第1 章 概要 - joi南連邦管区 ロストフ・ナ・ドヌー 58 万9,200 2,287 13...

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総論

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Page 1: 第1 章 概要 - JOI南連邦管区 ロストフ・ナ・ドヌー 58 万9,200 2,287 13 沿ヴォルガ連邦管区 ニジニノヴゴロド 103 万8,000 3,071 15 ウラル連邦管区

総論

Page 2: 第1 章 概要 - JOI南連邦管区 ロストフ・ナ・ドヌー 58 万9,200 2,287 13 沿ヴォルガ連邦管区 ニジニノヴゴロド 103 万8,000 3,071 15 ウラル連邦管区

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第 1章 概要 1.ロシア全土地図

ヨーロッパ部分

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アジア部分

(出所)EIU資料を基に作成

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2.ロシア基礎情報

ロシアは、アジアからヨーロッパにまたがる広大な領土を保有する連邦制共和国である。世界

一の広さを誇る領土には、ロシア人と多くの少数民族から構成される「帝国」型国家が形成され

ている。

国名 ロシア連邦(Russian Federation) 建国 1991年 12月 面積 約 1,707.5万㎢(日本の 46倍)その大部分はウラル産山脈以東が占める。 人口 1億 4,350万人(2005年1月現在)。人口の大部分はウラル山脈以西のヨー

ロッパ部に集中。 首都 モスクワ 民族 ロシア人が総人口の 79.8%と圧倒的多数を占め、残りを多くの少数民族が占

める多民族国家(ロシア人に次ぐのはタタール人で 3.8%、次いでウクライナ人 2.0%、バシキール人 1.1%、チュバシ人 1.1%等)

言語 100以上の言語があるが、ロシア語が公用語。 識字率 99.4%(15歳以上、2004年) 宗教 ・ ロシア正教(キリスト教の一派である東方正教会に属する宗派)が最も

優勢であるが、多民族国家を反映してイスラム教、仏教、ユダヤ教等多数の宗教が混在。

・ ロシア連邦憲法第 14 条は、「ロシア連邦は、世俗的国家である。いかなる宗教も、国家的または義務的なものとしてこれを定めることはできない」、また第 28 条では「各人は、良心の自由、信仰の自由を保障される。これらの自由には、個人として、もしくは他の人と共同で任意の宗教を信仰し、またいかなる宗教も信仰せず、宗教的およびその他の信条を自由に選択し、これを信じ、広め、自己の信条にしたがって行動する権利が含まれる。」とし、信教および布教の自由を認めている。

通貨単位 ソ連時代からの単位である「ルーブル(rouble)」を使用。2006 年末のレートは1ドル= 25.31ルーブル。1ルーブルは 100コペイカ。

日本との時差 モスクワは-6時間(夏季は-5時間)。全国で 11の時間帯に分かれている。 気候 典型的な大陸性気候で、短く冷涼な夏と長く続く厳冬の冬が特徴で、夏と冬

の気温差が激しい。ヨーロッパ部の1~2月の平均気温は-10度前後だが、シベリアでは-15~35度で、内陸部は-50度以下になるところもある。

(出所)各種資料を基に作成

3.政治制度

ロシアの政治制度は、大統領権限が強いことが特徴である。議会も大統領与党で占められてお

り、事実上の翼賛体制が続いている。

政体 共和制、連邦制(共和国や州等 88の構成主体からなる連邦国家) 元首 大統領(任期 4年、2期まで);プーチン、ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ(2000

年 5月就任) 立法 連邦院(上院)と国家院(下院)の二院からなるロシア連邦議会。

連邦院/上院(定数 178:連邦構成主体の行政府及び立法機関の代表各 1名)。 連邦院議長:ミロノフ, S.M. 国家院/下院(定数 450、任期 4年:小選挙区と比例代表選挙制により半数ずつ選出。ただし、次回 2007年 12月選挙より完全比例代表制へ移行)。 国家院議長:グルィズロフ, B.V.

行政 内閣 首相 フラトコフ、ミハイル・エフィーモヴィチ 第一副首相 メドヴェージェフ, D.A.

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第一副首相 イワノフ, S.B. 副首相 ジューコフ, A.D. 副首相 ナルィシキン, S.Ye.

司法 最高裁判所 レベジェフ、ビャチェスラフ・ミハイロヴィチ長官 主要政党 プーチン政権与党:統一ロシア党、自由民主党、公正ロシア党 野党:ロシア共

産党、ヤブロコ、右派連合 (出所)各種資料を基に作成

中央省庁は、図表 1-1のとおりで、外国直接投資全般は、ロシア連邦経済発展貿易省が管掌して

いる。下部機関として特別経済区管理局がある。

図表 1-1 中央省庁および中央銀行リスト(2007年 2月現在) 組織名 肩書き 氏名

ロシア連邦外務省 大臣 ラヴロフ, S.V. ロシア連邦国防省 大臣 セルジュコフ, A.E. ロシア連邦内務省 大臣 ヌルガリエフ, R. G.

ロシア連邦市民防衛・非常事態・天災復旧省 大臣 ショイグ, S.K. ロシア連邦司法省 大臣 ウスチノフ, V.V. ロシア連邦財務省 大臣 クドリン, A.L. ロシア連邦経済発展貿易省 大臣 グレフ, G.O. ロシア連邦産業エネルギー省 大臣 フリスチェンコ, V.B. ロシア連邦天然資源省 大臣 トルトネフ, Yu. P. ロシア連邦運輸省 大臣 レヴィチン, I.Ye. ロシア連邦情報技術・通信省 大臣 レイマン, L.D. ロシア連邦農業省 大臣 ゴルデーエフ, A.V. ロシア連邦教育・科学省 大臣 フルセンコ, A.A. ロシア連邦保健・社会発展省 大臣 ズラボフ, M.Yu. ロシア連邦文化・マスコミ省 大臣 ソコロフ, A.S.

ロシア連邦地域発展省(ロシア連邦地域問題民族政策省) 大臣 ヤコブレフ, V.A. ロシア連邦政府官房 大臣 ナルィシキン, S.Ye. ロシア連邦連邦保安局(ロシア連邦保安局) 大臣 パトルシェフ, N.P. ロシア中央銀行 総裁 イグナチエフ, S.M.

(注)網掛け省は大統領直轄。その他は政府管轄。

(出所)各種資料を基に作成

4.行政

ロシア連邦の地方自治制度における行政単位は、共和国 、地方、州 、自治州、自治管区 、と呼ばれる連邦構成体を基本とする(図表 1-2)。ロシア人以外の民族集団のエスニックな単位とし

ての「共和国」、「自治州」、「自治管区」があり(自治州と自治管区は、自治の程度で区別し

ていることになっているが、実際には人口規模で区別している)、それ以外のロシア人が絶対多

数を占める地域は「州」に分類し、辺境に位置しロシア人が絶対多数ながらも他民族が入り混じ

る地域を「地方」としている。 現在のロシア連邦にある 88の連邦構成体の内訳は、共和国 21、自治州 1、自治管区 9、地方 7、州 48となり、2大都市のモスクワとサンクトペテルブルグは州から独立した連邦直属の市となっている。

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連邦構成体の内部には、直轄市と地区(日本の市と郡に相当)があり、更に地区の下には、町

と、幾つかの農村集落からなる村ソビエト(議会)がある。

図表 1-2 ロシアの自治単位の概略

(出所)ニジェガローツキー・ドヴォール http://dvor.jp/city.htm

2000年 5月、中央集権体制強化を目指しロシア全土に7つの連邦管区が設置された(図表 1-3)。

この連邦管区は、国家権力の地方に対する統制、監視を強める国家行政構造の再編により創設さ

れたもので、①大統領の憲法上の全権限を確実に実行させる、②連邦の国家権力機関の活動の効

率化を図る、③国家権力の決定遂行に対する統制を強化する、という目的がある。

図表 1-3 ロシアの7連邦管区(2005年初め) 連邦管区 中心都市 面積(㎢) 人口(万人) 構成体数 中央連邦管区 モスクワ 67万 700 3,755 18 北西連邦管区 サンクトペテルブルグ 167万 7,900 1,373 11 南連邦管区 ロストフ・ナ・ドヌー 58万 9,200 2,287 13

沿ヴォルガ連邦管区 ニジニノヴゴロド 103万 8,000 3,071 15 ウラル連邦管区 エカテリンブルグ 178万 8,900 1,228 6 シベリア連邦管区 ノヴォシビルスク 511万 4,800 1,979 16 極東連邦管区 ハバロフスク 621万 5,900 659 10

(出所)ロシア連邦国家統計局

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図表 1-4 ロシア連邦構成体区分図

(出所)Wikipedia

中央連邦管区 沿ヴォルガ 連邦管区

南連邦管区

北西連邦管区

ウラル連邦管区

シベリア連邦管区

極東連邦管区

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5.歴史

(1) ロシア連邦成立まで

ロシアの歴史は 9世紀にノルマンの首長リューリックがキエフ公国(キエフ・ルーシ)を建国したことに始まる。ロシア連邦成立までは、革命前ロシアのツァーリ(君主)からソ連

時代の共産党書記長まで、強大な権力を掌握した独裁体制の歴史が続いた。

年月日 出来事 9世紀 ノルマンの首長リューリクがキエフ公国を建国。 13世紀 モンゴル帝国の支配下、キプチャク・ハーン国成立。モンゴル支配下の時代は

「タタールの軛」と呼ばれる。 13世紀後半 モスクワ大公国の成立。 1480年 イワン3世、キプチャク・ハーン国からの完全な独立を果たす。 1579年 エルマークのシベリア遠征始まる。 1613年 ロマノフ朝成立。 1712年 ピョートル 1世(大帝)が皇帝の称号をとる、ロシア帝国成立。 1904年 日露戦争 1917年 二月革命、十月革命 1922年 レーニン率いるボリシェビキがソビエト政権を樹立。 ~1991年 レーニン、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフ、アンドロポフ、チェルネ

ンコ、ゴルバチョフといった指導者が立った後、1991年 8月のクーデターにより共産党一党独裁体制は終焉を迎え、1991年 12月にソ連邦は崩壊。 CIS(独立国家共同体)発足にともない新生国家としてロシア連邦が成立。

(出所)各種資料を基に作成

(2) 1992年~現在の主な出来事

共産党独裁の社会主義体制ソ連崩壊により、1992年のロシア建国以降は、大統領への権力集中にもとづく非社会主義国家ロシアへの急速な体制転換が進んだ。

年月日 出来事 1992~1994年 エリツィン初代大統領、ガイダル首相代行の下、急進的改革が実施され経済

の自由化が進むが、それに伴う社会的コストが甚大化。 1995年 12月 急進的改革に対する国民の批判を反映し、議会下院選挙で共産党が第 1党に

躍進。 1997年7月 エリツィン大統領がかろうじて再選。 1998年8月 金融危機、デフォルト状態に陥る。 1999年 12月 連続テロ事件発生。政権側はロシアからの独立を目指すチェチェン過激派の

仕業と宣伝、チェチェンからの武装勢力の一掃を企図。エリツィン大統領、公認にプーチン首相(当時)を指名。

2000年3月 大統領選挙でプーチン氏、新大統領に選出。 2001年9月 9・11 事件でプーチン大統領が、G8 首脳としては最初にブッシュ米大統領

に哀悼の意を電話で伝える。ロシアの対米政策の転換点となる。 2002年5月 ロシアで米ロ首脳会談。 2002年 10月 チェチェン武装勢力によるモスクワの劇場占拠事件。人質 115人が救出のた

めの特殊ガスで死亡。

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2003年9月 米国で米ロ首脳会談が開催される。 2003年 10月 国内大手石油会社 YUKOS社長が脱税等の疑いで逮捕される。(「ユコス」

事件:ロシア最大の民間石油会社 YUKOSと創業者のホドロコフスキー社長が巨額の法人税と所得税を脱税したとされ、同氏が逮捕・収監された。プーチン政権による新興財閥の政治介入を阻止するために引き起こしたと見られ、西欧はロシアの民主主義に対する抑圧として懸念を表明した。)

2003年 12月 下院選挙でプーチン与党が大勝、共産党、改革派は共に惨敗。 2004年3月 大統領選挙でプーチン氏、再選を果たす。 2004年9月 北オセチア共和国ベスランで武装集団による学校占拠事件。治安部隊との間

での銃撃戦で 350人以上が死亡。 2005年 12月 安全保障会議で、プーチン大統領が「エネルギー安全保障」構想を打ち出す。 2006年7月 サンクトペテルブルグでG8が開催される。 (出所)各種資料を基に作成

第 2章 最近の政治・経済情勢

BOX: ロシア人の気質と特徴

ロシア人の気質と特徴として、しばしば以下のような点が指摘される。

● 世界最大の国土や豊富な天然資源、また第二次世界大戦での対ナチス・ドイツ勝利の歴史な

どから、大国意識を持つロシア人が多いと指摘される。米国に対しては、冷戦後の一極構造

に反発する一方で、豊かな大国として敬意を表すという相反する感情を抱いている。妥協は

弱さの表れと見られ、忌避される傾向があるともいわれる。

● ロシア人は、革命前から自らのアイデンティティーを求めて西欧圏とスラブ圏を行き来した

歴史がある。また、ヨーロッパの顔とアジアの顔、権威主義的傾向と民主的傾向など、二面

的な特徴が同居しているともいわれる。

● ロシア人は革命前の帝政時代から、カリスマ的な指導者を求める傾向がある。ツァーリ(帝

政時代)から、共産党書記長(ソ連時代)、大統領(現代ロシア)へと指導者の名称は変わ

っても、カリスマ的指導者を求める国民性は根強い。ロシアは「砂の社会」ゆえに、「固い

国家の枠」が必要になるとも言われている1。

● 多くのロシア人は週末の生活を重視している。毎週金曜日午後からは一斉にダーチャ(別荘

の意味だが、実際には家庭菜園を兼ねた都市近郊の木造小屋)へと繰り出し、市内での交通

渋滞が恒常的にみられる。

● ロシア人は商品化や商業化に比して、基礎研究や独創的研究には極めて高い能力を発揮する

といわれる。

___________________________ 1 ロシアの社会は、砂のようにまとまりがない性質を持っており、周りを板などで囲えば(つまり、社会主 義やロシア帝国主義といったイデオロギーまた強い指導者がいれば)、硬い一枚岩のように見えるが、囲 いが外れてしまうと、元のバラバラの砂になってしまう、ということを表している。 (青山学院大学 袴田茂樹教授著書を参考)

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1.ロシアの基本政策

(1) 政治

新生ロシアでは、旧共産党を中心とする守旧派と、共産主義から決別し西欧的民主主義を

目指す改革派とが権力闘争を繰り返し、政治・社会的に不安定な状態が長く続いた。ロシア

初代元首となったエリツィン大統領は旧体制の見直しに専念し、その過程で国家機能はかな

り低下し、新興財閥による権力の空白に乗じた国家資産横領が横行する一方で、国民生活は

窮乏化と社会の格差が広がった。議会では政争が続き、一貫した政策を遂行することは難し

い面があった。 プーチン大統領は、「強い国家」の建設を政策目標に掲げて、権力の集中化を進めてきた。

エリツィン時代の政治的混乱の要因となった議会、知事等の地方エリート、財閥等を抑え、

政治的安定を達成。2003年 12月の国家院(下院)選挙では与党「統一ロシア」が 3分の 2以上の議席を確保し、政治面での完全掌握を果たした。

2004 年 3 月の大統領選挙でも圧倒的多数の票を得て再選を果たしたプーチン大統領は、その後テロとの闘争を課題として一連の政治制度改革を提案、エリツィン時代になし崩し的

に分権化が進んだ地方の掌握に乗り出し、構成体首長などの直接選挙を廃し、大統領による

事実上の任命方式に変更する等の中央集権化を強めてきた。 プーチン大統領は、オイル・マネーにより潤沢化した国庫からの拠出により、保健、住宅、

教育、農業などの抜本的改善を進める一方で、エリツィン時代に大幅に自由化された言論・

マスコミ界への管理の見直しが進み、「主権民主主義」の名の下に、イデオロギー面での掌握

を進めている。 但し、内政問題の一つであるチェチェン問題については、プーチン政権は、チェチェン共

和国に親露政権を確立して情勢を正常化させるプロセスに着手したものの、事態を完全に掌

握するには、しばらく時間を要すると見られている。 プーチン大統領(任期は 2008年 5月まで)は、自らの三選を否定しており(憲法は三選を禁止している)、ポスト・プーチンに注目が集まる。これまでのところ、後任にはメドヴェージ

ェフ第一副首相及びイワノフ第一副首相が有力候補と見られている。 (2) 外交

図表 1-5 主要国との 2国間関係

米国 ・ 2001年の9・11同時多発テロを機に、悪化していた米国との関係の修復に乗り出す。「ユコス事件」などをめぐり一時的に対立する場面も見られたが、基本的には良好な関係が維持されてきた。しかし、米国が CIS諸国における民主勢力を支援し、他方ロシアがエネルギーを武器に CIS諸国に政治的圧力を強める中で両国の関係にも陰りが見られるようになる。

「強いロシア」の復活を国家目標とし、外交はその重要な手段と位置づけられている。経

済外交を重視し、世界経済システムへの統合、特にWTO早期加盟が当面の課題である。地 域としては、CIS が外交の最優先地域であるが、最近は欧米との協調路線を維持しつつ、中国、インドとの協調やアジア太平洋地域重視を打ち出している。また、中南米やアフリカ諸

国に対する外交も活発化している。 近隣諸国には、石油・ガスを梃子にエネルギー外交を展開しつつある。

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・ 2006年7月の首脳会談では、核テロとの闘い、原子力協力等に関する「共同声明」を採択したものの、8月にはロシアがイランに大量破壊兵器関連の装備・技術を輸出したとして露企業に対する経済制裁を実施するなど、個々のケースでは対立する場面も見られる。

・ 経済関係では、米国の対ロ投資が大幅に拡大するだけでなく、米ロ企業間でM&Aも活発に行われるなど、両国の関係は緊密さを増している。2006 年 11 月の首脳会談では、懸案のロシアのWTO加盟に向けた二国間交渉が妥結した。

EU ・ EUはロシアの第一の貿易相手であり、とりわけ石油・天然ガスの重要な需要先となっている。

・ 2003年5月の首脳会談では、今後のロシア・EU間の包括的な協力関係の枠組みとなる「四つの共通空間」(経済、自由・安全・司法、地域安全保障、文化・教育)の創設につき合意、また、2004年 5月にはロシアのWTO加盟に関する交渉が妥結するなど、ロシア・EU関係は良好に推移してきた。ただ、近年はロシアとCIS諸国との間での石油・ガス販売価格をめぐる交渉難航によって EUへの石油・ガス供給が不安定化していることから、EUにとってロシアは安定的なエネルギーの供給先ではなくなりつつある。

・ チェチェン問題、人権、民主化での溝は依然大きく、ロシアの EU 加盟は今のところ、遠い将来の可能性のひとつと見られている。

中国 ・ 中国とは、「戦略的パートナーシップ」の枠組みにおいて、2001年に「善隣友好協力条約」を締結、また 2004年には国境画定交渉が最終的に妥結するなど関係強化に努めている。

・ 2005年8月、初の中露共同軍事演習を実施するなど、軍事分野でも連携を強めている。

・ 経済関係面でも、両国間の貿易額が近年は毎年記録を更新するなど関係を強めている。一方で、ロシア極東部では、中国からの違法移民問題をめぐってロシア地元住民の間で先行きを懸念する声がある。

日本 ・ 政冷経熱の状態が続いている。「北方領土問題」は膠着状態にあり、最近はロシアの排他的経済水域での拿捕・銃撃事件の発生など、共に取り組む課題は少なくない。

・ 日露経済関係は、日本の主要自動車メーカーの現地進出、サハリン 1・2プロジェクトの紆余曲折はあるものの着実に進展、東シベリア・太平洋パイプラインの実現に向けた協力に関する協議、ロシアの WTO 加盟に関する日露二国間交渉の妥結(2005年 11月正式署名)等、拡大傾向にある。

CIS ・ ソ連解体後、ロシアを中心に地域的再統合を目指す。 ・ 軍事面では、1992年5月、アルメニア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン(一時、脱退したが、2006年6月に復帰)と「独立国家共同体集団安全保障条約」を軸に連携の強化を図る。

・ 経済統合の面では、90年代に経済同盟創設に向けた様々な試みがなされるが、ロシアの経済危機による求心力が弱まる状況で、実現までには至らなかった。ロシア経済の回復・成長を機に再び再統合の動きが復活し、2003年9月には CIS4カ国が「共通経済空間創設協定」を締結するが、その後、ウクライナに新欧米政権が誕生する中で、統合よりもロシアとの 2 国間での経済協力に重点が移動しつつある。エネルギーの供給をめぐっては考え方が一致しない場面も見られる。

(出所)外務省資料を基に作成

(3) 経済政策

ソ連時代において“社会主義的“市場経済を目指したゴルバチョフ改革(ペレストロイカ)

は、1991 年 8 月のクーデター事件で終焉を迎えた。その後、実質的に権力を掌握したロシア共和国のエリツィン大統領(当時)のイニシアティブの下にソ連は解体、各構成共和国は

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次々と独立し、独自の道を歩むことになった。 ソ連の中核を成していたロシアでは、IMF(国際通貨基金)などの支援・指導を受けた若い改革チームの下で、“社会主義とは決別した市場経済の導入(価格の自由化、私有化を中心とする)を目指す改革が、反対派の執拗な抵抗を排除しつつ実施された。その結果、経済の

歪みの調整がハイパーインフレの噴出となって現れる一方、社会主義時代は慢性的であった

物不足が解消し、通貨が流通・支払い手段として機能し始め、商業銀行や取引所などが次々

に生まれた。その後、インフレは収束、マクロ経済は安定化したものの、国家財政は赤字が

続き、それを国際金融機関からの借り入れや高利回りの短期国債を発行して補填するという

事態が生じた。1997 年に東アジアを襲った通貨危機は、98 年夏には、生まれたばかりのロシア金融市場を直撃、政争が続くロシアへの対応に苦慮する国際金融機関との間にも距離が

生まれ、ロシアは深刻な金融・経済危機に見舞われた。 2000 年 3 月、エリツィン氏から政権を禅譲され、テロ撲滅による国内の治安回復を掲げて大統領選で圧勝した旧 KGB 出身のプーチン氏は、強いロシアを標榜し、国家の再建に乗り出した。プーチン政権は、金融・経済危機に伴う通貨切り下げによる輸入代替効果と、原

油価格高騰に支えられた経済の上昇機運に助けられ、また政権に批判的なマスコミの事実上

の管理を行いながら、独自の改革に着手した。独自の改革とは、市場経済万能主義を排しつ

つ、「強い国家」の建設という目的に合致する範囲内で市場経済の要素を取り入れるとうい

うものであった。 プーチン政権の下で経済は回復に向かい、2000年に GDP(国内総生産)10%の成長を記録し、2005年には7年連続の経済成長を達成した。経済の好調さを背景に、2003年5月、プーチン大統領は向こう 10年間で GDPを倍増することを表明したものの、実現性は薄いと見られている。好調な経済実績によって、政策当局は、かつてのような IMF・世銀の勧告にもとづく自由経済化路線から移行し、国家の経済への介入を強めつつある。 ポスト・プーチン政権は、エネルギー依存構造から脱却して産業を多様化し、同時にロシ

アの戦略的企業の国際競争力強化することにより、経済を安定した成長軌道に乗せることが

課題であると見られている。 2.経済概況

(1) 最近の経済状況 マクロ経済指標は、1999年にプラス成長に転じた後、7年間連続で成長し続けている(図表 1-6)。成長の要因は、当初はルーブル切り下げによる輸入代替効果と遊休設備や余剰労

働力のフル利用、その後は世界的な価格高騰を背景とした好調な原油輸出とそれに支えられ

た内需拡大である。その結果、かつてない規模に外貨準備は拡大、旧ソ連時代の公的対外債

務のうち対パリクラブ債務(主要先進債権国会議(パリクラブ)対象債務。具体的には、債

権国の公的債権かつ債務国の公的債務を指す)をほぼ完済した。かつては、100%近かったインフレ率も劇的に収束に向かい、金融当局の通貨・信用政策も奏功し、近年は年率 10%程

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度を維持している。国家財政も、原油価格の高騰に助けられて 2000 年以降連続して黒字を記録している(図表 1-9)。2006年には、1991年の経済危機以前の発展水準まで回復したと見られる。

図表1-6 ロシアの主要経済指標 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 GDP(国内総生産) (名目、10億ルーブル) 2,630 4,823 7,306 8,944 10,831 13,243 17,008 21,665

(前年比実質増減率、%) 国内総生産 鉱工業生産 農業生産 固定資本投資 商品小売販売高 実質可処分所得 輸出1) 輸入1) インフレ率2)

▲5.3 ▲5.2 ▲13.2 ▲12.0 ▲3.2 ▲15.9 ▲14.3 ▲19.4

84.4

6.4 11.0 4.1 5.3

▲5.8 ▲12.4

1.5 ▲31.9

36.5

10.0 11.9 7.7

17.4 4.7

12.0 39.0 13.5 20.2

5.1 4.9 7.5

10.0 1.6 8.7 ▲3.0 19.8 18.6

4.7 3.7 1.5 2.8 3.7

11.1 5.3

13.4 15.1

7.3 7.0 1.3

12.5 6.7

15.1 26.7 24.8 12.0

7.1 6.1 1.6

10.9 7.0 8.4

34.8 28.0 11.7

6.4 4.0 2.0 9.9

10.5 8.8

33.9 28.5 10.9

(注)1)国際収支ベース。2)消費者物価、12月の前年同月比。 (出所)ロシア連邦国家統計局

図表1-7 ロシアの金・外貨準備高の推移 (年初、10億ドル)

2001 2002 2003 2004 2005 28.0 36.6 47.8 76.9 124.6

(出所)ロシア中央銀行(以下、図表1-8も同様)

図表1-8 ロシアの対外債務残高の推移 (年初、10億ドル) 2001 2002 2003 2004 2005 2006 債務総額 161.4 150.8 152.0 186.0 214.5 258.5

短期債務 長期債務

… …

30.7 120.1

25.6 126.4

36.0 150.0

36.1 178.4

43.8 214.7

国家債務 ロシア時代の債務 旧ソ連の債務 通貨・金融当局 銀行(出資を除く) 非金融機関(出資を除く)

127.5 60.0 66.3 …

9.3 21.8

113.2 51.0 61.2 …

13.6 24.0

96.5 39.8 55.7 7.5

14.2 33.8

98.2 38.6 58.3 7.8

24.9 55.1

97.4 39.6 56.1 8.2

32.4 65.5

71.4 35.6 34.5 11.0 50.0

112.6

図表1-9 ロシアの国家予算(統合予算)の推移 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 歳入 711.6 686.8 1,213.6 2,097.7 2,683.7 3,519.2 4,138.7 5,429.9 7,611.6 歳出 839.5 842.1 1,258.0 1,960.1 2,419.4 3,422.3 3,964.9 4,669.7 5,941.4 収支 ▲127.9 ▲155.3 ▲44.4 137.6 264.3 97.0 173.8 760.2 1,670.2 (注)1997年は兆旧ルーブル、1998 年以降はデノミ後の 10億新ルーブル

(出所)ロシア連邦国家統計局

(2) 経済見通し 今後のロシア経済は、引き続き石油ガスを中心としたエネルギーの生産・輸出が牽引して

いくものと見られており、政府はウラル原油平均価格の変動によりGDP成長率などが変化するいくつかのシナリオを設定している(図表1-10)。

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ロシア経済発展貿易省が発表している2015年までの成長見通しによれば、3つのシナリオのうち、最良のシナリオ(第3シナリオ)でも、実質GDP成長率は年平均6~6.8%であるため、当初プーチンが目標として掲げたGDPの倍増は困難と見られている。

図表1-10 2015年までのロシア経済成長見通し 見通し(年平均伸び率 %)

経済指標 シナリオ 06~08年 09~10年 11~15年

実質GDP成長率 1 2 3

5.6 5.8 6.0

5.1 6.0 6.2

4.9 6.7 6.8

鉱工業生産 1 2 3

3.9 4.6 4.6

3.9 5.2 5.3

3.6 5.6 5.6

固定資本投資 1 2 3

8.5 9.8 11.1

8.1 9.8 10.8

8.4 11.1 11.2

実質可処分所得 1 2 3

8.0 8.9 9.1

6.6 7.4 7.4

6.2 7.2 7.2

小売販売高 1 2 3

8.5 9.7 10.0

7.0 7.6 7.8

6.7 7.2 7.3

輸出 1 2 3

3.0 3.0 3.5

1.0 2.2 2.0

1.6 4.4 3.8

輸入 1 2 3

13.3 17.7 17.9

7.6 10.1 11.3

6.0 8.7 9.0

(出所)ロシア経済発展貿易省

図表 1-11 ロシアの経済成長の前提条件 見通し

経済指標

シナリオ 2006 2007 2008 2012 2015

ウラル原油価格 (ドル/バレル)

1、2 3

45 50

40 48

40 50

37 52

38.5 57

石油輸出量 (100万トン)

1 2、3

263 266

271 276

273 281

283 290-296

283 300-306

ガス輸出量 (10億㎥)

1 2、3

198 199

195 195

196 197

182 200-205

182 210-215

インフレ率 (年平均、%)

1、2、3

7-8.5

6-7.5

4-5.5

3-4

2-3

投資関連連邦予算支出比率(投資基金を含む) (対GDP比、%)

1 2 3

2.3 2.3 2.2

2.2 2.8 2.7

2.0 2.5 2.4

1.7 4.0 3.8

1.7 3.5 3.5

(注)シナリオ1:基本、シナリオ2:イノベーション進行、シナリオ3:イノベーション進行(石油価格の高止まりを伴う) (出所)ロシア経済発展貿易省「ロシア経済の長期成長予測」(2005年 12月) (3) 産業構造 1989~1991年のロシア経済は、財生産が6割以上を占め、鉱工業と農業の2部門だけで5割を超えるような産業構造であった。しかしながら、1994年以降はサービス生産が財生産を上回り、2004年には商業・外食産業が鉱工業に次ぐ21.3%となっている。1997年以降の産業

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構造のGDP構成比に占める推移は図表1-12のとおりであり、徐々にではあるがサービスが拡

大する傾向がみてとれる。 労働力構成も、サービス業に従事する人が51%超となっており、鉱工業従事者の比率は22%、農林業は11%程度である。

図表1-12 産業構造のGDP構成比推移 図表1-13 労働力構成(2004年)

(4) 貿易 ① 輸出入の推移

1998年の金融危機に前後して一時貿易は落ち込んでいたが、2000年辺りから、輸出を中心に回復し、2005年には、1995年実績の 2倍に達した。輸出増大の背景には、石油、天然ガスをはじめとする資源価格の高騰がある。

図表 1-14 ロシアの貿易動向

67,37982,419 89,685 86,895

74,444 75,551

105,033 101,884 107,301

135,929

183,207

243,569

50,452 62,603 68,092 71,983 58,015 39,537 44,862 53,764 60,966 76,07097,382

125,303

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

(100万ドル)

輸出

輸入

(出所)ロシア中央銀行HP

② 主要貿易品目

ロシアの輸出品は、石油・天然ガスを中心とした「鉱物製品」と鉄鋼、非鉄金属を中心と

する「金属、貴石、同製品」から主に構成されている。この 2品目で、輸出全体の 82%を占める。輸入品については、「機械設備、輸送手段」(主に自動車とそのパーツ)が全体の約

(出所)ロシア連邦国家統計局

7.6 5.8 6.5 6.8 6.7 6.3

28.1 29.5 31.7 28.8 26.9 29.2

8.6 7.17.2 8.2

6.0 6.0

12.411.0 9.0 10.0

10.6 10.0

14.4 19.023.4 23.0

21.7 21.3

28.9 27.622.2 23.2 28.1 27.2

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1997 1998 2000 2001 2003 2004

その他

商業・外食

運輸・通信

建設

鉱工業

農林水産業

運輸・通信8%

建設8%

農林業11%

サービス業51%

鉱工業22%

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図表 1-16 ロシアの主要貿易相手国 (上位 40カ国、2005年)

