第6章 水処理微生物学第6章 水処理微生物学 1 この章の背景と目的 背景 •...

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第6章 水処理微生物学 1 この章の背景と目的 背景 下水処理場では,様々な微生物を利用して,下水処理 ならびに汚泥処理 が行 われている. 微生物の基本的性質を知ることは,実際の施設の仕組みを理解する上で重 要である. 目的 生物分類と水処理微生物の基礎を説明できる. 微生物反応の速度論,特にモノー式を理解し,説明できる. SRTの概念を理解し,説明できる. What is Microorganism? What is SRT? What is Monod equation? 2 1 生物分類 近代的生物分類はリンネから始まった! リンネは生物を  の二界に分けた(二界説). しかし,動物・植物の分類になじまない生物の存在が明らかにされるにつれ, さらに細かい分類がなされるようになった. ヘッケルは,三界説を唱えた. ホイタッカーは,五界説を唱えた.  その後,別の研究者達により,六界説,八界説などが唱えられた. 動物でも植物でもな い生物のグループ 原核生物のグループ 3 つづき 動物界 植物界 原生生物界(他の界に属さない生物) さらに時代が進み,分子生物学が発展すると,界より上位に を設定する仮説が提案された. (2) (古細菌)原核生物 ドメイン (3) (真核生物) (1) (真正細菌) これが現在主流の考え方. 4

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Page 1: 第6章 水処理微生物学第6章 水処理微生物学 1 この章の背景と目的 背景 • 下水処理場では,様々な微生物を利用して,下水処理ならびに汚泥処理が行

第6章 水処理微生物学

この章の背景と目的背景

•  下水処理場では,様々な微生物を利用して,下水処理ならびに汚泥処理が行われている.

•  微生物の基本的性質を知ることは,実際の施設の仕組みを理解する上で重要である.

目的

•  生物分類と水処理微生物の基礎を説明できる.

•  微生物反応の速度論,特にモノー式を理解し,説明できる.

•  SRTの概念を理解し,説明できる.

WhatisMicroorganism?

WhatisSRT?

WhatisMonodequation?

1 生物分類近代的生物分類はリンネから始まった! リンネは生物を

 

の二界に分けた(二界説).

しかし,動物・植物の分類になじまない生物の存在が明らかにされるにつれ,さらに細かい分類がなされるようになった.

ヘッケルは,三界説を唱えた.

ホイタッカーは,五界説を唱えた.

 

その後,別の研究者達により,六界説,八界説などが唱えられた.

動物でも植物でもない生物のグループ

   界    界

   界    界

原核生物のグループ

つづき

動物界植物界菌 界原生生物界(他の界に属さない生物)

さらに時代が進み,分子生物学が発展すると,界より上位に 

を設定する仮説が提案された.

(2)      (古細菌)) 原核生物ドメイン

(3)      (真核生物)

(1)      (真正細菌)

これが現在主流の考え方.4 

Page 2: 第6章 水処理微生物学第6章 水処理微生物学 1 この章の背景と目的 背景 • 下水処理場では,様々な微生物を利用して,下水処理ならびに汚泥処理が行

つづき

ドメイン以下の分類体系は,以下のようになっている.

ドメイン(domain) ↓

界(kingdom) ↓

門(division) ↓

綱(class) ↓

目(order) ↓

科(family) ↓

属( genus) ↓

種(species )

動物界 ↓

脊索動物門 ↓ ほ乳綱 ↓ サル目 ↓ ヒト科 ↓ ヒト属 ↓

Sapiens

植物界 ↓ 

被子植物門 ↓ 

双子葉植物綱 ↓ 

キク目 ↓ 

キク科 ↓ 

タンポポ属 ↓ 

カンサイタンポポ

上記した階級の他に,必要に応じて亜門,亜綱,亜目,亜科,亜属,亜種を設けて,さらに細かく分類している.

