第11章 バッティングのバイ オメカニクスとバッ...

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング 第11章 バッティングのバイ オメカニクスとバッティング PNFトレーニング 1.バッティングフォームを作る 素振りのポイント バッティングを語る時、昔からよく名選手 や指導者たちが「バットで風を切る」といっ た表現を口にしてきました。スイング時にバ ットが空気を押し、その反力によって生まれ る重みのある音が「風を切る」と言われ、ス イングの鋭さ、パワーを伝える例えとして用 いられたのです。体からのパワーがバットへ 効率よく伝わることで、ヘッドが走り、風を 切る音も「ブンッ」と詰まった鋭い音になり ます。これがヘッドが走らず、空気を十分に 押せないスイングでは、弱々しく、「ブーン」 と間延びした音になります。鋭く、重い「風 を切る音」はバットの芯がパワーを持ち続け ているからこそ生まれるのです。 まず、バッティングにはこのパワーを持っ た力強いスイングが必要です。このスイング を身につけるには、バットを振るために必要 な筋力を鍛えるために、素振りを基本とした 練習を繰り返すことはもちろんです。ただ、 この時も闇雲に振るのではなく、体の原理原 則を知った上で振ることが大切です。 力強いスイングを身につけていけば、次は 投球の緩急やコースの変化に対応する実戦力 が求められます。ボールの変化に対応するに は、体の回転とスイング軌道が一定のリズム で協調し、バットをまるで自分の手であるか のように操れなければなりません。この感覚 を得るためにもやはり、バッティング時の体 の使い方を知ることです。 また、ピッチャーのフォームや投球リズム に自身のタイミングを合わせることも大事に なります。この能力が高ければこそ、ボール をミートする確率も上がり、自らの持つパワ ーをインパクトの瞬間に効率よく伝えること ができます。ここに、動体視力や読み(予測) といった要素も加わり、一瞬のうちに目から 入って来た情報に体を反応させていくのです。 しかし、まずは長打を放つパワー、ヒット の確率を上げるミート力をアップさせるため に、確かなスイング作りと、ボールに対する 反応力を高めることです。 この章では本来、人間に備わっている反射 力を活かしながら、力強い打球を生み出すマ ックス打法のバッティング理論を説き、その スキルを手に入れるポイントを説明します。 まず、振る力を高めるためにはやはり体を 鍛えることも大切です。ただ、筋力トレーニ ングでインナー筋やアウター筋を鍛えるだけ でなく、バッティングに必要な「野球筋」を 鍛えることがより重要です。そこで、ここで はボディターントレーニングとMAKI式バ ッティングPNFトレーニングを紹介します。 これにより、自らが求めるパワーとコントロ ール感をより効率的に手に入れることができ るのです。 まず、「野球筋」を鍛え、バッティングの技 術向上に欠かせないものが素振りです。毎日 の一振り一振りが、バットの持つウエイト作 用により、体の回転角度や脚腰の筋肉の使い 方、パワーのレベル、そしてねじり感など、 様々な「バッティング筋」を鍛えます。 一方で素振りには、普段筋力トレーニング などで鍛えた筋肉を、いつ、どのタイミング でどう活用すればいいか、ということを体の 250

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

第11章 バッティングのバイ

オメカニクスとバッティング

PNFトレーニング

1.バッティングフォームを作る 素振りのポイント

バッティングを語る時、昔からよく名選手

や指導者たちが「バットで風を切る」といっ

た表現を口にしてきました。スイング時にバ

ットが空気を押し、その反力によって生まれ

る重みのある音が「風を切る」と言われ、ス

イングの鋭さ、パワーを伝える例えとして用

いられたのです。体からのパワーがバットへ

効率よく伝わることで、ヘッドが走り、風を

切る音も「ブンッ」と詰まった鋭い音になり

ます。これがヘッドが走らず、空気を十分に

押せないスイングでは、弱々しく、「ブーン」

と間延びした音になります。鋭く、重い「風

を切る音」はバットの芯がパワーを持ち続け

ているからこそ生まれるのです。 まず、バッティングにはこのパワーを持っ

た力強いスイングが必要です。このスイング

を身につけるには、バットを振るために必要

な筋力を鍛えるために、素振りを基本とした

練習を繰り返すことはもちろんです。ただ、

この時も闇雲に振るのではなく、体の原理原

則を知った上で振ることが大切です。 力強いスイングを身につけていけば、次は

投球の緩急やコースの変化に対応する実戦力

が求められます。ボールの変化に対応するに

は、体の回転とスイング軌道が一定のリズム

で協調し、バットをまるで自分の手であるか

のように操れなければなりません。この感覚

を得るためにもやはり、バッティング時の体

の使い方を知ることです。 また、ピッチャーのフォームや投球リズム

に自身のタイミングを合わせることも大事に

なります。この能力が高ければこそ、ボール

をミートする確率も上がり、自らの持つパワ

ーをインパクトの瞬間に効率よく伝えること

ができます。ここに、動体視力や読み(予測)