その他

フィンランド

米国 英国

スイス

ポーランド

トルコ

ベラルーシ

ウクライナ

中国

イタリア

オランダ

ドイツ

(出所)同上

4割を占め、残りの3割強を「食料品、農産物」と「化学品、ゴム」が占める。 全体的には、原材料輸出、完成品輸入の典型的な発展途上国型の貿易構造をなしている。

図表 1-15 ロシアの輸出構造

繊維、繊維製品、履物1%

食料品、農産物2%

木材、紙パルプ製品3%

皮革原料・同製品0%

機械、設備,輸送手段6%

その他1%

化学品、ゴム6%

金属、貴石、同製品17%

鉱物製品64%

輸出 輸入

(出所)ロシア連邦関税局『ロシア通関統計』(2005年年報)

③ 国別動向

ロシアの貿易取引先を大陸別でみると、ヨーロッパ(ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ

を含む)が総貿易高の約7割、アジア(中央アジアおよびコーカサス諸国を含む)が約 2.5割を占める。経済圏別でみると、EU諸国が約 53%、CIS諸国が約 15%、APEC諸国が 16.3%、OPEC諸国が 1.3%を占める。 国別では、図表 1-16のとおり、ド

イツ、オランダ、イタリア、中国、

ウクライナ、ベラルーシの順で、こ

の 6 カ国で主要貿易相手国 40 カ国のうちの約 4割を占める。ちなみに日本は 15番目の取引相手国である。

④ 日本との貿易

ロ日貿易は 1998年の金融危機によって減少ないし停滞状態が続いた後、2003年以降は日本からの自動車輸入が大幅に伸び、2005 年には貿易総額 100 億ドルの大台を超え、ソ連時代も含め史上最高額に達している(図表 1-17)。

鉱物製品3%

皮革原料、同製品0%

木材、紙パルプ製品3%

繊維、繊維製品、履物4%

その他4%

金属、貴石、同製品8%

化学品、ゴム17%

食料品、農産物18%

機械設備、輸送手段43%

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1990年代のロ日貿易は、大幅な出超傾向が続いていたが、2000年代前半の日本からの輸入の著しい拡大により、貿易バランスが改善されてきた。2005年の日本からの輸入を1とすると、輸出規模は 1.38であり、出超傾向に歯止めが掛かりつつあったが、2006年1~9 月では、ロシアの日本から輸入額がロシアの日本への輸出額を逆転し、入超となった。 2005 年のロシアの貿易額全体に占める日本のシェアは 2.82%で、このうちロシアの輸出全体に占める日本のシェアは 1.55%、ロシアの輸入に占める日本のシェアは 5.92%である。日本はロシアの貿易相手国として第 15 位を占めるが、日本側から見ると、日本の貿易相手国として 22番目となる。

図表 1-17 ロ日貿易の推移

1,170 1,025 1,015 969

481 571 718942

1,764

3,111

4,4854,763

3,949 4,018

2,892

3,756

4,592

3,874

3,277

4,218

5,694

6,205

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

(単位:100万ドル)

日本からの輸入 日本への輸出

(出所)日本財務省貿易統計を基に作成 日本との貿易品目は、輸入では機械機器が約9割を占めるが、中でも、乗用車は輸入全体の約6割を占める。近年は、中古の自動車の輸入が大幅に伸び、乗用車輸入のうちの実に35%が中古車で占められている。その多くは日本海側の港から輸出されたものである。 日本への輸出品目では、鉱物性燃料(石炭と原油)と金属・同製品(主に非鉄金属)がそ

れぞれ3割を占める。食料品、原料品がそれに次ぐが、その主な内容は、食料品がかになどの魚介類及び同調製品、原料品では木材である。非鉄金属に関しては市場価格の変動を受け

やすく、時には日本へ輸出額全体を左右することもある。なお、2001~2002年の対日輸出額の急減は、パラジウムの市場価格の暴落を反映したものと見られる。

図表 1-18 日本からの輸入構造(2005年) 図表 1-19 日本への輸出構造(2005年)

食料品1%

化学製品1%

金属・同製品2%

その他4%

機械機器92%

化学製品1%

非金属鉱物製品1%

その他2%

原材料13%

食料品18%

金属・同製品32%

鉱物性燃料33%

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(出所)日本財務省貿易統計を基に作成

3.外資受入状況

(1) 概況

ロシアの外国投資受入状況は、2005年には前年比32.4%増の536億5,100万ドルに達し、6年連続で前年を上回っただけでなく、1994年(統計調査開始)以降、最高額を更新した(図表1-20)。全体の約24.4%を占める直接投資も過去最高の130億7,200万ドルに達し、2005年末時点の外国投資受入残高は1,118億3,500万ドル(前年比33.1%増)となった。 ロシアの外資受入状況は拡大基調ではあるが、資金の中には1990年代に国外逃避したロシア国内資本が還流したものが小さくないと見られている。

図表1-20 ロシアの外国投資受入高の推移 (100万ドル、%)

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 シェア 受入総額 9,560 10,958 14,258 19,780 29,699 40,509 53,651 100

直接投資 4,260 4,429 3,980 4,002 6,781 9,420 13,072 24.4 資本金の出資 1,163 1,060 1,271 1,713 2,243 7,307 10,360 19.3 外国の共同出資者の融資 1,872 2,738 2,117 1,300 2,106 1,695 2,165 4.0 その他の直接投資 1,225 631 592 989 2,432 418 547 1.0 証券投資 31 145 451 472 401 333 453 0.8 株式・出資 27 72 329 283 369 302 328 0.6 長期の証券 2 72 105 129 32 31 125 0.2 その他投資 5,269 6,384 9,827 15,306 22,517 30,756 40,126 74.8 貿易金融 1,452 1,544 1,835 2,243 2,973 3,848 6,025 11.2 その他のクレジット 3,349 4,735 7,904 12,928 19,220 26,416 33,745 62.9 その他 468 105 88 135 324 492 356 0.7 (注)直接投資には、定款の10%以上をコントロールする投資を意味する。証券投資は、定款資本の10%

以下の経営権取得を目的としない投資を指す。 (出所)2004年までは、ロシア連邦国家統計局『ロシア統計年鑑』(各年)。2005年は、同『2006年1

月のロシアの社会・経済情勢』

(2) 主な投資国

主要投資国による各年の投資額は図表1-21、2005年末現在の投資国別受入残高は図表1-22のとおりである。主要投資国別にみると、キプロスや英領バージン諸島といったオフショア・

センターからの投資額が大きくなっているが、これはロシアから逃避した資本が還流したも

の、税制面でのメリットを活用して資金が同地経由で流入しているものが主であると考えら

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れる。 米国、ドイツは1990年代から積極的にロシアに進出してきたが、最近(2001年以降)はキプロス、ドイツ、英国が上位を占めるようになっており、米国からの投資にやや陰りがみら

れる。ドイツ、英国は主としてエネルギーセクターへの投資、米国は機械製造(自動車関連

パーツ、通信、石油ガス関連設備、製薬、医療機器等)への投資が多いと見られる。 直接投資残高で最も大きなシェアを占めるオランダ(32.4%)は、プロジェクト関連投資が多く(2004年、2005年はロイヤル・ダッチシェルのサハリンプロジェクト投資)、その他、食品加工等のロシア消費財市場を対象とする製造業投資なども多少みられる。 図表1-21 主要投資国によるロシアへの投資額の推移(2005年の投資額が多い順)(100万ドル)

2001 2002 2003 2004 2005 シェア 受入総額 14,258 19,780 29,699 40,509 53,651 100.0

1.ルクセンブルグ 146 1,258 2,166 8,431 13,841 25.8 2.オランダ 1,249 1,168 1,743 5,107 8,898 16.6 3.英国 1,553 2,271 4,620 6,988 8,588 16.0 4.キプロス 2,331 2,327 4,203 5,473 5,115 9.5 5.ドイツ 1,237 4,001 4,305 1,733 3,010 5.6 6.スイス 1,341 1,349 1,068 15,58 2,014 3.8 7.米国 1,604 1,133 1,125 1,850 1,554 2.9 8.フランス 1,201 1,184 3,712 2,332 1,428 2.7 9.英領バージン諸島 604 1,307 1,452 805 1,211 2.3 10.バハマ諸島 - - - - 730 1.4 -.日本 408 441 1,005 153 165 0.3 -.オーストリア 423 376 394 811 - - -.スウェーデン 72 139 233 - - - (出所)図表1-20に同じ。但し2004~2005年の日本のデータはロシア連邦国家統計局より入手

図表1-22 主要投資国によるロシアへの投資残高(2005年12月31日現在) 受入額 直接投資 100万ドル 構成比(%) 100万ドル 構成比(%)

証券投資

その他投資

投資受入残高合計 111,835 100 49,751 100 1,903 60,181 1.ルクセンブルク 20,984 18.8 451 0.9 1 20,532 2.キプロス 19,279 17.2 13,915 28.0 883 4,481 3.オランダ 18,909 16.9 16,125 32.4 31 2,753 4.英国 12,752 11.4 2,044 4.1 144 10,564 5.ドイツ 9,726 8.7 2,714 5.5 29 6,983 6.米国 6,844 6.1 4,361 8.8 404 2,079 7.フランス 3,918 3.5 905 1.8 0 3,013 8.英領バージン諸島 2,463 2.2 1,200 2.4 61 1,202 9.スイス 2,364 2.1 1,128 2.3 85 1,151 10.バハマ諸島 1,975 1.8 649 1.3 2 1,324 -.日本 567 0.5 175 0.4 1 392 (出所)ロシア連邦国家統計局『2006年1月のロシアの社会・経済情勢』ほか ロシア統計局によれば、2005年の日本によるロシアへの投資額は1億6,521万ドルで、2005年の日本の順位は22位(ロシアの外資受入総額に占める日本のシェアは0.3%)である。2005年末現在の日本からロシアへの投資残高は5億6,708万ドル、全体に占めるシェアは0.5%(うち直接投資は0.4%)と統計上は比較的低い水準に留まっている。実際には日本の対ロシア投資には、サハリン・プロジェクトをはじめとして一定の実績があるものの、例えばサハリン

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のケースのようにオランダなどの第3国経由の投資は、統計上日本の投資実績として計上されていない点には留意が必要である。

(3) 産業部門別の投資受入状況

外資のロシア向け直接投資を産業部門別にみると、石油ガス等の豊富なエネルギー資源産

業に着目した投資、研究開発面での人材に着目した開発拠点設立、国内消費市場に注目した

投資(自動車、家電、食品産業など)に大別される。 ロシアの外国投資受入額(証券投資、その他投資を含む)の産業部門別内訳をみると、2005年末現在の受入残高で、シェアが大きいのは、製造業(31.0%)、卸売・小売および自動車・生活用品修理(25.4%、特に卸売が23.7%)、鉱業(19.4%、特にエネルギー資源採掘が17.4%)などである。なお、「卸売」と分類されているものは、実際にはエネルギー部門への投資が多

い模様である。直接投資についてはストックベースの数字の公表はないが、鉱工業関連では、

エネルギー資源採掘(29.9%)、食品(4.2%)が多くなっており、累計でみてもこの2分野への投資が多いと予想される。サービス業関係では卸売(4.9%)、不動産、賃貸、ビジネスサービス(7.1%)などへの投資が多い。

図表1-23 ロシアの産業部門別の外国投資受入状況(100万ドル)

2005年(フローベース) 2005年末(ストックベース)

総額 直接 投資

% 証券投資

その他 投資

残高(額) %

全産業部門 53,651 13,072 453 40,126 111,835 農業、狩猟、林業 156 118 0.9 0 38 645 0.6 漁業 22 1 0.0 0 21 147 0.1 鉱業 6,003 4,012 30.7 47 1,944 21,660 19.4 エネルギー資源採掘 5,164 3,913 29.9 47 1,204 19,487 17.4 エネルギー資源以外 839 99 0.8 0 740 2,173 1.9 製造業 17,987 6,028 46.1 122 11,837 34,653 31.0 食品、飲料、タバコ 1,210 550 4.2 18 642 4,851 4.3 繊維、縫製 20 19 0.1 - 1 121 0.1 皮革・同製品、製靴 13 10 0.1 - 3 27 0.0 木材加工・同製品 512 329 2.5 0 183 1,519 1.4 紙パルプ、出版・印刷 269 95 0.7 23 151 681 0.6 化学工業 1,440 229 1.8 40 1,171 1,486 1.3 ゴム・プラスチック製品 264 154 1.2 1 109 582 0.5 その他の非金属鉱物製品 640 397 3.0 2 241 1,662 1.5 冶金、完成金属製品 3,420 173 1.3 8 3,239 10,492 9.4 電気・電子機器、光学機器 162 71 0.5 2 89 415 0.4 輸送機器 948 217 1.7 0 731 1,531 1.4 電力・ガス・水の生産と供給 328 149 1.1 137 42 644 0.6 発電・送電・配電 281 149 1.1 121 11 556 0.5 建設 228 117 0.9 9 102 822 0.7 卸売・小売、自動車・生活用品修理 20,461 767 5.9 1 19,693 28,373 25.4 自動車販売・サービス・修理 219 13 0.1 - 206 310 0.3 卸売 19,574 636 4.9 1 18,937 26,453 23.7

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小売、生活用品修理 668 118 0.9 0 550 1,610 1.4 ホテル・レストラン 52 21 0.2 - 31 430 0.4 運輸・通信 3,840 245 1.9 11 3,584 9,918 8.9 通信 3,287 54 0.4 6 3,227 6,505 5.8 金融業 1,813 589 4.5 100 1,124 5,612 5.0 不動産、賃貸、ビジネスサービス 2,602 930 7.1 26 1,646 8,329 7.4 公務、国防、強制社会保障 0 0 0.0 - - 101 0.1 教育 0 0 0.0 - 0 2 0.0 保健、社会事業 15 12 0.1 - 3 34 0.0 その他の公営・社会・個人サービス 144 83 0.6 - 61 465 0.4 (出所)ロシア連邦国家統計局『2006年1月のロシアの社会・経済情勢』

(4) 地域別の投資受入状況 地域別の外国投資受入額(証券投資、その他投資を含む)を、1998年~2005年のフローを足し合わせた数字でみると1、モスクワ市が圧倒的に大きく全体に占めるシェアは43%、次いでチュメニ州(同7%)、サハリン州(同7%)となっている。2005年のフローでみても、モスクワ市(同47.0%)、オムスク州(同9.6%)、サハリン州(同9.1%)、チュメニ州(同6.4%)とほぼ同じような傾向がみられる。モスクワ市の受入が全体の半分近いシェアを占めている

が、モスクワの本社や銀行口座に投資された資金が地方の支社や工場に流れていくケースも

あるため、必ずしもすべてがモスクワに投資されているとは限らない。 チュメニ州、サハリン州、オムスク州は、エネルギー関連投資が多い地域2であり、いわゆ

る製造業の進出先としては、モスクワ州、サンクトペテルブルグ市などが比較的多い地域で

あるといえる(図表1-24)。

図表1-24 ロシアの地域別の直接投資割合

ストックベース(1998年~2005年) フローベース(2005年)

1 ロシア連邦国家統計局では、各年のフローの数字は公表しているが、ストックの数字は公表していない。そのため、ここでは 1998年以降のフローの数字を足し合わせて、ストックの数字として紹介する。 2 チュメニ州は西シベリアに位置し、世界の石油・ガス生産の一大拠点。サハリン州は漁業・水産加工や石炭・石油・天然ガスの採掘などが主要産業。オムスク州は、シベリアに位置し、石油精

製、石油化学工業が発達している。(出所)ロシア地域要覧 2006~2007、ロシア東欧貿易会(現ロシアNIS貿易会、以下同様)

チュメニ州7%

サハリン州7%

オムスク州7%

モスクワ州4%

サンクトペテルブルグ市4%

スヴェルドロフスク州3%

チェリャビンスク州3%

クラスノダル地方2%

サマラ州2%

その他18%

モスクワ市43%

サハリン州9%

チュメニ州6%

モスクワ州5%

サンクトペテルブルグ市3%

スヴェルドロフスク州2%

サマラ州2%

チェリャビンスク州2%

サハ共和国1%

その他13%

オムスク州10%

モスクワ市47%

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(参考) ロシア連邦構成体区分図

(出所)Wikipedia

(5) 日本からロシアへの直接投資動向

日本からロシア向けの直接投資動向を財務省統計を元にみると、件数、金額ともに非常に

少なく、2005年度の実績で世界全体に占めるシェアはわずか 0.1%に留まっている。 日本からロシアへの投資は、ソ連解体直後に“ペレストロイカ改革ブーム”と日本の“バ

ブル経済末期”が重なり第一次ブームが起こった。投資ブームは図表 1-25に見られるとおり

(出所)ロシア連邦国家統計局

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繊維1%

建設業2%

鉄・非鉄1%

電機1%機械

2%

その他2%

化学2%

金融・保険3%

輸送機1%

サービス業9%

不動産業10%

運輸業10% 漁・水産業

10%

商業28%

木材・パルプ18%

図表 1-26 日本からロシアへの業種別 直接投資件数構成(1991-2004年度)

1992年にピークに達し、日本からの投資額は、33件、57億円に達した。その後、ソ連解体後の混乱と日本経済のバブル破綻が重なり、日本からの投資は激減。また、日ロの合弁企業

で、ロシア側パートナーによる収用などの様々な問題が重なったこともあり、日本企業の対

ロシアのイメージは悪化、結果的にロシア向け投資も低迷した。1998年のロシア金融危機の影響もあり、2000年、2001年にはわずか 2件 2億円、2件 4億円に留まった。 第 2次ピークは 2004年であり、ロシア経済の回復およびロシア市場に対する関心の高まりに伴い、日本からの投資も増加した。2005年以降は、トヨタ自動車や日産の投資の影響もあり、増加傾向が明確化している。

図表 1-25 日本の対ロシア直接投資実績

3

57

26

20

29

20

1216

8

24

27

8

54

3

33

14

53

65

43

12 2

3

6

0

10

20

30

40

50

60

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

(1億円)

0

5

10

15

20

25

30

35(件)

投資額(左軸、斜字)

投資件数(右軸)

(注)1,000万円以下の投資は含まない。 (出所)財務省ホームページ(http://www.mof.go.jp/fdi/sankou01.xls)を元に作成

業種でみると、商業、木材加工、漁水産業など

が多く、それぞれ 28%、18%、10%を占めており、それだけで 6割弱に達する。 機械産業部門等への製造業投資は殆ど見られ

なかったが、トヨタ自動車、日産などの大手自

動車会社の進出により、関係企業の進出がみら

れることから、日本からの投資傾向もこれまで

とは変化の兆しが見られる。

図表1-27 日本企業の主なロシア進出事例(駐在員事務所を除く)

(合弁、100%出資、委託生産など)

進出年 進出した日本企業 (カッコ内は出資比率) 進出地 概 要

1987(1) 大陸貿易(49) イルクーツク州 イルクーツク州(51)と日ソ合弁企業第1号「イギルマ大陸」を設立。住宅用木材の製造。

(出所)財務省ホームページ

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1988(1) プロコ・エアサービス

モスクワ州 シェレメチェヴォ空港

アエロフロートと「Aeroservice」を設立。その後、アエロフロート・ロシア航空、ルフトハンザ航空との合弁会社「Airport Moskau」に再編。航空機ハンドリング、保税倉庫、航空貨物代理店等。

1989(1) 日ソ貿易(57) モスクワ市 露日友好文化会館(11.4)等と「Olympia」を設立。1991年にはレストラン「さっぽろ」を開業。

豊田通商(92) モスクワ市 合弁企業「Business Car」を設立。自動車・同部品販売、レンタカー業。

ニチメン(31) ハバロフスク地方

ダリレスプロム(52)、デカストリ伐採局(17)と「Somon」を設立。木材加工事業。

日ソ貿易(50) モスクワ市 ロシアホテル食堂コンビナート(40)等と「Ron」を設立。レストラン経営。

1990(4)

中田屋 太源 エイワ通商等

ハバロフスク市 ハバロフスク地方政府(60)と「Vostokmetal」を設立。アルミの2次合金(スクラップ)の製造販売・輸出。

大陸貿易(100) ハバロフスク州 ソビエツカヤ・ガワニ市

ワニノ林業コンビナートと「ワニノ大陸」を設立。北洋材の積出港として知られるワニノ港から40kmの位置にあるソフガワニに工場を構え、1993年に操業開始。2000年1月に100%子会社化。2001年からは集成材の生産を開始。

田島木材(30) 三井物産(19)

イルクーツク州 スヴィルスク市

ロシア国有資産省(51)と「TM-Baikal」を設立。シベリア産アカマツを中心に製材を日本市場向けに供給。現在はイルクーツクレスプロムが51%を保有。2001年10月には乾燥設備を導入し、乾燥材の出荷を開始。

大伸水産(33) ウラジオストク市

ダリモレプロダクト(67)と「DDSジャパン」を設立。エビ、カニの一時加工品の対日輸出。

ユーラシア投資環境整備(33)

ハバロフスク市 極東テレビラジオ会社(67)と「Inter Media Service」を設立。通信を含む各種のビジネス・サービス。

日ソ貿易(50) モスクワ市 合弁「Mosta」を設立。日本の最新歯科治療設備を備えた歯科医院の経営。

伏木海陸運送(32) サハリン州 ホルムスク市

サハリン船舶公団(68)と「トラスコ社」を設立。日本製中古車の販売・修理。

1991(7)

伏木海陸運送(33) ナホトカ市 ダリラダ(34)、ヴォストーチヌィ港(33)と「Vostok Auto Service」を設立。自動車の販売・修理。

応用地質(米国法人) 蝶理

バシコルトスタン

共和国ウファ市 Geophyspriborと「Oyo-Geo Impulse」を設立。石油探査用のジオフォン・地震計の製造・販売。

ベオルナ東京(100) カリニングラード州

「バルチカ・ベオルナ」を設立。琥珀、鼈甲等の対日輸出。

西洋環境開発 ウラジオストク市

アクフェスと「アクフェス西洋」を設立。ホテル、自動車販売、旅行業。1993年に「ホテル・アクフェス西洋」を開業。

西洋環境開発 モスクワ市 モスインラスチョトと「Moskva Seiyo」を設立。オフィスビル、住宅、レストラン、商業施設、スポーツ施設の建設・運営。

1992(9)

豊田通商(100) ナホトカ市 ダリイントルグと「Dittola」を設立。2001年にはロシア側持分を買収し、社名を「豊田通商ボストークオート」に変更。車両および車両部品の販売。

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日ソ貿易(40) モスクワ市 合弁企業「Japro」を設立。1993年に日本食を中心に提供する「ジャプロ・ショップ」を開業。

日ソ貿易 モスクワ市 「NB-Coop」を設立。心電計や超音波診断装置等の医療機器を輸入・販売。

日ソ貿易 モスクワ市 「Jaguar-EM-Coop」を設立。ロシア国内でのジャガーミシンなど家庭用ミシン、その他雑貨の輸入・販売。

JT モスクワ市 子 会 社 JTI ( 100 ) が 「 JT International Marketing & Sales」を設立。たばこ事業。

日本海インベスト(31)

ウラジオストク市

極東船舶会社(59)、沿海地方政府(10)と「ヴェルサイユ」を設立。市中心部のホテル「ヴェルサイユ」ほか、レストラン、カジノを経営。

ユーラシア投資環境整備(50)

ウラジオストク市

ウラジオストク航空株式会社(50)と「Terminal」を設立。国際空港ターミナルの建設。

伊藤忠商事(100) モスクワ市 「AIST Automobile」を設立。自動車の輸入・販売。

オリンパス(100) モスクワ市 「Olympus Moscow」を設立。内視鏡の販売・サービス。

日商岩井(37.5) KDDI(37.5)

ウラジオストク市

インテルダリ・テレコム(25)と「Vostoktelecom」を設立。国際通信サービス。

丸紅(100) モスクワ市 「Marubeni Auto and Construction Machinery Russia」を設立。日産製車輌および部品・アクセサリーの輸入・卸売・販売およびその代行、CIS諸国向けの建設機械販売。

丸紅(20) モスクワ市 欧州子会社Marubeni Europe PLC(80)と「Fujifilm RU」を設立。富士写真フィルム写真関連商品、X-RAY、映画フィルム等の輸入・販売。

1993(8)

住友商事(100) ウラジオストク市

アクフュスと「Summit Motors Vladivostok」を設立。1999年にロシア側持分を買収。トヨタ車および部品の輸入・販売・メンテナンス。

大日本インキ化学工業

モスクワ市 米国子会社サン・ケミカルがロシア第2のインキメーカー「Moscow Printing Inks」を買収。

イスクラ産業(100) モスクワ市 「Iskra Medical Corporation」を設立。医療機器の輸入販売。

1994(3)

東京テアトル等 モスクワ市 「Savvinskaya-Seiyo」を設立。オフィスビル経営。

大陸貿易(100) モスクワ市 「大陸モスクワ」を設立。貿易・販売・仲立業務。 日ソ貿易 モスクワ市 「オチャコボ・モータース」を設立。日産自動車

のオフィシャル・ディーラーとして、販売・アフターサービスを提供。

JT リペツク州 エレツ市

子会社JTI(100)がRJRより「Yelets」を買収し、「JTI Yelets」を設立。たばこ事業。

近鉄エクスプレス モスクワ市 米国法人KWE( 100)が「Kintetsu World Express Russia」を設立。航空・海上貨物代理店業、通関代理店業。

1995(5)

三菱商事(100) モスクワ市 「MC Electronics Sales 」を設立。家電事務機器の販売代理業。

日本インベストメント・ファイナンス

ウラジオストク市

アルミサッシ・メーカー「プロムアクフェス」に120万ドル出資。

1996(3)

住友商事(46) セブン工業(8)

沿海地方 プラストゥン

テルネイレス(46)と「STS Technowood」を設立。住宅用資材(針葉樹の集成材加工)の製造、日本向け輸出。

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山之内製薬 モスクワ市 欧州子会社(100)が「Yamanouchi Pharma」を設立。医薬品等を販売。

日本電気(45) 三井物産(10) 住友商事(10)

サンクトペテルブルグ市

Telecominvest ( 35 ) と 「 NEC Neva Communications Systems」を設立。電話交換機の製造・販売、伝送および無線通信機器のエンジニアリング。

三井物産(50) リコー(50)

モスクワ市 「Mitsui-Ricoh CIS」を設立。リコー社製事務機器および消耗品の販売・保守。

旭ガラス ニジェゴロド州 ボル市

ベルギー子会社グラバーベルが「Bor Glass Works」に2,000万ドルを出資。出資比率26%で筆頭株主。フロートガラス、建設用ガラス、自動車用加工ガラス等の製造・販売。

住友商事(100) モスクワ市 「Sumitrade」を設立。化学品、家電等のロシア国内取引会社。

横河電機(100) モスクワ市 「Yokogawa Electric」を設立。計測制御機器の販売、エンジニアリング・サービス。

日立製作所 ノヴゴロド州 クヴァント社において家電のKD委託生産を開始。

ノーリツ鋼機(100) モスクワ市 「Noritsu Russia」を設立。写真処理機器の販売およびアフターサービス。

カウボーイ(100) ユジノサハリンスク市

「Sakhalin Cowboy」を設立。1998年に海外初の店舗「Sakhalin Cowboy」を開業。輸入雑貨・衣料の小売、不動産賃貸業。

1997 (9)

東芝 モスクワ市 欧州子会社Toshiba Medical Systems Europe(100)が「Toshiba Medical Systems」を設立。画像診断機器および付属品の据付・サービス。

日立製作所(51) サンクトペテルブルグ市

スベトラーナ社等と「Hitachi Svetlana Power Electronics」を設立。パワー半導体、絶縁型バイポーラ・トランジスタの生産等。

味の素(100) モスクワ市 ロシアの国立研究機関「ジェネチカ研究所」と研究合弁会社、「Ajinomoto-Genetika Research Institute(AGRI)」を設立。出資比率は味の素(75)、ジェネチカ研究所(25)だったが、2003年に同研究所の全株式を購入。

コマツ(50) イワノヴォ州 イワノヴォ市

クラネクス(50)と「KRANEKS International」を設立。クラネクス社製建機用部品・素材の製造販

売。 松下電器産業 モスクワ市 フィンランドの子会社、Panasonic CIS Oy(100)

が「Panasonic Engineering CIS」を設立。サービス全般、補修部品の販売、ソフトウェア開発。

SMC サンクトペテルブルグ市

ドイツ子会社、SMC Pneumatik GmbH(100)が「SMC Pneumatik LLC」を設立。空気圧機器の販売。

東洋エンジニアリング(100)

モスクワ市 「Techem」を設立。石油化学工場等への技術導入における技術提供およびコンサルティング。

日本インベストメント・ファイナンス

ナホトカ市 ナホトカ食肉コンビナートに150万ドルを出資。

1998 (8)

日本インベストメント・ファイナンス

沿海地方 ウスリースク市

ウスリースク乳製品工場に70万ドルを出資。

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みちのく銀行(100) モスクワ市 「Michinoku Bank Moscow」を設立。邦銀としては初めて(外国銀行では20番目)の進出。2002年8月にはユジノサハリンスク支店、2003年7月にはハバロフスク支店が、それぞれロシア連邦中央銀行より認可を得て営業を開始。

ブリヂストン(100) モスクワ市 「ブリヂストンCIS」を設立。タイヤ販売・サービス。

JT サンクトペテルブルグ市

子会社JTI(100)が「Petro」を設立。たばこ事業。

フジクラ(26) モスクワ市 モスカーベルメットと「モスカーベル・フジクラ」を設立。光ファイバーケーブルの製造・販売。

1999 (5)

Vatora Japan(100) ノヴォシビルスク州ノヴォシビルスク市

1993年に開設した札幌モーター海外事業部のノヴォシビルスク支店をロシア法人「Sapporo Trading Co.」として独立。日ロ間の総合商品の輸出入等。

住友商事(40) セブン工業(4.4)

沿海地方 プラストゥン

テルネイレス(55.6)と「PTS Hardwood」を設立。住宅用資材の製造(広葉樹の集成材加工)、日本向け輸出。

2000 (2)

日商岩井(51) モスクワ市 U-Service(24.5)等と「Subaru Motor LLC」を設立。ロシアにおけるスバル車輸入総代理店。

稚内建設協会 サハリン州 コルサコフ市

SU408、コルサコフ市財産管理委員会と「ワッコル」を設立。建設業。

2001 (2)

トヨタ自動車(70) 豊田通商(30)

モスクワ市 「ロシアトヨタ有限会社(TMR)」を設立。トヨタ車の販売・サービス業務。

YKK モスクワ市 YKK Holding Europe(99.9)とYKK Europe(0.1)が「YKK Russia」を設立。ファスナーおよび関連部品の輸出入・製造・販売。

マルナカインターナショナル(100)

モスクワ市 「Orientpro」を設立。日ロビジネスサービス、化粧品代理店。

ニチメン(100) モスクワ市 「Russia Nichimen」を設立。輸出入、国内取引、3国間取引、事業投資等。

2002 (4)

タイガーオークション

ハバロフスク州 コ ム ソ モ リ ス

ク・ナ・アムーレ

「Tiger Amur」を設立。ロシア沿海州、サハリンへの建設機械の販売。ロシアにおけるいすゞ自動車の販売代理店として、同社製大型トラックの広販。

東芝(100) モスクワ市 「Toshiba Digital Media Network CIS」を設立。東芝製品の部品および付属品の輸入。

マキタ モスクワ市 欧州統轄会社、Makita International Europe Ltd.(99)とフィンランド販売会社、マキタOy(1)が「Makita Russia」を設立。電動工具等の修理、部品・アクセサリーの販売。

日ソ貿易 モスクワ市 「Fukuda Denshi Russia」を設立。フクダ電子を中心とする医療機器の販売・アフターサービス。

ビー・エム・エフ(51)

ウラジオストク市

ズナクオイル(49)と「Nippon Auto Co., Ltd.」を設立。ホンダ車の修理・サービスを行うホンダ認定サービスステーションを開設。

2003 (5)

夢ハウス(50)

ハバロフスク地方ソビエツカヤ・ガワニ市

「ソビエツコ・ガワンスキーLPK」の50%を取得(残り50%はハバロフスク地方が保有)。乾燥木材の生産、日本向け輸出。

2004 (8)