例1 例2

2 水処理微生物

廃水処理に活躍する生物は,一般に“       ”と称される生物群である.微生物とは,学術的分類に即した名称ではなく,文字通り“        ”                          に対して与えられる通称である. 

 活性汚泥法では,“       ”と称される微生物集団の働きにより廃水を処理するが,この微生物集団には,バクテリア,アーキア,ユーカリアに属する微生物が含まれており,複雑な生態系が維持されている. 動物界

原生生物界

バクテリア/アーキア

真核生物

原核生物

活性汚泥の生物界 6 

一般にいわれる”細菌(バクテリア)”が該当する.活性汚泥法においては,以下が該当する.

2.1 細菌(バクテリア)

(1)      (有機物酸化細菌の総称)バクテリア – プロバクテリア門 – ベータプロバクテリア綱 – ロドシクロス目 – ロドシクロス科 – ズーグレア属 (Bacteria) (Proteobacteria) (Betaproteobacteria) (Rhodocyclares) (Rhodocyclacease) (Zooglea)

亜硝酸酸化細菌(硝酸菌)

アンモニア酸化細菌(亜硝酸菌)

バクテリア

アーキア

Itrosomonas属, Nitorosococcus属, Nitrosospira属

Nitrosopumilus martimus Nitrososphaera gargensis Nitrosocaldus yellowstonii

Nitrobacter 属,Nitrococcus 属 バクテリア

Pseudomonas denitrificans, Paracoccus d,Thiobacillus d. バクテリア 脱窒菌(硝酸還元菌)

(2)      (アンモニア酸化細菌,亜硝酸酸化細菌)

(3)      (硝酸・亜硝酸を還元する細菌の総称)

最近発見された

バクテリア(真正細菌)

結核菌�

出血性大腸菌O157�

サルモネラ�

腸炎ビブリオ�コレラ菌� 8 

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黄色ブドウ球菌�

アンモニア酸化細菌 (亜硝酸菌)�

乳酸菌�

ビフィズス菌�

納豆菌� 細菌には,藍藻(シアノバクテリア),乳酸菌,大腸菌,赤痢菌,破傷風菌,コレラ菌など,我々の生活に深く関与しているものがある.

2.2 古細菌(アーキア)

などが該当する.汚泥の嫌気性消化において,        が重要な役割を演じている.

2.3 原生生物界  原生生物界に属する微生物には,以下のものがある.

1)藻  類  黄緑藻,珪藻,渦鞭毛藻,2)繊毛虫類 ・ゾウリムシ(Paramecium),   ・ラッパムシ(Stentor), ・ツリガネムシ(Vorticella),   ・ムレケムシ(Epistylis), ・クチビルムレケムシ(Oercularia),・マルイタケムシ(Aspidisca), ・Carchesium,3)鞭毛虫類  ミドリムシ(Euglena),4)肉質虫類  アメーバ類,

10 

原生生物

Ameoba

Paramecium

Stentor

Euglena

Vorticella

Apystylis 11 

2.4 動物界

 動物界に属する生物には,以下のものがある.

・扁形動物門に属する動物(プラナリアなど),

・軟体動物門に属する動物(シジミやカワニナなどの貝類)

・環形動物門に属する動物(ミミズ,ゴカイ,ヒルなど),

・節足動物門に属する動物(ミジンコ,ダニ,アブ,ハエ,ユスリカ,カゲロウ,ト

ビゲラなど),

・輪形動物門に属する動物(ワムシなど),

・類線形動物門に属する動物(ハリガネムシなど),

・緩歩動物門に属する動物(クマムシ),

・線形動物門に属する動物(線虫,回虫など),

活性汚泥において出現頻度が高いものは,ワムシ

(RotariaやPhilodina,Lecaneなど)である.12 

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活性汚泥の微生物相と処理機能は関係している.一般に,

 原生生物で鞭毛を持つものやアメーバ類が中心なら    処理状況は悪い 

 繊毛を持つものおよびワムシなどが多い         処理状況は良い 

と言われているが,そうでない場合も多々ある(らしい). 

