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第1編 長芋(青森県)

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Page 1: 第1編 長芋(青森県)...青森県における長芋輸出に関する物流調査については、以下の方法により実施。 1.調査対象品目等 品目 輸出先

第1編 長芋(青森県)

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目 次

調査の趣旨・概要........................................ 1-1

Ⅰ.調査方法............................................ 1-3

1.調査対象品目等.................................... 1-3

2.調査協力企業、生産者、関連団体等.................. 1-3

3.調査方法.......................................... 1-3

Ⅱ.調査結果............................................ 1-4

1.基本概要.......................................... 1-4

2.輸出数量等の確定までの流れ........................ 1-6

3.輸出までの流れ.................................... 1-8

4.輸出までの物流関連コスト項目...................... 1-15

5.現状における特筆すべき事項........................ 1-16

6.課題に対する改善の方向性.......................... 1-20

7.まとめ............................................ 1-26

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調査の趣旨・概要

近年、世界的な日本食ブームの広がりやアジア諸国等における経済発展に伴う富裕層の

増加等により、高品質な我が国の農林水産物・食品(以下「農林水産物等」という。)の輸

出拡大のチャンスが増大している。このような中、産地が輸出に取り組むに当たり、価格・

品質面での競争力の向上等を図るためには、輸出物流コストの削減方策を明らかにするこ

とが必要となっている。

このため、輸出物流コストを調査し、産地等の関係者に広く知らせるとともに、調査結

果に対応した関係者の取組を促すことを目的として、「平成19年度農林水産物貿易円滑化

推進委託事業(海外貿易情報収集等基礎調査)」において「輸出物流コスト削減等に関する

調査」が実施された。

本報告書では、実際に輸出に取り組んでいる各産地の協力のもと、ヒアリングによる物

流の実態調査と、その結果から導き出される課題解決のための仮説・提案について、ケー

ススタディー形式で紹介している。

品目特性、輸出先、産地から空港・港湾施設までの動線等の違いにより、物流の課題は

千差万別と言える。このため、必ずしも本報告書が全ての農林水産物等の輸出物流の改善

に直接寄与するものではないが、関係者(生産者、関連団体、物流関連企業等)が、本報

告書で提示されたケーススタディーを改善のための有益なヒントとして活用し、各自が抱

える物流課題の解決を図り、一層円滑な農林水産物等の輸出環境の構築を実現することを

期待する。

なお、本報告書におけるコストについては、輸出プロセスに係る直接的な支払コストに

重点を当てて調査・提案を行っており、数値化が難しい自家コスト(生産者の輸出準備に

要する労働時間や圃場から単協への個別配送など)は調査・提案の対象から割愛している。

したがって、本報告書で示す直接的な支払コストとは、以下の項目を指している。

産地から物流拠点(空港、港湾等)までのトラックによる輸送費

・ 混載便とチャーター便に大別される。

・ 混載便の場合は、通常キログラム当たりの重量制となり、輸送距離によりキログラ

ム当たり単価が異なる。

物流拠点(及び周辺)における船積み関連費用

・ コンテナのバンニング料、一時保管料、取扱手数料、書類発行手数料など。

・ 出荷1件毎に課金される料金と、重量や容積、コンテナ単位で課金されるものに大

別される。

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航空便、船便の運賃

・ 航空便の場合はキログラム単位、船便の場合はコンテナ単位での課金が基本となる。

・ 船便の場合、特段の温度管理等を要しない通常貨物であれば、混載を想定した立米

単位の課金方法もある。

通関や検査など法令上必要な業務に付随する費用

・ 通関手数料や検疫審査代行手数料など、出荷件数当たり、または書式枚数当たりの

単価設定となる場合が多い。

梱包やその他資材関係に必要な費用

・ 段ボール代、保冷剤など。

本報告書を作成するに当たり、可能な限り正確を期すよう努めたが、執筆後の輸送運賃

や資材等の価格の変動、輸出ロットの増減による単価の変化等により、記述内容と実態と

の間に異なる部分が発生する可能性がある。ついては、農林水産物等を実際に輸出する際

には、事前に専門の輸送業者等に照会するなど、それぞれの品目特性や産地、輸出先に即

した情報を入手する必要がある。

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Ⅰ.調査方法

青森県における長芋輸出に関する物流調査については、以下の方法により実施。

1.調査対象品目等

品目 輸出先

長芋 アメリカ合衆国

2.調査協力企業、生産者、関連団体等 (敬称略)

全国農業協同組合連合会青森県本部

株式会社ファーストインターナショナル

3.調査方法

平成 20 年 2 月に現地で関係者からヒアリングを実施した上で、電話等により

追加の情報収集を実施

インターネットを通じた情報や関連業者の見積り等を収集

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Ⅱ.調査結果

1.基本概要

長芋は、全国的に広く栽培されている。そのうち青森県産の長芋は、全国の生産量のお

よそ4割を占めている。

青森県産の長芋の輸出は、首都圏などの中央卸売市場からロサンゼルス(リトル東京)