日産自動車 モスクワ市 欧州統轄会社、Nissan Europe(100)が「Nissan Motor Rus」を設立。日産車および同部品の輸入販売。

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タイガーオークション

サハリン州 コルサコフ市

富士港運株式会社との合併事業とし「タイガーファーイースト」を設立。国際貨物の海上輸送、通関業務、保税倉庫、戸口までの輸送等を展開。人材派遣事業と建設機械リース事業も併せて行う。

タイガーオークション

沿海地方 ナホトカ市

「タイガーナホトカ」を設立。建設機械、クレーンなどの販売・リース事業、サハリン2等の大型プロジェクトへの人材派遣事業を展開。

本田技研工業(100) モスクワ市 「Honda Motor RUS」を設立。二輪車、四輪車、汎用製品の輸入販売・アフターサービス。

味の素(100) モスクワ市 「Russia Ajinomoto」を設立。ロシア、ウクライナ、ベラルーシ国内における一部のアミノ酸および関連製品の販売等。

日本郵船(100) モスクワ市 全額出資の子会社「NYKロジスティクスCIS」を設立。ロシア向けの国際物流業務に加え、ロシア国内での高品質な物流サービスを提供。

日本郵船(50) ウラジオストク市

ロシア国営船社ソブコムフロット( JSC Sovcomflot)社(50)と、新造船4隻に関する合弁企業設立契約を締結。

日放電子(30) ウラジオストク市

V.G.リフシツ沿海地方教育委員会副委員長ら(70)と、電子機器製造・ソフト開発の人材確保のための「JRエレクトロニクス」を設立。

アルバック(100) モスクワ市 現地法人「アルバックCIS」の設立を発表。半導体製造装置等の製品の拡販およびカスタマーサポート業務。

双日(51)

ハバロフスク州 コムソモリスク・

ナ・アムーレ市

ダリレスプロム(35)、ハバロフスク州政府(14)との合弁企業設立を決定。合板用単板(ベニヤ)製

造。 ニプロ(100) モスクワ市 医療機器等の直販体制を構築するため現地法人

を設立。透析関連の消耗品など、同社の主力製品の販売拠点。

横浜ゴム(85.1) 伊藤忠商事(14.9)

モスクワ市 自動車用タイヤの販売会社「YOKOHA MA RUSSIA L.L.C.」を設立。

日本電気(90) NEC ヨ ー ロ ッ パ(10)

モスクワ市 販売会社「NEC Infocommunications(NEC Infocom)」を設立し、営業を開始。

トヨタ自動車 EBRD

サンクトペテルブルグ市

ロシアで初となる新工場「TOYOTA MOTOR MANUFACTURING RUSSI A」(TMMR)を建設することを決定。

旭ガラス モスクワ州 クリン市

ベルギー子会社グラバーベルがモスクワ北西105㎞のクリン市に1億6,000万ユーロ強を投資し、板ガラス工場を新設。高品質の板ガラスを日量600t生産する。

センコン物流(100) ハバロフスク 自社商品のロシア輸出を希望する日本の企業から

委託を受け、現地で販売代理業を行う現地法人を設

立。

2005 (9)

マツダ自動車(100) モスクワ市 ロシア自動車市場での販売体制をさらに強化する

ため、これまでの現地事務所を同社100%資本のディストリビュータとする。2006年4月より営業開始。

2006 (12)

三井物産(51) モスクワ市 ロシアでの事業を統括する合弁会社Buongiorno(Hong Kong)Ltd.(三井物産:51、伊ボンジョルノ社:49)を香港へ設立し、同社傘下に100%子会社として「Buongiorno RUS LLC」を設立。

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東芝(100) モスクワ市 東芝グループ東芝製品のマーケティング・販売・販売支援活動、ロシアにおける中・長期事業戦略の策定・実行、総合販売戦略の実施を目的とした新会社を設立。

リンナイ(40) モスクワ市 リンナイが韓国の生産販売子会社、リンナイコリア(40)および現地販売代理店2社(20)とともに給湯暖房器の販売サービス会社「リンナイサービス」を設立。

日本郵船(100) サンクトペテルブルグ市

同社定期航路部門の代理店として「NYK Line(Rus)LLC」を設立。

日本通運 サンクトペテルブルグ市

ドイツにおける現地法人ドイツ日本通運有限会社

(100)を通じて、サンクトペテルブルグに新会社「サンクトペテルブルグ日本通運有限会社」を設

立。 豊田通商(50) トヨタ紡織(50)

サンクトペテルブルグ市

自動車用シートを生産する新会社の設立を発表。新会社はトヨタ自動車株式会社の現地法人TMMRの工場内で、2007年末にカムリ向けのシート生産を開始する予定。

日産自動車(100) サンクトペテルブルグ市

車両組立工場を建設することを発表。投資額は2億ドル、2009年の稼働開始を予定。

三菱商事 モスクワ市 同社の物流事業会社である三菱商事ロジスティク

ス(100)が物流子会社「MC Logistics CIS」を設立。

双日(51) ハバロフスク州 コ ム ソ モ リ ス

ク・ナ・アムーレ

フローラ社(49)と合弁会社「コムソモルスク・フォレスト・プロダクツ」を設立。乾燥ベニヤ板加工工場を建設し、2007年8月の稼動を予定。

いすゞ自動車 ウリヤノフスク州ウリヤノフスク市

ロシアの自動車メーカーSAA社と業務提携し、小型トラックの現地生産を始めると発表。

松下電器産業 カリーニングラード州

カリーニングラードの現地電機メーカーに生産を委託し、同年9月から液晶テレビの生産を開始。

キリンビール カリーニングラード州

欧州における統括会社であるキリン・ヨーロッパ社とロシアのNWD社の間で、キリンブランド商品の製造および販売に関するライセンス契約を締結。NWD社がハイネケンロシア社の子会社、イワンタラノフ社カリーニングラード工場に委託。

(注)基本的に現在も稼動している事例を紹介し、撤退や休眠しているもの事例については除外したが、確認の取れないもの、不明なものもある。また、設立後にパートナーや出資比率が変わっている場合には、極力新しいデータに差し替えるようにしたが、必ずしもその限りではない

(出所)ビジネスガイドロシア(2004~2005)、(社)ロシア東欧貿易会より転用。(原典出所は、各社へのヒアリングおよび各社HP、『ロシア東欧貿易調査月報』の「CIS・中東欧ビジネストレンド」、その他各種報道などから作成。)

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第 3章 外資制度の概要

1.外資導入政策

旧ソ連時代には、合弁や 100%の外資導入、特別経済区の設立が認められるなど、外資開放政策が採られた。しかしながら、ロシアになって旧ソ連時代の外資政策が見直され、外資

は基本的に内国民待遇を受けることとなった。 1995年の生産物分与法あるいは 2005年に導入された特別経済区法についても、特に外資のための法律ではなく、内国資本を含めた投資家全般を対象にした法律である。また、州、

共和国などの地方でも優遇策はあるものの、基本的には投資家一般に対する優遇措置がある

のみである。 図表 1-28 ソ連およびロシアの外資導入政策の変化の流れ

ソ連時代末期(合弁から 100%外資導入まで) 1987年1月 初めて外資導入が認められる。但し、ソ連側出資が 51%以上の制限あり。 1988年 12月 合弁比率の制限が撤廃、同時に極東に税制の優遇およびいくつかの特別経済

区設立が認めらる。 1990年 10月 100%外資企業の承認。 ソ連解体(1991年末)から新生ロシア期 1990年代 ソ連時代の税制優遇、特別経済区廃止の動きが進むと同時に、一部地域に特

別経済区を設立するなど、外資導入に対する一貫した政策の欠如の時代。 1995年 税の大幅優遇を認めた生産物分与法が成立し、サハリン1および 2のプロジ

ェクトが開始。 1999年 7月 ロシアになって初の外資法の成立。 2002年 外資が、基本的に内国民待遇を受ける。 2003年以降 プーチン政権以降、生産物分与法の改正など資源エネルギー分野への外資参

入規制が強まる。 2005年 特別経済区法など一部の優遇措置が認められる。 (出所)各種資料を基に作成

業種別の外資誘致についても明確な政府の方針はないが、プーチン大統領をはじめとする

政府首脳の発言、個別の政策からは、以下のような方向性があると見られている。 ① 2005 年に技術導入型および工業生産型の特別経済区制度(詳細は p34 参照)が導入されたことに代表されるように、ロシアにない先端技術、生産加工技術等の導入が図られ

るような分野への投資は推奨される。 ② 資源エネルギーについては、投資家を優遇する生産物分与法が 2003 年に改正され外資参入が制限されたように、外資、特に外資のみの投資については難しい対応が目立って

いる。背景には、ロシア資本が育っていること、2000年以降の原油高、また原材料高を背景に、外資に依存する必要がないという意見が支配的になっていることがある。 また、一部のマスコミ報道を通じて、国民の間でも資源を外国人に奪われるという短絡

的見方が広まっていることも、こうした動きを後押ししていると見られている。

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2.主要関連法規

1999年7月に制定された法律「ロシア連邦の外国投資活動について:連邦法」が、いわゆる外資法に相当するもので、ロシアでの外国投資関連の基本法である。しかしながら、実質

的な内容は余りなく、外国投資が経済活動において、国内資本同様の権利を有することが記

載されている内容に留まっている。グランドファザー条項(先行者の既得権益を例外扱いと

して擁護する条項)や、ある程度の優遇措置が記載されているものの、これらが厳密に守ら

れているかは必ずしも明らかではない。実際には、経済関係の法律および行政通達が重要な

役割を果たしており、株式会社法等の経済関係の法律のみならず、経済活動における民法の

重要性が高くなっている(民法については、以下(2)を参照)。 (1) ロシアでの外国投資活動関連の基本法

・ 連邦法「ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国投資活動について」(1991年6月 26日No.1488-1、2003年1月 10日付改訂)

・ 連邦法「ロシア連邦の外国投資活動について」(1999年7月9日No160-FZ、2003年 12月 8日付改訂)

・ 連邦法「資本投資形態として実施されるロシア連邦の投資活動について」(1999年2月25日No.39-FZ、2004年8月 22日付改訂)

(2) 事業および会社に関する法律

連邦法「民法典」 第 1部(1994年 11月 30日付 No.51-FZ):

民法で規定する対象、法律、所有権、債権、契約など基礎的定義を定めている。 第 2部(1996年 1月 26日付 No.14-FZ ):

債務の種類、賃貸借の定義が規定されている 第 3部(2001年 11月 26日付 No.146-FZ):

相続権、国際私法について定義されている。 連邦法「有限会社について」(1998年 2月 8日付 No.14-FZ) 有限会社設立に関する条件などが規定されている。 連邦法「株式会社について」(1995年 12月 26日付No.208-FZ) 株式会社設立に関する条件などが規定されている。 (3) 労働関係の法律 連邦法「ロシア連邦労働法典」 (2001年 12月 30日付 No.197-FZ):

2002年に導入されたロシアの労働雇用関係の基本法典

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(4) 税関連の法律 連邦法 「税基本法」(1999年 8月 30日付No.197-FZ): 税の基本的概念および各種税金の種類、料率等について定められている (5) 土地関連の法律 連邦法 「土地基本法」(2002年 12月 30日付 No.197-FZ):

土地の地目等についての基本規定、農地を除く土地の取り扱いについて定められて

いる。

3.投資形態

ロシアにおける企業・経済活動は民法典を基本法としている。同法によれば、企業は合資

会社、有限会社等の中から一つの法的・組織的形態を選択し、法人格の取得が可能となって

いる。 外資は、有限会社、あるいは株式会社、特に閉鎖型株式会社を採用するケースが多く3、ま

た投資という形ではないが、商業活動を実施しない連絡事務所を取り敢えず開設する企業も

非常に多い。更に、最近のケースとしては、投資を伴わない委託加工も徐々に増加する傾向

がみられる。

図表 1-29 ロシアの会社事業形態

法的形態 法人格

参加者の名称および法的地位 参加者の数 設立必要書類

個人事業者 無 個人事業者 個人形態 認可証、登記証明

書 単純パートナーシップ 無 パートナー:個人事業者および(あるい

は)商業組織 パートナーが2人以上

共同事業契約書

完全パートナーシップ 有 完全パートナー:自然人および(あるい

は)商業組織 パートナーが2人以上

設立契約書

合資会社 有 完全パートナー(自然人および(あるいは)商業組織)および出資者(市民および法人)

パートナー1人以上および出資者

設立契約書

有限会社 有 市民および法人(政府組織は基本的に設立不可)

50人以下 設立契約書、定款

閉鎖型株式会社 有 株主:自然人あるいは(および)法人 株主50人以下 定款 公開型株式会社 有 株主:自然人あるいは(および)法人 制限なし 定款 生産共同組合 有 メンバーあるいは参加者:専ら自然人 5人以上 定款

(出所)ロシア側資料より作成

有限会社と株式会社を比較すると、資本配分、出資者の権利と責任、最低資本金などで異

なる点がみられる(図表 1-30)。

3 合弁企業の場合には株式会社、他方100%外資の場合には有限会社が選択されるケースが多い。

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図表 1-30 有限会社と株式会社の違い 有限会社 株式会社 資本の配分 定款資本は、会社の債務に責任

を負わない出資者の「持分」に分かれる。

定款資本は額面を記した一定数の株券に分かれる。

出資者の 権利と責任

民法第 87条により、出資者は事業に関連した損失に対し、その出資分の範囲内でのみ責任を負う。

株主の権利、その譲渡および停止が、すべて株券の保有・譲渡と結びついている点が特徴。全ての株式会社は、「閉鎖型株式会社」または「公開型株式会社」のどちらかに分類される。前者では株はあらかじめ定められた人物間でのみやり取りされるのに対し、後者では株主が他の株主の同意なしに株を第三者に譲渡できる。

最低資本金 定款資本の最低額は最低賃金の100倍。その際に、会社を登記する時点で資本金の 50%以上が払い込まれている必要がある。

定款資本の最低額は、最低賃金の 1,000倍。

設立諸文書 「設立契約書」と設立契約書の調印後に出資者により承認された「定款」。会社が一人の人間によって設立される場合は、「定款」が唯一の設立文書となる。

「定款」が唯一の設立文書となる。定款には、定款資本額、株券の種類と発行方式、組織と権限、その他「株式会社法」に規定された各種の情報が記載される。

(出所)ビジネスガイド・ロシア(2004~2005)、(社)ロシア東欧貿易会 投資形態として日本企業が有限会社、閉鎖型株式会社の方式を採用する際に留意すべき点

は、ロシア側のパートナーとの合弁にするか、あるいは日本側の 100%出資で事業を実施するかということである。 ロシアでは、M&A が多くみられるところ、ロシア側のパートナーをどの程度信頼出来るかは非常に重要であり、合弁パートナーの選定に当たっては、十分な事前調査や意見交換を

行うことが望ましい。一般的には 100%外資、あるいは 75%以上の出資による拒否権を持つ会社形態を設立する方が無難であるという声もあるが、ロシアでの事業実績が十分にあり、

信頼できるパートナーを見つけた場合には、パートナーと共に事業を実施した方が良い場合

も多い。 4.管轄官庁

投資関連の管轄官庁はロシア経済発展貿易省であるが、日本との関係では、日露貿易投資

促進機構が設立されており、経済発展貿易省内の投資政策局に事務局が置かれている(次頁

連絡先参照)。 日露投資促進機構は、日露間の貿易投資活動の促進、経済関係の発展等に関心のある両国

関係機関の相互連携を強化することを目的としている。 同機構では、ロシア投資に関心のある日本企業に対して、初期的なコンサルティングサー

ビスを行うほか、ロシアの制度、規制法令、ビジネス慣行等の関連情報の提供等を行う。

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図表 1-31 日露貿易投資促進機構連絡先 ロシア側連絡窓口 (モスクワ)

経済貿易発展省 投資政策局副部長 Mr. Egorov S.S. e-mail: [email protected] 電話: 7(国番号)-495(モスクワ)-248-86-61 ホームページ:http://www.tip-ro-rj.economy.gov.ru

(日本) 在日ロシア連邦通商代表部 A.B.Labrentiev主席 108-0074 東京都港区高輪 4-6-9 電話:03-3447-3201、3281、3291 Fax:03-3447-3221 Email:[email protected], http://rustrade.org

日本側連絡窓口 (事務局)社団法人ロシアNIS貿易会(http://www.rotobo.or.jp/) (支部)ロシアNIS貿易会モスクワ事務所内 日本貿易振興機構モスクワ事務所内 日本センター内 (それぞれの連絡先は巻末参照)

日露貿易促進機構 ホームページ

http://jp-ru.org

(注)2006年末時点 (出所)日露貿易投資促進機構資料

5.外資規制業種

1999年に制定された外資法では、外資に対して内国民待遇が与えられており、安全保障上の問題から国防産業などの一部業種を除き、国内企業と基本的に無差別に扱うこととなって

いる4。 但し、外国投資法第 4条 2項では、憲法体制の基礎、公序良俗、国民の健康、第三者の権利および合法的な利益の擁護、国防と国家の安全に必要な程度に限り、別途連邦法で規制を

設けることができるとされている。 一般的には、軍需関連部門(輸送および閉鎖地域での事業を含む)、国の基本インフラにか

かわる部門(天然資源、農業など土地所有に関係する部分など)に規制がみられる。これら

の規制の詳細な内容は、細かい通達のなかで指示されることが殆どであり、それ以外の部門

についても、個々の省令、中銀通達等において実体的に外資の参入が規制されている可能性

があることには留意が必要である。例えば、金融・保険については、1999 年 7 月の外資法の対象分野から除かれており、特に外国企業による支店の設立は認められていない上、外資

の出資比率制限が設けられている。

4具体的には、外国投資家に対して、“国内企業に対して与える待遇に劣後しない待遇を供与しな

ければならない”とされている。

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6.主要投資インセンティブ

(1) 特別経済区(Special Economic Zone)

中央政府の方針として、投資インセンティブにより、分野や地方を差別化することに対し

消極的であることから、ロシアにおける投資インセンティブは主として地方レベルで主導さ

れてきた。1990年代には、投資誘致を意図するいくつかの地方で特別経済区が制定されたが、個別性が高く、カリーニングラード州が実質的に最も機能していた。 しかしながら、2005年に連邦レベルで特別経済区法(2005年7月22日付No.116-FZ、以下「2005年特区法」)が制定され、投資インセンティブ導入方針が多少軌道修正された。

2005年特区法は、特定地域の経済発展、技術革新等の促進、観光資源開発を目的とし、設立に際しては外資を導入すること等により、効率的に特区を設立することを目的としている。

同法では特区には、①技術導入、②工業生産、③観光・リクリエーションの3つの分野が定められており、すでに技術導入型特区に4地区、工業生産に2地区が指定されており、近いうちに観光・リクリエーション地区の選定が行われる予定である5。

図表1-32 ロシアの特別経済区一覧

(2006年10月現在) 種類 所在地 想定されている事業分野

サンクトペテルブルグ市 IT、計測・分析機器 モスクワ市ゼレノグラード区(Zelenograd)

マイクロエレクトロニクス

モスクワ州ドゥブナ市(Dubna) 核技術・物理学、プログラミング

技術導入型 特別経済区 (2005年7月法)

トムスク州トムスク市(Tomsk) 新素材、核技術、ナノテク、バイオ リペツク州(Lipetsk)グリャジ地区 家電生産、家具生産 工業生産型

特別経済区 (2005年7月法)

タタールスタン共和国エラブガ地区(Yelebuga)

自動車部品、石油化学分野の高度技術製品

関 税 自 由 区 型 (2006年1月法)

カ リ ー ニ ン グ ラ ー ド 州(Kaliningrad)

加工産業

(出所)各種資料を基に作成 なお、上記のとおり、カリニングラードは、関税自由区型特区として、2005年特区法前に特別経済区に指定されているが、カリーニングラードがロシアのなかで特別な扱いを受けて

きた背景には、ロシア本土から離れた飛び地であり、ロシア本土との経済交流が不利である

ことと、経済的恩恵を与えることにより、経済的安定化を図る必要があるためとみられる。

連邦法「カリーニングラード州特別経済区およびロシア連邦法令の若干の法令の修正につい

5 観光・リクレーション特区については、2007年末時点、以下の 7つの地区が認定されたことが発表されたものの、特区庁のホームページにはこれらの地区の名前をはじめとして、地区についての情報はない。いずれにしても、①から④がシベリア中部から東部、⑤から⑥がロシア最南部、⑦が飛び地でバルト海に面した地域でいずれも、ロシアの中央部からかなり遠い地域が指定されたということだけは分かっている。①アルタイ地方、②アルタイ共和国、③イルクーツク州、④ブリャート共和国、⑤スタヴロポリ地方、⑥クラスノダル地方、⑦カリーニングラード州。

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て」(2006年1月10日付No.16-FZ)によれば、カリニングラードでは3年間で1億5,000万ルーブル以上の投資を行わなければならないことになっている。カリニングラードで享受可能

なインセンティブは図表1-33のとおりである。 図表1-33 2006年1月法によるカリーニングラードの税の特典

税金の種類 通常 特別経済区内 関税 関税率表に基づく 関税なし 資産税 2.2% 0%(最初の6年)その後1.1%(7年-12年) 利潤税 24% 0%(最初の6年)その後12%(7年-12年)

(出所)ロシア政府作成資料

図表1-34 特別経済区位置図

(出所)特別経済区庁資料

ZZeelleennooggrraadd

DDuubbnnaa

SSaaiinntt PPeetteerrssbbuurrgg

TToommsskk

EEllaabbuuggaa

LLiippeettsskk

KKaalliinniinnggrraadd

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2005年特区法によれば、特区では、地下資源採掘および金属製造、それらの加工、物品税対象商品の製造(乗用車およびオートバイを除く)が禁止される。その他の各特区の特徴は、

以下のとおり(図表1-35)。 図表1-35 分野別特区の特徴

技術導入特区 ・ 入居者は、協定で規定されている範囲内で、技術導入活動のみを行う。技術導入活動とは、科学技術製品の開発・販売、試作品の製作・実験・販売等、コンピュータ関連サービスなどである(第10条)。

・ 連邦法によれば、特区の面積の上限は 3平方 kmと定められる。 ・ 登録企業のインセンティブは、統一社会税が14%と低めに設定されてお り、登録してから5年間の資産税、土地税の免除が認められる。また、土 地に関しては、私有権が発生してから5年、登録企業が保有する交通設備に関する交通税も5年間免除される。減価償却にかかる特別なスキームもあり、有利な条件で減価償却が可能。

工業生産特区 ・ 入居者は、協定で規定されている範囲内で、工業生産活動のみを行う。工業生産活動とは、商品(製品)の生産・加工およびその販売を意味する(第10条)。

・ 工業生産特区の入居者は、1,000万ユーロ相当以上の投資を実施しなければならない。うち、最初の1年間で100万ユーロ相当以上の投資が求められる(第12条)。

・ 生産特区の特徴は、面積は 20平方㎞、しかも同じエリア内にまとまってあることが条件である。また管理機関(行政区)もひとつであることが求められる。

・ 登録企業は、当該エリア内で生産および販売活動が認められる。基本的には物品税が付加される製品(自動車を除く)以外のすべての製品の製造が可能。

・ 土地を賃貸している投資家は、優先的に土地購入が認められる。 ・ 優先業種以外であっても、ケースバイケースで対応することが可能であり

いかなる業種であっても進出の可能性はある。 観光・リクリエ

ーション特区 ・ 同特区の特徴は、土地面積の上限はない ・ 今後4箇所が決定される見込み。

その他 ・ 特区の入居者は、特区外に支店・代表事務所をもつことができない(第10条)。

・ 協定の有効期間中は、納税者にとって不利な変更が税法にあっても、特区の入居者には適用されない

・ 特区内に登録をせずに進出することも可能であるが、特区に適用されるインセンティブを享受することはできない。

・ 登録資格は基本的にすべての業種・企業に認められるものの、ロシア国営企業は認められない。

・ 特区内登録企業の特区企業としての有効期限は20年間である。 (出所)各種資料を基に作成

図表1-36 2005年7月の特区法による税の特典(いずれも基本は5年間)

税金の種類 通常 特別経済区内 社会統一税 26% 14% 関税 関税率表に基づく 関税なし 土地税 最大で1.5% 0% 資産税 2.2% 0% 輸送税 最大で200 ルーブル. 0 ルーブル 利潤税 24% 20%

(出所)リペツク州の特別経済区HPを基に作成

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特区に進出を希望する企業は、特別経済区庁に申請書とビジネスプランを提出する必要が

ある。ビジネスプランとは、申請する企業が特区内で行う業務内容などで、特区の管理機関

がどういった設備が必要かということを検討するのに必要とされる。そのため、必要な土地

区画についての情報、契約締結後1年間に実施される投資額についてなどの記載も求められる。 なお、当該資料は特区窓口を通じてエキスパート協議会(連邦の組織体)で審査される。

なお、ビジネスプランの不履行については、契約時に罰則などが定められる。エキスパート

協議会は、ビジネスプランを法律に照らし合わせて点数をつけ、十分な点数に達した企業に

対して申請を承認する。また、最終的に連邦機関が承認された企業と登録契約を結ぶことと

なる。 これらの手続きについては、2006年11月現在、工業生産特別経済区については、特別経済区庁のホームページの以下に必要書類(登記、税務関連証明書、ビジネスプラン等)が掲載

されており、同庁に申請することになっている。但し、2007年1月現在、英語版は公開されていない。

特別経済区庁HP: http:// rosoez.ru/ru/ 工業生産特別経済区の居住者となる手続きHP:http://rosoez.ru/ru/oez/PPZ/rezident/ (2) 特別経済区以外の地域への投資に対するインセンティブについて

特別経済区以外の地方での投資インセンティブとして、利潤税の低減などがある。例えば、

サンクトペテルブルグ市の場合、利潤税率 24%を最高で 20%まで低減するようなインセンティブがあるが(利潤税の税率は税基本法で優遇しても 20%までしか下げられない)、条件については、それぞれの地域によって異なるため、関係先に問い合わせる必要がある(サン

クトペテルブルグでは、経済発展・産業政策・商業委員会)。なお、モスクワ市については、

ゼレノグラードの特別経済区以外の投資インセンティブは存在しない。

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7. 許認可・進出手続き

ロシアでは法律上、内外の投資家の差別はないため、投資関連手続きは、通常は法人登記

手続きのみである。しかしながら、実態的には投資規模、投資内容によっては、プロセスに

違いが出てくる可能性があるため、以下に 3つのパターンを紹介する。 【小規模な直接投資】 投資金額が小額で、工場建設等の大規模な不動産取引、あるいはあまり許認可に関係しない

場合 法人登記手続き(次ページ参照) 【中規模な直接投資】 投資金額が大きく、工場建設等の不動産取引に関係する場合、特に生産活動を伴う場合 地方行政府(州、共和国等の経済委員会、外国投資委員会等の関係部署)

で地元の投資に際して配慮(インセンティブ、土地の提供、インフラの 整備等)を受けられるかを事前に調整

ある程度の段階で、必要な登記手続きおよび許認可等の取得(連絡事務所設立、

会社設立、衛生、環境、工業規格等の認可等) 【超大型の直接投資案件】 自動車製造案件等、件数は非常に少ないが、関税にかかるインセンティブ等の連邦レベルで

の優遇策が関係する投資契約を締結する場合等

連邦政府(大統領府あるいは経済発展貿易省等の連邦省庁) にコンタクトを取り、連邦政府との投資契約を締結する交渉、および工場建設

の候補地との交渉を同時並行的に進める

候補地の決定 中規模な投資案件と同等のプロセスに移行

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(1) 法人登記の方法 一般的な法人登記の窓口となる国家登記組織は、税務署である6。以下の流れは、サンクト

ペテルブルグ市での法人登記手続き例であるが、登記窓口は、No.15 地域間税務署(Professora Popova str. 39.)に集約され、関連国家登記簿、予算外基金への法人登記なども、この窓口でできる。 なお、モスクワの窓口は、No.46地域間税務署(Pokhodny Proyezd 3.)である。法律上は書類提出から登記決定まで 5日で行われることになっているが、実際にはかなり時間がかかる(数ヶ月から 1年)と言われている。

図表 1-37 ロシアの法人登記の流れ及び必要書類等 図表 1-38 企業設立手順

6 金融機関、マスコミは、登記の手続きが異なるため、これらの業種については、それぞれ中央

銀行(www.cbr.ru)、文化・マスコミ省(www.mincultrf.ru)で確認する必要がある。

以下の必要書類により申請 ・国家登記の申請書 ・契約書等の法人設立決定書類 ・法人の定款関連書類 (原本あるいは公証人の証明を受けたコピー) ・外国での登記関連書類謄本 ・国家登記手数料(2,000ルーブル)の支払い書類

国家登記組織(窓口)

国家登記の決定

関連国家登記簿への登記

予算外基金への法人登記

以下の登記関連書類の交付 ・法人登記証明書(基本国家登記番号が書かれる)

・税務登録証明書(納税者番号と納税分類コードが書かれる)

・統一国家登記簿と統計関係組織への登録についての通知書

・社会保険関連の登記通知書

・年金基金の地元機関への登記通知書

申請 交付

(出所)サンクトペテルブルグ市資料を基に作成

国家登記のために会社の設立諸文書を用意

法人を国家登記(同時に税務局に登記される)

会社印作成

地域統計局

銀行に決済用の口座を開設

社会保険 年金 医療保険

銀行に臨時の口座を開設 (定款資本への出資が金銭により行われる場合)

(出所)ロシア東欧貿易会、 ビジネスガイドロシア(2004~2005)

届出

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ロシア進出に際しては、最初から商業活動を行う法人登記を行う企業は少なく、駐在員事

務所など、商業活動を行わない組織設立からはじめる会社が多い。駐在員事務所には、税務

対策上の労力が軽減されるという利点があるが、更新手続きが必要であることと、商業活動

については制限を受けるという欠点がある。駐在員事務所開設に際しては、司法省付属の国

家登記所(www.palata.ru)およびロシア商工会議所(www.tpprf.ru)で、事務所の承認手続きが行われる(受入窓口)。最終的に国家登記所で登記がなされて初めて手続き完了となる

が、商工会議所のほうが、民間に近く、ホームページでの手続き紹介も英語版があり、アク

セスは容易である。なお、外国企業の支店も設立が認められているが、これについては国家

登記所が窓口として承認を行うことになっている。 手続きに際しての必要書類は、駐在員事務所の場合、法人設立のための書類に加え、出身

国の取引銀行の推薦状、ロシアのパートナーの推薦書類、モスクワ市およびサンクトペテル

ブルグ市以外の地域の場合の現地連邦構成主体(共和国、地方、州等)の承認書類、所定の

アンケートが必要となる。また、支店の場合は、必要に応じてエネルギー省、天然資源省等

の省庁の鑑定書が必要となる。 商工会議所の事務所開設関連のページ http://eng.tpprf.ru/ru/main/accreditation/(英語) Phone: (495) 620-0260、Fax: (495) 620-0170、E-mail: [email protected] 国家登記所のホームページ(www.palata.ru)(ロシア語のみ) 駐在員事務所、支店開設の手続きが紹介されている。 国家登記所の駐在員事務所開設関連のページ http://www.palata.ru/cgi-bin/get_page.cgi?pid=58 国家登記所の支店開設関連のページ http://www.palata.ru/cgi-bin/get_page.cgi?pid=98

8.ロシアの主な税金・会計制度

(1) 税金

ロシアの税金制度は、連邦税、地域税、地方税に分かれている(図表 1-39)。連邦税は、

基本的に連邦と地域で税収が配賦され、地域税、地方税は基本的に地方自治体内で取り扱わ

れる。 税率は、一般的には、ロシアの税率は低く、特に個人所得税は一律の 13%と高額所得者にとっては非常に低率である。また、組織利潤税(法人所得税)、付加価値税も世界的水準との

比較では低いほうである。 しかしながら、税金は四半期ごとの予定納税により、徴収されているものの、企業に還付

されにくいシステムになっているほか、2002年に固定資本への投資の経費が認められなくなるなど、課税ベースが広範となっていることから、ロシアの実効税率は高いと指摘される。 なお、ロシアの税務監査は非常に厳しく、企業は、税務署対策に労力と時間をとられるケ

