第4章 障害者のict利活用による社会参加のための支援の在り方 · web...

15
42 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 ここでは事例調査を受けて、障害者への支援、企業への支援、支援団体/自治体/地域 における有効な支援実施のための方策という3つの観点から、障害者の ICT 利活用に よる社会参加のための支援の在り方についてとりまとめる。 1.障害者への支援 (1)普及・啓発 障害者が情報通信機器を利活用し、社会参加につないでいくためには、まず情報通 信機器利用にいたるきっかけ、すなわち ICT 利活用による効果を理解し、機器利用 の習得に取り組もうという意欲をもってもらうことが最初の課題である。 ①動機づけ 障害者が ICT を通じて社会参加する動機づけとして最も有効なのは、実際に障害 者が情報通信機器を利活用し、社会参加している実例を見せることである。 それには、体験講習等での講師に障害者を起用することがある。今回の事例調査で も、障害者が講師を担当していると、自分も講師のように情報通信機器が利活用でき るようになれるかもしれないという期待がもて、障害者のモチベーションがあがると いう話が多く聞かれた。 また、テレビ、書籍などで障害者が活躍している姿が紹介されていても、特別な人 の話で自分には関係ないと思う人が多い。そういう人でも、自分のまちで活躍してい る人がいると、身近に感じられ、大きな ICT 利活用の動機づけになる。身近な地域 での例を多くつくり、例えばまちの広報誌や口コミで広がっていく効果は無視できな い。 ②コーディネート これから情報通信機器の操作を習得しようとする人にとって、機器利用の体験、パ ソコンのセッティングといった情報環境の整備、トレーニングなど様々な局面での支 援が必要になる。また、障害の種別、程度等によって適した機器、ソフトウェアもか わってくるため、支援するためにはそれに対応したノウハウ、経験等が必要になるが、 一つの機関・団体でそれら必要な支援を提供することは難しい。そのため、障害者の 状況を把握し、必要な支援、その支援を提供可能な機関・団体等の紹介するといった コーディネート機能が求められている。

