

表 4-8 に示す基準で行うものとしており,工法選定手引き(案)参考資料では,各緊急度

の判定基準を次に示すとおりとしている。

重度 中度 軽度

管 の 腐 食

上下方向のた るみ

ランク(スパン全体で評価)判定の基準診断項目

A B C

A:機能低下、異常が著しい

B:機能低下、異常は少ない

C:機能低下、異常が殆どない

重度 中度 軽度

管 の 破 損

管 の ク ラ ッ ク

管 の 継 手 ズ レ浸 入 水

取 付 管 の 突 出 し

油 脂 の 付 着樹 木 根 侵 入

モ ル タ ル 付 着

診断項目ランク(管1本ごとに評価)

判定の基準

a:機能低下、異常が進んでいる

b:中程度の劣化、異常がある

c:劣化、異常の程度は低い

a b c

重度 中度 軽度

管 の 破 損

管 の ク ラ ッ ク管 の 継 手 ズ レ

浸 入 水

取 付 管 の 突 出 し

油 脂 の 付 着樹 木 根 侵 入

モ ル タ ル 付 着

ここで、不良発生率は次の式で求める。

なお、a,b,cの各ランクには、重みを付けて算出すると良い。例) スパン延長 50m、管本数 25本、不良本数 5本の場合

   不良発生率=(5/25)×100=20%

診断項目ランク(スパン全体で評価)

判定の基準

A B C

A:不良発生率が高い

B:不良発生率が中位

C:不良発生率が低い

a,b,cランクの合計本数

1スパンの管渠本数×100(%)不良発生率=

(出典:下水道管きょ改築等の工法選定手引き(案) 平成 14 年 5 月 (社)日本下水道協会)

(出典:下水道管きょ改築等の工法選定手引き(案) 平成 14 年 5 月 (社)日本下水道協会)

(出典:下水道管きょ改築等の工法選定手引き(案) 平成 14 年 5 月 (社)日本下水道協会)

-83-

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緊急度Ⅰ:スパン全体のランク評価で,ランクAが 2 項目以上ある場合

緊急度Ⅱ:スパン全体のランク評価で,ランクAが 1 項目,あるいはランクBが 2 項目

以上ある場合

緊急度Ⅲ:スパン全体のランク評価で,ランクAがなく,ランクBが 1 項目もしくはラ

ンクCのみの場合

表 4-8 緊急度判定基準例

表 4-9 に,工法選定手引き(案)の診断手法を参考にした,地下水浸入水対策における

管路診断の具体例を示す。例では,工法選定手引き(案)の評価基準に加え,浸入水の発

生状況を不良発生率に基づきスパン全体で評価する項目を追加している。

表 4-9 管路診断の具体例

重度 中度 軽度

管 の 腐 食 Ⅰ Ⅱ Ⅲ

なお、緊急度の区分は次のとおりである。① 緊急度Ⅰとは、速やかに措置が必要な場合。

② 緊急度Ⅱとは、簡易な対応により必要な措置を5年未満まで延長できる場合。

③ 緊急度Ⅲとは、簡易な対応により必要な措置を5年以上に延長できる場合。

Ⅰ:診断結果のAが多い

Ⅱ:診断結果のAは少なく、Bが多いⅢ:診断結果のAはなく、Bが少なく、Cが多い

診断項目緊急度の区分

判定の基準

(出典:下水道管きょ改築等の工法選定手引き(案) 平成 14 年 5 月 (社)日本下水道協会)

管路施設診断表13-2 マ ン ホ ー ル 間 延 長 33.25 管 体 延 長 32.35

13-2-1 下 流 マ ン ホー ル № 13-2-2 管 種 HP表-1 スパン全体で評価する欠陥・異常箇所 表-3 スパン全体で評価する項目の判定基準(表-4,表-5,表-6対応)

ランク状況

延 長

表-4 腐食程度の評価(対延長不良発生率)延 長

表-2 管1本毎に評価する欠陥・異常箇所ランク 不良延長

状況 不良発生率 スパン評価ランク別評価 -

表-5 たるみ程度の評価(対延長不良発生率)

箇所数 1不良延長

不良発生率 スパン評価ランク別評価 -

表-6 管1本毎の評価における不良発生率に基づくスパン全体の評価箇所数 1 2

箇所数不良発生率 スパン評価

箇所数 ランク別評価 B

表-7 診断結果一覧表

箇所数 3内 容 流下能力阻害大 流下能力阻害中 流下能力阻害小箇所数 2

表-8 緊急度の判定基準区分

※欠陥・異常項目のうち がある場合はランクに関係なく、緊急度Ⅰとする。

判定結果

緊急度Ⅲ表-7に示すランクでランクAがなく、ランクBが1項目若しくはランクCのみの場合

緊急度Ⅰ

緊急度Ⅰ 表-7に示すランクでランクAが2項目以上ある場合スパン補修・部分補修判断データ(管1本毎評価のうちA・B・Cランク箇所数)

9緊急度Ⅱ

表-7に示すランクでランクAが1項目若しくはランクBが2項目以上ある場合

その他不 良 発 生 率 の 基 づ く ラ ン ク B

箇所数計 1 1 7判定基準

管 の 腐 食 に よ る ラ ン ク -

上 下 方 向 の た る み に よ る ラ ン ク -

B B C

浸入水内 容

噴き出ている 流れている にじんでいる

診断項目 ランク

1 1 77 7 47

欠陥・異常程度のランク

継手ズレ内 容

脱却 70㎜以上 70㎜未満 A B C

円 周 方 向 ク ラ ッ ク幅2mm未満

クラック内 容

円 周 方 向 ク ラ ッ ク幅5mm以上

円 周 方 向 ク ラ ッ ク幅2mm以上

軸方向クラック

幅2mm未満

欠陥・異常程度のランクA B C

破損内 容

欠落

軸方向クラック幅5mm以上

軸 方 向 ク ラ ッ ク

幅2mm以上

A B C

60%未満若しくは 若しくは

欠陥・異常程度のランクA B C

内径の1/2未満ランクC

0% 0%

たるみ内 容

内径以上 内径の1/2以上

-若しくは

ランクB20%未満 40%未満 60%以上

若しくは 若しくは

表面が荒れた状態ランクA

20%以上 40%以上

腐食内 容

鉄筋露出状態 骨材露出状態

欠陥・異常発生率のランクA B C

A B Cスパン全体

のランク

路 線 番 号 管 本 数 15

上 流 マ ン ホ ー ル № 管 径 250

-84-

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(2)について

事業種別の判定は,改築または修繕が必要とされたスパンについて,改築か修繕かを判

定(事業種別の判定その1)し,さらに改築と判定されたものについて更新か改良かを判定

(事業種別の判定その2)する。図4-10に事業種別の判定フローを示す。

図 4-10 事業種別の判定フロー

調査・診断により,改築または修繕が必要とされたものについて,「改築」か「修繕」

かの事業種別を判定する。さらに「改築」と判定されたものについては「更新」か「改良」

かに分類する。

改築は原則的にはスパン(マンホール間)単位の再建設あるいは更生,取り替えとし,

修繕は欠陥箇所のみの部分的な補強あるいは取り替えをいう。

したがって,改築か修繕かの事業種別の判定では,診断結果をもとに欠陥箇所の範囲・

規模がスパン全体に及んでいるか,あるいは部分的な措置で対処できるかの緊急度を考慮

し,かつ経済性等を総合的に評価する。

地下水浸入水対策を主目的とした改築・修繕において,現況の浸入箇所を修繕のみで止

水した場合,地下水の流れが止められ地下水位が上昇することで水圧が増し,これまで浸

入水が見られなかった他の軽微な劣化・異常箇所から浸入してくることが多く見られる。

このことから,地下水浸入水対策における事業種別の判定においては,欠陥箇所の範囲・

規模や経済性だけではなく,下水輸送システムとしての管路全体での水密性確保の観点か

ら,スパン全体を反映させた止水対策を講ずることが望ましい。

更新か改良かの判定では,「下水道施設の改築について」(平成 15.6.9 国都下事第 77 号)

に示された別表(表 4-10 参照)のうち小分類の年数を「標準耐用年数」とし,これ以上の

ものを「更新」,未満のものを「改良」として整理する。

標準耐用年数に

達していない

 標準耐用年数に

 達している

診断(措置の要否、緊急度の判定)

事業種別の判定その1(改築か修繕かの判定)

事業種別の判定その2(更新か改良かの判定)

改  築

改  良

更  新

原因調査

仕様および施工方法の決定

修  繕

-85-

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表 4-10 「下水道施設の改築について」別表(抜粋)

事業種別が改築となる箇所のうち,国庫補助対象範囲を国庫補助事業として実施しよう

とする場合,上記の「更新」,「改良」で「改良」となった範囲については,表 4-11 に示す

「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令」第 14 条の規定に基づく処分制

限期間を超えているか判定・整理する必要がある。

これらの「標準耐用年数」および「処分制限期間」は,事業を国庫補助対象とする場合

では採択の重要要件であり,採択可否の一定の判断材料となるため,必ず判定・整理する

ことが必要である。

表 4-11 「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令」

第 14 条の規定に基づく処分制限期間(抜粋)

施設が標準耐用年数に達していない場合で,改築を必要とする場合,標準耐用年数前に

著しく劣化した原因を明らかにする必要がある。

原因調査は次の 2 項目について実施する。

① 劣化要因,度合

② 維持管理の状況

大分類 中分類 小分類 年数鉄筋コンクリート

遠心力鉄筋コンクリート

陶硬質塩化ビニル

FRPM鋳鉄

ダクタイル鋳鉄

鋼コンクリート

レジンコンクリート

コンクリート硬質塩化ビニル

硬質塩化ビニル陶

遠心力鉄筋コンクリート

本体(コンクリート製)本体(硬質塩化ビニル製)

本体(レジンコンクリート製)

鉄蓋(車道部) 15鉄蓋(その他) 30

共 通 内部防食 10

管 路 施 設

50

50

50

50

管 き ょ

( マ ン ホ ー ル 間 )

取 付 管

マ ン ホ ー ル

施設設備等の分類 財 産 名 構造規格等

管渠 20桝 15

取り付け管 20マンホール

 躯体 20 蓋 鋳鉄(車道部) 7

鋳鉄(その他) 15鉄筋コンクリート 20

処分制限期間(年)

処分を制限する財産の名称等補助金等名

下水度事業費補助

管路施設

-86-

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劣化要因・度合については,劣化をもたらす特殊な外的要因(たとえば,大規模地震,

海水浸入に伴う腐食,埋設環境条件の変化等)があったかどうか,またその度合がどの程

度であるかを把握する。

維持管理の状況については,既存資料を整理分析することにより,改良が必要となった

原因を明らかにする。

原因調査のポイントを表 4-12 に示す。

表 4-12 原因調査のポイント

(3)について

改築・修繕実施計画策定のフローは,図 4-11 に示すとおりである。

図 4-11 改築・修繕実施計画の策定フロー

調査・診断・事業種別の判定

仕様および施工方法の決定

事業量の算定

年度別事業計画の策定

上位計画・関連計画・事業

優先度・財政状況等

項目 維持管理原因調査のポイント 1.埋設環境条件

(1)道路交通状況の変化

・交通量の増加と車両の大型化 ・苦情記録

(2)道路形態の変更 ・道路陥没記録・歩道の車道化 ・浸水記録

・道路改良、拡幅 ・清掃記録

・道路計画の変更 ・修繕記録(3)埋設状況の変化 ・排水規制対策記録

・道路経緯対の変更に伴う土被り過多、不足

・他企業埋設工事に伴う影響

2.特殊条件

(1)硫化水素による腐食・圧送管吐き口

・ポンプ性、伏せ越し等の下水滞留箇所

・畜産、食品工場、パルプ工場、皮革加工所 ビルピット等の排水

・海水の浸入

(2)工場等の酸性廃液(3)地盤の不同沈下

(4)高地下水位,被圧水

(5)埋立地,干拓地,大規模造成地

改良要因

-87-

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仕様および施工方法の決定では,ブロック全体を俯瞰し,管路の損傷状況,管路埋設環

境条件,道路交通状況,経済性等を総合的に勘案し大別的(たとえば,改築の場合は敷設

替えなのか,更生なのか,改築推進なのか等。修繕の場合は止水工法なのか,補強工法な

のか,部分敷設替え工法なのか等)に決定する。

また,決定された改築および修繕仕様,施工方法に基づき,対象施設ごとに数量および

概算事業費を算出し,現在の事業計画とのバランスや,事業実施の優先度,自治体固有の

中長期計画や,財政状況を考慮し,単年度に施工可能な事業量,範囲を確定し,年度別事

業計画を策定する。

概算事業費を算定する際,仕様,施工方法が更生工法あるいは改築工法となった場合,

ここでは工法の適合性,市場性等を観点にした概略的な工法検討(たとえば,更生工法の

場合,反転工法あるいは形成工法,製管工法,鞘管工法の概略比較検討等。改築推進の場

合,静的破砕方式,衝撃破砕方式,回転破砕(切削)方式,引き抜き方式の概略比較検討)

に留め,事業費は見積もり等による経済性等を考慮し算定する。

年度別事業計画の策定にあたっては,算定された改築および修繕の事業量が現在の事業

に過大な負担を負わせずに目的を達成でき,かつ事業の優先順位が明らかにされているこ

とが肝要である。

また,単年度ごとの事業費の平準化を図ることにも十分配慮し,単年度ごとの事業別(国

庫補助事業,単独事業)に数量および事業費を集計する。

さらに,先に策定されている不明水対策計画で算定されている概算事業費や,改善率と

比較し,これと事業量等に顕著な相違がないかを確認することも必要である。

なお,事業計画期間は不明水対策計画と整合を図りながら,おおよそ 5 年から 10 年以

内を目途とする。

-88-

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4.4.2 設計

設計は,基本設計と詳細設計から構成され,改築・修繕実施計画に基づいて,早期

に改築または修繕が必要と判定した管路施設を対象に,工事着手に必要な図書を作成

するとともに,施工,台帳の修正等に必要な電子データを作成する。

(1)基本設計

(2)詳細設計

【解説】

設計は,図 4-12 に示すように基本設計と詳細設計に区分され,改築および修繕実施計

画に基づいた完成図等の図書や下水道計画による情報の他に,詳細な現地調査・測量を行

い,設計図書に反映させる。また,施工時には下水を遅滞なく流下させる必要があることか

ら,仮設,仮排水や安全対策等も十分検討する。

設 計

詳細設計

基本設計 改築・修繕工法の検討と工法選定

施工計画の立案,構造計算,工事に

必要な図書の作成

図 4-12 設計の分類と役割

(1)について

基本設計では,既設管路施設の流下機能を阻害することなく経済的な改築・修繕に 適

な工法を検討するため,次の事項について検討を行う。

1)資料収集と整理

基本設計を行うにあたり,管路診断結果および改築・修繕実施計画に関連する資料の

収集・整理を行う。

2)改築・修繕施設の要求性能

改築後の管路施設は,新設管と同等以上の性能を有する必要があり,既設管の機能の

向上や回復を目的とした要求事項がある。修繕後の管路施設は,既設の管路施設と同程

度の性能を有するための要求事項がある。

地下水浸入水対策では,止水性の向上が主目的となるため,漏水箇所などの原因を十

分把握し,対策工法を選定するための要求性能を取りまとめる。

3)現地調査

現地調査では,既設管路施設の劣化状況や改築・修繕工事時の施工環境を把握するた

めに次の点に着目して行う。

① 周辺状況・道路状況

-89-

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② 地下埋設物状況

③ 補足調査

4)施工(制約)条件の整理

改築・修繕工法の選定では,現地調査結果を反映し,工事を実施するうえで制約とな

る施工条件の整理を行うことが重要である。

5)改築・修繕手法の選定

改築・修繕工法の選定においては,以下の事項に留意する。

① 要求性能

② 施工(制約)条件の整理

③ 開削・非開削工法の選定

④ マンホールおよび取付管処理に対する適用性の検討

⑤ 流下能力の判定

⑥ 施工性ならびに経済性の比較検討

(2)について

詳細設計では,施工計画の立案や構造計算等を行い,工事発注に必要な資料を作成する。

1)施工計画の立案

詳細設計では,事前に行われている調査,工法選定の結果を十分に検討し,工事の実施に必

要な施工計画を明確にする。ここで策定する主な項目は,次のとおりである。

① 工程計画

② 仮設備計画

③ 安全管理計画

2)構造計算

管材等の耐荷能力の回復・向上を図る目的で改築および修繕する場合は,管の構造計

算を行い,耐荷能力の検証をしなければならない。

管路施設の耐震性能を向上させる場合には,耐震計算を実施し,その耐震性を確認し

なければならない。

3)設計図書の作成

設計図書として,以下の資料を作成する。

① 設計図

② 数量計算書

③ 報告書

-90-

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4.4.3 改築・修繕工法の概要

地下水浸入水対策における管路施設の改築・修繕工法は,漏水の状況や下水の流下

状況および施工条件によって適切な工法を選定する。

改築・修繕工法は,次の部位によって適切な工法を選定する。

(1)管きょ

(2)取付管

(3)マンホール

【解説】

管路施設の改築・修繕工法には,開削工法と非開削工法の2つに大別される。これらは,

管路の埋設状況や劣化状況等の条件を整理し選定する。

(1)について

管きょにおける地下水浸入水対策では,対策を講ずることで地下水位が上昇し,管きょ

に対し被水圧が大きくなる現象が生じることがある。この現象から,対策に修繕工法を用

いた場合,これまで地下水浸入が確認されていない微細なクラック,微少な継ぎ手のズレ

等から地下水浸入が発生することとなる。

そのため,地下水浸入水対策では,このような現象を防止し,事業効果を確実に発現さ

せる観点から,できるかぎり異常のあるスパン全体の対策(管きょの改築工法)とするこ

とが望ましい。

1)管きょの改築工法

非開削による管きょの改築工法を施工方法から分類すると,図 4-13 に示すように更

生工法および敷設替工法に大別される。

図 4-13 管きょの改築工法の分類

-91-

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このうち更生工法においては,既設管を 大限に活用するなど効率的・計画的に実施

