第9回 英語教育 - keinet.ne.jp ·...

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上智大学 言語教育研究センター 従来の大学入試においても 4技能を高める教育の方が得点は伸びる ——なぜ、近年の高校英語教育では、4技能を総合的に 高める教育が重視されているのでしょうか。 私たちは普段、日本語でコミュニケーションをする時、 場面に応じて、文字を介した「読む」「書く」と、音声に よる「聞く」「話す」の4技能を柔軟に組み合わせて使っ ています。このように実際のコミュニケーションが4技 能を組み合わせて行うものである以上、外国語学習にお いても、4技能をバランスよく高め、それぞれの技能を 組み合わせて使えるようにすることが重要です。 そのため、学習指導要領も、以前から4技能をバラン スよく育てることを目標に掲げています。例えば 1960 年 に告示された高等学校学習指導要領では、「聞く能力」 「話す能力」「読む能力」「書く能力」「基本的な語法」の 学習が目標として掲げられています。その後の学習指導 要領も現在まで一貫して、4技能をバランスよく育てる PART 1 4技能をバランスよく高める 高校英語教育への転換 現在、さまざまな英語教育改革の施策が進行している。一連の施策に通底しているのは、「読む」中心の教育から、 「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランスよく育成する教育への転換だ。なぜ4技能を重視した指導を行う 必要があるのか、高校ではどのような指導が求められるのか。英語教育の第一人者で、文部科学省の英語教育に関す る各種会議の委員でもある上智大学言語教育研究センター長の吉田研作教授に解説していただいた。 吉田研作 教授 概 説 英語教育 第9回 変わる高校教育 このコーナーでは高校教育の変化を、高校の取り組みや工夫、国 の政策や都道府県の取り組み、さらにそれらの背景にある社会の変 化などを含めて見ていく。 今回のテーマは「英語教育」だ。グローバル化の進行で、英語で コミュニケーションができる力の必要性は高まっているが、文部科学 省調査によると高校生のほとんどは十分な力が身についていない。そ こで文部科学省では、①英語教育の早期化とそれに伴う中学校・高 校の英語教育の高度化、②「読む」中心の教育から、 「聞く」 「話す」 「読 む」「書く」の4技能をバランスよく育てる教育へ、③訳読や文法解説 など教員主導の教育から生徒の言語活動中心の教育へ、などを柱 に改革を進めている。高校でも、現行の学習指導要領に「授業は英 語で行うことを基本とする」という文言が入ったことを契機に授業改善 が進みつつあるが、指導方法に悩む先生も多いのではないだろうか。 そこで今回はこうした改革を行う背景をPART1で解説した後、 PART 2・3で都道府県、高校の取り組みを紹介する。 CONTENTS PART 1 概説 4技能をバランスよく高める高校英語教育への転換 (上智大学 吉田研作教授) 近年の英語教育改革 PART 2 都道府県の取り組み 岐阜県教育委員会 大阪府教育委員会 PART 3 高校の取り組み 宮城県石巻高等学校 北海道滝川西高等学校 東京都立西高等学校 ………………… p24 ……………………… p28 ………………………… p31 ……………………………… p34 ……………………… p37 …………………… p40 ……………………… p43 Kawaijuku Guideline 2016.45 24

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上智大学 言語教育研究センター

従来の大学入試においても4技能を高める教育の方が得点は伸びる

——なぜ、近年の高校英語教育では、4技能を総合的に高める教育が重視されているのでしょうか。 私たちは普段、日本語でコミュニケーションをする時、

場面に応じて、文字を介した「読む」「書く」と、音声に

よる「聞く」「話す」の4技能を柔軟に組み合わせて使っ

ています。このように実際のコミュニケーションが4技

能を組み合わせて行うものである以上、外国語学習にお

いても、4技能をバランスよく高め、それぞれの技能を

組み合わせて使えるようにすることが重要です。

 そのため、学習指導要領も、以前から4技能をバラン

スよく育てることを目標に掲げています。例えば1960年

に告示された高等学校学習指導要領では、「聞く能力」

「話す能力」「読む能力」「書く能力」「基本的な語法」の

学習が目標として掲げられています。その後の学習指導

要領も現在まで一貫して、4技能をバランスよく育てる

PA RT 14技能をバランスよく高める高校英語教育への転換

 現在、さまざまな英語教育改革の施策が進行している。一連の施策に通底しているのは、「読む」中心の教育から、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランスよく育成する教育への転換だ。なぜ4技能を重視した指導を行う必要があるのか、高校ではどのような指導が求められるのか。英語教育の第一人者で、文部科学省の英語教育に関する各種会議の委員でもある上智大学言語教育研究センター長の吉田研作教授に解説していただいた。

吉田研作 教授

概 説

英語教育第9回

変わる高校教育

 このコーナーでは高校教育の変化を、高校の取り組みや工夫、国の政策や都道府県の取り組み、さらにそれらの背景にある社会の変化などを含めて見ていく。 今回のテーマは「英語教育」だ。グローバル化の進行で、英語でコミュニケーションができる力の必要性は高まっているが、文部科学省調査によると高校生のほとんどは十分な力が身についていない。そこで文部科学省では、①英語教育の早期化とそれに伴う中学校・高校の英語教育の高度化、②「読む」中心の教育から、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランスよく育てる教育へ、③訳読や文法解説など教員主導の教育から生徒の言語活動中心の教育へ、などを柱に改革を進めている。高校でも、現行の学習指導要領に「授業は英語で行うことを基本とする」という文言が入ったことを契機に授業改善が進みつつあるが、指導方法に悩む先生も多いのではないだろうか。 そこで今回はこうした改革を行う背景をPART1で解説した後、PART2・3で都道府県、高校の取り組みを紹介する。

CONTENTS PART 1 概説●4技能をバランスよく高める高校英語教育への転換(上智大学 吉田研作教授)

●近年の英語教育改革

PART 2 都道府県の取り組み●岐阜県教育委員会●大阪府教育委員会

PART 3 高校の取り組み●宮城県石巻高等学校●北海道滝川西高等学校●東京都立西高等学校

………………… p24

……………………… p28

………………………… p31

……………………………… p34

……………………… p37

…………………… p40

……………………… p43

Kawaijuku Guideline 2016.4・524

の結果は衝撃的でした。4技能それぞれの力を測定した

テストですが、スピーキング、ライティングは、CEFR(注2)で最下位レベルの生徒が80%以上と意見を発信した

り表現したりする力が弱いことが歴然としています。リ

スニングやリーディングもかなり低い得点です<図>。

——4技能の中で最も時間をかけて指導しているリーディングの力がついていないのはなぜでしょうか。 日本のリーディング教育は、原文に従って一文ずつ忠

実に訳す逐語訳が中心です。しかし、一文ずつの逐語訳

はできても、文章全体として何を伝えようとしているの

かを理解できていない生徒が多いのではないでしょうか。

 そもそも、まとまった量の文章を読むためのスキルに

しても、一文の中での語のつながりの規則を教えるだけ

で、段落単位でどのように構成されているのかまで教え

ている高校は少ないように感じます。それでは文章全体

の意味を把握することはできず、限られた時間にまとまっ

た量の文章全体の意味を理解するといった、実際の場面

で必要なリーディングの力がつかないのです。

——その点については、現行課程になって改善されつつあるのではないでしょうか。トピックセンテンスや接続詞に注目して、段落単位で意味を理解させるなどの指導

ことをめざしています。最近

になって突然出てきた施策で

はないのです。

——それにもかかわらず、高校ではずっと「読む」に偏った英語教育が行われてきたのは、なぜでしょうか。 最大の問題は大学入試です。

大学入試センター試験(以下、

センター試験)、各大学の個

別試験とも、測っているのは

リーディングの力が中心です。

リスニングやライティングが

課されることもありますが配

点はそれほど高くありません。

大学入試でリスニング、ス

ピーキング、ライティングの

力が要求されないのなら、その技能を高めるために時間

を割くのは、大学合格を目標にするのであれば効率が悪く、

リーディング主体の教育を行った方がよいと考える教員が

多かったのでしょう。

 しかし実は、リーディングに偏らず4技能をバランス

良く高める教育を受けた生徒の方が、リーディングが中

心であるセンター試験の得点が高いという調査結果があ

ります。意外かもしれませんが、これは当然のことです。

例えば、文法を単に知識として教わっても、なかなか身

につきません。しかし、習った文法を使って、まとまり

のある文章を書いたり、発表で使ってみたり、友達の話

す内容を聞くなど4技能を使った多角的な活動を通して

学ぶと、知識は定着し、応用的に使うこともできるよう

になるのです。大学入試の出題に合わせてリーディング

主体の教育を行うよりも、4技能を高める教育を行った

方が、従来の入試問題においても得点は伸びるのです。

生徒はスピーキング、ライティングが苦手リーディングにも課題

——高校生は、どの程度4技能が身についていますか。 文部科学省「英語教育改善のための英語力調査」(注1)

<図>高校生の4技能のスコア分布

(文部科学省「英語教育改善のための英語力調査」(2015年度)より)

(注1)国による4技能型試験のフィージビリティ調査。世界標準であるCEFRのAI 〜 B2のレベルを測定できるよう設計し、結果は得点帯刻みに設定して分布を把握。初回の2014年度調査は旧学習指導要領(1999年3月告示)で学んだ高校3年生(約7万人)を対象に2014年6〜9月に実施。2015年度調査は4技能をバランスよく教える方針を強化した現行課程で学んだ高校3年生(約9万人)を対象に2015年6〜7月に実施。経年比較をすると、4技能ともやや改善傾向だが、第2期教育振興基本計画(2013 〜 2017)で策定した英語力の目標(高校卒業段階で英検準2級程度〜2級程度以上(CEFRのA2 〜 B1に該当)を達成した高校生の割合50%)にはまだ届いていない。

(注2)CEFR(セファール)…外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠。習熟度の低い方からA1・A2・B1・B2・C1・C2の6段階。

<読むこと> <聞くこと> <書くこと> <話すこと>CEFR 得点 人数 割合 CEFR 得点 人数 割合 CEFR 得点 人数 割合 CEFR 得点 人数 割合

B2320 30

0.1%B2 320 123 0.2%

B2140 0

0.0%B1 14 211 1.2%

310 14

B1

310 56

2.1%

135 1

A2

13 239

9.8%300 35 300 62 130 0 12 390

B1

290 41

2.0%

290 77

B1

125 2

0.7%

11 422280 51 280 90 120 18 10 611270 73 270 176 115 46

A1

9 748

89.0%

260 122 260 172 110 179 8 905250 175 250 238 105 288 7 1026240 250 240 342

A2

100 679

17.2%

6 1168230 347 230 414 95 726 5 1569220 503

A2

220 607

24.2%

90 1370 4 1028

A2

210 730

29.9%

210 751 85 1577 3 1601200 1007 200 1046 80 2130 2 0190 1365 190 1377 75 3515 1 3918180 1957 180 1770 70 3563 0 3149170 2580 170 2241

A1

65 4518

82.1%

平均 4.3160 3648 160 2835 60 3709 調査対象 16985150 5063 150 3683 55 4130 0 点 3149 18.5%140 7144 140 4700 50 3651

A1

130 9963

68.0% A1

130 6111

73.6%

45 2435120 12791 120 7728 40 3208110 12821 110 9265 35 2234100 9486 100 9325 30 266890 4891 90 8611 25 286180 2038 80 6794 20 355170 696 70 4289 15 462160 240 60 2594 10 1284450 105 50 1299 5 040 35 40 642 0 1430330 35 30 331 平均 37.520 1 20 144 調査対象 7882710 0 10 147 0 点 14303 18.1%0 332 0 529

平均 131.9 平均 120.7調査対象 78569 調査対象 78569

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 25

例が多くの教科書に掲載されるようになりました。 確かに現行課程の「コミュニケーション英語」では、

多少は段落単位での構造を教えるようになりました。た

だし、まだ従来通り、一文ずつの逐語訳しかしない高校

もあり、十分に浸透していないように感じます。改善さ

れた教科書を使いこなし、リーディングの力を伸ばす指

導ができる教員が増えるとよいと思います。

——これまであまり重視されていなかったスピーキングの指導に関してはどのような課題がありますか。 スピーキングの力を伸ばすには、まずは生徒が話す場

面を授業に取り入れることが重要です。ただし授業でい

かに話す場面を設けるか、何について話をさせるかといっ

た「指導方法」よりも、「評価方法」が難しいという声が

多く聞かれます。評価は、課題を与えて一人ずつ英語で

話をさせ、授業で習った文法が正しく使えているかや、話

した量、教員の問いかけに対応できるかなどを規準にルー

ブリックを作成し、それに沿って評価するなどの方法が

ありますが、この規準を決めたり、基準に沿って評価を

することを難しく感じる教員が多いようです(注3)。

——スピーキングやライティングについては、こうしたルーブリックに基づいた評価が必要になります。評価方法はどうすれば身につけることができますか。 とにかく経験を積むしかありません。とはいえ、ルー