ースが多く、有能なコンサルタントあるいは税務・会計担当者を欠かすことは出来ない。

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図表 1-39 ロシアの主な税金一覧

税金の種類 内容 税率(%) 付加価値税 商品やサービスの販売に課税(輸入も含む) 18(一部減免措置あり) 物品税

特定商品(アルコール飲料、石油・ガス製品、貴金属・宝石、乗用車・オートバイ等)への販売課税

課税基準は、特定商品の販売量あるいは販売額。以下、主要品目別税率: ・ウオッカ(25度以上) 1ℓ当たり 146ルーブル ・タバコ

1,000 本当たり 65 ルーブル+販売価格の8% ・乗用車(150馬力以上):1馬力(0.75kW)当たり 153ルーブル

個人所得税 個人の貨幣所得 一律13% 統一社会税

雇用所得、個人事業者の所得 年間所得金額28万ルーブルで26%から逆累進課税。課税基準は、賃金支払額の3つの区分に応じる。 ・年収 28 万ルーブル以下

26% ・年収 28~60万ルーブル 7万 2,800 ルーブル+28万ルーブル超過額の 10% ・年収 60万ルーブル以上

10万4,800ルーブル+60万ルーブル超過額の2%

組織利潤税 (法人所得税)

組織の利潤に課税 24%

連邦税

資源採掘税 資源採掘 課税基準は、鉱物資源の採掘額あるいは採掘量。 ・貴金属 6.5% ・非鉄金属、レアメタル、ダイヤモンド 8%

・石油 16.5%(石油の世界市場価格の変動に応じて変動する重量税)。 ・天然ガス 1,000㎥当たり

135ルーブル 組織資産税

動産および不動産(事業をロシア国内で行わない外国の代表事務所は動産のみ)

2.2%以下 地域税 輸送税 自動車、船等の国家に登記する輸送機器 馬力および重量換算で課税 個人資産税 住宅やガレージ等の建築物 2%以下 地

方税 土地税 土地、区分所有 土地価額により異なる

(出所)税基本法等を基に作成

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(2) 関税

ロシアの関税は、アルコール飲料に 100%の輸入関税が賦課される以外は、最高 30%の関税率となっている。ロシアの輸入関税率は、以下のロシアの連邦関税庁の英語のホームペー

ジに主要商品の関税率が掲載されている(www.customs.ru/en/legislation/tariff/)。

(3) 会計制度

ロシアの会計制度は、米国会計基準や国際会計基準とは異なる独自のシステムである。し

かしながら、2004年に財務省は 2010年までに国際会計基準に移行することを決定し、現在法改正の検討を進めている。 ロシアの企業の会計年度は 1月~12月であり、4月までに年度の会計報告を税務署、統計局に提出しなければならない。また、四半期報告は、四半期末日から 30 日以内に報告をする必要がある。なお、会計報告は、代表取締役および経理部長のサインが必要であり、一般

的に、ロシアでは経理部長の役割が制度上非常に重要である。

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9.用地取得

土地に関する取り扱いは、土地基本法(2001年 10月 25日付 No. 136-FZ)で規定されている。外国人・企業の土地所有は、一部を除き、基本的にロシア人、法人と同様の扱いであ

る。 ロシアの土地は圧倒的に政府所有分が多く(図表 1-40)、都市部および大都市近郊の土地

については、民間のデベロッパーが土地を保有するケースも多くなっているものの、土地取

得に際しては、地元行政府と交渉を行うことが多い。 首都モスクワ市は、土地の所有を認めず、賃貸を基本としていることから、モスクワ最大

の企業にして不動産業者と呼ばれている。土地については非常に地域性が強いので、土地の

所有、利用については地元行政府と十分に調整をすることが無難である。 土地は、7つの地目に分かれている(図表 1-41)。圧倒的に森林、農地が多く、全体の 6割強を占める。なお、農地については、土地基本法とは別の法律で定められることになって

おり、外国人・企業は、国境地帯の土地、農地、森林資源を含む土地の購入・所有は不可と

されている。従って、外資企業が都市郊外で事業を実施する場合には、農地の地目の変更な

どを行う必要がある。 土地の売買は、土地台帳の記録、登記所での登記が義務付けられ、これらの手続き完了後

に、所有権が移転することになる。

図表 1-40 ロシアの所有別状況 図表 1-41 ロシアの土地の地目別状況

(出所)連邦不動産鑑定庁(http://kadastr.ru/)HPより

法人所有0.3%個人所有

7.3%

連邦・地方政府所有92.4%

工業地1.0%

住宅地1.1%

水資源地1.6%

特別保護2.0%

予備地6.2%

森林64.6%

農地23.5%

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10.知的財産権

ロシアの街中では、違法 CD、DVDなどのコピー商品が氾濫していることから、知的財産保護の意識は非常に低いように見受けられるが、法制面では、WTO 加盟を控え知的財産保護の制度面での整備は進んでいる7。 ロシアにおける知的所有権の法的保護は、憲法(第 44 条、71 条)および民法典(第 54条、128 条、138 条、139 条)で規定されている。ただ、個別の関連法は以下に見られるように、1992年9月~1993年8月(現ロシア憲法の制定以前)に殆どが制定済みである。その後、状況に応じ補足・修正されてきたが、基本線は変わっていない。 なお、法律は制定されてはいるものの、実際の遵守状況は必ずしも芳しいものではない。

米国議会図書館レポートによれば、「海外の投資家や輸出業者は、ロシア政府が適切に関連法

を履行せず、そのために知的財産権の侵害が罰をうけることなく増大しており、被疑者は捕

まることもなく、捕まったとしても処罰されない」と述べており、2002年ロシアでの米国製品の知的侵害による損失は7億 5,580 万ドルと推定されるとしている(CRS Report for Congress,”Russia’s Accession to the WTO”,July 16, 2006)。

(1) 特許法

1992年9月 23日付連邦法No.3517-I(2003年2月7日 改正)

・ 対象:発明、実用新案および工業意匠 ・ 権利存続期間:発明特許権 20年、実用新案特許権5年(3年延長可能)、工業意匠特許

10年(5年延長可能) ・ 特許手続き:先願主義 国からの依頼により創作された発明・実用新案・工業意匠に関する特許権については、

国家契約に特許権は連邦もしくは連邦構成主体に属するとの記載がない場合、その発明

に対する特許権は遂行者(請負者)に属する。 (2) 商標、サービスマーク、原産地表示に関する連邦法

1992年9月 23日付連邦法N 3520-I ・ 商標は「知的所有権に関する連邦行政機関」(現行では、ロシア連邦教育・科学省管轄

の連邦知的所有権・特許・商標局が当該機関と思われる)に登録をする必要がある。 ・ 商標権存続期間:10年(10年単位での更新可能) ・ 原産地表示証明の有効期間:10年 ・ 外国の法人・自然人は、ロシアの国際協定もしくは相互主義に基づき、ロシアの法人・

7 詳細については、特許庁が日本貿易振興機構に委託した実施した「模倣対策マニュアル(ロシア編)」があるので、詳しくは、これは参照されたい。以下、特許庁のホームページである。www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/mohouhin/mohouhin2/manual/manual.htm

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自然人と同様、本法に規定された権利を行使する。 ・ ロシアの国際協定が本法とは異なる規定を定めている場合は、国際協定の規定が採用さ

れる。

(3) コンピュータ用プログラムおよびデータベースの権利保護に関する連邦法

1992年9月 23日付連邦法No.3523-I(2002年 12月 24日 改正)

・ 対象:コンピュータ用プログラムとデータベースの著作権。「知的所有権に関する連邦

行政機関」に登録。著作物が創作されればただちに著作権が成立する(無方式主義) ・ 著作権の保護期間:著者の生存中および死後 50年。 ・ 権利保護手段:使用差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、罰金 ・ 労働職務の遂行に関連しもしくは雇用者の指図に従って被雇用者(著者)によって製作

されたコンピュータ用プログラムとデータベースの排他的権利は、労働協約に定めがな

い限り、雇用者に属す。連邦もしくは連邦構成主体の必要のために国家契約に従って製

作されたコンピュータ用プログラムとデータベースの排他的権利は、その権利は連邦も

しくは連邦構成主体に属すと国家契約に定めがない場合、遂行者(請負者)に属す。

(4) 集積回路配置の権利保護に関する連邦法

1992年9月 23日付連邦法No.3526-1(2002年7月9日 改正)

・ 集積回路の著作権の保護(著作権は「知的所有権に関する連邦行政機関」に登録可能) ・ 集積回路の著作権保護期間:10年 ・ 権利保護手段:使用差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求

(5) 著作権および著作隣接権に関する連邦法 1993年7月9日付連邦法No.5351-I(2004年7月 20日 改正)

・ 著作権の対象は創造的活動の結果としての学術、文学、芸術作品であり、コンピュータ

のプログラムも含む。 ・ 著作権の対象にならないのはアイデア、方法、過程、システム、手段、概念、原則、発

見、事実、さらに公的文書(法律、政令等)、国章、 国旗、民衆文化、ニュース。 ・ 著作物が創作されればただちに著作権が成立する無方式主義 ・ 著作権保護期間:著者の生存中および死後 70年間 ・ 著作隣接権は実演者、レコード製作者、放送事業者、優先放送業者に与えられる。 ・ 著作隣接件の保護期間:初リリースから 50年間

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(6) 営業の秘密に関する連邦法

2004年7月 29日付連邦法N98-FZ

・ 営業秘密の定義:「それを保有することによって、その保持者が、現行のないしは可能な

状況において、所得を増やし、無駄な出費を避け、商品・作業・サービス市場における

地位を維持し、もしくはその他の営業上の利益を取得することができるような情報秘

密」。 ・ 営業秘密を成す情報の定義:「合法的には自由にアクセスできない第 3 者にとって、その未知性ゆえに実際にもしくは潜在的に営業上の利益を有するもので、その情報所有者

によって営業秘密保護措置が講じられる科学技術、工学、生産、財務・経済上、その他

の情報(生産秘密(ノウハウ)を含む)。」 ・ 営業秘密を成す情報の保有者は雇用者であり、被雇用者は営業秘密情報を口外しない義

務を負い、口外によってもたらされた損害に対し賠償責任を負う。被雇用者は、労働契

約失効後 3年間は守秘義務がある。組織の幹部は、営業秘密に関するロシア連邦法規違反によって所属組織にもたらされた損失を賠償する責任がある。

・ 営業秘密情報の保有者は求めに応じて、その情報を国家機関、地方自治体に提出する。

提供を拒否した場合、当該機関はこの情報を司法手続きで請求する権利がある。 ・ 同法違反の場合、規律上、民法上、行政上、刑事上の責任を伴う。情報秘密保護に関す

る措置を講じることを、情報秘密利用者が拒否した場合、営業秘密情報の保持者は司法

手続きで自らの権利の保護を要求する権利がある。

(7) 担当官庁

監督官庁は、連邦知的財産・特許・商標庁(略称 ROSPATENT)である(連絡先は以下のとおり)。 FEDERAL SERVICE FOR INTELLECTUAL PROPERTY, PATENTS AND TRADEMARKS (ROSPATENT) 住所:30-1 Berezhkovskaya nab. Moscow G-59, GSP-5、123995 Russian Federation Fax: (495) 240-61-79、 http://www.rupto.ru、 e-mail:[email protected]

11.環境規制

(1) 環境アセスメント

連邦法「環境アセスメントについて」(1995年 11月 23日付 No.174-FZ、2004年 12月 29日付改訂)に関する連邦法 ・ 環境に関係する事業の場合、ビジネス案件のフィージビリティスタディにおいて、基本 的に「環境保護」の項目が必要とされる。

・ 具体的には、以下の手順で国家環境アセスメントが作成することが求められる。

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図表 1-42 国家環境アセスメント作成手続き

フィージビリティスタディでの事前環境アセスメントの作成(閲覧可能)

公聴会

国家環境アセスメントの作成

(2) 環境保護法

連邦法「環境保護について」(2002年1月 10日付No.7-FZ) ・ 環境に悪影響を与えている企業の支払い義務、具体的支払額等を定めている ・ 対象環境汚染物質は、①大気汚染、②水質汚染、③土壌汚染、④廃棄物、⑤騒音、熱、

強磁気、⑥その他の環境悪影響である。

(3) 担当官庁

環境分野の所轄官庁としては、連邦環境・技術・原子力監督局(連邦政府直轄、

www.gosnadzor.ru/)および連邦自然利用分野監督局(天然資源省内、control.mnr.gov.ru/) の2つの省があるが、特に前者が実務上は大きな権限を有している。 12.為替管理・貿易管理

ロシアでは、2004年に発効した改正外為法により、経常取引については原則制限がなくなっている。また、ソ連解体以降、維持されてきた外貨収入の強制売却制度も 2006年 5月に廃止され、2007 年 1 月以降は、海外口座の開設の自由化、海外からのローンの取得に関わる特別口座および事前積み立て義務が廃止されるなど大幅に自由化されている。 しかしながら、ロシアの場合、銀行を通じた中銀への報告義務は多数あり、末端での規制

措置が残る場合がある点については、留意が必要である。

13.資金調達

ロシアの金融機関の大部分は、実態として投資銀行に近いところが多い。また、ロシア地

場銀行からの借り入れは、金利が高く、銀行の透明性も低く、長期の融資の実績も殆どない

(短期融資が殆どである)ことから、あまり現実的ではない。ロシア地場企業でも外国から

資金調達する企業が増えており、民間企業の対外債務が急増している。

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14.銀行取引

(1) 外資系の銀行

2005 年末現在、ロシアに進出している外資系銀行は 136 銀行で、その内 100%外資銀行は 41 銀行であった。ロシアでは外国銀行の支店開設が認められないので、外資銀行はすべて外国銀行の子会社、ロシア法人となっている。主な大手外資系銀行は図表 1-43のとおり。

図表 1-43 ロシア進出の大手外資系銀行リスト

ライファイゼン銀行(Raiffeisen International Bank-Holding AG 略称:RI) 所在地:ロシア国内に拠点が多数あり、所在地については以下の英語のページを参照のこ

と。http://map.raiffeisen.ru/en/ URL:http://www.raiffeisen.ru/

ハンザバンク(Hansabank) 所在地:(モスクワ) 24,Sadovaya-Spasskaya,107078, Moscow

Phone: + 7 (495) 777-63-63、777-63-42 Fax:+7 (495) 777-63-64 営業時間:月~金、 09:00-18:00; 現金窓口対応時間:09:00-17:00 ATM:月~金 9:00-21:00.

(サンクトペテルブルグ)2/4 Shpalernaya, Letter A,191187 Phone: +7 (812) 600-63-63 Fax: +7 (812) 600-63-64 (カリーニングラード ) 40, Moskovskiy prospekt, 3 floor, mail box

131,236006,Kaliningrad Phone:+ 7 (4012) 30-40-40 Fax:30-40-41

URL:http://www.hansabank.ru/eng/ Credit Suisse[CSFB(Credit Suisse First Boston)]

所在地:(モスクワ) Visitor address :Credit Suisse Moscow Representative Office、Romanov Dvor II 4 Romanov Pereulok, Building 2, 7th Floor 125009 Moscow, Russia

Phone :+7 (495)-518-98-88 Fax: +7 (495)-518-98-89

URL:http://www.credit-suisse.com/emea/en/ モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)

所在地:(モスクワ)Ducat Plaza II、7 Gasheka Street 123056 Moscow, Russia Phone:+7 (495) 589 2100 Fax::+7 (495) 589 2101

URL:http://www.morganstanley.com/about/offices/russia.html 国際モスクワ銀行(INTERNATIONAL MOSCOW BANK、略称IMB) ロシア国内に拠点が多数あり、以下の英語のページを参照のこと。http://www.imb.ru/en/ CITI Bank(ZAO Citibank) 所在地:(法人向け、モスクワ)8-10 Gasheka St. 125047 Moscow, Russia

Phone: +7-495-725-1000, Fax. +7-495-725-6700 (法人向け、サンクトペテルブルグ)5 Italyanskaya St. 191011 St. Petersburg, Phone:+7-812-118-3696, Fax: +7-812-118-3690 (個人向け)23時間テレフォンバンキングサービス有り Phone(モスクワ):+7 (495) 775-75-75

Page 50: 第1 章 概要 - JOI南連邦管区 ロストフ・ナ・ドヌー 58 万9,200 2,287 13 沿ヴォルガ連邦管区 ニジニノヴゴロド 103 万8,000 3,071 15 ウラル連邦管区

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Phone(サンクトペテルブルグ):+7 (812) 336-75-75 Phone(その他エリア):+8 (800) 200-38-38

URL:https://www.citibank.ru/RUGCB/JPS/portal/Index.do スベンスカ・ハンデルス・バンク(ZAO Svenska Handelsbanken)

所在地:(モスクワ)Smolenskaya sq. 3, 12th floor,RU-121099 Phone: +7 (495) 961 32 55 Fax:+7 (495) 961 32 56 E-mail:[email protected] (サンクトペテルブルグ)1, Chaikovskogo str., 2nd Floor business centre

SENATOR,191187 St. Petersburg Phone: +7 (812) 332 33 93 Fax:+ 7 (812) 332 33 94

URL:http://www.svenskahandelsbanken.ru/ ドイチェ・バンク(Deutsche Bank Ltd.)

所在地:(モスクワ) Address:4 Shepkina street, 129090, Switchboard Phone:+7 (095) 797-5000 Fax:+7 (095) 797-5017 E-mail: [email protected]

URL:http://www.db.com/russia/ BNPパリバ(BNP Paribas ZAO)

所在地:(モスクワ)Bolshoy Gnezdnikovsky pereoulok 125009 Moscow, Russia Phone : +7 (495) 785 60 00 Fax : +7 (495) 785 60 01

URL:http://www.bnpparibas.ru/en/home/default.as1/2 (出所)各種資料を基に作成 (2) 日系の銀行

2006年末現在、日系の銀行はユーラシア三菱東京UFJ銀行およびみちのく銀行の 2行であるが、三井住友銀行もモスクワに事務所を設立している。 なお、2006年 10月には、みずほコーポレートによるみちのく銀行の海外現地法人の買収が発表され、みずほコーポレートも本格的にロシアビジネスへ参入することとなった8。 日系の銀行は、主として日本人、日本企業の銀行送金、決済サービス等を行っているが、

みちのく銀行はユジノサハリンスク、ハバロフスクに支店を持ち、ロシア人向けに住宅ロー

ンを供与している。

8 みずほコーポレート銀行プレスリリースより。“株式会社みちのく銀行とのロシア現地法人に係る株式譲渡契約及び戦略的業務協力協定の締結について”株式会社みずほコーポレート銀行(頭取:齋藤宏)と株式会社みちのく銀行(頭取:杉本康雄)は、平成 18年 10月 12日付で、下記の内容について合意致しました。①当行が、日本・ロシア両国の関係当局の認可を前提に、株式

会社みちのく銀行が所有するみちのく銀行ロシア現地法人(みちのく銀行(モスクワ))の発行済普通株式 10百万株(100%)を取得すること。②上記株式取得完了までの間、当行がお取引先のロシア関連ビジネスをサポートする為に、お取引先にみちのく銀行ロシア現地法人を紹介すること

等を骨子とした戦略的業務協力協定を締結すること。

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図表 1-44 ロシア進出の日系銀行リスト ユーラシア三菱東京 UFJ 銀行 ZAO Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ (Eurasia)

所在地:4 Romanov Pereulok, Moscow 125009 Russia Phone:7-495-225-8999 Fax: 7-495-225-8998

みちのく銀行 所在地(モスクワ):Ltd.37 Bolshaya Ordynka,Moscow,119017, Russia

Phone:7-495-729-5858, 日本人スタッフ(直通):7-495-729-5888 所在地(ユジノサハリン支店):Michinoku Sakhalin Building 1st Floor,234 Lenina St.,

Yuzhno-Sakhalinsk Phone:日本人スタッフ(直通):(7)509-95-1111

所在地(ハバロフスク支店):Business Center Parus 2nd Floor,5 Shevchenko St.,Khabarovsk

Phone:(7)4212-64-9600 Fax: (7)4212-64-9522

欧州三井住友銀行モスクワ駐在員事務所 Sumitomo Mitsui Banking Corporation Europe Limited, Moscow Representative Office

所在地:Room Number 305, Building 5, Ilyinka St. 3/8, Moscow, 109012 Phone:+7(495)789 3973

(出所)各社ホームページより作成

(3) 口座の開設方法

ロシアでは、顧客との決済・出納業務は決済口座が開設できて始めて可能となるため、企

業登記後には、決済口座を開設する必要がある。なお、決済口座の開設前に仮(貯蓄)口座

を開設し、①口座開設申請書、②法人設立決議、③設立文書、④仮口座開設契約の銀行との

締結をまかせる設立者の代理人への委任状などを提出する必要がある。 また、決済口座開設に際し必要な書類は、①定型様式の口座開設申請書、②国家登記証明

書(公証人あるいは登記機関の認証を受けたコピー)、③法人設立決議、④設立文書(民法に

適合したもの)、⑤税務署登録証明書(原本)、⑥サインおよび印章の見本が示された銀行顧

客カードを3通、1通は公証人あるいは上級機関が認証したものとする。⑦ 口座管理をま

かせる責任者の権限を証明する書類(特に、職員のなかに主任会計士がいれば、その任命書)、

⑧ 口座管理をまかせる権限を与える銀行顧客カードにサインと印章の見本をのせてある責

任者の履歴データ(必要があれば)、⑨ 統一国家企業組織登記簿に当該組織が含まれて入る

ことを示す国家統計機関の通知書、である。

(4) 送金

日本とロシアの銀行間送金については、様々な規制(契約書の存在など、送金目的の確認が必要なケースがある)があるものの、基本的には問題なく行うことができる。 なお、日本とロシアにはソ連時代以来の租税条約が継承され、配当、利子、ロイヤリティ

ーについては源泉国で課税されることもあり、税率はそれぞれ 15%、10%、10%となっている。

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3 02 9 高2 8 等2 7 後 職

2 6 教2 5 育 業

2 42 3 教

2 22 1 上級 高等教育機関 育

2 0 職業1 9 教育 中級

1 8 初等職 職業

1 7 中等普通教育機関 1 1学年 業教育 教育

1 6 普 1 0学年 機関 機関

1 5 9学 年

1 4 通 8学年

1 3 基礎普通教育機関 7学年

1 2 教 6学年

1 1 5学 年

1 0 育 4学年

9 3学 年

8 初等普通教育機関 2学年

76 1学年

5 就4 学 幼稚園

3 前2 教 保育所

1 育0

年齢

第4章 労働事情

1.教育制度

(1) 初等・中等教育

ロシアでは初等・中等学

校は一貫教育であり、子供

が学校に初めて入ってから

10年あるいは 11年間は同じ学校に通学する9。 教育課程は小学校、初等

中学校、高等学校の3つの

段階に分かれており、1~3年生(ないし 1~4年生)は「初等普通教育」、5~9年生の生徒たちは「基礎普通

教育」、10、11年生は「中等普通教育」を受ける。9学年までの教育が義務教育

である。 義務教育を終えた 9年生は、就職、進学のほか、中

等技術学校や専修学校など

の「中等専門教育」に進学

することが出来るが、モス

クワなどの都市部などでは、

生徒の大部分は大学入学を

希望する傾向がみられ、最後の 2年間も「中等普通教育」を受けるために学校に残るケースが多い。 ロシアには国立学校が圧倒的に多いことが特徴で、私立学校が殆どを占める「非国立」学

校も徐々に増加傾向がみられるが、現在でも全国でのシェアは 1.1%に過ぎない。ロシアの国立学校では、ソ連時代と変わらず教育費は無料であり、このようなレベルの高い教育制度

が高い識字率を支えてきたといえる(ロシアの識字率は 98%以上といわれる)。 9 学校の通学期間は 10 年あるいは 11年の 2パターンあり、低学年が3年間ないしは4年間によって異なる。両親あるいは場合によっては学校の勧告により 1年多く勉強する必要があると判断された場合には、4年間のパターンを選ぶケースはあるが、通常は 3年間である。10年間の場合には、生徒たちは 3年生から 4年生を飛ばして、5年生に進級する。

図表 1-45 ロシアの教育制度

(出所)各種資料を基に作成

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(2) 大学

大学はロシアでは正式には「高等教育機関」(VUZ)と呼ばれる。入学できる最低条件は学校の「中等一般教育」ないし専門学校の「中等専門教育」を終了することである。 大学は従来5年制であったが、最近は学士課程を4年(その後、2 年制の修士課程、博士課程への進学も可能)というシステムに変更する学校もみられる。 1990年から 2003年の間にはロシア全土の大学卒業生数が 2倍以上に増加、これは初等中等学校での生徒数の減少と対照をなしており、ロシアにおける高等教育の人気の高さを裏付

けている。高等学校における大学進学率は約 85%で、大学入学者のうちの 5%程度は社会人の入学者といわれている。最近は、経済・マネージメント専攻卒業生が5倍近く伸びている

ことが特徴的である。 ソ連時代には義務教育同様に大学の教育費は無料であったが、最近は有料化する学校も見

られる。大学によっては、「有料学部」と「無料学部」が存在しており、どちらに入学する

かは、ロシアの殆どの大学で受験生が自分で自由に選択できる。学生があえて「有料学部」

を選択する理由は、「有料学部」の方が「無料学部」より競争率が低く、入学しやすいこと

があるといわれている。

図表 1-46 ロシアの主要大学一覧 機関名 日本語コース有り

モスクワ国立バウマン技術大学 モスクワ国立大学 ○ ロシア連邦政府付属金融アカデミー 国立管理大学 ウラル国立技術大学 高等経済学院 ロシア経済アカデミー モスクワ・エネルギー大学 イワノヴォ国立エネルギー大学 モスクワ航空大学 モスクワ物理・技術大学 カザン国立大学 ○ ペルミ国立技術大学 トムスク工科大学 サンクトペテルブルグ国立大学 ○

(出所)『コメルサント・ジェーニギ』誌(2006、No.12)

(3) 英語教育

全国全ての学校、大学、その他教育機関において英語の授業は必修となっている。英語教

育は、通常 5年生(場合によっては 3年生)から開始され、11年生まで継続される。授業時間は週に 2~3時限であるが、英語の授業が集中的に行われる専門学校では週に 8~9時限というところもある。

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一般的には、ロシア人の英語能力は高くないといわれており、大学で教育を受けた者しか

基本的には英語が出来ない。また、大学教育を受けても、語学大学でない限り、口頭でのコ

ミュニケーションは殆ど出来ないといわれる。但し、最近は大都会の若者の英語能力がかな

り高まっており、一般的な会話は出来るようになるなど変化が見られる。外国で教育を受け

る人数も増加している。

2.労働者の現状

ロシアの人口は、ソ連解体後減少傾向が続いており、男性の平均余命は 60歳未満となっている(図表 1-47)。人口が減少している背景には、ソ連解体後、ソ連時代の医療システム

が崩壊し大きな経済混乱があったために、出生および子育ての環境が悪化したこと、またス

トレス増加によるアルコール中毒その他の疾患が増え、死亡率が増加したことが理由として

あげられる。 貧困層は近年減少してきたが、ここ数年は下げ止まりの傾向もみられる。賃金は大きく伸

びており、実質賃金は 10%近い上昇、実額で 20%を上回る上昇傾向が続いている。とりわけモスクワなどの大都市での賃金上昇傾向が著しく、モスクワ等の大都市でのビジネス展開

上、大きな課題となっている。経済成長に伴い、失業率は低下傾向にあり、特にモスクワな

どの大都市では人手不足の状態が続いている。しかしながら、地方では失業率が高いところ

も多く、失業率の大都市と地方の格差は依然として大きい。 図表 1-47 ロシアの人口・労働関係データ

2000 2001 2002 2003 2004 2005 実質賃金上昇率(%) 12 9 11 15 9.9 8.8 平均月額賃金(ルーブル) 2,223 3,240 4,360 5,499 6,740 8,550 最低月額生計費(ルーブル) 1,210 1,500 1,808 2,112 2,376 3,031* 最低生計費以下人口比(%) 28.9 27.3 24.2 20.6 17.8 18.5* 人口(100万人) 145.2 144.4 145.2 144.6 143.8 143.1 労働可能人口(100万人) 71.5 71.0 71.1 71.4 72.9 72.0 雇用人口(100万人) 64.3 64.7 65.4 65.7 66.7 65.8 失業率(%) 9.8 8.9 8.0 8.4 8.2 7.9* ルーブルレート(1ドル当り) 28.16 30.14 31.78 29.45 27.75 28.78 平均余命(歳) 男 59.07 58.92 58.68 58.55 58.89 … 〃 女 72.29 72.17 71.90 71.84 72.30 … (注)*推定。 (出所)ロシア保険・社会発展省ホームページおよび国家統計庁、ロシア中銀データから作成。

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人口構成もいびつであり、若年層

の人口減少問題が深刻化しつつある

(図表 1-48)。中高齢層の人口構成

がいびつになっているが、とくにロ

シア革命後の混乱期(70歳前後)、第二次大戦時(60歳前後)に生まれた世代およびその子供の世代の人口

が少なくなっている。

(出所)ロシア国家統計庁HPより作成

3.従業員の雇用 ~従業員の組織図、労働契約書の締結が必須~

従業員の採用は、新聞、インターネットなどで

の公募、仲介会社を通じた採用、縁故採用などが

あるが、仲介会社を利用するケースは、ロシアで

も一般的になってきており、日系企業でも仲介会

社を利用するケースが多く見られる。しかしなが

ら、正職員のヘッドハンティングの場合には、仲

介手数料は月収の数カ月にもなるケースもある。

なお、オフィスワーカーを派遣社員で供給する会

社もあるが、これは労働契約を結ぶ必要がないという点で、企業にメリットがある。 使用者は、労働者に労働条件を提示する労働契約を締結する義務を負っている。使用者と

労働者で締結される労働契約の記載条項は労働基本法に規定されている(上 BOX参照)。 労働契約書の記載事項に、“職務、具体的任務”とあるように、会社内の組織図と当該労働

者の配置図というものが必要となる。なお、日本同様、試用期間というものも認められる。

労働契約書の記載事項 ・労働者の姓,名、父称 ・使用者の名称 ・労働する場所 ・職務の名称 ・労働者の専門、資格、具体的任務 ・使用者および労働者の権利と義務 ・労働条件の特徴と労働と休暇の体制 ・労働報酬の条件 ・労働活動と直接関係する社会保険の種類と条件

図表 1-48 ロシアの性別・人口ピラミッド

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解雇については、一般的に非常に難しいのが現状であり、一方的な解雇は、飲酒、麻薬等

の犯罪に関わることでない限り困難である。従って、当該労働者の同意を得て依願退職の形

をとるのが一般的であり、相互の合意の上での退職というものが望ましい。その他の、解雇

の理由としては組織上、その仕事がなくなったための退職なども問題が少ないため、組織図

と職員の仕事の内容の明確化は大前提であるといえる。

4.労働条件

(1) 労働報酬

労働報酬は、労働契約書のなかで規定される。最低賃金制度があり、月の最低賃金は 2006年末現在で 1,100ルーブル(約 5,000円)であり、給与の支払い回数は、月 1回あるいは 2回などのケースも多い。1年間の労働契約書において賃金が定められるため、各人の賃金の基礎を変更することは難しい。ロシア人は、賃金に関する情報交換を積極的に行うため、労

働者は社内全員の給与情報、同業他社の給与は把握していると考える必要がある。少なくと

も、2006年のモスクワに限れば、賃金水準は非常に高い伸びを示しており、日本と大きく変わることはない水準であるという認識でいたほうが良いであろう。モスクワでは月額 10万円以上が最低ランクであるとみてよい。 残業代は、最初の2時間については、所定の 1時間当たり賃金の 1.5倍以上の割増、それ以降の時間は2倍以上の割増により支払われる。休日および祝日も2倍以上の割増により支

払われる。

(2) 労働時間

一週間の標準労働時間は 40時間を超えない。また、労働時間の上限(超過勤務時間)は、2日連続で 4時間を越えることが出来ず、年間 120時間となっている。 交代制もあるが、オフィスワークなどは、月曜日から金曜日までの労働で、土日が休日と

