災害事例 リスクアセスメント...2013/07/01 · 30 建設労務安全 25・7...
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建設労務安全 25・730
災害事例とリスクアセスメント
建設機械・クレーン等災害(その1)
労働安全コンサルタント
浮田 義明今月から、建設機械・クレーン等災害の事例を取り上げ、作業の陰に潜ん
でいる危険性を考えてみたいと思います。
建設業労働災害防止協会では、毎年のように建設現場における三大災害
(墜落・転落災害、建設機械・クレーン等災害、崩壊・倒壊災害)の防止を
呼び掛けています。このうち、建設機械・クレーン等災害については、機械
の高度化、高性能化が進むにつれて労働災害の発生も多発しており、現場の
条件に応じた災害防止対策の徹底が不可欠です。
建設現場における建設機械等に関連した災害について過去の災害を整理し
てみたところ、バックホー、高所作業車、転圧用ローラー、フォークリフト、
仮設用エレベーター、移動式クレーン(車載型含む)に関連する災害の発生
率が高いことが分かりました。
今月は、建設用機械等のうち、バックホー、タイヤローラー、クローラー
クレーンに関連して発生した災害を取り上げてみます。それぞれの機械の特
性から生ずる危険性を認識し、リスクアセスメントの情報として活用してい
ただきたいと思います。
本コーナーでは、不幸にして最悪の事態となってしまった事例を取り上げ、同様の作業を行った場合に、①まだほかにも考えられる危険性(ハザード)があるか、②どのような危害を受ける可能性があるか――などについて検討してみる。
Ⅰ.同種災害の防止策、Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント(例)に分けて、多様なリスクアセスメントの情報が収集できるように構成した。災害発生の防止を目的に実施しているリスクアセスメントの見直し、改善、あるいは安全衛生教育の資料として役立てていただきたい。� (編集部)
第16回
31 建設労務安全 25・7
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:オペレーター
年齢:64歳
経験年数:18年
請負次数:2次
集水桝の設置作業後、桝周辺の開口部を養生するため、
敷鉄板をミニバックホーでつり上げたところ、バラン
スが崩れて転倒。ミニバックホーと敷鉄板の間に挟ま
れた。
① ワイヤーが切断し、鉄板の下敷きになる
② 敷鉄板を設置する作業中、鉄板に足を挟まれる
③ バックホーで走行中、敷鉄板が持ち上がり足が挟まれる
④ 敷鉄板が荷振れを起こし、作業員に激突する
機械・クレーン事例 ① バックホーで敷鉄板をつり上げたところ、バランスを崩して転倒
建設労務安全 25・732
機械・クレーン
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:土工
年齢:25歳
経験年数:10ヵ月
請負次数:3次
アスファルト舗装工事中、転圧作業と並行して残材の
片づけを行っていたところ、バックしてきたタイヤ
ローラー(10t)に巻き込まれた。
① 運転席への昇降中、足を踏み外して転落する
② 停止中のタイヤローラーが逸走し、作業員に激突する
③ ローラーの付着物除去中に手が巻き込まれる
事例 ② アスファルト残材を片づけ中、転圧中のタイヤローラーに巻き込まれる
33 建設労務安全 25・7
機械・クレーン
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:電工
年齢:35歳
経験年数:17年
請負次数:2次
構台に設置してあった仮設照明の移設を行うため、50t
クローラクレーンの真横で作業を行っていたところ、
回転してきたクレーンのカウンターウェイトに押し出
されるように挟まれ、構台上から墜落した。
① クレーンがバランスを崩して転落する
② カウンターウェイトが手すりに接触し、崩壊、落下する
③ 後退したクレーンに作業員が巻き込まれる
事例 ③ クレーンのカウンターウェイトに接触し、墜落
建設労務安全 25・734
■ 建設機械・クレーン等災害防止の要点
今号から取り上げる建設機械(主に車両系建設機械)とクレーン等を使用する作業
を行う場合は、事前に計画の作成や、作業方法の決定を行わなければなりません。車
両系建設機械については労働安全衛生規則第155条で、作業計画の作成を義務づけて
おり、①使用する車両系建設機械の種類及び能力、②車両系建設機械の運行経路、③
車両系建設機械による作業の方法――を計画に盛り込まなくてはなりません。
また、移動式クレーンについては、転倒等による労働者の危険を防止するため、あ
らかじめ、当該作業に係る場所の広さ、地形及び地質の状態、運搬しようとする荷の
重量、使用する移動式クレーンの種類及び能力等を考慮して、①移動式クレーンによ