ブリックを作成するところから取り組むのはハードルが

高いので、まずは既存のルーブリックを使って評価をし

てみるところから始めるのもよいのではないでしょうか。

 教員自身が新聞、ニュース、本などでリアルな英語に触れる経験を増やす

——今後、生徒の4技能をバランスよく高めるために、教員はどのようなことに取り組むとよいでしょうか。 やはり、生徒に4技能を使った活動をさせることが大

切です。そのための手立てを3つ紹介します。

 1つ目は、教員自身が日常生活で英語を使うようにす

ることです。企業に勤務している社会人は、グローバル

化の進行で仕事上の必要性に迫られて、英語を日常的に

使う人も増えています。しかし教員は、教科書を使って

「英語を教える」ことはしていますが、会議で話すのも書

類を書くのも日本語で、実際の生活の中で「英語を使う」

経験が案外少ないのです。以前、中学校・高校の英語科

教員対象の研修会で、英字新聞を読んだり、英語の

ニュース番組を見たりしているかを聞いたところあまり

手が挙がらず、学校以外で意識的に英語に触れている教

員もあまり多くないようでした。

 こうした教員に特に勧めたいのが、英語の小説を読む

ことです。私はかつて、通勤電車の中で、言語学の英語

論文を読むのを日課にしていました。けれども、十数年

前からそれをやめて、代わりに現代ミステリーなどを読

むようにしました。それによって、私の授業は劇的に変

化しました。もともと英語で講義をしていたのですが、堅

苦しい学問的な英語ばかりに接していた時と違い、小説

で多様な日常表現に触れることで、表現が豊かになり、す

らすら英語が出てくるようになったのです。

 このように教員自身がより自由に英語を使えるように

なれば、話す活動への関心が高まって、生徒と英語でや

りとりをする場面や、生徒に英語で話をさせる場面が増

えるなど、授業の内容も、生徒の4技能を伸ばせるよう

なものに変わってくるのではないでしょうか。

文章の内容を深く理解させることで生徒の関心を高め、英語力を伸ばす

 2つ目は、リーディングの指導の際に、文章全体の内

容を深く理解させるような指導をすることです。

 例えば図版や映像なども含めた多くの関連資料を与え

たり、多くの課題を与えて多角的に考えさせたりするな

どがあります。こうした多様な取り組みをすると、生徒

は与えた文章への関心を深め、深く理解しようとします。

そうなると授業中に英語で書いたり話したりする内容も

豊かで複雑なものになり、力が伸びていきます。従来の

ような逐語訳だけでは読む力しかつきませんが、こうし

た指導をすると4技能をバランスよく伸ばせますし、与

えた文章の内容についての知識や思考力も育ちます。

——外国語と、外国語で書かれた内容を同時に学ぶという点は、CLIL(注4)と共通していますね。 上智大学では英語教育にCLILを取り入れていて、さま

ざまな学術分野の入門科目を英語で学ぶことができます。

専門的な内容を題材に、英語でのペアワークやディス

カッションなどのコミュニケーション活動を多く行うこ

とで、英語力を伸ばします。大学でCLILを実施して感じ

るのは、教員自身が興味を持っている題材を扱うことが

大事だということです。興味を持っている題材であれば、

扱うべき論点もわかっていますし、幅広い資料や教材も

(注3)ルーブリックとは、学習者が何を学習するかを記述した評価規準と、学習者が到達しているレベルを示す評価基準をマトリックス形式で示したもの。事前に明示した目標に準拠した観点について、何ができればどの段階にあるのか具体的に記述されているところに特徴がある。文中の「基準」「規準」の使い分けは上記による。

(注4)CLIL(クリル)…内容言語統合型学習。外国語を身につけながら、同時に専門的な内容を学ぶ学習方法。

Kawaijuku Guideline 2016.4・526

持っています。何より熱意を持って内容を学生に伝えよ

うとします。そのため、教員採用の際には、英語以外の

専門性を有しているかどうかを重視しています。

 今後は高校の英語教員も、英語教育だけでなく、プラ

スアルファの専門性を有することが大切になるというの

が私の持論です。生徒が本気で考え、それについて英語

で表現したくなるような授業をするためには、中身の濃

い題材を扱う必要があると思うからです。例えば大学時

代に副専攻を積極的に履修したり、卒業後は幅広い分野

の情報に触れるなどして、興味・関心を広げ、授業で深

く扱うことのできる題材を増やしてほしいと思います。

——高校では、どのような題材を使うとよいでしょうか。 文章の内容について考えたり、話し合ったりするわけ

ですから、教員や生徒が関心を持って、楽しく取り組む

ことができる題材がよいでしょう。例えば、環境問題に

関心がある教員ならそれについて扱うなどです。生徒の

関心のある題材としては、例えば学習意欲が低い生徒が

多い男子校で、英語で書かれたバイクのパンフレットを

使用したところ、目の色を変えて読もうとしたという話

があります。また「ロミオとジュリエット」も絶大な人

気があります。主人公が同年代ですし、恋の葛藤は思春

期の生徒にとって普遍的なテーマだからでしょう。

 また、教材とする文章を選ぶ際には「本物」を与える

ことが大切です。例えば、平和について扱った文章とし

て、キング牧師のスピーチと、マザー・テレサについて

の文章があります。キング牧師のスピーチは、難しい単

語が使用されており、表現も凝っているため、難解です。

一方、マザー・テレサについての文章は、ジャーナリス

トが彼女の思いをまとめ直した文章なので、わかりやす

く客観的に書かれています。高校生にどちらを面白いと

思うかと問うと、圧倒的にキング牧師の方なのです。自

分で語った「本物」の言葉には迫力があり、生徒にもっ

と読みたい、知りたいという気持ちを起こさせます。

生徒が能動的に英語を使う場面を作り教員が教えすぎないことが大事

 3つ目は、ディベートなどの言語活動を取り入れて、

生徒が能動的に学ぶことができる授業にすることです。

できるだけ教員が教える時間を少なくして、生徒が英語

を使って話す、書くなど4技能を使った多様な活動をす

る時間を確保するように努めることが重要です。

 例えば、生徒同士で教科書についてのQ&A、ディベー

トやディスカッションをさせると、生徒は自分たちなり

に表現を考えて、意見を伝えようとします。教員はその

様子を見て、適宜アドバイスをするとよいでしょう。

——ディベートやディスカッションについては、テーマを示すだけでは議論の内容が深まりにくいが関連資料を与えると結論が定まってしまう、といった声もあります。 インターネットなど、多様な情報源がありますから、

生徒が資料探しから行うのがよいでしょう。例えばディ

ベートなら、事前に授業当日の立場を指定して、その立

場から根拠などを調べてくるよう指示をします。その上

で授業で議論させるのもよい方法です。

 ただし、すべて生徒に任せてしまわずに、生徒が用意

した内容が適切かどうか、事前に教員が確認してアドバ

イスをするなど、事前の指導が大切です。

——ディベートやディスカッションの前段階の指導として、ペアワークで話す練習をすることが多いようです。有効な方法でしょうか。 ディスカッションの練習の1つとして有効です。ただ

し、一人が教科書の構文を棒読みして、もう一人がその

構文を使って答えるようなペアワークも目にします。そ

れではパターンプラクティスの変形にすぎず、あまり意

味がありません。もちろん習った構文を使うのはよいの

ですが、その構文を使って話す内容は、一人ひとり異な

る、即興性のあるものにすることが大切です。予想でき

ない答えが返ってくるからこそ、相手の話を聞こうとす

る姿勢が生まれるからです。ただし、それはなかなか困

難なことでもあります。話す内容がなければ、ペアワー

ク自体が成立しないのです。そこで、私がよく行うのが

ブレインストーミングです。あるテーマについて、どん

な考え方があるか、全員でアイデアを出し合い、板書し

ます。それらのアイデアをグルーピングして整理し、こ

の部分についてもう少し議論してみよう、と問いかけて

ペアワークを行います。こうしてテーマの全体像や課題

が整理されていれば、ペアワークもスムーズに行えます。

 このほか、話すことに慣れる取り組みの例としては、毎

時間、その場で与えられた課題について、あるいは日頃

自分が考えていることを、即興で1分間英語で話す活動

を行った高校があります。ペアの生徒は内容を聞きなが

ら、何語話したかをカウントするのですが、1年間続け

ると、1分間で150語以上話せるようになったそうです。

こうした短時間の取り組みでも続ければ生徒はどんどん

自分の言葉で話せるようになります。

 このように、生徒が多くの言語活動を通して、4技能

をバランスよく伸ばせるようにしてほしいと思います。

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 27

PA RT 1 概 説

高校卒業段階で英検準2級~2級50%の数値目標を掲げた「第2期教育振興基本計画」

 まず、近年の英語教育改革の大きな流れを見ていく。

近年の英語教育改革の契機となったのが、内閣直属の教

育再生実行会議による「これからの大学教育等の在り方について(第3次提言)」(2013年5月)である。小学

校の英語学習の抜本的拡充(実施学年の早期化、指導時

間増、教科化、専任教員配置等)、中学校における英語に

よる英語授業の実施、初等中等教育を通じた系統的な英

語教育について検討することなどを提言した。

 同時期の2013年4月に文部科学省中央教育審議会が

国の総合的な教育振興施策をまとめた「第2期教育振興基本計画」(2013 ~ 2017)では、グローバル人材には

英語力が不可欠であることから、中学校卒業段階で英検

3級程度以上、高校卒業段階で英検準2級~2級程度以

上の達成割合を50%にするという数値目標が掲げられた。

「英語を使って何ができるようになるか」の観点からの学習到達目標作成が重要に

 これらを受けて2013年12月に文部科学省が発表した

のが新たな英語教育を展開するための具体的な方法をま

とめた「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」だ。小学校での英語教育の拡充強化や、それによっ

て高校までにより高度な英語力をつけることを提言した。

また、その実現のために小・中・高で一貫した学習到達

目標を設定するべきであること、小・中・高の各段階で

英語教育を充実させる必要があることも指摘された。

 高校英語教育については「幅広い話題について抽象的

な内容を理解できる、英語話者とある程度流暢にやりと

りができる能力を養う」「授業を英語で行うとともに、言

語活動を高度化(発表、討論、交渉等)」や、そのための

教員研修、指導用教材の開発を提言している。

 さらに、同計画の具体化に向けて、専門的な見地から

検討を行うために、文部科学省の調査研究協力者会議で

ある「英語教育の在り方に関する有識者会議」を設けた。

2014年9月に「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告 ~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」を公表している。提言では、中・高の英語

教育に関して、これまでの「文法や語彙等の知識がどれ

だけ身についたか」を重視した授業から、「英語を使って

何ができるようになるか」を重視する授業に変えること

を求めている。実施計画で掲げている「英語によるコ

ミュニケーション能力を確実に養う」という目標達成の

ためには、日々の授業で文法の知識などを中心に学ぶの

ではなく、例えば「人物についての説明を読んで、その

内容を口頭で要約することができる」などの英語で何が

できるかという目標を意識して教える必要があるからだ。

そして、こうした授業へ切り替えるための具体的な手立

てとして、各学校で、4技能に関して「英語を使って何

ができるようになるか」という観点から、生徒に求めら

れる学習到達目標(CAN-DO形式)をまとめ、それに

沿って授業をすることを提案した。

 また、4技能をバランスよく高めるには、多くの現職

教員が、自分が受けてきた英語教育とは大きく異なる方

法で指導や評価を行うことが求められるようになる。そ

近年の英語教育改革

 近年、国の施策として英語教育改革が進められている背景には、社会の急速なグローバル化がある。国際共通語である英語力の向上が、日本の将来にとって不可欠と考えられているからだ。しかし現実には、英語に苦手意識を持ち、外国人とスムーズにコミュニケーションを図ることができない若者が多く、それでは日本の国際競争力を高めることはできない。そこで英語教育の抜本的な改革を行う必要が出てきたのだ。 改革の全体的な方向性としては「小学校英語の早期化・教科化で学習内容を前倒しし、中学校・高校の学習内容を高度化すること」と「英語4技能(聞く、話す、読む、書く)をバランスよく育て、英語でコミュニケーションができる力を育てること」が柱になっている。ただし、こうした全体的な方向性はどの事業にも通底しているものの、近年さまざまな施策が公表され、ややわかりにくくなっているのではないか。そこで、近年の主な英語教育改革に関わる施策を整理していく。

