第3章 調査研究 - 鹿児島県...-61-平成25年度 調査研究 1...

40
第3章 調

Upload: others

Post on 13-Jan-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

第3章 調 査 研 究

- 61 -

平成25年度 調査研究

1 成鶏における Campylobacter jejuni/coli の保菌調査及び検出法の検討

…………………………

知覧食肉衛生検査所 川﨑 寛之

2 ブロイラーのカンピロバクター保菌調査及び食鳥処理場の汚染状況(第1報)

…………………………

阿久根食肉衛生検査所 安田 研

3 ブロイラーにおけるカンピロバクターの保菌及び製品汚染調査

…………………………

鹿屋食肉衛生検査所 下地 なつ希

4 牛の体表における腸管出血性大腸菌ベロ毒素遺伝子保有調査

…………………………

大口食肉衛生検査所 山田 耕一

5 Propidium monoazide(PMA)を用いた豚丹毒早期診断法の検討

…………………………

志布志食肉衛生検査所 児玉 央樹

6 Streptococcus.suis における ST1complex の分布状況調査及び簡易識別法の検討

…………………………

鹿屋食肉衛生検査所 砂川 達見

7 と畜場で認められた牛の悪性水腫の検査と対応(事例報告)

…………………………

末吉食肉衛生検査所 德實 千恵

8 病畜と室における牛のと畜検査概要 …………………………

知覧食肉衛生検査所 森山 良人

9 と畜検査における腸病変(牛・豚)の病理アトラス作成 …………………………

串木野食肉衛生検査所 猪俣 有美

10 対米等牛肉輸出認定施設におけると畜解体工程の衛生管理に係る検証

…………………………

阿久根食肉衛生検査所 岡田 梢

11 対シンガポール輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定までの経緯と対応

…………………………

鹿屋食肉衛生検査所 栗脇 耕二

- 62 -

成鶏におけるCampylobacter jejuni/coliの保菌調査及び検出法の検討○川﨑寛之 森山良人 宇都浩二 増満弘史

知覧食肉衛生検査所

は じ め に

鶏刺しは,鹿児島において古くから食されている郷土料理であるが,厚生労働省の食中毒統計によると,カンピロ

バクター食中毒の原因食品として度々報告されている。そのため,鶏のカンピロバクター保菌調査が多く報告されて

いるが,そのほとんどがブロイラーを対象にしたものである。鶏刺しの材料となる鶏は,その肉質からブロイラーより

成鶏を用いることが多いが,成鶏を対象にした調査は少なく,さらに成鶏を対象にしたものであっても,飼養形態が

異なる種鶏と採卵鶏で比較したものはほとんど報告されていない。そこで,種鶏及び採卵鶏におけるカンピロバクタ

ー保菌状況を調査するため,盲腸便中のCampylobacter jejuni/coli(以下,「C.jejuni/coli」)の検出を行った。

また,C.jejuni/coliの検出は,多くの検査工程が必要であり,臨床検体からの培養はコロニーが遊走する傾向が

あるため,分離が困難になることがある。そこで,検出工程の短縮及び手技の簡易化を目的として,増菌培地から

直接DNA抽出を行う方法を検討した。

材 料 及 び 方 法

保 菌 調 査

平成24年5月から平成25年5月まで,当所管内の食

鳥処理場で処理された,種鶏14農場95羽,採卵鶏9農

場60羽,計23農場155羽の盲腸便を検体とした(図1)。

検体をプレストンカンピロバクター選択増菌培地で増菌

培養後,カンピロバクター血液無添加選択寒天培地で

分離培養を行い,培地上に発育したC.jejuni/coliを疑う

コロニーについて,InstaGene Matrix(BIORAD)を用い

てDNAを抽出し,PCR法によりC.jejuni/coliの遺伝子検

出を行った(図2)。

検 出 法 の 検 討

以上の方法を「従来法」とし,従来法の分離培養工

程を省略し,増菌培養後の培地1mlから直接DNA抽出

する方法(以下,「迅速法」)について,40検体を対象と

して従来法との比較検討を行った(図3)。

図 1 材 料

図 2 方 法 ( 保 菌 調 査 )

- 63 -

図 3 方 法 ( 検 出 法 の 検 討 )

結 果

保 菌 調 査

種鶏95検体中34検体(35.8%),採卵鶏60検体中33検

体(55.0%),計155検体中67検体(43.2%)でC.jejuni/coliが

検出された(図4)。農場別では,種鶏14農場中12農場,

採卵鶏9農場中8農場,計23農場中20農場がC.jejuni/

coli陽性農場となった(図5)。

検 出 法 の 検 討

はじめに前試験として,凍結保存していたC.jejuni/c-

oli各5株を検体として,迅速法で全て検出可能であるこ

とを確認した。従来法との比較検討では,40検体中,従

来法で21検体,迅速法で14検体から検出された(図6)。

従来法で陰性となった検体が,迅速法で陽性となること

はなかった。

図 4 結 果 ( 検 体 別 )

図 5 結 果 ( 農 場 別 )

図 6 結 果 ( 検 出 法 の 検 討 )

考 察

保 菌 調 査

一般的に,種鶏は平飼い,採卵鶏はバタリーケージ

による飼育でさらに強制換羽を行うことがあるため,種

鶏は採卵鶏に比べるとストレスが少ない環境で飼育さ

れることが多い。また,出荷日齢も種鶏は約450日,採

卵鶏は強制換羽の有無にもよるが約550日から750日

であるため,C.jejuni/coliの保菌率に差がみられると思

われた。しかし,今回の結果では,全体で種鶏35.8%,

採卵鶏55.0%と若干の差がみられたものの,種鶏につ

いても保菌率は高く,陽性農場も多くみられた。このこ

とは,処理工程における衛生的な取り扱いなど,施設

へ衛生指導を行う際の基礎資料として活用し,また今

回調査を行った処理場は,鹿児島県だけでなく,様々

な地域の鶏を処理しているため,今後は地域や農場に

- 64 -

よる差を調査することができると思われる。

検 出 法 の 検 討

迅速法による検出は,従来法より検出率が低い結果

となった。しかし,前試験でC.jejuni/coliのみ増菌させた

場合は,検出することができた。このことは,盲腸便に

含まれる夾雑物がPCR反応を阻害したなどの要因が考

えられる。今回の結果を基に,夾雑物を除くDNA抽出

法や,検出可能な菌数を検討し,迅速法が実際に利用

できるようになれば,今後の調査効率も上がると思わ

れる。

参 考 文 献

大池裕治(2012)「食鳥処理場への搬入鶏におけるカン

ピロバクター保有状況調査」『鶏病研報』, 48, 1, 8-12.

厚生労働省(2013)「食中毒統計資料」, 食中毒事件一

覧速報(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.ht

ml)(2014年1月現在)

塩田豊(2005)「カンピロバクターふきとり検査と迅速診

断に関する一考察」『京都市衛生公害研究所年報』, 7

1, 125-126.

三澤尚明(2012)「食鳥処理場におけるカンピロバクター

制御法の現状と課題」『日獣会誌』, 65, 617-623.

- 65 -

ブロイラーのカンピロバクター保菌調査及び食鳥処理場の汚染状況

(第1報)○安田 研 加藤良久 矢野貴久1) 山田耕一2) 湯田龍幸

阿久根食肉衛生検査所 1)鹿児島中央家畜保健衛生所 2)大口食肉衛生検査所

は じ め に

国内で発生する食中毒事件のうち,カンピロバクター食中毒はこの10年で常に上位を占めており,そのうち患者2

人以上の事例で原因食品が判明したものは,その多くが鶏肉に関連し,生食もしくは加熱不十分なものが原因とな

っている。

現在,管内処理場の系列農場では無薬鶏(ワクチン以外薬を使用していない鶏)が飼育されているが,無薬鶏に

おけるカンピロバクターの動向についての報告は見当たらない。

そこで,無薬鶏農場におけるカンピロバクターの動向と食鳥処理場における汚染状況について基礎調査を行った

ので,その概要を報告する。

材料及び方法

平成24年11月以降に初生雛が導入された無薬鶏飼

育農場3農場(A~C)の特定鶏舎において,0日齢,20日

齢,40日齢にクロアカスワブ(以下,スワブ)を,同鶏舎

出荷時に処理場にてスワブ,湯漬水(①42℃,②59

℃),チラー前と体(以下,と体),カット室のまな板,包

丁,製品及び消毒後の生鳥カゴを拭き取り,カンピロバ

クターの検査を行った。

また,C農場出荷時には,C農場の他の鶏舎と同日

搬入のD農場の各鶏舎のスワブ及び上記の材料の継

時的な採材を行った。

農場採材の材料は,3~4羽/1検体とし,出荷時のス

ワブは,A,B農場は2羽/1検体,C,D農場は3~4羽/1

検体とした。

細菌検査は,それぞれの検体をプレストン選択増菌

培地に加え,42℃,24時間微好気条件下で増菌培養

後,1白金耳をカンピロバクター血液無添加選択寒天培

地(以下,CCDA培地)に塗抹し,42℃,48時間微好気培

養を行った。CCDA培地に発育したコロニーから,Insta

Gene Matrix(BIO-RAD)を用いてDNAの抽出・精製を行

い,Campylobacter jejuni(以下,C.jejuni)はWinterら,C

ampylobacter coliはLintonらにより報告されたプライマ

ーを用い,PCR法により同定を行った。

C.jejuniと同定された菌株については,鞭毛遺伝子fla

Aの全領域をプライマーFL-1,FL-2を用いて増幅後,

制限酵素DdeⅠで消化し,電気泳動後,肉眼的に分類

した。

成 績

A,B農場では,40日齢までのスワブからは,検出さ

れなかったが,出荷時の採材では,A農場でスワブ

(2/5),B農場で湯漬水①でC.jejuniが検出された。

C農場では,40日齢のスワブ(3/3)でC.jejuniが検出さ

れ,出荷時の採材では,スワブ(3/3),湯漬水①,と体(3

/3),カット室のまな板(3/3),手袋(3/3)及び製品(1/3)

で,C.jejuniが検出された。

表1:カンピロバクター陽転時期調査結果

3羽1検体として検査実施

カンピロバクター陽転時期調査結果

農場0日齢

(導入月日)20日齢 40日齢 出荷時

A0/3

(H24.11.5)0/3 0/3

2/5

(49日齢)

B0/3

(H25.1.11)0/3 0/3*

0/5

(50日齢)

C0/3

(H25.1.16)0/3 3/3

3/3

(50日齢)

