第75回 岡山医学会総会講演抄録 - 岡山大学学術成果...

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第75回 岡 山 医 学 会 総 会 講 演 抄 録

日 時  昭和40年11月20日, 21日

場 所  岡 山大 学 医学部 第1講 義 室

1. 1.過 去15年 に於ける日本脳炎の疫学的

研究

2.水 島地方大気汚染と学童に及ほす影

響について

3.無 及び低力タラーゼ血液症のカタラ

ーゼ蛋白について(耳 鼻咽喉科との

協同研究)

公 衆 衛 生

緒方 正名  長谷川敬彦

高越 良明  長尾 透子

竹 久 亨  森 忠 繁

人 見 硬  室井 小杖

1)岡 山県 の 日本 脳 炎 流 行 は 昭和25年 よ

り34年 に 於 て 倉 敷市 に 高 い 罹 患 率 を 示 した

が, 36年 よ り40年 で は 上 房 郡 及 び 高 梁 市 に高

く流 行 は 県 北 に移 行 した.患 者 発 生 のmedian

は 過 去4年 間,宮 崎 県 は 岡山 県 よ り16~24

日,高 知 県 は7~14日 先 行 し,県 南 は 県 北 よ

り約7日 間先 行 した.日 本 脳 炎 凝 県 抑 制 反応

で は屠 殺,飼 育 豚 何 れ も6月 に1次 流 行 が あ

り,南 部 は多 少 は や く, 2次 流 行 は7月 上旬

で何 れ も100%陽 性 化 した.津 高 町 の ごい さ

ぎ は50%陽 性 で,中 さ ぎ は 陰性 で あ つ た.

日脳 患 者 の 未 発 地 東 粟 倉村 の住 民 で ワ クチ ン

非接 種 群 の 陽 性 率 は0で 接 種 群 は50%で あ

つ た.

2)水 島 地 区(昭 和40年2月 ~9月)に 於

け る2酸 化 鉛 法 に よ るSO2量(8ケ 所)で

は0.2~0.7mg/day/100cm2で6, 7, 8月 に

高 く,降 下 媒 塵 量(5ケ 所)は3~11ton/km2/

monthで あ り,不 溶 解 性 物 質 の 多 い傾 向 が認

め られ た,昭 和39年 の 小 学 校 学 童 のPeak

flow値 は 肺活 量 と比較 して 工 業 隣 接 地 区,住

民 地 区 の間 に著 明 的 差 異 は 少 な く国保 に よ る

呼 吸 器受 診 率 と全 受 診 率 比 に 於 て も両 地 区 の

間 に著 しい差 異 は認 め られ な かつ た.

3)無 「カ」 血 症 中 に はSephadex G100

よ り微 量 の カ タ ラ ーゼ の存 在 が 認 め られ た が

活 性 度 は正 常血 の 約0.05%で あ り,高 原 氏

病 を有 す る患 者 程少 か つ た.ヘ モ グ ロ ビン峯

に於 て もH2O2分 解 作用 が あつ た.溶 血 液 活

性 度 は ス イ スの1/4以 下 で あつ た.低 「カ」

血 症 の カ タ ラ ー ゼ は沈 降恒 数, gel-filtration

で 正 常 血 と同 じで あ り,低 「カ」血 と正 常 及

び 無 「カ」 血 等 量 混合 液 のH202に 対 す る反

応 性 の 差 よ り両 者低 「カ」 血 は1個 の赤 血 球

に カ タラ ーゼ 量 が1/2含 ま れ る と 推定 され

た.

2.腸 運 動 抑 制 の神 経 機 構

第 二 生 理

福 原 武  中 山 沃

○ 福 田 博 之

当教 室 で は,腸 に,そ の 粘 膜 の 一点 が刺 激

され る と,そ の 口側 の運 動 が 亢 進 し,尾 側 の

運 動 が 抑 制 され る粘 膜 内反 射 お よ び縦 走 筋暦

が 刺 激 され る と,そ の両 側 の 運 動 が 抑制 され

る筋 内 反 射 の 二 つ の反 射 が 存 在 し,そ れ が腸

壁 内の 神 経 細 胞 を 中枢 とす る局 所 反 射 で あ る

こ とを 証 明 して い らい,こ の 神 経 細 胞 の 作用

機 転 に関 して研 究 を進 めて い る.最 近,こ の

二 つ の 局所 反 射 の抑 制 遠 心NeuroneがAdre

narine作 動 性 で あ る こと を明 らか に し得 た の

で,さ ら に このNeuroneと 副 交 感,お よび 交

感 神 経 系 との 関 係 に つ い て研 究 を 進 め 若 干 の

成 果 を 得 た の で 報告 しま す. (1)一 般 に イ ヌ

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の 迷 走 神 経 を 刺 激 す る と小 腸 の 運 動 は 亢 進 さ

