第6章 構造方程式モデリング - mie...
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構造方程式モデリング
PART
2
第6章
第6章 構造方程式モデリング
6.1 成型工程の強度構造モデルの構築(GM,SEM)
「SEM因果分析編」,「総合編 with SEM」には,相関係数行列や偏相関係数行列などを用いて変数
や特性値間の相互関係や回帰モデルを,パス図を用いて表現し,モデルの構築,検証をおこなうことができる
手法が搭載されています.これらの方法がグラフィカルモデリング(GM)や構造方程式モデリング(SEM)
です.
従来の多変量解析(重回帰分析,因子分析,主成分分析)から一歩進んだ,複雑なデータ構造や仮説モデル
を表現し,評価できる方法なので,意識調査分析や設計開発,品質改善などで活用されています.ここでは,
CMOSのIC製造工程へのばらつき低減活動への活用事例を紹介します.
問題設定
JUSE社のCMOS-IC製造工程では,Pチャネルの閾値電圧 Vth のばらつきの低減が課題となってい
ます. 閾値電圧 Vth を特性として要因分析をおこなったところ,特性に変動を与える要因として,基盤濃度,熱
処理工程での固定電荷,ゲート酸化膜圧(TOX)があげられました.
しかし,この中で測定が可能なのは,ゲート酸化膜圧(TOX)のみであり,その他の要因は直接的な測定が困
難であるために以下の代用特性を測定することにしました.
<目的特定> Pチャネルの閾値電圧Vthのばらつきの低減
<要因>
直接測定 :ゲート酸化膜圧(TOX)
代用特性
・基盤濃度の代用特性 :ウエル形成時のモニタウエハの抵抗(R1)
・熱処理工程での固定電荷の代用特性① :A特性の抵抗(R2)
・熱処理工程での固定電荷の代用特性② :Pチャネルの抵抗(R3)
なお,この場合,製造工程の中で,要因間には完全に順序がついているとします.
このうち,R1は基盤濃度の代用特性であり,R2,R3は熱処理工程の影響を見るために導入しています.
IC製造工程の流れは下記のようになっています.
したがって,得られる特性には順番があり,R1→TOX→R2→R3→Vthとなります.
参考文献:「SEM因果分析入門」:棟近雅彦監修,山口和範,廣野元久著,日科技連出版社,2011年
「グラフィカルモデリングの実際」:日本品質管理学会・テクノメトリックス研究会編,日科技連
出版社,1999年
6.1 成型工程の強度構造モデルの構築(GM,SEM)
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関連手法の簡単な説明
①グラフィカルモデリング(GM)とは グラフィカルモデリング(GM:Graphical Modeling)は変数間の関係を分析するための統計的手法ですが,
変数間の関係をビジュアルに表現することができます.
様々な確率変数の依存関係をグラフを用いてモデル化しますが,確率変数を頂点,直接の依存関係を辺に対
応させたグラフを描きます.例えば回帰式 z=μ+αx+βy+eに対しては
などとグラフで表現します.分析で用いるグラフには,無向独立グラフ(変数間に順序がない場合),連鎖独
立グラフ(変数群の間は完全に順序がつく場合),有向独立グラフ(変数間に完全に順序がつく)などを選択
できます.
本事例では,製造工程は直接につながっており,それぞれの特性には順序性があるので有向独立グラフと判
断されます.
グラフィカルモデリング(GM)では,変数間の関連の強さを,偏相関係数の値でとらえます.
2 変数の相関関係を調べるとき,それぞれの変数が第3 の変数と相関を持っていると,観察された相関が真
の相関関係を示さないことがあります.そこで,対象としている2変数以外の変数の影響を取り除いた相関係
数を求めることが必要になるため,偏相関係数を用います.p 個の変数があるとき,q 個の変数を固定した(影
響を取り除いた)p q 個の変数間の偏相関係数は「 q 次のオーダーの偏相関係数」とよばれます.
グラフィカルモデリングを用いることで,変数間の因果関係や介入による変化,交絡因子などを統一的に扱
うことができるといわれます.
本事例では,変数間の因果関係を巡回無しの有向グラフを使って表します.