Upload: others

Post on 02-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

42

第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方

ここでは事例調査を受けて、障害者への支援、企業への支援、支援団体/自治体/地域

における有効な支援実施のための方策という3つの観点から、障害者の ICT 利活用に

よる社会参加のための支援の在り方についてとりまとめる。

1.障害者への支援

(1)普及・啓発

障害者が情報通信機器を利活用し、社会参加につないでいくためには、まず情報通

信機器利用にいたるきっかけ、すなわち ICT 利活用による効果を理解し、機器利用

の習得に取り組もうという意欲をもってもらうことが最初の課題である。

①動機づけ

障害者が ICT を通じて社会参加する動機づけとして最も有効なのは、実際に障害

者が情報通信機器を利活用し、社会参加している実例を見せることである。

それには、体験講習等での講師に障害者を起用することがある。今回の事例調査で

も、障害者が講師を担当していると、自分も講師のように情報通信機器が利活用でき

るようになれるかもしれないという期待がもて、障害者のモチベーションがあがると

いう話が多く聞かれた。

また、テレビ、書籍などで障害者が活躍している姿が紹介されていても、特別な人

の話で自分には関係ないと思う人が多い。そういう人でも、自分のまちで活躍してい

る人がいると、身近に感じられ、大きな ICT 利活用の動機づけになる。身近な地域

での例を多くつくり、例えばまちの広報誌や口コミで広がっていく効果は無視できな

い。

②コーディネート

これから情報通信機器の操作を習得しようとする人にとって、機器利用の体験、パ

ソコンのセッティングといった情報環境の整備、トレーニングなど様々な局面での支

援が必要になる。また、障害の種別、程度等によって適した機器、ソフトウェアもか

わってくるため、支援するためにはそれに対応したノウハウ、経験等が必要になるが、

一つの機関・団体でそれら必要な支援を提供することは難しい。そのため、障害者の

状況を把握し、必要な支援、その支援を提供可能な機関・団体等の紹介するといった

コーディネート機能が求められている。

Page 2: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

43

(2)情報環境整備

障害者がパソコン等の情報通信機器を利用する際にAT機器を必要とする場合が多

い。その際、自分の障害の状況に適した AT 機器を選ぶ必要があるが、人それぞれに

慣れてきた入力方法やこだわりなどもあり、たくさんある機器、ソフトウェアを試し、

専門家の助言も得ながら検討、機器を選択するというプロセスをつくっていくことが

求められる。

就業を含めた社会参加を考えた場合、パソコンなどの情報通信機器を利用する時間

も長くなることが想定され、情報通信機器を利用する際の姿勢なども含め、健康面を

考えたアフターケアも必要になってこよう。現在こうした機能は各地の障害者 IT サ

ポートセンターが果たしており、今後一層の充実が求められる。

また、日常生活用具の給付について各市町村に委ねられた7ことから、各市町村で

の担当者において、ICT を利活用する際に各障害に応じてどのような機器が必要にな

るかといった各種機器への理解が必要となっている。ICT、福祉の両分野に精通して

いる人材が市町村では不足しているという指摘もあり、人材の育成をサポートする仕

組みづくりも求められよう。

【東京都障害者 IT サポートセンターの事例】

社会福祉士資格を有するスタッフが、技術的な相談だけでなく、生活上の IT 利

用の目的等を面談して把握し、問題点の解決を図る。展示スペースでは AT 機器を

試すことができ、機器コーディネータが機器調達支援やサポート体制を計画する。

これらの機器は、既存のものだけではなく、技術サポータによる個別の製作も行う。

資料:東京都障害者ITサポートセンター資料

7障害者自立支援法施行による平成 18 年度 10 月からの改正

Page 3: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

44

(3)ICT技能習得

①講師の育成

ICT 技能習得のための講習、研修においては、障害者の特性を理解し、個々の障害

の状況に応じた操作方法などの教え方が出来る講師が担当することが求められる。操

作方法だけでなく障害による特性、コミュニケーション技術などに通じていることが

求められ、障害者を対象とした研修の講師としてしかるべきトレーニングを受けた人

が講師を務めることも必要であろう。国、都道府県等のレベルで講師を養成し、市町

村、団体等で講習、研修を実施するといった役割分担も考えられよう。

また、研修においては、パソコンの操作方法を学習するというだけではなく、情報

検索を効率的に行う方法、自分で Web サイトを利用して学習する方法など障害者の

自立を念頭においたカリキュラムが求められる。 【障害者の ICT 利活用支援に関る資格の例:福祉情報技術コーディネーター】

福祉情報技術コーディネーターは、障害者(高齢者を含む)のために、コンピュー

タを含む支援技術と、補助機材をその障害に応じて結びつけ、自立をサポートでき

るように情報環境の提案とその操作技術を教えるための指導者として位置づけら

れた財団法人全日本情報学習振興協会認定の資格である。その内容によって、1 級

から 3 級の 3 つのレベルがある。

福祉情報技術コーディネーター認定試験の内容(1級)

出題内容 1 級

求められる

知識

・パソコン OS のアクセシビリティ機能に関する知識

・支援技術に関する専門知識

・各種障害(重複障害を含む)に関する専門知識

・サポートに関する実践的知識

支援

技術

・OS のアクセシビリティ機能

・視覚障害、肢体不自由に便利な OS 機能

・障害のための支援技術(肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、言語障

害、知的・認知障害、重複障害)

・支援技術を用いたサポート方法

・Web アクセシビリティ

・支援技術とユニバーサルデザイン

障害

教養

総論

・障害に関する基礎的用語

・障害と自立

・障害に関する知識(肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、言語障害、知

的・認知障害、障害受容、AAC、重複障害)