なる。また、休日前、すなわち金曜日は1時間早めに終了することが労働基本法に書かれて

いるので、金曜日は早めに終わるところが珍しくない。 (3) 休憩および休日

一労働日(一交替)において、労働者には、休憩および食事時間として 30分以上、2時間以内の連続した休憩時間が与えられる。この時間は労働時間には計上されない。休日は、5日の労働週の場合は 2日の休日、6日の労働週の場合は、1日の休日が与えられなければならない。共通の休日は日曜日である。2日目の休日(5日の労働週の場合)は労働協約によって定められる。休日は、原則として連続して(土曜日と日曜日)与えられる。これら以外に、非労働の祝日として、ロシアでは以下のようなものがある(BOX参照)。

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ロシアの休日となる祝日 1月1~5日(新年休暇) 1月7日(キリスト生誕祭、クリスマス) 2月 23日(祖国防衛の日) 3月8日(国際婦人デー) 5月1日(春および労働の日) 5月9日(戦勝記念日) 6月 12日(ロシアの日) 11月4日(国民統一の日)

休日と祝日が重なる時は、祝日後の労働日に休日

が移動される。休日および祝日の労働は、原則と

して禁止される。労働が許可されるのは、書面で

の労働者の同意をとった上で、例外的場合にのみ

である。 主な労働休暇は、毎年の有給休暇であり、原則

として 28日であり、初年度から適用される。その他、育児休暇、教育訓練休暇、無給の休暇など

が規定されている。

5.社会保険、健康保険制度 使用者は、すべての労働者に対する統一社会税を付保することが義務付けられている。統

一社会税は、労働者の給与の税率 26%であり、義務的医療保険、労災事故などへの給付を含む社会保険などへの負担分、年金基金などへの負担として使用者が支払う。なお、税率は 26%が最高であり人件費が上昇するに従い、累進的に税率は下がる。 なお、日系企業をはじめとする外資系企業は、国の医療保険とは別に、民間の医療保険に

加入し、従業員が病気の際には提携病院に通院するというシステムを導入しているとことが

多い。 6.労使関係 個別の労働契約があれば、労働協約を締結する義務はない。しかしながら、労働組合が組

織された場合などは、労働協約は、労働者と経営側との間で集団的に締結されるものである。

その中には、次の点についての義務を書くことが可能である。 ● 労働報酬の形態 ● インフレおよび労働協約で定められる指標を考慮した労働報酬の調整メカニズム ● 労働者の雇用、再教育、解雇の条件 ● 労働時間、休暇の取得及び期間の問題を含む休憩時間、 ● 女性および若年労働者等の労働保護および条件改善 ● 組織および官庁の住宅の民営化に際して、労働者の利益の順守 ● 生産現場の環境保護および健康対策 ● 労働協約を順守している際のストライキの禁止 労働組合は、自主的な社会団体であり、社会および労働の利害を守るために創られる。労

働組合は、代表権、社会労働の保護権および労働者の利益を保護する権利、雇用に影響を与

える権限、団体交渉権、労働協約締結権などの権限を保有する。 ロシアにおける労使関係は、ヨーロッパに近い労働者保護が行き届いたシステムになって

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いるが、労働組合の組織率は低く、労働者が個別に経営側と交渉するケースが多い。しかし

ながら、大規模になると団体交渉に近いものもあるようである。また、ストライキは多くは

ないが、時々みられており、外資系自動車会社ではフォードで主に賃金上昇をめぐりストラ

イキがしばしば行われているほか、労働協約の締結をめぐり労使の間で紛争がある。

7.人材(進出日系企業の声については、各地域編参照) ロシアでは、一般的に高等教育が行き届いているので、ホワイトカラーを中心に全般的な

人材の水準は高い。しかしながら、優秀な人材は、モスクワ、サンクトペテルブルグなど欧

州部、都市部に集中、場合によっては海外に流出する傾向もあり、必要な人材確保は容易で

はない。とくに人材確保の上の問題点としては、以下のようなことが挙げられる。 ● 都市部、とくにモスクワでの賃金の高騰と需給の逼迫。 ● 定着率が悪く、雇用を維持確保することが困難。 ● 日本語のできる人材は非常に限られる。英語を使用する人材は増加しているが、大きく

不足しているのが実態である。場合によっては企業内で再教育する必要がある。 また、ロシアでは、チームワークでの仕事に慣れていない。報告、連絡などが徹底しない

などの特徴があり、日系企業では朝礼の実施、出張は必ず複数で実施し、出張報告を徹底さ

せるなどにより、企業の一体感を高めるなどの措置をとっているところもある。但し、日本

への関心は一般的に高いので、日本への研修旅行などは、従業員を会社につなぎとめるため

のインセンティブとしては有効であるとの声も聞かれる。

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第5章 物流・インフラ

ロシアの輸送インフラは全体的に老朽化が著しく、その整備が緊急の課題である。 2004年時点のロシア国内の輸送は、貨物部門(トンベース)では鉄道輸送が圧倒的に多く(全体に占める比率は 66%)、自動車輸送は全体の 27%程度である。但し、長距離輸送に占める鉄道の比率(トンキロベース)は、全体の 93%と圧倒的に大きい。この背景には、ロシアは国土が広く(またシベリアもあるため)道路整備が一部の地域に集中し、網羅的に発達

しなかったことがある。旅客部門(輸送人ベース)では、1990年代は鉄道輸送と自動車輸送がほぼ均衡していたが、近年は自動車輸送が減少してきている。

図表 1-49 輸送手段別輸送量の構成の変化

2004年(トンベース) 2004年(トンキロベース)

1995年 2004年

(出所)ロシア連邦国家統計局『ロシアの運輸』(2005年、モスクワ)

貨物

旅客

海運1%

自動車27%

鉄道66%

内陸水運6%

航空0.05%

水運0.1%鉄道

4%

航空0.1%

自動車48%

都市電車48%

自動車1%

海運4%

内陸水運2%

航空0.2%

鉄道93%

鉄道4%

都市電車45%

自動車51%

航空0.1%

水運0.1%

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図表 1-51 東シベリア鉄道管区の路線図

1.鉄道 (1) 概況

鉄道の総延長は 8.5万 km、そのうち 4.45万 kmが電化されている(2005年)。ロシアの鉄道は、国営の株式会社「ロシア鉄道」(ОАО "Российские железные дороги";略称 РЖД)によって運営されており、広大な地域を管理するために、地域ごとに鉄道総局が設けられて

いる(モスクワが統括)。 ロシアの鉄道は一般的に、老朽化が進んでおり、1992 年に 36%であった鉄道資産の老朽化率は 2000年には 55%に達し、設備の半分以上が耐用年数を過ぎているという深刻な事態に陥っている。設備老朽化の背景には、ソ連解体後に国家からの資金提供が停止したため、

設備投資資金の大半を自己資金から捻出する必要に迫られていたが、折からの輸送量の減少

から自己資金不足に陥っており、投資額は大きく減少したことがある。

(2) 主要路線

①東シベリア鉄道管区

営業距離は 3,848.1kmで、路線はイルクーツク州、チタ州、ブリ

ヤート共和国、サハ共和国(ヤク

ーチャ)に通じている。輸送貨物

は、鉱物資源(鉄鉱石、石炭)採

掘、木材加工、エネルギー、化学

品、非鉄金属が中心である。 東シベリア鉄道の北方線区は

バイカル‐アムール鉄道で、2003

図表 1-49 ロシアの鉄道網

(出所)OAOロシア鉄道(以下すべて同じ)

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図表 1-52 ゴーリキー鉄道管区の路線図

図表 1-53 極東鉄道管区の主要路線図

年 12 月には、ロシア最大のセヴェロ・ムィスキートンネルが開通した。管理局はイルクーツク市にある。

②ゴーリキー鉄道管区

総延長距離は 1.21万 km、営業距離は 5,734km。路線は 6共和国(モルドビア、チュワシ、

ウドムルト、タタールスタン、

マリ‐エル、バシキール)と 9州(モスクワ、ウラジーミル、

ニジェゴロド、キーロフ、ペル

ミ、スヴェルドロフスク、ヴォ

ログダ、リャザン、ウリヤノフ

スク)に通じている。モスクワ

~ニジニノヴゴロド~キーロ

フ線とモスクワ~カザン~エ

カテリンブルグ線が並行して

運行しており、その間は連絡道路で結ばれ

ている。同鉄道は、ロシアの中央部、北西

部、北部と沿ヴォルガ、ウラル、シベリア

を結んでいる。管理局はニジニノヴゴロド

市にある。 ③ 極東鉄道管区

営業距離は 5,986.2kmで、路線は沿海地方、ハバロフスク地方、アムール州、エヴ

ェンキ自治州に通じている。同鉄道によっ

てロシアの輸出入品の 30%以上、およびトランジット輸送の 25%以上が輸送されている。太平洋側の港湾であるワニノ、ナホ

トカ、ヴォストーチヌィ、ウラジオストク、

ポシェットと直結している。管理局はハバ

ロフスク市にある。

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図表 1-55 モスクワ鉄道管区の路線図

④西シベリア鉄道管区

総延長距離は 8,985.6kmで、営業距離は 5,602.4km。オムスク州、ノヴォシビルスク州、ケメロヴォ州、アルタイ地方とカザフスタン領の一部に通じている。主要な取り扱い物資は、

石炭(70.8%)、建材(5.5%)、石油貨物(4.5%)、鉄鋼(3.8%)である。管理局はノヴォシビルスクにある。

図表 1-54 西シベリア鉄道管区の路線図

⑤モスクワ鉄道管区

営業距離は 1.3万 kmで、10の構成主体の輸送を担当し、7 つの管区(モスクワ~クルスク、モスクワ~リャザン、モ

スクワ~スモレンスク、ツーラ、オルロ

フ~クルスク、スモレンスク、ブリャン

スク)。国民のほぼ 3 分の 1 がこの鉄道を利用している。 管理局はモスクワにある。

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交通渋滞のモスクワ

⑥オクチャーブリ鉄道管区

営業距離は 1.01万㎞で、レニングラード、プスコフ、ノヴゴロド、ヴォログダ、ムルマンスク、トヴェリ、モスクワ、ヤロスラヴリの各州、モスクワ市、サンクトペテルブルグ市と

カレリヤ共和国を通過している。北西連邦管区に占めるオクチャーブリ鉄道の比率は、貨物

輸送の 75%、旅客輸送の 40%を占める。 ヴィボルグ~サンクトペテルブルグ~モスクワ線は、「クリツキー国際輸送回廊」の第 10環節であり、オクチャーブリ鉄道は「北-南」「欧州‐アジア」の各国際輸送回廊と結ばれて

いる。管理局はサンクトペテルブルグにある。 図表 1-56 オクチャーブリ鉄道管区の路線図

2.道路

道路の総延長距離は 87万 1,000km、うち60万 1,000kmが一般利用道路である。一般利用道路の舗装率は68.5%である(2004年)。 ロシアでは、全国的な道路網は余り発達し

ておらず、人口が集中するウラル以西の中央、

北西、南、沿ヴォルガの4連邦管区を中心に

展開しており、この4連邦管区だけで全体の

約7割を占める(p1の地図参照)。 モスクワなど大都市では、都市計画により

整然とした広い大通りが確保されているものの、最近は富裕中間層の増大もあり、自動車普

及率が急速に高まっていることから、都市内交通事情はかなり悪化している(モスクワ、サ

ンクトペテルブルグ市周辺の道路事情については、各地域編参照)。

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3.港湾

ロシアの港湾を地域別に分けると、北西部、南部、極東部の3つに分類される。広大な国

土の中で海洋に接するのは西端と東端だけであり、北辺の海は氷結しており、南辺ではわず

かに一部が黒海に向けて開いているのみである。

図表 1-57 ロシア諸港の地域別貨物取扱構成 (単位 1,000t)

貨物取扱量 2005/2004 内訳 2004 2005 前年=100 液体 ドライ

ロシア全体 北西部 南部 極東部

364,023.8 151,384.6 142,356.6 70,282.6

406,971.6 178,450.6 159,022.7 69,498.3

111.8 117.9 111.7 98.9

233,744.3 106,706.5 112,083.8 14,954.0

173,227.3 71,744.1 46,938.9 54,544.3

(注)北西部の主要港は、サンクトペテルブルグ港、ムルマンスク港、カリーニングラード港など、南部は、ノヴォロシースク港やトゥアプセ港など。

(出所)『ロシアの海洋港』誌(2006、No.1)。

(1) 北西部

サンクトペテルブルグ港は、バルト海のフィンランド湾東部のネフスキー河口にある、ネ

ヴァ川の三角州の諸島に位置しており、ロシア北西部における最大の輸送拠点である。11月末から4月初めまでは、港地区にあるネフスキー河口は氷結するため、この時期、船舶の動

きは、砕氷船によって確保される。同港は大都市を後背圏としているため、輸入貨物の割合

が高く、全体の約4割程度を占める。なお、同港は、オクチャーブリ鉄道管区内の路線に連

結している。 北西部には、その他、バルトパイプライン・システムの出口として建設されたプリモルス

ク港がある。近年開発されたウスト・ルーガ港では、ターミナルなど商業用港湾施設の建設

が進められている。

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最北西部に位置するムルマンスク港は、バレンツ海沿岸のコラ半島に位置する。非常に厳

しい冬季にのみ、港のあるコラ湾は完全に氷結する。この場合、船舶の水先案内は砕氷船と

タグボートが行う。

(2) 南部

ロシア領内の黒海沿岸には、石油パイプライン・システムに繋がった 2ターミナル(ノヴォロシースクとトゥアプセ)がある。 ノヴォロシースク港はクラスノダル州の黒海沿岸に位置し、石油関連が約 75%を占め、ロシア最大の石油積み出し港であり、またロシアで最大の不凍港である。ノヴォロシースクと

保養地として有名なソチの間には穀物積み出し港のトゥワプセがある。

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(3) 極東諸港

ロシアの港湾の貨物取扱量全体に占める極東諸港のシェアは約 17.1%、ドライカーゴに限れば約 31.5%である。貨物は主に輸出向けであり、全体の 70%を占める。極東地域には貨物取扱量が年間 100万トンを超える港が 6つある。ヴォストーチヌィ港、ナホトカ港、ウラジオストク港(沿海地方)、ワニノ港(ハバロフスク地方)、ホルムスク港(サハリン州)、ポ

シェット港(沿海地方)である。2005年の貨物取扱量でみると、ヴォストーチヌィ海港が約1,984 万トンと突出しており、次いで、ナホトカ商業海港、ウラジオストク商業海港、ワニノ港の3港が 600万トンで続いている。1~2月はウランゲリ湾が氷結する。 極東諸港には、シベリア鉄道を利用したアジア太平洋諸国と欧州諸国を結ぶトランジット

コンテナ輸送のアジア側の中継基地としての役割があり、主にヴォストーチヌィ海港がその

役割を担っており、毎年 10万 TEU以上のトランジットコンテナが同港の専用ターミナルを通じて発送されている。コンテナターミナルは VICSが運営している。シベリア鉄道によるヨーロッパへのトランジット輸送に要する日数は 12日で海上輸送(日数は 40日)より格段に短いが、運賃が高いため、利用度は低い。

図表 1-58 ハバロフスク地方の主要海港

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図表 1-59 沿海地方の主要海港

4.空港

(1) 概況

2004年の航空貨物輸送量は 30億トンキロと全体の 0.03%にすぎない。一方、旅客輸送は830億人キロで総旅客輸送量の 17.7%を占める。ソ連解体後、航空事業を独占してきたアエロフロートは分割され、現在は約 216社のエアーラインが存在する。主要な航空会社としては、アエロフロート(拠点:モスクワ、シェレメチェヴォ)、プルコヴォ航空(同サンクトペ

テルブルグ)、S7(同ノヴォシビルスク)、クラスエアー(同クラスノヤルスク)等がある。 主要空港別の乗客数は図表 1-60のとおりで、モスクワのシェレメチェボおよびドモジェド

ボが国際便の離発着の主要空港であることから、多くなっている(各空港の位置図は、p1参照)。

図表 1-60 ロシアの主要空港

空港名 乗客数(2004) シェレメチェヴォ(モスクワ) ドモジェドボ(モスクワ) プルコヴォ(モスクワ) ブヌコヴォ(モスクワ) トルマチェヴォ(ノヴォシビルスク) コリツオヴォ(エカテリンブルグ) エメリャノヴォ(クラスノヤルスク)

636万人 604万人 218万人 121万人 72万人 73万人 58万人

(出所)国土交通省総合政策局国際企画室『主要国運輸事情調査報告書 ロシア』

ウラジオストックの港

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(2) 航空便数と所要時間

成田~モスクワには全部で5社のエアーラインが乗り入れているが、直行便はアエロフロ

ートと日本航空のみである(いずれも、シェレメチェヴォ空港を使用)。

日本海側の地方都市とロシア極東部には、4社が就航している。

図表 1-61 日本=ロシア間の便数

目的地 便数 成田=モスクワ間(約 10時間) 9 モスクワ=成田間(約8時間) 9 新潟=ハバロフスク間(1.5時間) 4 函館=ユジノサハリンスク(約1時間) 4 千歳=ユジノサハリンスク(約 1.5時間) 2 新潟=ウラジオストトク(1時間) 4 富山=ウラジオストク(1時間) 6

(出所)各航空会社のHPに基づき作成

5.電力

(1) 概況

ロシアでは、経済の好調さを背景とした電力需要の急激な伸びに電力供給が追いつかない

状況が生じつつあり、特に2003年以降の伸びは政府の予想を大きく上回るものとなっている。2003年に作成された政府文書「2020年までのロシア連邦のエネルギー戦略」によれば、2005年時点の電力需要は最大で9,350億kWhと予測されているのに対し、同年の実際の電力需要量は9,438億kWhに達した。この状況からは、ロシア政府が2003年以降の電力需要の急激な伸びを全く予測しておらず、有効な対応策も準備出来ていなかったことが分かる。そのため、

2005年末から2006年にかけての冬には、モスクワ(モスクワ市およびモスクワ州)、サンクトペテルブルグ(及びレニングラード州)、ロシア最大の石油ガス産地であるチュメニ州(ハ

ンティ・マンシースク自治管区およびヤマロ・ネネツ自治管区を含む)で部分的ではあるが

給電制限が行なわれた。 このような状況に対し、ロシア最大の電力会社「統一電力システム(以下UES)」およびロシア政府は、停滞していた電力分野の改革の促進や、老朽化した設備の刷新および設備の

新規建設を可能とする具体的資金調達方法の立案等の現実的な危機打開策に、漸く取り組み

始めた。しかしながら、新しい発電所の建設期間を考慮すると、当面は電力不足の状況が続

く可能性が高く、ロシアで現地生産を実施中もしくは計画している日本企業にとって大きな

不安要因の一つであるといえる。

(2) 今後の見通し

2006~2007年の冬は、電力供給状況はさらに厳しくなると見込まれており、UESは2006年9月の時点で、今度の冬に給電制限が行なわれる可能性が存在する地域のリストを作成し

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ている。そのリストによれば、既述の3地域(モスクワ、サンクトペテルブルグ、チュメニ)

の他に、トゥワ(2006年1~8月期の電力消費量は前年同期比で1.1%増加した)、スヴェルドロフスク(3.6%)、ペルミ(2.9%)、チェリャビンスク(6.26%)、ウリヤノフスク(2.6%)、サラトフ(5.2%)、ヴォログダ(5.02%)、ニジェゴロド(2.8%)、クラスノダル(6.94%)、ダゲスタン(5.12%)、アルハンゲリスク(3%)、コミ(4%)、カレリヤ(7.04%)の13の地域が含まれている。電力需要の伸びがそれほど大きくない地域でも給電制限が予定され

ているのは、当該地域の発電設備や送電設備等に問題があるためである。例えば、トゥワや

コミでは、送配電システムが他の地域のシステムと連結していないため、他地域からの電力

供給を受けることが不可能であることが、電力不足への対応を困難にしている。また、ペル

ミ等の一部の地方では変電所の状態が悪く、他地域から電力供給を受けることが困難になっ

ているようである。先にも述べたとおり、電力設備への投資強化の努力は開始されたばかり

のため、少なくとも今後3~4年は、冬場および夏場のクーラー使用がピークになる時期に給電制限が行なわれる頻度が高まり、かつ地域的にも広がりを見せることはほぼ確実とみられ

ている。

図表1-62 ロシアの発電量の推移 (単位 10億kWh) 1990 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

ロシア全体 うち火力 水力 原子力

1,082 797 167 118

847 583 155 109

834 567 158 109

827 563 159 105

846 563 161 122

878 582 165 131

891 578 176 137

891 585 164 142

916 608 158 150

932 609 178 145

952 628 175 149

(出所)ロシア連邦国家統計局

図表1-63 電力消費の状況 (単位 10億kWh) 需要家内訳 1990 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 工 業 農 業 運 輸 その他

625.9 96.4 103.8 247.7

440.2 88.6 65.2 246.4

424.9 85.9 64.9 252.0

421.4 78.1 63.5 251.4

412.0 75.0 60.0 262.1

430.3 72.0 60.6 269.2

455.9 68.1 60.9 278.8

462.8 63.0 63.1 286.5

462.5 60.1 67.8 288.0

479.0 57.8 75.2 290.9

490.7 56.4 80.3 296.9

… … … …

合 計 1,073.8 840.4 827.7 814.4 809.1 832.1 863.7 875.4 878.4 902.9 924.3 943.8 (出所)同上

(注)Kashirskaya Regional Power Plant (出所)http://www.ogk1.org/en/

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6.通信事情

ロシアの通信市場での広大な国土から電話線の敷設などの設備投資が求められる固定電話

の普及率(3,700台、4人に1人)は中進国平均水準をやや下回る水準であるが、他方で、携帯電話やパソコン、インターネットの普及率は比較的高く、BRICsの中では、パソコン、携帯電話でトップ、インターネットではブラジルに次いでいる(図表1-64)。特に、モスクワ、

サンクトペテルブルグなどの都市部での普及率は極めて高くなっている。 なお、ロシアのコンサルティング会社 AC&M調査よれば、2005年末現在で、ロシアの携帯電話普及率は 86.6%に達したといわれており、通信事情に関する問題点は、現地進出日系企業からも余り指摘されていない。

図表 1-64 BRICsにおける IT機器の普及率(2004年)

パソコン (100人当り普及台数)

携帯電話 (100人当り契約者数)

インターネット (100人当りユーザー数)

中国 インド ロシア ブラジル

4.1 1.2

13.2 10.7

25.8 4.4

51.6 36.3

7.2 3.2 11.1 12.2

(出所)『2006年版 ジェトロ貿易投資白書』(ジェトロ、2006年)

7.物流

(1) 日本からロシアへの輸出ルート

日本からロシアへ輸出する場合は、横浜港などからドイツ、フィンランド等の欧州港を経

由して、サンクトペテルブルグ港へ輸送する海上ルートとシベリア横断鉄道を利用する陸上

ルートの 2つのルートが通常利用される。 欧州港経由の海上ルートの場合には、図表 1-65のように、日本からはエジプトのスエズ運

河を通過して、地中海を周り、北のハンブルグ(ドイツ)等の主要港で荷物の積み替えを行

う。欧州港で小型フィーダー船に積み替えされた荷物は、サンクトペテルブルグ港に直接輸

送されるか、あるいはフィンランド、ラトビア、エストニアなどの港から、陸路トラックで

輸送されるケースが多く見られる10。ラトビア、エストニアは EU に既に加盟しており、ロシアまでの間に通過する国境が少ないことがメリットであり、欧州隣国との輸送では 9割がトラック輸送で、1割が鉄道の利用となっている。 日本からモスクワへ貨物を輸送する場合の所要日数は、海上ルートでは約1ヶ月、料金は

40フィートコンテナ当たり、海上ルートで 3,500ドルである(参考価格)。

10 ハンブルグで小型フィーダー船に乗り替えた荷物は、サンクトペテルブルグ港まで約 3日かかる。

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図表 1-65 欧州港経由ルート地図

(出所) 日新のユーラシア大陸一貫輸送サービス(ユーラシア・ランドブリッジ)、

日新社資料に加筆 シベリア鉄道を利用する場合には、極東のナホトカを出発し、陸路サンクトペテルブルグ

まで約 2週間程度で到着する(シベリア鉄道のルートは図表 1-67 参照)。 欧州経路の海上ルートに比較すると、所用期間が半分で済むことが大きな魅力であるが、

輸送料金は 40フィートコンテナ1個当たり、陸上ルートで 4,050ドルと海上ルートに比べてやや高めとなっている11(参考価格)。 また、鉄道利用に際しては、鉄道の車両は最低 54両、最高 75両まで引けるものの、全車両が一つの目的地で占めている場合には問題はないが、最低でも 54両を占有しない場合には、54両に満たない部分は他の地域向けの荷物と混載されることになる。荷物の目的地が異なる場合には、途中での荷物の積み下ろし、補充などが行われることから、スケジュールは

他の荷物の状況を勘案した上で管理する必要が発生し、タイミングの予測が容易ではなくな

る点には留意が必要である。

11 鉄道料金が上がっていることも問題点の一つであり、ロシア鉄道によれば「早いのだから、

高くしたい」という意向がある。

サンクトペテル ブルグ港

主要 船舶 ルート

スエズ

運河

ハンブ

ルグ

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図表 1-66 シベリア横断鉄道を利用した場合の輸送日数と費用

ルート 所要日数 輸送料金(㌦/個) 20Fコンテナ

輸送料金(㌦/個) 40Fコンテナ

上海~東ナホトカ~モスクワ 15.5 2,220 4,050 上海~東ナホトカ~クラースノエ 16 1,211 2,111 上海~東ナホトカ~ブスロフスカヤ 16.5 1,213 2,115 上海~東ナホトカ~ロコチ 12.5 1,365 2,120 (出所)OAOロシア鉄道

図表 1-67 シベリア横断鉄道のルート図

(出所)OAOロシア鉄道

(2) オフショア通関

ロシア北西部最大の港である、サンクトペテルブルグ港の処理能力の問題や、通関事情の

悪さ(手続きが複雑かつ変更が多い、運用が属人的、所要時間・コストなどが膨大となる、

グレー通関(次頁ボックス参照)など)もあり、フィンランドなどの周辺国の港に荷揚げさ

れたものを、陸路を用いて国境際にロシア側から荷物を引き取りにくる“オフショア通関”

によるケースが多く見られる。 フィンランドでは、ロシア・CIS(独立国家共同体)市場向けに輸送するトランジット物流が盛況であり12、ロシア国境に近いハミナ港、コトカ港および自動車専用ターミナルがあ

12 フィンランドの物流事情については、ジェトロセンサー2007年 1月号「森林資源と技術力求め日本企業が集積」より一部抜粋。

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るハンコ港の陸揚げ量は増加傾向がみられ

る。ロシアの玄関口となるフィンランドの

優位性として、①距離的な近さ(サンクト

ペテルブルグとハテナ・コトカ港までの距

離は 270~280km)、②港湾設備の充実とその信頼性などが上げられる。 フィンランドでの取引に際しては、決済

や在庫の保税手続き上のリスクがないこと

が魅力の一つであったが、最近ではロシア

の通関関連問題が徐々にではあるが改善し

つつあること、フィンランドルートのキャ

パシティーも限界に近いことなどから、ロ

シア国内通関を利用するケースも最近では、

増加しつつある。なお、フィンランド税関

からモスクワまでは 24時間で到着可能である。

フィンランド

サンクトペテルブルグ

エストニア

BOX: ロシア物流事情の問題点 ~グレー通関について~ ・ ロシアではグレー通関(通関の際、通関価格を過少申告し、関税、輸入. VATを実際よりも少なく払う。あるいは通関個数の過少申告、単価の安い品物と偽っての申告なども含む)が横行しており、通関手続き上の大きな問題となっている。

・ ロシア側の通関担当者は、正規関税との差額分を、物流業者から現金で受け取っているといわれており、不透明な資金要求の温床になっているほか、正規手続きを踏んで輸入された製品が、こうして安く輸入されたグレー通関の製品との価格競争にかなわないため、実質的に国内販売市場に参入できないことも問題点として指摘される。

・ 外資系の物流企業は、これまで、グレーな通関に携わることを避けるため、フィンランドなどで取引を行い、フィンランドでロシア業者に受け渡しを行い、ロシアの業者に任せるケースが多く見られてきた。

・ 現状では、一般的にサイズの大きな商品ほどグレーインポートが困難といわれており、白物家電、自動車はかなり正規での通関が拡大しているものの、依然として家電、携帯電話では 6 割から 9割がグレー通関で輸入されたものといわれている(2006年 12月時点の現地有識者からのヒアリングベースの数字。但し、2005 年夏以降は、携帯電話、AV 家電に関してはグレーインポートは減少傾向にあるため、数字はあくまでも参考)。

・ WTOの加盟により、こうした問題が徐々に改善されることが期待されるが、関税部分を引き下げても、グレー通関の問題点である手続き面について改善されなければ、根本的な問題解決にはならないと指摘される。

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第6章 ロシア投資環境の優位性と留意点

1.優位点

(1) 国内市場規模

ロシアの人口は1億 4,300万人、最近は人口減の傾向は見られるものの一国で 1億超の市場は魅力的である。また、人口 1,000万人超のモスクワ市、460万人のサンクトペテルブルグ市をはじめとする、100万人都市は全国に 13箇所(以下 BOX参照)もあり、販売市場としての魅力は大きい。

BOX: ロシアの 100万都市

ロシアには 13の 100万都市があり、今後最も発展すると予想される。

モスクワ(1,036 万人)、サンクトペテルブルグ(467 万人)、ニジニノヴゴロド(ニジェゴロ

ド州、131万人)、エカテリンブルグ(スヴェルド

ロフスク州、129万人)、サマラ(サマラ州、116

万人)、オムスク(オムスク州、113 万人)、カザ

ン(タタールスタン共和国、111万人)、チェリャ

ビンスク(チェリャビンスク州、108万人)、ロス

トフナドヌー(ロストフ州、107万人)、ウファ(バ

シコルスタン共和国、104万人)、ヴォルゴグラー

ド(ヴォルゴグラード州、101万人)、ペルミ(ペ

ルミ地方、100万人)。このうち、オムスク(シベ

リア連邦管区)を除けば、すべてウラル以西に位

置し、5つの都市が沿ヴォルガ連邦管区に属して

いる。

(2) 持続的な成長

1998年にロシアを襲った金融危機から回復して以降、経済は安定成長を続けており、昨今はエネルギー価格高騰の影響で、高い経済成長率を記録している。ロシア経済はエネルギー

セクター依存度が高いため、原油価格が今後も1バレル=30ドル以上で推移するならば、最低でも年率 4%程度の高い経済成長が持続するものと考えられる(原油価格と経済成長の関係は、p13 参照)。

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(3) 質が高く安価な労働力

ロシアでは国民の教育水準の高さを反映して、高度な知識や技術を要するビジネス分野で

は質の高い労働力を比較的低廉に入手することが可能である。ただし、組立などの単純労働

の場合には、他のエマージング・マーケットと比較して、賃金はかなり高めであることから、

生産拠点は所得水準が低い地方への配置を検討する必要がある。 (4) 全般的な政治的安定

プーチン政権の下、チェチェン問題を除けば、内政は概ね安定しており、政府による経済

政策の比較的スムーズな遂行を可能にしている。議会も大統領を支える与党が安定的多数を

占めており、行政との関係も良好である。現在の政治・経済路線の変更に伴う急激な国民生

活水準の低下がない限り、大きな社会変動は予想しにくい状況である。

2.留意点

(1) 原油価格の動向

現在のロシア経済の好調さは、原油価格の例外的な高さに支えられており、原油価格が大

幅に下落した場合、適切な産業構造の転換を伴わなければ、経済成長の減速が予想される。

もっとも、ロシアでは原油価格が低落した場合を想定して安定化基金が創設され、現在その

額は 2007年1月1日現在2兆 3,469.2億ルーブル(891.3億ドル)に達し、また金・外貨準備も 2006年 11月 30日現在 2,890.42億ドルに上っており、当面の支払能力には問題はないと見られる。 (2) ルーブル高の影響