される必要があり,工事に伴う渋滞緩和,住民生活や周辺環境への影響抑制等の社会的

ニーズを受け,近年急激に非開削である更生工法の採用が増加している。

これらの技術では,使用材料や施工方法が異なるため,工場二次製品にあるような規

格を定めて統一された見解のもとに設計・施工管理を行うことが難しい状況にある。こ

のため,平成 13 年 6 月に(社)日本下水道協会より「管更生の手引き(案)」が発刊さ

れ,下水道管更生のうち「自立管」「複合管」について,設計および施工に関する標準

的な考え方が示された。また,同年に「下水道管きょの更生工法による改築に関する国

庫補助の運用について」(平成 13.6.21 都市・地域整備局下水道部下水道事業課企画専

門官事務連絡)として,管更生における補助要件が国土交通省より示され,「管更生の

手引き(案) 平成 13 年 6 月 (社)日本下水道協会」に準拠し,設計・施工される

管更生については一定の要件のもと国庫補助対象事業とすることが可能となった。

上記事務連絡では,「自立管」「複合管」を原則としつつ,防食や止水を目的に,強度

を有する既設管に反転工法や形成工法で構築する二層構造管についても,国土交通省と

個別に協議することで国庫補助対象とすることが明記されている。

二層構造管については,それまで統一的な設計の考え方が示されていなかったが,平

成 18 年 3 月に(財)下水道新技術推進機構より「管きょ更生工法(二層構造管)技術

資料」が発刊され,二層構造管の適用判定基準,設計法について一定の考えが示された。

地下水浸入対策を目的に管更生を行う場合,事業の効率的な執行や,ライフサイクル

コスト向上,費用効果の観点から,補助対象事業についても二層構造管の適用を検討す

ることが望ましい。

二層構造管を適用するにあたっては,以下の点を十分に検討する。

① 既設管の残存強度評価(二層構造管の適用範囲)

二層構造管は,既設管に一定の強度(残存強度)が期待でき,既設管とその内側の更

生管が共に外力を負担する必要がある。したがって,既設管の残存強度を評価し,二層

構造管の適用範囲を適切に判定する必要がある。二層構造管における既設管評価および

二層構造管適用判定の方法としては次の2手法がある。

・「管きょ更生工法(二層構造管)技術資料」に基づき,既設管損傷パターンから適用

の判定を行うもの。

・事業対象範囲の既設管をサンプリングし,破壊試験で残存強度を導き,新管のもつ構

造性能と比較し,評価・判定するもの。

② 更生後の更生管耐用年数

二層構造管のもつ標準耐用年数の考え方は次のように分類できる。

・「管更生の手引き(案)」に示される自立管,複合管と同様に更生後の標準耐用年数

を 50 年とする。

・更生による既設管耐用年数の延伸はないものと考え,既設管の残存耐用年数とする。

「管きょ更生工法(二層構造管)技術資料」では,更生後 50 年の間にも既設管の劣化

は進行するため,これも考慮し二層構造管の安全性を確保する必要があるとしており,

-92-

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この考えに基づけば,二層構造管で更生された管きょの耐用年数は 50 年であると考え

られる。

③ 二層構造管の設計手法

二層構造管の設計手法には,「管きょ更生工法(二層構造管)技術資料」による他,

各工法協会が提示する手法があり,現段階では明確に統一した見解を示すものはない。

したがって,二層構造管の設計手法については下水道管理者,都道府県,国土交通省等

と協議し決定する必要がある。

④ 事業実施までのスケジュール

二層構造管を補助対象事業に適用する場合,前述したように国土交通省と個別に協議

を実施する必要がある。したがって,事業着手までの期間にはこの協議期間等を考慮し,

事業スケジュールの決定あるいは見直しを行う必要がある。

2)管きょの修繕工法

管きょの修繕工法は,図 4-14 に示すように施工方法から止水工法,内面補強工法,

ライニング工法,レベル修正工法および部分敷設替工法等に分類される。

修 繕

止 水 工 法

内面補強工法

ライニング工法

レベル修正工法

部分敷設替工法

注 入 工 法

シーリング工法

コーキング工法

リ ン グ 工 法

形 成 工 法

反 転 工 法

パッカー工法

加圧循環工法

Y 字 管 工 法

止 水 枠 工 法

図 4-14 管きょの修繕工法の分類

-93-

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管きょの修繕工法は,これまでも地下水浸入水対策の工法として全国で数多く実施さ

れている。しかし,注入工法では,施工後に注入効果が薄れ,再び地下水等の浸入が確

認されたり,形成工法におけるライニング材の,硬化後熱収縮により,数年で補修材端

部からの浸入水が確認された事例もあり,工法の選定については特に慎重な検討を必要

とする。

また,部分補修で対策を講じた場合,地下水位との関係からこれまで地下水浸入が生

じていなかった部位から新たに地下水浸入が生じるケースもあり,対策規模についても

十分な検討を必要とする。

(2)について

取付管の改築・修繕工法には,取付管,支管部(管口)等の部位を対象としたものと本

管と取付管の一体を対象としたものがある。(図 4-15 参照)

更生工法

改築

改築・修繕工法

修繕

反転工法

形成工法

止水工法 注入工法

修繕工法

反転工法

形成工法

敷設替工法

敷設替工法

図 4-15 取付管の改築・修繕工法の分類

地下水浸入水の発生は,本管と取付管の接合部(支管)や,管きょとマンホールの接合

部で発生することが多く,地下水浸入水対策として管更生あるいは部分修繕を実施する場

合,取付管接合部の対策を行うことを原則とすることが望ましい。

取付管および支管部の対策では,周辺の地下水位や,取付管の劣化状況,取付管の管種

等を総合的に考慮し,支管部のみでよいか,取付管に対する対策が必要か,あるいは公共

ますまでの対策が必要かを決定する。

取付管の改築・修繕工法のうち,反転工法や形成工法等のライニング材を用いる工法は,

一般的に布設替工法と比較し補修単価が高くなる場合があり,特に,支管部の接合がコン

クリートによる固着のみで形成されている場合は,布設替えで支管資材を用いて補修した

ほうが良好な結果となる場合がある。

-94-

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(3)について

マンホールの改築・修繕工法は,管きょの改築・修繕工法に類似しており,施工方法か

ら図 4-16 に示すように分類される。

反転工法

改築

改築・修繕工法

修繕

止水工法

防食被覆工法

その他関連工法

形成工法

ライニング工法

図 4-16 マンホールの改築・修繕工法の分類

マンホールに関する対策は,「3.雨天時浸入水対策」で詳述する対策として,蓋違い

(分流汚水管きょのマンホールに雨水用マンホール蓋が設置されているなど)の解消や,

受枠部の補修等もあるが,地下水浸入水対策としては,マンホール管口部の止水,地下水

位以下の組立マンホール継手部や躯体クラック箇所の補修,インバートの補修等が考えら

れる。

また,一般にマンホールは水流の乱れが生じやすく,気相部に硫化水素が発生しやすい

状況にあることから,コンクリートや金属の腐食が発生していることが多い。

したがって,マンホールの対策工法の選定では,地下水浸入水対策だけではなく,雨天

時浸入水対策や,構造の強度等を総合的に評価し,検討することが必要である。

-95-

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4.5 地下水浸入水対策事例

地下水浸入水対策においては,対策エリアの規模,地下水浸入水量,施設の劣化状況等

により,対策規模,手法,整備年数等の対策内容はさまざまとなるが,ここでは,中規模

程度のエリア(およそ 100~500ha)を対象とした地下水浸入水削減計画事例を紹介する。

なお,本事例は不明水対策における中・長期対策にあたり,不明水に対する抜本的な改

修を実施するものであり,対象浸入水は地下水浸入水と雨天時浸入水としている。

事例 1:地下水浸入水削減計画事例

事例 2:地下水浸入水削減対策と対策結果事例

-96-

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【事例 1:地下水浸入水削減計画事例】

港湾都市であるA市は,分流式単独公共下水道として昭和 40 年初めに下水道事業に着

手し,昭和 40 年中頃から供用を開始している。地下水浸入水削減計画の対象区域は, も

供用開始が早かった,区域面積約 100ha,区域内管きょ総延長約 20.0 ㎞の地区である。

対象区域の管路施設は供用当初より不明水の発生が著しく,特に臨港地域にあっては多量の浸

入水が発生していた。これを受け,これまでの部分的な補修による対策では抜本的な解決になら

ないため,本対策では費用効果の観点を考慮し,効率的かつ効果的な対策を実施することとした。

計画に先立ち,エリア内に系統別に流量計を 15 箇所設置し,1 箇月間の流量調査を実施

した。また,このほかに地下水位計 5 箇所,降雨計 1 箇所を設置し,同期間における地下

水位の変動および降雨状況を把握した。調査ブロック図を図 4-17 に示す。

図 4-17 A市の浸入水調査ブロック

流量調査,降雨量調査,地下水位調査の結果から,不明水は区域全体から発生している

が,特に埋立地を中心とした臨海部からの常時浸入水量,および沖積錐(規模の小さな扇

状地)に発達した市街地からの常時浸入水量と雨天時浸入量が突出して多かった。

また,地下水位変動,および流量変動と,別途収集したA湾の潮位データを比較・検証

した結果,臨海部については,地下水を介した海水の浸入があり,常時浸入水増大の直接

的原因となっていることが判明した。(図 4-18 参照)

-97-

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0.0

50.0

100.0

150.0

200.0

250.0

300.0

350.0

400.0

450.0

500.0

0:00 0:00 0:00 0:00 0:00 0:00 0:00

-200.0-180.0-160.0-140.0-120.0-100.0-80.0-60.0-40.0-20.00.020.040.060.080.0100.0120.0140.0160.0180.0200.0

流量(m3) 潮位(cm)

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

0:00 0 :00 0:00 0:00 0 :00 0 :00 0 :00

9/12 9/13 9/14 9/15 9/16 9/17 9/18

雨量(mm)

潮位

流量

9月12日(日)~9月18日(土)流量(m3)

0

10

20

30

40

0 0 0 0 0 0 0

雨量(mm)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

0:00 0:00 0:00 0:00 0:00 0:00 0:00

-200.0

-150.0

-100.0

-50.0

0.0

50.0

100.0

150.0

200.0

潮位

地下水位(mm)潮位(cm)

9/12 9/13 9/14 9/15 9/16 9/17 9/18

地下水位

地下水位と潮位の関係 (ピンクが潮位) 流量と潮位の関係

図 4-18 地下水位・汚水流量と潮位の比較

ブロック別の浸入水量を評価判定する方法として,浸入水の種類別に許容限度の基準を

設け,これを判定基準とした。

なお,対策を実施した場合に削減される浸入水は,地下水浸入水に限定されないため,

雨水浸入水についても許容限度を設けた。

許容限度設定のための基本概念は,図 4-6 を参照されたい。また,許容限度と施設能力

の関係は以下のように設定した。

① 管きょ能力ボーダーライン:これを超えると管きょに余裕がない場合,満管になり

溢水する可能性がある。

② 処理能力ボーダーライン:これを超えると,処理能力を超過する可能性がある。

③ 地下水(常時)浸入水ボーダーライン:これを超えると,計画以上の年間処理費増

大をもたらすと同時に,慢性的な処理能力超過を生じる可能性がある。

このうち,管きょ能力に基づく評価は,降雨調査と流量調査の結果から算定された降雨

強度および降雨浸入強度(時間当たり 大浸入水量)をもとに,評価基準値から設定した

評価ランク別基準値における降雨浸入強度を回帰直線に沿って予測した値と,管きょ能力

ボーダーラインを比較して行った。

このときの,評価基準値はA測候所の 22 年間の降雨データから,時間 大降雨量の月

平均出現頻度を調査し,月 1 回程度出現する時間 大降雨量(降雨強度)とした。

なお,処理能力に基づく評価は,降雨調査結果と流量調査から算定された,降雨量およ

び雨水浸入水量をもとに,評価基準値から設定した評価ランク別基準値における雨水浸入

水量を回帰直線に沿って予測した値と,処理能力ボーダーラインを比較して行った。

なお,評価基準値はA測候所の 22 年間の降雨データを用い,日降雨量の月平均出現頻

度を調査し,月 1 回程度の出現する日降雨量とした。

また,評価ランクはA,B,Cランクとし,Aランクの基準値は月 1 回程度の出現頻度

である基準評価値を,Bランクはその半分の頻度,Cランクはさらにその半分の頻度の降

雨量を対象とした 3 段階の基準値を設定した。(図 4-19 参照)

-98-

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図 4-19 評価基準の算定グラフ

地下水浸入水ボーダーラインの設定については,事業計画に位置付けられた地下水量で

ある日 大汚水量の 15.0%から,日平均汚水量ベースに換算した 20.0%を基準値とした。

なお,この事例では雨水浸入水量を降雨直後に浸入する水量と,降雨後 2~3 日程度持

続して浸入する浸透浸入水に分けており,このうち,浸透浸入水については,地下水浸入

水と同じ評価基準で評価判定している。

各浸入水における評価基準を整理すると表 4-13 のとおりとなる。

表 4-13 浸入水別評価基準

各調査ブロックで,浸入水に対し,上記の算定方法および評価方法による判定結果や,

浸入水の質・量の傾向,年度別の事業規模等を総合的に評価し,調査ブロックの統合など

により,事業計画ブロックを設定した。

なお,基礎汚水量,浸透浸入水量および常時浸入水量は期間水量として総括してあるた

め,想定雨水浸入水量および想定雨水浸入強度については,基礎汚水量を日当たりに換算

した値を基に評価した。

基礎汚水量を日平均汚水量と仮定した場合の,降雨浸入強度に関する原単位評価を図

4-20 に,雨水浸入水量および地下水浸入水量に関する原単位評価を図 4-21 に示す。

統計値 5 10 20 30 40 50

出現数 240 148 46 17 5 2

月平均 1.0 0.6 0.2 0.1 0.0 0.0

1時間 大降雨の月平均出現日数

時間 大降雨量(㎜/h)以上

(1984~2004のA測候所)

時間 大降雨量の出現日数

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 10 20 30 40 50 60時間 大降雨量(㎜/h以上)

月平

均出

現日

統計値 10 30 50 100

出現数 515 149 125 49

年平均 24.5 7.1 6.0 2.3

月平均 2.0 0.6 0.5 0.2

日降水量の出現日数(1984~2004のA測候所)

日雨量(㎜/日)以上

日降水量の出現日数

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110降雨量(㎜/日以上)

月平

均出

現回

不良ランク

浸入水

常時浸入水基準汚水量の

20%以上

基準汚水量の

10%以上

基準汚水量の

5%以上

基準汚水量の

5%未満

浸透浸入水

(参考)

基準汚水量の

20%以上

基準汚水量の

10%以上

基準汚水量の

5%以上

基準汚水量の

5%未満

雨水浸入水20㎜降雨時に基準

汚水量の33%以上

40㎜降雨時に基準

汚水量の33%以上

80㎜降雨時に基準

汚水量の33%以上

80㎜降雨時に基準

汚水量の33%未満

雨水浸入強度

(日換算値で計算)

