第4章 構造モデルの簡略化...130 第4章 構造モデルの簡略化 4.1...

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130 第4章 構造モデルの簡略化 4.1 構造モデル簡略化の方針 4.1.1 検討概要 マニュアルにおいて標準とされる構造モデルは、同規模の他構造建築物の構造計算に用いる構 造モデルと比べて複雑であり、それに伴う構造設計手間の増加が設計者に忌避され、CLT パネル 工法建築物の普及を阻害する要因の一つとなっている。これを考慮し、現行の解析モデルをベー スとした簡略化として、図 4.1-1 に示すように RC 造の構造計算モデルとして一般的な「壁エレ メント」を用いる方法について検討する。 併せて、せん断接合部の剛性を壁エレメント縦材に含めることによりせん断バネは省略する。 せん断接合部の応力は壁エレメント縦材のせん断応力とする。ただし、せん断パネル(パネルゾ ーン)を介さずに床版に接合される部分のみとする。 また、下記の条件を設け、図 4.1-2 のようなバネ要素配置の簡略化を図る。 1) 床版の面外剛性・面外耐力は無視する(0 とする)。 2) 垂壁・腰壁と床版の間に鉛直方向圧縮バネは設けない。 3) 垂壁・腰壁と床版の間には壁面内方向のせん断接合を設けない。 以上の方法では節点数・要素数の大幅な削減は望めないが、多くの構造設計者にとって「壁エ レメント」が周知であることにより、構造モデル設定に関する工数は削減されると期待できる。 解析対象 フレームモデル(現行) 壁エレメントモデル 4.1-1 壁エレメントによる解析モデルの簡略化 壁エレメント 壁パネル: 壁エレメント要素 部材せん 断バネ:GAs/h 部材軸バネ EA/h 部材回転 バネ:EI ECLT パネルのヤング係数 GCLT パネルのせん断弾性係数 A:軸用断面積 A s:せん断用断面積 I:断面 2 次モーメント

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130

第4章 構造モデルの簡略化

4.1 構造モデル簡略化の方針

4.1.1 検討概要

マニュアルにおいて標準とされる構造モデルは、同規模の他構造建築物の構造計算に用いる構

造モデルと比べて複雑であり、それに伴う構造設計手間の増加が設計者に忌避され、CLT パネル

工法建築物の普及を阻害する要因の一つとなっている。これを考慮し、現行の解析モデルをベー

スとした簡略化として、図 4.1-1 に示すように RC 造の構造計算モデルとして一般的な「壁エレ

メント」を用いる方法について検討する。 併せて、せん断接合部の剛性を壁エレメント縦材に含めることによりせん断バネは省略する。

せん断接合部の応力は壁エレメント縦材のせん断応力とする。ただし、せん断パネル(パネルゾ

ーン)を介さずに床版に接合される部分のみとする。 また、下記の条件を設け、図 4.1-2 のようなバネ要素配置の簡略化を図る。

1) 床版の面外剛性・面外耐力は無視する(0 とする)。 2) 垂壁・腰壁と床版の間に鉛直方向圧縮バネは設けない。 3) 垂壁・腰壁と床版の間には壁面内方向のせん断接合を設けない。

以上の方法では節点数・要素数の大幅な削減は望めないが、多くの構造設計者にとって「壁エ

レメント」が周知であることにより、構造モデル設定に関する工数は削減されると期待できる。

解析対象 フレームモデル(現行) 壁エレメントモデル

図 4.1-1 壁エレメントによる解析モデルの簡略化

壁エレメント

壁パネル: 壁エレメント要素

部材せん 断バネ:GAs/h

部材軸バネ :EA/h

部材回転 バネ:EI

E:CLT パネルのヤング係数 G:CLT パネルのせん断弾性係数 A:軸用断面積 As:せん断用断面積 I:断面 2 次モーメント

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図 4.1-2 バネ要素配置の簡略化

(b) 床床接合部が垂壁端部のとき

床-床

接合部

(a) 床床接合部が垂壁中央のとき

床-床 接合部

132

4.1.2 壁エレメント要素を用いた構造モデル

壁エレメントを用いた解析モデルの概要を以下に示す。 1) CLT パネルは、弾性の壁エレメント要素に置換する。 2) 垂れ壁パネルについて、原則として壁エレメント要素に置換することとするが、市販の汎用