グラフィカルモデリングでは, グラフと確率変数を対応づける際に重要な用語として条件付独立という概念
を用います.変数X1と変数X2の偏相関係数が0の場合に,「変数X1とX2は他の残りの変数を与えたも
とで条件付き独立である」といいます.
②構造方程式モデリング(SEM)とは SEMはグラフィカルモデリングの有向独立グラフのようなパス図を用いて変数間の因果関係を表します.
矢線で表したパス図により,観測変数,潜在変数,交互作用を含む難しい統計モデルを表現することができま
す.
このように,SEMは直接観測できない潜在変更を導入し,潜在変数と観測変数との間の因果関係を同定する
ことにより,社会現象や自然現象を表現します.
例えば,重回帰分析でよく遭遇することですが,「偏回帰係数の符号や値が固有技術的な知見と異なる場合」
や「固有技術的な知見から目的変数に影響を与えているはずと考えられる変数が回帰式に取り込まれない場合」
等を,パス図等に表し,それを検証することでモデルの妥当性を検証できます.
なお,回帰モデルをパス図で表すルールは以下のとおりです.
・観測変数は四角形で囲む
・潜在変数は円または楕円で囲む
・誤差変数は記号のみか(楕)円で囲む
・片方矢印は因果を表す
・双方矢印は(単なる)相関関係を表す
・片方矢印を受けた変数(従属変数)には必ず誤差変数が付属する
・片方矢印の上には,パス係数(影響指標,因果の大きさ,強さ)の推定値が付される
・双方矢印の上には,相関係数または共分散の推定値が付される
X
Y
Z
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第6章
①仮説に基づき変数(観測変数,因子)間の関係をモデル化します.
ウエル形成時の
モニタウエハの抵抗
ゲート酸化膜厚
A特性の抵抗
Pチャネルの抵抗
Pチャネルの閾値電圧
②構築したモデルをデータに当てはめます.
③モデルがデータに適合していれば,そのモデルから考察をおこないます.適合していなければ仮説モデルを
修正します.
仮説モデル データ
モデルをデータに当てはめる
パス係数
当てはめ結果
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③GMとSEMの比較
共通点と相違点 グラフィカルモデリング(GM)のことを「裏センケイ」,構造方程式モデリング(SEM)のことを「表セ
ンケイ」とよぶことがあります.共分散または相関係数行列を表からモデル化しようとするのが「構造方程式
モデリング(SEM)」であり,裏(逆行列→偏相関係数行列)からモデル化するのがGM「グラフィカルモ
デリング(GM)」であるということができます.
④GMとSEMの連携 GMで有向独立グラフを作成後,SEMのパス図を作成し,パス解析をおこないます
本事例では,観測変数間のグラフィカルモデリング(GM)をおこない,作成した有向独立グラフをもとに,
SEMのパス図を作成し,パス解析を行います.
なお,GMで変数間が有向独立グラフにならない場合には,固有技術的な知見を加えて,有向独立グラフを
作成し,その上で,SEMのパス解析を実施します.
本事例の解析ストーリー
使用するStatWorksの主な機能
③<GMによる要因分析・有向独立グラフの作成>
③-1:ワークシートへのデータ入力
③-2:グラフィカルモデリング(GM)の起動
③-3:グラフィカルモデリング(GM)プロジェクト※の新規作成
※GMのデータと共分散選択,独立グラフがひとまとめになったもの
③-4:データ形式(相関係数行列形式)とサンプル数の指定
③-5:グラフィカルモデリング(GM)計算処理プログラムの起動
③-6:独立グラフの指定
③-7:共分散選択
③-8:独立グラフの構築
④<GM)の有効グラフをSEMのパス図に変換>
④-1:有向独立グラフを「SEM」のパス図へ変換
④-2:SEMパス図の表示
②データ収集
③GMで有向独立グラフを作成
①問題の設定
⑤SEMによるパス解析
⑥解析結果と対策の検討
パス図に変換
④GMの有向グラフをSEMの
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⑤<SEMによるパス解析>
⑤-1:ワークシートへのデータ入力
⑤-2:構造方程式モデリング(SEM)の起動
⑤-3:構造方程式モデリング(SEM)プロジェクト※の新規作成
※構造方程式モデリング(SEM)のデータとパス図,分散結果がひとまとめになったもの
⑤-4:データ形式(相関係数行列形式)の指定
⑤-5:サンプル数の指定
⑤-6:構造方程式モデリング(SEM)計算処理プログラムの起動
⑤-7:パス図の作成
⑤-8:分析結果の出力・評価
データの収集
今回収集したデータの原データ表から相関係数行列を生成したデータを解析に用います.
