第70回日本細菌学会東北支部総会 要旨集 · 【発表前確認】 y...

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第70回日本細菌学会東北支部総会 要旨集 会期:2016年8月18日(木)~19日(金) 会場:北里大学獣医学部十和田キャンパス 総会長 佐藤久聡 北里大学 獣医学部 獣医学科  獣医微生物学研究室 教授

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第70回日本細菌学会東北支部総会       要旨集

会期:2016年8月18日(木)~19日(金) 会場:北里大学獣医学部十和田キャンパス

総会長 佐藤久聡 北里大学 獣医学部 獣医学科  獣医微生物学研究室 教授

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第 70 回日本細菌学会東北支部総会 開催案内 70th Annual Meeting of Tohoku Society of Microbiology

会期:2016 年 8 月 18 日(木)~19 日(金)

会場:北里大学獣医学部 十和田キャンパス 本館 B 棟 2 階 B21

総会長:佐藤 久聡(北里大学獣医学部 獣医微生物学研究室 教授)

目次 頁

1. 会場へのアクセス 2

2. 会場案内図 4

3. 参加者へのご案内 6

4. 地方委員へのご案内 6

5. 発表者へのご案内 6

6. 座長へのご案内 7

7. 北斗医学賞について 8

8. 日程表・プログラム 9

9. 特別講演 16

10. 一般演題 17

11. 協賛 34

第 70 回日本細菌学会東北支部総会運営事務局 〒034-8628 青森県十和田市東二十三番町 35-1 北里大学獣医学部獣医学科 獣医微生物学研究室内 TEL/FAX 0176-24-9445 Mail: [email protected]

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� 大学周辺

� 鉄道・バス

新幹線「八戸駅」および「七戸十和田駅」からの最新の交通手段については、交通機関のホームページなどで確認して下さい。

■会場へのアクセス

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� 飛行機

� 車でお越しの皆様へ・・・駐車場のご案内 車でお越しの皆様は、西門から直進した右側の職員駐車場をご利用下さい。係員の指示に従って駐車をお願い致します。

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北里大学獣医学部 会場案内図

■会場案内図

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【受付】

当日参加も含め本館 B 棟 1 階ラウンジにて受付を行います。 y 8 月 18 日 11:00~16:30 y 8 月 19 日 8:00~11:00

受付で参加費 3000 円をお支払いになり名札に氏名、所属を記入し、会場では必ず着用して下さい。

【プログラム・抄録】

受付にて配布もいたしますが、数に限りがございますので、予めホームページよりダウンロードしていただき、ご用意して下さい。

【支部総会】

日時:8 月 19 日(金) 12:10 より 会場:本館 B 棟 1 階 B11

【懇親会】

8 月 18 日(木)17 時 45 分より学内の学生ホール前のバーベキューハウスにて行います。会費は3000 円です。受付にてお支払い下さい。

地方委員会を 8 月 18 日(木)12 時より本館 B 棟 B11 にて行います。昼食代として学会受付で1000 円をお支払い下さい。

【発表方法】

演題はすべて口頭発表です。 発表時間は、発表 7 分、質疑応答 3 分となります。時間厳守でお願い致します。

y ベル 1 回:発表終了 1 分前(6 分経過) y ベル 2 回:発表終了(7 分経過) y ベル 3 回:質疑応答終了(10 分経過)

【発表機材】

Windows7 PowerPoint2016 を準備いたします。 スライドサイズはワイド画面(16:9)で作成して下さい。

■参加者へのご案内

■地方委員へのご案内

■発表者へのご案内

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【発表前確認】 y 筆頭発表者の方は受付 PC でスライドの最終確認を行って下さい。 y 当日の発表スライドの差し替えをご希望される方は、18 日(木)に発表される方は発表 2 時

間前、19 日(金)に発表される方は 18 日(木)11 時から 16 時半までに PC 受付に USB でお渡し下さい。

y 万が一に備えてバックアップデータをお持ち下さい。 y 発表後に、事前送付いただいた発表スライドや当日差し替え用に頂いた発表スライドは運営

事務局で責任を持って廃棄いたします。

開始 10 分前までに会場へお入り下さい。指定時間内に講演が終了するよう進行をお願い致します。

■座長へのご案内

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日本細菌学会東北支部総会での発表演題は、2010 年に新設された石田名香雄記念「北斗医学賞」候補として自動的にエントリーされます。 <石田名香雄記念「北斗医学賞」について> 財団法人仙台微生物研究所前理事長故石田名香雄博士は、天賦の才と類い稀なる情熱により、微生物学・免疫学・腫瘍学等の幅広い研究分野において世界的名声をあげた、東北地方が世界に誇る医学者です。博士は昭和28年のセンダイウィルス発見のみならず、昭和 40 年には仙台の土壌から制癌剤ネオカルチノスタチンを発見し、特許を基に財団法人仙台微生物研究所を設立しました。 博士の遺志は現代表理事海老名卓三郎博士の免疫細胞 BAK 療法として現在も発展を遂げています。このたび当財団は、平成 21 年 12 月の石田博士のご逝去を機に、その功績を記念し、医学研究、特に微生物学・免疫学・腫瘍学・公衆衛生学等の分野で卓越した業績を挙げ今後もこの分野の研究を推進する、東北の若手研究者を顕彰する北斗医学賞を創設しました。命名は石田名香雄博士が愛した北斗七星から由来しています。 今日、癌および感染症の問題は、世界人類への脅威であり、また、大きな社会的問題にもなっています。これら疾病の克服は容易なことではありませんが、困難を乗り越えるべき忍耐と勇気の精神など、医学研究に対する故石田名香雄博士の真摯な姿勢が今こそ求められています。この精神を引き継ぐ若手研究者を顕彰することにより、この賞は東北地方にあって日夜研鑽に励む若手研究者の活動を支え、勇気づけ、ひいては医学・医療の向上に資することを目的とします。 その他概要等の詳細につきしては、公益財団法人仙台微生物研究所ホームページをご参照ください。 http://www.senmax.net/senbiken/hokutoigaku.htm

■北斗医学賞について

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■日程表

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■8 月 18 日(木)■

12:00~12:50 地方委員会 12:50~13:00 開会の辞 細菌1 演題番号 B01~B06 13:00~14:00 演題番号 B01~B02 13:00~13:20 座長:磯貝 恵美子(東北大学)

B01 Listeria monocytogenes が持つ抗酸化因子の低温耐性における役割の解析 ○福田康二、大楽美奈、松本美咲、 西野彩音、 山本裕司、 向井孝夫 (北里大学 獣医学部 細胞分子機能学研究室)

B02 Protection of Listeria monocytogenes infection by anti-ActA and Anti-listeriolysin O

antibodies ◯Krisana Asano¹、Hiroshi Sashinami¹、Arihiro Osanai¹、Shouhei Hirose¹、Hisaya Ono²、Kouji Natira³、Dong-Liang Hu²、Akio Nakane¹ (1Depart. Microbiol. Immunol., Hirosaki Univ. Grad. Sch. Med., 2Lab. Zoonoses、 Kitasato Univ. Sch. Vet. Med., 3Inst. Anim. Exp., Hirosaki Univ. Grad. Sch. Med.)

演題番号 B03~B04 13:20~13:40 座長:中根 明夫(弘前大学)

B03 バンコマイシン耐性菌に対する抗菌ペプチド Persulcatusin の効果とその抗菌メカニズム ◯両角一輝 1、三好就英 1、佐々木崇 2、平松啓一 2、小林宣道 3、磯貝恵美子 1 (1 東北大学大学院農学研究科動物微生物学分野、 2 順天堂大学医学部微生物講座学、3 札幌医科大学医学部衛生学講座)

B04 モスアイフィルムの抗菌効果

〇西山恭子¹,オズミンスキー真理¹,山田美穂²,箕浦潔²,溝口貴士³,錫谷達夫¹ (1 公立大学法人福島県立医科大学医学部 微生物学講座、 2 シャープ株式会社 ディスプレイデバイスカンパニー開発センター 表示モード開発部、 3 シャープ株式会社 ディスプレイデバイスカンパニー開発センター新規事業開発部)

演題番号 B05~B06 13:40~14:00 座長:岡村 雅史(北里大学) B05 Porphyromonas gingivalis DPP4 によるインクレチンの分解

◯下山 佑¹、根本優子²、石河太知¹、佐々木 実¹、根本孝幸²、木村重信 1、3 (1 岩手医科大学分子微生物学分野、 2 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔分子生化学分野、 3 関西女子短期大学歯科衛生学科)

B06 プロバイオティクス細菌による新たな生体内除染方法の探索

◯齋藤和輝¹、黒田健吾¹、関根 勉¹、福田智一²、木野康志¹、福本 学¹、山城秀昭³、小林 仁⁴、篠田 壽¹、西村順子⁵、西田典永⁶、河野麻実子⁶、磯貝恵美子¹

■プログラム

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(東北大学被災動物研究グループ¹、岩手大学²、新潟大学³、宮城大学⁴、八戸工業大学⁵、森下仁丹株式会社⁶)

ガン治療 演題番号 C01~C02 14:00~14:20 演題番号 C01~C02 14:00~14:20 座長:髙野 友美(北里大学) C01 エピカテキンをリード化合物とした新規カテキン誘導体の抗がん活性

◯岩谷 尭広¹、井出 杏実¹、斎藤 安貴子²、西村 拓哉²、磯貝 恵美子¹ (1 東北大学 農学研究科 動物微生物学、 2 大阪電気通信大学 工学部 環境科学科)

C02 ウイルス療法と抗がん剤を併用した子宮頸がんに対する新規治療法

○川村英生¹²、吉野直人²、佐々木裕²、村上一行¹、川村花恵¹、 利部正裕¹、杉山 徹¹、 村木 靖² (1 岩手医科大学 産婦人科学講座、 2 岩手医科大学 微生物学講座 感染症学・免疫学分野)

免疫 1 演題番号 I01~I02 14:20~14:40 演題番号 I01~I02 14:20~14:40 座長:浅尾 裕信(山形大学)

I01 Nrf2 による 2 型自然リンパ球(ILC2)制御の可能性 ◯長島隆一 1、 福島 誠、1 小齋仁美 1、 小山内七重 1、 本橋ほづみ 2、 山本雅之 3、 田中伸幸 1 (宮城県立がんセンター研究所がん先進治療開発研究部、 2 東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野、 3 東北大学大学院医学系研究科医化学分野)

I02 Nrf2 は NLRP3 インフラマソーム活性化を介して黄色ブドウ球菌感染を制御する

◯福島 誠、1 長島隆一 1、 小齋仁美 1、 小山内七重 1、 本橋ほづみ 2、 山本雅之 3、 田中伸幸 1 (1 宮城県立がんセンター研究所がん先進治療開発研究部、 2 東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野、 3 東北大学大学院医学系研究科医化学分野)

ウイルス 1 演題番号 V01~V07 14:50~16:00 演題番号 V01~V03 14:50~15:20 座長:押谷 仁(東北大学)

V01 くしゃみで放出される 0.1mm 以上のミスト粒子の挙動解析 ○阪田総一郎 1、西村秀一 2 (高砂熱学工業株式会社技術研究所 1、国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター²)

V02 B 型インフルエンザウイルスの増殖に対する種々のセリンプロテアーゼ阻害剤の抑制効果

◯井出杏実1、2、佐藤光 1、3、大宮卓¹、飯野佑佳 1、2、 磯貝恵美子 2、 山谷睦夫4、

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西村秀一 1 (1 国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部ウイルスセンター、 2 東北大学大学院 農学研究科 動物微生物学分野、 3 東北大学大学院 医学系研究科 感染分子病態解析学分野、 4東北大学大学院 医学系研究科 先進感染症予防学寄附講座)

V03 C 型インフルエンザウイルスの増殖に関与する CM2 の細胞質領域のアミノ酸配列 ○下平義隆 1、菅原勘悦 1、松嵜葉子 1、村木 靖 2、後藤崇成 1、本郷誠治 1 (1 山形大学医学部感染症学講座、 2 岩手医科大学 微生物学講座 感染症学・免疫学分野)

演題番号 V04~V05 15:20~15:40 座長:村木 靖(岩手医科大学)

V04 C 型インフルエンザウイルスの進化と系統樹動態 ○古瀬 祐気 1、松嵜 葉子 2、西村 秀一 3、押谷 仁 1 (1 東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野、 2 山形大学医学部 感染症学講座、 3 仙台医療センター臨床研究部 ウイルスセンター)

V05 パラインフルエンザウイルスのヒト呼吸器上皮細胞における増殖とそのプロテアーゼ阻害剤による増殖抑制効果の検討 ◯飯野佑佳 1, 2、佐藤光 1、渡邊王志 1、大宮卓 1、磯貝恵美子 2、中谷隆明3、山谷睦雄4、 西村秀一 1 (1 国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部ウイルスセンター、 ²東北大学大学院 農学研究科 動物微生物学分野、 3京都府立医科大学 医学研究科・感染病態学、 4東北大学大学院 医学系研究科 先進感染症予防学寄附講座)

演題番号 V06~V07 15:40~16:00 座長:本郷 誠治(山形大学)

V06 ヒトパラインフルエンザ及びメタニューモウイルスの分離における新規培養細胞 MNT-1 の有用性の検討 ○佐藤光 1、 2、渡邊王志 1、大宮卓 1、千葉ふみ子 1、林昌浩 3、鈴木民夫 3、 川上和義 2、西村秀一 1 (1 仙台医療センター 臨床研究部 ウイルスセンター、 2 東北大学大学院 医学系研究科 感染分子病態解析学分野、 3 山形大学 医学部 皮膚科学講座)