プログラムでは壁エレメント要素を横使いすることに対応していない場合も多い。その場合

は、従来モデルと同様に、梁要素と剛材で構成されたエの字モデルでモデル化を行う。 3) 「従来モデル」において、図 4.1-3 に示すような分割型架構では袖壁等パネルが垂れ壁・腰壁

パネルと接する部分に、一体型架構では袖壁等部分が垂れ壁・腰壁部分と交差する部分に、

図 4.1-4(a)に示すような、四周の剛要素とその内部に X 字形に設定するブレース要素によっ

て構成されたせん断パネルを設けていたが、「壁エレメントモデル」においては、当該箇所も

図 4.1-4(b)に示すように壁エレメント要素に置換する。 4) 上記 2)より、パネルゾーンの変形について、従来モデルはせん断変形のみを考慮しているの

に対し、壁エレメントモデルは曲げ、せん断、軸変形を考慮していることになり、厳密には

こちらのほうが実態に近いと考えられるが、これらの違いが架構の耐震性能に与える影響は

極めて軽微だと考えられる。

(a) 分割型架構 (b) 一体型架構

図 4.1-3 分割型架構と一体型架構の定義 4.1-1)

(a) 従来モデル (b) 壁エレメントモデル

図 4.1-4 各モデルの構成例

ks

GAs/l

kt、kc

EI

EA/h1

kc 床パネル

:線材

h1

kt

h2

GAs/h1

kc ks

EA/l

EAb ks

kc

l

E:CLT パネルのヤング係数

G:CLT パネルのせん断弾性係数

A:軸用断面積

As:せん断用断面積

kt:接合部の引張バネ ks:接合部のせん断バネ

kc:接合部の圧縮バネ

ks

GAs/l

kt、kc

EI

EA/h1

kc 床パネル

:線材

h1

kt

h2

GAs/h1

kc

壁エレメン

ト要素

ks

EA/l

壁エレメン

ト要素

GAs/h2 EA/h2

ks kc

l

133

5) 引張接合部、圧縮接合部(CLT パネルの支圧、めり込み等)、せん断接合部は単軸のバネ要素

に置換し、完全弾塑性モデルとする。 6) 原則として、壁エレメント要素に隣接する上記 3)のバネ要素は、壁エレメント要素の隅部に

配置し、マニュアルに準拠して、弾性剛性に調整係数 R の 2 乗(R2)を乗じることとし、非

線形応力変形特性の耐力には R を乗じ、変形を R で除することとする。なおこの場合、引

張・圧縮バネの検定では許容耐力・終局耐力にも R を乗じるか、または解析による応力を Rで除したものを検定用応力とする。R はマニュアルに従い下式のように算出する。

0.83 dRD⋅

= (4.1.1)

ここで、D:パネル幅、dc:圧縮側の壁端部から引張接合部までの距離、d:D-dc

7) せん断接合部は 2 つのバネ要素に分割し、パネル隅角部に配置する。

壁エレメントモデルを採用することによる解析モデル簡略化の効果について、従来モデルと比

較して、壁パネル中央部の節点配置が不要になることから若干の節点数の減少が期待できる。ま

た、パネルの端部に剛な線材を都度設置しなくてもよいこと、パネルゾーンが 1 つの壁エレメン

ト要素でモデル化ができることで部材数の減少及びモデル作成の簡便さの向上が期待できる。

4.2.2 節で後述するが、パネルゾーンが壁エレメント要素に置き換わることで、当該箇所のせん断

応力の抽出が容易となるため、断面検定も容易となる効果も期待できる。

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4.2 従来モデルとの性能比較

4.2.1 検討対象とする解析モデルの概要

解析モデルは 2 次元フレームモデルとし、解析方法は荷重増分による非線形解析とする。解析

モデルは試験体形状に応じて、①線材のみで構成された従来モデルと②壁エレメント要素を用い

て簡略化を図った壁エレメントモデルの 2 種類とする。解析モデルを図 4.2-1 に示す。解析モデ

ルを構成する部材及び接合部は以下のようにモデル化している。

(a) 従来モデル (b) 壁エレメントモデル

図 4.2-1 検討対象とする架構形式と解析モデル

線材 (袖壁)

