第11回...

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2020 工業経営:第 11 回) 2020 12 1 日) Copy Right, 2020, TOBITA Tsutomu レジュメ・講義資料のコピー、他人への譲渡、売却等の行為は認めません。 - 1 - 第 11 回 コスト・マネジメントの方法論:原価企画 1.原価管理の起点としての原価企画 ・原価管理の一連のプロセス:原価企画原価維持原価改善 2.戦略的な原価管理技法の生成:「原価企画」生成の沿革と背景 ・標準原価計算の役割低下 現代の製造業では多品種少量生産化や機械化が進んでおり,それに伴って標準原価計算 が原価管理に果たす役割は低下している(不必要というわけではない)。 ・標準原価計算の誕生 20C 初頭の米国:大量生産方式による工業化 →日本では 1950 年代から 60 年代にかけて普及し,この時期に概ね完成している。 ・標準原価計算を取り巻く歴史的背景 ①規格化・標準化された製品を連続して大量に生産していたこと。 ②生産の担い手は主に工員(人手)であったこと。 ③製造技術が安定していたこと。 ☞目標たる標準原価を工員の習熟に合わせて少しずつ改定しながら原価の削減を導く, 標準原価計算のアプローチに意味があった。 ・現代の製造業を取り巻く環境:「差別化」の重要性とコスト・マネジメント ①「差別化」を図った結果として製品ライフ・サイクルが短縮化し,多品種少量生産化 が進んだ。 →多品種の標準原価を頻繁に設定し直すことになり,時間と手数が多くなる。 標準原価を設定しても,習熟効果が表れないうちに対象製品の生産が中止になり, 効果が出ないまま終わる。 機械化・自動化が進み,直接労務費が減少した。 →機械化・自動化が進むことで必要とする人員が少なくなり,製品に含まれる直接労 務費の削減余地は小さくなったため,直接労務費の重要性が低下した。 生産の不安定性が増した。 →生産方法が頻繁に変更されることが珍しくなくなり,標準原価を設定すること自体 が困難になりつつある。

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Page 1: 第11回 コスト・マネジメントの方法論:原価企画...(2020工業経営:第11回) (2020年12月1日) Copy Right, 2020, TOBITA Tsutomu レジュメ・講義資料のコピー、他人への譲渡、売却等の行為は認めません。

(2020 工業経営:第 11 回) (2020 年 12 月 1 日)

Copy Right, 2020, TOBITA Tsutomu レジュメ・講義資料のコピー、他人への譲渡、売却等の行為は認めません。 - 1 -

第11回 コスト・マネジメントの方法論:原価企画 1.原価管理の起点としての原価企画 ・原価管理の一連のプロセス:原価企画,原価維持,原価改善

2.戦略的な原価管理技法の生成:「原価企画」生成の沿革と背景

・標準原価計算の役割低下 現代の製造業では多品種少量生産化や機械化が進んでおり,それに伴って標準原価計算 が原価管理に果たす役割は低下している(不必要というわけではない)。 ・標準原価計算の誕生 20C 初頭の米国:大量生産方式による工業化 →日本では 1950 年代から 60 年代にかけて普及し,この時期に概ね完成している。 ・標準原価計算を取り巻く歴史的背景 ①規格化・標準化された製品を連続して大量に生産していたこと。 ②生産の担い手は主に工員(人手)であったこと。 ③製造技術が安定していたこと。 ☞目標たる標準原価を工員の習熟に合わせて少しずつ改定しながら原価の削減を導く, 標準原価計算のアプローチに意味があった。 ・現代の製造業を取り巻く環境:「差別化」の重要性とコスト・マネジメント ①「差別化」を図った結果として製品ライフ・サイクルが短縮化し,多品種少量生産化 が進んだ。 →多品種の標準原価を頻繁に設定し直すことになり,時間と手数が多くなる。 標準原価を設定しても,習熟効果が表れないうちに対象製品の生産が中止になり, 効果が出ないまま終わる。 ②機械化・自動化が進み,直接労務費が減少した。 →機械化・自動化が進むことで必要とする人員が少なくなり,製品に含まれる直接労 務費の削減余地は小さくなったため,直接労務費の重要性が低下した。 ③生産の不安定性が増した。 →生産方法が頻繁に変更されることが珍しくなくなり,標準原価を設定すること自体 が困難になりつつある。

Page 2: 第11回 コスト・マネジメントの方法論:原価企画...(2020工業経営:第11回) (2020年12月1日) Copy Right, 2020, TOBITA Tsutomu レジュメ・講義資料のコピー、他人への譲渡、売却等の行為は認めません。

(2020 工業経営:第 11 回) (2020 年 12 月 1 日)

Copy Right, 2020, TOBITA Tsutomu レジュメ・講義資料のコピー、他人への譲渡、売却等の行為は認めません。 - 2 -

3.原価企画

・原価企画(target costing)とは? 新製品開発に際し,製品企画から開発終了までの段階において,目標利益を確保するた めに設定された目標原価を作り込む活動のこと。 →製品の企画・開発段階にさかのぼり,製品コンセプトや製品設計の見直しを繰り返す ことで原価低減を図る。