・高齢者に関する知識

・法律・制度

小論文 障害のある人からの相談に対しての適切な支援技術の選択、適用に関

する実践的知識

資料:財団法人全日本情報学習振興協会資料より抜粋

Page 4: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

45

②実践的なカリキュラム

就業を目的とする ICT 研修では、即座に仕事に役立つ実践的な内容が求められる。

机、パソコン環境なども含めて実際の企業のオフィスにあわせた環境で研修を行うと

いったことや、具体的業務に即したカリキュラムである。在宅就業支援団体などにお

いて研修後に関わることができる仕事が定まっている場合には、その仕事に即した研

修メニューを提供することで、円滑に就業に移行することができる。

研修プログラムやカリキュラムを企業と共同で作ることも考えられよう。例えば、

米 CTP(Computer Technologies Program)では、民間企業にボードメンバーとし

てカリキュラムの評価に参加してもらい、実際の業務に役立つようにカリキュラムの

見直しを随時行っている。

③eラーニング

外出が困難な障害者も多く、集合研修だけでなく、在宅で学習できる e ラーニング

での研修を提供していく取り組みを拡げていくことが重要である。インターネットで

あれば全国どこであっても受講が可能である。今回の事例調査でも e ふぉーらむ、黒

潮町おおがた学校で、ICT 研修の e ラーニングを実施していた。また、自習方式だけ

でなく、テレビ会議システム等を利用したリアルタイムの研修など、障害者を対象と

した ICT 研修に最適な形態を検討していくことも求められよう。

現在は各団体が個別に e ラーニングのコンテンツを制作、提供していることが多く、

非効率になっている。今後は団体間の連携を図り、共同でのコンテンツ制作やノウハ

ウがある専門分野のコンテンツを手分けして制作するといった取り組みを行ってい

く必要があろう。

Page 5: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

46

【プロジェクト eふぉーらむの eラーニング「eUREKA(ユリイカ)」】

テレワーカーを支援する eふぉーらむでは、参加できる人が限定される、自分の

ペースやレベルに応じて受講できないといった集合研修の課題解決のために、ビギ

ナーからスペシャリストまでを対象とした eラーニングを提供している(全8コー

ス)。自習方式で学習をすすめ、質問等は、システム内にある掲示板に投稿するか、

Q&A を参照する。掲示板への投稿に対して事務局もしくは学習しているメンバー

から回答、アドバイスされる。

「eUREKA(ユリイカ)」の8コース

コース名 内容 対象

在宅ワークに役

立つイロハ メール操作やファイルの取り扱い、イン

ターネット検索やサーバへのファイル転

送などの学習。

ビギナー

はじめてのテー

プおこし 会議の議事録や講演内容を録音した音声

データをテキスト化していく作業につい

て、基本から注意すべき点などを学習。

テープおこしに

興味がある人

Access VBA 入門 MicrosoftAccess でサンプルデータベース

を構築しながら VBA(Visual Basic for Application)を学習。

Access の基礎知

識がある人

はじめてのプロ

グラミング Microsoft の VBA 機能を活用しながらサ

ンプルシステムを構築することで、プログ

ラミングの学習を行う。

Excel の基礎知識

がある人

Web プログラミ

ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ

(HTML の書き方を主に)を学習。 Web 制作の学習

をしたい人 Web プログラミ

ングマスター Web サイト制作にて正しいコーディング

を行い、CSS(カスケーディング・スタイ

ルシート)を活用することで、デザイン性

やメンテナンスの面で優れた Web サイト

を制作できることを学習、

Web 制作の経験

がある人

ユーザビリティ

エンジニアリン

グ(1)Web アクセ

シビリティ概論

Web アクセシビリティの概要、必要性な

どの基本的なノウハウを学習。 Web 制作経験者

ユーザビリティ

エンジニアリン

グ(2)Web アクセ

シビリティ実践

アクセシビリティを向上させる Web サイ

トを制作するためにはどうしたらいいの

か。アクセシビリティを向上させるための

HTML や CSS の記述方法、その他コンテ

ンツの活用方法について学習。

Web 制作経験者

資料:eふぉーらむ資料より作成

Page 6: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

47

(4)社会参加支援

受講者が高いモチベーションをもって ICT を学ぶための仕掛けとして、就業をは

じめとする社会参加までの一貫した支援をしていくことが考えられる。