*45日齢

- 66 -

生鳥カゴからは,カンピロバクターは検出されなかっ

た。

表2:食鳥処理場汚染状況調査結果

C農場出荷時の継時的調査では,当日搬入された

C,D農場計6鶏舎のスワブ全てで,C.jejuniが検出され

た。と体は昼休み後,一度陰性になったが,その後また

陽性となった。カット室は,汚染の程度に差はあるが,

どの時間帯でも何かしらの材料から常に検出された。

表3:継時的汚染状況調査

鞭毛遺伝子のRFLPの結果,農場毎に切断パターン

は異なっていた。午前中に分離されたC.jejuniはC農場

と同じパターンを,午後に分離されたものは,C農場,D

農場の混合パターンを示した。

農場湯漬水①

湯漬水②

と体まな板

包丁 手袋 製品輸送カゴ

A 0/1 0/1 0/5 0/5 0/5 0/5 0/5 0/5

B 1/1 0/1 0/5 0/5 0/5 0/5 0/5 0/5

C 1/1 0/1 3/3 3/3 0/3 3/3 1/3 0/6

食鳥処理場汚染状況調査結果

A農場:H24.12.24,B農場:H25.3.2,C農場:H25.3.7に採材

湯漬水,と体は午前8時,まな板~製品は午前8時45分に採材

時間 湯漬水① 湯漬水② と体 時間 まな板 包丁 手袋 製品

7:00 0/1 0/1

8:00 1/1 0/1 3/3 8:45 3/3 0/3 3/3 1/3

9:00 1/1 0/1 3/3 9:45 2/3 1/3 3/3 2/3

10:00 1/1 0/1 3/3 10:45 2/3 1/3 3/3 3/3

11:00 1/1 0/1 3/3 11:45 3/3 2/3 3/3 3/3

昼食時間 11:10~12:00 昼食時間 12:15~13:05

12:00 1/1 0/1 0/3 13:10 2/3 0/3 2/3 3/3

13:00 1/1 0/1 0/3 13:45 2/3 0/3 0/3 1/3

14:00 1/1 0/1 3/3 14:45 2/3 1/3 1/3 3/3

継時的汚染状況調査結果

図1:RFLP泳動結果

考 察

今回の調査で,無薬鶏も30~40日齢の間に急速に

広がるというブロイラーの報告と同様に40日齢前後で

カンピロバクターの感染が認められたが,40日齢まで

陰性だった鶏群も認められた。

40日齢で陽性だった鶏群は,出荷時も高濃度に汚染

されており,処理場内の解体工程も高度に汚染してい

たが,40日齢まで陰性だった鶏群は,出荷時にカンピ

ロバクターのリスクが少ない鶏群と推察され,食鳥処理

場の汚染リスクも低いと考えられた。

カット室では,30分に1回,まな板等の消毒を実施し

ているが,時間が短く十分な消毒が行われておらず,

また製品を搬送するベルトコンベアは水洗のみで消毒

を行っていないため,汚染されたベルトコンベアから製

品,そして手袋,まな板,包丁へと汚染が循環している

のではないかと推察された。

消毒後の生鳥カゴからは,今回カンピロバクターは

検出されず,80℃での消毒の有効性が確認された。

農場での40日齢を区切りとしたカンピロバクターの保

菌状況は,カンピロバクターリスク管理の一つの目安に

なると推察される。また,農場間で汚染状況に差が見ら

れることから,汚染度の低い農場の生産管理をモデル

とした環境づくりが可能であれば,カンピロバクターリス

ク低減につながると思われる。

100bp

M

C農場

D農場

C農場

40日齢

b・

_・・

c・

_・・

・・・

ミ・・・

@

ニ・

ワ・

ネ・

・・・

・・・

サ・

i

ワ・

ネ・

・・・

・・・

サ・

i

AM PM

100bp

M

100bp

M1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

PCR-RFLP結果

- 67 -

参 考 文 献

1) 食品安全委員会:微生物・ウイルス評価書

(2009)

2) Winters DK.,et al:Mol Cell Probes,9,307-310.

(1995)

3) Linton.D.,et al:J.Clin.Microbiol.,35,2568-2572

(1997)

4) CHUMA T.,et al:J.Vet.Med.Sci.,59,1011-1015

(1997)

5) 阿達美紀ら:平成 18 年度鹿児島県食肉衛生検

査所業務概要,105-106(2007)

- 68 -

ブロイラーにおけるカンピロバクターの保菌及び製品汚染調査

○下地なつ希 川﨑寛之 脇田陽平 安田研 倉岡良市 中田旭彦 川添耕太郎 吉満文隆

(平成 24 年度微生物部会)

鹿屋食肉衛生検査所

は じ め に

国内で発生する食中毒事件のうち,カンピロバクター食中毒は常に上位を占めており,その90%以上が

Campylobacter jejuni(以下 C. jejuni),残り数%が Campylobacter coli(以下 C. coli)によるものである。患者2名

以上の事例で原因食品が判明したものは,焼き肉(焼き鳥),鶏刺し,鶏たたき及び鶏レバー刺しなどその

多くが鶏肉に関連しており,生食もしくは加熱不十分なものが原因となっている。そこで平成24年度微生

物部会では,食鳥肉の安全性確保の基礎調査として,大規模食鳥処理場へ搬入されたブロイラーのカンピロ

バクターの保菌(以下保菌調査)及び処理された製品の汚染状況調査(以下製品調査)を実施したので,そ

の概要を報告する。

材 料 と 方 法

平成24年5月から10月までの間に,県内9箇所の大

規模食鳥処理場に搬入されたブロイラーの盲腸便,

1戸につき5検体を目安に416羽(83戸)を採取し,

その約1gを保菌調査の検体とした。製品調査は盲腸

便採材同日にとさつ・解体された包装前のもも肉計

243検体を試験に用いた。もも肉の皮側表面全体を

ふきふきチェック(栄研化学)又はPro-media ST-2

5(ELMEX)で拭き取った後,希釈液(リン酸緩衝生

理食塩水)10mlと混合し,うち1mlを検体とした。

細菌検査はそれぞれの検体を9mlのプレストンカン

ピロバクター選択増菌培地に加え,42℃24時間微好

気条件下で増菌培養後,その培養液1白金耳をカン

ピロバクタ血液無添加選択寒天培地(以下CCDA培地)

に塗沫し,42℃48時間,微好気条件下で分離培養を

行った。遺伝学的検査は,CCDA培地に発育したコロ

ニーから,InstaGene Matrix(BIO-RAD)を用いてD

NAの抽出・精製を行い,C.jejuni にはWinters(1)ら,

C.coli にはLinton(2)らにより報告されたプライマ

ーを用いてPCR法により同定を行った(図1)。検体

は電気泳動像で C.jejuni は159bp,C.coli は500bpのD

NA断片を確認したものをカンピロバクター陽性と判

定した。

図1 遺伝学的検査法

結 果

保菌調査において,盲腸便の検出実数は193検体

(46.4%)で,その内訳は C.jejuni が134検体(32.2

%),C.coli が63検体(15.1%)であり,223検体(53.

6%)では検出されなかった。農場別にみると,検

出実数は61戸(73.5%)で,内訳は C.jejuni は51戸

(61.4%),C.coli は24戸(28.9%)であり,22戸(2

6.5%)は検出されなかった。製品調査では,検出

実数104検体(42.8%)で,内訳は C.jejuni が91検体

遺伝学的検査

・ DNAの抽出・精製

InstaGene Matrix(BIO-RAD)

・ Primer

Campylobacter jejuni (以下C. jejuni ) :159bp 1*)C-1F : CAA ATA AAG TTA GAG GTA GAA TGT

C-4R : GGA TAA GCA CTA GCT AGC TGA T

Campylobacter coli (以下C. coli ) :500bp 2*)CC18F : GGT ATG ATT TCT ACA AAG CGA G

CC519R: ATA AAA GAC TAT CGT CGC GTG

・ 増幅条件

熱変性(94℃・1min),アニーリング(56℃・1min)

伸長(72℃・1min)30サイクル

1*)Winters DK, Slavik MF. :Molecular and Cellular Probes., Oct;9(5),307-10 (1995)

2*)Linton.D.et al.:Journal of Clinical Microbiology, Oct;35(10),2568-72 (1997)

- 69 -

(37.4%),C.coli が15検体(6.2%)であり,139検

体(57.2%)は検出されなかった。

処理場毎で比較すると,盲腸便の検出率は13.3

~82.9%の範囲で,その内訳は C.jejuni が3.3~51.4

%,C.coli が0~37.1%であった(表1)。

表1 処理場毎の検出率(盲腸便)

農場では検出率は33.3~100%の範囲で,その内訳

は C.jejuni が16.7~100%,C.coli が0~64.3%であっ

た(表2)。

表2 処理場毎の検出率(農場別)

製品調査の検出率は0~100%の範囲で,その内訳は

C.jejuni が0~62.9%,C.coli が0~40%であった(表

3)。

3. 処理場毎の比較 盲腸便

処理場 検体数 C. jejuni C. coli 合計 検出なし

A 61 21(34.4) 6(9.8) 27(44.3) 34(55.7)

B 65 20(30.8) 0(0) 20(30.8) 45(69.2)

C 30 3(10.0) 4(13.3) 7(23.3) 23(76.7)

D 60 29(48.3) 16(26.7) 45(75.0) 15(25.0)

E 20 3(15.0) 1(5.0) 4(20.0) 16(80.0)

F 30 1(3.3) 3(10.0) 4(13.3) 26(86.7)

G 70 16(22.9) 6(8.6) 22(31.4) 48(68.6)

H 70 36(51.4) 26(37.1) 58(82.9) 12(17.1)

I 10 5(50.0) 1(10.0) 6(60.0) 4(40.0)

(%)

3. 処理場毎の比較 農場

処理場 農場数 C. jejuni C. coli 合計 検出なし

A 12 11(91.7) 2(16.7) 11(91.7) 1(8.3)

B 13 6(46.2) 0(0) 6(46.2) 7(53.8)

C 6 2(33.3) 1(16.7) 3(50.0) 3(50.0)

D 12 8(66.7) 6(50.0) 10(83.3) 2(16.7)

E 4 2(50.0) 1(25.0) 2(50.0) 2(50.0)

F 6 1(16.7) 2(33.3) 2(33.3) 4(66.7)

G 14 9(64.3) 2(14.3) 11(78.6) 3(21.4)

H 14 10(71.4) 9(64.3) 14(100) 0(0)

I 2 2(100) 1(50.0) 2(100) 0(0)

(%)

表3 処理場毎の検出率(製品)

処理場毎の検出率を比較すると,処理場Cは,保菌

調査で検出されたが,製品調査では全く検出され

なかった。また,処理場A,D,H,Iの様に,盲腸

便での検出率が半数近く,またはそれ以上であっ

た処理場では,製品からも比較的多く検出されて

いた(表4)。

表4 処理場毎の検出率の比較

考 察

今回の調査では,盲腸便の46.4%で検出され,処

理場に搬入される鶏の半数近くが保菌している事

が分かった。農場に関しては73.5%で検出され,高

い割合で汚染されている事が推察された。

処理場毎の比較では,保菌及び製品調査の検出

率には大きく幅があった。その中には,保菌調査

3. 処理場毎の比較 製品

処理場 検体数 C. jejuni C. coli 合計 検出なし

A 38 17(44.7) 2(5.3) 19(50.0) 19(50.0)

B 30 9(30.0) 1(3.3) 9(30.0) 21(70.0)

C 25 0(0) 0(0) 0(0) 25(100)

D 35 22(62.9) 3(8.6) 24(68.6) 11(31.4)

E 5 2(40.0) 0(0) 2(40.0) 3(60.0)

F 25 8(32.0) 0(0) 8(32.0) 17(68.0)

G 40 15(37.5) 0(0) 15(37.5) 25(62.5)

H 40 15(37.5) 7(17.5) 22(55.0) 18(45.0)

I 5 3(60.0) 2(40.0) 5(100) 0(0)

(%)

3. 処理場毎の比較

処理場 盲腸便 農場 製品

A 27/61(44.3) 11/12(91.7) 19/38(50.0)

B 20/65(30.8) 6/13(46.2) 9/30(30.0)

C 7/30(23.3) 3/6(50.0) 0/25(0)

D 45/60(75.0) 10/12(83.3) 24/35(68.6)

