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Page 1: ミクロネシア連邦水産業の現状 - maff.go.jp...-1- 第1 章 ミクロネシア連邦水産業の現状 1. 一般情報 1-1. 地理的特徴 ミクロネシア連邦は、東経130

第 1 章

ミクロネシア連邦水産業の現状

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第 1 章 ミクロネシア連邦水産業の現状

1. 一般情報 1-1. 地理的特徴

ミクロネシア連邦は、東経 130 度から 172 度、赤道以北から北緯 22 度に広がって点在する

607 の島々と環礁からなる島嶼国である。国土面積は約 701km2(日本の奄美大島とほぼ同じ)し

かないが、西の端のヤップから東の端のコスラエまでの距離は 2,550kmにもおよび、2,980,000

km2 の広大な排他的経済水域(EEZ)を有している。また、島々の周りに形成されたマングロー

ブ林や珊瑚礁域は豊かな水生生物資源を育み、これらを利用する国民の生活を支えている。

気候は熱帯海洋性気候で、気温は年間を通じてほぼ一定である(平均気温 27 度)。11~4 月の

北東風の吹く季節と、5~10 月の南西風の吹く季節に分けられる。年間降水量は平均して 3,000

~4,000mm で、中でもポンペイ州の年間平均降雨日は 304 日と、世界有数の多雨地帯である。

但し、広大な海域に散らばる島々で構成されているため、島の位置や標高により年間降雨量に

は幅がある。標高の低いサンゴ島では、旱魃による水不足などの被害も報告されている。ハリ

ケーンシーズンは 8 月から 12 月。ミクロネシア地域では主にグアムから北の北カロリン諸島周

辺で熱帯低気圧が発達する。数年に一回、この海域で発達したハリケーンが南下し、各地に被

害をもたらすこともある。

以下に 4 州それぞれの地勢的特徴を示す。

ヤップ州 :4 島からなるヤップ本島を中心に、130 の環礁および島から構成される。ヤップ島

南部は平坦な湿地帯と樹木が茂っている。陸地総面積は 118.4 km²。州都はヤップ

島コロニア(Colonia)。

チューク州:チューク環礁を中心に、7 つの環礁グループから構成されている。チューク環礁は

最大径 64km、全長 200km の保礁に囲まれ、ラグーン内には大小 98 の島をもつ世

界でも最大級の環礁となっている。陸地総面積は 127.4 km²。州都はウエノ(Weno)。

ポンペイ州:連邦最大のポンペイ島と周辺の 25 の島および 137 の環礁島から構成されている。

ポンペイ島は直径 24km の円形に近い火山島で、内陸部では 500~700m 級の山が

並ぶ。降雨量が多く、水資源が豊富である。陸地総面積は 345.4 km²。州都はコロ

ニア(Kolonia)で、連邦政府は 1989 年にコロニアからパリキールに遷都された。

コスラエ州:コスラエ島と 5 つの島からなり、本島内には 600m 級の山があり、内陸部は森林で

降雨が多い。海岸部は砂浜が発達している。陸地面積は 109.6 km²。

1-2. 社会・経済的状況 ミクロネシア連邦は、1947 年以来、マーシャル、パラオ、北マリアナとともに、米国を施政

権者とする国際連合の太平洋諸島信託統治地域の一部を構成していたが、1986 年に米国と自由

連合協定(通称:コンパクト)を締結して独立し、自由連合国家に移行した。

経済面では、農業と漁業を除き、際立った産業はなく、生活必需品の多くを輸入に依存して

いる。健全なマクロ経済と社会・経済発展のためには、国内産業の育成と消費活動の輸入物資

依存体質からの脱却が重要な鍵となっている。

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また、政府歳入の約 5 割はコンパクトに基づく米国からの財政支援である。2004 年 5 月に

米国との間で批准された改訂コンパクトでは、2004 年から 2023 年までの 20 年間に 18 億

4,400 万ドル(毎年 9,200 万ドル)の財政支援を行うこととなった。改訂コンパクトの重要な特

徴のひとつは、信託基金を創設し、資金の積み立てを行うことである。これにより、改訂盟約

終了の 2023 年までに 4 億 4,240 万ドルを積み立てられる見通しである。改訂コンパクトは 5

年ごとに評価が実施され、最終目標であるミクロネシア連邦の経済的自立を実現するための見

直しが行われることとなっている。

我が国との関係では、1914 年以来 1945 年まで我が国が南洋群島の一部として統治していた

歴史的関係に加え、1979 年以来民間漁業協定が締結されているように、漁業分野でのつながり

も深く、国づくり、社会・経済発展に向けた我が国からの支援・協力への期待が大きい。

ミクロネシア連邦の一般指標を表 1 に示す。

表 1:FSM の一般指標

人口

102,624 人 ヤップ州:11,376 人(11.1%) チューク州:48,651 人(47.4%) ポンペイ州:35,981 人(35.1%) コスラエ州:6,616 人(6.4%)

(2010 年、2010 Census Preliminary Results) 首都 パリキール(ポンペイ州) 民族 ミクロネシア系 言語 英語(他、現地の 8 言語) 宗教 キリスト教(カソリック 50%、プロテスタント 47%、その他 3%) 独立年 1986 年(米国との自由連合協定締結)

政体 大統領制 大統領:エマニュエル・マリー・モリ氏(チューク州) ※2011 年 3 月に連邦議会選挙を予定

主要産業 水産業、観光業、農業(ココナッツ、タロイモ、バナナ等)

GDP

197.5 百万米ドル ヤップ州:34.7 百万米ドル (18%) チューク州:53.3 百万米ドル (27%) ポンペイ州:95.1 百万米ドル (48%) コスラエ州:16.0 百万米ドル (8%)

(2007 推定値、Statistical Yearbook FSM2008) GNI/人 2,340 米ドル(2008 年、世銀) 経済成長率 - 1%(2008 年、世銀) 物価上昇率 4.9%(2008 年、世銀)

総貿易額 輸出:20.6 百万米ドル 輸入:142.7 百万米ドル (2007 年、Statistical Yearbook FSM2008)

主要貿易品

輸出:マグロ類(54.1%)、カヴァ(10.8%)、リーフフィッシュ(4.1%)、手工芸・

土産物(3.9%) 輸入:鉱物性生産物(22.1%)、加工食品・飲料製品(17.1%)、機械・部品類(14.4%) (2007 年、Statistical Yearbook FSM2008)