①企業等への就職の支援

多くの企業はまだ障害者の雇用の経験が少なく、理解、認識が不足しているために

障害者雇用に及び腰になっている。今後さらに企業等での就業機会を促進していくた

めには、働くことができるということを企業等に証明していかなければならない。こ

のことを念頭において各支援策を位置づける視点があってもよい。例えば、一定期間

行う集合研修は、企業のオフィスへの通勤が可能であることの証明になる。NPO 等

で ICT 講習等の講師として働くことなども実績になる(就労移行支援事業も活用で

きる)。米 CTP(Computer Technologies Program)では就職支援としてインター

ンシップに力を入れている。当人にとっては就業環境が確認できるだけでなく、イン

ターンを経験したということが履歴書に記載でき、実績として雇用主に認められる。

一方、雇用主側でもその人の能力や仕事が実際に出来るか事前に確認できるというメ

リットがあり、両者にとってリスクを軽減する仕組みと位置づけられている。

企業と障害者のコーディネートも必要になってこよう。大阪府 IT ステーションで

は、ICT 研修後の障害者をコーディネータが企業に紹介する事業を実施している。

コーディネータは企業の希望にあった条件の障害者を紹介するだけでなく、企業側の

条件、障害者側の条件の調整も行う。

②テレワーカーへの支援

ICT を活用したテレワークによる在宅就業の機会は、外出が困難な障害者にとって

意義が大きい。ただし、仕事の実績がない人が仕事を確保するのは非常に難しい。そ

のため、営業、顧客との調整、品質管理などを担い、テレワーカーに仕事を発注し、

OJT を行い、実績をつけさせていく団体、機関が必要になってくる。今回の事例調

査でも、多くの団体、機関でこうした活動を行っていた。企業が在宅就業支援団体と

して認められた団体を通じて障害者に発注すると、在宅就業障害者に対する年間の支

給総額に基づき、障害者雇用納付金制度における特例調整金及び特例報奨金が支給さ

れるといった支援制度もある。

在宅就業のため、就業管理は雇用側というよりも当人自身が行う必要が出てくる。

そのため、仕事に集中するあまり、長時間パソコン利用を行い、健康を害するケース

も多々みられる。情報環境を含め就業環境だけでなく、在宅勤務者の就業管理面から

のケアも求められる。

Page 7: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

48

2.企業への支援

(1)障害者雇用のための普及・啓発、情報提供

①障害者への理解の促進

多くの企業は障害者の雇用経験が少なく、障害者の就労に対する理解、認識が不足

していることが障害者雇用の大きな壁となっている。そのため、既に企業で働いてい

る障害者の業務内容や雇用側の支援の様子など実際の事例を示した普及活動をセミ

ナー等を通じて進めていくことは、常に必要なことである。

②一元的な情報提供

障害者の受け入れに当たって、オフィスのバリアフリー化、職場介助者の配置、職

業コンサルタントの配置など様々な公的助成制度が整えられているが、これらの存在

が雇用側に浸透していない状況がみられる。また、国、自治体など様々な主体が事業

を実施しているために、各制度が分かりにくく、制度を利用しにくい面があることが

指摘されている。こうした障害者受け入れに関わる各種支援制度の認識を促進するた

めに、一元的に情報提供していく体制づくりが求められる。

図表4-1 企業等に対する障害者雇用にかかる助成の例

名称 内 容

障害 者作業施 設

設置等助成金

障害者が作業を容易に行えるよう配慮された施設または改

造等がなされた設備の設置、整備を行う場合に、その費用

の一部を助成。

障害 者介助等 助

成金

障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要

な介助等の措置を実施する場合に、その費用の一部を助

成。手話通訳、職業コンサルタント、在宅勤務コーディネータ

なども。

職場 適応援助 者

助成金

障害者の雇用に伴い必要となる援助を行う職場適応援助者

を配置する場合に、その費用の一部を助成。

重度 障害者等 通

勤対策助成金

重度身体障害者、知的障害者、精神障害者等の雇用にあ

たって、障害者の通勤を容易にするための措置を行う場合

に、その費用の一部を助成。通勤援助者、通勤用バス、通

勤用自動車購入など。

資料:高齢・障害者雇用支援機構資料より作成

Page 8: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

49

(2)障害者受け入れのためのコンサルティング

①職員理解の促進

障害者の就業には、同僚の理解とサポートが欠かせない。また業務を行う上で課題

が生じた場合、必要なサポートを責任者がコーディネートすることも必要である。そ

のために、研修などを通じて日頃から障害者への理解を促進することが重要である。