V07 環境表面に付着したインフルエンザウイルスに対しエタノール噴霧消毒が効果持つ条件の検

討 ○西村秀一1、山田堅一郎1、阪田総一郎2 (1 国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター、 2 高砂熱学工業株式会社技術研究所)

◆特別講演◆ 16:30~17:30

「21 世紀の感染症に挑む」 間 陽子(理化学研究所・分子ウイルス学特別研究ユニット)

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■8 月 19 日(金)■

ウイスル 2 演題番号 V08~V12 9:00~9:50 演題番号 V08~V09 9:00~9:20 座長:胡 東良(北里大学)

V08 胃腸炎症状を示したネコに由来するネコノロウイルスの病原性について ○高野友美¹、平松香菜恵¹、土岐朋義¹、楠原一²、宝達勉¹ 北里大学 獣医学部 獣医伝染病学研究室¹、三重県 保健環境研究所²

V09 A novel sensitive protocol for genotyping of norovirus genogroup II recombinants

◯Hang Xu¹、Xiaofang Liu¹、Kentaro Tohma¹、Yoshifumi Masago²、 Daisuke Nakayama3、 Yasuko Kayama4、 Kazuhisa Kawamura5、 Robert H. Gilman6、 Holger Mayta7、 Amado O. Tandoc III8、 Edelwisa S. Mercado8、 Mayuko Saito¹、 Tatsuo Omura2、 Hitoshi Oshitani¹for Norovirus Working Group (1 Department of Virology、 Tohoku University Graduate School of Medicine、 2New Industry Creation Hatchery Center、 Tohoku University、 3Nakayama Clinic、 4Kayama Pediatric Clinic、 5 Kawamura Pediatric Clinic、 6Department of International Health、 Johns Hopkins School of Public Health、 7Department of Cellular and Molecular Sciences、 Universidad Peruana Cayetano Heredia、 8Research Institute for Tropical Medicine)

演題番号 V10~V12 9:20~9:50 座長:西村 秀一(仙台医療センター)

V10 HCMV の潜伏感染マーカーUL138 の発現と再活性化における経時的検討 ○小林敬広1、野本芽衣1、松岡亮1、腰塚哲朗1、生田和史 1、2、石岡賢1、錫谷達夫1 (1福島県立医科大学医学部 微生物学講座、 2東北医科薬科大学医学部 微生物学教室)

V11 ヒトサイトメガロウイルス UL42 による宿主ユビキチンリガーゼ Itch の制御

◯腰塚哲朗、小林敬広、錫谷達夫 (福島県立医科大学医学部 微生物学講座)

V12 フラビウイルス粒子形成に関与する ESCRT 因子群

新井亜利紗 1、荒川将志 1、田端桂介 2、有本大 2、斉藤一伸 2、大森弘子 2、奈良篤樹 3、◯森田英嗣 1

(1弘前大学 農学生命科学部 分子生命科学科、2大阪大学 微生物病研究所 ウイルス研究グループ、3長浜バイオ大学 バイオサイエンス学科)

免疫 2 演題番号 I03~I06 9:50~10:30 演題番号 I03~I04 9:50~10:10 座長:山本 裕司(北里大学)

I03 高脂肪食誘導性肥満マウスにおけるプロテオグリカンの抗炎症作用 ◯廣瀬昌平、浅野クリスナ、中根明夫 (弘前大・院医・感染生体防御学)

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I04 Salmonella enterica serovar Pullorum に対する鶏の自然免疫応答 ○岡村 雅史、山藤 功、野口 紗貴、胡 東良 (北里大学 獣医学部 人獣共通感染症学)

演題番号 I05~I06 10:10~10:30 座長:田中 伸幸(宮城県立がんセンター研究所)

I05 炎症性発がんにおける IL-21 の関与 ○荒木明美、 金 蓮今、 奈良英利、 武田裕司、 浅尾裕信 (山形大学 医学部 免疫学講座)

I06 パラジウムによる金属アレルギー発症におけるヒスタミンの機能解析

◯伊藤甲雄 1、秋山なつみ 1、2、樋口繁仁 3、佐藤直毅 1、小笠原康悦 1、3 (1 東北大学加齢医学研究所 生体防御学分野 2 東北大学歯学部 3 東北大学大学院歯学研究科 難治疾患・口腔免疫学講座)

寄生虫 演題番号 P01~P02 10:40~11:00 演題番号 P01~P02 10:40~11:00 座長:成田 浩司(弘前大学)

P01 青森県八戸市の環境モニタリングと衛生害虫発生および媒介微生物について ◯西村順子、熊谷一輝、橋本竜太朗、古川直樹、本田慎弥 (八戸工業大学 工学部 バイオ環境工学科)

P02 韓国から山形県への輸入つつが虫病の 1 症例

○鈴木裕 1、瀬戸順次 1、島貫美和 2、矢作一枝 3、水田克巳 1 (1 山形県衛生研究所微生物部、2 山形県立新庄病院、3 山形県内陸食肉衛生検査所)

細菌 2 演題番号 B07~B12 11:00~12:00 演題番号 B07~B09 11:00~11:30 座長:藤井 重元(東北大学)

B07 ブドウ球菌エンテロトキシン様毒素 SElJ の発現・精製と生物活性の解析 ◯小野久弥 1、2、鈴木康規 3、廣瀬昌平 2、胡東良 1、中根明夫 2 (1 北里大学獣医学部獣医学科 人獣共通感染症学研究室、2 弘前大学大学院医学研究科 感染生体防御学講座、3 東京都健康安全研究センター 微生物部食品微生物研究科)

B08 黄色ブドウ球菌 Fibronectin binding protein A ワクチンの IL-17A 依存性感染防御効果

○成田 浩司 1、2、 浅野 クリスナ 1、 中根 明夫 1 (1 弘前大学 院医 感染生体防御学講座、 2 弘前大学 院医 附属動物実験施設)

B09 ブドウ球菌表皮剥脱毒素の DSG1 恒常発現細胞への反応性

◯平井真太郎、 佐藤和樹、 田邊太志、 佐藤久聡 北里大学 獣医学部 獣医微生物学

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演題番号 B10~B12 11:30~12:00 座長:佐々木 実(岩手医科大学)

B10 Helicobacter cinaedi の動脈硬化促進および持続感染メカニズムの解明 ○松永哲郎 1、藤井重元 1、井田智章 1、小野勝彦 2、津々木博康 2、澤 智裕 2、河村好章3、赤池孝章 1 (1 東北大学大学院 医学系研究科 環境保健医学分野、 2 熊本大学大学院 生命科学研究部 医学系微生物学、 3 愛知学院大学 薬学部 微生物学講座)

B11 V.vulnificus は筋肉内に侵入することで感染局所の自然免疫を回避する

○山﨑 浩平、柏本 孝茂、門 武弘、上野 俊治 北里大学 獣医学部 獣医公衆衛生学研究室

B12 V. vulnificus の運動機能に関与しない病原因子の探索

◯門 武宏、柏本 孝茂、山﨑 浩平、近藤 拓、上野 俊治 北里大学 獣医学系研究科 獣医公衆衛生学研究室

12:10~13:10 支部総会 13:10~ 閉会の辞

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特別講演

「21世紀の感染症に挑む」

理化学研究所・分子ウイルス学特別研究ユニット

間 陽子

現在、世界の死亡原因の約 3 割が感染症である。今後その割合は急上昇する恐れがあ

る。近年、エボラ出血熱、MERS、高病原性鳥インフルエンザを初めとする新興・再興感染

症が次々と現れているからである。

新興ウイルス感染症であるヒト免疫不全症候群(AIDS)と成人 T 細胞白血病(ATL)

を引き起こすレトロウイルス(HIV、HTLV)、およびそれらに近縁であるウシレトロウイ

ルス(BLV)は、進化過程において、通常のレトロウイルスに共通な遺伝子の他に、調節

遺伝子とアクセサリー遺伝子群による複雑でユニークな増殖制御機構と病原性発現機構

を獲得してきた。演者はこれまで、これらウイルスの生物学的特性を担っていると考えら

れるこれら遺伝子に焦点をあて、未解明であったレトロウイルス特有の複製、伝播、潜伏、

再活性化様式を細胞・個体レベルの両面から解析すると同時に、それらの遺伝子産物と結

合する新規の細胞内因子の相互作用機構を標的とする新しい制御システムの確立にも挑

戦している。

本講演では、このようなレトロウイルス研究から得られた我々の基礎研究成果とそれ

に基づくワクチンや創薬などの新しいウイルス制圧戦略を紹介し、そして、それらの他の

ウイルスへの応用展開についても報告したい。

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B01 Listeria monocytogenes が持つ抗酸化因子の低温耐性における役割の解析 ○福田康二,大楽美奈,松本美咲, 西野彩音, 山本裕司, 向井孝夫 北里大学 獣医学部 細胞分子機能学研究室 【目的】Listeria monocytogenes は土壌や動物の腸管など自然界に広く存在するグラム陽性の短桿菌である。本菌は低温で増殖が可能であるという特徴から、主に ready-to-eat 食品を介して食中毒を引き起こす。本菌の低温増殖能には膜流動性の保持や低温ショックタンパク質など様々な機構が関与していると言われているが、近年 Azizoglu らによってカタラーゼが低温増殖に必要であることが見出された。本研究では L. monocytogenes EGD 株を用いて報告されているカタラーゼ欠損株(katA 欠損株)に加え、sod、msrAB、ahpCの欠損株を作製し、低温増殖試験と凍結融解耐性試験を行うことで、低温耐性における抗酸化因子の役割を解明することを目的とした。 【方法】欠損株の作製には温度感受性プラスミドである pG+host6 を使用した 2 点相同組み換えを用い、L. monocytogenes EGD 株より katA, sod、msrAB、ahpC 欠損株を作製した。作製した欠損株を BHI 培地で培養し、凍結融解耐性試験と低温における増殖試験を行った。また、katA 欠損株を変異剤(1-Methyl-3-nitro-1-nitrosoguanidine)で処理し、低温増殖能が復帰したサプレッサーを分離した。 【結果】作製した株を野生株と比較した結果、katA、sod、 ahpC 欠損株では低温増殖能が低下しており、特に katA 欠損株で低下が顕著であった。凍結融解耐性試験では 10℃で培養した菌体を用いた際に、msrAB欠損株を除く全ての欠損株で野生株に比べ有意に生存率が低下した。続いて、低温増殖能の低下が最も顕著であった katA 欠損株のサプレッサーを単離し、その性状を解析した。得られたサプレッサーの低温増殖能の復帰の程度は株によって異なり、親株である katA 欠損株が H2O2 を産生するのに対し、分離されたサプレッサーは H2O2 を産生する株と産生しない株の 2 種類に分けられた。 【考察】本研究により、カタラーゼは Azizoglu らが報告した F2365 株だけでなく EGD 株においても低温耐性に寄与していること、また、カタラーゼ以外の抗酸化因子も低温耐性に関与していることが明らかとなった。katA 欠損株より分離されたサプレッサーでは、H2O2 の蓄積が認められなくなった株が多数見られたことから、H2O2 が低温での増殖阻害の原因であると考えられた。一方、H2O2 の蓄積が見られたにも関わらず低温増殖能が向上した株も得られており、今後解析を進めることで抗酸化因子の低温耐性における役割が明らかになると期待される。 B02 Protection of Listeria monocytogenes infection by anti-ActA and Anti-listeriolysin O antibodies ○Krisana Asano¹,Hiroshi Sashinami¹,Arihiro Osanai¹,Shouhei Hirose¹,Hisaya Ono²,Kouji Natira³,Dong-Liang Hu²,Akio Nakane¹ Depart. Microbiol. Immunol., Hirosaki Univ. Grad. Sch. Med.¹ Lab. Zoonoses, Kitasato Univ. Sch. Vet. Med.²Inst. Anim. Exp., Hirosaki Univ. Grad. Sch. Med.³ 【目的】Listeria monocytogenes is an intracellular pathogen that causes listeriosis. Due to its intracellular life cycle, antibodies induced by listerial infection are unable to provide the protection. Therefore, a study on the protective effect of antibodies against L. monocytogenes infection is almost omitted. In this study, we investigated whether passive immunization with antibodies against the listerial virulence factors can provide a protective effect against listerial infection. 【方法】Antibodies against the virulence factors of L. monocytogenes were prepared from rabbits and passive immunization of the antibodies was performed. Mice were administered with 1 mg of each antibody 24 h before L. monocytogenes infection. Survival of mice was observed and number of viable bacteria in the organs was determined. RAW264.7 cells were treated with 100 μg of the antibody and infected simultaneously with L. monocytogenes. Intracellular bacterial number was then enumerated. Neutralizing activity of the anti-listeriolysin O (LLO) and anti-ActA antibodies was observed by hemolytic protection and plaque assay, respectively. Internalization of the antibodies into the host cells and the effects of the antibodies on lysosomal escape and actin tail formation were observed by immunostaining. 【結果】Survival of listerial infected mice and bacterial load in the organs were improved by anti-ActA and anti-LLO antibodies and the most efficient effect was found from the combination of these antibodies. Anti-ActA and anti-LLO antibodies efficiently entered into murine macrophages and reduced the intracellular number of L. monocytogenes. Anti-LLO antibody neutralized LLO activity and inhibited bacterial escape from lysosomal vacuoles, whereas anti-ActA antibody neutralized ActA activity, inhibited actin tail formation and attenuated cell-to-cell spread. 【考察】Previously, the humoral immunity has not appeared to play a significant role in the clearance of L. monocytogenes because only low amount of antibodies was induced during listerial infection. However, we demonstrate that passive immunization with an excessive amount of anti-ActA and anti-LLO antibodies have a significant potential to protect L. monocytogenes infection. Our finding in the present study suggests that the antibody approach is still useful for neutralizing activities of the virulence factors of L. monocytogenes, especially ActA and LLO.