やシンガポールに向けて行われたのが始まりであり、本格的な輸出は、先行している北海

道に比べてやや歴史が浅い。なお、台湾等への輸出では、青森県が北海道に先行していた

が、同県の場合には国内出荷が主で、輸出に振り向けられる長芋の量に限界があったため

に、大量生産・大量出荷が可能な北海道に輸出産地が移行していったという経緯がある。

現在、青森県産は米国市場のみならず、かつて輸出していた台湾市場向けの輸出も再開さ

れるようになっており、輸出市場は確実に広がっている。近年になって輸出が再開された

台湾市場では、肉質のきめが細かい青森県産が好まれる傾向にあり、中Lサイズが嗜好さ

れる国内市場に比べて、大型サイズの長芋が販売しやすい環境にあるという。

全国農業協同組合連合会青森県本部(以下「JA全農青森」という。)が取り扱う長芋の輸

出を行っているのは、株式会社ファーストインターナショナル(以下「ファースト社」とい

う。)を含めて、現在 5 社である。ファースト社は青森県内の企業であるが、他 4 社は県外

の企業である。 ファースト社は、地元の八戸港が国際港となったことを契機に地場密着型の貿易商社と

して、平成6年に商工会議所青年部が中心となって設立された。貿易業務は輸入が大半を

占めるが、輸出も行っている。生鮮品に関する主な輸出品目は、青森県産に限定せず、り

んご、柑橘類、桃、柿、ぶどう、梨、メロン、長芋、人参、ごぼうと多岐にわたっている。

ファースト社の長芋の輸出は、平成11年に台湾の輸入業者からオーダーが入ったこと

を機に開始された。その後、15年には、台湾の輸入業者からの要望でアメリカ向けの輸

出を開始した。なお、アメリカの輸入業者は、台湾の輸入業者のアメリカ支店であり、輸

入港はロサンゼルスである。

輸出における基本概要は、図表-1のとおりである。

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(図表-1:輸出の概要)

注)JA全農青森が把握している 18 年度実績

※)「N.A」とは、情報を入手できなかったことを示している。

台湾への輸出は、15年度まで青森県産の長芋が主であったが、16年度以降は北海道

産の長芋に移行している。北海道産に変更された理由は、青森県産の長芋よりも白色で、

ボリューム感がある等のためである。

青森県としても、台湾側の希望する量・金額で輸出する事が難しいため、現在は、台湾

向けからアメリカ向けの輸出にシフトしている。

18年度アメリカ向け実績は、輸出数量360.88t、輸出金額830,024ドル

に及ぶ。

輸出の対象となる品種については、ナガイモ群(円柱状の芋)で、サイズは2S~4L

と7段階あるうちの3Lと4Lの2種類が対象であり、等級は4階級あるうちのA級品(ま

っすぐな長芋)とB級品(若干曲がっている長芋)で、等級の高い方から2階級のものを

輸出としている。

アメリカ向けの輸出は40フィートコンテナ単位で行っている。また、コンテナ本数は、

通常月で2コンテナであるが、散発的に月間3コンテナや1コンテナ、ときには注文がな

い場合もある。参考までに、40フィートコンテナの長芋積載量は約1,500ケース(1

0kg/ケース)である。

なお、台湾向けに関しては年に2~3回の出荷に留まり、情報の入手が困難であったた

め、以下の記述は、アメリカ向けに限定して整理した。

年間輸出量

ケース容量

360.88t 10kg24回/年

(2回/月)13.2t

2,668円/ケース(23ドル/ケース)

9,628万円(830,024ドル)

・JAとうほく天間・JA十和田市・JA八甲田・JAおいらせ・JA野辺地・JAももいし・JA八戸広域・JAしんせい五戸

N.A 10kg 2~3回/年 N.A N.A N.A

・JAとうほく天間・JA十和田市・JA八甲田・JAおいらせ・JA野辺地・JAももいし・JA八戸広域・JAしんせい五戸

有台 湾

1回当たり平均輸出量

アメリカ

輸出先船積頻度(通年)

植物防疫検査

1ケース当たり販売価格(CIF価格)(116円/$)

年間輸出金額

(116円/$)出荷JA

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2.輸出数量等の確定までの流れ 青森県産の長芋輸出に関しては、JA全農青森が、県内の長芋輸出の各単協間への連絡

や指導及び調整を行う窓口となっているが、実際の輸出に関する計画や船積み手配に関し

ては、ファースト社が行っている。また、輸出に至るまでの物流関連業務は、後に詳細を

記すが、ファースト社を含め、各単協がそれぞれ役割を分担している。ただし、輸出に関

わる代金決済は、JA全農青森の意向で、卸売業者と仲卸業者を介して、JA全農青森と

ファースト社との間で行われている。(その根拠は取材できていない) 輸出取引が確定するまでの基本的な流れは、下記のとおりである。

①ファースト社は、海外輸入業者と年間の必要数量と価格を交渉する。

②毎年11月後半にJA全農青森・仲卸業者・ファースト社の3者によって、次年度

の大まかな輸出数量・輸出価格を仮決定する。

③ファースト社は、手配した船便のスケジュールをJA全農青森に通知する。

④JA全農青森は船便スケジュールを逆算して、各単協に対して出荷の2週間前に出

荷要請を行う。また、1週間前に 終数量の調整行い、出荷当日に価格の調整を行

う。この時点で、 終的な輸出数量・輸出価格を決定する。

なお、青森県内では8単協(JAとうほく天間、JA十和田市、JA八甲田、JAおい

らせ、JA野辺地、JAももいし、JA八戸広域、JAしんせい五戸)が輸出用の長芋を

出荷している。

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(図表-2:青森県輸出用長芋取扱単協マップ)

青森市

青森県

青森県

八戸市

以上が、輸出の取引における「商流」が確定するまでの概要である。

「物流」については、次の「3.輸出までの流れ」にて、実際に長芋が生産された後、ど

のような工程を経て輸出が行われているのかを、各工程における業務主体者の役割と共に

整理した。

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3.輸出までの流れ (1)物流経路 青森県内の生産者による出荷から港での船積みまでの流れと国内向け出荷の流れは、図

表-3、4 のとおりである。

(図表-3:輸出における物流経路)

注)「バンニング」とは、海上コンテナへ積み込むことを指す。

JA全農青森(輸出全体管理)

出荷要請

輸出乙仲業者倉庫(

保冷庫)

東京港

(通関・船積み)

生産者保冷コンテナ

バンニング

輸出乙仲業者A社

大井埠頭

単協生産者

※毎月2回出荷

JA全農青森で仕立てたトラックで周回輸送をしている場合がある。生産量が都度変動するので、周回する単協は定まっておらず、JA全農青森が調整している。

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

A単協

B単協

C単協

D単協

E単協

F単協

G単協

H単協

ファースト社(輸出手配)

船積み調整

植物検疫所

卸業者(代金決済)

仲卸業者(代金決済・輸出価格調整)