例えば、米 CIL(Center for Independent Living)では、企業に対する理解促進の

ための研修事業を提供している。その研修では、障害者にどのように話しかけるか、

一緒にどのように働くかといったトレーニングを行う。このような研修は、障害者へ

の認識をたかめることで障害者雇用を容易にするということのほか、生産効率の向上

にも役立つことが指摘されている。企業には内部疾患等の障害を隠している社員がい

るが、こうした人たちは障害を隠すことに労力をつかっており仕事の能率に影響を与

えている。障害を隠す必要がなくなることで能率も上がり、企業にもメリットがある。

②就業環境整備

障害者が能力を十分に発揮して就業するためには、本人にマッチした AT 機器の用

意や業務の見直しなどが必要になる。また、会議などのほかの従業員とのコミュニ

ケーション方法などソフト面での就業環境整備も必要になる。障害者雇用の実績がな

い企業に対して、これらを助言、支援することが求められている。

Page 9: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

50

3.支援団体、自治体、地域における有効な支援実施のための方策

(1)ノウハウ、リソースの共有

様々な団体や関係機関が、障害者の ICT 利活用に関わる取り組みを行っているが、

個々の取り組みにとどまっており、それぞれの取り組みの成果をひろげ、効果的、効

率的に事業をすすめることが十分には行われていないという指摘がある。

障害種別、程度に応じた AT 機器や効果的に利用する工夫や、研修用に作成したテ

キストなど、障害者の ICT 利活用に関わっている団体、関係機関が情報交換を進め、

ノウハウやリソース(資源)を共有していくことが望まれる。

また、作業所などこれまで就業支援を行ってきた団体が、新たに ICT に関わる職

種開拓に取り組むことに対して、ノウハウ、リソースの提供によって支援することな

ども求められよう。

図表4-2 ノウハウ、リソース共有の例

種別 内 容 の 例

普及・啓発 障害者の活躍事例、普及・啓発活動内容

情報環境 障害種別/程度に応じた AT 機器、効果的な利用方法

ICT 技能習得 研修カリキュラム、研修方法、研修テキスト/e ラーニングコ

ンテンツ、点訳図書・テキスト

就業支援 仕事内容、仕事の確保の方法、就業時のケア

共通 インターネット上での関連情報の所在

(2)仕事受注の促進

①職域開拓

インターネットの普及、利活用の進化、新ビジネスの出現などによって、ショッピ

ングサイトの運営やアフィリエイトといった新しいかたちでの就業が可能となって

いる。また、デジタル地図制作、CAD 業務など社会経済の情報化に伴い、ICT に関

わる業務が増えている。今後一層の職域開拓を進める必要がある。例えば、Web ア

クセシビリティの評価やアクセシビリティに配慮したホームページ制作、ユニバーサ

ル製品の開発にモニターとして協力することなどユニバーサル社会の形成促進に資

する基盤整備に関わる仕事も考えられよう。

②行政等からの継続的受注体制の確立

障害者がモチベーションを保って ICT 技能習得に取り組むためには就業までの一

Page 10: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

51

貫した支援が必要である。また、就職のためには仕事をした実績が必要であることも

多く、団体等で働いたり、団体等から発注することなども多くの団体で行われている。

これらの団体で課題となっているのが、継続的な仕事の確保である。現在の経済環境、

商慣行等から、これらの団体が直接企業と同等の条件で競争して仕事を確保すること

は難しく、ノウハウ蓄積、実績づくり、仕事のベース確保の面から、公的機関から安

定的に発注される仕組みづくりが求められる。

既にこうした取り組みを行うところが出てきている。障害者の雇用に努力している

企業等から優先的に調達を行う制度が岐阜県(ハート購入制度)や滋賀県(ナイスハー

ト物品購入制度)などで行われている。また、高知県では従来行政内部で行っていた

業務を外部に委託するアウトソーシング事業に取り組んでおり、議事録のテープ起し

や統計のデータ入力などを地域で活動している団体等に発注を行っている。

【高知県地域版アウトソーシング事業】

高知県庁では、仕事のやり方を変える手段の一つとして、全庁的なアウトソーシ

ングに取り組んでいる。核となる業務以外は民間にも任せるもので、定型的な業務

を対象とした今までの外部委託とは異なる。高知県では平成 20 年 4 月までに、県

(知事部局)業務の 30%をアウトソーシングすることを基本方針としている。

地域版アウトソーシング事業は、県内各地でアウトソーシングの効果を実現させ

「地域の活性化」「雇用創出」に資することを目的とするもので、テレワークが可

能な仕事を受注し地域のなかで仕事を通じた人材育成のしくみをつくる役割を地

域エージェントが担っている。

「地域版アウトソーシング事業」における発注予定の例(平成 19 年度)