主要貿易国 輸出:米国、日本 輸入:米国、シンガポール、日本 通貨 米ドル

対日貿易 日本への輸出額:456,480 千円、日本からの輸入額:1,552,609 千円 主要輸出品:魚介類(95%) 主要輸入品:輸送機器(43%)、一般機械類(19%)、

食料品(14%) (2007 年、日本通関統計) 出典:外務省ホームページ(参考データを除く)

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1-3. 社会制度 伝統的な社会制度として、各々の州あるいは地域において形態の差異はあるものの、酋長制

度の実態が残っている。憲法(連邦、州憲法とも)では、伝統的指導者の地位および慣習法が認

められ、近代政治機構との調整がなされている。特に、ヤップ州における酋長評議会の影響力

は大きい。

土地とその沿岸域の所有と管理は、ポンペイ州およびコスラエ州では親類ないしコミュニテ

ィによる伝統的な管理に加え、州政府による管理がなされつつある。しかしながら、チューク

州およびヤップ州では相続、贈与、売買等により個人の財産として管理されている。全ての州

に共通して FSM 籍を持たない外部者の土地所有は許されていない。

1-4. 島嶼間の移動 コスラエ州以外の州では州都のある本島と離島との間でヒト・モノの輸送を担う島間連絡船

が運航されており、これら連絡船は離島に居住する人々の生活にとって欠かせない輸送手段と

なっている。また、比較的近距離の島嶼間では船外機付きボートが人々の海上交通を支えてい

る。表 2 に各州の航行連絡船と運航状況を示す。

表 2:各州の離島連絡船の状況 政府機関 航行連絡船 現状

ポンペイ州 Caroline Voyager Micro Glory の代用として、主にポンペイ州の離島連絡船と

して航行中。JICA により 2010 年 9 月に主要部品供与等の

フォローアップ協力に関する調査が実施された。

チューク州 (Chief Mailo) Micro Trader は座礁、Micro Dawn は機関故障で航行不能。

中国の供与船 Chief Mailo(2004 年就航)は機関不調で、中国

で修理・調整中。

ヤップ州 Hapilmohol (Micro Sprit)

中国の供与船 Hapilmohol(2005 年就航)は機関不調のため、

航行日数は 3 割程度。 Micro Spirit は運航可だが係留中。

コスラエ州 無し コスラエ州は本島のみで、離島連絡船はない。 出典:JICA 技術協力プロジェクト案件別事後評価報告書(2009 年)を基に作成

2. 漁業および養殖 同国では海面漁業が主な漁業となっており、内水面漁業・養殖については、一部の地域でウナ

ギ、ティラピアおよび淡水エビが食用に利用されているという報告があるが、いずれも明確な統

計情報はない。ここでは、主に海面漁業・養殖について概要を述べる。

2-1. 漁業 漁業は、外国船を中心とした近海・沖合商業漁業と、マングローブ域・リーフ域・ラグーン

域で行われる沿岸零細漁業に大別される。ADB の調査報告書では表 3 に示す通り、6 つの分類

ごとの生産量、生産額が報告されている。

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表 3:形態別生産量と生産額(2007 年)

商業型 沿岸漁業

Coastal Commercial

零細型 沿岸漁業

Coastal Subsistence

外国船 沖合漁業

Offshore Locally-based

自国 沖合漁業

Offshore Foreign-based

内水面漁業 freshwater

養殖 aquaculture

生産量 (トン)

2,800 9,800 16,222 143,315 1 16,000 (個:黒真珠)

生産額 (米ドル)

7,560,000 15,732,000 23,908,377 177,195,590 8,000 80,000

出典:ADB 「Fisheries in the Economies of the Pacific Island Countries and Territories」

(1)近海・沖合商業漁業

主として外国資本のミクロネシア漁船、および入漁協定を結んだ外国籍の延縄、旋網、一本

釣漁船が漁業活動を行っており、生産量ではカツオ・マグロ類が多くの割合を占めている(表

4)。2007 年に同国排他的経済水域で漁獲されたマグロ類は 96.7%がまき網、3.3%が延縄による

もので、船籍別に見ると外国船籍が 97.4%で、FSM 船籍(外国資本)は 2.6%である(2008 年、

NORMA)。

同国では大型漁船を①Domestic vessel(ミクロネシア船籍で株式の大半をミクロネシア人が保

有)、②Locally based foreign vessel(ミクロネシア船籍で①に該当しない漁船)、③Foreign

vessel(外国船籍の漁船)に分類している。これら商用漁船の水揚げは、ポンペイ州では我が国の

無償資金協力により整備されたタカティック漁港で、チューク州ではウエノ港で行われている。

しかし、後者では入港料の値上げや大型の冷蔵・冷凍設備の不足により現在は減っているとい

う。

過去、同国沖合漁業への海外からの投資が進み、数多くの漁業公社・会社が設立・経営され

た。しかしながら、水揚施設等の流通基盤や販路の欠如などの理由により 2000 年以降から多く

の漁業会社が徐々に経営難に陥り始め、現在に至るまでに倒産や撤退を余議なくされた。この

結果、現在ミクロネシア資本の会社・公社が保有する商業漁船は延縄漁船 9 隻(うち 3 隻は漁船

として使用されていない)、旋網漁船 11 隻、底釣漁船 2 隻となっている。

ミクロネシア連邦政府は、これらの失敗から得た教訓を生かしつつ、自国沖合漁業を育成す

るとともに、外国船による漁獲物の水揚も同国内の港でできる体制を整え、自国の資源を国内

経済に貢献させる方法を模索している。

表 4:近海・沖合商業漁業生産量 単位:トン 魚種\年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

カツオ 15,162 10,689 14,574 24,054 23,640 23,611 9,215 11,853 マグロ類 6,526 6,957 6,033 6,775 4,831 4,691 1,559 3,587 その他海産魚 1,400 1,500 1,500 1,500 1,500 1,500 1,500 1,500 ロブスター 20 20 20 20 20 20 20 20 ノコギリガザミ 5 5 5 5 5 5 5 5 タコ 20 20 20 20 20 20 20 20 タカセガイ 150 150 150 150 150 150 150 150 合計 23,283 19,341 22,302 32,524 30,166 29,997 12,469 17,135 出典:FAO Fishatat Plus