E 4/20(20.0) 2/4(50.0) 2/5(40.0)

F 4/30(13.3) 2/6(33.3) 8/25(32.0)

G 22/70(31.4) 11/14(78.6) 15/40(37.5)

H 58/70(82.9) 14/14(100) 22/40(55.0)

I 6/10(60.0) 2/2(100) 5/5(100)

- 70 -

で検出されるが,製品調査では検出されない処理

場があり,この処理場に関して,処理工程の詳細

な調査を行うことは,製品汚染低減につながると

考えられた。

また,盲腸便からの検出率が高い処理場では,製

品調査での検出率も高い傾向にあり,鶏のカンピ

ロバクター感染防止も重要であると考えられた。

食品安全委員会の調査では,食鳥処理場での汚

染・非汚染鶏群の区分処理,冷却水の塩素濃度管

理の徹底及び農場汚染率の低減により,カンピロ

バクターを原因とする食中毒の年間患者数が大幅

に減少すると報告されている(3,4)。しかし,今

回の調査では,保菌及び製品両調査ともに検体数

が少なく,陰性農場や製品汚染の原因を特定する

には至らなかった。今後は,検体数を増やしなが

ら調査を継続し,区分処理に向けてデータを蓄積

していくとともに,家畜保健衛生所との連携を図

ることで,鶏肉のカンピロバクター汚染低減に努

めていきたい。

参 考 文 献

(1)Winters DK, Slavik MF. :Evaluation of a

PCR based assay for specific detection of

Campylobacter jejuni in chicken washes.,

Molecular and Cellular Probes., Oct;9(5),

307-10 (1995)

(2)Linton.D.et al.:PCR Detection,

Identification to Species Level, and Fingerpr

inting of Campylobacter jejuni and Campylobacter

coli,

Journal of Clinical Microbiology, Oct;35(10),

2568-72 (1997)

(3)食品安全委員会: "微生物・ウイルス評価書"

鶏肉中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリ,2

009年6月

(4)食品安全委員会事務局評価課: "鶏肉中のカン

ピロバクター・ジェジュニ/コリの食品健康影響評

価"

- 71 -

牛の体表における腸管出血性大腸菌ベロ毒素遺伝子保有調査○山田耕一 西園幹雄 東原敏秋

大口食肉衛生検査所

は じ め に

腸管出血性大腸菌(以下:EHEC)は人へ溶血性尿毒症症候群や急性脳症等の重篤な症状を引き起こす食中毒

菌で公衆衛生上重要視されている一つである。

平成23年4月には国内焼肉チェーン店でユッケを原因とするEHECの食中毒が発生し,患者総数181名うち14歳以下の

子供3名を含む死者5名という甚大な被害をもたらす事例となった。その発生要因は食肉卸業者,焼肉系列店及びと

畜場の食肉を取り扱う各段階においてEHECに対する安全が確保されなかったと結論付けされている。

牛は一般的にEHECの主要な保有体であることから,食肉を取り扱う最初の工程に位置すると畜場での汚染防止

対策を適切に行うことが,EHECによる食中毒を低減する最も重要なポイントと考える。

そこで,今回,衛生的な牛のと畜解体作業の指導を行う一環として牛体表及び腸管内のEHECベロ毒素遺伝子

(以下:VT遺伝子)の保有状況を調査したので,その概要を報告する。

材料と方法

平成25年5月に管内と畜場に搬入された3農場の肥

育牛23頭について,生体搬入直後及び放血直後の同

一個体の体表拭き取りを行った。

なお,拭き取り部位は当該と畜場のと畜解体SOPで

切皮面となる前肢・後肢・腹部とした。

また,同一個体の盲腸便も併せて採材し試験に供し

た。(図1)

結果

VT遺伝子の検出結果は,生体搬入直後が前肢,後

肢で23頭中9頭から,腹部は13頭から検出された。放

血直後は前肢で23頭中19頭,後肢,腹部は21頭から

検出された。

図1 材料と方法

方 法 ノボビオシン加mEC培地で増菌した後,アルカリ熱抽出法にてDNAを抽出し,「O-157(VT遺伝子)PCR Screening Set(タカラバイオ)」を用いたPCR法を実施

期 間 平成25年5月

A農場:黒毛和種/10頭 ・ B農場:黒毛和種/3頭C農場:乳用種 /10頭

放血直後※拭き取り部位は当該と畜場の「と畜解体SOP」で切皮面となる

前肢・後肢・腹部の3カ所

材 料 管内と畜場に搬入された3農場の肥育牛23頭

2) と畜後の盲腸便(体表拭き取りと同一個体)

1)生体搬入直後同一個体の体表拭き取り

また,盲腸便からは23頭中12頭から検出された。

(図2)

農場毎の結果では,A農場が生体搬入直後の前肢

で10頭中7頭,後肢で6頭,腹部で8頭検出された。放血

直後の前肢,後肢,腹部の全てで10頭中9頭から検出

された。

なお,盲腸便からは10頭中7頭から検出された。

(図3)

B農場は,生体搬入直後の前肢,後肢,腹部で検出

がなかったが,放血直後では全てから検出された。

また。盲腸便は,3頭中1頭から検出された。

(図4)

図2 VT遺伝子検出結果

放血直後

前 肢 9/23(39.1%)

後 肢 9/23(39.1%)

腹 部 13/23(56.3%)

19/23(82.6%)

21/23(91.3%)

21/23(91.3%)

盲腸便 12/23(52.2%)

生体搬入直後

- 72 -

C農場では,生体搬入直後では前肢で10頭中2頭か

ら,後肢が3頭,腹部から5頭検出された。放血直後で

は,前肢が10頭中7頭,後肢,腹部から9頭検出され

た。

なお,盲腸便からは,10頭中4頭から検出された。

(図5)

VT遺伝子検出結果の農場比較では,生体搬入直後

のA農場は60~80%の検出率となり,逆にB農場は検

出がなかった。C農場は20~50%の中度以下保有率と

図3 VT遺伝子検出結果(A農場)

放血直後

前 肢 7/10(70.0%)

後 肢 6/10(60.0%)

腹 部 8/10(80.0%)

9/10(90.0%)

9/10(90.0%)

9/10(90.0%)

盲腸便 7/10(70.0%)

生体搬入直後

図4 VT遺伝子検出結果(B農場)

放血直後

前 肢 0/3(0.0%)

後 肢 0/3(0.0%)

腹 部 0/3(0.0%)

3/3(100.0%)

3/3(100.0%)

3/3(100.0%)

盲腸便 1/3(33.3%)

生体搬入直後

図5 VT遺伝子検出結果(C農場)

放血直後

前 肢 2/10(20.0%)

後 肢 3/10(30.0%)

腹 部 5/10(50.0%)

7/10(70.0%)

9/10(90.0%)

9/10(90.0%)

盲腸便 4/10(40.0%)

生体搬入直後

の検出率となった。

なお,検出のあった2農場は腹部で共に高い検出率

となった。(図6)

放血直後は,3農場の拭き取り部位全てが高い検出

結果となった。(図7)

考察

搬入直後の体表のVT遺伝子保有率は,保有のない

農場や高率に保有する農場があり,農場間に大きな差

を認めた。しかし,放血直後の体表は全て70%以上と高

い保有率となったため,搬入からと畜までの間にVT遺

伝子が拡散していると考えられた。その要因として①け

い留所内での牛間クロスコンタミネーション②けい留所

の床や柵等の汚染された構造物への接触③スタンニン

グから懸垂吊り下げ間の汚染が考えられた。そこで,け

い留所内での汚染拡散防止について検討を行ったが

効果的な対策は難しいと判断し,図8スライドに示す外

皮および胃腸内容物からの汚染に重点をおいた対策と

し①剥皮SOP及びSSOPの再点検②内臓摘出時に発

生する胃腸損傷からの枝肉汚染の低減対策③迅速且

つ確実なトリミングの徹底④解体工程作業員への教育

前 肢

後 肢

腹 部

A農場 B農場 C農場

2/10(20.0%)

3/10(30.0%)

5/10(50.0%)

7/10(70.0%)

6/10(60.0%)

8/10(80.0%)

0/3(0.0%)

0/3(0.0%)

0/3(0.0%)

盲腸便 7/10(70.0%) 1/3(33.3%) 4/10(40.0%)

生体搬入直後

図6 VT遺伝子検出結果(農場比較)

前 肢

後 肢

腹 部

A農場 B農場 C農場

7/10(70.0%)

9/10(90.0%)

9/10(90.0%)

9/10(90.0%)

9/10(90.0%)

9/10(90.0%)

3/3(100.0%)

3/3(100.0%)

3/3(100.0%)

盲腸便 7/10(70.0%) 1/3(33.3%) 4/10(40.0%)

放血直後

図7 VT遺伝子検出結果(農場比較)