といった要素も加わり、一瞬のうちに目から

入って来た情報に体を反応させていくのです。 しかし、まずは長打を放つパワー、ヒット

の確率を上げるミート力をアップさせるため

に、確かなスイング作りと、ボールに対する

反応力を高めることです。 この章では本来、人間に備わっている反射

力を活かしながら、力強い打球を生み出すマ

ックス打法のバッティング理論を説き、その

スキルを手に入れるポイントを説明します。 まず、振る力を高めるためにはやはり体を

鍛えることも大切です。ただ、筋力トレーニ

ングでインナー筋やアウター筋を鍛えるだけ

でなく、バッティングに必要な「野球筋」を

鍛えることがより重要です。そこで、ここで

はボディターントレーニングとMAKI式バ

ッティングPNFトレーニングを紹介します。

これにより、自らが求めるパワーとコントロ

ール感をより効率的に手に入れることができ

るのです。 まず、「野球筋」を鍛え、バッティングの技

術向上に欠かせないものが素振りです。毎日

の一振り一振りが、バットの持つウエイト作

用により、体の回転角度や脚腰の筋肉の使い

方、パワーのレベル、そしてねじり感など、

様々な「バッティング筋」を鍛えます。 一方で素振りには、普段筋力トレーニング

などで鍛えた筋肉を、いつ、どのタイミング

でどう活用すればいいか、ということを体の

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

各パーツに記憶させる効果もあります。この

時、素振りでは実際のボールを強くイメージ

しながら振ることです。投球の高低、あるい

は内・外角を想定するなど少し工夫すれば、

さらに実戦的となり、素振りの効果がアップ

します。 素振りの中でスイングのパワーを高めるた

めには、体の回転力と二本の脚の間で行う体

重移動を十分意識することです。決して腕だ

けで振るのではなく、骨盤のリードによって

上体に腕をリンクさせながら、頭の傾きを上

手く使うことも大切です。そうすれば、バッ

ティングの軸が安定し、スイング軌道がしっ

かりと描け、インパクトに結集するパワーを

大きくできます。そして、その力がボールに

反力を与え、長打力を生む力にもなるのです。 逆にそれらの要素が不確かならば、二本の

脚と骨盤をつなぐ股関節と骨盤を一体型で使

えるトレーニング、そして、骨盤の回転と、

それに伴う上体と腕を活用するトレーニング

を行いましょう。 安定したバッティングは、二本の軸脚とな

る下肢の筋肉の力と骨盤の安定力から生まれ

ます。常に自分にとって効率のいいタイミン

グと、パワーに必要な動きを作るための安定

した下半身は素振りによって作ることができ、

素振りの時に使った正しい筋肉の使い方、力

感を体が記憶することが、安定したバッティ

ングへとつながっていきます。 素振りの効果を効率よく体得するには、ま

ず一つ一つの動きを確認しながら振ることで

す。安定した二軸を作るために働く筋肉、骨

盤を回す時の筋肉、腰の切り返しでの上体の

残し方と肩の動き、二軸間での体重配分とい

った動きを意識します。そうすることで、頭

で考えている動きをそれぞれの関節と筋肉に

ある固有神経が記憶していくのです。 人間の神経メカニズムは正しい動きを繰り

返すほど習得も容易になります。闇雲に練習

を重ねても再現性が薄いのは、脳が自分の求

める動きを筋肉への情報としてしっかり伝え

られず、素振りでも一振り一振りによって異

なる情報を送ってしまうからです。経験だけ

に頼り、体に覚えさせようとするケースにこ

ういう形が見受けられます。 ですから、人間の筋肉は神経によって支配

され動いているというシステムを理解しなが

ら練習することで、スキル向上を格段に早め

る効果が期待できるのです。 人間には意識して動くシステムと、無意識

の反射で動く神経システムがあります。自分

の求める動きを得るには、まず一つ一つの動

きに対し、しっかり意識を持つことです。そ

れを何度も繰り返すことで、筋肉の力の出し

方や関節角度を記憶し、スキルを上げること

ができます。これはシャドーピッチングでも

守備練習で受けるノックでも同じです。 例えば、ノックでゴロを捕球し、送球する

場合、野手は構えから動き出しの体勢、フッ

トワークをしっかり意識しながら、補球から

送球へ向けた体の向きやタイミングを作って

いきます。捕球からスローイングまでの動き

は、反射ではなく意識して筋肉を動かすこと

で、その動きを足・腰・上体・ヒジ・手とい

った各パーツの筋肉へ覚えさせます。それら

を体全体が受容すれば、一つ一つ考えなくて

も素早くその動作ができるようになります。

練習は意識的な動きを繰り返すことで無意識

的(反射)な動きを作って行く場なのです。 話が少し広がりましたが、改めて素振りで

得るポイントをまとめると以下のようになり

ます。①バットのヘッドスピードを高める足

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

腰の使い方、②変化するボールに対応するバ

ットコントロールでの上体と脚の使い方、③

バットの軌道を生み出す骨盤と上体の2軸上

での回転の仕方、④体のターンに対し、バッ

トを持つ腕とグリップを巧く動かすことで内

角・外角への球、変化球への対応力を高める。 重要なタイミング作りや、体の回転と体重

移動の方法を素振りで確立することが、実践

での対応力の高いバッティングにつながって

いきます。 2.基本となるバッティングの 構えとトップ バッティングの動きを大きく分けると、構

え・トップ(加速の準備期)・スイング(加速

期)・インパクト(結集期)・フォロー期(減

速期)となります。 まず、構えから解説していきましょう。 両足は肩幅より広く立ち、体の前後バラン

スを取るため、両ヒザは軽く屈曲します。後

脚(うしろあし)はトップを作る軸となるた

め、ヒザの内側を締め、カカトも内側から土

踏まず、そして親指に重心を置き安定させま

す。ピッチャー方向にある前脚(まえあし)

は力まず、軽くつま先に体重をかけておきま

す。 構えでの前傾角は、ボディターンで内角に

バットをしっかり走らせることをイメージし、

骨盤が回るスペースを確保します。次にボデ

ィターンの要となる骨盤を安定させます。そ

のためには、まず骨盤を2軸の股関節上に置

き、骨盤を後方に突き出すイメージで上体を

前傾させます。ただ、上体の姿勢は回転効率

を考え、背筋はしっかり伸ばしておくことで

す。この背筋の緊張がバットにパワーを伝え

る体の回転力として非常に重要なのです。こ

の緊張が緩むと十分な回転力が得られず、イ

ンパクトもずれやすくなります。 写真1(構え側面・正面)

