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CAA(Computer Alded Architecture)を 目指 して コンピュ タは建築を変えるか 平成 6年 度池原研究室修士論文 63E-009 伊藤 宏樹

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1994年度,修士論文,伊藤宏樹

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Page 1: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

CAA(Computer Alded Architecture)を 目指 して

コンピュータは建築を変えるか

平成 6年度池原研究室修士論文

63E-009

伊藤 宏樹

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0。 まえがき

CADを 用いて設計をするようになってから5年を経過し、その間に「CADに よる設

計と模型による設計の違いはなんなのか」あるいは、「CADは 建築を変えるか」という

質問をたびたび投げ掛けられた。そしてそれは同時に自分自身の中で繰 り返された問いで

もあつた。

コンピュータが広く社会に浸透し、建築の世界にもCAD(Computer Aided Design)を

はじめとして、コンピュータによって支援された施工CAC(Computer Aided Constructi

on)あ るいは資産の有効的な運用をコンピュータが支援するCAFM(Computer Aided Fac

i n ty Management)な どが導入され、その利用は多岐にわたっている。

そうした状況下で、CADに 関しても様々な本が出版され、雑誌などでもたびたび特集

が組まれている。そうした書の多くは次の3つ のカテゴリーに分類することが可能であろ

う。ひとつは、CADソ フトのマニュアル的なもので、実際の使用に関する教科書的なも

の。ひとつは、現在のCADシ ステムで何が可能かを紹介し、実際に事務所、学校あるい

は個人でどのようにCADシ ステムを導入し、運用していくかを解説したもの。もうひと

つは、建築家が実際の設計の中でどのようにCADを 使用したかというデザインプロセス

を追つたものである。 しかしそうした本全般に言えることは、現状のCAD利 用を述べた

り、あるいは未来の構想をそれぞれの立場でうたつてはいるものの、CADの 利用によっ

て生まれた建築がどのような意味を持っていたかを検証したり、新 しい建築が生まれたか

を考えることが少なかったのではないだろうか。

CADに よる設計手法は単なる合理化やプレゼンテーションだけに用いられる過程を経

て、新しいデザインツールとして、重力のない 3次元上に浮かぶ多様な形態を自由に組み

合わせなが ら、従来の図面や模型などとは異なった空間の把握や検討を行うことが可能に

なった。 しかしCADに よる設計手法は、自由な形態と実際の設計のギャップをどう埋め

ていくという問題。あるいは模型による設計の時実際の建築に与えていたスケール感を、

スケールを持たないCADの 原寸の世界ではどこで与えていくかというようないくつかの

問題に答えきれているのだろうか。そしてCADに よる設計は建築に新しい発想を与え、

本質的に変えたのであろうか。

従来のコンピュータによる設計で得られるものは、すなわち我々がコンピュータに対し

て要求したものに過ぎなかった。コンピュータによつて新しい建築の発想が生まれていく

ためには、既存のシステムを単に使用するだけの世界からはうまれてはこないだろう。そ

のためには建築以外の現場でその利用の現状を知る必要があるかもしれない。また、コン

ピュータがなければ実際の建築に対応できない理論を読み込まなければならないかもしれ

ない。そ してそれらは現実の設計と乖離することなく常に現実の建築との対応を考えなけ

ればならないだろう。

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この論文では、まず現在の建築の世界のおけるコンピュータそしてCADの使用を建築

のデザインの立場からあらためて検証しながらこの論文のタイ トルである、CAA(Compu

ter Aided Architecture)を定義する。そのCAAは現代の建築に新しい発想を与えるも

の、あるいは単にデザインの手段として設計に用いるのではなく建築のあらゆる場面を統

合する広域的な考え方のなかでCADを捉えて利用していくものがものが中心となる。そ

の上で素材、光、工法、空間、コミュニケーションなどをテーマに各論をすすめながらC

ADの持っている様々な可能性を引き出し、真の意味でのComputer alded Designへ の手

法の確立とCAAへの道を模索するものである。そのことが技術も社会も高度に進化した

中で自信を失いかけている建築家を助けるものになり、また「CADは建築を変えるか」

という問い掛けの答えの端緒になるであろう。

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目次

0。 まえがき

1,CAAの 定義

1-1 道具による設計手法の違い

1-2 CADか ら生まれた建築の考察

1-3 CAAの 定義

2。 現代におけるCAAへ の取り組み

2-1 形態認識を助ける

2-2 情報のデジタル化の現状と将来

2-3 コンピュータによる次世代の設計環境

2-4 建築空間の再構成、光の空間、時間の建築

3,CAAl ― コンピュータの与える新しい視点 ―- 51

3-1 20世紀博物館

3-Ⅱ 現代のさや堂一B一

3-Ⅲ Place Blend Surface Between Two Surfaces

4,CAA2 -建 築生産システムの中で 一- 79

4-I ガラスの待庵

4-l The Silent Volume/Void ln The City

23

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5。 CAA3 -素 材に関して - 104

5…1 素材の歴史と機能、形態との関係

5-2 素材に関するコンピュータの可能性について

5-3 素材をテーマとして

5-I 現代のさや堂―A― 素和非日灘

5-1 バルセロナ 0パビリオン素材変換試行 鰤 艤

6.総論 ― コンピュータは建築を変えるか ― 122

01.付

付1. CAD/CGシ ステム

付2. 参考文献

付3。 論文中の作品について

02。 ま〕'bり

125

132

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1.CAAの 定義

「道具は、常に人間社会に大きな変化のきっかけを与えるものであった。人間は道具を

作るが、その道具がまた人間を作るのである。例えば、槍は狩猟民の手の届く距離を延ば

しただけではない。槍は狩猟民の歩き方や、手の使い方もかえた。槍を持つことによって

視覚と動作の共同が上達した。槍は狩 りに長じたものと未熟なものとの差を押し広げ、ま

た、狩猟の工程が複雑になるにつれて、情報の蓄積は重要になった。一道具の登場で新た

に生じたこれらの必要は、翻つて、人間の頭脳の発展をしたのである。複雑な思考に耐え

られるようになった頭脳がまた新しい道具を生み、その道具がさらに、種の保存に有利な

一層高等な頭脳を育てた。」

(テ クノス トレス/グ レイグ・プロー ド著、池・高見訳)

コンピュータの使用が、人間の活動形態のみならず、活動の生産物をも変化させる例を

我々は知つている。エレク トロニクスとコンピュータを使用して楽譜と音色を編集して曲

を作る方法は、たくさんのミュージシャンを一堂にスタジオに集めてレコーディングを進

めるという活動形態を刷新したのみならず、出来上がった音楽自体に従来とは違つた質感

を持たせるに至った。建築よりも先にコンピュータを取り入れた芸術の分野の先輩は、コ

ンピュータを取り入れた設計を始めた我々の行き先の断片を見せてくれている。

プロー ドの主張は、コンピュータに促された生産活動の形体的な変化をふまえて、その

質的な変化に対する人間の不適応が始まり、社会的病相が作りだされつつあるという危惧

を展開している。我々の建築のデザインにおいてコンピュータを利用する実験が始まった

のはつい最近のことであり、その善悪を判断するには早すぎる。しかし、証券取引、金融

といったビジネスの諸分野や、執筆、作曲といつた芸術の各分野で起こり、またすでに起

こりつつある道具の改革に触発された変革と同じような現象が建築の分野にも浸透してく

ることは間違いない。

歴史を振 り返ってみると、建築のデザインは、時として天才的な建築家の出現という内

なる事件によって切り開かれた一方で、構造や、材料の進化といつた外的な要因により大

きな形態的変貌を遂げた時期が何回となくある。

かつてのゴシック建築は、構造の革新に触発されて生まれた。より高く、ひろいネイプ

の大空間を実現するために開発された、フライング・バットレス、星状ヴォール ト、控え

壁などの構造的な装置が、ゴシック建築特有の垂直性、平面的なリズム、装飾性といった

デザイン上の特色を導きだしていた。

一方コンクリー ト、鉄、ガラスという、近代に生まれた新しい建築のマテリアルは、 1

9世紀における、温室、博覧会会場、橋などの土木構造物の実験を経て、20世紀はじめ

に、特有の形態を手にした。ミースは鉄骨のフレームで 「ユニバーサル・スペース」や、

ガラスのスカイスクレイパー、コルビジェは、コンクリー トの可塑性を活かして 「自由な

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平面」 「自由な立面」を生み出した。彼らは、天才的な建築家であつたと評価できる一方

で、近代のマテリアルを建築のデザインに展開した最初期の建築家のなかのひとりとして

数えられる。これらの構造や材料がもたらした、新しい建築デザインは、その誕生ととも

にすぐに生まれたわけではない。外的な要因がおきてから、その要因自体の成長とともに

それに応える建築形態の模索に多くの努力と時間が費やされた。そこでは建築家とエンジ

エアリングの試行錯誤の課程が繰 り返されていたのである。

構造や、材料が建築を変革してきたようにコンピュータという道具は建築を変えるだろ

うか。構造や材料は建築の形態に直接作用しうるものであつたのに対して、コンピュータ

がもたらす変化の構図は違つた形を取るだろう。道具が直接関与するのは「設計」という

建築を作るプロセスであり、出来上がってくる「建築」自体ではない。したがって、その

変化は、道具が設計の手法を変え、その新しい手法が、新しい形態的特徴を建築に与える

という間接的なものである。

それゆえ、コンピュータによってなんらかの設計手法の変化がおきても、最終的に作 ら

れる建築の形態は建築家のアイデイアや構造、材料、経済などといつた直接的要因によっ

て規定されるものであり、設計用具の変革などで変わるという議論も当然なりたつ。しか

し実際に道具の変化は建築に影響を与えてきた、製図道具の平行定規から、 ドラフターヘ

の変化は、水平、垂直に広がる図面と建築に対して、細かく短い線分が錯綜する図面と建

築を生んできた。また、スタイロフォームのような新しい設計道具としての模型材料は、

マッシブな建築形態を生むといつた影響を与えている。

CADの アイデア自体はすでに新しいものではない、フォーチュン誌がデザイン・マシ

ンの登場を予測したのが 1956年 、プラウダが 「コンピュータにデザインは可能か」と

いう特集を組んだのが 1963年 、以来ハイテク産業の成長にともなって発達したこの分

野は、今から10年前の、 1984年 の調査の時点で、既にアメリカだけでも60以上の

使用可能なCADシ ステムが販売されていた。その後、低価格化と平行して性能も強化さ

れその数は増加し、現在ではパーソナルコンピュータ上で扱えるシステムを、小規模の事

務所や個人も利用するようになっている。

こうした現状の中で、コンピュータの利用に関しても、初期の頃の清書や、プレゼンテ

ーションように利用する段階から、日頃我々が鉛筆をもってスケッチをしなが らデザイン

を進めるように、形態の創出行為をスクリーンやマウスで行なうようになる段階になり、

その中で、CADに よるデザインから生み出された建築も生まれはじめている。この段階

にきて、コンピュータが設計デザインにどのような影響を与えてきたかを問われるように

なってきている。

Computer Aided Designの略であるCADと いう用語は、建築にかかわるすべてのコン

ピュータ利用をまとめた言葉であり、そこにはコンピュータを使つた総ての設計行為が含

まれる (利用方法をマスターできずにただ時間を浪費してしまったという極端な例、身に

覚えのある人も非常に多いとは思うが)。 そこには図面の清書や、プレゼンテーシヨン用

のパースの出力、同じ図面を大量に生産することによる時間の短縮といつた、デザインに

大きな影響を及ぼすとは思えないものも含まれている。

ここで、コンピュータは建築家を変えるかという問いに応えるために、コンピュータを

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用いて建築の新しい発想を模索するような動きをCAA(Computer Aided Architecture)

と定義し、あらためてコンピュータを設計の道具として利用した可能性を検証していきた

い。

この章では、模型とコンピュータとの設計プロセスの違いを簡単に検証し、次にアメリ

カの建築家である、P。 アイゼンマンのCADに よる設計によって生まれた建物を考察し

ている。この検証により、CAAの 定義をより明確にし、2章以降でのCAAの 定義に基

づいたコンピュータによる設計デザインを展開していく拠り所としている。

3

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1-1.道 具による設計手法の違い

コンピュータによる設計は、従来の設計方法にはない可能性を我々に見せている。この

小節では、まず模型との設計方法の違いを検証することで、具体的にどのような発想が現

状のCADシ ステムを使用した設計から生まれてきているかをまとめてみたい。次にこう

した可能性の一方で、逆にコンピュータによる設計の中で制約されてしまったことや、実

際の建築を作る上でしなければならない検討の欠落について考えていきたい。その上で、

最後にこれからのCADシ ステムがどうあるべきかについて考察したい。

模型による建築と、コンピュータによる建築の最も基本的な違いは、形態の定義に対す

る拘束の有無に起因している。

実際の建築は、柱、梁、壁といつた部材それぞれに構造と素材を持っている。同様に模

型においては、面や、立体を定義する時、すなわち製作する時、実際の建築とは異なる材

料を用いる。それは例えば線材を作るなら材料として、真鍮やプラスチックの棒、面なら

ボール紙やスチレンボー ド、立体を定義するならスタイロフオームや粘土などである。模

型による建築設計では、この実際の建築の素材とは異なる性質を持つ材料そしてその製作

工程に発想方法が拘束される。また逆にこうした拘束条件が発想方法になり、実際の建築

も変わるのだ。具体的な例として、バルサ材やボール紙等の、模型の面材料による、模型

と発想とが、スタイロフオーム等の立体材料によるそれの違いが実際の建築自体も変える

ことにもあらわれている。

これに対して、コンピューター上では、こうした材料に拘束される事無く、形態を定義

することが可能である。コンピュータの線表示であるワイヤ 。フレームにおいては、線分

は、両端点の座標をもって表され、円弧、スプライン等の曲線の線分も、単点間の形を決

めるための係数を付与することで表示することができる。面においては、多角形、円、楕

円などの、閉じた平面図形、3次元に開放すれば、円柱面、球面、円錐や、スプライン面

立体では、直方体、球、円柱といつた要素で構成することが可能であり。これらの要素の

編集機能によつて、さらに挿入、削除、延長、短縮、分割、変形、移動などの操作を行な

ぅことができる。

こうした、材料に拘束されない形態の定義と操作、加えて、支持するものなしに空間内

に要素を配置するという無重力性が、コンピュータ、CADに よる建築設計の基本になる

のだ。

模型とは異なる、非物質性と無重力性を獲得したをコンピュータ上の発想は、建築の設

計手法に様々な影響を与えている。それは以下の3つのカテゴリーで説明することができ

るだろう。

(エ レメンタリズム)

時計が、歯車やぜんまい、ねじ、針、文字盤といつたたくさんの部品 (エ レメント)が

ある秩序をもって集まって構成した集合体であるように、建築もまた柱、壁、床、階段、

窓といつた部分が構成したコンプレックスである。このように、形態の成り立ちをエレメ

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ントの集合体として認識する考え方をエレメンタリズムと呼ぶ。先に述べたように、CA

Dにおいては直方体、球、円柱、円錐といつたプリミティブな幾何学的エレメントを単位

として、形態の発生、変形などの編集操作を行なう。このため、CADに よって設計する

時、このエレメンタリズムは強く意識され、部分としての形の存在と、全体としての形を

並存させながら建築を構成していく。 (図 1-1)

(手続き性〉

手続き的というのは形態の発生が突発的なものではなくて、何かをもとにして、その変

化や編集という課程を経て生成されてくるということである。CADに は、多くの建築家

が暗黙のうちに参照していた図形の幾何学的操作を行なう機能が備わっている。モデルに

対して変形、合成、置換、構造化等の手続き操作を加えなが ら設計を進めるのである。

エレメンタリズムが設計における形態の静的な状態に対する認識であつたのに対して、

手続き性とはその静的な状態の動的な推移に対する概念である。これらを合わせると、設

計とは、エレメントの操作を介してひとつのエレメントの集合から次のエレメントの集合

へと行なわれる一変換が、連続的に繰り返されて秩序ある最終形態、すなわち建築にいた

ることであることであるといえる。この概念は図2-2の ようなダイアグラムに表記する

ことができる。

(3次元性)

3次元CADは 、設計アイデアの3次元形状を直接定義することができる。また任意の

視点から投影図を表現し、その画面を、拡大縮小、回転、移動を加えながら、様々な方向

か らモデルを検証することができる。時には設計案の内部に入 り込み、モデルと等身大に

なってイメージを検討することが可能になる。この時、2次元上の平面図や立面図といつ

た図面は、デザインの完成後、モデルを水平方向に切断したものを真上から見たもの、ま

たモデルを回転してちようど正面から見た結果に過ぎない。コンピュータを使うことによ

ってプラン優位の原則が変わるのである。

このため、設計者はエレメントを常に3次元的な単位形態として認識する必要がある。

例えば、壁は、平面上の長方形の閉曲線に高さを与えたものでなく、初めから3次元空間

の中に浮遊する直方体として認識しなければならないのである。

CADの 持つ 3次元性によつて、設計の過程においてアイソメ トリックやパースペクテ

ィプの中で視点を上下左右に自由に動かして形態の見え方をシュミレーションすることに

より、建築家は形態や空間に対する多視点的な把握を促されるのである。

以上 3つ の手法の特性をまとめると、コンピュータによる設計とは、3次元的な視覚を

インターフエイスしたスクリーン上で、幾何学的なエレメントを操作 し、いくつかの手続

きコマンドを駆使して建築の形態を作つていく一連のデザイン行為と要約できる。

重要なのは、こうしたコンピュータを用いた建築のデザインは、建築家の思考の変換を

要求することである。 3次元的思考、体系だつた手続き性など、今までより大きな負担を

コンピュータは建築家の思考に強いているのだ。パースペクテイブやアイソメ トリックの

中でリアルタイムで回転していく複雑な建築のコンプレックスを見ながら、視点と建築の

部分の位置関係や方向を確認しながらデザインを進める作業は、建築家としての適性をも

変質させるのかもしれない。しかしこのような建築家に思考の変換を追るCADに よる設

5

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!劇 l― !