5㎜/h降雨強度時に

基準汚水量の100%以上

15㎜/h降雨強度時に

基準汚水量の100%以上

20㎜/h降雨強度時に

基準汚水量の100%以上

20㎜/h降雨強度時に

基準汚水量の100%未満

溢水頻度大雨時、頻繁

に溢水する

災害レベルの

大雨時に溢水

これまで、1,2度

溢水を経験溢水なし

Aランク Bランク Cランク 良  好

-99-

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図 4-20 降雨浸入強度に関する原単位評価グラフ

図 4-21 雨水浸入水量および地下水浸入水量に関する原単位評価グラフ

上記評価より,各調査ブロック別の評価を確定し,ブロックの隣接状況や,評価の類似

性,実施可能な事業範囲等を勘案し,事業ブロックを決定した。

決定した事業ブロックを図 4-22 に示す。

bブロック dブロック eブロック fブロック gブロック hブロック iブロック jブロック kブロック lブロック mブロック nブロック

地下水浸入水量 30.8 153.8 0.0 106.2 67.2 152.7 28.1 498.8 88.2 42.0 0.0 20.4

基礎汚水量 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

20㎜降雨時雨水浸入水量 36.9 74.4 0 51.5 121.5 115.7 223.7 167.5 17.3 55.7 243.3 141.9

40㎜降雨時雨水浸入水量 80.6 148.8 8.4 103.1 243 231.3 447.4 335.1 34.6 115.7 486.5 283.8

80㎜降雨時雨水浸入水量 168 297.6 126.6 206.1 486 462.7 894.7 670.1 69.2 235.6 973 567.6

-600.0

-500.0

-400.0

-300.0

-200.0

-100.0

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

700.0

800.0

900.0

1000.0

1100.0

1200.0

80㎜降雨時雨水浸入水量

40㎜降雨時雨水浸入水量

20㎜降雨時雨水浸入水量

基礎汚水量

地下水浸入水量

133.0

-20.0

bブロック dブロック eブロック fブロック gブロック hブロック iブロック jブロック kブロック lブロック mブロック nブロック

基礎汚水量 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

5㎜降雨強度時雨水浸入強度 8.0 15.1 16.6 9.6 30.5 17.1 59.1 11.4 5.7 14.8 41.3 24.8

15㎜降雨強度時雨水浸入強度 32.8 58.7 37.6 11.7 122.8 26.0 170.8 18.1 16.5 51.6 130.4 75.7

20㎜降雨強度時雨水浸入強度 45.2 80.5 48.0 12.7 168.9 30.5 226.7 21.4 21.8 70.0 174.9 101.2

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

160.0

180.0

200.0

220.0

240.0

260.0

280.0

300.0

320.0

340.0

360.0

380.0

400.0

20㎜降雨強度時雨水浸入強度

15㎜降雨強度時雨水浸入強度

5㎜降雨強度時雨水浸入強度

基礎汚水量

-100-

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図 4-22 事業ブロックの確定

なお,図 4-22 のうちブロック名を「効果検証後」としたブロックは,対策の必要性は

あるものの,相対的な浸入水量が少なく,事業効果が小さいことから,緊急度の高い 3 ブ

ロックの整備が完了した時点で,再度整備が必要か検証することとしたブロックである。

事業における費用効果分析について,業務中で実施した揚水試験と,テレビカメラ調査

結果を用い,費用曲線(バスタブ曲線)を作成した。その結果,区域全体で浸入水量が非

常に多いため,整備に伴う維持管理費削減効果が大きく,理論上,異常箇所全てを補修し

ても整備効果はあるとの結論になった。

この場合,100%補修・100%止水は現実的ではなく,目標の設定には別のアプローチが必

要である。

本事例の場合,事業計画における地下水量まで削減することを目標とするケース(算定

の結果,目標止水率 90%)と,経験的な浸入経路別浸入水割合(図 4-23 および表 4-14 参

照)を基に対策ブロック別に削減量を求め,止水率を算定するケースとで比較を行った。

ブロック名 計画対象範囲

効果検証後

-101-

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図 4-23 経験的に見た一般的な浸入水浸入経路と浸入水の割合

(出典:月刊下水道 Vol.22 №6)

表 4-14 経験的に見た公共下水道による各浸入水削減率

このうち,経験的な浸入経路別浸入水割合を基に対策ブロック別に削減量を求め,止水

率を算定する方法では,表 4-14 のうち,公共下水道で削減可能なものを各浸入水の削減率

とし止水率を算定した。算定結果を表 4-15 に示す。

表 4-15 止水率算定結果

汚水

水みち

地中の流入箇所で見た浸入経路

排水設備へ浸入20~30%

屋根および地表面で見た浸入経路

宅地桝庭 地公共桝側溝人孔

~5%5~30% 55~85%

誤接合5~15%

排水設備70~90%

公共下水道10~30%

50~60%

公共下水道 排水設備雨水浸入水 30% 70%浸透浸入水 60% 40%常時浸入水 90% 10%

総量

(m3/月)

削減量

(m3/月)

止水率総量

(m3/月)

削減量

(m3/月)

総量

(m3/月)

削減量

(m3/月)

総量

(m3/月)

削減量

(m3/月)

Aブロック 2,532.1 2,086.1 82.4% 240.1 72.0 162.5 97.5 2,129.6 1,916.6

Bブロック 4,487.6 3,455.6 77.0% 460.4 138.1 1,023.4 614.0 3,003.8 2,703.5

Cブロック 3,861.9 2,632.9 68.2% 573.5 172.0 1,662.2 997.3 1,626.2 1,463.6

Dブロック 1,468.5 1,147.7 78.2% 200.7 60.2 178.5 107.1 1,089.3 980.4

Eブロック 1,232.8 947.7 76.9% 173.4 52.0 192.6 115.5 866.9 780.2

合計 13,583.0 10,270.0 75.6% 1,648.0 494.3 3,219.1 1,931.4 8,715.8 7,844.3

止水率 90.0%75.6%

総浸入水量 浸透浸入水量 常時浸入水量

ブロック名

30.0%

雨水浸入水量

60.0%

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0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0

管路延長の累計比率(%)

漏水

量の

累計

比率

(%)

漏水量累計比率

76.0

止水率90.00%

補修

延長

率24.0

%

86.0

補修

延長

率14.0

%

止水率75.00%

揚水試験とテレビカメラ調査の結果をもとに,2 ケースにおける止水率達成に必要な管

きょ補修率を予測すると,補修延長率は 14.0%および 24.0%と小さな値となり,揚水試験に

よる浸入水が認められた管きょ延長率(85%)と大きく乖離(図 4-24 参照)した。また,

止水率 90%では,排水設備の補修が困難なことから達成が難しく,76%止水が実際上 大の

目標値となると結論づけた。

図 4-24 目標止水率と補修管きょ延長の関係

したがって,本事業における目標止水率および管きょ補修率は以下のように設定した。

・ 目 標 止 水 率:76.0%

・ 管きょ補修率:85.0%

※管きょ補修率は参考

-103-

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【事例2:地下水浸入水削減対策と対策結果事例】

干拓地に形成されたO村は,分流式単独公共下水道として昭和 40 年初めに下水道事業

に着手し,昭和 40 年中頃から供用を開始している。地下水浸入水削減計画の対象区域は区

域面積約 310ha,区域内の管きょ総延長約 19.0 ㎞の地区である。(図 4-25 参照)

図 4-25 調査・計画範囲

-104-

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計画に先立ち,系統別に流量計を 10 箇所設置し,1 箇月間の流量調査を実施した。

流量調査の結果から,区域全体で発生している不明水量は,基礎汚水量(有収水量)の

100%に達していることが判明した。(図 4-26 参照)

なお,不明水は区域全体から発生しているが,特に区域中央から南にかけて多かった。

図 4-26 不明水量と内訳

また,区域内の抽出した路線でテレビカメラ調査を実施したところ,約 57%の管きょで

改築が必要であるとの結論に達した。(図 4-27 参照)

図 4-27 診断結果

図 4-28 異常箇所パレート分析

浸入水の原因については,さまざま考えられるがO村は,村全体が大規模な干拓地内に

あり,既存の地質調査結果から軟弱土層が厚く堆積しており,異常項目で浸入水に続きた

るみ・蛇行が多いのはこれが原因と推察された。(図 4-28 参照)

また,地質調査の坑内水位を基に等水位線図(図 4-29 参照)を作成したところ,地下

水位が高い場所と浸入水発生量が多い場所はほぼ一致した。

n=1289

525

394

102 98 8842 26 8 6 0

0

200

400

600

800

1000

1200

・蛇

ック

の他

・ズ

・木

食モ

ルタ

ル付

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

不明水量 0.00875m3/sec

4%0%

54%

42%

雨水浸入水量(m3/sec)

常時浸入水量(m3/sec)

浸透浸入水量(m3/sec)

有収外水量・その他(m3/sec)

調査期間内累積流量 45434m3/月

50%

50%

有収水量 (m3/月)

浸入水量 (m3/月)

対象延長2063.73(m)

修   繕,212.31(m), 10%

経過観察,688.51(m), 33%

改   築,1161.91(m), 57%

改   築 (m)

修   繕 (m)

経過観察 (m)

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図 4-29 ボーリングデータに基づく水位等高線

事業の目標値を設定するため,業務中に実施した揚水試験と,テレビカメラ調査結果を

用い,費用効果分析を実施し, 適な止水率および補修率を設定した。設定した地区別目

標止水率を表 4-16 に示す。なお,費用効果分析の詳細については,第 6 章で詳述する。

目標止水率および補修率は,浸入水調査結果で顕著な差があった北地区と,その他地区

に分類し,さらにその他地区を 3 ブロックに分け,5 箇年事業で計画した。

設定した年度別事業区域を図 4-30 に示す。

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表 4-16 地区別目標止水率と必要改築延長の目安

事業基礎 区域番号 地 区 名 止水率

(%) 改築延長

率(%) ① 西一丁目,同二丁目,中央,東一丁目,同二丁目に係る幹線

② 西二丁目,中央 ③ 東一丁目,同二丁目 ④ 南一丁目,南二丁目,西一丁目

86.0 50.0

⑤ 西三丁目,北一丁目,同二丁目,東三丁目 47.0 20.0

図 4-30 浸入水削減対策計画図

-107-

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また,事業着手にあたり対策を講じない場合の浸入水の伸びと,対策を行った場合の浸

入水の削減状況を予測した。予測の結果,不明水率は現状(平成 13 年度)の約 39%から,

事業が完了する平成 18 年度末には 18%程度まで削減可能となった。(図 4-31 参照)

図 4-31 想定年度別不明水削減量

さらに,事業中においても流末のポンプ施設にて流量を観測し,有収水量との差から浸

入水量をモニタリングした。その結果,平成 18 年度の年平均浸入水率は約 20%となり,事

業目標は達成したといえる。(図 4-32 参照)

図 4-32 浸入水削減実績

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

平成7年 平成8年 平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年

年度

不明

水量

(m3)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

不明

水率

(%)

不明水量(対策無)

不明水量(対策有)

不明水削減量

不明水率(対策無)

不明水率(対策有)

不明水削減率

0

200000

400000

600000

800000

1000000

1200000

~H13平均

H14 H15 H16 H17 H18

年度

水量

(m

3/年

)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

不明

水率

(%)

下水道使用量

流域下水道処理量

不明水量

不明水率(年平均)

不明水率(年度末月)

-108-

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【参考文献】

1)下水道施設計画・設計指針と解説 2001 年版 (社)日本下水道協会

2) 下水道施設改築・修繕マニュアル(案) 1998 年版 (社)日本下水道協会

3)下水道管きょ改築等の工法選定手引き(案) 平成 14 年 5 月 (社)日本下水道協会

4)管更生の手引き(案) 平成 13 年 6 月 (社)日本下水道協会

5) 管きょ更生工法(二層構造管)技術資料 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

6) だれでもわかる不明水対策講座 後藤清 1999 年 2 月号,5 月号 月刊下水道 環境新聞社

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5.その他不明水

不明水とは,流入下水量のうち,下水道管理者がおおむね下水道料金等で把握する

ことが可能な水量以外の下水量で,そのほとんどが雨天時浸入水と地下水浸入水であ

るが,その他に以下の不明水が挙げられる。これらの不明水の影響が無視できない場

合には,対策を検討する。

(1) 有収外汚水

(2) 上水系浸入水

(3) その他

【解説】 その他の不明水は,雨天時浸入水や地下水浸入水と比較すれば極少量ではあるが,財政

面への影響や道路陥没等への影響が無視できない場合には,対策を検討する必要がある。

(1)について

有収外汚水として挙げられる排水を以下に示す。 1)無届けの工場排水や事業所排水

無届けの工場排水や事業所排水に対しては,下水道法第 13 条および下水道条例等に

基づき,立入調査あるいは資料等の提出を求め,公共下水道に適切に接続されているか

を確認する必要がある。

2)井戸水排水

井戸水利用では,一般的に一世帯一人につき 4~6m3/月の下水道使用量としている場

合が多いが,実際の使用量との乖離が指摘されている場合もあり,ポンプ揚水の場合に

は流量計を設置する等の対策を行うことが望ましい。また,事業所等における規定量外

の地下水汲み上げ排水についても調査を行う必要がある。

3)工事現場からの湧水の排水

マンション,ビル等の建築工事により湧水が発生し,この湧水を公共下水道に排水す

る場合には,公共下水道の一時使用の届出が必要であり,適切な届出を行っているかを

監視する必要がある。

4)地下施設の湧水の排水

民間ビル等の地下施設から生ずる地下湧水は,水量が把握されることもなく下水道に

排出されているのが現状である。これらの地下湧水は一般に清澄であることから環境用

水として利用することが,水環境の改善だけでなく,下水道への流入を低減できること

から効果的である。

-110-

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5)雨水の有効活用による排水

近年,資源の有効活用の観点から雨水の利用が増加してきているが,雨水を貯留しト

イレ等に利用する場合には汚水となり,料金徴収対象となることから,上記の湧水と同

様に届出が行われているかを確認する必要がある。

6)温泉排水

一般的には温泉排水の内,洗い場からの排水は汚水であり,湯舟の掛け流しは汚水と

はならない。しかし,掛け流しが汚水排水となっている場合が多く,洗い場排水と掛け

流しを分離できる構造とするように指導を行う必要がある。

全国平均の有収率(総務省公表数値)の推移を図 5-1 に示す。 なお,有終率とは,下水道で処理した汚水のうち使用料収入の対象となる有収水の割合

で,施設の効率性を示す指標の一つである。 (%)

図 5-1 全国の有収率の推移

(2)について

上水道,工業水道,中水道,農業用水道等の上水系からの漏水の浸入が不明水として考

えられる。 これらの漏水に起因する浸入に対しては,各事業者による予防的漏水防止対策を実施し,

有効率を向上させることが必要である。 なお,平成 17 年度末における全国の水道有効率は 92.4%である。(出典:平成 19 年度版 水

道便覧 日本水道協会)

(3)について

農業排水路等のように,雨水の汚水系統への誤接合とは別に,意図的に公共下水道に接

続されている場合もある。

本来有収外汚水とは,使用料徴収の対象となる汚水が,種々の理由により使用料が徴収

できていない状況をいうが,農業排水路等は有収水の対象ではないことから,街路調査等

により問題箇所を抽出し適正な処置を行う必要がある。

-111-

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6.不明水対策の費用効果分析

6.1 概要

不明水対策では,既設管路について種々の調査結果をもとに,ブロック別・路線別

での不明水量について評価し,改築・修繕の範囲,方法,効果等を総合的に判断する

ことが必要であり,下水道経営の透明性や経済性,効率性の向上を図ることが求めら

れる。

【解説】

不明水対策の目的は,管路施設における浸入水を極力少なくすることにある。そのため

には詳細調査結果に基づき,浸入水の地区・路線の正確な位置,状態等を把握し,改築・

修繕すべき路線および箇所を特定するものとし,表 6-1 に示すような基準を設けて対象範

囲を検討する。

表 6-1 不明水対策における改築・修繕範囲の例

項 目 改築・修繕範囲の基準 対策内容

① 管路での溢水

②ポンプ場・処理場施設の冠水危機

③未処理放流

緊急改善対策 バイパス管,貯留施設,施設増

設の前倒し,設備能力増強等 雨天時浸入水対策

① 管路での溢水無

② 施設運転対応可能

(時間 大汚水量以下への削減)