- 73 -

の指導を実施した。

また,検査所においても施設側が行うトリミングを日

々チェックする作業中点検を実施し衛生的取り扱いの

状況確認を行うこととした。

最後にと畜場は食肉処理を取り扱う最初の工程にあ

り,また,EHECの汚染リスクの高い工程である。その

中で食肉衛生検査所が担うと畜場の衛生管理指導は,

公衆衛生上重要な役割であり,また責任ある業務であ

る。今後も食肉の安全につながる多角的な調査を行

い,その結果を活用した衛生指導に努めて行きたいと

考える。

図8

外皮汚染

叢毛付着

胃腸内容物の汚染

外皮及び胃腸内物汚染

- 74 -

Propidium Monoazideを用いた豚丹毒早期診断法の検討

○児玉央樹 向井猛 德田祐二 松ヶ野登

志布志食肉衛生検査所

は じ め に

と畜検査における豚丹毒の診断は分離培地での生菌の確認により判定しており,本県では増菌2日,分離1日,純培養1日,

同定1日の5日間を要している。当所では2012年度,豚丹毒が多発し,連日に渡り多数の検体を処理することで業務量が著し

く増大した。このため,大量検体の判定を目的として,分離菌をPCRで同定した。一方,小西らは,Propidium Monoazide(PM

A)を用いて,増菌液からPCRで生菌のみを検出する方法について報告している(1)。

そこで,PMAを用いたPCR法(PMA法)により,実際の保留検体における早期の豚丹毒菌の検出について検討したので報告する。

材料と方法

2013 年 5 月 8 日~ 6 月 13 日に県内 2 食肉衛生検査所で,

豚丹毒関節炎型を疑い保留となった膝関節液(Art)および内

腸骨リンパ節(Ly)62 頭分の Art45,Ly62 の計 107 検体を供し

た。なお,17 頭分の関節液に関しては十分量採材出来なか

ったため検体に供することが出来なかった。

培養試験は,ゲンタマイシン・カナマイシンブイヨン(G

Kブイヨン)に関節液1ml,内腸骨リンパ節1gをそれぞれ接

種し,18,24,48h培養後に検体に用いた。

PCRは,培養後のGKブイヨンから2ml採取し,3,000rpm,

10min遠心分離後に上清を除去し,200μlの生理食塩液に

再浮遊させた。これを50μMでPMA処理し,アルカリ熱抽出

法にてDNA抽出し鋳型DNAとした(図1)。プライマーはER1F/

ER2Fを用いた。

これらの結果と従来の分離培養の検査結果(従来法)を比

較した。なお,PMAの効果を確認するため,18h培養の検体

についてPMA未処理でPCRしたものとPMA法と結果を比較した

(図2)。

図 1

図 2

結果

18h培養におけるPMA未処理のPCRとPMA法の比較を示す

(図3)。PCRでPMA未処理では陽性である一方で,PMA法では

陰性だった検体が107検体中,6検体認められ,Art4,Ly2検

体だった。この6検体は従来法で全て陰性だった。

図3

- 75 -

PMA法の検査結果と従来法との一致率は表1のとおりだっ

た。カッコ内の数字は従来法との一致率(%)を示し,18h,

24h,48h培養における関節液の陽性検体の一致率は,そ

れぞれ88.9,92.6,100%だった。リンパ節は同様に3.0,4

8.5,90.9%で,48hで3検体が一致しなかった。関節液,

リンパ節の陰性検体はともに全ての培養時間で100%従来法

と一致していた。

関節液/リンパ節を組み合わせた1頭ごとの検査結果は表

2のとおりだった。関節液またはリンパ節のどちらかが陽性

であるものを陽性個体とした時に,従来法の陽性は34検体

だった。また,18h,24h,48h培養における陽性数はそ

れぞれ24,30,34検体で従来法との一致率は,70.6,88.2,

100%だった。陰性検体は全ての培養時間で,従来法と全て

一致していた。

表 1

表 2

考察

PMA未処理のPCRで検出された陽性の6検体は,従来法で陰

性であることから死菌を検出した可能性があると思われた。

また,PMA法と従来法の陰性検体は全ての培養時間で100%一

致していることからPMA法による陽性結果は,死菌の検出に

よる陽性の判定の危険性を排除出来るものと考えられた。

関節液の陽性検体は,18h培養で88.9%と高い割合で従

来法と一致した。一方で,リンパ節は,24h培養で48.5%

と陽性の検出率が低く検出に時間がかかるが,1頭ごとの

陽性の検出率は18h培養で70.6%であったことから,判定

までに5日かかる従来法よりも早期に陽性の判定が行えるこ

とが示唆された。

しかしながら,リンパ節3検体のように,本法にて検出さ

れない検体もあるため,そのような検体に関しては今後調

査が必要であるとともに,陰性の判定には従来法と併用し

て判定を行うなど慎重な対応が求められることが考えられ

た。

本法にてより短時間で,大量の検体が処理できるため,

豚丹毒大量発生時の新たな検査法の一つとして有効である

と思われた。

参考文献

1.小西智子ら:Propidium Monoazide(PMA)を用いた豚丹

毒菌の生・死菌判別方法の検討:平成23年度食肉・食

鳥肉衛生技術研修会146-148(2011)

2.西村肇ら:PCRを用いた細菌の生・死菌判別方法の検

討 宮城県(2008)

- 76 -

Streptococcus suis における ST1complex の分布状況調査及び簡易識別法の検討

○砂川達見 抜迫卓也 下地なつ希 佐藤史子 合田潤嗣

鹿屋食肉衛生検査所

は じ め に

Streptococcus suis(S. suis)は豚だけでなく,ヒトにも感染して髄膜炎や敗血症を引き起こす恐れのある人獣

共通病原菌であり,中国では 2005 年に 200 人を越す集団感染例が報告されている[1]。ヒトに病原性のある

強毒な株は ST1complex(ST1)及び ST28complex(ST28)という 2 つの型いずれかに識別されることが分かって

おり[2-4],その中でも ST1 は最も強毒な型だとされ[5],その分布状況を調査することは家畜衛生上及び公

衆衛生上重要だと考えられる。

今回,疣贅性心内膜炎型敗血症(SeEV)の豚から分離された S. suis について,農場における ST1 の分布状

況を調査するとともに,簡易な識別法の検討として S. suis の溶血毒の有無を調べる溶血試験を実施し,併

せて,溶血毒遺伝子検査及び薬剤感受性試験を行った。

材料と方法

平成 18 年から 24 年度に県内 4 と畜場で処理され

た SeEV の豚から分離された S. suis 304 株(90 農場)

を調査に供した。ST1 及び ST28 の識別には高松ら

の報告[6]に準じて S. suis の有する 3 つの線毛関連

遺伝子である sbp2,sep1,sgp1 の増幅パターンで

識別する線毛関連遺伝子プロファイリング法を用い

た(表 1)。

溶血試験は S. suis を Todd-hewitt broth で 37 ℃ 24

時間培養した後の遠心上清を検体とし,5%馬血球

と 2 時間反応させて溶血の有無を確認した(図 1)。

溶血毒遺伝子検査は S. suis の溶血毒遺伝子であ

る sly を標的として PCR 法により実施した。

薬剤感受性試験はアンピシリン(ABPC),ベンジ

ルペニシリン(PCG),セファロチン(CET),バンコ

マイシン(VCM),エリスロマイシン(EM),ゲンタ

マイシン(GM),カナマイシン(KM),ストレプトマ

イシン(SM),オフロキサシン(OFX),テトラサイク

リン(TC),クロラムフェニコール(CP),ST 合剤(ST),

リンコマイシン(LCM)の 10 系統 13 薬剤について

KB 法で実施した。

表 1 線毛関連遺伝子プロファイリング法による識別

図 1 溶血試験フローチャート

結果

線毛関連遺伝子プロファイリング法を行った 304

株中 ST1 が 41 株,ST28 が 252 株,その他が 11 株

Todd-hewitt brothで培養

上清と5%馬血球を混和

血液寒天培地から1白金耳釣菌

判定

37℃ 2h

3000rpm,10分で遠心

37℃ 24h

- 77 -

であった。ST1 及び ST28 の識別では 100bp の DNA

サイズマーカーを用いた電気泳動で,ST1 に特異的

な 462bp のバンド及び ST28 に特異的な 477bp のバ

ンドを確認した(図 2)。また,ST1 は 90 農場中 8 農

場でのみ分布が確認され,41 株のうち,過半数の 26

株が A 農場から検出された(表 2)。一方,最も検出

数の多かった A 農場における年度別の ST1 検出率

比較では平成 19 年度が 0%,20 年度が 12.5%,21

年度以降が 100%と,平成 20 年度から 21 年度にか

けて検出率に明らかな増加がみられた(表 3)。

図 2 線毛関連遺伝子プロファイリング電気泳動像

表 2 農場別 ST1 分布

表 3 A 農場における ST1 検出率の年度別比較

溶血試験では ST1 全例で溶血が認められ,ST28

及びその他では認められなかった(図 3)。

溶血毒遺伝子検査では 500bp の DNA サイズマー

カーを用いた電気泳動で,1524bp の特異的なバン

ドが ST1 全例で確認され,ST28 及びその他では認

められなかった(図 4)。

図 3 溶血試験結果

図 4 溶血毒遺伝子検査電気泳動像

薬剤感受性試験では ABPC,PCG,CET,VCM

の 4 剤ですべての株が感受性を示し,EM,TC,LCM

の 3 剤で耐性及び中間を示す株が多く,KM 及び SM

でも中間を示す株がやや多く認められた(表 4)。

- 78 -

表 4 薬剤感受性試験結果

考察

今回,最も強毒とされる ST1 の分布は特定の農

場にとどまっていたが,A 農場でみられたような検

出率の増加が他の農場で起こることも考えられ,詳

細な浸潤状況を把握するためにはより範囲を広げて

調査する必要があると考えられた。

溶血試験は遺伝子学的検査と同等の精度を示し,

操作性及びコスト面を考えても ST1 識別に有効だ

と示唆された。今後はこの方法を応用し,溶血毒に

対する抗体の検索を検討していきたい。

薬剤感受性試験で S. suis の至適薬剤とされてい

る β ラクタム系の耐性菌は認められなかったが,

EM,TC,LCM など一部耐性を示す薬剤が認めら

れたことから,今後も継続的に各種薬剤に対する耐

性状況の推移を注視していくことが家畜衛生上重要

であると思われた。

参考文献

[1] Yu H, Jing H, Chen Z, Zheng H, Zhu X, Wang H,

Wang S, Liu L, Zu R, Luo L, Xiang N, Liu H, Liu

X, Shu Y, Lee S.S, Chuang S.K, Wang Y, Xu J,

Yang W, Streptococcus suis study groups:Human

Streptococcus suis outbreak, Sichuan, China.:

Emerg Infect Dis, 12, 914-920 (2006)

[2] Chang B, Wada A, Ikebe T, Ohnishi M, Mita K,

Endo M, Matsuo H, Asatuma Y, Kuramoto S,

Sekiguchi H, Yamazaki M, Yoshikawa H, Watabe N,

Yamada H, Kurita S, Imai Y, Watanabe H:

Characteristics of Streptococcus suis isolated from

patients in Japan: Jpn J Infect Dis, 59,

397-399(2006)

[3] Ohnishi H, Sugawara M, Okura M, Osaki M,

Takamatsu D:Prevalence of Streptococcus suis

genotypes in isolates from porcine endocarditis in

east Japan:J Vet Med Sci, 74, 1681-1684(2012)

[4] Takamatsu D, Wongsawan K, Osaki M, Nishino H,

Ishiji T, Tharavichitkul P, Khantawa B, Fongcom A,

Takai S, Sekizaki T:Streptococcus suis in humans,

Thailand:Emerg Infect Dis, 14, 181-183(2008)

[5] King S.J, Leigh J.A, Heath P.J, Luque I, Tarradas C,

Dowson C.G, Whatmore A.M:Development of a

multilocus sequence typing scheme for the pig

pathogen Streptococcus suis: Identification of

Virulent Clones and Potential Capsular Serotype

Exchange:J Clin Microbiol, 40, 3671-3680(2002)

[6] 高松大輔:線毛関連遺伝子のプロファイリング

による疾病リスクの高い Streptococcus suis 株の

識別:日獣会誌, 64, 600-603(2011)

- 79 -

と畜場で認められた牛の悪性水腫の検査と対応(事例報告)○德實千恵 藤元英樹

1)鹿島正文

1)櫻井幹男

末吉食肉衛生検査所 1)生活衛生課

は じ め に

悪性水腫は Clostridium septicum(以下,C.septicum)などのクロストリジウム属の細菌感染によって引き

起こされる急性疾患である。また,人獣共通感染症であると同時に,家畜伝染病予防法における届出伝染病

である気腫疽,所見によっては家畜伝染病である炭疽との鑑別を必要とする感染症であり,常に注意を払う

べき重要な疾病の一つである。しかし,その発生は散発的であるため,多くのと畜検査員が遭遇しているわ

けではない。今回,病畜として緊急搬入された牛で,悪性水腫と判定した事例に遭遇したので,その検査及

び施設への対応等の概要を報告する。

材 料

当該牛は平成 25 年 1 月 25 日に病畜搬入された黒

毛和種(28 ヶ月齢)で,搬入時には横臥状態・呼

吸困難を呈しており,生体検査での触診による泡沫

状触感は認められなかった。解体検査では,剥皮時

に大腿内側及び頸部筋肉の変性・硬結がみられた

が,この時点では酪酸臭は認められなかった。しか

し深部筋肉における変敗と泡沫形成,酪酸臭を認め

たため(写真1),気腫疽ならびに悪性水腫を疑い,

保留措置とするとともに各種検査を実施した。

写真1 大腿内側病変

方法及び結果

解体検査からの流れ及び悪性水腫や気腫疽を疑っ

た場合に実施が考えられる検査項目をそれぞれ図

1,2に示す。

図1

図2

(1) 検査室での対応

血液及び筋肉の塗抹標本でグラム陽性芽胞形成

桿菌を確認した(写真2)。

- 80 -

写真2 筋肉スタンプ標本

遺伝子検査は,血液及び各臓器から High Pure

PCR Template Preparation Kit(Roche)を用いて DNA

を抽出後,SASAKI ら[1]