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B03 バンコマイシン耐性菌に対する抗菌ペプチド Persulcatusin の効果とその抗菌メカニズム ○両角一輝1,三好就英1,佐々木崇2、平松啓一2、小林宣道3,磯貝恵美子1 東北大学大学院農学研究科動物微生物学分野1、順天堂大学医学部微生物講座学2、札幌医科大学医学部衛生学講座3 【目的】抗菌薬の不適切な使用等を理由に、薬剤耐性(AMR)菌が世界的に増加する一方、新たな抗菌薬の開発は減少傾向にあり、国際社会でも大きな課題となっている。抗菌ペプチド(AMPs)は耐性化を起こしにくいという特徴をもつため、薬剤耐性菌に対する新たな抗菌薬として期待できる。我々は様々な抗菌ペプチドの中から、強力な自然免疫をもつ節足動物の抗菌ペプチドに注目した。Persulcatusin(IP)は節足動物であるマダニ(Ixodes persulcatus)から得られる抗菌ペプチドであり、我々は IP がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対し高い抗菌活性を持つことを報告した。今回はバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VISA, VRSA)に対する IP の抗菌活性を調べ、さらに、IP の抗菌メカニズムについての検討を行った。 【方法】IP は固相法でペプチド合成し HPLC で精製した。菌株はヒト由来の VISA, VRSA および MRSAを用いた。最小発育阻止濃度(MIC)は 32 μg/ml から 2 倍段階希釈した各濃度の IP に菌液を加え、37℃培養 24 時間後に OD 測定することで求めた。さらに増殖抑制効果の比較のために BMAP-28 や Nisin などのMIC も同時に求めた。また、IP を作用させた MRSA、VRSA に対して SEM による菌体観察を行った。加えて、カルセイン漏出試験を行うことで IP による細菌膜への傷害性を検討した。 【結果および考察】IP の MIC 試験を行ったところ、VISA では 8 µg/ml および VRSA では 2 µg/ml であった。この値は BMAP-28 (VISA: >32 µg/ml, VRSA: 32 µg/ml)や Nisin(VISA: >32 µg/ml, VRSA: 16 µg/ml)などと比較しても非常に低い値であった。IP を作用させた菌体を SEM で観察すると、MRSA と同様にVRSA においても菌体構造の変化や細菌膜への傷害が見られた。また、カルセイン漏出試験では IP を作用させた菌体でカルセインの漏出がみられ、IP によって膜孔が形成されることが示唆された。Nisin でも同様に膜の傷害性が見られ、その傷害度は IP よりも高かった。しかし、IP の方が高い抗菌活性を示すことから、IP は細菌膜への傷害だけでなく別の抗菌メカニズムも持ち、それによって高い抗菌活性を保持していると考えられる。 B04 モスアイフィルムの抗菌効果 ○西山恭子¹,オズミンスキー真理¹,山田美穂²,箕浦潔²,溝口貴士³,錫谷達夫¹ 公立大学法人福島県立医科大学医学部 微生物学講座¹、シャープ株式会社 ディスプレイデバイスカンパニー開発センター 表示モード開発部²、シャープ株式会社 ディスプレイデバイスカンパニー開発センター新規事業開発部³ 【目的】近年バイオミメティクスという生物の構造や機能から着想を得たものづくりの分野が発展してきた。その中の一つに蛾の目の構造を模倣した「モスアイフィルム」というものがある。蛾の目は複眼で、ナノレベルの突起構造が並んだつくりをしている。その眼のつくりによって光の反射を減らし効率よく光を取り込めるため、蛾はわずかな光しかない暗闇の中でも飛ぶことが出来る。シャープ株式会社では、そのつくりを応用したモスアイフィルムをテレビ画面に取り付け、画像を鮮明に見えるようにした。2013 年 nature communications 誌で、豪スインバーン工科大学・イワノワ教授がナノ構造に抗菌効果があるという論文を発表した。今回、同じナノ構造を持つシャープ株式会社のモスアイフィルムに抗菌効果があるのか検証を行った。 【方法】始めに抗菌効果の検証を日本工業規格(JIS)の抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果 JIS Z 2801 の基準で Escherichia coli (NRBC3972)を用いて溶液中における抗菌効果を検証した。次に液体の速乾性・走化性に優れたモスアイフィルムの特性を生かし、Staphylococcus aureus (NRBC12732)を用いて点上に微量菌液をフィルムに乗せ抗菌効果を検証した。同時にフィルム上の菌の形態観察は走査型電子顕微鏡で行った。 【結果】JIS Z 2801 を基に行った溶液中の実験では、抗菌効果は見られたが、モスアイ構造を持ったものと持たないもので抗菌効果に差が見られなかった。従って、この抗菌活性はフィルムの材質より溶出する抗菌物質によるものであると考えられた。微量液体を用いた実験においてはモスアイ構造をもったものではモスアイ構造を持たないものに比べ殺菌時間が短く、乾燥時間が早かった。電子顕微鏡による観察ではモスアイ構造のフィルムはモスアイ構造を持たないものに比べ菌が平坦に付着してコロニー形成やバイオフィルムの形成がしにくい様子が窺えた。 【考察】モスアイフィルムは微量な液体に対しては抗菌効果やバイオフィルム阻止効果が期待できることが解った。今後様々な細菌・真菌における抗菌効果の検討を行い、感染症対策製品への応用を模索する予定である。

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B05 Porphyromonas gingivalis DPP4 によるインクレチンの分解 ◯下山 佑¹,根本優子²,石河太知¹,佐々木 実¹,根本孝幸²,木村重信 1,3 岩手医科大学分子微生物学分野¹、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔分子生化学分野²、関西女子短期大学歯科衛生学科 3

【目的】歯周炎の主たる起炎菌である Porphyromonas gingivalis において,我々はこれまでに,新規のジペプチジルペプチダーゼ(DPP)5, DPP11,及びペプチダーゼ AOP を発見した.これらのエキソペプチダーゼに加えて,既報の DPP4, DPP7,及び Kgp, Rgp のペプチダーゼ群の働きによって,栄養源であるタンパク質を効率的にジペプチドに分解し,菌体内に取り込むことを明らかにした.一方,ヒト DPP4 ではインクレチン[glucagon-like peptide-1 (GLP-1), glucose-dependent insulinotropic polypeptide (GIP)]が標的ペプチドであることから,本研究では,感染局所,及び血中に移行した本菌体由来の DPP4 活性により,ヒトインクレチンが不活性化される可能性について検討した. 【方法】dpp4::cepA フラグメントを PCR により調製し,相同組換えにより P. gingivalis DPP4 欠損株(NDP200)を作成した.また,PgDPP4 は N 末 His タグ付加タンパク質として大腸菌発現系を用いて発現・精製した.菌体及び組換え DPP4 のペプチダーゼ活性は蛍光ペプチド基質(GP-MCA 他)を用いて測定した.ヒト GLP-1,及び GIP の加水分解は,MALDI TOF-MS を用いて検討した. 【結果】NDP200 は GP-MCA 分解活性を消失し,また,rPgDPP4 及び菌体の同活性はヒト DPP4 阻害剤である P32/98 で顕著に阻害された.GLP-1 の Ala2-Glu3 間の切断は野生株,及び rPgDPP4 で認めたが,NDP200 では減衰した.PgDPP4 は GLP-1 と同様に GIP の Ala2-Glu3 間を加水分解することが明らかとなった. 【考察】P. gingivalis DPP4 はインクレチンの Ala2-Glu3 間を切断し,不活性型としたことから,重度歯周病患者では本菌の DPP4 活性により血糖値が亢進されている可能性が示唆された. B06 プロバイオティクス細菌による新たな生体内除染方法の探索 ◯齋藤和輝¹、黒田健吾¹、関根 勉¹、福田智一²、木野康志¹、福本 学¹、山城秀昭³、小林 仁⁴、篠田 壽¹、 西村順子⁵、西田典永⁶、河野麻実子⁶、磯貝恵美子¹ 東北大学被災動物研究グループ¹、岩手大学²、新潟大学³、宮城大学⁴、八戸工業大学⁵、森下仁丹株式会社⁶ 【目的】2011 年 3 月 11 日の福島第一原子力発電所の爆発事故によって、大気中に放出された放射性物質は広範な地域に環境汚染をもたらした。現在、最も問題となるのは物理的半減期が長い 137Cs が長期にわたって環境中に存在し、生体内に取り込まれることである。そのため、放射性セシウムの吸収抑制や排出促進に効果がある薬品・食品への関心が高まっている。本研究の目的は微生物による生体からの低線量放射性Cs の効果的除染方法の基盤を確立することである。そこで、腸内フローラ構成細菌およびプロバイオティクス細菌での放射性 Cs 取り込みを検証した。 【方法】腸内フローラ構成細菌としては Bifidobacterium longum , Clostridium perfringens , C.ramosum , Bacteroides fragilis , B.vulgates を用いた。またプロバイオティクス細菌としては Bifdobacterium longum, B.breve , Lactobacillus gasseri , L.delbreuckii subsp. bulgaricus を実験に用いた。培地は、腸内フローラ構成細菌には BHI 培地、プロバイオティクス細菌には MRS 培地を用いて菌を培養した。MRS 培地に福島原発旧警戒区域でサンプリングされた牛肉から調整したブイヨンを添加した。培養後、菌体と培地を分離し、それぞれの放射線量をゲルマニウム測定装置で測定した。 【結果・考察】BHI 培地を用いたとき、いずれの菌でも放射性 Cs の取り込みが見られた。最も高い取り込み率を示したのは、B.vulgates で 81%であった。その他の細菌でも高い取り込み率(約 38%以上)を示した。これらの結果は、微生物が K を代謝のなかで取り込むシステムにおいて同族の Cs を取り込んだと考えた。MRS 培地を用いて、プロバイオティクス細菌について検討を行ったところ、取り込み率が低かった。その理由として、MRS 培地と BHI 培地に含まれる K イオン濃度の違いが考えられた。そこで、培地中のK イオン濃度を測定したところ、MRS 培地では 1466±2 ppm、BHI 培地では 223±3 ppm であり、MRS培地中の K イオン濃度は、BHI 培地よりも有意に高かった(p<0.01)。

BHI 培地では、Lactobacillus 属は増殖せず、Bifidobacterium 属では増殖が抑制された。MRS 培地では増殖は問題ないものの、放射性 Cs の効果的な取り込みは見られなかった。プロバイオティクス細菌の中でMRS 培地使用下での取り込みを測定したとき、B.longum の特定の株は 12%という他の細菌に比べて 2~6 倍の取り込みを示したことで、K イオン存在下でも積極的に放射性 Cs を取り込む細菌であることがわかった。現在は他の培地を用いて放射性 Cs の取り込み実験を検討している。

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C01 エピカテキンをリード化合物とした新規カテキン誘導体の抗がん活性 ○岩谷 尭広¹,井出 杏実¹,斎藤 安貴子²,西村 拓哉²,磯貝 恵美子¹ 東北大学 農学研究科 動物微生物学¹、大阪電気通信大学 工学部 環境科学科²

【目的】茶に含まれるカテキン類は抗がん活性を持っており、その活性において重要な構造としてピロガロール構造が知られている。我々は、既存の茶カテキン類であるエピカテキン(EC)の 3,5 位に 1 つずつ、ピロガロール構造を持つガロイル基を導入した新規カテキン誘導体である EC35G の抗がん活性について検討した。 【方法】96 well plate に大腸がん細胞株 HCT116 を 2.0×103 cells/well で播種した後、EC35G、茶カテキン類のエピカテキンガレート(ECG)、EC を最終濃度 50 µg/ml および 2 倍階段希釈した各濃度で添加した。48 h 後、Cell Counting Kit-8 を用いて細胞の生存率を調べた。さらに、24 well plate に HCT116 を 4.0×104 cells/well で播種した後、40 µg/ml の EC35G、ECG、EC を 48 h 作用させ、Muse Cell Analyzer でアポトーシス細胞数の測定を行った。 【結果】ECG、EC は HCT116 に対して細胞生存率に影響を示さなかったのに対し、EC35G は 25 µg/mlで細胞生存率を 50%程度まで低下させた。50 µg/ml ではさらに生存率を 7.37%まで低下させた。EC35G (50 µg/ml)添加時の初期および後期アポトーシス細胞の割合の合計は 23.2%であった。 【考察】EC35G は EC や、3 位に 1 つガロイル基を持つ ECG よりも高い抗がん活性を示した。これは、ピロガロール構造の増加によるものと考えられる。EC35G は EC や ECG に比べて強力なアポトーシス誘導をもたらした。EC をリード化合物とした EC35G をはじめとする新規化合物合成は新たな治療薬開発への第一歩となるであろう。今後は茶カテキン類で最も抗がん活性が強いことが知られているエピガロカテキンガレートとの比較、EC35G の正常細胞への毒性試験などを行っていく予定である。 C02 ウイルス療法と抗がん剤を併用した子宮頸がんに対する新規治療法 ○川村英生¹²,吉野直人²,佐々木裕²,村上一行¹,川村花恵¹,利部正裕¹,杉山 徹¹,村木 靖² 岩手医科大学 産婦人科学講座¹、岩手医科大学 微生物学講座 感染症学・免疫学分野²