なお,原データ表のサンプル数は29です.
データ表(相関係数行列) NO. サンプル名 R1 TOX R2 R3 Vth
1 R1 1.000 0.015 0.076 -0.077 0.361
2 TOX 0.015 1.000 -0.428 0.441 -0.399
3 R2 0.076 -0.428 1.000 -0.206 0.423
4 R3 -0.077 0.441 -0.206 1.000 -0.796
5 Vth 0.361 -0.399 0.423 -0.796 1.000
6.1.1 グラフィカルモデリング(GM)による解析
手順1 ワークーシートヘのデータ入力
ワークシートにデータを入力し
ます.
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[手法選択]-[多変量解析]-[GM(グラフィ
カルモデリング]を選択します.
手順2 分析データの選択
[分析データの選択]が表示されます.
ここでは「ワークシート上のデータを分析」を選択します.
手順3 データ形式の指定
データ形式の指定には,生データ形式ま
たは分散共分散(相関係数行列)形式の2
種類がありますが,ここでは後者を指定し
ます.
ただし,この場合は原データ表のサンプ
ル数も指定します.
「データ形式」:分散共分散(相関係数)
行列形式
「サンプル数」:29を入力し,「OK」ボ
タンをクリックします.
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手順4 プロジェクトファイルの作成
グラフィカルモデリング(GM)のプ
ロジェクトファイルが作成されます.
「共分散選択」を選択します.
「独立グラフの指定」画面が表示されます.
特性と要因間が完全に順序がつくので,「有向
独立グラフ」を選択します.
手順5 変数の指定
「変数の指定」画面が表示されます.
分析で使用する変数を用いる順番に指定しま
す.
問題設定の工程図で示しているように,
第1変数:「R1」
第2変数:「TOX」
第3変数:「R2」
第4変数:「R3」
第5変数:「Vth」
の順に指定します.
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第1変数「R1」を指定し, をクリックし,
使用変数(変数順序の順)へ移動させます.
次に第2変数「TOX」を指定し, をク
リックし,使用変数(変数順序の順)へ移動さ
せます.
同様に第3変数「R2」を指定し, をク
リックし,使用変数(変数順序の順)へ移動さ
せます.
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第4変数「R3」を指定し, をクリックし,
使用変数(変数順序の順)へ移動させます.
第5変数「Vth」を指定し, をクリック
し,使用変数(変数順序の順)へ移動させます.
全ての変数を移動させたら「OK」ボタンをク
リックします.
手順6 共分散選択による解析
「共分散選択」画面が表示されます.
*なお,無向独立グラフでは,行列の下
三角部分に偏相関係数が表示され,偏相
関係数を見て,絶対値が も小さい組合
せの線(通常は青色で着色されたセル)
を切断します.
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次に,メニューボタンの「独立グラフ」
を選択します.
共分散選択した結果をもとに構築
した有向独立グラフが表示されます.
変数間は順序を考慮し,矢線(↓)
で結ばれています.
線の太さは偏相関係数の絶対値の
大きさを反映しています.
画面上部にフルモデルと比較した場
合の逸脱度,自由度,p値,適合度指
数が表示されています.
ここでは,切断の必要ありませんが,
目安として,フルモデルとの比較のP値が0.5以上,直前のモデルとの比較のp値が0.2~0.3なら,切断してよ
いものと考えます.
・変数間の順序性を考慮し,現在のモデルに対するグラフが表示される.全ての変数が矢線(↓)で接続さ
れています.
手順7 独立グラフの線の切断,接続
共分散選択に偏相関係数の大きさを
もとに,線の切断や接続などを行います.