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Al― >A2>A3 > > >

 

Rn

―> 一> An

中間形態

手続 き操作

エレメント

建築文法

図 1-2

6

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`:卜手法が新 しい建築を41む ことに1直 結するかどうかは疑間である。なぜな ら、CAI)に よ

る設計は、形態を操作するための ‐種のゲームにすぎない ‐面を持っているか らだ。

次にコンピュータによる設計の弱点について検証 してみたい。コンピュータによる設,iト

は、今までにない形態操作の手法を建築家に与えている、しか し、紙 llや模型による設:;ト

等、既存の設計手法と比較 して問題がないわけではない。それは以 ドの 3つ に分類するす

ることができる。

(ス ケール感の消失)

CAI)は基本的に実 寸で設計を進めていくために、スケール感を喪失 しやすい。図山iや

模型による設計であれば、その段階に応 じて模型のスケールをかえることで、実際の建築

のスケール感を少 しずつ獲得 していく。基本設舌十時の、 1000分 の 1や 500分 の 1の

スケールで、周レHの il地 と建築物の配置の関係を検討 し、 100分 の 1や 200分 の 1の

模型で、建築の機能や具体的な形態などを決め、 50分 の 1で 、内部空間を詳細に検「 1ヽし

時には、原 、l‐ や 2分の 1のスケールで部占:Iの検討までを行なう。 この様な作業を経て、 1

つの大きな建築か ら部分にいたるまでのF■l係 を確認 していく。 これに対 してコンピュータ

11で は全体の配置も、 ドアのノブもCADの ディスプ レイ [1で は同 じ大きさで表示されて

しまうために、スケール音痴にな りやす く、行なうべきスケールに関する検討を怠 りがち

になって しまう。

(発想の制限〉

模型による作業が、手に触れることのできる物質を、日の前におきなが ら作業を進める

のに対 して、CAI)に よる,設 計は手に触れることのできない形態を、 2次元に投影された

31由 i図 や、アイソメ トリックの山i山iを 介 して行なう設計[作 業である。 (1文11-3、 4)C

AI)は、設:i卜 者にアイ レベルのパースペクティブや、あるいは建物の中か らの視点で、設

li十 の検討を行なうことを可能にした。逆にモデル化 した設計案の確認について模型より不

利な点がある。ひとつは、CADで は図 1-4の ように、4つ の画面を基本にそれぞれの

「1直iを 拡大、縮小、「1転 しなが ら進めてくため、この 4饉i面 に拘束され、見る方向の設定

は模 Jl●Jの 様な自由度があるとはいえない。また、画面i11に表示できる要素の限界があるた

め、湖S分 を拡大 して設計の作業を進めなければな らない。これに対 して模′ヤ!は、常に全体

を視党に人れなが ら、ある部分を作っていくことができるのである。研究室で行なった横

浜港1可 際客船ターミナルでは、この差異が明確になった。 (図 1-5、 6)、 画面 llに 表

示することのできる限界があるのに対 して、模型による作業は、あらゆる角度か ら向山に

設計を進めていった結果が、 2つの屋根の違いにもつながっていつた。

CAI)による設計の 3次元性は、建築家の頭のなかに、空間の構成に思い浮かび llが ら

せる。 しか し模型のようにすべての情報が リアルタイムに視覚化されないため、それらす

べてを完全に確認 して次の発想につなげにくい。それに対 して模型の作業では、すべてが

視党化されることによって、発想のジャンプを助け、デザインが意外な方向に展開する発

見的手法 とでもいうべき可能性がある。この部分はまだ、CAI)が不得手にしている領域

だと考え られる。

(建築の制限〉

建築は、 しば しば絵画や彫刻と共に、光や色、面に関する視覚的なものを [11と して扱う

7

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図 1-5 横浜港国際客船ターミナル1可 際設計競技

池原り「究ネ案 CAL,卜 の屋根

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視覚芸術 として分類されることがある。特に、実物のなかに入って直接体験するのではな

くて建物の ドローイングや写真を見るときには、その様な傾向が強い。しかし、寒と暖、

そよ風となぎ、香 り、音、肌に触れた表面の感 じ、中を動き回つた時の感覚などに関する

ものも建築に関わる体験の中で同等に重要なものであることを考えると、この分類は誤解

を招きうるといえよう。視覚的でないものも含めた、空間における様々な差異への敏感さ

があってこそ、建築を理解し、感動しそして造 り出すことができるのだ。

コンピュータによる設計は、今までにない形態操作の手法を建築家に与えている、しか

し、模型による設計と比較して問題がないわけではない。コンピュータによる設計がある

種の形態操作のみを行なうゲーム的な行為であるために、現実の建築と異なる感覚で設計

をするあまり、その検討が実際の建築との乖離を生んでしまい、フィー ドバックされない

(実際の建築には役に立たないモデルになってしまう)と いう面を持ってしまうのだ。模

型における設計においても、視覚以外で建築を構成しているものすべてを検討しているわ

けではない、しかし、模型による建築の設計では、手触 りできる、実体のあるの模型から

少しずつこうした形態以外の建築の感覚を検討していくことができる。

例えば、模型には材料が存在することが形態を拘束していると述べたが、逆に、この拘

束している材料を、実際の建築の質感に対応させて作ることで、少しずつ、その感覚を身

につけていく。これに対して、コンピュータ上では形態と無関係に、その面や立体に対し

て擬似的な素材を割 り振ることが可能である。実際の建築の素材感は汚れや、腐食等の時

間的劣化や、やわ らかく建築のなかに差し込む光などが介在するので、CAD上 のそれと

完全に同じとまではいかなくても、ほぼ視覚的に同様の素材が定義される。しかし、その

素材の定義は、一般的に、モデリング終了後、レンダリングソフ ト上で行なわれる。逆に

いえば、モデ リングは、実際の質感を考えなが ら作業を進めることをしないためにた、形

態を構成していく中で質感を考える意識は逆に希薄になり、形態のみが優先される建築を

作つてしまいがちなのである。

こうした欠点は、モデリングを習熟させていくことにより部分的には改良することがで

きる。またこうした現実の建築に縛 られない形態こそがCADの 特徴であるともいえる。

しかし、常にCADを 使う設計者は、CADに よる設計が現実の建築とついつい離れがち

になってしまう一面を持っていることを意識する必要があるだろう。そうしなければ、コ

ンピュータで新しい形態を発見できても、それを現実の建築に展開できなくなってしまう

からだ。図 1-7に 見られるようなアルゴリズムによる形態の自動成長は、形態としては

興味深くても、建築との対応がまったくないために、建築としては成立しないのだ。

以上のようにコンピュータを利用していく上での利点と、欠点について検証してきた。

ここまでの検証は、従来のCADシ ステムを前提とした設計環境について述べてきたもの

である。一方で現在のCADシ ステム自体に問題がないわけではない。建築家の発想がコ

ンピュータを使用する中で生まれても、既存のCADは 旧来の建築の上に立脚しているの

で、結局その発想も、今までの設計手法の中に拘束されてしまう一面を持っているのであ

る。たとえば、コンピュータ上で設計を始める時、スケッチで一本の線を紙のうえに引く

様に、線を画面上に定義することから始める。しかしこれは道具が鉛筆から、マウスに変

10

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図 1-7 アルゴリズムによる形態の自動41成

わったに過ぎず、常に「入力」という手続きなしには設計は進んでいかないのだ。また、

コンピュータを利用した設計の中で、空間上に「こんな感じ」というような曖味で自由な

形態な立体を置くという感覚を獲得したとしても、紙のうえにあいまいな曲線で構成する

輪郭を書くのと同様の感覚で、その立体をディスプレイ上に置くことはできないのだ。そ

れらは入力上の手続き (寸 法や、3面図とアイソメの 2次元ウインドウ上での入力など)

や、CADの 作ることのできる形態の制限に拘束されてしまう。また新しいCADは 、建

築家の作 りたい空間があつて、システムが開発されるのではなく、エンジニアリングサイ

ドの発想で依然として生まれているのが現状である。ここでも結局機械の制限の中に建築

家の発想が押し込まれてしまっているのである。

こうした制限を取り払うためには、 2次元のディスプレイと、マウスによる入力方法か

ら、CADだ からこそ可能にする入力方法の開発や、CAD空 間上の形態を、もっと自由

にし、さらに発想と同じように扱うことができるようになる必要がある。そうした作業は

エンジエアにだけ任せるのではなく、建築家自身が積極的に踏み込んでいかなければなら

ないだろう。

我々は物質的世界を記述する方法として絵地図のようなものから出発し、基本的にはま

だ、透視図あるいは投影法の時代にいる。透視図あるいは投影法は、空間記述方法として

言語と同様に我々の環境認識方式を決定的に規定している。視点の設定すなわち眼差しが

世界を計測する基準となっている。コンピュータによる設計が、建築家の発想自体を自由

にし、ウォークスルーのアニメーションなどが新しい空間の展開を表現できる新しい次元

のスタデイになっている一方で、ある地点からの眼差しが空間を記述しているという意味

で透視図法的世界観のなかに留まっている。透視図法という空間記述言語の呪縛から完全

に脱出したところにこそ、全く新しい空間イメージを誘発する手助けとしてのコンピュー

タ利用が出現するだろう。

設計思考の変化からさせるだけの違いから、新しい建築を生んでいくには、まだこえな

ければならないハー ドルがある。

Page 21: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

1-2.CADか ら生まれた建築の考察

コンピュータを用いて設計を行なっている建築家は、大きく分けて 2つの方向性を持っ

ている。ひとつは従来の設計道具である、模型の代用品としてCADを 用い、そのなかで

新しい視点を獲得 しながら、その手続き性を利用して繰 り返し形の検討を行なうという、

ェスキースの過程や、清書、プレゼンテーシヨンに用いるグループであり。もう一方はP

.アイゼ ンマンに代表されるコンピュータによって新しい建築を生み出そうとしているグ

ループである。CAAへ の道を考察するこの章では、it者のような、CADを 利用 しなが

らも従来の設計手法の延長で行なう方法に関する検証は、新しい建築を探ることに直結し

ないと考えられるので除外 したい。

この章では、今までコンピュータから生み出されてきた、「新しい建築」の可能性を秘

めている一方で、その功罪の批評から逃れ続けてきた建築物を、「コンセプ ト」が重視さ

れる現代の建築物と併せてその問題点を考察し、CAAの あるべき道の方向性を導きだし

たい。

まず最初に具体的にここでは、コンピュータを積極的に設計活動に取 り入れ、既存の建

築様式を打ち破 り次 l_「 代の建築を模索している。P.アイゼンマンのいくつかのプロジエ

クトを取 り上げながらその論をすすめる。取 り上げるのは以下の3つである。

1)2つ の住宅プロジエクト

2)布谷ビル

3)フ ランクフル ト・ レブス

一CADの 導入は彼の設計思考を変えたのか

一CADの 世界と、実際の建築の世界の同一視

トック設計競技入賞案

一新しい形態理論の導入について

(2つ の住宅プロジエク ト〉

建築家がコンピュータを利用することによって、設計思想にどのような影響を与えたか

を考察するために、ここでアイゼンマンのコンピュータを導入する前と後にそれぞれ設計

された 2つの住宅を取り上げた。 (図 1-8、 9)

2つ の住宅を比較すると、いずれも、アイゼンマンの特徴である、それ自身の論理をも

った幾何学的生成課程によつて個人を排除した中で、ボリュームとVOIDの 関係を意識

しなが ら正方形が組みあわせれているのが見て取れる。大きな違いは、コンピュータ導入

前の形態が、それぞれの直方体が水平、垂直を保ちながら、平面的な軸の交錯のなかで組

み合わされているのに対 して、導入後の形態は立方体が、水平垂直にこだわらず空間に置

かれ組み合わされていることである。しかしこの2つ の形態の組合せの違いか らでは、ま

だ彼の設計に対する思考を変えたとはいえないだろう。彼の建築は、コンピュータによっ

て、模型では制作の難しい触れた 3次元的な軸の交錯する取合といつた拘束か ら開放され

たために、設計の自由度が増しただけなのだ

Lる ためには、コンピュータ内の独特の操作コンピュータによる設計によつて建築が変

感覚を自らの物とした上で設計することが必要条件となるが、それによつて建築家の設計

12

Page 22: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

 

コンピュータ導入前の住宅プ ロジェク ト

IX1 1-9

13

コンピュータiLl人 後の住宅プロジェク ト

Page 23: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

に対する考え方が変わ り、コンピュータという道具なりの設計手法を発見できなければ、

建築が根本的に変わっていくことはないだろう。しかし、コンピュータを用いる多くの設

計者が、まだ、この2つ の住宅の比較にあらわれているように、コンピュータだからこそ

可能な設計手法の確立、ひいては新しい建築にいきついていないのが現状である。

(布谷ビル)

2つ の図版を見比べて欲しい、これは

アイゼンマンが東京に設計した「布谷ビ

ル」という名のオフィスビルである。あ

えてキャプションはつけなかったが、左

の図 1-10が 完成した建物の写真であ

り、右の図 1-11は 計画段階での最終

模型である。この模型と実際の建築との

同一感はどのようにして生まれてきたの

だろうか。

この建物はアイゼンマンの基本設計で、

銭高組が施工を担当した、その課程は以

下のようなものである。まず、基本的に

直方体を2つかみ合わせて、4段に重ね

あわせた形態をワイヤーフレームを書き

出す (図 1-12)。 次にワイヤーフレ

図1-12 布谷ビル、ワイヤーフレームモデル

―ムのアイソメ図に記入されている各座標より壁面の寸法を割 り出し、斜めになった面の

展開図を描く。次いで、外壁パネルが取りつく鉄骨やサッシの寸法を求め、再び実際の 3

次元に戻し納まりを確認する。この作業を繰 り返す ことでこの建物は成立している。銭高

組の現場所長は「だだつ子の言う通 りにつくってあげた」とコメントしているように、こ

の建築は、最初にコンピュータのなかに生まれたものがそのまま建築として立ち上がって

いるのだ。

こうした施工課程で生み出された建築が、模型とほぼ同然に立ち上がるのは当然である

が、原因はそれだけなのだろうか、コンピュータによる設計は、形態を発生させるための

ゲーム的な要素があるために、このオフィスビルも、建築は水平垂直であるという既成概

念に反するとらえ方を提示するための複雑な形態ゲームとして生まれている。しかし、そ

れがゲーム的であるがゆえに、そこに「建築」として成立するための何かが欠落している

という一面を併せ持つ。そしてそれが現実の施工課程とは別に、思想として、コンピュー

タ内の建築と、現実の建物の奇妙な同一視性を生んでいるのではないだろうか。ここでは

コンピュータという箱のなかに入つた一人の建築家が、他者との関係を拒み続けながら設

計した仮想空間の建築が、そのまま現実の世界でも可能なかぎ り、他者を否認しながら立

ち上がってしまっているのである。その結果として生まれた建築の中で働く人々、すなわ

ち拒み続けられた人々には、歪んだ空間という実験室に閉じこめられたモルモットとして

の役割しか与えられていないのだ、実際入居してしばらくは体調の不良を訴え退社する人

14

Page 24: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

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15

Page 25: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

が後を絶たなかったという。

形態は本来、建築家の思想を実際の建築にするための方法にすぎない。 しかし彼の所員

は、彼の建築は理論があって形態が生み出されているのではなく、コンピュータによって

生み出された形態が先に存在し、あとから理論をこじつけたものとコメントしている。彼

の建築ではこの思想と建築の関係が逆転しているのだ。コンピュータのゲーム的形態操作

感覚がもたらしたともいえる、構想と形態の逆転現象から生まれた「布谷ビル」では、模

型と現実の建築の同一感、そしてそこから生まれた、そこで活動する人々の非存在性が問

題として浮かび上がっている。今までの建築は、建築家の構想と、それを実現するための

形態と、その形態のための構造や素材の技術の三者が一体となって生まれてきた。新しい

建築は、今までの建築に対する概念さえも変換 した先にあるという主張が反論として成立

したとても、これ らの問題を乗 り越えなければ、コンピュータによって生み出された建物

がオブジェとして受け入れられても、ひとつの建築として受け入れ、広く汎用性を獲得す

ることはないだろう。

(フ ランクフル ト・ レプス トック設計競技入賞案〉

アイゼンマンに関してここまで 2つの事例を見てきたが、住宅の場合では、CADの 使

用は彼の設計思想までもは変えていないのではないかということを考察し、布谷ビルでは

コンピュータの世界と実際の建築の同一感と、その同一感がいかに生まれてきたかを述べ

てきた。

3つ めに取り上げる、このフランクフル ト・ レプス トックの集合住宅設計競技入選案で

も、設計概要にも述べられているように彼の興味は、そこに集合住宅を設計することに向

けられているというよりはも、むしろ今までの建築になっかった形態理論 (カ タス トロフ

ィー理論)を設計のなかに取 り入れること (それによってたの図面との差異化を謀り、コ

ンペに入選する)に向けられていた。これ以降の彼の作品にしばしばみられる、従来の建

築にない形態理論を持ち込んで、建築家の手から離れたところで設計を行なう手法に関し

て、雑誌 `DIGITAL ARCHITECT'の “デジタルアーキテクとの旗手たち"と いうインタビュ

ーの中で、建築の形態を考えるのにどのようにコンピュータを利用したかという問いに対

して以下のように答えている。

通常の設計で、フリーハンドで何かを描きはじめるときには、また現在のCADを用いた設計においても、キーボー ドで最初のキーをたたくときには次の 2つのことが

起こっています。ひとつは何を描こうとする前に、何を描こうとしているか、あるい

は何を設計しようとするかのイメージを頭のなかに想起 していること。そしてそれを

見ながら、自分のイメージと違う紙の上の線や画面を、自分のイメージに近づくける

ために加筆し作業をすすめていきます。それはしかし、頭のなかにあるイメージの再

現、リプレゼンテーションです。この時にはすでに頭のなかにイメージが出来上がっ

ていてるのです。そして手を通して頭のなかにあるイメージを紙の上にあるいは画面

上に再現しようとしているのです。 一方コンピュータを使用するにあたってはもっ

と理論的なアプローチを試みようと思い、我々はコンピュータ上に明確な方向性をも

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Page 26: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

函 1-13 フランクフル ト・ レプストック設計競技入賞案

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17

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Page 27: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

ち建築の形態を生成するプログラムを作成しました。そのプログラムによってどのよ

うな形態が生成されるかは我々にはわからず、本当にコンピュータが形態を作 り出す

のです。その形態の差異はどのようにプログラムをセットアップするかによって決ま

ります。すなわち形態は建築家の頭や手から生じるのではなく、コンピュータから発

生するのです。

(一部抜粋)

これは彼の事務所でコンピュータの利用を開始してから3年が経過し、コンピュータに

対する彼な りの考えが固まり、コンピュータを利用するからこそ可能な従来の建築にはな

い理論を取 り入れることによつて新しい建築を目指そうというひとつの明快な解を示した

ものといえよう。そしてここでは、最初に取り上げた 2つの住宅の設計の間ではおこつて

いなかつた、コンピュータによる設計のプロセスの変化が生まれているのである。

この理論によって生み出される形というのには従来の設計思想と完全にその形態の出現

原理において異なる。わたしたちは何かを設計するときには、それが紙の上だろうと模型

であろうと常に輪郭を描いている。それは今のCADシ ステムを用いた設計でも同じこと

がいえる。現在のCADで はベンが、マウスやキーボー ドからの入力に変わつただけで同

じ思想にたっている。しかしコンピュータの利用によってこうした制約が取 り払われると

いう可能性を示しているのである。

このプロジエク トを通して初はじめて設計のプロセスが変化し、このことはたしかに「

コンピュータが建築を変えるかという」問いに対する一つの答えになっていると考えられ

るだろう。しかし新しい建築とは、新しい理論によってあたらしい形態を生み出すことの

みが目的ではない。布谷ビルに関する考察の中で取 り上げた、実際の建築とコンピュータ

の中の世界の同一視の問題を、この建築が実現したときに解決するとは思えない。

この 3つ のプロジエクトを通して、コンピュータが設計のデザインを大きく変える可能

性を秘めている一方で、形態だけが先行してしまう危険性もはらんでいることを述べてき

た。コンピュータが設計を変えても、社会はだれもがアイゼンマンのような芸術としての

建築を設計することは求めていない。コンピュータによる建築が形態だけの芸術の域を乗

り越え、広く社会に汎用するシステムを持たなければ、CAAへ の道は歩めないだろう。

しかし、コンピュータにより形態先行の建築が生まれてきたのは、単に、ゲーム性を持つ

機械の性質だけが原因として生まれているわけではない。この問題は、「コンセプ ト主義

」と言うべき、現代の建築がはらむ問題が内在している。

建築家の職能論など論陣をはるダナ・カフが Architects'Peopleと いう本のなかで、

「建築家にとつて人間とはなにか」という問いかけを何人かの建築家に行なっている。そ

の中でアイゼンマンの文章を抜粋する。

「人生にはコンピュタに真似のできない四つの大切なことがある。ワインと食事と

セックスと詩だ。そのうち建築は詩の形式をとる」「私の友人の作家ウィリアムズ 。

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Page 28: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

ガスは読者のためにでなく彼自身のために書く。建築も建築家によって彼自身のため

につくられるのだ。私は自分の作品を自分自身のためにつくる。建築家にとって自分

以外に `ひ とびと(people)'は いない」 「 `あ なたの建築のアプローチの仕方は、そ

の内部で営まれる生にとってどんな意味があるのか'という質問は私をたじろがせる。

私には、私のつくった住宅が生活にとってどんな意味を持つのか分からない」 「私は

私の作品をイメージとしてではなく読む行為として、つまリテキス トとして解読して

くれるひとびとを探している」 「私は建築が文化を変えられるとは思わない。建築と

はただそれだけの物だ」…・等。

カフによって以上の文章は「アイゼンマンにとっては、自分だけが真に知られうる `ひ と

びと(Architects'People)'の 唯一の構成メンバーなのだ」と要約される。 (ひ とびと =

自己)と いう等式についての賛否はともかくとして、興味深いのは、彼の否定の果てに

逆に浮かびあがる建築家の思考パターンである。ここでのアイゼンマンの言葉は次のよう

に整理できる。

1.

2,

建築=「詩」である。

「作家」は「詩」を自分のために書く。したがつて 〈建築=「詩」)と いう定

義および 〈建築家=「作家」)と いう暗黙の了解により建築家も建築を自分の

ために作る。

そのように閉じた行為は、生活や文化との直接の関わ りを持たず、デザインプ

ロセスとしての表現行為のみが意味を持つ。

3.