線材 (垂れ壁)

線材 (床)

壁エレメント (パネルゾーン)

線材 (垂れ壁)

線材 (床)

壁エレメント (袖壁)

トラス 要素

各階に作用させる荷重は Ai 分布に基づいて設定する。 各階の単位面積当たりの重量は最上階で 4kN/m2、一般階で 6kN/m2で、 負担幅は 4m とする。

長期荷重 長期荷重

135

従来モデルと壁エレメントモデルの比較を行うにあたり、部材及び接合部性能を以下のように

設定する。

(1) CLTパネルのモデル化

CLT パネルは弾性モデルとする。従来モデルにおいては CLT の材料特性及び断面寸法を与え

た線材に置換、壁エレメントモデルにおいては CLT の材料特性及び断面寸法を与えた壁エレメン

ト要素に置換する。接合部(引きボルト)による断面欠損については、本検討では考慮しないこ

ととする。

表 4.2-1 CLTパネルの特性値

名称 部位 ラミナ

構成

t l E(面内) E (面外) G(面内) G (面外) A0 I0(面内) I0(面外) Z(面内) Z(面外)

[mm] [mm] [N/mm2] [N/mm2] [N/mm2] [N/mm2] [mm2] [mm4] [mm4] [mm3] [mm3]

CLTX1 壁 S60‐5‐5 150 1000 3600 4752 500 54.5 150000 12500000000 281250000 25000000 3750000

FLS1 床 Mx60‐5‐7 210 1000 3857 5536 500 29.7 210000 17500000000 771750000 35000000 7350000

FLS2 屋根 Mx60‐5‐5 150 1000 3000 4728 500 27.9 150000 12500000000 281250000 25000000 3750000

TRE1 垂れ壁 S60‐5‐5 150 500 3600 4752 500 54.5 75000 1562500000 140625000 6250000 1875000

E:ヤング係数、G:せん断弾性係数、t:厚さ、l:有効幅、A:断面積(=t×l)、I:断面 2 次モーメント(面内方向:I=t×l3/12、面外方向:I=l×t3/12) 、Z:断面係数(面内方向:Z=t×l2/6、面外方向:Z=l×t2/6) (2) 接合部のモデル化(引張バネ)

引きボルト接合部による引張バネは、引張力に対してのみ有効な弾塑性単軸バネで、バイリニ

アモデルを採用する。バネの剛性及び耐力は、CLT 設計施工マニュアルに記載されている値また

は近似式による算定値を採用する。

表 4.2-2 引張バネの特性値

接合部位 接合部 接合 D l dc k1 sPa sPu sδu R k1・R2 LPa・R sPa・R sPu・R sδu/R

種類 名称 [mm] [mm] [mm] [kN/mm] [kN] [kN] [mm] [-] [kN/mm] [kN] [kN] [kN] [mm]

壁-基礎 引張 TA1 1000 800 115 22.79 51.0 59.3 80 0.73 12.30 20.61 37.48 43.59 108.91

壁-壁 引張 TB1 1000 950 115 17.6 79.6 93.0 55 0.73 9.50 20.61 37.48 43.59 108.91

壁-屋根 引張 TD1 1000 550 115 33.4 79.6 93.0 55 0.73 18.02 20.61 37.48 43.59 108.91

lb:ボルト長さ、k1:接合部の剛性、LPa:長期許容耐力(=1.1/2×SPa)、SPa:短期許容耐力、SPu:終局耐力、sδu:終局変位

D:パネル幅、R:0.83*d/D、dc:壁端部から引張接合部までの距離、d:D-dc、

図 4.2-2 引張バネの復元力特性における各記号の定義

sPu・R

sδu/R

P

δ

sPa・R

k1・R2

136

(3) 接合部ののモデル化(せん断バネ)

せん断接合部によるせん断バネは、正負のせん断力に対して有効な弾塑性単軸バネで、バイリ

ニアモデルを採用する。バネの剛性及び耐力は、CLT 設計施工マニュアルに記載されている値を

採用する。

表 4.2-3 せん断バネの特性値

接合部位 作用 バネ

名称

k sPa sPu sδu 備考

応力 [kN/mm] [kN] [kN] [mm]