代金決済

代金決済

代金決済

輸出数量価格調整 船積み調整

国内市場

単協が直接仕立てているトラックでは、直接、検疫所に輸送される場合と、輸出用の荷と国内出荷用の荷を混載して運送をしている場合がある。

夏季は保冷車冬季は常温車

夏季は保冷車冬季は常温車

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(図表-4:国内向け出荷における物流経路)

基本的な特徴としては、以下のとおりである。

①ファースト社は、単協(輸出用の長芋の出所)について特に指定はしておらず、産地側

の窓口であるJA全農青森が、国内市況を考慮した上で、どの単協の荷を輸出するか決

定している。

②1ヶ所の単協だけでは1コンテナ分【40 フィートコンテナ、1500 ケース(10kg/ケース)】を用意することは難しく、複数の単協で対応している。

③アメリカの輸入業者からの要望で、アメリカ向けの荷には単協名などを記載したシール

の貼付が必要(これにより、どの単協から出荷されたかについて、トレースが可能)で、

シールはファースト社が手配し、その費用もファースト社が負担する。シールの貼付の

タイミングは、集出荷場でのトラック積載時で、運送業者によって行われる。 以上が物流経路についての説明である。各々の工程における業務の詳細については、各

業務主体の業務内容と併せ、下記「(2)業務の流れと業務内容」にて詳細を記した。 (2) 業務の流れと業務内容 各々の業務主体・工程毎で行われている業務内容については、全体の流れを記したフロ

ー(図表-5)、モノの流れに主眼を置いたタイムチャート(図表-6)、そして、コンテナ

1本当たりの物量(約1,500ケース)を対象とした工程毎の時間工数表(図表-7)に

(国内向け出荷)

※毎月出荷

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

生産者

A単協

B単協

C単協

D単協

E単協

F単協

G単協

H単協

単協生産者

卸売市場(中央・地方)

卸売市場

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整理した。 (図表-5:アメリカ向け 長芋輸出フロー)

※)「CY」とは「Container Yard(コンテナヤード)」と呼ばれ、船積みする前のコンテナを蔵置しておく場所を指す。

単協 卸売市場 植物検疫所 輸出業者A社

JAとうほく天間JA十和田市JA八甲田

JAおいらせJA野辺地JA下田町

JA八戸広域JAしんせい五戸

国内出荷 検疫 倉庫業務・通関・船積み手配業務JA全農青森生産者 仲卸業者ファースト社

輸出計画

船積みスケジュール設定

出荷計画スケジュール

確認

船積み計画書

収穫

出荷用プラスチック箱もしくは鉄コンテナへ搭載し、保管

出荷

出荷仮予定

受入・保管

保管(冷蔵)

洗浄

船積み手配

検査

船積み準備

通関書類

バンニング

CY搬入(※)

船積み完了確認

モノの流れ 指示・情報の流れ

通関

選果・梱包

図-6のタイムチャートを参照

船積み計画書

出荷予定

保管(冷蔵)

受入

出荷(夏季は冷蔵トラック)

受入

通関手配

通関準備

出荷確定生産量

出荷予定

トラックに積込んだ荷が、輸出用の荷だけの場合と、輸出用と国内用の荷を混載している場合がある

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(図表-6 : アメリカ向け モノの流れに主眼を置いたタイムチャート)

※1) 長芋の保管期間は、1~2日から 6 ケ月と状況により異なるため、生産者からのヒアリングによると、平均値を

算出することは困難であるとのこと。

※2) 一つの船で 2,000~3,000 本といった大量のコンテナを積載する海上輸送を利用する場合は、輸出物流業者、船会

社、 税関が絡むタイムスケジュールの設定は半日から1日単位が限界である。したがって、搬入締め切り日(ア

メリカ向け、カナダ向けにおいては、※3)で説明する AMS 対応を勘案した出港日の 72 時間前)の締め切り時

間(一般的には 16~17 時)までに、CY へのコンテナ搬入を完了することができれば問題ない。言い換えると、

上記締め切り時間を越えない限り、CY への搬入時間の早さは通関、船積みに影響することはない。ただし、CY

搬入においては、トラックの混雑も予想されるため、締め切り時間間際の搬入は避けるべきである。

※3)AMS とは、「Automated Manifest System」の略で、アメリカ、カナダ向けにおいて、船会社は本船出港の 24 時

間前までに、両国の税関にマニフェスト(船積み品目における情報:船名、船荷証券番号、品名等、輸入申告に

関連する主要21項目)を提示しなければならず、また、そのためには日本側での書類準備等の時間を理由に、

本船出港の72時間前までに CY へコンテナを搬入するルールが日本の船会社側で設定されている。すなわち、

コンテナ搬入(3 日前)→税関マニフェストをアメリカに送信(2 日前)→アメリカよりコンファーム受領(前日)

→本船出港(当日)の手順となる。なお、AMSはアメリカ、カナダ側の要請に基づき制定されているもので、

具体的には、「貨物の詳細な素性を、船に載せる前に米国税関が検査するシステム」のことである。2001 年に発

生した、いわゆる 9.11 事件以降、テロの脅威を感じたアメリカが、輸入貨物に対してテロとの関係が無いかどう

か、また、爆弾等がコンテナに仕掛けられていないかどうか等、全ての貨物をチェックするようになったことが

発端となっている。テロの脅威が無くならない限り、この規制は緩和されることは無い。

※4) ※2)でも記載したとおり、海上輸送を利用する場合は半日から1日でのタイムスケジュール設定が限界である。

したがって、輸出物流業者側にて通関処理を行った後も、税関側及び船会社側において、全ての船積み情報の確

午後午前

2日目

船会社

バンニング

選果

梱包

午前

4日目

午後 午前

5日目

午後 午前

6日目

午後午前

3日目

午後 午後

CY搬入

船積み

通関

保管

輸送

検査

輸送

洗浄

保管

受入

植物検疫所

午後 午前午前

受入

輸出業者

A社

受入

各単協

7日目1日目主な工程業務主体

(※3)

(※5)