中・長期(削減)計画 管路の部分補修,スパン補修,

排水設備改良,誤接続の解消等

地下水浸入水対策 計画策定時の地下水量を越える(1

人 1 日 大汚水量の 10%~20%)範囲

中・長期(削減)計画 地下水浸入状態が激しい箇所

の補修,スパン補修等

不明水は,様々な問題を引き起こす原因となる。その対策には,下水道経営を行ってい

くうえで効率的かつ効果的な範囲であることが求められ,事業の透明性や経済性の確保,

効率性の向上等を図るため,費用効果分析手法を用いて評価するものとする。

-112-

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6.2 費用効果分析

費用効果分析では,必要となる調査,改築・修繕の範囲,方法等の不明水対策全体

について検討し,改築・修繕計画の一環として位置づけ,浸入水対策の経済性と効率

性の向上を図るものとする。

(1)改築・修繕計画

(2)費用効果分析の適用

【解説】

下水道等の社会資本整備に関しては,公的資金を用いて国民や社会全体の便益向上のた

めに実施されるものであるが,その執行手続きにおいて,透明性および客観性の確保,効

率性の一層の向上を図ることが強く要請されている。 不明水対策においては,改築・修繕にかかる費用を算出し,これにより削減しうる水量

に対比する維持管理費等を比較し,経済的に事業が実施できる範囲や効率的な対策の範囲

を明らかにするものとする。

6.2.1 改築・修繕計画

【解説】

本章では,処理区全体を対象とした不明水対策としての改築・修繕計画を扱うものとす

る。また,改築・修繕計画は,管路施設における不明水を極力削減する中・長期計画と,

危機管理上の緊急改善計画とに大別される。

(1)について

特定した路線または箇所ごとに, 適な工法を選定することを前提とするが,詳細調査

のレベルによっては,現場条件等による採用工法ごとに事業費を詳細に算定することが困

難とみられる。そこで,費用の算定では図 6-1 および表 6-2 に示す改築・修繕工法の費用

関数等を参考とする。

改築・修繕計画では,詳細調査結果に基づき,浸入水が多い地区・路線の正確な位置,

状態,箇所ごとの浸入水量を把握し,改築・修繕すべき箇所・路線,改築・修繕方法,

補修費用,改築・修繕により期待される効果を総合的に検討・判断することを目的とす

る。また,計画策定に当たっては,雨天時浸入水対策と地下水浸入水対策とを明確にし

ておく必要がある。改築・修繕計画には,次の項目を含むものとする。

(1) 調査,改築・修繕方法,工法

(2) 事業量

(3) 整備スケジュール

(4) 改築・修繕により得られる効果

-113-

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表 6-2 改築・修繕工法等の費用関数等

項 目 費用関数等 適用範囲

スパン改築工法 y=0.0715x2+92.983x+30,000 (円/m) φ2,400 ㎜以下

部分補修工法 y=-1.2262x2+2,338x-154,389 (円/箇所) 2m/箇所ライニング

取付管改良 49,000 円/件(既設撤去処分含む) φ150 ㎜,5m/件

布設替え

ます改良 42,000 円/件(既設撤去処分含む) 径 300 ㎜塩ビます

布設替え

※ 適用範囲外およびその他補助工法は別途算出のこと。

図6-1 改築・修繕工法費用関数

y = 0.0715x2 + 92.983x + 30000

R2 = 0.9857

y = -1.2262x2 + 2338x - 154389

R2 = 0.9416

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

○ 0 ○ 500 ○1,000 ○1,500 ○2,000 ○2,500

管径(㎜)

単価

(円

/m

)

スパン改築

部分補修

スパン改築

部分補修

-114-

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(2)について

通常,管きょの改築・修繕計画では,各路線の施設状況とスパン単位での評価,路線の

重要度等より優先度を考慮し改築・修繕の判定を行うこととなる。

不明水対策を主眼とする場合,雨天時浸入水対策および地下水浸入水対策については流

量調査および詳細調査による処理区全体における対象路線または地区等の評価により改

築・修繕路線等の総事業量(延長,箇所数,事業費)を算出することとなる。

(3)について

整備スケジュールでは,緊急改善対策の他,管路施設の改築・修繕計画として各自治体

等の財政事情において中・長期的に実施可能な計画を立案するものとする。

(4)について

改築・修繕計画においては,計画時の対策効果を,「汚水管きょへの雨天時浸入水に関

する調査報告書 2002年 1月 国土技術政策総合研究所」(以下,「雨天時浸入水に関する

調査報告書」国総研という),「下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年

10 月 (社)日本下水道協会」(以下,浸入水防止対策指針という)等をもとに検討する。

1)雨天時浸入水削減効果

図 6-2 に雨天時浸入水防止対策範囲のイメージを示す。現在求められている緊急改善

計画は,図 6-2 に示される貯留等の対策量に示される範囲と位置づけられる。また,中・

長期的な対策を行うことにより,対策後の浸入水量の削減が可能となり,水処理施設増

設やポンプ施設の増設等の先送り効果も期待される。

降雨量㎜

浸入水量

m3対策前

対策後

浸入水対策効果の確認

1.21

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

1

31

61

91

121

151

181

211

241

271

301

331

361

日大

/日

平均

0

50

100

150

200

250

降雨

量m

m/d

降雨量と受水量との関係例

実績雨天時日 大倍率

現有能力

晴天時 大汚水量

現在求められている貯留等対策量

現有するポンプ場・処理場等の増強分降雨量㎜

浸入水量

m3対策前

対策後

浸入水対策効果の確認

1.21

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

1

31

61

91

121

151

181

211

241

271

301

331

361

日大

/日

平均

0

50

100

150

200

250

降雨

量m

m/d

降雨量と受水量との関係例

実績雨天時日 大倍率

現有能力

晴天時 大汚水量

現在求められている貯留等対策量

現有するポンプ場・処理場等の増強分

1.21

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

1

31

61

91

121

151

181

211

241

271

301

331

361

日大

/日

平均

0

50

100

150

200

250

降雨

量m

m/d

降雨量と受水量との関係例

実績雨天時日 大倍率

現有能力

晴天時 大汚水量

現在求められている貯留等対策量

現有するポンプ場・処理場等の増強分

図 6-2 雨天時浸入水防止対策範囲のイメージ

「雨天時浸入水に関する調査報告書」国総研によると,図 6-3 に示されるように「雨

天時浸入水は補修段階が進むごとに減少してゆく」とされている。改築・修繕計画にお

いては,本事例をもとに,表 6-3 のように設定し,計画当初の雨天時浸入水削減効果を

算定する。

-115-

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図 6-3 雨天時浸入水の削減効果

(出典:汚水管きょへの雨天時浸入水に関する調査報告書 2002 年 1 月 国土技術政策総合研究所)

表 6-3 雨天時浸入水削減効果の例

項 目 算定方法(対象地区の家屋数等を対象とする) 単独削減率 累積削減率

公設ます改良効果 調査地点の降雨量と雨天時浸入水量×(1-②/①) 39% 39%

取付管改良効果 調査地点の降雨量と雨天時浸入水量×(1-③/①) 22% 61%

排水設備改良効果 調査地点の降雨量と雨天時浸入水量×(1-⑤/①) 17% 78%

本管改良効果 調査地点の降雨量と雨天時浸入水量×(⑤/①) 22% 100%

※上表は,当初の改築・修繕計画に用いることとし,地区単位等で事業実施後は事後評価により

効果の検証を行うこととする。

2)地下水浸入水対策

浸入水防止対策指針に示されている地下水浸入水量と管底よりの地下水水頭との関

係例を図 6-4 に示す。地下水位が管底より約 0.6m 以上高くなると,浸入水量が急激に

増加することが示されている。

1000m3

400m3

削減

1000m3

400m3

1000m3

400m3

削減

図 6-4 地下水浸入水対策の範囲の例

(出典:下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会)

-116-

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0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

管底よりの地下水水頭(m)

地下

水浸

入水

量(m

3/日

y = 75.15x3 - 164.17x2 + 111.07x

R2 = 0.9076

図 6-5 に,地下水水頭と地下水浸入水についての別途調査事例を示す。図 6-4 では地

下水位が管底より約 0.6m 以上高くなると浸入水量が急激に増加していたが,図 6-5 で

は約 1.2m 以上で急増する。

図 6-5 に示す例では,管底より 1.0m 未満の地下水水頭を地下水浸入水対策の対象と

すると,費用便益比(B/C)が非常に小さくなることが想定されることがわかる。

図 6-5 地下水水頭と地下水浸入水との関係例

地下水浸入水が多い場合の地下水位と浸入水量との関係については,汚水管きょの管

底高と周辺河川の河床高との関係や,潮位の影響の有無,管種や施設老朽化の状況等に

左右されることとなる。そのため,当該地区の地下水位と地下水浸入水量との関係を求

め,削減対象範囲を検討することが効果的である。

なお,改築・修繕の効果については,事前事後の流量調査による検証が必要となるこ

とや地下水浸入水箇所の移動等も考慮しなければならないが,当初計画において地下水

浸入水削減量を設定するものとする。

-117-

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6.2.2 費用効果分析の適用

【解説】 浸入水がもたらす被害項目の例を図 6-6 に示す。雨天時浸入水および地下水浸入水とも

に,処理施設の増設や維持管理費の増大など下水道経営の悪化を招いており,中・長期的

な削減計画が必要なものと,下水道マンホール等からの溢水や施設の冠水,道路陥没等の

リスク管理の面から緊急改善が必要とされる対策とに分けられる。

ここでは,費用換算可能なものは,中・長期削減計画に適用する。

図6-6 浸入水がもたらす被害項目の例

表 6-4 溢水,冠水等の発生確率と二次災害等の発生費用の例

項目 二次災害等

(1/発生件数) 一件当たり被害額(平均)

マンホールによる被害※1 1/460

陥没事故による被害※1 1/630

家屋被害 250 千円

通行車両損傷 660 千円

通行人負傷 420 千円

緊急対策費 350 千円

施設の冠水※2 1回/15 年 汚水 P における被害事例:

機械電気新設工事費の約 20%

※1 マンホールおよび陥没事故による被害 ※2 施設の冠水:本手引きにおける調査事例,処理場においても汚水ポンプ施設の冠水被害を計上す

ることが考えられる。 (出典:管路施設の計画的維持管理と財政的効果に関する調査報告書 平成 7 年 3 月 建設省下水道部)

費用効果分析においては,改築・修繕の事業費が経済性を有する範囲にあることや効

率性の向上について評価することを目的とするので,雨天時浸入水と地下水浸入水に起

因する問題のうち中・長期削減計画での適用とする。

-118-

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6.2.3 中・長期(削減)対策の便益

【解説】

地下水の浸入では,その量の増減はあるが,年間を通して恒常的に流入してくるもので

あり,揚水費用,汚水処理費用等の増加につながる。また,処理場改築時に水処理施設の

増設等が必要な場合,削減効果による水処理施設の規模縮小等の便益が期待される。 以下に,算定事例を示す。

【費用効果分析算定例:A 処理区】

1)ブロック別評価の例

処理区の概要を表 6-5 に示す。当該処理場は,10 年ほど前に増設されているが,今後

20 年程度で第1系列の更新を迎えることとなる。そのため,施設更新時の対応を踏まえ

た浸入水対策が必要となる。

表 6-5 当該処理区の概要

項 目 諸元等 備 考

計画面積 260ha うち No.1:84ha

全体計画汚水量(日 大) 20,000m3/日 既設 20,000m3/日

晴天時汚水量(日平均) 12,370m3/日

普及率 100%

図 6-7~9 に処理区をブロック分割し,6 箇所で流量調査した結果の概要を示す。

No.2

No.4No.6No.1

No.5

TNo.3

評価:悪い

評価:良好

評価:極めて悪い

評価:非常に悪い

ブロック分割

流量調査地点

凡 例

No.2

No.4No.6No.1

No.5

TNo.3

評価:悪い

評価:良好

評価:極めて悪い

評価:非常に悪い

ブロック分割

流量調査地点

凡 例

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

9.0

10.0

11.0

12.0

調査地点

面積当たり浸入水量

降雨後浸入水量 0.2 0.6 1.4 0.0 2.3 7.2

降雨日浸入水量 1.4 1.5 3.6 1.2 1.3 3.6

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6

(㎜/10A)

図 6-7 流量調査における面積当たり雨天時浸入水量の評価(50 ㎜降雨時)

面積

102.7 ha, 42%

44.0 ha, 18%

50.2 ha, 21%

28.5 ha, 12%

16.3 ha, 7%

No.2

No.3

No.4

No.5

No.6

現況人口

9,120人,

36%

4,880人,

20%

2,610人,

11%

2,700人,11%

5,420人,

22%

No.2

No.3

No.4

No.5

No.6

晴天時汚水量

2,150m3/

d, 17%

1,430m3/

d, 12%

1,000m3/

d, 8%

6,690m3/

d, 54%

1,110m3/

d, 9%

No.2

No.3

No.4

No.5

No.6

夜間 低流量

930m3/d,

14%

220m3/d,

3%

510m3/d,

8%

580m3/d,

9%

4,530m3/

d, 66%

No.2

No.3

No.4

No.5

No.6

図 6-8 各ブロックの特性と晴天時流量および夜間 低流量の割合(50 ㎜降雨時)

中・長期対策の効果は,地下水浸入による下水量の増大によってもたらされる揚水費

および汚水処理費の増加,水処理施設の増設費用等の縮減である。

-119-

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No.2

No.4No.6No.1

No.5

T

No.3評価:悪い

評価:良好

評価:極めて悪い

評価:非常に悪い

ブロック分割

流量調査地点

凡 例

No.2

No.4No.6No.1

No.5

T

No.3評価:悪い

評価:良好

評価:極めて悪い

評価:非常に悪い

ブロック分割

流量調査地点

凡 例

0m3/d

2,000m3/d

4,000m3/d

6,000m3/d

8,000m3/d

10,000m3/d

12,000m3/d

14,000m3/d

流量

汚水量 2,320m3/d 2,160m3/d 1,220m3/d 1,210m3/d 490m3/d 530m3/d 5,630m3/d

夜間 低流量 910m3/d 4,530m3/d 930m3/d 220m3/d 510m3/d 580m3/d 6,810m3/d

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 下水処理場

図6-9 夜間 低流量による地下水浸入水量の評価

A処理区の調査の結果,処理区に占めるブロック面積では18%のNo.3,7%のNo.6

ブロックが雨天時浸入水の50%以上を占める。

一方,地下水浸入水量では,No.1~No.2までの幹線区間で3,500m3/日の流入がみ

られることがわかった。

2)対策案の例

図 6-10 および図 6-11 に,処理場更新時の対策案と雨天時下水量について示す。

No.2

No.4No.6No.1

No.5

TNo.3

評価:悪い

評価:良好

評価:極めて悪い

評価:非常に悪い

ブロック分割

凡 例No.1ブロックの隣

接処理区への処理場更新期間における流域変更。

3,200m3/日

No.2幹線の地下水浸入水対策。φ800L=600m、3,500m3/日

雨天時浸入水対策として、NO.3、No.6の桝取付管の改良。降雨後浸入水対策としてNO.6の本管改築。

No.2

No.4No.6No.1

No.5

TNo.3

評価:悪い

評価:良好

評価:極めて悪い

評価:非常に悪い

ブロック分割

凡 例No.1ブロックの隣

接処理区への処理場更新期間における流域変更。

3,200m3/日

No.2幹線の地下水浸入水対策。φ800L=600m、3,500m3/日

雨天時浸入水対策として、NO.3、No.6の桝取付管の改良。降雨後浸入水対策としてNO.6の本管改築。

図 6-10 処理場更新時の対策案の概要

図 6-11 処理場更新時の対策案と雨天時下水量

図 6-10 および図 6-11 に示すように,処理場更新時には,No.1 ブロックの流域変更に

加えて,No.2 下流幹線の管きょの改築を地下水浸入水対策として行うこととし,また

No.3, No.6 ブロックについては,雨天時浸入水対策として公共ますおよび取付管の改

良工事を行うものとした。特に,降雨後の浸入水が多い No.6 ブロックについては本管

の改築も行うものとする。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

降雨量(㎜)

流入

水量

(m3//日

)

降雨後浸入水量 570 890 1,230 1,560 1,890 2,230 2,560 2,890 3,210 3,550

降雨日浸入水量 630 1,270 1,900 2,540 3,180 3,810 4,450 5,090 5,730 6,360

晴天日流量 9,170 9,170 9,170 9,170 9,170 9,170 9,170 9,170 9,170 9,170

10㎜ 20㎜ 30㎜ 40㎜ 50㎜ 60㎜ 70㎜ 80㎜ 90㎜ 100㎜

No.1 流域変更後

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

降雨量(㎜)