壁-基礎 せん断 SA1 8.10 47.0 82.7 47.99 -

壁脚・頭-床 せん断 SB1 11.90 54.0 90.0 23.9 2-LST

壁頭-天井 せん断 SC1 11.90 54.0 90.0 23.9 2-LST

壁-垂れ壁 せん断 SD1 20.00 52.0 109.5 20.7 2-SP

k:弾性剛性、LPa:長期許容耐力(=1.1/2×SPa)、SPa:短期許容耐力、SPu:終局耐力、sδu:終局変位

図 4.2-3 せん断バネの復元力特性における各記号の定義

k k

sPu

sδu

sPa

P

sPa

sPu

δ sδu

137

(4) 接合部ののモデル化(圧縮バネ)

CLT パネルの支圧またはめり込みによる圧縮バネは、圧縮力に対してのみ有効な弾塑性単軸バ

ネで、バイリニアモデルを採用する。バネの剛性及び耐力は、CLT 設計施工マニュアルに記載さ

れている算定式に基づき算出する。

表 4.2-4 圧縮バネ(支圧)の特性値

部位 接合部 検定用 D t dc d Ae Fc ke R k1・R2 Py・R LPa・R sPa・R

種類 バネ名称 [mm] [mm] [mm] [mm] [mm2] [N/mm2] [kN/mm3] [-] [kN/mm] [kN] [kN] [kN]

壁-基礎 圧縮 CA1 1000 150 70 930 34875 9.72 15.60 0.77 324.16 261.7 95.94 174.44

D:パネル幅、t:パネル厚さ、Ae:有効支圧面積、Fc:パネルの圧縮基準強度、R:0.83*d/D、dc:壁端部から引張接合部までの距離、d:D-dc、

ke:壁パネルの支圧剛性、Py:降伏耐力、k1:弾性剛性、LPa:長期許容耐力、SPa:短期許容耐力

表 4.2-5 圧縮バネ(めり込み)の特性値

部位 接合部 検定用 D t dc d Ae Fcv E90 Z0 R k1 Py LPa sPa

種類 バネ 名称 [mm] [mm] [mm] [mm] [mm2] [N/mm2] [kN/mm3] [mm] [-] [kN/mm] [kN] [kN] [kN]

壁-床 圧縮 CB1 1000 150 70 930 34875 6.00 0.20 210 0.77 33.21 209.25 104.63 139.50

CB2 1000 150 0 1000 150000 6.00 0.20 210 1.00 142.86 900.00 450.00 600.00

壁-屋根 圧縮 CC1 1000 150 70 930 34875 6.00 0.20 150 0.77 46.50 209.25 104.63 139.50

CC2 1000 150 0 1000 150000 6.00 0.20 150 1.00 200.00 900.00 450.00 600.00

壁-垂れ壁 圧縮 CD1 500 150 0 500 18750 6.00 0.20 150 0.83 37.50 112.50 56.25 75.00

D:パネル幅、t:パネル厚さ、Ae:有効支圧面積、Fcv:パネルのめり込み基準強度、E90:パネルの繊維直交方向のヤング係数、Z0:床パネルの厚さ、

dc:壁端部から引張接合部までの距離、d:D-dc、k1:弾性剛性、Py:降伏耐力、LPa:長期許容耐力、SPa:短期許容耐力

(a) 支圧性能の復元力特性 (b) めり込み性能の復元力特性

図 4.2-4 圧縮バネの復元力特性における各記号の定義

k1・R2

sPa・R

sPy・R

k1・R2

sPa・R

sPy・R (k1・R2)/8

138

4.2.2 解析結果の比較

(1) 層せん断力―層間変形角関係の比較

解析結果より得られる層せん断力―層間変形角関係を図 4.2-5 に、許容耐力時のモーメント図と

変形図を図 4.2-6 に、終局(1/30rad)時のモーメント図と変形図を図 4.2-7 に示す。 従来モデルと壁エレメントモデルの層せん断力―層間変形角関係は極めてよく一致しており、