の報告によるプライマー

IGSCS 及び 23UPCH を用いた PCR を行い,当日の

うちに血液,心筋,肝臓,腎臓,脾臓,筋肉から

C.septicum の DNA 増幅を確認した(図3)。

図3

細菌検査は,採取した検体について,羊血液寒

天培地,GAM 培地及び 10 %卵黄加 GAM 培地を用

いて嫌気培養を行った。嫌気性菌確認用として,羊

血液寒天培地を用いて好気培養も行った(図4)。

分離された菌株は,細菌同定キット rapid ID 32 A

によりいずれも C.septicum と同定された。

図4

病理組織学的検査では,筋束周囲にグラム陽性大

桿菌が確認された(写真3)。

写真3

(2) 現場での対応

解体時に異常所見を認めた時点で,解体室への入

室等を制限し,汚水処理施設への排水を封鎖,さら

に複数検査員による枝肉の確認を実施した。

当該畜の処分については,施設側との協議の上,

BSE 検査陰性を確認後,微生物学的検査結果判明

前に自主的に焼却処分とした。また,と畜検査実施

要領に準拠した消毒を実施すること、併せて農場お

よび運搬車両の消毒を自主的に指示すること,など

を確認した。

消毒および枝肉の焼却作業は,検査員の立ち会い

・指示のもと行い、消毒薬には,5000ppm の次亜塩

素酸ソーダ、消石灰を使用し、と室およびその周囲、

焼却炉と周辺通路、使用器具等を対象とした。

- 81 -

枝肉の運搬に際しては、枝は分割し、ビニル袋に

詰めたうえで台車に入れ、リフトで焼却炉へ運搬し

た。翌日、翌々日も同様に、消毒措置を行い、発生 5

日目から解体室使用開始とした。

ま と め

悪性水腫は進行が急速であることや、気腫疽や炭

疽との鑑別も含め迅速な対応が求められるが,一方

で、その判定については,解体所見に加え菌分離が

なされた場合とされており、推測の上での対応とな

らざるを得ない。今回、精製キットを用いて,採材

組織から,直接病原体の DNA を抽出することで、

悪性水腫あるいは気腫疽を判断する材料を,当日の

うちに得ることができた。

また,今回のように、悪性水腫の明確な症状を示

さない事例においては、複数検査員による確認は重

要であると考える。

今回は「炭疽等芽胞形成菌に対する消毒」に該当

するものとして、と畜検査実施要領を参考に消毒を

行ったが,この場合、解体処理室等を一定期間使用

できなくなるなどの問題もあることから、使用制限

についての判断基準を検討する必要がある。

悪性水腫は、その発生は多くはないことから、県

下の事例を総括し、情報共有できる方法を整備する

ことは、より迅速に対応するための体制作りにつな

がると考える。

引用文献

[1]Sasaki Y.,et al.:J.Vet.Med.Sci.,62(12),1275-1281

(2000)

- 82 -

病畜と室における牛の検査概要○森山良人 増満弘史

知覧食肉衛生検査所

はじめに

病畜と室で検査を行う牛(以下病畜)は生体検査で異常を認め検査員が指示を出す場合もあるが,大部分は

生産農場で何らかの異常を認めたうえで出荷された牛である。そのため,健康な牛を処理する通常ライン

に比べ症状や所見は多岐にわたり判定に苦慮することも多く,鹿児島県では出荷時に獣医師の診断書を提

出するよう指導し,併せて関係者から凜告の聴取を行い検査時の参考にしている。病畜検査で確認された

所見や判定はと畜検査管理システムに入力されるため後日の分析は可能だが,システムに入力できない診断

名や凜告の聴取内容,治療及び管理状況などの情報は集約されることもなく,調査研究での利用や検査員間

の共有化が困難な状況にある。

今回それらの情報についてとりまとめを試みたので概要を報告する。

調査項目と方法

平成 23・24 年度の2年間に検査を行ったとくを

含むすべての病畜を対象に,診断書,検査記録簿,

精密検査記録簿及びと畜検査管理システムデータ

を照合し,以下の項目についてまとめてみた。

検査頭数,月齢構成及び疾病別の廃棄頭数など

の検査状況を抽出した。

出荷動機は診断書と検査記録簿の凜告を基に,

治療後に効果が見られず治療の継続が無駄と判断

されたり,老衰や虚弱・衰弱等で治療自体の価値

がないと判断され特に処理を急がない場合を淘汰

的出荷,骨折などの事故や急性症状により治療が

間に合わない又は経済価値が下がると判断された

場合を緊急出荷,症状は軽いものの出荷時期が近

く無処置で出荷された場合を予防的出荷,輸送や

係留中の事故や生体検査で指示された場合をその

他に区分し,それぞれの出荷頭数と廃棄頭数を抽

出した。

疾患の分類は,診断書の診断名又は主徴を基に

呼吸器系,運動器系,消化器系,泌尿器系及びそ

の他に分類し,それぞれの出荷頭数と廃棄頭数や,

主な廃棄疾病である尿毒症,高度の水腫,敗血症

及び白血病による全部廃棄頭数を抽出した。

結果

2年間で行った病畜検査は全検査頭数 49,822 頭

に対して 3.3%に相当する 1.658 頭で実施され,こ

のうち 307 頭は時間外検査であった。(表 1)

月齢構成は表 2 に示すように 21 ヶ月以上 30 ヶ

月以下が 1,002 頭と最多で,次いで 12 ヶ月以上 21

表1 検査頭数

項 目 と畜場 H23年度 H24年度 合 計

全 体 A 18,330 17,706 36,036

49,822 B 6,699 7,117 13,786

病 畜 A 581 623 1,204

1,658 B 176 278 454

時間外 A 127 120 247

307 B 24 36 60

時間内 A 454 503 957

1351 B 152 242 394

表2 病畜の月齢構成

月 齢 Aと畜場 Bと畜場 合 計

H23 H24 H23 H24

12ヶ月未満 46 15 8 13 82

12≦ <21 170 145 50 79 444

21≦ ≦30 323 408 103 168 1,002

30< ≦48 13 13 4 5 35

48ケ 月 超 29 42 11 13 95

合 計 581 623 176 278 1,658

- 83 -

ヶ月未満が 444 頭と,病畜検査の 9 割以上が 30 ヶ

月以下であった。(図 1)

これらのうち,尿毒症が最多の 64 頭,以下7つ

の病名で 200 頭が全部廃棄とされたが,牛の全廃棄

総数 220 頭の 90.9 %を占めている。なお,尿毒症

は 23 年度の 24 頭から 24 年度は 40 頭に急増してい

た。(表 3)

出荷動機は淘汰的出荷が 701 頭と最も多く,緊

急出荷は 665 頭であった。予防的出荷は 174 頭い

たが,と畜検査で感知できる病変が全くない牛も

含まれていた。その他が 107 頭,記録からは判断

できない不明が 11 頭であった。(表 4)

動機別の廃棄頭数は,淘汰的出荷と緊急出荷が

同数の 94 頭と大勢を占め,予防的出荷では 2 頭で

あった。(表 5)

表3 病畜の疾病別全部廃棄頭数

病 名 Aと畜場 Bと畜場 合 計

H23 H24 H23 H24

尿毒症 20 26 4 14 64

水腫 29 18 4 4 55

敗血症 13 11 3 6 33

白血病 8 15 1 3 27

黄疸 2 4 1 3 10

腫瘍 5 2 0 0 7

膿毒症 2 2 0 0 4

合計 79 78 13 30 200

図1 病畜の月齢構成割合

0%

20%

40%

60%

80%

100%

H23 H24 H23 H24

Aと畜場 Bと畜場

<12

<21

≦30

≦48

48<

出荷時の診断名の分類では,呼吸器系疾患が 445

頭,運動器系疾患が 427 頭,消化器系疾患が 260

頭,泌尿器系疾患が 239 頭及びその他 287 頭とな

り,呼吸器系や泌尿器系の診断名が限定されるの

に対して,運動器系や消化器系は診断名や頭数が

多様に分散していた。(表 6)

廃棄頭数は呼吸器系や泌尿器系に比べ,運動器

系や消化器系が多く廃棄率も高かった。また,疾

患毎の廃棄判定疾病では呼吸器系が高度の水腫,

表4 病畜の出荷動機動 機 Aと畜場 Bと畜場 合 計

H23 H24 H23 H24

淘汰的出荷 298 243 62 98 701治療効果・治療価値なし

緊急出荷 219 246 74 126 665

事故,急性症状

予防的出荷 33 91 20 30 174出荷時期のため出荷選択

その他 26 42 16 23 107

不 明 5 1 4 1 11

合 計 581 623 176 278 1,658

表5 出荷動機による全部廃棄頭数

動 機 Aと畜場 Bと畜場 合 計

H23 H24 H23 H24

淘汰的出荷 56 27 4 7 94

緊急出荷 21 43 9 21 94

予防的出荷 0 2 0 0 2

その他 1 6 0 2 9

不明 1 0 0 0 1

合 計 79 78 13 30 200

表6 診断名による疾患の分類

疾 患 頭 数 診断名

呼吸器系 445 肺炎 439,呼吸異常 2,気道狭窄 2,他 2

運動器系 427 骨折・脱臼 200,関節炎 86, 腰萎麻痺 59

起立歩行障害 35,骨・筋損傷 29,蹄病 18

消化器系 260 肝炎 109,腸炎 67,脂肪壊死症 35,鼓張症 20

食滞 11,腹膜炎 10,四胃アトニー 8

泌尿器系 239 尿石症 164,腎炎・腎不全 31,膀胱異常 29

尿道破裂 15

そ の 他 287 VitA欠 40, 体表異常 25, 生殖器異常 17

脳炎 13, 心臓異常 10, その他 182

合 計 1,658

- 84 -

泌尿器系が尿毒症が主体であるのに対し,運動器

系や消化器系は発生が分散していた。(表 7,8)