種別 内 容 委託期間

広報誌・ホーム ページの企画・制 作

NPO 法人の事業報告書などをホームペー

ジに掲載するための電子ファイルへの変

換作業など。

1~3 ヶ月

データ入力・集計

資料等の作成 「高知県の水道」データ入力、防災点検箇

所等実績調査、世帯数・人口統計資料作成

など、データ入力と集計業務。

2 週間~1 年

調査及び集計業

務 市町村道路施設現況調査、公共事業労務費

調査などの調査実施と集計業務。 4 ヶ月~1 年

テープ起し 県議会委員会、各種審議会、説明会、関係

機関とのヒアリングなど議事録、会議録の

作成。

1 週間~1 ヶ月

資料:高知県資料より作成

Page 11: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

52

(3)連携の強化

①団体・関係機関間での連携

障害者の ICT 利活用を進めていくためには、これまで述べてきたような多様な支

援を提供していくことが求められている。ただ、現実的な問題として障害者をサポー

トする NPO などの団体や公的機関が提供するそれぞれの支援メニューには限りがあ

る。そこで、団体・関係機関の間での連携が重要になってくる。

個々の障害者にニーズに即した最適な支援プログラムをコーディネートし、各団

体・機関が協力して支援プログラムを提供していくしくみをつくっていくことが求め

られる。

米カリフォルニア州では就業を望む障害者は、まず、リハビリテーション局にアク

セスする。同局では障害の程度、履歴などを評価し、障害者本人の意向と能力に沿っ

て、提携している NPO 等の支援プログラムをあっせんする。こうしたコーディネー

ションによって、本人に最適な支援プログラムが提供される。

また、情報環境整備、ICT 技能習得の場面では、個人指導やパソコンのセッティン

グなどの訪問サービスも必要になってくるため、各地のパソコンボランティア団体と

の協力関係を築いていくことも求められる。また、こうしたパソコンボランティアの

育成を進めるとともに、現状では ICT 機器利用における援助者の中心は家族である

ことから、家族に対する支援をしていくことなども求められる。

図表4-3 米カリフォルニア州の障害者就労支援スキーム

支援申請

本人

カリフォルニア州リハビリテーション局

就職

Computer Technologies Program

Center for Independent Living

Center for Accessible Technology

コミュニティ大学

支援プログラムのあっせん

支援提供

支援提供

資料:リハビリテーション局取材より作成

Page 12: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

53

②企業との連携

ICT 分野では急速に技術発展が進んでおり、先端技術を活用した支援事業を進める

ために企業と連携していくことがもっとあってもよい。例えば、英 Ability Net では、

Microsoft 社、IBM 社とサービスの向上や IT サポートのための協力関係を築いてい

る。

また、企業の業務にすぐに役立つような実践的な研修内容とするために企業と協力

関係をもつことも考えられよう。先にあげた米 CTP では、企業にボードメンバーと

して研修カリキュラムの評価に参加してもらい、実際の業務に役立つようにカリキュ

ラムの見直しを随時行っている。

図表4-4 団体・企業間の連携の例

種別 連 携 の 例

普及・啓発 企業での就業事例の紹介

情報環境 AT 機器・ソフトウェアの紹介、利用支援、開発協力

ICT 技能習得 カリキュラム作成、評価

就業支援 インターン実施、業務委託

③教育機関・職業訓練機関との連携

養護学校など教育機関でパソコン、インターネット等を利用するようになる障害者

も多いが、電子掲示板やメーリングリストを利用する際のマナーやホームページに掲

載されている情報の信頼性の判断などネットワークリテラシーが十分でないまま利

用することで実生活に影響を及ぼす可能性があるとの指摘がある。教育機関等と連携

して、文書作成や表計算ソフト、電子メール、インターネットなどの基本操作の習得

だけではなく、インターネットをはじめとするネットワークを利用する際のルール・

マナーの理解を進めていくことも必要である。

また、従来より全国の障害者職業能力開発校において障害者に対する職業訓練が行

われてきたが、障害者職業能力開発校の設置されていない地域での職業訓練を行う必

要があることから、一般の公共職業能力開発校への障害者の入校促進が進められた。

また、平成 16 年度からは企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関等に

おいて、個々の障害者に対応した内容で実施する委託訓練(厚生労働省)が実施され

ている。行政の施策や地域資源など地域の実情に応じた障害者支援を行うために、こ

うした委託訓練事業を活用していく視点も必要である。

Page 13: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

54

【障害者の職業能力開発施策】

厚生労働省では、障害者の職業能力開発について以下のような施策を進めている。

障害者の職業能力開発施策と ICT に関連する委託訓練の例

1 一般の職業能力開発校への障害者の入校促進

(1)バリアフリー化を推進して入校を促進(2)一般校を活用した職業能力開発事業

(知的障害者等を対象とした訓練コースの設置)