両モデルの親和性が高いことが確認された。

図 4.2-5 従来モデルと壁エレメントモデルの荷重‐変位関係の比較

(b1) モーメント図 (a2) 変形図 (b1) モーメント図 (b2) 変形図

(a) 従来モデル (b) 壁エレメントモデル

図 4.2-6 許容耐力時のモーメント図と変形図

(a) 従来モデル (b) 壁エレメントモデル

図 4.2-7 保有(1/30rad)時のモーメント図と変形図

0.0 0.0 0.01.8 1.8 1.8

14.2 14.2 14.217.6

15.717.4 17.4 17.3

17.2 17.2 17.217.2 17.1 16.7

18.6 18.6 18.6 18.618.6

18.9 18.9 18.9

39.6 39.6 39.644.7

41.844.2

43.9 43.9 43.943.645.0 45.0 45.0

0.0 0.0 0.04.0 4.0 4.0

16.7 16.7 16.716.7

18.018.0

19.4 19.4 19.419.4

18.6 18.6 18.6

20.4 20.4 20.4

43.3 43.3 43.343.3

45.445.4

47.4 47.4 47.447.445.1 45.1 45.1

17.8

17.218.0

16.7

44.6

44.045.4

43.3

44.1 44.0

43.5 43.345.0 45.0

1.8 1.8

14.314.317.6

17.4 17.4 17.3 17.2

17.417.417.2 17.1 16.7

18.4 18.518.418.4

0.0 0.0

18.118.1

39.539.544.8

44.2 44.2 44.1 44.0

43.943.943.7 43.6 43.4

45.1 45.145.145.1

4.0 4.0

16.7 16.7

19.319.3

18.518.5

0.0 0.0

20.220.2

43.443.4

47.547.5

45.145.2

16.7

17.8

43.4

44.6

0.0 0.0 0.02.2 2.2 2.2

82.7 82.7 82.7105.0

90.9101.7 101.6 101.3

99.1 99.1 99.198.4 98.2 98.0

103.0 103.0 103.0 103.1103.0

103.3 103.3 103.3

186.0 186.0 186.0208.3

194.3205.0

202.6 202.6 202.6201.7

205.5 205.5 205.5

0.0 0.0 0.07.9 7.9 7.9

93.8 93.8 93.893.8

101.9101.9

110.1 110.1 110.1110.1

103.2 103.3 103.3

106.6 106.6106.6

200.6 200.6 200.6200.6

209.3209.3

218.0 218.0 218.0218.0

205.8 205.9205.9

103.9

101.0101.9

98.2

207.2

204.4209.3

201.7

205.0 204.7

201.6 201.5205.5 205.7

2.22.2

83.683.6105.6

102.4 102.3 101.9 101.7

100.1100.199.1 98.9 98.6

103.3 103.4103.2103.2

0.0 0.0

101.8101.8

185.9185.9208.4

205.1 205.0 204.7 204.5

202.6202.6201.8 201.6 201.5

205.6 205.7205.6205.6

8.08.0

94.194.1

110.4110.4

103.5103.5

0.0 0.0

106.8106.8

200.7200.7

218.0218.0

205.8205.9

98.9

104.5

201.7

207.2

139

(2) CLT パネルの検定方法

前述の解析モデルを用いたフレーム解析より、鉛直構面 CLT パネルの応力が次のように得られ

る。 圧縮応力 C :壁パネル、垂れ壁パネルに相当する梁要素の圧縮応力 引張応力 T :壁パネル、垂れ壁パネルに相当する梁要素の引張応力 面内曲げ応力 M :壁パネル、垂れ壁パネルに相当する梁要素の面内曲げ応力 面内せん断応力 Q:壁パネル、垂れ壁パネルに相当する梁要素の面内せん断応力 面内せん断応力 N:壁パネルのパネルゾーンのトラス要素のに作用する軸方向応力 パネルゾーンのせん断応力 Q について、従来モデルではトラス要素の軸方向応力から下式のよう