ロシアでは好調な石油輸出などを背景に、ルーブルの実質レートが急速に切り上がってき

ており、場合によっては元々競争力のない国内製造業が大打撃を被ることが懸念される。現

在のところ通貨当局はルーブル高を容認しているが、極端なルーブル高は経済成長のブレー

キとなる可能性がある。

(3) 相対的に高い賃金水準

ロシアの労働者の賃金水準は、エマージング・マーケットの中では、ずば抜けて高い水準

となっている(BRICs諸国との賃金水準比較は p112 参照)。労働生産性が賃金上昇率を下回る場合や高額な賃金に見合った職場が確保されない場合には、企業の競争力を急速に失わ

せる可能性がある。

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(4) 深刻な人口減少

世界銀行によれば、ロシアの人口は 1990年から 2004年まで年平均 0.2%ずつ減少しており、2004年から 2020年は年平均 0.5%(約 70万人)ずつ減少する見通しである。 ロシア連邦国家統計局による予測では、現在1億 4,300万人の人口が、2015年までに 500万人減少すると予想されており、市場規模の縮小、若年労働力の減少が懸念される。

(5) 不透明な資金問題

世界の不透明資金問題を調査している民間組織「トランスペアレンシー・インターナショ

ナル」が作成している腐敗認知指数のランキングによれば、ロシアは 2006 年において世界第 121位(順位が高いほど、腐敗が少ないことを意味する)であり、前年の 126位よりは改善しつつあるも、BRICs諸国の中では低い評価となっている13。

(6) 法整備・運用上の不備

外国投資家に対するアンケート(下記 3.参照)によれば、不適切で一貫しない法制、法制の運用上の不透明さ、法の選別的解釈と外国企業に対する選別的適用等が指摘されている。

このような行政当局による恣意的な法制の運用が不透明資金要求の温床になっているとも言

われている。 (7) インフラの未整備

ロシアでは産業インフラ、とくに電力関連のインフラの老朽化が深刻になりつつあり、設

備刷新が急激に進んだとしても、新しい発電所の建設期間を考慮すると、当面は電力不足の

状況が続く可能性が高いと見られている。ロシアで現地生産を実施中もしくは計画している

日本企業にとって不安要因のひとつであるといえる。

(8) サポーティングインダストリーの未発達

ロシアで現地生産を行う場合の大きな障害となっている問題の一つにサポーティングイン

ダストリー(裾野産業)の未発達がある。このため、現地生産企業は、部品やコンポーネン

トをロシア外から輸入し、主に組立だけを現地で行っている。外国メーカーの現地生産が最

も進んでいる自動車産業においても、現地調達が可能であるものは、タイヤ、内製用のプラ

スチック製品、シート、ガラス、バッテリーなどに限定されており、その他は輸入に頼って

いる。

13 ブラジル、中国、インドは、同点 70位である。

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3.ロシアの投資環境に関するアンケート結果

ロシアの投資環境に関して、ロシア投資諮問会議(FIAC, Foreign Investment Advisory Council)が欧米に本社を置く、155社の主要企業を対象にしたアンケート結果および JBIC(国際協力銀行)が実施した日系製造業を対象としたアンケート調査結果を紹介する。 ロシアの投資環境としての優位点については、2 つの調査報告ともに、市場規模、経済成長の可能性、良質な労働力を挙げている。また、JBIC アンケート調査結果では、ロシア市場が「組立メーカーへの供給拠点」として有望視されていることも注目に値する。 他方で、投資の障害については、2 つの調査報告に共通しているのは、関連法制の不整備および恣意的な運用という回答である。FIAC の調査では、中央・地方の行政当局の規制や外国企業に対する差別待遇、「腐敗」が大きな問題として指摘されている。また、JBIC 報告では、「治安・社会情勢が不安定」と「インフラが未整備」が問題点として挙げられてい

る。 <ロシア投資諮問会議(FIAC)の調査報告、2006年5月>

(1) 優位点

優位性の内容 回答比率(%) ① 国内市場の規模 ② 国内経済の持続的な成長率 ③ 質が高く安価な労働力 ④ 全般的な政治の安定 ⑤ マクロ経済の安定

90 82 57 48 46

(注)回答社数153社

(2) 投資の障害

障害の内容 回答比率(%) ① 行政上の障害(ライセンス、許可、お役所的形式主義) ② 腐敗 ③ 不適切で一貫しない法制 ④ 法の選別的解釈と外国企業に対する選別的適用 ⑤ 若干のロシア企業による非倫理的ビジネス戦術に対

する不適切な保護

84 78 71 67

39 (注)回答社数 154社

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ロシアに投資している企業が直面している問題点 回答比率(%) ビザ(査証)、就労許可等に対する行き過ぎた規制 地方行政当局、法執行機関、裁判所の外国企業に対する不

当な取り扱い 投資家の懸念に対し連邦当局から応答がないこと 信頼できる経済・金融情報の欠如 知的財産権の保護および執行 ビジネスに際して賄賂を支払わなければならない 良質な労働力の不十分な供給 一定の地元企業による不公正で非倫理的な競争 税・義務的支払い

58

46 40 36 33 32 30 29 28

(注)主要な問題を5つ回答。回答社数 99社

<JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告 2006年度 海外直接投資アンケート結果」(2006年 11月)>

ロシアは日本企業の中期的(今後 3年程度)有望先上位 10カ国・地域で第 6位にランクされている。2002年度の同調査では 17位、2003年度では 10位、2004年度以降は 6位を維持している。ロシア向け投資については、依然として具体的な計画はないものの、有望な

投資先と考える、という「計画なし」企業が多いが、「計画あり」企業数およびロシアを有

望先と考える企業数が増加するなど、投資家からの関心は着実に高まっていることが分かる

14。

(1) 優位点(有望な理由)

(注)回答者数 94社

14 2004年度にロシアを中期的に有望国と回答した企業は 49社(全体の 10%)、2005年度は 62社(同 13%)、2006年度は 98社(20%)となった。

理由 回答比率(%) ①現地マーケットの成長性 ②安価な労働力 ③組立メーカーへの供給拠点 ④現地マーケットの現状規模 ⑤現地マーケットの収益性

93.6 17.0 16.0 14.9 8.5

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(2) 課題

課題 回答比率(%) ①法制の運用が不透明 ②投資先国の情報不足 ③治安・社会情勢が不安 ④法制が未整備 ⑤税制の運用が不透明

50.6 46.8 40.5 30.4 25.3

(注)回答者数 79社

BOX: 在モスクワ日本商工会の要望事項 ~商工会事務局からのヒアリング~

・ 在モスクワ日本商工会では、①日露租税条約の改定(日ロ間の配当にかかる税率 15%の撤廃)、②複数年ビザの発行、③複数年労働許可の発行などをロシア政府に対する要望として

挙げている。 ・ 租税条約については、欧州からのロシア向け投資には配当課税が免除されているのに対し、

日本からの投資は 15%課税されているため、欧州と同条件の適用を要求している。 ・ ビザは、現状で 1 年しか有効期間がなく、また労働許可も有効期限が 1 年にも拘わらず、取得に際して 3ヶ月程度手続きに時間がかかっている。

・ 運転免許、住居の賃貸契約もビザの有効期限と連動するため、1年中手続き取得事務が発生することが、大きなコストとなっている。

・ ビザと労働許可は別々に取得する必要があり、駐在員はビザのみで問題ないが、現地法人の

場合には、個人・法人それぞれ取得し、その上でビザの取得が求められる(家族帯同の場合

には、家族のビザも別途必要)。 ・ なお、日本では、ロシア人に対して最大 3年の複数年ビザを認めている。

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非鉄金属6%

化学・石油化学5%

林業、木材加工、紙パルプ3%

建材業3%

軽工業1%

その他17%

鉄鋼業10% 食品工業

11%

機械製造・金属加工16%

燃料・エネルギー28%

(出所) ロシア連邦国家統計局、ロシアの鉱工業

2005年

第7章 主要産業の動向

1.産業構造の特徴

ロシアの産業構造において主要な位置

を占めるのは、石油およびガス産業であ

り、鉱工業生産の構成比に占める比率は、

28%となっている(図表1-68)。 なお、石油、石油製品、および天然ガ

ス等の燃料・エネルギー商品はロシアの

主要な輸出品であり、ロシアのCIS以外の諸国への輸出に占める割合は、常に全

体の5割超となっている。最近は石油価格高騰により、その割合はさらに強まる

傾向にあり、2005年のロシアからのCIS以外の諸国への財の輸出総額に占める燃

料・エネルギー商品の比率は、前年の

59.9%から66.8%に拡大している。また、これに鉄、非鉄等の素材を加えると、ロシアの輸出総額の8割以上を占める。 機械製造・金属加工は、鉱工業生産構成比では全体の16%を占めるが、輸出に占める割合は低く(全体の数%に過ぎない)、またその大半が軍需製品により占められていると言われて

いる。

2.エネルギー産業 ロシアは世界最大級のエネルギー資源産出国であり、特に天然ガスは、確認埋蔵量、生産

量ともに、世界第1位である。2005年末時点の天然ガスの確認埋蔵量は、1,688TCF(兆立方フィート)で世界全体に占めるシェアは 26.6%、1日あたりの生産量も 57.9BCF(10億立方フィート)と世界全体の 21.6%を占める(図表 1-69)。 石油については、2005 年末時点の確認埋蔵量は 724 億バレルで、世界に占めるシェアは

6.2%である。同埋蔵量は世界第 7 位、中東地域以外ではベネズエラに次いで第 2 位を占めている(図表 1-70)。生産量は、サウジアラビアに次いで世界 2位の 955万バレル/日で、世界に占めるシェアは 12.1%である。

図表 1-68 鉱工業生産構成比(2004年)

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図表 1-69 石油・天然ガスの確認埋蔵量(2005年末時点) (単位:石油は 10億バレル、ガスは TCF、世界シェアは%)

石油 天然ガス 国名 埋蔵量 シェア 可採年数 国名 埋蔵量 シェア 可採年数

サウジアラビア 264.2 22.0% 65.6 ロシア 1,688 26.6% 80.0 イラン 137.5 11.5% 93.0 イラン 943.9 14.9% 100年超 イラク 115.0 9.6% 100年超 カタール 910.1 14.3% 100年超 クゥエイト 101.5 8.5% 100年超 サウジアラビア 243.6 3.8% 99.3 UAE(アラブ首長国連邦)

97.8 8.1% 97.4 UAE(アラブ首長国連邦)

213.0 3.4% 100年超

ベネズエラ 79.7 6.6% 72.6 米国 192.5 3.0% 10.4 ロシア 74.4 6.2% 21.4 ナイジェリア 184.6 2.9% 100年超 カザフスタン 39.6 3.3% 79.6 アルジェリア 161.7 2.5% 52.2 リビア 39.1 3.3% 63.0 ベネズエラ 152.3 2.4% 100年超 ナイジェリア 35.9 3.0% 38.1 イラク 111.9 1.8% 100年超 (出所)BP Statisctical Review of World Energy June 2006

図表 1-70 石油・天然ガスの生産量(2005年末時点) (単位:石油は千バレル、ガスは BCF、世界シェアは%)

石油 天然ガス 国名 生産量/日 シェア 国名 生産量/日 シェア

サウジアラビア 11,035 13.5% ロシア 57.9 21.6% ロシア 9,551 12.1% 米国 49.9 19.0% 米国 6,830 8.0% カナダ 17.9 6.7% イラン 4,049 5.1% 英国 8.5 3.2% メキシコ 3,759 4.8% アルジェリア 8.5 3.2% 中国 3,627 4.6% イラン 8.4 3.1% カナダ 3,047 3.7% ノルウェー 8.2 3.1% ベネズエラ 3,007 4.0% インドネシア 7.4 2.8% ノルウェー 2,969 3.5% サウジアラビア 6.7 2.5% UAE 2,751 3.3% オランダ 6.1 2.3% (出所)BP Statisctical Review of World Energy June 2006 (1) エネルギー需給15バランス ロシアの 2004年の一次エネルギー供給量は 6億 4,153万 TOE(石油換算トン)で、エネルギー源別の内訳は石油が 1億 3,085万 TOE(全体に占める比率、20.4%)、ガスが 3億 4,656万 TOE(同 54.0%)、石炭が 1億 419万 TOE(同 16.2%)、原子力が 3,808万 TOE(同 5.9%)となっており、天然ガス依存度が高いことが分かる(図表 1-71)。 また、ロシアは、一次エネルギー国内生産の約 46%を輸出するエネルギー純輸出国であり、

2004年には、石油は国内生産量の 72.2%に当たる 3億 3,103万 TOEを、ガスも同 31.8%に当たる 1億 6,182万 TOEを輸出した。 金額ベースで見ると、2005年の原油、天然ガス、石油製品の輸出額合計は全輸出額の61.1%を占めており、エネルギー産業は連邦政府の歳入を支える大きな柱となっている。

15 一次エネルギー供給量とは、国内に供給されたエネルギーの総量であり、具体的に一次エネルギー供給を計量する際には、国内での最終エネルギー消費を賄うために利用されたエネルギーの

量などから計測する。

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図表 1-71 一次エネルギー需給バランス(2004年、単位:百万 TOE) 石油 ガス 石炭 原子力 その他 合計

国内生産 458.49 509.17 130.13 38.08 22.60 1,158.47 輸入 4.81 5.56 12.34 - - 23.77 輸出 331.03 161.82 40.22 - - 534.77 在庫変動 -1.42 -6.35 1.94 - - -5.93 総一次供給 130.85 346.56 104.19 38.08 21.86 641.53 シェア(%) 20.4 54.0 16.2 5.9 3.4 100.0

(出所)IEA, ”Energy Balances of Non-OECD Countries”,2003-2004, 2006 Edition.

ロシアでは天然ガスを利用して発電・熱供給16などを行う比率が高いため、天然ガスの純

輸出量の生産量に占める比率は石油の同比率よりも小さくなっている。ロシア政府は今後は、

天然ガス依存度を引き下げ、海外輸出量を増大させて外貨獲得することを志向しており、石

炭火力および原子力と水力による発電比率を高める方針である。

(2) 石油産業

① 石油政策

プーチン政権は 2期目に入ってから、ロシア石油産業に対する「国家管理」を強化する方針を取っている。具体的には、1999年以降にロシアの原油生産量回復に大きく貢献したユコスを政治主導で解体に追い込んだほか17、国営のロスネフチの企業規模拡大を図っている。

また、油価高騰により、高い収益を上げている石油各企業に対して課税を強化し、そこで得

られた資金をロシア経済の多様化・高度化に充当したいという意向もある。 その他、ロシアの原油輸出は欧州向けが中心であるが、原油輸出先の多様化を推進したい

考えもある。

16 加熱された水・蒸気等を導管により供給すること。 17 ユコス事件については、p8参照。ユコスは現在解体の途上にある。

BOX: ロシアのエネルギー政策 ・ ロシア連邦政府は、2003 年 8 月、エネルギー省が他の省および企業・研究機関と共同でまとめた『2020年までを対象期間とするエネルギー戦略』を承認した。同戦略には、「天然資源とエネルギー資源の効率的利用」と「経済成長と生活水準の向上を目的とするエネルギーポテンシャルの効率的利用」という2つの目的を掲げ、更に「燃料の品質向上」、「エネルギー製品の競争力強化」、「国際市場でのサービス展開」という 3つの課題を挙げている。

・ 2006 年 5 月には、プーチン大統領が「年次教書」を発表し、石油・ガス産業の上流部門(探鉱・開発・生産)に対する自信を表明し、エネルギー分野に関して 6 項目、(①精製部門における技術開発および新しい技術の適用、②エネルギー輸送部門の充実と新規市場の開拓、③原子力分野の開発、④水素および核エネルギーの開発、⑤省エネルギーの推進、⑥環境対策)を重点分野として掲げている。

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② 産業構造

石油産業については 1991年より再編成が進められており、その結果、石油の探鉱・開発・生産、精製、販売の各子会社を統括する垂直統合石油企業が順次設立された。その後、大規

模垂直統合石油企業による中小石油企業の吸収・合併を経て、2005年 11月時点で 10社に集約されている(10 社は図表 1-72 参照)。なお、10 社のうち、ロスネフチとガスプロムネフチ(旧シブネフチ)18がロシア石油産業の中で国営系(国が過半ないしは 100%の株式を保有する)と位置付けられており、外資系は、TNK-BP1 社のみで19、その他は、国内独立系

企業に大別される。 1993年からは、これら垂直統合石油企業の民営化(ロシア連邦政府保有株式の売却)も進められており、2006 年 7 月に最後まで完全な国営石油企業として残っていたロスネフチの新規株式公開(IPO:Initial Public Offering)が実施され(モスクワとロンドンの証券取引所で上場)、マレーシア・ペトロナスがロスネフチの全株式の 10%、英国 BP が同 9%、中国 CNPCが同 5%の株式を取得した。 ロシアの垂直統合石油企業は自社が生産した原油を輸出する場合、国営の原油パイプライ

ン運営企業トランスネフチ20から原油輸出量の割当の認可を受ける必要がある。 ③ 原油の生産動向

ロシアの原油生産量は緩やかに拡大している。主要垂直統合企業別原油生産量を見ると、

2005年の原油生産量は、ルクオイルが 8,780万トンで第 1位、TNK-BPが 7,530万トンで第 2位、ロスネフチが 7,440万トンで第 3位、スルグートネフチェガスが 6,390万トンで第4位となった(図表 1-72)。上位 3社でロシアの原油生産量のシェアの半分を占めている。

図表 1-72 会社別原油生産量 (単位:百万トン、%)

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 シェア ルクオイル 62.2 62.9 75.5 78.9 84.1 87.8 18.7 TNK-BP 28.6 40.6 37.5 61.6 70.3 75.3 16.0 ロスネフチ 13.5 14.9 16.1 19.6 21.6 74.4 15.8 スルグートネフチェガス 40.6 44.0 49.1 54 59.6 63.9 13.6 ガスプロムネフチ 17.2 20.6 26.3 31.4 34.0 3.03 7.0 タトネフチ 24.3 24.6 24.6 24.7 25.1 25.3 5.4 ユコス 49.8 58.1 69.3 80.7 85.7 24.5 5.2 スラブネフチ 12.3 14.9 14.7 18.1 22 24.2 5.1 ルスオイル - - - 2.0 6.6 12.2 2.6 バシネフチ 11.9 11.9 12 12 12.1 11.9 2.5

18 2005年 9月、ガスプロムはシブネフチの全株式の 72.7%を 131億ドルで買収し、石油分野への本格的な進出を果たした。 19 2003年 8月、チュメニ・オイルとBPの折半出資により新会社「TNK-BP」が設立され、同社はシダンコを実質的に子会社化している。 20原油パイプライン運営企業トランスネフチおよび石油製品パイプライン運営企業トランスネフチェプロダクトはロシア連邦政府が全株式を保有する国営企業である。

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83

その他 62.9 55.5 54.4 38.4 37.8 37.4 8.0 うちガスプロム関係会社 10.0 10.2 10.8 11.0 12.0 12.8 2.7 ロシア全体 323.2 348.1 379.6 421.3 458.8 470.0 100.0 垂統企業の比率(%) 50.1 52.6 53.9 58.3 58.7 71.2 - (出所)The Almanac of Russian and Caspian Petroleum:2006 Edition, Energy Intelligence Group.

ロシアの主な原油生産地は西シベリア、ヴォルガ・ウラル地域などであるが、今後は北極

圏や東シベリア・極東などでの開発がロシアの原油増産に貢献していくといわれている。し

かしながら、これらの地域は環境が厳しく、インフラが未整備であるため探鉱・開発・生産・

輸送コストはいずれも従来の西シベリア開発よりも高コストになると予想されている。 なお、「2020 年までを対象期間とするエネルギー戦略」によれば、石油の生産は 2000 年から 2010 年まではかなり大幅な増産(楽観シナリオで 10 年間で 51.2%、堅調シナリオで同 37.3%の伸び)となるが、それ以降 2020年にかけては緩やかな伸びが想定され、楽観シナリオで 10年間で 6.1%増とされている。堅調シナリオでは 2010年から 2015年にかけての増産は 5年間で 1.1%増とされており、2015年から 2020年にかけて増産は見込まれていない。

④ 原油の輸出動向

国別の石油輸出状況をみると、CISではベラルーシが多く、CIS以外では、ドイツとイタリア向けが多かったが、近年はオランダ向けが最大となっており、ポーランドを合わせた 4カ国でロシアからの原油輸出量全体の 5割程度を占める。なお、輸出量全体に占めるシェアは欧州向けが拡大する一方で CIS向けは縮小する傾向がみられる。

図表 1-73 仕向け地別輸出量 (単位:100万トン)

2001 2002 2003 2004 2005 シェア CIS 23.6 32.9 37.1 40.1 38.0 15.1 ウクライナ 9.4 16.2 19.5 19.1 14.8 5.9 ベラルーシ 11.8 14.0 14.9 17.8 19.3 7.6 欧州 - - - - - - オランダ 7.91 16.11 22.06 35.56 40.69 16.1 イタリア 20.84 19.90 21.15 25.56 28.92 11.5 ドイツ 20.59 20.85 25.18 29.40 27.39 10.9 ポーランド 18.14 16.01 16.4 17.16 17.48 6.9 全体 160.65 187.67 223.54 257.41 252.44 100.0 (出所)ロシア通関統計(各年版)

⑤ 石油製品の生産動向

ロシアの国内石油製品生産量は、2000年から 2004年にかけて増加しているものの、2000年の石油製品別シェアと 2004 年のシェアに殆ど変化がみられておらず、ロシア国内における精製設備の高度化や 2次装置の設置などはあまり進んでいないと見られている。

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2006年 1月 1日現在、ロシアには 41の製油所があるが、多くの製油所が老朽化しており、精製設備の高度化が課題となっている。

図表 1-74 石油製品別生産量の推移 (単位:千 TOE)

シェア

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2000年 2004年

ガソリン 29.1 29.6 31 31.4 32.7 16.3 16.7 軽油 51 51.9 54.6 55.8 57.3 28.6 29.3 ジェット燃料・灯油 9.4 9.6 10 10.1 10.3 5.3 5.3 重油 51.2 53.3 56.5 54.1 56 28.8 28.6 LPG 8.2 8.9 8.6 9.7 9.9 4.7 5.1 その他 29.1 28.7 27.9 28.4 29.5 16.3 15.1 合計 178 182.1 188.6 189.6 195.7 100 100 (出所)IEA, Energy balance of non-OECD Countries 2003-2004. 2006 Edition データベース.

⑥ 主な石油開発プロジェクトの最近の動向

● チマン・ペチョラ油田開発 2004年 10月、コノコフィリップスはロシア政府が保有していたルクオイルの株式全て(同社全株式の 7.6%に相当)を 20億ドルで買収した。また、2005年 5月にコノコフィリップスはルクオイルと合弁でチマン・ペチョラの油田開発を推進する意向を表明した。なお、コ

ノコフィリップスはルクオイルの株式保有比率を当初の 7.6%から 20%まで引き上げる予定である。

● 東シベリア原油パイプライン

2005 年 4 月、ロシアの産業・エネルギー省は東シベリア原油パイプラインに関してタイシェットからスコヴォロディーノまでの第一フェーズの建設を 2008 年までに完了する旨の指令書を出した。第一フェーズには 65 億ドルの建設費が見込まれているが、トランスネフチは石油生産企業に対する原油パイプライン使用料金を 7~8%引き上げて、全額を自社の自己資金で賄う方針である。同パイプラインの第一フェーズ完成後、中国および太平洋向けに

鉄道による原油輸出が計画されている。2006 年 4 月、トランスネフチは東シベリア原油パイプライン第一フェーズ(タイシェットからスコヴォロディーノまで)の建設に着手した。

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(3) 天然ガスセクター ① 天然ガス政策 ロシアは、中央アジア諸国から安価なガスを輸入してロシア国内用に供給し、ロシア国内

で生産される天然ガスを欧州などに国際価格で輸出することで外貨を稼いできた。しかしな

がら、近年、トルクメニスタンがロシア向けガス輸出価格の値上げを要求するなど、状況が

変化してきていることから、ロシアも国内ガス価格制度の大きな見直しを行う必要に迫られ

ている。 なお、ロシアの天然ガスセクターをほぼ独占するガスプロムによる輸出は、パイプライン

による欧州向けが中心となっているが、今後は天然ガス輸出先の多様化および LNG の導入などを推進したい意向がある。 ② 産業構造 ● 上流部門 ガスプロム(ロシア政府はガスプロム全株式の 50%+1株を保有する筆頭株主21)がロシ

ア国内の天然ガスの探鉱、開発、生産、輸送、輸出、卸売をほぼ独占的に行っており、その

天然ガス生産量はロシア全体の約 85%を占めている。ガスプロムの他にイテラ、ノヴァテック、ノルトガスといった独立系ガス企業も天然ガスの生産を行っているものの、独立系ガス

企業は、ロシア全体の天然ガス生産量の約 5%のシェアを占めるに過ぎない。 ● 輸送販売部門 ガスプロムは国内輸送、国内販売(卸売り

段階まで)、輸出においてもほぼ独占状態にあ

り、2005年、ロシア政府はガスプロムをロシア国内の全てのガス輸出を担う事業者として

位置づけると発表した。 ロシアの天然ガスパイプライン網は、1960年代以降カスピ海周辺のガス開発から西シベ

リアの石油ガス開発へと生産地が移動するの

に伴い整備が進められ、周辺地域におけるガ

ス利用も促進されてきた。大規模な天然ガス

生産が行われている西シベリア以西を中心に

ガスパイプライン網は既に整備されている。

21 従来、外国企業によるガスプロム株式の保有比率は外国企業全体で 20%未満に制限されていたが、2005年 12月、ロシア下院はこの外国企業によるガスプロム株式保有制限に関する法律の撤廃を可決した。

北部パイプライン

(出所)ガスプロムホームページ

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図表 1-75 ロシアのガスパイプライン網

(出所) INCOTEC

東シベリアや極東ロシアでは、サハ(Sakha)共和国の首都ヤクーツク(Yakutsk)周辺、サハリンの北方オハ(Okha)地域、アムール(Amur)川流域のコムソモルスク・ナ・アムーレ(Komsomolsk-na-Amur)にガスパイプライン網が整備されている。また、サハリンからハバロフスク(Khabarovsk)までのパイプラインが 2005年に開通したが、西シベリア以西の地域と比べて東シベリア、極東のガス輸送インフラの整備は遅れている。そのため、ロ

シア政府は石油ガス開発と東シベリア・極東の社会インフラ整備、経済発展を長年の課題と

して抱えている。なお、ガスプロムは東シベリアにおけるガスパイプライン網を整備し、西

シベリアにおけるネットワークと接続させ、全ロシアのパイプライン網を完成させる計画を

持っている。また、同社の優先投資事業はガス輸送インフラ整備であり、輸送ロスの改善に

今後積極的に取り組んでいく方針である。 独立系ガス企業はガスプロムが独占的に管理している国内ガスパイプラインへのアクセス

を要求することができるが、ガスプロムはパイプラインの物理的な輸送能力の制約を理由に、

独立系ガス企業からのパイプラインへのアクセスの要求を拒否できる。なお、独立系ガス企

業は、ロシア連邦政府が決定した「規制価格(ガスプロムはこれに完全に拘束される)」より

最高 20%まで高い価格で卸売りを行なうことができる。

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③ 生産動向

ロシアの天然ガス生産量は、2000 年の 583.7bcm から 2005 年の 640.6bcm へと年平均1.9%増加してきたものの、同期間の原油生産量の伸び(年平均 7.8%増)に比較すると、天然ガス生産量の増加は緩やかであった。同期間のガスプロムの生産量は 523.1bcm から

547.9bcmへと年平均 0.9%増加し、独立系ガス企業は 27.9bcmから 44bcmへ年平均 9.5%増加し、石油企業などのその他企業は 32.7bcmから 48.9bcmへ年平均 8.4%増加してきた。2000年時点ではガスプロムは国内天然ガス生産量の 89.6%を生産していたが、2005年ではその比率は 85.5%まで縮小しており、他方で独立系企業ならびにその他石油企業などによる天然ガス生産の比率が拡大している。

図表 1-76 企業別ガス生産量の推移 (単位:bcm) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年

ガスプロム 523.1 512 521.9 540.2 545.1 547.9 独立系ガス企業 27.9 31.5 37.1 35.8 44.3 44.0 その他 32.7 32.3 34.6 40.4 44.9 48.9 合計 583.7 581.4 594.9 616.4 616.5 640.6 ガスプロムのシェア 89.6 88.1 87.7 87.60 88.4 85.5 (出所)The Almanac of Russian and Caspian Petroleum:2004 Edition, Energy Intelligence Group. ロシアの天然ガス生産の大部分は、西シベリアのヤマル・ネネツ自治管区で生産されてい

るが、近年は主力生産地であるウレンゴイ(Urengoy)、ヤンブルグ(Yamburg)、メドヴェジェ(Medvezhye)の 3大ガス田の枯渇が進んでおり、ガス生産量の増加率は伸び悩んでいる。ガス生産量の減少傾向を食い止めるために、既存ガス田の深部にある古い地層の開発、

あるいはヤマル半島などロシア国内で新規ガス田を開発が求められるが、ヤマル半島の場合、

永久凍土帯に入ることから、抗井掘削、地表設備建設において、設備の維持作業に多くの困

難が生じ、ガスの開発コストは$40/千立米($1.11/MMBtu)にも達するとされている22。ま

た、これらのヤマル半島から既存パイプランに接続するには、新たに長距離パイプラインを

敷設する必要があるなど、課題が多い。

図表 1-77 主要なガス開発プロジェクト

ガス田/鉱区名 確認埋蔵量(10bcm) 生産量 Urengoy 29,000 (2004) N.A Yamburg N.A N.A. Madvezh’ye N.A. N.A. Zapolyarnoye N.A. 100(2005 年

初め) Sakhalin-2(Piltum-Astokhskoye, Lunskoye)

507(ガス)、10億バレル(石油) 70,000バレル/日(石油)

Sakhalin-4(West 89 N.A

22 本村真澄、石油大国ロシアの復活、アジア経済研究所、2005年、194ページ

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Schmidtovsky, Astrakhanovsky) Kovykta 1,900(ガス)、5億バレル(石油) N.A. Talakanskoye 47(ガス)、8.3億バレル(石油) N.A. Chayandinskoye 1,220(ガス)、35億バレル(石油) N.A Shtokmanovskoye 3,300(ガス)、2.3 億バレル(コンデン

セート) N.A.