Kawaijuku Guideline 2016.4・528

れに対応できる教員を養成するための研修の充実が課題

として挙がっている。あわせて習熟度別指導、少人数指

導、ティーム・ティーチングなど、きめ細かな指導を可

能にする環境整備も提言されている。

 なお、先述の実施計画、有識者会議で提言された内容

のうち、小・中・高を通じて一貫した目標や身につける

べき資質・能力などについては、現在、中央教育審議会

教育課程部会外国語ワーキンググループでさらに議論が

進められている<図>。

小・中・高で一貫した目標の設定や地域のリーダーを育てる教員研修を実施

 ここからは、実施計画を受けて行われている文部科学

省の具体的な取り組みをいくつか紹介する。

 2014年度には「英語教育強化地域拠点事業」が始

まった。小学校段階での英語教育の早期化・教科化など

を受けて、同じ地域にある小学校・中学校・高校が連携

して、小・中・高を通じて一貫した目標の設定や、その

ための指導方法、評価方法の研究などに取り組む。他校

種の教員と連携して研究することで教員が最終的な到達

目標から逆算して各学校種での指導内容を考えることが

できるようにすること、研究成果を今後の英語教育の在

り方に関する検討に生かすことなどが狙いだ。

 同じく2014年度から、小・中・高の教員・外国語指

導助手を対象に「英語教育推進リーダー中央研修」が始

まった。外部機関(ブリティッシュ・カウンシル)と連

携し、学校種別に行う研修で、地域でリーダーの役割を

果たすことができる英語教員を養成する。研修に参加し

た教員は、研修指導者として、英語科教員の研修や授業・

評価の改善のための指導・助言を行うことが期待されて

いる。高校教員向けには、生徒が英語で自分の考えや意

見を話すなどの言語活動を行う方法、言語活動と一体化

した文法指導の方法などについての研修を行い、4技能

をバランスよく育てることのできる教員を増やそうとし

ている。

 しかし、実施計画に基づき、さまざまな取り組みを進

<図>小・中・高等学校を通じて一貫した目標設定の在り方について

(文部科学省 教育課程部会 小学校部会(第4回(2016年3月14日))配布資料より)

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 29

めているにもかかわらず2014年度の高校3年生を対象

とした「英語教育改善のための英語力調査」(p25に詳

細)などで4技能が十分身についていない生徒が多いと

いう実態が明らかになった。そこで、2015年6月には

「生徒の英語力向上推進プラン」が策定された。都道府

県が中高生の英語力向上により力を入れるよう働きかけ

るものだ。具体的な内容には、「第2期教育振興基本計

画」の国の目標を踏まえて、2015年度末までに、生徒の

英語力についての都道府県ごとの目標を設定・公表する

ことを要請している。

 また「生徒の英語力向上推進プラン」には、2019年

度から、中学校で英語4技能を測定する「全国的な学力

調査」を新たに導入することも盛り込まれている。中高

生の英語力についての目標設定や結果測定の機会を設け

ることで、国および都道府県がPDCAサイクルを構築し

て、生徒の英語力向上につなげることをめざしている。

学習指導要領で4技能をバランスよく伸ばすことを推奨

 上記のほかに、高校の英語教育への影響が大きい文部

科学省の取り組みとして、学習指導要領の改訂がある。

2013年度から施行された高校の学習指導要領において、

英語で最も注目を集めたのは「授業は英語で行うことを

基本とする」という文言が加わったことだ。訳読や文法

の解説・演習などが中心の従来型の授業から、生徒がさ

まざまな言語活動を行うことを中心にした授業に変える

ことによって、4技能を使いこなして英語でコミュニ

ケーションができる生徒を育てようという狙いがある。

教科書も、ペアワークやディベート、ライティングなど

の課題が増加したほか、語彙数も増加して高度な言語活

動まで指導できるようになった。さらに、教育目標や授

業内容の変化に伴い、評価もペーパーテストだけでなく、

パフォーマンステスト(注1)を行う必要が出てきた。

 この学習指導要領の改訂をきっかけに、少しずつ授業

改善が進行しているが、従来型の指導をする教員も少な

くなく、授業改善への意欲も教員によって温度差がある

との指摘もある。この点については、研修などに参加し

た教員が、リーダーの役割を担って、情報共有や共通認

識の醸成を図ることが期待される。

4技能を測定するために大学入学者選抜で資格・検定試験を活用

 さらに、大学入学者選抜で資格・検定試験の活用が推

進されていることも大きなトピックだ。「第2期教育振興

基本計画」で、外部検定試験を活用して、生徒の英語4

技能に関する把握・検証を行い、戦略的な英語教育改善

を進める方針が示されたことを皮切りに、「英語教育の在

り方に関する有識者会議」では、各大学のアドミッショ

ン・ポリシーとの整合性を前提に、入学者選抜に4技能

を適切に測定する資格・検定試験を活用することが推奨

された。「生徒の英語力向上推進プラン」でも同様の内容

が提言されている。

 なぜ資格・検定試験の活用なのか。これまで大学入試

問題はリーディングが中心だったため、高校の指導もそ

れに合わせて訳読中心の指導をしてきた。そこで大学入

試問題を変えることで高校の授業を4技能化しようとい

うわけだ。しかし各大学で4技能を測定する入試問題を

作成・実施するのは難しいため、資格・検定試験を活用

する方法が検討されているのだ。

 一方で、資格・検定試験の活用が広まることによる課

題もある。受験会場が都市部に限られることがあるため

受験機会が少ない地方の生徒が不利になる可能性がある

ことなどだ。そこで、2015年3月には文部科学省が「英

語力評価及び入学者選抜における資格・検定試験の活用

促進に関する連絡協議会」で「英語の資格・検定試験の

活用促進に関する行動指針」をまとめた。試験関係団体

には「目的・難易度・作問の妥当性や客観性といった点

を含め、各資格・検定試験によって測られる能力の範囲

を可能な限り明確にするとともに、受験環境、実施場所、

実施時期、受験費用、公平性の担保等に関する情報提供

等を積極的に行うように努める」ことなどを求めている。

 TOEFLや英検に加えて、TEAP(注2)を利用した入試も

2015年度から始まるなど、大学入学者選抜で資格・検定

試験を活用する動きが、今後さらに活発化することは確

実視されている。それを受けて、高校の英語教育が4技

能をバランスよく高める方向に変わっていく可能性は高

いといえそうだ。

(注1)パフォーマンステスト…知識やスキルを応用・統合して使いこなすことを求めるテスト。ペーパーテストと併用することでより幅広い資質・能力を測ることができる。英語科ではスピーチやプレゼンテーション、インタビュー、エッセイライティング、ペアワーク、グループディスカッションなどを評価する。

(注2)TEAP…上智大学と公益財団法人日本英語検定協会が共同で開発した大学教育レベルにふさわしい英語力を測定する4技能型の英語能力判定試験。2016年度には21大学が採用。

Kawaijuku Guideline 2016.4・530

岐阜県教育委員会

PA RT 2 都道府県の取り組み

グローバル人材育成のために英語教育の改善に取り組む

 岐阜県教育委員会では、小学校・中学校・高校の外国

語活動・英語科の共通目標として、「豊かな語学力やコ

ミュニケーション能力などを身につけ、さまざまな分野

で活躍できるグローバル人材の育成」を掲げている。

 「グローバルな視点で物事を考えたり、英語を使って仕

事をしたりするのは、かつては特定の分野に限られてい

ましたが、これからはより多くの人にそうした力が求め

られるようになるでしょう」と酒井先生は指摘し、遠藤

先生も「現在、本県の工業高校の卒業生が母校に発行を

依頼する成績証明書は英語版が多くなっています。海外

で働く技術者が既にかなり増えていることを示している

と思います」と語る。

 このような状況の下、岐阜県教育委員会では英語教育

に関するさまざまな施策を行っている。

 その1つが「小・中・高英語教育拠点校区事業」(2014

年度~)だ。これは、岐阜、西濃、美濃、可茂、東濃、飛

騨の6つの地域それぞれに高校1校、中学校1校、小学

校1~2校を指定して、小・中・高が連携して授業研究

を行ったり、小学生から高校3年生まで連続したCAN-

DOリストを作成したりする取り組みだ。他校種での指導

方法を知って自校での指導に生かすことや、高校入学時

までに身につける力について共通認識を持った上で各校

種で、何を、どこまで、どのように教えるかについて考

えることなどを狙いとしている。指定された高校6校に

は、県教育委員会の指導主事と、英語教育を専門とする

大学教員(アドバイザー)が各1人ずつついて継続した

支援を行っている。

小・中・高で連続したCAN-DOリストを作成パフォーマンステストも共同で実施

 取り組みの内容は地区によってやや異なるが、例とし

て西濃地区(岐阜県立大垣西高校、大垣市立星和中学校、

大垣市立中川小学校、大垣市立小野小学校)の取り組み

を見てみよう。西濃地区では、まず2014年度に小・中・

高で連続したCAN-DOリストを作成した。「小学校・中

学校・高校の教員がそれぞれの授業を見学に行くところ

から始めました。例えば高校の先生にとっては、小学校

教員のきめ細かい声かけが参考になったり、中学生がこ

こまで話せるなら高校ではもっと高度な課題でもよいか

もしれないといった気付きがあったようです。そうして

各校種の実態を共有した上でCAN-DOリストを作成し

ました。高校卒業時の到達目標は高校によって異なるた

め、中学校から高校1年生の段階を特に考慮し、どの高

校でも参考にできるようにしています」(酒井先生)

 2015年度にはCAN-DOリストの内容が児童・生徒の

実態に合っているかを確認するため、全校種が連携して

パフォーマンステスト(p30参照)を実施した。小・

中・高の教員が集まって、各校種の課題とルーブリック

(p26参照)を作成した。「『日本の良さを外国の人にPR

する』というテーマで行いました。小学生は自分が住む

地域や県の魅力について話す、中学生は日本全体の魅力

について話す、高校生は日本と外国を比較しながら話す

というように、徐々に課題が高度になるようにして、各

段階で到達すべき力がついているかを確認しました」(酒

井先生)

 このパフォーマンステストの評価は、小学生について

は中・高の教員とアドバイザーが、中学生については小・

小・中・高が連携した英語力向上の取り組み生徒向け・教員向けの支援も充実

 岐阜県では2018年度までの教育目標をまとめた「第2次岐阜県教育ビジョン」(2014年度)を策定している。目標の1つには「グローバル社会で活躍できる人材の育成」を掲げ、英語教育に関わるさまざまな施策を行っている。小・中・高が連携した指導方法の研究、生徒の学習意欲を高める各種イベントや教員向け研究会の実施・充実などについて、岐阜県教育委員会事務局学校支援課課長補佐・指導主事の酒井猛先生と教育研修課専門研修係課長補佐・指導主事の遠藤正人先生に話を伺った。

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 31

高の教員とアドバイザーが、高校生の評価は小・中の教

員と大垣市教育委員会の指導主事やアドバイザーが行っ

た。「知らない大人に向かって話すことで、テストという

より、言いたいことを伝える、コミュニケーションをす

るという意識が強くなります。教員にとっても他校種の

生徒の力を知ることで自校の授業を見直すよい機会とな

ります」(酒井先生)

 また、西濃地区では、他校種間の生徒交流も活発に

行っている。下級生に将来の「もっと英語が使える自

分」をイメージさせて学習意欲を高めることなどが狙い

だ。例えば、大垣西高校の2年生と星和中学校の3年生

が「日本が世界に誇れるもの」をテーマに、それぞれ自

校で学習した上で高校の体育館に集まり、その場で発表

されたテーマについて英語によるミニディベートを行っ

た。中学生・高校生の交ざった4人グループを作り、2

人がディベートをし、もう2人がジャッジをする形式だ。

ジャッジやディベーターは交代しながら行う。「中学生が

高校生に憧れて刺激を受けるのはもちろんですが、高校

生もジャッジの中学生の反応を見てわかっていないよう

なら簡単な表現に言い換えながら話すなど、伝える工夫

や楽しさを経験することができる機会になっています」

(酒井先生)