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線の切断 共分散選択では,偏相関係数が「0」に近いものから線を切断していきます.ある2変数の
偏相関係数が0であることはその変数が条件付き独立であることを意味します.変数の因果
関係を表す独立グラフ(パス図)において,条件付き独立となる変数間には矢線を設けません.
また,切断の際には,逸脱度のp値を参考にします.目安として,フルモデルとの比較のP値が
0.5以上,直前のモデルとの比較のp値が0.2~0.3なら,切断してよいものと考えます.
★偏相関係数の値(下三角)★
セルの【着色】 ・青色:偏相関係数の絶対値が 小のセル
・水色:切断した(0とおいた)セル
★相関係数の残差=標本相関係数-モデル相関係数(上三角)★
【着色】 ・赤色:残差の絶対値が 大のセル
「R1」と「TOX」の偏相関係数のセ
ルが青色で着色されており,偏相関係数
が0.01500と小さいので,切断します.
該当するセルをクリックし,メニュー
ボタンの「切断」をクリックします.
「グリッド上で指定された線(TOX,R1)を
切断しますか?」と表示されるので,「はい」
をクリックします.
切断後のp値を確認し切断が妥当で
あったかどうかを検証します.
p値が「0.9356」(≧0.5)と十分に
大きいので,切断は問題ないと判断しま
す.
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「R1」と「TOX」が終了したので,
次変数へ移ります.
メニューボタンの「次の変数へ」をク
リックします.
「R1」と「R2」の偏相関係数が
青色で着色されており,偏相関係数が
0.09121と小さいので,切断します.
該当するセルをクリックし,メニュ
ーボタンの「切断」をクリックします.
「グリッド上で指定された線(R2,R1)を
切断しますか?」と表示されるので,「はい」
をクリックします.
切断後のp値を確認します.
「0.6226」(≧0.5)と大きいので,
切断は問題ないと判断します.
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「R1」と「R2」が終了したので,
次変数へ移ります.
メニューボタンの「次の変数へ」を
クリックします.
「TOX」と「R2」の偏相関係数が青
色で着色されており,偏相関係数が
-0.42796と小さいので,切断します.
該当するセルをクリックし,メニュー
ボタンの「切断」をクリックします.
「グリッド上で指定された線(R2,TOX)
を切断しますか?」と表示されるので,「はい」
をクリックします.
切断後のp値を確認し,検証しま
す.
ここでは切断御のp値が「0.0471」
(≦0.5)と小さいので,切断が不適
切であったことがわかります.
R2とTOXのセルを選択し,メ
ニューボタン「接続」をクリックしま
す.
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「グリッド上で指定された線(R2,TOX)
を接続しますか?」と表示されるので,「はい」
をクリックします.
「R2」と「TOX」が終了した
ので,次変数へ移ります.
メニューボタンの「次の変数へ」
をクリックします.
上記の手順を繰り返し,全ての変数について,p値を確認しながら,独立グラフを完成させていきます.
手順8 独立グラフの構築
共分散選択を終えて,メニューボタン
「独立グラフ」をクリックします.構築さ
れた独立グラフが表示され,変数間の関係
がわかるようになります.
独立グラフ
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手順9 データ及び解析結果の保存
グラフィカルモデリング(GM)で用いたデータシート(相関係数行列)は,StatWorksファイル保存で
保存されます.
また,グラフィカルモデリング(GM)の分析に関するすべての情報(データ,共分散選択,グラフなど)
も保存されます.(拡張子JMD).
なお,過去の分析結果などを含むプロジェクトとして保存されるので,過去の分析結果の確認やモデルを変
更した場合の比較結果なども保存されます.
6.1.2 GMの有向独立グラフをSEMのパス図に変換
手順1 「SEMへ」のメニューボタンを選択
有向独立グラフが表示されている場合は,画面の右に,「SEMへ」が表示されているので,これを選択
します.
手順2 SEMのパス図を表示
SEMのシステムが起動し,パス図が表示されます.