れ る.し か し,実 験条 件 に よ り抑 制 効 果 も得

られ る こ と が が知 られ て い る.こ の 抑制 効 果

はHexamethoniumの 適 用,あ るい はReser

pineで 処 理 した 動 物 で は得 られ な い.こ れ に

よ り迷 走 神 経 が 腸 壁 内 のAdrenergic neurone

にSynapticに 結 合 して い る こと が 示 唆 さ れ

る.

一 般 に イ ヌ で は 内 臓 神 経 刺 激 は 小 腸 運 動 の

抑 制 を ひ きお こす が, Reserpineで 処 理 す る

と, (2)大 内 臓 神 経 刺 激 は運 動 の 亢 進 を ひ き お

こ し, (3)第7~10胸 神 経 後 根 の 刺 激 は 無 効

果 で あ るが 前 根 の刺 激 に よ り腸 運 動 は 亢 進 す

る. (4)他 方,こ の 亢 進 効 果 は2% Nicotine

Ringer液 を 腹腔 お よ び 上腸 間膜 神経 節 に 塗

布 す る と消 失 す る.ゆ え に,こ の 亢 進 効 果 を

ひ きお こす 神 経 は前 根-内 臓 神 経 を通 り腹 腔

あ るい は上 腸 間 膜 神経 節 でNeuroneを 交 代 し

て い る もの と 考 え られ る.こ の 推 定 の 確 か ら

し さ は次 の 実験 結 果 に よつ て さ ら に強 め られ

る.す な わ ち, (5)迷 走 神 経 お よび 交 感 神 経 節

前 線 維 を 切 断 変 性 させ,さ ら に動 物 をReser

pineで 処 理 した 後 に 腸 間膜 動 脈 神 経 を 刺激

す る と腸 運 動 は亢 進 す る.次 に,こ の 亢 進 効

果 が 壁 内 に お い て い か な る機構 に よつ て ひ き

お こさ れ る か を 検 討 し た. (6)腸 間 膜 神 経 中

の 迷 走 神 経 を 変 性 法 に よ り 除 外 し,さ らに

Reserpineで 処 理 した場 合 に は 腸 間 膜 動脈 神

経 刺 激 は腸 運 動 の亢 進 を ひ きお こ し,こ の 効

果 はHexamethoniumに よ つ て 消 失 す る.ゆ

え に,こ の 神 経 は 腸 壁 内 の 亢 進Neuroneと

Synapse結 合 し て い る も の と 考 え られ る.

(7)迷 走 神 経 を 変 性 させIteserpineで 処 理 し

な い 場 合 に は, Atropineを 静 注 した 後 に,腸

間 膜 動 脈 神 経 を 刺 激 す る と腸 運 動 は 抑 制 され

る,こ の抑 制 効果 はHexamethoniumを 静 注

して も不 変 で あ る,し た が つ て,上 記 抑 制 神

経 は 腸 壁 内 の 抑 制NeuroneとSynapse結 合

しな い もの と考 え られ る.