高校生の英語学習への意欲向上外部検定試験結果から授業改善も

 高校生向けには、英語力を伸ばすための機会を多く設

けている。例えば「高校生英語スピーチコンテスト」で

は、大会を行うだけでなく審査の待ち時間を利用して、

「高校生留学促進事業」によって1年間海外の高校に留

学して帰国した生徒に留学経験を英語で語ってもらい、

質疑応答の時間も設けて、参加者の留学意欲を喚起して

いる。「岐阜県高校生英語キャンプ」では、複数名のALT

が大学等で専攻した学問について各30分~1時間程度

の講義をし、生徒が疑似留学体験ができるよう工夫され

ている。生徒の学習意欲を高めるため、ALTには内容や

英語を高校生向けに易しくしないよう依頼している。こ

のほか「高校生英語ディベート大会・講習会」なども実

施し、さらに2016年度は「高校生英語プレゼンテー

ション大会」を計画している。

 高校向けには2013年度から外部検定試験を受験させ

る取り組みを進めている。2015年度は16校(約2,200

名)の高校2年生が英語を母語としない世界中の高校生

が多く受験するTOEFL ITP、TOEFL Junior、TOEIC

Bridgeなどを受験した。この取り組みは、岐阜県が進め

る授業改善の効果を確認する目的もある。「3年前の2年

生は訳読や英語による言語活動を伴わない文法演習の指

導がまだ多く見られていた旧課程、今年の2年生は英語

によるコミュニケーション能力の育成を狙いとした授業

を受けている現行課程の生徒です。比較すると現行課程

の生徒の方が、読解、文法、語法、語彙ともに成績がよ

いことがわかりました。CEFRレベルA1層の生徒が少

なくなり、全体の学力が底上げされているのです。英語

での言語活動中心の授業へ改革を進めた効果が着実に出

ていることが確認できました。また世界標準レベルの外

部検定試験を用いることで生徒のグローバル意識を喚起

する効果が生まれ、教員も世界の中での位置を意識した

り、他国と比較して弱い部分に注力した授業をするなど

の授業改善にもつながっていると思っています。今後は

4技能型の外部検定試験も活用し、4技能をバランスよ

く学ぶ大切さを生徒により深く知ってもらう契機にした

いと考えています」(酒井先生)

生徒が英語を使う場にもなる、英語研究会の実施

 高校教員に対する支援も手厚い。「地区英語科担当者

会議」は、年に2回、地区ごとに高校の英語科教員が集

まり授業研究を行うものだ。1回目は4月早々に開かれ、

到達目標や評価手法を生徒に伝えるための授業研究を行

う。「授業は年度初めが勝負です。生徒にその年の授業で

どんなことができるようになるかをイメージさせて、や

る気にさせることが大事です。ただし生徒にCAN-DOリ

ストをそのまま見せてもぴんと来ません。そこで1年生

終了時や卒業前に先輩たちがプレゼンテーションをする

映像を見せるなど、到達すべき目標の示し方を研修で学

べるようにしています」(酒井先生)。2回目は秋に開か

れ、これまでの授業の成果を発表して学校間で共有する。

 6月には「県英語科担当者会議」が開かれる。内容は、

県内全公立高校から英語科教員が必ず1名出席し、午前

中は研究授業を行い、午後は英語教育を専門とする大学

教員が講演する。注目されるのは休み時間の使い方で、

毎年、主催地区の生徒が教員向けに英語でのイベントを

行う。2015年度は研究授業の前に、県立加茂農林高等学

校の生徒が、何十人もの英語科教員の前で、パネルを

使って野菜や草花の栽培方法を英語で説明したり、夕食

の献立を提案しながら野菜の販売をした。また昼休みに

Kawaijuku Guideline 2016.4・532

<写真>生徒が英語でものづくりの説明をする様子(岐阜県英語科担当者会議(2015 年度))

(岐阜県教育委員会提供)

は、県立可児工業高等学校の生徒が、工作器具や実験器

具を持ちこんで、ロボットの形状のキーホルダーや芳香

剤、木製鍋敷きの作り方を説明し、英語科教員がものづ

くりに取り組んだ<写真>。作業中、教員はわからない

ところを英語で質問し、生徒は英語で答える。「英語科教

員に生徒が英語を使っていきいきと活動している姿を見

せること、生徒に英語を使ってコミュニケーションをす

る体験をさせることも目的ですが、それだけではありま

せん。このイベントをすることで、主催地区からは英語

科教員だけでなく、技術系科目や管理職の先生も引率な

どで来場します。英語教育の改善は、管理職や他教科、

進路担当の先生の理解を得られてこそ可能ですから、こ

こで自校の生徒が英語で立派にコミュニケーションをす

る姿を見ていただくのは大きな意義があります」(酒井先

生)

 毎年12月に開かれる「グローバル人材育成を目指し

た高校英語教育改善研究フォーラム」は、その年のテー

マについての英語の授業改善に取り組む教員が研究成果

を発表する場である。これは3年前から行っており、

オールイングリッシュによる授業、パフォーマンステス

トの実施などの研究テーマを経て、今年は「新教育課程

における筆記テストの見直し」をテーマとした。「パ

フォーマンステストで話す力などを測るようになったの

はよいのですが、筆記テストは従来型のままで、授業で

培ったコミュニケーションの力が評価できていない高校

が多かったのでこのテーマにしました。初見の文章を出

題して教科書訳を暗記する力でなくきちんと英語を読む

力を測る、和文英訳でなくある場面を示してそこで話す

内容を書かせて文法や語法を活用しながら英語で実際に

書くことができる力を見るなどの提案が出ました」(酒井

先生)

言語活動の指導や、英語力向上のための研修、海外研修も実施

 このほかにもさまざまな研修を行っている。研修を企

画する遠藤先生は「初任者の先生が『大学4年生で教育

実習に行ったら自分の高校時代の授業とかなり変わって

いて驚いた』と言っていたことが象徴的ですが、現行課

程になって英語の授業は、訳読中心ではなく生徒の言語

活動を重視する方向に大きく様変わりしています。先生

たちからは研修の需要が大きく、他の教科と比べると英

語科は飛び抜けて多くの研修を実施しています」と話す。

 主な取り組みには、国の「英語教育推進リーダー中央

研修」に参加した教員2名が内容を県内の教員に伝える

研修や、県独自の「英語スピーチ指導者養成講座」など、

教員のニーズの高い、生徒に言語活動をさせて、英語で

の発信力を高めるための指導方法を学ぶ講座がある。ま

た、基本的に授業は英語で行うなど、教員自身の英語力

がますます必要になっている現状を受けて「英語教師の

英語力向上講座」も行っている。中・高の教員を対象に

4日間行う英語力と授業力を高める研修で、最終日には

TOEICを受験する。このほか「国外大学プログラム」

としてオーストラリアのマッコリー大学に中学校6名、

高校4名の教員を4週間派遣している。一般的には大学

で英語指導方法の授業を受けるなどの研修が多いが、岐

阜県では現地の中学校・高校を訪問するプログラムを設

けて「英語で教える」方法について学ぶ点も特徴だ。

 今後については、酒井先生は「バックワードデザイ

ン(注)に基づいた授業計画の立案」と「ポートフォリオ

の活用」を進めたいと話す。「学習目標と、授業内容、指

導方法、評価において一体化が見られず、それぞれの目

的を十分に果たしていないことがあります。そこで年度

初めに、バックワードデザインの考え方に基づき、年間

の学習目標に合わせて全ての定期考査の試験を考え、そ

のテストで生徒が得点できることをめざして授業を組み

立てるという方法を提案したいと思っています。ポート

フォリオは作成されるようになりましたが、授業改善に

十分役立てられていないため、活用の仕方を研究したい

と思います。パフォーマンス課題を音声なども含めて映

像等で記録し、次の先生に引き継いでいけるようにすれ

ば、より生徒に合ったきめ細やかな指導ができるのでは

ないかと考えています」(酒井先生)

(注)バックワードデザイン…ゴールをまず設定し、ゴールを達成したことを測る効果的なテストを作り、そのテストで成果を挙げることができるように内容や方法を考えて授業を設計する方法。

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 33

PA RT 2 都道府県の取り組み

大阪府教育委員会

青木浩子先生池嶋伸晃先生 香月孝治先生 三好由美先生

「授業を変える」「機会を与える」「さらに伸ばす」「教員を鍛える」の4つの柱からなる英語教育事業

 大阪府の英語力向上の取り組みが動き出したのは「使

える英語プロジェクト事業」(2011 ~ 2013年度)から

だ。当時の橋下徹知事が海外視察を重ねる中で、若者の

国際共通語としての英語力向上の必要性を強く意識し、

その対策を指示したことをきっかけに、英語教育改善の

ための取り組みが始まった。

 こうした背景から、「使える英語プロジェクト事業」

は、事業目標を「国際社会に通用する人材の育成」と

「高校生の英語コミュニケーション能力のさらなる向上」

と定めた。具体的な取り組みは、「①授業を変える」「②

機会を与える」「③さらに伸ばす」「④教員を鍛える」の

4つに整理している。それぞれの内容を見ていこう。

 まず「①授業を変える」取り組みとして、教育委員会

は24校を「English Frontier High Schools」に指定し

た。実際のコミュニケーションで英語が使えるように、

4技能をバランスよく育てるための指導方法を研究する

ことが狙いだ。指定校は3つのグループに分かれており、

G 3(5校)は校内で最も多い英検2級程度の生徒を準

1級程度へ、G 2(9校)は準2級から2級へ、G 1

(10校)は3級を準2級へ伸ばすことを目標とした。対

象生徒や具体的な指導方法などは、各校が自校の状況に

合わせて設定している。さらにG 2、G 3の高校では、

並行して外部機関の講師による特設レッスンも実施し、

TOEFLやTOEIC受験を意識した指導も行った。

 また、授業を変えるための環境整備にも力を入れた。

指定校にはネイティブの講師を通常よりも1名ずつ多く

派遣したほか、学習用タブレット端末等を導入して、自

分の発音や表情を録画して確認できるようにした。

 「②機会を与える」取り組みは、生徒が英語を使う機会

を得やすくするための支援だ。高校が実施する英語コン

テストや、ネイティブの講師等とオールイングリッシュ

で体験活動を行うイングリッシュキャンプの費用、海外

研修を引率する教員の旅費など、行事にかかる費用を支

援した。「こうした行事で思うように言葉が出てこない、

伝わらないなど悔しい思いをすることで、生徒にはもっ

と話せるようになりたい、もっと勉強したいという意欲

が芽生えますから、できるだけ多くの生徒に機会を与え

たいと考えました」(教務グループ主任指導主事 青木浩

子先生)

 「③さらに伸ばす」取り組みは、英語に関心がある生徒、

英語が得意でもっと高度な力をつけたい生徒を対象にし

た支援だ。「Advanced Class」は、ネイティブの講師が

オールイングリッシュで行う授業を土曜日の午後、府内

4カ所で実施するものだ。指定校以外の生徒にも4技能

を育てる機会を、という発想から、府立高校生(2013年

度から私立高校生も可)なら誰でも参加できるようにし

た。2011年度は全30回を行い、111名が受講している。

洋書など教科書よりも難しい文章を題材に、生徒同士で

話し合ったり、意見を書くなど4技能をバランスよく伸

ばすことのできる授業が行われた。

 「英語に関心のある生徒が府内全域から集まりました。

学年を分けなかったので年下の生徒が流暢に話すのを見

て悔しい思いをしたり、普段の授業と違って英語を話す

知事重点事業で生徒・教員の英語力を向上TOEFL iBTの出題方式に対応した指導を実施

 大阪府教育委員会では、2011年度より知事重点事業として高校生の英語コミュニケーション能力の向上に取り組んできた。この事業を発展させて、2014年度からはSuper English Teacher(SET)によるTOEFL iBTの出題方式に対応した指導などを推進している。さらに、府立高校入試での外部検定試験の活用などの取り組みも動き出している。これらの取り組みについて、大阪府教育委員会事務局教育振興室高等学校課に話を伺った。

Kawaijuku Guideline 2016.4・534

<図>大阪府教育委員会の英語教育に関する近年の施策

機会が多いので聞く・話すことへの自信がつくなど、生

徒にとってよい刺激となったようです」(教務グループ主

任指導主事・教務総括 池嶋伸晃先生)

 また、TOEFL、TOEICの団体受験を教育委員会主催で

行ったり、2013年度からはTOEFL iBTの過去問題に挑

戦する機会も設けた。「いずれも高校生には難しい試験で

すが、海外大学への進学や、留学時に課されることの多

い試験を早期に体験させたり、そうした進路への意欲を

高めるために行いました」(池嶋先生)

 「④教員を鍛える」ための英語指導方法の研修も実施

している。教育センター主催の研修のほか、英国の公的

な国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシル

と連携した短期集中の英語指導方法研修も実施した。文

部科学省は2014年度より、ブリティッシュ・カウンシ

ルと連携した「英語教育推進リーダー中央研修」を実施

しているが、大阪府ではそれに先んじて独自に研修を行

い、ディベートやプレゼンテーションなどを通して、生

徒に4技能をバランスよく身につけさせるための指導方

法を広めている。

 事業終了時には、英検の過去問等を使って生徒の到達

度の確認をするなどして、各校で到達目標が達成できた

かの振り返りを行った。「4技能のうち、書くことと話す

ことの検証が十分でないことは課題として残りました。

しかし、年に1度実施した、指定校の生徒が英語でプレ

ゼンテーションを行う生徒発表会では、回を重ねるごと

に生徒たちの英語による発信力が高まっていくことが実

感できました。そのほか公開研究授業や、指定校の連絡

協議会での情報交換からも、教員の指導力や、生徒の英

語力の伸びを感じることができました」(池嶋先生)