流入

水量

(m3/日

)

降雨後浸入水量 640 1,300 1,970 2,630 3,290 3,970 4,630 5,300 5,960 6,620

降雨日浸入水量 1,160 2,110 3,060 4,010 4,960 5,900 6,850 7,800 8,750 9,700

晴天日流量 12,370 12,370 12,370 12,370 12,370 12,370 12,370 12,370 12,370 12,370

10㎜ 20㎜ 30㎜ 40㎜ 50㎜ 60㎜ 70㎜ 80㎜ 90㎜ 100㎜

現状

-120-

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表 6-6 に対策内容と概算事業費を,図 6-12 に対策後の雨天時下水量について示す。

表 6-6 対策内容と概算事業費

対 策

内容 対策量 細目 数量 単価(万円) 事業費(百万円)

No.1流域切替

(長距離推進) 3,200 m3/日 φ800 500m 57 285

No.2地下水浸入水対策

(スパン改築) 2,980 m3/日 φ800 600m 15 90

No.3雨天時浸入水対策(公共桝取付管)

ます・取付管 900件 9.1 82

No.6雨天時浸入水対策(公共桝取付管)

ます・取付管 1,800件 9.1 164

No.6雨天時浸入水対策

(スパン改築)現況雨天時浸入水

量の22%削減φ250 3,000m 6 180

801

現況雨天時浸入水量の61%削減

合  計

ブロック

注)No.2 地区の地下水浸入水防止対策は,対策量の 85%を止水量に見込むものとした。

3,500m3/日×85% ≒2,980m3/日。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

降雨量(㎜)

流入

水量

(m3//日

)

降雨後浸入水量 480 680 870 1,070 1,270 1,450 1,650 1,840 2,040 2,240

降雨日浸入水量 380 770 1,170 1,560 1,950 2,350 2,740 3,140 3,530 3,920

晴天日流量 6,180 6,180 6,180 6,180 6,180 6,180 6,180 6,180 6,180 6,180

10㎜ 20㎜ 30㎜ 40㎜ 50㎜ 60㎜ 70㎜ 80㎜ 90㎜ 100㎜

図 6-12 対策後の雨天時下水量

以上の結果,更新時 10,000m3/日の処理能力に対し,日雨量 60 ㎜程度まで処理可能と

なる。

-121-

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3)処理場施設改築に関わる便益(代替費用による便益算定)

①No.1 ブロック流域切替による 3,200m3/日削減

②地下水浸入水防止対策 3,500m3/日×85% ≒2,980m3/日

③更新時雨天時処理能力 60 ㎜/日相当より

対策前 6,040m3/日→対策後 3,800m3/日(37%削減)

合 計(削減効果)9,980m3/日≒10,000m3/日相当の水処理新設費用

表 6-7 処理場施設改築に関わる費用効果分析

項目 処理場新設 流域切替+浸入水対策

建設費

標準活性汚泥法の費用関数を用いて

便益Bを算出すると,

百万円

理)沈砂池ポンプ棟+水処

876,1%1.384925

(18.932 7229.0

QB

「流域別下水道整備総合計画調査指

針と解説」平成 11 年(社)日本下水

道協会

表 6-6 参照

流域切替 285 百万円

地下水浸入水防止対策 90 百万円

雨天時浸入水対策 426 百万円

計 801 百万円

維持管理費

(H17水処理単価

全国平均72円/m3)

9,170m3/日×72 円/m3×365 日×30 年

=7,230 百万円/30 年

9,170m3/日は,図 6-11 No.1 流域変

更後晴天時流量より。

6,180m3/日×72円/m3×365日×30年

=4,870 百万円/30 年

6,180m3/日は,図 6-12 対策後の晴天

時流量より。

合計 9,106 百万円/30 年 5,671 百万円/30 年

B/C 9,106 百万円/5,671 百万円≒1.60

注)図 6-7 面積当たり浸入水量㎜表示の考え方について

地点別の浸入水量を同一レベルで比較する方法として,各調査地点の単位面積当たり浸入水

量による評価が考えられる。これは次式で示され,例えば降雨量 100 ㎜に対し,そのうち 2 ㎜

程度が汚水管へ浸入することを表している。(下図 12A)

単位面積当たり浸入水量=雨水浸入水量(m3)÷調査地点(Aha)

=m3/104Am2=㎜/10A

10A

12A10B

11C

面積当り

浸入水量mm/10A

面積当り

浸入水量mm/10A

面積当り

浸入水量mm/10A

面積当り

浸入水量mm/10A

降雨量(mm) 降雨量(mm)

降雨量(mm) 降雨量(mm)

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【費用効果分析算定事例:B処理区】

(1)費用算定に伴う項目別算定手法

1)補修費用の算定手法

費用効果分析を行うにあたり,管きょの補修費用を算出する場合,その補修手法の選

定において次の点に留意する必要がある。 ・ スパン内の異常箇所数および異常程度と,補修費用の相関が得られる手法であるこ

と。 ・ 異常の程度により補修内容の変更が可能であること。 ・ 補修費用を 1m 当たり補修費用に換算した場合,スパンごとに違いが得られること。

・ 補修効果の主項目が「止水」であること。 上記の条件を満たすには,スパン更生(改築手法)では異常箇所数にかかわらずスパ

ン延長で補修費用が決定されてしまうため,費用効果分析を行うことができない。した

がって,費用効果分析を行うための補修手法としては部分補修(修繕手法)とする。 補修工法の選定については,修繕工法の選定の検討結果に従い,内面補修工法とし,

浸入水による異常程度Aランクについてはパッカー工法の併用とする。ただし,管路補

修の耐用年数は 25 年とし,その 50%を再補修するものとした。

補修費用の算定では,水密試験の結果とTVカメラ調査の結果を基に補修費用を算出

し,区域別の管路総延長に換算して止水量を変数とした費用関数を算定することで求め

る。また,前述の耐用年数および再補修率を考慮し,補修費用算定額は費用関数で求め

た費用に 1.5 を乗じ,25 で除した額とした。図 6-13 および表 6-8 に換算補修費用算定

表と相関図を示す。

図 6-13 管路補修費用関数の算定

y = 9377.e20.35x

R = 0.959

0.0

20000.0

40000.0

60000.0

80000.0

100000.0

120000.0

0.0000 0.0200 0.0400 0.0600 0.0800 0.1000 0.1200 0.1400

補修

費用

(千

円)

地下水浸入水の止水量(m3/min)

管渠補修費用

指数 (管渠補修費用)

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図 6-13 および表 6-8 は,全問題箇所をリストアップし,これに対する補修工事費,

削減しうる水量の一覧表から,削減しうる水量の大きい順に並べ替え,累積の削減しう

る水量と対応する累積の補修工事を算定したものである。

表 6-8 管路換算補修費用算出表

浸入水量 0.121 /分換算対象延長 6750 m

区分 代表値管径別費用計

補修単価

換 算補修費

累加比率 合計 比率累加比率

m % m 千円 千円 千円 千円 ㍑/分 % % /分 %0.00 0.000 78.35 10.2 686 2,456 31 21,500 108,503 0.00 0.0 0.0 0.121 100.0

0<Q≦0.01 0.005 192.89 25.0 1,688 2,691 14 23,550 87,003 0.96 6.0 6.0 0.114 94.00.01<Q≦0.02 0.015 152.56 19.8 1,335 2,688 18 23,525 63,453 2.29 14.3 20.2 0.097 79.80.02<Q≦0.03 0.025 241.38 31.3 2,112 2,691 11 23,550 39,928 6.03 37.6 57.8 0.051 42.20.03<Q≦0.04 0.035 67.97 8.8 595 936 14 8,189 16,378 2.38 14.8 72.6 0.033 27.40.04<Q≦0.05 0.045 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.05<Q≦0.06 0.055 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.06<Q≦0.07 0.065 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.07<Q≦0.08 0.075 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.08<Q≦0.09 0.085 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.09<Q≦0.10 0.095 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.10<Q≦0.11 0.105 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.11<Q≦0.12 0.115 38.23 5.0 335 935 24 8,189 8,189 4.40 27.4 100.0 0.000 0.0

0.12<Q≦0.13 0.125 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.13<Q≦0.14 0.135 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.14<Q≦0.15 0.145 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.00.15<Q≦0.16 0.155 0.00 0.0 0 0 0 0.00 0.0

0計 771.38 100.0 6,751 12,397 108,503 16.06 100.0

補修費用

延長 止水量延長比率

換算延長

備考

浸入水量 浸入水量

止水率

2)ポンプ場維持管理費の算定手法

大型中継ポンプ場は,流域下水道に流入する直前中継ポンプ施設であり,その管理は

B村によって行われている。したがって,不明水の増減に起因する維持管理費も費用効

果分析の一要因であるため,その費用を算出する。費用算出にあたっては,「流域別下

水道整備総合計画調査指針と解説 平成 11 年版 (社)日本下水道協会」に示される

費用関数を用いた。

3)流域下水道負担金の算定手法

C県流域下水道への負担金拠出額は,実際の拠出単価より 65 円/m3とした。

(2)費用効果分析の算定

前項で決定した算定手法に基づき算定した管路の補修費,ポンプ場の維持管理費および

流域下水道への負担金を加算して管理費の総計を求め,これを管渠延長,浸入水量および

止水量について表 6-9 にまとめる。また,浸入水量の累計比率を管路延長の累計比率の関

数として表したものを図 6-14 に,費用効果(管理費用の総計)を止水率の関数で表したも

のを図 6-15 に示す。

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表 6-9 費用効果分析算定結果

0.121 /分6,750 m

管渠延長比率

管渠延長浸入水量

比率止水率 止水量

ポンプ場維持管理費

流域下水道負担金

施設維持管理費の増加分

% m % /分 /年 % 億円 億円/年 億円/年 億円/年0 0.0 0 0.000 0 100 0.121 0.0661 0.0000 0.0000 0.0000 0.066081 67.5 1 0.001 526 99 0.120 0.0648 0.0001 0.0003 0.0005 0.065202 135.0 2 0.002 1,051 98 0.119 0.0634 0.0002 0.0007 0.0009 0.064303 202.5 3 0.004 2,102 97 0.117 0.0609 0.0003 0.0014 0.0017 0.062574 270.0 4 0.005 2,628 96 0.116 0.0597 0.0003 0.0017 0.0021 0.061735 337.5 5 0.006 3,154 95 0.115 0.0585 0.0004 0.0021 0.0024 0.060926 405.0 6 0.007 3,679 94 0.114 0.0573 0.0004 0.0024 0.0028 0.060127 472.5 7 0.008 4,205 93 0.113 0.0562 0.0005 0.0027 0.0032 0.059358 540.0 8 0.010 5,256 92 0.111 0.0539 0.0006 0.0034 0.0040 0.057889 607.5 9 0.011 5,782 91 0.110 0.0528 0.0006 0.0038 0.0044 0.05717

10 675.0 10 0.012 6,307 90 0.109 0.0518 0.0006 0.0041 0.0047 0.0564811 742.5 11 0.013 6,833 89 0.108 0.0507 0.0007 0.0044 0.0051 0.0558112 810.0 12 0.015 7,884 88 0.106 0.0487 0.0007 0.0051 0.0059 0.0545413 877.5 13 0.016 8,410 87 0.105 0.0477 0.0008 0.0055 0.0062 0.0539414 945.0 14 0.017 8,935 86 0.104 0.0468 0.0008 0.0058 0.0066 0.0533515 1,012.5 15 0.018 9,461 85 0.103 0.0458 0.0008 0.0062 0.0070 0.0527816 1,080.0 16 0.019 9,986 84 0.102 0.0449 0.0009 0.0065 0.0073 0.0522217 1,147.5 17 0.021 11,038 83 0.100 0.0431 0.0009 0.0072 0.0081 0.0511818 1,215.0 18 0.022 11,563 82 0.099 0.0422 0.0009 0.0075 0.0085 0.0506819 1,282.5 19 0.023 12,089 81 0.098 0.0414 0.0010 0.0079 0.0088 0.0502020 1,350.0 20 0.024 12,614 80 0.097 0.0405 0.0010 0.0082 0.0092 0.0497421 1,417.5 21 0.025 13,140 79 0.096 0.0397 0.0010 0.0085 0.0096 0.0492922 1,485.0 22 0.027 14,191 78 0.094 0.0381 0.0011 0.0092 0.0103 0.0484523 1,552.5 23 0.028 14,717 77 0.093 0.0374 0.0011 0.0096 0.0107 0.0480624 1,620.0 24 0.029 15,242 76 0.092 0.0366 0.0011 0.0099 0.0111 0.0476625 1,687.5 25 0.030 15,768 75 0.091 0.0359 0.0012 0.0103 0.0114 0.0473026 1,755.0 26 0.031 16,294 74 0.090 0.0352 0.0012 0.0106 0.0118 0.0469427 1,822.5 27 0.033 17,345 73 0.088 0.0338 0.0013 0.0113 0.0125 0.0462728 1,890.0 28 0.034 17,870 72 0.087 0.0331 0.0013 0.0116 0.0129 0.0459729 1,957.5 29 0.035 18,396 71 0.086 0.0324 0.0013 0.0120 0.0133 0.0456630 2,025.0 30 0.036 18,922 70 0.085 0.0318 0.0013 0.0123 0.0136 0.0453831 2,092.5 31 0.038 19,973 69 0.083 0.0305 0.0014 0.0130 0.0144 0.0448432 2,160.0 32 0.039 20,498 68 0.082 0.0299 0.0014 0.0133 0.0147 0.0445933 2,227.5 33 0.040 21,024 67 0.081 0.0293 0.0014 0.0137 0.0151 0.0443734 2,295.0 34 0.041 21,550 66 0.080 0.0287 0.0015 0.0140 0.0155 0.0441435 2,362.5 35 0.042 22,075 65 0.079 0.0281 0.0015 0.0144 0.0158 0.0439336 2,430.0 36 0.044 23,126 64 0.077 0.0270 0.0015 0.0150 0.0166 0.0435337 2,497.5 37 0.045 23,652 63 0.076 0.0264 0.0016 0.0154 0.0169 0.0433638 2,565.0 38 0.046 24,178 62 0.075 0.0259 0.0016 0.0157 0.0173 0.0431939 2,632.5 39 0.047 24,703 61 0.074 0.0254 0.0016 0.0161 0.0177 0.0430440 2,700.0 40 0.048 25,229 60 0.073 0.0249 0.0016 0.0164 0.0180 0.0428941 2,767.5 41 0.050 26,280 59 0.071 0.0239 0.0017 0.0171 0.0188 0.0426342 2,835.0 42 0.051 26,806 58 0.070 0.0234 0.0017 0.0174 0.0191 0.0425143 2,902.5 43 0.052 27,331 57 0.069 0.0229 0.0017 0.0178 0.0195 0.0424044 2,970.0 44 0.053 27,857 56 0.068 0.0225 0.0017 0.0181 0.0198 0.0423045 3,037.5 45 0.054 28,382 55 0.067 0.0220 0.0018 0.0185 0.0202 0.0422246 3,105.0 46 0.056 29,434 54 0.065 0.0211 0.0018 0.0191 0.0209 0.0420647 3,172.5 47 0.057 29,959 53 0.064 0.0207 0.0018 0.0195 0.0213 0.0420048 3,240.0 48 0.058 30,485 52 0.063 0.0203 0.0018 0.0198 0.0217 0.0419549 3,307.5 49 0.059 31,010 51 0.062 0.0199 0.0019 0.0202 0.0220 0.0419150 3,375.0 50 0.061 32,062 50 0.060 0.0191 0.0019 0.0208 0.0228 0.0418451 3,442.5 51 0.062 32,587 49 0.059 0.0187 0.0019 0.0212 0.0231 0.0418152 3,510.0 52 0.063 33,113 48 0.058 0.0183 0.0020 0.0215 0.0235 0.04180