3.ア デノウイルス12型 による発癌の病理

学的研究

第 二 病 理

小川 勝士  ○堤 啓

岩田 克美  大森 正樹

藤井 康宏  藤 田 甫

田口 孝爾  赤木 忠厚

浜家 一雄  岡 本 司

元 井 信  中 川 潤

小林 省二

一般にウイルス性腫瘍の母細胞を決定する

ことは,該 腫瘍に於けるウイルス一宿主細胞

相互関係及び腫瘍発生機序の解明にとつて最

も基礎的な,又 不可欠の問題である.我 々は

アデ ノウイルス12型(以 下AV12), TCID50

10/2.5/0.1ml, 0.1mlを ハムスター新生仔

に接種後,諸 種組織細胞の形態変化及び組織

内ウイルスの消長を経時的に追跡すると共

に,腫 瘍の組織像解折を行なつた結果次の成

績を得た. 1: AV12接 種後10~14日 で神経

節外套細胞, Schwann細 胞に異型増殖が起こ

り後に腫瘍結節に進展す る. 2: AV12腹 腔内

接種後6時 間以降の腹膜組織は,幼 若ハムス

ターに移植後20~40日 で移植部に腫瘍を形成

し,極 めて早期に腫瘍化が起こることを示唆

する. 3:接 種後三日目から腫瘍形成 に至る

間の動物体内には逆培養 によりAV12を 証

明し得ない. 4:腫 瘍の組織像 は神経上皮性

腫瘍の種々な特 徴を示 す. 5:電 顕像で は

Desmosome,隣 接細胞相互間に於ける細胞突

起のからみ合い等Schwa皿 細胞の特性を具

備する.

4.岡 山県における公害について:-過 去14年 間の河川水並びに海氷の

水質汚濁調査成績-

岡 山 衛 研

北村 直次  浜村 憲克 他

河川水並びに海水の水質汚濁は,大 気汚染

の問題と共に,今 や岡山県公害の双壁として

大きくクローズ,ア ップされて参 りました.

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岡山衛研におきましては.昭 和25年 岡山市の

繁華街のほぼ中心を北から南え貫流 し,大 き

な問題を投げかけている西川を手はじあに,

旭川,汐 入川などの河川水並びに児島湾,水

島港などの海水の水質汚濁調査を逐年実施し

て来ました.こ こにその調査成績の概要を報

告いたします.

5.肝 炎の慢性化に関する研究

第 一 内 科

小坂 淳夫  長島 秀夫

○島田 宜浩  川口 正光

太田 康幸  小林 敏成

横 井 理  石 川 亨

近藤 洋一  佐 々木博雄

橋本 広之  幡 慶 一

辻 孝 夫  折免 昭雄

古 元 裕

肝炎の慢性化に対 して,現 在問題点と考え

られているGlisson鞘 炎(グ 鞘炎)と 肝循環

障害を中心として解析する.即 ちグ鞘炎は肝

細胞障害の過程に於ける間葉系反応と解釈さ

れているが,慢 性化するとグ鞘境界板の破壊

と線維形成をともなう慢性炎症の所見を呈す

るとともに,一 部では芽中心をともなう淋巴

ろ胞形成を示す症例も出現する.肝 循環異常

はグ鞘内の瘢痕化による門脈末端部の狭窄に

よる圧上昇と肝細胞の集合壊死の結果による

肝内短絡血流の出現により惹起され,そ の後

小葉の歪の出現 とともに肝細静脈域に血流障

害が出現する,次 に肝硬変への移行の問題で

同一症例に於ける肝小葉構造正常時よりの長

期間の観察の結果,上 記のグ鞘炎と肝循環異

常の併存例のみより肝硬変への移行を認め,

いずれか一方の所見のみを示す症例よりは未

だ肝硬変への移行を認めていない.な お定型

的な二症例について,小 葉構造改築過程の経

時的観察所見について述べる.

6.過 去1年 間における当教室の業績につ

いて

1.顎 口腔領域における悪性腫瘍細胞診

の成績

2.ロ 腔内手術創の治癒過程に伴う血管

新生に関する研究

口 腔 外 科

渡辺 義男  西嶋 克己

小林 敏郎  森田 知生

植田 寛治  桜 井 洋

高梨 吉郎  伏屋 輝繁

三 宅 至  福島 範明

岩田 利光

1)最 近8年 間 のわ が 教 室 細 胞診 の成 績 を

検 討 した.全 当科 患 者18, 372例 の内, 1,094例

につ い て 材料 を採 取 し組 織 診 に おい て 癌腫 と

確 定 した も の150例,肉 腫 と確 定 した もの は

25例 で あ つ た.こ れ ら悪性 腫 瘍 と診 断 され た

もの の 細胞 診 に お け る 正 診 率 を み る と, Pa

panicolaou法76.0%, Acridine Orange螢 光

法79.3%, T. P. T.法68.5%, Stomatoskopie

法86.3%で あつ た.又 上 記4検 査 法 を 併 わ

せ 行 な つ た35例 で は97.1%ま で 適 中 率 の上

昇 を み た.