アイゼンマンは自らの行為を生活や文化との直接の関わりを持たない閉じた 「内部」に

限定し、それ以外のものを「外部」とみなした上で、 「外部」に属する特定のもの (こ の

場合でいけば「詩」あるいは「作家」)と の関係のなかで自分の建築を決定しようとして

いるのである。それは思考パターンのひとつとして、しかも完成度の高いゲームとしては

ありえるだろう。しかし、彼の思考に原理的な限界があるとすれば、そして時にある退屈

さを僕らに感じさせてしまうとすれば、それは彼の行為が示唆しているものが上記のよう

な「内・外」の構図そのものだけなのであって、決して新しい「内部」ではないというこ

と、つまり行為としての新しさをもたないということに原因があるのではないだろうか。

アイゼンマンに限らず、ここには現代建築家が建築や設計行為を説明しようとするとき

に陥りがちな典型的思考のひとつを見いだすことはできないであろうか。つまりそれは、

自らの表現行為の活動領域を「内部」として縮小・ 限定した上で、それにともなって広が

る「外部」のうち特定な世界のみとの関係のなかで建築を定義し、自らの行為を根拠づけ

るというというパターンである。

例えば「歴史」に根拠を求めるポス トモダニズム論や引用論を「コンセプ ト」としてつ

くられた建物たちがもたらしたものは、設計者に新しい形態的ボキャプラリーの自主開発

を免除したことである。「都市」に根拠を求め、そのコンテクス トを「コンセプ ト」とし

てつくられた建物たちは、批評性を伴わない「コンテクス ト」の読解作業によって、建築

的表現が 「コンテクス ト」そのものの建築上の表現になってしまった。 (実際の都市の風

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景の中から特徴的なエレメントや潜在する地勢などを建築の構成要素として持ち出し、混

乱した都市を再びそこに描こうというようなもの)。 そして 「社会」や 「文学」に属する

言語的概念に根拠を求めそれを「コンセプ ト」としてつくられた「バベルの塔」の建物た

ちは、設計者に建築的な形態を論理的に導きだす作業の放棄させた。

そこでおこっていることは設計者によって恣意的に考えだされた「コンセプ ト」そのも

のが建築になって立ちあらわれているということだけなのである。

CADを 使用 しはじめたアイゼンマンと彼の建物ではさらにこの関係が進化する、彼の

建物には恣意的なコンセプ トの前にコンピュータ上の幾何学の形態が存在し、そこからコ

ンセプ トとしての 「虚構の物語」が生まれているのである。そ してCADの なかから複雑

な形態を導きだそうと目指す建築家のグループの多くもまた、このような立場に立脚して

いることが、結局コンピュータの形態主義を加速しているのである。

以上のような 「コンセプ ト」主義の最大の問題点、そしてアイゼンマンのCADの 利用

(コ ンセプ ト以前のCAD内 に浮かぶ不思議なあるいはおもしろいと呼ばれるような形態

がそのまま建築としてたちあらわれる)の問題点が浮かび上がる。それは「内部」として

の自らの立場を内外の境界線を引くことによって確保した上で 「外部」に属するなにかを

コンセプ トとして採用し、そこからなにが しかの要素あるいは要素間の関係を取り出して

建築の図式に置き換える、という一連の行為のどの段階にも実は「外的」な根拠が存在し

ないということである。悪くいえば思い込み、せいぜいで 「密室のなかでの自己満足的な

善意」というべきそれらの行為は、自己参照的な言説をふりかざすことによって、建築と

世界との距離を無責任に遠くしてしまったのではないだろうか。CADの 出現はこのよう

な考えをさらに増長している。CAAが 、新しい建築を目指すならば乗 り越えなければな

らない問題がここには存在する。

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3 CAAの 定義

コンピュータの導入、そしてデザインヘの使用により設計が変わるとすれば、それはコ

ンピュータの持つ世界を自分の世界として獲得した時に起きる、建築の空間把握の差異の

中から生まれてくるだろう。新しい建築が生まれるには、その差異を認識した上で、エン

ジェアたちがテクノロジー・サイ ドの発想で作った道具を、建築家としてその道具の性質

を最大限引き出して設計することが求められるだろう。また、時には、新しいデザインの

ために、道具も変えていく必要があるのかもしれない。

一方で繰 り返し述べてきたように、コンピュータによる設計は、実際の建築の構造や材

料 と切り離 して、複雑な形態を生むことが可能であり、またその形態を建築化することも

支えてくれる。こうした形態主義に対する危険性を常に考えなければならないだろう。

こうした考察の上で、改めてCAAを 以下のように定義したい。

CAA(Computer Aided Architecture)=

コンピュータを利用することによつて、形態だけにとらわれない

新 しい建築を生もうとするもの、また、新しい建築家像を導きだそ

うとするもの。

この定義の中には、その危険性は常に考えたとしても、新しい形態概念に関するものも

あるだろうし、デザインとは全く関係のない、新しい設計環境や、生産システムとコンピ

ュータといつた課題も含まれてくる。

このCAAの 定義をもとに以下の章では、この定義に含まれるようなコンピュータ利用

の現状の紹介と、コンピュータを用いた設計を行なっている。

第 2章では、形態を発生させる以外の中で、コンピュータが建築家の発想を助けている

いくつかの実例、次世代の設計環境や、時間のシュミレーションについて検証している。

また、第 3章から第 5章 まではCAAの 実践として行なってきた、いくつかの設計プロ

ジェクトを紹介している。第 3章では建築用でないIndustrial Design用 のコンピュータ

のなかの新 しい形態概念を建築に適応 し、第 4章では生産システム、第 5章では素材をそ

れぞれテーマにしながら、実際にCAD上 で行なった設計のプロセスを解説している。

21

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2.現代におけるCAAへ の取り組み

前章で述べた形態だけが先行しているコンピュータによって生まれた建築は、コンピュ

ータの導入が、その質においても量において、又それを使う我々の意識においても、現状

ではまだ過渡期にあるから生まれる実験体なのかもしれない。これは、 1つに、高価なC

ADは別として、汎用性のある建築CADは 、いまだに建築家の発想を、ディスプレイ上

に自由に展開するようなインターフェイスを持っておらず、また、作成できる形態と作成

できない形態が存在する等、発想の自由さを束縛していること。 2つ めに、建築家自身が

まだこの機械の魅力を、形態のモデ リング以外の様々な可能性も含めて十分に引き出して

いないこと。 3つ めに、こうした機械が今だに建設業界自体を大きく変えた段階には至っ

ておらず、多くのCADが 単独であるいは、限定的なネットワークの中だけでもちいられ

ていること。このため、情報のネットワーク化によって実現する、 1つのCAD情 報が設

計から施工まで様々に使われるような体制や、次世代の設計環境にまで行き着いていない

のである。以上のような理由から、エンジエアリングサイ ドで生まれたCADは 、まだ建

築家の発想道具としてのCAAに なりきれていないと言える。

この章では、まず、建築におけるコンピュータ利用が、形態のモデ リング以外に、どん

な可能性を秘めているかを紹介したい。 2-1)形 態認識を助ける、 2-4)建 築空間の

再構成では単独のコンピュTタ システムでも可能な、形態以外の建築の発想の可能性を紹

介している。

現代のテクノロジーは複雑で、また高度になりすぎており、一人の人間がすべての問題

を解決するのは到底不可能になっている。それは建築においても同様なことが言える、一

人の設計者が、その配置からインテリアに至るすべてのデザイン、また構造・設備・建築

材料・工法といつた技術的な問題すべてを把握し、コントロールするのはますます困難に

なってきている。

CADに よる設計では、設計者が、限られた設計期間内で図面を引きなが らパースを描

き、模型を作成するという一連の作業全てを、一人の設計者が行なうことを可能にするこ

とで、建築家によるデザインの及ぶ範囲を広げたといえる。しかしそれも住宅やそれに準

じた規模の建築や、また基本設計の段階までを支援するのが限界である。現代の建築設計

に求められている、より複雑な機能が重層された大規模な建築の設計に対する支援にはな

り得ていないのだ。また、日本における設計事務所の描く図面は、アメリカのように見積

だけでなくその図面で工事の契約をできる完成品としてのコンス トラクト・ ドキュメント

にはなり得ていないという問題は、現在の単独のCADシ ステムの運用では解消できない

でいる。

また模型とCADに よる設計の違いでものべたように、CADに よる設計では、図面や

バースなどを出力しなければ、画面上に示されるのはほんのその一部であるために、リア

ルタイムに設計者が考えていることを伝えているとはいいがたい。従来の設計の協同作業

23

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のように大きな図面や模型を広げながら全体を把握しながら行なうことが、現状のコンピ

ュータを使用した設計環境では行なえていない状況である。

社会のなかにコンピュータが浸透する中で、単独の設計では解決できない建築設計上の

問題を、ネットワーク化によつて解消していこうという動きがある。この章では、こうし

た面に関しても、2-2)コ ンピュタによる生産システムの統合, 2-3)デ ジタルメデ

ィアによる次世代の建築設計環境という2つの方向でまとめている。

24

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2.1 形態認識を助ける

コンピュータによって生み出されるものは、形態だけが先行する建築だけではない、ま

た、出力されたグラフイックは、建築家のイメージを絵によってプレゼンテーションする

だけのものではない。コンピュータにより生み出される建築は、建築家の道具に対する理

解と、どのような立場で利用するかによって変わってくるだろう。また、そこから生まれ

るCGも、イメージだけでない様々なものを伝える、新しい伝達手段になるだろう。

前章で述べた、コンピュータの設計がもたらすエレメンタリズムに関する意識は、部分

としての形の存在と、全体としての形を並存させなが ら建築を構成する視点を建築家に与

えた。こうした視点で造 られた建築は、 1つ 1つ の部材 (エ レメント)をバラバラにした

り、いくつかの部材をグループ化して空間上に配置したアクソメ図などによって、建築が

どのような構成をとっているかをビジュアルに説明できる。

現代の建築の生産現場においては乾式工法や、工場生産で構成される建築部材が増えて

いる。例えば、構造部材、 トラス、カーテンウォール、サッシ、手摺等があげられる。コ

ンピュータのエレメンタリズムを用いて設計するときは、個々の部材を単なるデザインと

して構成するのではなく、工業化部材とその建築的構成 (構造、取合、防水など)を理解

した上で設計をしていくべきであろう。 (図 2-1)コ ンピュータによる設計が形態先行

を許すからこそ、逆に建築家に、企画から施工そして管理にいたる広い意味での建築全体

の流れと、一つ一つ設計した建築部材の生産と成 り立をを理解し、それを応用しながらコ

ンピュータを利用して設計することが求められているのだ。こうした設計はCAAの ひと

つとしてあげられるだろう。

こうして設計された例をもうひとつ紹介したい。図 1-2は、関西国際空港の トラスと

カーテンウォールの取合の部品のために設計のために作られたCGモデルである。この取

合部では、 トラスと、躯体とが荷重によって異なる挙動をするために、2者の中間に位置

する、カーテンウォールとそれぞれの取合で、通常の風による小さな変異 (x方向に±4

5111111)と 、地震時の大きな変異 (x方向に最大±400111111)を 、吸収することが求められ

た。そのためにこのカーテンウォール全体が、上下の躯体のレール上を動き、さらに、 ト

ラスとの間に図のような詳細を持つことで、この動きを吸収している。通常の風荷重によ

る変異は、 トラスに取 り付けられたゴムガスケットでこの動きを吸収 し、地震時の大きな

荷重は、ガスケットのまわりの 3枚のパネルが、動 くことによってこのずれを吸収してい

る。このCGモデルは、設計の最初の段階から、設計者の意図を常に検証し、取合を確認

するために作られ、施主への説明にコマ送りの簡単なアニーメーションまでを行なった。

25

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2.2 コンピュータによる生産 システムの統合

朝日新聞社は 1980年 、築地新社屋に移転したのを契機にNELSONシ ステム (電

算による編集システムを)を完成させ、稼働させた。このシステムでは、新聞製作の上流

である編集局に隣接して入力、編集作業などを行なう新聞製作局が新たに設けられ、替わ

りに活字、活版、紙型を担当していた下流の印刷局と発送を担当していた部が統合され、

下流が大幅に合理化された。 10年後には、記者から直接、ワープロの電子情報が送られ

るようにな り、キーバンチャーは不要になるまでに変化した。副次的に記事のデータベー

ス化が図られたり、世界各国に日本と変わらない新聞を同時に発行したり、速報性、読者

サービスの向上、労務問題の解決など情報化の完成により大きなメリットを生み出した。

その後、数年の間に新聞業界全体が情報化産業へと飛躍したのである。

建設業の情報化は企業間にまたがるだけに、一社だけで完結している新聞社よりはるか

に困難な条件を持っているとはいえ、建設業の情報化はまだ先が見えていない。しかし、

コンピュータそしてCADは 、建設業においてもの情報化構築の役割をはたし、設計から

施工までも一大展開していく可能性を秘めている。この小節では、こうした動きを紹介し

たい。

日本の建設業の生産性は他製造業と比較して、また、欧米の建設業と比較しても相対的

に低いことが指摘されている。建設費低減に対する社会的ニーズは大きい。建設業の生産

システムを統合するための課題の一つとして、設計図及び施工図に関わる問題がある。日

本の設計図書は一般図と詳細図から構成されてお り、一般図に法規情報が集中し、詳細図

に生産情報が集中している。この一般図と平面詳細図では記入密度だけでなく図形表現も

異なってお り、内容の重複が多い。さらに部分詳細図、施工図も同様に重複内容が多い。

建築は単品生産であるから、その都度、設計図を作ることはともかく、その 5倍 とも言わ

れる施工図、また、その 5倍 といわれる製作図は本当に必要なのだろうか。全職種での作

図、照合、チェック、調整作業、設計変更処理等の総時間と総労力は膨大であり、大きな

無駄を生んでいる。

また、設計図の現状 として、設計の基本的問題、すなわち設計、構造、設備の不整合、

スケールと目的の異なる2つの図面上の重複記入部分の食い違いと、部分詳細図不足など

設計図書の不確実性、不足などの問題が指摘されている。その原因は、建設需要が拡大し

続けたことによる人材不足や、工業化、技術革新のテンポが速いため建築家側の製造技術

知識が追いつけず、設計者のプロダクション技術が空洞化してきたことにある。又、一方

で施工側の知恵を取 り込んだ方が高品質な建物が出来るという日本独特の生産システムの

思想が根底にあることも否定できない。しかし、設計者と製造者が一緒に知恵を出しあう

ことと、信頼性のない設計図書とは別問題である。

具体的にこうした生産性の低い、信頼性のない設計図書それがどんな問題を起 こしてい

るのかの一例を紹介したい、図2-3は 、ある現場で最初の設計図書が描かれてから、メ

ーカーで製作に及ぶまでをフローチヤー ト化したものである。製作に及ぶまで、不明瞭部

分の確認から始まって、メーカーに製作図を描かせ、その調整をくり返しなが ら実に35

28

Page 42: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

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図2-3 製作図フローチヤー ト

29

Page 43: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

もの工程を踏んで製作にいたっている。

本来、欧米の設計図書のように、建築

家が責任をもって描いた図書であれば、

この35も の工程は不要なものなのだ。

この問題の解決のために、CADが

浸透し、正確な表現のCADデ ータが

流通するようになる課程で、日本の図

面構成にあわせて、設計から施工まで

の トータルな活用をめざして、図面の

再利用の仕組みを確立しようとする動

きがでている。

このCADに よる図面の再構成の動

きは図 1-4に見 られるCADの 機能

と特性を利用したものである。 lvl2- 4 CA l)o)HtfiEL+'!fl,

信頼性 :CADは 手書きと異なり、

出図の縮尺にかかわらず、

基本的に原寸入力であるから、詳細な入力が可能である。正確な図形入力を

しておけば、寸法はCAD上 で自動的に計測して記入してくれる自動寸法機

能がある。自動寸法記入に依った寸法入力は正確さが保障されている。CA

Dを情報として活用する場合は既製品の中身の詳細はともかく、納まり、取

合について正確な図形入力をすることが前提となる。実際に、建築をよく知

っている人がCADで 実施設計の図形を入力する場合、出図スケールに関係

なく。正確に且つ、細かく入力することが多い。

加工性 :CADは 編集機能の上手な活用により作製時間に大きく差がつく。作図機能

を主にした単純な入力と、変形、拡大、縮小も含めた複写配列機能を上手に

活用した入力では 10倍以上の差がでる。又、一度入力した図形を利用して、

その図形の全体、一部の拡大、縮小、配置変え等を行い、種々のスタイルに

出図することが出来る。コピーや参照機能を活用することは、同じ図形は2

度入力しないということであり、単純ミスを防止する意味もある。

分別性 :レイヤー分けを上手に使うことにより、少ない労力で、多種類の図面を出図

することが出来る。通 り芯、文字、寸法線等と工事項目別にレイヤー分けを

すれば工事項目別に出図することが出来る。又、縮尺や図面の種類が異なっ

ても、図形の形状は変わらないのでレイヤーを組み合わせて様々な図面を出

図することが可能である。例えば 「躯体」の図形は一度正確に入力すれば、

平面図、平面詳細図、天丼伏せ図、構造図、設備図、躯体図、協力会社の承

認図全てに共通に活用出来る。 「仕上げ線」についても同様である。 (図 2

-5)