53 3,577.5 53 0.064 33,638 47 0.057 0.0180 0.0020 0.0219 0.0238 0.04179

54 3,645.0 54 0.065 34,164 46 0.056 0.0176 0.0020 0.0222 0.0242 0.04180

55 3,712.5 55 0.067 35,215 45 0.054 0.0169 0.0020 0.0229 0.0249 0.0418256 3,780.0 56 0.068 35,741 44 0.053 0.0166 0.0021 0.0232 0.0253 0.0418457 3,847.5 57 0.069 36,266 43 0.052 0.0162 0.0021 0.0236 0.0257 0.0418758 3,915.0 58 0.070 36,792 42 0.051 0.0159 0.0021 0.0239 0.0260 0.0419059 3,982.5 59 0.071 37,318 41 0.050 0.0156 0.0021 0.0243 0.0264 0.0419560 4,050.0 60 0.073 38,369 40 0.048 0.0150 0.0022 0.0249 0.0271 0.0420561 4,117.5 61 0.074 38,894 39 0.047 0.0147 0.0022 0.0253 0.0275 0.0421162 4,185.0 62 0.075 39,420 38 0.046 0.0144 0.0022 0.0256 0.0278 0.0421763 4,252.5 63 0.076 39,946 37 0.045 0.0141 0.0022 0.0260 0.0282 0.0422464 4,320.0 64 0.077 40,471 36 0.044 0.0138 0.0022 0.0263 0.0286 0.0423365 4,387.5 65 0.079 41,522 35 0.042 0.0132 0.0023 0.0270 0.0293 0.0425066 4,455.0 66 0.080 42,048 34 0.041 0.0130 0.0023 0.0273 0.0296 0.0425967 4,522.5 67 0.081 42,574 33 0.040 0.0127 0.0023 0.0277 0.0300 0.0426968 4,590.0 68 0.082 43,099 32 0.039 0.0125 0.0023 0.0280 0.0304 0.0428069 4,657.5 69 0.083 43,625 31 0.038 0.0122 0.0024 0.0284 0.0307 0.0429270 4,725.0 70 0.085 44,676 30 0.036 0.0117 0.0024 0.0290 0.0314 0.0431571 4,792.5 71 0.086 45,202 29 0.035 0.0115 0.0024 0.0294 0.0318 0.0432772 4,860.0 72 0.087 45,727 28 0.034 0.0112 0.0024 0.0297 0.0322 0.0434073 4,927.5 73 0.088 46,253 27 0.033 0.0110 0.0025 0.0301 0.0325 0.0435474 4,995.0 74 0.090 47,304 26 0.031 0.0106 0.0025 0.0308 0.0333 0.0438375 5,062.5 75 0.091 47,830 25 0.030 0.0104 0.0025 0.0311 0.0336 0.0439776 5,130.0 76 0.092 48,355 24 0.029 0.0102 0.0025 0.0314 0.0340 0.0441277 5,197.5 77 0.093 48,881 23 0.028 0.0100 0.0026 0.0318 0.0343 0.0442878 5,265.0 78 0.094 49,406 22 0.027 0.0098 0.0026 0.0321 0.0347 0.0444379 5,332.5 79 0.096 50,458 21 0.025 0.0094 0.0026 0.0328 0.0354 0.0447780 5,400.0 80 0.097 50,983 20 0.024 0.0092 0.0026 0.0331 0.0358 0.0449481 5,467.5 81 0.098 51,509 19 0.023 0.0090 0.0027 0.0335 0.0361 0.0451282 5,535.0 82 0.099 52,034 18 0.022 0.0088 0.0027 0.0338 0.0365 0.0453083 5,602.5 83 0.100 52,560 17 0.021 0.0086 0.0027 0.0342 0.0369 0.0454884 5,670.0 84 0.102 53,611 16 0.019 0.0083 0.0027 0.0349 0.0376 0.0458585 5,737.5 85 0.103 54,137 15 0.018 0.0081 0.0027 0.0352 0.0379 0.0460586 5,805.0 86 0.104 54,662 14 0.017 0.0080 0.0028 0.0355 0.0383 0.0462487 5,872.5 87 0.105 55,188 13 0.016 0.0078 0.0028 0.0359 0.0387 0.0464488 5,940.0 88 0.106 55,714 12 0.015 0.0076 0.0028 0.0362 0.0390 0.0466589 6,007.5 89 0.108 56,765 11 0.013 0.0073 0.0028 0.0369 0.0397 0.0470690 6,075.0 90 0.109 57,290 10 0.012 0.0072 0.0029 0.0372 0.0401 0.0472791 6,142.5 91 0.110 57,816 9 0.011 0.0070 0.0029 0.0376 0.0405 0.0474992 6,210.0 92 0.111 58,342 8 0.010 0.0069 0.0029 0.0379 0.0408 0.0477193 6,277.5 93 0.113 59,393 7 0.008 0.0066 0.0029 0.0386 0.0415 0.0481594 6,345.0 94 0.114 59,918 6 0.007 0.0065 0.0029 0.0390 0.0419 0.0483895 6,412.5 95 0.115 60,444 5 0.006 0.0064 0.0030 0.0393 0.0423 0.0486196 6,480.0 96 0.116 60,970 4 0.005 0.0062 0.0030 0.0396 0.0426 0.0488497 6,547.5 97 0.117 61,495 3 0.004 0.0061 0.0030 0.0400 0.0430 0.0490698 6,615.0 98 0.119 62,546 2 0.002 0.0059 0.0030 0.0407 0.0437 0.0495599 6,682.5 99 0.120 63,072 1 0.001 0.0057 0.0031 0.0410 0.0441 0.04979

100 6,750.0 100 0.121 63,598 0 0.000 0.0056 0.0031 0.0413 0.0444 0.05003

浸入水流入に伴う維持管理費管渠補修費

管理費用の総計

対象面積当り浸入水量対象面積当り管渠延長

浸入水量

削減水量

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(3)費用効果分析の結果

表 6-9 および図 6-15 より,止水率の低いうちは補修工事の実施が総管理費用の低減に

つながるが,止水率が高くなると補修工事の実施が逆に総管理費用の上昇をもたらしてい

ることが認められる。また,不明水量や管きょの異常程度によって,管理費の低減から上

昇に転じる点が変わることも認められる。すなわち,費用効果分析の面からは補修工事の

実施範囲に限界があり,投資効果が も発現する規模,止水率を導くことが肝要であると

いえる。

止水率を決定する場合,一つの手法として事業計画における地下水量を目標とする方法

がある。水密試験の結果を基に算定した管路延長と浸入水量の関係を以下に示す。

図 6-14 管路延長と浸入水量の関係

図 6-14 によれば事業計画であらかじめ見込まれている地下水量(日 大汚水量の 10%)

まで不明水量を削減しようとした場合,止水率 39.23%,管きょ補修延長率 14.7%で達成で

きることとなる。

また,止水率を決定するもう一つの手法として,費用効果が も発現する点を導き,そ

れによって止水率を決定する方法がある。

①有収水量(月) 22,390

②日平均汚水量

①/30日746

③日 大汚水量

②×1.4281,065

④計画地下水量

③×10%106

⑤計画地下水量(月)④×30日

3,180

⑥不明水量(月) 5,233

⑦過剰不明水量(月)

⑥-⑤2,053

⑧許容浸入水率⑤÷⑥

60.77

許容非補修率 85.30

y = 0.0139x2 - 0.5389x + 5.5938

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0

管路延長の累計比率(%)

浸入

水量

の累

計比

率(%

)

浸入水量累計比率

多項式 (浸入水量累計比率)

60.77

80.9

53.00 大補修効果線 止水率47.00%

適補

修延

長率

19.1

%

85.3

適止

水延

長率

14.7

%

許容浸入水率線 止水率39.23%

-126-

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0.00

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

地下水浸入水の止水率(%)

費用

(億円

/年

)

施設維持管理費の増加分

管理費用の総計

管渠補修費

許容

漏水

量位

補修

効果

大発

揮位

39.23 47.0

図 6-15 費用効果と止水率の関係

図 6-15 によれば,費用効果が も高い事業規模での止水率は 47%,図 6-14 から事業計

画と整合する止水率は 39.23%,それぞれの止水率における管路補修率は 19.1%,14.7%とな

る。

以上の結果をまとめると表 6-10 に示すとおりとなる。

表 6-10 止水率決定のまとめ

決定根拠 止水率 管路補修率

事業計画に整合 39.23 14.7

事業効果 発現 47.00 19.1

表 6-10 によれば,事業計画と整合した不明水量までとする止水率より,事業効果が

も発現する止水率の方が大きく,費用効果分析の面からも止水率 47.0%,管きょ補修率

19.1%とすることが望ましいと考えられる。

【参考文献】

1)汚水管きょへの雨天時浸入水に関する調査報告書 2002 年 1 月 国土技術政策総合研究所

2)下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会

-127-

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7.不明水対策の事後評価

7.1 基本方針

不明水対策の実施にあたっては,事業の進捗状況にあわせて費用効果を確認しなが

ら対策を実施する。対策を行うにあたっては,費用効果の限界を超えない範囲で実施

することが望ましいが,法令の遵守や施設の流下機能確保の面から,その効果が下回

る場合もあるため,対策実施後の効果を適切に調査・解析し,浸入水量の削減が確実

に行われていることを確認する。

【解説】

不明水対策事業の実施にあたっては,事業の透明性確保の観点からその投資効果につい

て評価する必要がある。

この対策事業では,その進捗とともに費用便益比(B/C)も低下することが考えられる

ことから,対策実施後には再調査を行い,その効果を評価する。その結果を踏まえ,計画

的に見直しを行い,事業の進捗を図っていくことが必要である。その投資効果の評価は,

対策の緊急性,重要性,経済性等をもとに行うこととなるが,その基準値となる費用便益

比(B/C)としては 低でも 1.0 を下回らないことが望ましい。

他方では,水質汚濁防止法等法令の遵守や,施設の破損に起因する浸入水防止(道路陥

没による二次災害防止)等,早急に実施する必要のある対策もあり,これらでは費用便益比

(B/C)が 1.0 を下回る場合もある。

これらのことから,不明水対策事業では,事業の必要性を十分に検討した上で,対策実

施後の効果を適切に調査・解析し,浸入水量の削減が確実に行われていることを確認しな

がら事業の進捗を図る。

この事業評価のイメージを図 7-1 に示す。

対策前

対策後

B/C≧1.0

事業採択

基準値より大きければ事業を採択

( ) 事後評価実施時

上位・下位ケース設定時の場、合 その変動幅を考慮したうえ

。で総合的に判断する

基準( ) B/C=1.0

基準値より小さければ事業の必要性を十分に検討

( ) 事業着手時

基準値より小さければ事業の必要性を十分に検討

( 、 、 。) 適時 見直しを図り 基準値を上回るか下回るかの確認を行う 図 7-1 事業評価のイメージ

-128-

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事後評価では,下記に示す両面から,その効果をかんがみる必要がある。

① 実施した対策そのものに対する評価

② 残事業に対する評価

①では,対策の妥当性と効果について検証し,今後の対策について課題を整理するもの

である。また,②では,①の実績をもとに今後進めていく残事業を評価し,投資効果の観

点から事業の継続・中止を判断する。

また,評価では,上位・下位ケースの場合についても判断しておくことが望ましい。具

体には,ます・取付け管・本管すべての対策を行った場合,取付け管のみ改築した場合等

である。

この事後評価は,図 7-2 に示すPDCAサイクルに従い,定期的に行う必要がある。

図 7-2 評価分析の実施フロー

(出典:上下水道資源の活用に向けた水循環マスタープラン策定マニュアル(案)

平成 16 年 3 月 (社)全国上下水道コンサルタント協会)

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7.2 評価フロー

事後評価では,不明水対策の実施後に再調査を実施し,対策前後における分析を行

う。その結果をもとに投資効果の評価を行い,適時,計画の見直しを行う。

【解説】

不明水対策における事後評価では,対策前後における調査結果をもとに比較・分析を行

う。

継続的な改善を図っていくことは,道路陥没数の低減,汚水処理費用の低減等につなが

り,健全な下水道事業の経営を行うことができる。そのため,事業実施後の再評価として,

図 7-3 に示すフローにしたがって対策の評価・分析の実施を行うことが重要である。

START

原因判定

不明水調査

不明水対策

再調査

投資効果の評価

不明水対策の事後評価

計画・対策の見直し

( ) 常に見直しを行う 図 7-3 不明水対策の事後評価フロー

-130-

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削減効果あり

約 75%

7.3 再調査

事後評価を行うにあたっては,対策後の効果を確認し,事業の再評価を行うための

再調査を実施する。再調査は,対策前後での効果を確認することから,同じ地点で対

策の内容・段階ごとに行うことが望ましい。

【解説】

再調査では,対策後の効果を適正に評価し,投資効果の評価および対策の妥当性を確認

するために行う。再評価では,対策前後における調査結果を用いて,実施効果の評価を行

うことを目的とするため,同地点における調査結果を取得することが望ましい。 また,実際の事業では,接続ます更生・取付け管更生・本管交換,排水設備の改築等の

内容について一体で行うことが多いが,それら,各段階で結果を取得することで,事業の

効果と費用の関係を見出すことが可能となる。 不明水量は,天候,地下水位,評価点等の要因により変化するため,対象区域にある地

下水位の観測データも調査する。段階的再評価のイメージを図 7-4 に示す。

対策区域

評価点

Q不明水量

調査段階 対策内容 不明水量の変化 浸入水削減効果

調査前 - Q -

再調査1 接続ます更生 M箇所 Q ⇒ Q1 Q1/Q

再調査2接続ます更生 M箇所+取付け管更生 T箇所

Q1 ⇒ Q2 Q2/Q1

再調査3接続ます更生 M箇所+取付け管更生 T箇所+本管更生 H箇所

Q2 ⇒ Q3 Q3/Q2

図 7-4 段階的再調査のイメージ

「汚水管きょへの雨天時浸入水に関する調査報告書 国土交通省 国土技術政策総合研

究所 2002 年 1 月」No.26 には,対策の段階ごとに浸入水量の削減効果が示されている。こ

の事例を図 7-5 に示す。その効果は,約 75%と非常に大きな値を示している。

図 7-5 補修による浸入水削減効果

「汚水管きょへの雨水時浸入水に関する調査報告書」 国土技術政策総合研究所資料 No.26 に加筆

-131-

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7.4 投資効果の評価

投資効果の評価では,投資の有効性および事業の透明性等を確保する観点から,再

調査の結果と不明水対策に要した費用等をもとに,対策実施における効果を確認する。

対策費用は,調査費,改築・修繕費および維持管理費等を計上する。

【解説】

投資効果の評価については,不明水対策事業に関する説明責任を達成するため,投資の

有効性,事業の透明性等を確保する観点から実施するものである。また,この結果から,

事業の継続または中止の判断が可能となる。

1)評価手法

不明水は常にその浸入経路が変動するため,再評価は,特定区域のみでなく,集水す

る区域全体も含めて行う。

2)評価項目

基本となる評価項目を,次に示す。

・不明水量による処理費(揚水費,水処理費,薬品費等)

・管路および処理場の施設管理費

・不明水量に対する管径の増径(増設)費

・道路陥没数

3)算定に必要な項目

投資効果の算定に用いる項目を,次に示す。

・面積整備率:計画面積に対して,整備進捗状況を把握する

・計画諸元:汚水量原単位,変動率,地下水量の計画値を把握する

・整備人口:普及状況の把握のため,整備人口を把握する

・下水処理場の状況:年間の流入水量と施設能力の関係について状況を把握する

・降雨状況:降雨地点と調査範囲の位置関係および降雨状況について把握する

・地下水位の変動状況:観測井戸等により年間を通した地下水位の変動を把握する

・処理費用:下水処理場での処理費用単価を把握する

・地域特性:土地利用,住宅・工場の状況,人口密度,地形・地質状況等について把

握する

・改築・修繕費:対策費として計上する改築・修繕費の単価を整理する

4)評価に用いる費用

評価に用いる費用としては,不明水対策に係る費用と対策の効果として現れる費用を

用い,対策の効果を評価する。これら具体の項目を下記に例示する。

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① 不明水対策に係る費用

・調査費(管内調査,不明水調査等)

・解析費(不明水量,浸入水対策区域等)

・改築・修繕費

・維持管理費

② 対策の効果として現れる費用

・処理費(水処理費,薬品費等)

・管理費(ポンプ揚水費,人件費等)

・維持管理費用(緊急対応,点検調査費等)

・施設の増設費(管路施設の増径,水処理施設の増設等)

5)評価の例

「下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協

会」では,投資効果(止水率)と費用の関係を,管路の補修費,地下水浸入に伴う下水処

理場・ポンプ場の維持管理費の増分,およびこれらを加算して求めた管理費の総計を止

水率の関数として表わし,図 7-6 のように示している。この図から,不明水対策による

補修費と管理費の関係は,ある一定のところで逆転することわかる。投資効果の評価に

おける費用効果の判断では,この 適解を求めることが重要である。

図 7-6 効果と費用の関係(例)

(出典:下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会)