2)口 腔 内は 創 傷 治癒 に対 して 非 常 に不 利

な条 件 に あ る に もか か わ らず 順 調 に経 過 す る

もの で,却 つ て 早 い と さえ言 わ れ て い る.こ

の理 由の1つ と して 口腔 内 の豊 富 な 血管 が あ

げ られて お り,従 来 多 くの報 告 が な され てい

る が,口 腔 外 科 にた つ さわ る私 達 は,こ の問

題 を究 明 す る こ とは非 常 に重 大 な 意 義 を有 す

る も の と考 え る.特 に血 管 新 生 に関 す る研 究

は,手 術,後 処 置 につ いて 有 意 義 な示 唆 を与

え る と信 ず.

7. 1.心 臓 血 管 外 科 の 研究

2.癌 の防 禦 機 構 に 関す る研 究

3.腎 移 植 の 実 験 的 研 究

砂 田 外 科

○ 砂 田 輝 武  稲 田 潔

寺 本 滋  田中 聡

1)重 症 弁 膜症 に対 す る人 工 弁 植,複 雑 な

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先天性心奇型修復のために長期体外循環の研

究がおこなわれ,ま た超低体温法の基礎的臨

床的研究は数年来続いて行われている.ま た

とくに胸部大動脈外科に関する研究を主とし

て動脈瘤,閉 塞性血管疾患の対象が多い.

2)癌 防禦機構の解明と,そ れに影響をお

よぼす諸因子の追求を,自 家悪性腫瘍の自家

移植法 により,実 験的 ならびに臨床的にin

vivoで 行なつており,移 植の成立に関与する

基礎的な因子のほかに,内 的因子 としては同

種移植拒絶反応 と癌防禦機構との関連性を,

また外的因子としては主として術後管理期間

中におこなわれ る臨床的諸処置が癌自家移植

の成立や その増殖 におよぼす影響を検討 し

ている.

3) Microsurgical Techniqueを 応用 して成

犬の腎同種移植をおこない,イ ムランとプレ

ドニゾロンを中心とする免疫反応抑制法をお

こなつて,そ の成果の再検討と問題点の究明

をおこなつているが,最 近では拒絶現象再発

現の早期発見や免疫抑制剤による副作用の防

止など長期生存例管理上の問題点の解決とと

もに,移 植臓器の保存法についても研究を進

めている.同 種心臓移植の実験的研究も併せ

ておこなつている.

8.臨 床に於けるステロイ ドホルモン測定の

評価について

産科婦人科  吉田 俊彦

近年内分泌疾患の研究及びホルモン製剤の

進歩に伴い,生 体の内分泌機能を適確に知る

事が必要となつて来た.そ の為に尿中や血中

のSteroid Hormoneが 盛に測定される様 に

なつたが,実 際に測定 して見ると,従 来一般

に行われて来た様 な17-KS, 17-OHCS, Es

trogen等 の測定では充分な内分泌機能を知る

事は困難である.詳 細な検討をするには詳細

な分劃測定をして慎重に評価を下 さなければ

ならない.し か し詳細な分画を取つても,数

種の内分泌臓器から同様なHormoneが 分泌

され るため判定に困難な場合がある.こ の混

乱 を排 除 す るた め に は,出 来 る だ け詳 細 な 分

画 を と り,そ の 分泌 比 か らSteroid生 合成 及

び 代 謝 のShiftを 知 り判 定 す るか,特 定 の 臓

器 に 特 有 な 上 位Hormoneを 投 与 して,そ の

前 後 の 差 に よつ て動 的 に 判定 しな けれ ば な ら

な い.こ れ らが 今 後 の 動 向 に な る との 立場 か

ら,我 々 は研 究 を 進 めて い る.

9-当 院 に お け る 最 近7ケ 年 間 の 白内 障 手 術

の 治 療 成 績

国立 岡山病院

○ 大 内 円 太 郎  横 田 百合 子

国立 岡 山病 院 の7ケ 年 間(昭 和33年-39年)

の 白 内障 手 術 患 者 に就 き統 計 的 観 察 を加 えた

結 果 及 び緑 内障 の 合 併 せ る例 に 行 なつ た 前鞏

膜 切 開 併 用 術 式 に就 き報 告 す る.

1)手 術総 数1076名 中 白 内 障 手術 男133

名(165眼),女132名(154眼)計265名

(309眼)

2)年 令 別, 3~83才 中50~79才194名

(73.2%)

3)種 類, 309眼 中,老 人 性207眼,併 発43

眼,其 の 他59眼.