TOEFL iBTの出題方式に対応した授業を実施意欲ある生徒への特訓クラス、経済的支援なども継続

 2014年度からは、「使える英語プロジェクト事業」の

後継として、2つの事業がスタートした<図>。

 1つは「骨太の英語力養成事業」だ。指定校17校で

「使える英語プロジェクト事業」の「①授業を変える」

取り組みを発展させ、生徒により高いレベルで4技能を

身につけさせることを主な目的としている。TOEFL iBT

の出題方式に対応した授業の実施と、教員向けの研修の

実施が主な内容だ。

 TOEFL iBTの出題方式に対応した授業は、高校3年間

で4技能を英語圏の大学で修学できるレベルの生徒を増

やす(3~5年後に各校のSuper English Teacher(SET)

の授業を受けた2学級生徒80人中TOEFL iBT80点以上

5~ 14名、60点以上42名以上)ことを目標にしたもの

だ。TOEFL iBTの出題を意識した授業を導入している。

「使える英語プロジェクト事業」の主な取り組み「1.授業を変える」を「骨太の英語力養成事業」、「2.機会を与える」「3.さらに伸ばす」「4.教員を鍛える」を「英語教育推進事業」が受け継いで継続的に英語教育の改善に取り組む

使える英語プロジェクト事業(2011~ 2013年度)〈事業目標〉・国際社会に通用する人材の育成・高校生の英語コミュニケーション能力のさらなる向上

〈主な取り組み〉1.授業を変える・English Frontier High Schools24校を指定・授業方法の研究(4技能バランスがとれた授業、TOEFL・TOEICなど資格

取得をめざした授業、ネイティブ講師・機器等を効果的に活用した授業)

2.機会を与える・生徒の海外研修支援(引率教員旅費の助成)・国内活動支援(国際会議、イングリッシュキャンプなど)

3.さらに伸ばす・Advanced Class(留学や海外大学進学をめざして英語力の向上を図りたい

生徒向けの特訓クラス)開設・TOEFL・TOEIC受験機会の提供・TOEFL iBTチャレンジ支援(過去問受験機会の提供)

4.教員を鍛える・教育センター研修・ブリティッシュ・カウンシルによる英語指導方法研修・海外研修

骨太の英語力養成事業(2014~2018年度)〈事業目標〉

・高校3年間で英語4技能を英語圏の大学で修学できるレベルに引き上げる(対象17校)

〈主な取り組み〉・SET(Super English Teacher)によるTOEFL

iBTを意識した授業・教員向け研修

英語教育推進事業(2014~ 2018年度)〈事業目標〉

・英語力の底上げのため、在籍校によらないオール大阪の視点で、意欲ある生徒に対する「聞く・話す」能力の鍛錬を行うとともに、英語科教員の指導力を高める

〈主な取り組み〉・生徒の海外研修支援(引率教員旅費の助成)・Advanced Class・ブリティッシュ・カウンシルによる英語指導 方法研修

(大阪府教育委員会提供資料を元に河合塾で作成)

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 35

TOEFL iBTを基準にしているのは海外大学進学時に課さ

れることが多く、コミュニケーションに必要な4技能を

バランスよく鍛える必要があるからだ。

 指導するSETとはTOEFL iBTスコア100点以上もし

くはIELTSスコア7.5以上という英語圏の難関大学院に

進学できる程度の高い英語力を持ち、TOEFL iBTの出題

に対応した指導ができるという要件で集められた特定任

期付職員だ。教員免許非保有者でも適格な人材には特別

免許状を授与して採用している。SETの授業をどの科目

に位置づけるかや、どのコースの生徒を対象にするかな

どは、各校が自校の事情に合わせて決めている。授業内

容もSETや高校によって異なっている。

 「ただし、授業進行の速さと授業内容の難しさは、どの

授業でも共通です。TOEFL iBTでは質問に論理的に、か

つ素早く回答する力が求められますから、そうした力を

つけるために、時間を区切ってたくさんの課題を解く形

式の授業が多いです。語彙を増やすために、扱う単語数

も多くなっています」(教務グループ指導主事 香月孝治

先生)

 「TOEFLの授業と言うとTOEFL iBTの過去問をどんど

ん解かせるような授業をイメージされるかもしれません

が、高校1年生には難しすぎます。ですから教科書の文

章について自分の意見をすぐまとめて話す、友達のプレ

ゼンテーションをメモを取りながら聞き、概要をまとめ

るといった取り組みを通して、少しずつTOEFL iBTに対

応できる英語力を育成しようとしています」(池嶋先生)

 こうした授業ができる教員を増やすため、「骨太の英語

力養成事業」には教員向けの支援も含まれている。指定

校ではSETが授業公開や教授法の研修会を行ったり、英

語科教員とのティーム・ティーチング、共同で教材やテ

ストの作成等をすることで、指導方法の継承を行ってい

るほか、教育委員会による研修もある。教員自身の英語

力と、TOEFL iBTに対応できるような高度な4技能を育

てるための指導力を高めることを目的とした「TOEFL

iBTスコアアップセミナー」だ。この研修は事業対象の

17校以外の教員も参加でき、外部講師やSETを招いて行

う。教員自身がグループワークやペアワークで英語を書

いたり話したりする指導を受けたり、複数のライティン

グテストの答案用紙を見てどのような観点で採点するの

がよいか考えるなど指導方法を学ぶプログラムや、スコ

アアップのための学習方法などが盛り込まれている。こ

の研修で得たものを各教員が、それぞれの高校に持ち

帰って実践することで、当初からの事業目標である「授

業を変える」ことをめざしている。  

 一方、「使える英語プロジェクト事業」の「②機会を

与える」「③さらに伸ばす」「④教員を鍛える」の取り組

みを引き継ぐのが「英語教育推進事業」だ。「Advanced

Class(意欲ある生徒への特訓クラス)」「教員研修(ブリ

ティッシュ・カウンシルによる短期集中研修)」「短期留

学支援事業(生徒への経済的支援)」「生徒の海外研修支

援(引率教員旅費の助成)」で構成されている。支援を継

続して、生徒の英語力・教員の指導力向上をめざす。

府立高校入試の4技能化に着手中学校の授業改善で、高校の授業内容の高度化を狙う

 さらに、2017年度府立高校入試より、英語学力検査の

改革を行う。文部科学省が大学入試での資格・検定試験

活用を推進して、高校で4技能をバランスよく育てるよ

うに働きかけているのと同様に、大阪府では高校入試を

「読む」に偏らないものにすることで、中学校で4技能を

バランスよく学ぶように働きかけようとしている。高校

では中学校までに養った4技能を基盤に、より高いレベ

ルの4技能を使ったコミュニケーションができるように

する。

 改革の1点目は外部検定試験の結果の活用だ。活用方

法について、学事グループ主任指導主事・学事総括の三

好由美先生は「府立高校入試の英語において、TOEFL

iBTなどの外部検定試験のスコアなどを一定の得点率で

換算し、換算した得点と当日受験した結果の得点とを比

較して、高い方の得点を入試における英語の得点とする

ものです」と説明する。

 2点目は、英語の入試問題の改革だ。入試日程上、実

施が難しいスピーキングは課さないが、読む・書く・聞

く力をバランスよく測る入試にする。難易度が最も高い

英語の学力検査問題(注)においては、「読む」問題の配点

を約20%減じて50%程度とし、「書く」「聞く」は約

10%増やしてそれぞれ20%、30%程度とする。問題文

(指示文)もすべて英語にするという考えだ。

 「将来生徒が進みたい道を決める時に、国内だけでなく

海外の大学や職場も選択肢にできるように、高校でしっ

かり英語力を高められるよう、これからも支援していき

たいと考えています」(池嶋先生)

(注)府立高校入試は2016年度入試から、英語の学力検査問題を「基礎的な問題」「標準的な問題」「発展的な問題」の3種類作成し、高校がどの試験を使うかを選択する仕組みにする。2017年度入試は「発展的な問題」のみ出題方針を変える。

Kawaijuku Guideline 2016.4・536

宮城県石巻高等学校

言語活動中心の授業を実施当初は教員・生徒に戸惑いも

 石巻高校英語科では、大学入試のためだけではなく、

社会に出てからも、英語を道具として抵抗感なく使いこ

なすことができる生徒の育成を目標としている。そのた

め生徒が英語を使う言語活動を多く盛り込んだ英語教育

を行っている。こうした授業に切り替えたのは2011年

度からだ。「宮城県教育委員会の先進的英語教育充実支

援事業の指定校になったこと、英語を自由に使いこなす

ことができる生徒の育成に課題を感じていたこと、東日

本大震災の直後で新しいことに挑戦して将来を担う若者

を育てようという気運が高まっていたことなどがきっか

けで、授業改善に取り組むことになりました。とはいえ

2011年度は教員1人、2012年度は2人だけの取り組み

で、全校で始めたのは2013年度からです」(武田先生)

 2012年度から加わった武田先生は「さまざまな場面

で英語を使いこなす生徒を育てるには英語に慣れさせる

ことが大事と考えました。全担当科目で授業での教員の

発言を英語に切り替えるとともに、生徒が英語で読み、書

き、話し、聞くといった4技能を多様な形で使う言語活

動を多く行う授業形式にしましたが、教材準備にとても

時間がかかりました。当時は旧課程でしたから、教科書

も生徒が英語で十分な活動ができるような構成にはなっ

ていませんでした。そこで毎回3時間くらいかけて生徒

が教科書の内容を踏まえて、英語を書いたり話したりで

きるような課題を考えてワークシートを作り、それを

使って授業をしていました。現行課程からはこうした教

材も各社から出ているので活用しています」と語る。

 生徒の戸惑いも大きかった。生徒は一文ずつ丁寧に訳

す逐語訳の授業に慣れているため、言語活動中心の授業

だけで大学入試に対応できるか不安、せめて教科書の全

訳を配ってほしい、という声も多かったそうだ。「逐語訳

で目の前の文章だけを完璧に訳すのではなく、英語を読

んだり話したりとさまざまな言語活動を行った方が英語

を使う力はつくし、入試にも対応できると説明しました。

少し経つと生徒も手応えを感じたようで、言語活動を楽

しんでくれるようになりました」(武田先生)

 現在は入学直後のオリエンテーションで英語の授業は

すべて英語で行うことやその意義を説明している。「最初

はついていけるか不安もあるようですが恥ずかしがらず

に積極的に発言する生徒が多いという地域性もあり、慣

れるまでにそれほど時間はかかりません」(武田先生)

導入に時間をかけ、初見で教科書を読む「コミュニケーション英語」

 では実際の授業の進め方を見てみよう。「コミュニケー

ション英語」は教科書の文章を使って4技能をバランス

よく育てることを目的とした科目だ。今でも読解中心の

授業をする高校もあるが、石巻高校では内容に応じて、①

予習を求めずに文章が初見の状態で授業に臨ませる、②

導入に時間をかける、③生徒の言語活動を多く盛りこむ

などの特徴的な取り組みをしている<表1>。いずれも

教科書の文章を起点に生徒に4技能を多様な形で使わせ

て、英語力を総合的に伸ばすことを狙いとしている。

 ①は初見の英文を読む力をつけるための取り組みだ。

「大学入試でも、日常生活で英語のホームページを見るな

どする場合でも、単語の訳がすべて与えられていたり、辞

書を引きながら一文ずつ丁寧に読むような機会はまずあ

りません。細部はわからなくても、文章全体の概要をつ

かむ力が必要ですから、予習はせずに授業で初見で読ん

で意味をつかむよう伝えています。とはいえ、いきなり

言語活動中心の授業で4技能をバランスよく育成

 宮城県石巻高等学校では、2011年度から、言語活動中心の英語の授業を行うことで、生徒の4技能を育てている。「コミュニケーション英語」では、初見の文章を読ませる、導入に時間をかけて文章のテーマの理解を深める、「英語表現」では、まず文章の構成について教えるなど、さまざまな工夫が盛り込まれている。こうした授業に切り替えた経緯や、現在の取り組み、生徒の変化などについて、英語科の初澤晋主任、武田誠先生に話を伺った。

PA RT 3 高校の取り組み

初澤晋主任 武田誠先生

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 37

<表1>「コミュニケーション英語」の授業例

は無理ですから、②のように導入を工夫しています。定

期テストでも2年生ではA4で7枚分程度と、かなり分

量の多い初見の文章を出題しています」(武田先生)