2.5活性汚泥の微生物相と処理機能

Zooglea

糸状細菌

糸状細菌が増えるとSVIが増し,汚泥の沈降性が悪くなる!

13 

3 微生物と環境

微生物の代謝(metabolism:同化と異化)は,

1) 

2) 

3) 

4) 

5) 

6)湿度,

7)その他(浸透圧,圧力,光線等)

の環境条件の影響を受ける.

14 

細胞合成,生体維持のための必須条件として

が最も重要.

 微生物が成育するのに必要な栄養源として,以下のものがある.

(1)炭素源,

(2)窒素源,

(3)無機塩類,

(4)微量栄養素(ビタミン類など)

微生物の種類によって必要な物質の種類は異なる.

3.1 栄養源とエネルギー源

15 

3.1.1 脱水素反応

 一般に化学反応においては,一方の物質が酸化されると,もう一方の物質は還元される(酸化と還元は同時に起こる).相手を酸化する物質(酸化剤)は,反応によって還元される.反対に,相手を還元する物質(還元剤)は,反応によって酸化される.

酸化・還元は,右の表のように定義される.電子を失えば,あるいは水素を失えば酸化されたのである.

酸化還元の定義

着目項目 定 義

酸化 酸素を得ること

還元 酸素を失うこと

酸化 酸化数が増加すること

還元 酸化数が減少すること

酸化 電子を失うこと

還元 電子を得ること

酸化 水素を失うこと

還元 水素を得ること

酸素

酸化数

電子

水素

物質A(酸化剤)+物質B(還元剤)⇄ 物質A’ + 物質B’       還元される  酸化される

覚える! 16 

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 微生物による酸化反応は,有機物あるいは化学物質から水素原子をとること (     )あるいは電子を奪うことによって進む. 廃水処理における有機物・化学物質は水素をとられる方の物質である.そのため,エネルギー源として注目した場合の有機物・化学物質は, “        ”あるいは “        ”と呼ばれる. 

有機物の酸化は脱水素反応による

有機物・化学物質 …… 水素供与体・電子供与体

O2,CO2,有機物,NO3-など …… 水素受容体・電子受容体

H+

脱水素

有機物

反対に,水素あるいは電子を受け取る方の役割を演じている物質を 

“       ”あるいは“        ”という. 

17 

例えば,硫化水素の酸化反応は次のようになる.この反応では,酸素が電子受容体になっている.

電子を得たので,O2は還元された(電子受容体)

電子を失ったので,Sは酸化された(電子供与体)

2H2S → 4H++4e- +2S

O2+4e-→ 2O2-

2H2S+O2→2S +2H2O

18 

(1)         (nutritionalrequirement) 栄養要求性とは,微生物の増殖に必要な栄養源である”   “に着目した性質.

(2)         (energysource)  生体の維持と有機物の酸化分解など微生物の活動に必要なエネルギーに着目して分類すると,

(3)               .

3.1.2 栄養要求性とエネルギー源による微生物分類

   栄養微生物(自栄養微生物)    栄養微生物(他栄養微生物) 二酸化炭素を利用できる 二酸化炭素を利用できない

    微生物

化学反応から得ることができる

    微生物

光合成によって得ることができる

    を利用する微生物    を利用する微生物

19 

エネルギー源 炭素源水素源

光(Photo)化学反応(Chemo)

有機物(Organo)無機物(Litho)

独立栄養(Heterotroph)従属栄養(Autotroph)

微生物の呼び方は,以上の観点をまとめ以下のようにする.

光合成有機物酸化独立栄養微生物化学合成無機物酸化従属栄養微生物化学合成無機物酸化独立栄養微生物

などと呼ぶ. (教科書P215,表4.3参照)

活性汚泥は,廃水中の有機物を水素源かつ炭素源として利用する

を中心とする微生物集団である.