写真1-1 写真1-2

打撃での軸脚となる 2本の脚の役割を大き

く分けると、後脚はトップを作る体の回転の

軸になるようにヒザの内側を締め、親指とふ

くらはぎでしっかり体重を受け止めます。さ

らに、体重がかかってもぶれることなく、上

体を安定させることで、バットを後方に引く

時に生まれる上体のツイスト(ねじれ)を作

る骨盤の安定力も生みます。前脚はインパク

ト、フォローでのバット軌道を描く回転軸と

なります。 この理論をしっかり体現していたのが王貞

治氏です。「一本足打法」は強靱な足腰と骨盤

の安定力が基本にあり、そこから右足を着い

た時の一瞬のタメ。十二分なパワーを引き出

す、高いバランス感覚や調整力が求められる

理に叶ったバッティング法だったと言えます。

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

■バット軌道のパワーゾーンの最終位置 3.イチロー選手はバット軌道の最終

ポジションのイメージを大切にし

ている

スイングの開始位置

理想的なスピードとコントロールをもって

ヘッドを走らせるには、スイングの軌道範囲

を理解することが大切です。そのためにも、

体重移動と回転で振り出せるバットの 終ポ

ジションを知ることです。バットの 終ポジ

ションとは、ピッチャー方向に両脚の上で骨

盤が回り、上体とバットを持つグリップがそ

の骨盤と同一線上にあり、正面に向いた位置

です。そこがバットが生み出す 大のパワー

ゾーンの 終位置なのです(写真2)。この位

置をスイングの円軌道を生み出す開始位置と

考えれば、常に開始位置にバットを戻す意識

が持ちやすく、自然にバットが走り、ミート

ポイントを前に持つこともできます。そうで

す!バットが常に前に出しやすく、ボールを

捉えやすくなるのです。

写真2A

写真3のようにピッチャー方向に対し直角

に立ち、肩の延長線上に腕を伸ばし、バット

を指した位置が片手で持った場合のスイング

軌道の始まりです。 この時の軸は左サイドにあり、ピッチャー

方向にバットを指した位置から構えた時の位

置に導けば、すでに脚で作る軸を後方に追い

越したポジションにバットを置くことになり

ます。つまり、イメージとしてはゴムを後方

に軽く引っ張っている位置が 初の構えです。

そのバットをさらに後方へ引くため右軸に体

重を乗せ、上体(胸郭部)を軽くねじります。 さらに踏み出した左足を踏ん張りながら左

腰を開かず、同時に両腕を後方に引けば、左

サイドからゴムを引っ張ったマックスのパワ

ーを持つトップが作れるのです。写真4

①骨盤と上体を投

手の方向へ向け、

両腕でバットを向

け た 位 置 ( 最 終

位)が軌道の開始

ポジションである。

写真2B

■イチロー選手のイメージ

写真3A

②構えからの意識

作り

体はピッチャー方向

に対し直角に立ち、

その肩の延長線上

にバットを持ちピッチ

ャーに向けたポジシ

ョンが、スイング軌

道の始まりである。

写真3B

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

写真4(トップ側面・後面)

これらのポイントをしっかりと作り、スイン

グしているのが世界のトッププレーヤーであ

るイチロー選手です。 インパクトゾーンはトップの体の向きに対

して、骨盤が斜め約45度前方の位置になり

ます。つまり、トップではピッチャー方向に

対して垂直に直行(横向き)し、インパクト

ゾーンに対して、すでにバット軌道を約90

度後方に円を描いたことになります。グリッ

プは常に上体の中心に置く意識だけを持ち、

トップの形からスイングを始動させることが

できるのです。上体をねじり、左肩をクロー

ズする(閉じる)ことで下半身と上体のねじ

れを作る動きが生まれ、これが「タメ」とい

うバッティングのタイミングのカギとなる動

きとなるのです。 この様にスイングを開始するポジションは、

ここからという明確な線上や位置もなく、架

空軸でもあるため、脚の軸の上にある上体の

回転軸に意識を強くもつことが大切です。そ

の意識をもつことでスイングの軌道を作りや

すくなるのです。 逆にそのイメージが弱いと、トップを作る

バットを後方に引く動作でも、体のねじれを

使わず手だけで引くようになり、インパクト

で十分なパワーをボールに伝えることもでき

なくなります。

4.長打力を生むボディターン

スイング

ボールに大きな反力を与えるには、インパ

クト時の大きなパワーが求められます。しか

し、バットは重く、腕とリストターンだけで

作り出すパワーだけでは、大きな反力は生め

ません。トップからインパクト、さらにフォ

ローまでスピーディ、かつリズムよくバット

が走り続けるパワーを持たせるためには、ボ

ディのねじれ(トルク)で生み出す回転力が

非常に大切です。つまり、回転のパワーが遠

心力を生み出し、遠心力がヘッドスピードを

速めるのです。もう 1 つ、バッティングにお

けるパワーは、2軸の股関節上での体重移動

によって生まれます。ヘッドスピードに体重

という質量をプラスさせながら、2軸で作り

出すボディターンと体重移動によって、両腕

で持つバットに遠心力とパワーを伝えるので

す。ここで大事なのはボディターンとバット

の軌道をシンクロ(同調)させることです。

写真4-1 写真4-2

バッティングはボールがバットに当たれば

終了というわけではありません。そこで一点

打法より確実性とより安定したパワーを生み

出すのが、2 軸間の体重移動とボディターン

の中でインパクトを迎え、力を結集する打法

です。バットが生み出すパワーをインパクト

前からインパクト後のフォローまで弱まるこ

となく保たせる打ち方です。フォローになっ

てもねじれが続き、体のねじり戻しにバット

が引き戻されることで、継続的なパワーを持

ったスイングとなり、更なるパワーを打球に

与えるのです。

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

■インパクトで終了した 1 点スイング ■遠心力を利用したボディターンスイング

振り子の一点打打法(手打ちスイング)