 ②は、例えば扱う文章が広告の意味を扱ったものであ

れば、まず看板などさまざまな広告の写真を示し、どれ

が最も効果的か話し合うなどする。質疑応答を通して、

テーマを生徒にとって身近な問題に感じられるようにし、

語彙もある程度理解させてから文章を読ませることで、

内容の理解を助け、生徒の関心も高めている。

 ③に該当するのは、本文の内容が理解できているかは

簡単な正誤問題程度に留め、本文に関連した言語活動を

行う時間を多くとっている点だ。「例えば教科書について

いる課題を解いて、ペアやクラスで共有したりしますが、

そこでの生徒の発言を元に、話題を広げて、生徒が英語

を話す機会を増やすようにしています。例えば『初めて

のデートでどこに行きたいか』という設問の時には『何

を着ていくか』『パートナーはどんなところを見て選ぶ

か』などに会話が広がっていきました」(武田先生)

文章構成を学び、言語活動を行う「英語表現」

 話す・書く力を育てる科目である「英語表現」の授業も

言語活動が中心である点は同じだ<表2>。生徒に多くの

課題を与えて、話す・書く活動の機会を増やし、英語で

意見を発信する力を伸ばす。

 進め方としては、授業の冒頭で簡単に、その日扱う文

法やトピックについて説明した後、その文法を使ってト

ピックについて話したり書いたりする言語活動を行う。

例えばその場で与えたテーマについて、最初に4分間ペ

アで会話をして、その後その内容を書いて発表する、と

いった取り組みなどがある。

 「英語表現」でも、生徒が言語活動を活発に行うことが

できるようにさまざまな工夫をしている。教科書の順序

を適宜変えて指導するのもその1つだ。「例えば『英語表

現Ⅱ』は冒頭から順に教えるのではなく、後半の文章構

成に関する単元を先にまとめて教えます。ここを先に教

えると、主張→根拠の順で話すなど、論理的な思考力を

働かせながら言語活動ができるからです」(武田先生)

 また、2015年度から新たな取り組みとして、あるテー

マについて意見を書き、それを元に話すなど、ライティ

ング→スピーキングの順に行うことが多かった言語活動

を、スピーキング→ライティングの順に変えた。「ライ

ティング→スピーキングが一般的なのですが、先に書か

せると辞書を頻繁に引くなど、正確な文法・表現で書く

ことにこだわりすぎて、あまりたくさん書けなかったり、

その結果、書いた内容を使って行う話す活動が活性化し

ないことがあったのです。話してから書くと、話す方が

易しい単語を使うことが多いですから、辞書を引きすぎ

ずにすらすら書けますし、話した時にペアワークの相手

から聞かれたことなども含めて書くことで多角的に意見

を書くことができるようにもなりました」(武田先生)

 現行課程からは、こうした活発な言語活動を行うこと

が推進されているが、文法の知識が身につかないのでは

時間 内容 取り組み 目的・注意点など

15 分 導入 本文に関連した画像などを示してクラス全体で質疑応答をする

・テーマに関心を持たせる・基本的な語彙を理解させる

7 分 本文を読む 生徒が各自で本文を読む ・初見で文章を読むことに慣れるため、事前に教科書に目を通したり、単語を調べて来ないように指示

8 分 正誤問題 本文の内容についての正誤問題・生徒に正誤を発表させるだけではなく必ずもう1〜2文程度は会話をして生徒が話す機会を作る(生徒自身はどう思うかや、そう思った根拠を説明させるなど)

20 分 言語活動 本文の内容についての言語活動 ・教科書や教員作成の設問を起点にして、生徒に自由に意見を発表させる。生徒の意見に沿って授業を展開

<表2>「英語表現」の授業例時間 内容 取り組み 目的・注意点など

10 分 文法やトピックの説明 扱う文法やトピックについての簡単な説明

15 分 スピーキング 与えられたテーマについて、規定の文法を使って、ペアを組んで即興で話したり意見交換をする

・「英語表現Ⅱ」については教科書後半の文章の論理的な組み立て方に関する章を先に学び、そのスキルを生かして話す・書くの活動をする・ライティング→スピーキングの順だと正確性にこだわって即興性が育ちにくいため、逆の順序で指導

10 分 全体で共有 その場で指名された生徒がプレゼンテーション

15 分 ライティング 話したことを書いてまとめて、論理構成の整った英文をプレゼンテーション

・ペアワークの相手から言われた意見も加えて、話した内容をより正確に、論理構成の整った形でまとめる

(〈表1〉〈表2〉とも取材を元に河合塾で作成)

Kawaijuku Guideline 2016.4・538

宮城県石巻高等学校

◇所在地:宮城県石巻市大手町3-15

◇沿革:1923年 宮城県石巻中学校創立    1948年 宮城県石巻高等学校に改名

◇学級編成:【全日制】普通科1学年6クラス

◇生徒数:670名(男子339名、女子331名)2016年3月現在

◇特色:校訓は「真実」「自律」「友愛」。地域の進学拠点校として、進路講演会や大学見学会の実施など進路指導の充実に力を入れている。近年は地域とのつながりも重視し、すべての生徒が在学中に社会活動・ボランティア活動を経験できる体制作りにも取り組む。

◇卒業生の進路:2015年3月卒業生222名・進路:4年制大学179名、短期大学2名、専門学校7名、 就職7名、その他27名・合格者の内訳(現役生、延数):国公立大学(大学校含む)72名、

私立大学287名、短期大学5名、専門学校11名

と不安に感じる先生もいる。その点について先生方に

伺った。「教員が一方的に教えるより、生徒が言語表現を

通じて文法を使った方が理解は深まると感じるので心配

していません。ただし生徒が間違った文法や表現をした

時は指摘します。例えば生徒の発言の『don’t』を正し

い『doesn’t』に直して教員がもう一度言うなどして気づ

かせます」(初澤先生)。「文法を学ぶことができるタイミ

ングを逃さないことが重要です。例えばある時、鳥が好

きな生徒が熱心にプレゼンテーションをし、それに対し

て別の生徒が『誰もが鳥を好きなわけではない(Not

everyone likes birds.)』と言いたかったところ、『誰も

鳥を好きではない(Everyone doesn’t like birds.)』と

言ったのです。これは絶好のタイミングだとひらめき、

その場ですぐに部分否定と全否定について解説しました。

生徒の発言内容を使ってその場で正しい文法について解

説すれば、生徒も関心を持って聞きます」(武田先生)

 「コミュニケーション英語」「英語表現」とも、教員が

最も気をつけているのは、生徒の言語活動を中心に授業

を組み立てることだという。「生徒が意欲的に言語活動を

してこそ多様な場面で英語を使いこなす力が伸びると思

いますから、予想外の意見が生徒から出た場合でも広が

りのあるよい内容であれば、予定していた授業の流れと

は違っても、その意見につなげる方向で授業を進めます。

大変なのは、授業の展開が事前に読めないことです。授

業の展開や結論を決めて授業に臨むと、予想外のことを

言われた時に反応できませんから、授業の構成を決めす

ぎずに授業に臨むようにしています」(初澤先生)

 なお、家庭学習も重視している。「宿題として、英文の

本を毎週1冊読んで感想やサマリーを書かせたり、問題

集やプリントで文法を確認したりします。授業では授業

でしかできない言語活動を中心にして、1人でできる学

習や知識定着のための演習・復習は家庭学習でする、と

いうすみ分けを意識しています」(初澤先生)

クラス全体で行うパフォーマンステストなどコミュニケーションの機会を工夫

 通常の授業以外にも、生徒が楽しみながら英語を使う

力を伸ばすことができる取り組みを行っている。

 1つはパフォーマンステストだ。1人ずつ生徒を呼び

出してプレゼンテーションやインタビューを行うなどの

形式で行う高校も多いが、石巻高校ではクラス全員が参

加して行う形式をとっている。例えばプレゼンテーショ

ンが課題の場合は、生徒はプレゼンテーションの原稿と

一緒に、内容に関する四択問題を2題作る。全員の前で

プレゼンテーションを行い、発表者以外の生徒は四択問

題の解答を考えながら聞く。問題の正答率や、プレゼン

テーションへの質問・コメントをすることでプレゼン

テーションの得点に加点される仕組みだ。話すことが常

に楽しいと感じられるように、テストでも、聞き手との

コミュニケーションが生まれる環境を作っている。

 また、SNSを利用してアメリカのバージニア州の高

校生と週に1回交流するプロジェクトも行っている。

テーマを決めて、日米合同の7~8人のグループで、S

NS上でディスカッションを行い、成果をポスターにま

とめるなどして、生徒の言語活動の幅を広げている。

 最後に、こうした言語活動中心の授業を行うためのヒ

ントと今後取り組みたいことについて伺った。「授業改善

をして、英語嫌いの生徒が減ったこと、即興的に話すこ

とに慣れてきたこと、初見の文章を読むことにひるまな

くなったことなど、生徒の変化に手応えを感じています。

既に大学入試問題を解くにも良い効果が出てきています

が、これから外部検定試験の活用など、4技能をバラン

スよく測る入試が増えていけば、さらによい結果につな

がると期待しています。しかし、きれいな発音で話せる

よう音声指導を行うなど、取り組むべき課題はまだ残っ

ていますから、順に対応したいと考えています」(武田先

生)。「教員がすべてを教えようと思わずに、生徒ととも

に授業を作る意識が大切です。もちろん授業の準備や教

員としての勉強は大変ですが、生徒に変わってほしいと

思うなら、まず教員が変わらないといけないと思ってい

ます。一度生徒が楽しそうに話す姿を見ると、きっとこ

れからも続けたいと思うはずです」(初澤先生)

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 39

PA RT 3 高校の取り組み

北海道滝川西高等学校

最終目標から逆算したCAN-DOリストとシラバスで各単元でつけたい力を明確化

 滝川西高校は、普通科、会計ビジネス科、情報ビジネ

ス科からなる、多様な進路の生徒が在籍する高校である。

英語教育改善は、2007年度に文部科学省からスーパー・

イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)

の指定を受けたことを契機に始まり、それ以降、普通科

の英語の授業はすべて英語で行い、内容も訳読から言語

活動中心に変えた。そして指定終了後の2010 ~ 12年度

にかけて、会計ビジネス科・情報ビジネス科(以下ビジ

ネス科)の授業も同様に変更した。その後も文部科学省

の事業の指定を受けるなどしながら、言語活動を中心に

した授業についての研究を進めている。

 現行課程になり、訳読中心から言語活動重視の授業に

切り替える高校は増えているが、滝川西高校は単に言語

活動を行うだけではなく、どのような力を身につけるた

めの活動かを教員・生徒が意識して取り組むことや、言

語活動の評価方法についての研究にも力を入れている点

に特徴がある。

 指導の根幹になっているのがCAN-DOリストだ。学

科ごとに卒業時の目標を定め、そこから逆算して、各学

年の前期・後期、あるいは選択科目修了時の到達目標(総

合的な目標と4技能別の目標)を設定したもので、2007

年度から作成している<表>。生徒全員に到達させたい

目標を明示・共有して、英語科教員全員が連携して同じ

方向に向かって指導ができるようにしている。

 「しかしCAN-DOリストだけではまだ抽象的で、目標

達成のために、日々の授業でどのような指導をするのか

イメージが共有できません。そこでCAN-DOリストの時

期別の目標を達成するには、どの単元でどのような力を

つけさせる必要があるのかを話し合いました。そして、す

べての単元で4技能をバランスよく伸ばすのではなく、

単元の内容に応じて、この単元では書く力、この単元で

は話す力を、というようにポイントを絞った目標を設定

しました。このように目標をシンプルにしたことで、教

員は何を教えるとよいか具体的に理解できるようになり

ました。さらに単元の評価は、単元の目標が達成できた

かを測ることができるよう、多様な方法で行うようにし

ました。例えば話す力を育てることを重視した単元では、

プレゼンテーションやインタビューなどのパフォーマン

ステスト(p30参照)を行います」(木村滋雄先生)

 こうして単元ごとに定めた到達目標や評価規準はシラ

バスに記載して、教員が単元や授業の指導計画に生かせ

るようにしている。また生徒に対しては、年度始めのオ

リエンテーション、単元を始める時、パフォーマンステ

ストの前などに、どの力を伸ばす・測るための取り組み

かを説明して、目標を持って意欲的に学習に取り組むこ

とができるようにしている。

  独自の活動で生徒の英語力を高め、評価も工夫

 目標・指導・評価がつながった具体的な単元・取り組

みの例を、実施時の工夫を交えて3つ紹介する。

 1つ目は、1~2年生の「コミュニケーション英語」

の授業で行う「イングリッシュサロン」だ。4人程度の

グループを作り、1人が解答者となり、ほかの3人が解

答者に向けて次々質問をする。解答者は、Yes / Noだ

けでなく理由などを付け加えて答える。質問はワーク

シートで25問配布しており、例えば「コミュニケーショ

ン英語Ⅰ」では「雨の日は好きですか」「どんな種類の映

CAN-DOリストとシラバスを活用して学習目標と指導、評価の一体化を実現

 北海道滝川西高等学校では、全国の高校に先駆けて、言語活動を中心とした授業づくりに取り組んできた。近年は言語活動の工夫にとどまらず、CAN-DOリストの作成と運用やパフォーマンステストの実施など、到達目標を意識した指導と評価を実践して、生徒の英語の4技能を高めている。これらの取り組みについて、英語科の先生方に話を伺った。