化学合成従属栄養微生物

20 

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3.1.3 化学合成独立栄養微生物

化学合成独立栄養微生物には, アンモニア酸化細菌(亜硝酸菌), 亜硝酸酸化細菌(硝酸菌), 硫黄酸化細菌, 水素細菌, 鉄酸化細菌,などがある.これらの細菌のエネルギー反応は,以下の通りである.

亜硝酸菌:2NH4++3O2→2NO

2-+4H++2H20(ΔG0=-66kcal/mol)硝酸菌 :2NO2+O2→2NO3         (ΔG0=-17kcal/mol)硫黄酸化細菌:2H2S+O2→2S+2H20    (ΔG0=-41kcal/mol) 2S+2H20+3O2→2SO4

2-+4H+  (ΔG0=-118kcal/mol)水素細菌:2H2+O2→2H2O          (ΔG0=-56kcal/mol)鉄酸化細菌:4Fe2++4H++O2→4Fe

3++2H2O(ΔG0=-10kcal/mol)

6CO2+12H2O→C6H12O6+6H2O+6O2これらの反応で得たエネルギーを利用して細胞合成する 21 

3.1.4 その他の栄養源

微生物が増殖(細胞合成)するためには,炭素源だけでなく,   や    ,

その他の微量元素が必要である.化学合成従属栄養微生物(活性汚泥を構成する

微生物)の場合,除去される汚濁物(BOD)に対し,

BOD:N:P=100:3~5:1

の比率で窒素とりんが必要であるとされる.窒素やりんが不足する場合は,これ

らを添加してやる必要がある.

22 

3.2 温度

3.3 酸素

微生物は,増殖に最適な温度条件に関し,次の3つに分類される. 1)      温度範囲が10-20℃ 2)     温度範囲が20-40℃ 3)     温度範囲が50-60℃

これはあくまでも目安.微生物の中には100℃の熱湯の中で生育するものもある.

微生物は酸素要求性の有無により次の3つに分類される.

1)       O2(分子状酸素)は増殖に有害

2)          O2(分子状酸素)を利用できる場合は利用し,O2がな

くても増殖できる

3)         増殖にO2(分子状酸素)が必要23 

4 微生物反応の速度論4.1 基質

廃水中の汚濁物質は,微生物体の表面に吸着され,ついで微生物が分泌する酵素の作用で酸化分解され,体内に取り込まれる.微生物が分泌する体外酵素の作用を受ける物質を“     (substrate)”という.

 基質(廃水中の汚濁物・有機物)は,エネルギー源であり,かつ炭素源等の細胞合成材でもある. 基質は生化学反応によりエネルギー,細胞,そして代謝産物へとかわる.基質である汚濁物質が分解されて,すなわち汚濁物の除去に応じて微生物は増殖する.

基質(汚濁物質・有機物)

微生物表面

体外酵素を分泌

細胞内

低分子化

基質代謝メカニズムのイメージ

異化

同化

24 

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4.2 代謝の時間変化

微生物

リアクター

汚濁物微生物

汚濁物

abc

d

時間

 汚濁物(基質)と微生物を一緒にリアクターに保持し,適当な環境条件を整えてやると,微生物は汚濁物を分解し始める.この時の時間変化をグラフにしたのが下の図である.汚濁物は時間と共に減少していく.

一方,微生物ははじめゆっくり,ついで急激に増殖し,汚濁物がほとんどなくなると,減少していく,というパターンをとる.増殖過程におけるa,b,c,dの時期を      ,      ,     ,      と呼ぶ.

内生呼吸期では,枯渇する基質のため,細胞内の貯蔵物質の消費や細胞の自己破壊の結果,微生物は減少していく.