【目的】進行および再発子宮頸がんに対する標準治療は放射線療法、化学療法、及びその併用であるが、いずれも治療効果は十分ではなく本邦では年間約 3,000 人が死亡している。我々は新規治療法として子宮頸がんモデルマウスを用いた遺伝子組換えウイルス(三重変異型単純ヘルペスウイルス T-01)によるウイルス療法について検討を行ってきた。ウイルス療法は一定の腫瘍増殖抑制効果はみられるものの腫瘍の完全消失には至っていない。本研究では、子宮頸がんに用いられる代表的な抗がん剤を併用することでウイルス療法の効果が増強されるかを検討した。 【方法】HPV16 E6/E7 を発現するマウス由来不死化細胞株 TC-1 を C57BL/6 マウス背部に皮下接種し、モデルマウスを作製した。TC-1 に対して高い細胞傷害効果を示したシスプラチン(CDDP)、エトポシド(ETP)またはフルオロウラシルの各々を単独または T-01 と併用してモデルマウスに投与し、腫瘍径の測定と生存期間の観察を行った。 【結果】T-01 投与群、各抗がん剤投与群ともに無治療対照群と比し有意な腫瘍増殖抑制効果を認めた。生存期間においても ETP 投与群を除き有意な延長を認めた。

併用投与群は T-01 投与群、各抗がん剤投与群と比し全ての抗がん剤で良好な腫瘍増殖抑制効果を認めた。このことから、併用により T-01 および各抗がん剤の腫瘍増殖抑制効果は互いに抑制しないと考えられた。

併用投与群のなかでも T-01+CDDP はその他すべての治療群と比し有意な腫瘍増殖抑制効果を認めた。また、生存率においても観察期間で死亡する個体は存在しなかった。 【結論】子宮頸がんにおいて、ウイルス療法と化学療法は併用可能な治療法であり、CDDP を併用することによってウイルス療法の治療効果を増強させうる可能性が示唆された。

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I01 Nrf2 による 2 型自然リンパ球(ILC2)制御の可能性 ◯長島隆一 1, 福島 誠,1 小齋仁美 1, 小山内七重 1, 本橋ほづみ 2, 山本雅之 3, 田中伸幸 1 宮城県立がんセンター研究所がん先進治療開発研究部¹、東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野²,東北大学大学院医学系研究科医化学分野 3 【目的】 2 型自然リンパ球(ILC2)は、近年報告された新たなリンパ球であり、寄生虫排除やアレルギーに重要な役割を持つ。感染やアレルゲン暴露等によって上皮細胞から分泌される IL-25 や IL-33 に対し ILC2 は即座に反応し、IL-5, IL-13 等の Th2 型のサイトカインを分泌する。酸化ストレス応答に重要な役割を担うKeap1-Nrf2 経路は感染応答にも関与するが、ILC との関係は未だ明らかになっていない。そこで、Nrf2 による ILC2 制御機序の可能性を検討した。 【方法】 C57BL/6(WT)および Nrf2 欠損(Nrf2 KO)マウスに対し IL-33 を経気管的に投与し気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取した。得られた細胞について ILC2 および好酸球の FACS 解析を行い、BALF 中のサイトカイン・ケモカイン(IL-4, -5, -13, CCL11/Eotaxin)を ELISA 法にて測定した。WT および Nrf2 KO マウスに IL-25/IL-33 を腹腔投与し、肺組織中の ILC2 を sorting により回収した。Sort ILC2 を in vitro において各種サイトカイン(IL-2, -7, -25, -33)で刺激し、細胞増殖を解析した。 【結果】 IL-33 を気管内投与した WT と Nrf2 KO マウスは、共に ILC2 および好酸球の誘導を認め投与後 1 日目の解析ではいずれの population にも差異を認めなかった。しかし、BALF 中に産生された IL-4, -5, -13, CCL11 は、Nrf2 KO マウスで高値であった。興味深いことに、Nrf2 KO マウス由来 Sort ILC2 は IL-33 刺激条件で有意に高い細胞増殖能を示した。さらに、IL-33 を長期間気管内継続投与すると、Nrf2 KO マウスは顕著に高い死亡率を示した。 【考察】 Nrf2 は ILC2 の細胞増殖を制御することで、Th2 型サイトカイン産生を抑制し、肺におけるアレルギー性炎症を抑える可能性が考えられた。 I02 Nrf2 は NLRP3 インフラマソーム活性化を介して黄色ブドウ球菌感染を制御する ◯福島 誠,1 長島隆一 1, 小齋仁美 1, 小山内七重 1, 本橋ほづみ 2, 山本雅之 3, 田中伸幸 1 宮城県立がんセンター研究所がん先進治療開発研究部¹, 東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野², 東北大学大学院医学系研究科医化学分野 3 【目的】黄色ブドウ球菌は皮膚や消化管などに常在するグラム陽性球菌であり、皮膚バリア機能の破綻に伴って化膿症・蜂巣織炎などの皮膚軟部組織感染症、さらに肺炎・敗血症などの重症感染症の原因となる。膿瘍の形成や菌の排除においては炎症性サイトカイン IL-1βが重要であるが、IL-1β分泌に至る経路については不明の点が多い。Keap1-Nrf2 経路は酸化ストレスに対する生体防御機構において中心的な役割を果たしており、感染防御においても貢献している可能性が高い。本研究では Nrf2 による IL-1β分泌と感染制御について解析した。 【方法】Nrf2 欠損および野生型マウスに対し黄色ブドウ球菌 834 株および SAP231 株(発光性)を皮内または静脈内に投与し、炎症性サイトカインおよび MPO 活性の測定、菌由来発光の IVIS 解析を行った。骨髄から好中球およびマクロファージ(BMDM)を調製し、in vitro 感染または黄色ブドウ球菌由来ペプチドグリカン(PGN)+ATP 刺激を行い、炎症性応答を調べた。 【結果】Nrf2 欠損マウスでは膿瘍形成が亢進し MPO 活性は高値を示した。一方、皮膚感染巣における黄色ブドウ球菌排除は遅延し、組織中の IL-1β分泌は低かった。Nrf2 欠損マウスは経静脈投与後の血液および脾臓における菌排除が遅延しており、生存率が有意に低かった。Nrf2 欠損マウス由来 BMDM はPGN+ATP 刺激による IL-1β分泌がほぼ欠損しており、NLRP3 依存性の細胞死である Pyroptosis が阻害されていた。 【考察】Nrf2 は NLRP3 インフラマソーム活性化に必須であり、黄色ブドウ球菌感染応答において大きな役割を果たしていることがわかった。

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V01 くしゃみで放出される 0.1mm 以上のミスト粒子の挙動解析 ○阪田総一郎 1,西村秀一 2 高砂熱学工業株式会社技術研究所¹, 国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター² 【目的】インフルエンザや結核等の呼吸器感染症は、主に、咳やくしゃみの際に気中に放出される数十μm以下の飛まつや、環境表面に重力落下した大型粒子の中に含まれる病原体が伝播する。本研究では、後者の解析を目的に、高速度撮影で得られたくしゃみ映像から 0.1mm(100μm)以上のミスト粒子重力落下の動きを画像解析し、粒子の大きさ、床面への落下時間及び到達距離を予測した。 【方法】27℃15%RH 無風状態のスタジオで、健康な 20 歳代男性被験者が水平方向に放ったくしゃみを撮影し、画像上で落下が目視できるミスト粒子について、各々の航跡データを収集解析した。それらを材料に、くしゃみ気流の外側の領域においては、「水平方向の粒子に作用する外力は静止空気から受ける粘性抵抗力、鉛直方向の外力は重力と前記粘性抵抗力のみ」という仮定の下、粒子運動方程式を解いて粒子径、粒子の床面への落下時間と到達距離を推定しようとした。 【結果と考察】無風状態の室内であっても、咳やくしゃみで放出されるミストの粒子径をその重力落下速度の測定値から算出することは、鉛直上下方向の気流の存在により困難であった。そこで、以下の手順で解析を進め、ミスト粒子の床面への落下時間、粒子径、水平方向の到達距離に関する解析結果を得た。 ①くしゃみ発生から 0.029~0.35 秒の間に 300 コマ/s の映像で観測された各粒子の位置情報を、口元から鉛直方向への移動距離 y(-0.71~0.09m)と水平方向への移動距離 x(0.05~0.96m)に変換した。 ②移動距離 y は時間の二次関数で近似でき、この近似式から床面 y=-165cm への落下時間を得た。 ③さらに、距離を時間で微分し速度 Vx(0.2~9.7m/s)と Vy(-5.8~1.9m/s)を得た。Vx は常に減速しており、運動方程式を解いて各航跡に対応する粒子径(0.14~1.1mm)を算出した。 ④この算出粒子径を用いて、先述②の床面への落下時間(0.33~0.76s)に対応する口元から前方の床面への到達距離(0.3~1.8m)を予測した。 ⑤なお、Vy は多くの航跡で加速と減速を繰り返しており、前記仮定には含まれないくしゃみ気流の上下に隣接する空気の乱れ、照明用ランプや人体の発熱等に起因すると考えられる鉛直上下方向の気流の存在が確認された。 V02 B 型インフルエンザウイルスの増殖に対する種々のセリンプロテアーゼ阻害剤の抑制効果 ○井出杏実¹,2,佐藤光 1,3,大宮卓¹,飯野佑佳 1,2, 磯貝恵美子 2, 山谷睦夫4, 西村秀一 1 国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部ウイルスセンター¹, 東北大学大学院 農学研究科 動物微生物学分野², 東北大学大学院 医学系研究科 感染分子病態解析学分野 3, 東北大学大学院 医学系研究科 先進感染症予防学寄附講座4 【目的】 現在、臨床で用いられている抗インフルエンザ薬はノイラミニダーゼ阻害を機作とするものがほとんどである。だが、そうした薬が効かない重症例や薬剤耐性の出現を想定したとき、異なる機作による薬はあってよい。A 型インフルエンザウイルスでは気道上皮にある TMPRSS2 や HAT 等のセリンプロテアーゼによるウイルス HA 蛋白の開裂が、ウイルスの活性化に働くとされ、その阻害薬が新たな薬となる可能性が提案されている。一方、B 型ウイルスについては未だ主要な酵素が同定されていない。我々は、これまで A 型で試されてきた阻害薬が B 型においても増殖抑制に働くのかをヒト由来の細胞を用いて検討した。 【方法】本実験には、比較のために A 型ウイルス A/Sendai/N633/2009(H1N1pdm09) 株を用い、目的のB 型 ウ イ ル ス に つ い て は 臨 床 分 離 株 で あ る B/Sendai/SG383/2013 ( ビ ク ト リ ア 系 統 ) とB/Sendai/SG387/2013 (山形系統)を用いた。用いた細胞は、Caco-2 (ヒト結腸癌由来細胞)と HTE (ヒト気道上皮初代継代細胞)である。検討した薬剤は、A 型の先行研究において使用された Camostat (CA), Sivelestat (SI), Gabexate(GA), Aprotinin (AP)の4種類セリンプロテアーゼ阻害剤に、あらたに Nafamostat (NA)を加えた。なお、これらはすべて膵炎や DIC 等の治療薬として、臨床現場で用いられている薬剤である。各ウイルスを MOI=0.1 で細胞に接種し、種々の濃度で薬剤を含む培養液で培養し、隔日採取した培養上清中のウイルス量を MDCK 細胞でのプラーク法により求めた。 【結果と考察】Caco-2 での B 型インフルエンザウイルスの増殖に対し、CA と NA は濃度依存的な増殖抑制効果を示した。一方、この濃度で細胞から放出される NADH の相対量を cell conting kit-8 で測定したところ、コントロールと差はなかった。この結果から、観察された増殖抑制は薬の毒性による細胞の機能低下によるものではないと判断した。ヒト気道上皮初代継代細胞 HTE では、CA および NA は 1 µg/ml(約 2μM)で顕著にウイルス増殖を抑制したが、SI および GA は 40 µg/ml でもほとんど抑制しなかった。APは四つのセリンプロテアーゼの中で中程度の抑制を示した。これは、A 型インフルエンザにおける先行研究と同様の所見であった。本研究により CA と NA が阻害するプロテアーゼが、B 型インフルエンザに対する薬の新たなターゲットとなる可能性が示唆された。

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V03 C 型インフルエンザウイルスの増殖に関与する CM2 の細胞質領域のアミノ酸配列 ○下平義隆 1,菅原勘悦 1,松嵜葉子 1,村木 靖 2,後藤崇成 1,本郷誠治 1 山形大学医学部感染症学講座¹, 岩手医科大学 微生物学講座 感染症学・免疫学分野 2