■体重移動と遠心力の中でインパクトを結集さ

せたスイング (スイング側面)写真6~10

(スイング正面)写真11~16

(スイング後面)写真17~22

●ボディターンによる回転の中でのインパクト

バットを力強く走らせるには、ゴムを引っ張り、

そのゴムが元の位置に戻る力を利用するイメージ

で打つことが必要

写真5

6 7 8 10 9

11 12 13 14 15 16

17 18 19 20 21 22

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

では、回転と体重移動によるパワーをスイ

ングに伝えるための脚・腰・上体の使い方を

解説しましょう。 右バッターの場合、トップでは右股関節上

で骨盤が右回旋し、上体も後方へややねじれ

ます。スイングでは左股関節に体重を戻しつ

つ、両脚でしっかり骨盤を回します。ここで

は、右足カカトのケリと左ヒザを伸ばしなが

ら左腰(左お尻)を後方へ引く動きが入りま

す。両脚の使い方は異なりますが、同時に動

かすことで骨盤を完全に左回転させることが

できます。土台である骨盤が上手く回転でき

れば、両腕も一体となって回り、さらに上体

と腕が一体化することでバットはインパクト

ゾーンで走り、インパクト後もパワーを弱ら

せることなく、鋭く振り抜かれます。この一

連の動きが打球を前に押し出す大きな力にな

ります。 この時、左骨盤の位置は前に倒した角度を

キープし、上体の土台である腰が右脚の方へ

移りすぎないよう、しっかり右足の親指と右

ヒザ内側を締め、太モモ内側にある股関節内

転筋群の力で上体を支えます。 また、肩はクローズし、トップからスイン

グ初期ではほどかず、トップで作った右股関

節に乗せた体重だけを左軸である太モモから

ヒザの内側、そして腰を力強く切るイメージ

で、構えの位置の左股関節上へ戻します。左

脚にぶつけた体重がこの時点では両脚の中心

にあることが大切で、しっかりその内圧力を

逃さない様に両ヒザ・両脚を締めます。 この両脚内側に集めた体重にプラスして、

さらに腰を回し続け、ここでクローズしてい

た肩から上体のねじれをほどきながら素早く

回し、パワーをインパクトに結集させます。

肩のときほどきにより、先行していた骨盤の

位置に上体が、体の正面にバットが戻り、こ

れによって力強いインパクトが作れ、ヘッド

が自然に走るのです。 バットをパワーゾーンで走らせる時は、常

にボールに正対していることも大切です。こ

の体勢こそ、バットをコントロールしやすく、

ボールを捉える基本です。さらにこのバット

をインパクト後も走らせるには、左脚の股関

節上に体重を乗せながら、左脚軸の上で完全

に骨盤を回し切り、おヘソを打球方向に押し

出すように、ふくらはぎで体重を支え、右親

指でカカトをケリ上げます。この両脚の力強

い安定力の上で骨盤とともに上体とグリップ

でバットを回転させ、バットがパワーゾーン

を走り、ヘッドを加速させるのです。これが

大の回転パワーをボールに伝える動作で、

力強いインパクトと、かつインパクト後にも

骨盤と両ヒザがピッチャー方向に向く位置ま

でパワーがゆるむことなく保ち続けます。 後足のカカトのケリと、前脚を伸ばしなが

ら左腰と左お尻を後方へ回す。両脚が同時に

作る動きで骨盤が完全に回り、両ヒザがピッ

チャー方向へ向き、下半身主導で回っていき

ます。

理想とされるフォームを確立すれば、手打

ちを回避し、常に脚・腰のリードによって大

きな筋肉の力を利用してバットが振れるので

す。完全に骨盤を打球方向に向けるには、

後にしっかりと後足のカカトをケリ上げ、右

ヒザを打球方向に向けること。この後足の使

い方が、 後までしっかりと打球にパワーを

伝えるポイントでもあります。

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

5.骨盤の回転力を生み出し、 体重移動とシンクロさせる ポイント ボディターンによりバットが生み出す遠心

力は、2軸の脚の上での骨盤回転と体重移動

がシンクロ(同調)することで実現します。

そのための動きが、①トップで作った腰から

の回転力と、②その上でさらに回転する胸郭

部のねじれ、③肩で作り得た肩回転です。こ

の三つの回転を活用することで 大のパワー

が生まれ、そのパワーが腕から手首、バット、

ヘッドへと伝わるのです。 体の回転を生むには各関節が動きの支点と

なりますが、支点の位置と役割により、筋収

縮力は異なります。右バッターの場合、トッ

プで閉じた左肩は、左腰から胸郭部のねじれ

で生まれているため、スイングでは前脚の左

軸を素早く作り、体重をピッチャー方向へ運

ぶ軸を確立します。この軸はスイングからイ

ンパクト、フォローにかけてのボディターン

の軸となり、よりヘッドを走らせる役割を担

います。 足を上げてタイミングを取るフォームでは、

左軸である前足が着地する時に足内側部(親

指から土踏まずにかけての足裏の内側部分)