る作業の方法、②移動式クレーンの転倒を防止するための方法、③移動式クレーンに
よる作業に係る労働者の配置及び指揮の系統――を定めなければならないとしていま
す(クレーン等安全規則第66条の2)。
労働安全衛生法では機械の能力や作業条件等を考慮した上で、災害を防止するため
の作業の方法を定め、関係する労働者にこれら作業の方法を周知しなければならない
こととなっています。建設機械やクレーン等を使用する場合の災害を防止するために
は、まず「計画」と「事前打ち合わせ」が最大のポイントとなっているのですが、災
害が発生した背景には、これらのポイントが軽視されていた側面があったのではない
でしょうか。
【事例①】最近は、クレーン機能付きのバックホーを使用することが多くなってきてお
り、仮設用の敷鉄板を移動する作業も頻繁に行われています。
ただし、敷鉄板はサイズが小さいものでも重量が厚さによって800㎏〜910㎏程度
もあり、断面も大きいため、つり上げる際に荷振れを起こしてバランスを崩しやす
い資材です。特に旋回をする際には注意が必要であるため、クレーン付きバックホ
ーでの敷鉄板の移動作業は危険性がかなり高い作業といえます。
【事例②】アスファルト舗装工事に使用されるタイヤローラーは、前後に走行して転圧
を繰り返しますが、運転席からの死角が大きいため、作業中の危険性が高い建設機
械です。特に舗装工事は、作業員と近接する作業が多いため、徹底して機械と作業
員の作業エリアを分離する、または誘導者を配置し、ローラーの作業員への接近を
警告することを明確にした作業計画が必要となります。
【事例③】規模の大きい建設物を構築する際には、仮設の構台が計画され、限られたス
ペースの中でバックホー、ダンプトラック、移動式クレーン等を使用して作業が進
められます。多くの仮設構台は、幅員に余裕がないため作業員との近接作業を行う
には無理があり、どうしても合図者を配置しなければならないような場合は、構台
から離れた位置で無線を使用する、あるいは構台から張り出すように合図者専用の
設備を設けるなど、重機と作業員を完全に分離する措置を計画時点で検討しておく
必要があります。
Ⅰ.同種災害の防止策
35 建設労務安全 25・7
危険性又は有害性 可能性 重篤度 評価 優先度 リスクの低減措置事例①バックホーで敷鉄板をつり上げたところ、バランスを崩して転倒ワイヤーが切断し、鉄板の下敷きになる 4 10 14 ⑤ 重量に見合った玉掛けワイヤー
を選定し、作業前に点検を行う。敷鉄板を設置する作業中、鉄板に足を挟まれる 4 6 10 ④ 作業指揮者の下で作業を行い、皮
手袋、安全靴の着用を確認する。バックホーで走行中、敷鉄板が持ち上がり足が挟まれる
4 6 10 ④敷鉄板は、バタつきのないよう下地を整え、鉄板は溶接して固定する。
敷鉄板が荷振れを起こし、作業員に激突する 2 6 8 ③
敷鉄板に介しゃくロープを取り付けてから一旦地切りを行い、つり上げる。
事例②アスファルト残材を片づけ中、転圧中のタイヤローラーに巻き込まれる運転席への昇降中、足を踏み外して転落する 4 3 7 ② 立ち馬を使用して運転席への昇
降を行う。
停止中のタイヤローラーが逸走し、作業員に激突する 2 10 12 ④
作業休止中はエンジンを停止し、ローラーはキャンバーで輪止めする。
ローラーの付着物除去中に手が巻き込まれる 2 6 8 ③
転圧作業中は、誘導者を配置し、作業員をローラーに接近させないよう監視する。
事例③クレーンのカウンターウェイトに接触し、墜落クレーンがバランスを崩して転落する 2 10 12 ④ クレーンの前、後進時には、合
図者の誘導に従う。カウンターウェイトが手すりに接触し、崩壊、落下する
2 6 8 ③クレーンはカウンターウェイトの回転範囲に余裕を持たせて配置する。
後退したクレーンに作業員が巻き込まれる 4 10 14 ⑤ クレーンの稼働中は、構台への
立ち入り禁止措置を行う。
■ リスクアセスメントの実施例
今回の災害事例で紹介した現場には、その他の災害をもたらす可能性のある危険源は数
多く潜んでいます。考えられる主な危険性がもたらす災害の発生の可能性、災害の重篤度
の見積りを例示してみましたので、参考にしてください。
Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント
*可能性、重篤度の点数は、リスクアセスメントを担当する人によって異なりますので、あくまでも参考見積りです。
*優先度の決定の例判定基準
見積り 18 〜 14 13 〜 10 9 〜 8 7 〜 5 4 〜 2優先度 ⑤ ④ ③ ② ①
*可能性の判断基準の例災害発生の可能性の度合 評価基準
可能性が極めて高い 8可能性が高い 4可能性がある 2ほとんどない 1
*重篤度の判断基準の例災害の重篤度 評価基準
死亡 10重症(休業 1 ヵ月以上) 6休業災害(4日以上) 3軽傷(休業3〜0日) 1