Kawaijuku Guideline 2016.4・540

画を見るのが好きですか」などがある。教員によって毎

時間10分ずつ行ったり、数時間分をまとめて実施するな

ど形式は異なるが、学年や時期によって質問の語彙や扱

う文法を変えることで、それぞれの時期に到達すべきス

ピーキングの力をつけることを目標としている。

 こうしてスピーキングの力を伸ばすトレーニングをし

た後は、インタビューテストで成果を確認する。テスト

では、「イングリッシュサロン」で使用した質問リストか

らALTがランダムに質問する。インタビューテストの評

価はCAN-DOリストに合わせて作ったルーブリック(p

26参照)を用いて行う。ルーブリックの作成は、評価者

によって評価規準の解釈にばらつきが出るなど、つまず

く学校も多い。しかし滝川西高校では「例えば『コミュ

ニケーション英語Ⅰ』終了時には、スピーキングは全員

『2文以上で答えることができた』ができることが目標で

すから、それを意識し

てルーブリックを作り

ます」(佐々木康希先

生)。「学年や単元の到

達目標を意識しながら、

日頃の授業で生徒の様

子を見ていれば、目標

に到達している生徒が

どれくらいいるかや、

目標に届かない生徒に

どんなフォローが必要

かはおのずとわかりま

す」(畑野好美先生)と

CAN-DOリ ス ト を基

盤に、教員が学年や単

元ごとの目標と指導と

評価のつながりを意識

することで円 滑 にパ

フォーマンス評価を

行っている。

 2つ目は「英語表現

Ⅰ」で行う「マイクロ

ディベート」だ。マイ

クロディベートができ

るようになることは普

通科の卒業時の到達目

標だ。CAN-DOリスト

の4技能別の目標にも

あるように、ディベー

トを通して、英語で賛成・反対とその理由を話す、発表

原稿として自分の意見と根拠を英語で書くことなどがで

きるようになることをめざす。マイクロディベートは1

回15分程度で行うディベートで、手法は学年や担当教員

によって多少異なるが、例えば4人1組のグループで、

その日のテーマについて肯定、否定、司会、ジャッジの

役割を決めて行う。

 評価は、毎時間2つのグループのディベートを撮影し、

授業後に教員が見て、英語で根拠を挙げながら主張が言

えているか、相手の意見に合った反論ができているかな

どを見て得点をつける。こうした場合のパフォーマンス

評価は、肯定と否定のどちらの立場かや、テーマなどに

よって、多少出来が変わるため、「1回きりではなくて1

人につき2回以上は撮影し、複数のテーマを扱うことで、

できるだけ生徒の実力が反映できるようにしています」

<表>滝川西高校 普通科CAN-DOリスト(2015年度版)

Step 2 【英検3級程度】 コミュニケーション英語Ⅰ終了時までに到達目標 ・あらかじめ準備してスピーチができ、スピーチの内容についての質問に答えることができる。

SPEAKING・身近なことに関しての簡単な質問に2文以上で答えることができる。・キーワードや絵を頼りにすれば、教科書の内容を話すことができる。・あらかじめ準備をして、絵や写真などを用いた簡単なスピーチ(SHOW &TELL)をすることができる。

LISTENING ・簡単な英語(実用英検3級リスニング第3部程度)であれば、比較的長い会話やモノローグを聞き、概要を理解できる。

READING ・簡単な英文(実用英検3級の説明文程度)であれば、初見で読み、概要を理解できる。・教科書レベルの英文(コミュニケーション英語Ⅰ)であれば正確かつ流暢に音読できる。

WRITING・3人以上のグループであれば、教科書レベルの英文を聞いて、その内容を再生できる。(ワークシートで評価)・簡単なスピーチ(SHOW &TELL)の原稿を70語程度で書くことができる。・身近なことや教科書の内容について意見、感想などを70語程度の簡単な英語で書くことができる。

Step 3 【英検3級~準2級程度】 コミュニケーション英語Ⅱ終了時までに到達目標 ・既習のレッスンであれば、教科書の内容を英語で説明することができる。

SPEAKING・既習のレッスンであれば、教科書の内容を英語で説明することができる。・身近なトピックであれば、自分の考え(賛成・反対・感想等)とその理由を話すことができる。・あらかじめ準備して、自分の関心のある話題とその理由についてスピーチすることができる。

LISTENING ・実用英検準2級リスニング第1部、第2部、教科書程度の短い会話やモノローグを聞き、概要を理解できる。・実用英検準2級、教科書程度であれば、比較的長い会話やモノローグを聞き、概要を理解できる。

READING ・実用英検準2級程度の短い手紙・Eメール・会話文等を初見で読み、概要を理解できる。・実用英検準2級程度の比較的長い説明文等を初見で読み、概要を理解できる。

WRITING・ペアで協力すれば、教科書レベルの英文を聞いて、その内容を再生できる。(ワークシートで評価)・70語程度でスピーチの原稿とその理由を書くことができる。・身近なことや教科書の内容について、70語程度で意見、感想などとその理由を書くことができる。

Step 4-1 【英検準2級~2級程度】 コミュニケーション英語Ⅲ終了時までに到達目標 ・与えられたトピックについて、自分の考えや感想を英語で話すことができる。

SPEAKING ・与えられたトピックについて、自分の考えや感想を話すことができる。

LISTENING ・実用英語検定2級第1部、第2部、教科書程度であれば、短い会話・モノローグを聞き概要を理解できる。・実用英検2級、教科書程度であれば、比較的長い会話やモノローグを聞き、概要を理解できる。

READING ・実用英検2級程度の短い手紙・Eメール・会話文等を初見で読み概要を理解できる。・実用英検2級程度の比較的長い説明文等を初見で読み、概要を理解できる。

WRITING ・与えられたトピックについて、自分の意見や感想を100語程度で書くことができる。

Step 4-2 【英検準2級~2級程度】 英語表現Ⅰ終了時までに到達目標 ・与えられたトピックについて、ディスカッションやマイクロディベートをすることができる。

SPEAKING ・与えられたトピックについて、賛成・反対とその理由を話すことができる。・与えられたトピックについて、JTEやALTの立論に対し、理由をつけて反駁することができる。

WRITING ・与えられたトピックについて、自分の考え(賛成・反対)とその理由を100語程度で書くことができる。・与えられたトピックについて、JTEやALTの立論に対し、反論とその理由を100語程度の分量で書くことができる。

(*)各目標についての自己評価(1〜4)欄、STEP1(「コミュニケーション英語基礎」終了時)、STEP3-2(2年生後期「英語会話」終了時)部分を省略して掲載。CAN-DOリストは滝川西高校ホームページに掲載している。

(滝川西高校提供資料より抜粋)

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 41

北海道滝川西高等学校

◇所在地:北海道滝川市西町6-3-1

◇沿革:1959年 学校法人今野学園滝川商業高等学校開校1973年 滝川市に移管し、北海道滝川西高等学校開校(商

業科6クラス)1977年 普通科が開設され、普通科2クラス、商業科4

クラスとなる    1990年 商業科が会計ビジネス科、情報ビジネス科に改編

◇学級編成:【全日制】各学年普通科3クラス、会計ビジネス科2クラス、情報ビジネス科2クラス

◇生徒数:836名(男子401名、女子435名)2015年5月現在

◇特色:経営理念に「一人一人の生徒を大切に教え導き、その育成を通じて地域に貢献する」、めざす生徒像に「礼儀と規律を重んじ、文武両道に励み、志の達成に努める生徒」を掲げる。部活動の加入率は90%を超え、多くの部が全道大会や全国大会に進出している。

◇卒業生の進路:2015年3月卒業生262名・ 進学先:4年制大学87名、短期大学36名、専修・各種学校76名、

就職57名、その他6名・合格者の内訳(現役生、延数):国公立大学19名、私立大学98名、

専修・各種学校79名

(注)Lexile指数…学習者のリーディング力と文章の難易度を同じ尺度で示したもの。学習者の指数と同程度の指数の文章を読ませると、テキストが易しすぎず難しすぎず、リーディングの練習をより効果的に行うことができる。

(安田真由美先生・堀秀和先生)と配慮している。

他教科とのコラボレーションで実践的な英語運用能力を向上

 3つ目はビジネス科の英語CMの制作など、教科横断

的なプロジェクト型学習を実践している点だ。ビジネス

科では、「あらかじめ準備をして英語でプレゼンテーショ

ンができる」ことを、卒業時のCAN-DO到達目標として

いる。英語で話す力、英語原稿を書く力などの育成を

狙った取り組みだ。これまでは英語科独自の取り組み

だったが、近年は他教科と連携して取り組んでいる。「普

通科よりも少ない英語の単位数の中で内容の濃いプレゼ

ンテーションをするには他教科で学んだ内容を英語でま

とめる活動が向いていること、ビジネスの課題を考える

上でグローバルな視点や英語でのコミュニケーションが

重要になっているため両者を関連づけた活動をさせたい

と考えたことなどが理由です」(石山智浩先生)

 情報ビジネス科では、卒業前に毎年、「課題研究」(商

業科の科目の1つ)で研究を行うが、今年度は滝川市に

アジアからの観光客を呼び込む方策について、ビジネス

プランを立案することをテーマにした。そこでまず「課

題研究」の時間に各グループでビジネスプラン作りと日

本語プレゼンテーションをした後、英語科の授業でそれ

らをPRする英語CMを作成し、発表会を行った。CMの

評価は、テーマに合った内容の英語CMを作っているか、

英語で効果的な表現をしているかなどの6項目で行った。

 このように滝川西高校では、各単元・取り組みの目標

を達成しているかを適宜パフォーマンステストで測って

いる。パフォーマンステストを実施しても、学期末の評

価には加えない学校も多いが、滝川西高校では4技能を

バランスよく評価するため、学期末の評価は単元ごとに

行ったパフォーマンステストや、学期末に行うテスト

(リーディング、リスニング、文法)をすべて含めた観点

別評価で行う。すべてのテストはあらかじめ、4技能の

内のどの力を測るためのものか、どの観点を評価するも

のか整理されており、数式を埋め込んだエクセルに各テ

ストの得点を入力すると自動的に観点別の得点が出る仕

組みを開発した。教員はクラスや学年の得点を見て、各

観点・技能での伸びを分析し、授業改善につなげている。

また、各考査前後には生徒にも、4技能別の得点をレー

ダーチャートで示して、今年度の学習の反省点や、次の

考査では何に力を入れて学ぶのかをワークシートにまと

めさせて、自律した英語学習者の育成をめざしている。

今後の目標は生徒に合った教材選びや「英語で学び合う」機会の充実

 このように単元や学年ごとに、目標・指導・評価のサ

イクルを回すことで授業改善を続けてきた結果、生徒の

英語力や英語への関心は高まっている。今後については、

「生徒にあった教材選び」と「より高次の言語活動の充

実」を課題に挙げる。「Lexile指数(注)を参考に、生徒の

レベルに合った適切な教材を用いて、記憶や応用のため

の練習に留まらず、本文の内容について英語で分析した

り、議論したりすることに重きをおいた授業展開とその

評価方法を研究します。現在、ビジネス科の『コミュニ

ケーション英語Ⅰ・Ⅱ』では、『マーケティング』で生徒

が学んだ分析方法等を使って、英語を的確に理解し、わ

かりやすく発信するための論理的思考力の育成を図って

います。また、普通科では、例えば『生物基礎』で学ん

だ環境や、見学旅行で体験した歴史などをテーマに英語

プレゼンテーション大会を1・2学年合同で実施するな

ど、学習内容の深化と英語による発信力の強化を狙った

取り組みを行っています。今後も他教科との連携を進め

ながら、『英語を学ぶ』から『英語で学び合う』授業への

転換を推進したいと考えています」(佐々木先生)

Kawaijuku Guideline 2016.4・542

PA RT 3 高校の取り組み

東京都立西高等学校

段階を追ってディベートの技法を指導「クラス対抗ディベート」を実施

 都立西高校では2004年度から、1年生の英語の授業

でディベートを行っている。その理由について平山先生

は「話す練習として、日常的な場面での英会話などを

扱ってもあまり意味がないと考えました。実際の場面で

は正しい表現を知らなくても、身振りや断片的な単語で

どうにか対応できてしまうからです。将来、世界で活躍

できるようになるためには、英語で自分の意見が言える

ことが必要です。そこで、授業では自分の意見を発表す

るトレーニングとなるディベートを取り入れることにし

ました。ディベートは、関連資料を読んで意見をまとめ

たり、相手の意見を聞いてメモをとり、意見をまとめて

話すなど4技能をバランスよく伸ばす取り組みである点

も魅力に感じました」と話す。

 では「英語表現Ⅰ」で行われているディベートの取り

組みを見ていこう。まず9月までにディベートの基礎に

なる力を身につける。具体的には、教科書に沿って基本

的な文法や表現を話したり書いたりしながら身につける。

また自分の興味のあることに関する2分間スピーチと質

疑応答をして、人前で話す時の目線や声の大きさ、話す

速さなどを意識させたり、相手の話を聞いて理解し、そ

の場ですぐ英語で質問をできるようにしたりもする。

 10月になるとディベートについて学び始める。まず

ディベートの形式やルールについて説明し、肯定・否定

のどちらの立場にも必要な「論理的な意見の述べ方」「反

駁の意見の述べ方」「まとめの述べ方」の定型的な表現に

ついて学ぶ。“We believe that ~ , because(reason).”