から着地し、ヒザが折れないように内側へし

ぼりながら、ゆるぎない軸を作ります。次に、

バットを走らせるインパクトゾーンでは、腰

を体の正面の位置に戻すことが大切で、構え

た時の前傾角はまだキープしておきます。も

し、上げていた足を下ろすと同時に腰が軸脚

に乗ってしまえば、体のパワーが軸にのり過

ぎ、いわゆる突っ込んだ状態になります。こ

うなるとバットも外から回りやすくなりボー

ルを捉える確率も落ち、後方よりバットを前

方へ押し込めない状態にもなります。 バットが常にボールに対し後方からインパ

クトの面を作ることで、トップで作ったねじ

れと、後足から前足へ体重を運ぶパワーをイ

ンパクトに結集することができます。ですか

ら、必ずインパクトゾーンでは左腰を構えて

いた時の腰の位置に戻すことが大切です。 次に、インパクトゾーンで両脚内側・親指・

ヒザで持つ力をヘッドに伝えるための骨盤の

回転方向をもう少し詳しく説明しておきます。 バットをより走らせるには、①腕・手指の

グリップ力とともに②骨盤の回転と、③その

回転方向に体重を運ぶ脚、特に後脚のふくら

はぎと足の親指の力が必要になります。その

力を十分発揮するために後足のカカトをケリ

上げる意識を持っておきます。右バッターの

場合、そのケリ出す力と左ヒザの上に股関節

を導き、左骨盤を乗せ、ねじれで作った肩の

クローズをときほどくことを一気に行うこと

がポイントです。同時に複数の動きを行うこ

とで上体も、両腕で持つバットもスピードを

落とすことなく回り、インパクトに体重移動

とねじれのパワーが結集。ボールに重たい反

力を与えることができるのです。 左脚の上に股関節が乗り、骨盤が打ち出し

たい方向に向けば当然上体がとかれ、バット

も正面を向きます。骨盤が股関節の上で素早

く回ることで、バットを持つ上体も素早く回

転する訳です。つまり、回転が生まれること

でインパクトゾーンへバットが勝手に出る状

態になり、ヘッドも走ります。これがバイオ

メカニクスによって考察した、強く速い打球

を生み出すマックス打法です。 股関節の上で骨盤を完全に回しきるパワー

を利用するには、前脚のヒザが曲がった状態

では骨盤の下方にある股関節が回転軸になら

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

6.ボディターンとシンクロさせる ず、途中で止まってしまいます。インパクト

ゾーンでバットを走らせるためには骨盤が回

り、その時に後方の脚から前脚へ体重を移す

ことが大切なのです。体重を送る足が中途半

端な状態でケリ終わると前脚のヒザが曲がり、

腰や骨盤が股関節に乗らず打球に体重も伝わ

っていきません。つまり、後脚のヒザがピッ

チャー方向へ向かない、あるいは後足の足底

が打球方向に対して反対にめくれていない状

態です。

上体・腕・手指の使い方 ボールを捉えるためには、グリップで描く

ローテーションによって上手くバットをコン

トロールしなければなりません。そのコント

ロール力とパワーに大きく関係するのがバッ

トを持つ指の筋群とヒジを伸ばす上腕二頭筋、

そして前腕の回内(内に回す)・回外(外に回

す)の筋肉から生み出されるリストターンの

力です。ここがしっかり鍛えられていなけれ

ば、折角ボディターンで生み出したパワーも

バットのアークに伝えることが難しくなりま

す。

いずれの場合も体の回転を弱め、肩と腕、

手指の回転も十分でないためスイングも不十

分で、前方、さらにフィニッシュまで力が持

続できません。結果、長打が出るようなバッ

ティングは求めにくくなります。マックス打

法はあくまで長打力を生み、ヒットの確率を

高めるバッティング法なのです。

大きな筋肉でボディターンを行い、骨盤で

回転を描き、さらに肩からグリップまでの腕

でもう一つの円を描きます。これが 終弧を

描くグリップでバットのアークです。 もちろん、ホームラン以外の長打が全てヒ

ットになるとは限りません。そこがバッティ

ングの難しいところです。実際の試合では、

脚(特に前脚のヒザを曲げて打つ)や腰、腕

や手首を柔らかく使い、ミート力を高め、野

手のいない場所、あるいは野手が取りにくい

場所を狙ってヒットを打つ技術・打法も打率

を上げる上では非常に重要だと思います。ど

んなにいい当たりをしてもヒットにならなけ

れば評価はされません。まず塁に出ること。

あるいは次へつなぐことを考え、当たりが悪

くてもヒット(特にタイムリー)を打つこと

が大切。それが野球というスポーツだからで

す。

グリップのアークとパワーは、手首のロー

テーションにより変化します。グリップを開

きすぎるとインパクトからフォローまで18

0度のローテーションが必要になりますが、

トップでのグリップの開きが小さければ、イ

ンパクトからフォローへの返しも少なく、角

度コントロールにロスが少なくなります。そ

うなると手首の筋力も発揮しやすく、ボール

に対してレベルの面(水平面)も作りやすく

なります。 右バッターの場合、常に右手のひら側とバ

ットの感覚を同一に近づけ、投球に対し自分

からとらえる感覚を持つことです。そうする

ことにより、トップでグリップを後方に引い

た時のバットの位置も感覚的に把握し、ボー

ルとの距離感やタイミングも感じやすくなり

ます。

トップでは、後脚への体重移動、上体のね

258

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

7.ボディターンスイングの じれ、肩のクローズ、手でバットを引くとい

う動きの中でバットがインパクトゾーンから

離れたイメージを持ってしまいがちです。し

かし、右手のひらにバットの面と同一の感覚

があれば、インパクトに向け体を引き戻す動

きにシンクロさせながらのバット軌道も描き

やすくなります。

基本は内角軌道

ボディターンスイングは右打者の場合、右

脚の股関節の上に体重を乗せ、上体を両股関

節上でねじりながら、左肩はクローズ、右肩

は外へ回転させ、バットを後方に引くところ

から始まります。上体がねじれる時の軸は、

胸郭部の背骨で、ねじれを作るポイントは、

背骨の土台である骨盤がしっかり構えた時の

位置にあり、上体のねじれ方向にぶれない骨

盤が必要です。そのために、骨盤を後方につ

き出すように抵抗させ、この動きがあること

で「肩を閉じる動き」もできるのです。

同時に、左手の甲にバットの前面と同一感

を持つことも一つです。構えからトップを作

る動きの中でもこの意識を持ち、スイングの

時には、左手の甲から常に 初のポジション

(体をピッチャー方向に向けたポジション)