(※4)

(※1)

(※2)

出港

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認(書類確認、データ入力等の作業含む)が完了するまで、つまり、通関処理後、船積みが開始されるまでは、

低半日が費やされることが一般的である。

※5) 船へのコンテナの積み込みは、輸出物流業者の手配の下で、船会社が行っている。

(図表-7:コンテナ1本当たりの物量を対象とした工程毎の時間工数)

注) この工程表は、主たる作業項目に着目してその時間工数を示したものであり、1日 24 時間の内訳ではない。 ※1) 生産者段階は除外しており、単協以降の工程における作業項目を表している。 ※2) 保管期間が、1・2 日から 6 ヶ月と状況により異なり、平均値を算出するのは困難なため、収穫後 1日で出荷され

るケースの時間( 大 400 ケース)をコンテナ 1 本分の数量 1,500 ケースに合わせて算出した。

※3) 1 単協当たりの 大出荷ケース数(400 ケース)を同時に複数の単協で作業した場合を想定し、1単協が 400 ケー

ス処理する時間を掲載。

※4) 1,500 ケースを同時に準備できることを想定し、1単協が処理する時間を掲載。

※5) 単協が直接仕立てたトラックについては、輸出用と国内出荷分の混載であり、国内市場の立ち寄り時間が算出困

難なため、記載していない。 ※6) トラック 1 台のみの時間。複数の単協及び植物防疫所に立ち寄り、輸出業者A社まで納品した時間を記載してい

る。

【輸出計画 : JA全農青森、仲卸業者、ファースト社】 上記2.のとおり、JA全農青森・仲卸業者・ファースト社にて次年度の大まかな輸出

数量・輸出価格を仮決定し、ファースト社によって船積み計画がJA全農青森に通知され、

それを受けて、JA全農青森が各単協に出荷要請をする。

作業項目(※1) 作業者 作業量 単位 作業時間(※2)

受入 単協 1,500 ケース 5日

保管 単協 1,500 ケース 長6ヶ月

選果・梱包 単協 1,500 ケース 9時間(※3)

出荷準備 単協 1,500 ケース 30分(※4)

輸出業者A社倉庫まで輸送(※5)

JA全農青森 1,500 ケース 22時間(※6)

検査 植物防疫所 1,500 ケース 30分

受入 輸出物流業者A社 1,500 ケース 15分

保管 輸出物流業者A社 1,500 ケース 4時間

バンニング 輸出物流業者A社 1,500 ケース 1時間

CY搬入 輸出物流業者A社 1,500 ケース 30分

通関 輸出物流業者A社 1,500 ケース 30分

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【収穫・生産 : 生産者】 長芋は、年2期(秋堀:11月中上旬~12月中下旬、春堀:3月下旬~4月下旬)収

穫される。期間中、集出荷場が荷受している日であれば、ほぼ毎日収穫される。収穫後、

土が付着した状態(鮮度保持のため)でプラスチックコンテナもしくは鉄のコンテナに入

れる。その後、軽トラックに手積みして、集出荷場に搬入する。長芋の特徴として、成熟

したものであれば、土の中に植えたままでも数ヶ月の間、土の中で保存が可能であり、鮮

度保持期間は比較的長い。 【選果・梱包・検査・出荷 : 単協、JA全農青森】

生産者から持ち込まれた長芋は、土が付着したまま(鮮度保持のため)、5℃に設定した

冷蔵庫で貯蔵され、冷蔵庫への搬入受付は、8~18時の間となっている。商品特性上、

冷蔵庫で保存していれば長期の貯蔵が可能になるため、収穫から出荷までの期間が数ヶ月

に及ぶ場合もある(例:11月入庫→3月洗浄・出荷、4月末入庫→11月洗浄・出荷)。

アメリカ向けの洗浄・選別・梱包については、ベルトコンベアーで、国内向けとは別に

ライン化している。洗浄を施すと荷傷みが生じやすくなるため、洗浄作業は出荷直前に行

う。 新の洗浄機器を導入している一部の単協では水圧噴射による洗浄をしているが、大

半の単協では機械でブラシ洗浄をしている。洗浄後は、水切りを行い、毛根を除く作業を

施し、階級分け(機械による自動計量)を行う。輸出している階級は、重量が重い4L・

3Lの2規格である。

階級分け後は、等級分け(目視)を行うが、同時に手作業による梱包作業も行う。

梱包用の段ボールは、長芋の洗浄・選別ラインとは別のラインで機械によって組み立て

られる。梱包の流れは次のとおりである。段ボールの組み立て(機械) → 段ボールの内

側にビニールを敷く(手作業) → 緩衝材として、おがくずを敷き詰める(手作業) → 長

芋を詰める(手作業) → 長芋の上に、おがくずを敷き詰める(手作業) → テープで封

をする(機械)

トラックへの積載時間まで、時間がある場合は再び5℃に設定した冷蔵庫で保管する。

(トラックへの積込み方法) トラックの仕立てはJA全農青森が行う場合と、単協が行う場合がある。その理由は、

トラックの荷台が、単協1ヶ所では輸出用の荷が満杯にならないためである(1単協の3

L・4Lの出荷量は200~300ケース程度)。そのため、港までの長芋輸送には次の二

通りがある。

①国内用と輸出用の混載した輸送

国内の卸売市場に立ち寄り、国内用の荷を降ろした後、大井埠頭へ向かう。

②複数の単協を周回した輸送

各単協を周回して、輸出用の荷を集荷し終えた後、大井埠頭へ向かう。

なお、夏季には5℃に設定した冷蔵トラックで輸送するが、冬季は常温で輸送する。

トラックは基本的に10t 車を使用している。10tトラック1台で約800ケース(1

0kg/ケース)積載できる。

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トラックへの積載には燻蒸処理を施したパレットを使用する。パレットはファースト社