に得られる。

( )1 2WQ N NL

= − ⋅

ここで、N1,N2 :パネルゾーンに配置したトラス要素の軸方向応力 W :壁パネルの幅

L :トラス要素(斜材)の長さ 一方、壁エレメントモデルではパネルゾーンに相当する壁エレメント要素せん断応力がパネルゾ

ーンのせん断応力 Q となる。 これらの応力をもとに、圧縮応力度 σc、引張応力度 σt、面内曲げ応力度 σb、面内せん断応力度

τI を下式により算出する。

圧縮応力度 :AC

c =σ 引張応力度 :AT

t =σ

面内曲げ応力度 :0Z

Mb =σ 面内せん断応力度:

AQ

I =τ

ここで、A :CLT パネルの断面積 Z0 :CLT パネルの断面係数

上式より各応力度を算出し、下式を用いて鉛直構面 CLT パネルの検定を行う。

0.1≤++b

b

t

t

c

c

fffσσσ

、 0.1≤s

I

、 0.1≤k

c

ここで、fc:許容圧縮応力度、ft:許容引張応力度、fb:許容面内曲げ応力度、 fs:許容面内せん断応力度、fk:許容座屈応力度

なお、保有水平耐力計算による保有水平耐力時及び限界耐力計算における安全限界時(以下、

「終局時」と記す。)の検定、及び限界耐力計算における令第 82 条の 5 に基づく極めて稀に発生

する風圧力・積雪荷重に対する検定では許容応力度に代えて基準強度を用いることとする。 上記の方法に基づき、解析結果より得られる CLT パネルの検定結果の一覧を表 4.2-6 に示す。

なお、同表は「壁」、「垂れ壁」、「パネルゾーン」ごとに検定比が最大となる部位を取り出して検

定を行っている。床パネルについては、本検討では床の面外性能を 0 相当としているため検定は

行わない。各接合部検定結果一覧を表 4.2-7 に示す。同表についても「引張バネ」、「せん断バネ」、

140

「圧縮バネ」ごとに検定比が最大となる部位を取り出して検定を行っている。従来モデルと壁エ

レメントモデルにおいて、各部材と接合部の最大検定比の相違は小さいことが確認され、両モデ

ルの親和性が高いことが確認された。

表 4.2-6 部材の断面検定結果一覧

短期許容時 /保有時 モデル名 部位

C M A Z σc σb fc,Fc fb,Fb 曲げ圧縮 [kN] [kNm] [mm2] [mm3] [N/mm2] [N/mm2] [N/mm2] [N/mm2] 検定比

短期許容時

従来 モデル

壁 102.32 83.78 150000 25000000 0.68 3.35 6.48 6.48 0.62

垂れ壁 41.21 11.57 75000 6250000 0.55 1.85 6.48 6.48 0.37 壁エレメ

ント モデル

壁 102.76 83.66 150000 25000000 0.69 3.35 6.48 6.48 0.62

垂れ壁 41.64 12.10 75000 6250000 0.56 1.94 6.48 6.48 0.38

保有時

従来 モデル

壁 148.94 118.15 150000 25000000 0.99 4.73 9.72 9.72 0.59

垂れ壁 145.74 36.44 75000 6250000 1.94 5.83 9.72 9.72 0.80

壁エレメ

ント モデル

壁 149.12 118.20 150000 25000000 0.99 4.73 9.72 9.72 0.59

垂れ壁 147.26 36.82 75000 6250000 1.96 5.89 9.72 9.72 0.81

短期許容時 /保有時 モデル名 部位

T M A Z σt σb fc,Ft fb,Fb 曲げ引張 [kN] [kNm] [mm2] [mm3] [N/mm2] [N/mm2] [N/mm2] [N/mm2] 検定比