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(2)沿岸零細漁業

零細漁民は、①自家消費用や冠婚葬祭時など社会的儀式の際に漁を行う者、②自家消費用の

他に現金収入源として漁を行う者、の二通りに分かれる。前者は賃金労働、農業、海外で働く

親類からの送金などを主な世帯収入源としており、後者は兼業あるいはもっぱら家計収入を漁

に依存している世帯である。今回の現地調査で聞き取り調査を行った 33 世帯の内 12 世帯が漁

による収入が家計収入の 50%以上を占める世帯であった。

漁は、徒歩又は泳いで漁場まで行くか、木彫りのカヌーや 15~40 馬力の FRP 船外機船を用

いて行われる。漁法と主な対象魚種は表 5 の通りである。聞き取り調査では、この中でも漁船

や大掛かりな漁具を必要しない潜り突き漁や底釣りを主に行っている漁師が多かった。チュー

ク州ウエノ島の公設市場での魚価は、カツオ・キハダマグロは 90 セント/ポンド、リーフフィ

ッシュは 1.25~1.5 ドル/ポンドであった。

漁獲後の鮮度保持のため、氷を使用する漁民も多く見かけた。ポンペイ島の公設市場の中に

は氷を使用していない漁獲物を買い取らない仲買人もおり、鮮度維持に関する意識も育ちつつ

ある。各州には、我が国水産無償資金協力により供与された製氷機があり、重要な役割を果た

している。

表 5:沿岸零細漁業の漁法と対象種 漁 法 主な対象種

潜り突き漁 アイゴ類、ヒメジ類、ブダイ類、ニザダイ類、フエダイ類

などのリーフフィッシュ全般 刺網漁 底釣り漁 キハダ、カツオ、ハタ類、フエダイ類、その他底魚全般 Pou Potu(水中集魚灯を用いた

底釣り漁) アジ類、ハタ類、フエダイ類など

投網漁 キビナゴ類、ミズン類 曳き網 キハダマグロ、カツオ、シイラ、カマスサワラ、ツムブリ 石ひみ ハナアイゴなど たも掬い トビウオ類 素手/トラップによる採取 ノコギリガザミ、ナマコ類、タカセガイ、シャコ貝 出典:現地での聞き取り調査結果を基に作成

2-2. 養殖 政府の水産養殖振興に対する関心は高いものの、これまで成功を収めた例は少ない。海草類

(キリンサイ等)、魚類(アイゴ類、ミルクフィッシュ、ティラピアなど)、エビ類の養殖事業は

試験されるか提案がなされてきたが、今までのところ商業的発展までは至っていない。

今回の現地連邦政府や州政府訪問時の聞き取り調査では、民間セクターは黒真珠とノコギリ

ガザミの養殖に特に関心が高い。

黒真珠養殖(天然採苗)は 1995 年にポンペイのヌクオロ環礁で始まり、地方局により、運営さ

れている。2008 年は生産がなかったが、2007 年は真珠貝が約 2,000 個体が生産され、ポンペイ

本島では 20~480 米ドル/個で取引される。

現在、ミクロネシア大学(College of Micronesia: COM)が米国のランドグラント計画によるク

ロチョウガイ養殖プロジェクトを実施している。ポナペ農工高校(Ponape Agriculture and Trade

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School: PATS)は過去に海綿、シャコガイ、ソフトコーラルの養殖を行い、クロチョウガイ種苗

生産を計画していたが予算緊縮のため全プロジェクトは中止となっている。

国立養殖センター(National Aquaculture Center: NAC)は、養殖に関する調査、研究、実証、研

修を目的として 1991 年にコスラエに設立された。シャコ貝類を中心に活動が実施され、2005

年から 2007 年までの 3 年間で輸出用に平均約 14,500 個、17,300 米ドル相当のシャコ貝生産実

績がある。現在、ドイツ人専門家が指導を行っており、主に輸出用の観賞魚の生産を行ってい

る。

チューク州にある韓国の水産研究機関「Korea South Pacific Ocean Research Center」では環境モ

ニタリング、養殖開発、海洋バイオテクノロジーに関するプログラムを実施中である。その内、

養殖分野では黒真珠養殖、シャコ貝類、タカセガイ養殖、藍藻類(Spirulina)培養、ナマコ類と

ウニ類の養殖技術開発に関する調査研究などを実施している。

3. 水産物需要、流通・加工 3-1. 国内需要

海産物は伝統的に同国国民の食生活に重要であった。また、近年は都市化が進み、魚類需要

は以前よりも増加している。これら需要の一部は、地元の漁獲魚や他の伝統的蛋白源の価格上

昇(ポンペイでは$1.87/kg(1997 年)から$2.42/kg(2006 年)、チュークでは$2.20/kg(2000 年)か

ら$2.97/kg に上昇している)により、安価なマグロやイワシ、サバ類の輸入缶詰等によって補

われている。

FAO によると、2007 年の国民一人当たりの年間水産物消費量は 44.1kg/年(live weight、Direct

human consumption)としている。

2005 年の政府統計によると、FSM 全体で全家計支出中の食料支出(エンゲル係数)は 39.4%で、

その内水産物の支出割合は 27.7%であった。州別・項目別家計支出額を表 6 に示す。

表 6:州別・項目別家計支出額 単位:米ドル’000 項目 FSM Pohnpei Chuuk Yap Kosrae

魚・海産物 23,004 5,478 12,008 4,412 1,106 食料 83,132 24,579 37,836 15,303 5,413 交通通信費 19,536 7,155 6,373 4,210 1,798 支出計 210,734 77,988 79,716 38,934 14,096 出典:HIES 2005, SBOC 注:「食料」の数値には「魚・海産物」も含まれる。

3-2. 国内流通 州都がある大きな島では、零細漁民による漁獲物は公設市場に近い漁港や前浜に水揚げされ

た後、各人口集中地域に運搬され、マーケット、消費者・小売店・レストラン等に直接販売さ

れる。そのほか、グアムやサイパンに航空便で輸出されるケースもあるが、正規の供給ルート

はなく、個人が航空便の手荷物として魚介類を運搬している。離島の漁民に対しては、市場へ

のアクセスを提供するための多くの試みが政府・民間レベルでなされてきたが、低い生産性や

輸送サービス、品質管理の悪さなどが障害となり、目立った成果を上げた例はほとんどない。

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3-3. 加工 マグロ漁船による輸出用漁獲物のうち低品質の物は国内消費および加工に向けられる。NFC