25 

4.3 増殖速度とモノー式単位除去基質当たりの微生物増殖量を      といい,通常Yで表す.基質除去速度(-dS/dt)と微生物の増殖速度(dX/dt)とは,以下の式で結びつく.

ここで,tは時刻,Sは基質濃度,Xは微生物濃度である.

基質は除去されると減少し,その結果,微生物(細胞)は増殖するので,左辺にはマイナスがついている.また,微生物の増殖速度dX/dtは,次式で示される.

ここで,μは         (specificgrowthrate)であり,増殖速度の大小を表すパラメータである.μは[1/time]の次元を持ち,基質濃度や温度,pH等の関数で表される. 26 

μを基質濃度Sのみの関数と考えた場合, (1)μ=C(定数)  Sに依存しない (2)μ=CS    Sの濃度に比例などが例として考えられる.

       はμを次式で表した.

ここで,μmax:最大比増殖速度,Ks  :飽和定数,である.この式を        という.

µ = µmax⋅ SKs+ S

S

μ μmax

0 Ks

μmax / 2

S

μ μmax

0 Ks1

μmax / 2

Ks2

基質1

基質2

 モノー式をグラフにしたのが右の図である.基質濃度Sが小さい時は,μはSに比例して大きくなるが,ある一定程度のSに達すると,μはμmaxに近づく. すなわち,モノー式は,Sが小さい時はSに比例して大きくなる(μ=CS),Sが大きくなると一定値になる(μ=μmax)という(1)と(2)の性質を併せ持った関数型になっている. Ksは,μがμmax/2になる時の基質濃度であり,対象とする基質に対する      の大小を表すパラメータである.基質1は基質2よりも親和性が    物質であることを示している. 27 

4.4 SRT

微生物

基質 必要以上に増えた微生物は取り出す

微生物

基質 減りすぎたら増やしてやる

増えたら取り出す

減ったら増やす

 廃水の生物学的処理においては,関与する微生物の適切な保持が重要である.増えすぎた場合は,取り出してやり,逆に減りすぎたら増やしてやることが必要.

28 

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流入量Qin 増殖と死滅

引き抜き(余剰微生物)

反応タンク

沈殿池

容積V

X(微生物濃度)

Xe:処理水微生物濃度流出量:Qe(=Qin-Qw)

Qw(=rw×Qin):引き抜き量Xw:引き抜き微生物濃度

Qin

増殖

引き抜きによる減

処理水と共に流出する分

このことを数式を使って考えてみる.以下のモデルを考える.

 リアクターにおける微生物濃度Xの時間変化は,次式で表される.通常,流入水中の微生物量は無視できると考える.

ここで,Qinは流入水量,μは比増殖速度,dは微生物の死滅速度,rwは余剰微生物引き抜き率である.添字wとeは,それぞれ引き抜きおよび処理水を意味する.

29 

θX=�

V µ − d( )X −Qw ⋅ Xw − (Qin −Qw) ⋅ Xe ≥ 0V µ − d( )X ≥Qw ⋅ Xw + (Qin −Qw) ⋅ Xe

V ⋅ X ≥ Qw ⋅ Xw + (Qin −Qw) ⋅ Xeµ − d( )

V ⋅ XQw ⋅ Xw + (Qin −Qw) ⋅ Xe

≥ 1µ − d( )

必要量の微生物がリアクター内に保持されるためには,

でなければならない.したがって,

が成立する必要がある.ここで,左辺に注目する.左辺をθXとおく.

=30 

とも呼ばれる. 

一方右辺         は,死滅を考慮した比増殖速度(真の比増殖速度)の逆数になっている.次元は[time].

以上より,この式は,

比増殖速度μの微生物を反応器に維持するためには,1/(μ-d)以上のSRTを確保する必要がある.

θXを固形物滞留時間,または

と呼ぶ.次元は[time].固形物とはもちろん微生物のこと.活性汚泥法では,汚泥滞留時間,

とまとめられる.この式は以下のことを示している.

31