“They said ~ . However, it is not true.(rebuttal). ”

“They said ~ . However, it is not irrelevant.

(rebuttal). Therefore, we believe that ~ .”などだ。

 その後、示されたテーマについて、ワークシートを用

いて、意見の根拠、それについて相手チームからどんな

反駁を言われそうか、反駁に対してどう切り返すかなど

を考えさせる。向かい合っているグループを相手に実際

にミニディベートをさせ、さらに、それをもとに、どん

な根拠だと反駁されにくいか、などを考えさせる。この

ように主張や反駁を体験、分析させることで、英語の定

型的な表現を表面的に使いこなすだけではなく、相手の

意見をその場で論理的に分析して、適切な応対ができる

ことをめざしている。「長年西高で勤務しているALTと

一緒の授業でディベートに取り組んでいます。ALTの説

明を聞くことで、英語での議論が身近になっていると思

います」(平山先生)

 12月には「クラス対抗ディベート」の準備を始める。

まず外部講師を招いて講演会を行い、ルールや気をつけ

ること、取り組む意義などについて、さらに理解を深め

る。その後、6回の授業を使って、クラス内予選を行う。

 1回目の授業では、試合の進め方<図>やテーマの確

認、チーム決めを行う。2015年度のテーマは「①すべて

の父親は子どもが1歳になる前に3カ月の育児休暇を取

らなければならない」「②救急車の利用は有料化すべきで

ある」の2つだ。4~5人のチームを8つ作り、①の肯

定派、①の否定派、②の肯定派、②の否定派を2チーム

ずつ指定する。

 2回目の授業では、チームごとに、担当の立場から、立

論(自分たちの立場からの主張)の内容を準備する。こ

の原稿は冬休み中に仕上げ、冬休み明けに教員が確認し

て適宜アドバイスをする。3回目には、立論の内容を

チームで確認した上で、相手チームの主張を予測しての

反駁と、最後にまとめとして言う意見を準備する。また

10年以上前から英語の授業でディベートを実施段階を踏んで、話す力と意欲を育成

 東京都立西高等学校では10年以上前から1年生の英語の授業でディベートを行っており、まず定型的な表現を教えるなど段階的な指導のノウハウが蓄積されている。2014年度からは、より実際のコミュニケーションに近い「即興的に話す」力をつけるため、即興型ディベート特別授業、交流大会も始めた。これらの取り組みについて、英語科の平山たみ子先生に話を伺った。

平山たみ子先生

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 43

ジャッジはディベートをしていないチームのメンバー全

員で行うため、ジャッジの方法についても説明する。主

観ではなく、双方のやり取りを見て、より説得力のある

意見を言うことができたチームを選ぶ。

 4~6回目の授業で、クラス内予選を行う。全チーム

が2回ずつ同じ立場からディベートを行い(例えばテー

マ①の肯定派チームは、テーマ①の否定派チーム2つと

試合をする)、同じテーマの4チームから、2試合の合計

得票数が最も高いチャンピオンチームを1つ決める。

 さらに各クラスのチャンピオンチーム16チームは、学

年末に行われるクラス対抗ディベートに臨む。テーマは

予選と同じだが、できるだけ予選とは違う立場になるよ

うに肯定・否定の担当を割り振り、これまでの学習を生

かしつつ、新しい課題に取り組むことができるようにし

ている。そして同じテーマの8チームずつでトーナメン

トを行い、優勝チームを決める。なお、毎年決勝戦には

立教大学の松本茂先生を招いてコメントをもらっている。

 「1年生にとって英語でのディベートは難しい活動で

す。予選はテーマや立場を固定して複数の試合をさせま

す。事前に十分な準備をして、自信を持って英語を話し

たり、意外な反論にも英語で対応できる経験をさせるた

めです。もっと多くのテーマを扱ったこともありますが、

試合ごとにテーマが変わると議論が深まりませんし、

ジャッジもしにくいので現在は2テーマで行っています」

(平山先生)

 生徒からは、「生徒がジャッジなので誰にでもわかるよ

うに、簡単な単語を使い、きちんと

発音することが大事だと思った」「反

駁を思いついても、その場で英語に

して話すことができず悔しかった」

などの感想が出たという。

 また、ディベートを行うことによ

る生徒の変化について平山先生は

「ディベートでは、長文の読解時に

はわかる単語でも、話す活動で使っ

たことがなければ、とっさに出てこ

ないということを実感しますから、

積極的に話す活動をするようになっ

ていきます。また1年生でディベー

ト大会をすることで意見の述べ方、

議論の進め方になじんできます。そ

のため2、3年生では、教科書を読

む中で意見が割れそうなテーマが出てきた時に、『じゃあ

これについてディベートをしよう』と言って、その場で

グループを作って肯定派・否定派に分かれ、短時間の

ディベートを行うことができます。1年生の授業で要領

がわかっていますし、そこまでの授業でテーマについて

の理解も深まっていますから、生徒は抵抗感なく取り組

むことができるようです。以前に比べ最近の生徒たちは

話す意欲があると感じますから、そのための機会をでき

るだけ提供したいと思っています」と話す。

生徒が参加しやすく、発信する力も育つディベート

 話す力を育てる活動にはディスカッションなどもある

が、あえてディベートに力を入れている理由について、平

山先生は「理由は2つあります。1つは生徒が取り組み

やすいからです。ディスカッションは自分の意見を言わ

なくてはいけないのに対し、ディベートは立場が決まっ

ています。生徒は自分の本来の立場を前面に出す必要が

ないため、周りの生徒にどう思われるだろうか、といっ

たプレッシャーを感じずにすみ、話すことへの抵抗感を

減らせます。実際に話さなければスピーキングの力は伸

びませんから、心理的なハードルを下げることは重要な

のです。またチームで助け合ってゲーム感覚で英語での

コミュニケーションを体験できる点も良いと思います。

 2つ目は英語で意見を発信する力を伸ばせるからです。

ディベートは役割や話す順番が決まっていて準備がしや

すいので、英語で話すことに慣れていない生徒でも、事

<図>都立西高校で行うディベートの形式

(*)表は、肯定チームはA 〜 E、否定チームはU 〜 Yの5名で実施する場合。「クラス対抗ディベート」は各チームプラス1名できる。スピーチ時間は30秒長くなる。

(都立西高校提供資料より抜粋)

スピーチ 時間 肯定側 否定側

1 Affirmative Constructive Speech    (肯定側立論) 2分 A

2 Time Out(立論への質問を考える)  (タイムアウト) 1分

3 Questions and Answers     (否定側からの質問) 1分 any member any member

4 Negative Constructive Speech     (否定側立論) 2分 U

5 Time Out(立論への質問を考える)  (タイムアウト) 1分

6 Questions and Answers     (肯定側からの質問) 1分 any member any member

7 Time Out(反駁の準備)       (タイムアウト) 1分

8 Negative Rebuttal Speech       (否定側反駁) 2分 V & W

9 Affirmative Rebuttal Speech      (肯定側反駁) 2分 B & C

10 Time Out(まとめの準備)      (タイムアウト) 1分

11 Negative Summary Speech     (否定側まとめ) 2分 X & Y

12 Affirmative Summary Speech     (肯定側まとめ) 2分 D & E

合計 18 分

Kawaijuku Guideline 2016.4・544

前に英語の表現や文法を調べたり、原稿を書いたりすれ

ば、自分なりに意見を発信することができます。英語を

話す練習の最初の一歩として取り組みやすいのです。ま

たディベートではジャッジを説得するために論理的に意

見を組み立てますから、大学入試で必要な英作文の力が

伸びることなども期待できます」と話す。

 一方で、ディベートは難しいと感じている先生も多い。

導入のためのヒントを伺った。

 「いきなりディベートをしても生徒はついて来られませ

んから、定型的な表現をまず教えるのは有効だと思いま

す。他の導入方法としては、テーマについて話すための

材料を与えるのもよいと思います。例えばテレビのよい

所を1人1つずつ英語で言ってもらって板書します。次

によくない所を聞いていきます。最初は日本語でしか言

えない生徒もいますから、そこは教員が英語に言い換え

て板書します。そうすると意見の根拠にできる材料が、

英語で黒板にたくさん書かれた状態になります。このよ

うに発言に使える材料を示した上で、意見を言わせたり

するのもよいのではないでしょうか」(平山先生)

即興型ディベート交流大会や海外研修など即興的に英語を使う機会を提供

 クラス対抗ディベートは事前に準備をして臨む形式の

ディベートだが、実際に英語でコミュニケーションをす

る場面では、その時の話題や意見に対応して話す「即興

性」も必要だ。そこで都立西高校では、希望者向けの課

外活動として、より高度な、即興的に英語を話す力を鍛

える機会も用意している。

 その1つが2014年度から、1~2年生の希望者が参

加している「首都圏公立高等学校即興型英語ディベート

特別授業・交流大会」だ。文部科学省助成事業「高等学

校における即興型英語ディベートプロジェクト」の一環

として行われている。特別授業では即興型英語ディベー

ト(parliamentary debate)に詳しい大阪府立大学の中

川智皓助教が指導し、特別授業を受けた生徒が交流大会

に参加する。大会ではディベートの経験が豊富な大学生

らがジャッジを行う。2015年度は都立西高校、神奈川県

立湘南高校、東京都立日比谷高校、埼玉県立浦和第一女

子高校、埼玉県立浦和高校から89名が参加した。

 即興型ディベートでは、「制服は廃止されるべきであ

る」「公共の場でのドローンの使用を禁止すべきである」

などのテーマが試合の15分前に与えられる。事前に準備

できないため、自分の持っている知識と即興的に英語を

話す力だけで、いかに論理的に力強く相手に訴えること

ができるかが試される。

 各高校の参加チームは、厳しい時間的制約の中でそれ

ぞれの主張をまとめて話す経験をした。「皆、頭をフル回

転させて、顔も真っ赤で必死」(平山先生)で、会場内は

大変な熱気に包まれた。参加した生徒にとっても充実感

があったようで、「英語の語彙を増やすことが大切だと

思った」「即興なのに発言の内容が高度で大きな刺激に

なった」「卒業後はこのような人たちと渡り合っていかな

ければならないのだと思い、危機感を持った」などの感

想が見られた。

 また「海外リーダーシッププログラム」も即興的に話

す力の育成に役立っている。学校独自の海外研修で学年

末の3月に実施しており、2014年度は1~2年生の希望

者50人が参加した。ハーバード大学やマサチューセッ

ツ工科大学で講義を受けたり、研究所の訪問や両大学の

学生との交流、アメリカで活躍する西高卒業生との交流

も行われる。生徒は事前の準備なく話すことの難しさや

楽しさを体感するとともに、将来海外で学ぶことや働く

ことにリアリティを持つことで、英語への学習意欲も高

まっているという。

 「実際のコミュニケーションでは、ただ読む、書くと

いった単独の活動でなく、ディベートで行うような4技

能を統合的・即興的に使える力が必要です。授業やその

他の取り組みを通して、そうした力を育てたいと思って

います」(平山先生)

東京都立西高等学校

◇所在地:東京都杉並区宮前4-21-32

◇沿革:1937年 府立第十中学校創立    1950年 東京都立西高等学校に改名

◇学級編成:【全日制】普通科1学年8クラス

◇生徒数:968名(男子507名、女子461名)2016年1月現在

◇特色:「自主自律」「文武二道」のもと、ほとんどの生徒が4年制の難関大学を志望する進学校。私服でのびのびとした自由な校風のもと、「授業で勝負」を合言葉に、生徒と教員で質の高い授業を創造している。関東大会や全国大会に出場するなど40以上の部活動・同好会活動も盛ん。

◇卒業生の進路:2015年3月卒業生329名・進学先:4年制大学159名・合格者の内訳(現役生、延数):国公立大学99名、私立大学332名

変わる高校教育 第9回 英語教育

Kawaijuku Guideline 2016.4・5 45