(出所) World Markets Research Center, Country Report-Russia(Energy), Oil & Gas: Upstream(2006年9月 19日データ更新分) 長期の天然ガス生産見通しについては、石油ほどの大きな伸びは想定されておらず、上記

エネルギー戦略の堅調シナリオでは、2000年に比べて 2010年は 8.7%増、2015年で 13.0%増、2020年で 16.4%増と見込まれている。また、楽観シナリオでも同 13.9%、20.7%、25.0%と控えめである。 ④ ガス輸出動向

2000 年以降、ロシアは CIS 向けの輸出量を減少させ、欧州向け輸出量を増加させる政策をとったが、最近は CIS向けも回復し、輸出量全体が増加している23。 ロシアからの天然ガス輸出はパイプラインによって行われており、2006年12月現在、LNG輸出は行なわれていないものの、近年、ガスプロムは LNG 事業への参入に強い関心を示しており、LNG 開発プロジェクトに関して西側の石油・ガス企業から複数のオファーを受けている。2005年 8月には、ガスプロムは英国子会社Gazprom Marketing and Tradingを経由して、米国向けに初の LNGを輸出することを発表した。同社はシェル(Shell)および英BGと LNGの米国向け輸出契約を締結し、2006年 8月には日本向けに LNGを輸出した。

図表 1-78 ロシアからの天然ガス輸出量 (単位:bcm)

欧州 フランス ドイツ イタリア トルコ

CIS 合 計

2002年 128.6 11.4 31.5 19.3 11.8 42.3 170.9 2005年 156.1 13.2 36.0 22.0 18.0 76.6 232.7

(出所)ガスプロム年報各号

⑤ 主な天然ガス開発プロジェクトの最近の動向 ● サハリン開発

2006年 8月、ロシアの天然資源省はロシア連邦政府が 2003年に出したサハリン 2の環境F/Sの国家承認の取り消しを求めて提訴する方針を発表。2006年 12月に、シェル、三井物産、三菱商事はガスプロムにサハリン 2権益の 50%+1株を譲渡することでガスプロムと合意した。譲渡後のシェル、三井物産、三菱商事の保有株式は半分になり、全体での保有比率

23ガスプロムは欧州諸国等へのガス輸出契約の当事者として各国と契約を行っている。

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はそれぞれ 27.5%、12.5%、10%となる。この権益売却によって、今まで外資のみの国際コンソーシアムが開発・生産を進めてきたサハリン 2プロジェクトにロシア国営企業ガスプロムが参入することになった。

● コヴィクタ・ガス田開発 2004年 2月、イルクーツク州政府はコヴィクタ・ガス田の保有権益 11.24%を売却する方針を発表した(現在、TNK-BP が同ガス田の権益の過半数を保有)。ガスプロムが同ガス田の権益取得を目指して、TNK-BPおよびイルクーツク州政府側と交渉を続けているが、イルクーツク州政府が保有していた権益を獲得することになるかどうか現段階では未定である。

● ザパリャルノエ・ガス田開発

2005年 7月、ガスプロムとシェルはお互いが保有する天然ガス権益の交換取引に合意し、ガスプロムが西シベリアのザパリャルノエ・ガス田の権益 50%をシェルに譲渡する引き換えに、シェルが保有するサハリン 2の権益 55%のうち 25%を取得することになっていた。しかし、その後シェルがサハリン 2の開発コストが当初予定額の 2倍に膨らんだことを発表したことから、ガスプロムは交換する予定の資産を再評価する必要があるとして保留し、ガス

プロムとシェルのザパリャルノエ権益に関する取引は事実上消滅したものと考えられる。 ● 中露ガスパイプライン・プロジェクト

2005 年 12 月、ガスプロムは中国 CNPC との間で中国向け天然ガス輸出計画に関する正式交渉を開始した。

● 北欧ガスパイプライン・プロジェクト

2005年 12月にガスプロムはロシアのバルト海沿岸都市ヴィボルグからバルト海海底を通過してドイツ北東部のバルト海沿岸都市フレイスヴァルドに至る「北欧ガスパイプライン

(North European Gas Pipeline)」の建設を開始した。同パイプラインの第一フェーズの輸送能力は 275億立米/年で 2010年の稼動開始を目標としている。第二フェーズでは 2013年に輸送能力を 550億立米/年まで増強する予定である。総投資予定額は約 47億米ドルで、同パイプラインの建設・運営コンソーシアムにはガスプロムが 51%、そして、ドイツの BASFおよびエーオン・ルアガスがそれぞれ 24.5%ずつ出資している。

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3.自動車産業

(1) 生産動向

ロシアの乗用車メーカーは、純国産メーカーと外国車の生産を行っているメーカーの2つのタイプに大別されるが、以下に、それぞれのメーカーの現状を紹介する。 ① 純国産メーカー

純国産車の技術水準は、約10~40年前のレベルといわれており、価格の安さが主要なセールスポイントといわれている。しかしながら、2005年の原材料価格の高騰を背景に多くの純国産メーカーが乗用車価格の大幅な値上げを行い(純国産車の平均価格は1年間で11%上昇)、乗用車価格引き上げは販売戦略において大きな影響を与え、多くの純国産メーカーは販

売不振に苦しみ、在庫調整のための減産を余儀なくされた。 純国産メーカーの中では最も技術レベルが高いといわれるAvtoVAZ(ヴォルガ自動車工場)の場合であっても、2005年前半は値上げを主因とする深刻な販売不振に直面した。

AvtoVAZを含むすべての純国産メーカーにおいて、技術力の低さが競争力低下要因であることは否定し難い事実であり、各メーカーとも生き残りをかけた企業戦略の抜本的な見直し

を迫られている状況である。主要メーカーの中には、外国車のアセンブラーとして生き残る

道を選択しているところもあり24、。また、AvtoVAZも、生産車種の抜本的な見直しを検討しているものの、純国産メーカーの苦戦は当面続くと予想されている。

図表1-79 純国産車の生産状況

(単位 台)

2004 2005 増加率(%)

AvtoVAZ GAZ(純国産車のみ) ZMA(純国産車のみ) UAZ UAZ特殊車両 SeAZ IzhAvto(純国産車のみ) ロスラーダ ブロント デラウエイ ラーダ・トゥール スーペル・アフト

717,985 65,870 41,358 31,136 -

19,000 82,095 17,683

675 164 688 427

721,492 51,596 30,258 29,141

156 12,952 42,590 22,143

303 132 361

21

0.5 ▲21.7 ▲26.9 ▲6.4 -

▲31.2 ▲48.1

25.2 ▲55.1 ▲19.5 ▲47.5 ▲95

合 計 977,081 911,145 ▲6.7 (出所)ASMホールディング

24 IzhAvtoやセヴェルスターリ・アフト傘下の ZMAなど。

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② 外国車生産メーカーの生産状況

ロシアでは、既にGMが合弁企業(GM-AvtoVAZ)を設立し現地生産を行っている他、ルノーやフォードも現地生産を行っている。さらに、GAZ(インド車)、TagAZ(韓国の現代車)、IzhAvto(韓国の起亜車)、AvtoTOR(韓国の起亜車、BMW車等)といったロシア資本の企業が自社工場で外国車の生産を行うケースもある。

2005年は輸入新車の販売台数が大幅に伸びたのに対し、ロシアで現地生産される外国車の生産

台数は、前年比18.2%増とやや伸び悩んだ。その背景には、①GM-AvtoVAZの主力モデルであるシボレーNIVA(写真右)の販売不振、②フォードの工場の生産能力(年産約3万台)の限界、③韓国での自動車メーカーのストの影響を受け

TagAZでの現代車の生産台数が予定を下回ったこと等が考えられるものの、GM-AvtoVAZの問題を除いては、一時的な要因に拠るものであり、外

国車生産台数の中長期的な伸び率の低下を示すも

のではない25。 むしろ、アフトフラモス(ルノー)でのロガン(写

真右)の生産も今後本格化する予定となっているな

ど、多くの外国メーカーがロシアでの現地生産を決

定もしくは検討しており、将来的にロシアでの外国

車の生産台数は大幅に拡大することが予想される状

況である。 上記案件に加えて、新規の外国車現地生産プロジ

ェクトが浮上しており、最も具体化しているのは、サンクトペテルブルグ郊外におけるトヨ

タの現地生産プロジェクトである。トヨタは、2007年末からのカムリを年間2万5,000台生産(当初計画)する予定であるが、将来的には年産5万台まで拡大する予定である。 また、日産も2006年春にロシアでの現地生産の意向を表明、現地工場はトヨタと同じサンクトペテルブルグ市(同市北西部のカメンカ)に建設される予定で(トヨタの工場は同市南

部のシュシャーリで建設中)、年間生産能力は5万台が見込まれている。 その他、いすゞ自動車もロシアの自動車メーカー(セベルスタリ・アフト社)と業務提携し、

ロシア西部ヴォルガエリアのウリヤノフスクで小型トラックの現地生産を行うことを正式に

発表しているほか、三菱自動車、スズキ自動車もロシアへの進出を発表するなど、日系大手

自動車メーカーが相次いでロシアでの現地生産を発表している。 25 フォードの工場は、年産6万台体制に既に増強済みで、TagAZでも 2006年は大幅な増産が予定されている。

写真上:シボレーNIVA(出所)http://niva.avto-city.ru/

写真下:ルノーロガン(出所)Wikipedia

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欧米系では、VWやGMも(合弁企業とは異なる)、現地工場を建設する意向を表明しているが、これらの外国企業はいずれも、「工業アセンブリー用部品の輸入関税引き下げ措置(詳

細以下BOX参照)」という、一定の条件を満たした自動車工場もしくは自動車部品工場に部品あるいは原料の輸入関税上の特典を供与することを規定した特恵関税制度の適用を受けた

上で、現地生産を開始する予定となっている。

図表1-80 ロシア国内での外国車の生産状況 (単位 台)

2004 2005 増加率(%)

GAZ(インド車を生産) AvtoTOR(複数の外国車を生産) GM-AvtoVAZ(シボレー) TagAZ(現代) アフトフラモス(ルノー) フォード・ロシア IzhAvto(起亜) ZMA(双竜)

- 14,326 57,704 30,000

477 29,700

592 -

90 16,223 51,819 42,451 10,246 33,038 3,031

22

- 13.2

▲10.2 41.5

約21倍 11.2

約5倍 -

合 計 132,799 156,920 18.2 (出所)ASMホールディング

BOX:工業アセンブリー用部品の輸入関税引き下げ措置について 2005 年3月 29日付けロシア連邦政府決定第 166号「ロシア連邦関税率の工業アセンブリー用に輸入される自動車部品の部分の変更について」:

この政府決定第 166号は、一定の条件(「工業用アセンブリー」の認定に必要な条件)を満たした工場(ロシア資本、外資の別は問われないようである)には、部品の輸入関税上の特典を供与するという主旨の文書である。 工業アセンブリー措置に従い、部品・ユニットの輸入関税上の特典を得るための主な条件としては、以下の点が挙げられている。 ・2交代制で生産能力2万 5,000台/年の複数の生産プロセスを整えた生産工場を用意すること。 ・ブラウンフィールド方式の工場(稼働中の工場を改修する場合)の場合は協定発効後 18ヶ月以内で、グリーンフィールド方式の工場(更地から新たに建設する場合)の場合は、30 ヶ月以内に、溶接、塗装、組み立ての各ラインの設置を終了し、それらのラインを使用して生産を開始すること(これら3つのラインが整備されるまでも生産は行なわれ、輸入関税上の特典は供与されるが、その内容は各投資家とロシア政府側で締結される協定の中で規定される模様)。 ・上記3つのラインを整備して生産を開始してから 24ヶ月以内に特典を受けて輸入する部品の量を製品総額(車体の価格を除外する)の 10%以上削減する。さらに、42 ヶ月以内と 54 ヶ月以内に、それぞれさらに 10%ずつ削減しなければならない。

なお、協定の有効期間(特典を得られる期間)は、以下のとおりである。 ・ブラウンフィールドの場合は最大7年間。 ・グリーンフィールドの場合は最大8年間。 但し、協定の発効とはどの時点のことを指すのか不明確であり(セミノックダウン(以下、

SKD)を開始した時点と考えるのが妥当かと思われる)、例えば、グリーンフィールドの場合、とりあえず組み立てラインだけを整備しとりあえず SKDを開始し、その後、30ヶ月以内に溶接、塗装の各ラインを導入するといった方法も可能かと判断される。

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モスクワのトヨタショールーム

(2) 市場動向

ロシアの新車市場は、①純国産車、②

外国新車(国内でアセンブリーされる外

国車+輸入新車)、③輸入中古車の3つのカテゴリーに大別される26。

2005年の新車販売台数は前年比約9%増の177万台に達し、中でも最も販売台数が多いのは純国産車(全体の47.5%を占める)であるが、2005年の販売台数は前年比マイナス5%と伸び率は低迷して

いる。他方で、外国新車の販売台数は前

年比で約50%増加し60万台を超え、全体に占めるシェアも34.7%に達している。なお、外国新車のうち、約45万台が輸入新車であり(輸入新車の約7割)、輸入中古車の販売台数は、ほぼ前年並みで31万台であった(図表1-81)。 外国新車販売台数が伸びている背景には、ロシア経済が好調でロシアのユーザーの購買力

が全般的に上昇しているのに加え、割賦販売制度(オートローン)が急激に普及してきたことがある。今後も純国産車の販売台数が低迷し、外国新車の販売台数が大幅に伸びるという傾

向は当面続くとみられている。

図表1-81 ロシアの乗用車市場の規模(台数ベース)(単位 1,000台)

(出所)『エクスペルト』誌(2006.2.6-12) 外国新車の中では、特に日本車と韓国車の人気が高く(図表1-82)、韓国車はリーズナブル

な価格設定が支持されている。日本車は最も価格の安いモデルでも最低1万5,000ドルと全般的に価格水準は高いものの、その品質の高さが売り上げの好調さにつながっている。 日本メーカーの中では、トヨタと三菱の人気が高いが、最近、日産とマツダも急激に販売

台数を伸ばしている。モデルでは、三菱のランサー、トヨタのカローラ、カムリ、日産のア

ルメーラ、マツダ3等の人気が非常に高い。なお、ロシアでは軽乗用車の人気は低く、同国の市場に軽乗用車を本格的に投下している外国メーカーは少ない。

26 輸入中古車が新車販売台数に含まれるのは奇異に思われるが、ロシアの調査機関の中には、「その年にロシアの乗用車市場に新たに出現した車」という意味で輸入中古車も「新車」として扱うところが多いのである。

カテゴリー 2003 2004 2005 %

純国産車 外国新車 輸入中古車

870 218 400

882 409 318

841 614 312

47.6 34.7 17.6

合 計 1,488 1,609 1,767 100.0

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図表1-82 2005年の外国メーカー別販売台数

メーカー名 2005年販売台数 (台)

2004年販売台数 (台)

増加率 (%)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

現代 トヨタ フォード 三菱 大宇 日産 ルノー 起亜 マツダ シボレー

87,457 60,638 60,654 55,148 48,623 46,485 29,177 24,671 21,120 20,481

50,686 43,867 39,241 30,097 28,434 18,759 19,119 18,042 9,153 8,866

73 38 54 83 37 63 56 37

131 131

(出所)Gazeta.ru、2005.1.23

BOX: ロシアにおける自動車の現地生産 ~主要メーカーの戦略~ ・ わが国を含め、欧米諸国のロシアでの自動車の現地生産が急増しているが、企業が現地生

産に踏み切る理由は、大まかにいって、以下の2点に集約されるといえる。 ① ロシアは、急成長を遂げつつある BRICs の他の諸国と同様、今後も国民の購買力が拡大し続けると予想される巨大市場であり、将来への足場を築いておきたい。

② 関税支払い・輸送コスト上の節約、税制上や輸入組立部品の輸入関税上の優遇措置の適用が期待できる。 また、ロシアがWTOに加盟すれば、個別の優遇措置は適用されないため、こうしたことも外国自動車メーカーのロシアでの現地生産への駆け込み的進出を加速させている一因と考えられる。

・ 実際のロシアでの現地生産に関しては、当初の生産目標を年間約2~3万台前後という低い数値に設定し、その後、市場動向を見て増産していくというパターンが多く見られる。これは、ロシアでは部品の現地調達が困難なため、同国の工場を完成車の輸出拠点として位置づけることは難しく、もっぱらロシアを販売市場として位置づけているためだと推測される。

・ 現地生産される車種は、現在の国民の購買力水準に見合った小売価格 1.5万ドル程度の車が太宗を占めるが、わが国の自動車メーカーとして一番早く現地生産を決定したトヨタの場合は(車種はカムリ、当初年産 2万台予定、価格帯は 3万ドル程度)、ロシアの富裕層を販売ターゲットにする予定といわれており、これは競合する車が比較的少なく、安定した販売が見込め、利益率も高いことによるものである。

・ ロシアでの現地生産の問題点としては、やはり自動車関連産業の裾野が狭いため部品の現地調達が困難で、調達に関しコスト高になり、またジャストインタイム方式が実施できないことである。現地生産自動車の組立部品の輸入関税優遇措置についても、ローカルコンテンツ率(現地調達率)を引き上げることが前提条件となっており、条件がクリアーされない場合、優遇措置が撤回される恐れがあり、今後、進出企業は本国の下請け企業の現地参入も含め、現地での自動車関連産業の育成という問題に直面することになる。

・ インフラの未整備、発展途上国と比べて相対的に高い労働コスト、法整備の不備や適用の非透明性など必ずしもロシアの投資環境は良好とは言えないが、外国自動車メーカーのロシアでの現地生産が一向に衰えを見せないどころか増加しつあるのは、デメリットを補っても余りある現在のロシア国民の購買力の大きさにあると思われる。

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4.家電産業

ロシアの家電市場において日本メーカーは一定のプレゼンスを確保しているものの、白物

家電部門におけるプレゼンスは非常に低く、専らAV家電部門(特にテレビ市場)が日本企業にとっての主要な市場となっている。 ロシアでは、テレビ番組を録画する習慣が余りなく、日本メーカーが得意とする高付加価

値の録画機能付DVDプレーヤーの売行きも低迷していることから、ここではテレビの生産動向と市場の状況を中心に紹介する。 (1) 生産動向

ロシアでは、経済の好調さを背景とした消費者の購買力の上昇に加え、カリーニングラー

ドという特別経済区のステイタスを有するロシアの飛び地に所在する複数のロシア資本の工

場で、外国ブランドのテレビが生産されるケースが増加している(2004年の実績では、ロシアで生産されたテレビの約60%が外国ブランドであった)。ロシアのテレビの生産量は急増傾向にあり、2003年の240万台から、2004年には450万台、更に2005年には680万に達した。 カリーニングラードはロシア連邦を構成する構成主体(州)のひとつであるが、地政学上

重要な意味を持つ飛び地であり、州全体が保税地域としてのステイタスを保有している。し

かも、カリーニングラードの場合は、部品を輸入して完成品にすることにより一定の付加価

値をつけることが出来れば、その完成品を無関税で国内貨物にすることが可能になっている

ため、カリーニングラードで組み立てられた家電製品も、ほぼ例外なく無関税で国内貨物に

することが可能になっている。このシステムを利用して、今後も複数の日本メーカーがカリ

ーニングラードの工場に薄型テレビの組み立てを委託する予定となっている。 なお、カリーニングラードの工場に限らず、ロシアのテレビ工場では、部品を完成度の高

いキットの形で輸入し、簡単な組み立てを行なうという方式が一般的になっている。この分

野のロシアの部品メーカーの技術レベルは低いため、AV家電においてはブラウン管や電子部品を国内で調達することは困難である。冷蔵庫についてもコンプレッサーは通常輸入に依存

している。 カリーニングラード以外では、ヴォロネジやノヴゴロドの工場で外国ブランドのテレビが

組み立てられているほか、トルコのVestelがロシア国内に自社工場を保有している。その他、韓国のLGが2006年9月に、TVの他、ホームシアター、冷蔵庫、洗濯機を生産する工場をモスクワ郊外でオープンしている。 (2) 市場規模

2003年におけるロシアのテレビ販売台数は360万台、2004年は650万台と急速に拡大していることが分かる27。2004年には、全体の32%が輸入品で、68%がロシア国内で生産された

27 ロシアの調査機関「エクスペルト」社による。

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図表1-83 2003~2004年のテレビ市場のブランド別シェア

(単位 %)

ブランド 2003 2004 変動 (ポイント)

Samsung(韓国) LG(韓国) Thomson(英国) Philips(オランダ) Rolsen(韓ロ合弁) JVC(日本) Vestel(トルコ) Polar(ロシア) Panasonic(日本) Sanyo(日本) Rubin(ロシア) Sokol(ロシア) Sony(日本) Akai(日本) その他

18.6 14.1 10.0 6.4 6.7 6.5 0.2 4.9 4.3 2.1 8.9 4.7 4.0 0.0 8.6

16.6 10.3 8.0 7.4 7.1 6.4 5.7 5.7 5.1 4.5 4.4 4.1 4.0 1.0 9.7

▲2.0 ▲3.8 ▲2.0 1.0 0.4 ▲0.1 5.5 0.8 0.8 2.4 ▲4.5 ▲0.6 0.0 1.0 1.1

(出所)TPK「Bytovaya elektronika“Sokol”」

ものである。 主要メーカー別の市場シェアは図表1-83のとおりであるが、若干伸び率は鈍化してはいる

ものの、SamsungとLGの韓国勢が全体に占めるシェアは大きい(2社併せて全体の27%)。 日本勢も一定のプレゼンスを維持しているが、全般的にシェアは伸び悩み傾向が見られる。

しかしながら、今後は松下電器など複数の日本メーカーがカリーニングラードでの薄型テレ

ビの委託生産を開始するため、日本メーカーのシェアが増大する可能性は高い28。 なお、Rolsen、Polar、Rubin、Sokol等は国産ブランドであるが、これらブランドのテレビも部品はすべて輸入に依存している。

5.製鉄業

(1) 粗鋼生産量

ソ連解体後から1994年までの間に、内需の激減を背景として、ロシアの粗鋼生産量は急激に減少したが、大手鉄鋼メーカーは価格競争力を武器に国際市場に積極的に進出、好調な輸

28 松下電器産業(以下、松下)は、2007年夏からロシアで年間三十万台弱プラズマテレビを生産する計画を発表。基幹部品であるパネルを日本から送り、現地メーカーに組み立てを委託する。場所はロシア西部の飛び地で、委託生産企業が集積するカリーニングラード市が有力である。松下は昨年からロシアで中型の液晶テレビを生産しているが、37型以上の大画面のプラズマテレビも生産することで、現地で26型から50型までの多様な画面サイズをそろえることとなる。 これまでロシア向けのプラズマテレビは、欧州向け拠点であるチェコ工場から完成品を輸出していたが、ロシアのAV(音響・映像)機器市場は 2006年に約 51億ドルで、前年比 2割増と好調なため、現地生産に切り替えて、需要に即応できる供給体制を整える予定。完成品にかかる関税負担を軽減する狙いもある。(2007年 2月 28日付日本経済新聞朝刊より抜粋)

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出に支えられる形で徐々に生産が安定した(図表1-84)。 その後は、内需のさらなる減退およびルーブルの高値安定による輸出効率の低下等の要因

があり、1998年には生産が再び激減し、ソ連解体後最低の水準を記録したものの、ルーブル・レートの大幅低下で輸出効率が大幅に改善されたことに加え、1999年後半からの石油価格の高騰に支えられた内需の回復傾向や国際市況の好転といった要因もあり、2000年には記録的な増産を記録した。

2001年は国際市況が低迷したため、生産が伸び悩んだが、2002年後半ごろより国際市況が大幅に改善されたこともあり、2003年のロシアの粗鋼生産量はほぼ10年ぶりに6,000万tの大台を回復した。2004年以降は輸出の好調さに加え、内需も順調に推移するようになり、さらに生産量が増加している。

図表1-84 ロシアの粗鋼生産量の推移

(単位 100万t) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 77.1 67.0 58.3 48.8 51.6 49.3 48.4 43.8 51.5 59.1 59.0 59.9 62.8 65.6 66.2 (出所)ロシア連邦統計庁

図表1-85 主要企業別の粗鋼生産量の推移 (単位 1,000t)

2003 2004 2005 ロシア全体 セヴェルスターリ マグニトゴルスク製鉄所 ノヴォリペツク製鉄所 西シベリア製鉄所 ニジネタギル製鉄所 チェリャビンスク製鉄所(メチェル) ウラリスカヤ・スターリ ノヴォクズネツク製鉄所 オスコル製鉄所

62,839.3 9,877.1

11,466.9 8,854.0 5,931.3 5,477.4 4,186.2

288.6 268.5

2,353.3

65,645.6 10,435.3 11,281.6 9,122.8 5,603.5 5,491.3 4,960.6 3,616.8 1,110.5 2,463.9

66,186.2 10,820.4 11,393.8 8,468.9 5,683.0 5,574.5 4,597.8 3,618.0 1,305.7 2,549.4

(出所)『インターファクス鉱山金属レポート』、2006.No5。

(2) ロシアの鉄鋼業界地図

ロシアの鉄鋼分野では数百のメーカーが活動しているといわれているが、①最大手、②準

大手、③中小の3グループに区分される。最大手に属するのはセヴェルスターリ、マグニトゴルスク、ノヴォリペツクの各製鉄所で、3社合計でロシア全体の粗鋼生産量の約半分を占める。これらの企業は輸出や国内市場の堅調さに支えられ、いずれも業績が好調で、国内外

で積極的なM&Aを行なっている。 準大手に属するのは西シベリア、ニジネタギル、ノヴォクズネツク(この3つの製鉄所はアブラモビッチも大株主となっているエヴラズホールディングという持ち株会社の傘下に入

っている)、メチェル(投資ファンド傘下の製鉄所で石炭会社等も保有している)、ウラリス

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カヤ・スターリ、オスコルで、この6社合計で2005年のロシア全体の粗鋼生産量および完成鋼材生産量のそれぞれ約4割を占めている。 中小メーカーの総数は数百といわれているが、いずれも零細企業でロシアの粗鋼生産量に

占める割合は10%強、完成鋼材生産量に占める割合は10%未満に過ぎない。これらの企業は、製品の品質や販路の問題があり輸出は殆ど行なっていないため、国内市場でのプレゼンスは

生産量から受ける印象よりも高くなっている。かつては、これら中小メーカーが極端な安値

で鉄鋼製品を国内市場に供給することが、鉄鋼製品の国内外価格差を生む主因の一つである

との指摘があったが、最近は、中小メーカーの淘汰が進んでいることや、大手メーカーによ

る国内向け鉄鋼製品の大幅値上げに歩調を合わせる形で中小メーカーも価格を引き上げてい

ることもあり、中小メーカーによるダンピングが問題視されることは少なくなっている。 なお、ロシアの鉄鋼メーカーの設備・技術は大手のそれも含め、全般的に老朽化・陳腐化

の傾向が顕著であり、製品の品質はそれほど高くない。専ら価格の安さを武器に市場でのプ

レゼンスを確保しているといっても過言ではない。例えば、最近、ロシアでは現地生産に踏

み切る外国メーカーが増加しているが、それらのメーカーに自動車用鋼板を納入できる鉄鋼

メーカーは今のところ存在しないのが現状である。

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第8章 ロシアの部品産業の現状

1.概況

ロシアの自動車部品工場の技術レベルは低く、外国車の現地生産においても、部品の現地

調達率は低率に留まっている。 現在、ロシアで最も進展しているフォードの現地生産のケースでは、当初、「投資契約」と

いう特恵関税制度の下で実施されており29、「投資契約」制度では、生産開始から1年毎にロ

ーカル・コンテンツの割合を10%ずつ上げ、5年目で50%を達成することが義務付けられていたが、結局フォードは4年目の段階(ローカル・コンテンツ義務40%)で、当該義務を達成することができなかった。この制度には、人件費や生産に必要な光熱費等もローカル・コ

ンテンツに含まれていたようだが、フォードが生産を開始し、インセンティブの切り替えを

行なうまでの約4年間で、達成できた厳密な意味でのローカル・コンテンツ義務(現地部品

調達率)は10~20%未満だったといわれている。具体的に言えば、現地調達出来た部品は、シート、サイドガラス、リアガラス、タイヤ、ワイパー等に限定されており、エンジン、ト

ランスミッション、電装品、鋼板等の基幹部品は輸入に依存していた。フォードは部品の現

地調達率を向上させるための努力は行なっていたものの、試作品段階では問題がなくとも、

量産になると不良品率が非常に高くなるといったケースが多く、状況改善に至らなかったと

いわれている。 また、ロシア資本のセヴェルスターリ・アフト(自動車メーカー)が韓国の双竜のSUVの現地生産を開始したが、現地調達する部品はタイヤ、内装用のプラスチック製品、シート、

ガラス、バッテリーに限定されており、やはり電装類やエンジン等はすべて輸入に依存して

いる。フォードと双竜以外にも、ロシアでは現代、起亜、BMW、ルノー等の乗用車が現地生産されているが、部品の現地調達状況はフォードや双竜のケースと大差ない状況である。

なお、サイドガラス等の現地調達が可能な部品についても、供給源がロシアの純国産メーカ

ーではなく、外国企業の現地法人もしくは外資との合弁企業であるケースが多く、現時点で

は、部品系外資系企業の数も限定されている(ミシュラン、ノキアン、グラバーベル、ジョ

ンソン・コントロール、テネコ、オートモーティブ・ライティング等)。 しかしながら、トヨタ、日産、VW、GM等が相次いで現地生産の開始を表明した結果、一部の外資系部品メーカーが積極的に始動しており、ロシア企業との間に合弁企業を設立する

事例が増加している。2006年11月初めには、ドイツのシーメンスがカルーガ州の部品メーカー「AVTEL」との間に合弁企業を設立し、エンジン制御装置やセンサーの現地生産を開始する意向を表明した。カルーガ州ではVWが現地生産を開始する予定となっており、シーメンスの合弁企業はVWの現地工場を主要納入先として想定しているものと推測される。また、11月下旬には、カナダの大手部品メーカー「マグナ・インターナショナル」が、ロシアの自

29 2006年夏にトヨタ等の工場と同じ工業アセンブリー措置というインセンティブに切り替えられた(工業アセンブリー措置については、p92参照)。

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動車メーカー「GAZ(ゴーリキー自動車工場)」と共同で複数の部品製造合弁企業を設立する計画を発表している。その他、イタリアのマグネット社がロシアでの現地生産を検討中と

のことである。 今のところ日本の部品メーカーの動きは必ずしも活発ではない面があるが、その背景には、

トヨタ、日産の現地生産台数が5万台程度と、採算性との関連等で検討課題が少なくないためである。 なお、自動車部品産業の現地調達の現状は、家電部品産業と比べると、遥かに良好な状態

であり、ロシア政府も自動車産業の裾野拡大に関心は高く、具体的な進出を検討する企業の

動きもみえることから、今後は徐々に状況は改善していくものと思われる。 しかしながら、家電部品産業においては、そのような裾野の広がりの可能性を示唆するよ

うな動きは殆ど見受けられず、引き続き、外国から完成度の高いキットを輸入し、それを組

み立てる生産方式が継続するものと想定される。ロシア政府でも、このような状況を改善す

る意欲、すなわち家電産業の裾野拡大の必要性を認識している様子は見受けられず、ロシア

の家電部品産業が今後短期間で急激に成長する可能性は低い状況である。 今後カリーニングラード州で薄型テレビの委託生産を積極的に行う意向を表明している日

本メーカーのケースも、上記のような輸入キット組み立て(はめ込み)方式が採用される予

定である。

2.比較的レベルの高い部品産業部門について

ロシアの自動車部品の中で、比較的技術レベルの高いといわれるタイヤ、板ガラス、バッ

テリー部門の状況を紹介する。 (1) タイヤ

① 生産の状況

ソ連邦解体後、他の多くの産業部門同様、ロシアのタイヤ生産部門も極度の不振に陥った。

ソ連解体後、商用車と農業機械の生産量が激減したことに加え、アフターマーケットにおい

ても、商用車や農業機械の主な所有者である軍、生産財生産企業、農業企業、バス運行会社

が深刻な資金不足に陥り、タイヤの交換需要が激減したためであり、特に商用車(トラック、

バス)および農業機械用のタイヤの生産の落ち込みが顕著であった。ロシア経済が回復に転

じた2000年以降、状況は若干改善されてきているものの、商用車および農業機械用タイヤの需要は本格的には回復しておらず、ここ3年は、生産量がほぼ横ばいの状態が続いている。 一方、乗用車用タイヤの方は、需要の減退傾向がそれほど顕著ではなかったこともあり、

ソ連解体後も生産量が商用車用タイヤほど極端に落ち込むことはなかった。また、生産回復

の足取りも、商用車用タイヤや農業機械用タイヤと比較すると、遥かにしっかりしたものと

なっており、1999年には、1990年の水準を超え、それ以降も順調に生産が伸び続けている。

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101

図表1-86 ロシアのタイヤ生産量の推移 (単位 100万本)

タイヤ の種類 1990 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

乗用車用 商用車用 農機用 その他

15.9 19.7 6.6 5.5

10.6 6.9 0.5 0.8

11.2 8.6 0.7 0.7

14.0 9.0 0.9 0.9

14.6 7.4 0.8 0.7

17.6 8.5 0.9 1.0

17.7 10.1 1.1 1.0

19.7 11.4 1.6 1.0

22.2 10.8 1.6 1.2

24.3 11.7 1.7 1.1

25.1 11.7 1.7 1.0

27.2 11.7 1.7 n.a.