この3つ の特性を利用して入力したデータは、高い情報価値を持ったCADデータであ

る。従来の手書きでは、実施設計全体を通して、同じ図形を何人もの手により、何回も描

いている。CAD情報がうまく建築生産システムを統合できれば、同じ図形は重複して入

分 別 性

・レイヤー颯籠.グループ■能

30

Page 44: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

● しVBl入が 腎

天丼伏せ図

|キ†‐11

図 2-5 レイヤー分けによる人力と01肝 i)1月`例

力する必要がないうえ、照合の手間も省けるので、建設業 トータルとして、大きな省力化

とな り、生産性の向上が期待できるのである。

一方で現状では以下のようないくつかの問題も抱えている。しかし、いずれ、建築業界

のなかにも情報化の波が本格的に訪れることは間違いない、こうした問題を解決したCA

Dシステムの誕生は、建築生産システム自体も大きく変えていくだろう。

人材の育成 :建築が良く分かつていて、CAD操 作に明るい人材が絶対的に不足して

い る 。

組織の改正 :CADデ ータ作成、活用に伴う直接及び関連業務は、生産設計 (施工

図も含めて)の入力、修正、数量出し、仮設計画の作成、データの流

通、説明、変更連絡、データチェック、竣エデータ管理、データ分析

整理等、設計と作業所業務にまたがつた広範囲な業務が考えられる。

CADデータ作成の範囲を広げていくためには、設計とCADの関係、

作成時期の問題、部門経費とCAD原価の関係、設計や作業所との責

任と権限関係等、意識改革とともに、既存の業務体系の全面的な再構

築が必要である。

レイヤー分け :こ うしたCADの入力は、施工上必要な情報の全てを対象とするため

のルール化 に、入カデータをどうレイヤー分けしていくかが重要な課題となる。

OUTPUTで ある生産図の全体を見通し、図面に対する再定義などをする

などの必要がある。また、こうしたシステムがよリー層普及するため

には、設計・建築団体で統一した、設計から施工のトータルな利用を

31

Page 45: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

考慮したレイヤー標準を作ることが必要となるだろう。

データ交換 :現在、DXFフ ォーマットが一般的に普及 しているが完全ではない。

フォーマット 改善すべき点を集約して、建設業界からの提案としてメーカーに要望

の改善 することも必要である。

こうしたCADを 使った建築生産システム統合の動きは、直接コンピュータによるデザ

インに関わることではない。しかし、この動きで重要なことは、こうしたシステムの導入

によって、設計者が最初から生産システム、建築部材、施工課程を知ることで、責任ある

図面の作成が求められることにある。日本では、建築家が基本設計の段階で、建築化でき

ない図面を作成し、ゼネコンの経験と技術力で施工するという、奇妙な分業体制が成立し

ている。技術的なサポー ト自体を否定するわけではないが、この分業体制は、建築家に施

工の東縛から開放されたデザインという免罪符を与えてしまっているのだ。いかに現代が

高度な技術が複雑に絡みあい、一人の建築家により多くの責任が求められる時代だからと

はいえ、建築家がそのすべてを放棄して、表面的なデザインをするだけ存在であってはな

らない。またこうした表面的なデザインからは、建築の本流をなすものは生まれてこない

だろう。付け加えるなら、こうした現在の生産システムが、前章で指摘した 「コンセプ ト

」主義の遠因とも考えられる。

デザインに直接関わらない生産システムの話をここに加えたのは、CADが 、単なるデ

ザインの道具としてのみ受け入れ られただけでなく、こうした生産システムの現場での方

がむしろそのパワーを発揮することを知 り、また、こうしたシステムが、実際に建設業の

なかに浸透して建築家をサポー トすることで、形態先行にな りがちなコンピュータを使用

したデザインに警鐘を鳴らすとともに、こうした生産システムを熟知した上での設計の中

にこそ、現代にふさわしい新しい建築を生むための発想の源があると考えたからである。

32

Page 46: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

2.3 デジタルメデイアによる次世代の建築設計環境

以下の2つの都市データを見てほしい、図2-6は筆者が卒業設計のために作成した、

両国駅を中心とした周囲 lb× 2bの都市データを入力したものであり、図2-7は栃木

県庁舎のプロポーザルコンペに供されたCGデータである。この2つ のデータの比較にお

いて、都市データをどう入力するかというモデリング上の違いを検証することはあまり意

味がない。ここで重要なのは、両者のデータの目的と、その使用に関する違いだ。前者の

モデルは個人の設計のために、一般的な敷地模型の替わりとして作成されたクローズなC

G都市データであり、後者は、最初から、コンペに参加した6社すべてに使われることを

目的として作成されたオープンなものである。一つの都市データを共有することで、6社

がそれぞれ入力する無駄をここでは省いている。ただしこの段階では、コンピュータによ

る可能性が全て開かれたわけではない。東京国際フォーラムや、京都駅のコンペテイシヨ

ンでは、コンペに参加した設計事務所が、模型を置く敷地が準備されていたことを考える

と、この栃木のCGモデルは模型の代用品でしかないのだ。しかし、全ての都市の3次元

データーを、誰でもが利用できるようなシステムの中で作成していけば、半永久的にそこ

に書き替えを加えることにより非常に開かれた都市データとなるのだ。こうした動きは、

遥か未来のことでない、実際にJIAでは都市データ活用分科会で検討をはじめている。

また実際に2次元の地形図データは、その書き替えという段階には至っていないものの、

デジタルデータとしてフロツピーの形で販売されている。

最近の情報技術 。通信技術の進展は、上記のような都市データの共有だけでなく、より

高度な設計環境を構築するために必要な現実的な技術を提供してくれるようになってきて

いる。

コンピュータは計算機からメディアになりつつある。思考、表現、伝達など知的な活動

で扱うテキスト、図形、画像、アニメ、ムービー、サウンドをデジタルデータとして統合

的に扱える技術、マルチメデイア技術がコンピュータを計算機からデザインとコミュニケ

ーションのメデイアに変えたのである。

ネットワーク技術はコミュニケーションを支援する基幹技術である。コンピュータネッ

トワークはすでによく知られているようにファイル共有・転送、データベースの共同利用

相互に接続されたCAD/CGに よるチーム設計支援、メール交換、スケジュール管理

プリントなどのグループ向けのサービスを提供している。さらに外部通信サービスによっ

て、パソコンネットやInternetな どの外部ネットワークヘの接続、FAX送受信、外部遠

隔地からのリモートアクセス、デスクトップTV会議などが可能になってきている。すで

に遠隔地の設計者・技術者やクライアントとの仮想空間の共有も一部現実のものとなって

いる。

情報・通信技術によつて支えられた設計環境は未来的に見えるが、質的な問題を除けば

技術的にはいつでも実現可能である。相互にネットワークされたCAD/CGに よるチー

ム設計支援は、すでに熊本大学・両核研究室で開発されているウィンドシエアCADに実

例がある。また遠隔地の設計者・技術者やクライアントとの仮想空間の共有と協同につい

ても、MITの ミッチェル教授を中心にホンコン大学、プリティッシコロンビア大学、バ

33

Page 47: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

卜重二‐ ―, 醸

図 2-6 111111駅 周辺のC(〕 4Sll'デ ータ

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図 2-7 栃木県庁合プロポーザルコンペに使用されたC(]都 |ljデ ータ

Ⅷ岬哺占

噛覇

一議

占・■

1 3

躙 上 撫

34

Page 48: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

ルセロナのETSA、 シア トル・ ワシントン大学がIntemctと Picture Telに よつて結ば

れた 「バーチヤル・デザインスタジオ」の実験 (図 2-8)が 紹介されている。

これ らのデジタルネットワーク、マルチメデイアの技術を基盤にした次世代の建築設計

環境は建築設計の環境とワークスタイルを大きく変えるII能性を秘めている。それは、建

築設計がもともとマルチメデイア・コミュニケーションをベースにした多分野専門家の協

同作業、協調作業であることを考えれば、コンピュータの使用によつて個人の作業にとど

まりがちだつた設計作業に、こういつた情報・通信技術の進展はわたしたちに再びコミュ

ニケーションの為のインフラを提供していくことである。

現代のテクノロジーは複雑で一人の人間が問題を解決するのは不可能であるために、デ

ザインチームは複数の専門家集団で形成され設計は協調的に進められる。コミュニケーシ

ョンの時間的、空間的な制約を解除するためのネットワークが構築され、一つのネットワ

ークは他のネットワークと接続され、神経系のような網状ネットワークに発展していく。

ネットワークによる重要な変化は、デザインプロセスに折衝や討論のような社会的プロセ

スを含むようになることなる。それは、コンピュータの力を借 りて設計を進めるのではな

く、いろんな知識を持った人達が集まって、同時に設計上の問題を解決していく体制が生

まれるからだ。建築が、ものをデザインする行為であるとするなら、単に建物を造る時代

は、終焉し、都市や社会、そして人間と機械の関係もデザインし社会に提示する必要があ

るだろう、次世代の設計環境はこうした道への扉を開いているのだ。

35

Page 49: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

〆¬

MIT建 築・:i卜 画学部のシンポルである、マサチューセッツtrlり に山iす る建物の、メ皮li

階全体を改修 し、パーチャルデザインスタジオのキースタジオとなる。「未来のデザイン

スタジオJが 建l没 される。

そこでは以 ドのことが行なわれる。

① 最新鋭の幾何学モデル、コンピュータグラフイックテクノロジーを川いて、デザ

インのモデル化、分,7を 行なう。

② MITの IJ際的ネットワークを通じて、画像、デジタルモデル、そのほかの拡張

データベースヘアクセスする。

③ コンピュータで統合されたテレコミュニケーションで、プロジェクトについて遠

くにいる協力者とI議 論する。

④ プレゼンテーションのため、高lllll質 のプリンと、スライ ド,アニメ、ビデオを作

り111す 。

⑤ コンピュタルJ御の製造システムによって、デジタル幾|`学 モデルを|:l動的に模型、

あるいはプロトタイプの制作に結びつける。

又、こうしたスタジオとネットワークのために以 ドのような技術が求められている。

① デザインの提案を膨らませるための、CAi)と CIS(地'1情

報システム)モデ

ル 。

② 3次元モデルからイメージやアニメーションをつくるlllll像 システム。

③ 高品質なデジタルイメージを受けll:め ,記録、1liノ |:、 分配、加 li、 分析、翻:沢 す

るシステム。

④ ビデオ会議システ′、。

⑤ 人:Itの ビジュ/ル

データのやり取りに耐える大容lltの 力

`イ

::回線のネットr/_ク 。

()建 設jJl場 や、移動中の参加1者 のためのワイヤレス・ラップ トップコンピュータ。

② 地llll的 に離れた複数の参加1者が同リサにアクセスできるデータベース。

③ ネットワーク化された川辺機器。キ|に アウ トブットに関する優れた製品。

③ 参lJl:者 のスケジュール調整など、共同作業を“I能 にするためのソフトウエア。

⑩ 過去のプロジェクトのデータなど、膨大な情報から仙iriあ るものを探し出す

インターフェイス役の代理システム。

図2-8 バーチャルデザインスタジオの概要

36

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2.4 建築空間の再構成、光の空間、時間の建築

コンピュータを用いた建築空間の再構成は、失われた建築や、幻におわった建築を視覚

化するようなものと、建築の形態の文法を表現することで、建築家のデザインヴォキャブ

ラリーを探求し、さらにデザインの展開をめざす 2つ に大別できる。

前者の空間の再構成は、かつての出雲大社やイタリア未来派サンテリアの駅のプロジェ

クトのような単体の建築レベルから、古墳のような土木構造物、あるいは古代都市の再現

(図 2-9)な ど都市スケールにまで及ぶ。こうした空間の再構成には、入力課程そのも

のと、それを設計者自身が行なうことの 2つ の見方から評価ができる。再構成の作業は専

門家と、オペレータの対話が不可欠である。コンピュータ上ではすべてのものが正確に、

また 3次元的に多視点から表現されるために、専門家に従来にない視点か らの検証にを可

能にする一方で、今まで曖味にされていたことが視覚化されるために、その部分の研究を

さらに求めることになる。また、コンピュータのエレメンタリズムは、建築の部材をエレ

メントに分解 して組み上げていくために、完全に復元された姿だけでなくその構成の分析

や部材の取合など別の視点を生んでいく。 (図 2-10)

また設計者自身が行なう建築の再構成の意味は、こうした作業によって、従来の模型な

どではできない自由な視点から建築物を検証していくことができるために、形態の学習だ

けでなく、空間の学習を行なうことができることである。また前章で指摘 した、コンピュ

ータによる設計作業の中で喪失してしまいがちなスケール感を、こうした作業を通して確

認できることにある。

一方建築家のデザインボキャプラリーを探求し、さらにデザインの発展をめざすのには

以下の、AI(人 工知能)の考え方を利用 したものである。第 5世代コンピュータ・プロ

ジェク トを進めている次世代コンピュータ技術開発機構による定義では、AI(人 工知能

)と は、人間が用いる知識や判断力を分析し、コンピュータ上に活かそうという技術であ

る。ここで提唱されているコンピュータの使用は、ここまで紹介してきたものと性格を異

にする。建築の場合の人工知能の利用とは、コンピュータを単に鉛筆のかわりの設計の道

具としてではなく、建築家が行なうようなデザインの選択や決定を行ない、条件に応じて

可能な形態を見付けだそうというものである。

こうした動きをする道具の実現が可能であるかを考えるとき、建築家が行なうデザイン

における思考とはなんであるかを根本から問いなおす必要がある。その思考が科学的に分

析され整理することが理論的に可能であるとすれば、それをコンピュータに行なわせるこ

とが理論的に可能であるということになる。設計行為のような人間の想像的な行為の中に

コンピュータによって置き換えられない部分があるという命題は、人工知能の研究者や哲

学者の間で当初から続けられている議論である。建築が芸術の一形態であり、おそらくは

もっとも想像的なもののひとつであることを考えるとき、この問題は極めて興味深いもの

となるだろう。

最近行なわれたこうした取り組みのなかにシェイプ・グラマー (形態文法)に関するも

のがある。シェイプ・グラマーとは建築の形態の生成を、与えられた一群の変形規則によ

って行なおうとするものである。一例を上げると、カリフォルニア州立大学ロサンジェル

37

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IXi 4-9 人部 (JjI在 の北京)σ),!i現

・ ― =―¬

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図4-!0 シュレイダー邸 (3.リ ー トフェル ト :9241

Page 53: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

ス校のH.コ ーニングとJ.アイゼンバーグはフランク・ロイ ド・ ライ ト設計のプレーリ

ー・ハウスなど11の住宅を分析して、これらの住宅が 99こ の規則を用いて設計できる

ことを示した。この99の規則は具体的には「何もないところに暖炉を生じさせる」とい

う最初の規則から始まって、そのまわりにリビングとコアとなる空間を展開する規則、さ

らに屋根、テラスやポーチ等を付加する規則がつづき、最後の「屋根か ら煙突をだす」と

いう最後の規則に至る。 (図 2-11)。この抽出された 99の規則を順次適応することによって、基本的な空間構成のレベルで

89のパターン (も ちろんこの中にデザインソースとなった 11の住宅は含まれる)、 屋

根などのデザインのバ リエーシヨンを含めると238の パリエーションが可能である。と

くにこの内の3つ は、おのおのStiny邸 、March邸 、MitChe H邸 とシェイプ・グラマーのパ

ィォニアたちの名前が冠され平面図まで作成されている。 (図 2-12)

この研究はライ トの設計における思考過程を分析 したものではない。またここに示され

ている規則は、形態の生成のみに関してのみ有効で、敷地条件や、機能、構造といつた諸

条件をときなが ら、同時に形態を発生させているわけでもない。しかし、明快に記述され

た規則を用いて、建築の形態の発生を行なうことができることを示した点で大きな意味の

あるものといえよう。

この小節では、再構成の実習として、光を媒介とた空間の再構成と、時間を媒介とした

建築空間の創出を試みている。光を媒介とした建築空間の再構成では、 3つの建築物の検

証を行なっている。それぞれのプロジェク トでは、建物の室内照明を想定しなが ら再構築

を試みることで、その空間と特徴を示そうとしている。

(ダ ンテウム ーGiuseppe Terragni 1938)

テラーニは、イタリア合理主義のひとりとして数えられる建築家である。 1938年 に

計画されたこの建物は、ダンテの「神曲」になぞ られた空間であるとともに、すべての部

屋を抜けるとムッソリーニのイニシャルであるMを形どつた鷲のレリーフに辿 り着くとい

うファシズム的要素を含む建築でもある。この空間では、前庭、 100本 の柱の間、地獄

の間、煉獄の間、天国の間というこの建物の主要なシークエンスを再現している。特に黄

金分割によって天丼と床が分割、構成されている、地獄の間と煉獄の間ではそれぞれの正

方形にあわせてCAD内 に点光源を配置することで、その空間の違いを際立たせている。

(ヴ ィ トゲンシュタイン邸 ―Paul Engelmann+Ludwig Wittgenstein 1928

と Last HOuse 一Adolf Loose 1932)

この 2つの建物は、同じ時代にウィーンを生きた 2人の哲学者と建築家の設計による、

住宅を比較しながら、この時代を考察するというテーマで 1993年 度に池原研究室の 1

年生8人で行なった研究の一環として行なわれたものである。

ラス ト・ハウスには、 3次元の空間の中に各部屋空間を切り取っていくラウムプランと

呼ばれるロースの空間思想があらわれ、ヴィトゲンシュタイン邸では、すべての労力が住

むことでなく、徹底的な幾何学の獲得に向けられている。コンピュータによる再現はで 2

つの住宅の正面からエントランスにかけてを描いている。ここでもラス トハウスが一度左

39

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眠炉の■バ

の付力0

コアユニ トをつくる

一6J″ο

図4-1l Koningと Lizcnbcrgの シェイプ・グラマーによるライトのプレーリーイト宅の

設ll「 規則

12 シェイプ・グラマーによって新たに41成 された 3つのライ ト風イト宅

たからスタイニー邸、ミッチェル邸、マーチ邸

図 4-

40

Page 55: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

右対象な正面性を形づくつたあとに、その正面性を裏切るように空間が配置されるロース

の住宅の特長を見せているのに対 して、ヴイ トゲンシュタインの幾何学はここでも、徹底

的に追求され、玄関室はその建具や目地にいたるまで 1つの正方形のなかに左右対象に納

められている。

時間を媒介にした建築の構成では、この小節で取り扱ってきた建築空間の再構成とは趣

を異にする。ここまでは失われた建築空間を、コンピュータを用いて、コンピュータだか

らこそ可能な技法を用いながらシュミレーションしてきた。ここではそのプロセスを逆に

して、コンピュータによる時間のシュミレーションから、建築的なアイデアを得て設計し

たものである。

現代建築には、バンチングパネルやガラス等、柔かいや透過する素材に包まれていもの

がある。こうした素材は時間や季節によってその透過率と反射率が変わ り、建物に様々な

表情を与えている。ここで紹介する、アルミバンチングパネルに包まれる「チャールズ 。

ダーウィンの家」と、ガラスの壁が様々な建築要素を挟み込む、 1994年 度に池原研究

室で行なった「横浜港国際客船ターミナル」は、こうした素材に包まれることで時間によ

って変化する建築をひとつのコンセプ トとして設計され、この変化を常にシュミレーショ

ンしながら設計は進められている。

41

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Danicum Ciuscppc Tcrragtti l93B

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地 獄 の 問

煉 fikの 尉I

べ 1‖ σD I‖ |

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テャールズ・ グーウィンの家

風 景 の み が 存 在 す る 丘 の 上 に 存

在 す る 住 居 兼 展 望 台 が 持 つ 2つ の

機 能 。

近 景 に 於 い て は 2枚 の 被 覆 の 内

側 と 外 側 を 行 き 来 し な が ら 、 風 景

を 認 識 す る 装 置 と し て 働 き 、 遠 景

に お い て は 、 バ ン チ ン グ パ ネ ル の

ス ク リ ー ン と そ こ に 挟 ま れ る 、 楕

円 の 回 転 体 の 中 の 住 居 や 、 展 望 の

た め の 経 路 が 時 間 に よ っ て 様 々 な

表 情 を 見 せ る 装 置 と し て 働 く 。

(一 部 抜 粋 )

46

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ギ一一一一一一

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一■

一一一・ 一一一一一一一一一一一

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一鶴

聯 ‐臓l熙嚇弧

□酔鮮螂 衛 鸞警奪ゝ

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轟.銭|

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横浜港日臓客船ターミナル

装 置 と し て の ガ ラ ス BOX

透 過 と 反 射 に よ っ て 時 間 的 に 変 化 を と

げ る ガ ラ ス の フ ア サ ー ド .昼 は 、 近 づ

く 客 船 に 横 浜 の 街 の 風 景 を 映 し だ し な

が ら 、 港 と 船 の 間 に 視 党 的 連 続 性 を 導

き だ す ス ク リ ー ン と し て 機 能 す る 。 ま

た 港 を 行 き 交 う 人 々 か ら は う つ ろ う 空

と 海 を 映 し 込 み な が ら 、 実 態 と し て の

建 物 が 消 滅 し て い く 効 果 を 生 む 。 夜 は

透 明 な フ ア サ ー ド の な か に 反 転 さ れ た

都 市 と そ の 上 に 舞 う 雲 は 一 筋 の 絹 布 の

イ メ ー ジ を 準 む 。 時 に ガ ラ ス の フ ァ サ

ー ド は 発 光 し 船 の 来 光 を 報 せ る 。 フ イ

ル タ ー と し て の ガ ラ ス 面 は 建 物 に 多 彩

な 表 情 を あ た え 、 「 に は み な と Jの 装

置 と し て 働 く 。

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3.CAAl ――コンピュータの与える新 しい視点――

ウィリアム・ ミッチェルやニコラス・ ネグロポンテなどCADを 開発 したの第一世代の

人たちは、自らの手でプログラムしなければならなかった。 しかし、CADが 商品化され

て容易に建築設計の手段としてに利用できるようになった現代、第二世代の我々はそれを

使用するだけで自分でプログラムすることがない。したがって、現在、完全にエンジエア

リングサイ ドのにあるCADを 、より建築的な物に変えていこうとしても、それを変更し

たり作 り出す ことができなくなっているのだ。

コンピュータからから新しい建築を生み出すためには、建築家自身が新しいソフトの開

発に加わるのも一つの手段であろう。前の章で紹介した、P・ アイゼンマンは、彼の事務

所では理論をコンピュータ上に実現するエンジニアリングがいて、コンピュータプログラ

ムから生まれる建築を実現している。

しかし、現在までのところアイゼンマンのような新しい理論を形態化する方法は、前章

で述べたように、新しい形態は生み出すがそれ自体が建築を変える段階にはいたっていな

いと考えられる。その理由としては、彼の使用した理論が建築全体に汎用されるようなシ

ステムに展開される可能性が少ない、特殊解 として存在していること。また、こうした理

論主義とでも呼ぶべき建築の出現 (すなわち、建築にとって外部である社会を無視して、

形態理論のみを建築を設計するための手掛か りとして生まれた建築)が、一つの芸術とし

ては受け入れられても、現在の社会システムに順応していないことが挙げられる。しかし

従来の建築にない新しい建築や形態理論をすべて否定しているわけではない。新しいプロ

グラムは常にその汎用性と、社会システムとの順応を計つていくことが求められるべきな

のだ。新しい形態概念を建築化するソフ トが開発され、コス トダウンによってはパソコン

で稼働するような廉価な 3次元CADで 実現されることで、多くの設計者が利用できるよ

うになること。それによって、再びソフ ト自体とそこから生まれる建築に対する多くの意

見交換が行なわれ再び次の開発を生む。こうした技術開発とコミュニケーションが繰 りか

えされる相乗効果によって新しい建築を生むソフ トと設計環境生まれるだろう。

こうした過程で重要なことが 2つ ある。現在はエンジエアリングサイ ドで作 られたCA

Dソ フ トでモデ リングしているために、結局ソフトと、その中に見え隠れするエンジエア

の思想に建築が拘束されてしまっている。 しかし、こうした過程によって当然発生するで

あろう、建築家とエンジエアのコミュニケーションは、高度な技術と結びつきながらも、

建築家寄 りの新しい設計ソフ トを生んでいくだろうということ。もうひとつは、今まで建

築になかったすべての形態に関する理論が、論議のないまま建築に持ち込まれるのではな

く、あるものはコミュニケーションの中で淘汰され、あるものは生産システム自体も変え

るような新しい建築を生むようなものになるという、取捨が行なわれることだ。

この章では、コンピュータというデジタル技術が可能にする、アナログ的な従来の設計

51

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手法では出来ない形態を用いて設計することを目的としている。ここで用いる形態は、本