【目的】C 型インフルエンザウイルスの CM2 タンパク質は、ウイルスゲノムの粒子へのパッケージングや脱殻に関与する。最近我々は、CM2 の 73 位から 75 位の配列が CM2 の 4 量体形成の効率や糖鎖の成熟に関与することを報告した。これまでに、CM2 の量体形成能や糖鎖修飾は効率的なウイルス増殖に重要であることが報告されている。そこで本研究では、CM2 の 73 位から 75 位の配列がウイルス増殖に関与するかについて解析を行った。 【方法】CM2 の 73 位から 75 位のアミノ酸配列をアラニン (Ala) に置換した変異 CM2 (CM2 Ala 73-75) を発現する変異 M 遺伝子を持つウイルスは、リバースジェネティクスを用いて作製した。上記組換えウイルスを MDCK 細胞に感染させ、上清中のウイルス量を HA 試験とプラーク法で定量した。また、CM2 Ala 73-75 を持つウイルス様粒子 (VLP) を作製し、VLP 中のレポーター遺伝子である GFP 遺伝子 (GFP-vRNA) 量をリアルタイム PCR で解析した。 【結果】CM2 Ala 73-75 を持つウイルスの産生量は野生型ウイルスよりも減少し、特に 2 日目、3 日目及び7 日目に有意差が認められた。一方、VLP の HA 価とタンパク質量に差は認められなかった。VLP 中のGFP-vRNA 量は野生型より少し減少したが有意差は認められなかった。 【考察】以上の結果から、CM2 の 73 位から 75 位のアミノ酸配列は C 型インフルエンザウイルスの増殖に関与することが明らかになった。また、同配列はウイルス様粒子の産生に影響を及ぼさないことが示唆された。さらに、この配列はウイルスゲノムのパッケージングには大きな影響を及ぼさない可能性が示唆された。 V04 C 型インフルエンザウイルスの進化と系統樹動態 ◯古瀬 祐気 1,松嵜 葉子 2,西村 秀一 3,押谷 仁¹ 東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野 1, 山形大学医学部 感染症学講座 2, 仙台医療センター臨床研究部 ウイルスセンター3

【目的】 C 型インフルエンザウイルスは、A 型・B 型インフルエンザウイルスと同じように主に小児において呼吸器感染症の原因となる。しかしながら、C 型インフルエンザウイルスの分離・検出や塩基配列の解析は十分に行われているとはいえず、経時的に得られたウイルスの塩基配列情報に基づいて進化様式や系統樹動態に関する解析を行うことは困難であった。最近、われわれは C 型インフルエンザウイルス 102株の全ゲノムの塩基配列を決定した。今回、このデータを用いて C 型インフルエンザウイルス HE 遺伝子の進化・系統樹動態について解析を行い、A 型・B 型インフルエンザウイルスとの間にどのような違いがあるのか明らかにすることを目的とした。 【方法】 われわれが決定した 102 株の HE 遺伝子塩基配列に加え、公開データベースに登録されているC 型インフルエンザウイルスすべての塩基配列情報を取得した。また、A 型・B 型インフルエンザについては、ランダムに約 700 件の塩基配列情報を取得した。得られた塩基配列と分離・検出年の情報を用いて、系統樹動態・進化速度・選択圧についてインフォマティクス解析を行った。 【結果】 1947-2014 年の 68 年間に 13 カ国から得られた 183 件の C 型インフルエンザウイルス HE 遺伝子塩基配列からなるデータベースが構築された。系統樹解析から、ウイルスは系統的に明確な地域性を示さずに世界で流行していることがわかった。C 型インフルエンザウイルスの遺伝的多様性は A 型・B 型インフルエンザウイルスに比べて大きく、遺伝的多様性を制限するようなボトルネック現象はより少ない頻度で起こっていた。進化速度は A 型・B 型インフルエンザウイルスよりも小さく、これはアミノ酸変異を導く選択圧が低いことに加え、複製・伝播の過程における変異導入効率自体が低いことによるものと考えられた。個々のアミノ酸部位を見てみると、抗原決定部位の 1 つが有意な正の選択を受けており、進化の過程で抗原性を変化させる選択が弱いながらも働いている可能性が示された。 【考察】 C 型インフルエンザウイルスの進化は、A 型・B 型インフルエンザウイルスに比べて遅く、稀なボトルネック現象と低い選択圧によって特徴付けられた。今後は、ウイルス学的・免疫学的・疫学的性質にどのような差異があることによってこのような進化様式の違いが生じるのか検討していきたい。

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V05 パラインフルエンザウイルスのヒト呼吸器上皮細胞における増殖とそのプロテアーゼ阻害剤による増殖抑制効果の検討

◯飯野佑佳 1, 2, 佐藤光 1, 渡邊王志 1, 大宮卓 1, 磯貝恵美子 2, 中谷隆明3, 山谷睦雄4, 西村秀一 1 1 国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部ウイルスセンター, ²東北大学大学院 農学研究科 動物微生物学分野3, 京都府立医科大学 医学研究科・感染病態学, 4東北大学大学院 医学系研究科 先進感染症予防学寄附講座 【目的】パラインフルエンザウイルス(PIV)には 1~4 の血清型があり、いずれも呼吸器感染症を引き起こす。我々は、ヒトの気管上皮由来の培養細胞が、in vivo により近い PIV 感染の実験系として有用であるかを検討した。A 型インフルエンザウイルス(IAV)では、気道上皮にある TMPRSS2 や HAT 等のセリンプロテアーゼ(SP)が HA を開裂させウイルスを活性化する。そのため、SP 阻害薬が新規治療薬の候補として提案されている。PIV でも SP が同様に働くため、ヒトの気管上皮由来の培養細胞で SP 阻害剤の PIV 増殖抑制効果を検討した。 【方法】3 型パラインフルエンザウイルス(PIV3) 臨床分離株をヒト気管上皮初代細胞(HTE)および細気管支上皮由来の不死化細胞(21E5)に MOI 0.1 で感染させた。多段増殖の様子は、ヒト悪性黒色腫 MNT-1 細胞を用いた TCID50 で調べた。SP 阻害薬の効果は、PIV3 吸着後、種々の濃度の薬を含む培地でウイルスを培養して検討した。SP 阻害剤は camostat, nafamostat, gabexate, sivelestat (50, 10, 1μg/ml), aprotinin (5000, 1000, 100 KIU/ml)を用いた。 【結果】PIV3 は HTE 細胞で増殖し 7 日目で上清中のウイルス価が約 106 TCID50/ml となった。PIV3 は21E5 細胞においても増殖し、ウイルス価は 3 日目で約 106 TCID50/ml に達した。PIV3 の細胞変性効果(CPE)は 21E5 細胞で認められた一方、HTE 細胞では認められなかった。本実験に用いた 5 種の SP 阻害剤はすべて、両細胞において、いずれの濃度においても PIV3 の増殖を抑制しなかった。 【考察】HTE 細胞は細胞の性質上、入手は容易ではなく、研究の効率化のためにはその代用となる細胞が必要である。今回 HTE 細胞の代用として 21E5 細胞を PIV3 に対する種々の治療薬の検討に使用した。しかし、増殖速度や CPE の出方の違いなどがあるため、今後 HTE の代用として用いられるか、様々な視点で検討が必要である。IAV で増殖抑制効果を示す camostat に抑制効果がなかったことは、PIV3 の F タンパクの開裂が IAV の HA とは異なる機序で起きている可能性を示唆する。

V06 ヒトパラインフルエンザ及びメタニューモウイルスの分離における新規培養細胞 MNT-1 の有用性の検討

○佐藤光 1, 2,渡邊王志 1,大宮卓 1,千葉ふみ子 1,林昌浩 3,鈴木民夫 3,川上和義 2,西村秀一 1 仙台医療センター 臨床研究部 ウイルスセンター1, 東北大学大学院 医学系研究科 感染分子病態解析学分野 2, 山形大学 医学部 皮膚科学講座 3

【目的】ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIVs)及びヒトメタニューモウイルス(HMPV)は、パラミクソウイルス科に属すマイナス一本鎖 RNA ウイルスであり、HPIVs は血清型として 1 型~4 型に分類され、急性呼吸器感染症(ARI)の主要な原因の一角をなす。一般にウイルス分離は細胞変性効果(CPE)を指標とするが、HPIV1、3 と HMPV については、明らかな CPE を起こす細胞がなく、それがそれらの効率的分離の大きな足かせであったて。我々は効率的にそれらが分離できる細胞を求め、新規の培養細胞を入手するたびに、明らかな CPE を起こすかどうかを調べてきた。 【方法】今回、HPIV1、2、3、4 と HMPV に対して顕著な CPE を示したヒト悪性黒色腫由来の MNT-1 細胞(Dr. V.J. Hearing より供与)を試した。まず、各ウイルスの増殖を MNT-1 細胞と従来分離に用いてきた LLC-MK2 細胞とで比較し、さらに仙台市における、2011 年 7 月から 2016 年 3 月までの ARI 疑い小児患者の鼻腔・咽頭ぬぐい液・鼻汁臨床検体 8,796 検体を対象に、実際のウイルス分離能の比較の目的で、MNT-1、Vero、MDCK、LLC-MK2 細胞を含むマイクロプレート法でウイルス分離によって試み、ウイルス分離の感度ならびにそれぞれの細胞で CPE が出現するまでの時間を比較した。 【結果】MNT-1 細胞は HPIV1、3 によって顆粒状の CPE を、HPIV2、4、HMPV によって細胞融合を示した。HPIV1、3、HMPV については、MNT-1 細胞が LLC-MK2 細胞よりウイルスの増殖が良く、より早く、より多くのウイルス分離が可能であった。一方、HPIV2、4 では LLC-MK2 細胞と同程度の増殖、分離効率であった。Vero、MDCK 細胞で分離できたウイルスはなかった。 【考察】MNT-1 細胞はすべての HPIVs 及び HMPV に対して明らかな CPE を引き起こし、特に HPIV1、3、HMPV の分離有用な細胞であることが明らかとなった。本細胞は、これらのウイルスの生物学的活性等の解析の上でも、期待しうるかもしれない。

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V07 環境表面に付着したインフルエンザウイルスに対しエタノール噴霧消毒が効果持つ条件の検討 ○西村秀一1,山田堅一郎1,阪田総一郎2 国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター1, 高砂熱学工業株式会社技術研究所2 【目的】インフルエンザウイルスに対する消毒剤として、古典的に消毒用エタノール 77~81vol%が良く知られており、最近ではそのミスト噴霧も推奨されている。だが、その噴霧が効果を持つための種々の条件についての詳細な検討の報告はない。本研究で我々は、23℃の室内において、噴霧距離と相対湿度の条件を変えて、同ウイルスに対するエタノールミスト噴霧の消毒効果の変化を調べた。 【方法】23℃30/70%RH に維持された 25m3 の環境試験室で、噴霧器を用いて 15μm の大きさの 80vol%エタノールミストを噴射した。A/H3N2 型インフルエンザウイルス培養液 1μℓ を 5 滴滴下した直後のガラスプレート(Wet Sample)、ならびに滴下直後から 23℃30%RH の雰囲気中で 40 分間放置し滴下ウイルス液を乾燥させたプレート(Dry Sample)を、噴霧ノズル先端からそれぞれ 30, 50, 70cm 離した位置に配置し、それらに照準を合わせエタノールミストを 3 秒間、ウイルス付着表面に液膜濡れが観察できる程度に噴射し、直後にガラス表面に付着したウイルスを培養液で洗い流して回収し、回収液中の活性ウイルス量をプラーク法で測定した。また、エタノール噴霧せずに、直ぐに付着ウイルスを洗い流した Wet/Dry Sample を Control(対照)とした。 【結果】ミスト噴霧の可視化映像から 30, 50, 70cm の距離の移動時間はそれぞれ 0.027, 0.04, 0.064 秒であった。Wet Sample について 23℃30%RH の条件で噴霧距離を変えて感染価を測定した。その結果は、対照が 1.4×106PFU のとき、距離 0.3m では回収されたウイルスは測定限界未満(<3PFU)であったものの、0.5m では 7.3×105PFU、0.7m で 9.7×105PFU であり、対照とほとんど差がなかった。一方、Dry Sampleでは、23℃,30/70%RH の条件で測定したところ、対照が 5.0×105PFU のときに、距離 0.3m で測定限界未満(<3PFU)、0.5m で 4.0/9.7×103PFU、0.7m で 5.0/0.9×105PFU となり、距離に依存した消毒作用が確認された、それらは湿度が 30%でも 70%でも変わりなかった。 【考察】ミストの乾燥物理モデルから、30, 50, 70cm の距離の移動時間 0.027, 0.04, 0.064 秒後のミスト中のエタノール濃度を推定計算すると、それぞれ 71, 60, 40vol%となる。距離が 30cm のみでしか測定限界未満の PFU 値が得られなかったが、このことは、表面に到達するミスト中のエタノール濃度が消毒効果を発揮できる高さに維持されることが重要であることを示している。また Wet より Dry 状態の検体の失活が異なっていたのは、検体に含まれる水分によるアルコールの希釈の程度に対応していたものと考えられる。 V08 胃腸炎症状を示したネコに由来するネコノロウイルスの病原性について ○高野友美¹,平松香菜恵¹,土岐朋義¹,楠原一²,宝達勉¹ 北里大学 獣医学部 獣医伝染病学研究室¹, 三重県 保健環境研究所²