では、マグロの真空パックや燻製等の加工品を製造している。これらの加工品は工場内の販売

所やスーパーマーケット、島内のホテル・レストラン、観光客への土産店などで販売されてい

る。タカティック漁港を基地として利用する香港の Luen Thai Fishing Venture(LTFV)社は、旧

Pohnpei Fisheries Corporation の加工施設をリースし、同社が保有するはえ縄漁船の漁獲物をロイ

ン、ブロック、サク、ミンチ等に加工している。FSM では残滓の加工施設はなく、加工の工程

で出た残滓の多くは海上投機されている。また、加工残滓や余ったはえ縄のエサなどの再販売

は禁止されており、将来的にこれらの有効な再利用のための施設や制度の整備が望まれている。

零細漁業における加工品は、ニザダイ類の日干しやナマコ類やシャコ貝類の塩蔵品をペット

ボトルに詰めたものなどが挙げられる。離島地域では、自給的漁業による鮮魚消費が中心にな

っているが、水揚げ量が多い際には余剰分の漁獲物を簡単な塩蔵および日干加工にして貯蔵し

ている。これらの一部を本島に運んで販売する場合もある。

4. 水産物貿易 4-1. 水産物輸出

2007 年における同国の水産物輸出額は総輸出額の 59.6%(2007 年)を占め、水産物は外貨獲得

資源として非常に重要な位置を占めている。

輸出品目はメバチマグロ、キハダマグロおよびカツオが中心で、これらは主に生鮮・チルド

形態、カツオの輸出は冷凍形態で輸出されている。また、零細漁民が漁獲したリーフフィッシ

ュ、ロブスター、ノコギリガザミなどは旅客手荷物としてグアムやサイパンに輸出することも

ある。

同国では輸出の際に輸出業者に課せられる申告制度が整備されていないため、沖合漁業につ

いては NORMA(National Oceanic Resource Management Authority)、NFC(National Fisheries

Corporation)、海外の統計専門家等からの情報により推定されている。また、沿岸漁業について

は検疫所や同国に就航するコンチネンタルエアラインの貨物積載記録(チューク州)に依存して

いる。

表 7 に品目別水産物輸出量、表 8 に連邦政府統計による同国沿岸漁業による輸出額・量を示

す。

表 7:品目別水産物輸出量 単位:トン 魚種\年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

メバチ 鮮魚 or 冷蔵 . . 1,154 1,114 699 98 431 キハダ 鮮魚 or 冷蔵 1,022 1,154 895 671 383 51 109 キハダ 冷凍 1,205 1,669 229 889 1,269 766 544 カツオ 冷凍 5,225 5,360 5,968 8,175 7,808 6,443 2,712 マグロ類 鮮魚 or 冷蔵 21 55 90 59 40 1 1 マグロ類 冷凍 10 104 25 150 152 430 0 海産魚 冷凍 0 0 275 87 123 25 0 海産魚 加工 0 0 21 53 35 20 36 その他 21 22 28 3 12 65 151 合計 7,504 8,364 8,685 11,201 10,521 7,899 3,984 出典:FAO Fishstat

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表 8:沿岸漁業による水産物輸出額・量 項目\年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

リーフフィ

ッシュ トン 15.1 20.0 21.6 214.3 16.2 152.2 5.6 244.2 米ドル 75,273 100,823 109,512 733,022 55,650 520,382 241,421 841,376

甲殻類 トン 17.1 14.1 22.3 6.1 3.7 6.3 2.2 6.9 米ドル 172,339 177,948 206,480 41,442 25,369 45,362 19,831 39,163

タカセガイ トン 0 0 9.6 0 0 0 135.1 23,714 出典:International Trade Publication FSM 2007

4-2. 水産物輸入 主な輸入品ではマグロ・サバ類缶詰の占める割合が多い。缶詰製品は、雇用労働者にとって

は簡便な食材として、離島地域の人々にとっては保存食として、同国では広く普及している。

水産物輸入量を表 9 に示す。

表 9:水産物輸入量 単位:トン 魚種\年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

マグロ類 冷凍 138 - - - - - - マグロ類 鮮魚 or 冷蔵 49 0 2 24 33 19 0 海産魚 冷凍 114 15 23 35 0 0 32 海産魚 鮮魚 or 冷蔵 38 9 7 72 72 26 0 エビ イカ 無脊椎 20 0 18 0 12 0 0 マアジ 加工 - 674 - 415 303 416 284 サバ 加工 242 209 337 247 283 198 256 その他海産魚 加工 411 504 765 759 764 498 349 合計 1,012 1,411 1,152 1,552 1,467 1,157 921 出典:FAO Fishstat

4-3. 対日水産物貿易 「ミ」国の日本への輸出品目で主なものは、キハダマグロ(生鮮・冷蔵、冷凍)、メバチバグロ(生

鮮・冷蔵)などである。マグロ類の一部やアコヤ真珠は空輸されている。表 10 に品目別対日輸

出額を示す。

表 10:対日輸出額 単位:1000 米ドル 品 目 2004 2005 2006 2007 2008 合計

食糧品、動植物生産品 9,280 1631 3791 3,866 3,259 21,827 魚介類 9,246 1631 3783 3,857 3,248 21,765

ビンナガ(生鮮・冷蔵) 0 0 0 0 0 0 キハダ(生鮮・冷蔵) 2,806 383 785 377 532 4,883 メバチ(生鮮・冷蔵) 5,999 830 2792 2,160 2,575 14,356 その他のマグロ類(生鮮・冷蔵) 0 0 0 0 0 0 その他魚類(生鮮・冷蔵) 280 5 7 4 8 304 メカジキ(生鮮・冷蔵) 0 0 0 29 74 103 キハダ(冷凍) 161 413 199 320 59 1,152 カツオ(冷凍) 0 0 0 967 0 967

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穀物、加工穀物 0 0 0 0 0 0 コーヒー、茶、香辛料 0 0 6 5 8 19 加工食品類 34 0 2 4 3 43

原材料 4 97 0 0 0 101 その他の動物性原料 0 97 0 0 0 97

その他の植物性原料 4 0 0 0 0 4 鉱物性燃料 0 0 0 0 0 0 工業製品 0 40 150 495 9 694 特殊取扱品(再輸入品) 2,809 127 0 47 0 2,983 総額 30,623 5,254 11,515 12,131 9,775 出典:太平洋諸島センター(PIC)ホームページ「貿易統計」