来、上記のような繰 り返しの展開を経た、新しい建築サイ ドのCADで 行なうのが最適な

のであるが、現実はそうした環境にはまだ至っていない。ここでは、建築以外の分野で既

に実現され、将来建築用のCADに も用いられるだろう機能や形態を、設計に用いてる。

こうした形態は、多くの建築家に用いられることで、形態だけが先行 した建築の段階から

やがて、新 しい建築を生んでいく可能性があるだろう。

建築は水平垂直を前提としているので、それを設計するための既存のCADの 多くはま

だ形態の種類が限られている。 これに対 して、自動車やインダス トリアル・デザインの領

域ではより自由な曲面や、立体の操作を行なえるCADが 、建築の分野に先行して生まれ

ている。こうした自由曲面は、従来の建築用CADの 中でも、高価なものにはあったが、

この分野のニーズが高まるとともに、現在少しずつではあるが廉価版の建築用CADソ フ

トのなかでも実現しつつある。

この章で実際に用いたシステムは、Intergraph社の、技術者がカメラなど機械デザイン

をするために開発したCADソ フ トである、 1/EMS(Intergraph/Engineering Mode

Hng System)の 中のコマンドを用いている。 1/EMSの 概要は以下の通りである。

1/EMSは インターグラフ社のワークステーションをベースとする機械的設計シ

ステムで、CLIX(ク リッパーUNIX)オペレーションシステムで稼働する。1/EMSは Inte r

P roと InterActク リッパーワークステーション (前 章図 1-3)の 処理能力を、高度

のプログラミング技術およびデータ構造と組合わせて機械部品とアセンプリのモデル

および図面の作成をするための多機能ツールである。

1/EMSは、3-Dワ イヤーフレームモデ リングと共に複雑な曲面サーフェイスおよびソ

リッ ドモデ リング用の統合化 システムで あ り、NURBS(Non Uniform Rational B― Sprin

e)技術 によ リワイヤーフ レーム を作成す る。それ と同時 に、要素のグルー ビングおよ

び図形の結合により、モデルの作成や修正を行なっている間も、要素間および部品間

の関係が保たれるるなど多くのコマンドにより構成されている。

設計者にとってはアイデアを視覚的に表現する手助けとして、ダイナミック機能 (画

面を自由軸で回転させる)、 陰線処理機能、カラーシェーディング機能が提供されて

いるため、ウインドウ作成や操作のテクニックを使って、一つのモデルに対して、様

々な角度からの検討を可能にしている。 (前 章図1-4)

この章ではこのソフトの機能から特に以下の2つ をとりあげて設計を行なっている。

① ソリッド・モデラーを用いたヴォリュームとヴォイドによる負の立体構成

② ブレンド・サーフェイスによる建築部材の構成

〈ソリッド・モデラーを用いたヴォリュームとヴォイ ドによる負の立体構成)

CADシステムの中で、閉じた立体をプリミティプ (デザインを組み立てるための基本

的な図形記号)と して扱えるものは特にソリッド0モデラーと呼ばれる。これらは、直方

体、球、円柱といつた閉じた立体と、それらを操作する、挿入、削除、変形、移動などの

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ObleCtt A BUn 。n

Difference lntersection

eration)

図3-1 プリミティプの和・差・積

図3-2 プーリアン・ツリー

園3-3 建物におけるソリットとヴォイドの1:補関係

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C=A‐B C(Difference Operatio n )

E=C+D{UniOn op

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コマン ドを備えている。 1/EMSの ような大型のシステムでは、単純な 3次元形態どう

しに演算を加えてより複雑な形態を作 り出せる。プリミティプがプーリアン論理計算によ

って組み合わされ、和(Union)の 操作によって 2つ のプリミティプが組み合わされる。差 (

Difference)の操作によって 1つのプ リミティプを別のプリミティブから取 り去 り、積(In

tersection)の操作が両方のプリミティプに共通なボリュームを定義するのである。 (図

3-1)、 こうしたプリミティプ対する操作は、連続して行なうことが可能でブーリアン

・ ツリーによつて表すことが出来る。 (図 3-2)こ の手続き性は、建築家に、繰り返し

のエスキースをすることを可能にするのである。

ソリッド・モデラーの目的は、設計プロセスをより効果的に直接的にすることにある。

伝統的にあらゆる設計は抽象的な表現を通して進行し、ラフスケッチから始まり、様々な

プロ トタイプの作成や物理的な表現で終わる。これに従って設計者は、数学的なモデルや

数百枚もの図面や、様々な材料の模型を人間工学から製造にいたる幅広い目的のために作

成してきた。ソリッド・モデラーは、設計者に対して概念を現実のものにする直接的な経

路を与えることによって、これらのプロセスを簡単にしているのである。

建築において、閉じた立体は、ソリッドの建設部材 (柱・梁など)およびヴォイ ドの空

間 (例 えば、部屋空間)の両方に現われる。 (こ こでソリッド[S01id]と は中身のつまっ

た空間を、ヴォイ ド[Void]と は中身のない空の空間をいう。)そ して建物は常に、ソリッ

ドの集まりとして、また反転したヴォイ ドの集まりとして、二通 りに解釈することが出来

る。 (図 3-3)ヴォイ ドとヴォリュームの関係を捉えて設計を進める考え方は古くから、建築家の設計

思想にあった。しかし、ヴオイ ドを組み立てるという負の立体構成を、模型を用いてエス

キースを進めるのは、不可能ではないが困難ではある。特に、手続き性をもたない模型の

製作は、別の形態のエスキースを進めるときにははじめから作 りなおさねばならず、こう

した、負の立体構成は、コンピュータの登場で非常に幅広い自由度を獲得し、これから建

築家の設計のなかに数多く取り入れられるだろう。

章末の「20世紀博物館」では、この機能を利用したWa Hと VOidの関係を、「現代のさ

や堂一B― 」ではV01umeと Voidの関係を用いて、従来の平面からたちあがるのとは異なる

プロセスから生まれる建築を計画している。

(プ レン ド。サーフェイスによる建築部材の構成〉

プ リミティブなサーフェイスとは対称的に、 1/EMSで 作成される自由形式サーフェ

イスは、規則的な特性を無視 したランダムな形状の非常に複雑なサーフェイスである。例

えば、自動車や、航空機業者ではPlace Least Squares Fit Surfaces及 びPlace Surface

by 4 Boundariesの ようなコマンドで生成されたサーフエイスを自動車のボディーや航空

機の翼の設計に使用している。 (図 3-4)設 計者は、自由形式サーフェイスを用いて建

築に自由な形態を与えることが出来る。

こうしたサーフエイスは、それを囲む自然境界またはエッジが存在し、さらにこの上に

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図 3-4 Placc Lcast Squarcs rit Surfaccs及 びPlacc Surracc by 4 3oundaries

で作成される「1山 形式サーフエイスの例

図3-5 白山‖:Fi状 のサーフエイスの境界

新たに境界を作成することが出来る。この境界によってサーフエイスの切断、または既存

のサーフェイス内に穴をあけることが出来る。 (図 3-5)

こうした自由形式サーフェイスは、やわらかい形態の建築を多く生み出すとともに、既

存の機械製品の生産技術を建築の技術に対応させていくことで、建築化されるだろう。

章末の「Place Blend Surface Between Two Surfaces」 では、同名のコマンドを用いて

2人の間の対話の境界を形成している。このコマンドは、既存の 2つ の曲面間に内部曲線

に沿つてブレンド曲面を配置するコマンドで、各曲面に対して、方向を示すポイントを入

力し、プレンド曲面が既存の曲面か らどの方向に向くかを指示する。 (作品のパースを参

考)

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20,記 博ウ離

20世 紀 と い う 時 代 を 通 し て 、 我 々 は 自 ら の 存 在

を ア ピ ー ル し 続 け て き た 。 絶 え 間 な い 発 展 と 構 築 の

歴 史 は 、 一 方 で 戦 争 や 環 境 破 壊 を 生 ん で き た 。 21

世 紀 を 目 前 に し た 今 、 わ た し た ち の 日 の 前 で 、 そ の

最 大 の プ ロ ジ エ ク ト が 行 な わ れ よ う と し て い る 。 三

峡 ダ ム プ ロ ジ ェ ク ト 、 長 江 の 治 水 と 電 力 の 代 債 に 流

域 632万 km 2と 生 物 の 住 み か 、 100万 人 も の 人

の 生 活 の 記 憶 、 そ し て 長 い 歴 史 が 作 っ た 峡 谷 の 姿 が

水 深 170メ ー ト ル の ダ ム 湖 に 沈 む 。

我 々 は 此 処 に 、 20世 紀 博 物 館 を 構 築 す る 。 20

世 紀 が ど う い う 時 代 だ っ た か を 定 義 す る の は 、 同 時

代 を 生 き て い る 今 の 我 々 に は 難 し い 。 我 々 に 言 え る

の は 、 100年 間 と い う 時 間 が 、 人 類 の 長 い 歴 史 と

同 じ よ う に 流 れ て い た と い う こ と だ け で あ る 。 20

世 紀 博 物 館 と し て 、 何 か を 構 築 し て し ま え ば 、 構 築

自 体 に 意 味 が 生 ま れ て し ま う 。 そ こ で 、 こ の 博 物 館

は 、 地 形 か ら 生 ま れ た 壁 に 、 展 示 の た め の 空 間 だ け

を 逆 構 築 す る こ と で 成 立 し て い る 。

2005年 水 間 が 閉 じ ら れ 、 2年 間 の 時 間 を か け

て ゆ っ く り と 博 物 館 は 水 没 し て い く 。 湖 底 の 廃 墟 と

水 上 に 残 さ れ た わ ず か な 博 物 館 は 、 我 々 の 行 為 を ア

ピ ー ル し 続 け る 。

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20,1111

20世 紀 博 働 館 は 以 下 の 4つ の エ レ メ ン ト に よ

り 構 成 さ れ る 。

〈 時 間 の 構 集 〉

20世 紀 に 流 れ て い た 時 間 を 視 党 化 す る た め

に 、 巨 大 な 光 の 輸 が ,か れ る 、 20世 程 博 物 館

は こ の 巨 大 な 光 の 輸 の 一 部 、 ダ ム に 平 行 し て 5

00mの 長 さ の 敷 地 に 作 ら れ る .

く地 形 の 機 集 〉

2bも の 長 さ の 量 に 平 行 、 あ る い は 、 垂 直 に

壁 が た て ら れ る 。 そ れ ら は 経 や か に 整 る 地 形 を

視 党 化 す る た め に 、 時 に は 水 平 に 、 時 に は 、 傾

斜 と 並 行 し た 高 さ が 与 え ら れ る 。

〈 空 間 の 逆 構 築 〉

時 間 の 輸 の 一 部 と し て 、 ダ ム に 平 行 な 大 き な

導 線 空 間 と 、 展 示 の た め の 連 続 し た 空 間 が 壁 か

ら 穿 た れ る 。 ■ALLと VOIDの 関 係 。

く審 判 の 神 殿 〉

満 水 の ダ ム 湖 の 湖 岸 に 、 審 判 の 神 殿 が 構 築 さ

れ る 。 テ ラ ー ニ が ,ダ ン テ の 新 山 に な そ つ て 作

っ た 神 殿 が 再 構 築 さ れ ,湖 底 の 廃 墟 と と も に 、

20世 紀 を 饉 り 競 け る 。

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110さ や1-3-

そ の 真 偽 、 虚 構 性 、 存 在 輌 値 を 固 わ れ ぬ ま ま 現 代 社 会

に 氾 置 す る メ デ イ ア の 中 で 、 我 々 は 真 実 を 見 る 意 志 を 喪

失 し つ つ あ る 。

テ レ ビ 、 ラ ジ オ 、 雑 誌 、 マ ル チ メ デ イ ア …・ あ ら ゆ る

情 報 が 散 ら ば る 現 代 社 会 の 中 で 我 々 は 何 を 基 準 に 物 を 見

て い る の で あ ろ う か ? 日 常 の テ レ ビ の デ ィ ス プ レ イ 上

に 流 れ る 様 々 な 映 像 の 中 で 我 々 の 感 覚 は 麻 痺 し て は い な

い だ ろ う か ? あ る 人 は 目 の 前 で 起 き た 出 来 事 よ り も 、

そ の 出 来 事 が ニ ユ ー ス 化 さ れ た 事 件 の ほ う を 事 実 と し て

認 識 し て い る 。 あ る 人 は 画 面 上 に 流 れ る 戦 争 の 映 像 、 し

か も そ れ が 必 ず し も 公 平 な 物 か も わ か ら な い 操 作 さ れ た

映 像 を 、 娯 楽 番 組 の よ う に 事 実 を 伝 え る 映 像 と し て 楽 し

ん で い る 。 こ う し た 現 象 が 日 常 生 活 の 中 で 頻 繁 に 起 き て

い る の が 現 代 な の だ 。

我 々 の 見 る こ と に 対 し て の 絶 対 的 価 値 観 の 根 源 は 既 に

メ デ イ ア の 氾 濫 の 中 に 飲 み 込 ま れ て し ま っ て い る の だ 。

現 代 は メ デ イ ア な し て は 生 き て い け な い か も し れ な い 、

し か し 、 我 々 は そ の 受 け 取 り 方 に 対 し て 、 そ し て そ の 認

識 に 対 し て 考 え な け れ ば い け な い の で は な い の で あ ろ う

か 。

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現10き や壼―B―

こ れ は メ デ ィ ア を 1つ の メ タ フ ア ー と し た 現 代 の さ や 堂 、 映 像

の た め の パ ビ リ オ ン で あ る 。

現 代 の さ や 堂 は 、 単 に 田 う と い う 単 純 な 関 係 の 中 に は 存 在 し な

い 。 こ の パ ビ リ オ ン は コ ン ピ ュ ー タ 上 で 行 な わ れ る 以 下 の 操 作 に

よ り 生 ま れ る 。

PRO」 ECTOR,SCREEN,PASS,LIGHTと い う 4 つ の 要 素 〈VOID)

を 内 包 す る 4つ の VOLUIEを 1つ の ユ ニ ッ ト と し て 11個

の ユ ニ ッ ト が 並 べ ら れ る 。

1つ の ユ ニ ッ ト で は 4つ の VOID lつ ず つ に そ れ ぞ れ に V0

LUMEが 対 応 す る 。 異 な る 形 態 を も つ VOIDに 対 し て VOLU‖ E

は 合 同 な 7000立 方 の 立 方 体 で あ る 。

1対 の VOIDと VOLUJEに メ デ ィ ア の 操 作 と 同 じ よ う に 3次

元 的 座 標 (dx,dy,dz,dθ x,dθ y,dθ z)操 作 を 加 え る 。 そ の 操

作 は 並 べ ら れ た 同 じ VOIDを 内 包 す る VOLUIEに 同 じ 操 作 が

繰 り 返 さ れ る 。 (以 上 図 3-6)

CADの プ ー リ ア ン 演 算 を も ち い て 、 44個 の VOLU“ Eの 和

か ら 、 44個 の VOIDの 和 が 引 か れ る 。 あ る い は 、 4つ の

VOLUIEの 和 か ら 4つ の VOIDの 和 を 引 い た 11個 の ユ ニ ッ

ト か ら 和 集 合 を 生 む 。 (演 算 の 結 果 は ど ち ら も 同 じ で あ

る 。 )(以 上 図 3-7)

外 部 は あ ら ゆ る 情 報 が 、 液 品 バ ネ ル で 構 成 さ れ る 外 壁 に 映 し だ

さ れ る 。 そ の 情 報 は い つ も 我 々 が 手 に し て い る メ デ ィ ア と 同 じ く

無 作 為 で 、 断 片 的 で あ リ ー 見 し て そ の 判 断 は で き な い 。 (図 3-

8)そ し て そ の メ デ イ ア の 真 実 を 暴 く た め の さ や 堂 の 内 部 で は そ

の 情 報 が 整 理 さ れ 1つ の PRO」 ECTORか ら SCREENに 映 写 さ れ る 。 (

図 3-9)

幾 重 に も 映 像 が 積 層 し た さ や 堂 の 内 部 は 、 整 理 さ れ た 映 像 が 映

し だ さ れ る 時 間 と 、 薄 暗 い 空 間 に 光 が 落 ち て く る 時 間 が 繰 り 返 さ

れ る 。 透 過 す る 内 壁 を 通 し て 、 建 築 を 支 え る 構 造 と 、 映 像 を 支 え

る 配 線 、 複 雑 な 映 像 を 流 し 続 け る 外 壁 の 裏 側 が 視 認 さ れ る 。 (図

3-10)時 に 内 側 の VOIDは VOLU“ Eを 浸 食 し 、 虚 像 と し て の 映 像

の な か に 断 片 的 に 都 市 の 実 像 が 飛 び 込 む 。

虚 像 と し て の 都 市 、 真 実 と し て の 町 の 光 景

虚 像 と し て の 外 観 、 真 実 と し て の 内 観

虚 像 と し て の 映 像 、 映 像 の な か の 真 実

真 実 と 虚 構 が 繰 り 返 さ れ る 映 像 の パ ビ リ オ ン の 中 で 人 々 は 真 実 を

見 る 意 志 を 取 り 戻 せ る だ ろ う か 。

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VOID B C PRO」 ECTOR&SCR[EN

VOLUME A D

VOLUME 8,D

VOLUME C,D

図 3-(

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 メ”一・櫃距

・”〓                ・

 

 

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図 3 - 8

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図 3 - 9

70

図 3 - 1 0

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透過す る内壁 、構造、外壁の裏側

その真偽、虚構性 、存在価値 を問われぬ まま現代社 会に氾濫 する メディアの中で、我々は真実 を 見る意志 を喪失 しつつある。

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Placc Blenrl Ectreen Tro Surfacce

い ま な お―、 現 代 音 楽 に 大 き な 影 薔 を 及 ぼ し 競 け て い る 音 楽 象 、 エ リ

ッ ク ・ サ テ イ ー・ 1866年 フ ラ ン ス 生 ま れ の 餃 は 、 59年 |の 生 置 に

様 々 な 人 と の 出 会 い と

"れを

り 返 し て き た・ ド ビ ツ シ ー 、 ス ト ラ フ

ィ ン ス キ ー 、 コ ク ト ー 、 プ ラ ン ク ー シ 、 ビ カ ソ 、 ビ カ ビ ア 、 デ ■ シ ャ

ン 、 そ し て 幾 人 か の 女 性 .