【目的】毎年、冬期にヒトノロウイルス(HNoV)による胃腸炎の流行が報告されている。HNoV に対する予防薬および治療薬の開発には再現性の高い動物モデルが必要である。最近、我々は、ネコにネコノロウイルス(FNoV)を経口投与すると発熱、嘔吐、下痢などの胃腸炎症状を示すことを確認した。即ち、HNoV 感染症の動物モデルにネコが応用できる可能性が示唆された (Takano et al. 2015. Vet Microbiol)。しかし、臨床症状を示したネコから得られた FNoV をネコに感染させることで同じ症状を再現できるか否かは不明である。これらを踏まえ、我々は、胃腸炎症状を示したネコから得た FNoV 遺伝子陽性糞便乳剤を SPF ネコに投与して感染性胃腸炎の発症を再現できるか否かを検討した。 【方法】FNoV 遺伝子陽性 20%(w/v)糞便乳剤(ネコ継代 2 代目)を新たに 4 ヶ月齢の SPF ネコ 3 頭に経口投与した。その後、継時的に臨床症状の有無を確認するとともに、糞便中の FNoV 遺伝子の検出を試みた。 【結果】FNoV を投与した 3 頭のネコのうち、3 頭全てにおいて下痢症状が認められるとともに、2 頭において嘔吐が認められた。また、1 頭のネコでは、FNoV 投与後に発熱・軟便症状を繰り返し呈するとともに糞便中から FNoV 遺伝子が持続的に検出された。 【考察】FNoV 感染に伴う胃腸炎症状を再現することに成功した。この結果を踏まえると、FNoV はネコの胃腸炎の原因ウイルスであると思われる。また、ネコはノロウイルス感染による胃腸炎を容易に再現できることから、HNoV 感染症の動物モデルに適していると考えられる。

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V09 A novel sensitive protocol for genotyping of norovirus genogroup II recombinants ○Hang Xu¹,Xiaofang Liu¹,Kentaro Tohma¹,Yoshifumi Masago², Daisuke Nakayama3, Yasuko Kayama4, Kazuhisa Kawamura5, Robert H. Gilman6, Holger Mayta7, Amado O. Tandoc III8, Edelwisa S. Mercado8, Mayuko Saito¹, Tatsuo Omura2, Hitoshi Oshitani¹for Norovirus Working Group Department of Virology, Tohoku University Graduate School of Medicine1, New Industry Creation Hatchery Center, Tohoku University2, Nakayama Clinic3, Kayama Pediatric Clinic4, Kawamura Pediatric Clinic5, Department of International Health, Johns Hopkins School of Public Health6, Department of Cellular and Molecular Sciences, Universidad Peruana Cayetano Heredia7, Research Institute for Tropical Medicine8 【 目 的 】 Norovirus (NoV), a member of the Caliciviridae family, is one of the most frequent etiology of acute gastroenteritis for all age groups. NoV genogroup (G) II evolves rapidly with new GII.4 variants emerging every several years and replacing previous dominating variants and causes global epidemics. Recently, GII.17 has been reported to replace GII.4 in several countries in Southeast Asia. Although, its recombination at junction of polymerase and capsid gene is very common, genotyping is based on widely used primer pairs targeting a region of polymerase or capsid region separately. The objective of this study is to develop a new protocol, which enable to identify genotypes of both polymerase and capsid regions to find the recombinant strains of NoV GII in relatively simple way. 【方法】A new primer GII4766F located at polymerase region was designed and the sensitivity and specificity of primer pair GII4766F/GIISKR were evaluated by conventional PCR against real-time quantitative PCR (Cog2F/Cog2R/ Ring P2) in 296 stool samples obtained from clinical and community studies. The results were compared with those by primer pair of GIISK-FR and the concordance in positivity between two primer pairs was evaluated. Furthermore, recent emerging strain GII.17 (n=29) was tested by both primer pairs. 【結果】The sensitivity and specificity of the new primer pair GII4766F/GIISKR were 79.9% (135/169) and 97.6% (124/127), respectively, and were similar to those by GIISK-FR [sensitivity: 76.3% (129/169) and specificity: 96.9% (123/127)]. Although the agreement level of the positivity between two primer pairs was high (Cohen’s kappa = 0.88), there were 18 samples with discordant results. Among positive samples tested by GII4766F/GIISKR, 22 genotype combinations (10 genotypes of polymerase and 11 genotypes of capsid) were identified by using the NoV typing tool, NoroNet. Among those, 11 were recombinant genotypes. Both primer pairs were able to detect GII.17. 【考察】The novel protocol using GII4766F and GIISKR was proved to be equally sensitive and specific to most of the genotypes of NoV GII, compared to most commonly used primer pairs GIISK-FR for typing of capsid region of NoV GII. Genotypes for both polymerase and capsid region were identified in most of the samples positive to GII4766/GIISKR. Thus this method is useful to identify recombinant strains of NoV GII. The genotype-specific sensitivity and detection limit of viral load are needed to be further evaluated in large number of samples. V10 HCMV の潜伏感染マーカーUL138 の発現と再活性化における経時的検討 ○小林敬広1、野本芽衣1、松岡亮1、腰塚哲朗1、生田和史 1.2、石岡賢1、錫谷達夫1

福島県立医科大学医学部 微生物学講座1、東北医科薬科大学医学部 微生物学教室2 【目的】ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は人類の 80%以上に感染し、宿主の生涯にわたって潜伏感染を持続するが、健常人に疾患は起こさない。近年、CD34 陽性造血幹細胞に潜伏感染するウイルスから UL138 遺伝子が発現し、このタンパク質が潜伏感染の維持に必須であることが報告されている。そこで本研究では、臍帯血由来および iPS 細胞から分化誘導した CD34 陽性造血幹細胞に HCMV 臨床分離株を感染させ、UL138 の発現および再活性化について経時的に検討した。 【方法】理研より購入した臍帯血および iPS 細胞由来の CD34 陽性造血幹細胞への分化誘導した細胞を用いた。HCMV 臨床分離株を MOI1 で感染させ、感染初期のマーカーである IE と潜伏感染マーカーであるUL138 を用いて蛍光抗体法で染色し、それぞれの細胞での発現を検討した。感染 10 日目の細胞に、再活性化に重要な因子であると報告されている TNF-αおよび GM-CSF を添加培養し、IE、UL138 の発現が回復するかどうかを検討した。 【結果】HCMV 臨床分離株を感染させた臍帯血由来および iPS 細胞から分化誘導した CD34 陽性造血幹細胞は、ともに培養 3 日目からコントロールに比べ増殖が抑制される傾向が見いだされた。また、感染初期のマーカーである IE は感染 1 日目から約 90%で発現しており、3 日目まで約 80%の発現が確認でき、10日目では大幅に発現が低下した。潜伏感染のマーカーである UL138 は感染 1 日目からほぼすべての細胞で発現が確認でき、低下したものの 10 日目以降も発現が維持されていることが確認された。また感染した造血幹細胞の一部がマクロファージに分化誘導されることも確認された。さらに再活性化の検討の結果、添加 7 日目で IE および UL138 の発現が回復していることが確認された。 【考察】これらの結果から、HCMV は CD34 陽性造血幹細胞に感染し、細胞の増殖を抑制すること、また、3 日目までは感染初期マーカーである IE を発現していることから感染を維持し、それ以降は潜伏感染の状態に移行することが示唆された。さらにマクロファージへ分化誘導し、分化先で潜伏感染を維持することが示唆された。加えて、炎症性のサイトカインおよび分化誘導因子によって再活性することが示唆された。

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V11 ヒトサイトメガロウイルス UL42 による宿主ユビキチンリガーゼ Itch の制御 ◯腰塚哲朗、小林敬広、錫谷達夫 福島県立医科大学 医学部 微生物学講座

【目的】 ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は造血幹細胞などに潜伏感染しており、母子感染や免疫不全状態

における日和見感染が問題となる。特に母体から胎児に感染した場合には難聴、精神発達遅滞などの症状を呈す場合がある。この HCMV 母子感染を予防・治療する有効な手段は確立されていない。

我々はこれまでに HCMV UL42 について、宿主ユビキチン E3 リガーゼ Nedd4 ファミリーの一つであるItch と相互作用することを報告した(Koshizuka et al., J.Gen.Virol. 2016)。これまでの検討では UL42 欠損株は線維芽細胞での増殖に変化が認められなかったことから、神経系細胞株における増殖能と Itch の変化を調べた。 【方法】

神経芽腫由来細胞株である SH-SY5Y 細胞をレチノイン酸で分化させ、組換え HCMV の増殖能を比較した。感染細胞の lysate をウエスタンブロット法により解析した。 【結果】

SH-SY5Y 細胞における組換え HCMV の増殖を検討したところ、UL42 欠損株で増殖能の低下を認めた。 ウエスタンブロット法による解析を行ったところ、UL42 欠損株感染細胞における Itch 量の大幅な増加

を認めた。また、UL42 欠損により宿主側の転写調節因子の一つとそのリン酸化が増加した。この転写調節因子は Itch の基質の一つであることから、Itch は UL42 存在下で活性化し感染細胞内の遺伝子発現の調節に関与していると考えられた。野生株感染細胞で Itch 量増加が抑制されているように見えるのは、活性化に伴う自己ユビキチン化及び分解であると推測される。 【考察】

神経系細胞株での増殖に変化が認められたことから、UL42 は HCMV の神経病原性に関与する可能性がある。その本質は、HCMV UL42 が Itch 等 Nedd4 ファミリー分子の活性を制御し、ウイルスにとって都合が良い基質を標的とするように導いている点にあるのではないか。

V12 フラビウイルス粒子形成に関与する ESCRT 因子群 新井亜利紗 1、荒川将志 1、田端桂介 2、有本大 2、斉藤一伸 2、大森弘子 2、奈良篤樹 3、◯森田英嗣 1 弘前大学 農学生命科学部 分子生命科学科¹、大阪大学 微生物病研究所 ウイルス研究グループ²、 長浜バイオ大学 バイオサイエンス学科 3

【目的】フラビウイルスは感染後期過程に宿主細胞内膜系を大規模に再構築し、小胞体由来の複製オルガネラと呼ばれる構造体を形成する。我々はこれまでに、感染特異的に複製オルガネラにリクルートされる因子のプロテオミクス解析と siRNA ノックダウンスクリーニングによって、フラビウイルス複製に必要な種々の宿主因子を同定してきた。本研究では、スクリーニングによって同定された ESCRT 因子群について焦点を絞り、フラビウイルス増殖における役割について解析を行った。 【方法】30 種類全ての ESCRT 因子群に対して、単独または複数の siRNA の組み合わせによるノックダウンのスクリーニングを行い、ウイルスの増殖に必須な ESCRT サブユニットの同定と、各サブユニットの機能相補性について検討した。また、電子顕微鏡観察を行い ESCRT 因子群の複製オルガネラ内における局在と、ノックダウン細胞における複製オルガネラの形態について調べた。さらに、siRNA に抵抗性を示すサイレンス変異を持つ各種 ESCRT 変異体を用いた入れ戻し実験を行い、ESCRT 因子群同士の相互作用の重要性について検討した。 【結果と考察】siRNA のノックダウンのスクリーニングの結果、TSG101 単独でのノックダウン、CHMP4A/CHMP4B /CHMP4C 又は CHMP2A/CHMP2B/ CHMP3 を同時にノックダウンした細胞においてのみ、著しいウイルス増殖能の低下を確認した。これらの結果は、フラビウイルスの増殖において、全てではなく一部の ESCRT 因子群が極めて重要な役割を担っていることを示唆している。また、免疫電子顕微鏡観察により、ESCRT 因子群が複製オルガネラ辺縁部に局在することを確認し、さらに、CLEM 解析より ESCRT をノックダウンした細胞の小胞体上に数多くの不完全なウイルス粒子様像が検出された。これらの結果は、ESCRT 機能の一端は小胞体近辺の複製オルガネラでみられるウイルス粒子形成にあることを示唆している。また、増殖が著しく抑えられたノックダウンの組み合わせに対して、各種変異体の入れ戻し実験を行い、ウイルスの増殖に必要な宿主因子間相互作用を調べたところ、TSG101-PTAP、CHMP2-CHMP4、CHMP-生体膜の相互作用の重要性は確認できたものの、TSG101-Ub、CHMP4-ALIX、CHMP2-VPS4、CHMP4-CCD21A の相互作用の重要性は確認できなかった。これまでにレトロウイルス粒子形成、MVB 形成、細胞質分裂など ESCRT が関与する様々な膜動態が報告されているが、フラビウイルスの粒子形成に必要な ESCRT 因子群はそれらとは異なったメカニズムにおいて機能している可能性が示された。

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I03 高脂肪食誘導性肥満マウスにおけるプロテオグリカンの抗炎症作用 ○廣瀬昌平,浅野クリスナ,中根明夫 弘前大・院医・感染生体防御学