が手配している。トラックへの積込み前に運送業者がケースごとにシールを貼付し、フォ

ークリフトでトラック荷台に積載し、バラ積みすることなく港まで輸送する。

アメリカへの輸出開始当初は、コンテナへのバンニングはバラで行っていたが、アメリ

カ現地での植物検査過程(一度コンテナからすべての荷を出して、サンプル検査し、再び

コンテナへすべての荷を戻す)で荷傷み(折れ)が多く発生した。そこで、コンテナへの

バンニングは、パレットを用いて行うことで、荷傷みの発生率を軽減させた経緯がある。

【検査・船積み手配・バンニング・通関・船積み : ファースト社】 船積みや通関の手配は、日本からの船荷証券上の荷送人(輸出者)でもあるファースト

社が行っている。大まかな流れとしては、以下のとおりである。 ①単協(集出荷場)で、出荷準備が完了した後、ファースト社にて、船積み手配や通関

手配を行う。(実際の船積み準備及び通関業務は輸出物流業者であるA社が代行してい

る)

②輸送の経路として、直接、大井埠頭の植物検疫所に輸送される場合と、一旦、国内市

場にて国内出荷用を荷卸した後、大井埠頭の植物検疫所に輸送される場合がある。植

物検疫所では、線虫に関する検査を行う。(単協による自主検査は実施していない。た

だし、JA全農青森の職員が産地を巡回し、定期的に線虫の確認をしている。)100

ケースのうちの2%に対し、サンプリング検査が行われる。検査をクリアできなかっ

た場合、問題のあった単協のすべての荷を除いて、残りを輸出する。検疫をクリアで

きなかった単協の荷は、国内市場出荷となる。

③植物検疫が終了した荷は、同じトラックで輸出物流業者A社の倉庫へ搬入される。

④輸出物流業者 A 社へ搬入された荷は、数量確認やダメージ確認の後、バンニングされ

る。その後、輸出物流業者A社にて CY へ搬入され、輸出通関後に船会社にて船へのコ

ンテナ積み込みが行われ、船積みが完了となる。

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1-15

4.輸出までの物流関連コスト項目 前述の「3.輸出までの流れ」に関連して、各々の工程で発生していると思われる物流

関連コストを、コスト負担者と併せて、図表-8 に整理した。 (図表-8:アメリカ向け 想定コスト項目)

※)「N.A」とは、情報を入手できなかったことを示している。

「1.基本概要」の図表-1に示すとおり、JA全農青森・仲卸業者・ファースト社に

て決定された輸出(CIF)価格を基に、各単協、各生産者は、生産や物流を含めた全体

でのコストを試算している。しかし、輸出されるまでには、生産者、単協、輸出物流業者

と多くのステークホルダーと複数の物流経路が存在することから、各々の工程における作

業費用(人件費含む)は元より、各工程間の輸送によるトラック費用が発生しているのが

現状である。

業務主体 主な工程 主な物流関連コスト 金額(円/ケース)輸出のみに関わる費用

コスト負担者

収穫

出荷用プラスチック・鉄箱へ搭載 ×

出荷(単協へ搬入)

受入・作業費用(人件費)・選果用設備費用・保管費用 他

200~300 ×

選果 ・梱包資材費用(段ボール) 200 ×

梱包 ・梱包資材費用(ビニール) 1 ×

・梱包資材費用(おがくず) 100 ○

・パレット(燻蒸処理) ※パレットあたりのケース数は定まっていない。

150 ○ ファースト社

出荷(輸出業者倉庫へ搬入) ・トラック費用 N.A(※) × 単協

アメリカ向けシール ・梱包資材費用(シール) 1~2 ○ ファースト社

JA全農青森 配送手配(輸出業者倉庫へ搬入) ・トラック費用 300 ○ JA全農青森

受入

保管

植物防疫検査

バンニング

CYへ搬入

船積み準備

通関

単協

単協

生産者

ファースト社

生産者

・作業費用(人件費)・梱包資材費・トラック費用他

・バンニング費用・施設使用料・保管費用・通関費用・船積み費用他

輸出物流業者A社

N.A(※)

N.A(※)

保管

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5.現状における特筆すべき事項 現状において、特筆すべき事項を以下のとおり整理した。 (1)生産者から単協への長芋の輸送 各生産者は、各々自家用車またはトラックにて、管轄の単協(集荷場)へ搬入しており、

その都度、輸送費用が発生している。 各々の農家の立場からすれば、輸出用と国内販売用の区分けなく出荷している。それぞ

れが自分の も都合の良い時間帯に、30分もかからない距離に位置する各単協に持ち込

むことは、コスト的にも時間的に軽微なものであると考えられる。しかし、単協に持ち込

む生産者は複数あることから、「青森県産の長芋の輸出」という全体で考えた場合の物流コ

ストの総額は、大きなものであると考えられる。 (なお、本調査では、各生産先の所在地まで確認することができなかったため、コスト

ならびに時間的効果のシミュレーションは行えていない。)

(2)単協での選果・梱包作業 各主体者が負担する主なコストは以下のとおりである。

・選別費用(人件費、動力費など)は、約300円/ケース(10kg)である。

・梱包資材(段ボール、ビニール)は、JA全農青森から供給(段ボール:4色刷りで

約200円/ケース、ビニール:約1円/枚)されたものを使用している。

・おがくず(緩衝材)は、単協独自に調達している(50円/kg 1ケース/10kg 当

たり2kg 程度使用)。

ファースト社が輸出用に負担しなければならないコストとして、ケースごとに単協名な

どが記載されたシールを貼付する作業がある。これは輸出用の荷に不具合があった場合に、

トレースができるように準備しなければならないための作業である。シールの費用は1~

2円/枚である。また、燻蒸したパレットを使用する必要があり、そのパレットの費用は

1,900円/枚(パレット代金1,800円+燻蒸料金が約100円)である。

単協集出荷段階までの輸出用の荷のコストは、おがくずの量が増える程度で、他は国内

出荷の荷と同等である。したがって、単協段階での輸出用のみにかかる費用としては、燻

蒸パレットと輸出用のシールであり、必要 低限のコストに留まっているため、特に問題

とはならないと考えられる。

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(3)単協から輸出物流業者への輸送 (図表-9:単協から輸出物流業者への輸送(現状))