へ手の甲を持って行き、バットを戻す意識を

持ちます。そうすることで左足・左脚・左腰・

左肩・左腕・左グリップの延長線上にバット

を意識でき、体から一番遠くにあるはずのバ

ットと体が一体の感覚を持つことができます。

全ての動きに一連性が生まれ、受動的にねじ

り戻し作用の抵抗を感じながらスムーズなス

イングを実現できます。そして 後に、両腕

のヒジとリストを使い、両手の感覚によって

バットをコントロールします。ここで打ちた

い方向へ向けたインパクトを作り、ボールを

運ぶ形を作ることができれば、確実性も高ま

っていきます。

ここでは、構えた時の前傾姿勢を崩さない

ことが基本です。なぜなら、構えた時に作っ

た前傾姿勢はスイング初期からインパクトを

迎える間、骨盤を回し、体を回し続けること

でバットを前に出し、ヒットポイントを前方

へ導くからです。構えの段階で骨盤の回転ス

ペースを確保しておかなければ内角へバット

の芯を上手く導けず、体に近い球に対するス

イング軌道の確保が困難となるのです。 この構えは外角のスイング軌道も想定して

いることは言うまでもありませんが、ボディ

ターンの基本は内角にバットがスムーズに出

ることです。内角球をさばく軌道はボディタ

ーンの時に体にバットを巻き付けるイメージ

です。生み出すパワーも内角の軌道がしっか

り確保出来るスイングであってこそ、外の球

に対してもバットの軌道の半円周が 大とな

り、しっかりと遠心力を活かして、より打球

を飛ばすことができるのです。

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

8.ボディターントレーニングと バッティングPNF

長打力を生み出すマックス打法を身につけ

るために行うのが「ボディターントレーニン

グ」です。ただ、私がこのトレーニングを行

う前には必ずその選手の素振りを見て、フォ

ームの問題点をチェックするところから始め

ます。その時は主に次の5点を中心に見ます。

①両脚での軸、体幹の軸が崩れていないか、

②体の回転とスイングはきちんと連動してい

るか、③軌道はどうか、④パワーは逃げてい

ないか、⑤スイングからインパクトにかけて

前脚のヒザと後足のカカトのケリの状態はど

うか、といったところです。そこでその選手

の現在の形を確認し、問題点は改善しながら、

同時にボディターントレーニングを行ってい

きます。 1)回転軸とカベ、土台を作る

トレーニング

安定した打撃を身につけるボディターント

レーニングの土台として、例えば骨盤内圧を

高めるための骨盤と脚の使い方や、スイング

軌道を作る上体と腕の使い方といったものが

あります。そこでまずはそれぞれの動きに必

要な筋肉や関節の使い方を、下半身と上体に

分けて練習し、身につけていきます。各パー

ツの動きを身につけたあとに、上下と対角に

ある筋肉の使い方やタイミングの習得に移り

ます。そして 後に、体幹と下肢、上肢のそ

れぞれの動きをつなぎ合わせて、重心や軌道

のバランスを生み出していきます。 それでは、打撃における回転軸と土台を作

る下半身のトレーニングに入りましょう。 足幅を骨盤の幅より少し広めにとり、つま

先・ヒザ・股関節のねじりの筋肉を使って内

側に締めます。ボールを内モモに挟む動き(写

真 23)をイメージして行うといいでしょう。

さらにこのイメージを構えからトップ、イン

パクト、フォローに至る動きの中に持ち続け

ることで、体の内圧(パワー)をバットへ伝

えやすくなります。後ろから見た写真24も参

考にしてください。

側面

写真23

後面

写真24

構えでのポイントは、背骨とお尻、脚から

作る位置と角度です。より安定した回転軸と

土台を作るには、背中から腰、そしてお尻か

ら脚にかけて張りを持たせ、背骨を中心に回

転軸を作ることです。その回転軸の延長に回

転の土台としてお尻を置くことで、安定を保

つことができます。この構えは、内角球を打

つスイング軌道を作ったり、ヘッドスピード

を高めるためにも重要な要素になりますから、

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

しっかり安定させることが必要です。

もし、構えの段階からヒザが前方に屈曲し、

腰とお尻が下に落ちるようなら、腰の回転も

起こりにくく、回転方向へのカベも作りにく

くなります。その結果、思い切りヘッドスピ

ードを高めたり、コンロトールされた軌道が

作りにくくなってしまうのです。

写真27 写真28

2)ボディターンの習得方法

次に、背骨を回転軸に見立て、骨盤を回し、

右にある体重(右打者の場合。以下同じ)を

インパクトに結集させるボディターンの習得

です。

骨盤を回す時には右腰が下がり過ぎないよ

うに気をつけることです。右下がりになると

腰が回りきれないばかりか、上体も右下がり

となり、体のバランスが崩れ、つまり気味に

なります。そうなると、体から両腕を通して

伝わるはずのパワーも、バットに十分伝わら

ず、ヘッドスピードは下がり、パワーも弱く

なってしまいます。

まず、背骨に対し、骨盤をレベル(水平)