・原価企画が注目される背景 ①従来の原価管理:製造段階における原価削減に主眼 →製造段階で発生する製造原価の 割合が高いから。 機械化・自動化が進み,製造段 階での原価削減に限界がある。 ②原価が決定されるのは企画・開発段階 →製品仕様が固まり,製造方法が決定されると,原価 の水準も一定の幅に定まるため,製造段階での原価 削減が難しい。 ※設計図が描かれた段階で原価の 8 割〜9 割が決ま ると言われている。 ・原価企画は原価管理の方法であるにとどまらず,総合的利益管理に貢献する技法 製品の原価だけでなく,売価と利益を予想(目標設定)して原価を作り込むため,利益 計画とも密接に関連する。 4.原価維持 ・原価維持(原価統制)とは? 新製品の目標原価,既存製品の予算原価ないし標準原価を,それが発生する場所別,責 任者別に割り当て,それらの発生額を一定の幅の中に収まるように管理すること。 ・原価維持の方法 伝統的な原価管理の方法である標準原価計算や予算による製造原価管理は,原価維持の 一手法として位置づけられる。

中期経営計画

製品戦略 利益計画

目標売価 目標利益 許容原価− =

新製品企画開発 設計・VE 見積原価

新製品別利益計画

新製品の企画開発設計

目標原価

原価比較

設計・VEの繰り返し

差額あり

標準原価差額なし

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(2020 工業経営:第 11 回) (2020 年 12 月 1 日)

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5.原価改善

・原価改善とは:日常活動を中心とする継続的な原価低減活動のこと。 実際原価を標準原価より低くすることを目指し,これまでの製造方法を変えるような活

動を意味する。 ①製品別の原価改善 新製品の量産を開始してしばらくしてから,実際原価と標準原価との差異が大きい場 合に,それに対処するために行う原価改善活動。 ②期別の原価改善 毎年の目標利益と予想利益との差異を減らすために,原価低減目標額を各部門に割り 当てて行う原価改善活動。 ・QCサークルや PM(生産保全)サークルを通じた原価改善 製造現場で働く工員が集まって,自分たちの作業の品質あるいは自分たちが使う設備の 保全に関して改善提案を考える場 ☞ いわゆるカイゼン活動へ 標準工数を決める標準作業書の例

材料費低減のための材料取りの見直し例

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(2020 工業経営:第 11 回) (2020 年 12 月 1 日)

Copy Right, 2020, TOBITA Tsutomu レジュメ・講義資料のコピー、他人への譲渡、売却等の行為は認めません。 - 4 -

6.マーケティングと原価企画で事業を拡大した事例:アイリスオーヤマの事例

・カンブリア宮殿 アイリスオーヤマ 大山社長の回を見て気づいた点を整理しよう。 原価企画的な発想や他社製品との違い(STP+D)はどこに見えるかを注目しよう。

・アイリスオーヤマの会社概要 1971 年 4月設立。資本金 1億円,従業員数 3,503名(2019 年 1月現在) 売上高 1,550億円,グループ売上高 4,750億円(いずれも 2018 年度)

・ワーク 上記の内容をもとに,アイリスオーヤマのマーケティング戦略はどのような特徴があ

るのかを先に学んだフレームワークをもとに考えてみよう。 価値創造のポイント(STP+D)

セグメンテーション

ターゲッティング

ポジショニング

差別化

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(2020 工業経営:第 11 回) (2020 年 12 月 1 日)

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差別化とポジショニングマップ 競合他社との差別化はどのようにして行われているのかをポジショニング・マップを 作って考えてみよう。 ① アイリスオーヤマが製造・販売している商品を 1 つピックアップする。

② 競合他社を 4-5社選び,特徴を整理する。 競合他社A 競合他社 B 競合他社 C 競合他社D 競合他社 E

③ ポジショニングマップを作成する。 まとめ アイリスオーヤマが実施しているコストリーダーシップ戦略をまとめるとどのように

説明できますか? 視点)顧客との関係性の構築,4P と 4C,STP+D,他社とのポジショニングの違い 原価企画

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【課題提出】 ・課題 1 原価企画の意義をそれまでの標準原価計算による原価管理との比較をしながら述べてく

ださい。特に,原価低減が行われるポイントに留意しながら,下記の用語を用いて 200文字程度で述べてください。(用語)原価企画,標準原価計算,企画・開発段階,製造段

階 ・課題 2 アイリスオーヤマが業績を伸ばしてきた要因として,競争戦略論で言うところの「コス

トリーダーシップ戦略」が当てはまると考えられるが,それは具体的にどのようなマー

ケティング戦略とコスト・マネジメントが行われていると考えられますか。p.4-5 のワー

クであなたがまとめた内容を写真に撮影するとともに,以下の用語を用いて 200文字程度で説明してください。(用語)コストリーダーシップ戦略,セグメンテーション,ター

ゲッティング,原価企画,商品開発会議 ※ 〆切は 12 月 3 日(木)23:59まで。いかなる理由があっても遅れることは認めません。

下記の QR コードまたは URL から提出してください。 URL:https://is.gd/DBUaWY