技 の=は

、 友 人 と の 出 会 い を 形 づ く る 場 と な る 。

サ テ ィ ー と 友 人 の 対 話 の た め の BOX

二 人 の 椰 量 を 仕 切 る 壺 菫 に 立 ち 上 が る 平 面 で も な く

デ ザ イ ン と い う 名 前 で 構 築 さ れ る の で も な く

二 人 が そ の 場 所 に い て は じ め て 生 ま れ る 対 話 が 境 界 を 形 成 す る

二 人 の 関 係 に よ つ て 境 界 に 穴 が 穿 た れ る

宗 教 家 と は 光 で 結 ば れ

音 楽 象 と は 音 で お ば れ

愛 人 と は 花 の ■ か れ た 日 で 縮 ば れ る

時 に は 、 視 線 だ け が 交 備 し

時 に は 、 口 か ら 友 人 を 迎 え い れ る

時 に 、 境 界 は 日 ぎ さ れ た ま ま 傍 に い る だ け の こ と も あ る か も し れ な い

境 界 の な い 部 屋 に は サ テ イ ー が 真 に わ か り 合 え た 友 人 が い る の だ ろ う か

あ る い は

境 界 の な い 椰 量 に は 、 現 代 の わ た し た ち が い る の か も し れ な い

自 分 自 身 を さ ら け だ し て 生 き る こ と の な い わ た し た ち の 部 屋 を

サ テ ィ ー は 境 界 も 作 ら ず ,何 も 饉 ら ず 、 素 通 り し て い く

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対話の境界

サティーと友人の対話のための箱二人の部屋を仕切る境界は

ただ単に空間を仕切る垂直な壁でなく

デザインという名前で構築されるのでもなく

二人がその場所にいてはじめて生まれる対話が境界を形成する

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宗全lllil[[1界に穴が穿たれる

く(音楽家とは音で結ばれ

愛人とは花の■かれた鶴で結ばれる

時には、視線だけが交錯し

時には、扉から友人を迎えいれる

時に、境界は用ざされたまま■人がただ傍にいるだけのこともあるかもしれない

境界のない部屋の向こう偏

そこには被が真にわかり合えた友人がいるのだろうか

もしかすると

そこは、いまのわたしたちの部屋かもしれない

自らをさらけだして生きることのないわたしたちの前をサテイーは、何も語らず素顕 りしていくのだ

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4.CAA2 一 建築生産システムの中で 一

これまで建築家によるCADの 利用は主に形態操作に向けられていた。

繰 り返し述べてきたように、重力のない世界での自由な形態の組合せは一見して、建築

家に無限の可能性を与えているようにも見える。しかし、建築は常にその構造、素材,そ

して現代社会においては生産システムとの関係すべてを否定することはできない。重力の

存在する実世界では、垂直に建てられた鉄やコンクリー トなどの構造材が建物の荷重を支

えている。そして工業化の中で規格部材が流通し、規格外の特注部品を用いればその値段

は数倍にも跳ね上ってしまう。

CADは 複雑な形態を生むことを可能にし、またその複雑な形態を実現するための役割

も果たしている。しかしこうした建築が現代の建築の生産システムに対応 しているとは言

い難い。例えば第 1章で、模型との同一性を指摘したP.アイゼンマンの布谷ビルディン

グは建設価格 (坪単価)が 200万 円を超え、バブル崩壊以降の一般的なオフィスの建設

費の 70万円/坪に対して 3倍にもなっている。新しい建築を生むための変換点になるよ

うな建築物は、歴史的に見ても時の権力者というパ トロンがスポンサーとなった高価な宝

石箱であつたものもある。しかし、それらは単に高価なだけでなく、その時代の建築の生

産システムに対応するという基盤があったからこそ、現代でも歴史上の建築物として語ら

れ、多くの建築と建築家に影響を与えてきたのである。CADは 単なる設計の道具に過ぎ

ない。新しい構造や材料が直接形態に関与してきたのに対して、道具が関与するのは設計

という建築を作るプロセスであり、出来上がってくる建築自体ではない。したがってCA

Dによって生まれる新しい建築がどんな形であれ、最終的にはそれが現代の建築生産シス

テムにのったもの、あるいは生産システムを変えていくようなものでなければ、ある種の

芸術作品として受け入れられたとしても、広く建築の新しい潮流とはな りえないだろう。

アイゼンマンはこのことに関して、「我々は (ソ フ トウェアーの開発に加えて)建築生

産の面も遅れをとっています。別の言い方をすれば、建築用の部材は依然として規格化さ

れたものしかありません。ただ我々がこれまでとは変わつた形のものをコンピュータ上で

作 り始めれば、形態的にもまったく違つた方向性をもったものがでてくるでしょう。その

時には生産はさして大きな障害にならないと思います。」と、述べている。しかし、コン

ピュータで生まれた建築が、実際に建築システムを大きく変えるような動きにまで発展す

るには、そうした建築群が、様々な社会的な評価を受け、広く社会に受け入れられた後の

ことになるだろう。旧来の生産システムが稼働している現状では、CADを 用いて設計す

る時、単に形態操作のみを行なうのではなく、建築の生産システムも考慮に入れていくべ

きではないだろうか。

建築生産システムは建築家の発想の実現を妨げるだけではない。コンピュータの制御の

下Automation化 されている自動車や精密機器など様々な機械の業種に対 して、多品種少数

生産の極である一品生産の業態をとる建設業では、Automation化が進んでいるとはいえな

79

Page 128: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

い。しかしその原材料の生産現場では、ガラス、鋼、パネル、プレキャス トのコンクリー

ト部材など、多くの物がコンピュータ制御の下、工場で生まれている。この章ではコンピ

ュータの大量情報処理能力を生かしなが ら、現在の生産システムを利用し、設計の中にと

りいれることを考えてみたい。

まず最初に、スケールは異なるがいずれも金属パネルで構成される曲面に包まれた 2つ

の建築、伊東豊雄氏設計の下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館 (以後諏訪湖博物館)と

R.ピアノ氏設計の関西国際空港旅客ターミナル (以後MTB、 金属パネルの素材はそれ

ぞれアルミとステンレスで構成されている)を とりあげ比較考察したい。

(下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館〉

諏訪湖博物館 (図 4-1)を 設計した伊東豊雄氏はシンプルで大きなシルエットについ

て、「交通、エネルギー、情報など、日に見えるものと見えないものの流れによって現代

の都市は出来上がっている。様々に流動する空間の中にある建築を、渦のようなものとし

て考えたい。そのベースにあるのが地形の流れ。地形があるとそこに水が流れ、空気が流

れる。ここでは湖岸に平行に走る道路の交通の流れと、山と湖の作る地形の流れを建築化

したかった。」と、コメントしている。

建物を特徴づける前面の舟形のヴォリュームを覆うアルミパネルは、3次曲面の特異な

かたちを分解 して、コンピュータのワイヤーフレームのようにドライに分割された、ニュ

ー トラルな平面パネルの集積へと一般化することが意図されている。

この建物の湖側の平面は中心を微妙にず らした半径 200mと 180mの 円弧の一部か

らなり、内側の円周を3mピ ッチに区切る放射線の上に、ふたつの円弧を組み合わせたア

ーチが中心の高さを変えなが ら架けられている。このふたつの円弧の変曲点から等間隔に

うたれた点どうしをつないで得 られた約 lm× 3mの平面をパネルの単位としている。 (

約 350枚 )平面を構成する円弧が同心円上にないために、この曲面は回転体の一部とな

らず歪んだ面となっている。ここでは、外径の歪んだ曲面を四辺形の平面パネルに分割す

るという問題と、オープンジョイントの日地からの雨水処理の問題をを解決しなければな

らかつた、そこで 3次元CADを もちいたシュミレーションによって、鉄骨、サッシの取

り合いにフィー ドバックさせることで解決をはかつている。

前者の問題は、CAD図 面と連動したパネルの切断技術の開発により、異なるパネル製

作を同一形状のものとコス ト面での差があまりでないようにして、短辺方向 1064111111を

共通にして、パネルの長編方向の長さと短辺方向との角度をすべて微妙に変えることで、

歪みに対応させている。

雨水に関しては工事の精度の違いから鉄骨とパネル下地を切り離し、それぞれの面で 2

重の防水が考えられている。 3111111の アルミ板にスタッドボル トで裏打ちされたアルミ押出

型材の下地の長辺方向が、パネル同士かみあつて横樋にな り、パネルを受けるアルミ押出

型材の力骨が縦樋となっている。この縦樋が曲面の形状のガイ ドラインとなるため、鉄骨

に東を取り付けるところから金属工事の範囲とし、縦樋は 1本ずつ測量しながら取り付け

られた。 (図 4-2)この建物は92年 3月 から施工図が描かれ、 7月 の鉄骨建方と平行して束を取り付け、

350枚 のパネルエ事の最後の一枚がはられたのは 10月 の半ば過ぎであつた。

80

Page 129: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

図 4-1 下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館

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同館・アルミ屋根詳細

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東側端部詳細図(16)

図 4-2

Page 130: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

(関西国際空港旅客ターミナル〉

MTBは 全長 1.7mの 巨大な建築形状の中に、内部機能が必要とするボリュームの確

保に加えて、管制塔からの航空機視認のための高さ制限が課せ られている。このため、ウ

イング断面が端部にいくほど小さくな り、ウイングの中央と端部とでは、天丼高に12m

以上の違いがある。

この与条件の下で、全長 1,7bの 施設を滑らかな曲面でまとめるための形態学的アプ

ローチがもとめられた、それは、「このような巨大な構造物に数学的な論拠が存在しなけ

れば、現場管理や製作上の品質を確保することは到底できない」 (R・ ピアノ。ビルディ

ング・ ワークショップ 。ジャバン代表岡部憲明氏)か らであつた。それゆえMTBで は、

建設の全工程をシンプルなジオメトリー (幾何学的)理論で律している。そしてこの理論

自体がこの建築物の重要なコンセプ トのひとつになっている。

ターミナルビルのウイング断面形状は、半径の異なる4つの円弧で構成されている。こ

の断面をターミナルビル中央のウイングでは水平に移動させたシリンダー状の曲面によっ

て、また両サイ ドのウイングにおいてはそれぞれ 16.4bを 半径として回転させた トロ

イ ド曲面によって全体の屋根形状を構成している。 (図 4-3)こ れは一見して複雑な形

態ではあるが、ジオメ トリー理論を適用することによって、パネルや構造の 2次部材の寸

法はすべて統一することができる。WTBは 巨大な建築であつたために、 トロイ ド面を 1

800× 600111111の ステンレスパネルで割 り込むと、パネル間の差異は 2111111以 下となり、

施工誤差の範囲に納まることで特別なフィッティングの調整なしに同一のパネルにより構

成されている。 (図 4-4、 5)

ステンレスタイルやガラスグレージングなど、スキンの側から建物のファサー ドを突き

詰めていくと、 1枚のパネルにまで到達する。全体から部分へ、精度を落とさずに押さえ

込めれば、製作や施工の段階で、部分から全体へ、エレメントを積み重ねていっても高精

度を維持できる。建築の建設手順の流れとはまったく逆に、構造体は、このスキンをフォ

ローする形で副次的に決定されている。南北に680mず つ細長くのびるウイングではラ

チスシェル構造で、 7.2m間 隔で並ぶ鋼管リブと、シエル面を形づ くる角型鋼管の2次

部材とブレージングから構成されている。このウイングでは仕上げ材の割り付け精度を維

持するために、リブ鉄骨の建方精度は建設工事中最も厳しく求められた。また鉄骨の形も

一本一本違っていた。しかし、この鉄骨もジオメ トリー理論にのっとているために、同じ

治具、同じベンドで製作されているのが特徴であり。また2次部材はすべて一定の長さに

なっている。

2つ のプロジェク トはいずれもCADを 発想の道具として利用したものではないが、そ

の設計のコンセプ トの中の形態に対する考え方の決定的な違いはこれからのCAD利 用を

考えていく上で重要なものになってくると考えることができる。諏訪湖博物館のような「

流動的な空間」という建築家の物語よって生まれるある意味で自由な、そして数学的意味

を持たない曲面構成はCADシ ステムのサポー トにより、形態に対する技術的問題を乗り

越えている。これに対してMTBの 屋根は、その形態から施工管理に至までジオメトリー

理論を適応することによって生まれている。これは空港ターミナルという巨大なビルディ

ングタイプだから生まれたのもしれない。しかし、ここでは建築の形態とエンジエアリン

82

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図4-3 MTBジ オメトリーFl論

本館の屋根形状は平行移動 (a)に よって定義されるのに対 して、ウイング リプは、回

1云移動 〈b)の ljJl跡 と均等角度スライスで標準化される。そのため、ウイング リプは x,

yの 両方向に傾斜 している。

図4-4 関西国際空港旅客ターミナル (MTB)エアサイ ドからみたウイング

ウイ ングは端部にいくほど基準になる リブ鉄骨が傾いていく。屋根は高耐侯性のステン

レスタィル (1800× 6 0 0mm)。 ジオメ トリー理論によって全体形態を決めてお り、

8′ ,4「 ′プにおよぶ屋根タイルは同一形状で ある。

Page 132: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

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図4-5 MTBル ーフクラデイング接合システム

ルーフ仕上げ材は高耐侯性ステンレス

のパネルサイズは1800× 6 0 01ml,

アタッチメントで設置している。

(suS447)、 パネル厚さ lm、 1ユニツト

下地材の断熱材をサンドイッチしたダブル折板に

グのせめぎあい、表皮や構造の幾何学に対する方向性を我々に見せてくれる。ボリューム

だけの表現主義を乗り越えるために、被覆という概念をもちいて、巨大な不定形の建築物

を作る際、視覚的に明瞭にするための表皮の表現している。諏訪湖博物館では、技術が形

態をサポー トしているのに対して、MTBで は、技術と形態がお互いに昇華しあつてひと

つの建築を作 り上げているのだ。

建築の形態とエンジエアリングのせめぎあいは、2つの建物にみられる曲面の皮膜の中

のみに存在するわけではなく現代建築すべてに起こつていることでもある。MTBは R.

ピアノ氏とパー トナーである岡部憲明氏によってうまれたジオメトリー理論により、単一

のパネル 8万 2000枚 を用いて不定形の表皮を被覆している。同様に現代の建築が、コ

ンピュータによつて制御され製作される工業化部材によって構成されているならば、こう

した領域にCADを 利用しなが ら設計することで建築デザインを広げていく可能性がある

だろう。

第 2章では建築生産のシステムを統合するようなコンピュータの利用に関する動きを紹

介 した。しかしこの動きは職能としての建築家、コーデイネーターとしての役割の手助け

をするかもしれないが、建築家の新しい発想を助けるという本来のCAAの 定義に的確に

当てはまっているとはいいがたい。

この章では現代社会のなかに存在するコンピュータと関連した生産システムを、建築を

成立させる上での制約として捉えるのではなく、建築家の発想を広げる手助けとして利用

し、生産技術と建築家のアイデアが並立するようなた 2つ のプロジエクトのデザインプロ

セスを追つていきたい。ひとつは板ガラスの製造工程の中でのコンピュータ利用を、その

84

Page 133: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

まま建築デザインに変換することによって設計した、「現代のガラスの茶室」。もうひと

つは、プレキャストコンクリートをCADの複写配列機能を利用して、広く都市のなかに

応用した青山墓地を対象にした計画「The Silent Volulle/Void ln The City」 である。

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Page 134: CAA (Computer Aided Architecture) を目指して コンピュータは建築を変えるか      

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こ の ガ ラ ス の 茶 室 は 、 1)フ ロ ー ト 板 硝 子 の 素 板 の 製 造 工 程 と 、

2)強 化 ガ ラ ス の 加 工 工 程 か ら 生 ま れ る 。 こ れ ら の 製 造 工 程 は 、

製 品 の 品 質 を 高 め 、 そ れ を 合 理 的 に 生 産 を す る た め に 、 コ ン ピ ュ

ー タ を 利 用 し た 管 理 シ ス テ ム が 大 き な 役 割 を は た し て い る 。 (図

4-6)主 要 な 生 産 設 備 は プ ロ セ ス コ ン ピ ュ ー タ で 制 御 さ れ て お

り 、 製 品 の 受 注 か ら 出 荷 迄 の シ ス テ ム を オ ン ラ イ ン で コ ン ト ロ ー

ル し て い る 。 こ の プ ロ ジ エ ク ト で は 、 こ の 製 造 工 程 に デ ー タ ー を

転 送 す る こ と を 想 定 し て い る 。

1)フ ロ ー ト 板 硝 子 の 製 造 工 程 〈 図 4-7)

板 ガ ラ ス は 全 長 500mの 長 さ に も な る 生 産 ラ イ ン で 生 ま れ る 。

珪 砂 、 ソ ー ダ 灰 、 石 灰 石 、 苦 灰 石 な ど の 主 原 料 を 一 定 の 割 合 で

調 合 し た 後 、 適 当 な 割 合 で ガ ラ ス 屑 (カ レ ッ ト )を 配 合 す る 、 こ

o O℃ の 高 温 で 完 全 に 溶 解 さ れ 、れ ら は 溶 解 炉 内 で 1500~ 16

ガ ラ ス 化 し 、 澄 み 切 っ た ガ ラ ス の 素 地 と な る 。

こ の 素 地 を 整 形 に 適 し た 粘 度 に な る ま で 温 度 操 作 を し て 、 フ ロ

ー ト パ ス の 上 で 板 状 に す る 、 こ れ を 徐 冷 窯 で 、 歪 み を 生 ま な い よ

う 十 分 に 冷 却 し た 後 、 洗 浄 、 乾 燥 し 切 断 さ れ 製 品 と な る 。

(図 4- 8)

2)強 化 ガ ラ ス の 加 工 工 程

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切 断

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1/3

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図 4 - 7 フ ロ ー ト 板 硝 子 の 製 造 工 程

図 4 - 6 製 造 ラ イ ン 制 御 と コ ン ピ ュ ー タ に よ る 商 品 管 理

図 4-8 フ ロ ー ト 徐 冷 窯

87

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1.あ る 日 ガ ラ ス エ 場 を 見 た 。

1500度 の 炉 の 中 で 溶 か さ れ た 原 料 は 、 フ ロ ー ト パ ス

の 中 で 均 一 な 厚 み が 与 え ら れ 、 そ し て ゆ つ く り 冷 や さ れ る 。

最 後 の 工 程 で 断 ち 切 ら れ な け れ ば 、 1つ の 生 産 ラ イ ン が 寿

命 を 迎 え る 8年 の あ い だ 造 り 続 け ら れ る 無 眼 の 長 さ を も つ

幅 3750mの 透 明 な 物 質 。

そ れ は 現 代 の 技 術 が 生 ん だ 無 垢 な 素 材 で あ つ た 。

2.ガ ラ ス の 素 材 を 見 つ め て

ガ ラ ス は 機 械 的 に 制 御 さ れ 3

そ れ ぞ れ 入 力 し た デ ー タ (図 4

た 水 が 吹 き 付 け ら れ 穿 た れ る 。

に 研 か れ る 。

750ロ ビ ッ チ で 切 断 さ れ 、

9)と お り に 砂 の 混 じ つ

そ の 断 面 は 安 全 の た め 平 清

3.107枚 の ガ ラ ス (国 4-10)が ジ ヨ イ ン ト を 扶 ん で

重 ね ら れ る 。 一 枚 一 枚 の 中 空 が 積 層 さ れ 、 3750立 方 の

ガ ラ ス の ポ リ ュ ー ム の 中 に 茶 室 の 空 間 が 浮 か び 上 が る

4.ガ ラ ス の 中 の 特 庵 (国 4-11、 12)

透 明 な ガ ラ ス の 中 の 行 為 を 予 感 し な が ら 茶 室 に 入 る 。 内 部

の VOIDで は 、 ガ ラ ス の 腱 間 か ら こ ば れ 落 ち る 光 が 乱 反 射 し 、

様 々 な 時 間 を か た ち づ く る .爾 音 を 感 じ 、 風 が 吹 き 抜 け る

層 状 の 断 片 の 中 で 身 体 の 所 作 を 媒 介 と す る 演 劇 が 行 な わ れ

る 。

88

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ガ ラ ス パ ネ ル 部 品 図 SAMPLE

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The Silent Votune/Vold ln The City