合 計 47.7 18.8 21.2 24.7 23.5 28.0 29.9 33.7 35.8 38.8 39.5 n.a (出所)ロシア連邦国家統計局

② 主要メーカー

主要メーカーの動向は、以下の図表1-87 のとおりである。

図表1-87 主要タイヤメーカーの動向 アムテル・フレデンシュタイン

・ インド系シンガポール人のスドヒル・グプタ氏が筆頭株主兼経営者となっている持ち株会社で、元々はアムテルという名称であったが、2005年春にオランダのタイヤ会社「フレデンシュタイン」を約3億ドルで買収した後、現在の名称となった。

・ フレデンシュタインの工場の他に、ロシア国内に2つのタイヤ工場(キーロフとヴォロネジ)を保有しており、2005年のタイヤ生産量は合計で約1,500万本であった。

シブール・ロシア・タイヤ ・ ガスプロム傘下の化学会社「シブール」の子会社で、ボルタイル、オムスクシーナ、ヤロスラブリ・タイヤ、ウラルシーナの4社を傘下におさめる他、スロバキアのマタドール社との合弁企業「マタドール・オムスクシーナ」の株式の50%を保有している。これら5工場の2005年の生産量の合計は約1,600万本であった。

ニジネカムスクシーナ ・ タタルスタン共和国を拠点とする大手石油会社「タトネフチ」傘下のタイヤ会社。年間生産量は1,000万本を超える。

ノキアン (フィンランド)

・ 一時、アムテルとの間に合弁企業を設立し、アムテル傘下のキーロフ・タイヤ工場で自社ブランドのタイヤの生産を行っていたが、アムテルとの間に何らかの問題が生じ、2004年に合弁企業は解散した。

・ ノキアンは合弁企業解散とほぼ時期を同じくして、レニングラード州のフセヴォロジスクで自社工場の建設を決定し、2005年9月には早くも現地生産を開始した。2005年の生産量は約30万本で、2006年には約190万本を生産することを目標としている。さらに、今後約1億4,000万ユーロの追加投資を行い、2008年には年産400万本を達成することを目指している。

ミシュラン (フランス)

・ 2001年からモスクワ州のダヴィドヴォで自社工場の建設を開始し、2004年夏から創業を開始している。2005年には約200万本のタイヤが生産されたが、今後、設備の拡充を実施し、最終的には年産800万本を目指すようである。

・ なお、ミシュランの現地工場はR15タイヤのフセヴォロジスクのフォードの現地工場への納入を2006年9月ごろより開始している。ちなみに、それまでは、上記のノキアンがR15タイヤのフォード工場への納入を行なっていたようである(R16タイヤの納入はコンチネンタルが行なっている)。

(出所)各種資料を基に作成

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102

(2) バッテリー

① 生産の状況

ソ連時代の1991年には750万個であったロシアの自動車用バッテリーの年産量はソ連解体後激減し、1998年には212万個にまで落ち込んだ。しかしながら、1998年8月のロシア経済危機に伴うルーブル・レートの大幅下落の結果、輸入品の攻勢が弱まり、1999年からロシアの自動車用バッテリーの生産量は回復基調に転じた(図表1-88)。2000年以降には複数の新規バッテリー工場が本格稼動を開始したことも、生産の回復基調をより強固とし、自動車用

バッテリー市場における国産品のシェアは、2005年時点で50%強にまで回復したといわれている。

図表1-88 自動車用バッテリーの生産量の推移 (単位 1,000個)

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 3,712 4,931 5,168 5,426 6,162 5,908 5,686

(注)2005年は前年比で若干生産量が減少したが、2006年に入り生産は好調に転じており、1~5月期の生産量は前年同期比で57%増となっている

(出所)ロシア連邦国家統計局

② 主要メーカー

ロシアの自動車用バッテリー・メーカーは、大別して、ソ連時代から稼動を続けている古

参メーカーと、1999~2000年以降に本格的な生産を開始した新興メーカーの2つに大別される。更に、後者は、部品の大半を外国から輸入し組み立てるだけのアセンブラーと、部品の

内製も行っているメーカーとに分類される。最近、ロシアの自動車用バッテリー生産部門で

は特に後者の新興メーカーのプレゼンスが急激に高まっており、同生産部門を牽引する存在

になりつつある。 ロシアには、現在、主要なものだけで20近くのバッテリー・メーカーが存在するが、以下では、その中でも比較的生産規模の大きな数社の概況を紹介する。

チュメニ・ バッテリー工場

・ 1941年に設立されたロシア最大の生産量を誇る古参バッテリー・メーカーで、従業員数は約1,400名。

・ 古参メーカーの中では最も新技術導入に積極的で、2005年には米国Wirtz社の極板製造ラインを導入したほか、2005年には、ACCU(オーストリア)、Technofin(イタリア)との間に、プラスチック部品製造の合弁企業を設立している。

・ 製品(ブランド名はTyumen battery)の大半はアフターマーケット向けとなっており、ロシアの25地域に販売センターが存在する。一方、自動車工場(新車)向けについては、KamazやUralといったトラック工場への納入が中心となっている。その他、カザフスタン等への輸出も行っている。

TUBOR ・ ニジェゴロド州のボール市に所在する新興メーカー(従業員数は250名)。 ・ 地元のエヴラジヤという企業が、米国のEXIDE社(正確にはその欧州支

社)の協力を得て設立した工場で、2001年から生産を開始している。 ・ 製品はTitanおよびArcticというブランド名で販売されている。 ・ 同社のバッテリーは、値段はやや高めであるが、Ca/Ca、Sb/Ca、Ca/Silver

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といったロシアの基準でいえば最新式の技術が採用されており、品質が良いことで知られている。販売経路は、30%が自動車工場(新車)向け、45%が国内のアフターマーケット向け、25%が輸出となっている。

AKOM ・ サマラ州のジグリョフスク市に所在する工場で(従業員数は370名)、2002年にロシアのエネルゴテフマシとEXIDEグループのTudor社の合弁企業として設立された(合弁企業にはSpago Tradingという外国企業も参加していたようである)。

・ その後、Tudor社はプロジェクトから脱退し、現在、エネルゴテフマシはドイツのVarta社との提携を強化している。

・ 販売の中心は自動車工場(新車)向けとなっており、全体の58%を占める。以下、国内アフターマーケット向けが37%、輸出が5%となっている。

AkTexバイカル ・ ノーバヤ・レアーリナスチというイルクーツクの新興財閥が中心になり、スビルスク市のヴォストシブエレメントという工場を改修する形で、1999年に設立された工場。

・ AkTex、VSA、ズベーリというブランドのバッテリーを生産している。 ・ 製品の販売経路は、国内アフターマーケット向けが最も多く40%、輸出が36%、自動車工場(新車)向けが24%となっている。

(出所)各種資料を基に作成

(3) 板ガラス

①生産の状況

ソ連時代の1985年には年間約300万tの板ガラスが生産されていたが、ソ連解体後、生産量は減少に転じ、1995~2003年までは年間100万t前後の水準で推移していた。2004年以降、若干生産量は増加しているものの、2005年時点で約120万tにすぎない。このように急激に生産量が落ち込んだ最大の要因は、内外市場でニーズのある高品質板ガラスを生産しうる工

場の数が限定されていることにある。 「内外市場でニーズのある高品質板ガラス」とは、具体的には、フロート法という近代的

な生産方式で生産された板ガラス(フロート板ガラス)のことを意味している。ロシアには

約20の板ガラス生産工場が存在するといわれているが、その大半がフルコール法という旧式の技術を採用しており、フロート法の生産ラインを有する工場はつい最近までボール(グラ

バーベル傘下工場)、サラトフ(ロシア資本)、サラヴァト(ロシア資本)の3工場にすぎな

かった。そのためこの3工場では、ほぼフル稼働の状態が続いており、2004年には合計で約90万tの板ガラス(フロート板ガラス)が生産されている。 最近、ロシアではフロート板ガラスに対する需要が急増しているため、既存工場での板ガ

ラスの製造ラインの増強工事や、フロート法を採用した新工場の建設が積極的に行なわれて

いる。2005年にはサラヴァトのガラス工場の増強工事が行なわれた他、モスクワ郊外で外資系の新工場が稼動を開始しているその結果、2004年末時点では約110万tであったロシアのフロート板ガラス生産能力は、現在、約170万t強に達している。

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② 主要メーカー

ロシアのフロート板ガラス製造工場のうち、ボール、グラバーベル・クリン、ピルキント

ン・ロシアの3つが外資系となっている。 ボール・ガラス工場とグラバーベル・クリンは、日本の旭硝子の子会社であるグラバーベ

ル社の傘下工場である。ボール・ガラス工場は1970年に稼動を開始した工場で、グラバーベルは1997年に、同工場の株式の約40%をロシアの新興財閥「アルファ・グループ」から取得している。その後、グラバーベルは、EBRDやIFC等からも同工場の株式を取得し、現時点では、同社の持ち株比率は80%以上に達している。グラバーベル・クリンは、グラバーベルが2005年秋に約1億6,000万ユーロと約2年の年月を費やして、モスワクの北西105kmのところにあるクリンに完成させた工場である(年間生産能力は22万t)。

ピルキントン・ロシアは、英国のピルキントン社(既述のとおり最近日本板硝子の傘下に

入ることが決定している)が、AIG Emerging Europe Infrastructure Fundという投資ファンドと共同で2006年初めに完成させた最新式の工場で(年間生産能力は24万t)、モスクワの南東35kmのジューコヴォ村付近(ラメンスコエ地区)に所在する。投資総額は約1億9,000万ユーロであるが、そのうちの約1億ユーロはEBRDとIFCからの融資により賄われた。

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第 9章 WTO加盟に向けた動き

ロシアの WTO(世界貿易機関)加盟における最大の懸案であった米国との二国間交渉が2006年に事実上終了したことから、ロシアのWTO加盟はほぼ確実となった。WTOの前身である GATTへの加盟申請から約 15年が経過しており、早ければ 2007年中にも加盟が見込まれている。

1.加盟に向けた作業

ロシアは 1993年6月にWTOの前身の GATTへの加盟を申請、同年加盟WP(Working Party、作業部会)が設立された。1995年7月に第 1回 WP が開催されて以来、WPは 30回実施されている(直近は、2006年3月)。ロシアは当初、2005年中のWTO加盟を目指していたが実現に至らず、2006年上半期に二国間交渉を終了した。

図表 1-89 ロシアのWTO加盟への軌跡 年月日 事項

1993年6月 ロシアがGATTへの加盟を申請 6月 16~17日 ロシアの加盟に関する作業部会(WP)を設置 1995年7月 17~19日 2006年3月

WP第 1回会合開催 WP第 30回会合開催

(出所)各種資料に基づき作成

2.二国間協議

二国間交渉については、わが国を含む 58 の既加盟国と二国間交渉を実施している。主要国との間では、EUとの間では 2004年5月に、中国とは同年9月に、韓国とは同年 11月にそれぞれ合意に至った。その後、インド、台湾、チリ、ニュージーランド、カナダ、スイス

等と二国間を終了、そして、最大の交渉相手国である米国とは 2006年 11月に合意文書に調印し、2006年 11月現在、二国間交渉中の国はグルジア、モルドバなどとなっている。わが国とは 2005年4月に実質合意に至り、その後、正式に署名している。

(1) EU

EUは 2001年 12月、ロシアに EU側の要望リストを提示し、本格的な二国間交渉を開始した。2003年秋ごろには、燃料価格問題などについて意見対立が顕著になり、交渉が難航する懸念も出ていたが、2004年5月 21日にモスクワで開かれた第 13回 EU・ロシア首脳会議で、グレフ経済発展貿易相とラミー欧州委員会委員(通商担当)はWTOへの加盟交渉妥結に関する合意文書に署名した。EUとの交渉は6年間にわたって行われた。 交渉で焦点の一つになっていたロシア産天然ガスの内外価格差問題に関しては、同国のエ

ネルギー戦略に沿い、国内価格を年内に 1,000立方メートル当たり 27~28ドルへ、2006年までに同 37~42ドルへ、2010年までに同 49~57ドルへ段階的に引き上げることで合意し

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た。関税に関しては、工業製品、水産物、農産物に対する平均関税率の上限を、ロシアの

WTO加盟後にそれぞれ 7.6%(現行 18%)、11%、13%(現行 15%)とすることで合意した。

(2) 米国

シュワブ米通商代表部代表とロシアのグレフ経済発展貿易相は 2006年 11月 19日、ベトナムのハノイで、ロシアのWTO加盟に向けた2国間交渉の合意文書に調印した。米国の国内手続きとしては、議会によるロシアへの「恒久通常貿易関係」(PNTR、最恵国待遇と同義)の付与などが残されている。上下両院で民主党が多数を占める 07年の第 110 議会では、知的財産権の保護、民主化、人権問題などで審議が難航するとの見方もあるが、農業をはじめ

産業界からの圧倒的な支持が議会承認を後押しすると識者は見ている。

(3) 日本

わが国との二国間交渉については、2004年 11月の APEC閣僚会合時に行われた中川経済産業大臣(当時)とグレフ経済発展貿易大臣の会談において、交渉の最大のポイントの一つ

であった自動車関連の関税交渉の実質的合意により交渉が加速化し、2005年 4月 22日に東京で開催された貿易経済日露政府間委員会第 7回会合で、両国議長である町村外務大臣(当時)とフリステンコ産業エネルギー大臣の間で、ロシアのWTO加盟に関する日露二国間交渉が実質的に決着したことを確認した。事務局レベルの調整を経て、同年 11 月、プーチン大統領訪日時に、両国首脳立会いのもと、事務レベルで正式署名が行われた。

3.WTO加盟後に予測される影響

ロシアがWTO加盟によって得られる最大のメリットは、外国投資の増大であると考えられる。これまでロシアに流入した外国投資額はロシアの経済規模に比して極めて小さく、そ

の最大の原因はロシアの法制度の不備にあると見られている。WTOに加盟するためには、ロシアがその貿易・投資関連法制をWTOのルールと整合させることが条件となるため、ロシアがWTOに加盟すれば、それは外国投資家にとってロシアの投資環境が大きく改善されたことを示す明確なシグナルとなる。

また、貿易をめぐる紛争の処理が現在よりも容易になるというメリットもある。近年、ロ

シアの鉄鋼等の輸出に対して、EUや米国がアンチダンピング措置を導入する等の貿易紛争が増加しているなか、ロシアはWTOに加盟することで、これらの紛争をWTOの紛争処理機能を通じて解決することが可能となる。 他方で、WTO加盟による最大のデメリットとして考えられるのは、加盟に伴う輸入関税率の引き下げや農業補助金の削減・撤廃によって、加盟国内の未成熟産業が深刻なダメージ

を受けるのではないかという懸念である。しかしながら、ロシア政府は現在までのところ、

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WTO加盟後の輸入関税率が現在の水準を大きく下回らないようにすることに成功している様子であるため、交渉がこのまま妥結すれば、WTO加盟後にロシアの国内産業が深刻なダメージを受けるといった事態は生じないであろう。 わが国の企業へのロシアのWTO加盟の影響は、①貿易・投資先としてのロシア市場の予測可能性が向上し、貿易・投資に関するリスクが低減することが期待されること、②内国

民待遇を受けることにより、差別的待遇が改善される、③通関などの市場参入にさいし

ての諸手続きの簡素化・透明化が進み、ビジネスが迅速に行われる、ことなどが考えら

れる。一方では、個別の優遇措置が廃止され、取引条件はWTO加盟国すべてに共通したものになる。

4.今後の見通し

残っているのはロシアとグルジア、モルドバなどとの2国間交渉であり、多国間交渉が順

調に進めば、2007年中に加盟が実現する見通しとなっている。グレフ経済発展貿易相は、11月 21日の記者会見で、多国間交渉について「作業部会の合意文書を 2007年7月までに採択させるため、今後7~8ヵ月で多国間交渉を終了させるように努める。その後直ちに閣僚会

議、一般理事会の承認を経て、議会の承認を得ることができるだろう」と今後の見通しにつ

いて述べている。WTO加盟は、早ければ、2007年中に実現するものと思われる。

第 10章 FTAの現状

ロシアの自由貿易協定に対する立場は、CIS諸国に限定し、二国間ではなく、CIS構成国すべてと自由貿易圏を創設しようとするものである。EUや APECなどとの FTA関連交渉は、ロシアのWTO加盟が正式に決まってから以降のことと見られている。 なお、現状の自由貿易圏に関する協定をめぐる動きは以下の通りである。 ●CIS諸国間で調印された自由貿易圏の創設に関する協定締結(1994年 4月 15日) ●ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンの間で「関税同盟お

よび統一経済圏」に関する協定締結(1999年 2月 26日) 上記の協定を踏まえて、2000年 10月 10日に同国間で「ユーラシア経済圏の創設に関する協定」が締結され、この協定に基づき、加盟国間の関税統一化の作業が進められている。 CIS諸国間については、下記の協定が締結されている。 ●自由貿易圏に関する協定の各締結国における輸入の許認可に関する協定締結(2000年 11月 30日)

●自由貿易圏における貿易の技術的障害に関する協定締結(2000年 6月 20日) ●自由貿易圏に関する協定の締結国間に輸出入される商品の通関に関する協定締結(1999年 10月 8日)

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第 11章 新興市場としての可能性

ロシアは人口 1億 4,300万人という魅力的な市場を擁しており、ロシア国民の所得は、今後も緩やかながらも着実に伸びることが予測されていることから、新興市場として大きな可

能性を含んでいる。2003~2007 年のロシア人一人当たりの貨幣所得の推移を見てみると、緩やかではあるが、確実に増加傾向がみられ、2007年には 5,000ドル程度まで達する見込みとなっている(図表 1-90)。

図表 1-90 2003~2007年の所得水準

(出所)ロシア経済発展貿易省『ロシア経済の長期成長予測案』(2005年 12月 30日)

図表 1-91 2006~2009年までの主要社会指標予測(対前年比伸び率)

指標 2006年 (見通し) 2007年 2008年 2009年

実質可処分所得 112.5 110.2 108.9 108.2 実質賃金 112.6 111.0 108.6 107.4 小売販売高 112.1 110.5 109.5 108.5

(出所)ロシア経済発展貿易省

ロシアでは、2005 年時点で、最も発展水準が高い地域で全体の 15%、発展水準が極めて低い地域で全体の 30%が、最低生計費所得以下で生活をしている。しかしながら、2009 年には、その比率がぞれぞれ 10.6%、22%まで縮小する見込みとなっている(図表 1-92)。 現在のところ、モスクワやサンクトペテルブルグなどの一部の都市を中心とした消費加熱

傾向がみられるものの、今後は最低生計費所得以下の住民の割合も低下することが予想され

ることから、国民全体の購買力が拡大されることが期待される。

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モスクワ郊外のショッピングモール。 好調な消費もあり、こうしたショッ ピングモールの開店も相次いでいる。

図表 1-92 最低生計費所得以下の住民の地域別割合(%)

15

18.7

21.8

25.3

28.129.1

12.7

15.4

18.1

22 22.2

24.6

10.612.7

1518.4 17.9

22

0

5

10

15

20

25

30

35

最も発展水準が高

い地域

(13地域

発展水準が高

い地域

(15地域

中位の発展水準の地域

(22地域

発展水準が中位以下の地域

(16地域

発展水準が低

い地域

(14地域

発展水準が極めて低

い地域

(7地域

(%)

2005

2007

2009

(出所)同上

BOX: ロシア人の消費行動 ~有識者ヒアリングから~ ・ 最近のロシア(特にモスクワ、サンクトペテルブルグなどの都市部)における消費市場の拡大は著しく、特に中産階級を中心に急拡大している。例えば、単価あたりの車購入に関する統計をみると 1999年には 3,000ドル以下の車を購入していた層の割合は全体の 41%であったが、2005年には 4%まで減少。他方で、6,000ドル以上の車を購入していた層の割合は同9%から 37%まで拡大している。

・ ロシアの消費を牽引しているのは、①消費が抑制されてきたソ連社会への反動、②投資の代替としての消費(ロシア人は貯蓄性向が低く、生活防衛手段として箪笥預金よりも耐久消費財を購入する傾向がみられる。アパート、車などを財産として購入している)、③最低生活費が安価(光熱費などが安く、可処分所得が大きい)、④夫婦共稼ぎ家庭が大半、⑤消費者ローンの急速な普及、などの要因があるといわれている。

・ 今後は、原油価格高騰が続く限りは、個人消費の活況が続く見通しであり、WTO加盟を契機に更に市場は拡大することが見込まれる。

・ 但し、大統領選挙時(2008年)に想定される多少の混乱、原油価格によっては、景気の減速もあり得るため、多少の消費拡大傾向が下振れする可能性がある。

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第 12章 BRICs比較一覧表

BRICsとは、2003年に Goldman Sachs(米系金融機関)が今後成長が期待される新興国(Brazil, Russia, India and China)の頭文字をとって造った造語である。BRICs諸国は、豊富な資源、広大な国土を有するという共通点があるものの、他方でインフラ整備

面、教育水準、コスト面などでは大きな違いも見られる。ロシアは 4 カ国の中では、人

口、経済規模でブラジルとの類似性が見られるが、他方で人口の減少傾向が著しいこと、

教育水準が高いこと、人件費を含むコストが高いことについては、他国と異なっている。

特に、コスト面では、基本的な生計費は安いものの、人件費が他の 3 カ国に比べて際立って高く、また事務所賃料や駐在員用住宅借上料も相対的に高いことには留意が必要である。

図表 1-93 BRICsの主要指標

ブラジル ロシア インド 中国 人口(2005年) 人口増減率(年率%、2005年)

1億 8,640万 1.3

1億 4,320万 ▲0.5

11億 1.4

13億 0.6

名目GDP(㌦、2005年) 1人当りGDP(㌦、2004年)

7,941億 3,417

7,637億 4,093

7,855億 608

2兆 2,000億 1,269

外国直接投資額 (ネットフロー、㌦、2004年)

182億

125億

53億

549億

識字率 (15歳以上、%、2004年)

88.6

99.4

61.0

90.9

(出所)World Development Indicators Database, April 2006. IMF, World Economic Outlook, April 2005

図表 1-94 BRICs投資環境比較表

国・地域 ブラジル ロシア インド 中国 人口(百万人) 186.4 143.2 1,100 1,300 一人当たり GNI(ドル) 3,460.0 4,460.0 720.0 1,740 GDP(%) 2.3 6.4 8.5 9.9 失業率 8.3 7.6 ‐ 4.2% 労働者の質とコスト

・若年労働者雇用が容易。 但し、労働力の質は低い。

・高学歴の労働者の賃金は高い。 ・対日感情は良好。

・高度な知識や熟練を要するビジネス分野では質の高い労働力を比較的低廉に入手できる。

・組立などの単純労働では、エマージング・マーケットしては賃金は極めて高い。

・対日感情は概ね良好。

・若年労働者雇用が容易。 但し、労働生産性は、東南アジアよりもやや劣る。

・一般的に、ロジカルな思考能力を持ち、英語力も高いといわれるが、最近は賃上げ圧力が大きい。 ・対日感情は良好。

・沿海対内陸部の労働者の質に大きな差がある。

・沿海部は労働集約型生産には不向きになりつつある。 ・対日感情に留意。

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賃金水準/月 (リオデジャネイロ) ワ ー カ ー :199.9US$ エ ン ジ ニ ア :1,263.4US$

(モスクワ) ワーカー:700-1,800US$ エ ン ジ ニ ア :1,400-3,500 US$

(ニューデリー) ワーカー:105-239US$ エンジニア:303-498US$

(上海) ワーカー:172-301US$ エンジニア:334-593US$

日本人の生活環境

・国土が広く、気候は熱帯性、亜熱帯性、半砂漠型、温帯性と多様。

・東南部には産業が集積しており、人口密度が最も高い。

・貧富の格差が大きく治安はすこぶる悪い。

・200社を超える日系企業が進出しているサンパウロでは、日本食レストランには事欠かない。

・サンパウロにおける医療は世界の一流都市の水準に勝るとも劣らないと言われている。

・国土の 56%が永久凍土地域で占められ、寒冷地が多い。夏は短く、冬は長い。

・近年、首都モスクワを中心にオフィス賃貸料・家賃、ホテル代が大幅に上昇している。

・治安は危険な場所を避ければ、特に問題はない。但し、オフィスや自宅のセキュリティーは厳重にする必要がある。

・ロシアでは日本食ブームが定着しつつあるが、レベルの高い日本料理は非常に高価である。

・一般的に医療水準は高くなく、在露邦人は欧米系のクリニックやメディカルセンターを利用することが多い。

・国土が広い為、気候は地域により異なる。デリーでは寒暖の差が大きく、ムンバイでは雨量が多い。 バンガロールを除き全般的に気候的な生活環境は厳しく、衛生面での留意が必要。

・治安は概ね良好であるが、住宅・工場ともに警備員などのセキュリティーは必要。

・日本食材の調達は容易ではなく、日本食レストラン」も各主要都市に2~3軒。

・医療水準は、欧米からのメディカルツアーがあるほど高いといわれるが、日本人駐在員は日本やシンガポールなどで治療するケースも多い。

・国土が広く北方と南方では気候に大きな違いがある。

・北京、上海といった大都会では日本人が生活に不自由することは無いが、内陸部の畝での生活には不自由な面がある。 ・治安は良好だが、地域により徐々に悪化傾向にある。

・日本人は外国人向けアパートに居住するケースが多い。

・医療水準は地域格差が大きい。

(出所)国際協力銀行 中堅・中小企業支援室『ベトナムの投資環境』(2006年9月)、JETRO「投資コスト比較」、世銀、政府公表

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112

図表 1-95 投資コストの比較

リオデジャネイロ モスクワ ニューデリー 北京 ワーカー賃金 (月額、ドル)

199.9 700~1,800 105~239 84.10~164.49

エンジニア賃金 (月額、ドル)

1,263.4 1,400~3,500 303~498 222.62~469.97

中間管理職賃金 (月額、ドル)

2,819.9 3,500~12,000 737~1,219 333.93~1,768.58

社会保険負担率 ①雇用者負担 ②被雇用者負担

44.5% 11%

26.0%

0%

12% 12%

30.5%~32.7%

10.5% 事務所賃料(月額、㎡当たり、ドル)

24.58 42.78~63.32 18.88~35.40 34~40

駐在員用住宅借上料(月額、 ドル 90~110m2 付加価値税

(18%)を含む)

1,854.8 3,000~8,000 1,535~3,289 2,300~6,000

国際電話通話料 (日本向け 3分、ドル)

2.15 3 0.79~1.18 2.97

業務用電気料金 kWh当たり、 ドル)

0.10 0.03~0.05 0.09 0.03~0.11

業務用水道料金(㎡当たり、 ドル)

0.64 0.41 0.49~1.64 0.69

ガソリン価格 (1ℓ当たり、 ドル)

1.10 0.7 0.95 0.53

法人税税率 15%(実効税率) 24% 33.66% 33%(実効税率)

個人所得税率

月給 1,164.00レアル以下:0% 月給 1,164.01~

2,326.00レアル以下:15%

月給 2,326.01レアル以上:27.5%

13% 33.66%(最高税率)

45%

付加価値税率 (消費税)

0% 18% 12.5% 17%

日本への利子課税(%)

12.5% (最高税率) 10% 10% 10%

日本へのロイヤリティ送金課税

(%) 25%

(最高税率) 10% 10.46% (最高税率) 10%

(注)調査時点は 2006年1月。ブラジルレアルの交換レートは1ドル=2.2374レアル (出所)ジェトロホームページ(http://www.jetro.go.jp/indexj.html)の「投資コスト比較」

のコーナーから抜粋して作成

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混雑するモスクワ郊外のハイパーマーケット (写真は IKEA)

第 13章 生活環境、教育

1.首都モスクワおよび地方での生活環境

首都モスクワの生活環境は、ソ連時

代や1990年代とは様変わりしており、物の調達のために、列をなすなどの不

便を感じるということは殆どなくなっ

た。24時間営業のコンビニタイプの店から、スーパーマーケット、超巨大な

ハイパーマケット、高級ブティックな

ど、買い物には不自由することはない。

また、レストランも増加し、特に日本

食レストランはモスクワ市内に数百件

あるといわれ、普通のレストランでも

すしあるいは刺し身などの日本食がメ

ニューにある。スーパーマーケットに

も多少は日本食材が販売されている。 また、日本人に馴染みのある、ウラジオストック、ハバロフスクなどの極東、サンクトペ

テルブルグでもモスクワの状況が徐々にではあるが波及しつつある。

2.治安情報

治安は非常に悪くはないが、犯罪、テロの危険性は日本よりも高く、治安対策には十分配

慮する必要がある。都市部では、右翼的な排外主義者のスキンヘッドグループの暴力沙汰、

強盗、窃盗、置き引き、また、チェチェン問題に関連するテロなどの可能性はあるので注意

が必要である。街中では、常に周辺に注意を払い、人込みにむやみに近づかないなどの配慮

および車のセキュリティにも十分配慮する必要がある。 住宅を選ぶ際は、警備員が常駐し、二重三重にセキュリティチェックのある住宅が望まし

く、オフィスについても、入り口で厳しいチェック体制をとるオフィスビルが望ましい。ま

た、車についても、窃盗が多いので、防犯対策を万全にする必要がある。 なお、セキュリティチェックの厳しい社会なので、外出の際は、常にパスポートを携帯す

る必要があり、携帯していないと、オフィスにも入れない場合もある。 また、治安対策に関連して配慮すべき事項として、写真撮影がある。空港、鉄道、発電所

等、軍事的に重要な施設の写真撮影は禁止されており、最悪の場合にはカメラの没収という

こともありうるので、写真撮影を試みる場合は、同行するロシア人や近くの警備員に尋ねた

上で写真を取った方が無難である。

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ネヴァ川からエルミタージュ美術館を臨む

(サンクトペテルブルグ市)

3.住宅事情

ロシアでは、基本的に集合住宅に住むのが基本的であり、外国人もアパート(マンション)

住まいとなる。近年は、首都モスクワあるいはサンクトペテルブルグなどでは、セキュリテ

ィが完備された新築の外国人あるいは富裕層向けのアパートの建設が進んでおり、住み心地

も快適と評判である。しかしながら、問題は価格の高騰であり、首都モスクワでは東京都と

同じ、あるいは東京よりも高い物件も多くなってきている。モスクワ以外であれば、住宅価

格は日本よりも安いが、質、セキュリティに問題がある物件も多い。 住宅を探す場合は、日本人社会の情報ネットワークの活用、あるいは欧米系などの世界的

な不動産会社に依頼するのがよい。

4.学校教育事情

モスクワには小学校1年生から中学校3年までを対象とした日本人学校が1校ある。これ以外に、ロシアには日本人学校はない(モスクワ、サンクトペテルブルグの学校事情は、各地

域編参照)。

5.医療事情

ロシアの一般的な医療水準は高くない。ロシア企業および日系を含めた外資系企業では、

国家の行う強制医療保険以外に民間の医療保険に企業が加入し、医療保険の指定する医療機

関で受診するということが一般的に行われている(モスクワ、サンクトペテルブルグの医療

事情は、各地域編参照)。

6.娯楽

モスクワ、サンクトペテルブル

グをはじめ、ロシアはバレエ、ク

ラシック音楽の盛んなところであ

り、催しものが随時開かれている。

また、ボリショイサーカスなどの

サーカスも有名であり、家族連れ

などに適当な娯楽もある。 また、サンクトペテルブルグの

世界三大美術館に数えられるエル

ミタージュ美術館をはじめ、モス

クワのトレチャコフ美術館、プー

シキン美術館などでも名画も堪能

することができる。

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これらの伝統的な教養系の娯楽とは別に、資本主義社会の成熟に伴って、ボーリング場、

スイミングプール、スポーツジム、テニスなどスポーツ施設も充実してきており、ゴルフ場

はモスクワに限られるが、プレー可能である。 7.日本食

前述のように、ロシアでは日本食が広く普及しつつあり、モスクワなどでは欧米系、中東

系、中華のレストランにもすし、刺し身がメニューにあるなど一般的な料理として定着しつ

つある。スーパーで手巻き寿司の道具や、のりが売られていたり、日本酒、梅酒が売られて

いるなど、ロシア人にとっても日本食は身近になりつつある。しかしながら、これらの日本

食は日本人以外が料理しているケースも多く、お客もロシア人が多いため、日本人が食した

際にはやや違和感を感じる場合もある。また、レストラン一般が非常に高価になっており、

特に、日本食はその傾向が強いため、手軽においしい日本食を外食で食べられるまでには至

っていない。

8.その他

新聞・雑誌・テレビ等の情報収集については、日本語の新聞はモスクワでは 2~3日遅れで配達されるが、現状ではインターネット経由での情報収集が主流になりつつある。テレビは、

NHKのほか、英国の JSTVの視聴が可能である。 自家用車の運転については、運転手をつける企業・機関もあれば、自ら運転するところも

ある。