5. 漁業管理 沖合 12 海里から排他的経済水域内の資源調査・管理は、NORMA が WCPFC と連携しつつ、

資源調査、漁獲統計、オブザーバープログラム等を行っている。

沖合 12 海里以内の資源管理は州政府の管轄となっているが、各州において多様な伝統的な土

地・前浜所有制度に伴う伝統的な資源管理も一部の地域で存在している。現地調査を行ったポ

ンペイ島では、州政府漁業・養殖局(Office of Fisheries and Aquaculture)による市場調査活動や禁

漁区・禁漁期の制定のほか、Kitti 自治区政府が独自に定めた禁漁区設定等の資源管理の取り組

みが見られた。チューク州では、チューク環礁内に沈没している旧日本軍の沈船より取り出し

た爆弾の火薬を用いて行うダイナマイト漁業が依然として行われている。チューク州政府の海

洋資源局保全・管理部(Division of Conservation & Management)による市場での水揚げ調査、およ

び空港での手荷物検査などの対策や、JICA シニアボランティアによる代替漁法への転換指導な

どの取り組みがなされている。また、沿岸域の一部を村落民の死亡後一定期間禁漁区とする慣

習もある。同国での沿岸域資源管理は、各州・各地域における伝統的な社会制度に配慮し、か

つこれを活用した形での実施が望ましい。

行政機関による活動のほか、ポンペイ州では NGO「CSP:Conservation Society of Pohnpei(CSP)」、

チューク州では NGO「CCS:Chuuk Conservation Society」が海外からの資金援助や、州政府か

らの資金提供を得て、資源管理に関する調査・研究や啓蒙普及活動を展開しており、コミュニ

ティ振興において重要な役割を果たしている。

6. 水産教育・訓練・調査・研究 「ミ」国における水産教育・訓練関連機関を表 11 に示す。

表 11:水産教育・訓練機関の概要 機 関 名 内 容

連邦政府資源・開発省 (Depertment of Resource and Development)

連邦政府および州政府に対して非生物資源を含む海洋資源の

開発と管理のための技術的なサービスと支援を行っている。

ミ ク ロ ネ シ ア 大 学 (COM :College of Micronesia)

米国ランドグラント計画によるクロチョウガイ養殖プロジェ

クトを実施している。

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ヤップ州ミクロネシア漁業・

海事訓練学校

(The Micronesia Maritime and Fisheries Academy in the State of Yap)

漁業および海事分野の技術研修を実施し、この分野の人材育

成を行っている。2000 年から 2006 年にかけて JICA による技

術協力プロジェクトが本校をカウンターパート機関として実

施された。

ポナペ農工高校

(PATS:Ponape Agriculture and Trade School)

1997 年に海洋プログラムを始め、スキューバダイビングおよ

び海綿養殖、シャコ貝養殖、真珠養殖、サンゴの株分けなど

の養殖技術の指導や海綿、シャコガイ、ソフトコーラルの養

殖を行い、クロチョウガイ種苗生産を計画していたが財政難

のため 2005 年に閉校した。 出典:ミクロネシア連邦海外漁業協力効率化促進事業調査報告書(2007 年、OFCA)

7. 水産行政 7-1. 水産担当行政機関

「ミ」国における水産行政は、12~200 海里内は連邦政府資源・開発省(Dep.of Resource &

Development)が、沿岸 12 海里未満は州政府およびコミュニティが行っている。

資源・開発省は連邦政府および州政府に対して非生物資源を含む海洋資源の開発と管理のた

めの技術的なサービスと支援を行っている。また、国家海洋資源管理局(NORMA:The National

Oceanic Resource Management Authority)は、政府の監督、管理機関として 200 海里 EEZ 内の資源

利用に関し、遠洋カツオ・マグロ漁船の積み替え、オブザーバープログラム、漁獲統計、資源

管理等に関する業務をポンペイ州に事務局を置く中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC:

Western and Central Pacific Fisheries Commission)と協力して行っている。この他、浮魚資源の開

発および関連産業の振興を実施する国家水産公社(NFC:The National Fisheries Corporation)があ

る。

「ミ」国の組織図を図 1 に、図 2 に資源開発省の組織図を示す。

大統領 副大統領

Justice

司法省

Resource & Development

資源・ 開発省

大統領事務局 副大統領事務局

大統領府 防災室 ボード・独立法人

Health & Social Affairs

保険教育・厚

生省

Foreign Affairs

外務省

Education

教育省

Trans, Comm, & Infra

運輸・通信イ

ンフラ省

Finance & Admin.

財務・ 総務省

図 1:FSM 連邦政府組織図

出典:ミクロネシア連邦政府ホームページより作成

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Secretary 大臣

Trade & Investment Assistant Secretary

貿易・投資部

Administration Office 総務部

Resource Management & Development

資源管理・開発部

Energy & Fuel Assistant Secretary

エネルギー・燃料部

Program Management Commerce

プログラム管理・通

商課

Dep. Assesit. Sec. Trade Unit

貿易課

Agriculture Unit Dep. Assist. Sec.

農業課

Tourism Unit

観光課

Marine Resource, Fisheries Unit

Dep. Assist. Sec. 海洋資源、水産課

図 2:FSM 政府資源・開発省組織図(2010 年 11 月現在)

出典:OFCF ミクロネシア事務所

各州での海洋資源管理と利用、および養殖開発等は以下の州政府機関が担当している。

・ポンペイ州政府漁業・養殖局(OFA:Office of Fishereis and Aquaculture)

・コスラエ州政府資源経済局(DREA:Department of Resource and Economic Affair)

・チューク州政府海洋資源局(DMR:Department of Marine Resources)

・ヤップ州政府海洋資源管理部(Marine Resources Management Division)およびヤップ漁業公社

(YFA :Yap Fishing Authority)

州政府の財源は米国からの自由連合協定による財政支援(コンパクト・グラント)に依存する

ところが大きい。4 つの州のうち特に財政面での脆弱さが指摘されているチューク州政府の海

洋資源局(DMR)は、2010 年度(2009 年 10 月から 2010 年 9 月まで)の合計予算が 268,961 ドル、

そのうち 23,485 ドル(87.2%)がコンパクト・グラントによるプロジェクト予算である。それ以

外の 34,476 ドルが州政府独自予算となり、これはほぼ局長および次長の給与と出張旅費等の経

費に充てられる。その他の職員 15 名の給与はプロジェクト経費から支払われている。

7-2. 水産関連法規・規制 ミクロネシア連邦の漁業に関する基本的な法律は、ミクロネシア連邦法第 24 条(Title 24 of the

Code of the Federated States of Micronesia)である。この法律では序文に「この章の目的はミクロ

ネシア連邦の海洋資源の保全、管理、開発を促進し、国家のために外国漁業から最大限の利益

を生み出し、国内漁業の開発を促進することである」と述べられている。漁業に関連する規則

で重要な点に、連邦政府と州政府との間の管轄権の分割がある。憲法 IX 条(Article IX of the

Constitution )は連邦政府に対して、島の基線から 12 海里を越えた海洋域内の天然資源の所有権、

開発、利用を調整する権限を与えている。

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8. FSM 水産開発計画 2004年3月に開催された第3回FSM経済サミット(3rd FSM Economic Summit Federated States of