まとめ及び考察

病畜は何らかの異常を伴い出荷されるので当然で

はあるが,通常ラインに比べ保留や廃棄になる割合

が高く,当所の特徴として若齢牛の検査や休日検査

が多いことが挙げられる。

出荷動機を整理すると,一部病畜の通常処理や計

画的処理の可能なことが示唆され,当所の実例で休

日検査が多かった大規模農場関係者の凜告から治療

後に予後不良と判断された牛が休薬期間経過日に自

動的に出荷されることを探知し,緊急性の無い牛は

経過日が休日の場合は平日出荷できないか協議して

休日検査が減少した事例が有るように,動機を精査

する事で効率的処理を行える可能性がある。

表7 疾患と全部廃棄頭数

疾 患 出荷頭数 廃棄頭数 廃 棄 率

呼吸器系 445 34 7.6%

運動器系 427 69 16.2%

消化器系 260 47 20.9%

泌尿器系 239 23 9.6%

そ の 他 322 27 8.4%

合 計 1,658 200 12.1%

表8 疾患と全部廃棄判定疾病

疾 患 尿毒症 水 腫 敗血症 白血病

呼吸器系 2 22 2 4

運動器系 25 20 10 9

泌尿器系 15 0 5 0

消化器系 15 7 12 7

そ の 他 7 6 4 7

合 計 64 55 33 27

また,異常の発生や経緯について凜告を聴取する

と,同一事故が多発する農場では観察怠慢や粗悪飼

料給餌などの管理失宜に問題があったり,感染症の

集団発生が推測される場合などもあり,職分ではな

いが助言指導や指導機関への情報提供ができれば,

生産農場の事故低減が図れる可能性もある。

さらに診断名による分類で,呼吸器系では肺炎,

泌尿器系は尿石症が多数を占め診断名が限られてい

たのに対して,運動器系や消化器系は診断名に多様

性があり,また,疾患と廃棄疾病の関係でも,呼吸

器系疾患では高度の水腫,泌尿器系では尿毒症が多

数を占め廃棄率が低いのに対して,運動器系や消化

器系では各疾病に分散し廃棄率も高くなっている。

これらは呼吸器系や泌尿器系では臨床症状とその

原因の関係が分かりやすく診断名が限定されるのに

対して,運動器系や消化器系では臨床症状の原因が

判断しにくいことが考えられ,解体後検査の所見を

臨床獣医師に還元することで診断精度や治療効果の

向上が期待できる可能性がある。

また,と畜検査でも生体検査で見られる症状の原

因に見当が付かない場合は判定に苦慮することが多

いが,臨床症状や治療に関する情報が生体所見以外

にも記録として残せれば,検査の参考にできる項目

を抽出できる可能性がある。

と畜検査はライン検査のイメージが強く地味な業

務と考えられがちだが,毎日行っている解体検査の

数は他の追随を許さず,膨大な検査データを有効に

活用できれば食肉の合否のみならず,生産現場への

指導やその効果検証も可能であると考える。

そのためには従来のと畜検査に加え,生産現場に

おける疾病等異常の発生や治療等の背景なども分析

する作業を,検査所の業務として行う体制を整え,

そのうえで臨床症状の観察力や凜告聴取などに関す

る検査員の教育,臨床獣医師との所見の摺り合わせ,

集積する項目の整理や分析方法の検討が必要と考え

る。

- 85 -

と畜検査における腸病変(牛・豚)の病理アトラス作成○猪俣有美 田中敏久 是枝七奈 篠崎綾 矢野貴久

矢代浩子 児玉央樹 小出真悟 玉住剛 吉田清保

鹿児島県食肉衛生検査所協議会病理部会

は じ め に

と畜検査員にとって,牛・豚の通常ラインにおける内臓検査では,消化管(白物)の判定に苦慮する場合

があるという声をよく耳にする。その理由の一つとして,臓器の内容物による汚染を避けるという観点から,

消化管は外観の検査で判断し,検査刀を入れ内腔(粘膜面・内容物)を精査することができないという点が

挙げられる。

そこで今回,鹿児島県食肉衛生検査所協議会病理部会(以下,病理部会)では,鹿児島市及び鹿児島県内

の8検査所から,小腸・大腸に病変を認めた症例を集め,と畜検査の一助となるよう外観,内腔,組織写真

を併載した腸管病変のカラーアトラスを作製したのでその概要を報告する。

材料と方法

平成 24 年 6 月から 9 月にかけて,鹿児島県内 8 検

査所において小腸及び大腸病変を認めた牛・豚 47

例の全体像,拡大像,割面をカメラで撮影後,10

%中性緩衝ホルマリン溶液で固定し常法に基づき

HE 標本の作製を行い,また一部の症例では特殊染

色も実施した。それぞれの標本は観察後,組織写真

の撮影を行い,病理部会において,肉眼所見および

組織所見から診断名を決定した。また対照として,

正常な牛・豚の腸管においても同様の作業を行っ

た。アトラスの様式は,8 検査所から案を持ち寄り,

部会において検討し決定した。

結果

「検査員が疑問に感じたときに,すぐ手に取って見

られるものを」という主旨のもと,症例を厳選して

病理アトラスの作製を行った。各検査所から集めら

れた牛 11 例,豚 36 例,計 47 症例のうち,肉眼及

び組織所見から同一疾病と考えられる場合は,より

画像が鮮明なものを選択し,牛 9 例,豚 22 例,計 31

症例を掲載した(表1)。

表1 アトラス掲載症例

目次として診断名と画像によるものを2種類作製し

た。診断名からの目次では,肉眼所見による診断名

と組織所見による診断名を併記し,画像による目次

では,病変部の拡大写真を用いて,検査時に疑問に

感じた症例をすぐに肉眼写真から検索できるように

した(図1)。作業手順の様式は,小腸と大腸とに

分けて作製し(図2),ポイント毎で写真撮影を行

い掲載した(図3)。小腸のように細い形状のもの

は,筒状に切り出して,内腔を固定液で洗浄した後

固定した。大腸のように太く内容物が多いものは,

開いて内容物を取り出した後,粘膜面を固定液で洗

浄し,変形を防ぐために濾紙に貼り付けて固定する

という方法をとった。症例肉眼所見の様式(図4)

- 86 -

では,見出しに肉眼での診断名を用い,続いて症例

のと体情報(畜種・品種・体格・性別・月齢等),

消化管及び他臓器の解体所見を列記し,病変部の拡

大写真,全体像,粘膜面の写真3点と下方には病変

部の所見を掲載した。組織所見の様式(図5)では,

弱拡,中拡,強拡の写真3点を掲載し,それぞれの

写真の下に所見を記載した。様式下方には,コメン

ト欄,組織診断名,処分欄を設け,コメント欄には,

症例の診断名に関する説明やわかりにくい用語の説

明,考察等を記載し,処分欄には,その臓器及び症

例に対して行った行政処分を,一部廃棄,白物全廃

棄,全部廃棄に分けて記載した。また,正常所見の

様式(図6)では,消化管全体像,粘膜面,組織写

真を腸管の各部位毎に掲載して,症例との比較が容

易に行えるようにした。

図1 目次の様式

図2 作業手順の様式

図3 作業手順の様式

図4 症例所見の様式(肉眼)

図5 症例所見の様式(組織)

- 87 -

図6 正常所見の様式

考察

病理部会では,これまで色々なアトラスを作製して

きたが,今回は消化管(白物)の中でも特に腸管(小

腸・大腸)に的を絞って作製を行った。4ヶ月とい

う短い採材期間であったが,多くの症例が集まり,

特に肉眼写真に関しては種類・質ともに良い材料が

得られた。組織写真に関しては,薄切・染色・撮影

などの点において担当者の経験に依るところが多

く,各個人の技術の充実と向上の必要性を感じた。

アトラスの様式に関しては,目次に病変部の写真を

用い,外観的に正常と思われる牛・豚の肉眼写真か

ら組織写真までを載せることで,正常部と病変部の

比較が行えるようにし,視覚から理解しやすいと言

う点を重視した。解体検査時において,本アトラス

が活用され,病変診断の一助になればと思う。

謝辞

本アトラスを作製するにあたり,東京大学獣医病理

学研究室准教授内田和幸先生から丁寧なご指導を賜

りましたことに感謝の意を表します。

- 88 -

対米等牛肉輸出認定施設におけると畜解体工程の衛生管理に係る検証○岡田梢 赤坂敬史郎 田中嘉文 湯田龍幸

阿久根食肉衛生検査所

は じ め に

当所が管轄していると畜場(併設の食肉処理場を含む。)は「対米等輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定要綱」

(以下,認定要綱)に基づき,平成23年1月,対米等輸出食肉を取り扱うと畜場等(以下,認定施設)として認定を受

け,HACCPシステムによる衛生管理を行っている。

当初,認定施設ではHACCP計画策定の中で,と畜解体工程の危害分析において,文献や米国のHACCPモデル

等を根拠または補助文書とし,生物学的危害因子として腸管出血性大腸菌(以下,EHEC)とサルモネラを設定した

が,実際に搬入される牛の保菌状況等については調査されていない。

そこで,搬入牛のEHEC,サルモネラによる危害の程度を把握する目的で保菌状況を調査するとともに,危害がと

畜解体工程においてコントロールされているかを確認するために最終洗浄前・後の枝肉の衛生状態を検証した。併

せて温湯洗浄の効果についても検証したのでその概要を報告する。

材料及び方法

(1)危害因子調査

ア EHEC

平成24年8月から11月に,正常畜として搬入された68

農家,220頭の牛の盲腸便を採取し検体とした。

検体はノボビオシン加mEC培地で42℃24時間増菌

培養後,アルカリ熱抽出法によりDNAを抽出し,PCR法

によりVT遺伝子の検出を行った。

VT遺伝子が検出された検体について,増菌培養液

を用いて免疫磁気ビーズ法により濃縮処理し,分離培

地に画線塗布し,37℃24時間培養した。分離培地とし

て,O157はCT-SMAC,CHROMagar O157,O26はCT

-RMAC,CT-SMAC,O111はCT-SBMAC,XM-EHEC

を用いた。EHECを疑うコロニーについては病原性大腸

菌免疫血清を用いて血清型を確認し,TSI培地,LIM培

地,CLIG培地に接種し,37℃24時間培養後,生化学

性状を確認した。分離した株についてはVT型を調べ

た。

イ サルモネラ

平成24年7月から11月に,正常畜として搬入された92

農家,323頭の牛の盲腸便を採取し検体とした。

検体はラパポート培地で42℃24時間増菌培養後,B

GS培地,XLT4培地に画線塗布し,37℃24時間培養し

た。

(2)枝肉の拭き取り検査

搬入牛におけるEHECの保菌調査結果をふまえて,

平成24年10月から平成25年2月に,最終洗浄前の枝肉

の胸部及び臀部(図1)それぞれ100cm2拭き取り,試料

原液とし,それぞれ500μlをmEC培地9mlに加え,42

℃24時間培養後,アルカリ熱抽出法によりDNAを抽出

し,PCR法によってVT遺伝子の付着状況を調査した。

なお洗浄後の枝肉の胸部及び臀部のVT遺伝子の付着

状況については,平成9年から毎月実施している拭き取

り検査の平成24年度結果を用いた。

さらに,同期間の最終洗浄前・後の枝肉の胸部・臀部

の大腸菌群及び一般生菌数について,大腸菌群はCC

プレートを用いて37℃24時間培養後,一般生菌数はA

Cプレートを用いて37℃48時間培養後,菌数を測定し

た。

- 89 -

図 1 拭き取り箇所

結果

(1)サルモネラの保菌状況

323検体(92農家)ではサルモネラは検出されな

かった。

(2)EHECの保菌状況

220検体中63検体(28.6%),68農家中33農家(48.