に回す感覚と筋肉の使い方、そして、その時

のカベとケリの動きを理解します。その方法

として、壁に向かって構え(写真 25)、両手

は手すりを持つか、壁に手をつき、骨盤をレ

ベルに保ちながら腰をターンさせます(写真

26)。正しいレベルターンができるようになっ

たら、介助者が腰に手を置き、回す方向に抵

抗をかけていきます(写真27・28)。このよう

にして骨盤をレベルに回す感覚は、いわゆる

“腰砕け”や“へっぴり腰”のスイングにな

らないためにも大切です。

右打者の場合、ボディターン時のカベは左

脚になるため、振り降ろしからインパクトま

での動きの中では、ヒザを伸ばしながら股関

節を内側に締め、骨盤の回転方向へ体重を乗

せることで、しっかりとしたカベが作れます。

その時に、股関節やヒザが投手側へ移らない

ように注意します。そうなると内圧が少なく

なり、重心も流れてしまうからです。 また、前述したように、スイング時には前

傾角をキープしながら、左のお尻、左ヒザを

伸ばしつつ後ろへ引き、同時に、右足カカト

はしっかりケリ上げ(カカトを浮かしながら

親指を中心にターンし、ピッチャー方向と反

対に足裏を向ける)、右ヒザをピッチャー方向

へ回します。これにより、骨盤をレベルに回

し、カベとなる左脚へ体重移動をスムーズに

行えます。この動作が非常に重要なポイント

になります。写真29 写真25 写真26

261

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

3)ヘッドの軌道を作るPNF

トレーニング(座位)

ヘッドの正しい軌道と十分なパワーを作

るには腕だけでスイングするのではなく、

両腕と上体の同調した動きが必要になりま

す。この動きを習得するには、右腕と上体、

左腕と上体(胸郭部)の組み合わせで、それ

ぞれが同調する使い方から練習を始めます。

(1) 右腕と上体の使い方を習得する PNFトレーニング

このトレーニングは、上半身の動きに意識

を集中しやすいよう椅子に座って行います。

座位でトップを作るイメージで、右バッター

の場合、右ヒジを90度近く曲げ、そのまま

肩の位置まで持っていきます。ワキはスイン

グアークを大きくするために広げておき、下

半身は逆方向へパワーを感じるように安定さ

せます(写真 30-1)。バットのヘッドが頭の

方へ向くようにグリップを握り、右ヒジの角

度を保持したまま(少し後方より外旋の動き)