4)手 術 々式,嚢 外 法231眼(59.3%)嚢 内

法58眼(14.9%)

5)右162眼,左147眼,内 両 眼 の者44眼

(11.3yb)

6)退 院 時 視 力, 0.5~1.2の もの42.1%

7)乱 視 度, 84眼,内1~2Dの6の77眼

(50.6%)

8)術 中偶 発 症, 35眼(11.3%)術 後 併発

199眼(64.4%)(角 膜 線 状 混 濁 を 含 む

9)前 房 形 成 遅 延, 60眼(20.1%)

10.視 細胞外節の分子構造に関する研究

眼 科  松尾 信彦

分離 した牛及び白色家兎の視細胞外節,分

離 した牛の視細胞外節に蛋白分解酵素(ト リ

プシン,プ ロナーゼ,パ パ イン及びプロメラ

イン)を 作用させたもの,及 び分離 した暗順

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応 蛙 の視 細 胞 外 節 に ジ ギ トニ ン処 理 を 行 つ た

もの の沈 渣 と上 清 と に そ れ ぞ れ燐 タ ン グ ス テ

ン酸 で陰 性 染 色 を施 して,電 子顕 微 鏡 的 観 察

を 行な い,次 の 結 論 を 得 た.

1)外 節 は ラ メ ラが 密 に重 積 して 構 成 され,

ラメ ラ膜 に,牛 で30~40A,家 兎 で40~60A

の 粒 子の配 列 を見 出 した.

2)外 節 の 平 面 像 で は,こ の 粒子 は環 状 又

は長 管 状 に 配 列 し た り,或 は 不規 則 に 配 列

してい た。 更 に 粒 子 が 密 に 且 平 行 に 配 列 し

para-crystalline structureの 所 見 も認 め た.

3)こ の 粒 子 を ラ メラ本 来 の 基 本 的 な構 造

単 位,即 ち基 本 粒 子 と考 え た.

4)過 マ ン ガ ン酸 カ リ固定 後 の超 薄 切 片 に

お い て も,ラ メラ膜 に基 本 粒子 或 は 基 本 粒子

の 一部 に相 当す る と思 わ れ る3種 類 の 粒子 を

見 出 し,従 来unit membraneと 考 え られ た

もの は,基 本 粒 子 の 密 な配 列 に よ つ て 構成 さ

れ た もので あ る こ と を認 め た.

5)ラ メラの 基 本 粒 子 は ト リプ シ ンセ プ ロ

ナ 一ゼ で は 変 化 を受 け な か つ た.

6)パ パ イ ン及 び プ ロ メラ イ ンの 如 き植 物

性 蛋 白 分解 酵 素 に よ つ て.ラ メラの 基 本 粒 子

は変 化 を受 け な い 所 と,部 分的 で は あ るが 消

失 す る所 とを 認 め た.し か し基 本 粒 了-の消失

した 所 で も,ラ メ ラ 自体 は 良好 に 保存 され て

お り,基 本 粒 子 は ラ メ ラの 構造 蛋 白 と脂 質 と

か らな る網 状 組 織 の 中 に は め こまれ て い る も

の と考 え た.

7)ラ メ ラの 基 本 粒子 の 分子 量 を 計 算 す る

と,牛 で 約25,000,家 兎 で 約48,000と な つ

た.

8)ジ ギ トニ ン処 理 後 の沈 渣 には,ラ メラ

に30~50Aの 基 本 粒 子 が 良 好 に 保 存 され て

い る もの.部 分的 に ラ メ ラの基 本 粒 子 が 消失

して い る もの,及 び ラ メラ よ り遊 離 した基 本

粒子 群 を 認 め た.

9)ジ ギ トニ ン 処 理 後 の 上 清 に も, 40~

50Aの 基 本粒 子 群 を 認 め た.

10)ジ ギ トニ ン処 理 後 の 電 子 顕 微 鏡 的観 察:

に用 いた 上 清 の 分 光 吸収 を 測 定 し,極 大 吸収

を500mμ に 示 し, E100/E500は0.5~0.6で

あ る こ とを 認 め た.