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6.1.3 構造方程式モデリング(SEM)によるパス解析
グラフィカルモデリング(GM)で求め
た有向独立グラフをもとにSEMのパス
図が自動的に描かれます.
改めて解析の目的,要因を整理しておきます.
<目的特定> Pチャネルの閾値電圧Vthのばらつきの低減
<要因> ゲート酸化膜圧(TOX)
基盤濃度の代用特性 :ウエル形成時のモニタウエハの抵抗(R1)
熱処理工程での固定電荷の代用特性① :A特性の抵抗(R2)
熱処理工程での固定電荷の代用特性② :Pチャネルの抵抗(R3)
ただし,製造工程の中で,要因間には完全に順序がついており,構築されたパス図は下記の通りです.
各説明変数はそれぞれのパスを通って目的変数Vthに影響し,ばらつきを与えています.
<SEMによる解析の流れ>
GMの有向独立グラフを構築した場合は,直接,手順9に進みます.
GMによって作成したモデルについて,SEMにより,直接効果,間接効果を把握し,原因系の変数(R1,
TOX,R2,R3)から結果系の変数(Vth)への影響を検討し. Vthのばらつきをどうしたら抑えるこ
とができるのか検討することにします.既にパス図が作成されているので,手順9に移動します.
はじめからおこなう場合の,構造方程式モデリング(SEM)による解析手順は以下の通りです.
1) ワークシートへのデータ入力
2) 構造方程式モデリング(SEM)の選択・起動
3) 構造方程式モデリング(SEM)プロジェクトの新規生成
4) データ形式の指定
5) サンプル数の指定
6) 構造方程式モデリング構造方程式モデリング(SEM)による解析 計算処理
7) パス図の作成
8) 分析結果の出力
9) 結果の考察
TOX
R1
R2
R3
Vth
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ここでは,改めて構造方程式モデリング(SEM)を新規起動することを説明します.グラフィカルモデリ
ング(GM)の有向独立グラフの場合は,自動的に 構造方程式モデリング(SEM)が起動し,パス図が作
成,表示されます(手順9に進みます).
手順1 ワークシートヘのデータ入力
ワークシートにデータを入力します(6.1.2手順1
と同じ).
メニューから[手法選択]-[多変量解析]-[SEM(構
造方程式モデリング)]を選択します.
手順2 分析データの選択
「分析データの選択」が表示されます.
「ワークシート上のデータを分析」を選択します.
手順3 データ形式の指定
対象シートとデータ形式を指定します.
データ形式は,「分散共分散(相関係数)行
列形式」を選択します.
[OK]ボタンをクリックします.
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手順4 サンプル数の指定
サンプル数の欄には,相関係数行列を計算する
ために使用したサンプル数「29」を入力します.
[OK]ボタンをクリックします.
手順5 SEMモジュールの起動
SEMのシステムが起動され,SEM
プロジェクトファイルが作成されます.
機能ツリーの「パス図:グループ1」
を選択し,パス図を作成します.
手順6 パス図の作成
パス図を作成するために使用する変
数を指定します.
SEMでは観測変数や潜在変数を利用
できますが,GMで使用した変数はすべ
て観測変数です.
ツールボタン (観測変数Vの追
加)を選択し,パス図上をクリックしま
す.
1)「V」を押して
2)パス図上をクリック
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第6章
「観測変数の指定」が表示されます.
ワークシート上で入力した 5 つの変数が左
側の変数一覧に表示されています.
全変数を使用するため,5 つの変数全てを選
択し, ボタンをクリックします.
使用変数に 5 つの全ての変数が移動したら,
「OK」ボタンをクリックします.
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パス図上に使用変数が表示されます.
次に各変数を適当な場所に移動させま
す.
ツールボタン (オブジェクトの
選択)を押し,パスが引きやすいようにマ
ウスで変数を移動します.
変数間にパスを引きます.片方向のパ
スを引くには,ツールボタン「パス(直
線)の追加 を選択し,始点とする変
数をクリックし,終点とする変数をクリ
ックします.
まず, を選択し,変数「TOX」
をクリックします.
次に変数「R2」をクリックします.
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第6章
画面が動いてしまう場合は,右クリックを押すと停止します.