①第一の着目点は、一般的に効率的な輸送の手段として、「パレット一貫輸送」「ミルク

ラン」を活用することがある。この点について調査を行った結果、青森県産の長芋の国内

輸送に関しては、いずれも現在既に取り入れられていることが分かった。(JA全農青森が

仕立てた場合の単協から港までのトラック運賃は、約300円/ケース(10kg)である) パレットに関しては、一般に一貫輸送の妨げとなる要因として、一国一規格に定まって

いないことや国家間での規格の違いが挙げられる。同様に、青森県産の長芋の主要出荷先

であるアメリカは、パレットサイズ 40×40インチ(1219×1016mm)が採

用されており、日本の規格(1100×1100mm)と異なる。しかしながら、現状に

おいて、単協から長芋を積込む段階から、アメリカ用の規格パレットを用いてパレタイズ

しているとのことである。なお、長芋のアメリカ向け輸出は、燻蒸処理をパレットに施す

が必要があるが、燻蒸処理されたパレットをファースト社が用意することにより、必然的

にパレット一貫輸送が成立し、効率的な輸送が実現されている。

②第二の着目点として、各単協から大井の輸出物流業者までの距離が長いことから、余

計な時間とコストがかかっているのではないかという仮説を検証した。各単協から大井ま

での距離と所要時間を有料道路と一般道に分けて、表に整理した。

輸出物流業者倉庫(大井)

同一パレット利用により積み替え作業なし

<同一パレット輸送とミルクランの効果>・商品の積み替え作業による、商品ダメージの削減・作業効率向上によるコスト削減と作業時間短縮・パレット回収不要・出荷後のパレット管理不要・トラック台数の軽減

燻蒸パレット 燻蒸パレット燻蒸パレット燻蒸パレット

単協

単協

単協

単協

単協

単協

ミルクランによるトラック台数軽減

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(図表-10:単協から大井輸出物流業者倉庫までの走行距離と所要時間)

距離(km) 有料道路料金 所要時間 距離(km) 所要時間

JAとうほく天間 約 718.8km \22,960 9時間55分 約 695.4km 23時間12分

JA十和田市本所 約 711.7km \22,960 9時間40分 約 676.5km 22時間34分

八郷長芋センター 約 715.6km \22,960 9時間49分 約 679.6km 22時間41分

高清水長芋センター 約 706.6km \22,960 9時間31分 約 674.2km 22時間30分

四和長芋センター 約 701.3km \22,100 9時間35分 約 667.8km 22時間19分

JA八甲田 約 712.6km \22,960 9時間42分 約 688.7km 22時間58分

JAおいらせ 約 703.1km \22,960 9時間23分 約 689.9km 23時間01分

JA野辺地 約 773.0km \23,950 10時間38分 約 706.7km 23時間34分

JAももいし 約 697.7km \22,960 9時間12分 約 680.7km 22時間42分

JA八戸広域 約 680.1km \22,100 8時間49分 約 663.9km 22時間09分

JAしんせい五戸 約 692.2km \22,100 9時間14分 約 660.9km 22時間03分

単協名有料道路使用(大型車) 一般道路使用

注)所要時間は、あくまで連続して輸送した場合である。

平均すると概ね走行距離700km、所要時間10時間程度である。以前、八戸港から

の輸出を実施したことがあるとのことであった。結果として、輸送時間を短縮でき、さら

には輸送コストも削減できたが、八戸は船に関して定期便が少ないうえ、時化し け

の発生で欠

航する頻度が高かったため、輸入者の納期要望に答えられず、その後の使用を見送ったと

のことである。

定期便が少ないという問題を除けば、八戸港からの輸出はコスト低減につながるものと考

える。

③第三の着目点は、植物検疫についてである。現状では、大井埠頭の輸出物流業者へ搬

入される前に植物防疫所に立ち寄り、線虫に関する検査を実施する。ここで、サンプリン

グ検査をするためにすべての荷に対して、トラックからの積み降ろしと積込みが発生する。

パレタイズされているので、バラ積みよりも効率は良いが、その都度コストが発生してい

る。

(4)販売先の状況について

青森県で荷が出荷されてからアメリカに到着するまで2週間以上を要するため、通常、

長芋は出荷(洗浄)後、1ヶ月間日持ちするが、端境期に近い10月の出荷となると収穫

から長い時間が経過しているので、多少なりとも荷が傷んでおり、販売先(海外のバイヤ

ー)からのクレーム対象となる可能性が高い。今回の取材によれば、販売先からのクレー

ムは、年に2~3件あるとのことである。

また、海外にてフェアなどを開催した時の消費者の声に、「500~600円/本なら購

入しやすい」との意見があったとの報告を受けている。しかし、アメリカにおける現在の

小売価格は800円/本となっており、消費拡大(輸出拡大)のためには、物流コスト低

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1-19

減等による小売価格の引下げを検討する必要がある。

海上運賃については、原油高の影響を受け、 近は上昇しているとのことである。3ヶ

月に一度、海上運賃の見直しが行われているが、チャージの見直しのたびに300ドル/

コンテナずつ上昇している現状にある。

北海道との競合も課題の一つであり、北海道は青森よりもA級品率が高く、長芋自体も

白色で台湾側の引き合いが強い。今回の調査では、台湾向けの詳細については取材できて

いないが、平成13年頃までは、青森県産が台湾向けの長芋を100%扱っていた。その

後、北海道産の攻勢により、アメリカに新たな販路を見出したとのことである。

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6.課題に対する改善の方向性 以上の現状分析を踏まえ、輸出に当たっての物流効率化やコスト低減の観点から、課題

とその改善の方向性を以下のとおり整理した。 単協から輸出物流業者への輸送(5.(3)の改善の方向性) ①第1の着眼点として、青森県近郊の港へ輸送する手段を考察する。