【目的】肥満の脂肪組織は慢性炎症状態であり、2型糖尿病に繋がることが知られている。我々の研究グループは、サケ鼻軟骨から抽出したプロテオグリカン (PG) の経口投与により、全身性の抗炎症作用を有することを明らかにした。本研究は PG の脂肪組織における炎症抑制効果および2型糖尿病への予防効果を明らかにすることを目的とした。 【方法】高脂肪食 (HFD ; 60%脂肪含有) を給餌して肥満・2型糖尿病モデルマウスを作製し、同時に PGを飲水に混合して投与した。HFD 給餌8週後に脂肪組織内における炎症性サイトカインの mRNA 発現量を解析した。さらに、脂肪組織内 M1および M2マクロファージの増減をフローサイトメトリーおよび免疫組織化学的手法にて評価した。加えて、肝臓における AKT のリン酸化を評価した。また、HFD 給餌12週後に血中インスリン濃度測定、14週後に腹腔内グルコース負荷試験 (IPGTT)を行った。 【結果および考察】PG 投与群では TNF-α、IL-6 および CXCL-2 の mRNA 発現が有意に抑制されていた。さらに、M1マクロファージマーカーである CD11c 陽性細胞の割合および細胞数が PG 投与群で有意に減少していた。一方、M2マクロファージマーカーである CD206 陽性細胞の割合および細胞数に差は認められなかった。従って、PG は脂肪組織中 M1 マクロファージの浸潤を抑制し炎症状態を抑制していることが示唆された。また、肝臓におけるリン酸化 AKT は PG 投与群で有意に増加していた。さらに、血中インスリン濃度は PG 投与群で有意に低値であり、IPGTT では PG 投与群において血糖値の上昇が有意に抑制された。これらの結果より、PG はインスリン抵抗性の誘導を予防すると考えられる。

I04 Salmonella enterica serovar Pullorum に対する鶏の自然免疫応答 ○岡村 雅史,山藤 功,野口 紗貴,胡 東良 北里大学 獣医学部 人獣共通感染症学 【目的】Salmonella enterica serovar Pullorum(SP)によるひな白痢は鶏の感染症であり、監視伝染病の1つである。感染ひなは致死的に経過するが、感染した成鶏は無症状保菌鶏となって介卵感染により保菌卵を産出する。産卵開始期の鶏ではサルモネラ感染に対する獲得免疫応答が低下することが報告されており、これは感染後の卵巣での保菌に関与していると考えられている。本研究では、産卵開始が SP 感染時の自然免疫応答に及ぼす影響を明らかにするため、産卵前、産卵開始期および産卵期の鶏の回腸パイエル板と卵巣における関連サイトカインの発現状況を調べた。 【方法】各時期の採卵鶏に SP S’-1 株あるいは PBS を経口接種し、それぞれ感染群あるいは非感染群とした。接種 6、24 および 48 時間後に各 4 羽から各組織を採材した。最初に非感染群において各時期におけるIL-1、IL-6、CXCLi1、CXCLi2、IL-12 および IL-10 の発現を qRT-PCR を用いて比較した。感染群では各組織における菌数を定量し、さらに 6、24 および 48 時間後の各時期における感染群のサイトカイン発現動態を同様に比較した。なお、産卵前および産卵開始期の鶏は、発育状況により個体差が生じやすいと予想されたため、これらの鶏を用いた実験を2回実施した。 【結果】非感染群では、パイエル板において CXCLi1、CXCLi2 の発現が産卵前と比べ産卵開始期に低下し、産卵期には産卵前のレベルに回復する傾向がみられた。感染群では、接種 6 時間後の卵巣において、産卵開始期感染群は産卵前感染群よりも分離菌数が高かった。また、産卵開始期感染群では産卵前感染群と比較して、接種 24 時間後のパイエル板における IL-10 の発現の増加と IL-12 および CXCLi2 の発現の減少が、また卵巣における IL-6、IL-10、IL-12 および CXCLi2 の発現の減少が認められた。 【考察】以上のことから、産卵開始時には鶏の自然免疫系の抑制が起こっていること、さらにこれが SP 感染時の卵巣における分離菌数の増加と卵巣およびパイエル板における自然免疫応答の抑制に繋がることが示唆された。

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I05 炎症性発がんにおける IL-21 の関与 ○荒木明美, 金 蓮今, 奈良英利, 武田裕司, 浅尾裕信 山形大学 医学部 免疫学講座 【目的】慢性炎症は発がんの大きな背景要因である。私達は IL-21 アイソフォームを T 細胞特異的に発現させたマウス(IL-21isoTg マウス)では、野生型マウスに比し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)経口投与による潰瘍性大腸炎が増悪することを既に報告した。さらに、このマウスに発がん誘導物質であるアゾキシメタンを前投与したところ、大腸がんの発生もより亢進することが分かった。この結果から、IL-21 は、慢性炎症から発がんという一連の流れに強く関与することが推察された。IL-21 は B 細胞に対してactivation-induced cytidine deaminase(AID)発現を亢進し、抗体遺伝子のクラススイッチや体細胞高頻度突然変異を誘導することが知られている。AID は、生理的条件下では活性化 B 細胞のみに発現しているが、炎症臓器では異所性に AID が発現し、遺伝子変異や染色体異常を引き起こすなど、発がんに関与していることが明らかにされている。本研究では、IL-21isoTg マウスでの大腸がんの発症に、IL-21 による AID の誘導が関わっているのかどうかを明らかにすることを目的とする。 【方法・結果】初めに、DSS 誘導大腸炎の大腸組織において AID の発現が増加しているか RT-PCR 法により調べたところ、コントロール組織に比し、有意に増加がみられた。また、AOM-DSS を投与したマウスの大腸上皮細胞(IEC)においても AID の発現が増加している傾向があった。これら AID の発現上昇にIL-21 が直接作用しているのかどうかを調べた。無処置の IEC には、弱いながら、IL-21 受容体とγc 鎖の発現がみられ、これら IL-21 の受容体発現は TNF-α刺激により増加傾向を示し、炎症に伴って増加する可能性が示唆された。そこで、IEC を IL-21 単独、あるいは IL-21 と TNF-αで刺激したところ、AID の発現増加が確認された。次に、上記の結果をマウス大腸癌細胞株 colon 38 を用いて確認した。colon 38 も IL-21 受容体とγc 鎖を発現し、それらの発現は、IEC と同様に TNF-α刺激により増加した。さらに、IL-21や TNF-α刺激による AID の発現増加も確認された。 【考察】以上の結果より、IL-21 が炎症状態にある大腸上皮細胞上の IL-21 受容体を介して AID の発現を増加させ、炎症性発がんへと導いている可能性が示唆された。 I06 パラジウムによる金属アレルギー発症におけるヒスタミンの機能解析 ◯伊藤甲雄 1、秋山なつみ 1,2、樋口繁仁 3、佐藤直毅 1、小笠原康悦 1,3 東北大学加齢医学研究所 生体防御学分野 1、東北大学歯学部 2、東北大学大学院歯学研究科 難治疾患・口腔免疫学講座 3 【目的】パラジウム(Pd)は腐食に強いため、装飾品から歯科診療まで幅広く用いられており、その普及とともに Pd アレルギー発症例も増加している。金属アレルギーは遅延型過敏症を特徴とする T 細胞依存性の IV 型アレルギーに分類されている。ヒスタミンはマスト細胞や好塩基球等から分泌され、血管透過性の亢進、血管拡張、炎症性サイトカインの分泌に関与し、特に I 型アレルギーへの関与は知られているものの、T 細胞に対する役割は不明である。そこで本研究ではマウス Pd アレルギーモデルを用いて、T 細胞機能とヒスタミンの役割について解析した。 【方法・結果】Pd アレルギーは Balb/c マウス両鼠径部に PdCl2 と LPS の混合溶液を週 1 回 2 週連続で投与し、その 7 日後に PdCl2 溶液を両足蹠皮下に投与することにより惹起した。アレルギー反応は足蹠の腫れを測定して評価した。その結果、惹起 24 時間後に足蹠の腫脹が最大となった。この時の T 細胞応答を評価するために惹起 15 時間後に膝窩リンパ節を採取し、IFN-γ産生をフローサイトメトリーにより評価すると、惹起したリンパ節においては IFN-γ産生が認められ、そのほとんどが CD8 T 細胞由来であった。さらに IFN-γ産生はヒスタミン存在下で増加した。ヒスタミン受容体のひとつ H1R の選択的阻害薬である olopatadine hydrochloride (OLP)添加により IFN-γ産生が抑制されることが判明した。最後に Pd アレルギーモデルにおける OLP 投与を行い、OLP 投与群における足蹠の腫脹が抑制されることが明らかになった。 【考察】OLP により Pd アレルギーにおける足蹠腫脹が抑制されたことから、本モデルにおいてヒスタミンは T 細胞の IFN-γ産生を促進することにより、Pd アレルギーを促進していることが明らかとなり、金属アレルギーにおいて H1R が重要な治療標的と考えられた。

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P01 青森県八戸市の環境モニタリングと衛生害虫発生および媒介微生物について ◯西村順子¹,熊谷一輝¹,橋本竜太朗¹,古川直樹¹,本田慎弥¹ 八戸工業大学 工学部 バイオ環境工学科¹ 【目的】八戸市郊外では半径 5 km 以内の周辺地域に、養豚場、養鶏場、産業処理施設が隣接しており、それら 3 つの施設から発生する悪臭や衛生害虫は環境衛生の悪化をもたらしている。本研究では、事業所界隈地域の衛生環境向上を目的とし、環境モニタリングを行うとともに、衛生害虫(ハエ類)の発生状況と食中毒細菌の検出を行い、界隈住民に対する生活衛生への影響を検討した。 【方法】衛生害虫の発生する時期(6~11 月)において、測定場所と時間を定め、気象を測定した。また気象測定場所においてハエを捕獲し、体長により 3 つのグループに区分して個体数を計測した。捕獲したハエの中でイエバエ類と同定された個体に関しては、標準寒天培地、クロムアガーO157 寒天培地、MYP 寒天培地を用いて体表に付着した細菌を検出して CFU を計測するとともに、特異的なコロニー生育が観察されたものに関して 16S rDNA 解析を行い、菌種同定を行った。 【結果】試験期間全般をとおして、捕獲されたハエはショウジョウバエのような小型種が殆どであり、イエバエのような大型種は少なかった。今回捕獲したイエバエは、基本的には複数菌種を体表に付着させていたが、いずれも病原性大腸菌 O157 やセレウス菌は含まれていなかった。さらに単一コロニーが確認されたプレートの菌種解析を行ったところ、腸球菌(Enterococcus faecalis)および Staphylococcus sp.と同定された。 【考察】平成 27 年の気象、とくにイエバエのような堆肥由来の衛生害虫の孵化1巡目となる6月上旬の気象はハエの孵化に不向きであったため、その後の発生も抑えられ、衛生管理が比較的容易な年度だったと考えられた。ハエの媒介微生物として腸球菌(Enterococcus faecalis)や Staphylococcus sp.などが検出されたが、いずれも環境由来の一般的な日和見感染菌であることから、細菌感染の媒介と拡大において、衛生害虫の影響は大きく、改めて細心の注意が必要と考えられた。 P02 韓国から山形県への輸入つつが虫病の 1 症例 ○鈴木裕 1,瀬戸順次 1,島貫美和 2,矢作一枝 3,水田克巳 1 山形県衛生研究所微生物部 1、山形県立新庄病院 2、山形県内陸食肉衛生検査所 3

【はじめに】つつが虫病はツツガムシ幼虫が媒介する Orientia tsutsugamushi(Ot)感染による熱性発疹性疾患であり、日本では 6 種類の Ot 亜型(Gilliam、Karp、Kato、Kawasaki、Kuroki および Shimokoshi 型)が知られている。今回、韓国で感染・発症し、山形県内の医療機関で診断された、本県初の Kuroki 型つつが虫病輸入例を経験した。 【症例および経過】50 歳代、女性。2015 年 9 月下旬から 11 月上旬にかけて韓国仁川市に滞在。帰国 2 日前に、左前胸部の発赤と 38℃台の発熱により韓国の病院を受診した。帰国当日受診した本県医療機関にて、発熱、顔面・体幹・四肢の播種状発疹、および左前胸部に発赤を伴う潰瘍状の痂皮を認め、つつが虫病疑いにより即日入院となった。患者に対しては直ちにミノサイクリンが投与され、入院 2 日後に解熱、6 日後に退院となった。入院当日の血液検体の nested-PCR により Ot 56-kDa タンパク遺伝子が検出され、ダイレクトシークエンスの結果 Kuroki 型と同定された。また、同検体の血中 IgM 抗体価は Kuroki 型 640 倍、Karp 型 320 倍、IgG 抗体価は全亜型に対して 20 倍未満であった。 【考察】本症例は、帰国前に既に症状があったこと、および Ot 亜型が本県初かつ韓国で秋に主流の Kuroki型(韓国名 Boryong 型)であったことから、韓国から本県へのつつが虫病輸入症例であると考えられた。韓国、中国及び台湾等の日本近隣諸国のつつが虫病患者報告数は近年増加しており(韓国:13 年間で 3.8倍、中国:8 年間で 8.3 倍、台湾:4 年間で 1.4 倍)、我が国における輸入つつが虫病症例の増加が危惧される。Ot は国及び地域により亜型の分布が異なることから、Ot 亜型の同定は輸入つつが虫病症例の鑑別に有用であると考えられた。