Micronesia Proceedings)において「20年先を見据えて-自立経済への道」と題した 2004年-2023年

戦略的開発計画(Strategic Development Plan)が定めらた。同計画では、①民間育成、②公共セク

ター改善、③教育、④医療、⑤農業、⑥漁業、⑦観光、⑧環境、⑨ジェンダー、⑩社会インフ

ラの整備の 10 項目を重点開発分野として挙げている。

同計画中に記されている水産分野の戦略的目標、政策的枠組みと課題の仮訳を以下に示す。

戦略的目標 1:

水産業および海洋資源管理に携わる人材が、適切な訓練を受け、各々の分野で効果的な活動を

行うための十分な技術を身につける。

政策的枠組み

各分野の人材育成計画の重要性が認知され、取り組まれる。

基礎教育において水産・海洋資源カリキュラムが盛り込まれる。

COMの水産・海洋資源プログラムについての海外奨学金制度の制定がなされる。

ミクロネシア海事学校でのプログラムやコースの設立が支援される。

連邦および州政府機関の業務に啓蒙普及活動が盛り込まれる。

州政府職員に技術向上のための機会が与えられる。

課題

人材育成分野における障壁は、当該分野を担当する行政部署がはっきりと記されていな

いことにある。現在、ミクロネシア大学、NGO、教育省、経済省水産局および州の水産関

連組織により活動が個別に行われているが、これら諸機関の連携・調整が急務となってい

る。

当該分野への財政支援は、目標達成に至る過程の基礎的な部分に留まっている。特に地

域レベルの啓蒙普及活動に対して政府予算が補てんされることが望ましい。

戦略的目標2:

地先・沿岸海洋資源について、伝統的な漁業法や資源の利用法を地域住民との対話や協働を通

じて理解し、これに配慮しつつ、多様性および再生産を保持するための科学的根拠に基づいた

モニタリング・管理がなされる。

政策的枠組み

実施機関において事業計画が作成され、事業実施に必要な人材・資機材が配置される。

連邦政府機関および州政府機関の担当分野が明確に定義される。

効果的な資源管理を実施するための関連法実施体制が整備される。

乱獲状態に陥ることを避けるため、資源の状況が把握される。

沿岸域管理、経済戦略、土地利用、河川管理、観光業振興、離島振興、および生物多様性

といった多岐にわたる分野を包括的に踏まえた管理体制構築を図る。

伝統的な生活様式を尊重し、伝統的な知識・技術を法整備や管理体制に反映させる。

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コミュニティが主体となって管理する海洋保護区が管理体制に盛り込まれる。

商業的活動が同国の利益となるような形で管理・実施される。

養殖振興の可能性について調査がなされる。

課題

州政府の財政支援のもと、モニタリングや情報収集活動においては円滑な実施が期待で

きる。しかし、今後、開発・実施面において力強い管理や指導力が州政府に求められてい

る。

各州における資源管理・監視に関する規制の枠組みの制定が求められている。規制の枠

組みが存在しない状況下においては、資源管理戦略はたちまち立ち消えの状況に陥る。

地域コミュニティと関係者間の協議・協働がなされる。

調査・開発機関の協力を通じた適切な養殖形態および養殖対象種が検討される。

戦略的目標3:

地先・沿岸海洋資源の開発が、零細漁民の需要に見合い、かつ関係者への適切な分配および持

続性の確保がなされた状態で実施される。

政策的枠組み

商業的活動が同国の利益となるような形で管理・実施される。

零細漁業分野での商業的活動が促進される。

商業漁業による沿岸域海洋資源の独占を回避する。

政府関係機関との良好なコミュニケーションを図るため、零細漁民の組織化が促進される。

小型漁船の安全操業が確保される。

零細漁民の支援を目的とした政府関連施設が独立採算によって運営管理される。

生計向上のための養殖開発がなされる。

課題

コミュニティ-と協働しつつ、州政府関連機関が正しく機能しなければならない。漁民

が持続的な漁業を実践するため、漁業以外の代替生計手段創出により漁獲圧の抑制を図る。

このために双方のコミュニケーションが必須となっている。

十分な人材や必要資機材の供給は、関連機関が課せられた業務を遂行する前提となる。

これらは、特に漁獲努力量の管理や資源量推定にかかる業務において特に重要である。

水産関連機関の活動は、諸組織の政治的思惑とは切り離されるべきである。

戦略的目標4:

持続的な資源利用を可能とする適切かつ実践的な手法により、沖合資源状況の把握および資源

管理がなされる。

政策的枠組み

沖合資源開発に先立ち、資源管理計画が策定され、実行される。

マグロ類の資源管理の指導原理として「ミクロネシア国マグロ類管理計画」が用いられる。

遠洋漁業管理および開発戦略の形成および再検討において関係機関の連携が図られる。

国家海洋資源管理局(NORMA)が遠洋水産資源管理・開発を担う主幹組織として機能する。

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海事保安局は海事・海洋調査機関として事業を展開する。

第24条を補完する規制上の要件が整備される。

ミクロネシア連邦の国益が最大限となるような条件で各国との入漁協定締結を図る。

漁業管理・統制・監視活動が強化される。

課題

国家海洋資源管理局(NORMA)は技術、組織力、責任感が求められる技術的に特化した

組織である。これらを満たすためには、特に上級の役職において、職員の技術レベルを高

く保つとともに、欠員が生じた場合は速やかに同等の資質を備えた人材を補充するべきで

ある。

水産関連組織が管理することのできない、例えば、回遊経路やその年の気候によって変

化する漁獲量や市場価格の変動など、入漁料歳入のレベルを左右するような要因を重要視

し、状況把握に努めるべきである。

戦略的目標5: 沿岸水産資源がミクロネシア連邦の経済効果に最大限寄与する形で開発される。

政策的枠組み

水産業への投資が推進される。

水産公社の採算が確保される。

国家全体での水産業における取組が活発になる。

効率的な商業活動の妨げとなる制度の見直しがなされる。

経済および社会的利益が沿岸資源開発戦略検討の際優先される。

水産物の付加価値向上に係る活動が促進される。

外国船籍漁船の国内での水揚げ施設・流通システムの利用が増える。

課題

喫緊の課題は、新たな投資環境や関連施設の民営化を通じて民間分野の開発を優先させ

るという国全体の政策策定である。十分な技術を持ったビジネスパートナーからの投資な

くして開発を進めることは不可能である。この点を踏まえなければ国家の潜在的な経済的

利益の損失となる。

国内商業漁業開発の停滞や、急速な近代的貨幣経済への変化による地域の伝統的な生活が

徐々に失われつつある背景を踏まえ、沿岸資源開発については、伝統的な社会制度および漁業

の保護を前提とし、零細漁業の開発促進が商業漁業に優先され、かつ沿岸資源の持続的な利用

を通じて開発がなされるべきとしている。現地調査における連邦政府関係者および州政府への

インタビューを通じ、コミュニティレベルでの適切な漁業管理や養殖開発を含めた持続的な資

源の利用と、零細漁民の生計向上が重要な課題であることが確認された。

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9. 海外との関係 9-1. 外国船受け入れ状況

同国 EEZ 内で操業する外国船籍数は 2004 年で 408 隻(うち延縄船 217 隻)あったが、2007 年

には 303 隻(同 133)と減る一方、「ミ」国船籍数は 28 隻(同 22 隻)から 33 隻(29 隻)に増えてい

る。このことから、ポンペイを中心とした国内の漁業基地の活用が小幅ながら増えていること

が示唆される。

これら外国船による自国 EEZ 内での操業に係る入漁料収入は 2007 年で約 14.8 百万米ドル、

同年の政府歳入は約 145.2 百万米ドルである(政府統計、2008)。従って、入漁料収入は政府の

年間歳入の約 10%を占める重要な収入源となっている。

9-2. 我が国との水産関連協定締結状況 水産分野の関係では、1979 年にかつお・まぐろ漁業に係る民間漁業協定が発効されて以来、

「ミ」国 EEZ 水域での安定的な操業が維持されてきている。2009 年 7 月、漁業協議が開催され、

海外まき網漁業協会、日本かつお・まぐろ漁業協同組合、全国近海かつお・まぐろ漁業協会と

の今後 10 年間の民間漁業協定が締結されている。

9-3. 外国・国際機関からの水産協力受入状況・計画等 オーストラリアが 1990 年、1991 年、1997 年にパトロールボートを合計 3 隻を供与している。

中国は 2007 年にヤップ州島間連絡船(436 万ドル)、2008 年には WCPFC 本部事務局建設など

支援を行っているほか、毎年数十人を越えるミクロネシア人留学生の中国への招聘など、モノ

のみならず人材交流も積極的に推進している。近年、中国からの資金提供は無償・有償共に増

額傾向にある。2010 年 11 月の現地調査時には、中国からの 22 百万米ドルの借款受入れに関す

る審議が連邦議会で行われていた。連邦政府外務省によると、同借款の使途として全州のイン

フラ改修や改装(漁港などの漁業インフラを含む) などが検討されている。また、同資金で整備

された施設等の運営を民間会社(現時点ではLuen Thai Fishing Venture社が有力)に委託すること

で、リース料により借款の返済を確保する計画である。

その他、ADB、SPC、FAO 等により、沿岸資源調査、沿岸資源管理、環境保全、女性のエン

パワーメントなどの技術協力が実施されている。

9-4. 地域間協力 同国が加盟している水産分野の地域機関は以下の通り。

南太平洋フォーラム漁業機関(FFA:South Pacific Forum Fisheries Agency)

太平洋委員会(SPC:Secretariat of the Pacific Community、1998 年に旧 PC:Pacific Committee

より改名)

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC:Western and Central Pacific Fishereies Commission)

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10. 我が国からの水産関連協力 10-1. FSM に対する我が国 ODA の基本方針

ミクロネシア連邦は我が国と歴史的に深い繋がりがあり、現在数多くの日系人が政財界で指

導的な役割を果たしていることから、社会・経済発展、財政的自立の達成に向けた我が国によ

る援助への期待は高い。また、漁業分野では、民間協定や WCPFC など、我が国の食料安保の

観点からも大変重要なパートナー国である。従って、二国間の友好関係を重視し、さらに強化

発展させていくことは、我が国の対ミクロネシア連邦外交上極めて重要である。

2006 年 2 月の日・ミクロネシア連邦政策協議で合意された我が国重点分野は以下の通り。

(イ)インフラ整備:道路・漁港整備支援と保守管理体制の構築等

(ロ)教育:初・中等教育の教員の質向上

(ハ)環境保全:廃棄物処理体制の改善と住民への啓発活動等

(ニ)行政サービス機能強化:各州開発計画と整合性の取れた国家開発計画システムおよび

州レベルでの開発計画システム構築支援等

(ホ)保健:成人病予防に関わる啓蒙活動・健康診断・運動普及、保健医療サービス向上等

また、2009 年 5 月の第 5 回太平洋島サミット(PALM:Pacific Islands Leaders Meeting)におい

て、我が国は「北海道アイランダーズ宣言」を発表し、ミクロネシア連邦を含む PIF(Pacific Islands

Forum)諸国のパシフィック・プランに沿った自助努力を引き続き支援するため、第 5 回 PALM

のテーマである「環境・気候変動」、「人間の安全保障の視点を踏まえた脆弱性の克服」および「人

的交流の強化」の 3 つの柱を中心に支援を実施することを表明した。

10-2. JICA を通じた水産協力 水産分野への援助における日本の存在は非常に大きい。無償資金協力、技術協力、研修員受

入などの実績は以下の通りである。

(1)無償資金協力

年度 案件 州 供与額(百万円) 1981-85 伝統漁業改善計画 全州 合計 1,405

1986 漁業基地整備計画 ヤップ 624 1988 チューク州漁業開発計画 チューク 415 1988 水産物機材整備計画(小型無償) 全州 100 1989 コスラエ州漁業開発基盤整備計画 コスラエ 649 1990 小規模延縄漁業整備計画 ポンペイ 234 1991 漁業訓練改善計画(小型無償) ヤップ 79 1992 零細漁業振興計画 ポンペイ 100 1993 第二次小規模延縄漁業開発計画 ヤップ 139 1994 チューク州零細漁業振興計画 チューク 116 1995 ヤップ州小規模漁業振興計画 ヤップ 230 1996 離島漁村連絡船建造計画 1,258 1998 コスラエ州零細漁村支援施設建設計画 コスラエ 230 1999 ポンペイ州タカティック漁港整備計画 ポンペイ 746 2000 ポンペイ州タカティック漁港整備計画 ポンペイ 459 2006 ウエノ港整備計画 チューク 725