プ レ キ ャ ス ト ・ コ ン ク リ ー ト の 思 想 は コ ン ク リ ー ト 構

造 物 が 考 案 さ れ た 19世 紀 後 半 か ら 、 収 縮 防 止 、 R Cの

高 強 度 化 、 軽 量 化 を め ざ し て 発 生 し た も の で あ り 、 鉄 が

ピ ア ノ 線 と し て 高 強 度 を 発 揮 で き る よ う に な っ て 実 用 化

さ れ た 。 P C工 法 に よ る 建 築 物 に は 以 下 の 3つ の 特 徴 が

あ る 。 ひ と つ は 建 築 の 平 面 計 画 と 自 由 度 が 広 が る こ と で

あ る 。 さ ら に 、 コ ン ピ ュ ー タ 管 理 の 下 、 高 品 質 、 高 耐 カ

の コ ン ク リ ー ト を 使 用 す る こ と に よ り 、 耐 久 性 や 耐 震 性

に 優 れ た 建 築 構 造 を 実 現 で き る 。 ま た P Cシ ス テ ム を 生

か し て プ レ キ ャ ス ト 化 す る こ と で 、 工 期 の 短 縮 や 現 場 作

業 の 簡 略 化 な ど 合 理 化 を 計 る こ と が で き る 。

こ の 内 |プ レ グ リ ッ ド |と は 図 4-13の よ う に 2方

向 に 自 由 に 展 開 で き る シ ス テ ム の 構 造 エ レ メ ン ト で あ る 。

本 来 、 大 空 間 用 を 構 成 す る た め に 開 発 さ れ た も の で あ る

が 、 規 模 種 類 は 使 用 用 途 お よ び 目 的 に よ っ て い か よ う に

も 対 応 可 能 な 自 由 度 を も っ て い る 。

こ の Projectは 、 こ の プ レ グ リ ッ ド シ ス テ ム を 、 C A

Dの 複 写 配 列 機 能 を 利 用 し て 都 市 の な か に 広 く 応 用 し た

も の で あ る 。

プ レ グ リ ッ ト シ ス テ ム図 4 - 1 3

96

1/2

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The Silent Volume/Vold in The City

Project At TO【 Y0 10YAI▲ 2015

東 京 の ど こ に で も 見 ら れ る 光 景

ビ ル の 立 ち 並 ぶ 表 道 り の 雑 踏 を 抜 け

そ の 裏 で 寄 り 添 う よ う に た つ 住 宅 群 を 抜 け る

突 然 都 市 の VOIDに 遭 遇 す る

VOIDを VOLUME化 す る 、 そ れ に よ る VOIDの 認 識

(図 4- 1 4)

既 存 の 墓 の う え に 渡 さ れ る プ レ グ ッ ト の フ

レ ー ム は 、 透 過 す る シ ス テ ム 、 ガ ラ ス の 外

皮 と 、 や わ ら か い 光 を 取 り 込 む た め の 屋 根

に 包 ま れ る 。 ガ ラ ス プ ロ ッ ク 、 グ リ ッ ド 、

ガ ラ ス の 箱 と 繰 り 返 さ れ る 形 の な か の 、 グ

リ ッ ト の 森 の な か に ガ ラ ス の 柱 墓 が 組 み 込

ま れ 、 そ こ に 人 の 魂 が 納 め ら れ る 。

(図 4-15~ 19)

都 市 を 見 渡 す 透 明 な 回 廊 か ら 、 こ こ に 生 き

た 人 々 の 魂 が こ の 街 を 見 守 る 。 硝 子 の 箱 が

こ こ に 生 き た 人 々 の 記 憶 を 都 市 に 話 し 掛 け

る 。

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図 4 VOIDO VOLUME化

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I Structuol Frome2 Solor Control GrillI Glozinc Gloss

& Alumi Honeycomb Ponel4 Ceiling Skin5 Closs Tomb ljnit6 Corridor & Floor7 Pre-cosi 6ridB txisting Tomb9 6loss \,/olll0 6loss Support Frome

図 4 - 1 5 Diagram

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図 4-1

図 4-1

図 4 - 1

図 4 - 1

6

7

8

9

図 4 - 1 6

既 存 の 墓 の う え に 渡 さ れ る フ レ ー ム

ガ ラ ス の 外 皮 、 透 過 す る System

や わ ら か い 光 を 取 り 込 む た め の 屋 根

グ リ ッ ド の 森 の な か の ガ ラ ス の 柱 に 納 め ら れ る

図 4 - 1 7

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| =J.

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5.CAA3 -一 素材に関して一一

コンピュータによる設計は、形態を組み上げていくだけでない様々な可能性を持ってい

るはずである。 2章で取り上げた、光や、時間を媒介にした空間の再構成や、次世代の設

計環境もそのひとつといえるだろう。とくに建築が、形態とともにそれを構成する素材と

切り離して考えることはできないならば、CAAの ひとつとして素材の可能性を検証する

必要があるだろう。本章では、コンピュータで行なう素材のシュミレーシションや、コン

ピュータが生む新 しい素材の可能性などを、形態と技術との関連を考えながら考察 してみ

たい。

2.1.素 材の歴史と機能、形態との関係

人間は、その長い石器時代の当初から、周囲に存在する様々な自然材料を取り上げ、そ

れを自分たちの生活に役立つような形に整えることを努力し続けてきた。梶棒から丸太小

屋や小舟や車輪に至る木工技術の進歩。尖った自然の石片から鋭く成形され研磨された石

斧や、また巨大な記念碑的建造物に至る石の硬さと人間の力との戦い。また土の粘土的、

可塑的、固体的という自然な性質に同化しつつ創り出した土器や土壁の使用。この木、石

土、という三種の材料と人間とのつながりが、人間の文明への道を切 り拓くための基本的

な物質的基盤を形づくつてきた。

こうした素材は、建築との関係を考えると二つの大きな変革を迎えてきた、ひとつは鉄

や、ガラスといつた物質の内面的な組成を変えた素材の登場であり。もうひとつは近代以

降の、工業化による大量生産が、現代の建築を構成する部材の基盤を造ってきたことであ

る。

上記の三つの素材 (木、石、土)に対する追求は、ある意味では自然材料に対する人間

の消極的追求であった。それ らは、自然に存在 している物質をその存在の性質にしたがっ

て、切断し、加工し、造形したものであったが、それらの造形過程は、最後まで木は木で

あり、石は石であり、土は土であることは変えてこなかった。人間の生活意志や造形力の

深さは、自然に存在ている物質の内面的な組成にまで及びはじめた。新石器時代から始ま

ったと思われる金属とガラスの発明である。それは、自然に存在している様々な材料 ―

岩石や礫や砂や粘土や木や草や、さらに水分や大気の成分をも含めて 一 の中から、それ

らの性質 (化学的組成)を純化し変性して、自然界にはそのままの形では殆ど存在してい

ない、しかもより有用な物質を創ろうとする人間活動の始まりであったからである。金属

の精練とガラスの製造に現われた人間の追求とその成果は、古代・ 中世の歴史を通じて、

木と石と土の創 り出した壮大な文明における脇役であり続けるが、それ らは科学と工業に

もとづく現代文明の主役として花開く、重要な基礎となっている。

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素材自体の誕生だけでなく、近代以降の技術の発達と工業化による大量生産があつてこ

そ、現代の建築が生まれている。ベッセマーの転炉と、シーメンス・マルチンの平炉によ

る溶鋼技術の展開か ら始まる精鋼技術の発明は、電気動力の工業化とともに、第二時産業

革命の契機となり、これによって生産組織も生産手段も、そして近代文明をささえる物質

的基盤も変えてきた。また、工業化の波は鉄や、ガラスといつた、比較的新しい素材だけ

に訪れたわけではない。例えば、木材は、工場で大量に加工製品が製造され、又、集成材

といった新しい木材利用の可能性も見せている。また、石材は、かつての構造材としての

役割は失われつつあるが、薄い石板の加工技術によって今でも、工業化された部材が建築

の表皮を覆つている。技術と工業化によって、多くの素材が単独で、また、又組み合わさ

れてた現代建築を支える素材となっているのである。

では、こうした歴史的な変遷を遂げてきた素材は、機能や形態とどのような関係を持っ

ていたのだろうか。

ひとつの社会的発展において、新しい内容と古い形式の矛盾が、新しい次の時代への発

展の必然性を内包 している時代には、いまだ形を成していない新しい機能と新しい素材の

可能性が空気のように充満している。機能は新しい素材と結びつくことによって、また素

材は、新しい機能 と結びつくことによつてのみ、現実化され新しい構造形式として成長す

る。こうした時代の人間の生き生きした造形力が、両者の相互開発と相互現実化を推進し

て既存の物の形態に制約されない新しい形態を創造してきたのだ。

その形態は、既存の物の形態に対して、自由であり、その時代の内容にとって、自然で

ある。そしてこの自由で自然な形態は、また逆に、より新しい機能と素材の展開をうなが

す基盤となって、新 しい時代の発展の物質的基礎を広範に確立してきたのだ。

新しい機能内容の可能性を開発し現実化するのは新しい素材であり、また新しい素材的

特性を開発し現実化するのは新しい機能内容であること、またさらにこの相互開発と相互

実現の展開のためには、既存の機能形式や、構法に制約されない自由な造形精神が不可欠

なのである。

こうした実例は、建築史の多くの場面でみられる。例えば、ガラスを用いたローマの空

間があげられる。明るくあたたたく、屋外の空間と明瞭に区別された、多数の人間の快適

な相互交流のための公共的室内空間を求める古代ローマ社会独特の有用性への欲求は、石

や、煉瓦やガラスという既存の素材のなかから、アーチ構法や透明な板ガラスという新し

い素材形式を開発し、それと結びつくことによつて、バンテオンや大浴場のようなまった

くあたらしい建築形態と空間として、開発され現実化していつたのである。 (図 5-1)

ここまで素材に関する歴史と、その形態との関係の概略をついてのべてきた。その歴史

は、素材や構造に関する技術の連続的展開が基礎となって、これに社会構造が求める機能

と形態を加えた 3者が一体となって新しい建築を生んできた。現代を見てみると、技術は

格段に進歩し、社会が求める建築の機能は多様化し重層化している。しかし、現代の我々

を取り巻く世界は、形態は形態、素材は素材、構造は構造と、建築の中の本来相互が関係

していくはずの各分野が、独立した狭い世界の中で考えられてしまっている。技術の超専

門化かと枝状の分化が起こつているのである。

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図5-1 ガラスを,llい たローマ建築の空間

上 :セ ント・ソフィアの北回廊の断面図

下 : ディオクレティアス帝の浴場

新しい社会機能と新しい技術の可能性の高まりの真只中にいる現代の我々は、この独立

した分野を再び統合し、新しい建築に結びつけていかなければならない。そうした統合を

助けるのが、現代の技術の生んだコンピュータではないだろうか。

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2.素材に関するコンピュータの可能性

CADに よる設計では、部分的にときにはダイナミックに形態を変化させるながらエス

キースをすすめるだけでなく、一枚の平面に様々な色彩や素材感を与えたり、モデル全体

の素材を変えなが ら設計を行なうことが可能である。

こうした素材に関する、コンピュータ利用は三つに分類できるだろう。

① コンピュータを用いた素材のシュミレーション

② 形態・素材・現代の技術の関係について

③ コンピュータの生む新しい素材の可能性

こうした利用は、建築家にどのような思考の変化をもたらし、また、実際の建築にどのよ

うな影響を与えていくのかを考慮しながら、章末に続く素材をテーマにしたCAAの 設計

のために、この三項目を考察していきたい。

(素 材のシュミレーション)

コンピュータで建築のシュミレーションをするとき、形態だけでなく、素材などの属性

情報をきちつと入力しておけば、仮想空間内とはいえ、どんな条件の空間も再現すること

ができる。

素材をはじめとする様々なシュミレーションは、一般的にはモデ リングとは異なるソフ

ト上で行なわれる。レンダリングソフ トと呼ばれるこのソフ トは、完成したモデル情報を

もとに、パースやアニメーションの作成を行なうための物で、視点・焦点の設定から、光

源の位置、そして素材などを設定して、空間のシュミレーションを行ない、パースを作成

するのである。

例えば、InterGraph社 製のレンダリングソフ トである「1/ModelView」 での素材の設定

を解説すると。Material Editor(図 5-2)と いう機能を利用して、仮想素材を設定し

モデルのエレメントに与えている。ここでは色や基本となる素材を元にして (図 5-3)

それに、艶、光沢、反射率、透過率、水中における屈折率までをディスプレイ上で確認し

なが ら設定する。基本になる素材は市販されているCDROM等 のメディアから容易に引

き出す ことも可能であるし、また現実に使用する素材をスキャンして読み込むことも容易

である。この仮想素材を、Layerと色によって区別されたモデルソフ ト上のエレメントに

自由に与えていくのである。

こうしたシュミレーションは、建築家に単に形態だけでない、素材をはじめとする建築

のさまざまな知識を要求するとともに、素材や空間に対する感性を求める。そうしたもの

を持たなければ結局、この世界をつくりあげることができない。図面や模型による設計で

は、一定の条件にかなった情報だけで建築のアウ トラインを示した、したがつて図面上に

レンガタイルと書いてあると、基本的な素材感だけおさえていれば、テクスチャーがもた

らす肌合いなどは考える必要がなかった。しかし、コンピュータ上のリアルなシュミレー

ションでは厳しい空間感覚が要求されてくるのである。

人は、最終的に建物のなかに入つて、空間を感じる。その入つたときの感覚をイメージ

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図 5-2 1/ModclVicwの Matcrial Editor

図 5-3 素材のサンプル

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できない建築家は、コンピュータと向かい合って、 ‐見きれいなCGを出力しても、イメ

ージを伝えることは本当はできていない。図面は読み取る情報でアナログであるから、読

み取る人次第で建築の出来も異なってくる。一方コンピュータは、ごまかしがきかない世

界である。空間を表現豊かに描きだすデジタルの世界と、通常の設計の間には、大きな違

いがあるのだ。

こうしたコンピュータを利用するからこそ要求される、形態だけにとどまらない素材を

はじめとしたさまざまな建築の知識と感性が、コンピュータをCAAと して用いる新 しい

タイプの建築家には、必要不口∫欠なのである。

(形態 。素材 。現代の技術の関係について〉

フランク・ゲー リーは複雑なデザインをCADデ ータに変換 し施工業者に渡すことによ

って、 一連のフィッシュを含めた最近の作品を建築化している。ゲーリーの複雑な曲面を

多用 した非常にアナログ的なデザインは、デジタル化することではじめて施工可能になっ

たのである。これは、素材自体の発展とではなく、素材を生産する技術と形態とが結びつ

いて成立した建築の例といえるだろう。

生産 システムとコンピュータの関係についてのべた前章でもふれたように、コンピュー

タは複雑な形態を生み、その複雑な形態を実現化するための役割もはたすが、それが、現

代の生産システムにのって物でなければ、また、生産システムを変えていくものでなけれ

ば広く汎用性を獲得することはないだろう。鉄や軽金属などの既に完全に工業化された素

材は、規格部材を用いずに、生産システムを完全に無視した特注部品で構成すれば、それ

は高いコス トとして跳ね返ってしまうからだ。コンピュータ Lで、形態と素材の問題につ

いて考えるときには、単なる形態や空間の問題や素材そのものに関することだけでなく、

その素材が、建築部材として利用されるときに、それがどのような技術に支えられて製作

されているかを知 り、ときにはその生産の構造自体も変えていくことを考えなければなら

ないのだ。

(新 しい素材の可能性〉

コンピュータによるシュミレーションや、形態・素材 。現代の技術の関係の中でのべて

きたのは、すでに素材として、あるいは技術として確11し ていることを建築家がどのよう

に捉え、実際の設計に反映させていくべきかということである。

しかし、建築の歴史を考えると、素材と機能の相互開発と相互現実化が、既存の形態に

制約されない新しい形態を生んでたのと逆に、既存の機能形式や、構法に制約されない自

由な形態が、潜在 している素材と機能の可能性を引き出して新 しい建築が生まれたことも

あった。だとすれば、形態だけが先行した建築設計におけるコンピュータ利用が、潜在す

る現在の素材や技術、そして新 しい社会機能と結びついて、新 しい建築を生んでいく口I能

性を秘めているのである。 1つの例を挙げたい。

図 6-4は 光造形法 (Stereo Lithographie)によって実体化された立体である。これ

は、コンピュータ上で粘土や木材といつた素材がもつ物質的な特性にとらわれることなく

ただ形だけを考えて創作がすすめられた形態である。それを光造形法用に細かくスライス

されたデータに変換されて工場に送られこうした立体である。

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図 5-4 光造形法により実体化された、,体

IX1 5-5 ドット・ポイントによるガラスh路 ″

110

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図5-5は ドット0ポイントによるガラスエ法である。ガラスを枠材なしで建築部材と

して用いたいという希望は、 ドット・ポイン トという技術上の解決と、強化ガラスという

素材によって実体化された。これによって、ガラスはフレームの拘束から開放され、真に

透明な皮膜という性質を獲得したといえる。

前者の光造形法による物質化は建築と呼べるものではないし、また、後者の ドット・ポ

イントによる新しい構造形式は、コンピュータから生み出されたものではない、しかし、

どちらも新しい形態概念が、現在の技術や素材と結びついて、既存の形態とはまったく異

なる物体を実体化させているのだ。

コンピュータの生む建築に関する新しい形態に関する概念のみが、孤立して存在するの

ではなく。それらの形態が、既存の技術を乗り越えて、潜在する新しい素材や技術と結び

ついたときにはじめて、現代の社会が求める新 しい建築が生まれる可能性が発生するので

はないだろうか。

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3 素材をテーマとして

この章の「現代のさや堂―A一 」、「バルセロナ・パビリオン素材変換試行」、2つの

プロジェクトは、新 しい素材の可能性を引き出すためのプロジェクトである。

「現代のさや堂一A―」では、コンピュータ上の複雑な形態を排除し、純粋にコンピュ

ータ 上の素材の可能性を考えていくために、柱と、屋根、防風パネルのみで構成される自

転車置場を対象とし、将来開発されるであろう薄い液晶パネルの開発を前提として素材の

変換を行なっている。

また、「バルセロナ 0パ ビリオン素材変換試行」では、従来の建築の素材に対する固定

観念を変えていくために、対象としてミースのパルセロナ・パビリオンを取り上げた。こ

の建築におけるガラスと鉄の使用は、現代に至まで多くの建築における二つの素材の使用

の礎となっている。ここでは、この建築を素材の神殿として捉え、個々の素材を変換する

ことで新しい素材の可能性を視覚的に導きだそうとしている。

112

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110さ や1-A―

多 様 化 の 生 ん だ 価 値 観 の 消 失 が 、 メ デ イ ア の 浸 透

に よ り 加 速 し て い る 現 代 に お い て 、 な に か 特 定 の

も の に 対 し て 決 定 的 な 価 値 を 見 い だ し 、 た だ そ れ

を 囲 う と い う だ け で な ん ら か の 意 味 を 得 る こ と が

可 能 で あ ろ う か 。

映 像 を 媒 介 と し た 現 代 の さ や 堂 は 、 そ れ が 過 去 に

お い て 内 と 外 と の 関 係 を 決 定 づ け た 箱 で あ つ た よ

う に 、 そ の ス イ ッ チ の O N/O F Fに よ っ て 空 間

の 性 格 を 変 え る 薄 い 液 晶 バ ネ ル の 薄 い 表 皮 と し て

存 在 す る 。

日 常 的 な 空 間 が 、 突 然 そ の 姿 を 変 え る 。 そ れ は 、

絶 対 的 価 値 を 失 っ た 我 々 の 都 市 の 中 で 行 な わ れ て

い る 光 景 を 増 幅 し 、 視 党 化 し た 姿 に す ぎ な い 。

113

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バルセロナ,バ ピリオン1111ま |

物 質 は 形 態 が 与 え ら れ る 前 か ら す で に 材 料 の 中 に

存 在 し 、 形 餞 は 働 質 に 与 え ら れ る 前 か ら す で に 製

作 者 の 繊 り 上 げ た 構 想 の な か に 存 在 す る 。 そ し て

最 贅 的 に こ の 働 質 と 形 饉 の 両 者 が 作 品 の 中 で 共 存

す る と き ,そ の 物 質 が あ る 一 つ の 形 麟 を 受 け 入 れ

本 来 、 デ ザ イ ン と い

う も の は 物 質 と 不 可

分 の も の で あ る と い

う の は 誤 り で 、 例 え

そ の 形 菫 が あ る 働 質

に 与 え ら れ て い る 様

子 を 見 る 事 が で き る

の で あ る 。

(R.G.001ling,Ood)