右の腰へ近づけ、ワキを締めていきます(軌

道の形成)。ワキを締める筋肉の使い方を、真

横(写真30-2)と正面(写真31-3)からの写

真を見て参考にして下さい。

側面

写真29-1

後面

側面

写真29-2

写真30-1

写真30-2

正面

写真31-1 写真31-2

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

下半身の動きは、右ヒザを止めた状態で、

腰も同様に回旋を始めていきます。抵抗を与

えないで、その筋肉の使い方を体へ覚えさせ

た後、介助者(コーチ・トレーナー)はヒジ

上(上腕部)を支え、フォローまでのスイン

グ軌道に対して軽い抵抗をかけ、スイング時

のバットのパワーと右腕の使い方を選手に習

得させていきます。

(2) 左腕と上体の使い方を習得する PNFトレーニング

左腕に関しては、トップの位置から振り降

ろしに入る時、腕を胸に締める意識を持ち、

体幹のねじれとともに、肩・ヒジ・手首を回

転方向に同調させて動かし、インパクトを迎

えさせます。ここで大切なのは、腕とワキを

締めるイメージです。インパクトの際には手

首の締めを十分に使い、肩を外旋、回外の動

きによってフォローの軌道を作ります。この

トレーニングも先のトレーニングと同じく、

バッティングの際に生まれる腰の回旋力とカ

ベのイメージを持ちながら行います。 抵抗は振り降ろしからインパクト、そして

押し出す範囲までかけ、肩甲骨と胸郭部、腕

の力を発揮し、軌道に合わせた筋力を作って

いきます。この時、左肩が上がらないように、

トップの位置より少しずつ体幹に沿って投球

の変化に対応できるライン(高低・内外)を

作っていきます。写真32、写真33 このような動きのトレーニングによって、

腕と肩甲骨帯、そして上体を、バッティング

でのパワーとして働かせることができるので

す。

写真32

写真33

(3)両腕の同調した動きを作る PNFトレーニング

後に、両腕の同調した動きを行います。

動きのイメージは、トップでボールを引き込

み(写真 34)、振り降ろしで腹圧と体幹のパ

ワーを連動させ、レイトヒッティングでイン

パクトを迎えます(写真35、写真36)。腕だ

けではなく、体でボールを押し出すイメージ

を持って行うようにし、この動きにも抵抗を

かけます。

写真34

263

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

4)バッティングフォームのPNF トレーニング(立位) 上肢の動きができれば、次にトップでの下

半身の使い方の練習に移ります。 背骨を中心とする回転軸と骨盤内に力を置

きながら、捕手方向へバットを引いたトップ

の時には、回旋方向(右方向)に回転軸が移

動しないようにねじりながら、上体と腕を右

後方へ引きます(写真 37)。その時、土台と

なる腰は左足の踏み出しに合わせ投手方向へ

向かいます(写真 38)。ここで左腰と左股関

節のカベの意識とを連動させ、骨盤内のねじ

りの力による振り降ろしで体を正面に戻し、

バットを左回転方向へ振り抜いていきます

(写真39)。

次に、トップからインパクト、フォローの

バットの動きに対して、介助者がバットに抵

抗をかけます(写真 40)。これによって、イ

ンパクトから押し込むパワーを体の内圧と一

体化させることができます。この時の抵抗は、

内、中、外角の各コースと高低別に行うこと

で、それぞれの軌道に対してのパワーとタイ

ミングを覚えていきます。

写真40-1

写真36

写真35

写真39

写真38 写真37

264

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

スイング軌道の変化は、右ヒジの角度と体

の内圧の使い方によって作っていきます。こ

の時、腕だけで操作す

写真40-6 写真40-2

るのではなく、必ず腰、

盤と一体化するタイミングでバットを出し、

抗に対するインパクトでの反力を感じなが

、選手の微細な動きをチェックしていきま

。こうして、理に叶った形を作りながら、

方で動いてくるボールをバットでしっかり

らえるためのタイミングは、実践を通じ向

させていきます。

写真40-5

す写真40-3

写真40-4

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

9.素振りでバット軌道を何通りも 持つ

素振りの時に、限られた軌道だけで振って

いると、実践でのボールの変化への対応が弱

まり、得意なコースだけにバットが出るスタ

イルにもなりかねません。アベレージの高い

ッターになるには、変化球や様々なコース

ト軌道を何

た直立位から、両腕(ヒジ)

でき、ヒッティングポ

体の近くを通らなくてはなりません。

ことです。この肩のタメは内・外角球を打

った後、

の変化にも対応するために、バッ

りも持つことが大切です。できればコース

だけでなく、直球や変化球などの軌道や緩急

まで具体的にイメージしながらスイングする

と、素振りもより実戦的な練習になるでしょ

う。

1)直球に対応する素振り 直球に対応する軌道は高め・低め・内角・

外角と想定します。まずコースに対応したス

イングの時の上体と下半身の使い方を覚える

ことです。外角球を打つ時のバッティングは、

開始位置で立っ

しっかり伸ばし、大胸筋から離れることな

くワキを締めます。上体の回転と腕、そして

グリップで 大の遠心力を生む半円周を理解

しながら振ります。この位置は腕の力が一番

求められるため、ここでの力を得られれば、

外角、特に高めの球への対応はスムーズにな

るでしょう。 この時、両脚の2軸でしっかり骨盤を支え、

背骨の中心とその土台となる骨盤の前傾角を

キープし、回転軸を作ります。この骨盤の安

定と上体の前傾角を保ちながら、骨盤を速く

切り返し、同時に肩は瞬間的に閉じたところ

から、骨盤が 後に打球方向に回転し終わる

時と合わせて回していきます。つまり、骨盤

を振り切るとほぼ同時に、上体、肩、腕を回

す感覚です。このタイミングでこそ、大きな

遠心力と円軌道が確保

ントも前に出せます。注意したいのは、大

きな円アークによって上半身が振られすぎな

いように下半身の安定性を確保することです。

踏み出す前足は状況に応じてややインステッ

プでも良く、常に骨盤の切り返しをしっかり

受けることのできる前脚であることを考えて

ほしいと思います。 内角を打つには当然、バットの芯を内へ導

かなければならず、腕とグリップで作る円軌

道がより

でに書いてきましたが、バットが体に巻き

つく感覚で出していきます。内角の円軌道は

スイング時の軸となる前脚の股関節へ骨盤を

しっかりはめ込み、後足のケリで骨盤を後方

に引きながら、バットはグリップから出し、

ややカット気味になるよう素早く振り下ろし

ます。 この時、軌道の邪魔にならないように骨盤

を回しながら、スイング力の源になる骨盤の

切り替えしに対し、肩は一瞬止めるタメがあ

つときにも必要です。肩のタメを作

早く下半身の骨盤、続けて上体を回し、グ

リップからバットを出し、スイングの円を描

いていきます。イメージとすれば骨盤と上体

がピッチャー方向へ向いていくところで、バ

ットを上体に沿わせて出していく感じです。 2)変化球に対応する素振り 構えからトップに移る時、頭は投球方向へ

向けて脊柱を伸ばし、前傾角を保ちます。右

打ちの場合、その構えから右股関節上の骨盤

をねじれさせながらバットを後方へ引き、左

肩はクローズの状態です。そして、トップか

266

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第11章バッティングのバイオメカニクスとバッティングPNFトレーニング

267

ボールに回転を与える指のひ

る形を持つこと

く変化球に

に すでにパワーが消失しているケースが多

くあります。特に変化球を攻略する時には決

して打ち急がず、ボールの変化に反応できる

間をしっかりと持つことです。 繰り返しますが、この一瞬のタメこそ、ボ

ールの変化を見極めるカギであり、バッティ

ングの結果を大きく左右するものなのです。

スイングに移る時に左足へ体重をすみやか

に運びます。この体重移動では上体のねじれ

分はまだほどかず、肩はクローズした状態を

保っておきます。この下半身と上体のねじれ

がタメとなり、変化球に対応できるタイミン

グを作ります。そして、しっかりタメたあと

左肩をほどき、バットを出していきます。 変化球はピッチャーの腕の振りの角度や振

り切るスピードの変化、あるいは、ヒジ下か

ら手首、そして

かけ方などにより打者の手元で曲がったり、

落ちたりします。そこに緩急も加わるなどす

れば、難度も上がり、打者はタイミングを外

されやすくなります。瞬時の判断で多様な変

化球に対応するのは容易ではありませんが、

だからこそ、しっかりと振れ

大切です。 素振りの時に、変化の大きなカーブやフォ

ークボールをイメージしてバットを出そうと

すれば、ヘッドもゴルフイングの軌道に近い

縦回転を描くことにもなります。ですから、

体が腕で作る円軌道にしっかり同調させる意

識がより大切になります。 私は変化球が打てないと悩む選手に「ボー

ルが見えてる?」と尋ねることがあります。

それは「ボールを捕らえられるタイミングで

振っているの?」という意味で、もしボール

が見えないと答えた選手には、よ

応するバッティングのタイミング作りを指

導します。打ちたいという気持ちが先行する

と、上体が突っ込み、インパクト時のバット