現在の出発港である東京港まで、輸送距離が約700kmあり、輸送所要時間が約1

0時間以上であることから、長芋生産地より比較的近い距離にあること、北米西海岸主

要港向けの定期便の運行があること、という条件を満たしている、青森県内の八戸港、

宮城県の仙台港を出発港としたシミュレーションを以下に整理した。

(図表-11:青森県産地から主要港位置関係図)

青森県産地

東京港青森からの距離は700km強

100km

200km

300km

400km

仙台港350km圏内

八戸港10~65km

圏内

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(図表-12:日本主要港における北米向け海上コンテナスケジュール表)

(図表-13:青森県産地(単協)から日本主要港までのトラック輸送コスト比較表)

上記の図表から考察すると、現状の東京港を利用することは、国内における輸送コスト

が割高である。このことから、国際輸送に対応している港として、 適地を選択できる可

能性があると考える。このシミュレーションによれば、青森県から近郊で重要港湾である

仙台港や八戸港は、対応可能である。 仙台港は、ロサンゼルス向けが週に 1 便設定されており、東京港と国内輸送距離を比べ

ても半分の距離で持ち込むことができる。 八戸港は、北米の西海岸主要港のうち、シアトルに月 1 便設定がある。国内輸送では一

番の低コストで輸送できるが、ロサンゼルス向けの設定がない。また、船便数の少なさと

所要日数が現状の 3 倍かかる(釜山港、大阪港、名古屋港、清水港、東京港にそれぞれ寄

港するため)。 以上から、「仙台港」が 適な港であると考えられる。現状の東京港と比較すると国内輸

送距離・所要時間が半分になり、輸送費用は38%削減される。

日本発主要港名 北米西海岸主要港 所要日数(日) 便数(便/週) 出発曜日

ロサンゼルス 9 2 水・木

ロングビーチ 9 2 水・木

シアトル - - -

オークランド 11 4 水・木・土

ロサンゼルス 8 1 日

ロングビーチ - - -

シアトル - - -

オークランド 12 1 日

ロサンゼルス - - -

ロングビーチ - - -

シアトル 27 1(月) 水

オークランド - - -注)1.2008年3月発行「週間SHIPPING GAZETTE」より

   2.所要日数および出発曜日は、基本設定で天候などにより変更あり。

東京(現状)

仙台

八戸

主要港名 産地からの距離(km) 所要時間(時間) 輸送費用(円/ケース)

東京(現状) 700 10 200

仙台 350 5 125

八戸 65 1.5 55注)1.産地から主要港までの距離は、青森県内のおおよそ中心点になる単協を起点としており、単協の自家物流費を除く、

     運送業者への支払い物流費を記載している。

   2.東京港への輸送費用は、ヒアリングの情報を基に試算しており、仙台港・八戸港は、独自に入手した見積にて試算している

     (仙台港:187,500円÷1,500ケース  八戸港:82,500円÷1,500ケース)。

   3.輸送費用は、一度の輸送を1,500ケース(40ftコンテナ分相当量)を基にケース単位で試算している。

   4.所要時間は、平均時速60kmで休憩無しの時間としている。

約38%の削減

約73%の削減

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参考までに仙台塩釜港(高砂埠頭)の概要を下記に紹介する。

(図表-14:仙台塩釜港の高砂埠頭 平面図と港風景)

係留施設埠頭名 名称 水深(m) 延長(m) 標準対象船型

1号岸壁 -12 270 30,000 DWT2号岸壁 -14 330 50,000 DWT

荷捌き地・野積場種別 名称 面積(m2)

荷捌き地 高砂埠頭1号背後荷捌き地 6,580野積場 高砂埠頭野積場 215,953

シャーシプール 高砂埠頭背後シャーシプール 15,298

上屋所在区域 名称 棟数 面積(m2)

CFS 1 2,060メンテナンスショップ 1 357燻蒸倉庫 1 446管理棟 1 673.36

荷役機械名 称 設置場所

ガントリークレーン1号機 高砂埠頭1号~2号ガントリークレーン2号機 高砂埠頭1号~2号ガントリークレーン3号機 高砂埠頭1号~2号

クレーンアウトリーチ 37.5m 30.5tクレーンアウトリーチ 45.5m 50t

高砂埠頭

高砂埠頭

能 力クレーンアウトリーチ 37.0m 30.5t

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CIQ体制(※):(税関)横浜税関塩釜税関支署、(出入国管理)仙台入国管理局

(植物検疫)横浜植物検疫所塩釜支所

(動物検疫)動物検疫所仙台空港出張所、(食品検査)仙台検疫所

※)CIQ体制とは、出入国の際に必要な、貨物・手荷物の税関検査(Customs)、旅客の出入国検査(Immigration)、

農産物などの検疫検査(Quarantine)を行う検査体制のことをいう。

(図表-15:仙台塩釜港における物量の推移)