11)ラ メラの 基本 粒子 は,ロ ドプ シ ン又 は

そ の 分解 産 物 を 含 有 す るlipoprotein macro

moleculeで あ り,こ の 粒子 が光 の エ ネル ギ ー

を神 経 刺 戟 の エ ネル ギ 一 に転 換 す る基 本構 造

で あ ろ うと推 論 した,

結 城 賞 受 賞 講 演:犬 の 肝 静 脈 の 肥 満 細 胞 とア ナ フ ィラ キ シ ー シ ョッ ク

第二解 剖  藤 田 恒 夫

このたび私の ささや かな研究に対 して,伝 統あ る結城賞をいただいたことを,あ りがた く,ま た光栄に思

つて いる.学 究活動 への夢 も空 しく戦死 された結城貞昭氏を想 うにつ けて も,め ぐまれた時代に生 きる者 と

して,日 頃の怠惰 な研究生活を反省 させ られる.

受賞の対 象 となつ た 「犬の肝臓におけ る肥満細胞の特 殊な分布一アナフ ィラキシー シ ョックの発生機転の

考察」(日 組録24巻5号, 1964,英 文)の 内容の骨子 と,そ の後の研究の若干の発展について述べ る.

犬 の 肝 臓 内 の肝 静 脈 の 枝(中 心 静 脈 よ り下

流)が,一 定 の 間 隔 を お い て 存 在 す る括 約 筋

に よつ て くび れ て,珠 数 状 を 呈 して い る こ と

は,古 くか ら知 られ る事 実 で,犬 の ア ナ フ ィ

ラキ シ ー シ ョッ クや ペ プ トン シ ョッ クに 特 有

な肝 うつ血 は,こ の 括 約 筋 の け い れ ん に よ る

と され て い る.私 は この 珠 数 静 脈 の 壁 の 構造

を 光 学 顕 微 鏡 で し らべ て い る うち に,扁 平 化

し た肥 満 細 胞(ヒ ス タ ミン と ヘパ リンを もっ

細 胞)が,血 管 の 内 腔 に面 して一 列 に並 ん で

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図1.  犬 の肝 静 脈 の 枝 の 縦 断.括 約筋(M)に よつ て くび れ た 珠数 状 の血 管 に 血 液 が 充 満 して

い る.血 管 壁 の 内 面 に は暗 紫 色(図 では 黒)の 肥 満細 胞 が 並 ん で い る.ア ル デ ヒ ドフ ク シ

ン+Masson-Goldner染 色 . ×380

いることを見出した(図1) .

よ く見るとこの肥満細胞の層

の上面(内 腔がわ)に,内 皮

細胞の核がある(図2)の で,

肥満細胞は菲薄な内皮細胞の

下面に密接 し,そ れによつて

血流か らへだてられているの

であろうと考えられるが,こ

の想定は電子顕徴鏡所見 によ

つて支持 された(図3).

このような肥満細胞の内皮

下への集合は,珠 数静脈のほ

かには,そ の直接の上流(中

心静脈 とこれに近接する小葉

内)に 多少認め られるだけで

門脈あ系統や リンパ管には全

く見 られない.ま た発生学的

にしらべて見 ると,肥 満細胞

の集合は生後1月 のうちに起 り,そ れはあた

か も肝静脈枝に括約筋がはつきり現われて く

る時期 に当つている.さ らに犬と同様の珠数

静脈を もつ水棲食肉目(ア ザラシ,ア シカ,

オッ トセイ)を しらべてみると,や はりこの

静脈の内皮下に肥満細胞が排列することがわ

かつた.

図2.  犬 の珠数静脈の壁の強拡大写真.暗 紫色(図 では黒)の 肥満細胞

の列(2箇 の核が矢印で示 されている)が 血管の内腔(右 がわ)と 外

の結合組織(左 がわ)と を境 している.肥 満細胞の内面には内皮細胞

の核(E)が 密接 してい る. Lは リンパ管, Hは 肝細胞.図1と 同じ

染色. ×1100

以 上 の, (1)局 所 解剖 学 的, (2)発 生 学 的,

(3)比較 解 剖 学 的 な事 実 に よつ て,内 皮 下 の 肥

満 細 胞 の 特 殊 な 分 布 は,決 して 偶 発 的 な もの

で はな く,括 約 静 脈 の機 能 と深 く結 びつ い た

意 義 を もつ もの と考 え ね ば な らな い.