累計 7,509 出典:OFCA 報告書(2009 年)

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(2)技術協力プロジェクト

名 称 概 要

漁業開発訓練計画 カツオ漁船の運航、生餌の蓄養技術開発に関する協力を行い、漁

業技術向上に資する。

ミクロネシア漁業訓練

計画(2000-2006 年) 漁業・海事訓練学校を拠点として、水産分野の人材を幅広く育成

するための漁業訓練・教育を行い、技術レベルの底上げを図る。

(3)草の根・人間の安全保障無償資金協力 案件名 実施団体 締結日時 金額

ヤップ州漁村復興計画 ヤップ漁業公社 YFA 2004 年 8 月 7,614,200 円

ポンペイ州零細漁民の

ための漁場整備計画 ポンペイ州経済局海洋開発部 2008 年 12 月 4,901,714 円

(4)専門家派遣、研修員受入、ボランティア派遣

単位:人

~1998 年 1999 年 2000 年 2001 年 2002 年 2003 年 累計 専門家派遣 52 8 6 7 4 2 73 研修員受入 192 17 24 31 21 20 298 青年海外協

力隊 134 17 20 19 14 12 216

その他ボラ

ンティア 1 3 4 8

10-3. (財)海外漁業協力財団(OFCF)からの水産協力 (財)海外漁業協力財団(OFCF:Overseas Fisheries Cooperation Foundation of Japan)による水産

協力は、我が国漁船の入漁との関係において長きにわたって同国に対し漁業技術や機材の保

守管理能力向上に関する技術移転のみならず資機材の支援、研修員の受け入れ等を行ってお

り、同国水産業に多大な貢献をしてきた。現在は、短期専門家派遣のほかに、ポンペイ島に

設置されている現地事務所(ミクロネシア出張所)に専門家 2 名が常駐している。

11. FSM 国内水産業における課題 本項では、これまで述べてきた FSM の水産業全体に関する情報を踏まえつつ、同国の国内経

済と商業漁業との関係と、自給自足経済、すなわち自家消費とコミュニティ生活の中での現金

収入の確保を専らとする生産・経済活動の役割について考察し、今後の水産開発について整理

する必要がある。さらに、漁村コミュニティ振興策検討の際に重要と思われる分野について検

討する必要がある。

11-1. 国内経済と国内商業漁業開発の停滞 まず、同国の経済状況と国内商業漁業の関係について述べる。

同国の経済状況は、30 年間の実質 GDP の推移はほぼ横ばいで、最近 5 年間に限ってはポン

ペイ州を除き減少傾向にある(図 3)。一方、州別雇用者数の推移と漁業雇用者数(商業漁業)の

推移(図 4)を見ると、共に減少傾向にあることが分かる。

海洋資源は FSM における唯一の資源といえ、同国 GDP、国内雇用者数、漁業雇用者数の推

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移を見ても分かる通り、国内経済と水産業の発展は直接的に結びついている。言い換えれば、

国内商業漁業開発の停滞は、国の経済発展を阻害する主な要因と言える。

このことは、同国国内だけの問題ではなく、将来的な FSM 排他的経済水域における入漁条件

の引き上げ、あるいは外国船の排除という我が国水産業にとっても不利益を被る事態に進展す

る可能性もある。

図 3:州別一人当たり GDP の推移(左軸米ドル 2004 年平均)

図 4:州別雇用者数の推移(左)、州別漁業雇用者数の推移(右)

(FSM Fiscal Year 2008 Economic Review, GS Graduate School & Office of Insular Affairs, 米ドル Department of the

Interior, Aug 2009 より作成)

11-2. 自給自足経済と零細漁業の位置づけ 次に、国内経済・漁業の停滞が続く状況の中で、自給自足経済と零細漁業が同国国民の生活

でどのような位置づけとなっているのか、考察を行う。

自給活動、賃金給与、事業活動を行う世帯数および割合(表 13)を見ると、FSM 全世帯の 78.3%

が何らかの自給生産活動を行っていることを示している。特にチューク州では 91.8%と高い比

率であった。

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GDP に占める自給自足生産の割合は、伝統的な自給自足経済から近代的貨幣経済への移行が

進むに連れ減少するというのが一般的な見解である。しかしながら、自給生産と賃金給与それ

ぞれの GDP に占める比率の経年変化を見ると(図 5)、GDP に占める賃金給与の割合は減少し、

自給生産の割合は増加傾向にあることが分かる。

一般的に自給生産経済は、近代的貨幣経済の前発展段階とみなされているが、同国では国内

および州経済の落ち込みの中で、GDP に占める自給生産の比率の割合は増大してきており、ま

すます重要性が高まっていることが示唆される。

表 12:収入源別世帯数と比率(州別)

経済活動の区分 FSM Pohnpei Chuuk Yap Kosrae

自給活動 Subsistence activities

12,860 (78.3%)

3,934 (65.3%)

6,420 (91.8%)

1,831 (83.0%)

684 (57.1%)

賃金給与 Wages & salaries

10,059 (61.2%)

4,244 (70.4%)

3,298 (47.2%)

1,611 (73.0%)

906 (75.7%)

事業活動 Entrepreneurial activities

7,076 (43.1%)

2,933 (48.6%)

2,798 (40.0%)

730 (33.1%)

615 (51.4%)

全世帯数 Total Households 16,427 6,029 6,994 2,207 1,197

出典:HIES 2005, Division of Statistics, Office of statistics, Budget and Economic Management, Overseas Development Assistance, and Compact Management, FSM, Nov. 2007 (以下「HIES 2005, SBOC」)

注:複数の経済活動を行っているため、各州の世帯数および比率は一部重複あり。

図 5:州別 GDP に占める自給生産(左)および賃金給与(右)の比率

コミュニティレベルでは、これまで見てきたような国内商業漁業の停滞、これに起因する雇

用減少に伴い、今後さらに沿岸零細漁業への回帰・新規参入が増加し、沿岸資源に対する漁獲

圧力が増加することが予想される。同時に、より収入が多く、生活の安定を求めた海外への移

住も多くなるであろう。従って、今後の漁村振興の課題としては、持続的に資源を利用するた

めのコミュニティレベルの漁業管理や、FSM 国内での生活をより安心・安定させるためのコミ

ュニティの生活環境改善に向けた方策が求められている。