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B07 ブドウ球菌エンテロトキシン様毒素 SElJ の発現・精製と生物活性の解析 ○小野久弥 1,2,鈴木康規 3,廣瀬昌平 2,胡東良 1,中根明夫 2 北里大学獣医学部獣医学科 人獣共通感染症学研究室 1、弘前大学大学院医学研究科 感染生体防御学講座 2、東京都健康安全研究センター 微生物部食品微生物研究科 3 【目的】ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)ファミリーは非常に多様性に富む毒素群であり、SE 様毒素(SE-like, SEl)を含め、現在 SEA から SElY までの 23 種類が報告されている。SE は嘔吐活性およびスーパー抗原活性を有し、嘔吐型食中毒および毒素性ショック症候群の原因毒素である。SElJ 遺伝子は SE 保有プラスミド上に他の SE 遺伝子と連続して存在することが報告された。しかしながら、C 末端に存在する疎水性アミノ酸残基のため、組換えタンパク質の発現・精製が困難であり、その生物活性や病原性は不明なままである。本研究において我々は、recombinant (r)SElJ の発現・精製を試み、SElJ の生物活性を解析した。さらに、食中毒事例由来株の SElJ 産生性の解析を行い、ブドウ球菌食中毒への関与を検討した。【方法】rSElJは GST 融合タンパク質システムおよび IMPACT システムを用い発現・精製を行った。rSElJ のスーパー抗原活性はコモンマーモセット末梢血リンパ球の[3H]thymidine 取り込みにより測定した。rSElJ の嘔吐活性はコモンマーモセット嘔吐モデルを用いて解析した。SE を経口カテーテルにより胃内投与し、嘔吐の潜伏時間および回数を5時間観察した。また、抗 SElJ 抗体を作製し、western blotting および ELISA により S. aureus 培養上清中の SElJ の検出を行った。【結果】IMPACT システムにより rSElJ の発現・精製に成功した。精製した rSElJ はコモンマーモセットリンパ球の増殖を誘導した。SEA と比較するとその活性は弱いものの、1 ng/ml からリンパ球の増殖が確認された。マーモセット嘔吐モデルを用いた rSElJ 投与実験では5 匹中 2 匹が嘔吐を示し、嘔吐活性を有することが明らかとなった。さらに western blotting により、S. aureus の培養上清中への SElJ 産生が確認された。また、ELISA により2つの食中毒事例由来株で高い SElJ産生量を示すことが明らかとなった。【考察】SElJ はスーパー抗原活性を持つとともに、霊長類に対して嘔吐を引き起こしたため、SEJ と再命名する必要がある。また、食中毒事例由来株で SEJ の高産生性を示したことからブドウ球菌食中毒への関与が示唆された。 B08 黄色ブドウ球菌 Fibronectin binding protein A ワクチンの IL-17A 依存性感染防御効果 ○成田 浩司 1,2 浅野 クリスナ 1 中根 明夫 1 弘前大学 院医 感染生体防御学講座¹、弘前大学 院医 附属動物実験施設² 【目的】Fibronectin binding protein A ( FnBP A)は黄色ブドウ球菌の接着因子の1種である。FnBPA による免疫は、特異抗体産生を誘導し、感染防御効果を示すことが知られている。しかし、その防御効果におけるサイトカインの関与、役割は明らかにされていない。本研究では FnBPA フィブロネクチン結合ドメイン(FnBPA541-870)ワクチンの感染防御効果におけるサイトカインの役割を検討した。 【方法】マウスに FnBPA541-870 と alum を皮下接種することでワクチン接種を行った。対照群は PBS と alumを接種した。脾細胞を FnBPA541-870 で刺激し、培養上清中のサイトカインを定量した。野生型マウスと IL-17KO マウスにワクチン接種後、S. aureus 834 株を感染させ、生存率、臓器中の生菌数を測定した。また、脾臓、肝臓における IL-17A、ケモカイン mRNA の発現、好中球浸潤の指標であるミエロペルオキシダーゼ活性を測定した。 【結果】ワクチン接種群の脾細胞は、対照群マウスに比べ IL-17A 産生が増加したが、IFN-J、IL-4 では差はなかった。野生型マウスのワクチン接種群では S. aureus 834 株感染後、脾臓、肝臓の生菌数は減少し、ワクチン非接種群と比べ高い生存率を示した。ところが、IL-17A 欠損マウスにワクチン接種した場合は、生菌数の減少は見られなかった。S. aureus 834 株感染後、ワクチン接種した野生型マウスの脾臓、肝臓では IL-17A mRNA、好中球誘導ケモカイン mRNA 発現が増加し、ミエロペルオキシダーゼ活性が増加していた。 【考察】FnBPA541-870 ワクチンは IL-17A 産生細胞を誘導し、黄色ブドウ球菌全身感染に対する感染防御効果には IL-17A が重要な役割を果たすことが示唆された。

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B09 ブドウ球菌表皮剥脱毒素の DSG1 恒常発現細胞への反応性 ○平井真太郎, 佐藤和樹, 田邊太志, 佐藤久聡

北里大学獣医学部 獣医微生物学研究室 【目的】ブドウ球菌表皮剥脱毒素(ET)のうち、S. hyicus ET は SwDSG1 を、S. aureus ET は HuDSG1 を、S. pseudintermedius ET は CaDSG1 を標的とし、これを切断することにより皮膚に剥離と水疱形成をもたらす。我々は ET の感受性動物種の相違が ET と DSG1 の反応性により決定されるか否かを DSG1 発現細胞を用いて調べた。 【方法】SwDSG1, HuDSG1, CaDSG1 の N 末端から膜貫通領域までの塩基配列を pcDNA3.1 Zeo (+)にクローン化し、HEK293 細胞に形質移入後、Zeocin 選択により DSG1 恒常発現細胞を作製した。次に、単層培養した SwDSG1-293 細胞, HuDSG1-293 細胞, CaDSG1-293 細胞に 5 種の S. hyicus ET, 2 種の S. aureus ET, 2 種の S. pseudintermedius ET を反応させ、ET と DSG1 の反応性を細胞の円形化を基に判定した。 【結果】抗 SwDSG1 抗体を用いた蛍光抗体法により、SwDSG1-293 細胞, HuDSG1-293 細胞, CaDSG1-293 細胞に DSG1 が発現していることが確かめられた。次にこれらの細胞と各 ET を反応させたところ、S. hyicus ET は SwDSG1-293 細胞のみ、S. aureus ET は HuDSG1-293 細胞のみ、S. pseudintermedius ETは CaDSG1-293 細胞のみを円形化させ、他の細胞には変化を起こさなかった。なお、固定した SwDSG1-293 細胞、HuDSG1-293 細胞および CaDSG1-293 細胞と各 ET の結合については現在試験中である。 【考察】ET の感受性動物種は、ET と DSG1 の反応性により決まることが分かったが、ET が DSG1 分子中のどの領域を認識して反応特異性を決めているのかは今後の検討課題である。 B10 Helicobacter cinaedi の動脈硬化促進および持続感染メカニズムの解明 ○松永哲郎 1, 藤井重元 1, 井田智章 1, 小野勝彦 2, 津々木博康 2, 澤 智裕 2, 河村好章 3, 赤池孝章 1 東北大学大学院 医学系研究科 環境保健医学分野 1、熊本大学大学院 生命科学研究部 医学系微生物学 2、 愛知学院大学 薬学部 微生物学講座 3

【目的】Helicobacter cinaedi は 1984 年に初めてヒトへの感染が確認された新興感染症菌である。本菌感染症は近年重症例を含めて報告数が増加しているが、病原性発現機構や感染疫学など不明な点が多く残されている。最近我々は、本菌の持続感染が動脈硬化症の進展に関与する可能性を見出した。そこで今回、動脈硬化モデルマウスおよび培養細胞を用いて本菌感染による動脈硬化病態の促進作用および細胞内寄生性、感染疫学についての解析を行ったので報告する。 【方法・結果】動脈硬化モデルマウス B6.Apoesh1 に H. cinaedi PAGU0616 を経口感染させ、感染8週間後に大動脈組織の Oil Red O 染色および免疫組織染色を行ったところ、非感染マウスに比べ、動脈硬化巣の著明な拡大と好中球および泡沫細胞の有意な増加が観察された。培養マクロファージにおいて本菌の感染により、コレステロール代謝に関与する LDL 受容体および ABCG1 トランスポーターの発現量が変化し脂質が蓄積した泡沫化が観察された。次に細胞内寄生性について解析した結果、マウスマクロファージ様RAW264.7 細胞への本菌の感染により、細胞内にらせん状の菌体像が観察され、オートファジー関連タンパク質 p62 との共局在は観察されなかった。また感染疫学について解析したところ、PCR 法により 30 名の健常ボランティアの便検体から複数の陽性例(4 例)が認められた。 【考察】H. cinaedi 感染はマクロファージの泡沫化により動脈硬化を促進させることが示唆された。また本菌はオートファジーによる細胞内殺菌から回避することにより細胞内寄生し持続感染する可能性が示唆された。今後、本菌の持続感染のメカニズムと動脈硬化リスク因子として本菌感染症病態についての解析をさらに進めることにより、動脈硬化症の新たな予防法・治療法開発への応用が期待される。

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B11 V.vulnificus は筋肉内に侵入することで感染局所の自然免疫を回避する ○山﨑 浩平,柏本 孝茂,門 武弘,上野 俊治 北里大学 獣医学部 獣医公衆衛生学研究室 【目的】Vibrio vulnificus (V.v.)は、基礎疾患を持つヒトに感染した場合、敗血症を引き起こす。経口感染においては、感染者の 95%が基礎疾患を持つ一方、創傷感染においては逆に、感染者の 80%以上が基礎疾患を持たない。このような創傷感染者では、敗血症には至らないものの感染局所に水腫や壊死性筋膜炎などを引き起こす。これらの事実は、日和見感染症起因菌である V.v.が、創傷感染局所においてのみ健常人の自然免疫を回避し、増殖可能であることを示している。我々は、V.v.の創傷感染成立機構を解明するため、Signature tagged mutagenesis 法を用いて V.v.が創傷感染局所での増殖に必須とする遺伝子を同定してきた。その結果、鞭毛の回転制御に関する遺伝子が高い割合で検出された。本研究では、V.v.の鞭毛回転制御が感染局所において、果たす役割を解析した。 【方法】鞭毛が反時計回りにのみ回転し続ける ΔcheY、鞭毛が高頻度で時計回りに回転する CheY-Q93R、および鞭毛が回転しない ΔpomA を作製してマウスに皮下接種し、 1) in vivo imaging system と 2) 筋肉内菌数により感染局所での動態を解析した。また、3) 種々の接種経路におけるマウス致死時間、4)好中球減少マウスに皮下接種後の筋肉内菌数を算出した。 【結果】1) 野生株(WT)は皮下接種後 6 時間で拡散範囲が最大になった。2) 筋肉内菌数は、WT>ΔcheY>Q93R, ΔpomA となった。3) WT の接種による致死時間は、筋肉内接種が最も短かった。4) 好中球減少マウスへの皮下接種において、WT の筋肉内菌数は対照マウスとの間に差が認められなかったが、変異株では好中球減少マウスにおいて筋肉内菌数が増加した。 【考察】皮下は外部と接する第一の防御壁であり、多種多様な免疫細胞が存在する。V.v.は鞭毛の回転を適切に制御して皮下で拡散し、栄養分の枯渇を避けながら免疫機構の手薄な筋肉内へ侵入することで、自然免疫を回避し、増殖することが示された。 B12 V. vulnificus の運動機能に関与しない病原因子の探索 ◯門 武宏,柏本 孝茂,山﨑 浩平,近藤 拓,上野 俊治 北里大学 獣医学系研究科 獣医公衆衛生学研究室 【目的】Vibrio vulnificus (V.v. ) は、ヒトに経口あるいは創傷感染し、組織の壊死や敗血症などの重篤な症状を引き起こす。これまでに V.v.の病原因子(機構) として、莢膜、リポ多糖、プロテアーゼや鉄獲得機構が報告されている。しかし、これらの因子が生体内で発現し、症状の発現や V.v.の増殖・拡散に関与している証拠は乏しい。そこで我々は、V.v.のマウス創傷感染モデルに Signature tagged transposon basis mutagenesis (STM) 法を適用し、生体内で V.v.が増殖・拡散に必要とする遺伝子の同定を目指した。現在までに、V.v.が、感染局所において増殖・拡散するために運動機能を必要とすることを明らかにしている。本研究では、運動機能以外の病原因子の探索を試みた。 【方法】STM 法の適用により選抜された変異株の軟寒天上での運動性を WT と比較し、WT と遜色ない運動性を示す変異株を選出した。さらに Luria-Bertani (LB) 培地における増殖曲線と、莢膜保有の指標となるコロニーの透明度を WT と比較した。その結果、WT と軟寒天上での運動性や LB 培地における増殖性に差がなく、莢膜保有の表現型である Opaque コロニーを形成する株を 3 株取得した。この 3 株を単独でマウスに皮下接種し、致死時間を記録すると共に LD50 値を算出した。 【結果】運動性を有する 3 株のトランスポゾン挿入遺伝子はそれぞれ DNA helicase、Possible exported protein および Lipid transporter protein をコードしていた。このうち Lipid transporter protein 変異株のみ、WT と比較して、皮下接種におけるマウスの致死時間が延長し、LD50 値が 10 倍に上昇した。 【考察】本研究において菌体表面への脂質の輸送が、敗血症を引き起こすために必要であることが示唆された。

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協賛

獣医医療開発株式会社

株式会社八戸科学

東北化学薬品株式会社

Meiji Seika ファルマ株式会社

日本レイヤー株式会社

本学会の開催に当り、ご支援いただきありがとうございました。

会員を代表しまして、厚く御礼申し上げます。

第 70 回日本細菌学会東北支部総会

会長 佐藤久聡

第 70 回日本細菌学会東北支部総会講演要旨集 発行・編集 第 70 回日本細菌学会東北支部総会 総会長 佐藤 久聡

〒034-8628 青森県十和田市東二十三番町 35-1 北里大学 獣医学部 電話:0176-23-4371(代表)