第8回 携帯電話とモバイルビジネス · 情報産業論...

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情報産業論 通信技術の発達と情報通信産業、放送と通信の融合 53 第8回 携帯電話とモバイルビジネス 1、移動体通信(携帯電話)事業の成立と変遷 日本の移動体通信事業は 1953 年に日本電信電話公社の ハーバーサービス(船舶電話)として始まり、1979 年に は東京 23 区で自動車電話サービス(自動車のバッテリー 使用)開始、また 1985 年には初めての「携帯電話」ショ ルダーフォン(右写真、サイズ: 19cm×22cm×5.5cm さ:3kg)が登場した。 (1) 電気通信事業法と携帯ビジネスの登場 1980 年代 1985 年の電気通信事業法によってこの分野でも民間事業者 の参入が可能になり(第7回)、 1987 年にトヨタ自動車系 IDO が、首都圏・中京圏に、京セラ系(DDI ・第二電電株式会社 系) セルラー各社がその他に参入、1地域2社体制による市場 が形成された(当時の携帯電話の重さ:900g)。1992 年には NTT の分割によって NTT ドコモが発足、1994 年には日産自 動車系ツーカー各社と日本テレコム系 J フォンが新規参入し た。 (2) 携帯電話のデジタル化(第 2 世代)と i-mode 1990 年代 1994 年には日本の標準デジタル携帯電話方式(共通規 格)として PDCpersonal digital cellular)方式のサー ビスが開始され、携帯電話が第 2 世代となり携帯電話に よってデジタル・データの送受信が可能になる。そして 1999 2 月、NTT ドコモはインターネットとの親和性 に着目して i-mode サービスを開始、DDIIDOJ フォ ンが相次いでインターネットアクセスサービスに参入、 日本に特徴的なインターネット対応の携帯電話市場を形 成する。 なお、NTT ドコモの携帯電話には日本で開発された OS である TRON(第5 回参照)が採用された。

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Page 1: 第8回 携帯電話とモバイルビジネス · 情報産業論 通信技術の発達と情報通信産業、放送と通信の融合 57 3、携帯電話市場の今後 スマートフォンの台頭