5%)からVT遺伝子が検出された。このうち12検体

(5.5%),11農家(16.2%)からEHECが分離された。

分離株の血清型は,O157が11株,O26が1株であり,

VT型は,VT1型が2株(16.7%),VT2型が5株(41.7

%),VT1・2型が5株(41.7%)であった。

表1 サルモネラ・EHEC の保菌状況

結果220検体 68農家

VT遺伝子陽性 63(28.6%) 33(48.5%)

EHEC分離 12(5.5%) 11(16.2%)

●EHEC

VT1 VT2 VT1・2

O26 1 0 0

O111 0 0 0

O157 1 5 5

●サルモネラ 検出なし(323検体 92農家)

分離されたEHECの血清型とVT型

(3)枝肉の拭き取り検査

ア VT 遺伝子

最終洗浄前・後ともにすべて VT 遺伝子陰性であ

った。

イ 大腸菌群数

最終洗浄前の胸部では,55 検体中 53 検体が

10cfu/cm2未満,2 検体が 102cfu/cm2

未満であった。

臀部では,55 検体中 55 検体すべてが 10cfu/cm2未

満であった。洗浄後では,60 検体全て陰性であっ

た。

ウ 一般生菌数

最終洗浄前の胸部では,55 検体中 46 検体(83.6%)

が 103cfu/cm2未満,9 検体(16.4%)が 104cfu/cm2

未満

であった。臀部では,54 検体(98.2%)が 103cfu/cm2

未満,1 検体(1.8%)が 105cfu/cm2未満であった。洗

浄後の胸部及び臀部では,55 検体中 55 検体全てが

103cfu/cm2未満であった。

図 2 枝肉の大腸菌群数・一般生菌数

考察

今回の調査で,搬入牛の盲腸便において,5.5%

で EHEC(28.6%で VT 遺伝子陽性)が分離され,

認定施設における EHEC の危害の妥当性と程度が

確認できた。また,分離された EHEC の毒素型は,

血清型 O157(11 株)では 10 株(83.3%)が VT2 型ま

たは VT1・2 型であり,血清型 O26(1 株)では VT1

型であった。これらの毒素型は食中毒発生事例の報

告が多く,危害の重篤性が確認できた。今回,サル

0

5

10

15

20

25

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

0

10

20

30

40

50

60

70

大腸菌群数 一般生菌数

洗浄前

洗浄後

0

0

<102 <103

<102 <103

0 <102 <103 <104 <105

0 <102 <103 <104 <105

■胸部■臀部

- 90 -

モネラは検出されず危害の妥当性は確認できなかっ

たが,5.7%検出されたとの報告もあり,今後も継

続して管理する必要があると考えられた。認定要綱

においても洗浄後枝肉のサルモネラ検査を規定して

おり,HACCP システムの有効性を確認する指標と

されている。

最終洗浄前・後の枝肉の拭き取り検査では VT 遺

伝子は確認されず,と畜解体工程における SSOP 及

び CCP の有効性を確認でき,衛生管理状況は概ね

良好であると考えられた。

大腸菌群及び一般生菌は最終洗浄前と洗浄後と比

較し,洗浄後ではどちらも大幅に菌数が減少してお

り,温湯洗浄の有効性を確認できた。そこで,認定

施設と協議し,これまでの作動性の確認に加え,1

日 3 回(1 頭目,休憩時,終了時)の噴射水圧

(0.016MPa ~ 0.06MPa)及び温度(80 ℃以上)の

確認と年1回の業者による定期点検の規定を新たに

設け管理方法を強化しているところである。

今後も,HACCP プラン及び SSOP の妥当性や有

効性について,様々な検証を重ね,より実効性のあ

る衛生管理体制の確立のため,施設に対して適切な

指導・助言をしていくことが重要であると考えられ

た。

- 91 -

対シンガポール輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定までの経緯と対応○栗脇耕二 合田潤嗣

鹿屋食肉衛生検査所

は じ め に

鹿児島県内には対米・対香港など輸出食肉を取り扱う認定施設が多くあり,そのため食肉衛生検査所の業務の

中でも輸出関連業務は大きなウェートを占めてきている。また,これらの施設認定にあたっては,施設・設備等の構

造・材質基準の外,HACCPシステムや,その相手国独自の衛生管理等があるため,指導にあたる検査員には幅広

い知識や経験が求められる。

今回,管内豚専用食肉処理施設が,対シンガポール豚肉輸出施設の認定を取得したので,この認定に至るまで

のその経緯と対応について報告する。

施設の概要

1)概要

この施設は,平成14年4月操業を開始した湯剥

ぎ方式の豚専用食肉処理施設で,年間約10万頭処

理している。処理能力は1日当たりと畜は500頭,

カットは400頭で,と畜ラインの処理スピードは

1時間当たり約90頭である。

また,この施設は平成19年に,安全な食品を生

産・流通・販売するためにHACCPシステムの手法を

基礎として,その運用の必要事項を規定する国際標

準規格であるISO22000を取得し,高いレベル

で衛生的に管理されている。

なお,現在の輸出可能国は,昨年取得したシンガ

ポールの外,香港とマカオがある(表1)。

表1 施設の概要

2)衛生管理

作業前の状態について,この施設は清掃状態も非

常に良好で,器具も分解できるものは分解して洗浄

が行われている。作業前点検で機器に異常がなけれ

ば,その後アルコール消毒を行っている(写真1)。

また,作業中トリミングを行っているが(写真2),

前述の作業前の状態も含め,これらは対シンガポー

ル輸出の申請前から行われていた。

写真1 衛生管理(作業前)

写真2 衛生管理(トリミング)

- 92 -

認定までの経緯と対応

平成21年に申請書類の作成を始め,翌平成2

2年8月に申請したが,直後にシンガポール農食品

獣医庁(以下AVA)より,厚生労働省を通じ,「と体

への有機酸やその他の化学洗浄は,食品の安全基準

や施設の衛生基準の緩和につながりうるので,AVA

では認めていない。と体の 終洗浄は飲料水によっ

てのみ行われるべきものである」との情報提供があ

った。この施設では,枝肉の 終洗浄水に塩素系電

解水(以下セリウス水)を使用していたため,申請

は差し戻しになった(表2)。

表2 認定までの経緯と対応(1)

施設側とはこの件について,危害分析を行うなど,

いろいろと検討した結果,CCPだったセリウス水に

よる枝肉洗浄を,水による洗浄のSSOPに変更し,そ

して新たに,もともとあったトリミング工程をCCP

とし,平成23年4月に再度申請した。

その後,同年12月にAVAより文書による質問等

があり,翌平成24年1月に回答を提出した(表3)。

表3 認定までの経緯と対応(2)

平成24年7月AVAより検査用サンプルの提出依

頼があり,8月にサンプルを輸出した。

この頃,施設側から枝肉洗浄水を国内向け等はセ

リウス水で洗浄し,シンガポール向けのみ水で洗浄

する方式にできないかとの提案を受ける。

その後平成24年9月,AVAによる査察が11月

に行われることが決定した(表4)。

表4 認定までの経緯と対応(3)

査察までに施設側と行った検討会議の主な内容と

して,前述したように,この施設は高いレベルで衛

生的に管理されているが,取り扱い上2点改善しな

ければならないことがあった。

1つは,消毒槽に温度計が設置されていなかった

ことで,午前・午後の作業前と作業中に消毒槽の温

度を測定していたが,常に作業者が消毒槽の温度が

83℃以上に保持されているかの確認ができない状

態にあった。

もう1つは,汚染された部分をトリミングした後

に,セリウス水で洗浄する行為があった。他の枝肉

へ飛散による汚染も考えられたため,その行為を禁

止の方向で検討するよう指導を行った。

指導の結果,査察までに温度計も設置され,2箇

所あったセリウス水の配管も撤去された(写真3)。

- 93 -

写真3 認定までの経緯と対応(4)

次に,サンプル輸出の時期から施設より要望のあ

った枝肉洗浄水使い分けについて,この方法で認定

されるかどうかの判断ができなかった為,必要と思

われた次の2点を施設側に指示した。

1つは水で洗浄した場合の微生物汚染調査を行う

ことで,当然調査結果が悪ければ,セリウス水を使

用している理由が取り扱い不備と見られるため,確

認しておかなければならないことだった。結果は,

セリウス水使用時と比較してほとんど細菌数に変動

は見られなかった。

もう1つが,セリウス水と水の切り替えを確実に

行うためのマニュアルを作成することだった(表

5)。

表5 認定までの経緯と対応(5)

また,外部との隔壁がないことで,過去他の施設

が AVA より指摘を受けていた事から,この施設の

外壁が垣根や,低いコンクリート塀等であった為,

指摘を受ける可能性があった。

このことに対して施設側は,施設内外に監視カメ

ラの設置を進めている説明で対応するとのことだっ

た(表6)。

表6 認定までの経緯と対応(6)

そして,平成24年11月14日査察が行われた。

査察内容は,会社の概要説明に始まり,カット室

・解体室の作業中の視察の後,外周りを見て,質疑

応答と講評があった。

特に問題視していた洗浄水の使い分けについて

は,解体室の作業中視察時に施設側より提案し説明

を行ったが,特にその後質問はなかった。

また,外壁についても質問されたが,監視カメラ

設置の説明で,後は特に質問はなかった。

そして,11月30日に認定された(表7)。

表7 認定までの経緯と対応(7)

まとめ

今回,認定された施設は,衛生意識が高く日頃か

ら施設整備や人材育成に積極的に取り組んでいたこ

- 94 -

とから,大きな問題もなく認定を取得できたと考え

られた。

また今後,県内の食肉輸出はさらに増大すること

が予想され,検査員には輸出関連業務に係る知識や

技術の習得及び向上が求められることから,人材を

育成するための継続的な研修体制を整備することが

重要だと考えられる(表8)。

表8 まとめ

- 95 -

過去の業績発表及び調査研究(平成10年度以降)年 度 検 査 所 名 発 表 内 容 及 び 研 究 内 容

平成 10 知覧食肉衛生検査所 ・豚赤 痢様 病変及び大腸炎を呈した豚の結腸 粘膜 から 分離された Serpulina属菌の性

状について

串木野食肉衛生検査所 ・と畜場で認めれた牛の悪性水腫について

阿久根食肉衛生検査所 ・豚肺炎からの Actinobacillus pleuropneumoniaeの分離

大口食肉衛生検査所 ・豚の敗血症(第1報)

末吉食肉衛生検査所 ・ PCRにおけるベロ毒素産生性大腸菌検出感度の向上

・豚におけると畜検査データの解析とフィードバックシステムへの応用

志布志食肉衛生検査所 ・養豚農家へのフィードバック事業

平成 11 知覧食肉衛生検査所 ・精度管理の立場からみた Bacillus subtilis,Bacillus mycoides,

Micrococcus luteusの各種抗 生物質の感受性について

・牛の病畜検査状況と健康畜で検査した枝肉及び肝臓の疾病状況(誌上発表)

大口食肉衛生検査所 ・豚の敗血症(第2報)ーフィードバック事業の1つの成果ー

末吉食肉衛生検査所 ・牛の肝臓及び胆汁からの Campylobacter属菌の検出

志布志食肉衛生検査所 ・豚盲腸内容物におけるサルモネラ保菌調査

・と畜場で認められた牛の嚢胞腺癌の1症例

鹿屋食肉衛生検査所 ・豚血清中のインフルエンザウイルス抗体の継続的観察

平成 12 知覧食肉衛生検査所 ・鶏白血病について

・肝蛭による病変

・筋間水腫における一考察

阿久根食肉衛生検査所 ・と畜場における牛のヨーネ病診断事例

大口食肉衛生検査所 ・豚の敗血症(第3報)ーフィードバック事業の一例ー

末吉食肉衛生検査所 ・と畜場で認められた牛の顆粒膜細胞腫の1症例

・ HPLCによる合成抗菌剤及び寄生虫用剤の同時分析法の検討

・末吉食肉衛生検査所における口蹄疫発生時の対応経過

志布志食肉衛生検査所 ・フィードバック農家の意向調査

鹿屋食肉衛生検査所 ・ブロイラー養鶏農場におけるサルモネラ衛生対策~その1~

平成 13 阿久根食肉衛生検査所 ・気腫疽と悪性水腫の鑑別と迅速診断

大口食肉衛生検査所 ・県下の大規模食鳥処理場における細菌汚染調査について

末吉食肉衛生検査所 ・豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス( PRRSV)の抗体保有率及び分離状況について