同様の操作で,「TOX」→「R3」,
「R2」→「Vth」,「R3」→「Vt
h」,「R1」→「Vth」,にもパスを
引きます.
パスが入る変数には,自動的に「E」が付
きますがこれは,「誤差」を示しています.
メニューボタン「分析実行」をクリックし
ます.
本システムではパラメータの推測は反復計算をおこない 尤法(ML)で求めます.
手順7 分析結果の出力
<モデルの適合度>
モデルに含まれるパラメータ等の
推定処理が収束したか,もしくは推定
処理中に何らかの問題が発生しなか
ったどうかを「モデル適合度」タブの
推定処理の報告」で確認します.
・統計的推定方法:
「 尤法(ML)」
・推定処理の収束状況:
収束:パラメータの推定処理は収
束しました
反復回数:5回
・推定処理におけるエラー(CONDITION
COOE):推定処理中に問題は発生し
ませんでした.
などが画面上に表示されます.
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パラメータの推定処理が収束しない場合や推定処理エラーが発生する場合もあります.
エラーが発生した場合は,エラーメッセージを確認し,データとモデルをもう一度検討す
る必要があります.
<モデル適合度>
次に構築したモデルの適合度結果につい
て確認します.「出力項目」を「適合度」に変更
します.
カイ2乗検定の結果と適合度指標の値が
表示されます,
カイ2乗値は,モデルとデータのずれを確
率的に評価するため,カイ2乗値のp値が
0.05あるいは0.10より小さい値であるほど,
モデル適合度が低いとみなされます.
つまり,カイ2乗値のp値が0.5より高い
ほうが,モデル適合度は高いということにな
ります.
<カイ二乗検定>
「P値」:0.98839(>0.05)と
大きいので,モデルのあてはまりは
非常によいと思われます.
適合度検定とそのP値
モデルがデータに適合しているかどうかの検定で,結果の取り扱いは他の統計モデルでの
適合度検定と同様です.
なお,適合度検定を行った場合のP値は,モデルのデータからの乖離だけでなく,標本の大き
さにも大きく影響されることに注意しなければなりません.
小さな標本ではP値が大きくなり,大きな標本では小さくなるという傾向があります.
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第6章
<適合度指標による評価>
モデル適合度が良いかどうかは,下記の代表的な指標の大きさを,基準値と比較して評価します.
適合度指標 基準値との比較 判定結果
NFI 0.98931(>0.95) 非常に良好
CFI 1.00000(>0.95) 非常に良好
AGFI 0.97462(>0.95) 非常に良好
GFI 0.99154(>0.95) 非常に良好
SRMR 0.03909(<0.05) 非常に良好
RMSE 0.00000(<0.05) 非常に良好
以上の結果より,今回,構築したモデルのモデル適合度は「非常に良好」と判断されました.
手順8 パラメータ推定値
「パラメータ推定値」のタブをクリック
します.
バラメータ推定値の画面では「出力項
目の切り替え」により,構造方程式の係
数,定数値,誤差,寄与率などが方程式
形式,および行列形式などで出力されま
す.
・推定値 (方程式形式)
・推定値 (行列形式)
・モデル分散共分散
などが表示されます.
ここでは,「推定値(方程式形式)」にて
説明します.
・推定値(方程式形式)
各パラメータ推定値が方程式形式で表
示されます.
出力項目の切り替え
6.1 成型工程の強度構造モデルの構築(GM,SEM)
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以上の結果を方程式で表すと,以下のようになります.
R2=-0.4280×(TOX)+E_R2
すなわち
A特性の抵抗=-0.4280×(ゲート酸化膜厚)+(誤差) を表す.
R3=0.44100×(TOX)+E_R3
すなわち
Pチャネルの抵抗=0.44100×(ゲート酸化膜厚)+(誤差) を表す.
Vth=0.25249×(R2)-0.72189×(R3)+0.28596×(R1)+E_Vth
すなわち
Pチャネルの閾値電圧=0.25249×(A特性の抵抗)-0.72189×(Pチャネルの抵抗)+0.28596×(ウ
エル形成時のモニタウエハの抵抗)+(誤差) を表す.