適解を求める

必要がある

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7.5 計画の見直し

【解説】

対策計画では,投資効果の変化,不明水対策の進捗等を適正に評価した上で,計画を見

直すことが必要である。

不明水対策の計画対象区域は広範囲にわたり,その対策実施範囲も大きくなることから,

時間も費用も嵩むことが想定される。そのため,対策計画の策定では,投資効果の評価,

対策の妥当性をかんがみ,必要に応じて見直しを図る。

計画の見直しにあたっては,次の項目について留意する。

① 調査計画について

調査では,その時期や期間および位置により結果が大きく左右されるため,綿密な調

査計画を策定する必要がある。また,不明水量だけでなく,その対策手法の選定にも係

わることから,管内の状況も合わせて精度よく調査(管内調査)することが必要である。

② 対策計画について

対策計画を策定するにあたっては,実施した対策ごとの評価を元に,対策の手法,効

果を確認する。その結果を踏まえて,対策計画を策定する。策定時には,改築・修繕事

業,耐震対策事業等,他事業との調整を図りながら進める。

③ 事業再評価について

下水道事業が長期間に渡るのに比べ,不明水対策事業は,中短期での解決を図る必要

がある。対策効果を評価し,事業そのものの計画を見直す必要から,5 年から 10 年程度

ごとに効果の確認を行うことが望ましい。

不明水対策では,事業の完了までに長時間を要することや多大な費用を費やすことか

ら,段階的な計画を策定し,事業の進捗にあわせて再評価を行い,その効果を確認しつ

つ事業を進めていくことが重要である。この対策計画では,これらを踏まえた上で必要

に応じて見直しを図る必要がある。

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7.6 検討事例

ここでは,不明水対策における 3 つの検討事例を示す。 (1)『 研究事例紹介 〈KO市における浸入水の削減効果検討事例〉』

(2)改築・修繕における段階ごとの効果

(3)不明水対策の費用効果(事後評価)ケーススタディ

(1)『 研究事例紹介 〈KO市における浸入水の削減効果検討事例〉』

この調査事例は,KO市S処理区内にモデル地区を設定し,雨天時浸入水量および浸入

経路を調査し,順次補修工事を実施しながら浸入水の削減量の定量化を行ったものである。 この地区の地下水位は,降雨時・晴天時ともに汚水管より低く,常時浸入水はなく,浸

入水は降雨時の雨天時浸入水のみと考えられる。

1)補修の内訳

モデル地区の条件 面積:2.5ha,家屋数:99 戸,公共下水道の施工年度:昭和 48 年

表 7-1 補修の内訳

公共下水道 排水設備

内容 項目 汚水本管

(ヒューム管)

250 ㎜

マン ホール

取付

け管

接続 ます (既設)

接続 ます

(新設)

誤接合

家屋

その他

浸入水

家屋

全体数量 798.59m 44 個 118本 68 個 31 個 10 戸 25 戸

開削補修 - - 31本 - 31 個 - - ライニング補

修 - - 51本 65 個 - - -

未補修 798.59m 44 個 17本 3 個 - - -

道 不要管の閉塞 - - 19本 - - - -

訳 排水

設備 補修 - - - - - 10 戸 25 戸

(注-1)補修順序:①既設接続ますライニング,②取付け管ライニング,③接続ますの開削新設,④排水

設備の補修

(注-2)接続ます・取付け管の未補修は,注水試験で良好であったもの。

① 排水設備では,降雨時のます調査により,誤接合家屋 10 戸以外に 25 戸の雨水浸入

の家屋が確認された。この原因は,排水設備に対する老朽化の進行および雨水排水

設備の不備により,雨天時に汚水排水設備に雨水が流入するものと考えられる。

② 排水設備と公共下水道の浸入水量の比率は,排水設備側が 45%,公共下水道側が 55%

であった(図 7-7)。図 7-7 に示した排水設備のうち 19%は,誤接合家屋の屋根面積か

ら降雨量を推計したものである。排水設備側の浸入水の計量は,浸入水の多い 6 戸,

少ない家屋 5 戸,浸入水のない家屋 1 戸,計 12 戸の接続ますに流量計を設置して行

った。

-135-

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図 7-7 浸入水の内訳

③ 公共下水道側の補修効果として,既設接続ますのライニングにより浸入水量が 15%

削減された。また,取付け管ライニングおよび開削によるますの新設により浸入水

量が 25%削減され,公共下水道側で合計 40%の削減となった。

④ 排水設備側の補修効果として,誤接合箇所の切替工事および老朽箇所の補修により,

浸入水量が 24%削減された。

⑤ 公共下水道側の浸入水量 55%のうち,取付け管および接続ますの補修で 40%の削減と

なり,残り 15%は本管・マンホールなどからの浸入水と思われる。

⑥ 汚水管の流量計測結果より,流量と降雨強度の相関が非常に高いため,雨天時浸入

水の大部分は浸透ではなく直接流入する雨水と考えていたが,補修効果からもこの

ことが確認された。

⑦ 補修費の費用効果は,表 7-2 より排水設備側が高いが,排水設備は個人財産である

ため,補修の実行には多くの労力と時間を要する。また排水設備の点検方法,補修

の方法の指導,補修工事の助成など検討すべき課題は多い。

⑧ このような対策を行っても,公共下水道で 15%,排水設備で 21%の浸入水量(合計で

36%)が,浸入水削減の困難な量として残される。(図 7-8 参照)

図 7-8 補修による削減効果(実績)

19%

26%

55%誤接合

老朽等

公共

公共下水道

排水設備

45%

24%

21%

15%

25%

15% 排水設備改善実績

排水設備未改善

公共下水道未改善

公共下水道取付管改善実績

公共下水道接続桝改善実績

排水設備

ます改善

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表 7-2 調査の概要

S処理区全体

処理区域面積 1,100ha

総家屋数 15,149 戸

誤接合 558 戸

誤接合率 ※3.7%

浸入水率 ※3.5%

調査区域の概

モデル地区

調査面積 2.5ha

調査家屋 99 戸

誤接合 10 戸

誤接合率 10%

浸入水率 4.6%

調査項目 ① 流量・雨量調査

② 地下水位調査

③ 目視調査

④ TV カメラ調査

⑤ 注水試験

⑥ 圧気試験

・本管,宅内

・降雨時の人孔,接続ます

・本管,取付け管

・本管,人孔,接続ます

・本管,取付け管

モデル地区で

の調査概要

補修 補修順序で

① 取付け管,ますの改良

② 宅地内の補修

③ 人孔補修

浸入水増加 35 戸 誤接合 10 戸,その他 25 戸モデル地区で

の排水設備の

浸入水調査 浸入水の原因 誤接合の他,排水設備の老

朽化による水密性の低下

公 共 下 水 道

(公) 55% モデル地区で

の浸入水公私

比率 排水設備(私) 45% 内 誤接合 19%

接続ますの補修 15% 公共

取付け管改良 25%

宅内 排水設備改良 24% 不良家屋 35 戸の改良

浸入

水削

減率

計 64%

公共 取付け管・接続

ます 15,000 千円 100 戸(150 千円/戸)

排水設備補修 400 千円 22 戸(18 千円/戸)

宅内 誤接合の分離

(切替)補修 1,000 千円 10 戸(100 千円/戸)

削減

に要

した

費用

計 16,400 千円 6,560 千円/ha

※ 表 7-3 接合調査結果参照(KO市S処理区の平成 9 年~11 年家屋誤接合調査実施結果)

※ 浸入水率:対象地域の全降雨量に対する汚水管への浸入水量の百分比

表 7-3 誤接合調査結果

調査戸数

(戸)

誤接合家屋数

(戸)

誤接合率

(%)

浸入水量の多い区域 3,156 268 8.5

その他の区域 11,993 290 2.4

計 15,149 558 3.7

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2)雨天時浸入水量の公私比率計算

まず,排水設備の流入目視調査(99 箇所)のうち,流入量の多少により抽出した 12 箇

所(多 6,少 5,無 1)において,公共ますで排水設備からの流量調査を行った。

表 7-4 に宅内流量調査結果を示す。

表 7-4 宅内流量調査結果

宅地№ 排水設備流入

目視調査結果

雨天時下水量

(m3)

a

晴天時下水量

(m3)

b

雨天時浸入水量

(m3)

a-b

9 少 0.20 0.06

13 多 1.10 0.16

建築中 少 0.10 0.00

34 無 0.00 0.00

35 少 0.40 0.19

41 少 0.20 0.08

57 多 0.80 0.13

60 少 0.30 0.03

64 多 1.00 0.12

65 多 1.00 0.15

90 多 0.90 0.13

98 多 1.00 0.11

上記の調査結果を受け,調査対象地区全体の排水設備からの雨天時浸入水量を推定す

る。表 7-5 に調査対象地区全域の排水設備からの雨天時浸入水量の推定結果を示す。

表 7-5 調査対象地区全域の排水設備からの推定雨天時浸入水量

排水設備流入

目視調査結果

調査戸数

(戸)

N

合計雨天時浸入水量

(m3)

Q

排水設備流入

目視調査全数

N0

調査対象地区全体の

排水設備からの推定

雨天時浸入水量

(m3)

Q*N0/N

多 6 5.00 17 14.17

少 5 0.80 18 2.88

無 1 0.00 64 0.00

計 12 5.80 99 17.05

調査対象地区の 下流端で測定した調査対象地区全体の雨天時浸入水量と,推定した

調査対象地区全体の排水設備からの推定雨天時浸入水量を用いて,公共下水道側の雨天

時浸入水量を推定し,雨天時浸入水量の公私比率を算出する。

表 7-6 に雨天時浸入水量の公私比率の算出結果を示す。

表 7-6 雨天時浸入水量の公私比率

調査対象地区全体の雨天時浸入水量(m3) ① 37.60

調査対象地区全体の排水設備からの雨天時浸入水量(m3) ② 17.05

公共下水道側の推定雨天時浸入水量(m3) ③=①-② 20.55

公私比率 ③:② 55:45

(出典:分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構)

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(2)改築・修繕における段階ごとの効果

改築・修繕段階ごとにおける雨天時浸入水量の削減傾向を見るために,対象流域の総降

雨量と雨天時浸入水量の相関関係を改築・修繕段階ごとについて算定する。図 7-9 に改築・

修繕段階ごとの雨天時浸入水削減傾向を示す。 上記方法の結果,グラフに示すように,各段階でのパターン化された直線式が算出され

る。この直線式を用いて,表に示す項目の計算式より改築・修繕段階ごとでの削減効果を

把握することができる。

0

10

20

30

40

50

60

0 10 20 30 40 50

総降雨量(㎜)

雨天

時浸

入水

量(m

3)

線形 (①補修前(y=1.145x))

線形 (②公共ますライニング(y=0.9708x))

線形 (③取付管ライニング(y=0.9458x))

線形 (④公共ます・取付管新設等(0.6867x))

線形 (⑤誤接合の改良等(y=0.4145x))

公私比率公共比 排水設備比

N n n/N Q P=Q/Q①*100 Pd=P①-P p p/55% p/45%

① 改築・修繕前 - 1.145 100.0% - - - -

② 公共ますライニング 公共ます 96 65 67.7% 0.971 84.8% 15.2% 15.2% 27.7% -

③ 取付け管ライニング 取付け管 118 51 43.2% 0.946 82.6% 17.4% 2.2% 4.0% -

公共ます+取付け管新設 118 31 26.3%

未使用管閉塞 14 14 100.0%

誤接合の改良 10 10 100.0%

水密性不良箇所改良 25 25 100.0%

公共分 排水設備

72.8% 52.8%

各段階

0.687 60.0% 40.0% 22.6% 41.1% -

全数(箇所)

改良数(箇所)

改良比率(%)

雨天時浸入比率

(%)

雨天時浸入水量(m3/㎜) 累計

削減率

部位改築・修繕段階

52.8%-23.8%63.8%36.2%0.415排水設備

取付け管

図 7-9 改築・修繕段階ごとの雨天時浸入水量の削減効果

-139-

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費用効果分析は,ここまでの調査・試験および改築・修繕費用を削減浸入水量(削減浸入

水率)で除して行う。費用効果分析の結果を表 7-7 に示す。

表 7-7 費用効果分析計算書

② ③公共ます

+取付け管

新設

公共ます

96

65 51 31 14 10

67.7% 43.2% 26.3% 11.9% 10.1%

42 99 250 130 106

2,730 5,049 7,750 1,820 1,056

2,730

公共ます 本管TV

注水試験 調査

68 798.59

4.6 1.1

313 878

313

3,043

0.174

2.1

15.2%

187

54

25

25.3%

16

400

99

改善+検査1箇所当たり

Σ{(A+B)/D/N}857

削減比単価

 (千円)

改善+検査1箇所当たり

(A+B)/D/N209 549

削減率D 24.8% 23.8%

改善1箇所当たり(A/D/N) 499 62

排水設備1の時の費用対比 5.6 1.0

改善+検査1箇所当たり

(A+B)/C/N182 479 86

(A/C/N)163 436

改善1箇所当たり

単位雨天時浸入水量比単価(千円/箇所/㎜)

計 21,410

削減水量C (m3/㎜) 0.284 0.272

費用B (千円) 1,429 863

改善+検査 (費用A+費用B) 16,048 2,319

9.5 8.7

合計 (千円) 551 861

14,619 1,456

検査

検査項目 取付け管圧気試験 排水設備調査

数量(試験:箇所,調査:m) 58 99

単価 (千円)

改善

改善数(n)

全数比(n/N)

単価 (千円)

合計 (千円)

費用A (千円)

取付け管 排水設備

全数(N) 118 99

費用効果分析

改築・修繕段階

④ ⑤

公共ますライニング

取付け管ライニング

未使用管閉塞

誤接合の改良

水密性不良箇所改良

部位

注)単価,費用については参考とする。

(出典:分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003年3月 (財)下水道新技術推進機構)

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(3)不明水対策の費用効果(事後評価)ケーススタディ

この検討例では,事後評価における費用効果の検討例として,不明水対策費と削減費用

(建設費および維持管理費)を比較したものを示す。また,費用の設定については事後評

価であることから実費による比較を基本とする。 1)費用比較概要

①比較対象区域 費用比較の検討には,対策前後における不明水量の調査が必要となるため,調査の効

率性からポンプ場等の運転記録を用いることとし,比較対象区域については,当該ポン

プ場の集水区域(表 7-8 参照)とする。また,投資効果の一つとして処理場管理費等の

低減が含まれることから,処理区全体および特定区域別(事後においても流量調査を実

施する場合など)に集計を行うのがわかりやすい。

表 7-8 調査区域別概要(例)

②比較対象費用 評価に用いる費用(対策費および効果)に関しては,対策工事費,維持管理費,施設

用地費などが混在することから年当たり費用による比較とする。なお,建設費等の年当

たり費用の算定方法では,各対策費用と利子率に応じた換算係数より求め,基本的な計

算手法は,下水道事業における費用効果分析マニュアルに準じるものとする。 年当たり費用(建設費)= 総費用 × 換算係数

換算係数={i+i/〔(i+1)n-1〕}

i:利子率(=4.0%とした) n:耐用年数

ここで,調査費や設計費等における換算係数については,当該調査,設計に基づく対

策を施された施設の耐用年数を用いることとした。また,不明水対策計画の策定は,概

ね 10 年ごとに見直すものと想定し,解析費・設計費についての耐用年数は 10 ヶ年を用

いることとした。

③事後評価時の調査方法

不明水対策の実施については,基礎調査や詳細調査の実施および調査結果により対策

手法や対策地区等の優先順位が決定される。したがって,実施した各対策の評価を行う

ためには対策手法別および調査区域別に調査時と同様の集計することが望ましいが,不

明水調査時と同様の調査には多大な費用を要するため,事後評価時の調査方法は対策前

後の処理場およびポンプ場の運転記録に基づく処理水量実績や維持管理費に関する統

計資料等を活用し評価する。

対策前 対策後

(ha) Q(千m3/年) (千m3/年) (千m3/年) (千m3/年) (%) (千円) (千円/1000m3/年)A地区 100 3,500 2,000 1,500 600 60.0% 200,000 222B地区 200 7,000 4,000 3,000 1,500 50.0% 500,000 333C地区 50 2,000 1,000 1,000 500 50.0% 100,000 200D地区 150 4,500 3,000 1,500 1,000 33.3% 150,000 300対象外 500 11,000 10,000 1,000 1,000 0.0% 0 -合 計 1,000 28,000 20,000 8,000 4,600 42.5% 950,000 279

止水率 対策費 不明水1000m3/年当たり対策費

不明水量対策区域

晴天時下水量(有収水量)