②第2の着眼点として、単協にてバンニングした場合について考察する。

各単協が近距離に集中していることから、単協から輸出物流業者までのコンテナ輸送と

トラック輸送の比較について、前述の①において提示した仙台港からの輸出の観点から、

以下のとおり整理した。

先ず、海上貨物の流れとして、保税地域に搬入してから輸出申告を行い、バンニングす

ることが基本であるものの、コンテナ単位で貨物を輸出する場合は、生産者または輸出者

の工場倉庫でのバンニングも可能である。この場合は、保税地域以外でバンニングされた

コンテナを港の保税地域に搬入し、通関、船積みすることとなる。すなわち、保税地域搬

入⇒通関⇒バンニング⇒船積みという基本的手順から、バンニング⇒保税地域搬入⇒通関

⇒船積みという手順への変更であり、「工場バンニング」と呼ばれる。工場(自分の貨物

がある場所という意味であり、本件の場合は単協を指す)でバンニングすることによって、

・商品の積み替え回数を減らし、鮮度や品質を保持できる

・自分でバンニング作業するために、業者に払うバンニング作業料を節約できる

という長所がある。

ただし、工場(単協)バンニングするためには、税関長に対して、『コンテナ扱い申出

書』を提出し、受理される必要がある。

受理されるためには、

・バンニングされる商品に検査の必要性が少なく、かつ検査を実施する場合に支障がない

こと

・輸出者および通関業者が通関手続上、十分な知識と信用を有すると認められること

・複数の輸出者の貨物が同一コンテナにバンニングされていないこと

輸出 輸入 計 移出 移入 計

TEU 81,346 30,407 29,029 59,436 11,554 10,356 21,910

貨物量 1,585,552 537,178 576,250 1,113,428 245,209 226,915 472,124

TEU 93,578 36,848 34,240 71,088 13,385 9,105 22,490

貨物量 1,708,425 644,589 637,814 1,282,403 247,654 178,368 426,022

TEU 105,380 38,408 35,008 73,416 18,690 13,274 31,964

貨物量 2,001,727 695,420 705,872 1,401,292 332,906 267,529 600,435

TEU 118,237 37,683 37,019 74,702 27,684 15,851 43,535

貨物量 2,508,999 752,627 849,936 1,602,563 553,994 352,442 906,436注)1.TEU(twenty-foot equivalent unit)とは、コンテナの個数を20フィート・コンテナに換算した場合の単位。

     1TEUは20フィート・コンテナ1個分を示す。例えば、40フィート・コンテナ1個は2TEUに換算される。

   2.実入りコンテナのみの集計であり、空コンテナは含まれていない。

   3.内国貿易とは航航フィーダー航路により京浜港経由で輸出入されたもの。

平成15年

平成16年

平成17年

平成18年

内国貿易年次 区分 合計

外国貿易

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1-24

・バンニングの際、税関長が認めた公認検定機関により、品名、数量などの確認および封

印が施されていること

が条件である。

なお、恒常的に同一商品を輸出する場合には、1年間を限度に包括申請が可能である。

また、以上の輸出手続は、フォワーダー(国際貨物輸送業者)に一括して委託することが

可能である。

(図表-16:トラック輸送(現状)とコンテナ輸送(改善後)のコストシミュレーション)

上記の図表から、現行の東京港への輸送をコンテナ輸送に切り替えた場合でも、約27%

のコスト削減の可能性が見込まれる。また、仙台港でのコンテナ輸送になると約80%の

コスト削減の可能性が見込まれる。単協でのバンニングについては、税関長の許可が必要

であり、許可を受ける際の条件として、前述のように「バンニングされる商品に検査の必

要性が少なく、かつ検査を実施する場合に支障がないこと」という点があることから、次

に述べる「バンニング前の検査」の検討が同時に必要となる。

現状は、輸出物流業者の倉庫に搬入される前に、植物防疫所へ立ち寄り、線虫検査のた

め、サンプリングの荷降ろしと積込み作業が発生する。バンニングする前に植物防疫検査

を実施し、検査終了分をバンニングすれば、植物防疫所の立ち寄りが無くなり、単協ない

しは、拠点となる施設(以下「単協等」という。)で工場(単協)バンニングを行い、そこ

からダイレクトにCYに搬入し、通関することが可能となるため、輸出船積みまで効率的

な流れになると思われる。植物防疫官の検査に関しては、出張検査という方法があること

から、近隣の植物防疫所(たとえば、横浜植物防疫所塩釜支所八戸出張所)に相談すると

良いと思われる。

結果的には、単協等での検査・コンテナバンニング、単協等からCYまでのコンテナ輸

運送業者に支払われる費用

単協から輸出物流業者までの輸送

バンニング費用バンニング以外の輸出倉庫内

費用

輸出物流業者倉庫から港までの転送費用(コンテナでの転

送)

東京 \320,000 \80,000 \20,000 \30,000 \450,000

仙台 \200,000 \80,000 \20,000 \30,000 \330,000

東京 \340,000 \0 \0 \0 \340,000

仙台 \86,250 \0 \0 \0 \86,250

注) 1.前述のシミュレーションで、仙台港を 適な港としてコンテナ輸送について試算することとした。

   2.青森県産地(単協)から東京港・仙台港までをトラック・コンテナともに同じ経路で輸送したと想定する。

   3.青森県産地(単協)からの輸送距離は、東京港まで700km、仙台港まで65kmとした。

   4.単協における自家物流費は除外しており、運送業者及び輸出物流業者に対する支払い物流費のみを算出している。

  5.1運行の物量は1,500ケースを想定している(大型トラック2台分、コンテナ40ft 1本分)。

  6.輸出物流業者へ支払われる費用は、独自の調査で入手した見積の料金を基に算出している。

合計

現行トラック輸送

(2台分)

改善後コンテナ輸送

(1台分)

輸送先港

輸出物流業者へ支払われる費用

現状より約80%の削減

現状より約27%の削減

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1-25

送、青森県近隣港(仙台港)での輸出が、支払い物流コストの 適な低減方法であると考

える。今後、この案を基に、青森県産長芋の輸出における関係者との調整を行い、先ずは

テスト形式で実行することを期待する。

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7.まとめ 青森県産の長芋の輸出においては、いくつかの課題はあるが、海外での日本食ブームを

背景とした輸出の拡大が見込まれているため、消費国側の要求に応じた、継続的に安定し

た商品の供給が重要なポイントである。農産物の取引自体は、海外(輸出)も国内も基本

的に同じであり、生産体制と出荷体制が一体となったシステムをどう作り上げていくか、

生産者と輸出物流業者が円滑に連携できるシステムづくりが重要であると考える。 数年前から台湾の貿易業者が、日本の農業団体に殺到するなど、需要の拡大が見込まれ

る一方、台湾市場もすでに飽和状態に近づいており、米国市場にも大きな伸びは期待でき

ないという声もある。しかしながら、物流コストの低減を図り、現地での小売価格を下げ

ることができれば、新たな需要を喚起し、輸出の増大につながっていく可能性があると推

察される(5.(4)の「消費者の声」を参照)。このような動きを促進するための一助と

して、今回の報告書が活用されることを期待する。

以上