ば 、 同 じ デ ザ イ ン が い く つ も の 違 つ た 建 物 に 同 じ

形 菫 と し て 現 れ 、 そ こ で は 部 分 の 処 理 や 線 や 角 の

取 り 扱 わ れ 方 が 全 く 同 じ で あ る の を 見 る こ と が で

き る 。 ま た わ れ わ れ は 、 物 質 と は 完 全 に 決 別 し て

心 の 中 で 建 物 の 形 菫 を 思 い 描 く 事 が で き る 。 こ れ

は 、 想 像 の 中 で 線 や 角 を 秩 序 だ て て 複 合 、 配 置 し

て み る こ と に よ る 。 か く し て 、 デ ザ イ ン と は 、 天

才 的 な 芸 術 家 が 機 日 た う 美 し い 線 や 角 を 心 の 中 で

巧 み に 秩 序 だ て る 事 で あ る 、 と 見 な す 事 が で き る

の で あ る 。 (Arbelti)

116

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バルセロナ・ バピリオン素‖贅1ま 行

ミ ー ス の 描 い た 近 代 の 産 業 革 命 が 生 ん だ 素 材 に 関 す る 神

話 は 、 世 界 に 広 ま り 現 在 も 語 り 継 が れ て い る 。 現 代 に 至 る

ま で 、 建 築 の 何 ご と か を 「 必 然 化 Jし 「 合 理 化 Jし 「 正 当

化 Jし よ う と す る ど こ か い か が わ し く も あ る 原 理 、 命 題 、

定 理 ら し き も の が 、 こ の 神 話 の 多 用 な 副 作 用 の よ う に い く

つ も 生 ま れ 消 え て い つ た が 、 こ の 公 理 だ け は 消 え ず 、 現 代

の 建 築 に と っ て は 空 気 の よ う な も の に ま で 一 般 化 さ れ て い

る 。 し か し 皮 肉 に も あ の 博 覧 会 の 場 か ら 切 り 離 す こ と の で

き な い こ の 建 築 か ら 生 ま れ た 神 話 に よ つ て 、 建 築 は 次 第 に

「 場 」 か ら 切 り 離 さ れ つ つ あ る 。

神 話 の 証 と し て 、 1986年 神 殿 は 再 構 築 さ れ た 。 し か

し ミ ー ス の 生 ん だ 素 材 の 神 話 、 そ し て そ の 時 代 に 与 え ら れ

た 素 材 の 結 晶 と し て の パ ル セ ロ ナ ・ パ ビ リ オ ン は そ の 一 方

で 、 素 材 の 様 々 な 利 用 の 可 能 性 と 、 素 材 自 体 が 変 わ つ て い

く 可 能 性 の 芽 を 摘 ん で し ま っ た の で は な い だ ろ う か 。

こ の PRO」 ECTは 特 定 の 「 場 」 を 前 提 に し た も の で は な い 、

コ ン ピ ュ ー タ 内 の 仮 想 空 間 と い う 「 場 Jに 神 殿 を 構 築 し 、

素 材 に 関 し て 様 々 な 変 換 の 試 行 を 行 い な が ら (C A Dは 形

態 の 氾 置 を 生 む た め だ け の 玩 具 で は 決 し て な い 。 )新 し い

可 能 性 を 視 党 化 す る こ と で 限 定 さ れ て し ま つ た 素 材 使 用 に

刺 激 を 与 え る も の で あ る 。

空 間 を 生 み 出 す た め に 技 術 は 進 化 す る 、 素 材 に よ り 空 間

が 生 ま れ る の で は な く 、 空 間 が 素 材 を 生 み 出 す た め の 実 験

が こ こ か ら 始 ま る 。 そ し て 場 か ら 切 り 離 さ れ た 建 築 に 新 し

い 空 間 と 素 材 の 関 係 を 与 え る こ と で 、 再 び 建 築 に 「 場 」 と

の 関 係 を 与 え て い く の だ 。

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勁¶I

DIAGRAM『 酬EELIHA PAViLIH i螂

早”山一喘

r.I'in1l---

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出11鳳几12E螂劇:

出 田 m旺 厠 ‖

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6.総論 ―一コンピュータは建築を変えるか―一

ここまで、CADに よる設計の特徴とこの道具から生まれた建築の考察を経て、形態だ

けにとらわれない新しい建築を生もうというものをCAAと 定義し、各論的に考察と実践

としての設計を進めてきた。この章では、CAAへ の道を「コンピュータは建築を変える

か」という問いを再考することでまとめていきたい。

新しい形態の発生を新しい建築とみなし、またコンピュータを、自由な形態発想の道具

として捉えれば、その可能性は無限に広がつているように感 じられる。それはコンピュー

タの計算能力が、今まで建築化されなかった新しい形態概念を次々と建築化してきからで

ある。しかし、こうした形態概念が、社会的に認知され、建築化するための新しい生産ス

テムをあわせもつことがなければ、形態は単なる巨大なオブジェとして存在しても新しい

建築とはならないだろう。

CAAと して進めてきた各論は、こうした形態操作だけに捉われずに、コンピュータの

可能性を導き出しながら、この設計の道具がどうあるべきかを検証し、また実践してきた

ものである。

第 2章では現状における形態以外のコンピュータ利用を探ってきた。建築生産システム

自体をコンピュータによって統合していく動きや、本来複数の専門家の共同作業である設

計行為の媒介の役を、コンピュータとデジタルメディアがつとめていく次世代の建築設計

環境は、建築家に建築全体の生産システムと、設計だけでない構造、設備、材料 といつた

建築の構成要素を見つめ直す視点を与えるだろう。

第 3章では新しい形態概念の中から、実際に数多くの建築家が手にすることで、汎用性

をもつ可能性のあるものを取り上げて設計を行ない。第4章では、コンピュータの制御に

よって生み出される建築部材の生産システムを考慮しながら、設計を行なってきた。この

2章を通して確認したのは、新しい形態概念を建築化するときに越えなければな らない2

つのハー ドルである。ひとつは、新しい形態概念は 1人の建築家が物語として用いられる

のではなく、多くの建築家がデサインに使用できる汎用性をもたねばならず、それによっ

て、初めて多くの建築に取り入れ られていく可能性を持つこと。もうひとつは、そうした

建築が数多く生まれることによって、新しい建築の生産システムを確立しなければならな

いということである。

第 5章では、新たなコンピュータの可能性を引き出すために、形態とともに建築を構成

している重要な部位である、素材をテーマに取り上げた。形態そして素材だけでなく、多

くの可能性をこのツールは持っているはずである。

新しい構造や素材による建築の変化は直接的であり、新しい技術が基盤とな り、その魅

力を引き出した建築家が新しい建築を生んできた。これに対して、新しい設計の道具であ

る、コンピュータの登場は、これとは異なるプロセスで建築を変えていくのではないだろ

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うか。道具の変質が最初にもたらすのは、新しい建築家像の創出であり、そして彼らが建

築を変えていくのではないだろうか。

現代の建築家は自信を喪失しかけている、それは二つの大きな問題の直面しているから

である。ひとつは、建築に関する様々な技術が高度化する中で、ひとりの建築家が把握し

なければな らない、設計、施工、構造、素材の性質、設備等ありとあらゆることが、あま

りに増えすぎていること。もうひとつは、現代の建築家は施主へのサービスを忘れてしま

っていること。言い換えれば、現代建築家が建築や設計行為を説明するときの 「コンセプ

ト」主義が、自己参照的な言説を振りかざすことによって、建築と世界との距離を無限に

遠くして しまっているのである。

現代の建築家が抱える問題を解決し、新しい建築家像を生む可能性をコンピュータは持

っている。それはコンピュータが以下の 3つの変化をもたらすからである。

(新 しい設計のための空間〉

コンピュータによる設計では建築家にその特徴である、エレメンタリズム、手続き性、

3次元性の理解を求め、さらに、パースペクテイブやアイソメ トリックの中で リアルタイ

ムに回転 していく複雑な建築のコンプ レックスを見ながら、視点と建築の部分との位置関

係や方向を把握しつつデザインを進めるための頭脳を要求する。

道具の革新は、職業の適性をも変えるだろう。コンピューターのもつ世界を、自らの世

界として獲得したときに生まれる、従来にない建築の空間認識の感覚の差を認識し、それ

を建築の設計に適用させる建築家が求められているのだ。

(建築家を支える設計支援体制〉

第 2章でのべた、CADに よる建築生産システムの統合は、建築家に生産システム全体

に対する理解を求める一方で、個々の細かい技術的なサポー ト役をコンピュータが果たし

ていくだろう。また、次世代の建築設計環境は、従来のワークスタイルを大きく変えてい

く。建築が もともとマルチメデイア・ コミュニケーションをベースにした多分野専門家の

共同作業であることを考えれば、個人の作業にとどまりがちだつた従来の設計作業に、情

報 。通信技術の進展と新しいコンピュータは、再びコミュニケーションのためのインフラ

を提供して くれる。

建築が、ものをデザインする行為であるとするなら、単に建物を造る時代は終演 し、都

市や社会、そして人間と機械の関係もデザインし社会に提示する必要がある。新しい建築

設計環境はこうした道への扉を開いているのだ。

(社会とのコミュニケーションツールとして)

従来のアナログとしての図面は、読み取るための技術が必要であり、誰でもがすぐに建

築の空間をを想起することが出来なかった。これに対して、コンピュータにより建築情報

をデジタル化することで作られるCGやアニメーションは、ビジュアルに、だれでもわか

るように表現されるために、建築家は、自己参照的な言説を繰 り返すだけでなく、自らの

建築と世界との距離を縮める努力を払わなければならない。また、形態だけでなく空間の

質感に対する感性も建築家に求めていくことになるだろう。

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これとは別に、コンピュータ利用が進めば、専門的な建築家だけでなく、誰でもが簡単

な設計を行なえるようなCADソ フトが生まれ、また、情報のデジタル化がもたらす次世

代の建築設計環境が完成すれば、施主などの社会側の人間をより多く設計の中に巻き込ん

でいく。コンピュータは、現在断絶している建築家と社会との関係を、再び結びつける役

割をはたしていくのだ。

現代の複雑な社会は、建築家を設計という閉ざされた世界の中に逃避させてしまった。

コンピュータという機械に支えられた新 しい建築家は、従来にない空間感覚を獲得すると

ともに、コミュニケーションツールとしてのコンピュータに支えられながら、再び現代と

真っ正面から向き合う姿勢を取り戻すであろう。新しい建築は、現代社会に浸透するコン

ピュータの力を引きだし、武器としてもちいることに成功した建築家の設計のなかから生

まれてくる。

建築は、時代背景と、その時代の生産システムと、デサインが一体の物となって生まれ

てきた。コンピュータに支えられた新しい建築家が、現代という複雑な社会構造を持つ混

沌とした社会と、昔とは比較にならないほど発達した科学技術と生産システムを理解 し、

コンピュータによる自由な設計環境を駆使することで、真に新しい建築が生まれていくの

だ。そしてその時、コンピュータはCAA(Computer Aided Architecture)と して、認

知されていくだろう。

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01.付

付 1.CAD/CGシ ステム

ハー ド CPU :InterGraph lnterPro30301nterGraph lnterAct3030

1nterGraph lnterPro2830 2台

IBM PS/V Mode12411 (出力用)

プリンター :CHC645 (カ ラープリンター)

HP7850 (静電プロッター)

A―Coler636 (カ ラーコピー及びスキヤナー)

ソフ ト :1/EMS(Intergraph / Engineering Modeling System)

1/FEM(Intergraph/Finite Element Modeling・ 解析用)

Micro Station

ModelView

1/Design(Intergraph / 1ndustrial Design System)

Adobe Photo Shop

PageMaker

Soliton WinFTP

ARMd (ス キャナー)

器材提供 住友軽金属工業株式会社

協力 野中 徹

佐藤 円

三好 由希子

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付 2。 参考文献

〈書籍〉

建築の形態言語―一一―デザイン・ 計算・ 認知について

ウィリアム・ ミッチェル 著 長尾威彦 訳

鹿島出版会

Architects'People

Russell Ellis and Dana Cuff 翼蒙 OXfOrd University Press

Designing the Future

Robin Baker 車蒙 Thanes and Hudson

The Language of the Prairie:Frank Lloyd Wright's Prairie Houses

H.Koning,J.Eizenberg 草蒙 Enviroment and Planning B

Vo18 1981

Ten Books on Architecture

Alberti,Leob Battista 翼璽

The Principles of Art

R.Go Collingwood 草彗

Tiranti

0xford University Press

現代建築の発想 一一―一 アール・ヌボーからCADま で

構図4 コンピューター・エイジの建築ゲーム

長尾威彦 著 丸善株式会社

建築CAD入門 一一一一 建築分野における情報化戦略をめぐって

テクニカルコラボレイツ 著 JICC出 版局

第 22回建設業情報システム研究会講演予稿集

日本生産性本部

建築模型

山田弘康・舟橋 巌・ 鈴木征四郎・ 田中孝蒲・飯倉恭一

成瀬大治・村井 修 共著 グラフイック社

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ミース再考一その今日的意味

K.ク ランプ トン他著 澤村明+EAT訳鹿島出版会

近代建築への招待

ユリウス 0ポーゼナー 著 田村都志夫 訳

多木 浩二 監修

青土社

素材と造形の歴史

山本 学治 著

〈作品集)

Documenti di Architectura 71 Peter Eisenman

鹿島出版会

Lotus

MIES VAN DER ROHE BARCELONA PAVIL10N

Ignasi de Sola一 Morales, Cristian Cirici ,Fernando Ramos 東璽

Editorial Gustavo Gili,S.A.

ピーター・ アイゼンマン作品集

建築と都市 a+u 1988年 8月 増刊号 エー・アンド・ユー

」A Library 2 伊東 豊雄

新建築社

建築 20世紀

新建築社

(雑誌〉

世界と形のモデ リング

世界とかたちの拡張に向けて 鈴木 毅 著

プログラムをめざして 花田 佳明 著

建築文化 1993年 11月 号 彰国社

日経アーキテクチャー 日経BP社

現場報告・布谷東京NCビル

1992年 3月 2日 号

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日経BP社日経アーキテクチャー

古代都市の大都市をCGで表現

5月 25日 号

CADと CGが助けたハディットの作品

6月 22日 号

追跡 レポー ト/関西国際空港

9月 14日 号

P.アイゼンマン布谷ビル

9月 28日号

地形図データを利用してCG作成の効率化図る

1993年 1月 18日 号

豊雄伊東下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館

6月 21日号

3次曲面のアルミパネル屋根

8月 16日 号

憲明インタビュー/岡部

9月 13日 号

インタビュー/P。 アイゼンマン

9月 27日号

興二 著宮崎4次元を知ると新世界が広がる

11月 8日 号

「設計図書」を建て直せ

12月 20日号

ミッチェルW。構想進むバーチャルデザインスタジオ

94年 1月 17日 号19

コス トに日覚めよ

6月 20日号

ピアノR.―ミナルビル関西国際空港旅客夕ヽ

7月 18日 号

誠 著渡辺L夕が示した意外な形態

10月 10日 号

コンピこ

Inter Communication 5 牛手夕に INFOTROPOLIS 市議幸寝者8司F

NTT出 版

デジタル・ アーキテク ト▲ 1

▲ 3

山海堂

128

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a t (Architectual Magagine) 1 9 9 3/ 7

1993/121994/′ 9

1994/12デルファイ研究所

建築と都市 a tt u 1980/01 特集 P・ アイゼンマン

1987/07 特集 P・ アイゼンマン

1988/′ 021990/01 特集 P・ アイゼンマン

1991/09 特集 P・ アイゼンマン

エー 0ア ンド・ユー

129

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付 3.論文中のCAA作 品について

2.現代におけるCAAへ の取 り組み

「光を媒介とした建築空間の再構成――Dantetun」

協力 :柳 志野・吉田武史・ 菊地康久 0北川佳子

「ビィ トゲンシュタインとロース」

共作 :早稲田大学池原研究室

安藤 平・ 菊地康久・杉澤哲哉 。中嶋和朗 。中藤泰昭

穂坂和宏・吉田武史

「チャールズ・ダーウインの家」※

第 3回 S× L住宅設計コンペ

「横浜港国際客船ターミナル国際建築設計競技」

共作 :早稲田大学池原研究室

安藤 平・菊地康久 。杉澤哲哉・ 中嶋和朗・ 中藤泰昭

穂坂和宏・吉田武史・ 北川佳子・木下勝茂・竹内 啓

審査員賞案

3.CAAl ――コンピュータの与える新しい形と建築―一

「20世紀博物館」※

第 28回セントラル硝子国際設計競技 入選案

「現代のさや堂」一B一 ※

第4回長谷工・イメージデザイン・ コンペティション 入選案

「Place Blend Between Two Surfaces」

第4回 S× L住宅設計コンペ [エ リック・サテイーの家] 佳作案

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4.CAA2 -― 建築生産システムの中で一一

「ガラスの待庵」

第 29回セントラル硝子国際設計競技 [ガ ラスの茶室] 優秀賞

「The Silent Volume/Void ln The City」

PreCast Paradise'94建築設計競技 [プ レグリッドによる家] 優秀賞

5。 CAA3 -一 素材に関して一一

「現代のさや堂」―A一 ※

第 4回長谷工・イメージデザイン・ コンペティシヨン 1等 案

共作 :佐藤 円、三好 由希子 (住友軽金属工業株式会社)

「バルセロナ・パビリオン素材変換試行」

TOTO奈 良世界建築 トリエンナーレ [歴史と未来の共生―場の建築]

※印の作品は、卒業設計「ANOTHER CITY」 他 1作品とともに

「CADに よる設計及び表現による一連の作品」として

平成 5年度小野梓記念芸術賞を受賞している。

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02. ま3'bり に

この 2年間、大小あわせて 14の コンペテイシヨンに参加しながら、CADに よる設計

を繰 り返してきた。コンペも初期は、コンピュータによる設計手法の研究というよりは、

別の目的で (い わゆるコンペに勝つために)参加 してきた。 しかし、設計を進める中で、

現代という混沌とした時代の中で建築を学んでいる自分自身が、何をもとにして設計をす

べきなのかを考えはじめ、それがコンピュータによる設計の可能性を考えるこの論文につ

ながっている。

したがって、この論文は、改めてCADに よる作品を振り返 りなが ら、コンピュータに

よる設計を可能性をまとめるとともに、コンピュータを通して、現代の建築と建築家がお

かれている現状を考察し、その中で、自分がこのあとどのような立場に立って設計を進め

ていくかを見つめ直す機会としたものである。

ちょうど私は、CADを プレゼンテーションや清書の道具としてでなく、設計の手段と

して利用し、従来の設計手法ではなくコンピュータによる設計を最初から行なってきた最

初の世代にあたるり。それから数年を経て今は、学生でも多くの者が比較的安価で、操作

性の良い機械を手にして、CADに よる設計に手を染めるようになってきている。また、

建築業界はこれからますます、デジタル化とコンピュータ化への道を歩んでいくのは疑い

のないところであろう。このような状況下で、彼らはこの機械を駆使 して形態だけでない

新しい建築を生むことができるのであろうか ?そ して、コンピュータはわたしの描いたC

AAへの道を進んでいくのだろうか ?

最後に、この論文を指導してくださった方々、また協力してくださった方々にお礼を申

し上げたい。この論文の指導教授であり、修± 2年間のすべてのコンピュータによる作品

を講評していただいた池原義郎教授、また折りに触れCADに関する質問に答えていただ

き、技術的なサポートをしていただいた渡辺仁史教授と、研究室の方々にはまず最初にお

礼を申し上げなければなりません。横浜のコンペを共同製作するとともに、常にCADと

模型の違いを考える機会を与えてくれた池原研究室のメンバー、そして現代のさや堂に共

同参加するとともに、常に楽しい設計環境を作つてくれた佐藤円、三好由紀子の名 (迷 ?

)オペレーターには、この論文のために様々な協力をしていただきました。その他にも、

CADシステムのサポートをしていただいた、日本インターグラフ社の高橋英行氏、短い

時間で、この論文を推敲してくれた井出美希女史に感謝申し上げます。そして最後に、こ

の5年間に渡り、コンピュータシステムを提供していただいたき、わたしにコンピュータ

との繋がりを与えてくれた、住友軽金属工業株式会社と野中徹、檜山裕二郎、高橋祐一の

3氏に深く感謝いたします。

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