(E:誤差)
手順9 パラメータ推定値のパス図への表示
パラメータの推定で求めたパラメ
ータ推定値をパス図上に表示させる
ことができます.
機能リツーの「編集モデル」-「パス
図:グループ1」を選択します.
ツールボタン(推定値表示ON/OF
F) をクリックします
パス図上にパラメータ推定値が表示さ
れます.変数間の関係や誤差の大きさ
などもわかります.
6.1 成型工程の強度構造モデルの構築(GM,SEM)
2-6-1-25
構造方程式モデリング
PART
2
第6章
手順 10 効果の分解
分析で求めたパラメータ推定値をそ
れぞれの変数間の直接効果 (変数間
を 1 本の(線)パスが結ぶ効果)と間
接効果に分解して確認することができ
ます.
メニューボタンの「効果の分解」をク
リックします.
まず,説明変数:「R1」と目的変数:
「Vth」を選択します.
R1→Vth は 1 本のパスでつながって
いるため,「直接効果」となりますが,そ
の効果は 0.28596(非標準解),0.293
(標準解)であることがわかります.
次に,説明変数:「TOX」と目的
変数:「Vth」を選択します.
TOX→Vth はR2あるいはR3
を経由して矢線でつながっているの
で,これは「間接効果」となり,その効
果はそれぞれ-0.10806(非標準
解),-0.31835(非標準解)となりま
す.
6.1 成型工程の強度構造モデルの構築(GM,SEM)
2-6-1-26
<直接効果>:変数Xから変数Yへの直接効果は,現在の分析で取り上げている変数を介さな
いXからYへの効果である.
変数Xから変数Yへの直接効果は,XからYに直接つながったパスのパス係
数 となる.
<間接効果>:変数Xから変数Yへの間接効果は,現在の分析で取り上げている変数を介した
XからYへの効果である.
変数Xから変数Yへの間接効果は,XからYにたどり着くパスのパス係数の積
となる.
<総合効果>:変数Xから変数Yへの効果である.
総合効果=直接効果+間接効果である.
構造方程式モデリング(SEM)による分析結果をまとめると以上のことがわかります.
・TOX→R2→Vthの間接効果:
(TOX→R2の直接効果)×(R2→Vthの直接効果)
すなわち-0.4280×0.25249=-0.10806(非標準解) となります
・TOX→R3→Vthの間接効果:
(TOX→R3の直接効果)×(R3→Vthの直接効果)
すなわち,-0.424100×(-0.72189)=-0.31835(非標準解)となります
・TOX→Vthの直接効果:
(TOX→R2→Vthの間接効果)+(TOX→R3→Vthの間接効果)
すなわち,-0.10806+-(-0.31835) =- 0.42641(非標準解) で表すことができます.
以上の分析結果より,
・ R1→Vthの総合効果は0.28596,TOX→Vthの総合効果は-0.42641であり,
特性の閾値電圧Vth のばらつきに影響を与える大きな要因として,ゲート酸化膜厚TOXが大きい
ことがわかります.
・ ゲート酸化膜厚(TOX)からVthには直接パスは引かれません.そのため,Vthのばらつきは熱
処理後の抵抗(代用特性:R2,R3)を介して影響しています.
よって,熱処理後の抵抗のばらつきを抑えることによってVth のばらつきを低減することができるか
もしれません.
・ TOX→R2→Vthの間接効果は,-0.1086であり,TOX→R3→Vthの間接効果は-0.31835であ
ることから,R3を介したほうが特性への影響が大きいです.
したがって,Pチャネルの閾値電圧(Vth)のばらつきを低減するためには,特にR3のばらつきを抑
えることを検討する必要のあることがわかりました.
以上の知見をもとに,固有技術と照らし,因果関係やばらつきの低減に効果があるかどうか,技術的な考
察をおこないます.また,これらの知見に対し,確認実験を実施し,分析結果を検証します.
今後は,熱処理の方法を変更することで抵坑のばらつきを抑えることができるかどうかを検討することにし
ます.
6.1 成型工程の強度構造モデルの構築(GM,SEM)