・豚頭肉の汚染状況

志布志食肉衛生検査所 ・と畜場搬入牛・豚における Q熱リケッチア抗体保有ならびに Coxiella burnetii遺

伝子の検出状況

鹿屋食肉衛生検査所 ・ブロイラーにおけるサルモネラおよびカンピロバクター保菌調査

- 96 -

年 度 検 査 所 名 発 表 内 容 及 び 研 究 内 容

平成 14 知覧食肉衛生検査所 ・敗血症 (心内膜炎型)の培養法に関する検討

阿久根食肉衛生検査所 ・豚のリンパ類上皮細胞性( Lennert)リンパ腫の一例

末吉食肉衛生検査所 ・ DFD様筋肉変性鶏(ブロイラー)に対する伝染性気管支炎ウイルス( IBV)および

腎疾患の関与について

鹿屋食肉衛生検査所 ・湯はぎ式解体ラインにおける枝肉細菌数の推移

・と畜段階及び生産段階における発育不良豚の実態と処理方法に関する一考察

平成 15 知覧食肉衛生検査所 ・関節炎型豚丹毒の凝集反応法による診断法の検討

・発育不良の黒毛和種牛における腎尿細管異形成の一症例

串木野食肉衛生検査所 ・正常肥育豚の血液検査及び発育不良豚との比較

阿久根食肉衛生検査所 ・慢性貧血が疑われた高齢牛の一症例

末吉食肉衛生検査所 ・豚丹毒迅速診断の比較検討

・と畜豚の肺疾患及び豚繁殖・呼吸器障害症候群ウイルス( PRRSV),豚サーコウイ

ルス2型( PVC2)および豚オーエスキー病ウイルス( ADV)との関係について

・ブロイラーにおける胆管肝炎の病理

鹿屋食肉衛生検査所 ・湯はぎ式解体ラインにおける衛生管理への取り組み

平成 16 知覧食肉衛生検査所 ・黒毛和種牛におけるクローディン16欠損症とその類似疾患

串木野食肉衛生検査所 ・豚カット室における細菌数の変動と衛生対策の効果

阿久根食肉衛生検査所 ・豚のアレルギー性皮膚炎について

・食鳥検査でみられたブロイラーの Aspergillus flavus感染症

大口食肉衛生検査所 ・牛,豚の体表におけるリステリア属菌付着状況調査

・と畜場で発見される豚抗酸菌症への一考察(ホルマリン固定材料からの抗酸菌検索)

末吉食肉衛生検査所 ・豚解体処理工程別の枝肉細菌数の推移と衛生管理の改善への試み

・ PCRによる Clostoridium chauvoei と Clostridium septicumの迅速鑑別診断の検討

・ DFD様筋肉変性鶏の過酸化脂質及び深胸筋と肝臓のプロテオーム解析

鹿屋食肉衛生検査所 ・管内一と畜場におけるサルモネラ浸潤状況

平成 17 知覧食肉衛生検査所 ・発育不良豚血漿のプロテオーム解析

串木野食肉衛生検査所 ・成鶏に見られた骨外性骨肉腫の一例

阿久根食肉衛生検査所 ・と畜検査時にみられた牛のアクチノバチルス症

・ Clostridium septicum分離同定法の一考察

大口食肉衛生検査所 ・クマリン系殺鼠剤中毒を疑った豚の HPLC分析

末吉食肉衛生検査所 ・豚丹毒迅速診断の比較検討(第2報)

・牛の胆汁中における Campylobacter汚染調査及び分離菌株の遺伝子型比較

・大規模食鳥処理場におけるカンピロバクター汚染状況調査

・豚赤痢の PCR法導入による迅速診断と病理組織学的診断の比較検討

志布志食肉衛生検査所 ・ PCR法による抗酸菌検出法の検討

鹿屋食肉衛生検査所 ・間質性肝炎を呈する豚肝臓の細菌汚染調査(第1報)

・寄生虫用剤イベルメクチンの牛への残留状況について

・残留抗生物質簡易検査における Bacillus mycoides芽胞原液作成法の検討

- 97 -

年 度 検 査 所 名 発 表 内 容 及 び 研 究 内 容

平成 18 阿久根食肉衛生検査所 ・異常な臭い及び黒色を呈する牛の大腸に関する調査

大口食肉衛生検査所 ・ Streptococcus gallolyticusが分離されたブロイラーの心内膜炎

・食鳥検査データーからみたと体廃棄の原因疾病

末吉食肉衛生検査所 ・牛枝肉の脳・脊髄組織汚染状況調査及び汚染除去方針の検討

・豚敗血症(心内膜炎型)からの Streptococcus suis分離状況調査

・ブロイラーの育成から出荷過程おけるカンピロバクター汚染状況調査

志布志食肉衛生検査所 ・牛血漿の SDS-PAGE解析

・食鳥処理場におけるカンピロバクター汚染状況調査(第1報)

鹿屋食肉衛生検査所 ・緊急搬入牛から検出されたイベルメクチンについて(症例報告)

・豚腸管由来の多剤耐性 Salmonella Typhimurium(ST)分離状況と分離株の特徴

平成 19 串木野食肉衛生検査所 ・と畜場搬入豚由来 Salmonella Choleraesuisの薬剤感受性とプラスミドプロファイ

阿久根食肉衛生検査所 ・バイオアッセイによる抗菌性物質の感受性試験

・牛の好酸球性筋炎の1症例

大口食肉衛生検査所 ・管内と畜場でみられた豚サルモネラ症の発生状況

末吉食肉衛生検査所 ・食肉衛生検査所における牛の腫瘍

・県下で分離された腸管出血性大腸菌 O157の疫学的検討

志布志食肉衛生検査所 ・牛,豚糞便からの O157分離状況調査

鹿屋食肉衛生検査所 ・残留抗生物質簡易検査用Bacillus mycoides芽胞菌液作成及び保存法の検討

・一部廃棄としたブロイラーの肝炎に関する調査

平成 20 知覧食肉衛生検査所 ・病畜牛における血漿中ビタミン A, Eと副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の測定

阿久根食肉衛生検査所 ・ ML培地における豚肝臓の抗菌作用

大口食肉衛生検査所 ・県内のと畜場でみられた牛白血病の基礎的調査

末吉食肉衛生検査所 ・と畜場に搬入された豚におけるサルモネラの保菌状況及び疫学的検討(第1報)

・豚尿毒症の調査結果について

・と畜場でみられた牛の腫瘍と牛白血病抗体保有状況

志布志食肉衛生検査所 ・食肉衛生検査微生物分野におけるカラーアトラスの作成

(平成19年度微生物部会調査研究)

鹿屋食肉衛生検査所 ・家畜由来カンピロバクターの薬剤感受性成績

平成 21 阿久根食肉衛生検査所 ・食肉衛生検査所における牛白血病の鑑別

大口食肉衛生検査所 ・と畜場に搬入される牛のレプトスピラ浸潤状況調査

末吉食肉衛生検査所 ・と畜場搬入豚の肝臓及び盲腸便から分離された Salmonella Choleraesuisの疫学的

検討

・ MGIT法及び PCR法を併用した抗酸菌検出法の検討

(平成20年度微生物部会調査研究)

志布志食肉衛生検査所 ・管内と畜場における牛腫瘍の発生状況

鹿屋食肉衛生検査所 ・サルモネラ相誘導試験における簡易法の検討

- 98 -

年 度 検 査 所 名 発 表 内 容 及 び 研 究 内 容

平成 22 知覧食肉衛生検査所 ・管内と畜場で見られた緊急搬入牛における肺炎調査

串木野食肉衛生検査所 ・食肉衛生検査所の施設検証の取り組みについて

・食肉衛生検査所のフィードバックの取り組みについて

阿久根食肉衛生検査所 ・黒毛和種にみられた転移を伴う腎臓腫瘍

・大規模食鳥処理場における衛生実態調査

末吉食肉衛生検査所 ・住肉胞子虫の寄生が認められた牛の好酸球性筋炎の一症例

志布志食肉衛生検査所 ・豚疣状心内膜炎由来β溶血性 Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis

の薬剤感受性と遺伝学的特徴

鹿屋食肉衛生検査所 ・ Actinobacillus pleuropneumoniaeによる豚の疣状性心内膜炎の発生実態

・豚の疣状性心内膜炎から分離された Actinobacillus equuli subsp. equuli

平成 23 阿久根食肉衛生検査所 ・食肉・食鳥検査等カラーアトラスデータの簡易データベース化

・対米輸出食肉を取り扱うと畜場等に係る認定までの衛生指導について

大口食肉衛生検査所 ・食鳥処理場におけるカンピロバクター汚染低減への取り組み

末吉食肉衛生検査所 ・管内と畜場で分離された Salmonella Choleraesuis の性状

・管内と畜場における豚丹毒の疫学的検討

志布志食肉衛生検査所 ・管内と畜場で牛白血病が疑われた症例の検討

・牛のリンパ腫におけるスタンプ標本を用いた免疫組織化学的検査の有用性

・全身性腫瘍が疑われた牛2例の病理組織学的検討

鹿屋食肉衛生検査所 ・食鳥処理場における ESBL産生 Escherichia Coli の浸潤調査

平成 24 知覧食肉衛生検査所 ・管内と畜場でみられた敗血症型豚丹毒2症例

・牛胆汁及び直腸便の Campylobacter jejuni/coli 分 離状況及び分離方法の検討

阿久根食肉衛生検査所 ・大規模食鳥処理場における施設衛生指導について

大口食肉衛生検査所 ・管内と畜場における豚丹毒の発生状況

末吉食肉衛生検査所 ・豚丹毒が多発した農場の分離株における遺伝子型別と薬剤感受性

・ MALDI-TOF MS 活 用による豚丹毒菌迅速同定法の検討(第一報)

志布志食肉衛生検査所 ・ LAMP 法を用いた Streptococcus.suis の 検出法の検討

・ T 細胞性リンパ腫の病理組織学的検討

・リンパ腫と中皮腫の併発が疑われた牛の病理組織学的検討

鹿屋食肉衛生検査所 ・と畜場搬入豚由来 Actinobacillus pleuropneumoniae の 薬剤感受性

・ PCR-RFLP 法により未知の遺伝子型が確認された牛白血病の一症例

- 99 -

年 度 検 査 所 名 発 表 内 容 及 び 研 究 内 容

平成 25 知覧食肉衛生検査所 ・成鶏における Campylobacter jejuni/coli の 保菌調査及び検出法の検討

・病畜と室における牛のと畜検査概要

串木野食肉衛生検査所 ・と畜検査における腸病変 (牛・豚 )の病理アトラス作成

阿久根食肉衛生検査所 ・ブロイラーのカンピロバクター保菌調査及び食鳥処理場の汚染状況(第1報)

・対米等牛肉輸出認定施設におけると畜解体工程の衛生管理に係る検証

末吉食肉衛生検査所 ・と畜場で認められた牛の悪性水腫の検査と対応(事例報告)

志布志食肉衛生検査所 ・ Propidium monoazide(PMA)を用いた豚丹毒早期診断法の検討

鹿屋食肉衛生検査所 ・ブロイラーにおけるカンピロバクターの保菌及び製品汚染調査

・ Streptococcus.suis に おける ST1complex の 分布状況調査及び簡易識別法の検討

・対シンガポール輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定までの経緯と対応