い ま シ ョッ クの さ い に起 る と思 われ る変 化

を考 え てみ る と,図4の よ うに な る.す なわ

35

図3.  犬 の 肝 臓 の 肥 満細 胞 の 電 顕 像.中 心 静脈 に ご く近 い 毛細 静脈 洞 か ら得 られ た もの.肥 満

細 胞(M)は,光 学顕 微 鏡 で は 見 られ な かつ た 内 皮細 胞 の 菲 薄 な 細胞 質(E)で 血 管 腔 か

らへ だ て られ て い る.珠 数 静 脈 その もの の 壁 の 電顕 像 は まだ得 られ て いな い が,こ の 関 係

は 同 様 と思 われ る. Rは 赤 血 球, Fは 結合 組 織 細 胞, Hは 肝 細胞. Dは い わ ゆ るDisseの

間 隙.ア ク ロ レイ ン.オ ス ミウム固 定,鉛 染色. ×35,000

ち 「シ ョッ ク毒 」(ペ プ トン,あ る 種 の ア ル

カ ロイ ド,ヒ ス タ ミン な ど)が 血 流 中を 珠 数

静脈 に達 す る と,上 記 の 肥 満 細 胞 層 に直 接 は

た らいて,ヒ ス タ ミンを 放 出 させ る,こ の ヒ

スタミンは近隣の括約筋にはたらいてこれを

収縮させ,著 しい血液のうつ滞をおこさせ る

と同時に,内 皮 自身の透過性を高めて,滞 血

の液体成分が周囲の結合組織,さ らに リンパ

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図4.  シ ョ ック時 の珠 数 静 脈 の 反 応 を 示 す 模型 図.内 皮 下 の 肥 満細 胞(黒)か ら ヒス

タ ミンと ヘ パ リ ンが 放 出 され る.ヒ ス タ ミンは 括 約 筋 を収 縮 させ,内 皮 の透 過 性

を 高 め る ので,大 量 の 液 体が リ ンパ管(L)へ 逃 げて ゆ く.

管 を 介 して,胸 管 へ しぼ り 出 され る の を容 易

に す る.こ の 推 論 は, (1)珠数 静 脈 の周 囲 に は

膨 隆 し た リンパ 管 が 豊 富 に認 め られ る, (2)シ

ョ ック時 の犬 で は胸 管 の リンパ 流 量 が 非 常 に

増 す, (3)シ ョ ッ ク時 の 犬 で は 肝 静 脈 血 と胸 管

リンパ に多 量 の ヒス タ ミンが 証 明 され る, (4)

シ ョ ック毒 はin vitroで も直 接 に 肥 満 細 胞

の 顆 粒 放 出 を起 させ る,等 の 一 連 の 既 知 の 事

実 に,今 回 見 出 され た 肥 満 細 胞 の 局在 の 知 見

を 加 え て,シ ョ ッ クの発 現 機 構 を説 明 した も

の で あ る.

な お シ ョッ ク時 の 犬 の 肝 臓 か ら放 出 され る

ヘ パ リンは,少 く も大 部 分 が胸 管 へ 出 る との

報 告 が あ るが,こ の こ と は,ヘ パ リン の分 子

が 大 き い こ とを 考 慮 す れ ば,上 記 の電 子 顕 微

鏡所見によつて,あ る程度納得されよう.

人には珠数静脈 もな く,肝 臓内の肥満細胞

も乏 しいが,犬 における特殊な事情は生理学

や薬理学で最 もよく使われる動物であるだけ

に重視されねばならない.他 方,本 研究で見

出された括約静脈と肥満細胞の複合体は,シ

ョックの研究や肥満細胞のはたらきの研究に,

形態学的に明確な構造単位として有益な材料

を提供するものと思われる.

謝辞:本 研究に対して御激励と薬理学上の御教示

をいただいた山崎英正教授に感謝する.ま た中央研

究室の電子顕微鏡分室(林 信男・岸本登・竹村宝子

の各氏)お よび解剖学教室の川上博隆,長 森多美子

氏に技術上の御協力を感謝する.

特 別 講 演

1.慢 性疾患における抗原抗体反応,と くに

自己免疫との関連について

岡大助教授 長 島 秀 夫

2.リ ンパ球の動態,と くに抗原刺激に対す

る増植反応

岡大教授 尾 曽 越 文 亮

3.日 本人のカロリー所要量について

徳大教授 鈴 木 幸 夫

4.胆 石について

九大名誉教授 三 宅 博

5.近 代医学の進歩と反省について

東大名誉教授 沖 中 重 雄