2 障害者職業能力開発校の設置・運営(全国19校)

障害者の職業能力開発

3 障害者の態様に応じた多様な委託訓練企業、社会福祉法人NPO法人、民間教育訓練機関等、地域の多様な委託先を活用して職業訓練を実施。

○訓練対象人員 6,300人(平成18年度)

4 障害者の技能に関する競技大会(アビリンピック)の開催

コース区分 知識・技能習得訓練コース

コース名称 IT基礎科

受講者数 10 人

訓練期間 3 ヶ月

訓練時間 300 時間

カリキュラム内容 ビジネスマナー、Word、Excel 実務、ホームページ作成、NPOについて

対象障害 身体障害

委託先 障害者の起業をサポートするためのNPO法人

特記事項 訓練修了生がパソコンの初歩を講習する活動を始め、有償での講習

依頼を受けるまでになった。

資料:厚生労働省資料(ホームページ)より作成

Page 14: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

55

4.障害者ICT利活用支援の在り方(総括) (1)地域における総合的な支援の実施

地域で実施されている障害者施策、支援団体やパソボラをはじめとする地域リソー

スなど地域の状況によって、障害者の ICT 利活用の支援の取り組み方はかわってく

ると考えられるが、ICT 利活用を通じた社会参加にいたる様々な場面で支援が必要と

されている。本調査研究では、必要とされる支援を「普及・啓発」「情報環境整備」

「ICT 技能習得」「社会参加/就業支援」と整理をしたが、それらのうちの一つが不

十分でも、社会参加までにいたる道筋をつくることは難しい。地域においてこれらの

支援を提供する総合的な体制を整えることが必要である。ただし、これらの支援は幅

広い分野に関わっていることから、一つの機関・団体等で全ての支援を提供するのは

難しく、様々な機関・団体等が連携、相互補完することで、地域として支援メニュー

を取り揃えることが現状に即した解となるだろう。行政機関には、こうした連携、相

互補完を進めていくことについてのビジョン・方向性の提示や各団体・機関間の支援

メニューの調整などとりまとめの役割も求められよう。また、障害者が社会参加する

ことで地域にもコミュニティ醸成といった波及効果が得られており、行政機関には、

こうした支援策を障害者施策としてだけではなく、地域活性化、産業振興の観点から

捉えることが肝要であり、そうすることで支援メニューの幅が広がることも期待でき

る。

図表4-5 地域における総合的な支援のイメージ

Page 15: 第4章 障害者のICT利活用による社会参加のための支援の在り方 · Web プログラミ ング入門 Web サイト制作に最低限必要なノウハウ (HTML

56

(2)コーディネート機能の充実

支援サイドでは情報共有を行い、事業連携を進めていくことになるが、ここで重要

なのが障害者に対する各種のサポートのコーディネート機能である。面談等で障害者

一人ひとりの志向や適性、障害の種類や程度、生活環境などを把握した上で、最適な

支援メニューならびに支援体制をプランニングするとともに、実際のサポートを実施

している機関・団体等への斡旋やその後のフォローなどをしていく必要がある。

図表4-6 コーディネート機能のイメージ

(3)障害者の自立のための支援

障害者へのそれぞれの支援においては、本人のやる気を引き出す、また、自立を促

す観点をベースにもっておくことが重要である。ICT 技能を学ぶための目標をもたせ

るため講師など障害者が社会参加している姿を見せることや、実践的なカリキュラム

に加えて仕事を斡旋することなどで就業につながることなどでやる気を引き出す。ま

た、技能習得の過程では、障害に対応して情報検索を効率的に行う方法や自分で Web

サイトを利用して学習する方法など、障害者の自立を念頭においた内容とすることが

求められる。