短期許容時

従来 モデル

壁 - - - - - - - - -

垂れ壁 - - - - - - - - - 壁エレメ

ント モデル

壁 - - - - - - - - -

垂れ壁 - - - - - - - - -

保有時

従来 モデル

壁 0.42 6.59 150000 25000000 0.00 0.26 7.20 9.72 0.03

垂れ壁 - - - - - - - - -

壁エレメ

ント モデル

壁 0.30 6.41 150000 25000000 0.00 0.26 7.20 9.72 0.03

垂れ壁 - - - - - - - - -

短期許容時 /保有時 モデル名 部位

N1 N2 W L Q A τ fs,Fs せん断 [kN] [kN] [-] [-] [kN] [mm2] [N/mm2] [N/mm2] 検定比

短期許容時

従来 モデル

壁 - - - - 32.60 150000 0.22 1.54 0.14

垂れ壁 - - - - 34.33 75000 0.46 1.54 0.30

パネルゾーン 15.25 -15.25 1000 1118 27.28 150000 0.18 1.54 0.12

壁エレメ

ント モデル

壁 - - - - 32.87 150000 0.22 1.54 0.14

垂れ壁 - - - - 34.68 75000 0.46 1.54 0.30

パネルゾーン - - - - 27.57 150000 0.18 1.54 0.12

保有時

従来 モデル

壁 - - - - 64.32 150000 0.43 2.31 0.19

垂れ壁 - - - - 60.52 75000 0.81 2.31 0.35

パネルゾーン 50.47 -50.47 1000 1118 90.28 150000 0.60 2.31 0.26

壁エレメ

ント モデル

壁 - - - - 64.71 150000 0.43 2.31 0.19

垂れ壁 - - - - 60.90 75000 0.81 2.31 0.35

パネルゾーン - - - - 90.01 150000 0.60 2.31 0.26

表 4.2-7 各接合部の検定結果一覧

モデル名 種類

短期許容時 保有時

応力 許容耐力 検定比 変位 許容(終局)変位 検定比

[kN] [kN] [-] [mm] [mm] [-]

従来 モデル

引張 37.48 37.48 1.00 30.85 108.9 0.28 せん断 32.44 47.00 0.69 7.9 48.0 0.16 圧縮 134.94 174.44 0.77 0.6 - -

壁エレメ

ント モデル

引張 37.48 37.48 1.00 31.21 108.9 0.29 せん断 32.78 47.00 0.70 7.97 48.0 0.17 圧縮 135.03 174.44 0.77 0.59 - -

141

(a) 従来モデル (b) 壁エレメントモデル

図 4.2-8 各解析モデルにおける各要素の最大検定比位置

圧縮バネ

(0.77)、[-]

壁:曲げ圧縮

(0.62)、[0.59]

引張バネ

(1.00)、[0.28] せん断バネ

(0.69)、[0.16]

垂れ壁:曲げ圧縮

(0.37)、[0.80]

パネルゾーン

(0.12)、[0.26]

壁:せん断

(0.14)、[0.19] 垂れ壁:せん断

(0.30)、[0.35]

壁:曲げ引張

(-)、[0.03]

圧縮バネ

(0.77)、[-]

壁:曲げ圧縮

(0.62)、[0.59]

引張バネ

(1.00)、[0.29] せん断バネ

(0.70)、[0.17]

垂れ壁:曲げ圧縮

(0.38)、[0.81]

パネルゾーン

(0.12)、[0.26]

壁:せん断

(0.14)、[0.19] 垂れ壁:せん断

(0.30)、[0.35]

壁:曲げ引張

(-)、[0.03]

142

4.3 まとめ

袖壁を線材置換から壁エレメント要素置換に置き換えることで、現行の解析モデルをベースと

したモデルの簡略化を試みた。本検討で得られた知見を以下に示す。

① 壁エレメント要素で構成された壁エレメントモデルは、文献 4.1-1)に示されている従来モデ

ルと比較して壁パネル中央部の節点配置が不要になることから若干の節点数の減少が期待で

きる。

② パネルの端部に剛な線材を都度設置しなくてもよいこと、パネルゾーンが 1 つの壁エレメン

ト要素でモデル化ができることから、部材数の減少及びモデル作成の簡便さの向上が期待で

きる。

③ パネルゾーンが壁エレメント要素に置き換わることで、当該箇所のせん断応力の抽出が容易

となるため、断面検定も容易となる。

④ 2 層 1 スパンを対象に、従来モデルと壁エレメントモデルの解析結果の比較を行った。両者

の解析結果はよく一致しており、壁エレメント要素を採用する妥当性が確認された。

【参考文献】

4.1-1)日本住宅木材技術センター:2016 年版 CLT を用いた建築物の設計施工マニュアル、2016 年 10 月