情報産業論

通信技術の発達と情報通信産業、放送と通信の融合

53

第8回 携帯電話とモバイルビジネス

1、移動体通信(携帯電話)事業の成立と変遷

日本の移動体通信事業は 1953年に日本電信電話公社の

ハーバーサービス(船舶電話)として始まり、1979 年に

は東京 23区で自動車電話サービス(自動車のバッテリー

使用)開始、また 1985年には初めての「携帯電話」ショ

ルダーフォン(右写真、サイズ:19cm×22cm×5.5cm 重

さ:3kg)が登場した。

(1) 電気通信事業法と携帯ビジネスの登場 1980年代

1985 年の電気通信事業法によってこの分野でも民間事業者

の参入が可能になり(第7回)、1987年にトヨタ自動車系 IDO

が、首都圏・中京圏に、京セラ系(DDI ・第二電電株式会社

系)セルラー各社がその他に参入、1地域2社体制による市場

が形成された(当時の携帯電話の重さ:900g)。1992 年には

NTT の分割によって NTT ドコモが発足、1994 年には日産自

動車系ツーカー各社と日本テレコム系 J フォンが新規参入し

た。

(2) 携帯電話のデジタル化(第 2世代)と i-mode 1990年代

1994年には日本の標準デジタル携帯電話方式(共通規

格)として PDC(personal digital cellular)方式のサー

ビスが開始され、携帯電話が第 2 世代となり携帯電話に

よってデジタル・データの送受信が可能になる。そして

1999 年 2 月、NTT ドコモはインターネットとの親和性

に着目して i-mode サービスを開始、DDI、IDO、Jフォ

ンが相次いでインターネットアクセスサービスに参入、

日本に特徴的なインターネット対応の携帯電話市場を形

成する。

なお、NTTドコモの携帯電話には日本で開発された OSである TRON(第5

回参照)が採用された。

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情報産業論

通信技術の発達と情報通信産業、放送と通信の融合

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(3) 携帯電話の高速化(第 3世代) 2000年代

2000 年には DDI、IDO 、そして KDD が合併して KDDI が発足したのに伴

い、各社が全国で展開する携帯電話サービスの統一ブランド名を「au」とし、

NTTドコモ、au、Jフォン(後に Vodafoneに売却→ソフトバンクが買収)の 3

社体制ができあがる。第 3世代の高速・高品質な移動通信システムとして 2001

年 5月 NTTドコモにW-CDMA(Wide band CDMA)サービスを開始し、2001

年 12月は Jフォンが続く一方、KDDIは cdma2000を採用した。

(4) 携帯電話の高速化(第 3.9~第 4世代) 2010年代

2010 年~2012 年にかけて NTT ドコモ、イー・アクセス(イー・モバイル)、

KDDI(au)そしてソフトバンクの各社が第 3世代の規格(IMT-2000)を高度

化した第 3.9 世代のサービス(モバイルWiMAXや LTEが含まれる)を開始し

た。これらは次世代の通信規格(IMT-Advanced に準拠するシステム)である

第 4世代移動通信(通信速度は 100Mbps~1Gbps)のサービスを先取りした形

になっている1。

そして携帯電話各社は 2016年 1月には第4世代(4G)と呼ばれる次世代携

帯電話サービスを開始した。

さらに NTT ドコモでは東京オリンピックが開催される 2020 年には 10Gbps

以上の通信速度と LTE の約 1000倍の容量を実現する第 5世代移動通信システ

ム (5G) のサービス開始を目標としている。

1 モバイルWiMAXや LTEは厳密には第 4世代移動通信規格(1000Mbps - 1Gbps 程度の

超高速大容量通信を実現し、IPv6 に対応する)には該当していないが、商業上は第 4世代

携帯と呼称されている。

電波政策ビジョン懇談会 中間とりまとめ(総務省)より

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2、日本の携帯電話市場=ガラパゴス市場

このように日本の携帯電話は高速化(2G→3G→3.9G→4G)とインターネッ

ト接続(i-mode→ブラウザフォン)によって機能を高度化しながら、普及を拡

大していった。

総務省『平成 27年度版 情報通信白書』より

平成 28年版『情報通信白書』より

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現在では携帯電話の契約件数は 1 億件

を超え、世帯普及率でも 95%前後となっ

ている。これは諸外国と比べて特段目立

った数字ではないが、高速化、高機能化

などの質的水準から見ると際立っている。

また i-modeに始まる携帯電話を通じての

インターネット接続は、日本におけるイ

ンターネット利用の特殊な形態を生み出

した。日本の携帯電話市場は、世界の携

帯電話市場とは異なる、閉鎖された市場の中での独自の進化、すなわち高速化

とブラウザフォン=ガラパゴス的な進化を成し遂げてきたのであった。

今後、世界的にもスマートフォンの市場、シェアが伸びることが予測される。

日本の場合は当初は高機能な携帯がスマートフォン市場の伸びを妨げたが、今

後は日本のガラパゴス市場が崩れてくることは必至である。(次節)

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通信技術の発達と情報通信産業、放送と通信の融合

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3、携帯電話市場の今後 スマートフォンの台頭

日本の携帯電話は高速化、高機能化によって独自の進化を遂げ、コンピュー

タに匹敵する機能を「携帯」で可能にしてきた。

一方、Appleの iPhoneや Googleの Android携帯は、コンピュータの機能を

ベースとして、小型化、携帯化してきた。既に携帯電話端末に関しては iPhone

や Android携帯の登場によって日本のガラパゴス市場自体が崩れている。

さらに、今後は Google Glassや Apple Watchに見られるように、ウェアラブ

ル端末の普及も予測される。電卓に見られるように ICチップ(マイクロプロセ

ッサ)を搭載した小型端末とその OSの開発に関しては日本の得意分野であった

が、上記のメーカーに完全に後れを取っているといえよう。

ウェアラブル端末の市場予測

MM総研「日米におけるウェアラブル端末の市場展望」より

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情報産業論

通信技術の発達と情報通信産業、放送と通信の融合

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このようにスマートフォンの登場は、コンピュータ・ハードウェア産業と通信

機器産業の競争と融合をもたらし、またこれに対応したソフトウェア産業の変

革と発展をもたらす。さらにこのハードウェアやソフトウェアで実現される通

信サービスのあり方も(それが必要なサービスであるかどうかは別にして)大

きく変革するものである。

通信機器産業(通信ハードウェア)およびこれに対応したソフトウェア産業

(特に OS)の部分では Apple や Android(Google)による市場拡大が日本の

ガラパゴス型市場を既に崩しているが、一方日本の携帯電話の発展の中で培っ

た高度な技術(ユビキタス技術や IoT)やサービスの部分は今後発展の可能性も

あると考えられる。

AR(Augmented Reality)

ブログや SNS に比べて Web の利用でまだ市場としては比較的小さいが(総務省「ソーシャ

ルメディア」調査では 6.8%),今後拡大が予想される分野として「セカイカメラ」に代表され

る拡張現実=AR(Augmented Reality)がある.ARToolKit(ARアプリケーションの実装を手

助けする C言語用のライブラリ)の開発によって,カメラで取得した現実世界の映像に対して,

①画像中にマーカを配置,②ARToolKit がマーカを認識しマーカの位置,姿勢を計算する,③

マーカの位置,姿勢を元にプログラマがオブジェクトを配置,描画する,といったプロセスによ

って現実世界に仮想的なオブジェクトを配置することが容易に実現できる.