年間処理水量集水面積

-141-

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2)不明水対策費

評価に用いる不明水対策費には,主として調査費,解析・設計費および改築・修繕費

等が挙げられる。(表 7-9 参照)

表 7-9 不明水対策費用(例)

3)効果算定例

不明水対策の効果として現れる費用には,主として処理水量増加に伴うポンプ揚水に

かかる動力費や薬品費等の維持管理費,および不明水対応のために前倒しして建設した

施設建設費等が挙げられ,本検討事例では,次のとおりとする。

①維持管理費

本検討例においては,維持管理費の削減効果として以下の項目を計上した。

・処理場およびポンプ場におけるポンプの揚水にかかる動力費

・処理水量増加に伴う消毒費(薬品費)

表 7-10 に維持管理費の削減効果例を示す。維持管理費削減効果の算定では,資料の

収集や集計等,運転記録や統計資料の利用が可能であり効率性が期待できる。

注 1)エアレーションにかかる動力費については,不明水由来の汚濁負荷は 0kg と考え,

フラッシングによる一時的な負荷量の増加は見込まないものとした。

注 2)雨天時における不明水量増加に伴う管理費(人件費)の増加については,不明水量

にかかわらず台風や大雨時には自家発の運転管理のため増員するなどの対応が多

いという理由から,本検討例においては見込まないものとした。

【対策費】 利子率: 4.0%

項目 対策内容 単位 対策数量単価

(千円)費用

(千円)耐用年数

換算係数

年当たり費用

(千円/年)調査費 公共ます注水試験 ヶ所 3,500 4.6 16,100.0 10 0.1233 1,985

取付管圧気試験 ヶ所 3,500 9.5 33,250.0 10 0.1233 4,100本管TV調査 m 50,000 1.1 55,000.0 50 0.0466 2,563排水設備調査 ヶ所 100 8.7 870.0 50 0.0466 41流量調査(1ヶ月間) ヶ所 20 1000.0 20,000.0 50 0.0466 932

解析費・設計費 不明水対策計画・設計 式 1 15000.0 15,000.0 10 0.1233 1,850

改築修繕費 公共ますライニング ヶ所 1,000 42.0 42,000.0 10 0.1233 5,179取付管ライニング ヶ所 1,000 99.0 99,000.0 10 0.1233 12,207公共ます+取付管新設 ヶ所 2,000 250.0 500,000.0 50 0.0466 23,300未使用管閉塞 ヶ所 50 130.0 6,500.0 50 0.0466 303本管改築 m 1,700 150.0 255,000.0 50 0.0466 11,883

誤接合の改良 ヶ所 50 106.0 5,300.0 50 0.0466 247水密性不良箇所改良 ヶ所 50 16.0 800.0 50 0.0466 37

1,048,820.0 64,627内, A地区 13,572

B地区 33,606C地区 7,109D地区 10,340

費用合計 ①

-142-

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表 7-10 (効果)維持管理費(例)

②建設費 建設費については,不明水削減水量に見合う増設分の前倒し費用を計上した。増設す

る施設としては, 初沈殿池,反応タンク, 終沈殿池を対象としたが,不明水削減水

量と池の規模が一致するわけではないので,必要に応じて効果の判定のため費用関数を

用いることも考えられる。ただし,本検討例では増設にかかる実績値を用いることとし

た。建設費の削減効果例を表 7-11 に示す。 ここで,建設費についても対策費用との比較のため,年当たり費用に換算する。換算

方法は,対策費用と同様に利子率および耐用年数から求まる換算係数により算定する。

表 7-11 (効果)建設費(例)

③効果合計 B/C の算定結果は,次に示すとおり 2.32 となり,不明水対策効果が十分発揮されたと

評価できる。 効果合計 = ① + ② = 10,100 + 139,886 = 149,986 千円/年

【B/C 算定】

149,986 千円/年 / 64,627 千円/年 = 2.32 > 1.0

【維持管理費】備考

対策前処理水量相当

対策後処理水量相当

処理場 ポンプ揚水費 39,400 34,200 5,200薬品費 33,600 29,500 4,100エアレーション動力費 0

ポンプ場-01 ポンプ揚水費 5,300 4,700 600ポンプ場-02 ポンプ揚水費 3,700 3,500 200

維持管理費計 ① 10,100

維持管理費(千円/年)削減分

(千円/年)

原則、不明水由来

の汚濁負荷はゼロ

とする。

ファーストフラッ

シュなどは、降雨

がなくても清掃時

に排出されるため

見込まない

項目 効果内容

【建設費】 利子率: 4.0%項目 効果内容

増設分の前倒し費用

対策前処理水量相当

対策後処理水量相当

処理場 水処理施設 26,020,000 24,204,000(土建) 11,710,000 11,110,000 600,000 50 0.0466 27,960(機電) 14,310,000 13,094,000 1,216,000 15 0.0899 109,318

ポンプ設備 140,000 120,000 20,000 15 0.0899 1,798ポンプ場-01 ポンプ設備 30,000 26,000 4,000 15 0.0899 360ポンプ場-02 ポンプ設備 20,000 15,000 5,000 15 0.0899 450

建設費計 ② 139,886

年当たり費用

(千円/年)

建設費(千円)削減分(千円)

耐用年数

換算係数

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【参考文献】

1)公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針 平成 16 年 2 月 国土交通省

2)上下水道資源の活用に向けた水循環マスタープラン策定マニュアル(案) 平成 16 年 3 月 (社)全

国上下水道コンサルタント協会

3)汚水管きょへの雨天時浸入水に関する調査報告書 2002 年 1 月 国土技術政策総合研究所

4)下水道管路施設における浸入水防止対策指針 昭和 57 年 10 月 (社)日本下水道協会

5)分流式下水道における雨天時増水対策計画の手引き(案) 2003 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構

6) 下水道事業における費用効果分析マニュアル 平成 18 年 11 月 日本下水道協会

7) 下水道事業の手引き 平成 19 年度版 (財)下水道新技術推進機構

8) 下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術指針・同マニュアル 平成 14 年 12 月 日本下

水道事業団

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8.不明水対策における留意点

8.1 改築時の不明水対策の推進

不明水を削減するためには,改築時において排水設備の誤接続や管路施設の不良工

事等を減らし,浸入する雨水や地下水の軽減を図ることが も重要である。

既存建築物の建て替え時には,排水設備の施工指導の強化等を図り,老朽管路の改

築時には止水性の高い工法を採用する。

【解説】

不明水は,排水設備の誤接続による雨水の流入,路面等から地下に浸透した雨水や地下

水が管の継手,破損部から浸入する等の事例が多く挙げられている。 排水設備の設置は,指定工事店の選定→計画確認申請→確認通知→工事施工→工事完了

届→工事完了検査→検査済証の交付という流れで進められるが,排水設備の誤接続や不良

工事を防止するため工事施工段階において指定工事店への施工指導を強化したり,指定工

事店に対する説明会や講習会において下水道のしくみや不明水の浸入に関する技術指導を

行う。また,管路施設の改築時においても現場監督者が極力現場に常駐し,施工管理の強

化を図り,不良工事を防止する。そうすることで,不明水の減少,維持管理性の向上が期

待できる。

8.2 維持管理における留意事項

日々の維持管理,修繕等の各種記録を適正に管理し,次に示す不明水の浸入の有無,

浸入水量等の把握に努める。

(1) 雨天時浸入水量,地下水浸入水量

(2) 維持管理費

(3) 不明水量の多い地区

【解説】

日常より不明水に対する意識を高め,不明水の多い地区や雨天時浸入水量・地下水浸入

水量,これに伴う維持管理費等を把握し,緊急性の高い場合には直ちに対策準備が行える

ように維持管理記録を保持することが大切である。

(1)について

処理場,ポンプ場の流入水量変動と降雨量の関連や,接続されている人口から推定され

る汚水量との関係を分析することにより,雨天時浸入水量や地下水浸入水量の把握に努め

る。

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(2)について

効率的な対策計画を立案するためには,既に実施された不明水対策の調査費や補修費な

どを記録し活用することが有効である。

(3)について

調査の結果,不明水量が多いと判断される地区について,施工年次や地形,地質,ある

いは施工の形態など,不明水の発生に関係する要因を抽出することで,以後の調査や対策

の計画を立案するための有効な情報を把握することができる場合がある。

8.3 運転管理における留意事項

雨天時の浸入水ついては,管路,ポンプ場および処理場等の下水道施設が効率的に

機能するよう運転管理方法を検討するとともに,降雨に備えた運転管理体制を備えて

おくことが重要である。

【解説】

雨天時浸入水に対する施設の運転にあたっては,機能向上対策として新たに設置する施

設や設備の運転操作方法や維持管理方法はもとより,降雨量,雨天時浸入水量,ポンプ場

や管路での水位等の相関性に関するデータを整理し,それぞれの下水道施設が効率的に機

能するように運転管理方法を検討しておく必要がある。

8.4 不明水対策実施における留意事項

不明水対策の実施にあたっては,必要な期間および費用等を勘案し,段階的な実施

計画を策定する。期間は,緊急性の高いものについては「緊急・短期対策」,それ以外

については「中・長期的対策」程度に分類して設定する。また,実施に至るまでの過

程や実施の必要性が判断できる根拠資料として,次に示す記録や解析結果等をまとめ

る。

(1) 維持管理記録

(2) 修繕記録

(3) 流出解析モデルによるシミュレーション結果等

【解説】

不明水削減対策は,広範囲にわたる調査や補修等に多大な時間と費用が必要であるため,

対策地区および対策内容に優先順位等を設定し,対策期間や費用をもとに段階的な実施計

画を検討することが大切である。また,実施の必要性を明確にするため,過年度の維持管

理記録や修繕記録,対策を講じた場合のシミュレーション結果等をまとめることが望まし

い。

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(1)について

維持管理記録を分析することにより,定量的あるいは定性的に不明水の特性を把握でき

る場合は,調査の方法や対策の手法など,実施計画の内容をより具体的に策定することが

できる。

(2)について

修繕記録(補修履歴)は,不明水対策の必要性を示す指標であるとともに,これから必

要となる事業費や期間を見積もるための重要な資料となる。

(3)について

溢水や人口蓋の飛散など,雨天時浸入水による深刻なトラブルが発生している場合は,

流出解析モデルによるシミュレーションを実施するなど,不明水対策の効果を評価するこ

とが必要である。

8.5 他計画との連携・調整

不明水対策の段階的実施計画の策定にあたっては,改築・修繕計画や地震対策計画

等との調整を図り,不明水対策事業としての実施期間の短縮や費用の軽減に努める。

【解説】

不明水対策は多大な時間と費用が必要となるため,中・長期的な実施計画においては,

改築・修繕計画や地震対策計画との連携・調整を図り,効果の早期発現と事業費の軽減に

努めることが望ましい。

不明水削減対策を実施する場合,その事業年次は数年から,場合によって十数年に渡る

場合があり,事業拠出額も大きなものとなる。

一方,図 8-1 から下水道管理費における拠出先の 7 割は過去に建設した下水道施設の起

債償還に当てられており,その財源は下水道使用料では賄いきれず,一般会計からの繰り

入れにより賄われている。

このことから,地方財政が依然厳しい状況下で,不明水対策を計画的に実施するための

事業費を,地方公共団体が単独で拠出していくことは非常に困難であり,事業実施にあた

っては,国庫補助対象事業を積極的に活用し,財政基盤の弱い地方公共団体においても,

不明水対策の実施が可能なようにすることが肝要である。

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下水道管理費

37,914億円

100%

起債元利

償還費

27,469億円

72%

維持管理費

8,698億円

23%

その他

1,747億円

5%

下水道管理費

37,914億円

100%

下水道

使用料

13,574億円

36%

地方公共団体

一般会計

18,305億円

48%

その他

6,035億円

16%

下水道管理費の拠出先内訳 下水道管理費の財源内訳

図 8-1 下水道管理費収支の内訳(平成 16 年度)

【参 考】

下水道管路施設の維持管理に関する国庫補助対象事業は,従前からの「下水道施設の改

築」に加え,「下水道施設の改築について」(平成 15.6.19)の 1 項※1,2 項※2に記されてい

るが,事務連絡「下水道施設の改築に関する運用について」(平成 15.6.19)に記された 1

項④「下水道施設の耐震化を行う場合」や 2 項の「維持管理費の大幅な軽減が見込まれる

等,ライフサイクルコストの観点から改築することが経済的である場合」も含め総合的に

可能性を検討する。また,平成 20 年度より,「下水道長寿命化支援制度」が創設されるこ

とから,これらの事業と連携し,内容の整合を図りながら推進することとする。「下水道長

寿命化支援制度」は,管路施設等の老朽化に伴い,日常生活や社会活動に重大な影響を及

ぼす事故発生や機能停止を未然に防止するため,限られた財源の中で,ライフサイクルコ

スト 小化の観点を踏まえ,耐震化等の機能向上も考慮した,長寿命化対策を含めた計画

的な改築を目的としたものである。本支援制度を活用することにより,ライフサイクルコ

ストの 小化を目的とした長寿命化計画(対策内容,対策時期など)の策定に要する経費

が補助対象となる。

※ 1 改築に際しての国庫補助の対象となる施設は,適正な維持管理が行われてきたことを前提として,別

表に定める「小分類」施設以上の規模に係る改築であり,かつ,当該施設が同表に定める年数を経過

していることとする。

※ 2 ただし,「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令」(昭和 30 年政令第 255 号)第 14

条の規定に基づき国土交通大臣が定める処分制限期間を経過した施設については,特殊な環境条件に

より機能維持が困難となった場合に限り国庫補助の対象とする。

-148-

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あとがき

本手引きのタイトルを決めるにあたり,今回の業務拡大部会では喧々諤々の議論が

ありました。といいますのは,長年,下水道施設設計を行う際のバイブルとされてい

る「下水道施設計画・設計指針と解説」には,「不明水」という専門用語はありません。

この指針の中で, も近い専門用語としては「地下水」ではないかと思います。

一方,コンサルタント業界や管路調査業界などでは,「不明水」という呼び名が一般

的になっており,下水道施設に流入する無収水量を議論する際に「地下水」という用

語の使用には違和感があります。

さらに海外では,EPA(米環境保護局)や WEF(米国水環境連盟)のマニュアルなど

に,I/I(Infiltration/Inflow)と呼ばれている専門用語があります。この I/I も「地

下水」とは少し異なると感じます。なぜなら,WEF マニュアルでは,管路施設への流入

形態から分類されており,浸入水と流入水に近い概念と考えられるからです。

実際,不明水を特定する際には,雨天時と晴天時に区分けし,汚水管路に流入する

不明水量を流量測定やポンプ場・処理場の運転データ収集などから把握します。さら

に,下水道経営においては,雨天時における増水と晴天時における無収水量の増加に

よる維持管理費のコストアップが問題となっています。

このような背景より,本手引きでは,不明水を「雨天時浸入水」,「地下水浸入水」,

「その他不明水」の総和と定義しました。

これからの下水道事業では,施設の新設や拡充よりも,既設における不明水にかか

わる調査・解析そして対策を講じていくことが多くなっていくと確信しております。

ゆえに編集に際しましては,本手引きが有効に活用されることを念頭に,次のポイン

トに重点をおきました。

① 不明水削減対策の本筋を,管きょ改築事業の中に位置づける。

② 不明水削減の具体的対策を緊急,中・長期など,段階的に取り組むべきであると

いう視点で構成。

③ 特に事業として取り組むには,費用便益比(B/C)が求められるので,費用効果分

析のケーススタデイを提示。

④ 不明水対策に関する多彩な調査,解析,対策事例を提示。

今後,建設からアセットマネージメントの時代に入り,下水道経営の視点からも不明

水対策は,避けて通れない課題になると思います。その対策を考える際に,本手引き

が我々コンサルタントエンジニアの参考になり,業務が拡大していけば幸いです。ま

た,設計指針に定義されていない「不明水」という用語に真正面からとらえた技術手

引書であり,それゆえ,個々のテーマで舌足らずのところもあると思います。そこで,

様々なテーマや業務に取り組まれている専門家の皆様の批評の対象となり,将来,手

引きからマニュアルや指針へと発展していくことを願います。

おわりに,本手引きを作成するにあたり,コンサルタント業界始まって以来の大変

忙しい時期に,通常のコンサルタント業務に従事しながら活発な議論と原稿作成に汗

をかいていただいた 15名の業務拡大部会委員と当を得た助言をいただいた技術委員会

の皆様に感謝いたします。

平成 20 年 3 月

業務拡大部会長 山﨑義広